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2010年 (通号No.303-No.306:CA1704-CA1734)

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No.306 (CA1729-CA1734) 2010.12.20

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CA1729 - 図書館と観光:その融合がもたらすもの / 松本秀人

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カレントアウェアネス
No.306 2010年12月20日

 

CA1729

 

 

図書館と観光:その融合がもたらすもの

 

はじめに

 筆者は「図書館と観光の融合」について研究しているが(1)、このテーマはこれまであまり注目されることがなかった。本稿では、今後、議論や実践が活発になることを期待して、研究の概要などを以下に紹介する。

 なお、図書館と観光が様々な点で連携したり相互に利活用することを「融合」と表現する。また本稿でいう「図書館」は「公立図書館」のことを示している。

 

 こんにちの日本における観光は、いわゆる「物見遊山」や「気晴らし」といった従来のイメージでは収まりきらないほど大きな変容が起こりつつある。そのうち特に顕著なものとして、①地域志向の高まり (地域文化や固有性へのこだわりなど)、②多様化(あらゆるものが観光対象になったり、学習や体験が求められるなど)、の2点をあげることができる (2)。

 従来からの観光地はもとより、観光を視野に入れてまちづくりを進めている多くの地域において、こうした変化に対応することが課題となっている。そこで、その方策のひとつとして、「地域に密着した活動を行い、様々な資料や専門的なノウハウを持つ図書館を観光に活用する」というプランを想定することができる。

 一方、日本の図書館もいろいろな課題を抱えているが、前述したプランを「観光に関連した活動を行うことにより、地域の活性化に貢献する」という観点からとらえてみると、①新たなサービスの創出と利用者の開拓、②情報の受発信や交流を通しての地域貢献、という点について効果が期待できる。

 こうした発想をふまえると、図書館と観光の融合は、両者それぞれが抱えている課題を互いにある程度解決に導く可能性を持ち、図書館にも観光者にも、そして地域にもメリットのある試みだと考えられるのである。

 

図書館の本質と観光との関連性

 図書館は、社会における「記憶装置」であり(3)、知識や文化の「可視化装置」であり(4)、情報の収集・選別を行う「濾過装置」である(5)ととらえることができる。こうした特性はこれまでにも指摘されていたが、これを観光との関連性から再考してみると、「図書館は、地域住民の営みを記録し、地域文化や伝統を資料として保存し、信頼できる地域情報を観光者に提供できる機関である」といえる。

 訪問地の歴史や文化などについて学ぼうという観光者は増えているし、地域の側も「“住んでよし、訪れてよし”のまちづくり」を、わかりやすく観光者に伝えることを模索している(6)。少子高齢化が進む日本においては、地域内と地域外の交流が地域活性化の鍵を握っている(7)。そこで、地域の情報拠点たる図書館の存在意義を、このように地域外を強く意識した目でみると、「記憶」「可視化」「濾過」という機能が、地域情報の受発信にも欠くことのできない重要な図書館の本質であり、それゆえ観光とも親和性があることに気づくのである。

 

図書館の新たな役割

 図書館と観光が融合することによって、図書館は新たな役割を担うと考えられる。それを図にモデルとして示した。

図 観光者と地域とのコミュニケーションモデル

図 観光者と地域とのコミュニケーションモデル

 まずこのモデルについて簡単に説明する。左右でコミュニケーションの主体を区分し、左側に「観光者」、右側に地域住民や行政機関、地場産業などを総称して「地域」を配置する。上下で受発信を区分し、上側に「発信」、下側に「受信」を配置する。

 ここで例えば、観光者が図書館において、地域に関する質問をしたりイベントに参加したりする(左上)と、図書館はそうした観光者の行動などを地域に還元することによって、観光者が知りたいと思っている事柄や関心の持たれ方などを地域で共有できる(右下)。それをふまえて、図書館の資料を充実させたり地域情報の発信を図書館経由で進めていけば(右上)、それによって観光者も地域文化をさらに理解しやすくなる(左下)。こうした一連の相互作用の流れ(∞および矢印)を想定したとき、その交点に図書館が配置される。すなわち、図書館は観光者と地域の「媒介役」として、両者の円滑なコミュニケーションの構築に大きな役割を担うことができると考えられるのである(8)。

 図書館自身による情報の受発信ももちろん重要であるが、図書館が観光を意識した活動を行うことによって、観光者が「訪問地の図書館に行けば地域の情報が得られる。地域文化を理解できる」と認識するようになり、地域の側も「図書館を通じて観光者に情報を発信しよう。観光者が求めているものを探っていこう」と考えることで、図書館が観光者および地域による受発信の媒介役となる点が重要である。

 観光者と地域とを結ぶ接点は、これまでにも例えば観光案内所や宿泊・飲食施設、イベントなどがあったが、それらはともすればビジネス優先指向になったり、観光者向けの「よそゆきモード」になりがちであった(9)。しかし図書館は、地域住民が日常生活の中で利用している施設であり、様々な資料と職員を擁し、また公共機関・社会教育機関として公平性、客観性、信頼性を備えるなど、地域において独自の特性を持っている(10)。こんにちの観光者は情報リテラシーが高く、自ら進んで情報を得ようとする傾向にある。従って、こうした図書館の持つ特性を活かしたポジションに立つことにより、新たな「地域のターミナル(窓口)」として機能することが期待できるのである。

 観光やまちづくりを持続可能なものにしていくためには、観光者の声をよくヒヤリングし、また地域からも積極的に情報発信を行うことによって、地域外の人々と地域とのコミュニケーションをうまく循環させることが望ましい(11)。そのサイクルにおいて、図書館がカナメとして寄与できるならば、それは観光への効果だけではなく、地域全体のコミュニケーションにも好影響をもたらすのではないだろうか。

 

融合の具体的な可能性

 では具体的に、図書館のどういう要素が観光と結びつくだろうか。

 例えば、地域資料は、地域の歴史、民俗、動植物、偉人、食文化等々、地域情報の宝庫である。観光者にとって貴重な情報源であるし、地域住民が観光振興を進める際の手がかりにもなる。またレファレンスサービスは、観光者の地域に対する疑問を解決したり、地域情報と観光者を結びつける大切な役割をはたす。状況によっては「観光案内」的なサポートを行うこともできる。また、地域文化に関するイベントや企画展は、地域住民のみならず、観光者の関心を集めたり、そこから地域内外の交流をもたらす効果を持っている。とりあえず3点ほどあげてみたが、他にも海外からの旅行者を意識した多文化サービスや様々なツアーと蔵書との連携、情報端末へのデータ配信等々、多くの結びつきが考えられる。

 これらの例からわかるように、従来は「地域住民のため」としていた諸要素が、見方を変えることによって、「観光者への効果もある」ということに気づくことがポイントである。これまで行ってきた活動内容を大きく軌道修正するというより、サービス対象を地域住民から観光者へ拡げたり、「観光者からみて、それは地域の理解に役立つか」という視点で見直すことがヒントになる。

 また、従来のものだけではなく、「地域と連携して、地域外に情報を発信する」という見地から、これまでにないサービスを創造していく試みがなされてもよいだろう。

 なお、ここで留意しなければならないのが、「公共図書館は地域住民への奉仕が本義である」という点と、「公共施設として広く開かれた存在である」という点のバランスである。これは各々の図書館が、地域の状況などをふまえて判断するしかないが、「観光を意識した結果、地域住民の利用を阻害していないか」という観点からチェックを行うことが、ひとつの指針になると考えられる。

 

参考事例と課題

 観光あるいは観光者を意識した本格的な取り組みはまだ少ないが、参考になる活動事例としては、地場産品や観光スポットの紹介、観光振興イベントとのタイアップ、ご当地ドラマに関する展示、地域ガイドマップの作成、地域資料の積極的な情報発信などが各地の図書館で行われている。また複数の館が連携して相手の地域を互いに紹介する「交換展示」も行われている。

 観光に関連した活動に積極的な図書館としては、「リサーチ・エンジン on 奈良」をWeb上で運営し、地域情報ポータルとして存在感を示している奈良県立図書情報館(12)、交換展示を積極的に行っている高知県立図書館(13)、「コンシェルジュ」コーナーを設けて地域案内も行っている東京都の千代田区立千代田図書館(14)などがある。また群馬県の草津町立図書館は「心の湯治を@あなたの図書館で」をキャッチフレーズに、観光マップを配布したり観光案内所的な役割を担うなどにより観光の場に溶け込んでいる図書館として、特筆すべき存在である(15)。

 全国各地で、まちづくりを進める方向性のひとつとして観光振興に注目が集まっており(16)、図書館はまちづくりに欠くことのできない存在であるため、「図書館と観光の融合」というテーマへの関心は、今後高まっていくと思われるが、手探り状態もしばらく続くと予想される。その理由として、①活動の効果が測定しにくい、②参考となる先例が少ない、③行政、観光協会、地場産業など様々な関係者との調整が必要になる、④他地域と連携しにくい場合がある、などがあげられる。各地の取り組みが広く知られるようになり、実施した図書館の経験を共有することができれば、留意すべき点やノウハウなどが明確になっていくと思われるので、活動の実践と併せて、情報交換が活発に行われることも必要であろう。

 

まとめ

 予算削減や職員不足など図書館をとりまく環境は厳しいが、それゆえ図書館の役割を既成概念だけでとらえるのではなく、発想を豊かにして図書館の未来を拓いていくことが求められている。

 図書館が、人と資料、人と人、人と地域文化が出会い、交流・交感し合う場所であることの意義を改めて考えたとき(17)、「図書館と観光の融合」は様々な発展の可能性を持っているテーマである。

北海道大学観光学高等研究センター:松本秀人(まつもと ひでと)

 

(1) 詳しくは、以下を参照。
松本秀人. 観光と図書館の融合. 北海道大学観光学高等研究センター, 2010, 160p., (CATS叢書, 5).

(2) こんにちの観光の特徴については、以下でわかりやすくまとめられている。
社会経済生産性本部. レジャー白書2007 : 余暇需要の変化と「ニューツーリズム」. 2007, 150p.

(3) 図書館を「社会における記憶装置」とする指摘はいくつかの文献でみられるが、例えば『図書館学用語辞典』では、図書館を「通時的に見るならば、記録資料の保存、累積によって世代間を通しての文化の継承、発展に寄与する社会的記憶装置」と説明している。
“図書館”. 図書館情報学用語辞典. 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編. 第3版, 丸善, 2007, p. 173-174.

(4) 高山は「日本における文書の保存と管理」において、図書館は暗黙知を形式知に変換する機能を持っていると述べている。これをふまえていえば、地域に関する文献を整理して提供したり、無形な伝統や文化を資料化して蓄積することを「知識や文化の可視化」ととらえることができる。
高山正也. “日本における文書の保存と管理”. 図書館・アーカイブズとは何か. 藤原書店, 2008, p. 42-58, (別冊環, 15).

(5) 柳は『知識の経営と図書館』において、図書館には商品を公共の文化資源にしていくという濾過機能があると述べている。筆者は、この「濾過」の過程において地域性が反映されることに注目する。図書館は資料の収集・選別にあたって、地域にとって必要な資料であるか、地域の歴史や文化を伝えるのに適当か、地域住民の要求に応えられるかなどを常に意識している。従ってたんに商品を文化資源にするだけではなく、ある種の「地域フィルター」というべき濾過作用が図書館にはあるとみなすことができる。
柳与志夫. 知識の経営と図書館. 頸草書房, 2009, 254p., (図書館の現場, 8).

(6) 額賀は『観光統計からみえてきた地域観光戦略』において、地域間競争の時代になって「人の訪れる地域」にすることは自治体の最大の政策課題になったとしたうえで、地域外に向けて情報発信を充実させることが、観光振興に重要な役割をはたすと述べている。
額賀信. 観光統計からみえてきた地域観光戦略. 日刊工業新聞社, 2008, 175p.

(7) 例えば、以下の文献が参考になる。
観光まちづくり研究会. 新たな観光まちづくりの挑戦. ぎょうせい, 2004, 273p.

(8) ここでは便宜的に左上(観光者の発信)から説明をスタートしたが、必ずしも左上が常に開始点ということではない。

(9) 観光空間の特殊性については、以下の文献が参考になる。
古池嘉和. 観光地の賞味期限. 春風社, 2007, 211p.

(10) 例えば、以下などが参考になる。
吉田右子. “住民による図書館支援の可能性:公共空間の創出に向けて”. 変革の時代の公共図書館 : そのあり方と展望. 日本図書館情報学会研究委員会編.勉誠出版, 2008, p. 135-152, (シリーズ・図書館情報学のフロンティア, 8).
植松貞夫ほか編. 本と人のための空間 : 図書館建築の新しい風. 鹿島出版会, 1998, 168p., (SD別冊, 31).

(11) 例えば、以下などが参考になる。
川口直木. “まちの魅力は住民視点だけではわからない”. 都市観光でまちづくり. 都市観光でまちづくり編集委員会編. 学芸出版社, 2003, p. 96-97.
奈良県立大学地域創造研究会編. 地域創造への招待. 晃洋書房, 2005, 156p.

(12) “リサーチ・エンジン on 奈良”. 奈良県立図書情報館.
http://www.library.pref.nara.jp/search/google_coop.html [3], (参照 2010-10-27).

(13) “展示の広場”. 高知県立図書館.
http://www.pref.kochi.lg.jp/~lib/event/event-tenjinohiroba.html [4], (参照 2010-10-27).
2010年の実績でいうと、「高知と愛知の観光展」(3/16-5/2)、「福山の龍馬(高知と福山)」(5/8-7/15)、「長崎ノ心、龍馬ノ夢(高知と長崎)」(7/17-8/31)、「倉敷の歩き方(高知と倉敷)」(10/3-31)など様々な地域との観光展示エクスチェンジ(交換展示)が行われている。

(14) “コンシェルジュ”. 千代田区立千代田図書館.
http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/facilities/concierge.html [5], (参照 2010-10-27).

(15) 他にも事例をあげたい図書館はあるが、紙幅の都合上省略した。『CATS叢書第5号 観光と図書館の融合』(前出)を参照いただきたい。
なお、図書館問題研究会は、第57回全国大会(2010年7月)において「まちづくり・観光・図書館」をテーマにシンポジウムを行っている。
“第57回図書館問題研究会全国大会in草津”. 図書館問題研究会群馬支部.
http://tomonkengunma.jimdo.com/ [6]第57回全国大会-2010-7-4-6/, (参照 2010-10-27).

