CA1461 - ドイツにおける児童・青少年図書館とマルチメディア / 山口和人

カレントアウェアネス
No.272 2002.06.20

 

CA1461

 

ドイツにおける児童・青少年図書館とマルチメディア

 

はじめに

 最近,ドイツにおいてもマルチメディア化の進展とともに子どもの読書環境および読書文化の著しい変化が指摘されている。視聴覚的・マルチメディア的環境の中に生まれた子どもは,放送業者やインターネット・プロバイダにとって重要な顧客である。子どもの本離れを嘆く声が頻繁に聞かれる一方で,むしろこのような変化を前提とした対応をすべきだとの主張もある。読書環境のマルチメディア化が進展する中,ドイツの児童・青少年図書館はこの問題にどのように対処しようとしているのであろうか。ここでは最近実施された調査の一例を紹介する。

 

1.シュツットガルト図書館情報大学の現状調査

 1995年,ドイツの図書館において子どものためのマルチメディア・プログラムがはじめて導入された。ドイツ図書館協会の調査では,1997年には20館に1館,1998年には7館に1館が子どものためのCD-ROMを備えるようになった。

 シュツットガルト図書館情報大学の子どもメディア応用研究所は,ドイツ図書館協会のこの調査結果を引き継ぎ,公共図書館における子ども向けメディアの利用と機能に関するサンプル調査を継続している。その一環として同大学の学生が,2000年から2001年にかけて,南西ドイツ地域の約30の公共の児童・青少年図書館(大都市の図書館とその支部,中都市,小都市の図書館を含む)を対象とした調査を行うとともに,4歳から17歳までの約300人の児童・青少年に面接調査を行った。その結果の概要を以下に示す。

 

2.児童・青少年図書館におけるマルチメディアの提供状況

 調査の対象となった児童・青少年図書館の所蔵するメディアの点数は,4,000から32,000の間であり,平均すると非図書メディアの割合は,全蔵書点数の約10%に相当する。印刷メディアは従来通り児童・青少年図書館において支配的な地位を占めている。子どものためのCD-ROM所蔵は,数年の間に著しく増大し,調査対象の図書館はすべて,利用者にCD-ROMを提供しており,平均279タイトルを所蔵している。

 共通の蔵書構築基準は見られないが,多くの図書館で教育的側面が前面に出ている。学習ソフトやエデュテイメント・ソフト(注)はほとんどすべての図書館で所蔵しているが,売れ行きのよいコンピュータゲーム,アクション・スポーツ・戦争ゲームなどは意識的に避けられている。こうした蔵書構成は利用傾向に反映し,エデュテイメント・ソフトの利用が最も多い。

 児童・青少年向けのCD-ROMは平均以上に借り出されている。調査対象となったすべての児童・青少年図書館で,CD-ROMは1巻あたり年平均12.8回借り出されており,この頻度は,従来最も人気のあったビデオカセットを上回っている。CD-ROMは,現在ドイツの図書館において最も引き合いの多い児童用メディアである。多くの場合,子どもは5,6歳で一人でCD-ROMを借り出すようになり,若年の中心利用者層は8歳から12歳である。男女差は見られない。

 館内に児童・青少年用のパソコンを備えている図書館も過半数あり,中には要望の高い学習ソフトやゲームソフトがあらかじめインストールされている場合も見られる。利用者用のインターネット端末も,大部分は成人と共用であるが,4分の3以上の図書館で児童・青少年に提供されている。

 

3.利用者への面接調査

 図書館における統計的調査に加えて,4歳から17歳まで,295人の児童・青少年に対する面接調査が行われた。

 面接調査を受けた児童・青少年の家庭における情報環境は非常に良好で,ほぼ半数が専有または共有のパソコンを所有し,約40%がインターネットに接続している。家庭内でパソコンを利用できないのは10%にすぎなかった。

 面接調査の結果判明したことは,まず第一に,図書館がCD-ROMの提供に積極的でないために,その所蔵が知られていないケースが多いことである。CD-ROMの所蔵状況に関しては,図書館を利用する青少年の半数弱が満足を表明しているが,4分の1は,タイトル数が余りに少ない,内容が時代遅れであるといった理由で不満を示している。総じて年長の児童・青少年は,性別にかかわらず,所蔵されているものが「余りに幼稚」であり,特にゲームがないことを批判している。コンピュータゲームの愛好者は,その要求が公共図書館においてはごく限られた範囲でしか満たされないと感じ,彼らは,しばしば,レンタルビデオ店へと流れている。

