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2009年 (通号No.299-No.302:CA1681-CA1703)

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No.302 (CA1697-CA1703) 2009.12.20

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CA1697 - 縮小する雑誌市場とデジタル雑誌の動向 / 湯浅俊彦

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1697

 

縮小する雑誌市場とデジタル雑誌の動向

 

1. はじめに

 日本における出版販売額は1996年をピークに長期下落傾向にあり、出版産業は深刻な事態に陥っている。とりわけ雑誌の販売不振がその大きな要因となっており、このままでは新聞(CA1694 [3]参照)とともにメディアとしての雑誌が終焉に向かうのではないかという論調も見られるようになってきた(1)。

 本稿では雑誌メディアの現状を概観し、デジタル雑誌やインターネットとのクロスメディア戦略を模索する出版業界の動向を紹介する。

 

2. 雑誌販売の低迷と情報環境の変化

 『出版年鑑2009』によれば、2008年(1月~12月)の雑誌の実売総金額は1兆1,731億円(前年比4.1%減)とピーク時である1996年の1兆5,984億円より4,252億円も減少している(2)。この12年間に減少した4,252億円という数字は国内最大の取次である日本出版販売の年間売上高6,327億円(2009年3月)(3)の約7割に匹敵する額であり、雑誌市場がいかに凄まじい勢いで縮小しつつあるかが分かるのである。また、返品率も36.3%と前年の35.3%より1.0ポイント増加し、売り上げ不振と流通コスト高の悪循環を繰り返している。

 一方、『出版指標年報2009』でも雑誌販売金額は1兆1,299億円(前年比4.5%減)、金額返品率は36.5%(前年比1.3ポイント増)となっている(4)。さらに、日本ABC協会が発表した2008年下期の公査部数でも調査対象52社157点の総販売部数は2,051万5,364部(前年同期比3.7%減)となっており(5)、いかに雑誌が売れなくなってきているかを顕著に示しているのである。

 2008年に『月刊現代』(講談社)、『論座』(朝日新聞社)、『主婦の友』(主婦の友社)などの有名雑誌が休刊して話題を呼んだが、2009年も『ロードショー』(集英社)、『Lマガジン』(京阪神エルマガジン社)、『就職ジャーナル』(リクルート)、『諸君!』(文藝春秋)などが相次いで休刊し、雑誌の時代が終わりつつあるかのような印象を人々に与えている。

 雑誌の販売金額の大幅な減少と相次ぐ休刊は、いくつかの影響が考えられるが、大きくは雑誌に対する読者の需要が後退しているためであり、その要因としてまず考えられるのがインターネットによる情報環境の変化である。

 インターネットの急速な普及で芸能情報、企業情報、時事問題など、たいていの情報は紙の雑誌を購入しなくてもパソコンで検索して必要な部分だけをダウンロードし、印刷することができるようになった。さらにiモードなどの携帯電話のインターネットサービスによって、多くの人々が占いから旅行・グルメ情報、乗換案内、時刻表、ファッション情報など様々な情報を簡単に入手することができるようになったのである。つまり、これまで紙の雑誌で得ていた様々な分野の情報がデジタル化され、パソコンや携帯電話で読まれるようになってきたということである。

 

3. デジタル雑誌の動向

 出版業界ではこのような状況を受けて、紙媒体だけではなく、デジタル雑誌あるいはインターネットとのクロスメディア戦略を模索する取り組みが始まっている。『デジタルef』(主婦の友社)、『雑誌の市場SooK』(小学館、2008年9月終了)、『Newsweek日本版・デジタル版』(阪急コミュニケーションズ)などがデジタル雑誌として登場し、また富士山マガジンサービスが「デジタル雑誌ストア」を開始したことから2007年は「デジタル雑誌元年」と呼ばれたが、最近では次のような新たな取り組みが展開されている。

 第1に、携帯電話向けの雑誌記事立ち読みサービスの開始である。雑誌の総合情報ポータルサイト「zassi.net」を運営する雑誌ネットが、2009年4月から携帯電話向けに雑誌記事の「立ち読みサービス」を開始している(6)(7)。

 第2に、雑誌発売と同時にインターネットで無料公開する動きが出てきたことである。例えば月刊漫画誌『モーニング・ツー』(講談社)は、2008年10月から12月までの3か月間と2009年5月からの1年間にわたり雑誌丸ごと1冊のインターネットでの無料公開を試みており、そのうち2009年5月から7月までは雑誌発売と同時に無料公開するという取り組みを行っている(8)。

 第3に、休刊雑誌の記事を電子書籍化する試みがスタートしたことである。秋田書店が2003年に休刊した歴史雑誌『歴史と旅』の記事を、携帯電話向け電子書籍サイト「よみっち」で2009年5月から販売を始めている(9)。

 第4に、雑誌、単行本、インターネットの三位一体で読者に提供する雑誌のクロスメディア戦略が展開されたことである。2008年末に休刊した『月刊現代』の後継誌として2009年9月に創刊したノンフィクション雑誌『G2』(講談社)は、インターネット上での全文公開によって雑誌本体と掲載作品の単行本の売上げ増を図ろうとしているのである(10)。

 

4. 「雑誌コンテンツのデジタル配信」実証実験

 日本における雑誌発行部数の約80%を占める有力雑誌出版社で構成される日本雑誌協会は2009年1月、「デジタルコンテンツ推進委員会」を新設した。これは2008年11月に日本雑誌協会・国際雑誌連合(FIPP)が共催した「アジア太平洋デジタル雑誌国際会議」を受けて、デジタル雑誌に関する常設委員会が必要との認識から発足したものである(11)。

 2009年4月、総務省の「ICT利活用ルール整備促進事業(サイバー特区)」の実施テーマの一つとして、同委員会が応募した「雑誌コンテンツのデジタル配信プラットフォーム整備・促進事業」が採用された。8月には、そのための調査研究プロジェクトを日本雑誌協会が落札し、実証実験を開始することになっている。また、同委員会はビジネスモデルを検討するため、広告代理店やIT関連のパートナー企業と「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」を設立するとともに、権利処理やワークフロー・インフラ、データベース化などの7つのワーキンググループを立ち上げている(11)(12)(13)。

 具体的な実証実験は2010年1月下旬から2月にかけて、100誌の参加雑誌を得て、雑誌を定期購読している人1,000名以上と、雑誌を定期購読しておらずインターネットにアクティブな人500名以上を参加モニターとして行われる予定である(14)(15)。

 

5. おわりに

 出版コンテンツのデジタル化は「書籍」と「雑誌」の区別をあいまいにしただけではなく、「新聞」と「雑誌」、あるいは「インターネット情報源」と「雑誌」というメディアの垣根を取り払いつつある。しかし、編集過程を経た出版コンテンツとしての雑誌メディアは書き手の育成やジャーナリズムとしての役割という重要な機能を果たしてきたことを忘れてはならない。また学術情報流通における電子ジャーナルだけでなく、書店店頭で販売されているタイプの様々な雑誌がデジタル雑誌へ移行するとすれば、これまでの出版流通システムはもちろんのことながら、図書館にも大きな影響を与えるに違いないのである。

夙川学院短期大学:湯浅俊彦(ゆあさ としひこ)

 

(1) 例えば、以下のような文献がある。
小林弘人. 新世紀メディア論―新聞・雑誌が死ぬ前に. バジリコ, 2009, 301p.

(2) 出版年鑑 2009 資料・名簿編. 出版ニュース社, 2009, p. 286.

(3) “会社概要”. 日本出版販売.
http://www.nippan.co.jp/nippan/gaiyo.html [4], (参照 2009-10-14).

(4) 出版指標年報 2009. 全国出版協会・出版科学研究所. 2009, p. 27-28.

(5) ABC公査部数2008年下半期. 新文化. 2009-05-28, 6面.

(6) デジタルで“雑誌ビジネス”に活路 : 「雑誌ネット(株)」篠塚社長に聞く. 新文化. 2009-03-26, 10面.

(7) “立ち読み”. 雑誌ネット.
http://www.zassi.net/latest_art_list.php?read=1 [5], (参照 2009-10-14).

(8) “モーニング・ツー無料公開”. 講談社.
http://morningmanga.com/twofree/ [6], (参照 2009-10-14).

(9) デジタル事業盛ん. 印刷雑誌. 2009, 92(7), p. 64-65.

(10) “G2とは?”. 講談社.
http://g2.kodansha.co.jp/?page_id=426 [7], (参照 2009-10-14).

(11) 雑協が薦めるデジタルコンテツ推進(上). 新文化. 2009-06-25, 1面.

(12) “デジタルコンテンツ推進委員会の活動概要”. 日本雑誌協会.
http://www.j-magazine.or.jp/doc/consortium_katsudogaiyo.pdf [8], (参照 2009-10-14).

(13) “コンソーシアムの設立について”. 日本雑誌協会.
http://www.j-magazine.or.jp/doc/consortium_setsuritu.pdf [9], (参照 2009-10-14).

(14) “雑誌デジタル配信モニター大募集”. 日本雑誌協会.
https://jmpa.modd.com/ [10], (参照 2009-10-14).

(15) “電子雑誌実証実験に定員の倍を超す応募、参加雑誌も100誌に拡大”. ITpro. 2009-11-11.
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20091111/340407 [11], (参照 2009-11-16).

 


湯浅俊彦. 縮小する雑誌市場とデジタル雑誌の動向. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1697, p. 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1697 [12]

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カレントアウェアネス [13]
出版 [14]
逐次刊行物 [15]
デジタル化 [16]
日本 [17]

CA1698 - これからの学校図書館―新学習指導要領と教育の情報化をめぐって / 森田盛行

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1698

 

これからの学校図書館―新学習指導要領と教育の情報化をめぐって

 

新学習指導要領と学校図書館

 1997年の学校図書館法改正以来、学校図書館が変わり、現在の社会の変化によりさらに大きく変わろうとしている。1997年の法改正に伴い、2003年4月1日より12学級以上の学校には司書教諭の配置が義務づけられた。これにより、全国の小・中・高等学校約2万校に司書教諭が配置された。さらに、司書教諭講習規程の見直しが行われた。従来は7科目8単位であったが、科目を整理統合し内容も現代化を図り、単位数も2単位増加した。

 21世紀は、新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す「知識基盤社会」とされている(1)。これを前提に学習指導要領も社会の変化に対応し2008年3月に改訂された。

 すでに学校現場では一部で先行実施されている新学習指導要領は、2011年度(高等学校は2013年度)から全面実施される。学校図書館については、小学校学習指導要領の総則では、「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童の主体的、意欲的な学習活動や読書活動を充実すること」と規定し、他の校種も児童と生徒の表記が異なるだけで記述は同じとなっている(2)。この記述は、1998年に改訂された現行学習指導要領と同じである。これまでの改訂ごとに学校図書館に関する記述が充実してきた経緯から見て、さらに先を見通した内容に改訂されることが予想されたが、現行のままで変更がなかった。しかし、文言こそ以前と変わりはなかったが、実際には今回の改訂により、学習指導や読書指導において学校図書館の果たす役割は一層重要なものとなった。

 今回の改訂では、以下の三点を基本方針とした。

①教育基本法改正等で明確となった教育の理念を踏まえ「生きる力」を育成すること。

②知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること。

③道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成すること。

この内の②の方針を受けて、総則の「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」に「各教科等の指導に当たっては、児童の思考力、判断力、表現力等をはぐくむ観点から、基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに、言語に対する関心や理解を深め、言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え、児童の言語活動を充実すること」(下線は筆者)とした(3)。これを受けて各教科においても各種の言語活動を行うこととなり、学習指導要領解説の総則編では、前述②の思考力・判断力・表現力等を育むために各教科において「記録、要約、説明、論述といった学習活動に取り組む必要がある」とした(4)。

 総合的な学習の時間は、時間数こそ減ったが、旧学習指導要領での総則の一部としての扱いから、独立した章に格上げとなった。総合的な学習は教科横断・総合的な学習や探究的な学習であり、まさに学校図書館を必要とするものである。

 これからは各教科・領域で全校の教員が言語活動の指導を行うことになる。これを教科書だけで行うことは困難であり、豊富な図書を有する学校図書館が各教員をサポートすることになる。文部科学省は、2009年度からの「学校図書館の活性化推進総合事業」の一つとして「教員のサポート機能強化に向けた学校図書館活性化プロジェクト」を行っている。これは学校図書館に教員用の図書を用意するだけではなく、司書教諭・学校司書が担任と協力して教材研究や教材の作成を行ったり、教育実践上の有用な情報を提供したり、そのためのスペースとして専用の教材図書室やコーナーを設けたりすることの有用性を調査するものである(5)。

 

学校図書館評価基準の活用

 これからの学習指導や読書指導には、教科書やICTだけではなく、学校図書館の活用が欠かせない。その前提条件として、学校図書館の環境が整備されている必要がある。学校図書館メディア、施設・設備等のハードの面は各種の基準で整備できるが(6)(7)、経営・運営等のソフトの面は学校図書館担当者の経験やこれまでの慣習等で行っていた感が強い。これからの学校図書館は従来の運営だけではなく、組織を経営(マネジメント)する視点が必要となる。近年、経営学の手法であるPDCAサイクルが学校経営にも取り入れられてきた。そのサイクルでは評価(Check)が重要となる。評価のための標準的な基準として全国学校図書館協議会により「学校図書館評価基準」が2008年に作成された(8)。この基準の作成に携わった須永は、学校図書館の経営・活動・環境などの改善点を提案し、サービスの向上を目的とする、と基準の作成意図を述べている(9)。この基準で各項目を数値化することにより、弱点、課題等を客観的にとらえることができ、今後の年間経営計画や改善計画に役に立つものと期待されている。

 

学校図書館の情報化

 情報技術の発展と共にコンピュータの高性能化、小型化、低廉化及び高速・大容量通信網の普及が進み、社会の情報化が一挙に進展した。2008年末の我が国のインターネット利用人口普及率は75.3%であり、まさに国民の大部分がインターネットを利用していることになる(10)。

 教育の面においても情報化が進むことになった。1999年に産学官の体制で新しい産業を生み出す大胆な技術革新に取り組むミレニアム・プロジェクトが立ちあがった。その中の一つが「教育の情報化」である。2005年度までに全ての学校がインターネットにアクセスでき、校内LANが整備され、全ての学級のあらゆる授業で教員及び生徒がコンピュータを活用できる環境の整備を目指すことになった(11)。

 こうした施策の下、学校図書館においても情報化が図られた。当初は高等学校で学校図書館の事務処理を主な目的としてスタンドアロンでコンピュータの導入が始まった。次いで、インターネットの利用と校内LANの整備も進み、コンピュータ室だけではなく、学校図書館にも情報コンセントが設置されてきた。

 文部科学省は学校図書館の蔵書のコンピュータ管理等の実証研究を目的とする、以下のような学校図書館の情報化を進展させる施策を展開した。

①「学校図書館情報化・活性化モデル地域事業」(1995~2000年度)

②図書等の共有化を研究する「学校図書館資源共有型モデル地域事業」(2001~2003年度)

③学校図書館のネットワーク化を目指す「学校図書館資源共有ネットワーク推進地域事業」(2004~2006年度)

これらの一連の施策により、学校図書館担当者が持つ、学校図書館にコンピュータが置かれることに対する違和感が払拭されていった。

 コンピュータの用途は、小中学校では貸出・返却、資料検索、蔵書点検が多く、高等学校はインターネットの利用が最も多い。これからの学校図書館はレファレンス用資料を中心にインターネットにより情報資源にアクセスすることが多くなるが、小中学校の現状では、まだ環境が整っているとは言い難い。全国学校図書館協議会の行った2008年度の調査(12)によると、学校図書館においてコンピュータを導入している学校の割合は、小学校52.0%、中学校57.5%、高等学校89.6%であり、小中学校での導入が遅れている。1校あたりのコンピュータの平均台数は、小学校1.7台、中学校1.8台、高等学校3.8台と少ない。導入が遅れている原因の第1位は予算不足、第2位は専任の図書館担当者がいないこと(高校を除く)をあげている。学校図書館の情報化においても「人」の問題が隘路になっていることがわかる。

 学校図書館では従来、学校図書館の利用法を指導する「利用指導」が行われてきたが、これからは学校教育において一層重視されてきている情報活用能力の育成が大きな課題となる。教科等で情報活用能力の育成指導を行うのは各教員だが、司書教諭・学校司書は、その指導法を各教員に伝えたり、チーム・ティーチング(TT)として共に指導したりする。しかし、学校図書館として児童生徒への指導法、教員への支援の方法についてはまだ十分確立しておらず、学校現場で実践が積み重ねられているところである。堀川らは、これらに対応するために司書教諭は常に情報に関する新しい知識、技術を評価し取り入れることの重要性を指摘している(13)。これまで図書を中心に経営・運営をしてきた学校図書館にとっては、社会の情報化に遅れて対応するのではなく、先取りした形で行うことが要求されることになる。

全国学校図書館協議会:森田盛行(もりた もりゆき)

 

(1) 中央教育審議会. 我が国の高等教育の将来像(答申). 2005, 189p.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05013101.htm [19], (参照 2009-10-13).

(2) 文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領. 東京書籍, 2008, p. 17.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/sou.htm [20], (参照 2009-10-13).

(3) 文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領. 東京書籍, 2008, p. 16.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/sou.htm [20], (参照 2009-10-13).

(4) 文部科学省. “第1章 総説”.小学校学習指導要領解説 総則編. 東洋館出版社, 2008, p. 2.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_001.pdf [21], (参照 2009-10-13).

(5) 文部科学省. “16. 学校図書館の活性化推進総合事業(新規)”. 文部科学省事業評価書 -平成21年度新規・拡充事業等-. 2008, p. 69-74.
http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/08100105/020.htm [22], (参照 2009-10-13).

(6) “学校図書館メディア基準”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/kijun/post-37.html [23], (参照 2009-10-13).

(7) “学校図書館施設基準”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/kijun/post-38.html [24], (参照 2009-10-13).

(8) “学校図書館評価基準”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/kijun/post-44.html [25], (参照 2009-10-13).

(9) 須永和之. 学校図書館評価基準(成案)策定について. 学校図書館. 2008, (699), p. 47-48.

(10) “平成20年通信利用動向調査の結果(概要)”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000016027.pdf [26], (参照 2009-10-13).

(11) “ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)について”. 首相官邸.
http://www.kantei.go.jp/jp/mille/991222millpro.pdf [27], (参照 2009-10-13).

(12) 全国学校図書館協議会研究・調査部. 2008年度学校図書館調査報告. 学校図書館. 2008, (697), p. 51-53.

(13) 堀川照代ほか編. インターネット時代の学校図書館. 東京電機大学出版局, 2003, 173p.

 


森田盛行. これからの学校図書館―新学習指導要領と教育の情報化をめぐって. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1698, p. 3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1698 [28]

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CA1699 - 「読みやすい図書のためのIFLA指針」の改訂について / 野村美佐子

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1699

 

「読みやすい図書のためのIFLA指針」の改訂について

 

1.はじめに

 1997年に、「読みやすい図書のためのIFLA指針」(IFLA Guidelines for Easy-to-Read Materials;以下「IFLA指針」という)(1)が、LSDP(Library Serving Disadvantaged Persons Section―利用において不利な立場にある人々への図書館サ-ビスに関する分科会)(2)より発行された。この指針は、同分科会の常任委員会委員であったスウェーデンの「読みやすい図書センター」の所長であるブロール・トロンバッケ(Bror Tronbacke)を中心として作成された。

 このIFLA指針は、「読みやすい(easy-to-read)(3)」という概念を利用する2つの形態の出版を想定している。1つはオリジナルがあるものを対象者の読むレベルに合わせて、翻案をする出版である。もう1つは、最初から対象者に合わせた内容で、読みやすく書き下ろしをする出版である。トロンバッケの「読みやすい図書センター」の出版物を見るとこの2つの異なった出版があることがわかる。前者は今まさに一般に読まれているものを読みたいという希望に沿った出版であり、後者は読んで理解することが困難な人々を対象に絞った内容が多い。

 「読みやすい」図書は、媒体も紙だけでなく、ラジオやテレビ、そして電子媒体での出版にも有効である。「読みやすい図書センター」では、2008年までに約800冊を出版しているが、そのうちの670冊がTPB(スウェーデン国立録音点字図書館)によりDAISY化(音声のみ)されている(4)。更にマルチメディアDAISY(CA1486 [32]参照)による読みやすい電子図書の出版の試み(5)も始まった。

 こうした状況の中で、2007年に、LSNの常任委員会において、上記指針の改訂の提案がなされた。最初の発行から10年が経過し、インターネットや情報技術の進展は目を見張るものがあり、紙以外の出版方法に関して改訂が必要になってきたからである。2009年8月には、最終案がLSN常任委員会に提出され、2009年11月現在、審議中である。

 筆者は、デンマークのフリーランス図書館コンサルタントであるギッダ・ニールセン(Gyda Nielsen)と共にトロンバッケが行う改訂作業に参加した。その経験を踏まえ,今回の主たる変更点に焦点を当てながらIFLA指針を紹介する。

 

2.「読みやすい(easy-to-read)」概念を支える理念

 この指針の基本となるのは、「すべての人が、文化、文学及び情報に、それぞれ理解できる形でアクセスできるというのが、民主主義的な権利である。」(6)とする考え方である。今回の改訂にあたっては、前回の指針にはなかった「国連障害者権利条約」(7)の理念を取り入れている。この条約は、2006年12月に国連の総会で採択され、2008年5月には、20か国の批准により、法的効力のある国際法になった。この条約は障害のある人の基本的人権を促進・保護すること、固有の尊厳の尊重の促進を目的としている。条約が定める「合理的配慮」の中に指針が求める「読みやすい」図書が含まれることは明らかである。

 

3.対象グループについて

 今回の改訂においては、障害に関する用語の変化により、handicapという言葉はすべてdisabilityに変更されている。また、ADHD(注意欠陥多動性障害)、アスペルガー症候群、レット症候群、そして認知症など最近一般的に認知されるようになってきた障害も新指針に追加された。

 なお、トロンバッケの図書センターにおける「読みやすい」図書の出版を見てみると、圧倒的に、読みに問題がある成人および青年のための図書に集中している。しかし、何らかの理由で読みやすいテキストを必要としている人たち、例えば、移民・小学生など語学力あるいは読む能力が不十分で、一定期間、この種の図書が役に立つ人々も指針が対象とするグループである。

 

4.電子媒体を利用した読みやすい図書

 前述のように、今回の改訂の中心は、「読みやすさ」をより効果的にする電子媒体の紹介となっている。そのひとつがマルチメディアDAISYである。DAISYは当初、視覚障害者のために開発されたシステムであったが、現在は通常の印刷物を読めない障害(print disability)がある人々に対して有効なデジタル録音図書の国際標準規格として、DAISYコンソーシアム(8)によって開発・維持が行われている。

 新指針では言及されていないが、今後、こうした技術を開発や活用することにより、最初から紙媒体を利用することなく、かつ、さまざまなニーズに対応した「読みやすい」マルチメディア電子図書の出版も可能になると考えられる。

 

5.さいごに

 改訂されたIFLA指針においては、「読みやすい」とは何かという概念に対する科学的な探究や実践的な研究が必要であると述べている。トロンバッケを中心とした国際的な「読みやすい」図書のネットワーク(9)も立ち上がっており、言語学や教育だけでなく、障害やグラフィックデザインなど多分野にわたる研究者の連携により「読みやすい」図書の共同研究が進むと考えられる。

 また図書館の役割について、新指針では、すべての利用者にサービスを提供するべきであり、そのために資料やサービスに関する利用案内、広報用ポスター、およびウェブ上の情報は、アクセシブルにするべきであると追記している。図書館員は、情報を明確でわかりやすく表現する責任があることを認識し、サービスを行う上でIFLA指針を活用してほしい。

 日本においては、2009年6月に公布された「著作権法の一部を改正する法律」(10)により、2010年1月1日から一定の条件のもとで翻案も無許諾で可能となるので、「読みやすい」図書や情報に関する社会全体の理解や取り組みの推進が期待される。

日本障害者リハビリテーション協会:野村美佐子(のむら みさこ)

 

(1) Tronbacke, Bror I., ed. IFLA Guidelines for Easy-to-Read Materials. International Federation of Library Association and Institutions, 1997, 34p.
トロンバッケ, ブロール. 読みやすい図書のためのIFLA指針. 日本障害者リハビリテーション協会情報センター訳. 2001, 34p.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/easy/ifla.html [33], (参照 2009-10-09).

(2) LSDPは2008年12月、LSN(Library Services to People with Special Needs Section―特別なニーズのある人々への図書館サービス分科会)に変更されている。

(3) 「easy-to-read」の訳には、「やさしく読める」、「読みやすくわかりやすい」などがあるが、ここでは「読みやすい」と言う訳語で統一する。

(4) トロンバッケ, ブロール. “講演会「読みやすさ、わかりやすさに向けたスウェーデンの取り組み」2008年5月29日”. 日本障害者リハビリテーション協会障害保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/guideline/080529_seminar_bror/bror.html [34], (参照 2009-10-09).

(5) スウェーデンでの取り組み事例については以下の文献を参照。
Boqvist, Lena. “Nytt projekt: Elever testar text i talbocker”. Bibliotek for alla. 2008, (3), p. 4-5. (Swedish).
※日本語要約は、以下のウェブページを参照。
“スウェーデンの事例 リーディングエー市の学校でマルチメディアDAISY図書を試用”. 日本障害者リハビリテーション協会障害保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/daisy/sweden/example_index.html [35], (参照 2009-10-9).
なお、国内でのマルチメディアDAISY電子図書が付いた読みやすい図書出版として以下がある。
ソールセン, ロッタほか. 赤いハイヒール:ある愛のものがたり. 中村冬実訳. 日本障害者リハビリテーション協会, 2006, 59p.

(6) Tronbacke, Bror I., ed. IFLA Guidelines for Easy-to-Read Materials. International Federation of Library Association and Institutions, 1997, p. 2.

(7) “Convention on the Rights of Persons with Disabilities”. United Nations.
http://www.un.org/disabilities/default.asp?id=259 [36], (accessed 2009-10-09).

(8) DAISY Consortium.
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(9) Easy-to-Read Network.
http://www.easy-to-read-network.org [38], (accessed 2009-11-14).

(10) “著作権法の一部を改正する法律”. 文部科学省.
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Ref:

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出版 [14]
デジタル化 [16]
視覚障害者 [42]
IFLA(国際図書館連盟) [43]

CA1700 - 「偽学術雑誌」が科学コミュニケーションにもたらす問題 / 藤垣裕子

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1700

 

「偽学術雑誌」が科学コミュニケーションにもたらす問題

 

 科学関係の大手出版社であるElsevier社発行のThe Australasian Journal of Bone and Joint Medicineはじめ6誌が、2000年から2005年の間に他の雑誌からの転載論文を掲載し、かつ、その転載論文が医薬品メーカーであるメルク社から資金を受けて研究された論文であったにもかかわらずそのことを公表していなかった、という事実が2009年4月から5月にかけて発覚した(1)(2)。これに対しElsevier社は、十分な情報開示をせずにふつうの雑誌論文のようにみえるような出版をおこなったことを謝罪し、今後情報開示のルールを徹底することを明言した(3)。この事件はとくにThe Scientists誌のウェブ版で多くの議論を呼んでいる。問題は、この雑誌が、ピアレビューされた論文のようにみせかけてそれら転載論文を載せていたこと、および論文のスポンサーをきちんと公開しなかった点である。このスキャンダルを、出版社の倫理の問題として論じることは簡単である。しかし、本稿では、この事件の提起する問題が学術コミュニケーションに対してもつ意味、また学術コミュニケーションと社会の関係など、科学コミュニケーションの側面から考えてみたい。なおここで、学術コミュニケーションとは、学者の共同体のなかに閉じられたコミュニケーションを指し、科学コミュニケーションとは、学者の共同体の境界をこえて、広く社会とのコミュニケーションをふくんだものを指す。

 まず学術コミュニケーションに対してもつ意味について考えてみる。本事実は、メルク社に対する訴訟(メルク社製の薬Vioxx服用中に心臓麻痺で死亡した患者に関する訴訟)のプロセスで明らかになった。そこで、世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors)のメンバーであるイェリネク(George Jelinek)氏は、「かの出版物は、メルク社によって資金供与され、かつメルク社の製品に対しポジティブな結果を導く論文のみが掲載されているにもかかわらず、ピアレビューされた論文のように誤解されやすい状況だった」と証言した(4)。つまり、情報を受け取る医師の側から言えば、医師らは、医薬品の使用を促進するようにデザインされた出版物を、まるでピアレビューされた論文誌かのようにElsevier社から受け取っていたことになるのである。これは、ピアレビューによって維持されている真面目な医学雑誌群に対する侮辱であると同時に、学術コミュニケーションにおいてピアレビューがもっている認知的権威(学者集団のなかである見解や考え方が幅広く用いられ、権威をもったものとして考えられていることを指す)を汚す行為である。問題の雑誌群には、編集委員会のもとで書かれたという誤解を与えるような表現があったことから、ピアレビューされた論文が一つの認知的権威であることを逆手に利用していたことが示唆される。学術コミュニケーションにおいて形成されていた信頼や認知的権威を脅かすことになる行為といえよう。

 次に、学術コミュニケーションと社会の関係、ひいては科学と社会のコミュケーションの問題として捉えてみよう。学術コミュニケーションのみならず、一般社会においても、「ピアレビューのある雑誌に載った論文は妥当性の保証がされている」という前提が共有されている。ピアレビューされた論文は、社会においても1つの認知的権威なのである。この事件は、この前提および社会からの信頼や認知的権威に対してどのような意味をもつのだろうか。

 学術コミュニケーションと社会の関係を考える際、本事件と韓国のファン(黄禹錫)らによる捏造事件(CA1582 [45]参照)とを比較してみると、興味深いことが明らかになる。2005年のScience誌上に載せた2本の論文がファンによる捏造であることが発覚した際、ピアレビューの果たす役割についての議論が多くまきおこった。Nature誌のエディトリアルは、ピアレビュー(査読)システムは論文に書かれていることは事実であるという前提のもとに作動しており、不正を検知するためにデザインされているわけではない、と明言している(5)。それに対し、NYタイムズ紙は、科学ジャーナルが虚偽の報告をふるいわけするゲートキーピング機能をもつことを期待する(6)。このように、雑誌の内側(編集委員会)の考えるピアレビューの実態と、外側(刊行された雑誌論文を外からながめる一般のひとびと)によるピアレビューの受け取り方との間には、大きなギャップがあることが示唆された。それに対し、今回の事件は、ひとびとのピアレビューへの信頼、研究者のピアレビューへの信頼を逆手に利用していたという点は悪質ではあるが、ファンの事件のときのように、ピアレビューのゲートキーピング機能への疑いの目、あるいはピアレビュー自体への根本的見直し、といった議論まではいっていない。出版社が守るべきこと(ピアレビューしていない論文をピアレビューしたかのように装ってはいけない、スポンサーがついていることは公開しなくてはならない)を守っていなかったことが指摘され、一連の議論はそのような出版社の行為を社会的に罰することによって、実はピアレビューの認知的権威を守ろうとしているように観察される。その意味で、つまり出版社レベルの話で終えられる、という意味ではファンらのケースよりは学術コミュニケーションに対して社会のもつ信頼へのダメージは軽症といえるかもしれない。

 これらの事件の提起する問題を、倫理の問題として論じることは簡単である。たとえば、ファンのケースは、投稿者の倫理の問題であり、今回の事件は、出版社の倫理の問題である。しかし、科学コミュニケーションの問題として捉えると、より根源的な問いが喚起される。ピアレビューによって生まれている認知的権威を、ほんとうに不問のまま信頼してよいのだろうか。雑誌の内側の考えるピアレビューの実態と、外側によるピアレビューの受け取り方との間にあるギャップをこのまま放っておいてよいのだろうか、そもそも何故ピアレビューされた雑誌論文に認知的権威が生まれているのだろうか、などの問いである。Elsevier社の倫理の問題として片付けるだけでなく、彼らを非難することによって守られている科学コミュニケーション上のシステムとは何なのか、という問いが喚起される。

東京大学:藤垣裕子(ふじがき ゆうこ)

 

(1) “Elsevier published 6 fake journals”. The Scientist. 2009-05-07.
http://www.the-scientist.com/blog/display/55679/ [46], (accessed 2009-10-15).

(2) “Elsevier admits journal error”. FT.com. 2009-05-06.
http://www.ft.com/cms/s/0/c4a698ce-39d7-11de-b82d-00144feabdc0.html [47], (accessed 2009-10-15).

(3) “Statement From Michael Hansen, CEO Of Elsevier's Health Sciences Division. Regarding Australia Based Sponsored Journal Practices Between 2000 And 2005”. Elsevier. 2009-05-07.
http://www.elsevier.com/wps/find/authored_newsitem.cws_home/companynews05_01203 [48], (accessed 2009-10-15).

(4) Hutson, Stu. Publication of fake journals raises ethical questions. Nature medicine. 2009, 15(6), p. 598.

(5) Three cheers for peers. Nature. 2006, 439(7073), p. 118.
http://www.nature.com/nature/journal/v439/n7073/full/439118a.html [49], (accessed 2009-10-15).

(6) Wade, Nicholas et al. Researcher Faked Evidence of Human Cloning, Koreans Report. The New York Times. 2006-01-10, A1.

 


藤垣裕子. 「偽学術雑誌」が科学コミュニケーションにもたらす問題. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1700, p. 7-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1700 [50]

  • 参照(18339)
カレントアウェアネス [13]
出版 [14]
学術情報 [51]
学術雑誌 [52]
米国 [53]

CA1701 - 韓国の図書館における電子書籍の提供 / 田中福太郎

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1701

 

韓国の図書館における電子書籍の提供

 

1. はじめに

 図書館において、紙媒体資料のみならず、CD-ROMなどのパッケージ系電子資料、電子ジャーナルなどのネットワーク系電子資料が提供されるようになって久しい。

 韓国では、電子書籍を提供・貸出している図書館も多い。 以下では、韓国における電子出版事情(1)を概観した後、図書館での電子書籍の提供(2)の現状について述べる。

 

2. 電子出版事情

 文化体育観光部(3)発行の「2008文化産業白書 : 年次報告書」(2008문화산업백서 : 연차보고서)によると、韓国の電子出版産業の市場規模は、2008年で5,551億ウォンであり、2009年には5,786億ウォンになると推定(4)されている。

 また、韓国ソフトウェア振興院(한국소프트웨어진흥원)の調べ(5)では、ゲーム・デジタル放送・デジタル音楽などを含むデジタルコンテンツ産業全体に占める電子書籍業種の割合は、2007年で約0.5%であり、2008年は0.4%と推定されている。一方、電子書籍業種の市場規模でみると、2008年が473億ウォンであり、2009年は506億ウォンと予想されている。デジタルコンテンツ産業全体に占める割合は依然低いものの、電子書籍業種の市場規模は増加傾向にあるといえよう。

 韓国内の主な電子書籍業者として、これまでブックトピア(북토피아)が主導的な役割を果たしてきた(6)。ところが、2008年に同社は出版社に対する著作権料58億ウォンが支払えなくなり、不渡り危機に陥った(7)。近年では、国内でも指折りの大規模書店である教保文庫(교보문고)が「デジタル教保文庫」を運営するなどして台頭してきている。教保文庫は、このほか、マンション内の「電子図書館」事業(E487 [55]参照)にも積極的に進出している。

 「2008文化産業白書 : 年次報告書」によると、電子書籍業者の類型としては、電子書籍コンテンツ制作・流通関連企業が127社と最も多く、ビューワー・パブリッシャー関連技術業者やDRM(デジタル著作権管理)業者等のソリューション企業が45社であった(8)。

 電子出版物の発行状況をみると、2008年までの累積数で、電子書籍355,424種、CD/DVDの教育用電子出版物17,919種、学術論文が1,718,137編、電子雑誌およびウェブマガジンが2,369種、オーディオブックが20,872種、電子辞書が471種発行されている(9)。

 電子書籍リーダーについては、パソコン、PDAから専用ソフトを用いるのが中心である。電子書籍用の携帯端末は各社が開発していたが、具体的なサービスには至っていなかった(5)。その中で、サムスン電子(삼성전자)が、2009年7月31日に電子書籍用の携帯端末の販売を開始した(10)。この端末では、前述の教保文庫が提供する2,500種のコンテンツが利用できる(11)。今後も、オンライン書店であるイエス24(예스24)とアラジン(알라딘)が共同で法人を設立して専用端末の販売及び電子書籍サービスを開始する予定であるとともに、別のオンライン書店のインターパーク(인터파크)も、専用端末を通じて同様のサービスを開始すると発表している。携帯電話会社も、電子書籍サービスを検討している(12)など、今後の展開が注目される。

 韓国政府の電子出版物政策として、文化観光部(現在の文化体育観光部)では、2004年に電子出版の納本・認証システム(13)を構築したほか、紙の出版物と同様にオンライン電子出版物に対して付加価値税を免税するなどして、電子出版を推進してきた(14)。その結果、2008年までに累計365,220件の電子出版物が認証された。また、韓国電子出版協会に補助金を出し、「優秀u-book制作支援事業」を、毎年行っている(15)。

 

3. 図書館での電子書籍の提供と利用の実際

 

3.1. 国立中央図書館

 国立中央図書館では、同館のウェブサイト(16)上の情報によると、所蔵資料をデジタル化したもののほか、民間業者が構築した電子書籍を含むデータベースを購入し、同館内のみならず、韓国複写伝送権協会と著作権契約を締結した公共図書館へもサービスしている。

 契約を締結した公共図書館で利用する場合、検索や書誌情報照会はどの端末でも可能だが、全文を閲覧できるのは指定された端末のみである。また、大学図書館や行政資料室では、このサービスは利用できない。

 このように、国立中央図書館が主導し、全国の公共図書館に電子書籍の利用を促進しているのが特徴的である。

 

3.2. ソウル大学校中央図書館

 ソウル大学校中央図書館(17)では、電子書籍の検索は一般資料の蔵書検索(OPAC)画面から可能である。電子書籍のみの絞り込み検索もできるほか、書誌詳細から全文へのリンクも張られている。また、契約会社ごとのサイト(18)もあり、電子情報のページからリンクされている。

 電子書籍の利用について、ログインが必要な業者のコンテンツとそうでないものがある。学外から利用する際には、どの業者のコンテンツでもログインが必要である。閲覧方法についても、一人5冊まで5日間などと、期間が定められているものもあれば、期間を定めず、アクセスする都度ダウンロードして閲覧するものもある。

 

3.3. 大学生を対象としたアンケート調査

 電子書籍がどのように利用されているのか、利用者の側からみるために、ここでは、チャン・ヘラン(장혜란)が行ったアンケート(19)の結果を紹介する。これは2006年10月に、韓国のある大学の学生466名を対象に実施された、電子書籍をどのように利用しているかについてのアンケートである。まず、電子書籍を利用したことがあると回答した学生は136名(29.2%)であった。その経路を複数回答可で尋ねたところ、図書館から借りる:52名(38.2%)、ポータルサイトから購入:33名(24.3%)、電子書籍供給業者から購入:25名(18.4%)、オンライン書店から購入:11名(8.4%)などであった。また、どのような媒体で見るかについて、複数回答で尋ねたところ、パソコンで閲覧:116名(85.3%)、PDA:9名(6.6%)、電子書籍専用リーダー:9名(6.6%)、携帯電話:9名(6.6%)などであった。

 電子書籍の利用にあたっては、図書館経由もしくはインターネットのポータルサイトを経由している学生が多数派であることが分かる。また、閲覧には、パソコンを利用する場合が大半を占めている。

 

3.4. 国民読書実態調査

 文化体育観光部は「国民読書実態調査」を毎年実施している。2008年は、9月から10月にかけて、韓国内の18歳以上の成人男女1,000名と小学校4年生から高校生まで(以下「生徒」)の3,000名を対象とし、読書実態・読書傾向・図書入手経路などについてアンケートを実施している。以下では、電子書籍に関する設問の結果を紹介したい(20)。

 まず、電子書籍サイトを利用している者の比率は、成人で4.2%、生徒で14.8%であった。利用していると答えた者にどの媒体で電子書籍を利用するかについて尋ねたところ、成人は、デスクトップパソコンが73.8%で最も高く、次いでノートパソコン9.5%、携帯電話、PDA、電子辞書がそれぞれ4.8%であった。生徒は、デスクトップパソコンが63.6%で最も高く、次いで電子辞書11.7%、携帯電話11.5%であった。

 一方、電子書籍を利用するための手段について、成人は、オンライン書店35.7%、ポータルサイト31.0%、公共機関の電子図書館11.9%、電子書籍専門サイト9.5%、公共図書館の電子図書館7.1%の順であった。生徒は、ポータルサイト36.4%、オンライン書店19.1%、電子書籍専門サイト16.9%、学校の電子図書館8.5%、公共図書館の電子図書館5.4%の順であった。

 以上のように、電子書籍の利用率は、成人より生徒のほうが高かった。利用する媒体は、成人・生徒とも圧倒的にパソコンが多いが、生徒は電子辞書や携帯電話を通じての利用もある。どのような経路で利用するかについては、成人・生徒とも、オンライン書店やポータルサイト経由が多く、公共機関・公共図書館および学校の電子図書館を利用する比率は、高くなかった。

 

3.5. 大邱・慶北地域の公共図書館・大学図書館での調査

 次に、具体的に図書館におけるサービスの状況を確認するため、チョン・ジンハン(정진한)ほかが行った、韓国南東部に位置する大邱・慶北地域の図書館における電子書籍利用状況調査の結果(21)を紹介する。これは、2007年5月に、アンケートを送付・回収し、さらに電子書籍担当司書にインタビューを行ったものである。アンケートの結果、同地域にある図書館111館のうち、電子書籍を導入しているのは全体の49.54%にあたる55館であり、そのうちの34館に対してインタビュー調査をしている。内訳は4年制大学図書館11館、2年制短大図書館8館、公共図書館15館である。主な質問と集計結果は以下のようなものであった。

 

a. どの業者の電子書籍を導入しているか(複数回答)

 ブックトピア:79.41%、バロブック(바로북):50.00%、教保文庫:20.58%、ヌリメディア(누리미디어):11.76%、韓国学術情報:8.82%、NetLibrary(米国):20.58%、Safari(米国):14.70%

b. 電子書籍蔵書数

 1館あたり平均9,662冊。4年制大学平均8,939冊、2年制短大10,662冊、公共図書館9,659冊。

c. 電子書籍貸出状況

 貸出冊数は1館あたり一日平均8.82冊。4年制大学平均8.86冊、2年制短大5.56冊、公共図書館10.53冊。

 館種別で貸出の多い分野順にみると、4年制大学は1)文学、2)外国語、3)経済、2年制大学は、1)文学、2)子ども、3)経済、公共図書館は、1)文学、2)子ども、3)経済であった。

d. サービス提供方法

 電子書籍提供業者のホームページへのリンクのみ提供が50.00%、所蔵資料と統合検索できるものが50.00%。公共図書館の場合、73.33%がリンクのみ提供。

e. 電子書籍整理状況

 目録作成している64.70%、していない35.29%。

f. 同一の本が冊子体と電子書籍とあった場合の利用者対応

 冊子体を薦める79.41%、電子書籍を薦める2.94%、どちらとも意識しない17.64%。

 

 a.から、韓国内の業者と多数契約していることが分かる。b.から、蔵書数は冊子体よりかなり少ないものの、平均で1万冊近く所蔵していることが分かる。c.から、どの館種も文学分野の利用が多いことが分かる。f.で、同内容のものがあった場合は、圧倒的に冊子体を薦めていることが分かる。

 なお、電子書籍担当司書へのインタビューによると、電子書籍提供にあたっての問題点を改善するため、担当司書らは次のような指摘をしたという。即ち、1)電子書籍への漠然とした不安を解消することが必要、2)出版されたらすぐにコンテンツ追加できるよう電子書籍購入周期を短縮、3)紙媒体発行後電子媒体発行という出版構造の改善、4)電子書籍利用の広報、5)契約上義務的に5冊分購入する必要があるため高単価であり、業者へ改善要望が必要、などである。

 

4. おわりに

 韓国における電子書籍産業は、政府がその発展を推進しているとともに、民間企業の側でも電子書籍を図書館へ積極的に販売することで成長を遂げてきた。しかし、もともと公共図書館の予算は出版点数に対して貧弱であること(22)から、最近は市場拡大のため、個人向けの販売を強化している。

 図書館にとっては、3.5.で見たように、紙の書籍に比べると、電子書籍が活発に利用されているとは言い難いようである。ただ、韓国では、公共図書館への「デジタル資料室」設置を推進するとともに、一部の学校図書館にも「デジタル資料室」の設置を進めた(CA1578 [56]参照)結果、インフラは整備されているといえる。3.5.で電子書籍担当司書がインタビューで答えたように、追加周期を短縮してコンテンツの充実を図り、電子書籍利用の広報といった利用活性化策を工夫する等すれば、図書館における電子書籍の利用が伸びる余地は大いにあるように思える。

関西館総務課:田中福太郎(たなか ふくたろう)

 

(1) 2005年の韓国の電子書籍事情についてはE404を、電子書籍事情および図書館への電子書籍導入状況については、以下を参照。
竹井弘樹ほか. 韓国におけるブロードバンド時代の電子ブック市場とハイブリッド図書館事情. 医学図書館. 2006, 53(4), p. 361-367.

(2) 韓国の図書館における電子書籍の導入実例報告については、以下を参照。とくに後者は、非来館型電子図書館事情について詳述している。
竹井弘樹. 韓国のネット利用と図書館情報化事情. 情報の科学と技術. 2007, 57(1), p. 26-33.
http://ci.nii.ac.jp/lognavi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0008120649 [57], (参照 2009-11-03).
竹井弘樹. 日韓における電子図書館の違いはなぜ生じているのか―日韓におけるハイブリッド図書館推進事情の比較により考察―. 専門図書館. 2008, 230, p. 20-26.

(3) 「部」は日本の「省」に相当。

(4) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 361-362.

(5) 한국소프트웨어진흥원. 2008년도 국내 디지털콘텐츠산업 시장조사 보고서. 2009, 314p.

(6) 舘野晰. “5 IT大国・韓国の電子出版”. 韓国の出版事情(2008年版). 出版メディアパル. 2008, p. 20-21.

(7) 황세림. 북토피아, 미자급 저작권료 58억 원?. 출판저널. 2009, 398, p. 24-29.

(8) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 361-362.

(9) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 362.

(10) 삼성전자. 삼성전자-교보문고, 전자종이 단말기로 국내 전자책시장 활기 불어 넣어. 2009-07-27.
http://www.samsung.com/sec/news/newsRead.do?news_seq=14177 [58], (参照 2009-11-03).

(11) 구본권. 삼성, 전자책 시장 진입/31일부터 단말기 판매. 한겨레. 2009-07-28, 17面.

(12) 최현미. 전자책의 미래 ‘콘텐츠’에 달렸다. 문화일보. 2009-08-03, 24面.

(13) デジタル化されたデータを電子媒体に収録した出版物(オンラインのみのものも含む)に、EPマークおよびECN番号を付与し、電子出版物の効率的な製作、流通、利用を促進するためのシステム。韓国電子出版協会内の韓国電子出版物認証センターが窓口になっている。

(14) 付加価値税法第12条により、図書・新聞・雑誌等は免税になっている。

(15) 문화체육관광부. “제4장 콘텐츠 산업 부문별 성과 및 전망”. 2008문화산업백서 : 연차보고서. 2009, p. 368-369.

(16) 국립중앙도서관. http://www.nl.go.kr [59], (参照 2009-11-03).

(17) 서울대학교중앙도서관. http://library.snu.ac.kr [60], (参照 2009-11-03).

(18) 例えば、以下のようなサイトがある。
BookRail. http://www.bookrail.co.kr/ [61], (参照 2009-11-03).
KSI eBook. http://ebook.kstudy.com/ [62], (参照 2009-11-03).

(19) 장혜란. 대학생의 웹기반 전자책 이용에 관한 연구. 情報管理學會誌. 2006, 23(4), p. 233-256.

(20) 문화체육관광부. 2008년 국민 독서실태 조사. 2008, 490p.

(21) 정진한ほか. 도서관에서의 전자책 관리와 서비스 방안에 관한 연구 –대구 경북지역 도서관을 중심으로-. 정보관리연구. 2007, 38(3), p. 31-58.

(22) 2008年度の図書館1館あたりの年間資料購入費は7,428冊分であり、出版点数41,094冊と比べて18%に過ぎない。
한국도서관협회. 2008한국도서관연감. 2009, 874p.