(16) 観光を視野に入れたまちづくりの手法は「観光まちづくり」と呼ばれるが、これについては、例えば以下などが参考になる。
安村克己. 観光まちづくりの力学 : 観光と地域の社会学的研究. 学文社, 2006, 166p.
溝尾良隆. 観光まちづくり : 現場からの報告. 原書房, 2007, 197p.
西村幸夫編著. 観光まちづくり : まち自慢からはじまる地域マネジメント. 学芸出版社, 2009, 285p.
総合観光学会編. 観光まちづくりと地域資源活用. 同文舘出版, 2010, 129p.

(17) 例えば、以下が参考になる。
菅原峻. 図書館の明日をひらく. 晶文社, 1999, 274p.

 

Ref:

石森秀三編著. 大交流時代における観光創造.北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院, 2008, 266p., (大学院メディア・コミュニケーション研究院研究叢書, 70).

羽田耕治監修. 地域振興と観光ビジネス. ジェイティービー能力開発, 2008, 278p.

米浪信男. 現代観光のダイナミズム. 同文舘出版, 2008, 210p.

大串夏身編著. 課題解決型サービスの創造と展開. 青弓社, 2008, 261p., (図書館の最前線, 3).

渡部幹雄. 地域と図書館 : 図書館の未来のために. 慧文社, 2006, 235p.

 


松本秀人. 図書館と観光:その融合がもたらすもの. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1729, p. 2-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1729 [7]

カレントアウェアネス [8]
図書館サービス [9]
日本 [10]
公共図書館 [11]

CA1730 - JISCの3か年戦略2010-2012 / 呑海沙織

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カレントアウェアネス
No.306 2010年12月20日

 

CA1730

 

 

JISCの3か年戦略2010-2012

 

はじめに

 英国情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee:JISC)は、大学などの高等教育機関を中心とした学術情報基盤として1993年に設立された非営利組織である(CA1501 [13]参照)。情報通信技術を活用することによって、継続・高等教育機関における研究・教育・学習を促進することを目的とした組織であり、英国の学術情報政策を把握する上で、最も重要な組織のひとつであるといえる(CA1620 [14]参照)。JISCは毎年、活動報告書を発行するとともに、数年毎に戦略書を発表している。

 1995年、JISCは、向こう5年間の高等教育にかかわる情報通信技術の活用に関する課題や問題点を明らかにすることを目的に、討議資料『高等教育における情報システムの有効利用』(1)を発表し、広く意見を求めた。結果として、高等教育機関だけでなく出版社や関連団体から76のフィードバックを得、これらをベースに初の戦略書である『JISC5か年戦略1996-2001』(2)を発表した。

 2001年には『JISC5か年戦略2001-2005』(3)を発表したが、2002年には情報通信技術の急速な発展や、高等・継続教育や研究環境の変化を理由に戦略の軌道修正をはかる『JISC戦略レビューおよびプログレス・レポート』(4)を発行し、次の戦略書からは3か年戦略となっている。

 2004年には『JISC戦略2004-2006』(5)、2007年には『JISC戦略2007-2009』(6)、2009年には『JISC戦略2010-2012』(7)を発表している。この最新の戦略書においてJISCは、1) 経済環境の変化、2) 教育・研究環境の変化、3) 情報通信技術の変化、という3つの大きな変化を背景に、2010年からの3年間にどのように活動を推進していくかについて述べている。以下、この戦略書に基づいて、JISCの今後の方針をみていきたい。

 

経済環境の変化

 一つめの背景としての「経済環境の変化」については、まず、英国のみならず世界的な不況により、高等教育機関のコスト削減と効率性向上は根本的課題であると前提条件を提示している。この解決策のひとつとして、高等教育機関における経営情報システムの効率化および費用対効果の促進をあげ、2010年から2012年にかけてのJISCの最優先事項としている。経営情報システムの導入や維持は非常に経費のかかるものであり、この部分を効率化することで高等教育機関のコスト削減をはかろうとするものである。また、英国の経済回復は、より効果的な知識経済をいかに発展させるかにかかっているとされており、教育や研究の領域は重要な要素であるとみなされている。「情報通信技術の革新的利用によって教育・学習及び研究を支援し、卓越したリーダーシップを提供すること」をミッションとするJISCは、この文脈においても重要な位置をしめている。

 

教育・研究環境の変化

 二つめの「教育・研究環境の変化」については、(a) ボローニャ・プロセスなどを要因とした競争の激化、(b) 社会人学生やパートタイム学生、海外を含む遠隔地に居住する学生などの非伝統的学生への対応の増大、(c) 授業料の再検討など教育政策に基づく変化、(d) 教育の質保証の確実化など、「教育」をとりまく環境の変化と、(e) インターネットを用いた国際的な共同研究の可能性の増大、(f) 研究領域におけるグーグル世代の増加、といった「研究」をとりまく環境の変化をあげている。なお、ボローニャ・プロセスとは、1999年に欧州29か国による欧州高等教育圏の構築を目的として採択されたボローニャ宣言に基づく一連の高等教育改革の動きである。

 教育をとりまく環境の変化への対応については何よりもまず、eラーニング文化の涵養が必要であるとしている。いつでも学習コンテンツやリソースにアクセスできる、より機能的でパーソナライズされた学習環境の構築は、特に非伝統的学生が必要とするものである。また、学生に好まれているとされるiPhoneやBlackberryなどのモバイル・デバイスへの対応についても言及されている。モバイル・デバイスを活用した学習は、通勤時や通学時などの移動中の学習への対応という観点からもニーズが高い。

 研究をとりまく環境の変化への対応については、よりダイナミックで効果的な研究環境の構築が必要であるとしている。具体的には、共有を目的とした研究データの管理・保存、高品質の学術コンテンツの提供を目的とするJISC傘下の非営利団体であるJISC Collectionsのさらなる発展、学術ネットワークJANETに代表される共用サービスの継続をあげることができる。

 またJISCは、実務に携わる者から戦略的意思決定を行う者まで、情報通信技術の活用に関連するあらゆる教育・研究関係者の技術や能力の向上が必要であるとしている。高等教育機関における情報通信技術に関する助言提供サービスを統括するJISC傘下の非営利団体であるJISC Advanceは、これらの教育・研究関係者の効率的かつ高度な業務・研究の執行に対して直接的な支援を行うだけでなく、教育・研究関係者からのフィードバックを収集する役割をも果たしている。

 

情報通信技術の変化

 三つめの「情報通信技術の変化」については、ブログやYouTube、MySpaceなどのソーシャル・メディア、クラウド・コンピューティング、モバイル技術、グリーン・コンピューティング、アクセス管理について言及している。たとえば、インターネット経由でアプリケーションの機能を必要に応じてサービスとして利用するSaaS(Software as a Service)を活用することによって、より機能的なサービスを提供するだけでなく、高価なアプリケーション・ソフトウェアの維持管理に必要なコストを削減できる、とその期待を述べている。

 そして、これらの新しい技術の可能性を最大限に引き出し、これらがひきおこす社会的変革に迅速に対応することが、JISCの重要な任務であるとしている。JISCは、定常的なサービスを提供するだけでなく、あえて失敗を恐れず先導的・革新的なプロジェクトやプログラムを促進していくことをそのミッションとして掲げている。情報通信技術分野に関しては、特にこのミッションとなじむ分野であるといえるだろう。

 

おわりに

 以上、3つの背景を核にJISCの2010年の3か年戦略について述べたが、最後に、JISCの説明責任の強化について触れたい。

 JISCは、戦略に基づいたサービスやプログラム、プロジェクトに出資することによって、計画を実現する機関であるが、2010年の3か年戦略では、出資の対象分野と方法が詳細に記述されている。限られた予算のなかで、どのように優先順位をつけ、どのように出資を決めるのか、といった説明がなされている。

 また、VFM(Value for Money)も特徴的である。VFMは「投資に見合う価値」などと訳されるが、これまでと同水準のサービスをより低いコストで提供すること、あるいは、これまでと同じコストでより質の高いサービスを提供することを意味する。JISCでは、2006年に初めて『VFM報告書』(8)が発表されている。さらに、2009年には、JISC CollectionsおよびJISC Advanceが、それぞれVFM報告書(9) (10)を発表している。これらのVFM報告書は、JISCの活動から得られる経済的効果を数値化し、説明責任を果たそうとするものである。2010年の3か年戦略でも、この手法が採用された『高等・継続教育セクターにおけるJISCのインパクトの実証』(11)を紹介しており、JISC CollectionsとJISC Advanceに1ポンドずつ出資すると、それぞれ34ポンド、12ポンドの商業的価値のあるサービスを得ることができる、といった算出結果を提示している。

 以上、2010年から2012年までのJISCの3か年戦略について概観した。自ら「先導的」と名乗るJISCの学術情報政策について、今後も着目していきたい。

筑波大学:呑海沙織(どんかい さおり)

 

(1) Joint Information Systems Committee. Exploiting Information Systems in Higher Education. 1995, 53p.

(2) Joint Information Systems Committee. Five Year Strategy 1996 - 2001. 1996, 76p.
http://www.jisc.ac.uk/aboutus/strategy/strategy9601.aspx [15], (accessed 2010-11-09).

(3) “JISC Five Year Strategy 2001-05”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/aboutus/strategy/strategy0105.aspx [16], (accessed 2010-09-01).

(4) “JISC Strategy Review and Progress Report: 2002-03”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/aboutus/strategy/strategy0105/review.aspx [17], (accessed 2010-11-09).

(5) “JISC Strategy 2004-2006”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/publications/strategy0406.pdf [18], (accessed 2010-09-01).

(6) “JISC Strategy 2007-2009”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/aboutus/strategy/jisc_strategy_20072009.pdf [19], (accessed 2010-09-01).

(7) “JISC Strategy 2010-2012”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/aboutus/strategy/strategy1012.pdf [20], (accessed 2010-09-01).

(8) “Joint Information Systems Committee (JISC) Value for Money Report”. JISC. 2006.
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/aboutus/aboutjisc/vfm210906.pdf [21], (accessed 2010-11-09).

(9) JISC Collections. “JISC Collections Value for Money Report 2008/2009”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/publications/general/2010/jisccollectionsvfm09.pdf [22], (accessed 2010-11-09).

(10) JISC Advance. “JISC Advance Value for Money Report 2008/2009”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/publications/general/2010/jiscadvancevfm09.pdf [23], (accessed 2010-11-09).

(11) “Demonstrating JISC’s Impact on the Sector”. JISC.
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/committees/jir/2/jir_09_16jiscimpactreportsep09annexa.pdf [24], (accessed 2010-11-09).

 


呑海沙織. JISCの3か年戦略2010-2012. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1730, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1730 [25]

  • 参照(8594)
カレントアウェアネス [8]
英国 [26]
JISC(英国情報システム合同委員会) [27]

CA1731 - モンゴル国立図書館の現状と将来計画 / 林 明日香

  • 参照(9182)

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カレントアウェアネス
No.306 2010年12月20日

 

CA1731

 

 

モンゴル国立図書館の現状と将来計画

 

1. はじめに

 モンゴル国立図書館は、クリーム色の壁と白い柱が美しい建物であるが、1951年に建てられて以来、数回補修したのみで外見からしても少々老朽化している感が否めない。そのため現在新館建設が計画されており、それに伴って2010年に「モンゴル国立図書館戦略2010-2016」(1)(以下「戦略2010-2016」)が発表された。本稿では、「戦略2010-2016」を基にモンゴル国立図書館の現状と将来計画について紹介したい。

 

2. モンゴル国立図書館の現状

 モンゴルで人民政府が成立した1921年に、モンゴル典籍委員会の付属図書館として設置された図書館がモンゴル国立図書館の起源である。その後国立の公共図書館となり、数回の改称や、1990年からのモンゴル国の民主化への転換に伴う混乱も乗り越え、2004年に現在の「国立図書館(Үндэсний номын сан)」という名称になった。2005年には、「モンゴル国立図書館規則」(2)が制定され、改めて国立図書館を国の中央図書館と定め、組織の改編、コレクションの拡充、サービスの拡大などを含めた図書館の役割が規定された。

 1951年に現在の建物へ移転した際に50万点であった国立図書館の蔵書は、2010年には300万点に増加しており書庫スペースが不足している。また書庫内には空調が無く、適切な温湿度を保つのが難しい状況である(3)。

 組織は図書館学部門、書庫管理部門、収集整理部門、閲覧サービス部門、総務部門の5つの部(4)に分かれている。2009年の職員数は、館長1名、専門スタッフ55名、アシスタントスタッフ20名の計76名で、利用者は年間6万人である。

 資料の収集は主に購入、寄贈、国際交換によって行っている。2010年の資料購入の予算は6千万トゥグルグ(約390万円)である。

 モンゴル国立図書館の電子化の状況については、現在30万冊分の目録が電子化されており、“Элeктрон каталог”(電子目録)(5)としてウェブ上で公開されている。また、所蔵する貴重書の電子化にも取り組んでいる。インド政府からの支援によって行われていたモンゴル大蔵経の電子化プロジェクトは終了し、1999年から始まった“Asian Classics Input Project”の支援によるチベット語の仏典などのデジタル化は継続中である(6)。図書館の設備不足などを理由に、どちらも一般公開はされていないものの、一部の目録は国立図書館のウェブサイトから見ることができる。

 

3. モンゴル国立図書館の将来計画

 2008年に当時のエンフバヤル(Намбарын Энхбаяр)大統領は、国立図書館の新館建設を決定した。これはクウェートの無償支援を受けて、市内の別の場所に新しい建物を建設しそこに国立図書館を移転するものである(7)。

 「戦略2010-2016」はこの新館建設をひとつの節目として、移転までを第一フェーズ(移行期)、移転後1-2年を第二フェーズ(試行期)とさだめ、第一フェーズの間に新たなサービスモデルの導入や人材育成、設備や技術の向上などの変革の準備を行い、第二フェーズでそれらを実施に移すとしている。