 一方,学習教材および学習ゲームを最も好むとした回答者も約4分の1存在する。青少年の30%以上が,相応するタイトルをすでに(より頻繁に)借り出している。

 最も好むCD-ROMのタイトルについては,多くの子どもが特に好むタイトルを挙げず,図書館の所蔵するものの中から,タイトルではなく,種別やジャンル,テーマに従って探していた。特に好むタイトルを挙げた場合でも,ずば抜けて人気のあるタイトルは見当たらず,好みと関心が分散化する傾向が明らかになった。

 マルチメディアの若年の受け手にとっての魅力を明らかにするための質問でも,CD-ROMは,第一に娯楽性が,次いでマルチメディア性およびインタラクティブ性が評価された。特に,傍観者としてではなく,事象に積極的に介入できる点が重視されている。また,年齢を問わず,自ら何かを作り出すという創造性も強調されていた。

 マルチメディアを学習および情報の媒体と評価したのは20%で,そのうち多くは年長児童および青少年である。年長者の場合,特にCD-ROMは,迅速かつ快適な検索を可能にする情報メディアと認識されていた。

 本とCD-ROMの比較について,意見は3つのグループに分かれた。最大のグループは,本よりもCD-ROMを評価する立場であり,本は面倒であることと,受動的であること,CD-ROMは文字から想像力を働かせる手間を省くことができることなどが指摘されていた。第二のグループは,本とCD-ROMの性格の違いを認識しつつ,両者を同等に評価する意見である。第三のグループは,CD-ROMよりも本の方を好むグループであり,やや数は少ないが,10〜14歳の女子に多かった。

 ビデオなど他の視聴覚メディアとの比較でも同様に,意見は3グループに分かれた。テレビやビデオは受動的でCD-ROMよりも面白くないと考えるグループが多数を占めた。これに両者を同等に評価するグループが続き,最後のグループは,「何もしなくていい」という点でビデオを快適なひまつぶしの手段と考えていた。また,5%弱と少数ながら,CD-ROMが対人的なコミュニケーションに役立つという機能を評価する意見もあった。

 パソコンの利用方法について,大多数の者は家で単独で使用すると答え,大多数の学校では,授業の内外を問わず,パソコンが正規には使用されていないことが判明した。回答者の3分の1が,学校の授業でマルチメディア・パソコンや,CD-ROMが使用されていないと答えている。

 

おわりに

 以上見たように,ドイツの児童・青少年図書館は,マルチメディア化の進展に対して控えめに対応してきたといえる。現在,児童・青少年は,CD-ROMをそのインタラクティブ性において魅力あるメディアと見ている。中でも人気の高いコンピュータゲームは,これまで蔵書構築にあたって十分に配慮されなかったり,浅薄な娯楽であるとさえみなされて拒絶されたりしてきたが,これらが図書館に導入されることにより,数十年前に培われた「図書館にふさわしい」児童書の「下限」が,新たなメディアにまで広げられようとしている。ゲームソフトにおいては,児童・青少年と大人の間の厳密な区分も困難である。

 調査者は,児童・青少年の日常にコンピュータゲームが大きな位置を占めている実情に対応し,児童・青少年図書館はより多くのゲームソフトを蔵書の中に入れるべきではないかと結んでいる。

 マルチメディアに対する児童・青少年の要求との間には依然ギャップがあるものの,すでに多くの図書館がある程度この状況に対応したサービスを行いつつあるといえる。このようなドイツの事例は,わが国における児童図書館のサービスのあり方を考える上でも多くの参考になる点を含んでいると思われる。

国際子ども図書館企画協力課:山口 和人(やまぐちかずと)

 

(注)エデュテイメント・ソフト:教育性と娯楽性をあわせもつパソコンソフト,マルチメディア・ソフト。エデュテイメント(edutainment)は,educationとentertainmentの合成語。

 

Ref.

Heidtmann, H. "Im Buch geht alles ohne dich, aber im Computer nichts..." Multimedia in Kinder- und Jugendbibliotheken: Ergebnisse einer Umfrage. Buch und Bibliothek (6/7) s. 406-410, 2001

Heidtmann, H. Veranderungen der Lesekultur am Ende des 20. Jahrhunderts, das Bedurfnis Jugendlicher nach Trivialliteratur und die Perspektiven der Leseforderung. Grunbuch der Kinder- und Jugendmedien Band 3. Eulenhof-Verl, 1999. p.7-23

 


山口和人. ドイツにおける児童・青少年図書館とマルチメディア. カレントアウェアネス. 2002, (272), p.5-7.
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