 


田中福太郎. 韓国の図書館における電子書籍の提供. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1701, p. 8-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1701 [63]

  • 参照(18425)
カレントアウェアネス [13]
出版 [14]
電子書籍 [64]
韓国 [65]

CA1702 - 動向レビュー:Google Book Searchクラスアクション(集合代表訴訟)和解の動向とわが国の著作権制度の課題 / 鳥澤孝之

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1702

動向レビュー

 

Google Book Searchクラスアクション(集合代表訴訟)和解の動向と
わが国の著作権制度の課題

 

1. Google Book Searchの衝撃

 2008年10月、Googleと米国の作家団体・出版団体等との間で争われた、Google Book Search(Googleブック検索)をめぐる著作権侵害訴訟の和解案が世界中の出版社・作家を揺るがせた。この和解案が裁判所にそのまま承認された場合、和解に異議を申し立てなかった著作権者はGoogleに書籍等をデジタル化され、ウェブ上に提供される可能性があったからである。

 Google Book Searchとは、検索エンジンのGoogleウェブ検索でウェブサイトを探す場合と同様に、検索ボックスに利用者が探しているキーワードやフレーズを入力するだけで、書籍を検索することができるようにしたものである(1)。著作権法上、書籍のデジタル化とウェブサイトでの提供などには著作権者の了解が必要であることから、了解なく行われた場合には著作権侵害が問題になる可能性がある。また、この和解案は米国内の訴訟によるものであるにもかかわらず諸外国の著作権者にも影響を与えたが、これは米国のクラスアクションという訴訟制度と、著作権の国際条約であるベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約)が関係している。

 そこで本稿では、Google Book Searchに係る米国の訴訟の経緯と和解案(原案及び修正案)を紹介した上で、この和解案に対する米国、欧州、わが国の動向と、今後の課題について考察する。

 

2. 訴訟の経緯

 Googleは2004年12月に、主に出版社と協働した書籍デジタル化プロジェクト“Google Print”を拡張して、ハーバード大学図書館・スタンフォード大学図書館・ミシガン大学図書館・オックスフォード大学図書館・ニューヨーク公共図書館の5館と、蔵書をデジタル化してGoogleから検索できるようにする旨合意したと発表した(2)。この“Google Print”が後にGoogle Book Searchとなり(3)、さらに“Google Books”と名称を変更した(4)。この事業では、図書館に所蔵される書籍の電子データベースを作成し、サイトにアクセスして書籍を検索すると、「全体表示」(Full View)、「限定プレビュー」(Limited Preview)、「スニペット表示」(Snippet View)、「プレビューを利用できません」(No Preview Available)(書籍の基本情報のみ)のいずれかの画面が表示される(5)仕組みとなっている。

 Google Book Searchは、出版社や著作権者の販売書籍をデジタル化するPartner Program(パートナープログラム)と、図書館の蔵書をデジタル化して提供するLibrary Project(図書館プロジェクト)の2つの計画からなる(6)。著作権法の観点から見ると、Partner Programにおいては、Googleが書籍の著作権を管理している出版社の許諾を得た上で、その書籍の全文をスキャンし、Googleのサーチ・データベースに保存することとしているため、基本的には著作権法上の問題は生じないと考えられる。一方で、Library Projectについては、著作権が存続している書籍に対して、「第1に、Googleのサーチ・データベースに書籍のフルテキストを蓄積することに関して、第2に、ユーザーの検索要求に対応して、蓄積しているテキストから数行の文章をユーザーに提示することに関して、著作権侵害問題が惹起されることになる」との指摘がある(7)。このような状況を背景に、米国内では大学出版社協会(AAUP)(8)や米国出版社協会(AAP)(9)などの出版関係団体からGoogleに対して、Library Projectの著作権侵害の問題点の指摘や、事業の中止を求める声明が出された。これを受けてGoogleは、2005年8月に、著作権保護期間内の書籍で出版社がLibrary Projectへのデータ蓄積を希望しないものについては、デジタル化を一時中止する声明を出した(10)。

 その後、米国作家協会(Authors Guild)等が2005年9月20日に(11)、AAPの会員であるMcGraw-Hill Companies、Pearson Education、Penguin Group、Simon & Schuster、John Wiley and Sonsの5つの出版社が同年10月19日に(12)、Googleを被告として、事業の差止命令などを求めてニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に訴えを提起した(13)。このうち米国作家協会等による訴えは、米国特有のクラスアクションによる訴訟(集合代表訴訟)であった。

 クラスアクションとは、共通点をもつ一定範囲の人びと(クラス)を代表して、一人または数名の者が、全員のために原告として訴えまたは被告として訴えられるとする訴訟形態で、判決の効果が訴訟に関与していない者を含め、クラスのメンバー全員に及ぶ点に特徴がある(14)。米国作家協会等による訴訟では、ミシガン大学図書館に所蔵されている書籍の著作権者のすべてをクラスの構成員としていた(11)。このようなクラスアクションは、訴訟に参加した当事者間にのみ確定判決の効果(既判力)が及ぶことを原則とするわが国の民事訴訟制度とは大きく異なる。

 作家・出版社側によるいずれの訴えにおいても、図書館所蔵資料を著作権者に無断でデジタル化してウェブ表示により提供することは、著作権侵害に当たると主張している。これに対してGoogle側はこれらの訴訟の答弁書(15)(16)や公式ブログ(17)などにおいて、Library Projectで行っているデータベース化や画面表示については著作権者の了解が不要であること、著作権者等からの申立てがあれば書籍の情報を削除していることや、Library Projectでの利用が米国著作権法第107条(17 U.S.C. Sec.107)で規定されている「フェア・ユース」に当たることなどを理由に、作家・出版社側の主張を否定した。

 その後2008年10月28日に、米国作家協会、AAP、Googleの間で、Google Book Searchによる著作権侵害訴訟の和解契約書(SETTLEMENT AGREEMENT)(18)の原案が作成され、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所によって予備承認された。このクラスアクション和解に関する情報は、和解管理者が用意したウェブサイト「Googleブック検索和解」(19)で公開・更新され、英語以外にも日本語を含めた数十か国語で提供されている。

 

3. クラスアクション和解原案の内容

 本件のクラスアクション和解契約書原案では、訴訟に実際に参加した作家、出版者等だけではなく、訴訟に関与していないクラスの構成員に当たるとされた者についても、和解からの離脱(opt out)を裁判所に表明しない限り拘束される(20)。さらに著作権侵害訴訟としての特質から、わが国や米国を含む多数の国々が加盟する著作権国際条約のベルヌ条約が大きく影響した。すなわち、加盟国の国民である作家は、他の加盟国においてもその国の国民である作家と同等の保護を受け(内国民待遇・第5条第1項)、そのような保護は加盟国での著作権登録を必要としないため(第5条第2項)、日本国内で作成・発行された出版物についても米国著作権法で保護され、米国の著作権者として、クラスの一員になる可能性があった。この点、担当裁判所による和解通知書では「米国以外の国の市民や、その国にお住まいの権利所有者の方は、(a)あなたの書籍が米国内で出版されている場合、(b)あなたの書籍が米国内で出版はされていないが、あなたの国がベルヌ条約に加盟しているために米国と著作権関係がある場合、または、(c)書籍の出版時にあなたの国が米国と著作権関係を持っていた場合は、米国の著作権を所有している可能性があります」と記載されていた(21)。

 和解原案の対象は、2009年1月5日(和解の通知開始日)以前に出版された書籍や、書籍等に含まれている「挿入物」などについて、米国著作権法上の著作権を有する、すべての著作者、出版社、それらの権利承継者(相続人など)であった。和解原案における「書籍」(Book)とは、2009年1月5日以前に、ハードコピーの形で綴じられた紙に、筆記または印刷されたもので、著作権者の了解を得て公に出版、頒布、アクセス可能なものであるが、新聞・雑誌等の定期刊行物、個人的書面、楽譜等、米国著作権法上でパブリックドメインのもの、米国政府刊行物等は、含まれないとされた。また「書籍」等に含まれるもののうち、まえがき、あとがき、エッセイ、詩、引用、手紙、歌詞、他の書籍からの抄録等のテキスト、児童図書のイラスト、楽譜、図表等については「挿入物」(Insert)として和解の対象になるが、写真、児童図書以外のイラスト、地図、絵画等の画像作品、パブリックドメインであるものは含まれないとされていた(18)。

 和解原案によって、作家、出版社などの権利者が得る利益は次のとおりであった(22)。

①Googleの電子書籍データベース定期購読の売上、書籍へのオンラインアクセスの売上、広告収入及びその他の商業利用から得られる収入の63%。

②Googleから徴収した収入を著作権所有者に配当する版権レジストリを創設および維持するため、Googleから支払われる3,450万ドル。

③Googleによる作品の利用可否、またその利用範囲を決定する、著作権所有者の権利。

④2009年5月5日以前に許可なくGoogleがデジタル化した書籍および挿入物の著作権所有者にGoogleが支払う4,500万ドル。

 以上の利益を権利者として受け取るには、本件和解に基づく申立てを2010年6月5日までに行い、版権レジストリのアカウントを作成する必要があると説明されていた(23)。

 本件和解原案が有効となった場合、Googleは和解の対象となった書籍等については、デジタル化と以下の利用が可能になるとされた。

①表示使用(Display Uses):アクセス使用、抜粋表示、プレビュー表示、前付け表示等(18)。

②非表示使用(Non-Display Uses):内容を表示しない全文検索、目録情報の表示等。

③広告使用(Advertising Uses):プレビュー、抜粋、検索結果表示等のページへの広告挿入。

④完全参加図書館による利用(Uses by Fully Participating Libraries):書籍を提供した図書館における、提供データ分の公益的利用。

⑤リサーチコーパス(Research Corpus):ホストサイト等による、言語学、自然言語処理等の研究目的利用。

 このうち、①の表示使用については、市販されていない書籍についてはGoogleが原則として無断で行える(18)ことから、市販されている書籍(Commercially Available)の意味がわが国で問題となったが、クラスアクションの原告側から、日本で商業的に刊行され米国で購入することができるものであれば市販中とみなされるとの回答があった(24)。

 

4. クラスアクション和解原案提示後の展開

 

4.1. クラスアクション和解手続の進捗状況

 クラスアクションの和解案が有効となるには、米国連邦民事訴訟規則で、裁判所は和解に拘束されることになるすべてのクラスの構成員に対する合理的な方法による告知をしなければならないと規定されている(25)。そのため、2009年1月5日から和解原案にしたがって法定通知が全世界でなされた。わが国においては同年2月下旬頃に新聞紙上等で掲載され(26)、また同時期に和解管理者から出版社等に和解通知がされたことから、話題となった。

 和解原案からの離脱表明または異議申立てなどの期限は幾度か変更され、最終的に2009年9月4日(異議申立てと意見書の提出については、2009年9月8日午前10時(27))となった。また和解案が有効となるには、裁判所で本和解案の妥当性や、これに対する意見や異議申立てを検討するための公正公聴会を開催した上で承認される必要があるが、米国司法省の指摘を受けて和解案の変更を検討していた米国作家協会、AAP側からの要請などにより公正公聴会の開催が延期された(28)。2009年11月13日に和解契約書の修正案(29)の提出や、その予備承認と補足通知書(30)の承認の申請が行われ、同月19日に予備承認された。最終的な公正公聴会は、2010年2月18日に開催されることになった(31)。

 

4.2. 国内外の関係者の動向

 本件和解原案は、わが国の作家、出版社等に大きな動揺を与え、様々な対応が見られた。関係団体のうち、作家団体の日本文藝家協会は和解原案の受入れを表明(32)した一方で、別の作家団体である日本ペンクラブ(33)、日本ビジュアル著作権協会(34)や出版社関係の出版流通対策協議会(35)、写真家団体の日本写真家協会(36)等が和解原案の拒否や離脱等の意向を示すなど、対応が分かれた。

 このような動きは諸外国でも同様であり(E973 [67]参照)、いくつかの企業や大学、権利者団体が支持を表明した一方で、アマゾン、ヤフー等の企業、大学教授、権利者団体、利用者団体などが和解原案に対して反対を表明した(37)。またLibrary Projectに参加していた図書館のうち、ハーバード大学図書館が著作権保護期間内の所蔵書籍の提供について不参加を表明した(38)。さらに、米国議会図書館著作権局(39)、フランス文化・コミュニケーション省(40)、ドイツ連邦政府法務省(41)、わが国の文化庁(42)といった著作権法を担当する政府機関からも、著作権制度、文化の多様性などへの影響に係る懸念の表明や、米国連邦議会の立法権を侵害するおそれがあるとの指摘、情報提供の要望などがなされた。さらに、米国図書館協会(ALA)等の米国の図書館団体などからも裁判所への法的助言を求められていた(43)米国司法省は、2009年9月18日に、本件クラスアクションの連邦民事訴訟規則上の改善点や反トラスト法違反の可能性等について裁判所に指摘した(44)。

 また国際機関・団体においては、欧州委員会(45)や国際図書館連盟(IFLA)(46)がGoogle Book Searchに関する意見聴取や、会議を開催した。

 

4.3. クラスアクション和解修正案の内容

 クラスアクション和解修正案(E991 [68]参照)では、原案に比べ主に20点が修正された。わが国にとって最も重要な修正点は、和解修正案において対象となる書籍が、①2009年1月5日までに出版かつ米国著作権局で登録を受けたものか、②同日までにカナダ、英国、オーストラリアで出版されたものに限られ、わが国の出版物の多くが対象外になったことである(29)(30)。

 したがってこの和解修正案が承認された場合、わが国の作家や出版関係者は、原則として本件クラスアクション和解に拘束されない。しかしLibrary Projectからわが国の出版物を除外することは表明されていないため、Googleによる日本の出版物の利用について著作権侵害訴訟がそれぞれの関係者から提起され、フェア・ユースが成立するか等について争われる可能性もあると思われる。

 また、権利者不明の“orphan works”(孤児著作物)(47)(48)を含む“unclaimed works”(権利者が名乗り出ない著作物)から得られる収益の扱いについて、和解原案では版権レジストリの運営費用や他の権利者への支払いに用いられるとされていた。これが和解修正案では、収益資金は受託者が管理し、請求が5年間ない場合には版権レジストリによる権利者探しの費用に充て、10年間ない場合には識字関係の非営利組織等に提供できることについて規定された。

 和解修正案ではこのほか、以下の点などについて修正が行われた。

①他の書籍小売業者も和解案の対象の絶版書籍をオンライン販売できるようにすること。

②版権レジストリとの関係で、Googleには他社と同等以上の条件が適用されるという「最恵国待遇」条項の削除等。

③将来的に追加できる事業モデルを、オンデマンド印刷・PDFファイルのダウンロード・消費者の購読の3種類に限定すること。

④クリエイティブコモンズ等のライセンス形態を可能にすること。

⑤各公共図書館に1台ずつとされていた無料アクセス端末の台数の増加が可能になったこと。

⑥「市販されている書籍」の定義の変更。

 

5. わが国の著作権制度の課題

 本件クラスアクション和解で提示された案には、世界中の著作権者を巻き込んで一営利企業のGoogleに独占的な地位をもたらすなど多くの問題点があるものの、Google Book Searchと同様に文献情報をデジタル・オンライン環境で利用・提供する場面での著作権制度のあり方について示唆を与えるものと考えられる。

 欧州委員会では、図書館資料のデジタル化保存や利用者への電子提供を含めた、オンライン環境での研究・科学・教育のための「知識経済」(天然資源ではなく、ノウハウや専門知識のような知的資源を利用する経済活動(49))における著作権の役割について、政策提言の文書である『知識経済における著作権』などで模索している(50)。

 またドイツでは、3万点以上の資料をデジタル化・オンライン提供するドイツデジタル図書館(DDB;E897 [69]参照)の設立を、連邦政府が2009年12月2日に閣議決定した。その際に、同館は著作権に配慮しつつ、商業目的なく、文化遺産のデジタル化という公的責任を果たすものであり、Googleに対する適切な回答であると、文化大臣がコメントした(51)。

 わが国においては、2009年に、国立国会図書館の資料デジタル化や、政府等の発信するインターネット資料の収集・アーカイブに係る著作権法の改正(52)、国立国会図書館所蔵資料のデジタル利用の仕組み等の提言を行うことを目的とした「日本書籍検索制度提言協議会」の設立(53)(54)などがなされたところであり、Googleとは異なる非営利組織が主体のデジタルアーカイブの構築に係る制度的検討が進められている。

 このようなデジタルアーカイブの事業を円滑に進めるには、資料の著作権者の個別の許諾を不要とする範囲が制度上広く求められると考えられるが、個別に列挙された事項しか著作権が制限されないわが国の著作権法においては、そのような事例はかなり限定される。この点、政府では「日本版フェアユース規定」について検討されている(E895 [70]参照)。また個別の著作権制限規定と併せて、主にデジタル図書館の利用において、著作権者による告知がなければ著作権侵害から免責する規定を置くことを指摘する見解がある(55)。今後、デジタル・ネットワーク化社会における著作権保護とデジタルアーカイブにおける合理的な利用のあり方、著作権者の利益の確保などについて、わが国でも検討する必要があると思われる(56)。

調査及び立法考査局行政法務課:鳥澤孝之(とりさわ たかゆき)

 

(1) Google. “Google ブックス beta”.
http://books.google.com/books/ [71], (参照2009-11-16).

(2) “Google Checks Out Library Books”. Google Press Center. 2004-12-14.
http://www.google.com/press/pressrel/print_library.html [72], (accessed 2009-11-16).

(3) Grant, Jen. “Judging Book Search by its cover”. Official Google Blog. 2005-11-17.
http://googleblog.blogspot.com/2005/11/judging-book-search-by-its-cover.html [73], (accessed 2009-11-16).

(4) Alaoui, Hicham. “What's in a logo?”. Inside Google Books. 2009-06-01.
http://booksearch.blogspot.com/2009/06/whats-in-logo.html [74], (accessed 2009-11-26).

(5) “Google ブック検索ページにアクセスすると、どのような画面が表示されますか”. Googleブック検索.
http://books.google.com/googlebooks/screenshots.html [75], (参照2009-11-16).

(6) “Google ブック検索について”. Googleブック検索.
http://books.google.com/intl/ja/googlebooks/about.html [76], (参照2009-11-16).

(7) 作花文雄. POINT OF VIEW Googleの検索システムをめぐる法的紛争と制度上の課題〔後編〕. コピライト. 2007, 47(556), p. 30.

(8) Young, Jeffrey R. “University-Press Group Raises Questions About Google's Library-Scanning Project”. The Chronicle of Higher Education. 2005-05-23.
http://cyberlaw.stanford.edu/attachments/GoogleLibraryProject.pdf [77], (accessed 2009-11-16).

(9) Platt, Judith. “Google Library Project Raises Serious Questions for Publishers and Authors”. The Association of American Publishers. 2005-08-12.
http://www.publishers.org/main/PressCenter/Archicves/2005_Aug/Aug_02.htm [78], (accessed 2009-11-16).

(10) Smith, Adam M. “Making books easier to find”. Official Google Blog. 2005-08-11.
http://googleblog.blogspot.com/2005/08/making-books-easier-to-find.html [79], (accessed 2009-11-16).

(11) United States District Court Southern District of New York. “05 CV 8136 : The Author’s Guild, Associational Plaintiff, Herbert Mitgang, Betty Miles and Daniel Hoffman, Individually And On Behalf Of All Others Similarly Situated, Plaintiffs, v. Google Inc., Defendant. : Class Action Complaint Jury Trial Demanded”. The Authors Guild.
http://www.authorsguild.org/advocacy/articles/settlement-resources.attachment/authors-guild-v-google/Authors%20Guild%20v%20Google%2009202005.pdf [80], (accessed 2009-11-16).

(12) United States District Court Southern District of New York. “05 CV 8881 : The McGraw-Hill Companies, Inc., Pearson Education, Inc., Penguin Group (USA) Inc., Simon & Schuster, Inc., and John Wiley & Sons, Inc. Plantiffs, v. Google Inc., Defendant. : Complaint ECF Case”. FindLaw.
http://news.findlaw.com/hdocs/docs/google/mcggoog101905cmp.pdf [81], (accessed 2009-11-16).

(13) なお、米国の裁判所制度については、以下を参照。
鳥澤孝之. 知的財産権訴訟における裁判管轄 日米の裁判所制度の比較を通じて―. レファレンス. 2009, 59(7), p. 57-59.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200907_702/070203.pdf [82], (参照 2009-11-16).

(14) 田中英夫ほか編. 英米法辞典. 東京大学出版会, 1991, 1025p.
英語文献としては、以下を参照。
Garner, Bryan et al. Black’s Law Dictionary. Ninth Edition, St. Paul, WEST, 2009, 1920p.
根拠規定は、米国連邦民事訴訟規則第23条(Fed. R. Civ. P. 23)。
“Federal Rules of Civil Procedure Rule 23. Class Actions”. Cornell University Law School.
http://www.law.cornell.edu/rules/frcp/Rule23.htm [83], (accessed 2009-11-16).
邦訳として、以下を参照。
渡辺惺之. “第23条 クラス・アクション”. アメリカ連邦民事訴訟規則 : 英和対訳. 渡辺惺之ほか編訳. 2004-05 Edition, レクシスネクシス・ジャパン, 2005, p. 69-77.

(15) United States District Court Southern District of New York. “Civil Action No. 05 CV 8136 (JES) : The Author’s Guild, Associational Plaintiff, Herbert Mitgang, Betty Miles and Daniel Hoffman, Individually And On Behalf Of All Others Similarly Situated, Plaintiffs, v. Google Inc., Defendant”. The Authors Guild.
http://www.authorsguild.org/advocacy/articles/settlement-resources.attachment/googles-answer-to-authors-guild/Google%27s%20Answer%20to%20Authors%20Guild%2011302005.pdf [84], (accessed 2009-11-16).

(16) United States District Court Southern District of New York. “Civil Action No. 05 CV 8881 (JES) : The McGraw-Hill Companies, Inc., Pearson Education, Inc., Penguin Group (USA) Inc., Simon & Schuster, Inc., and John Wiley & Sons, Inc. Plantiffs, v. Google Inc., Defendant”. The Authors Guild.
http://www.authorsguild.org/advocacy/articles/settlement-resources.attachment/googles-answer-to-publishers/Google%27s%20Answer%20to%20Publishers%2011082005.pdf [85], (accessed 2009-11-16).

(17) Wojcicki, Susan. “Google Print and the Authors Guild”. Official Google Blog. 2005-09-20.
http://googleblog.blogspot.com/2005/09/google-print-and-authors-guild.html [86], (accessed 2009-11-16).

(18) United States District Court Southern District of New York. “Case No. 05 CV 8136-JES : The Authors Guild, Inc., Association of American Publishers, Inc., et al., Plaintiffs, v. Google Inc., Defendant. : Settlement Agreement”. Google.
http://www.googlebooksettlement.com/intl/ja/Settlement-Agreement.pdf [87], (accessed 2009-11-16).

(19) “Google ブック検索和解 情報 ホーム”. Google.
http://www.googlebooksettlement.com/r/home [88], (参照2009-11-16).

(20) マーカス, リチャード L. “第7章 アメリカのクラスアクション―疫病神か救世主か”. アメリカ民事訴訟法の理論. 大村雅彦ほか編. 商事法務, 2006, p. 225-255.

(21) “通知が更新されました:オプトアウトおよび異議申し立ての新しい期日は、2009年9月4日です”. アメリカ合衆国南ニューヨーク地区連邦地方裁判所. p. 5-6.
http://www.googlebooksettlement.com/intl/ja/Final-Notice-of-Class-Action-Settlement.pdf [89], (参照2009-11-16).

(22) “通知が更新されました:オプトアウトおよび異議申し立ての新しい期日は、2009年9月4日です”. アメリカ合衆国南ニューヨーク地区連邦地方裁判所. p. 1-2.
http://www.googlebooksettlement.com/intl/ja/Final-Notice-of-Class-Action-Settlement.pdf [89], (参照2009-11-16).

(23) “Google ブック検索和解 情報 ホーム”. Google.
http://www.googlebooksettlement.com/r/home [88], (参照2009-10-30).

(24) “AG,AAPへの質問事項と回答(要旨)”. 日本書籍出版協会. 2009-06-03.
http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/google-aapag.pdf [90], (参照2009-11-16).

(25) Federal Rules of Civil Procedure. 23(e)(1).

(26) “法定通知”. 読売新聞. 2009-02-24, 朝刊, 13面.
“法定通知”. 朝日新聞. 2009-02-24, 朝刊, 12面.
“法定公告”. ニューズウィーク日本版. 2009, 24(8), p. 73.

(27) United States District Court Southern District of New York. “05 Civ. 8136 (DC) : The Authors Guild et al., Plaintiffs, -against- Google, Inc., Defendant. ORDER”. Google.
http://www.googlebooksettlement.com/05CV8136.pdf [91], (accessed 2009-11-16).

(28) “公正公聴会延期のお知らせ”. 日本書籍出版協会. 2009-09-28.
http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/kocho-enki.pdf [92], (参照2009-11-16).

(29) United States District Court Southern District of New York. “Case No. 05 CV 8136-DC : The Authors Guild, Inc., Association of American Publishers, Inc., et al., Plaintiffs, v. Google Inc., Defendant. : Amended Settlement Agreement”. Google.
http://www.googlebooksettlement.com/intl/ja/Amended-Settlement-Agreement.zip [93], (accessed 2009-11-16).

(30) United States District Court Southern District of New York. “Supplemental Notice To Authors, Publishers And Other Book Rightsholders About The Google Book Settlement”. Google.
http://www.googlebooksettlement.com/intl/ja/Supplemental-Notice.pdf [94], (accessed 2009-11-16).

(31) United States District Court Southern District of New York. “Case No. 05 CV 8136 (DC) : The Authors Guild, Inc., Association of American Publishers, Inc., et al., Plaintiffs, v. Google Inc., Defendant. : Order Granting Preliminary Approval of Amended Settlement Agreement”. Google. http://www.googlebooksettlement.com/05CV8136_20091119.pdf [95], (accessed 2009-11-26).

(32) 三田誠広. “論点 グーグルの書籍デジタル化問題を考える まず商業利用停止を”. 毎日新聞. 2009-09-25, 朝刊, 11面.

(33) “「グーグルブック検索訴訟の和解案に対する異議申し立て」について”. 日本ペンクラブ. 2009-09-10.
http://www.japanpen.or.jp/news/guide/post_197.html [96], (参照2009-11-16).

(34) “Google書籍検索DB著作権侵害特集サイト”. 日本ビジュアル著作権協会. 2009-04-30.
http://www.jvca.gr.jp/tokushu/google09.html [97], (参照2009-11-16).

(35) “「Googleブック検索和解案への反対」の意思表明 「和解からのオプトアウト宣言」通告のよびかけ”. 出版流通対策協議会. 2009-08-24.
http://homepage2.nifty.com/ryuutaikyo/top_contests.htm#090824 [98], (参照2009-11-16).

(36) “「Google・ブック検索訴訟の和解案」に対する声明”. 日本写真家協会. 2009-08-27.
http://www.jps.gr.jp/news/2009/08/post.html [99], (参照 2009-11-16).

(37) Butler, Brandon. “The Google Books Settlement: Who Is Filing And What Are They Saying?”. Association of Research Libraries.
http://www.arl.org/bm~doc/googlefilingcharts.pdf [100], (accessed 2009-11-16).

(38) Mirviss, Laura G. “Harvard-Google Online Book Deal at Risk”. The Harvard Crimson. 2008-10-30.
http://www.thecrimson.com/article/2008/10/30/harvard-google-online-book-deal-at-risk/ [101], (accessed 2009-11-16).

(39) “Competition and Commerce in Digital Books: The Proposed Google Book Settlement”. United States Copyright Office. 2009-09-10.
http://www.copyright.gov/docs/regstat091009.html [102], (accessed 2009-11-16).

(40) “La France veut garantir le respect du droit d'auteur dans le cadre du contentieux opposant Google Books aux auteurs et éditeurs américains”. Ministère de la Culture et communication. 2009-09-08.
http://www.culture.gouv.fr/mcc/Espace-Presse/Communiques/La-France-veut-garantir-le-respect-du-droit-d-auteur-dans-le-cadre-du-contentieux-opposant-Google-Books-aux-auteurs-et-editeurs-americains [103], (accessed 2009-11-16).
元フランス国立図書館長がGoogleと文化の多様性の衝突などについて論じた文献として、以下を参照。
ジャンヌネー, ジャン-ノエル. Googleとの闘い. 佐々木勉訳. 岩波書店, 2007, 166p.

(41) “Google Buchsuche – Zypries verteidigt Autoren und Verleger gegen Google vor US-Gericht”. Bundesministerium der Justiz. 2009-09-01.
http://www.bmj.bund.de/enid/0,4621516d6f6e7468092d093039093a0979656172092d0932303039093a09706d635f6964092d0936323133/Pressestelle/Pressemitteilungen_58.html [104], (accessed 2009-11-16).

(42) “報道発表 米国のグーグル・ブック検索の訴訟に関して”. 文化庁. 2009-11-09. http://www.bunka.go.jp/oshirase_other/2009/pdf/googlebook_091109.pdf [105], (参照2009-11-16).

(43) “Library groups advise DOJ on proposed Google Book Search settlement”. American Library Association. 2009-07-30.
http://www.ala.org/ala/newspresscenter/news/pressreleases2009/july2009/doj_wo.cfm [106], (accessed 2009-11-16).

(44) United States District Court Southern District of New York. “05 Civ. 8136 (DC) ECF CASE : The Authors Guild, Inc., et al., Plaintiffs, v. Google Inc., Defendant. : Statement of Interest of The United States of America Regarding Proposed Class Settlement”. The United States Department of Justice.
http://www.justice.gov/atr/cases/f250100/250180.pdf [107], (accessed 2009-11-16).

(45) “"It is time for Europe to turn over a new e-leaf on digital books and copyright". Joint Statement of EU Commissioners Reding and McCreevy on the occasion of this week's Google Books meetings in Brussels”. EUROPA. 2009-09-07.
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/376 [108], (accessed 2009-11-16).

(46) “IFLA discusses the proposed Google Book Settlement”. American Library Association. 2009-09-08.
http://wo.ala.org/gbs/2009/09/08/460/ [109], (accessed 2009-11-16).

(47) 米国における孤独著作物問題の検討状況については、以下を参照。
Peters, Marybeth. “Orphan Works The Importance of Orphan Works Legislation”. United States Copyright Office. 2008-09-25.
http://www.copyright.gov/orphan/ [110], (accessed 2009-11-26).

(48) 英国議会に提出され、孤児著作物を使用可能とする方策などが含まれる“Digital Economy Bill”(デジタル経済法案)に関する英国図書館長のコメントとして下記を参照。
“British Library welcomes orphan works commitments”. British Library. 2009-11-23.
http://www.bl.uk/news/2009/pressrelease20091123a.html [111], (accessed 2009-11-26).

(49) Commission of The European Communities. Green Paper on Copyright in the Knowledge Economy. 2008, COM(2008) 466, p. 3.
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2008:0466:FIN:EN:PDF [112], (accessed 2009-11-26).

(50) Commission of The European Communities. Communication From The Commission : Copyright in the Knowledge Economy. 2009, COM(2009) 532 final, 10p.
http://ec.europa.eu/internal_market/copyright/docs/copyright-infso/20091019_532_en.pdf [113], (accessed 2009-11-16).

(51) “Kultur per Mausklick”. Die Bundesregierung. 2009-12-02.
http://www.bundesregierung.de/nn_1264/Content/DE/Artikel/2009/12/2009-12-02-kultur-per-mausklick.html [114], (accessed 2009-12-07).

(52) 鳥澤孝之. デジタルアーカイブズと著作権―現状と課題. 専門図書館. 2009, 237, p. 48-49.

(53) “日本書籍検索制度提言協議会の設立について”. 国立国会図書館. 2009-11-05.
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2009/1188240_1393.html [115], (参照 2009-11-16).

(54) 日本書籍検索制度提言協議会. 日本書籍検索制度. 出版ニュース. 2009, 2193, p. 19-20.

(55) 潮海久雄. サーチエンジンにおける著作権侵害主体・フェアユースの法理の変容 -noticeおよびGoogle Book Search Projectにおけるopt-out制度を中心に. 筑波法政. 2009, 46, p. 21-57.

(56) なお、平成21年の著作権法改正により可能となった国立国会図書館による所蔵資料のデジタル保存の場面と、そのデジタル資料を公衆のために有効活用する場面とでは、著作権者の利害状況が大きく異なることを指摘したものとして、以下を参照。
伊藤真. 講演録 グーグルブックサーチ和解の現状とそこに見る著作権問題. コピライト. 2009, 49(584), p. 15-16.

 

Ref :

Manuel, Kate M. “The Google Library Project: Is Digitization for Purposes of Online Indexing Fair Use Under Copyright Law?”. CRS Report for Congress. 2009, R40194, 12p.
http://www.ipmall.info/hosted_resources/crs/R40194_090706.pdf [116], (accessed 2009-11-16).

“Google Book Settlement  An informational site for the library community”. American Library Association.
http://wo.ala.org/gbs/ [117], (accessed 2009-11-16).

村上浩介. “第3章 社会的な論点と図書館 5.1 Googleの動向 ~Scholar,Book Searchを中心に~”. 米国の図書館事情2007 : 2006年度国立国会図書館調査研究報告書(図書館研究シリーズ No.40). 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本図書館協会, 2008, p. 338-344.
http://current.ndl.go.jp/node/14422 [118], (参照 2009-11-16).

松田政行ほか. Google Book Searchクラスアクション和解の実務的検討(上). NBL. 2009, 905, p. 7-27.

松田政行ほか. Google Book Searchクラスアクション和解の実務的検討(下). NBL. 2009, 906, p. 88-98.

松田政行ほか. Google Books問題の最新動向および新和解案に関する解説(上). NBL. 2009, 918, p. 38-48.

 


鳥澤孝之. Google Book Searchクラスアクション(集合代表訴訟)和解の動向とわが国の著作権制度の課題. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1702, p. 12-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1702 [119]

  • 参照(22835)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
デジタル化 [16]
著作権 [121]
日本 [17]
米国 [53]
Google [122]

CA1703 - 研究文献レビュー:情報リテラシー教育:図書館・図書館情報学を取り巻く研究動向 / 野末俊比古

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1703

研究文献レビュー

 

情報リテラシー教育:図書館・図書館情報学を取り巻く研究動向

 

1. はじめに

 「研究文献レビュー」は、図書館情報学における特定テーマについて、最近数年間の研究文献(国内の図書館情報学雑誌・図書等)をレビューするものである。今回は、「情報リテラシー教育」をテーマとして、この作業に臨むこととなった。

 対象となる文献を決めるにあたっては、「何をもって『研究』文献とみなすか」「何をもって『図書館情報学』の文献とみなすか」という判断をしなければならないが、これがなかなか難しい。前者については、情報リテラシー教育をめぐっては実践事例に基づく研究が多く存在するが、単なる事実経過の「紹介」と分析・考察を加えた「研究」との境界は必ずしも明確ではない。そこで、「研究」の範囲については、まずは「広め」に設定することにした。

 後者については、情報リテラシー教育は、図書館情報学だけでなく、教育学をはじめとする関連分野でも取り上げられるテーマであり、図書館情報学以外の分野で研究成果を発表する図書館情報学の研究者(図書館員などを含む)もいる。そもそも情報リテラシー教育は、他分野との連携・協力によって研究の展開が期待されるテーマであるともいえる。図書館情報学における研究が進展していくためには、他の分野における情報リテラシー教育をめぐる研究動向を見据えておくことは有効であると思われる。そこで、「図書館情報学」の範囲については、ひとまず「限定しない」ことにした。

 以上のことから、今回は、情報リテラシーという「言葉」に注目して文献を選択することにした。すなわち、タイトル(書名・論題)に「情報リテラシー」含む図書(報告書などを含む)と雑誌論文(報告記事などを含む)を対象とした。具体的には、NDL-OPACの「書誌 一般検索」(一般資料の検索)と「雑誌記事索引検索」で検索した結果を用いた。こうして収集した文献を概観することによって、図書館情報学のみならず、その周囲を含めた情報リテラシー教育をめぐる研究動向を把握することをめざす。

 なお、対象となる文献は、2008年以降に発行されたものとした。情報リテラシー教育については、すでに2008年6月発行の本誌において、米澤によってレビューがなされているためである(CA1668 [124]参照)。米澤は、「学習・教育基盤としての図書館」というテーマのもとに情報リテラシー教育を位置づけ、秀逸なレビューを展開している。さらに遡れば、筆者が2003年にまとめたレビューもある(CA1514 [125]参照)。同稿は、直接には「利用者教育」をテーマとしているが、サブタイトルにもあるとおり、情報リテラシー教育を中心に扱っている。

 

2. 「情報リテラシー」をタイトルにした図書

 まずは、図書について見ていく。NDL-OPAC「書誌 一般検索」でヒットした2008年以降の「和図書」は、30点であった。翻訳書と報告書各1点を除くと、研究書や学術書などと呼べるものは見あたらず、テキストブックとして書かれものがすべてを占めていた。研究成果を記述したものは、研究会の報告書1点のみといってよい(1)。

 研究文献のレビューという趣旨からは外れてしまうが、これらテキストの状況についてあえて記しておきたい。ほぼすべてが、いわゆるコンピュータリテラシー(情報倫理などを含む)を扱った、大学(短大などを含む高等教育)における利用を想定して書かれたテキストであり、「図書館(あるいはコンピュータ以外のメディア)」にはまったく、またはほとんど触れていない(2)。

 もちろん、タイトルに「情報リテラシー」を含んでいない図書において、情報リテラシー教育に関する研究成果が盛り込まれている場合があることは承知しているが、あえて乱暴に表現するならば、学問的な基盤を充分に持たないまま、(おそらく「経験」に基づいて)教育内容が組まれた「情報リテラシー(という名のコンピュータリテラシ-)」のテキストが続々と発行されているとも考えられる。曲がった見方かもしれないが、「『コンピュータ』リテラシー」が「『情報』リテラシー」と呼び替えられていき、「『コンピュータ』さえ使えば『情報』を活用することになる」という誤った認識が大学教育の場で拡がっていくことが危惧される。「最新バージョンのオフィスソフトの操作法」を覚えること(だけ)が情報リテラシーではない(少なくとも中核ではない)はずである。

 なお、大学生一般ではなく、分野に特化した情報リテラシーを謳ったテキストが登場していることは、注目すべき点であろう(3)。分野ごとに求められる情報リテラシーはさまざまであるはずである(例えば看護師として必要な情報リテラシーと弁護士に必要なそれとは違いがあるであろう)。情報リテラシーは、そもそもそうした性格の概念でもある。ただし、今回、確認したテキストの内容は、もっぱらコンピュータが中心であり、必ずしも分野ごとの特徴を反映したものとはなっておらず、分野を限定しない(大学生一般を対象とした)テキストと差異がほとんどないことは、付記しておかねばならない。

 

3. 「情報リテラシー」をタイトルにした雑誌論文

 次に、雑誌論文について見ていく。NDL-OPAC「雑誌記事索引検索」において、2008年以降、タイトル(論題)に「情報リテラシー」を含む論文は、73点に上る(研究会における発表論文なども含む)。文献紹介や翻訳など4点を除き、ひとつひとつ確認していくと、すぐに気づくのは、大学(短大などを含む高等教育)における情報リテラシー教育について述べたものがほとんどを占めているということである。各大学の紀要に掲載されたものが多く、とりわけ初年次生を対象とした、いわゆる情報リテラシー科目を担当している教員が、自らの実践に基づいて執筆したものが目立つ。専門分野は、図書館情報学に限らず、多岐にわたる。

 これらの論文のうち、残念ながらと言うべきか、「図書館」に関係するもの(図書館情報学分野のもの)は「少数派」であり、「図書館」への言及がない、またはほとんどないものが「多数派」である。前者については4. および5. で取り上げることとし、ここでは、やはり本来の趣旨からは少々ずれるかもしれないが、後者においてどのような研究がなされているのかについて概観してみたい。

 既述のとおり、大学の情報リテラシー科目に関するものが目立つので、それらから見ていこう。いわゆる(一般)教養教育としての情報リテラシー教育についての論文である。「導入教育」を含め(4)、「初年次教育」という観点から論じたものも挙げられることとなる。短大での実践に関するものもここで取り上げることにする(5)。

 まず、教育(授業)の方法に焦点を当てたものが少なくない。多様な方法が検討されていることがわかる。例えば、授業が集団(大人数)を対象としていることから生じる種々の課題について対応策が提案・試行されている(6)(7)。BBS(電子掲示板)を用いるなど(8)、いわゆるICTを活用したものも目を引く。ICTの活用という点では、eラーニングによる試みも進展している(9)。なお、情報リテラシーを応用・適用する教室環境などについて考察しているものもある(10)(11)。

 教育方法としては、学習者(学生)の「心理面」に着目した取り組みにも注目しておきたい。例えば、身近な話題を取り入れて興味を抱かせようとしたり(12)、資格取得を動機づけにしようとしたり(13)、といった工夫である。なお、コミュニケーション能力を情報リテラシーの一部ととらえ、ディベートを行うなど、コンピュータ以外の側面に目を向けた論考もある(14)。

 一方、教育(授業)内容について考察しているものもある。学生に対して、「ケータイ」を中心とするメディア(情報)環境に関するアンケートを実施・分析したり(15)、インターネットをめぐる技術動向などを分析したりすることによって(16)、情報リテラシーとして何が必要かを検討したものなどがある。なかには、ウェブサイトにおける「リンク設定の通知」についてどう教えるかという見解を述べたものなどもあり(17)、さまざまな立場・視点から論じられていることがわかる。

 情報リテラシーを測定・分析しているものもある(18)(19)。2006年度以降、高校で教科「情報」を履修してきた学生が入学してきていることから、教科「情報」と関連づけて情報リテラシーの実態を調査したものも目立つ(20)(21)(22)(23)。もちろん、授業の成果を検証する意味で習得・獲得の状況を調査し、授業改善などに活かそうとするものもある(24)(25)(26)。学習者がもともと持っている能力差をどうするか、という点に注目しているものなどもあり(27)、現実的な課題を重視していることがうかがえる。eラーニング(対面型と遠隔型を併用するブレンディッドラーニング)における情報リテラシーの影響を検討している調査では、学習者の特性・経験との関連なども論じられており(28)、興味深いデータが提供されている。

 さて、(一般)教養教育だけではなく、専門教育における情報リテラシー教育について検討したものも、もちろん見られる(29)。各大学の教育内容を調査し、比較検討した論考もある。教員養成系学部を対象としているが(専門教育だけでなく、教養教育の科目も含まれている)、「依然として多数の大学でマイクロソフトの操作を主な内容とする情報リテラシの授業が必修で行われて」おり、「授業担当教員は、依然として専門が情報とかけ離れた者が数多く見受けられる」という結論は、調査方法には留意しなければならないとしても、一定の重みのあるものであろう(30)。なお、eラーニングの導入は、専門教育においても進んでいる(31)。

 ところで、小・中学校や高校(初等中等教育)に関するものは、小学校での実践事例を報告したものや(32)(33)、いわゆる「ケータイリテラシー」についてアンケートを実施・分析したものなど(34)、数少ない。初等中等教育では、「情報リテラシー」ではなく「情報活用能力」などの用語が使われる傾向にあることなどが理由であると思われる。情報リテラシーという言葉のもとでは、後に挙げるとおり、数のうえでは図書館情報学分野の文献が上回っている。

 

4.「図書館情報学」における研究の動向

 それでは、「情報リテラシー」をタイトルにした論文のうち、図書館情報学分野のもの(「図書館」に言及しているもの)について見ていこう。ただし、以降では、図書館情報学における学術的・専門的な雑誌に掲載された投稿論文(それに準じた形式・分量の依頼記事・論文を含む)を対象として、タイトル(論題)から(だけ)でなく、内容的に見て情報リテラシー教育について論じているものを渉猟したうえで、そのなかから選択的に取り上げた論文も加えていくことにしたい。いわば「研究」と「図書館情報学」を狭くとらえたときの文献も加えたわけである。研究の「拡がり」とともに「深まり」も見ていくためである。なお、追加した文献も、基本的には2008年以降のものを対象としているが、適宜、さらに2年程度まで遡ったものも含めている。

 ところで、情報リテラシー教育をめぐっては、しばしば雑誌に「特集」が組まれている。

  • 特集 情報リテラシー.情報の科学と技術.2009, 59(7).
  • 特集 図書館利用教育.短期大学図書館研究.2008, (28).
  • 特集 大学図書館と図書館利用教育.図書館雑誌.2008, 102(11).

少し遡ると、次のようなものもある。

  • 特集 情報リテラシーの育成と図書館サービス. 現代の図書館.2007, 45(4).

図書館情報学(図書館)において、情報リテラシー教育は、特に図書館利用教育との関わりにおいて、依然として注目されているテーマであるといえよう。まずこのことを確認しておきたい。

 では、具体的にはどのような研究が展開されているのだろうか。以下では、三つの流れにまとめて整理してみることにしたい。

 第一は、理論的な研究の流れである。ここでは「理論」を広義に用いており、動向分析や論点整理なども含めている。

 この流れに位置づけられる研究としてまず挙げるべきは、瀬戸口による論考であろう(35)。瀬戸口は、基盤となっている定義・モデルをアプローチと呼ぶこととしたうえで、情報リテラシー教育のアプローチについて、スキル志向と利用者志向の二者に分けて整理・比較している。筆者の理解に基づいておおまかにいえば、スキル志向アプローチが、いわば「教育者」側が教育目標などを設定するものであるのに対し、利用者志向アプローチは、利用者の置かれた状況や場面などに対応しようというものである。両者の利点を活かせるように有機的に結びつけていく必要があるという指摘は、極めて重要な示唆を含むと考えられる。

 なお、瀬戸口は、同稿に先行して、情報リテラシー教育をめぐるアプローチについて、関係論を中心に詳細な分析を行なっている(36)。(狭い意味での)理論研究が乏しいとも言われるわが国において、こうした研究の積み重ねは評価されるべきものであろう。

 大城は、英語圏諸国における研究・政策・実践などの動向を整理している(37)(38)。米国を中心とする英語圏諸国から多くの知見・示唆を得ているわが国の図書館情報学であるが、情報リテラシー教育も例外ではない。大城の論考は、自身の見解も交えつつ、わが国への適用を意識しながら述べており(39)、理論的な動向を押さえるのに有用であろう。

 情報リテラシー教育をどのような枠組みに位置づけるか、という点も理論的な検討を必要とするところであろう。まず、大学図書館について、いくつかの論考を挙げていこう。

 慈道は、初年次教育としての情報リテラシー教育における図書館の役割について検討している(40)。わが国の大学において初年次教育としての情報リテラシー教育が定着しつつあるなか、図書館が積極的な役割を果たそうという実践も拡がってきている。こうした動きに伴って、理論的な裏づけを固めていくことは大いに意味があると考える。

 いわゆるラーニングコモンズに象徴されるとおり、大学図書館の学習・教育支援機能が近年、注目されているが、米澤は、ラーニングコモンズの本質が図書館を情報リテラシー教育・オープン教育の基盤施設と位置づけるところにあるとしている(41)。筆者の認識では、情報リテラシー教育やラーニングコモンズなどは、図書館が本来、持っている(広義の)教育的な機能を具体化したものである。「ブーム」に終わらせないためにも、米澤の主張に続くような理論をさらに蓄積していく必要があろう。長澤によるケーススタディをはじめ(42)、海外を含めた動向の把握・分析の意義も(43)(44)、もちろん小さくない。

 学校図書館については、いわば総論的な論考が挙げられる。行政の動向などを踏まえて情報リテラシー教育における図書館の役割を検討したものや(45)、情報リテラシー教育と読書指導との関連について考察したものなどがある(46)。

 第二の流れは、情報リテラシー教育のプログラム(あるいはカリキュラム)について、いわば体系化をめざす研究とでも呼ぶべきものである。学校図書館をめぐっては、例えば、PISA型読解力を育成するという目標において、実践事例を紹介しつつ、プログラム(指導体系表)の提案を行なっているものがある(47)(48)。小学校6学年にわたる実践に基づいて課題などを整理・検討したものもある(49)。

 大学図書館をめぐっては、主題や分野を絞った考察が目を引く。岡田は、「法情報リテラシー」の指導体系(内容・方法)について論じている(50)。法学部生に限らず、教養課程の学生を対象としている。堀内らは、情報リテラシー教育の内容をいくつかの「ステップ」に分けて体系的に指導する取り組みについて、アンケートなどによる検証・分析とともに報告している(51)(52)。「スポーツ学部」のカリキュラムに位置づけようとする試みであるが、授業(教員)と図書館(員)の連携・協力に関する事例としても興味深い。

 なお、体系化にあたっては、情報リテラシー教育を計画から評価までの、いわゆるマネジメントサイクルのなかでとらえることも重要である。実践の指針となるような手順などの整理を行なっていくことも必要であろう(53)。

 第三の流れは、具体的な教育(指導)の方法に関するものである。情報リテラシー教育においては、さまざまなツールを用いた、いわば間接的な指導方法(対面以外の方法)も取り入れられている。実際のツール開発に基づく論文も増えている。慶應義塾大学におけるオンラインチュートリアルの試みはよく知られているが(54)、長期にわたる地道な取り組みに基づく成果のひとつであることは忘れてはならないであろう(55)。千葉大学におけるパスファインダやポッドキャストを用いる取り組みは(56)(57)、必ずしも情報リテラシー教育という文脈を意図しているわけではないが(むしろ教員との連携という文脈を前面に出している)、ここで挙げておきたい。ほかにも、図書館の案内ビデオなど(58)、いわゆる広報という文脈で作成・利用されるツールもあるが、情報リテラシー教育が「印象づけ」や「サービス案内」までを目標とするものであるならば、研究課題として積極的に取り上げられるべきであろう。

 なお、データベースベンダーが直接、利用者に対してインターネット経由で「情報リテラシー教育」を行なっているという報告がなされている(59)。これに対しては、情報リテラシー教育における図書館(員)の役割について再考する機会として(その意味では第一の流れの点からも)とらえておきたい。

 もちろん、対面による直接的な指導方法も重要である。集合形式(集団対象)の講習会や授業による取り組みについては、変わらず多くの実践報告や事例紹介がなされているが(60)(61)(62)(63)、それ以外の形式にも注目しておきたい。諏訪は、レファレンスサービスにおける個別対応の機会を情報リテラシー教育に組み入れることについて検討している(64)。第二の流れとして触れた体系化とも関連して注目すべき視点であろう。なお、椎名の論考は、海外事例を紹介・分析したものであるが、チュータ育成という試みも、この流れに位置づけてとらえることで示唆を与えてくれるものとなろう(65)。

 なお、情報リテラシー教育(図書館利用教育)については、全国的な実態調査がしばしば実施されている(66)。全体的・数量的な実態の把握・分析も、もちろん必要かつ重要である。

 

5. 今後における研究の方向性

 引き続き、図書館情報学における論文を取り上げていく。ここでは、今後、特に注力していくべき論点に沿って整理してみたい。筆者の私見に基づいて三点だけ挙げる。決してこれ以外の論点が重要でないというわけではない。

 情報リテラシー教育、特に実際の指導に図書館員が関わる場合、いかなる能力が必要であり、その開発(養成・研修を含む)をどのようにするのか、という問題が生じる。長澤の論考は、米国の大学の事例をもとにこの問題に取り組んだものであるが(67)、わが国に対するヒントを提供している。河西は、学校図書館における専門職モデルの構築をめざした議論を展開している(68)。こうした研究が、研修などの実践ともあいまって(69)、さらに発展することが期待される。

 評価をいかに行うかも大切な論点である。戸田らは、アウトカム評価について検討するなかで、情報リテラシー(教育)の評価にも触れている(70)。評価をめぐる本格的な研究は(も)、緒についたばかりであり、今後の展開が待たれる。

 情報リテラシー教育の「主役」である利用者(学習者)をどのように理解するかという点も、言うまでもなく重要である。例えば、中島のような実践に即した考察も有意義である(71)。いわゆる利用者研究は、従来、必ずしも情報リテラシー教育への応用を意識したものではなかったが、学習者のニーズやスタイルの把握などは、情報リテラシー教育にとって不可欠なものとすらいえよう。近年、興味深い論考がいくつか発表されているが(72)、今後、「情報利用」をめぐる利用者の行動について、それに伴う思考(認知)や心理(感情)とあわせて、さらなる考究が求められるだろうことを、4. の冒頭に挙げた瀬戸口の指摘を改めて想起しつつ、ここで強調しておきたい。

 

6. おわりに

 2. や3. で見たように、情報リテラシー(教育)は、図書館情報学以外の分野では、図書館とは「無関係」のものとして語られている。情報リテラシー(教育)とは、コンピュータに関わる能力(とその育成)であると考えられている。関連分野の状況として認識しておくべきであろう。(それらの研究の成果や手法などには、図書館情報学にも一定の示唆を与えるものが含まれていることも理解しておくべきであろう。)

 こうした状況が何を意味しているのかについては、図書館情報学として考えていくべきであろう。ここでは、自戒も込めて次の点を指摘しておきたい。すなわち、少なくとも情報リテラシー教育をめぐる研究に関して、図書館情報学(研究者)は、研究の推進や成果の発信にあたって、図書館情報学の「外」に「出向いていく」必要があるのではないだろうか(もちろん「出向いてもらう」ことも必要であろう)。教育工学の研究会で学校図書館に関するセッションが設けられるなど(73)、期待できる兆候がいくつも見られることは歓迎すべきであろう。ただし、図書館情報学における地道な研究(図書館における個々の実践)の積み重ねがあってこそ(74)、「出向いていく」意味があることは忘れてはならないであろう。

 蛇足かもしれないが、「ヘルスリテラシー(健康情報リテラシー)」など、分野ごとの情報リテラシー教育(研究)が図書館情報学以外のところで展開されつつある(75)。これに対して、図書館情報学はどう関わるのか、つまりどのように「出向いていく」べきなのか。ここでは酒井の論考を挙げておくに留めるが(76)、補足として指摘しておく。

 本稿では、あえて館種の区分を優先しないで(しばしば混在させて)述べてきた。館種(区分)を超えて情報リテラシー教育を論じることに意義があると考えているためである。そのために整理がきれいにいかなかったところがあるが、お許し願いたい。なお、館種ごとに見ると、公共図書館・専門図書館に関する文献はほとんどない(77)。これらの館種において情報リテラシー教育が不要であるはずはなく、その研究が不要であるはずでもない(「情報リテラシー教育」という用語を使うかどうかは別にしても)。本稿がかなり短い期間の文献のみを対象としていることも考慮すべきであるが、なぜ研究が(少)ないのかについての分析には取り組むべきではないだろうか。

 レビューとして不充分なところについては、筆者の力量不足を素直に認めるものである。今後の課題と受け止めていることを記して、本稿のむすびとしたい。(文中におけるNDL-OPACの検索結果は、2009年11月12日に最終確認をした。)

青山学院大学:野末俊比古(のずえ としひこ)

 

(1) 私立大学図書館協会東地区部会研究部情報リテラシー教育研究分科. 情報リテラシー教育研究分科会報告書 第3号. 2008, 96p.