 モンゴル国政府の将来目標に、情報通信技術によって知識ベースの社会を構築するというものがあり、「戦略2010-2016」の中では図書館のビジョンについて「モンゴル国立図書館は、図書館資料とサービスにより、モンゴルの知識ベースの社会を発展させる点で、主要な貢献者でありリーダーである」(8)と述べている。

 「戦略2010-2016」では、「コンテンツとアクセス」「利用者とパートナーシップ」「電子図書館」「人材」の4つの優先的な戦略について説明している。

 「コンテンツとアクセス」戦略は、主に資料収集、保存、提供について述べている。資料の収集に関しては、これまで収集してきたモンゴルの出版物や貴重書などの他に、電子資料を収集するとしている。またこれまで、政府決定などでは国立図書館への法定納本の言及がありつつも実際には機能していなかったが、教育・文化・科学省やモンゴル図書館協会などと協力しながら無償納本による資料収集実現に向けた活動を行っていく。収集した資料は、来館による利用のほかオンラインでも利用者に提供すると定めている。

 「利用者とパートナーシップ」戦略では、利用者のニーズを学び図書館サービスの質を高めることや、政府機関や国際機関などのスポンサー、モンゴル図書館協会や国内外の図書館などのパートナーとの合意と協力を通して「利用者とパートナーシップ」戦略の目標を実現していくとしている。

 「電子図書館」戦略では、電子図書館の機能として、科学や研究に関するデータベースやオンラインジャーナルの提供、モンゴル語のデジタル資料の収集、モンゴルの電子出版物の長期保存、資料のデジタル化と提供の4つをあげている。ただし、その前に、法制度の整備、技術と設備の充実、安全な情報環境の構築、人材育成が必要としている。

 「人材」戦略では、組織改編と人材育成について述べている。2005年の政府決定で定められていたが、実行されていない組織改編と電子図書館を作るための改編を行い、部の数を5から8に増やし、職員数も76名から178名へと大幅に増員する。また、旧ソ連時代に訓練を受けた職員の再訓練、外部からの情報通信技術や外国語の能力を持つ人材の登用などを計画している。

 

4. 最後に

 2008年6月に新館建設予定地に礎石を置く式典を行って以来、今のところ新館建設の具体的な動きはなく、建築家や設計図も決まっていない。また、モンゴルの経済状況の悪化により、図書館の資料購入費が削減されている状況である。加えて、新館の建設を決定したエンフバヤル大統領が2009年6月の総選挙で退任し、モンゴル国立図書館館長も2010年に入ってからアキム(Готовын Аким)氏からチラージャブ(Хайдавын Чилаажав)氏へ変わった。

 このような様々な課題があるが、「戦略2010-2016」の中では、この戦略の結果として「国民はどんな遠い県、村からでもオンラインで国立図書館のサービスを受けられる」(9)ような社会が描かれている。遊牧民が馬の背に揺られながら、あるいは草原の中のゲルで、モンゴル国立図書館の資料を読むことができる、そんな未来がぜひ実現してほしいと思う。

総務部人事課:林 明日香(はやし あすか)

 

(1) “Монголын Үндэсний Номын сангийн стратeги / 2010-2016 /”. National Library of Mongolia. 43p.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 mgl.pdf [29], (accessed 2010-10-25).
“National Library of Mongolia Strategy 2010-2016”. National Library of Mongolia. 35p.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 eng.pdf [30], (accessed 2010-10-25).

(2) Монгол улсын үндэсний номын сангийн дүрэм, бүтэц 2005.02.08 1 31 БСШУ-ны сайдын тушаалын 1, 2 дугаар хавсралт

(3) Ж., Солонго. “Халцарсан хана, хагархай гэрэл Оюуны их уурхайг “ХАМГААЛЖ” байна”. Монгол Ньюс. 2010-06-02.
http://www.mongolnews.mn/p/5687 [31], (accessed 2010-10-25).

(4) Мэдээлэл арга зүй, эрдэм шинжилгээ; Уншлага үйлчилгээ; Фонд хадгаламж; Ном бүрдүүлэх, боловсруулах, солилцох; Захиргаа аж ахуй

(5) “Элeктрон каталог”. National Library of Mongolia.
http://www.nationallibrary.mn/catalog.php [32]

(6) “ACIP Signs New Contract with National Library of Mongolia”. Asian Classics Input Project.
http://www.asianclassics.org/node/46 [33], (accessed 2010-10-25).

(7) “Ерөнхийлөгч Н.Энхбаяр “Монголын Улсын Үндэсний номын сан”-гийн шав тавих ёслолд оролцлоо”. GoGo Мэдээ. 2008-06-12.
http://news.gogo.mn/r/30045 [34], (accessed 2010-10-25).

(8) “Монголын Үндэсний Номын сангийн стратeги / 2010-2016 /”. National Library of Mongolia. p. 17.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 mgl.pdf [29], (accessed 2010-10-25).

(9) “Монголын Үндэсний Номын сангийн стратeги / 2010-2016 /”. National Library of Mongolia. p. 15.
http://www.nationallibrary.mn/Strategy plan 2010-2016 mgl.pdf [29], (accessed 2010-10-25).

 


林明日香. モンゴル国立図書館の現状と将来計画. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1731, p. 7-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1731 [35]

カレントアウェアネス [8]
図書館事情 [36]
モンゴル [37]
国立図書館 [38]

CA1732 - 動向レビュー:高齢者向けの図書館サービス / 堀 薫夫

PDFファイルはこちら [39]

カレントアウェアネス
No.306 2010年12月20日

 

CA1732

動向レビュー

 

高齢者向けの図書館サービス

 

1. はじめに

 今日、社会の高齢化、とくに団塊世代の高齢化の問題は、図書館の世界にも大きな波紋を投げかけている。ここでは「図書館における高齢者サービス」について、従来のサービスと21世紀以降出てきた新しい論点を概観するなかで、高齢者問題から照射した新しい図書館サービスのあり方を考えていく。

 

2. 図書館における高齢者サービスの問題

2.1. 従来の高齢者サービス

 ある年齢層をターゲットとした図書館サービスは、児童サービス、ヤングアダルト・サービス、ビジネス支援などいくつかあるが、高齢者サービスは、その新しい動向のひとつである。ただ社会の高齢化とは裏腹に、日本では、図書館サービス論の「利用対象に応じたサービス」の一部に位置づけられているものの(1)、翻訳書(2)以外には、まだ図書館の高齢者サービスに関する体系的な著書は刊行されていないといえる。欧米ではすでに1980年代からいくつかの図書館の高齢者サービスに関する著書や論考が刊行されている(3) (4) (5) (6) (7)。また日本では1990年代に発表された高島涼子の一連の研究が先進的であったが、今日の公共図書館を取り巻く現状は、高島がかつて診断した段階をこえているようにも思える(8) (9) (10)。

 従来の高齢者向け図書館サービスの特徴のひとつは、高齢者サービスを障害者サービスなどの福祉的アプローチと重ね合わせるところにあるといえよう。例えば大活字本の利用、カウンターの高さや照明などの工夫、施設入所者へのサービスなどである(11)。もちろんこの傾向は今日でも続いており、かつこのアプローチの有効性は軽視してはならないだろう。しかし他方でそうしたサービスの背後に高齢者「問題」への「対策」という発想があるとしたら、そうした理念の根源まで立ち帰って考えてみる時期が到来しているともいえる。

 高齢者向けの図書館サービスを障害者/福祉サービスからはなすことを主張したのはクレイマン(Allan M. Kleiman)であった(12)。クレイマンは、1995年のLibrary Journal誌のエイジング問題(the Aging Agenda)特集号にて、高齢者を主体的な図書館利用者としてとらえ、高齢者向けの「生涯学習・情報センター」としての図書館の役割を指摘した(CA1319 [40]参照)。そこでは高齢者の読書ニーズ(CA891 [41]参照)や高齢者特有の図書館利用形態への対応が必要とされた。

 

2.2. 図書館における高齢者サービスの新しい局面

 21世紀に入り、図書館の高齢者サービスにおいて、従来の考え方や手法とは異なる動向が出てきた。この手がかりとして、米国図書館協会(American Library Association:ALA)が出している、「高齢者(55歳以上)向け図書館・情報サービスガイドライン」の7つの主な柱に注目してみよう。このガイドラインは2005年以降改訂が続いており、現段階での指針(2008年版)は次のとおりである(13)。

 

① 高齢者に関する最新のデータを入手し、それを図書館計画と予算化に組み込むこと。

② その地域に住む高齢者に特有のニーズと関心が、地域の図書館の蔵書・プログラム・サービスに反映されることを保証すること。

③ 図書館の蔵書と利用環境が、すべての高齢者にとって、安全かつ快適で魅力的なものになるようにすること。

④ 図書館を高齢者に対する情報サービスの拠点にすること。

⑤ 高齢者をターゲットとした図書館サービス・プログラムを設けること。

⑥ 図書館への来館が困難な地域在住高齢者に対して、アウトリーチ・サービスを提供すること。

⑦ 高齢者に対して丁重かつ敬意をもってサービスができるように、図書館職員を訓練すること。

 

 ALAのガイドラインでは、その前文で、ガイドライン更新の基本原則として、(ベビー)ブーマー世代(1946年~1964年生まれ)の高齢化を見越したうえで、高齢者サービスにおける多様性尊重と高齢者へのステレオタイプ克服を謳っている。そこには従来からの福祉的イメージに新しい活動者イメージを重ね合わせるという高齢者観の二重性がある。入江有希は、2006年の時点でのこのガイドラインの分析を手がけたが、その内容は現段階のものとは微妙に異なっている(14)。とくに④の情報サービスの拠点であることと⑥のアウトリーチ・サービスは、入江の論に示されていないだけに注目される。

 本稿ではALAガイドラインの更新内容を基に、「ウェブ社会への対応」「ポジティヴ・イメージからの高齢者サービス」「ブーマー世代への対応」という3点を、ここ数年における重要な動向であると判断した。以下、この3点にそって図書館の高齢者サービスの動向を追っていく。第一の点は、ネット社会の到来により、インターネットなどの情報サービスの議論を抜きに高齢者向け図書館サービスを論じることができなくなったことと関連する。第二点は、従来の福祉的視点からはなれ、生活者・活動者あるいはポジティヴなイメージから高齢図書館利用者をとらえる視点である。そして第三は、日本の団塊世代(1947年~1949年生まれ)や米国のブーマー世代の高齢化にともない、従来の高齢者層とは文化的に異質な層(パソコンを苦手としない、学生紛争の経験など)が数多く高齢期を迎えるという動向である。なおこのほかにも、図書館でのクレーマー問題に象徴される、いわゆる「暴走老人」(15)問題や、高齢ホームレス者への図書館の対応という問題なども生じてきている(16)。

 

2.3. ウェブ社会における高齢者の図書館利用

 第一の論点に関しては、高齢者のパソコン/インターネット利用の実態とそれをふまえたサービスが課題となる。従来高齢者は情報弱者として形容されることが多く、例えば2001年の総務省「通信利用動向調査」では、年齢が上がるにつれてパソコンやインターネットの利用率が顕著に低下することが示されていた(17)。しかし2009年の同調査では、高齢者のインターネットなどの利用率が大幅に上昇していることが示されている(18)。NTTデータ経営研究所が2008年に行った高齢者のパソコン・ネットの動向に関するウェブアンケート調査では、60歳以上で「毎日パソコンを使う人は9割をこえている」と報告している(19)。今日ではむしろ、高齢者をインターネット活用者ととらえたうえで、その特性を探るという方向に議論は移行してきている。

 図書館サービスにおいても、図書館における高齢者へのインターネット利用支援が出てきている。例えばイングランドの図書館行政庁に対する調査では、図書館行政庁の64%が高齢者向けの利用支援を実施していると回答した(E1024 [42]参照)。また先のALAのガイドラインでも、「図書館を高齢者への情報サービスの拠点とする」と謳い、高齢者関連機関へのウェブのリンクを張ることや地域での高齢者向けコンピュータ訓練の提供を示唆している。また公共図書館で高齢者が高度な健康関連情報にアクセスするための、コンピュータ訓練プログラムの開発に向けた実験的研究も出されているし(20)、高齢者に対する図書館利用者教育への示唆も出てきている(21)。インターネットを介した図書館の高齢者サービスの拡充は、図書館サービスにおける今後の重要な方向であろう。

 

2.4. 高齢者へのポジティヴなイメージと図書館利用

 高齢者の図書館利用を福祉イメージや障害者イメージと重ねるだけではなく、主体的な図書館利用者、学習者・生活者としてとらえる動向も芽生えてきている。すなわちポジティヴなイメージのもとで高齢図書館利用者や高齢読書者をとらえるということである。筆者はかつて、図書館の高齢者サービスを安易に障害者サービスと重ねることへの危惧を表し、高齢図書館利用者を「福祉・保護」イメージと「生活者・活動者」イメージの二重性のなかでとらえる視点を提起した(22) (23)。今日では、2010年の国民読書年に高齢者の読書バリアフリー問題を、障害者問題とともに考えるという議論もあるが(24)、こうした読書行動などのエイジングのネガティヴな側面への補助を考える部分では、障害者サービスとの重ね合わせは必要なのかもしれない。しかしこと高齢者観やエイジング観という点に関しては、従来の観点を再検討する時期が来ていると思う。

 ポジティヴな高齢者観にもとづく図書館サービスの嚆矢は、先述のクレイマンの論であろう。クレイマンは、従来の高齢者向け図書館サービス(大型活字本、施設入所高齢者へのサービスなど)の背後に高齢者へのネガティヴなステレオタイプが潜んでいるとするならば、エイジングへのステレオタイプを再検討することが必要だとしたうえで、ブーマー世代の高齢化にともなうポジティヴな現実に対する、新しい図書館サービスのあり方を提起した(25)。つまり福祉的側面を強調する高齢者サービスにくわえて、「活動的で」「健康な」高齢者へのサービスをどうするかという問題である。

 ポジティヴな高齢者観をふまえた図書館サービスの問題は、2005年のホワイトハウス・エイジング会議のフォーラムに、ALAが提出したバックグラウンド・ペーパーにも反映されている(26)。とくにツゥーロック(Betty J. Turock)は、図書館がエイジング神話を払拭させる役割をもつべきだとし、高齢者自身がエイジズムの自己成就に陥らないように警告した(27)。高島涼子も米国での動向をふまえ、高齢者のニーズと生涯教育に応える図書館の役割を論じた(28)。今日ではオクラホマ大学のヴァン・フリート(Connie Van Fleet)が、ポジティヴ・エイジングの視点からブーマーの高齢化を射程に入れた、包括的な図書館サービス論を示している(29)。

 

2.5. 団塊世代・ベビーブーマーの高齢化と図書館職員退職問題

 上記の、高齢者のインターネット利用とポジティヴな高齢者像からの図書館サービス論の背景には、団塊世代や米国のブーマーの集団高齢化現象がある。日本の場合、このいわゆる2007年問題は、一方で図書館職員一斉退職問題をも巻き込んだ。つまり団塊世代職員が培ってきたノウハウが後続世代に伝えきれない状況であり、前田章夫はこうした状況下での図書館運営の課題を示した(30)。

 この図書館員における世代継承性の問題は、日本では2005年ごろから議論が噴出したが(CA1573 [43]参照)、米国ではブーマー世代の年齢幅が広いこともあり、こうした問題を包み込むより深い社会構造的問題が潜んでいるといえる。早瀬均は、こうした構造的変化の理解をとおして図書館員不足への対応を考えるべきだと指摘した(CA1583 [44]参照)。また先述の2005年ホワイトハウス・エイジング会議のテーマが「ブーマー世代の高齢化」(The Booming Dynamics of Aging)であったことからも明らかなように、日本と同様の現象は米国の図書館界をも覆っている。

 2007年にはLibrary Journal誌においても、「図書館はいかにブーマーのニーズに応えるか」(What boomers want)という特集が組まれた(31)。そこでは日本とは異なり新しい顧客層への対応が説かれてあった。また2010年には、ブーマーに対する図書館の役割を論じた著作も刊行されたが、そこでは老年学の成果を図書館情報学と結びつけるという方向が示された(32)。ブーマー層を図書館がいかに受け入れるのかという問題は、実は米国のほうがその影響力が長期的であるがゆえに、より前向きに受け止められているようでもある。しかし日本においても団塊世代の高齢化の問題は、独自のニーズとライフスタイルを有する層の集団高齢化の問題でもあり、図書館においても、それまでの高齢者とは異なった対応が求められてくるだろう。

 

3. おわりに

 ウェブ社会への対応、ポジティヴ・エイジング、ブーマー世代への対応という3つの角度から、図書館の高齢者サービスをめぐる今日的動向を整理してきた。この議論は、高齢者に対する図書館サービスだけでなく、高齢者の図書館利用論・読書論・情報探索論へと敷衍していく必要があるだろう。つまり高齢者を生活主体としてとらえたうえで、その生活構造のなかに図書館や読書がいかに位置づくのかを考えるということである。もちろん福祉的アプローチは軽視できないが、米国を中心に進んでいる高齢者サービスの新しい流れの要諦は、福祉・保護アプローチと学習・活動アプローチの二重性そのものをみつめていくという姿勢であると思う。

大阪教育大学:堀 薫夫(ほり しげお)

 

(1) 井上靖代. “高齢者サービス”. 図書館サービス論. 小田光宏編. 日本図書館協会, 2010, p. 182-185, (JLA図書館情報学テキストシリーズ, II-3).

(2) メイツ, バーバラ・T. 高齢者への図書館サービスガイド:55歳以上図書館利用者へのプログラム作成とサービス. 高島涼子ほか訳. 京都大学図書館情報学研究会, 2006, 233p.

(3) Turock, Betty J. Serving the Older Adult. New York, Bowker, 1982, x, 294p.

(4) Casey, Genevieve M. Library Services for the Aging. Hamden, Conn., Library Professional Publications, 1984, xiii, 168p.

(5) Dee, Marianne et al. Library Services to Older People. Boston Spa, Wetherby, West Yorkshire, British Library, 1986, viii, 186p., (Library and Information Research Report, 37).

(6) Moore, Bessie B. et al. Improving library services to the aging. Library Journal. 1988, 113(7), p. 46-47.

(7) Van Fleet, Connie. Public library services to older people. Public Libraries. 1989, 28(2), p. 107-113.

(8) 高島涼子. 高齢化社会における図書館の役割. 現代の図書館. 1992, 30(1), p. 59-70.

(9) 高島涼子. 特集, 図書館・図書館学の発展 : 20世紀から21世紀へ: 高齢者への図書館サービス. 図書館界. 1993, 45(1), p. 73-75.

(10) Takashima, Ryoko. Public library services to the elderly in Japan. Educational Gerontology. 1994, 20(5), p. 483-493.

(11) 山内薫. 特集, イネーブル・ライブラリー: 高齢者サービスの現状と課題. 現代の図書館. 1999, 37(3), p. 142-143.

(12) Kleiman, Allan M. The aging agenda: Redefining library services for a graying population. Library Journal. 1995, 120(7), p. 32-34.

(13) “Guidelines for Library and Information Services to Older Adults”. American Library Association.
http://www.ala.org/ala/mgrps/divs/rusa/resources/guidelines/libraryservices.cfm [45], (accessed 2010-09-10).

(14) 入江有希. 特集, 高齢者と図書館: 英米の高齢者サービスガイドラインに見る高齢者観. 現代の図書館. 2006, 44(3), p. 127-132.

(15) 藤原智美. 暴走老人!. 文藝春秋, 2007, 214p.
同書p. 181-183では「国会図書館で怒鳴られる」という例も出されている。

(16) 清重知子. “ホームレスにとっての公共図書館の役割”. 米国の図書館事情2007 : 2006年度国立国会図書館調査研究報告書. 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本図書館協会, 2008, p. 316-317, (図書館研究シリーズ, 40).
http://current.ndl.go.jp/node/14415 [46], (参照 2010-09-10).

(17) インターネット利用率は2001年の時点で、30代68.4%、40代59.0%、50代36.8%、60代前半19.2%、同後半12.3%、70代5.8%と、年齢が上昇するにつれて急激に比率が低下していた。
“平成13年「通信利用動向調査」の結果”. 総務省. 2002-05-21.
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/020521_1.pdf [47], (参照 2010-09-10).

(18) 2009年のインターネット利用率は、50代86.1%、60代前半71.6%、同後半58.0%、70代32.9%と、この間に利用率が飛躍的に伸びているのがうかがわれる。
“平成21年「通信利用動向調査」の結果”. 総務省. 2010-04-27.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000064217.pdf [48], (参照 2010-09-10).

(19) “高齢者におけるパソコン・ネットの利用動向に関する調査”. NTTデータ経営研究所. 2008-12-16.
http://www.keieiken.co.jp/aboutus/newsrelease/081216/index.html [49], (参照 2010-09-24).

(20) Xie, Bo et al. Public library computer training for older adults to access high-quality internet health information. Library and Information Science Research. 2009, 31(3), p. 155-162.

(21) 福田博同. アクセシビリティを具現化した図書館利用教育:現状と課題(1). 跡見学園女子大学文学部紀要. 2008, (44), p. 95-110.

(22) 堀薫夫. 高齢者への図書館サービス論から高齢者の図書館利用論・読書論へ. 図書館界. 2007, 59(2), p. 67-71.

(23) 堀薫夫. 特集, 高齢者と図書館: 高齢者の図書館利用と読書活動をめぐる問題. 現代の図書館. 2006, 44(3), p. 133-139.

(24) 宇野和博. 特集, 読書の遠近法(パースペクティブ): 2010年「国民読書年」に障害者・高齢者の「読書バリアフリー」を考える. 現代の図書館. 2010, 48(1), p. 32-38.

(25) Kleiman, Allan M. The aging agenda: Redefining library services for a graying population. Library Journal, 1995, 120(7), p. 32.

(26) 2005年ホワイトハウス・エイジング会議では、「図書館、生涯学習、情報と高齢者」というフォーラムが開かれた。
“Pre-White House Conference on Aging Forum”. American Library Association.
http://cs.ala.org/ra/whitehouse/ [50], (accessed 2010-09-10).

(27) Turock, Betty J. “Libraries, Older Adults and the Future”. ALA Forum for the White House Conference on Aging. Chicago, Illinois, 2005-06-24, American Library Association.
http://cs.ala.org/ra/whitehouse/WHCOAForumALA2005_turock.doc [51], (accessed 2010-09-10).

(28) 高島涼子. 高齢者生涯教育における図書館の役割. 京都大学生涯教育学 図書館情報学研究. 2005, (4), p. 195-202.

(29) Van Fleet, Connie. Libraries and Positive Aging: A Guide to Serving Older People. Libraries Unlimited, 2010, 200p.

(30) 前田章夫. 公共図書館における「2007年問題」. 図書館界. 2007, 59(2), p. 71-75.

(31) Dempsey, Beth. What boomers want. Library Journal. 2007, 132(12), p. 36-39.

(32) Rothstein, Pauline M. et al. Boomers and Beyond: Reconsidering the Role of Libraries. American Library Association, 2010, 152p.

 


堀薫夫. 高齢者向けの図書館サービス. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1732, p. 9-12.
http://current.ndl.go.jp/ca1732 [52]

  • 参照(22505)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
図書館サービス [9]
日本 [10]
米国 [54]
公共図書館 [11]
ALA(米国図書館協会) [55]

CA1733 - 動向レビュー:ウェブアーカイブの課題と海外の取組み / 中島美奈

PDFファイルはこちら [56]

カレントアウェアネス
No.306 2010年12月20日

 

CA1733

動向レビュー

 

ウェブアーカイブの課題と海外の取組み

 

1. はじめに

 今日、ウェブはごく身近な情報源として一般的に利用されている。印刷された本や雑誌の形での発行が停止され、ウェブ上でのみ公開されるようになった刊行物も多い。今後、インターネットを利用しないと得られない情報は増加していくだろう。しかし、その速報性と更新のしやすさから、ウェブ上の情報は増加していくと同時に消失している。情報が載っていたページ自体が消失してしまうこともあるし、新しい情報が上書きされて古い情報が消失していることもある。ウェブ上のページにアクセスしようとして、「404 Not Found」というエラー画面を目にしたことも少なくないはずである。

 ウェブページのURL(Uniform Resource Locators)の平均寿命は、44日から75日であると言われている(1)。このように失われやすい情報資源を、いかに後世に残すかが重要な課題となっている。

 本稿ではこうした問題への取組みであるウェブアーカイブの概要と課題について説明したのち、海外の機関の取組みを紹介する。

 

2. ウェブアーカイブの概要と課題

 ウェブアーカイブとは、インターネット上の情報を集め、将来の世代が利用できるように保存し、提供するサービスである。インターネット上から消失してしまった情報でも、ウェブアーカイブにより保存されていれば、永続的に見ることができるようになる。

 多くのウェブアーカイブでは基本的にクローラーと呼ばれる自動収集プログラムによってデータを自動的・定期的に収集するか、作成者からデータを提供してもらうことで、情報を蓄積している。

 ウェブアーカイブに保存される対象となるデータは、インターネットが発展すればするほど増加していく。最近は、ブログや動画共有サービスなど、だれもが情報の発信者になれるようなサービスが増加している。これらのコンテンツはひとつあたりの容量は小さいが、全体として膨大な量となっている。しかも更新が頻繁に行われ、情報が失われる速度も速いため、情報が更新される速度に収集する速度が追いつけなければ、情報に取りこぼしが生じる。このようなコンテンツを収集する場合、クローラーの技術的な問題や、作成者が多数存在していることによる著作権処理の問題など、解決すべき課題が多い。

 収集した後にも課題は存在する。インターネット上の情報には、テキストや画像、動画、音声などがあり、それぞれのファイル形式は統一されておらず様々である。ある環境ではアクセスできる情報が、OSやブラウザの違い、バージョンの違いにより利用できないのでは問題である。また、たとえ膨大な量のウェブ情報を保存できたとしても、その中の有用な情報にたどり着く手段がなければ不十分である。利用者がどんな情報を必要としているのかを把握した上で、どのような提供の仕方をすれば利用者にとって使いやすいウェブアーカイブとなるのかを常に模索する必要がある。

 

3. 各国における取組み

 ウェブアーカイブを構築している海外の機関(2)のうち、特色ある取組みを行っている機関をいくつか紹介する。

 

3-1. Internet Archive

 Internet Archive(以下IA)は1996年に設立された米国の非営利法人で、2007年にはカリフォルニア州から図書館として認定された(3)。IAは全世界を対象としてウェブ情報の収集を行っている。すなわち、管理者がアクセス制限を行っている場合を除き、インターネットで公開されている情報すべてが収集の対象となっている。IAのデータベースの規模はインターネットの拡大とともに成長し、毎月圧縮ファイルで100テラバイト近くの容量が増加している(4)。これらの情報は“Wayback Machine”という閲覧システムによってインターネットで公開されており、自由に閲覧が可能である。

 また、IAでは“Archive-It”という有料サービスを提供している(5)。これは、専門的な知識がない機関でも、自組織のウェブサイトのアーカイブが行えるようにするサービスで、サービスの契約者によって指定されたデータをIAが収集し、メタデータを作成し、全文検索ができるようにするものである。米国の政府機関や大学など、様々な機関がこのサービスを利用して自組織のウェブサイトのアーカイブを実施している(6)。特定の組織だけでなく、様々な機関においてウェブアーカイブへの意識が高まれば、より有益な情報が将来の世代のために保存できるだろう。

 

3-2. 米国議会図書館

 米国議会図書館(Library of Congress;以下LC)で行われているウェブアーカイブでは、前項のIAにおいて収集されたウェブコンテンツを、選択的に整備して公開している(7)。例えば、米国大統領選挙、9.11同時多発テロ、イラク戦争といったテーマごとに分類されている。なお、管理者の許諾に基づき提供しているため、管理者の要望があればコンテンツの公開が制限されることもある。

 他に、LCでは、“K-12 Web Archiving”というプロジェクトを行っている(8)。このプロジェクトはLCがIA、カリフォルニア電子図書館(California Digital Library)と協同で実施しているもので、プロジェクト参加校の小学生、中学生、高校生が、将来のために残したいと思うウェブサイトを、テーマを決めていくつか選び、前述の“Archive-It”を利用して保存するものである。子どもの目線をウェブサイトの選定基準に取り入れるとともに、ウェブ情報を保存する取組みを一般に周知する上で、有効であると考えられる。