(2) 例外として、次のものがある。
毛利和弘. 文献調査法 : 調査・レポート・論文作成必携 : 情報リテラシー読本. 第3版, 日本図書館協会, 2008, 235p.

(3) 例えば、次のものなど。
山本孝一. 幼児教育をめざす人の情報リテラシー. 2009年度版, 三恵社, 2009, 114p.
樺澤一之ほか. 医療・福祉系のための情報リテラシー. 共立出版, 2009, 254p.

(4) 瀧本誓ほか. 情報リテラシーとしての導入教育の試み. 道都大学紀要 経営学部. 2008, (7), p. 15-33.

(5) 西川篤志. 短期大学における情報リテラシー教育の実践. 千葉経済大学短期大学部研究紀要. 2008, (4), p. 103-107.

(6) 岡田大士. 情報リテラシー教育におけるピア・サポートの取り組み : 立命館大学の13年間の活動から. Informatics. 2008, 2(1), p. 47-54.

(7) 竹内純人ほか. 数千人規模の大学生を対象とした情報リテラシ教育への取り組みとその評価 : 青山学院大学における情報リテラシ教育への取り組みについて. 電子情報通信学会技術研究報告. 2008, 108(210), p. 17-22.

(8) 笠見直子. BBSを用いてピアレビューとフィードバックを強化した情報リテラシー教育. 論文誌IT活用教育方法研究. 2008, 11(1), p. 36-40.

(9) 田所耕哉. 模擬問題形式のe-ラーニングプログラムを活用した情報リテラシー向上のための取り組み. 中村学園大学・中村学園大学短期大学部研究紀要. 2008, (40), p. 137-145.
田所耕哉. 情報リテラシー向上のための模擬問題形式のe-ラーニングプログラムの試験導入と導入結果. 中村学園大学・中村学園大学短期大学部研究紀要. 2009, (41), p. 209-216.
いずれも「資格試験(模擬問題)」を取り入れるという工夫を行なっている。

(10) 柏木将宏ほか. 情報リテラシー応用としてのインターネットTV放送. 教育システム情報学会研究報告. 2009, 23(6), p. 46-49.

(11) 早坂成人ほか. 教室間連携システムの有効性評価 : 情報リテラシー教育を基にして. コンピュータ&エデュケーション. 2009, (26), p. 48-51.

(12) 簗瀬洋一郎. 学生に身近なテーマを取り入れた情報リテラシーの実践とその効果. 中京学院大学研究紀要. 2008, 15(1・2), p. 99-104.

(13) 米田里香ほか. 資格取得を動機づけに利用した大学生に対する情報リテラシー教育の効果(2). 神戸海星女子学院大学研究紀要. 2008, (47), p. 121-133.
前掲(9)も参照。

(14) 花田経子. コミュニケーション能力の改善を目的とした情報リテラシー教育に関する考察. 情報科学研究. 2008, (29), p. 51-65.
キャリア教育という文脈が強く影響していると考えられる。

(15) 別宮玲. 日本のネット文化が求める情報リテラシーの方向性. 戸板女子短期大学研究年報. 2008, (51), p. 51-60.

(16) 江口真理. 短期大学における「情報リテラシー教育」. 青森明の星短期大学研究紀要. 2008, (34), p. 55-68.

(17) 瀬川清. リンク設定通知要求についての一考察 : 情報リテラシーの一課題として. 上武大学経営情報学部紀要. 2008, (31), p. 37-43.

(18) 西川友子ほか. 情報リテラシー教育における学生特性の実態. 新潟経営大学紀要. 2008, (14), p. 93-104.

(19) 都留信行. 大学生の情報リテラシー能力に関する実態調査. 成城大学経済研究. 2008, (180), p. 119-140.

(20) 篠政行. 普通教科「情報」の履修と情報リテラシに関する平成20年度入学生のアンケート調査結果について. 駒沢女子短期大学研究紀要. 2009, (42), p. 49-56.

(21) 小池俊隆ほか. 大学新入生のコンピュータリテラシ,情報リテラシについて : 龍谷大学経営学部新入生の場合. 龍谷大学経営学論集. 2009, 48(4), p. 1-11.

(22) 梶浦文夫. 大学における今後の情報リテラシー教育(2). 倉敷芸術科学大学紀要. 2008, (13), p. 79-86.

(23) 森幹彦ほか. 教科「情報」の履修状況と情報リテラシに関する平成20年度新入生アンケートの結果について. 情報処理学会研究報告. 2008, 72, p. 67-72.

(24) 丹羽量久ほか. 教養科目「情報」における学生の情報リテラシー獲得履歴について. 教育システム情報学会研究報告. 2009, 23(6), p. 168-171.

(25) 木本雅也ほか. 鳥取大学新入生における全学共通科目・情報リテラシの履修効果. 日本教育工学会研究報告集. 2009, 09(1), p. 353-358.

(26) 西本実苗ほか. 情報リテラシー科目カリキュラムのための学生アンケート分析. 電子情報通信学会技術研究報告. 2008, 108(210), p. 11-16.

(27) 松山智恵子ほか. 初心者が混在するクラスにおける情報リテラシー科目の習得と進捗について. 椙山女学園大学研究論集 自然科学篇. 2008, (39), p. 171-184.

(28) 中山実ほか. e-Learningの学習行動と学習者の情報リテラシーとの関連. 電子情報通信学会技術研究報告. 2008, 108(247), p. 45-50.

(29) 大場久照ほか. 放射線技術科学専攻学部生の情報リテラシーに関する調査研究. 日本放射線技術学会雑誌. 2009, 65(1), p. 35-40.
小貫睦巳ほか. 理学療法学生の情報リテラシーの実態調査 : e-learningは理学療法教育に何を与えるか. 理学療法科学. 2008, 23(3), p. 425-430.
上田尚一. 情報リテラシイをめざす統計教育 統計. 2008, 59(1), p. 19-24.
田中洋. パソコン要約筆記実践による情報リテラシー教育の効果. 仁愛女子短期大学研究紀要. 2008, (40), p. 59-64.
栢木紀哉ほか. 情報リテラシー教育におけるコンピュータ利用の活性化を促す授業モデル. 科学教育研究. 2008, 32(2), p. 111-120.
なお、初年次の教養科目と位置づけられている取り組みも含まれる。田中によるものは福祉教育、栢木らによるものは看護教育の文脈に位置づけられていると考えられる。

(30) 山本広志. 教員養成系学部における「情報リテラシ教育」の現状. 山形大学紀要 教育科学. 2008, 14(3), p. 261-270.

(31) 細田泰子ほか. 看護教育におけるeラーニング導入前後の学習活動状況の検討 : 看護大学生の自己学習活動,学習活動への支援ニーズ,情報リテラシーに焦点を当てて. 大阪府立大学看護学部紀要. 2008, 14(1), p. 33-43.

(32) 黒田勉ほか. 小学校中学年での情報リテラシー教育の実践について. 教育システム情報学会研究報告. 2009, 23(5), p. 12-15.

(33) 鈴木悟志. 学びの段階をふまえた「言語力」の育成 : 情報リテラシーとしての写真の学習. 言語技術教育. 2008, (17), p. 86-91.

(34) 尾木直樹ほか. 中・高生の情報リテラシーと思春期. 教育と医学. 2009, 57(11), p. 1074-1080.

(35) 瀬戸口誠. 情報リテラシー教育とは何か : そのアプローチと実践について. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 316-321.

(36) 瀬戸口誠. 情報リテラシー教育における関係論的アプローチの意義と限界 : Christine S. Bruceの理論を中心に. Library and Information Science. 2006, (56), p. 1-21.

(37) 大城善盛. オーストラリアの大学図書館における情報リテラシーの研究 : 理論と実践の歴史的分析を通して. 花園大学文学部研究紀要. 2009, (41), p. 35-62.

(38) 大城善盛. 大学図書館界を中心とした情報リテラシー論 : アメリカ,オーストラリア,イギリスにおける議論を中心に. 大学図書館研究. 2008, (82), p. 23-32.

(39) 次の文献では、主としてわが国について論じている。
大城善盛. 情報リテラシーと図書館サービス. 現代の図書館. 2007, 45(4), p. 183-189.

(40) 慈道佐代子. 一年次教育における図書館の役割 : 図書館が参加・実施する情報リテラシー教育を考える. 大学図書館研究. 2008, (82), p. 12-22.

(41) 米澤誠. ラーニング・コモンズの本質 : ICT時代における情報リテラシー/オープン教育を実現する基盤施設としての図書館. 名古屋大学附属図書館研究年報. 2008, (7), p. 35-45.

(42) 長澤多代. アーラム・カレッジの図書館が実施する学習・教育支援に関するケース・スタディ. Library and Information Science. 2007, (57), p. 33-50.

(43) 小圷守. 情報リテラシーとラーニング・コモンズ : 日米大学図書館における学習支援. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 328-333.

(44) 魚住英子. “第3章 社会的な論点と図書館  3.2大学図書館が教育・リテラシーに果たす役割 : 情報リテラシー教育とインフォメーション・コモンズ”. 米国の図書館事情2007 : 2006年度国立国会図書館調査研究報告書 (図書館研究シリーズNo.40). 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本図書館協会, 2008, p. 322-325.

(45) 後藤敏行. 学校図書館と情報リテラシー. 家政経済学論叢. 2009, (45), p. 31-44.

(46) 野口久美子. 情報リテラシー育成における読書指導の位置づけ : 両者の関連性に関する一考察. 図書館綜合研究. 2009, (8), p. 21-32.

(47) 杉本洋. PISA型読解力の向上を目ざす学校図書館(6) : 情報リテラシー教育を通して育成するPISA型「読解力」(1). 学校図書館. 2008, (695), p. 53-56.

(48) 杉本洋. PISA型読解力の向上を目ざす学校図書館(7) : 情報リテラシー教育を通して育成するPISA型「読解力」(2). 学校図書館. 2008, (696), p. 67-70.

(49) 中山美由紀ほか. 学校図書館における情報リテラシー育成の意義と課題 : 東京学芸大学附属小金井小学校における図書館利用指導の実践を通して. 日本教育工学会研究報告集. 2008, 08(4), p. 1-8.

(50) 岡田孝子. 大学教養課程の学生に法情報リテラシーを教える. 大学図書館研究. 2008, (83), p. 42-53.
岡田には、先行して次の論考もある。
岡田孝子. 法学情報教育における情報リテラシー概念の必要性. 大学図書館研究. 2006, (76), p. 62-73.

(51) 堀内担志ほか. 図書館情報(リテラシー)教育におけるスポーツ学部学生の利用に伴う動向について. 九州共立大学スポーツ学部研究紀要. 2008, (2), p. 1-6.

(52) 堀内担志ほか. 図書館情報(リテラシー)教育におけるスポーツ学部学生の利用に伴う動向について(その2) : 利用に伴う学習傾向について. 九州共立大学スポーツ学部研究紀要. 2009, (3), p. 29-33.

(53) 野末俊比古. 情報リテラシー教育における図書館員の役割 : NII研修プログラムの背景にあるもの.短期大学図書館研究. 2008, (28), p. 23-32.

(54) 大橋史子. 大学生の変化に伴う情報リテラシー教育プログラムの変遷. MediaNet. 2007, (14), p. 39-41.

(55) 上岡真紀子ほか. 図書館員による情報リテラシー教育~現在・過去・未来. 現代の図書館. 2007, 45(4), p. 226-233.

(56) 鈴木宏子ほか. 図書館による学習支援と教員の連携 : 千葉大学におけるパスファインダー作成の実践から. 大学図書館研究. 2008, (83), p. 23-33.

(57) 鈴木宏子ほか. 千葉大学におけるポッドキャストによる教育研究成果の発信 : 教員連携の実践例として. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 12-22.

(58) 岡部幸祐ほか. 図書館プロモーションビデオ「週5図書館生活,どうですか?」の企画と制作 : 利用案内ビデオから学生志向のプロモーションビデオへ. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 1-11.

(59) 矢田俊文. エンドユーザの情報リテラシー教育 : インターネットを使った研修. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 341-347.

(60) 畠田康平. 北海学園大学附属図書館における情報リテラシー支援について : 2007年度「図書館利用ガイダンス」を中心に. 北の文庫. 2008, (48), p. 12-16.

(61) 辰野直子. 教養教育における情報リテラシー講習会の試み. 医学図書館. 2009, 56(2), p. 141-144.

(62) 江上敏哲. アメリカの大学図書館における情報リテラシー教育活動 : ハーバード大学等の事例から. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 334-340.

(63) 毛利和弘. 情報リテラシー教育の実践事例と指導上の留意点. 短期大学図書館研究. 2008, (28), p. 37-43.

(64) 諏訪敏幸. 情報リテラシー教育はレファレンス・ワークをどのようにその一構成部分とするか : 看護系院生・学生等を対象とした大阪大学生命科学図書館の経験から. 大学図書館研究. 2006, (78), p. 65-75.

(65) 椎名ちか子. アメリカの大学図書館における教育活動 : オハイオ州立大学図書館“Peer Library Tutors”プログラムを中心に. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 42-52.

(66) 日本図書館協会図書館利用教育委員会. わが国大学図書館における利用教育の実態 : 『日本の図書館2003』付帯調査の結果報告. 現代の図書館. 2008, 46(1), p. 62-70.
調査の実施時期はやや古い。新しいものとしては、例えば次がある。
筑波大学編. 今後の「大学像」の在り方に関する調査研究(図書館)報告書 : 教育と情報の基盤としての図書館. 2007, 157p.
http://www.kc.tsukuba.ac.jp/div-comm/pdf/future-library.pdf [126], (参照 2009-11-12).

(67) 長澤多代. 情報リテラシー教育を担当する図書館員に求められる専門能力の一考察 : 米国のウエイン州立大学の図書館情報学プログラムが開講する「図書館員のための教育方法論」の例をもとに. 大学図書館研究. 2007, (80), p. 79-91.

(68) 河西由美子. 情報リテラシーを育成する専門職としての学校図書館専門職モデルの構築. 日本教育工学会研究報告集. 2008, 08(4), p. 9-14.

(69) 小陳左和子. NII「学術情報リテラシー教育担当者研修」の取り組み. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 348-352.
前掲(53)も参照。

(70) 戸田あきらほか. 学生の図書館利用と学習成果 : 大学図書館におけるアウトカム評価に関する研究. 日本図書館情報学会誌. 2007, 53(1), p. 17-34.

(71) 中島玲子. ユーザ理解のために : 学部生情報検索授業の現場から. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 322-327.

(72) 例えば、次のものなど。
種市淳子ほか. エンドユーザーのWeb探索行動 : 短期大学生の実験調査にもとづく情報評価モデルの構築. Library and Information Science. 2006, (55), p. 1-23.
粟村倫久. 情報遭遇に関する利用者行動モデルの再検討 : ウェブ上の情報遭遇に対する調査. Library and Information Science. 2006, (55), p. 47-69.

(73) 前掲(49)、(68)は、日本教育工学会の研究会におけるセッションでの発表論文である。

(74) 例えば、次のものなど。
小圷守ほか. レファレンスサービスと情報リテラシー教育 : 国公私立大学図書館の取り組み事例. 私立大学図書館協会会報. 2008, (130), p. 116-127.
内堀勇二ほか. 情報リテラシー教育業務マニュアル骨子の整備化 : 図書館員が主体となって企画・運営する情報検索ガイダンス. 私立大学図書館協会会報. 2008, (130), p. 128-132.
京谷正博ほか. 北海道地区研究分科会2006~2007年度研究概要報告 : 札幌学院大学図書館における情報リテラシーガイダンスの実施について. 私立大学図書館協会会報. 2008, (130), p. 185-190.

(75) 中山健夫. 子どもたちのための健康情報リテラシー. 子どもの健康科学. 2008, 9(1), p. 65-70.

(76) 酒井由紀子. ヘルスリテラシー研究と図書館情報学分野の関与 : 一般市民向け健康医学情報サービスの基盤として. Library and Information Science. 2008, (59), p. 117-146.

(77) 公共図書館については、例えば、次の論考がある。
高田淳子. 公共図書館における情報リテラシー教育の現状. 現代の図書館. 2007, 45(4), p. 205-212.
小林隆志ほか. 図書館の活用法を伝授します!!~鳥取県立図書館の実践から : 図書館は公務員・教職員の情報リテラシー向上に寄与できるか?. 現代の図書館. 2007, 45(4), p. 198-204.

 


野末俊比古. 情報リテラシー教育:図書館・図書館情報学を取り巻く研究動向. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1703, p. 18-24.
http://current.ndl.go.jp/ca1703 [127]

  • 参照(22668)
カレントアウェアネス [13]
研究文献レビュー [128]
情報リテラシー [129]
日本 [17]

No.301 (CA1691-CA1696) 2009.09.20

  • 参照(17485)

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CA1691 - 学術情報プラットフォームとしてのCiNii / 大向一輝

  • 参照(35492)

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カレントアウェアネス
No.301 2009年9月20日

 

CA1691

 

学術情報プラットフォームとしてのCiNii

 

1. はじめに

 国立情報学研究所(以下、NII)が運営する論文情報ナビゲータCiNii(サイニィ)は、サービス開始から5年目を迎えた2009年4月に新しいシステムの導入を行った(図1)。

 筆者が携わった今回のシステム導入では、学術情報プラットフォームとしてのCiNiiの立脚点を明確にし、それに沿ったCiNiiの再設計・開発を行った。本稿では、システム導入の概要について述べるとともに、その背景にある学術情報流通プラットフォームの考え方について概説する。

図1 CiNiiのスクリーンショット

図1 CiNiiのスクリーンショット

2. CiNiiの概要

 CiNiiは学術論文を対象とした国内最大級の情報サービスである。NIIが電子化している約300万件の学協会誌・大学研究紀要だけでなく、国立国会図書館の雑誌記事索引、科学技術振興機構のJ-STAGE、Journal@rchive、ならびに各大学・研究機関で構築が進む機関リポジトリと連携し、計1,200万以上の書誌データを検索することができる。また、NIIが構築している引用文献索引データベースに基づき、論文の引用・被引用関係を表示することができる。

 CiNiiは2005年4月から提供されており、現在は5年目に入ったところである。この間に、学術情報サービスは「ウェブ2.0」という言葉に代表される情報環境の激変に直面することになった。ユーザ層が格段に広がり、専門家・学生に対するサービスだけでなく、一般ユーザにも目を向けた情報流通の基盤としての機能が求められるようになった。

 こういった流れを受けて、CiNiiでは2006年12月から2007年4月にかけて大幅なリニューアルを行った。このリニューアルでは、契約機関に所属している研究者・学生のみにアクセス権限が与えられていた書誌情報を原則一般公開し、GoogleあるいはGoogle Scholarといった外部の検索エンジンから検索可能とした。リニューアルの結果、利用率を示す各種指標(検索回数・書誌情報表示回数等)において、3〜10倍程度の大幅な増加が記録されるとともに、多数の一般ユーザの流入が確認された。このリニューアルの目的や内容に関する詳細、経過は拙論文に詳しい(1)。参考にされたい。

 

3. 学術情報プラットフォームのために

 

3.1 課題

 前述のリニューアルは大きな成果を上げたものの、一方で新たな課題を浮かび上がらせることにもなった。

ここでは主な課題として3点を挙げる。

・パフォーマンス

 アクセス数の急激な増加はCiNiiのシステム全体に極めて重大な影響を与えた。2005年4月のサービス開始時、さらに遡れば設計時の想定をはるかに上回る数のアクセスを処理しなければならず、結果としてスローダウンやシステム停止といった事象が頻発した。こういった事象には可及的速やかに対応しなければならないが、システムの特性によっては改修に多大な時間・コストを必要とする場合があることから、どのような方法が適切かを見極めるのは難しい。

・ユーザビリティ

 外部の検索エンジンとの連携によって、新たなユーザがCiNiiを訪れる機会が増加した。そのうちの多くは専門家ではない一般ユーザであると思われる。これら一般ユーザにとって、専門家向けに設計された検索インターフェイスや書誌詳細表示画面はなじみのあるものではない。その結果、論文情報を有効活用しないままCiNiiから立ち去るという例が多く見られた。専門家と一般ユーザが学術情報サービスに望むものは大きく異なるものと予想されるが、両者が一定の満足度を得られるユーザビリティを実現することは急務である。

・オープン化

 前2点とは異なり、目の前にある課題ではないものの、多くのウェブサービスで取り入れられつつあるオープン化の動きをどのように取り入れるかはCiNiiの将来を考える上で重要な問題である。ここでのオープン化とは、情報を単純に一般公開することではなく、機械処理されることを念頭に置いた構造化データの配信・配布を意味する。

 これら3点の課題は、CiNiiが学術情報プラットフォームとして機能するかどうかの試金石であるといえる。

 自らがプラットフォームと名乗れるようになるためには、多数のアクセスにも耐えられる設計であること、あらゆるユーザに開かれた使いやすいシステムであること、また他のサービスがプログラムを通じて一部の機能を組み込めるようにすること、の3点は必要条件であると言って差し支えない。また機械処理を許可するためには、大量のアクセスを高速に処理し、意図しない遅延やダウンが発生しないような設計が求められる。

 

3.2 設計

 新システムでは、上記の3点の課題を解決し、CiNiiが学術情報プラットフォームとして機能することを最優先事項として設計・開発を行った。

 まず、パフォーマンスについては、旧システムの機能分析を行い、データを作成するためのバックエンドシステムと作成されたデータに基づくサービスを行うためのフロントエンドシステムを完全に切り離し、フロントエンドシステムの性能向上に特化することとした。その上で、ごく少数の大型計算機で処理を行うスケールアップ・アーキテクチャを廃し、小型のサーバを必要に応じて追加することでパフォーマンスを向上させることができるスケールアウト・アーキテクチャを採用した。これによって、数年後の利用予測に左右されず必要最小限のコンパクトなシステムを構築できる状況を整えた。

 次に、ユーザビリティについては、設計の最初期段階からユーザビリティの専門家と協力し、ユーザが体験する画面遷移のモデル作成と個別のページの詳細なデザインを行った。この過程では筆者をはじめとするNII担当者をユーザと見立てた徹底的なユーザ中心設計が行われた。また、これらの作業は一般的なシステム構築で必要となる機能面での要件定義とは完全に切り離した状態で行い、ユーザビリティ設計の成果物としての画面遷移図ならびにデザインをそのままシステム構築のための仕様とすることで、ユーザビリティが重要な要素であることを関係者に知らしめる効果があった。

 オープン化への対応では、CiNiiの主要な機能である検索機能と書誌詳細表示機能について、機械処理が可能なように構造化されたデータを入手できるように設計した。検索機能についてはデファクトスタンダードであるOpenSearchに準拠し、検索結果一覧のリストをRSS 1.0形式ないしAtom 1.0形式で入手することができる。また、書誌詳細表示機能では、RDF(Resource Description Framework)に則った書誌データの表現を行っている。いずれも書誌データならではの属性を表現するためにDublin CoreやPRISM(Publishing Requirements for Industry Standard Metadata)(2)といった標準規格団体が提供する語彙を使用している。これらは、データを活用する側である開発者の負担を可能な限り小さくしたいと考えているからである。また、OpenSearchの返戻形式の一方であるRSS 1.0と書誌で用いられるRDFはデータ記述方法が統一されており、また相互にリンク付けされているため、機械処理によって検索から論文の発見、著者名や所属名の抽出までが容易に行える。これは、機械処理によってウェブ上のデータを知的に活用するセマンティックウェブの理想像に近い。

 検索のOpenSearchならびに書誌RDFは、コンピュータからのリクエストを受け付け、それに適したデータを返戻するという意味でウェブAPIの一種であるといえる。筆者らは、CiNiiにおいてパフォーマンス強化の施策を行ったことをふまえて、このウェブAPIを広く普及させ、開発者コミュニティの育成を行いたいと考えている。その先鞭をつける試みとして、2009年6月から9月にかけてCiNiiウェブAPIコンテストを開催し、これらのウェブAPIを利用したアプリケーションを募集している(3)。

 

4. 成果と今後

 2009年7月現在、新システムの導入から約4か月が経過しているが、その効果は非常に大きい。前回のリニューアル後の2007年4月から2009年6月までの月間の検索回数ならびに月間の本文PDFファイルダウンロード回数を図2に示す。導入直後の4月において検索回数は前年同期比1.8倍、本文PDFダウンロード回数は2倍程度の伸びが見られる。また、これらの数値は過去のすべての期間における最高値であり、5月・6月と月を追うごとにさらに増加している。

 アクセス増加の要因にはさまざまなものが考えられるが、システムの高速化とユーザビリティの向上によって、ユーザがCiNiiの中で何度も試行錯誤しながら検索しているのではないかと推測される。また、本文PDFファイルダウンロードも順調に増加していることから、最終的には満足のいく検索結果が得られていることがわかる。今後はウェブAPI経由のアクセスが増えると予想される。機械的なアクセスを制御することは難しいが、開発者と協力しながら互いにとって実りのある関係を築けるよう、システムの監視やチューニングを継続的に行っていく所存である。

図2 リニューアル後の利用回数の推移

図2 リニューアル後の利用回数の推移

5. おわりに

 筆者らは学術情報プラットフォームの実現を目指して、論文情報ナビゲータCiNiiの再設計、開発を行ってきた。現段階ではパフォーマンス等に問題はなく、頑健なプラットフォームを作ることができたのではないかと自負している。今後はウェブAPIを通じて外部の開発者との連携を強化し、新たなアイデアを常に取り入れられる体制を構築する予定である。また、研究と事業を1つの組織で行っているNIIの特徴を生かし、研究成果を積極的に学術情報プラットフォームに取り入れていくことを目指す。

国立情報学研究所:大向一輝(おおむかい いっき)

 

(1) 大向一輝. 学術情報サービスのユーザモデルとファインダビリティ. 情報の科学と技術. 2008, 58(12), p. 595-601.

(2) “PRISM”. IDEAlliance.
http://www.idealliance.org/industry_resources/intelligent_content_informed_workflow/prism [132], (accessed 2009-08-10).

(3) “CiNii ウェブAPIコンテスト 実施要項”. CiNii.
http://ci.nii.ac.jp/info/ja/web_api_contest_2009.html [133], (参照 2009-08-10).

 


大向一輝. 学術情報プラットフォームとしてのCiNii. カレントアウェアネス. 2009, (301), CA1691, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1691 [134]

カレントアウェアネス [13]
情報検索 [135]
学術情報 [51]
日本 [17]
NII(国立情報学研究所) [136]

CA1692 - ニューヨーク・タイムズ紙が報ずる「読むことの将来」 / 影浦 峡

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カレントアウェアネス
No.301 2009年9月20日

 

CA1692

 

ニューヨーク・タイムズ紙が報ずる「読むことの将来」

 

1. はじめに

 ニューヨーク・タイムズ紙は、2008年7月から2009年2月にかけて、電子メディアをめぐる三つの記事を、シリーズ「読むことの将来」(The Future of Reading)として掲載した。「リテラシー論争:オンラインって、本当に読んでいるの?」(“Literacy Debate: Online, R U Really Reading?” 2008年7月27日)(1)、「読者を釣るおとりとしてのテレビゲーム」(“Using Video Games as Bait to Hook Readers” 2008年10月5日)(2)、「ウェブ時代、図書館業務も更新」(“In Web Age, Library Job Gets Update” 2009年2月15日)(3)である。今後もシリーズは続くかもしれないが、現段階(2009年6月末時点)でこれらの記事を紹介しよう。

 

2. 各記事の概要

 第一の記事「リテラシー論争」は、本を読むこととネットで読むことを対比する(「読むこと」に属さないゲームとテレビに言及しつつ「読むこと」の場を定めている)。読まないよりは少なくとも読んだ方がよい、ネット上での読みは新たなリテラシーとして必要になる、持続的・集中的な読書力は本でしか培われない等々、両者の重要性に関する主張が併置され、また、ネットの読みは本とは別のかたちで脳の回路と認知の様式を変えるがどのように変わるかまではわかっていないこと、読書障害を持つ子どもにとってネット上の読みは楽であること、等の知見と事例が紹介される。記事はネットでの読みをリテラシーのテストに含めるかどうかをめぐる議論の紹介で締めくくられる(2009年、OECDは電子的な読みのテストを導入するが、米国はそれには参加しないという)。

 第二の記事「読者を釣るおとりとしてのテレビゲーム」は、第一記事で読むことに属さないとされたテレビゲームと本との著者によるタイアップ事例(内容の関連付け)から始まり、タイアップが著者、教師、図書館員、出版社などで試行/指向されていること、それに対する賛否両論が紹介される。読み手が本とゲームに求めているものは同じである、ゲームは感情的にも知的にも本ほどの複雑さを持ち得ない等、両者の等価性をめぐる議論がそれに続き、次いで、十代を対象にしたゲーム・トーナメントを図書館が主催する事例が紹介される(場を介した両者の関連付け)。記事では、ゲームは不要な要素を排除して仕事に集中する訓練によい、そうしたスキルは場面を変えたとき適用できない、ゲームの参加感覚は学習効率を改善するといった研究結果も紹介される。

 第三記事「ウェブ時代、図書館業務も更新」では「情報リテラシー教師」という新たなタイプの学校図書館員ロザリア(Stephanie Rosalia)氏の実践が取り上げられる。ロザリア氏は、ネット上の情報リテラシー、パワーポイントの使い方や論理的なまとめ方といった新たな情報実践を進めつつ、本を調べること、読むことも重視し、毎週末の開館時には本だけを扱う。母語の異なる多様な生徒を対象にした活動が紹介されたのち、記事はロザリア氏の「とにかく読む必要はある」という言葉で締めくくられる。

 

3. 議論の照準

 明示されてはいないが、記事を通して、「読むこと」は功利的/機能的に捉えられている(それゆえ、第一記事と第二記事のモチーフは記事の展開につれて「読むこと」一般から「情報操作/リテラシー」へと移行し、第三記事では「とにかく読む必要はある」というスローガン的引用で締めくくられる)。その上で、全記事を通して確認されていることは、(1)ネットやゲームの吸引力は概ね本よりも強いこと、(2)ネットで読むことが有効かどうか、本とどう違うかについて諸論はあるが、決定的な結論ではないこと、(3)ゲームと読むことのタイアップなどについても同様であること、という極めて無難な現状である。全体として、功利的/機能的な「読むこと」をめぐっては、それなりに目配りが効いた記事となっていると言えるが、米国でかなり広まってきた電子ブックは取り上げられていない(今後の記事で扱われるかもしれない。なお、電子ブックの動向については、TeleRead(4)からの記事が、筆者影浦も開発にかかわってきた「みんなの翻訳」サイトで継続的に紹介されている(5))。個人的に最も興味深かったのは、読書障害を抱える子どもに電子メディアはやさしい場合があるという点である。Google SketchUp が自閉症の子どもたちのコミュニケーションを開く可能性があることが少し前に報道されていた(6)が、技術がリテラシーのバリアフリーに向けた新たな道を拓く可能性が示唆されていることは極めて重要である。

 

4. 欠落

 一方、メディア論と読書論の現状に照らして、記事には二つの欠落がある。第一に、既往のメディアをめぐる考察がまったくないこと。第三記事で、意図的に誤った情報を掲載しているサイトを通してウェブが必ずしも信頼できないことを学ぶ実践として、コロンブスが携帯を使っている例が挙げられているが、ポストコロニアル理論を一応経たはずの現在、先住民虐殺の先鞭を切ったコロンブスを、あまたあるであろう事例の中から挙げるニューヨーク・タイムズ紙自身を検討する実践例は当然扱われないし、既往メディアがウェブ同様多くの誤りを含んでいることも議論の対象にはならない(例えばニューヨーク・タイムズ紙を含む西洋メディアの多くはインドネシアによる不法占領時代を通して東ティモールをインドネシアの一部であるかのように報道してきた(7)(8))。どうやら、「人間の解剖は猿の解剖には役立」たないらしい。

 メディア論的な欠落とちょうど対応するかのように、「読むこと」とはどのような出来事なのかについても、記事では考察されない。例えば、第一記事では、ネットでの読みの利点を強調する文脈で(のみ)「400ページの本を読むためには長い時間がかかる」という言葉が引用されるが、それなりに多様な意見を配置しているはずの記事中のどこにも、「長い時間がかかる」ことこそが楽しみであり価値であるという視点はない(私たちはここで「古びないのはあの天候であって、アミエルの哲学ではないはずなのに」(9)という、バルトの言葉を思い浮かべるだろう)。功利的・機能的視点の全体化の中で、「テクストの快楽」がもたらされるのはゆっくりと身を任せることによってのみであること、そして本や映画、ネットなどのそれぞれに固有の質感があること(読書障害の例は本質的にはここに関わるのではなかったか)が忘却されるならば、議論は、タイ料理と日本料理とシリア料理とフランス料理を味や心地よさからではなく栄養の観点からのみ比べるようなものにならざるを得ない。当然、そうした議論も必要だが、それは、今、強く求められている議論のごく一部でしかない。

 

5. 終わりに

 三記事は、既往メディアを前提とし、功利主義的に「読むこと」を規定した上ではそれなりにバランスが取れ、興味深い個別情報も紹介されている。ただ、ネット上にはもっと面白い記事と情報がたくさんある。その意味で、この三記事は、その内容においてよりもその存在においていっそう、「何を読むか」の観点から見た読書の将来を示している――もはやニューヨーク・タイムズ紙を読む時代は終わった。それでもあえて、メタ・メディア論的視点を持って読むとき、重要な問いが立ち上がる。そもそも「読むこと」とは何であったのか、既往メディアとはどのようなものだったのか。三記事はいずれもネットで読めるので、ぜひ読んでいただきたい。

東京大学:影浦 峡(かげうら きょう)

(1) Rich, Motoko. The Future of Reading: Literacy Debate: Online, R U Really Reading?. New York Times. 2008-07-27, A14-15,
http://www.nytimes.com/2008/07/27/books/27reading.html [138], (accessed 2009-07-28).

(2) Rich, Motoko. The Future of Reading: Using Video Games as Bait to Hook Readers. New York Times. 2008-10-06, A19,
http://www.nytimes.com/2008/10/06/books/06games.html [139], (accessed 2009-07-28).

(3) Rich, Motoko. The Future of Reading: In Web Age, Library Job Gets Update. New York Times. 2009-02-16, A14,
http://www.nytimes.com/2009/02/16/books/16libr.html [140], (accessed 2009-07-28).

(4) TeleRead: Bring the E-Books Home.
http://www.teleread.org/ [141], (参照 2009-07-28).

(5) みんなの翻訳. http://trans-aid.jp/ [142], (参照 2009-07-28).

(6) “自閉症の子供たちがGoogle SketchUpを使って考えを視覚的に表示することから、新たな視覚言語が作られる / キャロライン・マレー”. みんなの翻訳.
http://trans-aid.jp/viewer/?id=3918&lang=ja [143], (参照 2009-07-28).

(7) Chomsky, Noam. “Manufacturing Consent 5 of 9”.
http://www.youtube.com/watch?v=AnZQgrmCP84 [144], (accessed 2009-08-03).

(8) Hermann, Edward S. “Good and bad genocide: Double standards in coverage of Suharto and Pol Pot”.
http://www.thirdworldtraveler.com/Terrorism/GoodBadGenocide.html [145], (accessed 2009-08-03).

(9) バルト, ロラン. テクストの快楽. 沢崎浩平訳. 東京, みすず書房, 1977, p. 101.

 


影浦 峡. ニューヨーク・タイムズ紙が報ずる「読むことの将来」. カレントアウェアネス. 2009, (301), CA1692, p. 5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1692 [146]

  • 参照(21263)
カレントアウェアネス [13]
読書 [147]
電子情報 [148]
新聞 [149]
米国 [53]

CA1693 - 動向レビュー:オープンアクセスは被引用数を増加させるのか? / 三根慎二

PDFファイルはこちら [150]

カレントアウェアネス
No.301 2009年9月20日

 

CA1693

動向レビュー

 

オープンアクセスは被引用数を増加させるのか?

 

1. オープンアクセス効果は神話か

 オープンアクセス(以下、OA)を支持・推進する論拠の一つとして、「OA論文は非OA論文よりも頻繁に引用される」というものがある。つまり、インターネットに接続可能であれば誰でも読むことができる論文は、オンライン上に無いあるいは契約上読むことができない論文よりも頻繁に読まれ引用される、という主張である(ここでは、これを「オープンアクセス効果(以下、OA効果)」と呼ぶことにする)。分野に関わらず研究者が電子ジャーナル(以下、EJ)で学術雑誌論文を入手するようになったこと(1)、EJの閲読可能性は所属機関の図書館の契約状況に依存しかつ機関間格差があることを考慮すれば、この主張は一見理にかなっているように思われる。

 2001年にローレンス(Steve Lawrence)(2)によって初めてのこのテーマに関する論文が発表されて以来、現在までに多くの調査研究が行われ、文献リスト(3)やレビュー論文(4)も執筆されている(CA1559 [151]、CA1684 [152]参照)。表は、これまでに行われた代表的調査をまとめたものだが、これらの調査結果は、OA効果の有無をめぐって一種の論争を生み出している(5)。OA効果が確かなものであり、自ら執筆した論文が多くの人に読まれることを研究者が望んでいるとすれば、論文をOAにすることはその要望を実現する望ましい手段として推奨される。たとえば、ハーナッド(Stevan Harnad)はこの立場の代表的人物である。一方で、デイビス(Philip M. Davis)のように、より厳密な調査方法をとればOA効果は認められないとする立場のものもいる。現時点でもOA効果の有無について結論は出ていないが、ここではOA効果論争を網羅的に扱うのではなく、より最近の動向かつ中心的問題に焦点を絞り、いくつかの代表的な調査に言及しながらこの論争を整理したい。

表 オープンアクセス効果に関する先行研究 [153]

表 オープンアクセス効果に関する先行研究

 

2. 相関関係か因果関係か

 OA効果論争の最大の争点は、「オープンアクセス」が原因で「論文の被引用数の増加」が結果、という因果関係が本当に成立しているかということだと思われる。ローレンスらの初期の調査は、OA論文と非OA論文それぞれの被引用数を算出しその比率はOA論文の方が高いと指摘しているが、見いだしているのはあくまでOAと論文の被引用数との相関関係であり、因果関係までをも示すものではない。論文の被引用に影響を与えうる多数の要因があることを考慮すれば、OAと被引用数だけを見ていてもOA効果を主張することには無理がある。

 

2.1 調査方法上の問題

 こうした多様性を過度に単純化せず整理したのが、カーツ(Michael J. Kurtz)らである(11)。カーツらは、OA効果の要因を、1)オープンアクセス仮説(Open access)、2)早期アクセス仮説(Early access)、3)自己選別仮説(Self-selection)の、非排他的な3要因に区別している。オープンアクセス仮説は、論文へのアクセスに制限がないためより容易に読むことができ従ってより頻繁に引用されること、早期アクセス仮説は、論文が公式に刊行される前にプレプリントサーバ等で公表されるためその分引用されうる機会が増えること、自己選別仮説は、著名な研究者が論文をOAにするあるいはより重要な論文ほどOAにすることをそれぞれ意味している。カーツらによって示されたこの3要因は、以後の研究の枠組みを方向付けた重要なものである。

 2005年に発表されたカーツらの研究以前のものが、調査方法上ある意味素朴なものであったのに対し、それ以後の調査研究はOA以外の要因を考慮するとともに多変量解析など、より統計的に頑健な手法によって、OA効果の有無を検証しているところに大きな特徴がある。その代表例として、アイゼンバッハ(Gunther Eysenbach)(12)、ムード(Frank Moed)(16)、デイビス(17)の調査があり、以下では各調査を簡単に紹介する。

 

2.2 交絡因子

 医療情報学の研究者であるアイゼンバッハの調査は、疫学という方法論に基づき、交絡因子を考慮した研究デザインに最大の特徴がある。交絡因子とは、「原因および結果の両者と関連しているもの」(22)を指す。彼は、これまでのOA効果調査は、セルフアーカイブされたあるいはWeb上に無料公開されている論文を対象としており、調査上の問題点として、a)要因と結果を同時に観察する横断研究であること、b)早期アクセスなど他の要因を考慮していないこと、c)交絡因子の調整を考慮していないので誤った結果を導いている可能性があること、を指摘している。そこでアイゼンバッハは、ハイブリッド型OAジャーナルである米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文を対象に前向きのコホート研究(論文をOAと非OAに分けた後に、将来生じる被引用数を追跡すること)を行った。彼は、著者および論文に関する変数(著者の所属機関の国、論文発表件数、著者の1論文あたりの平均被引用数、論文の公開経過日数、主題領域、共著者数など)といった交絡因子を調整して、OAの方が将来の被引用数が多くなるという仮説の検証を行った。その結果、既知の交絡因子を調整してもOAが被引用数の多さに有意に影響を与えていることを示した(ただし、他の要因も同様であり、OAが主要な要因であるかまでは示されていない)。

 

2.3 ビブリオメトリックス

 引用分析で著名なムードの調査は、ハーナッドらの調査手法に基づいているものの、カーツらの3要因をビブリオメトリックスの手法によって分析しているところに特徴がある。クレイグ(Iain D. Craig)らは、ムードの調査は被引用数の計測期間を固定した初めての調査であると指摘している(4)。つまり、たとえば調査時点で10年前の論文と1年前の論文では、前者の被引用数が多くなる可能性は高いわけであり、刊行年に関わらず同じ条件の下で被引用数を計測している。

 調査では、物性物理学の学術雑誌に掲載された論文を対象に、プレプリントサーバarXivに登録された論文と登録されていない論文を比較している。結果として、arXivに登録された論文は登録されていない論文よりも被引用数が多かったが、それは論文がOAになっているためではなく、OA論文が早期に公開されていること・より引用される論文を執筆している著者が多いためであると述べている。

 

2.4 ランダム化比較試験

 デイビスの調査の最大の特徴は、ランダム化比較試験(RCT)を行っていることである。RCTとは、医学分野でよく用いられる方法で「対象患者を無作為に2分に割りつけて、2つの治療法の効果を比較する方法」(22)であり、たとえば、新しい薬が、従来の薬と比較して優れているのか調べる際などに用いられる。ここでは、治療法がOAで、対象患者は論文である。デイビスは、先行研究では(過去にさかのぼって調査する)「後ろ向き観察研究の手法をとっているため、自己選別のバイアスを排除できていない」として、研究の結果が真実を反映している可能性が最も高い(22)RCTを行った。具体的には、米国生理学会の協力を得て、同学会が刊行しウェブサイトでEJとして提供している雑誌に掲載された論文がOAになるかどうかを無作為に割り当て、その後のOA論文と非OA論文のダウンロード数と被引用数の差を比較している。結果として、刊行1年後において、OAは論文のダウンロード数に統計的に有意な差をもたらしているものの、被引用数には有意差は見られないことが指摘されている(同時に、セルフアーカイブされた論文も(つまり、自己選別仮説)、被引用数に有意差がない)。

 ただし、RCTというエビデンスレベルの高い調査手法を用いているデイビスの調査に対して、研究結果を発表するのが早すぎたのではないかという調査手法上の問題と倫理的な問題が指摘されている(23)。たとえば、アイゼンバッハは、RCTの対象となった論文が発表されてから1年後(より正確には9-12か月後)に被引用数を計測することは、対象論文(A)が別の論文(B)に引用され、その論文(B)がWeb of Scienceに索引される期間を考えると時期尚早で、4年計画にも関わらず1年目にネガティブな結果をなぜ公表したのかと指摘している。指摘に対して、デイビスはさらに6か月後の分析結果でも有意差はないことを報告しているが、今後も継続して調査をすると述べている。

 

3. オープンアクセスは何をもたらしたのか

 これまで述べてきた論点を図にまとめた。この図から、OAと被引用数との間には、考慮しなければならない多数の要因が複雑に関係していることは明らかで、論文がOAであるかどうかと被引用数だけを見ていてはもはや不十分である。たとえば、エヴァンス(James A. Evans)は、OAは北半球の先進国よりも南半球の途上国の著者の引用行動に影響を与えていることを指摘している(21)。これは利用者の予約購読状況を反映した結果であると考えられるが、利用者のログ分析と組み合わせた調査研究はまだ見られない。ほかにも、被引用数の計測について、代表的なツールであるWeb of Scienceによる被引用数の計測は、収録対象外の学術雑誌における引用までを捉えられない問題もある。ランシン(Van C. Lansingh)らは,Web of Scienceではなく、ScopusとGoogle Scholarを利用して被引用数を計測している(20)。

図 オープンアクセス効果に関わる諸要因 [154]

図 オープンアクセス効果に関わる諸要因

 現時点で言えるのは、OA論文はより頻繁にダウンロードされ引用されることもあるが、被引用数に関してはOAはその原因であると言い切れない、ということであろう。つまりOA論文の持つ無料でアクセスできること以外の要因が被引用数に影響を与えている可能性があるということである。

 この10年弱で20前後の調査研究が行われていることを考慮しても、現在までに発表されている調査結果からは、学問分野間の違いや調査方法の不統一により、OAは論文の被引用数を高めるという主張の一般化は困難であると考えられる。論文の入手経路は、学術情報流通の電子化が進むにつれて多様な手段が開発されており、調査研究ごとに条件の統一が困難になってしまう。今後このテーマの研究を行う場合、より厳密な研究デザインを設計することを前提に分野ごとに調査を行う必要があるだろう。ハーナッド(24)、アイゼンバッハ(25)、デイビスは現在も調査を継続あるいは新しい調査を実施しており、それらの結果が公表されることが待たれる。日本でも、日本化学会(26)のOAオプション(Open Access Option)利用論文を対象とした事例や日本動物学会(27)の機関リポジトリ登録論文を対象とした事例の調査が行われており、その結果が期待されるところである。

名古屋大学:三根慎二(みね しんじ)

謝辞:慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室の道川武紘先生からは,疫学関連の表現について大変有益なコメントを頂きました。御礼申し上げます。

 

(1) 学術図書館研究委員会. “学術情報の取得動向と電子ジャーナルの利用度に関する調査(電子ジャーナル等の利用動向調査2007)”.
http://www.screal.org/apache2-default/Publications/SCREAL_REPORT_jpn8.pdf [155], (参照 2009-07-21).