 さらに、2010年にはソーシャルメディアの1つであるツイッター(Twitter)から、公開設定となっているツイート(ツイッターに投稿された140字以内のメッセージ)すべてがLCに寄贈された(E1042 [57]参照)。2006年にツイッターのサービスが開始してからこれまでに投稿されたツイートはもちろん、今後増えていくツイートも収集の対象となる。収集されたツイートは一般公開の予定はないが、研究目的での利用が可能である。この寄贈によって、他の機関においても、データの寄贈という手段が、ウェブアーカイブにおける一つの手法であるということが印象付けられたのではないだろうか。

 

3-3.英国国立公文書館

 英国国立公文書館(The National Archives;以下TNA)では、“UK Government Web Archive”というウェブアーカイブのプロジェクトを行っている(9)。これは英国の政府機関のウェブサイトを保存しているもので、現在は年に3回の頻度で収集を行っている。また、このプロジェクトで保存されたデータを利用して、“Web Continuity”というサービスを行っている。このサービスでは、まず、政府機関のウェブサイトの管理者に依頼して、各ウェブサイトに簡単なソフトウェアをインストールしてもらう。そうすることで、もし利用者が政府機関のウェブサイトから何か情報を得ようとした際に、そのページが現在利用できない状態となっていたとしても、TNAのウェブアーカイブで保存されているページであれば、自動的にそのページに転送されるように設定できる。すなわち、ページが移動していたり、削除されていたりしたとしても、「404 Not Found」というエラー画面を表示させないで、任意のページを表示させることができるようになる。また、転送が行われた先のページには、TNAにより保存されたページであることがわかるような注意書きが挿入されているため、現在の情報と過去の情報は明確に区別できるように工夫がされている。2008年11月にサービスが開始されてから、2009年1月に80万件だったTNAのウェブアーカイブへのアクセス数は、同年10月には900万件に増加したという(10)。この取組みは、ウェブアーカイブにおける可視性の向上に有用であると考えられる。

 

3-4. 英国図書館

 英国図書館(British Library;以下BL)では、英国ドメイン(.uk)のウェブサイトを管理者の許諾を得て選択的に収集している(11)。収集や保存は“Web Curator Tool”(12)(以下WCT)というシステムを利用して管理されており、収集されたコンテンツは2010年2月から“UK Web Archive”で正式に公開されている。

 BLは、2,400時間に及ぶ映像を公開していた、民間の大規模なウェブサイト“One & Other”の保存について報告している(13)。このウェブサイトでは2009年7月から10月にかけて、2,400人の一般の人々の日常生活(1人1時間、計2,400時間分)の映像が、ストリーミングメディアの形式で公開されていた。ストリーミングメディアのようなリアルタイムで再生する形式のコンテンツをクローラーで収集するのは困難である。実際、クローラーとしてHeritrix(CA1664 [58]参照)を使用しているWCTで収集を試みたところ、ウェブページを構成するHTMLファイルの収集しかできなかった。当該ウェブサイトは公開終了がせまっていたため、BLはストリーミングメディアをファイルの形で保存できるJaksta(14)というソフトウェアを使用して、映像を保存した。元々のファイルに異常があったものは正常には保存ができなかったが、スポンサーと費用を分担してファイルの修復がなされる予定である。現在公開が終了している“One & Other”のウェブサイトを閲覧しようとすると、直接“UK Web Archive”内のサイトに転送されるようになっている。“One & Other”は公開当時に注目されていたウェブサイトであったため、それを保存したことで、“UK Web Archive”への関心も集めることとなった。収集・保存が困難なウェブサイトも、コストの分担やデータの提供など、関係者の協力があれば保存が可能である。

 

3-5. IIPC

 最後に、ウェブアーカイブの国際連携を目的とした組織である、国際インターネット保存コンソーシアム(International Internet Preservation Consortium;以下IIPC;CA1664 [58]参照)の活動を紹介する。IIPCは2003年に結成され、2010年9月時点で各国の国立図書館など39機関から構成されている(15)。日本の国立国会図書館(以下NDL)は2008年4月にIIPCに加盟し、IIPCが開発したウェブアーカイブ用ツールの多言語対応等に取り組んでいる。

 IIPCでは、クローラーの開発や、保存形式など規格の標準化、検索システムの検討など、ウェブアーカイブにおける様々な課題について協調して取り組んでいる。そして、定期的に総会を開催し、各機関のウェブアーカイブの事例や開発成果を共有している。

 例えば、2010年5月にシンガポールで開催された総会では、ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)により、現在のウェブサイトと過去のウェブサイトを一体化するプロジェクト“Memento”について報告された(16)。このプロジェクトで研究されているプラグインを自分のブラウザに導入することで、その都度ウェブアーカイブのサイトに移動しなくても過去のページを閲覧できるようになる、というものである。現在のウェブサイトでリンクが切れているページが選択されたとき、“Time Gate”と呼ばれる機能により、過去のページが表示されるようになる。日付を選択できるスクロールバーがあるので、ニュースサイトのような更新が頻繁に行われるウェブサイトで、どのようにページが更新されていったのかを簡単に見ることができる。この機能が一般化されれば、過去のウェブサイトをより手軽に閲覧できるようになり、ウェブ情報の起源や、情報が遷移する過程を容易に理解できるようになるだろう。Mementoプロジェクトは発表後、IIPCの正式タスクとするよう提案があり、BLやLC、オランダ王立図書館などの支援を受けることとなった(17)。

 このようにIIPCでは、各機関が他機関と連携することで、知識や情報を共有し、課題解決に取り組んでいる。

 インターネットというのは、国や地域の境界を越えた広がりを持っている。そのような情報を収集・整備し、課題を解決していくためには、国際的な連携が必要だという結論に行きつくのは自然なことである。

 

4. おわりに

 日本では、2010年4月から、NDLによる、公的機関のウェブサイトの包括的収集が開始された(E1046 [59]参照)。収集のためには、対象機関の理解と協力が必要であり、さらなる広報の充実が課題となっている。

 また、収集範囲が増大したことで、収集した大量のデータを保存する領域の確保も大きな問題である。このため、データ量の削減を図るべく、前回収集時から変更のあったファイルだけを収集・保存し、提供する差分収集の仕組みの導入を検討している。差分収集したデータの提供に関しては、ウェブアーカイブ閲覧用ソフトウェア“Wayback”の適用可能性について2010年度に調査を行っている。Waybackは3-1で紹介した“Wayback Machine”を、IIPCがOSS(オープンソースソフトウェア)版として改良したシステムである。差分収集データ提供機能として、変更がなかったため収集されなかったウェブページに閲覧要求がなされた際、要求された日時から最も近い日時に収集されたデータを表示することができる。このようなIIPCの成果物の、NDLのウェブアーカイブへの導入にあたっては、必要に応じてIIPCと協議しながら行っていくことになるだろう。

 ウェブアーカイブを発展させるためには、技術的な面を含め、国際的な連携が不可欠である。2011年11月には、IIPCのワーキンググループ会議の開催がつくば市で予定されている(E1109 [60]参照)。さらなる連携の進展を期待したい。

関西館電子図書館課:中島美奈(なかじま みな)

 

(1) Guy, Marieke. “What’s the average lifespan of a Web page?”. JISC-PoWR. 2009-08-12.
http://jiscpowr.jiscinvolve.org/wp/2009/08/12/whats-the-average-lifespan-of-a-web-page/ [61], (accessed 2010-11-11).

(2) 代表的なもののリストが下記のウェブページにある。
“Member Archives”. international internet preservation consortium.
http://netpreserve.org/about/archiveList.php [62], (accessed 2010-11-11).

(3) “Internet Archive Forums: View Post”. Internet Archive. 2007-06-25.
http://www.archive.org/post/121377/internet-archive-officially-a-library [63], (accessed 2010-11-11).

(4) “Member Archives”. international internet preservation consortium.
http://netpreserve.org/about/archiveList.php [62], (accessed 2010-11-11).

(5) Archive-It.
http://www.archive-it.org/ [64], (accessed 2010-11-11).

(6) “Partners”. Archive-It.
http://www.archive-it.org/public/partners.html [65], (accessed 2010-11-11).

(7)“Web Archiving”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/webarchiving/index.html [66], (accessed 2010-11-11).

(8) “K-12 Web Archiving”. Archive-It.
http://www.archive-it.org/k12/ [67], (accessed 2010-11-11).

(9). “COI - Appendix A UK Government Web Archive”. The Central Office of Information.
http://coi.gov.uk/guidance.php?page=245 [68], (accessed 2010-11-11).

(10) “Web continuity”. The National Archives.
http://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/policies/web-continuity.htm [69], (accessed 2010-11-11).

(11) “UK Web Archive: About”. UK Web Archive.
http://www.webarchive.org.uk/ukwa/info/about [70], (accessed 2010-11-11).

(12) Web Curator Tool.
http://webcurator.sourceforge.net/ [71], (accessed 2010-11-11).

(13) Hockx-Yu, Helen et al. “Capturing and Replaying Streaming Media in a Web Archive – A British Library Case Study”. iPRES 2010.
http://www.ifs.tuwien.ac.at/dp/ipres2010/papers/hockxyu-44.pdf [72], (accessed 2010-11-11).

(14) Jaksta. http://www.jaksta.com/ [73], (accessed 2010-11-11).

(15) “Members ”. international internet preservation consortium.
http://netpreserve.org/about/memberList.php [74], (accessed 2010-11-11).

(16) Sanderson, Robert et al. “Memento: Integrating the Past and Current Web”. international internet preservation consortium.
http://netpreserve.org/events/2010GApresentations/memento_pres_opt.pdf [75], (accessed 2010-11-11).

(17) Hockx-Yu, Helen et al. “Access Working Group – Final Report of Activities”. international internet preservation consortium.
http://netpreserve.org/events/2010GApresentations/03a_IIPC_AWG_FinalReport_SingaporeGA.pdf [76], (accessed 2010-11-11).

 

Ref:

柊和佑ほか. 特集, Webアーカイビングの現状と課題: 世界のWebアーカイブ-IIPC(International Internet Preservation Consortium)を中心にして. 情報の科学と技術. 2008, 58(8), p. 389-393.

武田和也. 特集, Webアーカイビングの現状と課題: 海外動向との対比からみた日本のWebアーカイビングの課題と展望―国立国会図書館の取り組みを通して―. 情報の科学と技術. 2008, 58(8), p. 394-400.

 


中島美奈. ウェブアーカイブの課題と海外の取組み. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1733, p. 12-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1733 [77]

  • 参照(14581)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
ウェブアーカイブ [78]
米国 [54]
英国 [26]
国立図書館 [38]
議会図書館 [79]
BL(英国図書館) [80]
LC(米国議会図書館) [81]
Internet Archive [82]
IIPC [83]

CA1734 - 研究文献レビュー:蔵書構成 / 安井一徳

PDFファイルはこちら [84]

カレントアウェアネス
No.306 2010年12月20日

 

CA1734

研究文献レビュー

 

蔵書構成

 

1. はじめに

 今回の研究文献レビューにあたり、はじめに、簡単な定義、対象範囲の設定、最近のレビューの確認をしておきたい。

 

1.1. 「蔵書構成」の定義

 『図書館情報学用語辞典 第三版』には、「蔵書構成」は「図書館蔵書が図書館のサービス目的を実現する構造となるように、資料を選択、収集して、計画的組織的に蔵書を形成、維持、発展させていく意図的なプロセス」(1)とある。「蔵書」の「構成」というと静態的な響きがするが、収集によって資料が増え、除籍によって資料が減り、その前後で蔵書としての一体性を保つ、その有機体的かつ動態的なプロセスが蔵書構成なのだということを、この記述は示している。その過程に「計画的組織的な意図」が介在することによって、単なる資料の集合と「蔵書」は区別されることになる。より細かく見れば、すべての資料を収集することは現実的に不可能である以上、「計画的組織的な意図」に基づいて選択するために、「収集方針」が必要になる。それを受けて個々のレベルでの「資料選択(選書)(2)」がなされる。その結果できた蔵書の性質を把握するために、「蔵書評価」を行うことになる。そうした調査結果も踏まえつつ、収集方針の裏面としての「除籍」基準に従い、一部の資料は除かれる。この一連の流れは、すべて「蔵書構成」の一環として把握できる(3)。

 

1.2. 文献レビューの対象

 通常、本誌の研究文献レビューでは、国内の「研究」文献を対象としている。だが関連文献の多くは事例報告であり、その中にも研究と言える分析が見られることから、今回は対象を広めに取った。図書館の館種についても特に限定していないが、結果として公共、大学、学校図書館が中心となっている。さらに1.1.のように考える以上、本レビューの対象とすべき文献には、蔵書構成についての個別テーマを扱ったものもできるだけ含むのが適当である。そこで今回は対象として、原則として2005年以降で、タイトルや論題名、件名に次の用語のいずれかを含む国内文献を、NDL-OPACの「書誌 一般検索」及び「雑誌記事索引」で検索した結果を用いた。

  • タイトル、論題名
    蔵書構成、蔵書構築、コレクション構築、コレクション形成、収集方針、収集基準、図書選択、資料選択、選書、蔵書評価、コレクション評価、除籍
  • 件名(NDLSH)
    資料収集(図書館)、図書選択

 今回の問題意識から明らかに外れるものを除くと、図書が15件、雑誌記事が91件(ただし、簡易な報告等も含む)あり、以下のレビューの中核をなしている。合わせて、必要に応じて2005年以前の文献、内容の一部に当該テーマを含む文献、インターネット上の文献も適宜採り上げている。なお、納本、地域資料、分担収集については、紙幅の都合もあり対象外とした。

 

1.3. 最近のレビュー

 本稿で対象とする2005年以降に出た先行レビューについて、事前に確認しておこう。公共図書館については、山本(4)が2001年から2009年にかけての蔵書構成(実質的には資料選択)論を対象とし、①ベストセラーの複本購入、②目標・対象を設定する戦略的蔵書構成、③選書ツアー、という3点(をめぐる論争)を中心に整理を行っている。なお選書ツアーとは、図書館の利用者が書店等に赴き選書業務に参加する一種のイベントである。また厳密にはレビューでないが、安井(5)も、1990年代から2000年代初頭にかけての資料選択論を多数引用して類型化を試みている。大学図書館では、米澤(CA1668 [85]参照)が2005年から2008年を対象に、学習支援のためのコレクション形成という観点からレビューしている。今田(CA1660 [86]参照)は看護図書館の蔵書構成について、1990年代後半から2000年代前半を対象に文献を紹介している。また蔵書評価の領域では、岸田(6)が1980年代以降の国内外文献を中心に、主な評価方法別に詳細なレビューと整理を行っている。

 

2. 動向の概観

 個別の文献を紹介していく前に、全体的な動向について確認しておきたい。特徴的な点として、3つ挙げられる。

 

2.1. 雑誌での特集が多いこと

 2005年以降、蔵書構成に関する特集が図書館関係誌上で何度も組まれている。特集のうち主なものを挙げれば、以下のとおりである。

  • 特集, 蔵書構築. 病院図書館. 2005, 25(1-2).
  • 特集, 選書が変われば、図書館が変わる. みんなの図書館. 2006, (350).
  • 特集, 本をえらぶ. 子どもと読書. 2006, (360).
  • 特集, 選書の現場から. 図書館雑誌. 2007, 101(6).
  • 特集, コレクションの構築と運営. 情報の科学と技術. 2007, 57(12).
  • 特集, 図書資料の選択. 学校図書館. 2008, (698).
  • 特集, この人に聞きたい―選書論. みんなの図書館. 2009, (388).
  • 小特集, 選書. 大学図書館研究. 2010, (88).