(2) Lawrence, Steve. Free online availability substantially increases a paper's impact. Nature. 2001, 411(6837), p. 521.

(3) “The effect of open access and downloads ('hits') on citation impact: a bibliography of studies”. The Open Citation Project.
http://opcit.eprints.org/oacitation-biblio.html [156], (accessed 2009-07-21).

(4) Craig, Iain D. et al. Do Open Access Articles Have Greater Citation Impact?: A critical review of the literature. Journal of Informetrics. 2007, 1(3), p. 239-248.

(5) De Bellis, Nicola. “8.2.1 Citation and Open Access”. Bibliometrics and Citation Analysis: From the Science Citation Index to Cybermetrics. Scarecrow Press. 2009, p. 291-300.

(6) Anderson, Kent et al. Publishing Online-Only Peer-Reviewed Biomedical Literature: Three Years of Citation, Author Perception, and Usage Experience. The Journal of Electronic Publishing. 2001, 6(3),
http://dx.doi.org/10.3998/3336451.0006.303 [157], (accessed 2009-07-21).

(7) Schwarz, Greg J. et al. Demographic and Citation Trends in Astrophysical Journal Papers and Preprints. Bulletin of the American Astronomical Society. 2004, 36(5), p. 1654-1663.

(8) Harnad, Stevan et al. Comparing the Impact of Open Access (OA) vs. Non-OA Articles in the Same Journals. D-Lib Magazine. 2004, 10(6),
http://www.dlib.org/dlib/june04/harnad/06harnad.html [158], (accessed 2009-07-21).

(9) Antelman, Kristin. Do Open-Access Articles Have a Greater Research Impact? College & Research Libraries.2004, 65(5), p. 372-382.

(10) Hajjem, Chawki et al. Ten-year Cross-Disciplinary Comparison of the Growth of Open Access and How it Increases Research Citation Impact. Bulletin of the IEEE Computer Society Technical Committee on Data Engineering. 2005, 28(4), p. 39-47.

(11) Kurtz, Michael J. et al. The Effect of Use and Access on Citations. Information Processing & Management. 2005, 41(6), p. 1395-1402.

(12) Eysenbach, Gunther. Citation Advantage of Open Access Articles. PLoS Biology. 2006, 4(5), e157,
http://www.plosbiology.org/article/info:doi/10.1371/journal.pbio.0040157 [159], (accessed 2009-07-21).

(13) Metcalfe, Travis S. The Rise and Citation Impact of astro-ph in Major Journals. Bulletin of the American Astronomical Society. 2005, 37(2), p.555-557.

(14) Metcalfe, Travis S. The Citation Impact of Digital Preprint Archives for Solar Physics Papers. Solar Physics. 2006, 239(1‒2), p. 549-553.

(15) Davis, Philip M. et al. Does the arXiv lead to higher citations and reduced publisher downloads for mathematics articles?. Scientometrics. 2007, 71(2), p. 203-215.

(16) Moed, Henk F. The Effect of “Open Access” on Citation Impact: An Analysis of ArXiv’s Condensed Matter Section. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2007, 58(13), p. 2047-2054.

(17) Davis, Philip M. et al. Open access publishing, article downloads, and citations: randomised controlled trial. BMJ: British Medical Journal. 2008, 337, a568.
http://www.bmj.com/cgi/content/full/337/jul31_1/a568 [160], (accessed 2009-08-10).

(18) Davis, Philip M. Author-Choice Open-Access Publishing in the Biological and Medical Literature: A Citation Analysis. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2009, 60(1), p. 3-8.

(19) Norris, Michael et al. The Citation Advantage of Open-Access Articles. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2008, 59(12), p. 1963-1972.

(20) Lansingh, Van C. et al. Does Open Access in Ophthalmology Affect How Articles are Subsequently Cited in Research?. Ophthalmology. 2009, 116(8), p. 1425-1431.

(21) Evans, James A. Open Access and Global Participation in Science. Science. 2009, 323(5917), p. 1025.

(22) 日本疫学会編. 疫学:基礎から学ぶために. 東京, 南江堂, 1996, 255p.

(23) “Rapid Responses for Davis et al., 337 (jul31_1) 568”. BMJ.
http://www.bmj.com/cgi/eletters/337/jul31_1/a568 [161], (accessed 2009-07-21).

(24) Hajjem, Chawki et al. “The Open Access Citation Advantage: Quality Advantage Or Quality Bias?”. arXiv.org.
http://arxiv.org/abs/cs/0701137 [162], (accessed 2009-07-21).

(25) “Role of open access to research results in knowledge translation”. Canadian Research Information System.
http://webapps.cihr-irsc.gc.ca/funding/detail_e?pResearchId=1543037&p_version=CIHR&p_language=E&p_session_id=624329 [163], (accessed 2009-07-21).

(26) 林和弘. 日本のオープンアクセス出版活動の動向解析. 情報管理. 2009, 52(4), p. 198-206.

(27) “Zoological Science meets Institutional Repositories”. DRF wiki.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?Zoological%20Science%20meets%20Institutional%20Repositories [164], (accessed 2009-07-21).

 


三根慎二. オープンアクセスは被引用数を増加させるのか?. カレントアウェアネス. 2009, (301), CA1693, p. 7-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1693 [165]

  • 参照(24594)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
電子ジャーナル [166]
学術情報流通 [167]
オープンアクセス [168]

CA1694 - 動向レビュー:今日のトップ・ニュース「米国の新聞が絶滅危惧種に指定されました!?」 / 水野剛也

PDFファイルはこちら [169]

カレントアウェアネス
No.301 2009年9月20日

 

CA1694

動向レビュー

 

今日のトップ・ニュース
「米国の新聞が絶滅危惧種に指定されました!?」

 

「私たちが地域や国、世界を学ぶ源だった新聞が、今や絶滅危惧種のようなありさまだ。」

ジョン・ケリー(John Kerry、米連邦議会上院議員、元民主党大統領候補者)(1)

「テレビニュースは優れた新聞の代わりにはならない…(中略)…。国民がニュースの情報源をもっぱらテレビに依存するようになれば、民主主義の屋台骨が危うくなると言っても過言ではない。」

ウォルター・クロンカイト(Walter Cronkite、元CBSニュース・アンカー)(2)

 

はじめに

 本稿の目的は、最近の米国新聞界の動向、とくに現在ある「新聞」という形式の媒体が深刻な危機に直面している現状を、いくつかの具体的事例やデータにもとづき、できるだけ簡素に報告することである。

 現状報告(本稿執筆時は2009年6月末)であるため、普遍性のある学術的知見を示すことはできないが、それでも米国における新聞産業の苦境を本誌で紹介する意義はけっして小さくない。それは、大きく以下の3つの理由による。

 第1に、米国ほどではないにせよ、日本の新聞業界も後退期に入っていることは明白であり、日本の新聞の将来を考える上で米国の事例は有用な判断材料や教訓を提供してくれる可能性がある。

 第2に、活字媒体の代表的存在である新聞を読むという行為には、単に新聞だけにとどまらず、印刷物を読むという、より大きなレベルの知的文化活動を支える重要性がある。日常的に新聞を読むという習慣が廃れれば、直接的・間接的に、人類の「読む文化」にさまざまな形で変化をもたらす。この意味で、新聞という媒体の危機について考えることは、活字文化、および出版文化そのものの未来について考える作業につながる。

 第3に、日米の多くの識者が指摘しているように、新聞の衰退はその社会の民主主義のゆくえを左右する重大な問題をはらんでいる。なぜなら、これまで新聞は政府官憲をはじめ権力をもつ者の不正を暴いたり、重要な社会問題について人々に共通の知識や意識をもたせたりすることで、民主社会が健全に機能する上で不可欠な役割をはたしてきたからである。もちろん、新聞だけが民主主義を支えてきたわけではないが、ジャーナリズムの中枢でありつづけてきた新聞の後退は、社会・国家全体のあり方に重大な影響を及ぼしかねない。

 以上の問題意識を背景にすえながら、本稿は米国の新聞業界が直面している現状をレビューし、その上で新聞の衰退がもたらす社会的弊害について指摘する。

 

恐竜化しつつある新聞

 現在、米国の新聞界はきわめて苦しい状況にある。あらゆる面で、成長する余地は限りなく小さく、明るいきざしは見えない。少なくとも米国についていえば、「新聞を発行・配達する」という意味での新聞事業は、完全に衰退期に入っている。

 そのことを端的にあらわしているのが、首都ワシントンD.C.の有力紙『ワシントン・ポスト』(2009年2月22日付)に掲載された1枚の風刺漫画である。新聞の売り子が配っている号外には、経営難に苦しむ自動車大手3社(ビッグ3)を「困った恐竜」(Dinosaurs in Trouble)と揶揄する見出しが躍っている。しかし、そう報道する新聞の売り子も同じ「恐竜」だという内容である(3)。

 笑っている場合ではない。なぜなら、この漫画の描く世界がすでに現実化しはじめているからだ。その約2か月後、ビッグ3の一角クライスラーが連邦破産法第11章の適用を申請し、経営破綻した。米国・カナダ両政府は、約100億ドルの融資を追加し、経営立て直しのための支援をつづけることを決定した。さらに、それから2か月もしないうち、次はゼネラル・モーターズ(GM)も破産法の適用を申請した。同社の場合、米国政府が一定期間、新GMの株式の過半数を取得し、形式的には「国有化」される事態になった。

 新聞もほぼ同様で、伝統ある新聞社の経営破綻や廃刊があとをたたない。見方によっては、ビッグ3よりも新聞の方がはるかに絶滅の危機に瀕しているといえる。新聞の場合、政府の経済的支援を受ける可能性は相当に低いからである。市民を守る番犬として政府と距離をとることを運命づけられたこの恐竜は、文字通り自力で生き残らなければならないのである。

 

No News is Good News

 本来は「知らせがないのは、よい知らせ」という意味だが、今の米国新聞界には「よい知らせは何もない」としか読めないだろう。実際に、悪いニュースは枚挙にいとまがない。いみじくも、ボストンに本社を置く高級全国紙『クリスチャン・サイエンス・モニター』のコラムで、ある教育史学教授はこう述べている。「今日、新聞を開いて、新聞について悪いニュースを読まない日はない」(4)。

 さらに皮肉なのは、このコラムを掲載した『クリスチャン・サイエンス・モニター』自体が、もう「開いて」読む新聞ではなくなっている事実である。2009年4月から、同紙は「紙」媒体の発行を基本的に停止し、報道活動の中心をウェブサイトに移した。部数が低迷しつづけ、赤字が累積した末の経営的判断であった。もはや、「新聞」という媒体と「新聞社」は、イコールではなくなっている。

 それでも多くの新聞社は「新聞」を発行しているが、肝心の部数は減少をつづけ、下げ止まる気配さえ見えない。主要な新聞の公式部数をとりまとめているABC(米国発行部数公査機構)のデータ(2008年10月〜2009年3月)によると、395の日刊紙(平日版)の総発行部数は約3,444万部で、前年の同時期と比べ7%も減少している。「7%」という数字だけを見れば、さほど深刻でないように思えるかもしれないが、部数はここ数年連続で減りつづけており、しかもその減少率は悪化している。2008年4-9月期の減少率は前年同期比で4.6%であった。主要紙のなかには2桁の減少率を記録している社もめずらしくない。唯一、そのなかで部数を微増させているのは、経済専門紙の『ウォール・ストリート・ジャーナル』だけである(5)。

 部数の減少と連動して、当然、広告収入も下降している。NAA(米国新聞協会)が集計したデータによれば、2008年の新聞の総広告収入は前年に比べ16.6%も落ち込んだ。集計をはじめた2003年以来、堅調に伸張してきたオンライン広告でさえ、1.8%の減少を記録した(6)。サブプライム・ローン問題を契機とする経済悪化が大きな影響を及ぼしている。2009年も広告収入の低下が加速することはほぼ確実である。広告収入よりも販売収入を主とする日本の新聞社に対し、米国の新聞社は広告収入を主としてきた。それだけに、広告収入の不振によるダメージは甚大である。

 なぜこのような現状を招いたのか、さまざまな要因が指摘されている。主要なものをあげると、インターネットの発達と浸透、無料紙の出現、世界的な経済の停滞、人件費・印刷費・配達費など経費の上昇、とくに若い世代の新聞離れ、販売収入よりも不安定な広告収入への過度の依存(総収入の70〜80%)、これらの問題への対応の遅れ、などがある。しかし、いずれも単独で新聞業界を苦しめているわけではなく、それらすべてが相乗的に作用し「スパイラル」で問題を悪化させている。だからこそ、その連鎖を断ち切るのは一層困難になっている(7)。

 

対策も効果なし

 当然、どの新聞社も懸命に生き残り策を講じている。ここ数年でとられた対策例としては、吸収・合併、買収・売却、解雇など人員削減、国内外の支局の閉鎖、給与カット、年金など福利厚生の凍結、発行頻度の縮小、宅配の縮小・停止、別刷りの縮小・廃止、ページ数削減、オンライン版への移行、編集作業の一部外注、資産の売却、ネットニュースの有料化、などがある。

 しかし、それら対応策のほとんどは後手にまわった対症療法にすぎず、問題を根本的に解決するにはいたっていない。その証左として、解雇や給与削減をくり返したあげく、廃刊に追いやられるケースがあとを絶たない。2009年中の主要な事例では、コロラド州デンヴァーの日刊紙『ロッキー・マウンテン・ニューズ』の廃刊がある。実に150年の歴史をもつ名門紙であったが、経営難の末、買い手を見つけることができず、2009年2月27日号を最後に発行を停止してしまった。その結果、200人以上の社員が職を失った。それから1か月もしない3月17日には、創刊146年目となる『シアトル・ポスト=インテリジェンサー』も輪転機をストップし、翌日からオンライン版だけで存続することになった。

 それでも、大都市の主要紙の多くはかろうじて廃刊を免れているが、社の存続をかけて人員削減をくり返した結果、珍妙な現象が起きるようにもなっている。2009年5月、ロサンゼルスで1人の新聞記者が解雇されたことで、大リーグの名門球団・ドジャースを担当する地元記者がついに1人になってしまったのである。10年前には、実に8人の記者がドジャースを専門に追っていたという。巨人や阪神を取材する記者がたった1人しかいない。そんな想像しがたい事態が、米国では現実に起こっているのである(8)。

 しかも、スポーツ報道だけならまだしも、首都ワシントンD.C.を取材する記者数さえも削られつづけている。連邦議会から取材許可を得た新聞記者数は、1997年から2009年の間に約30%も減ってしまった(9)。なお、この傾向は新聞だけでなくテレビの3大ネットワークにもあてはまり、その結果として、奥村信幸が指摘しているように、報道される社会問題が極端に限定されるようになってしまった。報道内容の多様性が失われることは、民主主義を健全に維持する上で大きな障害となりえる(10)。

 

あの『ニューヨーク・タイムズ』も

 米国の新聞ジャーナリズムを引っ張ってきた『ニューヨーク・タイムズ』(以下、『タイムズ』)とて、けっして例外ではない。この事実に、米国の新聞界が直面している危機の深刻さが集約されている。

 『タイムズ』といえば、米国はもとより、世界でもっとも影響力のある報道機関の1つであり、そのニュース・論評の質の高さは自他ともが認める高級紙である。その証左として、各年でもっとも優れた報道に贈られるピュリツァー賞の受賞回数で、『タイムズ』はライバル紙を圧倒している。2009年4月に受賞した5つを含めて、通算で101回もピュリツァー賞を獲得している(11)。

 ところが、そのジャーナリズムの最高ブランドさえもが、生き残るためにもがき苦しんでいる。前述したABCによれば、2009年3月までの半年間の部数は約104万部で、これは前年同時期に比べ3.6%の減少である。『タイムズ』自身が公表した2009年第1四半期の決算報告でも、不調を示す数字ばかりがならんだ。販売収入こそ前年同期比で1%増であったものの、それは購読料の値上げの効果によるものであり、広告収入は28.4%も減少し、総収入は18%強のマイナスとなった。同四半期における損失額は7,450万ドルであった(12)。

 2009年に入ってから発表された経営立て直し策を見ても、明るさはまったく見えてこない。主だった対策を紹介すると、1月からは本紙1面にカラー写真つきのビジュアル広告を掲載するようになった。「大恐慌以来最悪の収入減に対する譲歩」であった(13)。3月には、2007年に完成したばかりの本社ビルの自社保有分の一部を売却した(14)。さらに同月、ほとんどの社員の月給を2009年いっぱい5%カットすると発表した。日本の主要紙も経営に苦しんでいるが、ここまで切迫している社は少ない。冒頭の引用でジョン・ケリー上院議員が憂慮したように、米国の新聞ジャーナリズムが「絶滅危惧種」に指定される日が、本当にくるかもしれない。

 

新聞の衰退がもたらす社会的弊害

 しかし、より本質的な問題は、新聞界の不振が単にある1つのニュース媒体の凋落にとどまらず、民主社会そのものを弱体化・空洞化させる危険をはらんでいることである。これまで新聞がになってきた重要な機能、たとえば、市民として最低限知るべき情報の取捨選択や社会不正の告発や権力監視をネットや他のメディアが完全に代替できるなら、問題はさして深刻ではない。しかし、少なくとも現在のところ、新聞が抜けた穴を他のメディアが埋めることは、現実としてかなり困難であるといわざるをえない。同じことは日本社会にもあてはまる。

 新聞の衰退がもたらす社会的弊害は多いが、日米に共通するとくに重要度の高い3点を指摘して、本稿を締めくくる。

 第1に、人々が新聞を避け、もっぱらネットで興味ある情報だけを摂取するようになると、社会が過度に分裂してしまう。この問題は、『ニューヨーク・タイムズ』のジョン・マルコフ(John Markoff)記者が次のように指摘している。「いまや私たちは、おなじ経験を共有する代わりに、サイバー空間に置かれた何百万もの個人的な書き込みという無秩序と向き合っている。結果として、私たちは互いに一層孤立し、共通体験はほとんど失われ、社会的な結びつきが弱まってしまった。いまでは、どんなニュースを読むのかも自分の好みに設定できるため、外界や世界との接点は広がるというよりも、その逆に劇的に狭まってしまった」(15)。市民社会をまとめる紐帯である新聞がなくなれば、人間社会は解体してしまうかもしれない。

 第2に、新聞が機能しなくなると、市民の「知る権利」が十分に満たされなくなる危険がある。なぜなら、現場でニュースを取材し、それを社会全体に伝えることで、新聞は情報のインフラを支えているからである。この問題については、ITジャーナリストの佐々木俊尚が次のように論じている。「ブロガーをはじめとするインターネットの情報発信者は、論考・分析は得意であるけれども、一次情報の取材・報道は困難だ」(16)。別言すれば、新聞の衰退は、長大な河川の「水源」が枯渇することを意味する。確かなニュースを発掘する新聞があればこそ、ネットやその他のメディアもその特性を発揮できるのである。

 第3に、以上の2点とあわせて、新聞の不調は権力の乱用や腐敗を許す危険性がある。市民の「番犬」・「第四の権力」ともよばれる新聞は、歴史的に権力者を監視し、不正を厳しく告発・批判することで、民主主義の健全化に貢献してきた。権力の監視役が退場すれば、不正が横行しやすくなる。この問題について、ノンフィクション・ライターの野村進は、「新聞や雑誌の存在意義すら脅かしつつある潮流には、ここで歯止めをかけないと相当に危うい」と警告している(17)。野村が論じているのは日本の現状であるが、冒頭で引用したウォルター・クロンカイトも危惧しているように、同じことは米国についてもいえる。

 このように、新聞産業の衰退は、単にある1つのマス・メディア業界の問題を越えて、民主社会全体に打撃を与える看過できぬ問題である。

東洋大学:水野剛也(みずの たけや)

 

(1) 立野純二, 堀内隆. 時時刻刻 経営難、もがく米新聞 創刊146年、ネットに特化. 朝日新聞. 2009-06-26, 朝刊, 2面.

(2) クロンカイト, ウォルター. 20世紀を伝えた男クロンカイトの世界. 浅野輔訳. 東京, ティビーエス・ブリタニカ, 1999, p. 482.

(3) Funny Business. Washington Post. 2009-02-22, F2.

(4) Zimmerman, Jonathan. “Professors could rescue newspapers: A hundred years ago professors wrote for the press – free of charge”. The Christian Science Monitor. 2009-03-09.
http://www.csmonitor.com/2009/0309/p09s01-coop.html [170], (accessed 2009-05-12).

(5) Saba, Jennifer. “New FAS-FAX Shows (More) Steep Circulation Losses”. Editor & Publisher. 2009-04-27.
http://www.editorandpublisher.com/eandp/news/article_display.jsp?vnu_content_id=1003966601 [171], (accessed 2009-05-15).

(6) “Advertising Expenditures”. Newspaper Association of America.
http://www.naa.org/TrendsandNumbers/Advertising-Expenditures.aspx [172], (accessed 2009-07-24).

(7) “The State of the News Media 2009: An Annual Report on American Journalism”. Project for Excellence in Journalism.
http://www.stateofthemedia.org [173], (accessed 2009-05-12).

(8) 地元紙担当記者、わずか1人に 新聞不況…名門ドジャースでさえ. 朝日新聞. 2009-05-12, 夕刊, 9面.

(9) THE NEW WASHINGTON PRESS CORPS: As Mainstream Media Decline, Niche and Foreign Outlets Grow. Project for Excellence in Journalism. 2009-07-16.
http://www.journalism.org/sites/journalism.org/files/The%20New%20Washington%20Press%20Corps%20Report%20UPDATE_0.pdf [174], (accessed 2009-08-10).

(10) 奥村信幸. ジャーナリストが消えていくワシントンで見たこと、聞いたこと:「2009年米ニュースメディアの現状」報告から. Journalism = ジャーナリズム. 2009, (228), p. 62-67.

(11) The Times Wins 5 Pulitzer Prizes. The New York Times. 2009-04-21, A23.

(12) Pérez-Peña, Richard. Times Co. Posts a Loss of $74.5 Million. New York Times. 2009-04-22, B6.

(13) 白川義和. 一面写真付き広告 NYタイムズ解禁. 読売新聞. 2009-01-06, 夕刊, 2面.

(14) NYタイムズ本社売却 07年完成したばかり. 東京新聞. 2009-03-10, 朝刊, 9面.

(15) マルコフ, ジョン. ネットメディアの混沌と未来 エージェント・ソフトは現れるのか. 朝日新聞グローブ. 2009-03-16.
http://globe.asahi.com/mediawatch/090316/01_01.html [175], (参照 2009-07-24).

(16) 佐々木俊尚. 特集 ネットの潮流を考える: インターネットにおける世論形成の可能性. AIR21: media & journalism reports. 2008, (219), p. 12.

(17) 野村進. 休刊時代のメディア考 上. 朝日新聞. 2009-05-20, 夕刊, 5面.

 


水野剛也. 今日のトップ・ニュース「米国の新聞が絶滅危惧種に指定されました!?」. カレントアウェアネス. 2009, (301), CA1694, p. 11-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1694 [3]

  • 参照(19964)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
メディア [176]
新聞 [149]
インターネット [29]
米国 [53]

CA1695 - 動向レビュー:データ分析による『カレントアウェアネス』レビュー / 芳鐘冬樹

PDFファイルはこちら [177]

カレントアウェアネス
No.301 2009年9月20日

 

CA1695

動向レビュー

 

データ分析による『カレントアウェアネス』レビュー

 

はじめに

 前号をもって本誌『カレントアウェアネス』(以下、CA)は300号を数え、そして、1979年8月の創刊から30年が経過した。途中、頒布範囲の拡大(1989年6月に国立国会図書館(以下、NDL)外への頒布を開始)や刊行頻度の変更(2002年6月に月刊から季刊に変更)を経て、掲載記事を充実させながら「図書館に関する最新情報の速報による提供」を続けている(1)。

 前号では、企画・編集に関わった研究者らにより、自身の経験に基づく視点からCAの歴史が紹介されているが(2)(3)(4)、本稿では、「データから読み取れる」掲載記事の傾向と変化を明らかにすることを目的に、1989年6月(第118号)から2009年6月(第300号)までの約20年分の記事を対象として、それらの書誌データとテキストデータを分析する。

 

1. 分析対象

 NDLのウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」では、NDL外への頒布を開始して以降(1989年6月刊の第118号以降)の記事の全文が公開されている。本稿は、それらウェブ版の記事のデータを分析対象にする。基本的には、1989年6月以降は、冊子版もウェブ版も同じ記事が掲載されているが、ごく一部に違いがある。索引5件および1991年発行分の記事のうちの6件は、冊子版にのみ存在し、逆に、外国語による記事4件(英語2件と中国語2件、ただし、それらの和訳は冊子版にも存在する)と参照文献リスト1件は、ウェブ版にのみ存在する。

 CAを構成している主な記事は、(1)近年話題となっているテーマの中から注目すべき事例を1つを取り上げ、背景等の解説を加えながらわかりやすく説明する「一般記事」、(2)ある特定分野について最近の動向をレビューすることを主眼としている「動向レビュー」(2002年6月より)、そして(3)図書館情報学の研究に関する概況把握を目的として、特定テーマに関する最近数年間の研究論文をレビューする「研究文献レビュー」(2003年9月より)であり、CAナンバーが一連番号として付番されている。これらの記事1,067件に、「用語解説」(Tナンバーが付番されている)32件(5)と、小特集の冒頭の付言など、その他の記事(一連番号は持たない)29件を合わせた計1,128件について分析を行う。それらの記事の全文テキストデータに加え、NDLによって各記事に付与された件名と主題タグも分析に用いる。また、一部の分析においては、比較のため、より速報性が高いメールマガジン『カレントアウェアネス-E』(以下、CA-E)の記事948件(2002年9月の試行版から2009年6月までの全記事)のデータも併せて用いる(6)。

 本稿と同様に、CA掲載記事の傾向を扱ったものに、橋詰の分析(7)がある。橋詰は、NDL外への頒布開始より前の時期も含めて、1979年8月から2003年9月までの記事を対象に、累積索引による調査に基づき主題の傾向をまとめている(8)。今回の分析と比較可能な部分に関しては、橋詰の分析結果を適宜参照することにする。

 本稿が分析対象とする範囲について、CAの年ごとの掲載記事数と平均記事長を示したものが図1である。記事の長さ・分量は、本文の語数(正確に言えば、単語より細かい単位である形態素の数)で計っている(9)。

図1 記事数と1記事の平均語数の変化

図1 記事数と1記事の平均語数の変化

 2001年までは、記事の分量は緩やかに増加している。その後、2002年の季刊化を境に、年間の記事数が半減した一方で、1記事あたりの分量は倍増した。季刊化後に始められた「動向レビュー」と「研究文献レビュー」が、分量の増加につながっている。2000年代後半には、さらに分量が増えており(10)、詳細で長い解説記事が掲載される傾向を確認できる。

 

2. 参照文献から見る傾向と変化

 CAの記事には、末尾に注とともに参照文献(引用文献、典拠文献)が挙げられている。参照文献の数は、記事の学術性の指標になり得るし、参照文献の新しさは速報性の指標になり得る。ここではそうした観点から分析した結果について報告する。ただし、使用したデータでは、注の中から個々の参照文献を正確に分割して取り出す自動処理は難しく、参照文献の書誌情報の形式が必ずしも統一されていないため、参照文献の出版年を完全に把握することも困難であった(11)。また、末尾の注・参照文献リストにではなく、本文中にのみ挙げられているCA、CA-Eの記事(12)は含めていない。したがって、図2・3に示す値は、大まかな傾向をつかむための概数である。

 図2には、CAの1記事あたりの平均参照文献数とプライス指数を示した。プライス指数については後に述べる。図から、参照文献数は、(1)2000年まで緩やかに増加し、(2)2001-2003年にはやや大きく増加し、そして、(3)2004年以降急激に増加していることがわかる。(2)は、2002年に開始した「動向レビュー」、およびその前身である「Trend Review」(2001年10月~2002年1月掲載)の影響が窺える。(3)に関しては、2003年後半からの「研究文献レビュー」の影響が大きいが、それ以外の種別の記事も、多くの文献を典拠として挙げるようになっているという全般的な傾向がある。

図2 参照文献の数とプライス指数

図2 参照文献の数とプライス指数

 次に、出版年を判定できた参照文献に関して、参照している記事と、参照されている文献の出版年の差、すなわち引用年齢を調べた。引用年齢の値が低いほど、新しい情報を参照していることを示す。参照文献として挙げられたウェブ情報源の中には、出版年の記述がなく、アクセス日付(最終確認日)だけが記されたものがあるが、アクセス日付では、情報の新しさがわからないので、それらのウェブ情報源は除いている。図3は、引用年齢ごとに、参照文献の割合を示したものである。CAで参照されている文献の半分以上が、概ね1年以内に出版された非常に新しい文献であることが確認できる。

図3 引用年齢の分布

図3 引用年齢の分布

 図2に参照文献数と併せて示したプライス指数も、参照文献の「鮮度」を表す指標である。プライス指数は、「参照文献の総数に対する、引用年齢が5年以内のものの割合」であり(13)、ここでは、記事単位の平均値でなく、当該時期における記事集合全体に対して求めた値を示している。

 プライス指数は、2006年までは、徐々に低下しているものの、90%前後という高い値を保ちながら推移している。しかし、2007年以降になると大きく下降し、約80%まで落ちている。一般的には、プライス指数80%というのは、必ずしも低い値とは言えないが、CAが速報性を重視する雑誌であることを考慮すると「意外に低い」結果である。ただし、前述のとおり、出版年の記述がないウェブ情報源や、本文の中にだけ挙げられているCA、CA-Eの記事は含んでいないため、実質的なプライス指数は、もっと高くなると考えられる。また、図2に示されているように、プライス指数の低下が、参照文献数の増加とともに生じているものであることから、新しい情報をあまり参照しなくなったわけではなく、より以前の情報・文脈も参照しながら新しい情報を紹介、解説するようになった、と解釈することができよう。この傾向は、本来「最近数年間」の論文が対象である「研究文献レビュー」でも見られる。

 

3. 扱われる内容の傾向と変化

 CAで扱われている内容の傾向を、付与された件名と主題タグ、およびタイトル・本文中に出現する用語をもとに分析する。まず、統制語である件名と主題タグに基づき、いくつかの観点からおよその傾向を調べた後、出現用語のデータを分析して少し細かく見ていく。

 

3.1 件名、主題タグに基づく傾向

 橋詰の分析にもある、(1)国別(橋詰の分析では国内・国外別)の記事数と、(2)館種別の記事数を調べた。国別の記事数は、国立国会図書館件名標目表(NDLSH)、米国議会図書館件名標目表(LCSH)による件名(一部フリーターム)に基づいて集計した結果を示す。主標目だけでなく細目としての付与も集計に含めている。館種別の記事数については、件名では「公共図書館」が1件も存在しなかったため、「カレントアウェアネス・ポータル」において表示される主題タグに基づいて集計した結果を示す。「公共図書館」以外は、件名と主題タグの集計結果の傾向にそれほど大きな差異はなかった。

 記事数が多い4か国―日本、米国(件名表記は「アメリカ合衆国」)、英国(件名表記は「イギリス」)、中国―について、全体に占める割合の推移を示したのが図4である。米国は、2006年まではコンスタントに高く、概ね20%以上、つまりCAの記事5件に1件は米国を扱ったものだった。直近の2007年~2009年には、米国と英国の記事の比率が大きく落ち込んでいる。英米の比率が下がるのとは反対に、日本と中国の比率は上がってきている。特に、日本の比率の上昇が大きい。橋詰の分析では、国内を扱った記事の割合は、2000年まで減少していることが報告されているが、本分析の結果から、その後、増加に転じていることがわかる。2003年に開始した「研究文献レビュー」が、国内の研究を対象にしていることも、日本の記事の割合が増加した一因であろう。

図4 国別記事の割合の推移

図4 国別記事の割合の推移

 図5には、館種別記事の割合の推移を示した。大学図書館と研究図書館は1つにまとめている。図に表示のない学校図書館など他の館種は記事数が少なかった。2003年までの傾向は、橋詰の報告と類似している。すなわち、およその趨勢として、1994年までは全体的に割合が上がり、その後、NDL、国立図書館の割合は下がっている。2004年~2006年での落ち込みはあるが、公共図書館は高い割合を占め続けている。2007年~2009年になって国立図書館、公共図書館、大学・研究図書館が揃って大きく増加しているのは、納本制度や公共図書館の小特集が組まれたこと、機関リポジトリなど学術情報流通がホットなトピックになったことも理由として挙げられる。2004年以降、国立図書館、公共図書館、大学・研究図書館の比率はほぼ同程度であり、バランスがとれていると言える。

図5 館種別記事の割合の推移

図5 館種別記事の割合の推移

 

3.2 出現用語に基づく傾向

 タイトルと本文に現れる用語をもとに、CA掲載記事の傾向を分析した結果を示す。前節の件名・主題タグの付与状況とは異なり、「どんな用語が含まれているか」に関する情報であって、扱われているテーマを直接表すものではないことに注意を払う必要があるが、細かいトピックまでつかむことができる。重要度が高い用語のうち(14)、記事の割合の増加量・増加率が大きいものを表に挙げた。7年区切りで、前期(1989年~1995年)、中期(1996年~2002年)、後期(2003年~2009年)に分け、前期から中期への変化と中期から後期への変化とをそれぞれ示している。

表 記事比率の増加が大きい用語

表 記事比率の増加が大きい用語

 前期から中期にかけては(表上)、「インターネット」「電子ジャーナル」など、電子情報関係の記事比率の増加が目立つ。この点は、橋詰の報告でも触れられている。「紙媒体」の増加も大きいが、これは「電子媒体」との対比で語られているものである。電子情報関係の中でも、特に「インターネット」の増加が顕著であり、中期になると3分の1以上の記事に「インターネット」が含まれる。

 中期から後期にかけては(表下)、「電子ジャーナル」が引き続き伸びているほか、「大学図書館」「リポジトリ」「学術情報」など、大学・研究図書館と関係が強い用語の伸びも大きく、前述の主題タグの分析結果と符合する。「リポジトリ」は、中期までは0%に近かった記事比率(2002年の1件のみ)が、後期になって15%近くまで伸びており、最初に世に出てから急速に広まったことが見て取れる。「評価」は、中期から後期にかけての記事比率の増加量が最も多い用語である。図書館のサービス/システム/職員/総体的なパフォーマンスの評価、資料・メディアの評価、情報の評価、図書館学教員の評価、研究評価といった、多様なトピックが取り上げられている。図書館界に限らず、近年、評価の社会的要請は強まっており、それが反映したものと考えられる。

 「評価」という用語が、実際にどういう形で記事中に出現しているかを示すために、用語の変形を認識する関連語句検索システムを使用した(15)。図6は、中期と後期それぞれを対象に、「図書館評価」を検索語として記事のタイトル・本文を検索した結果である。記事から抽出した「図書館評価」の関連語句が出力されている。左列(検索語の下)は、検索語と同義の語句、および検索語と組み合わさって現れている語句、右列は検索語の下位概念を表す語句である。後期(図6下)の方が、中期(図6上)に比べて、多様な形で現れていることがわかる。

図6 「図書館評価」に関連する語句

図6 「図書館評価」に関連する語句

 表に挙げた各々の用語について、記事比率の推移をCAとCA-Eとで比較してみたところ、CA-Eの方が全般的に記事比率が低かったが、これは、本文が短く、含まれる語が少なく限定されていることによるものだろう。経年変化の挙動に関しては、だいたい似通っており、速報性の程度の差によるタイムラグは年単位では観察されない。一例として、CAとCA-E、それぞれの「リポジトリ」の記事比率を図7に示した。「リポジトリ」は、先述のとおり2002年に、ちょうどCA-E創刊と期を同じくしてCAに現れ始めた用語である。

図7 「リポジトリ」の記事比率の推移

図7 「リポジトリ」の記事比率の推移

おわりに

 その時々に話題になっているテーマ、トピックを取り上げて解説するCAは、図書館界の動向を映す鏡と言える。CAの今後の方向性として、橋詰は、「インターネットによって“新鮮な”情報が容易に手に入るようになった現在こそ、レビュー誌が提供する“マクロな視点”はこれまで以上に不可欠となってくる」(16)と述べている。橋詰の指摘から5年が経過した今日、参照文献の分析で見たように、CAは、新鮮さと歴史的文脈をおさえたマクロな視点とを兼ね備えたレビュー誌として着実に成長していると感じる。今後のさらなる成長を期待したい。

筑波大学:芳鐘冬樹(よしかね ふゆき)

 

(1) 国立国会図書館関西館図書館協力課. 『カレントアウェアネス』30年の歩み. カレントアウェアネス. 2009, (300), p. 3-4.

(2) 田村俊作. 『カレントアウェアネス』の編集に係わって. カレントアウェアネス. 2009, (300), p. 5-6.

(3) 野末俊比古. 『カレントアウェアネス』: 「変わったこと」と「変わらないこと」. カレントアウェアネス. 2009, (300), p. 7-8.

(4) 北克一. 『カレントアウェアネス』300号への道程. カレントアウェアネス. 2009, (300), p. 8-9.

(5) 「用語解説」は、同号掲載の一般記事で用いられている用語に関して補足説明する記事であり、1995年から2001年までに「グーテンベルグ計画」など33の用語(T1~T33)が取り上げられた(T31とT32は1つの記事にまとめられているため、記事数は計32件である)。

(6) CA、CA-Eともに、NDLから提供を受けたXML形式のファイルを使用した。

(7) 橋詰秋子. 動向レビュー誌『カレントアウェアネス』の役割と新たな展開. 情報の科学と技術. 2004, 54(3), p. 120-125.

(8) 本分析では、NDL外への頒布開始前の記事は、著作権上の制限があり使用できなかった。

(9) 本文の分析では、タイトル、著者名などの書誌事項、および注・参照文献は除いている。図表は、キャプションのみを含めている。また、外国語で書かれた記事4件は除外した。なお、テキストデータの形態素への分割と品詞の判別には「茶筌」を使用した。以後の分析でも同様である。
松本裕治, 北内啓, 山下達雄ほか. 日本語形態素解析システム『茶筌』version 2.2.1使用説明書. 奈良先端科学技術大学院大学松本研究室, 2000, 21p.

(10) 2009年の記事数が少ないのは、6月までの半年分のデータのみを対象にしているためである。そして、それら18件のうちの半数近くの8件が創刊300号・30周年記念関係の特殊な記事(巻頭言など)であるという事情により、前年や前々年と比べて、2009年の平均記事長は短くなっている。

(11) 書誌事項の記載順、および出版年の記載形式に関するいくつかのパターンを想定した正規表現によるマッチングで、各参照文献の出版年を判定した。

(12) CAはCAナンバー(用語解説はTナンバー)で、CA-EはEナンバー(試行版はSナンバー)によって参照指示が出されている。

(13) プライス指数は、参照・引用されている側の文献や雑誌などに対し「全被引用件数に占める、5年以内に引用された件数の割合」として定義されるが、ここでは、参照・引用している側であるCAの記事から見たプライス指数を算出している。

(14) 用語の抽出と重要度の計算には、中川らの連接頻度に基づく手法を使っている。「情報」のような一般的な語(主に単名詞)は除いている。
中川裕志, 森辰則, 湯本紘彰. 出現頻度と連接頻度に基づく専門用語抽出. 自然言語処理. 2003, 10(1), p. 27-45.

(15) 用語の形態統語的変形をルールベースで認識する、芳鐘らの文書検索システムを使用した。
Yoshikane, Fuyuki; Tsuji, Keita; Kageura, Kyo; Jacquemin, Christian. Morpho-syntactic rules for detecting Japanese term variation: Establishment and evaluation. Journal of Natural Language Processing. 2003, 10(4), p. 3-32.
芳鐘冬樹, 井田正明, 野澤孝之ほか. キーワードの関連用語を考慮したシラバス検索システムの構築. 日本知能情報ファジィ学会誌. 2006, 18(2), p. 299-309.

(16) 橋詰秋子. 動向レビュー誌『カレントアウェアネス』の役割と新たな展開. 情報の科学と技術. 2004, 54(3), p. 124.

 


芳鐘冬樹. データ分析による『カレントアウェアネス』レビュー. カレントアウェアネス. 2009, (301), CA1695, p. 15-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1695 [178]

  • 参照(15226)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
日本 [17]
国立国会図書館 [179]

CA1696 - 動向レビュー:デジタル情報資源の管理・保存にいくらかかるのか?-ライフサイクルコストを算出する試み“LIFE” / 村上浩介

PDFファイルはこちら [180]

カレントアウェアネス
No.301 2009年9月20日

 

CA1696

動向レビュー 

 

デジタル情報資源の管理・保存にいくらかかるのか?
-ライフサイクルコストを算出する試み“LIFE”

 

 図書館が電子資料やデジタル形式の録音・映像資料を蔵書とし、また図書館の活動の中に所蔵資料のデジタル化やウェブ上の情報の収集・蓄積などを加えるようになってから、短くはない年月が経過した。この時の経過につれて、このようなデジタル情報資源を長期に保存し、また利用に供していくことに関する、紙の資料とは異質の多くの課題が顕在化してきている。たとえば、多くの図書館が所蔵しているであろうレーザーディスク(LD)の場合、再生装置の生産が2009年に終了した(1)。また、かつてのワープロ専用機で作成された文書の場合、今日の標準的なパソコンの環境ではもはや読むことができない、と言った具合に。

 このように、デジタル情報資源の長期保存・長期利用保証に関する課題は遠い将来のものではない。またデジタル情報資源がすでに人々の生活に深く浸透していることも考えると、身近で影響範囲の大きな課題でもある。図書館界でも、これらの課題を解決するための技術・制度などの研究が行われるようになってきている(2)が、本稿ではそのような研究のうち、一定の成果を挙げ注目を集めているものとして、デジタル情報資源の保存に関する計画立案を支援すべく、デジタル情報資源の管理・保存に必要なコストを算出するモデルを開発し、実例で検証している英国の“LIFE(Lifecycle Information For E-Literature)”プロジェクトについて紹介したい。

 

1. LIFE前史

 LIFEプロジェクトは、英国情報システム合同委員会(JISC)の助成のもと、英国図書館(BL)とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の協同プロジェクトとして2005年から行われている。LIFEプロジェクトの要点は、デジタル情報資源が図書館に入ってくるところからその役割を終えるまでの「ライフサイクル」に着目し、デジタル情報資源に対して図書館が行う各作業のコストを算出することにあるが、このようなアプローチにはすでに先行事例がいくつか存在する(CA1520 [181]参照)。

 その中でも、LIFEプロジェクトが最も参考にしたとしているのが、BLによる(紙の)図書館資料のライフサイクルコスト算出の試みである。BLは1988年にライフサイクルコストの概念を導入し、収集から廃棄に至るまでの、図書館資料のライフサイクルのモデル化を行った(CA689 [182]参照)。1994年には、実際に各業務工程のコストを算出した(CA986 [183]参照)。そして2003年には、図書館資料の長期保存に必要な業務を視野に入れて下記のとおりモデルを再構築し、2001/2002会計年度の支出を元にコストを算出した(3)。

 

印刷された単行資料の場合

K(t) = s+a+c+pl+hl+p(t)+cs(t)+r(t)

 

K(t):期間tにかかるライフサイクルコストの合計

 s:  選書のコスト

 a:  購入費用を除いた収集業務処理のコスト

 c:  目録作成のコスト

 pl: 保存箱、製本など、保存に関する初期コスト

 hl: ラベルの付与や排架など、資料を書庫で取り扱う最初の段階でかかるコスト

 p(t):期間tにかかる、修復などの保存のコスト

 cs(t):期間tにかかる、書庫・所蔵のコスト

 r(t):期間tにかかる、資料の出納のコスト

 

 この算出の結果、資料の購入費用を除いた単行資料1点あたりのライフサイクルコストは、資料を1年間保存する場合には50.46ユーロ、10年間保存する場合には76.47ユーロ、100年間保存する場合には197.48ユーロとなった(ユーロへの換算は2002年時点での為替レートによる)。ここから、100年間保存する場合には、最初の1年間に発生するコストのおよそ3倍のコストが、残りの99年間合計で発生するという計算になることなどが明らかにされた。

 

2. LIFE1プロジェクト(2005~2006)

 このような先行事例とLIFEプロジェクトとの大きな相違点は、LIFEプロジェクトではコストを算出するモデルを構築するだけにとどまらず、コストを容易に算出できるような標準的ツールを開発し、複数の事例に実際に適用して算出する「ケーススタディ」を行って、その有効性を検証していることにある。

 2006年4月までの1年間で実施されたLIFEプロジェクト第1フェーズ“LIFE1”は、上述のBLの試みや、建築、廃棄物処理など異業種のものも含むライフサイクルコスト算出の先行事例と、デジタル情報資源の保存にかかるコストを試算する先行研究(CA1520 [181]参照)を、包括的にレビューすることから始まった。このレビューの結果、デジタル情報資源の管理にかかる業務プロセスは紙の図書館資料のものと相当程度類似していること、ほとんどのデジタル情報資源コレクションが図書館内に保存されると考えられることから、LIFEプロジェクトは上述のBLのモデルを基盤として、内容や種別に依存しない形で、デジタル情報資源のライフサイクルモデル(バージョン1)を構築した(4)。

 

ライフサイクルモデル バージョン1

LT=Aq+IT+MT+AcT+ST+PT

 

LT:期間T全体にかかるライフサイクルコスト

 Aq:   収集にかかるコスト

 IT:    期間Tにおける、受入にかかるコスト

 MT:  期間Tにおける、メタデータにかかるコスト

 AcT:  期間Tにおける、アクセスにかかるコスト

 ST:   期間Tにおける、蓄積にかかるコスト

 PT:   期間Tにおける、保存にかかるコスト

 

 このライフサイクルモデルでは、発生する各業務を要素(element)と呼び、それらのうち、典型的に同時期に発生・再発生するものを高次でグループ化したものをステージ(stage)と呼ぶ。上記の計算式に現れている収集、受入などがステージであり、計算式は各ステージで発生するコストを加算する形になっているが、実際のコスト算出は要素のレベルで行われる。各ステージとそれに属する要素を図示したのが表1である(5)。最も上の行がステージであり、各ステージの列に要素が並んでいる。

 

表1 ライフサイクルモデル バージョン1におけるステージと要素

表1 ライフサイクルモデル バージョン1におけるステージと要素

出典:(5)(日本語訳は筆者)

 収集ステージには、資料の選択、蓄積・保存・アクセスにかかる知的財産権やライセンスなどの処理、発注・会計処理、入手、検収といった要素が含まれる。

 受入ステージには、収集したデジタル情報資源が十分な品質を有するか、ウィルスに感染していないかといった品質確認、蓄積・保存用のリポジトリへの登録(デポジット)、目録やウェブサイトに含まれている所蔵情報の更新、の各要素が含まれる。

 メタデータステージは、当該のデジタル情報資源の特性を分析しメタデータを抽出する特性解析作業(characterisation)、記述用メタデータ、管理用メタデータを付与する作業から構成されている。なお、保存用のメタデータの付与や更新は、保存ステージに含まれている。

 アクセスステージでは、デジタル情報資源を参照するリンクの維持管理、利用者からの問い合わせなどに対応するユーザサポート、デジタル情報資源へのアクセスを提供する仕組みにかかるコストが含まれる。

 蓄積ステージは、デジタル形式の情報をそのまま蓄積する「ビットストリームの保存」(bit-stream preservation)のためのシステムや装置(ハードディスクなど)にかかるコストからなる。

 保存ステージは、旧式化(obsolescence)したデジタル情報資源を再生できるようにするための業務からなる。保存処置が必要か否かを記録フォーマットごとに監視する技術監視(technology watch)、実際に保存処置が必要となった場合に必要となるツールのコスト、保存処置そのものと、保存処置に伴うメタデータの更新、保存処置により生成された新しいデジタル情報資源の品質確認の各要素が含まれる。なお、ここで言う「保存処置」には、一括して最適な形式に変換するマイグレーション(migration)、旧式の記録フォーマットを再生できる環境を擬似的に再現するエミュレーション(emulation)、リクエストに応じて個別に実施するマイグレーション(migration on request)の3つが想定されているが、コレクションの点数に比例してコストが発生する一括マイグレーションを特に意識して、コスト試算モデル(後述)を作成している。なお、LIFEプロジェクトでは一括マイグレーションを正規化(normalisation)とも呼んでいる。