 参考までにそれ以前に目を遣ると、『みんなの図書館』では2002年、2003年にも選書の特集が組まれている一方、『図書館雑誌』での前回の特集は8年前の1999年である。間隔にばらつきはあるものの、少なくとも蔵書構成というテーマは現在でも重視されていると言えよう。各図書館関係団体が行っている年次集会等でも、蔵書構成を扱う分科会がしばしば設置されている(7)。

 

2.2. 雑誌記事の多くが資料選択を主とした事例報告であること

 2.1.で挙げた特集タイトルからもわかるとおり、蔵書構成プロセスの各段階の中でも、とりわけ資料選択を中心とした雑誌記事が多い。また、詳しくは以下で確認していくことになるが、そうした文章の多くは事例に基づいた報告である。このことは、多くの図書館員にとって、資料選択という業務が重要な位置を占めていること、そして他館の事例を参考にしたいという顕在的・潜在的な要望を持っていることの反映であろう。だが、先に述べたように、資料選択はそれだけで独立した業務ではなく、他の各業務と有機的に関連して蔵書構成を形作る要素の一つである。この点、資料選択と他業務との関連を意識した文献が増えてきていることも補足しておきたい。

 

2.3. 包括的に蔵書構成を扱った図書が見あたらないこと

 雑誌記事に事例報告が多いならば、図書は一体どうであろうか。長谷川(CA1662 [87]参照)が指摘しているように、冊子体の書物が統合の隠喩と見なされてきたとすれば、雑誌文献がある程度限定された分野を扱うのに対して、図書形態ではそういった各々の要素を統合した包括的な文献が中心を占めるべきということになる。確認してみると、図書は大きく2つのグループに分かれる。1つは個々の段階に注目した研究文献で、もう1つはプロセス全体を俯瞰的にとらえたマニュアルやテキストである。前者は以下で採り上げていくとして、後者の具体例を挙げれば、学校図書館での収集方針や選定会議の運営方法を扱ったマニュアル(8)や、司書課程における図書館資料論のテキストがある(9)。これらの文献は実務や学習の目的に合致するよう書かれており、性質上どうしても入門的な記述になってしまう。一方、個々の段階を扱った研究文献でも、蔵書構成の包括的考察までなされているものは見当たらない。結局、蔵書構成の「基本書」を志向する図書が出ていないのである。こうして見ると、今でも多数の文献が、河井弘志の『新版 蔵書構成と図書選択』(1992年)(10)や、三浦逸雄・根本彰の『コレクションの形成と管理』(1993年)(11)を議論の拠り所としていることは示唆的である。

 

3. 文献の整理:プロセスに注目して

 では個別文献のレビューに入ろう。1.1.で述べたように、蔵書構成という概念には様々な段階が含まれているため、それに沿った形で進めていきたい。もちろん複数の段階に跨る文献もあるが、主たる内容によって適宜整理したことを予め断っておく。

 

3.1. 蔵書構成の全体的プロセス

 すでに述べたように、蔵書構成を包括的に扱った文献は見当たらないものの、実務の側面から一連の流れを辿った報告が大学図書館を中心に出てきている。三谷(12)は学部新設に伴う図書館創設事例を報告しているが、収集方針、資料選択、蔵書評価、除籍、さらには予算の問題まで1つのサイクルとして簡潔にまとめており、内容だけでなく、その「語り方」も極めて参考になる。また山田(13)、山室(14)も、各業務の関連に配慮した報告を行っている。歴史的研究としては、高野(15)が(東京)帝国大学図書館の蔵書構成プロセスを総体的に考察している。

 

3.2. 収集方針と資料選択

 両者を一体的に扱った文献が多いため、まとめて紹介することとする。全体数が多いので、理論的アプローチと実践的アプローチに分けて確認していきたい。

 

3.2.1. 理論的アプローチ

 公共図書館における収集方針と資料選択の全体的な概説としては、根本(16)のものが簡潔にまとまっている。根本は、図書館を「知識情報管理の責任を負った公共施設」として位置付け、それを担保する収集方針の重要性を指摘している。安井(17) (18)や新(19)は、旧来の「価値論/要求論」という図式の問い直しを主張し、公開性を重視したが、実践には役立たないという加藤(20)による批判もある。大学図書館については、収集方針の比較研究(21)はあるものの、理論的な考察はないようだ。事例研究に優れたものが多いにもかかわらず、理論的な研究が見られない一因には、各機関の性格の違いの大きさに伴う一般化の困難もあるのだろう。学校図書館については、ツール紹介型の概説(22)や理念的概説(23)がある。

 理論史的な文献としては、新藤(24) (25) (26)の成果に注目したい。従来、価値論一辺倒の資料選択論が戦前期においては圧倒的だったとされてきたが、新藤は明治期から昭和前期に著された資料選択論を丹念に調査し、それらが一面的なイメージであり、実際には要求に配慮した議論が多いことを明らかにした。このイメージのずれは、こうした議論が当時どの程度受容されたのかという、さらなる関心を抱かせる。

 欧米の理論や事例の紹介としては、公共図書館と大学図書館を主に扱った河井(27)の浩瀚な論考がある。1970年代の雑誌論文等をまとめたものではあるが、理論的な部分は未だに十分示唆に富む。医学図書館については、米国国立医学図書館のコレクション構築マニュアルが翻訳されており(28)、学校図書館の分野でも米国の収集方針の紹介がなされている(29)。

 また、理論的研究とは若干異なるが、資料選択の担当者としての心構えを説く文献の多さが目を引く(30) (31) (32)。この現象は、資料選択が一種の「道」として認識されていることを示していると言えよう。代表的な文献としては明定(33) (34)のものが挙げられる。明定は、資料選択を予想に基づく「仮説―実験」モデルとしてとらえ、その結果として「偏ったコレクション」になることを恐れるべきでないと強調している。

 

3.2.2. 実践的アプローチ

 公共図書館については、1.3.で触れた山本(4)の整理を念頭に置くと、トピックの盛衰が鮮明にわかる。まず、特定の目的に向けた戦略的な資料選択論は引き続き活況と言ってよい。代表的な論者は豊田(35) (36) (37)で、明定の「仮説―実験」モデルを援用しつつ、ビジネス支援サービスを主たる対象として、「要求を掘り起こす選書」を提唱している。これは従来の資料選択論における「潜在的要求」や「ニーズ」に対応するものと言える。他にも県立と市立の違いに着目したもの(38)や、ヤングアダルト(YA)向け資料(39)、看護資料に着目したもの(40)がある。また児童書の選択は、従来から議論の活発な領域である(41) (42)。

 選書ツアーについては、安井(43) (44)、田井(45)の総括的な論考が出た後、特に文献は見当たらない。図書館界で議論が起こった際の反応の過剰さを両者とも指摘しているが、田井は選書ツアー自体にも厳しい批判を加えている。複本に関しても主題的に扱った論考は見当たらず、加藤ら(46)による実態調査が見られる程度である。おおよそ2004年の貸出実態調査(47)をもって、議論は表面的には収まったと言えよう。その他、県立(48)、市立(49)の事例報告やアンケート調査(50)が見られる中で、指定管理者の立場から収集方針策定と資料選択を行った事例として、小川(51)の報告が注目される。

 大学図書館については、資料選択者の問題、すなわち教員と図書館員のどちらが資料選択をするのか、という議論が以前から存在している。丹羽(52)や井上(53)は、①予算を研究用と教育用に分離すること、②教育用予算による資料選択は図書館員が行うこと、を明快に主張しており目を引く。浅野(54)も同様の議論をしているほか、事例報告(55)もある。また派生形として、教員がアドバイザーとして教育用資料の資料選択に関与するケース(56)も見られる。新藤(57)は選択権限の問題とも絡めて、収書方針と資料選択方針の策定について報告を行っている。教員側からの論考は少なく、ほぼ唯一のものとして由谷(58) (59)による極めて具体的な報告がある。同じく資料選択者の問題として、学生対象の選書ツアーの事例報告(60) (61) (62)が目立つのは、公共図書館と対照的である。2009年にアンケート調査を行った福岡(63)の報告によれば、100校以上がすでに選書ツアー(学生選書)を行っている。その他では医療系の事例報告(64) (65) (66) (67) (68)の多さが目立つ。資料の特殊性など、分野特有の事情がうかがえる。

 学校図書館については、多くの文献が児童生徒向けの観点からの報告(69) (70) (71)になっている。そうした中で、内海(72)が教員支援を目的とした資料選択について紹介しているほか、高橋(73)は教員による選書会議の運営事例を報告しており、大学図書館での議論に接近しているのが興味深い。

 

3.3. 蔵書評価

 総合的な図書館評価の一部として蔵書評価を論じた文献は、紙幅の関係もあり今回対象外とした。その代わりに、蔵書構成の観点から行われた、蔵書に対する各種の数量的調査はここに含めている。公共図書館に関するものでは池内ら(74)の調査が目を引く。これは全国の公共図書館における日本十進分類法(NDC)別の蔵書構成比を調査・分析したもので、規模別の傾向や出版時の構成比との差を明らかにした。全国規模でのこうした調査は前例がなく、さらなる分析と考察が期待される。対象を絞ったものとしては、NDC9類(文学)に着目した評価(75)や、絶版本の所蔵状況調査(76)がある。また、大場(77) (78) (79)は社会的争点となっている分野の資料の所蔵調査などを通して、資料選択における理念と実際に選択された資料の実態との間の「ずれ」を指摘している。

 大学図書館では、小泉(80) (81) (82) (83)の研究に注目したい。小泉は方法論の検討を踏まえつつ、「選書者」に着目して、図書館員による資料選択と教員による資料選択の性質の違いを定量的に示した。これは3.2.2.で紹介した議論にも資するものである。小山(84)も方法論を意識した評価を行っているほか、学術雑誌の評価(85)が特有の問題となっており、Journal Citation Reports(JCR)を使用した事例(86) (87)が目立つ。豊田ら(88)は、蔵書の特性を「コア・コンピタンス」として位置付ける視点を表明している。

 学校図書館については、上道(89)による、京都府私立学校図書館の蔵書構成と「学校図書館メディア基準」(90)との比較が、ほぼ唯一の文献である。

 また、国立国会図書館所蔵の洋図書を対象とした事例(91)があるが、レビューや概説も充実しており、他館種にとっても有益だろう。

 

3.4. 除籍

 図書館における除籍を主題的に扱った文献は少数で、他のプロセス、また文書館等の他領域(92)に比べると、それほど注目されていないと言える。多くは資料選択の議論に付随して取り上げられているが、鈴木(93)は、企業図書館の移転に伴う大規模事例を詳細に報告しており、貴重である。また毛利(94)は主題分野の特性と関連させて語っている。そうした中で、2002年に発覚した船橋市西図書館蔵書廃棄事件は、皮肉な形で「除籍」という作業の帯びる意味に注目を集めさせることとなった。本事件は図書館員が所蔵資料のうち特定著者のタイトルを集中的に廃棄したというもので、最高裁判決が2005年に出た後、総括的な論考がいくつか出ている(95)。蔵書構成の文脈からこの問題を扱ったものとしては、瀬島(96)や安光(97)の論考が注目される。両者とも、最高裁判決の求めた公正な資料の取扱を実現する上で、除籍基準の策定及び公開が必要であると主張している。また同様の問題意識から、蔵書構成と図書館の自由との関連において事件を考えたもの(98) (99)も見られる。

 

4. 新しい研究動向

 3.で取り上げたようなオーソドックスなアプローチとは少し違った形で、蔵書構成を扱う論考も近年散見される。そこで、上記で紹介できなかった文献を取り上げつつ、今後のさらなる展開が期待される領域を、筆者の私見で3つ挙げておく。

 

4.1. 電子資料への対置としての、「棚」としての蔵書

 最近の電子資料の隆盛は、「蔵書構成」という概念(そもそも「蔵書」と呼ぶのが適切かも含めて)にも影響を及ぼしている。大学図書館を中心に、電子資料(特に電子ジャーナル)から蔵書構成を論じた文献(100) (101) (102)はあるものの、これまで見てきた文献の大多数は、明示的にも黙示的にも冊子体の資料を想定している。ほとんどの公共図書館や学校図書館ではそもそも電子書籍を導入していない、というのが主たる理由であろう。

 一方その裏返しとして、物理的実体としての蔵書、いわば「棚」の意味が再認識されてきているように見える。テレビの登場によってラジオの特性が再認識されたようなものとも言えよう。こうした問題意識自体は、直観的にさまざまな文献に表出されているが、それを研究の形に昇華させたものはまだ少ない。北岡(103) (104)は建築計画の観点から、書店での配架も参考にして、棚の配置と蔵書構成を結びつけて考察しており興味深い。また書店を対象とするものではあるが、柴野(105)は書棚の機能を社会科学的な観点から理論的に考察している。福嶋(106) (107)も書店員の立場から、こうした問題を図書館に絡めつつ論じている。こうした動向はより広くとらえれば、「場所としての図書館」 (CA1580 [88]参照)を強調する流れとも呼応している。