 LIFE1ではこのモデルに従い、ケーススタディとして、(a)BLに自発的に寄贈された電子出版物(パッケージ系およびネットワーク系)のコレクション(VDEP)、(b)英国ウェブアーカイビングコンソーシアム(UKWAC)の一部としてBLが実施したウェブアーカイビングのコレクション、(c)UCLが契約した電子ジャーナル、の3種類のコレクションについて、保存期間が1年間、5年間、10年間の3パターンのコストを算出した(6)(7)。基本的には、ライフサイクルモデルの要素ごとに、設備費、構築費、人件費などを計算・記録していくことで、ライフサイクルコストを算出したが、保存ステージの各要素(業務)についてはいずれのコレクションでも実施していなかったため、コレクションの特徴から保存にかかるコストを試算するための包括的保存モデル(Generic Preservation Model:GPM)を構築して試算した(8)。このGPMでは、記録フォーマットごとに定めた「複雑さ」の係数、記録フォーマットごとのコンテンツ数、一括マイグレーションを行って対応すべきコンテンツの比率などを用いて計算するようになっており、複雑な記録フォーマットのファイルが多いほど、また一括マイグレーションしなければならないコンテンツが多いほど、保存ステージのコストは高くなる。たとえばMicrosoft WordフォーマットやPDFフォーマットなどの文書用フォーマットは、プレーンテキストファイルの8倍の係数が掛けられることになっている。こうして算出されたライフサイクルコストの概要を、LIFE1最終報告書に基づいて筆者が表にしたのが表2である。なお最終報告書では、各コレクションについて、要素ごとにどのような方法でコストを算出(保存ステージについては試算)したのかが詳述されている(6)。

表2 LIFE1でのケーススタディの結果概要

表2 LIFE1でのケーススタディの結果概要

出典:(6)を元に筆者が作成。

 このケーススタディの結果、VDEPの場合はメタデータと蓄積、ウェブアーカイブでは保存、電子ジャーナルでは収集と、コストが高いステージが異なっていた。またBLではVDEPを利用に供していない、電子ジャーナルの場合はUCL内のシステムに受け入れたりそこで蓄積、保存したりするわけではない、といった理由により、コレクションによってはコストがゼロとなったステージもあった。このように、コレクションの特性が異なっていても、コストの算出を行うことができたということで、LIFEプロジェクトではLIFE1により、ライフサイクルモデルを用いたコスト算出アプローチの実用性・有効性が明らかになったとしている。また、どのような課題があるかも抽出できたとしており、とりわけ受入、メタデータの両ステージについては、デジタル情報資源の保存に適したツールの開発により、コストを大きく削減できることが示唆された。

 

3. LIFE2プロジェクト(2007~2008)

 LIFE1の後、デジタル情報資源のライフサイクルについて、より正確に評価、コスト算出、比較を行えるようにする必要がある、と考えたLIFEプロジェクトチームは、さらなる助成を得て2007年から18か月間、プロジェクト第2フェーズ“LIFE2”を実施した。ここでは、LIFE1のライフサイクルモデルの経済的妥当性の検証、(LIFE1で扱ったコレクションがいずれも最初からデジタル形式で作成された「ボーン・デジタル」のものであったことから)ボーン・デジタルでないデジタル情報資源も対象としたケーススタディに基づくライフサイクルモデルのさらなる開発、ライフサイクルモデルをアナログ(=紙の)資料にも適用してデジタル情報資源のライフサイクルコストと比較すること、といった目標が掲げられた。

 LIFE2ではまず、LIFE1のライフサイクルコスト算出モデルについて、経済学者による独立評価、LIFEプロジェクトチームによる独立評価を行うとともに、王立図書館などが参加しているデンマークのコンソーシアムや英国内の高等教育機関といった、デジタル保存に関連するコミュニティからのフィードバックも募集した。このうち経済学者による独立評価では、このモデルがおおむね有効であるとされた一方で、アナログ資料にも適用できるよう拡張すべきであること、インフレの影響を考慮した実質費用で計算すべきであること、値引きを考慮すべきではないこと、といった多くの有益な勧告が得られたという(9)。

 これらの勧告や意見に基づいて、LIFEプロジェクトチームはライフサイクルモデルの改訂版バージョン1.1を作成した(10)。あわせて、GPMも試算方法を見直してバージョン1.1とした(11)。そして、これらのモデルに基づいて、(i)UCL、BLも参加している英国の機関リポジトリ推進プログラムSHERPA(Securing a Hybrid Environment for Research, Preservation and Access)のプロジェクトのひとつで、協同保存リポジトリの構築をめざす“SHERPA-DP”、(ii)UCLをはじめロンドン大学を構成する13大学によるリポジトリ連合SHERPA-LEAP内の3つの機関リポジトリ、(iii)BLが1918年に購入した17~18世紀の新聞コレクションをデジタル化した“Burney Digital Collection”および納本制度に基づいて収集した(紙の)新聞コレクション、の3つのコレクション(群)のライフサイクルコストを算出するケーススタディを実施した(12)。それぞれ、デジタル情報資源の保存を外部に委託して実施する場合のコストを算出し自館で実施する場合と比較可能とすること、機関リポジトリが普及してきていること、ライフサイクルコストの観点からアナログ資料とデジタル情報資源とを比較可能とすること、を目的として、ケーススタディの対象として選定された。このケーススタディの結果の概要を、LIFE2最終報告書、計算シートなどに基づいて筆者が表にしたのが表3である。

表3 LIFE2でのケーススタディの結果概要

表3 LIFE2でのケーススタディの結果概要

出典:(12)を元に筆者が作成。

 LIFE1のケーススタディとの大きな違いとしては、対象の各機関やプロジェクトがライフサイクルを的確に把握し、ライフサイクルコストを容易に算出できるようにするための表計算シートを作成したことと、GPMではなく、各機関が実際に行っている保存活動をもとに保存ステージのコストを算出したことが挙げられる。各機関とも保存に関する活動はさほど行っていないため、LIFE1に比べ全般的に保存に関するコストが低くなっている。とりわけSHERPA-LEAP内のUCLの機関リポジトリの場合、SHERPA-DPに保存活動をゆだねる格好となっているため、保存ステージのコストはゼロとなっている。なお、BLが納本制度で収集した紙の新聞については、マイクロフィルム化にかかるコストなどを、保存処理のコストとして算定している。

 LIFEプロジェクトチームはこれらのケーススタディの結果を受け、さらにライフサイクルモデルを改訂しバージョン2を作成した(13)。

 

ライフサイクルモデル バージョン2

LT=C+AqT+IT+ BPT+CPT+AcT

 

LT:期間T全体にかかるライフサイクルコスト

 C:     製作または購入にかかるコスト

 AqT:期間Tにおける、収集にかかるコスト

 IT:    期間Tにおける、受入にかかるコスト

 BPT:期間Tにおける、ビットストリームの保存にかかるコスト

 CPT:期間Tにおける、内容の保存にかかるコスト

 AcT:  期間Tにおける、アクセスにかかるコスト

 

表4 ライフサイクルモデル バージョン2におけるステージと要素

表4 ライフサイクルモデル バージョン2におけるステージと要素

出典:(13) p.32(日本語訳は筆者)

 バージョン1と比べると、ステージのレベルでも大きな変更が行われていることがわかる。

 まず、「製作または購入」が新しいステージとして加わった。これは、コスト算出においては任意のステージと位置づけられており、組織内で紙からデジタル化して保存する場合にはその製作費を算出するなど、必要に応じて適用するとされている。

 収集ステージには、デジタル情報資源を提出してくれる供給者との間で発生する、記録フォーマット、提出方法や頻度などに関する合意形成のプロセスが新たに加わった。また知的財産権処理とライセンス処理が統合された。

 受入ステージには、バージョン1およびバージョン1.1では独立したステージとなっていたメタデータ(作成)ステージが1要素として加わった。またアクセスステージからも、参照リンクの維持管理が加わった。

 バージョン1で蓄積ステージと呼ばれていたものは、ビットストリームの保存ステージへと名称が変わり、その要素が、リポジトリの管理・運営、蓄積に必要な機器の購入や管理、機器の更新に伴うデータ移行、バックアップ、データの真正性の検査の5つへと分割・詳細化された。

 同様に保存ステージも、内容の保存ステージと名称が改められ、どのような保存処置を取るかを決定する保存計画、保存処置後の再受入、デジタル情報資源の廃棄が加わるなど、明確化された。この両ステージの名称変更は、「保存」という語が多義的に用いられることが多いことを考慮して、デジタル形式の情報をそのまま保存するビットストリーム保存、必要に応じて形式を変換するなどして内容を再生できるようにする内容保存と、その違いを明確にするために行われた。

 また、保存の問題を解決して初めてアクセスが可能になることの象徴として、アクセスステージがライフサイクルの最後に置かれるようになった。ここには新たにアクセス管理が要素として加わった。

 このほか、各要素を構成するより小さな作業単位として、下位要素(sub-element)が規定された。

 LIFEプロジェクトチームではLIFE2により、デジタル情報資源のライフサイクルモデル、コスト算出方法の経済的妥当性が認められるとともに、方法論をより洗練させることができたと評価している(14)。また、LIFEプロジェクトについて、デジタル保存コミュニティや英国の高等教育機関に広く知ってもらえたことも成果として挙げている。ケーススタディからは、協同保存リポジトリのような外部サービスを利用することの有効性、ライフサイクルモデルのアナログ(紙)資料への適用可能性が明らかになったとしている。このうちの後者は、アナログとデジタルのライフサイクルコストの比較の道を開くものである。このほか、SHERPA-LEAPの3つの機関リポジトリのコストの差について、リポジトリの成熟度、スタッフの習熟度、収録されているコンテンツの多様性などによるものだと分析している。

 ただし一方で、このようなコスト算出の試みはまだ生まれたばかりであり、今回の算出結果も真に正確なものではないとして、より正確なものにするためにはより多くの「コストに関する生のデータ」が必要であると、今後の取り組みの必要性も強調している。

 

4. LIFE3、そしてこれから

 LIFEプロジェクトは2009年8月から、JISCおよび英国研究情報ネットワーク(RIN)の助成を受けて、第3フェーズ“LIFE3”を開始すると発表している。このLIFE3では、既に資産としているデジタル情報資源、新たに資産とするデジタル情報資源の両方のライフサイクルコストを統合的に算出できるようなツールの開発が目標とされている。そしてこのツールは、コレクションの特性や保存を行う組織の特性を入力することでコストが算出されてくるような簡便なものとし、研究者や図書館などが、保存計画を立案するのにつながるものとすることが目指されている。そして、有効なツールを開発するために、各機関に対し、デジタル情報資源に関する業務のコストを記録し、その記録をデジタル保存コミュニティが広く共有できるようにと協力を呼びかけている。

 デジタル情報資源の長期保存、長期利用保証が図書館の課題としても認識されつつある現在、本稿で紹介したLIFEプロジェクトの成果、さらにはエビデンス(CA1625 [184]参照)を積み重ねてライフサイクルモデルやコスト算出方法をさらに洗練していくというプロジェクトの方法論は、日本の図書館にとっても大いに参考になろう(15)(16)。

関西館電子図書館課:村上浩介(むらかみ こうすけ)

 

(1) “レーザーディスクプレーヤー生産終了のお知らせ”. パイオニア.
http://pioneer.jp/press/2009/0114-1.html [185], (参照 2009-08-27).

(2) たとえば、電子ジャーナルのアーカイビングに関するさまざまな取り組み(CA1597 [186]、CA1645 [187]参照)、リスク評価に基づくデジタルリポジトリ監査法“DRAMBORA”(CA1681 [188]参照)などがよく知られている。このようなデジタル情報資源の保存に関する研究・取り組みの最新動向は、デジタルオブジェクトの保存に関する国際会議“iPRES”などで知ることができる。
“iPRES 2009”. California Digital Library.
http://www.cdlib.org/iPres/ [189], (accessed 2009-08-27).
なお国立国会図書館も、電子情報の長期的な保存と利用に関する調査を2002年度から行っている。
“電子情報の長期的な保存と利用”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation.html [190], (参照 2009-08-27).

(3) Shenton, Helen. Life Cycle Collection Management. LIBER Quarterly. 2003, 13(3/4), p. 254-272.
http://liber.library.uu.nl/publish/articles/000033/article.pdf [191], (accessed 2009-08-27).
なおBLの資料保存部門の長としてこの論文を執筆したシェントン(Helen Shenton)は、同職のままLIFEプロジェクトチームのメンバーとなっている。

(4) “The chosen methodology: a lifecycle approach”. Lifecycle information for e-literature: full report from the LIFE project. LIFE Project, 2006, p. 9-16.
http://eprints.ucl.ac.uk/1854/ [192], (accessed 2009-08-27).

(5) “The lifecycle methodology”. Lifecycle information for e-literature: a summary from the LIFE project. LIFE Project, 2006, [p. 4].
http://eprints.ucl.ac.uk/1855/ [193], (accessed 2009-08-27).

(6) Lifecycle information for e-literature: full report from the LIFE project. LIFE Project, 2006, p. 17-89.
http://eprints.ucl.ac.uk/1854/ [192], (accessed 2009-08-27).
なお、このLIFE1の最終報告書には、数値や表のキャプションなどの誤記が各所に存在するので注意が必要である。

(7) ちなみにBLのウェブアーカイブについては、20年間のライフサイクルコスト(1サイトあたり13,731ポンド)も算出している。

(8) “The Generic LIFE Preservation Model”. Lifecycle information for e-literature: full report from the LIFE project. LIFE Project, 2006, p. 90-107.
http://eprints.ucl.ac.uk/1854/ [192], (accessed 2009-08-27).

(9) “An Economic Review of LIFE”. The LIFE2 final project report. LIFE Project, 2008, p. 14-15.
http://eprints.ucl.ac.uk/11758/ [194], (accessed 2009-08-27).

(10) “From LIFE Model v1 to v1.1”. The LIFE2 final project report. LIFE Project, 2008, p. 30-31.
http://eprints.ucl.ac.uk/11758/ [194], (accessed 2009-08-27).

(11) “Generic Preservation Model v1.1”. The LIFE2 final project report. LIFE Project, 2008, p. 34-36.
http://eprints.ucl.ac.uk/11758/ [194], (accessed 2009-08-27).
ただし、LIFE2のケーススタディでは(GPMを使わずに)「内容の保存」ステージにかかった実際の費用を算出しているため、GPMの新しいモデルの検証は、LIFE1のケーススタディに再度適用することで行われている。

(12) The LIFE2 final project report. LIFE Project, 2008, p. 38-99.
http://eprints.ucl.ac.uk/11758/ [194], (accessed 2009-08-27).
このLIFE2の最終報告書にも、誤記が各所に存在するので注意が必要である。数値については、各ケーススタディで作成された表計算シートをもとに確認した。
“LIFE2: Documentation”. LIFE Project.
http://www.life.ac.uk/2/documentation.shtml [195], (accessed 2009-08-27).

(13) “LIFE Model v2”. The LIFE2 final project report. LIFE Project, 2008, p. 17-33.
http://eprints.ucl.ac.uk/11758/ [194], (accessed 2009-08-27).
ただしバージョン1からの修正の大半は、バージョン1.1でなされている。

(14) “Findings and Conclusions”. The LIFE2 final project report. LIFE Project, 2008, p. 100-115.
http://eprints.ucl.ac.uk/11758/ [194], (accessed 2009-08-27).

(15) このLIFEプロジェクトのほかにも、米国国立航空宇宙局(NASA)による学術データのライフサイクルコスト算出ツール“CET”構築の試みや、オランダ王立図書館によるe-Depot(CA1597 [186]、CA1645 [187]参照)のコスト算出の試み、ビーグリー(Neil Beagrie)らによる研究データの長期保存にかかるコスト算出の試みなど、類似の試みが各所で行われている。
“Cost estimation toolkit and comparables database”. NASA.
http://opensource.gsfc.nasa.gov/projects/CET/CET.php [196], (accessed 2009-08-27).

“Long-term preservation of scientific publications in practice: The KB e-Depot”. Curating Research: e-Merging New Roles and Responsibilities in the European Landscape. Hague, 2009-04-17, Koninklijke Bibliotheek. 2009.
http://www.kb.nl/hrd/congressen/curatingresearch2009/presentations/beagrie-ras.pdf [197], (accessed 2009-08-27).

Beagrie, Neil et al. Keeping Research Data Safe. JISC, 2008, 167p.
http://www.jisc.ac.uk/publications/documents/keepingresearchdatasafe.aspx [198], (accessed 2009-08-27).

(16) なお長期保存・長期利用保証だけを視野に入れたものではないが、日本でも佐藤義則が、LIFEプロジェクトやビーグリーらの研究を背景に、学術機関リポジトリのコスト分析を試みている。

佐藤義則. “機関リポジトリのコスト分析”. 平成20年度CSI委託事業報告交流会(コンテンツ系). 東京, 2009-07-09/10, 国立情報学研究所. 2009.
http://www.nii.ac.jp/irp/event/2009/debrief/pdf/4-5_CostStudy2008.pdf [199], (accessed 2009-08-27).

 

Ref.

“LIFE: Life Cycle Information for E-Literature”. LIFE Project.
http://www.life.ac.uk/ [200], (accessed 2009-08-27).

Wheatley, Paul. “Costing the Digital Preservation Lifecycle More Effectively”. Proceedings of The Fifth International Conference on Preservation of Digital Objects. London, 2008-09-29/30, British Library. 2008, p. 122-126.
http://www.bl.uk/ipres2008/ipres2008-proceedings.pdf [201], (accessed 2009-08-27).

Ayris, Paul. LIBER's Involvement in Supporting Digital Preservation in Member Libraries. LIBER Quarterly. 2009, 19(1), p. 22-43.
http://liber.library.uu.nl/publish/articles/000275/article.pdf [202], (accessed 2009-08-27).

 


村上浩介. デジタル情報資源の管理・保存にいくらかかるのか?-ライフサイクルコストを算出する試み“LIFE”. カレントアウェアネス. 2009, (301), CA1696, p. 20-26.
http://current.ndl.go.jp/ca1696 [203]

  • 参照(22822)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
メタデータ [204]
資料保存 [205]
電子情報保存 [206]
録音資料 [207]
デジタル化 [16]
視聴覚資料 [208]
英国 [209]
BL(英国図書館) [210]
JISC(英国情報システム合同委員会) [211]

No.300 (CA1688-CA1690) 2009.06.20

  • 参照(36839)

pdfファイルはこちら [212]

「図書館・図書館情報学の情報誌」としての期待 / 長尾真

  • 参照(27966)

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

創刊300 号・30 周年記念巻頭言

 

「図書館・図書館情報学の情報誌」としての期待

 

国立国会図書館長 長尾 真

 

 『カレントアウェアネス』が創刊300 号を迎えました。また、来る8 月には創刊30 周年を迎えます。本誌は現在関西館図書館協力課が編集・刊行を担当しておりますが、担当職員の努力を多といたしますとともに、外部の編集企画員としてお願いしてまいりました図書館情報学関係の研究者の方々のご協力に心からお礼申し上げます。

 国立国会図書館は日本を代表する図書館として国際的に活躍するとともに、一方では国内の各種図書館、図書館研究者等に対して種々のサービスを提供し、支援を行いながら、相互協力によって日本の図書館活動が将来に向けてより良いものになっていくべく努力をしております。

 『カレントアウェアネス』は図書館活動に関係する世界各国の各種のニュースを掲載するとともに、種々の課題について簡潔なまとめの報告を提供しております。それぞれの記事についてはその根拠となった詳細な資料リストを添えております。そういった意味で『カレントアウェアネス』は単に情報をお伝えするだけでなく、調査研究などのためにも役に立つ非常に高度な内容をもったものでもあります。

 そういった努力をして来ました結果かと思いますが、本誌は国内外の図書館・図書館情報学の動向に関する情報誌として、図書館界で高く評価されていることは大変ありがたいことであります。また、図書館類縁機関、出版界、IT関連業界、さらには一般の方々からも多くの注目をいただいております。

  『カレントアウェアネス』は冊子体のもののほかに、「カレントアウェアネス・ポータル」としてインターネット経由で見ていただくものを出しております。そのなかには「カレントアウェアネス-R」や「カレントアウェアネス-E」などがあって、これらは本誌にくらべてもっとニュース性、速報性を主体とした内容となっております。このウェブサイトは最近では20万アクセス/月という頻度で利用されるようになって来ております。

 本誌およびこのウェブサイトは当館の情報収集・調査研究の成果を社会に還元し、国内外の図書館や関連する学問分野等の発展に資するための活動として、今後ますます充実したものとしていきますので、どうかご愛顧くださいますようお願いいたします。

 ご意見などもお寄せいただければ幸いです。どうかよろしくお願い申し上げます。


長尾真. 「図書館・図書館情報学の情報誌」としての期待. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.2.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_nagao [213]

カレントアウェアネス [13]

『カレントアウェアネス』30年の歩み / 関西館図書館協力課

  • 参照(21357)

 

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

『カレントアウェアネス』30年の歩み

 

 『カレントアウェアネス』は1979年8月、「図書館に関する最新情報の速報による提供」のための月刊の情報誌として創刊されました。創刊当初は、国立国会図書館(NDL)職員向けの(図書館情報学用語としての)カレントアウェアネスサービスを担うメディアとして位置づけられており、『カレントアウェアネス』の名称も、そこから取られました。ちなみにその最初の記事は、NDL の客員調査員として編集・企画にご助言をいただいていた牛島悦子氏による「学術審議会中間報告「今後における学術情報システムの在り方について」(昭和54年6月)」でした。

 1989年6月、『カレントアウェアネス』の日本図書館協会による複製・NDL外部への頒布が開始されます。これを機に、『カレントアウェアネス』は掲載記事の質・量の拡充を行い、広く図書館界を意識した雑誌へと展開しました。2009年6月現在、ウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」(http://current.ndl.go.jp/ [214])で全文が公開されているのは、この1989年6月以後の記事です。

 2002年6月、NDL関西館の開庁にあわせて、編集担当が関西館の図書館協力課に移りました。このとき、誌面をリニューアルしてNDL外部の執筆者を増やすとともに、刊行頻度を月刊から季刊に、判型をB5判からA4判に変更しました。記事の編集・企画についても、新たに「図書館情報学関係情報誌の編集企画員」としてNDL外部の図書館・図書館情報学関係の有識者複数名を委嘱し、編集企画員の支援・助言のもと、決定する体制としました。また同年10月には、新たにメールマガジン『カレントアウェアネス-E』が創刊されました。原則として月2回(年間では22回)刊行される『カレントアウェアネス-E』は、その名称が表すとおり、「Electronic」「E-mail」の形で、『カレントアウェアネス』と連携し、またそれを補完して、図書館に関する最新情報をより速く、より多くの方に提供するメディアと位置づけられています。さらに同年から、刊行後直ちに『カレントアウェアネス』『カレントアウェアネス-E』の全文を、NDLホームページでも公開するようになりました。

 2006年3月、インターネットを通じた情報提供をより速く、より多く、またより効率的に行えるよう、新たなウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」を試験的に開設しました。同年6月に正式に運用を開始したこの「カレントアウェアネス・ポータル」では、NDLホームページで提供していた『カレントアウェアネス』『カレントアウェアネス-E』の全文を引き続き提供するとともに、新たにブログ形式で最新のニュースを毎営業日に提供する「カレントアウェアネス-R」を開始しました。これは、「図書館に関する最新情報の速報による提供」を担うという意味で『カレントアウェアネス』の名を冠し、「Realtime(即座)」「Rich(豊か)」「Regularly(欠くことなく定期的)」に、また「RSS」の形で提供するという意味を込めて名付けられました。

 「カレントアウェアネス・ポータル」の公開以後、編集担当では各コンテンツの特徴を以下のように色づけています。

雑誌『カレントアウェアネス』(CA)
季刊。動向の詳しい解説・レビューが中心。
メールマガジン『カレントアウェアネス-E』(CA-E)
月2回刊。注目トピックを少し詳しく紹介。
ブログ形式の「カレントアウェアネス-R」(CA-R)
ほぼ日刊。最新ニュースを情報源とともに速報。

カレントアウェアネス・ポータルの各コンテンツ関連図

 これからも本誌『カレントアウェアネス』及び『カレントアウェアネス-E』「カレントアウェアネス-R」、そしてポータルサイト「カレントアウェアネス・ポータル」のいっそうの充実を図ってまいりますので、ご愛読いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

関西館図書館協力課


関西館図書館協力課. 『カレントアウェアネス』30年の歩み. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.3.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_history [215]

カレントアウェアネス [13]

『カレントアウェアネス』関連年表

  • 参照(19691)

 

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

『カレントアウェアネス』関連年表

 

年月『カレントアウェアネス』関連NDL関連
1979(昭和54)6 総務部企画教養課内に図書館情報室を設置
8『カレントアウェアネス』(月刊)創刊
図書館情報室が編集を担当
 
1984(昭和59)4参考書誌部一般参考課が編集を担当 
1986(昭和61)6図書館研究所が編集を担当組織改正(図書館研究所の設置など)
9 新館開館
1987(昭和62)11第100号を刊行 
1989(平成元)6日本図書館協会を通じNDL外への頒布を開始
(第118号~)
 
1996(平成8)4第200号を刊行 
2000(平成12)5 国際子ども図書館開館(第一期)
2002(平成14)4関西館事業部図書館協力課が編集を担当組織改正(関西館設置など)
5 国際子ども図書館全面開館
6『カレントアウェアネス』季刊化(第272号~)
判型をB5判からA4判に変更
 
10メールマガジン『カレントアウェアネス-E』創刊関西館開館
2006(平成18)3「カレントアウェアネス・ポータル」の試験公開開始
ブログ形式のニュース速報「カレントアウェアネス-R」開始
 
6「カレントアウェアネス・ポータル」の本格運用開始 
2007(平成19)4 関西館の部を廃止
2009(平成21)6第300号を刊行 

 


『カレントアウェアネス』関連年表. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.4.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_chronology [216]

カレントアウェアネス [13]

『カレントアウェアネス』編集にご協力いただいた図書館情報学有識者の方々

  • 参照(21716)

 

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

 

『カレントアウェアネス』編集にご協力いただいた図書館情報学有識者の方々


■客員調査員・非常勤調査員等(敬称略,着任順)

○東京本館で編集を行っていた時期(~2002.3)
 牛島 悦子(元 白百合女子大学)
 田村 俊作(慶應義塾大学)
 野末 俊比古(青山学院大学)
○関西館で編集を開始して以後(2002.4~)
 村上 泰子(関西大学)
 岩崎 れい(京都ノートルダム女子大学)
※渡邊 隆弘(帝塚山学院大学)
■図書館情報学関係情報誌の編集企画員(敬称略,着任順)
 堂前 幸子(元 神戸文化短期大学)
※呑海 沙織(筑波大学)
※野末 俊比古(青山学院大学)
※森山 光良(岡山県立図書館)
※北 克一(大阪市立大学)
※松林 正己(中部大学附属三浦記念図書館)
※佐藤 義則(東北学院大学)
※渡邊 隆弘(帝塚山学院大学)

※印は平成21年6月現在、当該の職を委嘱している方々。( )内は平成21年6月時点のご所属。


『カレントアウェアネス』編集にご協力いただいた図書館情報学有識者の方々. カレントアウェアネス. 2009, (300), p. 4.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_contributors [217]

カレントアウェアネス [13]

小特集 カレントアウェアネス創刊300号・30周年に寄せて

  • 参照(7204)

 

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

小特集 カレントアウェアネス創刊300号・30周年に寄せて

 

 本誌の創刊300号・30周年にあたり、これまで客員調査員、編集企画員などの肩書きのもと、『カレントアウェアネス』の企画・編集にご助力いただきました図書館情報学関係の研究者の方々のうち3名から、これまでの『カレントアウェアネス』を振り返る記事をご寄稿いただきました。

 

  • 『カレントアウェアネス』の編集に係わって / 田村俊作 [218]
  • 『カレントアウェアネス』-「変わったこと」と「変わらないこと」 / 野末俊比古 [219]
  • 『カレントアウェアネス』300号への道程 / 北克一 [220]

 

カレントアウェアネス [13]

『カレントアウェアネス』の編集に係わって / 田村俊作

  • 参照(19617)

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

『カレントアウェアネス』の編集に係わって

 

 『カレントアウェアネス』が300号、創刊30周年を迎えたとのこと、編集に多少とも係わった一人として、いささかの感慨がある。

 『カレントアウェアネス』の創刊が1979年の8月、私が客員調査員として勤務したのが1990年の6月から2002年の3月までであるので、刊行期間全体の3分の1強に係わったことになる。以下思い出話を中心に書き綴ってみたい。個人的な思い出なので、記憶違いも多々あるかと思うが、ご容赦いただきたい。

 私が係わっていた当時、『カレントアウェアネス』は月刊で、当時の図書館協力部にあった図書館研究所が編集・発行していた。事務局を担当したのは、研究所内の支部図書館課図書館情報係である。毎月1回、各部局から兼務で出てきていた編集委員と、図書館情報係、それに客員調査員で編集委員会を開き、取り上げる記事の企画、執筆者、担当編集委員などを決めていた。

 掲載する記事は毎号5~6本、図書館に関連する内外の動向をなるべく広く目配りするように配慮していた。類似の記事を掲載するものに、『図書館雑誌』(日本図書館協会刊行)のニュース欄と、『情報管理』(科学技術振興機構刊行。当時は日本科学技術情報センター、次いで科学技術振興事業団の名で刊行)などの海外文献紹介欄があった。海外文献紹介欄はもともとねらいが違うので、編集の際に特に意識することはなく、むしろ海外文献のチェックをする際参考にした。海外の記事はどうしても米英中心になってしまうため、なるべく世界各国・地域に関する話題も取り上げるようにした。また、トピックも政策、サービス、資料組織等と分散するように配慮した。

 一方、『図書館雑誌』のニュース欄にはわが国の図書館界のニュースがいち早く掲載されるので、『カレントアウェアネス』としての独自性を出すことに苦労し、結局あまりうまくいかなかった。どうしてもニュースが後追いになってしまうため、『カレントアウェアネス』では少しまとまった動向レビュー的な記事にしようとしたのだが、そうなると今度は書くのが難しくなり、なかなか記事としてまとめられなかった。結果的に、記事の中心は海外の動向になった。国内記事であふれる今日のウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」を見ると、隔世の感がある。

 客員調査員として、『カレントアウェアネス』の編集に関連する私の主な任務は、内外の雑誌や新着図書をチェックして、記事になりそうなトピックを探すことと、事務局に寄せられた原稿を校閲することであった。前任者は牛島悦子先生だったが、牛島先生が退職されてから私が就任するまでに若干の空白期間があったため、直接業務の引継ぎを受けることはなかった。そのため、これといった明確な指摘はできないのだが、牛島先生の時代とでは誌面に違いがあるのではないかと考えている。

 記事の材料探しは、主に図書館研究所が管理する図書館学資料室で行った。私が勤務する慶應義塾大学の三田メディアセンター(慶應義塾図書館)にも図書館・情報学資料室があり、内外の文献を豊富に揃えていたが、研究・教育に関連したものを収集するために、外国文献はどうしても英語中心になってしまう。それに対し、国立国会図書館(NDL)の図書館学資料室は世界各国・地域の文献を広く収集しており、さすがに全世界を相手にする国立図書館は違うと感心したことを覚えている。

 とは言え、私の乏しい語学力では多様な言語で書かれた文献を読みこなせるはずもなく、トピックの発掘や執筆には、編集委員を中心にNDL職員の方々に助けられることが多かった。特にアジア資料課や海外事情課などで海外文献をチェックしている方々から寄せられる情報はたいへんありがたく、また、NDLが単に資料を収集・提供するだけでなく、それを読みこなし、活用する力を備えた組織であることを実感した。かつて中井正一NDL初代副館長はNDLを中央気象台に例えて、毎日の新聞など、同館が収集する個々の資料は気圧報告に相当するもので、調査員がそれを整理することによって、気圧配置が明らかになり、気象の変化を知ることができる、NDLがわが国において果たす役割はそのようなものだ、と記した(1)。図書館の動向という限られた領域ではあったが、NDLのそのような力を目の当たりにしたのは得難い経験だった。

 執筆はNDLの若手職員を中心に依頼した。これは『カレントアウェアネス』の発行に若手職員の研修という役割も持たせていたからである。そのため、寄せられた原稿は内容・表現ともかなり丁寧にチェックし、修正した。内容面では、原文献はもとより、関連文献に当たって、裏付けをとるように心がけた。裏付けとなる文献を捜して書庫内を動き回ったが、NDLが所蔵する多様な資料に触れる良い機会となり、これも楽しい経験だった。

 表現面では、固有名の表記に注意した。図書館関係では、用語辞典や雑誌に収録された用語解説のたぐいを集めて、常時参照できるようにしていた。また、海外の情報をいち早く伝えているという意識から、記事に出てくる新語に対して、記事番号の先頭に「T」をつけた用語解説を載せるようなことも行った。人名や地名はそれぞれの辞典を調べた。政府組織については『主要国行政機構ハンドブック  改訂版』(ジャパンタイムズ、1993)などを参照したが、英国などでは行政組織の変化が激しく、適切な名称を見つけるのに苦労した。

 年に1回は特集を組んだ。一人の編集委員を中心に企画を立て、記事の構成や関連文献の収集を行った。特定の領域の動向を広く概観する機会となり、私自身にとっても学ぶところが多かった。

 関西館の開館に伴う機構改革で図書館研究所がなくなり、図書館に係わる調査研究機能が資料と共に関西館に移ることになったときに一番心配したことの一つが、『カレントアウェアネス』の存続だった。関西館での新体制を検討する中で、図書館研究所のサービスに対する関係者の意見聴取を行ったが、『カレントアウェアネス』については存続を希望する声が圧倒的に多かった。中でも、日本の図書館史・図書館事情が専門で、外国事情にはさほど興味をお持ちではないのではないかと考えていた某重鎮から、『カレントアウェアネス』がとても役立っていると言われたときは嬉しかった。それだけに、東京本館の職員の日常的な協力が期待できない中で、文献をチェックして記事の材料を探し、執筆を依頼する、といったことが果たしてできるものかどうか、心配でならなかった。速報を主体とするメールマガジンの『カレントアウェアネス-E』を発刊し、印刷体の『カレントアウェアネス』を季刊にする、という構想のねらいの一つも、執筆者を確保する負担を減らすための苦肉の策という一面があったように記憶する。

 関西館が開館し、『カレントアウェアネス』が新発足して以来、以上の懸念を吹き飛ばし、発展を遂げているのは誠に喜ばしい。私なども、原稿を書いたりするときには、「カレントアウェアネス・ポータル」で関連記事をチェックするように心がけているが、さまざまな動きを実にまめに記事として掲載しているので助かっている。最新動向に関する情報収集が、雑誌や新聞などの印刷物からインターネット中心へと変わってきていることにうまく対応したということなのだろうが、そうした変化をうまく捉まえ、ポータルサイトへと発展させた関係者の才覚と努力に敬意を表したい。

 「カレントアウェアネス・ポータル」はいまや図書館をめぐる内外の動向を知る不可欠のツールになっている。今後共、動向の変化をうまくキャッチし続け、情報発信の方法に絶えず気を配りながら、一層の成長を期待したい。

慶應義塾大学:田村俊作(たむら しゅんさく)

(1) 中井正一. 論理とその実践. てんびん社, 1972, p. 102-3.

 


田村俊作. 『カレントアウェアネス』の編集に係わって. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_tamura [218]

カレントアウェアネス [13]

『カレントアウェアネス』-「変わったこと」と「変わらないこと」 / 野末俊比古

  • 参照(22662)

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

『カレントアウェアネス』-「変わったこと」と「変わらないこと」

 

 『カレントアウェアネス』(CA)は、2002年3月までは国立国会図書館(NDL)東京本館において、2002年4月以降は同関西館において、編集が行われてきた。非常勤調査員および編集企画員として、東京・関西の両方で編集に関わってきた立場として、CAに対して思うところを述べてみたい。もっとも、編集の意図や様子などについては、その変遷を含めて、すでに本号他稿(特に田村先生、北先生による記事)において述べられているはずなので、私としては、東京時代の旧CAから、関西時代の新CAへの「変化」に対する雑感を、思うままに記させていただくことにする。以下の記述は、すべて私の個人的な経験と見解に基づくものである。

 旧CAと新CAとは、大きく変化した。月刊の冊子である旧CAは、図書館や図書館情報学における最近の動向について、比較的コンパクトな分量の記事で紹介していた。これに対し、新CAは、季刊の冊子(ウェブでも公開されるが)となり、やや長期的なスパンで動向をとらえて(必ずしも速報性を第一義としないで)解説する記事が中心となっている。記事の分量も長めになった。図表を交えた説明もしばしばなされるようになり、視覚的なわかりやすさも増した。新CAのこうした方向性は、「動向レビュー」という記事区分が設けられたことからもわかる。ちなみに、旧CAは、ページ数や刊行頻度の制約などから、こうした方向性を取ることはなかなか難しかった。

  新CAでは、日本に関する事柄を積極的に扱うようになったことも大きな変化であろう。これは、日本における研究文献について、テーマごとにレビューする「研究文献レビュー」という記事区分に象徴されている。旧CAは、もっぱら「海外」を対象としていたが、これは、「国内」については類似他誌・記事に委ねていたことによるところが大きい。CAに対して、NDLによる情報誌ならではの、固有の意義を強く求めていたためであったと思う。

  新CA(冊子)を補完するものとして、速報的なニュース記事を流すメールマガジンの『カレントアウェアネス-E』(CA-E)が刊行されるようになった。また、速報性をいっそう重視した『カレントアウェアネス-R』(CA-R)も開始された。これらを統合して提供しているウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」(CAポータル)は現在、図書館関係者にとって重要な情報源になっている。冊子に留まらず、インターネットでの配信が取り入れられたことも、旧CAから大きく変わった点である。

  CAの編集が東京から関西に移ることが決まったあと、旧CA編集の合間を縫って新CAの形式などについて検討が進められたが、検討のなかで、新CA(冊子)とCA-E(メールマガジン)との「棲み分け」についてかなり議論した記憶がある。旧CAの編集過程においては、CAに掲載される記事の「候補」となる情報(雑誌記事など)がたくさん集められていた。そうした情報のほとんどは、編集会議の結果、「記事」にならずに、担当者の手許に置かれたまま(あるいは廃棄されていたのかもしれないが)、陽の目を見ることはなかった。CA-E(およびCA-R)の記事は、いわば、そうした「CAの記事予備軍」を掲載しているものといえるかもしれない。そうした情報を流すことによって、「読者から新たな情報が寄せられる(あわよくば、読者のなかからCAの記事の執筆者を見つけられる)」という期待も、CA-Eを始めることにした動機のひとつであったと記憶している。

 少々「思い出話」が過ぎたかもしれない。旧CAから新CA(CAポータル)へと、CAは確かに大きく変わってきた。しかし、私自身は、本質的なところは、何も変わっていないと受け止めている。

 CAの根本的な役割は、「国内」の図書館関係者に対し、有用な最近(願わくば最新)の情報を提供することにある。そうした役割は、唯一の「国立」図書館として、わが国の「図書館(界)」を支えていくというNDLの存立意義から生じるものであろう。CAは、いわば、NDLがNDLたる証のひとつであるといえる。

 旧CAの記事が「海外」の情報に限られていたのは、読者である「国内」の図書館関係者にとって、それが「役立つ」と考えられていたからであるといえよう。月刊・冊子という頻度・形態も、当時の読者には便利であったと思われる。しかし、予算・人員削減などが進められる一方で、「インターネット時代」を迎え、学習支援・課題解決支援などといった「新しい(ように見える)」役割も求められるなど、わが国の図書館を取り巻く状況が大きく変化している現在、「国内」の動向についても、さらに迅速かつ正確に、そして効率的に把握・理解する必要が生じるようになった。そうしたなかで、国内の情報も取り扱うことにし、新たな記事区分を設けるとともに、普及したインターネット環境を活用して、速報性と解説性のバランスを少しずつ変えた、CA、CA-E、CA-Rという三つの媒体を展開していくことは、読者のニーズに対応するための「変化」であるといえよう。「変化」の過程でCAの本質的な意義は失われることはなく、むしろ、意義をより強化していくために「進化」を遂げてきたのである。

 今さら言うまでもないことであったかもしれないが、30周年・300号を迎えるにあたり、CAの「原点」を確認しておきたかった次第である。CAに掲載するには忍びない駄文であることは率直にお詫びするが、(ほとんどお役に立っていないとはいえ)編集に関わってきた立場として、CAに込めている「思い」を伝えることにはいくらかの意味はあると考えている。

 実は、編集に携わるなかで見聞きした「裏話」を書こうとも思ったが、それはまた別の機会にしたい。最後に、創刊から現在まで、CAの成長を支えてきたNDL職員をはじめとする関係者の方々(特に編集担当の事務局職員と記事執筆者の方々)のご努力に心から敬意を表して、むすびとしたい。

青山学院大学:野末俊比古(のずえ としひこ)

 


野末俊比古. 『カレントアウェアネス』-「変わったこと」と「変わらないこと」. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.7-8.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_nozue [219]

カレントアウェアネス [13]

『カレントアウェアネス』300号への道程 / 北克一

  • 参照(20821)

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

『カレントアウェアネス』300号への道程

 

 本記事を執筆するにあたって、机上に開いたファイルに少しセピア色を帯びた『カレントアウェアネス』No.272(2002.6.20)がある。冒頭の巻頭言 [221]に次の記事が掲載されている。初代図書館協力課長として関西館事業部に着任された児玉史子氏の執筆である。少し長文になるが、当時の息吹を伝える内容であり、引用したい。

本年4月、国際子ども図書館の全面開館、関西館の開庁のため、当館では大幅な組織改編を行いました。それに伴い業務の再編を行い、本誌の編集業務は新たに設置した関西館事業部図書館協力課が担当することになりました。ここに新編集体制による『カレントアウェアネス』272号をお届けします。

 これより解説機能に重点をおいた冊子体(季刊)とメールマガジンである『カレントアウェアネス-E』の2形態での発行は今に続いている。私自身の『カレントアウェアネス』への編集企画員としてのかかわりもこのときからである。

 ちなみに発足間もない関西館事業部図書館協力課(現:関西館図書館協力課)の2大特命事項(?)は、総合目録ネットワーク(通称「ゆにかねっと」)事業の推進と『カレントアウェアネス』を核とした図書館研究関係事業の円滑な継続・発展であった、と仄聞した記憶がある。

 新生『カレントアウェアネス』は、その早い時期から、一般記事、小特集、動向レビュー、研究文献レビューの区分で構成され、これは現在も継承されている。

 『カレントアウェアネス-E』は、その後『カレントアウェアネス・ポータル』(Current Awareness Portal:図書館に関する情報ポータル)(1)というポータル・サイトへと発展的に展開し、現在では、各記事への年間トータル・アクセス件数がページビュー・カウントで約210万件/年間を超える、日本語の図書館情報学関係の情報提供サイトとしては日本有数のサービスに成長している。提供メニューは、「カレントアウェアネス-R」(CA-R:図書館に関するニュースブログ)、「カレントアウェアネス-E」(CA-E:図書館及び図書館情報学に関する最新記事のメールマガジンのウェブ版)、「カレントアウェアネス」(CA:「カレントアウェアネス」冊子体版のウェブ版)、「図書館調査研究レポート」(図書館や図書館運営に関してNDLが実施した調査研究成果レポートのウェブ版)、「図書館研究シリーズ」(NDLが実施した図書館に関するシンポジウム等の内容や研究成果をまとめた報告書のウェブ版)、「(図書館情報学関係)雑誌新刊目次」がある。

 一方、この足掛け7年間の間に図書館を取り巻く社会情勢や情報環境は大きく変化し、携帯電話やスマート端末を始めとするモバイル・コンピューティングの普及、インターネットのコモディティ化と広帯域化、ネットワーク情報資源の爆発的増大、SNS(Social Networking Service)やCGM(Consumer Generated Media)のネット社会での地盤確保、Ajax(Asynchronous JavaScript + XML)に代表されるWeb 2.0の潮流、ビジネス社会でのHaaS(Hardware as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)の定着と進行など激しい変化が続いている。足元の『カレントアウェアネス・ポータル』も、そのような潮流のひとつであるオープンソース・ソフトウェア・システム(OSS)で構築されている。また、「カレントアウェアネス-R」はブログ機能を導入し、RSS配信にも対応している。近い将来には、クラウド・コンピューティング体制への移行も個人的には夢想している。

 一方、社会情勢の変化を受けて、NPM(New Public Management)の思考や行政手法が、図書館の機能と役割の見直しを迫っている。これらの急速な変化は進行中であり、今後のさらなる加速を感じさせられる。

 しかし、激変する情報環境、知識情報社会の進展の中にあって、図書館という存在の根源的意味はなにか。

 その公共性の意味を問う時に、不安定な時代にあってこそ、世界の他の図書館や図書館コンソーシアムは何を考えているのか、どのような実証実験プロジェクトが進行しているのか、図書館界の新しい標準化の志向動向は如何などなど、関心/心配事の種は尽きない。海図のない世界への旅立ちは、危機と機会の両面を持つヤヌスである。隠者を決め込んでも、果敢/無謀な挑戦を行っても、いずれにせよ時代は進む。本質的な図書館の役割と存在について、時には動揺し、時には高揚した頭/胸で思い悩む多くの図書館関係者にとって、『カレントアウェアネス』一族は、小誌『カレントアウェアネス』を中心として、小規模ながらあたかも羅針盤のような役割を一定限は果たしてきたといえるのではあるまいか。

 また、新生『カレントアウェアネス』以降に掲載されている「文献レビュー」は、取り上げられた各主題を新しく研究される後学の方々にとって、対象分野の近年動向の予備知識や必読文献への手がかりを提供している。

 今回の『カレントアウェアネス』300号を一道程として、ますますの『カレントアウェアネス』一族の豊かな情報発信を期待したい。

 なお、日々の膨大な情報の中から適切な記事候補を整理し、時の話題を取り上げ、原稿依頼や編集等の優れた裏方の任に当たってこられた歴代の関西館(事業部)図書館協力課、取り分け調査情報係の方々への感謝を併せてこの機会をお借りして申し上げておきたい。個別のお名前は省かせていただくが、彼/彼女らの営為なくしては、現在の『カレントアウェアネス』一族はなかったであろう。

 最後に個人的な想い出として、『カレントアウェアネス』の全記事中で、「図書館ねこデューイ」(E574 [222]参照)が最も印象に残ることを告白しておきたい。後に刊行された単行書(E881 [223]参照)もお勧めである。

大阪市立大学:北 克一(きた かついち)

(1) 国立国会図書館. カレントアウェアネス・ポータル. http://current.ndl.go.jp [224], (参照 2009-02-27).