 

4.2. 資料選択業務の相対化

 純粋に理念的に考えれば、すべての資料が資料選択の対象となり、その基準は「計画的組織的な意図」に基づいているはずである。しかし、現実の業務がその通りになされているかという疑問は当然残る。3.3.で述べた調査の一部には、こういった観点も含まれていよう。大場(108)は上述の研究以外にも、市町村立図書館における新聞・雑誌の所蔵状況を調査し、一般的にはそれほど重視されていないと思われる「創刊年の古さ」が所蔵状況と強い相関を持つことを指摘した。このように必ずしも意図されない要因の指摘がある一方で、そもそも図書館が選択を行う場面において、どれだけの範囲の資料を対象にできているのか、に注目する研究も出てきている。木下ら(109)は、公共図書館における資料選択以前の段階での、図書館流通センター(TRC)による事前的な選定の実態を分析している。また片山(110)は学校図書館と児童書出版社の関係に注目し、図書館に対する出版社の販売戦略を考察している。電子資料におけるパッケージ化の問題(個々のタイトルを選べない、または選ばなくてよい)も、この論点に関係してくるだろう。

 

4.3. 蔵書構成の考古学

 蔵書評価の主目的は、端的には、蔵書構成プロセス、引いては図書館サービスの改善に資することである。その問題意識を部分的には共有しつつも、河村(111) (112) (113)は、東京帝国大学内の図書室の蔵書構成を分析対象として、外部環境が蔵書構成にどのような影響を与えたか、さらには図書館の位置付けがどう変化したかについて考察している。ある時点での蔵書という「過去の痕跡」から、その当時の実態を浮かび上がらせようという試みであり、いわば蔵書構成の考古学とも呼べるものだろう。和田(114) (115)による在米日本語資料の蔵書を対象にした「リテラシー史」研究や、高倉(116)による近世個人文庫の蔵書構成の研究も、この領域に関連付けられる。蔵書構成において「意図」に収まりきらない部分を考察対象に含めるという点で、こうした研究と、4.2.で取り上げた研究は親和性を持っている。

 

5. おわりに

 冒頭に述べたように、蔵書構成は「計画的組織的な意図」に基づくプロセスだが、予算、場所、権限といったさまざまな制約が存在する。極めて粗い見立てをすれば、3.で取り上げた文献は、そうした制約の中で意図をいかに反映させるかという目的意識を主としている。一方、4.(特に4.2.)で取り上げた文献は、そうした目的意識のもとでもなお、その外部に制約が存在してしまう点に注意を促すものと言えよう。では、両者は相容れないかと言うと、決してそうではない。4.に共通しているのは、それでもなお帯びる制約を少なくとも意識化し、時にはそこに意味さえ見出そうとする視点である。例えば「棚」を重視する議論は、物理的制約とも言える冊子体のボリュームがむしろ利用者に働きかける局面を切り出している。制約を無化できなくとも、それを意識化し、場合によっては積極的に意味付けることもできるのだ。こうした視点は、理論的研究や歴史的研究と、実務的関心とを架橋するものともなろう。

 まとまりのないレビューになってしまったのは、筆者の力不足によるところである。関心のある向きは、ぜひ各紹介文献に当たられたい。

収集書誌部収集・書誌調整課:安井一徳(やすい かずのり)

 

(1) “蔵書構成”. 図書館情報学用語辞典. 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編. 第3版, 丸善, 2007, p. 138.

(2) 以下、基本的に「資料選択」という語を用いているが、引用元に合わせ「選書」とした箇所もある。本稿では同じ意味で用いている。

(3) 実際にはさらに細かい把握もできる。代表的なサイクルとしては、蔵書構成方針→選択・収集→利用→評価→不要資料選択→資料保存→蔵書構成方針→…というものがある。しかしこれらの要素をすべて扱うことは筆者の力量を超えるため、本文のとおりとした。
根本彰. “収集と蔵書構成”. 図書館情報学ハンドブック. 第2版, 丸善, 1999, p. 747-753.

(4) 山本昭和. 特集, 図書館・図書館学の発展 : 21世紀初頭の図書館: 図書館資料の収集と選択 : 公立図書館蔵書構成論の理論的発展. 図書館界. 2010, 61(5), p. 512-518.

(5) 安井一徳. “「無料貸本屋」論”. 公共図書館の論点整理. 田村俊作ほか編. 勁草書房, 2008, p. 1-34, (図書館の現場, 7).

(6) 岸田和明. “蔵書評価とその方法”. 蔵書評価に関する調査研究. 国立国会図書館関西館事業部図書館協力課編. 2006, p. 5-15, (図書館調査研究リポート, 7).
http://current.ndl.go.jp/node/2258 [89], (参照 2010-10-12).

(7) 例としては以下の文献がある。
大場博幸. 平成19年度(第93回)全国図書館大会ハイライト : 第11分科会 出版流通研究委員会 出版界から図書館へのメッセージと蔵書構成. 図書館雑誌. 2008, 102(1), p. 25.
特集, 図書館問題研究会 第56回全国大会の記録: 第6分科会 今、改めて「選書」を考える. みんなの図書館. 2009, (391), p. 34-36.

(8) 浅井昭治. 学校図書館のための図書の選択と収集. 全国学校図書館協議会, 2005, 47p., (学校図書館入門シリーズ, 13).

(9) 2005年以降出版された主なテキストとしては以下のものがある。
伊藤民雄. 図書館資料論・専門資料論. 学文社, 2006, 193p., (図書館情報学シリーズ, 5).
中村恵信ほか編著. 資料・メディア総論. 第2版, 学芸図書, 2007, 226p.
小黒浩司編著. 図書館資料論. 新訂, 東京書籍, 2008, 231p., (新現代図書館学講座, 8).
馬場俊明編著. 図書館資料論. 日本図書館協会, 2008, 262p., (JLA図書館情報学テキストシリーズ, 2-7).
改訂版が多い中で、伊藤のテキストは最近の動向も踏まえたかなり意欲的なものとなっている。

(10) 河井弘志編. 蔵書構成と図書選択. 新版, 日本図書館協会, 1992, 283p., (図書館員選書, 4).

(11) 三浦逸雄ほか. コレクションの形成と管理. 雄山閣出版, 1993, 271p., (講座図書館の理論と実際, 2).

(12) 三谷三恵子. 看護医療学図書室における蔵書構築. 看護と情報 : 看護図書館協議会会誌. 2008, 15, p. 45-49.

(13) 山田稔. 予算・書店・選書・除籍 : 愛知淑徳大学図書館の事例. 館灯. 2009, (47), p. 76-81.

(14) 山室眞知子. 特集, 蔵書構築: 病院図書室における蔵書管理. 病院図書館. 2005, 25(1-2), p. 8-10.

(15) 高野彰. 帝国大学図書館における蔵書構築の研究. ゆまに書房, 2005, 54p.

(16) 根本彰. 特集, これからの図書館: 図書館の役割と選書. 地方自治職員研修. 2009, 42(3), p. 37-39.

(17) 安井一徳. 特集, 選書が変われば、図書館が変わる: 図書選択をめぐる議論の再検討. みんなの図書館. 2006, (350), p. 10-16.

(18) 安井一徳. 図書館は本をどう選ぶか. 勁草書房, 2006, 164p., (図書館の現場, 5).

(19) 新出. 特集, 選書が変われば、図書館が変わる: 選書をひらく、図書館をひらく. みんなの図書館. 2006, (350), p. 17-26.

(20) 加藤ひろの. 市民に役立つ選書のために必要なのは何か. 談論風発. 2006, (2), p. 4-13.

(21) 小山美佳. “日本の大学図書館におけるコレクション形成方針の特徴”. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2009-09-26, 三田図書館・情報学会研究大会, 2009, p. 69-72.

(22) 東海林典子. 特集, 図書資料の組織化を考える: 学校図書館メディアの選択と収集. 学校図書館. 2006, (666), p. 15-18.

(23) 渡辺重夫. 特集, 図書資料の選択: 学校図書館における「選書」 : 図書資料の選択を中心に. 学校図書館. 2008, (698), p. 15-18.

(24) 新藤透. 明治期刊行の図書館学専門書にみられる選書論について. 図書館綜合研究. 2009, (8), p. 1-20.

(25) 新藤透. 大正期刊行の図書館学専門書にみられる選書論について. 米沢国語国文. 2009, (38), p. 75-99.

(26) 新藤透. 昭和初期刊行の図書館学専門書にみられる選書論について. 山形県立米沢女子短期大学紀要. 2009, (45), p. 27-48.

(27) 河井弘志. 図書選択論の視界. 日本図書館協会, 2009, 371p.

(28) 日本医学図書館協会出版委員会編. NLMコレクション構築マニュアル. 日本医学図書館協会, 2009, 115p.
また、以下の文献はその要約である。
鷹野祐子ほか. Current Practice in Health Sciences Librarianship(第9回)V4. Collection Development and Assessment in Health Sciences Libraries 変化に挑め! : コレクション構築と評価. 医学図書館. 2010, 57(2), p. 132-135.

(29) 川戸理恵子. アメリカにおける学校図書館の収集方針. 図書館学. 2007, (90), p. 47-53.

(30) 明石浩. 特集, この人に聞きたい―選書論: 小さな図書館の大きな図書館サービス : 小さな図書館が図書館であるための選書哲学. みんなの図書館. 2009, (388), p. 19-30.

(31) 鴨下万亀子. 特集, 図書資料の組織化を考える: 選書の基本は本を読むことから. 学校図書館. 2006, (666), p. 21-23.

(32) 石沢修. としょかん物見台(no.3) 図書館員の育成と選書の力を磨く. としょかん村. 2009, (3), p. 22-25.

(33) 明定義人. 特集, 選書の現場から: 生活圏の図書館における積極的な選書. 図書館雑誌. 2007, 101(6), p. 370-371.

(34) 明定義人. 特集, この人に聞きたい―選書論: 現場の選書論. みんなの図書館. 2009, (388), p. 31-38.

(35) 豊田高広. 特集, 選書が変われば、図書館が変わる: 戦略的な選書のすすめ : ビジネス支援サービスの実践から. みんなの図書館. 2006, (350), p. 27-34.

(36) 豊田高広. 特集, この人に聞きたい―選書論: 「役に立つ図書館」に求められる選書とは. みんなの図書館. 2009, (388), p. 10-18.

(37) 豊田高広. 選書から考えるこれからの図書館. 富山県図書館研究集録. 2009, (40), p. 65-82.

(38) 山重壮一. 特集, この人に聞きたい―選書論: 目的志向の選書論 : アクセントのある選書を. みんなの図書館. 2009, (388), p. 2-9.

(39) 木村晋治. 特集, 選書が変われば、図書館が変わる: ヤングアダルトコーナーの収集と配架をめぐって. みんなの図書館. 2006, (350), p. 35-46.

(40) 東野善男. 市立図書館における看護資料購入の可能性. 看護と情報 : 看護図書館協議会会誌. 2010, 17, p. 76-79.

(41) 鵜飼利江. 特集, 本をえらぶ: 公共図書館での児童書の選書. 子どもと読書. 2006, (360), p. 12-14.

(42) 白須康子. 0~3歳児を対象とした絵本の選書 : 心理学的発達対応と形態学的発達対応. 人文研究 : 神奈川大学人文学会誌. 2006, (159), p. 59-86.

(43) 安井一徳. “「選書ツアー」はなぜ批判されたのか : 論争の分析を通して”. 日本図書館情報学会,三田図書館・情報学会合同研究大会発表要綱. 東京, 2005-10-22/23, 日本図書館情報学会, 2005, p. 27-30.

(44) 安井一徳. “選書ツアー論争”. 図書館は本をどう選ぶか. 勁草書房, 2006, p. 53-86, (図書館の現場, 5).

(45) 田井郁久雄. 「選書ツアー」の実態と「選書ツアー論議」. 図書館界. 2008, 59(5), p. 286-300.

(46) 加藤ひろの. 特集, 第50回研究大会: 中小公共図書館における蔵書構成と利用の実態について. 図書館界. 2009, 61(2), p. 130-145.

(47) 日本図書館協会ほか. 公立図書館貸出実態調査2003報告書. 2004, 64p.
http://www.jla.or.jp/kasidasi.pdf [90], (参照 2010-10-12).

(48) 真嶋朋枝. 特集, 選書の現場から: 鳥取県立図書館の選書 : 「知の地域づくり」を支える蔵書の構築を目指して. 図書館雑誌. 2007, 101(6), p. 368-369.

(49) 高松昌司. 特集, 選書の現場から: 大規模市立図書館における選書の実際 : 町田市立図書館の場合. 図書館雑誌. 2007, 101(6), p. 365-367.

(50) 鈴木佳子. 特集, 選書が変われば、図書館が変わる: アンケートから見た公共図書館の選書の現場. みんなの図書館. 2006, (350), p. 47-63.

(51) 小川俊彦. 図書館を計画する. 勁草書房, 2010, p. 179-188, (図書館の現場, 9).

(52) 丹羽展子ほか. 特集, 選書の現場から: 学習支援のための選書を目指して : 同志社大学図書館の試み. 図書館雑誌. 2007, 101(6), p. 362-364.

(53) 井上真琴. 講演 選書が拓く! 学習支援と人材育成 : 選び、結びつける技と視点. 北海道地区大学図書館職員研究集会記録. 2008, 51, p. 9-14.

(54) 浅野智美. “ICU図書館の選書基準”. 図書館の再出発 : ICU図書館の15年. 大学教育出版, 2007, p. 108-115.

(55) 上野友稔. 特集, 選書: 疑いをさしはさみうるものについて : 大学図書館における選書. 大学図書館研究. 2010, (88), p. 12-18.

(56) 澄川千賀子. 蔵書整備アドバイザー制度. 館灯. 2008, (47), p. 86-88.

(57) 新藤豊久. 特集, わが図書館のコアコンピタンス: 女子美術大学図書館における収書方針と選書方針. 大学図書館研究. 2007, (80), p. 20-32.

(58) 由谷裕哉. 図書館蔵書の構築: 小松短期大学図書館における社会学関連文献の選書を例として. 小松短期大学論集. 2006, (19), p. 43-64.