 


北克一. 『カレントアウェアネス』300号への道程. カレントアウェアネス. 2009, (300), p.8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca_no300_kita [220]

カレントアウェアネス [13]

CA1688 - 2009年アジア太平洋図書館・情報教育国際会議(A-LIEP 2009)開催報告 / 根本彰

 PDFファイルはこちら [225]

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日

 

CA1688

 

2009年アジア太平洋図書館・情報教育国際会議(A-LIEP 2009)開催報告


  2009年3月6日から8日まで、筑波大学を会場としてアジア太平洋図書館・情報教育国際会議(Asia-Pacific Conference on Library & Information Education and Practice;A-LIEP)が開催された。この会議の主催者の一員として関わったことから、開催の経緯と準備状況、会議の成果について報告したい。

 会議は、筑波大学大学院図書館情報メディア研究科、筑波大学知的コミュニティ基盤研究センター、日本図書館情報学会の3者が共同主催者となり、情報知識学会など3つの学会の協賛と文部科学省など4つの公的機関の後援、28の企業等のスポンサーの財政支援を受けて開催された。開催にあたっては、筑波大学大学院図書館情報メディア研究科のスタッフが中心となって準備を行った。

 日本の図書館情報学関係でこれだけの規模の国際会議が開催されるのは久しぶりである。1986年の国際図書館連盟(IFLA)東京大会は、もう記憶している人も少なくなった。日本の図書館あるいは図書館情報学は、このIFLA東京大会前後の数年がピークであったが、1990年代以降、バブル経済崩壊に伴う公的資金の減少と情報環境の大きな変化への対応の遅れがあって、ずっと沈滞していたというのが個人的な見方である。その意味で、2006年に京都で開催されたアジア電子図書館国際会議(ICADL;E587 [226]参照)などとならんで、日本が国際的に情報発信する体制がようやく作れるようになってきたものである。

 A-LIEPは2006年に最初の会議がシンガポール、2007年に第2回が台北で開催され、今回のつくばでの開催が第3回にあたる。この一連の会議が開催されることになったきっかけが、日本でのLIPER(CA1599 [227]、CA1621 [228]参照)の研究活動にあったというのは今回初めて伺ったことで驚いた。LIPERは2003年から2006年にかけて、「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育の再構築に関する総合的研究」として実施された共同研究(代表者:上田修一・慶應義塾大学教授)の略称である。その研究の過程で、アジア地域の図書館情報学教育の現状を把握するために、シンガポール、タイ、台湾、中国、韓国などから専門家を呼んで話を伺った。それがきっかけとなって、アジア太平洋地域の図書館情報学教育の協力体制をどのように作るかをテーマとした一連の国際会議が開催されるに至っているという。これはLIPER関係者としてもうれしいことである。

 さて、準備の過程では原油価格の高騰による航空運賃の高騰や米国サブプライムローン破綻による金融危機などの大きな経済問題があって、参加への影響が心配されたが、結果的にはアジア太平洋地域だけでなく、北米、欧州、アフリカを含めて30か国から参加があった。全参加者は186名で、このうち国外からの参加は66名であった。昨今の経済情勢を反映してか、南アジアあるいは中近東の諸国からの参加者が多いことが目についた。

 プログラムは、招待講演としてピッツバーグ大学情報学部のロナルド・ラーセン(Ronald Larsen)学部長と国立国会図書館の長尾真館長の講演があり、公募し査読の結果採用された研究発表66件(うち口頭発表47件、ポスター発表19件)、パネルディスカッション1件、シンポジウム1件が実施された。研究発表のテーマとしては図書館情報学教育に関するもの、図書館情報学分野の研究、そして図書館情報学における実践についての報告がほぼ3分の1ずつを占めた。あまり日本では知られていない国々における図書館員養成や図書館の実践についての報告があり興味深かった。

 パネルディスカッションはラーセン氏の基調講演とも結びついたもので、インフォメーション・スクール(略称i-schools)を扱ったものであった。米国で伝統あるライブラリー・スクールの閉鎖が報じられたのは1980年代から90年代にかけてであった。これは大きな政府から小さな政府への移行によって、公共部門の図書館員市場が相対的に小さくなったことに基づく。残された学校は情報技術に基づく知識マネジメントに力を入れ、民間部門でも通用する要員の育成に力を入れてきた。インフォメーション・スクールへの移行はそれを端的に示している。また、シンガポールを筆頭に、アジアの諸国でもそうした市場志向の情報学教育に対応しようとしているところがある。

 長尾館長の講演は、情報工学者であって国立図書館の館長を務める氏の電子出版と電子図書館に関する独自の考え方が参加者の関心を引いた。多くの質問があり、氏はていねいに答えていた。

 最終日のシンポジウムでは筆者も含めて論者が自由に意見を述べた。イェール大学図書館副館長のダヌータ・ニテキ(Danuta Nitecki)氏は、図書館マネジメントにおける調査研究の重要性について述べ、シンガポール・ナンヤン工科大学のクリス・クー・スー・ガン(Christopher Khoo Soo Guan)氏は、グローバルな知識コミュニティの形成に対応するような知識プロセス管理の専門職育成の必要を述べた。また、欧州デンマークから参加したレイフ・カイベルグ(Leif Kajberg)氏は比較図書館学的な視点から、欧州の図書館情報学教育が国際化の状況の中にあって相互の課題を持ち寄って議論し、連携すべきことを述べた。韓国・延世大学のムン・スンビン(Moon Sung-Been)氏は、同大学文献情報学部の現状と課題について報告した。筆者は日本の図書館情報学教育が世界の潮流から孤立しているように見えるが、専門職教育を確立すべきことと、他方で情報専門職のレリバンス(養成教育と職との関連性)そのものが問われていること、という二つの相矛盾する世界的な課題を担っていることを述べた。

 この会議は、日本のようにテクノロジーで世界をリードする国の図書館情報学教育がどういうものなのか知りたいという出席者の期待に、一定程度答えることができたのではないかと考える。また、予想を上回る数の日本の若い研究者が積極的に研究発表を行った点は将来を考えると大きな収穫であったし、また準備に当たった筑波大学のスタッフ・学生・大学院生にとっても、国際会議を経験したことは大きな財産となったものと思われる。

 これまで、図書館関係の国際的な対応については、日本図書館協会、国立国会図書館、国立情報学研究所などが個別にあたってきたが、A-LIEP2009の準備をきっかけとして日本図書館情報学会にも国際委員会(委員長:三輪眞木子・放送大学教授)がつくられ、対外的な窓口として機能し始めている。ようやく見え始めた図書館情報学における国際的課題を議論する場となることを期待したい。

東京大学:根本 彰(ねもと あきら)

Ref.

A-LIEP 2009: Asia-Pacific Conference on Library & Information Education and Practice.
http://a-liep.kc.tsukuba.ac.jp/index.html [229], (accessed 2009-04-10).

A-LIEP 2009: Asia-Pacific Conference on Library & Information Education and Practice. Tsukuba, 2009-03-06/08. Graduate School of Library, Information and Media Studies, University of Tsukuba et al, 2009.
http://a-liep.kc.tsukuba.ac.jp/proceedings/index.htm [230], (accessed 2009-04-10).

JSLIS: Japan Society of Library and Information Science.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jslis/aboutjslis_6_en.html [231], (accessed 2009-04-10).

 


根本彰. 2009年アジア太平洋図書館・情報教育国際会議(A-LIEP 2009)開催報告. カレントアウェアネス. 2009, (300), CA1681, p. 10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1688 [232]

  • 参照(26278)
カレントアウェアネス [13]
図書館情報学 [233]
国際会議 [234]
アジア [235]
オセアニア [236]
日本 [17]

CA1689 - 経済低迷期と向かい合う米国公共図書館 / 依田紀久

  • 参照(22532)

PDFファイルはこちら [237]

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日


CA1689

 

経済低迷期と向かい合う米国公共図書館


増加する利用

 カウンターに立つ図書館員たちは、経済低迷期になると利用が増えることを知っている。ベテランは過去の経験として、新人は知識として。

 過去いくたびもの経済低迷期に経験された利用増加の現象(1)は、現在の図書館にも起こっている。それも、一部の地域に限らない。ニューヨーク、ボストン、シカゴ、シアトル、ロサンゼルスといった大都市圏の大図書館ばかりではなく、イリノイ州の小さな機械工業の町で、ネブラスカ州の酪農地帯の群落で、フロリダ州の沿岸地域の静かな観光町で、利用増加が報告されている。

 もちろん、ごく当たり前の日常の積み重ねの中で積み重ねられた増加であり、内側にいる人間だからこそわかる程度の変化なのだろう。しかし、検索すると、この1年ほどの間の増加を伝えるプレスリリースやニュース記事が、何百となくヒットする(2)。そしてそれらが伝える数値は、確かに報告に値するものである。貸出数が前年比20%以上増えた、利用カードの登録が10%以上増えた、そんな数値が並んでいる。2008年9月に公表されたHarris Interactive社の調査によれば、米国人のうち図書館利用カード保有者は68%で、その76%が過去1年間に図書館を訪問している(E842 [238]参照)。2006年の米国図書館協会(ALA)の同種の調査と比べると、カード保有者の比率は5%、図書館訪問者の比率も10%、高い値を示している。

 2009年の現在までを俯瞰することのできる全国的な統計数値はまだ公表されていないが、増加を伝える200件、300件の記事を眺め見ると、利用増加を裏付ける値が出るのは間違いなさそうである。 

 

何が市民を惹きつけているのか

 経済低迷という図書館を取り巻く環境変化の中で、この利用増加を牽引しているのは何であろうか?本だろうか?本だとすればどのような本だろうか?それとも他の資料群やサービスだろうか?

 ニュースやレポートを丹念に読んでいくと、記者や図書館員は、必ずしも本が利用増加の呼び水であると捉えていないことがわかる。むしろ、彼らが強調しているのは本の貸出以外の点であり、近年、米国の公共図書館が、急激に変化する市民の情報ニーズに応えるべく改善をはかってきた新しいサービス領域である(3)。

 まず強調されているのは、インターネット接続の提供が挙げられる。

 現在米国で「高速」インターネットとうたわれ盛んに宣伝されているサービスは、6~7Mbps程度であるが、このレベルの速度でも高額である。そのため、高速インターネットは節約の対象となりがちである。

 そこで、子どもたちは宿題の情報を集めに高速インターネット環境のある図書館に来る。彼らはインターネット上の宿題支援サイトを利用したり、オンラインのチャットレファレンスを利用したり、友達とソーシャルネットワーク(SNS)で情報を共有したりしながら宿題をする。また大学を卒業したものの目標の職に就けていない20代の若者は、ポータルサイトで求人情報を集め、履歴書などの書類をオンラインで企業へ送付し、面接の約束を取り付けていく。今までコンピュータと関わらずに生活してきた人たちにとっては、就職活動のオンライン化は大きな壁である。それでも図書館員のサポートを受けながら、少しずつ慣れて作業を進めていく。

 これらのサービスの基盤となるコンピュータ端末は、毎朝開館とともに席が埋まる。都市圏の大・中規模図書館では200台、300台の端末があるがそれでも足りていない。100年前のカーネギー寄贈の建物をそのまま使う公共図書館でも、その静かな館内の一角はコンピュータ端末コーナーに置きかえられている。実に73%の図書館が、その地域で唯一、無料でインターネットを使える場所となっている(E839 [239]参照)。政府情報や、政府補助金のもと行われた科学技術研究の成果の中にはオンラインでのみアクセス可能なものも少なくない現状、図書館がインターネットへのアクセスポイントを提供することは必然であるが、その実際の用途は拡大の一途をたどっており、インターネットサービスはもはや、提供しなければ批判を浴びる図書館の基本サービスとなっている。

 次いで強調されているのは、DVD、そしてゲームソフトの充実である。逼迫した家計において、節約の刃に最初に切り落とされるのは娯楽費である。それでも、失業の不安を抱え、ローンに不安を抱え、治安の乱れに不安を抱える時代だからこそ、家族と楽しく過ごす時間を作りたいと願うのが人だろう。そこで、彼らは娯楽施設や高価な芸術観賞を諦めて、あるいはAmazon.com(4)のワンクリックショッピングやNetflix(5)(ビデオ・DVDのオンラインレンタルサービス)の利用を諦めて、代わりに図書館でDVDやゲームソフトを借りる。図書館では、最新作はなかなか手に入らないものの、IMDb(映画情報データベースサイト)(6)の人気トップ250に入るような人気作品は概ねそろっている。NintendoやMicrosoftなどのゲームソフトも、人気のため少し待たされるが期待以上のコレクションが提供されている。Amazon.comやNetflixのように、自宅まで郵送はしてくれないが、図書館へ向かうドライブの時間は家族で過ごす貴重な時間でもある。

 インターネットやDVD、ゲームソフトの充実は、近年、米国の公共図書館が大いに力を入れてきたサービスである。そして、これらが図書館に多くの人を引き寄せている。

 インターネットやDVDの利用のために図書館通いを開始した利用者が、図書館が情報の宝庫であることを思い出し、また家族を幸せにする娯楽施設であることを思い出し、その他のサービスにまで目を向けるには、それほど時間はかからない。

 子ども向けのおはなし会や音楽会、作家の講演会やサイン会、舞台芸術などのパフォーマンスといった図書館のプログラムへの参加者も増加しており、時に倍増の報告もある。特にITスキルを持つ図書館員やサポートスタッフによるコンピュータ講座は人気である。履歴書の書き方、Microsoft WordやExcelの使い方、補助金の検索方法など、コンスタントに人が集まる。

 利用が増加しているのは、図書館内で提供されているサービスだけではない。米国の公共図書館は、自宅等からオンラインで利用できるコンテンツも充実させている。広大な米国では、図書館に行くには車がいるが、車に乗るにはガソリンがいる。ガソリン価格が瞬く間に急騰した2008年のこと、高度なコンテンツを遠隔地の人に提供することは家計の節約を助ける。このような理由を盾にしながら、図書館はオンラインデータベースベンダーに対しリモートアクセスの重要性を説き、契約に際してはそれに対応するデータベースを優先した。限られた予算で最大限のサービスをすることは、厳しい経済下における図書館の必然的行動であり、彼らの交渉は力をもった。結果として図書館のウェブサイトへのアクセスは飛躍的に増大し(E842 [238]参照)、利用者は電子書籍やオーディオブック、音楽をダウンロードし、パソコンや、携帯情報端末(PDA)、読書用端末、携帯用音楽プレイヤー“iPod”などの携帯端末で楽しむことができるようになった。もちろん、無駄なガソリン代を費やすことなく。

 図書館が、この数年で蓄積してきたサービスの向上を踏まえ、それらが市民の節約手段になるPRする姿はとても印象的であり、また時宜にかなっているように思える。図書館の努力の成果が、この経済低迷期にまさに花開いたようにさえ思える。

 

図書館の力強さはどこからくるのか

 米国の公共図書館には、内部から興る積極的な気運がある。それは、低迷期を静かに過ごし財政に余裕が生まれ再び振興の追い風が吹くのを待つ姿勢とは異なる。実際、メディアを通じて見えるアクティブなPR活動は、力強い。

 この積極的な姿勢は、なにかに由来するものなのだろうか?米国の公共図書館員という職能集団の1つの特性なのだろうか?

 図書館の社会問題解決への強い姿勢が歴史に立脚していること、また図書館業界としてのまとまりが強くぶれないこと、の2点に由来するのではないかと考えられる。

 図書館の社会問題に対する対応の歴史については、ハリス(Michael Harris)が1976年に著した“Portrait in Paradox: commitment and ambivalence in American Libraries, 1876 -1976”の中で興味深い論考を示している。ハリスは、図書館の発展史を、社会不安をエンジンとするサイクルの連続としてみることができるとしている。サイクルは社会の特定の脅威の特定から始まり、それをきっかけとして、その解決手段としての図書館が確立される。図書館は新しい使命を自らの存在理由の中心に据え、目標を達成するための新しい政策を掲げ、熱烈に行動する。不幸にも図書館コミュニティが社会に影響しきれぬときには、図書館員は「印刷された言葉の管理人」としての役割に再び注力する。世界恐慌(1929年)以降の歴史においては、このようなサイクルが多く観察されるのだという(7)。

 社会が困難に直面するたびに著しい成長を経験する様は、たしかに、ハリスの論考以降にも観察される。

 実際に、「テロとの戦い」を理由として吹き荒れたプライバシー侵害になりかねない法案及び法に対する行動、子どもの安全を守ることを理由にした表現の自由を侵害しかねない法案に対する取り組み、情報へのアクセスの不平等をもたらしかねない著作権に対する動きなど、近年の米国図書館界が使命感をもって反対してきた政治的動きを見ると、ハリスの説は1976年以降の時代にも通じるものがある。そして幸いにも、これらの行動は大きな成果を挙げてきている。

 そして2008年から続く経済低迷期でも、米国図書館界は熱烈に行動している。8年ぶりに政権を取った民主党オバマ政権の最初の100日は、まさに経済健全化への格闘であったが、その格闘においても、図書館は持てる資源を最大限に活用して、図書館が役に立つ存在であることをPRし、またそれを実証する活動を続け、図書館への資金提供を訴えている。

 このような社会への対応は、個々の図書館・図書館員から沸き起こっているものであると同時に、ALAのような全米レベルの組織の活動が強く影響している。

 それぞれの図書館は、それぞれの現実に即し様々な改善を試みている。住民が入れ替わり、利用者も変化している。1館の利用増加に関係しうる要因は多様である。このため全国レベルの傾向は、個々の図書館で活躍する図書館員にはなかなか把握できない。

 しかし、全国レベルで事例を集約していくと、大きな要因が明確に浮かび上がってくるものである。そこでALAが、業界レベルの情報共有をはかり、個々の図書館はその情報に裏づけを得ながらより説得力のある広報活動をする。この広報活動が全体の傾向を明らかにする。

 ALAはもちろん、個別の図書館の広報活動をもサポートする。ALAの作る「厳しい経済状況下における広報ツールキット」(8)はその1つの動きである。このツールキットには、ニュースメディアに対して話をするポイント、証拠を集め主張の正しさを証明していく手順、利用者その他一般市民との関係構築の仕方、メディアへの接触、政府や議会との協働、効果的な抗議集会の開き方などがまとめられており、さらに他の情報源や論拠となる研究資料などのリストもついている。

 この成果は、NBC、CNN、CBSなどの全国レベルのTVネットワークを通じて映像として紹介されており、さらにその映像はインターネットでも繰り返し見ることができる(9)(10)。「厳しい経済状況下における広報ツールキット」のトップページに貼り付けられているNBCのビデオも、その1つである(8)。もちろん、ラジオや新聞など他のメディアでも頻繁に紹介されており、それらはALAの「図書館と経済」のページにまとめられている(11)。

 こうして、業界として一定のまとまりをもった、効果的な広報活動が行えているのである。

 

厳しいのは事実だが

 経済低迷期の米国の図書館が直面している現実は、もちろん、厳しい。

 自治体の財政危機により、フィラデルフィアをはじめとする全米各地で図書館分館の閉鎖、サービス時間の縮小、職員の削減が行われようとしているというニュースは、図書館界に強い危機感をもたらしている。また図書館システムの市場動向分析家であるブリーディング(Marshall Breeding)氏は、Infotoday誌の2009年3月号において、多くの図書館で統合図書館システムのシステム更新が先送りされたり縮小されたりしていることを明かしている(12)。また民間からの資金調達も非常に厳しくなっているとの声も聞かれ、限られた資本の投下先をより厳選せざるを得ない図書館経営陣の苦悩も見え隠れしている。

 幸いにも、積極的なPRが功を奏してか、経済低迷期における図書館サービスの存在感は多くの人に体感され、フィラデルフィアのように閉鎖というような極端な選択を免れたケースも多い。一部の図書館は、自らの可能性を拡大させている。その様子には、なにかとても元気づけられる。

 今後、2008~2009年の状況を分析するレポートが多く出されるものと予想されるが、そこに示される知見には注意を払っていく価値があるだろう。

調査及び立法考査局国会レファレンス課:依田紀久(よだ のりひさ)

 

(1) Library Research Center, University of Illinois at Urbana Champaign. “Public Library Use and Economic Hard Times: Analysis of Recent Data”. American Library Association. 2002.
http://www.ala.org/ala/aboutala/offices/ors/reports/economichardtimestechnicalreport.pdf [240], (accessed 2009-05-07).

(2) 主要な記事へのリンクは以下のサイトで確認できる。
“Use of Public Libraries In Hard Economic Times”. Nova Scotia Provincial Library.
http://www.library.ns.ca/node/1340 [241], (accessed 2009-05-07).

(3) “The State of America's Libraries Report 2009”. American Library Association.
http://www.ala.org/ala/newspresscenter/mediapresscenter/presskits/2009stateofamericaslibraries/2009statehome.cfm [242], (accessed 2009-05-07).

(4) Amazon.com.
http://www.amazon.com/ [243], (accessed 2009-05-07).

(5) Netflix.
http://www.netflix.com/ [244], (accessed 2009-05-07).

(6) The Internet Movie Database.
http://www.imdb.com/ [245], (accessed 2009-05-07).

(7) Harris, M. Portrait in paradox: commitment and ambivalence in American librarianship, 1876-1976. Libri. 1976, 26(4), p. 284.

(8) “Advocation in a Tough Economy Toolkit”. American Library Association.
http://www.ala.org/ala/issuesadvocacy/advocacy/advocacyuniversity/toolkit/index.cfm [246], (accessed 2009-05-07).

(9) Sidersky, Robyn. “Hard economic times a boon for libraries”. CNN.com. 2009-02-28.
http://www.cnn.com/2009/US/02/28/recession.libraries/index.html [247], (accessed 2009-05-07).

(10) “CBS Nightly News: Libraries are becoming the ‘hot spot for just about everyone’”. American Library Association. 2009-02-10.
http://www.ala.org/ala/newspresscenter/news/pressreleases2009/february2009/piocbs.cfm [248], (accessed 2009-05-07).

(11) “Libraries and the Economy”. American Library Association.
http://www.ala.org/ala/newspresscenter/mediapresscenter/presskits/librariesintougheconomictimes/economy.cfm [249], (accessed 2009-05-07).

(12) Marshall, Breeding. Library Automation in a Difficult Economy. Infotoday. 2009.3.
http://www.infotoday.com/cilmag/mar09/Breeding.shtml [250], (accessed 2009-05-07).

 


依田紀久. 経済低迷期と向かい合う米国公共図書館. カレントアウェアネス. 2009, (300), CA1689, p. 11-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1689 [251]

カレントアウェアネス [13]
図書館サービス [252]
図書館経営 [253]
図書館財政 [254]
米国 [53]
公共図書館 [255]

CA1690 - 動向レビュー:デジタルリポジトリにおけるメタデータ交換の動向 / 栗山正光

PDFファイルはこちら [256]

カレントアウェアネス
No.300 2009年6月20日


CA1690

動向レビュー

 

デジタルリポジトリにおけるメタデータ交換の動向

 

1. はじめに

 近年、大学図書館を中心に、デジタル化された学術論文や研究資料を蓄積・保存し、インターネットで公開を行う、いわゆるデジタルリポジトリの構築が盛んである。こうしたリポジトリは、収録コンテンツを自機関の成果物に限定するものを機関リポジトリ、特定主題分野に収集対象を定めるものをサブジェクトリポジトリなどと呼びならわしている。制度的にもシステム的にもいまだ発展途上の段階にあり、より安全でより便利なものにするための工夫が続けられている。

 リポジトリが機能を高めるための方法の一つとして、保持するコンテンツ(データ)に関するさまざまな情報を記録したデータ、すなわちメタデータを有効活用することが考えられる。リポジトリにおけるメタデータは、一般に、従来の書誌情報に相当する記述メタデータと管理的な情報を記録する管理メタデータとに大別され、前者は情報資源の発見、後者はデジタル資料の管理・保全、さらには長期保存などの目的に利用することが想定されている。これらのメタデータはリポジトリ間で交換・共有されてこそ意味があり、そのための規定作りや標準化が盛んに行われている。

 本稿では、そうしたメタデータ交換の動向を、OAI-OREとPREMIS/METSという二つの活動を中心に探っていきたい。

 

2. OAI-PMHからOAI-OREへ

 2000年代の初頭から現在に至るまで、いくつものリポジトリ用ソフトウェアが開発され、改訂を重ねてきた。現在、多くのリポジトリが採用している代表的なソフトウェアとして、DSpace(1)、EPrints(2)、Fedora(3)などがある。

 これらのソフトウェアに共通している基本的な機能として、OAI-PMH対応がある。OAI-PMHは各リポジトリが蓄積しているメタデータを共有するためのプロトコルである(CA1513 [257]参照)。欧米では早い時期からOAI-PMHにより収集したメタデータを利用した検索サービスが立ち上がっており、ミシガン大学が運営するOAIster(4)はその代表例として有名である。

  日本の大学図書館が運営するリポジトリも多くはDSpaceやEPrintsを採用しており、それ以外のソフトウェアもOAI-PMH準拠をうたっているのだが、日本でOAI-PMHを利用したメタデータ提供が本格的に行われるようになったのは比較的最近である。国立情報学研究所(NII)が「junii2」(5)というメタデータ・フォーマットおよび学術機関リポジトリデータベース収集方針(6)を定め、国内の機関リポジトリで生成されるメタデータをOAI-PMHで収集し、統合的に検索できる学術機関リポジトリポータル(JAIRO)(7)を公開している。このJAIROは2008年10月に試験公開され、2009年4月に正式公開された。また、国立国会図書館(NDL)のデジタルアーカイブポータル(PORTA)の外部提供インターフェースにOAI-PMHが追加されたのは2008年12月である(CA1677 [258]参照)。なお、NIIはJAIROとあわせて、収集したメタデータを利用して、参加機関の統計分析情報を提供するIRDBコンテンツ分析システムも構築している(8)。

 一方、OAI-PMHを策定したオープンアーカイブズイニシアティブ(OAI)では、2008年10月、オープンアーカイブのオブジェクトの再利用・交換に関するプロトコル“Open Archives Initiative – Object Reuse and Exchange(OAI-ORE)”の正式版(9)を発表した。これはウェブ上の情報資源の集合体の記述および交換の標準を定めたものである。

 現在、ウェブ上では多くの情報資源がひとまとまりで利用されるものの、その構成要素や境界が曖昧なため、コンピュータで処理できないという問題がある。たとえば物理学等の学術論文のプレプリントサーバ“arXiv”における論文詳細表示画面では、論文タイトル、著者名、版、抄録、本文へのリンク、同じコレクションの別の論文へのリンクなどが表示されており、このページのURI(Uniform Resource Identifier)が論文を示す識別子としてよく使われる。しかし、この画面の諸要素は人間の目には一目瞭然だが、コンピュータがarXiv専用の特別な処理をすることなしに識別することは困難である。

 OAI-OREはこうした問題を解決するために、情報資源の集合体をコンピュータが解釈できる形で記述するリソースマップというものを規定し、これをもとにコンピュータがデータ交換を行う(10)。

 つまり、OAI-OREではメタデータのみならずリポジトリ内の個々の情報資源(コンテンツ)そのものを(必要に応じてメタデータと共に)柔軟にやり取りできるようになるわけで、アルファ版、ベータ版の段階から関係者の注目が集まった。日本においてもOAI-OREに対する関心は高く、たとえばNDLはカレントアウェアネス-Rで逐一その動向を伝えているし、NIIはアルファ0.2版と正式版(1.0版)の仕様書およびユーザガイドを翻訳公開している(11)。

 

3. OAI-OREの活用

 OAI-OREは正式版の発表があって間もないため、リポジトリの現場で活用されるのはこれからだが、試験的プロジェクトはいくつか実施されている。ここでは英国情報システム合同委員会(JISC)が助成する二つのプロジェクトを取り上げる。

 カレントアウェアネス-Rでも紹介されているが、FORESITE(Functional Object Re-use and Exchange: Supporting Information Topology Experiments)はOAI-OREを利用して、学術雑誌のバックナンバーデータベースJSTORに収録されている雑誌のデータをリソースマップ化し、SWORD(Simple Web-service Offering Repository Deposit)インターフェースを介して、Atom出版プロトコル(Atom Publishing Protocol)(12)に準拠した文書としてDSpaceに取り込むというものである。このSWORDもJISCの助成を受けたプロジェクトで開発されたプロトコルで、Atom出版プロトコルの上に、リポジトリへの標準的なコンテンツ納入方式を規定したものである(13)。これによりコンテンツを複数のリポジトリに同時に納入したり、リポジトリ間でコンテンツをやり取りしたりするといったことが可能になる。OAI-OREではリソースマップの記述方法の一つとしてAtomが利用可能であるため、FORESITEのように両者を組み合わせて使う応用例が今後出てくると思われる。

 PRESERV2プロジェクトは、デジタル資料の長期保存という観点からOAI-OREの活用を目指している。ラムジー(Sally Rumsey)とオスティーン(Ben O’Steen)は、OAI-OREの利点として、差分アップデートができること、すべてのメタデータおよびデジタル・オブジェクト間の関係や履歴も含めて情報の喪失がない複製が可能なこと、リソースマップが機械可読であるためコンピュータが定められた方針に従って最適の保存手続きを確定してくれることなどをあげている。これらにより、あるリポジトリのコンテンツを別のリポジトリに容易にコピーができるため、数多くの複製を持って安全性を高めることができるとしている(14)。このプロジェクトでは、OAI-ORE活用の具体例として、EPrintsとFedoraという二つの異なったソフトウェアで構築されたリポジトリ間でデータを交換する仕組みを作り、2008年4月、英国サウサンプトンで開催された「オープン・リポジトリ(Open Repositories)2008」会議でデモを行った(15)。

 このように、OAI-PMHがもっぱら資源発見のためのメタデータ共有の仕組みであったのに対し、OAI-OREはリポジトリにおけるデジタル資料の長期保存体制作りにも活用できると期待されている。

 

4. PREMIS 2.0

 デジタル資料の長期保存に資するメタデータに関しては2000年代初頭からさまざまな研究が行われてきた(CA1489 [259]、CA1561 [260]参照)が、現在、それらの頂点に立つのがPREMIS (Preservation Metadata: Implementation Strategies) の『保存メタデータのためのデータ辞書』第2.0版(通称PREMIS2.0)(16)であろう。これは保存活動に必要と思われるさまざまな情報を整理・体系化し、その意味範囲や用法を規定した、まさにメタデータ要素の辞書なのだが、具体的な実現方法とは独立したものにするため、あえて要素(element)とは言わず、意味単位(semantic unit)という言葉を使っている。

 このデータ辞書の第1版は2005年に発表され、英国のデジタル保存賞、米国アーキビスト協会保存出版賞を受賞するなど高い評価を受けた。日本にも2007年の時点での保存メタデータの到達点として紹介がなされている(17)。

 第1版の発表後、PREMIS作業グループは解散し、このデータ辞書の維持活動の場は米国議会図書館(LC)に移り、改訂のための編集委員会が設置された。同時に、実際に運用されているリポジトリへの適用の検討も始まった。たとえば上述のPRESERV2プロジェクトの前身であるPRESERVでは、PREMISのメタデータを機関リポジトリのシステム(EPrints)にマッピングする研究を行っている(18)。

 2007年、PREMIS編集委員会は十分なフィードバックが得られたとして改訂作業に入り、2008年4月、現在の第2.0版が発表された。改訂の経緯および主な改訂内容については、ラヴォワ(Brian F. Lavoie)の記事に詳しい(19)。

 

5. PREMISとMETS

 PREMISが規定するのはメタデータの意味単位であり、実際にそれを記録するための方式は別に定めることになるが、PREMISではデータ辞書に沿ったXMLスキーマを作成して公開している(20)。一方、XMLベースでメタデータを記録し、交換するための標準にMETS (Metadata Encoding & Transmission Standard;CA1489 [259]、CA1552 [261]参照)があり、PREMIS同様、LCが維持管理を行っている。当然、PREMISのXMLスキーマで記録したメタデータをMETSに入れ込もうという動きが出てくるわけだが、現実にはすんなり行かないことが明らかになってきている。

 一つはセクションの分け方の違いで、PREMISがエンティティのタイプ(オブジェクト、イベント、エージェント)で分けているのに対し、METSはメタデータのタイプ(記述、技術、来歴、構造など)で分けているため、PREMISの各要素をMETSの該当するセクションに振り分けるマッピングを行わなくてはならない。もう一つは、両方に定義されているため重複する要素があるということで、これはそのまま重複して記録するのか(その際には修正があった場合、齟齬がないよう両方ともきちんと修正しなくてはならない)、それともどちらか一方の側に記録するのかを決めなくてはならない(21)。

 PREMISをMETSで利用する代表的な事例として、オーストラリアMETSプロファイル (Australian METS Profile)がある。これは2007年、LCに登録されたもので、前年のPRESTA(PREMIS Requirements Statement)プロジェクトを受けて完成されたものである(22)。また、イリノイ大学を中心としたECHO DEPositoryプロジェクトでも、やはりPREMISや、記述用メタデータMODS(Metadata Object Description Schema;CA1552 [261]参照)を拡張スキーマとしたMETSのプロファイル(ECHO DEPプロファイル)を作成している(23)。PREMISのWebサイトでは、PREMISをMETS内で扱う際のガイドラインを作成して公開するとともに、そうしたMETSプロファイルを掲載するなど情報提供を行っている(24)。

 しかし、マクドナフ(Jerome McDonough)も指摘するように、こうしたプロファイルは狭い範囲でしか通用せず、それぞれ独立して策定された標準をすり合わせるのは容易ではないようである(25)。PREMISデータ辞書第1版の作成に携わったフロリダ図書館自動化センターのキャプラン(Priscilla Caplan)は、コーネル大学、ニューヨーク大学などをパートナーに、TIPR(Towards Interoperable Preservation Repositories)プロジェクトに取り組んでいる。TIPRでは、さまざまなマッピングの試みを検討した上で、上記ECHO DEPプロファイルを起点にして、汎用性のある交換プロファイルを定義することを目標としており、PREMISやMETSおよび両者の使用ガイドラインの改訂に貢献したいとしている(26)。

常磐大学:栗山正光(くりやま まさみつ)

 

(1) DSpace. http://www.dspace.org/ [262], (accessed 2009-04-12).

(2) Eprints. http://www.eprints.org [263], (accessed 2009-04-12).

(3) Fedora Commons.
http://www.fedora-commons.org/ [264], (accessed 2009-04-12).

(4) OAIster. http://www.oaister.org/ [265], (accessed 2009-04-12).

(5) “メタデータ・フォーマットjunii2”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/junii2.html [266], (参照 2009-04-12).

(6) “国立情報学研究所 学術機関リポジトリデータベース収集方針”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/1_nii_irdb_shushu.pdf [267], (参照 2009-04-12).

(7) JAIRO : Japanese Institutional Repositories Online. http://jairo.nii.ac.jp/ [268], (参照 2009-04-12).

(8) IRDBコンテンツ分析システム.
http://irdb.nii.ac.jp/analysis/index.php [269], (参照 2009-04-12).

(9) Open Archives Initiative Object Reuse and Exchange.
http://www.openarchives.org/ore/ [270], (accessed 2009-04-12).

(10) “ORE User Guide – Primer”.
http://www.openarchives.org/ore/1.0/primer.html [271], (accessed 2009-04-12).

(11) “ORE仕様書およびユーザガイド - 目次”.
http://www.nii.ac.jp/irp/archive/translation/oai-ore/1.0/toc.htm [272], (参照 2009-04-12).

(12) “RFC 5023: The Atom Publishing Protocol”. Internet Engineering Task Force . http://www.ietf.org/rfc/rfc5023.txt [273], (accessed 2009-04-12).
和訳版; http://www.ricoh.co.jp/src/rd/webtech/rfc5023_ja.html [274], (accessed 2009-04-12).

(13) “Welcome to SWORD APP”. SWORD Site. http://www.swordapp.org/ [275], (accessed 2009-04-12).

(14) Rumsey, Sally ; O’Steen, Ben. OAI-ORE, PRESERV2 and Digital Preservation. Ariadne. 2008, (57).
http://www.ariadne.ac.uk/issue57/rumsey-osteen/ [276], (accessed 2009-04-12).

(15) Tarrant, David et al. Using OAI-ORE to Transform Digital Repositories into Interoperable Storage and Services Applications. The Code4Lib Journal. 2009, (6).
http://journal.code4lib.org/articles/1062 [277], (accessed 2009-04-12).

(16) PREMIS Editorial Committee. “PREMIS Data Dictionary for Preservation Metadata. version 2.0”. March 2008.
http://www.loc.gov/standards/premis/v2/premis-2-0.pdf [278], (accessed 2009-04-12).
和訳版; 栗山正光訳. PREMIS 保存メタデータのためのデータ辞書. 第2.0版. (日本図書館協会にて翻訳権取得交渉中)

(17) 後藤敏行. デジタル情報保存のためのメタデータ: 現状と課題. 情報管理. 2007, 50(2), p. 74-86.
http://joi.jlc.jst.go.jp/JST.JSTAGE/johokanri/50.74 [279], (参照 2009-04-12).

(18) Hitchcock, Steve et al. “Preservation Metadata for Institutional Repositories: applying PREMIS”. Preserv.
http://preserv.eprints.org/papers/presmeta/presmeta-paper.html [280], (accessed 2009-04-12).

(19) Lavoie, Brian F. PREMIS With a Fresh Coat of Paint: Highlights from the Revision of the PREMIS Data Dictionary for Preservation Metadata. D-Lib Magazine. 2008, 14(5/6).
http://dx.doi.org/10.1045/may2008-lavoie [281], (accessed 2009-04-12).

(20) “Schemas for PREMIS”. PREMIS: Preservation Metadata Maintenance Activity (Library of Congress).
http://www.loc.gov/standards/premis/schemas.html [282], (accessed 2009-04-12).

(21) Guenther, Rebecca S. Battle of the Buzzwords: Flexibility vs. Interoperability When Implementing PREMIS in METS. D-Lib Magazine. 2008, 14(7/8).
http://dx.doi.org/10.1045/july2008-guenther [283], (accessed 2009-04-12).

(22) Pearce, Judith et al. The Australian METS Profile: A Journey about Metadata. D-Lib Magazine. 2008, 14(3/4).
http://dx.doi.org/10.1045/march2008-pearce [284], (accessed 2009-04-12).

(23) “ECHO Dep Generic METS Profile for Preservation and Digital Repository Interoperability”. Metadata Encoding and Transmission Standard (METS) Official Web Site .
http://www.loc.gov/standards/mets/profiles/00000015.html [285], (accessed 2009-04-12).

(24) “Using PREMIS with METS”. PREMIS: Preservation Metadata Maintenance Activity (Library of Congress).
http://www.loc.gov/standards/premis/premis-mets.html [286], (accessed 2009-04-12).

(25) McDonough, Jerome. “Structural Metadata and the Social Limitation of Interoperability: A Sociotechnical View of XML and Digital Library Standards Development”. Proceedings of Balisage: The Markup Conference 2008. Montréal, Canada, 2008-08-12/15.
http://balisage.net/Proceedings/print/2008/McDonough01/Balisage2008-McDonough01.html [287], (accessed 2009-04-12).

(26) Caplan, Priscilla. Repository to Repository Transfer of Enriched Archival Information Packages. D-Lib Magazine. 2008, 14(11/12).
http://dx.doi.org/10.1045/november2008-caplan [288] , (accessed 2009-04-12).

 


栗山正光. デジタルリポジトリにおけるメタデータ交換の動向. カレントアウェアネス. 2009, (300), CA1690, p. 15-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1690 [289]

  • 参照(29338)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
メタデータ [204]
電子図書館 [290]
電子情報保存 [206]
機関リポジトリ [291]

No.299 (CA1681-CA1687) 2009.03.20

  • 参照(50470)

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CA1681 - 電子情報長期保存のための評価ツールDRAMBORA-NDLにおける試験評価の試みから / 奥田倫子, 伊沢恵子

  • 参照(21516)

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カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

CA1681

 

電子情報長期保存のための評価ツールDRAMBORA
-NDLにおける試験評価の試みから

 

1. はじめに

 国立国会図書館(NDL)は、2008年12月2日から4日にかけての3日間、英国グラスゴー大学人文科学高等技術情報研究所(Humanities Advanced Technology and Information Institute)の保存調査員イノセンティ(Perla Innocenti)氏の訪問を受け、同研究所が英国のデジタルキュレーションセンター(DCC)、デジタル保存に関する国家プロジェクトの欧州規模での連携・協力イニシアチブ“Digital Preservation Europe(DPE)”に参加して開発を行っているデジタルリポジトリ事業の監査ツール、「リスク評価に基づくデジタルリポジトリ監査法(DRAMBORA:Digital Repository Audit Method Based on Risk Assessment)」を用いて、NDLの電子図書館サービスの試験評価を行った(「デジタルリポジトリ」の定義については後述)。試験評価の対象としたサービスは「近代デジタルライブラリー」である。本稿では、DRAMBORAの特徴及び試験評価に際し実際にNDLで行われた作業内容を紹介し、今後の日本国内における適用可能性について所見を述べるものとする。

 

2. DRAMBORAの概要

 DRAMBORAは、2007 年2月にPDF版の本文とMicrosoft Office 形式の記入用紙から成る第1版が公開され、2007年11月から12月にかけて、その有効性を確認し最適化を進めるためのパイロット評価が行われた。それらの結果を踏まえ、現行の第2版が2008年2月に公開された。第2版は、オンラインで画面に表示された指示に従って各リポジトリの担当者が作業を進められるようになっており、作業が終わるとリスクの一覧レポートが出力される。イノセンティ氏によれば、監査ツールとしてのDRAMBORAの特徴は、次の4点にまとめられる。

(1) リスク評価に基づく監査手法

 DRAMBORAは、その名が示すとおり、リスクマネジメントの考え方に基づいた(Based on Risk Assessment)監査ツール(Audit Method)である。デジタルオブジェクトの保存についての施策上、実施上のリスクを抽出し、それらの発生頻度及び影響の大きさを評価し、リスクを管理することを目的とする。リスクの抽出にあたっては、単に技術に関するものだけではなく、法規、財務、体制等に関するものも含め、網羅的に抽出する。

 リスクに対する考え方は、リスク回避(risk aversion)とリスク選好(risk appetite)の2通りがある。前者は、リスクを否定的に捉えた考え方で、現状を変化させた場合に発生するかもしれないリスクを回避するため、より安全志向の選択をするような場合がこれに該当する。これに対し、後者は、現状を好転させるためのチャンスとしてリスクを肯定的に捉え、積極的にそのリスクを引き受けようという考え方である。新サービスの開拓などがこれに該当する。各リスクに対する態度を決定するためには、各デジタルリポジトリの運営主体は許容できるリスクのレベルを決定しなければならない。

(2) 対象はデジタルリポジトリ

 DRAMBORAが対象とするのは電子図書館に限らず、デジタルオブジェクトの長期保存を担うすべての事業である。DRAMBORAは、そのような目的を持った事業を、その基盤となるシステム及び運営体制を包括した概念として、「デジタルリポジトリ」と定義する。「デジタルリポジトリ」の要件は、DCC、DPEが類似の試みを行っている米国・カナダの研究図書館・大学図書館のコンソーシアムである研究図書館センター(Center for Research Libraries:CRL)やドイツのnestorプロジェクト(E642 [294]参照)(1)と共同で策定した全10項目の「デジタルアーカイブの主要件」(Core Requirements for Digital Archives)に基づいている(2)。

(3) 自己監査ツール

 DRAMBORAは第三者による評価ではなく、各リポジトリを運営する機関自身による自己監査を基本としている。しかし、現在のところ、イノセンティ氏のような監査人(auditor)が訪問またはオンライン環境で、支援を行っている。

 上述CRLによる「信頼できるデジタルリポジトリの認証のための監査チェックリスト(TRAC)」(E380 [295]参照)(3)やnestorプロジェクト等、類似の試みとDRAMBORAとの相違点は、前者はリポジトリの満たすべき要件があらかじめ規範的に示され、それらの要件を満たすか満たさないかが問題とされるのに対し、後者はこうあるべきだという具体的なリポジトリ像をあらかじめ画一的に設定していない点である。そのため、DRAMBORAを用いて監査を行う各機関は、まずはリポジトリごとの使命、制約条件、目的、活動、資産(組織、業務、作業の継続性にとって有用なもの全般)を洗い出すところから始めなければならない。その上で、それらに関連するリスクを特定し、それらへの対処方法を監査人の支援を受けて検討することになる。チェックリスト式のTRACやnestorに比べ、作業は煩雑になるが、監査ツールとしての柔軟性に優れているため、様々なリポジトリで用いることができる。

(4) 裏づけ(evidence)を要求

 監査においては、抽出した活動が実際に行われていることを確認する。そのため、監査人は関連するドキュメントの確認や担当者へのインタビューを行い、実際に当該活動が行われていることの「証」を得なければならない。これを“evidence”という。関連するドキュメントとは、リポジトリの方針を示した公式文書や作業手順を明文化した業務マニュアル等である。

 

3. 監査作業の内容

 次に、実際にNDLで行われた監査作業を紹介する。

 NDLでの監査は、DRAMBORAの第2版を用いてオンライン環境で行われた。第2版では、PDF版である第1版を用いて行われたテスト監査のフィードバックを受け、後に述べる機能クラス等に改良が加えられている。

3-1. 監査の準備

(1) 基本情報、担当者等の登録

 はじめに、監査作業の準備段階として、対象となるリポジトリ(近代デジタルライブラリー)の基本情報や監査に参加するリポジトリ担当者に関する情報をDRAMBORAに登録した。監査に参加するリポジトリ担当者は、ID・パスワードを入力して監査画面にログインすることにより、作業を進めることができる。

(2) 監査目的の選択

 次に、監査を行う目的を選択する。これは、内部監査、外部監査への準備、リポジトリの改良箇所特定からの三者択一となっており、NDLでは「内部監査」を目的として選択した。

(3) 機能クラスの選択

 機能クラスとは、その後の作業の中で業務やリスクを抽出するためのベースとなる10の区分であり、これは上述した「デジタルリポジトリ」の要件と一致している。他機関と共通の認識に基づいて展開した機能クラスに沿って業務やリスクを抽出することにより、DRAMBORAによる監査結果は、TRAC等、他の監査方法との互換性を保つことができる。また一方で、リポジトリの実際の要件はそれぞれのリポジトリの目的などにより異なり、必ずしもこれら既定の10の要件と同じではない。そのため、DRAMBORAでは、これら10の機能クラスの中からリポジトリの要件に合致したもののみを選択して作業することができるようになっている。さらに、リポジトリに合わせて独自の機能クラスを追加することもできるため、タイプの異なるリポジトリに柔軟に対応することが可能である。NDLでは既定の次の10の機能クラスを選択して作業を進めることにした。

  1. デジタルオブジェクトを保存する使命と責任(Mandate & Commitment to Digital Object Maintenance)
  2. 組織的適合性(Organizational Fitness)
  3. 法律や規制に対する適合性(Legal & Regulatory Legitimacy)
  4. 効率的で効果的な運営方針(Efficient & Effective Policies)
  5. 十分な技術インフラ(Adequate Technical Infrastructure)

  6. 収集・受入の実施(Acquisition & Ingest)
  7. デジタルオブジェクトの完全性、真正性及び有用性の保持(Preservation of Digital Object Integrity, Authenticity & Usability)
  8. メタデータの管理と監査証跡(Metadata Management & Audit Trails)
  9. 提供の実施(Dissemination)
  10. 保存の計画と実践(Preservation Planning & Action)

 

3-2. 監査作業

 監査作業は次の7つの段階を踏んで、順に入力を行う。

(1) リポジトリの使命の記述(Add Mandate)

(2) リポジトリに関わる制約条件のリストアップ(Add Constraints)

(3) リポジトリの目的(実現したいこと)のリストアップ(Add Objectives)

(4) 作業と関連資産、その所有者のリストアップ(Add Activities and Assets)

(5) リスクのリストアップ(Add Risks)

(6) リスクの評価(Assess Risks)

(7) リスクの管理(Manage Risks)

 NDLでの入力作業は監査人であるイノセンティ氏が中心となり、スタッフへのインタビューや関連設備等の視察に基づき進められた。(2)以降は上述の機能クラスごとに項目を入力することにより、視点が偏らずにさまざまな側面からリスクを抽出することができる。しかし、作業画面上に概念的な解説は表示されるが、作業を進める上で必要な画面の操作方法や各項目の入力方法などの具体的な説明がないため、現時点では監査人抜きで作業を進めるのは必ずしも容易ではない。

3-3. 監査結果の報告書作成

 監査作業により洗い出されたリスクの情報は、レポートとしてブラウザで一覧表示したり、PDFファイルとしてダウンロードしたりすることが可能である。このレポートに基づいてリポジトリの担当者がリスクの回避策や発生時の解決策を議論し、リスク自体を管理できるようになることがDRAMBORAによる監査作業の最終的な目標である。

 今回の試験評価では、NDLが運営する近代デジタルライブラリーについて、14のリスクが顕在化した。組織上のリスクとしては、職員のスキル向上の機会が得がたいこと、適切な情報共有がなされていないことなどが指摘された。また、NDLの国立図書館としての使命に照らし、電子情報の保存に関して、特に注意が促された。電子情報の保存のための戦略・技術・資金が欠如している点が保存計画上のリスクとして報告されたほか、デジタル化後データのバックアップコピーが格納されているDVDの媒体としての脆弱性、災害対策の不十分さ、ストレージ容量の不足といった機器環境やセキュリティについてのリスクも抽出された。

 

4. 日本国内への適用可能性について

 最後に、DRAMBORAの日本国内のデジタルリポジトリへの適用可能性について考察する。

4-1. 監査結果の有効性

 今回の試験評価で得られた報告書では、概ね現在NDLが抱えている課題が正当かつ十分に描き出された。したがって、DRAMBORAによる試験評価が適切に行われたこと、またDRAMBORAがNDLの近代デジタルライブラリーの評価ツールとしても有効であることを確認できた。

4-2. 小規模リポジトリへの適用可能性について

 また、今回の試験評価の一部の日程には、イノセンティ氏からの働きかけもあり、京都大学附属図書館の学術情報リポジトリ(KURENAI)担当者も参加した。彼らからは、DRAMBORAについて、次のような質問が発せられた。

  • (i) 監査人の資質について

     DRAMBORAのように各リポジトリの背景に合わせた監査を行う場合、監査人の資質に拠る部分が大きいと考えられるが、その部分についてはどのように担保しているか。

  • (ii) 監査の適用対象となるリポジトリの規模について

 数名で運営する小規模のリポジトリへの展開は可能か。

 (i)については、イノセンティ氏から、監査人には、ISO 19011:2002(品質及び/又は環境マネジメントシステム監査のための指針)で定められているスキルのレベルを必要とされる旨の回答があった。また、監査人のみならず、リポジトリ担当者の資質も影響するため、ヨーロッパにおいては、監査人及びリポジトリ担当者各々の認定コースを備える機関の設立も提案されているとのことであった。

 (ii)については、グラスゴー大学の機関リポジトリ“Enlighten”(4)を例に、論文等の収録数が5,000~6,000件規模のリポジトリでも適用事例がある旨の回答があった。監査人は、DRAMBORAのスタッフが資金援助を得て行う場合のほか、外部機関から雇用したり、監査の対象となるリポジトリの職員自身が行う場合がある。監査人は通常2人以上いることが望ましいが、DRAMBORAは自己評価ツールとして設計されているので、小規模のリポジトリの場合は得られる範囲の人数で行うことも可能とのことであった。

4-3. 日本語化

 全体として、DRAMBORAは柔軟性の高いツールなので、日本における各種のデジタルリポジトリにも十分適用が可能であるという印象を受けた。近代デジタルライブラリーは静止画像を扱うリポジトリであるが、視聴覚資料等マルチメディアを対象としたリポジトリにも、DRAMBORAは適用可能である。

 しかし、一番の壁は言語であろう。現在のDRAMBORAは、英語でのみ作成されており、オンライン版への入力作業はすべて英語で行わなくてはならなかった。今回、試験評価の実施にあたり、NDLではDRAMBORA第1版を和訳したほか、関連文書の英訳、リスク記述の英訳等、膨大な翻訳作業が発生した。また、監査作業もすべて通訳を通して英語で行われた。DRAMBORAでは第3版を多言語で公開することを検討しているようであるが、具体的にどの言語が作成されるかは未定である。今回の試験評価にあたりNDLが作成したDRAMBORA第1版の日本語版は、DRAMBORAの開発者からも感謝の意を表され、2009年中にNDL及びDRAMBORAのウェブサイトで公開されることとなっている。

 

5. さいごに

 今回の試験評価の実施にあたり、NDL担当部局においては少なからぬ人手がかかった。しかしながら、DRAMBORAは、各種のデジタルリポジトリがその組織的背景や対象とする資料の違いを超えて問題を共有するための1つのインセンティブとなりうるツールである。また、各機関の監査結果の秘密は守られるものの、監査人を通じて他機関での経験についての情報を得ることができることも、本ツールの開発に協力するメリットである。NDLとしては、今後も、その成長に貢献したいと考えている。

関西館電子図書館課:奥田倫子(おくだ ともこ),伊沢恵子(いざわ けいこ)

 

(1) Dobratz, Susanne et al. Catalogue of criteria for trusted digital repositories. nestor Working Group - Trusted Repositories Certification, 2006, 48p.
 http://edoc.hu-berlin.de/series/nestor-materialien/8en/PDF/8en.pdf [296], (accessed 2009-01-27).

(2) 2007年1月策定。「特定コミュニティに対して、デジタル・オブジェクトを保存する使命と責任を持っていること」など全10項目。簡潔な表現に変えられて、DRAMBORAの機能クラス名として用いられている。(本文3-1.(3)参照)
 Center for Research Libraries. “Core Requirements for Digital Archives”. Center for Research Libraries.
 http://www.crl.edu/content.asp?l1=13&l2=58&l3=162&l4=92 [297], (accessed 2009-01-27).

(3) OCLC and CRL. Trustworthy Repositories Audit & Certification: Criteria and Checklist. OCLC and CRL, 2007, 94p.
 http://www.crl.edu/PDF/trac.pdf [298], (accessed 2009-01-27).

(4) University of Glasgow. “Enlighten”.
 http://eprints.gla.ac.uk/ [299], (accessed 2009-01-29).

 


奥田倫子, 伊沢恵子. 電子情報長期保存のための評価ツールDRAMBORA -NDLにおける試験評価の試みから. カレントアウェアネス. 2009, (299), p.2-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1681 [188]

カレントアウェアネス [13]
電子図書館 [290]
電子情報保存 [206]
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日本 [17]
国立図書館 [301]
国立国会図書館 [179]

CA1682 - インドの電子図書館と機関リポジトリ / 水流添真紀

  • 参照(24813)

PDFファイルはこちら [302]

カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

CA1682

 

インドの電子図書館と機関リポジトリ

 

 近年、情報技術産業の発展が著しいインドではあるが、電子図書館や機関リポジトリ等はどの程度開発されているのだろうか。インドの電子図書館事情について紹介したい。

 

概要 

 インドにおける電子図書館の開発は1990年代後半に始まったとされる(1)。しかし、様々な機関で電子図書館が公開されるようになったのは、21世紀に入ってからである。

 インドでは、科学技術関係機関や政府機関を中心に電子図書館の構築が進められてきた(CA1516 [303]、E527 [304]参照)。表に、コレクション数の多い電子図書館・機関リポジトリを示す。現時点では多くが各機関独自での構築にとどまっているが、学位論文に関しては、マイソール大学の“Vidyanidhi”(2)、大学図書館ネットワークセンター(Information and Library Network Centre:INFLIBNET)の学位論文総合目録(3)など、複数大学の学位論文を収録するデータベースが作成され、機関を越えた取り組みが行われている。

表 インドの電子図書館・機関リポジトリ

表 インドの電子図書館・機関リポジトリ

出典 Mittal (2008) を元に作成 ※レコード数はROAR (accessed 2008-12-17) を参照した。

 公共図書館では目立った電子図書館は存在しないようだ。インド国立図書館(4)では、6,600冊の書籍を電子化しているが、CD-ROMに収められているだけで、現時点ではインターネット上で利用することができない。数少ない一般市民向けの事業としては、インド先端電算技術開発センター(Centre for Development of Advanced Computing:C-DAC)による“Mobile Digital Library”がある(5)(6)。これは、衛星アンテナやコンピュータ、プリンタ、製本機を搭載した自動車を地方に派遣し、図書データをダウンロードしてその場で書籍を作成し、市民に提供する、という事業である。現在のところ、短い物語、フィクション等105冊の図書が対象となっており、インターネットから自由にダウンロードすることもできる。しかし、インドでのインターネットの普及は2007年度で人口100名あたり6.93名である(7)ことを考えると、多くの人々は電子図書館へのアクセスが困難である、というのが現実であろう。 

 なお、2008年4月にユネスコから刊行された “Open Access to Knowledge and Information: Scholarly Literature and Digital Library Initiatives; the South Asian Scenario”では、インドのオープンアクセスサービスとして、電子図書館が13プロジェクト、オープンコースウェア6プロジェクト、オープンアクセス雑誌6プロジェクト、メタデータの収集・提供サービス5プロジェクト、全国規模のオープンアクセスリポジトリ5プロジェクト、機関リポジトリ19プロジェクトが紹介されている(8)。 

 以下では、インド特有の事情が垣間見える特徴的な電子図書館と機関リポジトリを紹介したい。 

 

特徴的な電子図書館 

  • Digital Library of India (9)(10) 


     ミリオンブックプロジェクト(Million Book Project)(E727 [305]、CA1678 [306]参照)によって電子化された資料を収録している。このプロジェクトは米国のカーネギーメロン大学が中心になって実施され、インドではインド科学大学(Indian Institute of Science:IISc)やインド情報技術大学(International Institute of Information Technology:IIIT)等、多数の機関がスキャニングに参加している(11)。IISc、IIITの2サイトから利用でき、データの一部は重複している。2007年の時点では、インド国内では289,000冊以上の本がスキャンされており、そのうち170,000冊あまりが英語以外のインドの言語であるとされている(12)。
  • Traditional Knowledge Digital Library(13)


     インドの伝統文化に関する知識を集めた電子図書館(E293 [307]参照)であり、ヨガやアーユルヴェーダに関する資料を収録している。先進国が、インドの伝統的な医学知識を利用して不正に特許を取得することを防ぐ目的で作成された(14)。国立科学コミュニケーション情報資源研究所(National Institute of Science Communication and Information Resources:NISCAIR)など4つの政府機関による共同プロジェクトである。
  • Kalasampada(15)


     インディラ・ガンディー国立芸術センター(Indira Gandhi National Centre for the Arts)による、インドの文化遺産を集めた電子図書館。画像、映像、図書、手稿類等、多様な媒体の資料を含んでいる。英語とヒンディー語での検索が可能である。

 

機関リポジトリ 

 機関リポジトリは、上述のように科学技術関係機関、大学等の研究機関で多く構築されている。ただし、表を見ても分かるように、収録されているコンテンツの数は多くない(日本では、レコード数が10,000以上の機関が18機関ある)(16)。国内に多くの教育研究機関が存在するにもかかわらず、コンテンツが増えない原因としては、電子データの収録が義務化されていないことが指摘されており(17)、今後の課題と言えるだろう。 

 機関リポジトリの構築にあたっては、全世界でオープンソースのソフトウェアが多く使われており、インドでも同様である。日本でもよく知られている代表的なソフトウェアとしては、DSpace(CA1527 [308]参照)やEPrintsがある。インド国内での2007年後半の調査では、一般に公開されている電子図書館・機関リポジトリのうち、DSpaceを使用している機関が22機関、EPrintsは11機関、Greenstone Digital Library(GSDL)(18)は4機関、機関独自に開発しているのは5機関との結果が出ている(19)。GSDLとは、発展途上国における電子図書館の構築を支援する目的で、ニュージーランドのワイカト大学がユネスコとベルギーのHuman Info NGOと協力して開発し、無償で配布しているソフトウェアのことである(E744 [309]、E873 [310]参照)。2008年12月時点で49言語に対応しており、ベンガル語、タミル語、マラーティ語、カンナダ語等、インドの言語も多数含まれる。インドにおいては、インド経営大学コジコデ校(Indian Institute of Management, Kozhikode)が中心となって南アジア地域での普及のサポートを行っている(20)。

 

課題

 これまでインドで発表された電子図書館に関する論文は、技術、資料の電子化といった事項に偏っており、人材育成や管理運営、著作権や政策に関するものはほとんど見られない(21)。こういった面での研究が今後の課題であろう。 

また、インドで使われている言語は、憲法で制定されているものだけでも22言語、すべての言語を含めると200とも300とも言われている(22)。電子図書館においても、欧米言語に限らず多様な言語への対応が必要である。今後も、インドの電子図書館開発の推移を見ていきたい。

関西館アジア情報課:水流添真紀(つるぞえ まき)

 

(1) Mahesh, G. et al. Digital Libraries in India: A Review. Libri. 2008, 58(1), p. 16. 

(2) Universiry of Mysore. “Vidyanidhi : Digital Library and E-Scholarship Portal”. 
 http://www.vidyanidhi.org.in/ [311], (accessed 2008-12-16). 

(3) INFLIBNET Centre. “IndCat : Online Union Catalogue of Indian Universities”.
 http://indcat.inflibnet.ac.in/ [312], (accessed 2008-12-16). 

(4) “National Library, India”. 
 http://www.nationallibrary.gov.in/index2.html [313], (accessed 2008-12-16). 

(5) C-DAC. Mobile Digital Library.  
 http://mobilelibrary.cdacnoida.in/ [314], (accessed 2008-11-13), 

(6) C-DAC. “C-DAC releases for new products at ELITEX’ 2003”. 
 http://www.cdac.in/html/events/elitex/elitex.asp [315], (accessed 2008-12-19). 

(7) International Telecommunication Union. “ICT Statistics Database”. 
 http://www.itu.int/ITU-D/ICTEYE/Indicators/Indicators.aspx [315], (accessed 2008-12-16). 

(8) UNESCO. “Open Access to Knowledge and Information: Scholarly Literature and Digital Library Initiatives; the South Asian Scenario”.  
 http://portal.unesco.org/ci/en/ev.php-URL_ID=26393&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html [316], (accessed 2009-2-20). 

(9) International Institute of Information Technology, Hyderabad. “Digital Library of India”. 
 http://dli.iiit.ac.in/index.html [317], (accessed 2008-12-17). 

(10) Indian Institute of Science, Bangalore. “Digital Library of India”.
 http://www.new.dli.ernet.in/index.html.en [318], (accessed 2008-12-18). 

(11) IIScのサイトから、スキャニングに参加している機関ごとの作業冊数・ページ数が見られる。 
 Indian Institute of Science. “ Scanning Centre Wise Report”. Digital Library of India.
 http://www.new.dli.ernet.in/cgi-bin/status.cgi [319], (accessed 2008-12-26). 

(12) Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 299. 

(13) “Traditional Knowledge Digital Library”.
 http://www.tkdl.res.in/ [320], (accessed 2008-12-17). 

(14) 伝統的な知識は、口承されたり、サンスクリット語など非ローマ字で記録されたりすることも多かった。欧米言語に翻訳してWeb上に公開することにより、(多くは先進国の)企業が不正に特許申請したとしても、審査機関が感知することが可能になる。 

(15) Indira Gandhi National Centre for the Arts. “Kalasampada”.
 http://ignca.nic.in/dgt_0001.htm [321], (accessed 2008-12-17). 

(16) Registry of Open Access Repositories(ROAR)に登録されている日本のリポジトリのうち、レコード数が10,000件以上の機関の数(国立情報学研究所(NII)も含む。2008年12月17日時点)。 

Registry of Open Access Repositories.
 http://roar.eprints.org/ [322]. (accessed 2008-12-17). 

(17) Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 301. 

(18) “Greenstone Digital Library Software”. 
 http://www.greenstone.org/ [323]. (accessed 2008-12-17). 

(19) Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 286-302. 

(20) CDDL-IMMK. “Greenstone Support for South Asia”.
 http://greenstonesupport.iimk.ac.in/ [324]. (accessed 2008-12-17). 

(21) Mahesh, G. et al. Digital Libraries in India: A Review. Libri. 2008, 58(1), p. 22. 

(22) 広瀬崇子ほか. 現代インドを知るための60章. 明石書店, 2007, p. 196-198.

 

Ref.

Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 286-302. 

Mahesh, G. et al. Digital Libraries in India: A Review. Libri. 2008, 58(1), p. 15-24. 

 


水流添真紀. インドの電子図書館と機関リポジトリ. カレントアウェアネス. 2009, (299), p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1682 [325]

カレントアウェアネス [13]
電子図書館 [290]
機関リポジトリ [291]
インド [326]
大学図書館 [327]
研究図書館 [328]

CA1683 - 光/磁気ディスク、フラッシュメモリの劣化と寿命 / 大島茂樹

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カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

CA1683

 

光/磁気ディスク、フラッシュメモリの劣化と寿命

 

はじめに

 今や世界中で膨大なデジタル情報が日々生産されているが、それらを保存し後世に伝えていくには、まだ数多くの不安要素が解決されず残っている。

 その中には、記録メディアの寿命の問題がある。紙の本は1,000年の時を超えて保存に耐えてきた実績があるが、デジタル情報の記録メディアは歴史が浅く、その寿命について確かなところがわかっていない。

 本稿では、現在の主な記録メディアである光ディスク、ハードディスク及びフラッシュメモリについて、構造や原理を概観した上、その劣化と寿命についてこれまでに行われてきた研究等の成果を紹介する。

 

光ディスク

 CD・DVD等の光ディスクは安価で大容量のデジタル記録メディアとして盛んに利用されてきた。反射膜がついた記録層に強いレーザー光を当てて、状態が変化した部分を作り出すことでデータを記録し、データを読み出す時はそこに弱いレーザー光を当て反射光の変化を読み取るというのが基本的な原理である。

・劣化の原因と寿命

 光ディスクの劣化原因としては、まず高温多湿な環境が挙げられる。反射膜や記録層に水分が浸入すると腐食し、データが読み出せなくなることがある。また、記録層に色素を用いているCD-R、DVD-R等の場合、一定以上の光を浴びると、色素が分解してデータが失われることがある。ゆえに、『IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則』(CA1680 [330]参照)(1)では、光ディスクは「涼しくて(温度20℃以下),適度に乾燥した(相対湿度40%)ところで保管しなければならない」「直射日光のもとにディスクを置いてはならない」とされている。

 光ディスクは、再生時に一部正しく読み出せないビット列があったとしても、同時に記録された誤り訂正用データを用いてデータを修復することができる。ただし、この訂正能力にも限界があり、ディスクの劣化が進んで誤り発生率がある一定の値を超えると、データの訂正ができなくなる。このとき光ディスクが「寿命」を迎えることになる。

 日本記録メディア工業会のWebサイトでは、DVDに記録されたデータの寿命について「通常の使用環境で10年以上持つといわれています」としている(2) 。国内DVDメーカーのWebサイト等においては「数十年の保存に耐える」(3)、「DVD-Rディスクの耐久期間はおそらく20年~30年以上」(4)、「保証するものではありませんが100年後の寿命予測(生存確率99%以上)」(5)等の記載が見られ、保存環境にもよるが、概ね数十年程度の寿命を想定しているようである。だが、問い合わせを行うと10年と回答するメーカーが多かったとの調査(6)もあり、確かなところはわからない。

 また、書き換え可能な光ディスクはアモルファス合金に結晶相と非晶質相を作り出すことによってデータを記録しているが、書き換え可能な回数には限界があり、CD-RW、DVD-RWが1,000回程度、DVD-RAMが10万回程度といわれている(7)。

・寿命に関する調査研究

 デジタルコンテンツ協会が、国内・海外メーカー製の数種類のDVD-R、DVD-RAM、DVD-RWについて、温湿度試験、耐光試験、耐ガス試験などから保存寿命を評価する一連の調査研究を行っている(8)(9)(10)(11) 。これらで用いられたのは、過酷な条件下で劣化を加速させた場合の寿命を測定し、そこから通常使用時の寿命を推定する加速劣化試験という手法である。

 温湿度試験では、85℃、80℃、75℃、65℃の4温度(湿度はいずれも80%RH)という条件下でそれぞれの温度における寿命を求め、常温における寿命の中央値及び95%生存寿命を推定している。中央値のデータによると、温度25℃、湿度80%の条件下でDVD-Rが17~157年、DVD-RWが28~27,925年、DVD-RAMが39~611年という推定寿命が得られている。

 耐光試験では、太陽光に近い光を連続照射して記録再生特性を評価している。DVD-Rは8枚のうち1枚が48時間後、もう1枚が120時間後に、記録層が褪色し測定できない程劣化した(蛍光灯の下に置いた場合に換算すると48時間は106日程度、120時間は266日程度に相当)。DVD-RWとDVD-RAMには大きな問題はなかった。

 耐ガス試験では、光ディスクに影響を与える可能性のあるガスとして温泉地の数百倍の濃度の硫化水素を用い、長時間暴露状態として評価を行った。その結果、通常の環境では問題のない耐ガス性を持つと結論付けられている。

 またこの調査では、加速劣化試験の前に全てのディスクについて初期の記録品質の評価が行われている。その結果、一部の海外製ディスクにおいて、データを記録した当初からデータ誤り率が規格値を大幅に超えている「寿命0年」のものもあった。同様に、初期品質に関する調査を行ったものに、記録ディスク(DVD-R)と記録ドライブとの組み合わせにより記録品質が悪くなる場合があることを実証した森島の研究(12)がある。

 書き換え可能なDVDの寿命については、入江らも評価を行っている(13)。これは、加速劣化試験と一般室内環境下での保管試験を組み合わせて実施したもので、結果として50~100年以上の寿命が推定されている。

 なおデジタルコンテンツ協会は、光ディスクの寿命評価法について「これから製造する光ディスクの品質を保証するための規格」と「記録済み光ディスク上のデジタルデータの品質を監視する規格」の2つの規格の国際標準化の動向を紹介している。前者はCD-RとDVD-Rの寿命推定法の規格として、2007年にECMA(欧州電子計算機工業会)の承認を経て(14)、2008年にISO規格(15)として制定されている。後者は関連するJIS規格(16)等を基に検討が重ねられ、2009年にISO規格化(17)された。3年毎にエラーチェックを行い、劣化の度合いによって媒体移行を行う基準が定められている。

 

ハードディスク(HDD)

 ハードディスク(HDD)は記録メディアの主流として、携帯オーディオプレーヤー、パソコン、録画機、大規模ストレージ等に幅広く利用されている。高密度化が急速に進み、現状では最も大容量が実現できる。その構造は、アルミニウム等の薄い円板に磁性体を塗布した磁気ディスク(プラッタ)を回転させ、磁気ヘッドによりデータの読み書きを行う、というものである。

・劣化の原因と寿命

 HDDは熱に弱く、高温がコントロールチップの暴走、プラッタの変形、磁気情報の変質、モーターの潤滑剤の化学変化といった劣化の原因を生み出す場合がある。また、HDDに衝撃が与えられたり、電源を切ったりすると磁気ヘッドとプラッタが接触し破損する可能性がある。さらに、磨耗粒子が飛散し、データ記録部分を傷つけることもある(18)。

・寿命に関する調査研究

 ベンダーはHDDの仕様に関する様々なデータを公表しており、その中で一般的に寿命に相当する指標とされるのが、平均故障寿命(MTTF:Mean Time To Failure)である。だが、MTTFが100万時間(114年)となっていても、そのHDDが114年間故障しないことを保証するわけではない。MTTFはあくまで「期待値」であるためである。

 このMTTFの値については、シュローダー(Bianca Schroeder)らが調査を行っている(19)。ベンダーが公表するMTTFが100万時間以上とされている10万台のHDDについて、5年以上にわたりその年間故障率(AFR:Annualized Failure Rate)を調査したところ、AFRは約3%であったという。ここから、実際のMTTFは30万時間程度であったことが推計される。

 また、Google社のピニェイロ(Eduardo Pinheiro)らは、同社で使用する10万台を超えるHDDから、ほとんどのHDDが備えている自己監視機能のSMART(Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology)の情報をはじめとする各種データを収集し、HDDの故障予測について調査を行っている(20)。結果として、先行する研究で繰り返し指摘されてきた「高い温度と高い利用レベルが故障率を上げる」という相関関係は確認できなかったこと、SMART情報のうち4項目(Scan Error、Reallocation Count、Offline Reallocation、Probational Count)は故障率と高い関連性を持つことが確認できたが、SMART情報だけでは故障予測に限界があること等の指摘がなされた。

 このほか、HDDの劣化や寿命に関する研究としては、HDD冷却ファンの振動によるダメージに関する研究(21)やInternet ArchiveのHDD故障率に関する研究(22)等がある。

 

フラッシュメモリ

 フラッシュメモリは、書き換え・消去が可能で、不揮発性の(電源を切っても内容が消えない)半導体メモリである。主にデジタルカメラ等の記録メディアとして使われる小型メモリカードや、USBメモリ等のパソコン用の可搬記録メディアとして普及している。フラッシュメモリ内には無数の半導体素子(メモリセル)が配置され、そのメモリセルに電圧をかけることにより、電荷を出し入れして記憶・読み出し・消去を行う仕組みである。記録・再生にHDDのようなモーター機構を必要としないという特徴がある。

・劣化の原因と寿命

 メモリセルは、電荷を蓄えるために絶縁機能を持つ「トンネル酸化膜」を用いているが、電荷の移動が頻繁に行われると酸化膜が次第に劣化して電荷を蓄えることができなくなる。このため、特定のメモリセルに書き込みが集中しないように、書き込みを分散して行う等の仕組みを持っている製品もある。

 寿命に関する指標としてはデータ書き換え可能な回数があり、概ね1~10万回といわれる。また、データを保持できる期間は約10年間といわれている。これらの値は各メーカーが公表している場合もある。ただし実際には、コネクターの接触部分の磨耗や破損など寿命以外の要因により使えなくなってしまうケースが多いと考えられ、強い磁気や電気の発生源に近づけることも故障の原因となる(7)。

・寿命に関する調査研究

 光ディスクのようにサンプルから寿命推定値を算出した論文や報告書等は見当たらなかった。だが、フラッシュメモリを含む半導体デバイスは製造元によって、製造から輸送及び使用期間中に受けると推定される(熱的、機械的、電気的などの)ストレスに関して、加速あるいは限界ストレスを印加し,故障なく動作することの確認及び寿命を推定するための信頼性試験を経ている(23)。各メーカーが公表している書き換え可能回数やデータ保持期間はこのような試験を基にしていると考えられる。

 このほか、Linux上で繰り返し書き込みを行うプログラムを用いmicroSDカードの書き込み耐性の調査を行っている個人のブログ(24)や、USBメモリがデータ書き換え可能回数を超え故障した場合にどのような現象が起きるかをレポートした記事(25) 、書き込み・消去方式がフラッシュメモリの信頼性に与える影響を調査した論文(26)(27)なども見られる。

 

新世代記録メディア

 これまで見てきたものよりも大容量・長寿命化を目指し、新しい記録メディアの開発・研究が行われつつある。

 例えば、米国のカリフォルニア大学サンタクルズ校のストーラー(Mark W. Storer)らは、「100年データ保存」が可能な新技術として、HDDとフラッシュメモリを組み合わせた長期保存技術「Pergamum」を開発した(28)(29)。また、京都大学の越智らは、読み出し専用の半導体メモリであるマスクROMをガラスディスクに密封し、非接触のアクセスを行う、新しい長期保存メディアの研究を行っている(30)。

 また既存メディアの改良も進められている。産業技術総合研究所は、東京大学と共同で、従来のデータ書き換え可能な回数の1万倍とされる、1億回以上の書き換えが可能なメモリセルを2008年に開発している(31)。GENUSION社と東北大学が2009年の製品化を目指し共同開発したフラッシュメモリは、100万回の書き換え回数のほか、20年間の連続読み出し、150℃で10年間のデータ保持能力が確認されている(32)。

 

おわりに

 デジタル情報は一度失われてしまうと復旧が難しく、その損失も大きい。記録メディアの寿命については、様々な研究が行われ、改善も図られているとはいえ、まだ紙媒体に匹敵する年月が蓄積されていない以上、試験等を基にした推定値にとどまる。新しい記録メディアや技術が登場するまでは、確実なバックアップや適切な環境での保存と利用を心がける等の対応をとることが求められる。

関西館電子図書館課:大島茂樹(おおしま しげき)

 

(1) 国立国会図書館. “資料を保存するために: IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則”. 2003.
 http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data_preserve_01.html [331], (参照 2009-02-20).

(2) 日本記録メディア工業会. “消費者の皆様へ: DVDって何?”.
 http://www.jria.org/personal/dvd/index.html#dvd9 [332], (参照 2009-02-20).

(3) 日立マクセル. “「DVDの取り扱い方について」よくあるご質問”.
 http://www.maxell.co.jp/jpn/consumer/data_disc_dvd_minus_r/cdata_r16/d_mr16x_faq03.html [333], (参照 2009-02-20).

(4) 価格.com. “DVDディスクの“信頼性”の“秘密”を探る!”.
 http://kakaku.com/article/pr/07/mkm/p02_2.html [334], (参照 2009-02-20).

(5)スタート・ラボ. “サポートFAQ”.
 http://startlab.co.jp/faq/thats.html#1100_50_92 [335], (参照 2009-02-20).

(6) オプトロニクス社. FOCAL POINT 光ディスクメディアの寿命ははたして何年?. オプトロニクス. 2007, 26(2), p. 78-80.

(7) “記録メディアの寿命はどれくらい?”. 日経TRENDYnet. 2003-10-08.
 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/qa/parts/20031006/106168/ [336], (参照 2009-02-20).

(8) 機械システム振興協会. “平成15年度システム技術開発調査研究: 長期保存のための光ディスク媒体の開発に関する調査研究”. デジタルコンテンツ協会. 2004.
 http://www.dcaj.org/optdisk/opticaldisk.html [337], (参照 2009-02-20).

(9) 機械システム振興協会. “平成16年度システム開発: 長期保存のための光ディスク媒体の開発に関するフィージビリティスタディ”. デジタルコンテンツ協会. 2005.
 http://www.dcaj.org/optstudy/study.html [338], (参照 2009-02-20).

(10) 機械システム振興協会. “平成17年度システム開発: 長期保存のための光ディスク媒体の開発に関するフィージビリティスタディ”. デジタルコンテンツ協会. 2006.
 http://www.dcaj.org/h17opt/17optstudy.html [339], (参照 2009-02-20).

(11) 機械システム振興協会. “平成18年度システム開発: 高信頼(長寿命・高セキュリティ)光ディスク媒体の活用システムの開発に関するフィージビリティスタディ”. デジタルコンテンツ協会. 2007.
 http://www.dcaj.org/h18opt/choki.html [340], (参照 2009-02-20).

(12) 森島英行. DVD(CD)の劣化について(下). 月刊IM. 2008, 47(3), p. 21-24.

(13) 入江満, 沖野芳弘, 久保高啓. 電子画像保存のための光ディスクの環境信頼性評価(1)相変化光ディスクの寿命評価の検討. 日本画像学会誌. 2003, 42(3), p. 224-229.

(14) ECMA-379 2nd edition : 2008. Test Method for the Estimation of the Archival Lifetetime of Optical Media.
 http://www.ecma-international.org/publications/standards/Ecma-379.htm [341], (accessed 2009-02-20).

(15) ISO/IEC 29121 : 2009. Information technology -- Digitally recorded media for information interchange and storage -- Data migration method for DVD-R, DVD-RW, DVD-RAM, +R, and +RW disks.
 http://www.iso.org/iso/iso_catalogue/catalogue_tc/catalogue_detail.htm?csnumber=45144 [342], (accessed 2009-02-20).

(16) JIS Z 6017 : 2006. 電子化文書の長期保存方法.

(17) ISO/IEC 10995 : 2008. Information technology -- Digitally recorded media for information interchange and storage -- Test method for the estimation of the archival lifetime of optical media.
 http://www.iso.org/iso/catalogue_detail?csnumber=46554 [343], (accessed 2009-02-20).

(18) ミツワ電機工業. “ハードディスク大量搭載実験研究サイト ハードディスク番長”.
 http://hddbancho.co.jp/ [344], (参照 2009-02-20).

(19) Schroeder, Bianca.; Gibson, Garth A. “Disk failures in the real world: What does an MTTF of 1,000,000 hours mean to you?”. 5th USENIX Conference on File and Storage Technologies. San Jose, USA, 2007-02-14/16, USENIX. 2007.
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(20) Pinheiro, Eduardo ; Weber, Wolf-Dietrich ; Barroso, Luiz Andre. “Failure trends in a large disk drive population”. 5th USENIX Conference on File and Storage Technologies. San Jose, USA, 2007-02-14/16, USENIX. 2007.
 http://labs.google.com/papers/disk_failures.pdf [346], (accessed 2009-02-20).

(21) 清水敏行, 建部修見, 工藤知宏. 2003年並列/分散/協調処理に関する『松江』サマー・ワークショップ(SWoPP松江2003)研究会・連続同時開催: クラスタノードの高密度実装における振動等の問題について. 情報処理学会研究報告. 2003, (84), p. 67-72.
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(22) Schwarz, Thomas ; Baker, Mary ; Bassi, Steven et al. “Disk failure investigations at the Internet Archive”. NASA/IEEE Conference on Mass Storage Systems and Technologies (MSST2006). Maryland, USA, 2006-05-15/18, NASA. 2006.
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(23) NECエレクトロニクス. 半導体 品質/信頼性ハンドブック. 2008, 255p.
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 http://suz-avr.sblo.jp/article/11446033.html [350], (参照 2009-02-20).

(25) “数年使ったらファイル壊れる? DVD、USBメモリの寿命に注意!”. J-CASTニュース.
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(27) 登川一郎, 加藤剛, 中野真治. フラッシュメモリの書込/消去方法の信頼性への影響. 電子情報通信学会技術研究報告. R, 信頼性. 1999, 99(454), R99-22 , p. 25-29.
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(28) “「100年データ保存」が可能な新技術―米大学が開発”. ITMedia News. 2008-4-22.
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(29) Storer, Mark W. ; Greenan, Kevin M. ; Miller, Ethan L. et al. “Pergamum: Replacing tape with energy efficient, reliable, disk-based archival storage”. 6th USENIX Conference on File and Storage Technologies. San Jose, USA, 2007-02-26/29, USENIX. 2008.
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(30) 越智裕之. “密封半導体メモリの可能性”. デジタル知の恒久的な保存と活用にむけて: デジタルジレンマへの挑戦. 東京, 2008-10-24, 慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ研究機構. 2008.
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Ref.

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カレントアウェアネス [13]
電子情報保存 [206]

CA1684 - オープンアクセス・オプションとその被引用に対する効果 / 時実象一

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カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

CA1684

 

オープンアクセス・オプションとその被引用に対する効果

 

1. はじめに

 オープンアクセスの目的は、科学者や一般市民が学術成果に無料で自由にアクセスできるようにすることである。そのための手段として(1) オープンアクセス雑誌、(2) 機関リポジトリの2 つが大きく取り上げられてきた。これらは現在もオープンアクセスのための主要な手段であることは事実であるが、最近はその変化形態としての(3) オープンアクセス・オプション、(4) 研究助成機関リポジトリが大きく注目されてきている。本記事はオープンアクセス・オプションを中心に最近の動向について解説するとともに、オープンアクセス・オプションの効果に関する最近の研究にも触れる。なお、本稿以前のオープンアクセス雑誌の動向については時実(1)、機関リポジトリと研究助成機関リポジトリの最近の動向については時実(2)などを参照されたい。

 

2. オープンアクセス・オプション

2.1 オープンアクセス・オプションの普及

 オープンアクセスでない学術雑誌において、著者や著者の所属機関、著者の研究に助成した機関等が掲載料を支払うことにより、特定の論文だけをオープンアクセスにすることをオープンアクセス・オプション、またそのようなオプションを有する雑誌をハイブリッド誌(Hybrid Journal)あるいはハイブリッドオープンアクセス誌(Hybrid Open Access Journal)と呼んでいる。すでに主要な出版社のほとんどがこのオプションを設けており、日本でも2005年7月から実施している日本化学会(3)のほか、2008年1月に日本物理学会(4)、2008年9月に応用物理学会(5)も採用した。英国のSHERPA/RoMEOプロジェクトはこれを“Paid Options”と呼び、これを設けている出版社の一覧を掲載している(6)。2008年12月現在で61出版社が掲載されている。

2.2 マックス・プランク協会とSpringer社の合意

 このオープンアクセス・オプションに関し、最近注目される動きとしては、ひとつはドイツのマックス・プランク(Max Planck)協会がSpringer社と交わした合意である。マックス・プランク協会は2007年10月、雑誌の講読価格をめぐってSpringer社と合意ができず、同社の雑誌約1,200誌をすべてキャンセルすると発表した(7)。しかし翌年 1 月末になって両者は一転して合意に達した(8)。その条件のひとつが、今後、マックス・プランク協会の研究者がSpringer社の雑誌に投稿した論文については、同社のオープンアクセス・オプション“Open Choice”を適用し、直ちにオープンアクセスとする、というものであった。マックス・プランク協会は従来からオープンアクセスの主要な旗振り役であり、またSpringer社は著者支払い型ビジネスモデルの採用に積極的であったことからして、この合意は両者にとってWin-Winであったと想像される。2008年11月に来日したマックス・プランク協会のロマリー(Laurent Romary)氏によれば、この合意のポイントは、Springer 社が、同協会から投稿された掲載論文を同協会のリポジトリに自動的に登載するよう手配してくれることが大きいとのことであった(9)。また他の出版社から同様の提案があれば検討するとのことであった。なお、マックス・プランク協会は2008年8月、所属研究者がPLoS(CA1433 [363]参照) に投稿する場合、その費用を負担することにも合意している(10)。

 このマックス・プランク協会とほぼ同様の契約が2009年1月、Springer社とカリフォルニア大学図書館との間に締結された(11)。この契約でオープンアクセス・オプションが適用されるのは、カリフォルニア大学10キャンパスの全研究者であるため、規模としてはマックス・プランク協会よりもはるかに大きいと考えられる。またこの契約の特徴のひとつは、投稿論文に対してクリエイティブ・コモンズの「表示-非営利」ライセンスが適用される点である。これが適用されるということは、著作権は著者に残されていると思われる。

 なお Springer社は、オープンアクセス出版社のBioMed Central社(E682 [364]参照)を2008年に買収する(12)など、オープンアクセスをビジネスモデルとして確立することに積極的であることを補足しておきたい。

2.3 SCOAP3

 またオープンアクセス・オプションに関して最近注目されるもうひとつの動きは、欧州原子力研究開発機構(CERN)を中心とした、高エネルギー/素粒子物理学における著者支払い型ビジネスモデルによるオープンアクセス出版推進プロジェクト“SCOAP3”(E812 [365]参照)である。CERNはマックス・プランク協会と並ぶ、欧州におけるオープンアクセス運動の推進者である。

 このプロジェクトの始まりは、2005年にCERNにオープンアクセス出版に関するタスクフォースが結成されたところとされている。その報告書(13)が2006年6月に発表され、これに基づき準備会“SCOAP3 Working Party”が結成された。2007年4月に発表された準備会の報告書(14)によれば、現在高エネルギー/素粒子物理学分野の「主要論文」は年に5,000-7000論文が出版されており、そのおよそ80%が、同分野の論文を主に掲載している「主要誌」5誌と、他分野の論文も掲載している「ブロードバンド誌」1誌に掲載されている。SCOAP3はこうした雑誌における高エネルギー/素粒子物理学関連論文をオープンアクセス・オプション価格で買い上げ、世界の研究者に無料公開するというものである。これを実現するには毎年約1,000万ユーロが必要であると計算されているが、その費用は図書館等が従来予約購読に用いていた資金を転用する形で集めることになっている。2009年1月13日の段階では、そのおよそ53%が集まったと発表されている(15)。

 SCOAP3には現在のところ、CERNなどの高エネルギー/素粒子物理学関係の研究所のほか、マックス・プランク協会などの研究機構、カリフォルニア大学、オハイオリンクなどの図書館が参加を表明している。出版社側は、コア論文の多くを掲載している6誌の出版社4社の1つ、Springer社がいち早く支持を表明したが、同じく4社の1つである米国物理学会(APS)はいまだに態度を明らかにしていない。APSのセリーヌ(Joseph Serene)氏からの私信によれば、「理念は理解するが、本当に継続性が保証されているかどうかに懸念がある」とのことであった。出版社としては、このプロジェクトに参加することにより、オープンアクセス・オプションによる収入を得る一方で購読料による収入が減少することになる。万が一、将来このプロジェクトが終了したとき、購読料収入が元に戻らない恐れがある、との理由からである。

 SCOAP3は高エネルギー/素粒子物理学分野の論文掲載数に応じた分担金の負担を、各国に求めている(E812 [365]参照)。日本では、日本物理学会を中心として検討が行われているが、現時点では要請されている資金の調達はめどが立っていない。SCOAP3が実現すれば、主要誌による論文の囲い込みが起き、日本発の雑誌は不利をこうむるのではないか、という心配の声も挙がっているのが現状である(16)。

 

3. オープンアクセス・オプションの被引用効果

 オープンアクセスを推進する側の議論として、オープンアクセスにすれば閲覧機会が増加し、したがって引用も増加するはずである、というものがある。ローレンス(Steve Lawrence)による2001年の論文(17)をはじめ、オープンアクセス論文の方がダウンロードや被引用が多いという結果を提示する研究は数多い(CA1559 [151]参照)(18)。

 その一方で、オープンアクセス論文と非オープンアクセス論文とで、大きな違いは見られないという研究結果もある(CA1559 [151]参照)(19)。この立場の代表的な論者であるデーヴィス(Philip M. Davis)が、オープンアクセス・オプションの効果に関する研究を行っている(20)。

 これは、一定の猶予期間後に全論文が無料公開される(embargo)生物医学関係の11誌に、2003~2007年に掲載された全論文11,013件について詳細な分析を行ったものである。このうち、オープンアクセス・オプションにより早期に公開された論文は1,613件であった。分析の結果、オープンアクセスによる被引用の増加の効果が有意に見られたのは、11誌中2誌のみであった。全体では、オープンアクセス論文の方が17%被引用が多いという結果になったが、このようなオープンアクセスの優位性は早期公開の影響が大きく、長期的に見ると差が小さくなるとされている。例えば2004年刊行分について見ると、被引用数の違いが2004年の32%から2007年には11%へと、差が縮まっている。また著者が優れた論文をオープンアクセスにするため、被引用が高めに出ているのではないかとも述べている。このほか、著者にとってのオープンアクセス・オプションの経済的効果(1引用あたりのコスト)も計算しており、全体としてオープンアクセス・オプションの効果について疑問を投げかけている。

 とはいえ、オープンアクセス・オプションの効果に関する研究はまだ少なく、オープンアクセスそのものの効果についても正反対の結果が出ていることから、引き続いての調査が必要と思われる。

 

4. おわりに

 上記のデーヴィスの研究において、オープンアクセス・オプションにより公開された論文は全体の約15%であった。また2008年の倉田らによる生物医学分野対象の調査(21)によれば、調査対象の37.2%がオープンアクセス論文であったが、そのうちの約半数は非オープンアクセス誌に掲載されたものであった(22)。

 SCOAP3やSpringer社の積極的な姿勢により、オープンアクセス・オプションによって公開される論文はさらに増える傾向にある。その被引用に対する効果については否定的な結果も出ているものの、広く研究成果へのアクセスを提供するというオープンアクセスの意義を考えると、オープンアクセスそのものの広がりと共に、その手段のひとつとして確立しつつあるオープンアクセス・オプションの動向にも注目していく必要があろう。

愛知大学:時実象一(ときざね そういち)

 

(1) 時実象一. 電子ジャーナルのオープンアクセスと機関リポジトリ: どこから来てどこへ向かうのか: (1) オープンアクセス出版の動向. 情報の科学と技術. 2007, 57(4), p. 198~204.

(2) 時実象一. オープンアクセス: 機関リポジトリの最近の動向. 情報の科学と技術. 投稿中.

(3) “論文のオープンアクセスについて”. Bulletin of the Chemical Society of Japan. 2005-07-01.
 http://www.csj.jp/journals/bcsj/notice/bcsj_notice-050601_jp [366], (accessed 2009-01-04).

(4) “JPSJ: Open Select”. Journal of the Physical Society of Japan. 2008-01-10.
 http://jpsj.ipap.jp/os/index.html [367], (accessed 2009-01-04).

(5) “OPEN SELECT — JSAP Open Access Program —” Japanese Journal of Applied Physics. 2008-09-01.
 http://jjap.ipap.jp/announcements/index.html [368], (accessed 2009-01-04).

(6) SHERPA/RoMEO. “Publishers with paid options for open access”.
http://www.sherpa.ac.uk/romeo/PaidOA.html [369], (accessed 2009-01-04).

(7) “Max Planck Society cancels licensing agreement with Springer”. Max Planck Society. 2007-10-18.
 http://www.mpg.de/english/illustrationsDocumentation/documentation/pressReleases/2007/pressRelease20071022/index.html [370], (accessed 2008-11-03).

(8) “Max Planck Society and Springer reach agreement”. Max Planck Society. 2008-02-04.
 http://www.mpg.de/english/illustrationsDocumentation/documentation/pressReleases/2008/pressRelease20080204/index.html [371], (accessed 2008-11-03).

(9) Romary, Laurent. “Changing the landscape - various ways of achieving open access”. 平成 20 年度大学図書館シンポジウム. 横浜, 2008-11-28, 国公私立大学図書館協力委員会・日本図書館協会大学図書館部会.

(10) “Open access contract: MPS and PLoS agree upon central funding of publication fees”. EurekAlert!.
 http://www.eurekalert.org/pub_releases/2008-08/plos-oac082108.php [372], (accessed 2009-01-26).

(11) “UC libraries and Springer sign pilot agreement for open access journal publishing”. University of California. 2009-01-21.
 http://www.universityofcalifornia.edu/news/article/19335 [373], (accessed 2009-01-26).

(12) “Springer to acquire BioMed Central Group”. Springer Science+Business Media. 2008-10-07.
 http://www.springer-sbm.com/index.php?id=291&backPID=132&L=0&tx_tnc_news=4970&cHash=b5a2aa41d8 [374], (accessed 2009-01-26).

(13) Report of the task force on open access publishing in particle physics. CERN. 2006, 46p.
 http://scoap3.org/files/cer-002632247.pdf, (accessed 2009-01-26) [375].

(14) The SCOAP3 Working Party. Towards open access publishing in high energy physics: Report of the SCOAP3 working party. CERN, 2007, 35p.
 http://www.scoap3.org/files/Scoap3WPReport.pdf [376], (accessed 2008-12-12).

(15) “How far are we?”. SCOAP3. 2009-01-13.
 http://scoap3.org/fundraising.html [377], (accessed 2009-01-26).

(16) 奥田雄一. 「オープンアクセス (SCOAP3) 検討分科会」からの報告. 平成 20 年度大学図書館シンポジウム. 横浜, 2008-11-28, 国公私立大学図書館協力委員会・日本図書館協会大学図書館部会.

(17) Lawrence, Steve. Free online availability substantially increases a paper's impact.
 http://www.nature.com/nature/debates/e-access/Articles/lawrence.html [378], (accessed 2008-12-21).

(18) 例えば、以下のようなものが挙げられる。
 Hajjem, C. ; Harnad, S. ; Gingras, Y. Ten-year cross-disciplinary comparison of the growth of open access and how it increases research citation impact. IEEE Data Engineering Bulletin. 2005, 28(4), p. 39-47.
 Clauson, Kevin A. ; Veronin, Michael A. ; Khanfar, Nile M. et al. Open-access publishing for pharmacy-focused journals. American Journal of Health-System Pharmacy. 2008, 65(16), p. 1539-1544.
 林和弘, 太田暉人, 小川桂一郎. “オープンアクセス論文のインパクト: 日本化学会の事例”. 第5回情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集. 東京, 2008-11-13/14. 科学技術振興機構, 情報科学技術協会, 2008, p. 33-37.

(19) 例えば、以下のようなものが挙げられる。
 Davis, Philip M. ; Lewenstein, Bruce V. ; Simon, Daniel H. et al. Open access publishing, article downloads, and citations: randomised controlled trial. British Medical Journal. 2008, 337(7665), a568.

(20) Davis, Philip M. Author-choice open-access publishing in the biological and medical literature: A citation analysis. Journal of the American Society for Informaiton Science and Technology. 2009, 60(1), p. 3-8.

(21) 倉田敬子, 森岡倫子, 井之口慶子. 生物医学分野におけるオープンアクセスの進展状況: 2005年と2007年のデータの比較から. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 2008, p. 33-36.

(22) なお、2008年に生態学・経済学・社会学を対象として行われたオープンアクセス論文の比率の調査でも、オープンアクセス論文は約39%であるという結果が出ている。
 Norris, Michael ; Oppenheim, Charles ; Rowland, Fytton. Finding open access articles using Google, Google Scholar, OAIster and OpenDOAR. Online Information Review. 2008, 32(6), p. 709-715.

 

Ref.

SCOAP3: Sponsoring Consortium for Open Access Publishing in Particle Physics.
http://scoap3.org/ [379], (accessed 2008-12-21).

 


時実象一. オープンアクセス・オプションとその被引用に対する効果. カレントアウェアネス. 2009, (299), p.10-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1684 [152]

カレントアウェアネス [13]
出版 [14]
電子ジャーナル [166]
オープンアクセス [168]
計量書誌学 [380]

CA1685 - 動向レビュー:総合的図書館ポータルへの足跡―オーストラリア国立図書館の目録政策とシステム構築 / 那須雅熙

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カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

CA1685
動向レビュー

総合的図書館ポータルへの足跡―オーストラリア国立図書館の目録政策とシステム構築

 

はじめに

 情報環境が激変するなかで、どの図書館もその変化に的確に対応し、書誌コントロールの見直しを図らないと、十全な図書館サービスが遂行できない局面におかれている。OPACや総合目録を通じて書誌情報を利用者に提供するだけではもはや不十分であり、文化的、学術的活動の所産としてのネットワーク情報資源も含む多様なメディアを総合的に提供するサービス(総合的ポータルの構築)が求められている。

 2005年末から2006年にかけて、米国で研究図書館目録の機能衰退とその将来像についての報告書が相次いで発表され、「図書館目録の危機」なる言葉が人口に膾炙した(CA1617 [382]参照)。しかしながら同じ頃に、情報資源の発見と提供におけるOPACの限界と総合目録の重要性を指摘し、情報提供サービスの転換が提唱されていたことはあまり知られていない。それは、2005年10月に発表された、オーストラリア国立図書館(NLA)のピアース(Judith Pearce)の論文「情報資源の発見と提供における新たな枠組み」(1)である。

 NLAはこの論文を出発点として、情報資源の発見と提供プロセスにおける目録の役割と将来について再検討してきており、国際的にも刮目に値する成果をあげている。以下にその足跡を辿り、評価を試みたい。

 

1. 情報資源の発見と提供サービス―総合目録の新たな役割

 ピアース論文は、インターネットにおけるGoogleやYahoo!といったサーチエンジンが、図書館のOPAC等の伝統的なサービスを超えた効率的なツールとなりつつある現状を踏まえ、資源共有の必要性、利用者が求める資源への直接的なアクセスの提供、総合目録の重要性、資源提供サービスを行う図書館システムについてのレジストリー・サービスの必要性、発見サービスの将来、クライアントやターゲットのインテリジェント化等について検討し、総合目録や情報システム基盤の改修・改善とレジストリーの整備を提言している。

 NLAはこの後、2006年2月にオンライン情報資源への案内も行う、オーストラリア国内の総合的ポータル“Libraries Ausralia”をリリースしている。オーストラリア国内の図書館800館以上が所蔵する、4,000万件以上の情報資源の所在情報を収録した全国総合目録であると同時に、オーストラリアの電子情報データベースとして、NLAのウェブアーカイブ “PANDORA”(CA1537 [383]参照)、写真アーカイブ“Picture Australia”(E443 [384]参照)、音楽アーカイブ“Music Australia”(CA1575 [385]参照)、新聞アーカイブ“Australian Newspapers”、オーストラリアの学術研究成果リポジトリ“ARROW Discovery Service”(E750 [386]、CA1575 [385]参照)等を含む、無料のウェブ探索インタフェースと位置付けられている。なお、これらとは別にNLAのローカル・オンライン目録(Catalogue)も提供している。

 2006年5月には、NLAは従来の目録政策の見直しを行い、全体の政策や戦略計画の変化に対応するとともに、資源記述の発展を取り入れた新たな「オーストラリア国立図書館目録政策」(2)を公開した。2.5「資源発見サービスへの貢献」の項目には、「(NLAが)作成する書誌データは、(ローカル)目録(Catalogue)からだけではなく、Libraries Australia、Picture Australia、Music Australiaのような電子情報データベースの資源発見サービスとも連携して活用される。目録の記述メタデータは、電子コレクション管理システムを通じた電子情報の管理やウェブ提供にも利用される」とあり、まさに新たな目録の機能について述べている。またこれらのメタデータや、OAI-PMHプロトコルを通じて収集された各館のメタデータは、Googleや外部の資源発見サービスにハーベストされることで、目録やLibraries Australiaの直接利用者よりもさらに多くの利用者に利用されることになる。

 2006年8月、ソウルの国際図書館連盟(IFLA)大会でIFLA-CDNL(国立図書館長会議)同盟(ICABS)が主催した公開セッションにおいて、キャスロ(Warwic Cathro)副館長(技術革新担当)は、ピアースの題辞に「変化する目録の役割」という副題を付して、そういったNLAの考え方を紹介している(3)。

 キャスロは、図書館システムが資源発見プロセスにおいて果たす役割は大きく、図書館目録とそれ以外の情報資源発見サービスを往還できるようにすることが重要であるとし、そのうえで、発見を手助けするための「規模の大きなプール」としての総合目録を、図書館コレクション中の情報資源に対する最も重要なアクセス手段として発展させる必要があることを指摘した。そしてこの観点から、現段階でNLAが実現できていること、実現の障害となっていること、及び将来の課題を整理している。

 

2. 目録再考の諸検討

 このような認識に基づき、NLAは、具体的な改善方法や施策を検討していった。

 2006年9月、オーストラリア目録委員会は、「OPACを超えて:ウェブ・ベースト目録のための将来方向」と題されたシンポジウムをパースで開催した。このシンポジウムでボストン(Tony Boston)は「サーチエンジンにオーストラリア総合目録のデータを蒔くために」(4)という論文を発表している。ウェブサービスでのロングテール現象が注目されている中、「利用者の80%が図書館のコレクションの20%しか利用していない」という実態をどう正し、需要を掘り起こしていくべきか。そのためにはLibraries Australiaの魅力をさらに強化し、Googleや外部の資源発見サービスにデータを提供し、サーチエンジンを超える付加価値サービスを考え、個別情報・資料の入手を改善していくことが求められる、としている。

 また、フィッチ(Kent Fitch)は、サーチエンジンLuceneを利用した総合目録の書誌レコードの検索実験のなかで、「FRBR 風に」(FRBR-Like)表示させる実験を行った(5)。FRBRを用いて、検索結果を言語別、資料タイプ別等にグルーピングすることにより、目録の機能を高め、多様なメディアや利用形態に対応した検索を可能にする実験であった。

 2007年1月30日の「インフォメーション・オンライン2007」では、ボストンとデリット(Alison Dellit)が「MARCベース目録の検索結果の適合度ランキング:構造的メタデータを開発するためのガイドラインから実行まで」(6)を発表し、新たなソフトウエア・プラットフォームの導入により、2008年にLibraries Australiaを改善する計画を紹介している。

 

3. 新たなシステム構築と目録の構想

 その計画は、システム面から2007年3月の「ITアーキテクチャ・プロジェクト報告」(7)において正式に明らかにされている。また目録の具体的な構想は、2007年4月19日のInnovative Ideas Forumで、デリットとフィッチが発表した論文「目録を再考する」(8)において表明されている。

 「ITアーキテクチャ・プロジェクト報告」の目的は、今後の3年ほどの間に、NLAのコレクションの管理、発見と提供を支援するのに必要とされるであろうITアーキテクチャを定義することであった。これまでのアーキテクチャは電子図書館機能の発展に寄与したものの、いまや、新たなオンラインサービスの提供、利用者の経験の改善、新たな考え方や技術の変化への対応を阻害している。そして、NLAの戦略計画“Directions 2006-2008”の目標の1つである「利用者が資料を発見し入手することのできるさらに簡単で統合的なサービスを通じて、また、知識を収集、分担、記録し、提供し保存する新たな方法を確立することにより、学習や知識創造を強化する」において見込まれる5つの成果のうちの「急速に変化する世界における適合性、新たなオンラインコミュニティへの関与、図書館の可視性の強化」こそが、NLAのマントラ(呪文)であり戦略なのだ。「ITアーキテクチャ・プロジェクト報告」によれば、アーキテクチャを変えるための重要なコンセプトは、(1) サービス本位のアーキテクチャの導入、(2) データ統合のシングルビジネス、(3) オープンソース開発モデル、である。これらの設計思想に基づいて、今後のシステム開発を行っていくことが宣言されている。またサービス本位の事例として、様々なデータベースを探索し、受け入れ、提供するまでのアプローチをどのようにシステム化するかが描かれるとともに、シングル(統合)ビジネスとして、利用者が求める資源の類型分析、主題検索結果の表示画面の設計、利用者参加、マッチングとマージング、ブランディングとマーケティング、GoogleやWikipedia等とのパートナーシップ、といったさまざまな局面での可能性が追求されている。

 このシステム構築計画に基づき検討された目録の改善計画「目録を再考する」では、今後の目録の戦略として、(1) 標準化と目録システム改善による書誌記述の改善とコスト削減、(2) 利用者とのコミュニケーションのための双方向のオンライン空間の構築、(3) Google等のアグリゲーターへの目録提供を通じた情報資源の統合、(4) アクセシビリティの改善:ランキング、グルーピング、クラスタリングなどの検索技術、マッチング、マージング、ディープリンクを通じた目録統合、資料・情報入手の改善等が挙がっている。そして結論として、図書館は広大な情報の世界と関係し、独自のコレクションや資源をよりよいツールや標準によって記述し、付加価値を付与することを通じて、それらの情報を広く提供し、利用者が公平に、簡単に発見できるよう努めるべきである、と述べている。

 

4. IT戦略計画 2007-2010

 「ITアーキテクチャ・プロジェクト報告」は、2007年7月に「IT戦略計画 2007-2010」(9)として集大成された。この計画は、2007年7月から2010年6月までの3か年におけるIT基盤とサービスの推進のための中期的計画であり、高度戦略価値をもつ優先的活動とITベースの活動を確認するためのものである。計画は、戦略環境やその時点の優先度に従って、毎年見直される。財源は2億7,500万豪ドルとし、その中で新聞電子化プロジェクトの推進も図ることとされた。

 戦略的優先事項として以下の6つの目標が掲げられている。(1) 電子コレクションの収集、管理、提供を支援するソフトウエア及び基盤コンポーネントをグレードアップする。(2) Libraries Australiaや他の協力発見サービスを維持、強化し統合する。(3) 新フルテキストサーチソフトウエアを開発し整備する。(4) オーストラリアの新聞、雑誌、図書のフルテキストコンテンツをオンライン提供することを通じて、電子化された図書館コレクション資料の範囲、量を拡張する。(5) 出版、協力、寄稿、相互作用を支援するためオンライン空間を整備する。(6) ビジネスプロセスの効率性、継続性の強化を支援する。

 さらに、これらの目標を実現するための施策とそのアクションが定められている。このうち、目標(2)の「Libraries Australiaや他の協力発見サービスを維持、強化し統合する。」については、3つの施策が講じられる。(i) 発見・アクセスサービスの強化と支援、(ii) 利用者サーチ経験の改善、(iii) Libraries Australia運営の推進、である。

 

5. 次世代目録の実現と将来

 同じ頃、米国ペンシルバニア州ヴィラノヴァ大学が開発したオープンソースであるVuFindがリリースされた(10)。

 2008年になって、NLAは、これを利用したWeb 2.0対応の次世代目録の試行版をローカル目録として公開した。利用者の意見も徴し、改善を加え、現在、本格実施の段階を迎えている(11)。適合度ランキング、ファセット方式での絞り込み検索、ソーシャルタギングやコメント付与、検索結果や貸出し記録の保存といったマイライブラリー機能、Wikipedia、Google Book Searchとの連携、RSSフィードの出力などが可能となっている。さらに将来は、利用者の生成するデータや自動生成されるデータ(コンピュータによる書誌記述、主題分析等)の組み入れが進められていくであろう。Libraries Australiaの方もこれと並行し、NLAのリーダーシップのもとで国全体の課題として、これまで述べてきたような綿密な計画に基づいて改善されている。

 我が国の図書館も、OPACを超えた総合的ポータルを構築するためには、電子情報資源のナショナル・データベース構築や、基盤整備のための各界の協力体制に関するグランドデザインが必要である。またインターネットのなかで書誌データがどのように検索・発見されるのかについて、さらに研究を進める必要がある。図書館の書誌コントロールはこれまでの概念をはるかに超え、全体の情報資源をどう生産し、保存し、流通し、活用するかという社会的システムに関する構想として、そのあり方が問われているのである。

聖徳大学:那須雅熙(なす まさき)

 

 

(1) Pearce, Judith. “New frameworks for resource discovery and delivery”. National Library of Australia.
http://www.nla.gov.au/nla/staffpaper/2005/pearce1.html [387], (accessed 2008-12-18).

(2) “National Library of Australia Cataloguing policy”. National Library of Australia.
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(3) Cathro, Warwick. “New frameworks for resource discovery and delivery: the changing role of the catalogue”. 102 IFLA-CDNL Alliance for Bibliographic Standards ICABS. Seoul, Korea, 2006-08-20/24, IFLA. 2006.
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(4) Boston, Tony. “Seeding search engines with data from the Australian National Bibliographic Database (ANBD)”. Beyond the OPAC: Future Directions for Web-based Catalogues. Perth, Australia, 2006-09-18, National Library of Australia. 2006.
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(5) Denton, William. “More interesting work at National Library of Australia”. The FRBR Blog.
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(6) Dellit, Alison.; Boston, Tony. “Relevance ranking of results from MARC-based catalogues: from guidelines to implementation exploiting structured metadata”. Information Online 2007. Sydney, Australia, 2007-01-30, ALIA. 2007.
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(7) National Library of Australia. IT Architecture Project Report. 2007, 30p.
http://www.nla.gov.au/dsp/documents/itag.pdf [393], (accessed 2008-12-18).

(8) Dellit, Alison ; Fitch, Kent. “Rethinking the catalogue”. Innovative Ideas Forum. Canberra, Australia, 2007-04-19, National Library of Australia. 2007.
http://www.nla.gov.au/nla/staffpaper/2007/documents/Dellit-Fitch-Rethinkingthecatalogue.pdf [394], (accessed 2008-12-18).

(9) National Library of Australia. Information Technology Strategic Plan 2007-2010. 2007, 15p.
http://www.nla.gov.au/policy/documents/IT%20Strategic%20Plan%202009-2010.pdf [395], (accessed 2008-12-18).

(10) Villanova University's Falvey Memorial Library. “Vufind: The library OPAC meets Web 2.0”.
http://www.vufind.org/ [396], (accessed 2008-12-18).

(11) National Library of Australia. “catalogue”.
http://catalogue.nla.gov.au/ [397], (accessed 2008-12-18).

 

Ref.

那須雅熙. オーストラリア国立図書館の次世代目録試行版. NDL書誌情報ニュースレター, 2008年1号 (通号4号).
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bib_newsletter/2008_1/index.html [398], (参照 2009-01-05).

 


那須雅熙. 総合的図書館ポータルへの足跡―オーストラリア国立図書館の目録政策とシステム構築. カレントアウェアネス. 2009, (299), p.14-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1685 [399]

  • 参照(22483)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
OPAC [400]
目録 [401]
総合目録 [402]
オーストラリア [403]
国立図書館 [301]
NLA(オーストラリア国立図書館) [404]

CA1686 - 動向レビュー:RDA全体草案とその前後 / 古川肇

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カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

CA1686

動向レビュー

RDA全体草案とその前後

 

1. 経過

 『英米目録規則第2版』(以下AACR2)に代わるRDA: Resource Description and Accessの全体草案かつ最終草案が、漸く2008年11月に公開された(1)。目次だけで113ページ(PDF形式)に及ぶ膨大なものである。

 AACR2見直しの出発点としては、1997年に開催された「AACRの原則と将来の展開に関する国際会議」が重要である(CA1480 [406]参照)。だが、改訂の主体である英米目録規則改訂合同運営委員会(その後改称。以下JSC)が作業の発進を告げた正式の表明は、2003年9月の“New Edition Planned”であった(E134 [407]参照)。次いで2004年12月にAACR3の一部として一般には概要のみ公開された草案は、やや特異な構成と内容をもち、本文を非公開とした閉鎖的な姿勢とともに、構成団体(英米加豪の各目録委員会等)の間で不評であった。JSCは批判を容れて2005年4月の会合で方針転換を図り、“cataloguing”の語を含めない今のタイトルへ改めた。

 その後、JSCは一転してウェブサイトを活用し改訂内容の周知に努めたが、草案が批判を受けることに変わりはなく本文は変転を重ね、2006年完成という当初の予定は本2009年へ大幅にずれ込む見込みである。ここでは改題後の紆余曲折を跡付ける紙幅の余裕がないので、代わりにJSCによる関連文書のうち大きな転回を印した2つの文書に触れる。“RDA Scope and Structure”(2)(2006年12月)と、“A New Organization for RDA”(2007年11月)である。前者は改訂作業の初期には明確でなかった、メタデータとの親和性の方向を打ち出したもので、これがその後の基調となった。後者はAACR2の構成を払拭してFRBR(『書誌レコードの機能要件』)に忠実な構成への変更を決断したものである。JSCによれば、新構成には、FRBRの理解が直ちにRDAの理解に通じる、特定のレコード構造に拘束されないため様々なデータベース構造を使用しているコミュニティにも理解しやすいなどの利点があるという(E728 [408]参照)。

 この間のJSC外部からの個人による批判として、メタデータ側よりコイル(Karen Coyle)とヒルマン(Diane Hillmann)の論文が(E614 [409]参照)、また伝統的な立場からAACR2を主導したゴーマン(Michael Gorman)による批判がある。前者は紹介済みなので割愛し、本稿では後者を紹介する。ゴーマンによれば、理論偏重の改訂は、目録作業に大きな災いをもたらす恐れがある。目録規則の従来の着実な進歩に背くこの改訂の理由は、メタデータで電子的記録を検索させて目録の問題を解決しようとする動き、フリーテキスト検索を目録に置き換えることが可能との見解、理論派によるFRBRへの執着にある。RDA は標準的な目録とメタデータの間で第三の道を探し求めているが、みじめにも前者を裏切ることが後者をなだめることにはならない、と彼はいう(3)。

 だが、RDAの行方に最も強く影響を及ぼしたのは、米国議会図書館(LC)書誌コントロールの将来に関するワーキング・グループの報告である。同グループは、このなかでJSCに対して改訂作業の中断を勧告した(CA1650 [410]参照)。RDA草案が果たして目録に革新をもたらすか否か認識できないとの理由による。

 これを受けて、LC・農学図書館(NAL)・医学図書館(NLM)の米国3国立図書館は2008年5月1日付けで共同宣言を発表した。これによると、3館は引き続きRDAの完成へ向け協力するものの、完成後にRDA の有効性についてのテストを経て導入の可否を決定する。導入の時期は2009年中ではない(4)。

 全体草案は、このようにJSCにとって苦しい形勢の中での公開となった。

 

2. 構成

 まず本節で全体草案の構成を概観し、次節で主要な改訂点を述べる。

 構成の根幹は次の2点に要約できるだろう。即ち、(1) 従来の目録規則が「何(意味)をどのように構成するか(構文)」について規定していたのに対して、RDAは前者のみを規定し後者を各目録作成機関にゆだねて普遍性の実現を意図したこと、および(2) RDAが規定した「何」(意味)とは、「目録にかかわる諸実体の属性および実体間の関連」を指すことである。

 本体は、2部、10セクション、37章から成り、その前後に序論(Introduction)と付録・用語解説が配されている。ただし、いわゆる主題目録法にかかわる部分は2009年の刊行時には制定されず、その後に補充の予定とされている。なお各セクション冒頭の章はそのセクションのガイドラインとなっている。以下、ごく大まかにAACR2と対比しながら展望する。

 序論

 RDAの特徴として、電子資料の記述に柔軟で拡張可能な枠組みを提示する一方、非電子資料の組織化のニーズにも対応している点などを挙げ、基盤となる概念モデルがFRBRなどであることや、国際化に配慮したことを述べ、中核的要素(core elements)の一覧を掲げる。

 [第Ⅰ部:属性](セクション1-4)

 FRBRにおける3グループ10実体に「家族」を加えた11実体の、属性に関する記録について規定する。

 セクション1「体現形および個別資料の属性の記録」(第1-4章):セクション2とともにFRBR第1グループの実体を扱う。セクション1はAACR2第Ⅰ部のほぼ全体に相当する。だが資料の多様化に柔軟に対処するため、資料種別による章立てが廃止されエリアの枠もなく、直ちにエレメント(例えば責任表示)別に規定されている。まず第2章「体現形と個別資料の識別」で、資料の識別に最もよく使用される属性として、主に本タイトルなど資料から転記する要素を扱う。次いで第3章「キャリアの記述」で、要求に合致する資料を選択する際に依存する物理的特徴に関する属性として、形態に関する要素に触れる。そして第4章「取得とアクセス情報の提供」で、URLなど資料を入手するための要素を取り上げる。個別資料は付随的に扱われている。なお第3章はメディア種別とキャリア種別(ともに後述)の規定を含む。

 セクション2「著作および表現形の属性の記録」(第5-7章):統一タイトル(AACR2第25章)の形式などを扱う。第6章「著作と表現形の識別」は、これらの識別に最もよく使用される属性に関する章である。内容種別(後述)の規定を含む。第7章「内容の記述」は、内容の要約、学位論文に関する情報など、要求に合致する資料を選択する際に依存する内容に関する属性を取り上げる。

 セクション3「個人・家族・団体の属性の記録」(第8-11章):FRBR第2グループの実体を扱う。第9章と第11章が、各々AACR2の個人・団体標目の形式に関する第22章と第24章に当たる。間の第10章は家族名の形式について規定する。

 セクション4「概念・物・出来事・場所の属性の記録」(第12-16章):FRBR第3グループの実体を扱う。第16章がAACR2第23章(地名)に当たる。他章は刊行時には未制定。

 [第Ⅱ部:関連](セクション5-10)

 FRBRの実体相互の関連について規定し、旧来の「をも見よ参照」を包含する。各条項には関連先に関する識別子や優先アクセスポイント(後述)などが例示されている。なお関連の多様な種類を表現するために、関連指示子(relationship designator)の一覧が付録に含まれている(後述)。

 セクション5 「著作・表現形・体現形・個別資料の間の最も主要な関連の記録」(第17章のみ):諸関連中、最も重要なものと位置づけられている、第1グループの実体相互の関連に関するガイドラインである。

 セクション6 「資料と結びついた個人・家族・団体の間の関連の記録」(第18-22章):第1グループの実体である著作・表現形・体現形・個別資料の各々と、第2グループに属する3実体の各々の関連に関する規定である。

 セクション7 「主題の関連の記録」(第23章のみ):著作と第3グループの実体の関連に関するガイドラインでRDA刊行時には未制定。

 セクション8 「著作・表現形・体現形・個別資料の間の関連の記録」(第24-28章):複製と原体現形など、第1グループの著作相互、表現形相互、体現形相互、個別資料相互の各関連を扱う。

 セクション9 「個人・家族・団体の間の関連の記録」(第29-32章):第2グループの実体間の関連を取り上げる。同一個人の本名と筆名の間の関連や、同一団体の新旧名称の間の関連をも含む。

 セクション10「概念・物・出来事・場所の間の関連の記録」(第33-37章):第3グループに属する実体相互の関連について規定する。RDA刊行時には未制定である。

 付録

 13種から成るが注目すべきもののみを挙げると、まずシンタックスの規定の消去を補うものとして、D: 「記述データのシンタックスの記録」とE:「アクセスポイント・コントロールのシンタックスの記録」がある。前者はISBDやMARC 21とRDAとの対照表を含み、後者はAACR2やMARC 21とRDAとの対照表を含む。IからL(一部未制定)は関連指示子の一覧であり、ごく一部はAACR2にも役割表示(21.0D)などとして存在する。最後のMにはRDAにより作成された書誌レコード全体の見本が掲載されている。

 用語解説

 AACR2では付録の一つだが、独立して量も内容も一変した。著作(work)が新たに定義された。

 

3. 主要な改訂

 このような枠組みに盛られた新しい内容について、主要なものを[第Ⅰ部]に限定して取り上げる。

3.1 セクション1

 AACR2におけるitemがresourceという用語に代わった。この語は一般に体現形を指し、これが記述の対象となる。刊行形態を、単一の資料、完結したまたはそれを予定する複数部分から成る資料、逐次刊行物、更新資料の4種に区分する。記述の型として、全体記述、部分記述、階層的記述(前二者の組み合わせ)を区別する。新たな記述を要する場合を刊行形態別に規定した。次の変更もある。一資料全体のどこかを情報源とする場合は角括弧に包まない。責任表示は著者等の数を問わずすべて記録することを本則とし、従来の4著者以上は1著者以外を省略するとの方式は別法とした。

 AACR2の資料種別に代えて、物理的な系列(メディア種別・キャリア種別)と内容的な系列(内容種別)を表わすリストが用意された。メディア種別とキャリア種別はともに体現形の要素である。前者に属する用語は8種であり、視聴のための媒介機器に基づいて区分されている(機器を使用しない資料にはunmediatedを当てる)。後者は前者を細分したもので、各資料の記録媒体(storage medium format)と収納形態(housing format)に基づく。例えば、記録媒体がrollで収納形態がcassetteである体現形のキャリア種別は、videocassetteである。内容種別については次項を参照。

3.2 セクション2-4

 標目(heading)の語は全く消えて専らアクセスポイントが使われ、これには従来の統一標目に当たる優先アクセスポイント(preferred access point)と、参照に当たる異形アクセスポイント(variant access point)がある。

 著作を表現する優先アクセスポイントは、(1)著作に最も責任を有する著者に対する優先アクセスポイントと(2)著作に対する優先タイトルの組み合わせにより、
Hemingway, Ernest, 1899-1961. Sun also rises
のように構成される(冒頭の冠詞は一般に省略)。ただし、この形はAACR2の固有名+タイトル形副出記入などと同一であり、基本記入(main entry)の語は廃止された一方、その概念はこのような形で保持されている。表現形は、
Brunhoff, Jean de, 1899-1937. Babar en famile. English. Spoken word
のように構成される。最後の要素が内容種別であり、これは表現形の一要素として、伝達手段、感覚、像の次元、像の動不動に基づいて区分されている。例えば、伝達手段が像、感覚が視覚、像の次元が2次元、像が動である表現形の内容種別はtwo-dimensional moving imageである。なお、最近IFLAが種別についてISBDのエリア0として案を提示した(5)。今後これとの調整に伴う変更があるかもしれない。ほかに個人の属性にかかわる要素などが格段に増加した。なかにはアクセスポイントではなく典拠レコードのための要素とみなされるものが含まれている。

 

4. 今後

 JSCはRDAの刊行を2009年第3四半期に設定した上で、同年第4四半期から2010年早期までを評価期間と位置づけている。

 デジタル環境下において目録規則には二つの普遍化が要請されていると言える。一つは、パッケージ型資料に加え不定形のネットワーク情報資源をも包括する普遍化であり、他の一つは、図書館界での自己完結を超えた隣接コミュニティとの相互運用性を備えた普遍化である。RDAによる書誌レコードが既存のそれと無理なく共存し、かつRDAがこれらの普遍化を果たし得たか否かが、刊行後に検証される。

近畿大学:古川肇(ふるかわ はじめ)

 

(1) American Library Association et al. RDA: Constituency Review. 2008.
 http://www.rdaonline.org/constituencyreview/ [411], (accessed 2009-01-09).

(2) [Joint Steering Committee for Development of RDA]. RDA ? Resouce Description and Access: Scope and Structure. 2006. 
 http://www.collectionscanada.gc.ca/jsc/docs/5rda-scope.pdf [412], (accessed 2009-01-09).
 なお、最新の版は第4版(2008)である。
 http://www.collectionscanada.gc.ca/jsc/docs/5rda-scoperev3.pdf [413], (accessed 2009-01-09).

(3) Gorman, Michael. RDA: Imminent debacle. American Libraries. 2007, 38(11), p. 64-65. 
 http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/RDA_Letter_050108.pdf [414], (accessed 2009-01-09). 

(5) International Federation of Library Associations and Institutions ISBD Review Group. Worldwide review: Proposed Area 0 for ISBD. 2008-11-28.
 http://www.ifla.org/VII/s13/isbdrg/ISBD_Area_0_WWR.htm [415], (accessed 2009-01-09). 

 


古川肇. RDA全体草案とその前後. カレントアウェアネス. 2009, (299), p.17-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1686 [416]

  • 参照(28519)
カレントアウェアネス [13]
動向レビュー [120]
RDA [417]
目録 [401]

CA1687 - 研究文献レビュー:日本における図書館情報学分野の計量的研究の動向-計量書誌学研究を中心に- / 芳鐘冬樹

PDFファイルはこちら [418]

カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

 

 

CA1687

研究文献レビュー

 

日本における図書館情報学分野の計量的研究の動向
-計量書誌学研究を中心に-

 

はじめに 

 本稿では、計量的手法を用いた図書館情報学分野の研究について、計量書誌学研究を中心に、日本における近年の研究動向を紹介する。 

 図書館情報学分野においても、他の社会科学分野と同様、計量的手法を用いた研究は多数存在する。論文や図書の出版点数・引用数の状況といった文献の生産・流通・蓄積・利用に関わる統計分析、つまり計量書誌学研究だけでなく、質問紙調査に基づく図書館サービスやスタッフの様態の統計分析など、様々な研究が行われている。本稿では、図書館情報学分野の計量的研究の概況について簡単に触れた後、計量書誌学の研究文献を中心にレビューする。計量的研究は多岐に渡るため、その各論は、それぞれが分析対象としているテーマのレビューに委ねることとする。レビューの対象は、過去5年間(2004年以降)に国内で発表された文献とする。さらに、国内の研究者が海外の雑誌や国際会議で発表した文献も範囲に含める。特に計量書誌学や、その科学社会学・研究評価への応用である科学計量学は、国際比較の必要性が高く手法の標準化が求められるという事情から、国を問わない共通のトピックが扱われることが多く、Scientometrics誌などの専門学術雑誌やISSI(International Society for Scientometrics and Informetrics)などの国際会議といった、国際的な媒体での発表が盛んな研究領域である。日本の研究者による研究発表も、非常に多いというほどではないが、ある程度コンスタントになされているため、国際的な媒体での発表も含めて、日本の研究動向としてまとめることにする。 

 

1. 図書館情報学分野の計量的研究の概況

 文献そのものというより、その提供機関である図書館に関心をおいた研究の中にも、計量的手法を用いたものは多い。それらの多くは、新たな手法の開発というよりも、既存の手法の中から適切なものを選択し、対象に適切に適用することを指向している。 

 具体的な分析対象としては、図書館の利用に関係するものが多く、例えば、経済状況と図書館利用状況との関連を調査した田村(1)の分析、個人の時間的・金銭的余裕や家族構成などと図書館利用状況との関連を調査した椿ら(2)の分析、利用目的や来館形態などと利用館の選択行動との関連を調査した河村ら(3)の分析、そして、図書館利用状況と学習成果との関連を調査した戸田と永田(4)の分析などがある。また、図書館の利用に関係するもの以外では、図書館の資料所蔵状況を調査し、出版地・出版者・出版年・分野に基づいて資料の未所蔵確率を予測するモデルの構築を行った気谷(5)の分析や、学校図書館員の児童生徒への対応の状況と困惑度との関連を調査した松戸(6)の分析などもある。 

 これらの研究は、要素(例えば、利用状況を示す貸出冊数と経済状況を示す有効求人倍率)間の関連や影響を分析している、あるいは、ある要素を別の要素で説明・予測するために、目的変数(予測したい要素)と説明変数(予測に用いる要素)を設定して、モデルの構築、パラメータの算出を行っているという点で、大まかに言えば共通している。分析に用いている統計手法は、単純なものから比較的複雑なものまで、それぞれの分析対象や目的に応じて様々であり、戸田と永田は相関係数に基づく相関分析を、松戸は重回帰分析と因子分析を、河村ら、気谷はロジスティック回帰分析(2項ロジットモデル)を、田村は固定効果モデルを用いたパネル分析を、そして椿らは構造方程式モデリングを採用している。 

 一方、既存の手法を適用するだけでなく、新しい指標の提案を行っている研究も、数は少ないが存在する。例えば、藤谷と前田(7)は、各館の蔵書規模に基づいて公共図書館のネットワークの整備状況を計る指標を提案している。蔵書規模の総計を当該地区の面積で規格化した指標であり、ネットワーク(個々のアクターの関係性、すなわち中央館・分館間の協力状況)というよりも、中央館と分館を合わせた「総体」としての規模を示しているに過ぎないため、それをネットワーク指標として解釈するには注意を要するが、図書館ネットワーク計量化への取り組みの第一歩としては意義深い。 

 ここで紹介した研究の他にも、単純集計に基づく傾向の分析まで含めると、司書資格の有無と生活に対する満足度などの関わりを調査した辻ら(8)の分析や、電子メディア(e-print archive)の利用者の傾向を調査した松林と倉田(9)の分析など、枚挙に暇がない。また、過去の調査結果に基づくメタ調査を行った研究もある。例えば、杉江(10)は、公共図書館のレファレンスサービスについて過去に行われた2つの調査の結果を比較し、サービス先進地域におけるレファレンスサービスの特性を抽出している。それらの研究に関しては、図書館のスタッフやサービスなど、それぞれのテーマのレビューに譲ることにしたい。 

 

2. 計量書誌学研究

 計量書誌学の有名な法則に、ブラッドフォードの法則(11)というものがある。特定のトピックの文献群の掲載誌を調べたとき、少数のコアジャーナルにその文献群の大部分が集中する一方で、そのトピックの文献を数編しか掲載していない雑誌が多数存在するという、集中と分散の現象について述べた法則である。これは、特殊なものを除き、どのトピックに関しても当てはまる法則であるが、計量書誌学自身に関して言えば、ことさら「分散」の度合いが高い、すなわち、コアジャーナル以外の非常に多くの雑誌に、文献が広く散らばっている。例えば、医学などの各分野で、その分野の論文生産や引用の状況を計量書誌学的手法により分析した文献は、計量書誌学のコアジャーナルではなく、しばしば、その分野の雑誌に掲載される。それらを網羅的に収集してレビューを行うことは困難であり、また、それらの多くはオリジナルの研究論文よりも実態調査の単なる報告に近いため、本稿では、主としてScientometrics誌などのコアジャーナルに掲載された文献を紹介する。日本の研究者も、近年徐々に、Scientometrics誌に多くの論文を載せるようになってきている。大久保と山下(12)によれば、日本国内の研究機関に所属する研究者のScientometrics誌掲載論文は、1980年代から1990年代にかけて倍増しており、2000年以降も増加傾向は続いている。 

 最初に述べたとおり、本稿では国内で発表された、あるいは国内の研究者による文献のみを扱う。海外の計量書誌学の研究動向に関しては、小野寺(13)によるレビューが詳しい。また、計量書誌学、特に、その研究評価への応用について解説している、藤垣ら(14)のテキストや孫(15)の解説記事も参照されたい。 

 以下、計量書誌学の主要なトピックである、生産性分析、引用分析、研究協力分析それぞれについて、研究動向を概観する。 

2.1 生産性分析

 著者ごと、あるいは著者の所属国や所属機関ごとの論文生産数を数え上げ、比較したり、傾向を調べたりする研究は、論文の索引・抄録誌が電子化されてデータベースとして提供されるようになって以来、盛んに行われてきた。ただし、Web of ScienceやSCOPUSといった、引用情報も含む論文データベースサービスが普及してきたこともあり、近年では、論文数の多寡のみを比べる報告は少なくなり、次の節で述べる引用数(インパクトファクター)という側面も含めて、国や研究機関のパフォーマンスの比較を行う方向に関心が移ってきているようである。もちろん論文生産数のみに焦点を当てた比較分析が全く行われなくなったわけではなく、例えば、松山と寺内(16)は、JOIS(現在はJDreamⅡに移行)を使用して、日本の30大学の論文生産状況を調べ、論文数や、特定の雑誌タイトルへの論文の集中度などを比べた結果を報告している。 

 一方、江藤(17)は、Science誌などの科学の総合誌に掲載された論文の数を、分野ごとに調査することを通して、「科学」の定義、そして分野が「科学的」であるというのはいかなることかという問題の再検討を行っている。論文数を単に生産性の指標として用いるのでなく、分野の学術性という別の観点の評価に用いている点が興味深い。 

 このほか、科学リンケージという観点を導入し、特許に引用された論文に限定して、それらの論文の数を調査・分析する研究も多くなされている。科学リンケージとは、実際的な技術とそれが依拠する科学との関連を示す概念であり、特許が引用する論文の数を指標にして測定される。有力特許に引用された論文に関して、それらの出版国などの特性を調べ、各国の生産シェアなどの実態を報告した富澤ら(18)の研究、国内の特許について、トピック別に科学リンケージの平均値を調査した玉田ら(19)の研究、そして、日本企業を対象とし、特許出願数などを目的変数に、研究開発経費で規格化した論文生産数や、出願特許の科学リンケージの平均値などを説明変数にして回帰分析を行った鈴木ら(20)の研究がある。また、古川と後藤(21)は、企業所属の研究者の論文生産性と特許出願状況との関連を調べ、生産性が高い中核的な研究者が、彼らの同僚の特許出願数に与える正の影響を明らかにしている。 

2.2 引用分析

 引用数をもとに論文の質の一側面、特にインパクト(学術コミュニティへの影響度)を計ろうとする指標であるインパクトファクターは、日本でも自然科学系の分野を中心に広く普及している。インパクトファクターに関する文献は多数存在するが、研究論文というよりも、解説記事や、特定の分野・研究機関を対象とした状況報告が多い。いくつか例を挙げると、青木(22)の紹介記事や、医学分野(眼科領域)の状況に関する大庭(23)の報告、信州大学の状況に関する多田と相澤(24)の報告などがある。 

 より俯瞰的かつ分析的な研究としては、林と富澤(25)(26)の研究が挙げられる。林と富澤は、SCI(Science Citation Index)を使用して、過去20年間の全論文を対象に、国ごとの論文生産数と引用数の傾向を分析したうえで、日本は引用数の多い論文が数を増してきた一方で、引用数の少ない論文のシェアが継続的に高く、引用数ごとの論文シェアに関して他の先進国とは異なる特徴を有している、という結論を導き出している。また、近年のオープンアクセス雑誌の広まりに伴って、オープンアクセスと非オープンアクセスとでインパクトファクターを比べる研究もなされている。海外の研究に関しては宮入(CA1559 [151]参照)がレビューしているが、日本にも、インパクトファクターによる順位付けにおいて、オープンアクセス雑誌が急成長を遂げていることを示した向田(27)の報告などがある。 

 一方、引用の効用の水準は一定でない(先駆者への敬意の表明など、必要性が低い引用もあり、また肯定的な引用ばかりでなく批判的な引用もある)ため、単純に引用の数でインパクトを計ることはできない点など、インパクトファクターの問題点もしばしば指摘される。逸村と安井(28)(29)は、研究評価におけるインパクトファクター(著者インパクトファクターではなく雑誌インパクトファクター)の利用の問題点を整理するとともに、JCR(Journal Citation Reports)などの分析に基づいて、雑誌の掲載論文数の変動や引用の表記のゆれといった、引用数自体の増減以外の要因により、インパクトファクターの計算結果が変わってしまうことを示している。 

 インパクトファクター以外にも、引用数に基づくインパクトの指標は存在する。海外では、インパクトと生産性の両方を反映するh指数(30)が提案され、日本でも徐々に使われ始めているが、日本で新たに提案された指標もある。角田と小野寺(31)は、「インパクトの高い研究者に引用された論文を執筆した研究者はインパクトが高い」という仮定をモデルに組み込んで、引用ネットワークをもとに著者のインパクトを計る指標を提示している。 

 引用分析は、インパクトの計測ばかりではない。共引用(2つの論文が同じ論文に引用されている状況)や書誌結合(2つの論文が同じ論文を引用している状況)に注目する論文間の関連性や共通性の分析も、計量書誌学の伝統的な研究題材である。最近の研究では、例えば、江藤(32)は、共引用の形式を区別し、並列に挙げられる列挙形式の共引用関係にある論文同士の類似度が、そうでない共引用関係の論文同士の類似度よりも高い傾向にあることを報告している。また、伊神と阪(33)は、共引用の強度に基づいて、研究領域間の関連性を可視化したサイエンスマップを作成している。計量書誌学的手法による研究領域・トピックの関連の可視化は、日本のみならず世界的に見ても近年増えてきている。 

2.3 研究協力分析

 研究者あるいは研究者が所属する国や機関の間の研究協力関係は、計量書誌学では主に共著論文の発表状況に基づいて観察される。研究協力ネットワークに関する国際ワークショップCOLLNETの存在もあり、海外では研究が活況を呈しているが、国内での研究はさほど多くない。 

 共著を扱った研究には、芳鐘らの共著ネットワーク分析などがある。芳鐘と影浦(34)は、成長・変化という動的特性の観点から研究者のネットワークを分析し、ネットワーク成長の際の中核パートナー群への依存度や、パートナーとの関係強度の多様性の変化に関して、分野間の差異を明らかにしている。また、芳鐘らは、ネットワークの大域的構造を考慮した研究協力のリーダーとしての重要度およびフォロワーとしての重要度という2種類の観点を設定し、HITSアルゴリズムを応用した指標により、それらの重要度を計る手法を提案している(35)。さらに、それらの指標を使用して、研究者の論文生産性と研究協力ネットワークにおける重要度との関連を明らかにするとともに、それらの指標による将来の生産性の予測可能性についても検討している(36)(37)。 

 研究者個人ではなく、国単位の協力状況や、大学と企業など異なるセクタの間の協力状況を分析した研究もある。山下と大久保(38)は、ジャッカード係数などの共起頻度(この場合共著した頻度)に基づく指標を使用して、日仏間の協力状況の分析を行っている。一方、3重螺旋モデルで説明される産学官の連携についても、近年注目され始めている。孫と根岸(39)(40)は、相互情報量、ファイ係数、偏相関係数を共著関係の計測に用いて、セクタ間の連携の分析に適する指標の検討を行っている。 

 ところで、研究者間の関係は、計量書誌学の近縁領域である計量ウェブ学(webometrics)においても、分析の対象とされる。例えば、松尾ら(41)は、ウェブページ上に現れる研究者の名前の共起頻度などを手掛かりに「人間関係ネットワーク」の抽出を試みている。その発想や手法は、共著分析と重なる部分が大きい。現在、松尾らの手法を発展させウェブサービスとして実用化したSPYSEE(42)が公開されている。 

 

おわりに

 計量書誌学のトピックとして、生産性分析、引用分析、研究協力分析を挙げたが、近年の電子ジャーナルの普及、つまり文献の電子化とオンラインでの公開の推進に伴い、電子的アクセス・ダウンロード数に基づいて文献利用の状況を分析する研究も始まっている。その種の研究については小野寺(43)による紹介がある。 

 さて、本稿で紹介した範囲で言えば、計量書誌学研究に関する近年の傾向の1つとして、中心的な論文生産セクタである大学の状況だけでなく、大学と他のセクタとの関わりに目を向けた研究が多くなっていることが挙げられる。論文生産における企業・大学・政府の提携(3重螺旋)や、企業の出願特許による論文の引用などが、分析の対象とされている。科学技術政策上の関心の高まりもあり、これらは今後も研究の発展が予想される。 

 計量書誌学の研究の潮流には、分析対象の現状の記述とそれに基づく考察そのものに関心をおく(手法に関しては、定評がある既存のものを選んで適用する)ものと、手法に対する批判的検討や、新たな指標、モデル、分析枠組みの提案を指向するものとがある。パフォーマンス評価など応用面からの即時的な要請もあって、前者のタイプの研究は、様々になされているが、後者については研究の数も比較的少なく、「計量的手法」の深化という点では必ずしも十分でない。後者の研究、そして後者と前者を結ぶ研究を、より進める必要があると考える。 

大学評価・学位授与機構評価研究部:芳鐘冬樹(よしかね ふゆき)

 

 

(1) 田村肇. 経済状況と公共図書館の利用: 都道府県パネルデータを用いた分析. 日本図書館情報学会誌. 2004, 50(2), p. 58-78. 

(2) 椿美智子, 椎名宏樹, 齊藤誠一. 市立図書館利用の構造と潜在クラス. 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(2), p. 71-96. 

(3) 河村芳行, 歳森敦, 植松貞夫. 広域利用可能地域における図書館利用登録者の類型別利用館選択行動: 石狩市民図書館登録者調査をもとに. 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(1), p. 16-38. 

(4) 戸田あきら, 永田治樹. 学生の図書館利用と学習成果: 大学図書館におけるアウトカム評価に関する研究. 日本図書館情報学会誌. 2007, 53(1), p. 17-34. 

(5) 気谷陽子. 「学術情報システム」の総体としての蔵書における未所蔵図書の発生. 日本図書館情報学会誌. 2007, 53(2), p. 103-121. 

(6) 松戸宏予. 特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対する学校司書の意識と対応. 日本図書館情報学会誌. 2006, 52(4), p. 222-243. 

(7) 藤谷幸弘, 前田博子. Camdenにおける図書館ネットワークの変遷と市民運動. 日本図書館情報学会誌. 2005, 51(1), p. 1-14. 

(8) 辻慶太, 芳鐘冬樹, 松本直樹ほか. 司書資格取得者に対する追跡調査: 仕事・満足度を中心として. 図書館界. 2008, 60(3), p. 166-179. 

(9) 松林麻美子, 倉田敬子. e-print archiveという情報メディア: 日本の物理学研究者への利用調査に基づいて. 日本図書館情報学会誌. 2005, 51(3), p. 125-140. 

(10) 杉江典子. 図書館先進地域の市町村立図書館におけるレファレンスサービスの特性: 滋賀県と東京都多摩地域の比較をもとに. 日本図書館情報学会誌. 2005, 51(1), p. 25-48. 

(11) Bradford, Samuel Clement. Sources of information on specific subjects. Engineering an Illustrated Weekly Journal. 1934, 137, p. 85-86. 

(12) Okubo, Yoshiko(大久保嘉子) ; Yamashita, Yasuhiro(山下泰弘). Scientometrics research in Japan: Introduction. Scientometrics. 2006, 68(2), p. 193-202. 

(13) 小野寺夏生. “ビブリオメトリックスから見た学術情報流通の現状”. 学術情報流通と大学図書館. 日本図書館情報学会研究委員会編. 勉誠出版, 2007, p. 23-53, (シリーズ図書館情報学のフロンティア, 7). 

(14) 藤垣裕子ほか. 研究評価・科学論のための科学計量学入門. 丸善, 2004, 208p. 

(15) 孫媛. 特集, 図書館・情報活動と<評価>: ビブリオメトリックスとは. 情報の科学と技術. 2007, 57(8), p. 372-377. 

(16) 松山裕二, 寺内徳彰. 日本の大学の論文発表: JOISデータベースを使用した計量書誌学的考察. 情報管理. 2005, 48(1), p. 16-25. 

(17) Eto, Hajime(江藤肇). Scientometric definition of science: In what respect is the humanities more scientific than mathematical and social sciences? Scientometrics. 2008, 76(1), p. 23-42. 

(18) 富澤宏之, 林隆之, 山下泰弘ほか. 有力特許に引用された科学論文の計量書誌学的分析. 情報管理. 2006, 49(1), p. 2-10. 

(19) Tamada, Schumpeter(玉田俊平太) ; Naito, Yusuke(内藤祐介), Kodama, Fumio(児玉文雄) et al. Significant difference of dependence upon scientific knowledge among different technologies. Scientometrics. 2006, 68(2), p. 289-302. 

(20) Suzuki, Jun(鈴木潤) ; Gemba, Kiminori(玄場公規) ; Tamada, Schumpeter(玉田俊平太) et al. Analysis of propensity to patent and science-dependence of large Japanese manufacturers of electrical machinery. Scientometrics. 2006, 68(2), p. 265-288. 

(21) Furukawa, Ryuzo(古川柳蔵) and Goto, Akira(後藤晃). Core scientists and innovation in Japanese electronics companies. Scientometrics. 2006, 68(2), p. 227-240. 

(22) 青木隆平. インパクトファクターのABC. 日本複合材料学会誌. 2007, 33(3), p. 116-118. 

(23) 大庭紀雄. 眼科領域雑誌のインパクトファクター. 日本眼科学会雑誌. 2007, 111(11), p. 849-856. 

(24) 多田剛, 相澤徹. 2001年から2004年に公表された英文原著論文から見た信州大学医学部の研究水準. 信州医学雑誌. 2006, 54(3), p. 117-122. 

(25) 林隆之, 富澤宏之. 日本の研究パフォーマンスと研究実施構造の変遷. 大学評価・学位研究. 2007, (5), p. 55-73. 

(26) Hayashi, Takayuki(林隆之) ; Tomizawa, Hiroyuki(富澤宏之). Restructuring the Japanese national research system and its effect on performance. Scientometrics. 2006, 68(2), p. 241-264. 

(27) 向田厚子. Journal Citation Reportsにおけるオープンアクセス出版の普及状況. 医学図書館. 2006, 53(1), p. 41-47. 

(28) 逸村裕, 安井裕美子. インパクトファクター: 研究評価と学術雑誌. 名古屋高等教育研究. 2006, (6), p. 131-144. 

(29) 安井裕美子, 逸村裕. 引用のバリエーションとインパクトファクター. 名古屋大学附属図書館研究年報. 2006, (4), p. 35-44. 

(30) 研究者の発表論文を引用数の降順に並べたとき、順位と引用数が逆転する直前の順位が、その研究者のh指数になる。例えば、h指数が8であることは、「8回以上引用された論文を8編持つ」ことを意味する。 

Hirsch, J. E. An index to quantify an individual's scientific research output. Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America. 2005, 102(46), p. 16569-16572. 

(31) 角田裕之, 小野寺夏生. 論文と研究者のインパクトに対する新しい計量書誌学的指標: 論文引用グラフの固有ベクトル解析. 情報メディア研究. 2006, 5(1), p. 1-20. 

(32) 江藤正己. 引用箇所間の意味的な近さに基づく共引用の多値化: 列挙形式の引用を例として. Library and Information Science. 2007, (58), p. 49-67. 

(33) Igami, Masatsura(伊神正貫) and Saka, Ayaka(阪彩香). “Science map 2006, a Japanese experience on the mapping of science”. Excellence and Emergence: A New Challenge for the Combination of Quantitative and Qualitative Approaches. Vienna, Austria, 2008-09-17/20. The Austrian Research Centers GmbH and the University of Vienna. 2008, p. 463-466. 

(34) Yoshikane, Fuyuki(芳鐘冬樹) ; Kageura, Kyo(影浦峡). Comparative analysis of coauthorship networks of different domains: The growth and change of networks. Scientometrics. 2004, 60(3), p. 433-444. 

(35) Yoshikane, Fuyuki(芳鐘冬樹) et al. Comparative analysis of co-authorship networks considering authors' roles in collaboration: Differences between the theoretical and application areas. Scientometrics. 2006, 68(3), p. 643-655. 

(36) Yoshikane, Fuyuki(芳鐘冬樹) ; Nozawa, Takayuki(野澤孝之) ; Shibui, Susumu(渋井進) et al. “An analysis of the connection between researchers' productivity and their co-authors' past attributions, including the importance in collaboration networks”. Proceedings of 11th International Conference of the International Society for Scientometrics and Informetrics. Madrid, Spain, 2007-06-25/27. 2007, vol. 2, p. 783-791. 

(37) Yoshikane, Fuyuki(芳鐘冬樹). An analysis of the correlation among research productivity and collaboration network indices. Research on Academic Degrees and University Evaluation. 2008, (8), p. 43-56. 

(38) Yamashita, Yasuhiro(山下泰弘) and Okubo, Yoshiko(大久保嘉子). Patterns of scientific collaboration between Japan and France: inter-sectoral analysis using Probabilistic Partnership Index (PPI). Scientometrics. 2006, 68(2), p. 303-324. 

(39) Sun, Yuan(孫媛) ; Negishi, Masamitsu(根岸正光) ; Leydesdorff, Loet. “National and international dimensions of the Triple Helix in Japan: university-industry-government and international co-authorship relations”. Proceedings of 11th International Conference of the International Society for Scientometrics and Informetrics. Madrid, Spain, 2007-06-25/27, 2007, vol. 2, p. 936-937. 

(40) Sun, Yuan(孫媛) ; Negishi, Masamitsu(根岸正光). “Measuring the relationships among university, industry and the other sectors in Japan's national innovation system”. Excellence and Emergence: A New Challenge for the Combination of Quantitative and Qualitative Approaches. Vienna, Austria, 2008-09-17/20, The Austrian Research Centers GmbH and the University of Vienna. 2008, p. 169-171. 

(41) 松尾豊, 友部博教, 橋田浩一ほか. Web上の情報からの人間関係ネットワークの抽出. 人工知能学会論文誌. 2005, 20, p. 46-56. 

(42) あのひと検索SPYSEE. http://spysee.jp/ [419] , (参照 2009-01-10). 

(43) 小野寺夏生. 電子ジャーナルの利用統計: 電子ジャーナル閲読データに基づく論文利用の研究: 海外文献紹介. 薬学図書館. 2007, 52(3), p. 288-295. 

 


芳鐘冬樹. 日本における図書館情報学分野の計量的研究の動向-計量書誌学研究を中心に-. カレントアウェアネス. 2009, (299), p. 20-23.
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  • 参照(28960)
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研究文献レビュー [128]
計量書誌学 [380]
日本 [17]

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