(59) 由谷裕哉. 小松短期大学図書館における言語学関連の蔵書構築. 小松短期大学論集. 2009, (21), p. 1-18.

(60) 向井岳司. 図書館友の会の記録 : 広島経済大学図書館の事例. 大学図書館研究. 2008, (83), p. 25-30.

(61) 今井和佳子. 学生による選書報告. 館灯. 2009, (47), p. 82-85.

(62) 長谷川真奈美. “事例報告「学生選書会議の設置と学生選書ツアー」”. 公立大学協会図書館協議会.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/pula/32kenshu/hasegawa.pdf [91], (参照 2010-10-12).
その他インターネット上での事例報告も多数存在する。

(63) 福岡南海子. 特集, 選書: 学生選書を通じてより良い図書館を作るために : 大阪産業大学綜合図書館「学生選書モニター」の事例報告と実施大学への調査結果. 大学図書館研究. 2010, (88), p. 1-11.

(64) 押田いく子. 特集, 蔵書構築: 大学医学図書館における選書の一例. 病院図書館. 2005, 25(1-2), p. 3-7.

(65) 佐藤道子. 特集, 総会・事例報告会(第113回研修会): 臨床研修指定病院図書館(室)の蔵書構築 : 蔵書構築研究班1年目の報告. 病院図書館. 2007, 27(2), p. 53-56.

(66) 佐藤淑子. 特集, 選書の現場から: 情報ニーズをみたす専門図書館の選書—東京女子医科大学病院「からだ情報館」. 図書館雑誌. 2007, 101(6), p. 374-375.

(67) 吉原貴子. 特集, 図書館の現場から : 図書館の抱える問題を克服するために: 新潟県立看護大学図書館における選書. 看護と情報 : 看護図書館協議会会誌. 2008, (15), p. 24-27.

(68) 中尾明子ほか. 第36回研究会グループワークB:蔵書構成・予算. 看護と情報 : 看護図書館協議会会誌. 2008, (15), p. 110-111.

(69) 石井啓子. 特集, 本をえらぶ: 東京大田区の学校図書予算と選書について : 高額予算が付きました. 子どもと読書. 2006, (360), p. 9-11.

(70) 細谷もと美. 特集, 図書資料の組織化を考える: 魅力的な図書を選ぶために. 学校図書館. 2006, (666), p. 24-28.

(71) 鈴木知基. 特集, 選書の現場から: 小学校図書館における共同選書の試み. 図書館雑誌. 2007, 101(6), p. 372-373.

(72) 内海淳. 特集, 教職員への情報サービス: 教職員への情報サービスに向けた学校図書館の選書. 学校図書館. 2008, (690), p. 46-48.

(73) 高橋知尚. 特集, 図書資料の組織化を考える: 「選書会議」でバランスの良い選書を. 学校図書館. 2006, (666), p. 29-33.

(74) 池内淳ほか. “公立図書館の蔵書構成比と貸出規則に関する実態調査”. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2009-09-26, 三田図書館・情報学会研究大会, 2009, p. 29-32.

(75) 神奈川県図書館協会蔵書評価特別委員会編. 公共図書館とコンスペクタスの可能性: 蔵書評価特別委員会報告書. 神奈川県図書館協会, 2005, 20p.

(76) 原田隆史ほか. “公共図書館における絶版本の所蔵”. 第56回日本図書館情報学会研究大会発表要綱. 奈良, 2008-11-15/16, 日本図書館情報学会, 2008, p. 69-72.

(77) 大場博幸. “所蔵に影響する要素 : 市町村立図書館における新書の選択”. 日本図書館情報学会,三田図書館・情報学会合同研究大会発表要綱. 東京, 2005-10-22/23, 日本図書館情報学会, 2005, p. 23-26.

(78) 大場博幸. “所蔵における公平 : 「郵政民営化」を主題とする本の所蔵”. 第54回日本図書館情報学会研究大会発表要綱. 北九州, 2006-10-21/22, 日本図書館情報学会, 2006, p. 39-42.

(79) 大場博幸. “所蔵における公平 : 公立図書館における「靖国神社」を主題とする本の所蔵”. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2006-11-11, 三田図書館・情報学会研究大会, 2006, p. 65-68.

(80) 小泉公乃. “多角的な観点を導入した蔵書評価による大学図書館員と教員の選書の比較”. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2007-11-10, 三田図書館・情報学会研究大会, 2007, p. 1-4.

(81) 小泉公乃. “蔵書評価に用いるチェックリストの比較”. 2008年日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱. 東京, 2008-03-29, 日本図書館情報学会, 2008, p. 123-126.

(82) 小泉公乃. 蔵書評価法からみた図書館員と教員の選書 : 慶應義塾大学三田メディアセンターの事例分析. Library and Information Science. 2010, (63), p. 41-59.

(83) 小泉の協力のもとに行われた調査としては、以下のものがある。
山中みどりほか. 理工学メディアセンターの蔵書評価. Medianet. 2009, (16), p. 56-59.
http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/pdf/01600560.pdf [92], (参照 2010-10-12).

(84) 小山美佳. “大学図書館におけるコレクション評価の試み”. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 東京, 2008-09-27, 三田図書館・情報学会研究大会, 2008, p. 65-68.

(85) 若杉亜矢. 特集, 蔵書構築: 所蔵雑誌の評価. 病院図書館. 2005, 25(1-2), p. 11-13.

(86) 広瀬容子ほか. 特集, 図書館・情報活動と<評価>: 引用データを用いたジャーナルコレクション評価の手法. 情報の科学と技術. 2007, 57(8), p. 396-403.

(87) 渡邊愛子. 2ステップマップによる農学系購入雑誌の評価. 大学図書館研究. 2006, (78), p. 76-84.

(88) 豊田裕昭ほか. 特集, わが図書館のコアコンピタンス: 一橋大学附属図書館の蔵書管理とその利用 : 大学図書館ランキングにみるコア・コンピタンス. 大学図書館研究. 2007, (80), p. 1-10.
一橋大学附属図書館の蔵書については以下も参照。
飯島朋子. 特集, コレクションの構築と運営: 社会科学の総合大学〈一橋大学〉の蔵書コレクション構築の概要. 情報の科学と技術. 2007, 57(12), p. 581-584.

(89) 上道葉麻美. データからみる学校図書館の現状 : 京都府私立学校図書館の蔵書構成を中心に.佛教大学教育学部学会紀要. 2005, (4), p. 113-122.

(90) “学校図書館メディア基準”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/kijun/post-37.html [93], (参照 2010-10-12).

(91) 国立国会図書館関西館事業部図書館協力課編. 蔵書評価に関する調査研究. 2006, 144p. , (図書館調査研究リポート, 7).
http://current.ndl.go.jp/report/no7 [94], (参照 2010-10-12).

(92) 例えば、以下の文献がある。
中島康比古. 特集, 資料・データを捨てる: 総論 : 情報を捨てる。情報を残す。 : アーカイブズの評価選別論の視点から. 情報の科学と技術. 2006, 56(12), p. 554-558.

(93) 鈴木克彦. 特集, 資料・データを捨てる: 企業図書館における図書廃棄基準とその事例.情報の科学と技術. 2006, 56(12), p. 569-573.

(94) 毛利和弘. 分野別資料の特性と除籍・保存・管理・提供の戦略. 短期大学図書館研究. 2009, (29), p. 55-61.

(95) 例えば判例紹介としては以下の文献がある。
竹田稔. 判例紹介/「公立図書館職員による蔵書除籍・廃棄事件」最高裁判決(平成17.7.14). コピライト. 2005, 45(536), p. 32-35.
また、以下の文献は関連文献や新聞記事をまとめている。特集, 船橋西図書館の蔵書廃棄事件を考える. ず・ぼん. 2005, (11), p. 90-127.

(96) 瀬島健二郎. 船橋市西図書館蔵書除籍事件の最高裁判決の意義と課題. 文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究. 2008, (16), p. 153-162.

(97) 安光裕子. 公立図書館における所蔵資料の除籍・廃棄に関する一考察 : 廃棄をめぐる判例を契機として. 図書館学. 2009, (94), p. 12-24.

(98) 山家篤夫. 特集, 学校図書館問題研究会第4回研究集会 「図書館の自由」の視点から、選書を考えよう! : 講演 なぜ、「図書館の自由」か. 学校図書館問題研究会研究集会. 2006, (4), p. 1-22.

(99) 馬場俊明. 船橋市西図書館蔵書廃棄事件と図書館裁判を総括する 思想の寛容がなければ図書館の自由は守れない. ず・ぼん. 2006, (12), p. 128-163.

(100) 宮入暁子. 特集, メディアセンターにおけるリスクマネジメント: 有効な洋雑誌コレクション構築の危機. Medianet. 2005, (12), p. 32-33.
http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/pdf/01200320.pdf [95], (参照 2010-10-12).

(101) 今野穂. 平成20年度日本薬学図書館協議会中堅職員研修会 : 電子ジャーナルによる国外学術雑誌整備 : 札幌医科大学の事例から. 薬学図書館. 2008, 53(4), p. 316-322.

(102) 松本淳ほか. 学術情報をめぐる変化に対応した効果的な図書予算の執行方法の策定. 大学行政研究. 2008, (3), p. 105-118.

(103) 北岡敏郎. ポピュラーライブラリーエリア創出の可能性 : 地域公共図書館における開架フロアのゾーニング手法に関する研究(1). 日本建築学会計画系論文集. 2009, 73(626), p. 751-756.

(104) 北岡敏郎. ポピュラーライブラリーエリアの形成と資料構成案 : 地域公共図書館における開架フロアのゾーニング手法に関する研究(2). 日本建築学会計画系論文集. 2009, 74(638), p. 751-760.

(105) 柴野京子. 書棚と平台 : 出版流通というメディア. 弘文堂, 2009, 236p.

(106) 福嶋聡. 希望の書店論. 人文書院, 2007, 217p.

(107) 福嶋聡. 特集, 分類をみつめなおす: 「分類」と「進化」. 情報の科学と技術. 2008, 58(2), p. 71-77.

(108) 大場博幸. 暗黙の選択基準 : 市町村立図書館における新聞・雑誌所蔵. Library and Information Science. 2004, (52), p. 44-86.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/mslis/pdf/LIS52043.pdf [96], (参照 2010-10-12).

(109) 木下朋美ほか. “公共図書館の選書における事前選定の実態分析―図書館流通センターとの関係を通して―”. 2010-07-03.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/handle/2241/105652 [97], (参照 2010-10-12).

(110) 片山ふみ. 研究・実践情報 国内 児童書出版社にとっての学校図書館. 学校図書館学研究. 2007, (9), p. 33-42.

(111) 河村俊太郎. “蔵書構成の分析による東京帝国大学心理学研究室図書室の歴史的研究”. 2007年日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱. 大阪, 2007-03-31, 日本図書館情報学会, 2007, p. 7-10.

(112) 河村俊太郎. 蔵書構成の分析から見た東京帝国大学文学部心理学研究室図書室の研究補助機能. 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(4), p. 223-240.

(113) 河村俊太郎. “蔵書構成からみる東京帝国大学経済学部図書室の運営に関する歴史的研究”. 第57回日本図書館情報学会研究大会発表要綱. 東京, 2009-10-31/11-01, 日本図書館情報学会, 2009, p. 89-92.

(114) 和田敦彦. 書物の日米関係 : リテラシー史に向けて. 新曜社, 2007, 406p.

(115) 和田敦彦. “日米関係史の中の図書館”. 図書館・アーカイブズとは何か. 藤原書店, 2008, p. 204-209, (別冊『環』, 15).

(116) 高倉一紀. 射和文庫の蔵書構築と納本 : 近世蒐書文化論の試み(1). 図書館文化史研究. 2007, (24), p. 37-74.

 


安井一徳. 蔵書構成. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1734, p. 16-22.
http://current.ndl.go.jp/ca1734 [98]

  • 参照(16711)
カレントアウェアネス [8]
研究文献レビュー [99]
蔵書構築 [100]
日本 [10]

No.305 (CA1723-CA1728) 2010.09.20

  • 参照(13497)

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CA1723 - 国内の公共図書館における法情報提供サービス / 日置将之

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カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日

 

CA1723

 

国内の公共図書館における法情報提供サービス

 

1. はじめに

 1999年以降、国民にとって「より身近で、速くて、頼りがいのある」司法の実現を目的とした、司法制度改革が推し進められてきた(1)。この改革によって、2004年に法科大学院、2006年に日本司法支援センター(以下、「法テラス」)が設置されたほか、2009年には裁判員制度がスタートするなど、司法制度は大きく変化している。

 このような状況の中、公共図書館についても、法情報のアクセス拠点としての役割が期待されており(2)、議論が活発になっている(3)。また、すでに一部の公共図書館では、法情報の提供を課題解決型サービスの一種に位置づけ、積極的に取り組んでいる。そこで本稿では、徐々に取り組みが広がりつつある公共図書館における法情報の提供について、その主要な事例を紹介した上で、今後法情報の提供に取り組んでいく図書館にとっての課題等について述べる。

 

2. 都道府県立図書館の事例

 都道府県立図書館では、東京都立中央図書館、鳥取県立図書館、神奈川県立図書館の3館が、ほぼ同時期に積極的な取り組みを開始している。以下、各館の取り組み内容を簡単に紹介する。

 東京都立中央図書館では、2006年7月に「法律情報サービス」を開始している(4)。具体的には、法律関係の図書や雑誌、法令集等の資料を集めた「法律情報コーナー」の設置や、専用Webページの開設のほか、関係機関の情報提供や弁護士・司法書士等による無料法律相談会を行っている。また、期間限定の試験的な取り組みであったが、法テラスの専用端末(法テラス.net)の設置も行っていた(5)。

 鳥取県立図書館では、2006年4月に「法情報サービス」を開始している(6)。同館でも、専用Webページの開設、関係機関の情報提供、無料法律相談会等を行っているほか、館内の法律関係資料の配置がわかる「法情報検索マップ」を作成している(7)。また同館では、鳥取県内の地方裁判所、弁護士会、法務局等からなるサービスの検討委員会である「法情報サービス委員会」(8)を設置しており、関係機関との連携も積極的に行っている。

 神奈川県立図書館では、1997年から「法令・判例」コーナーを設けていたが、2006年4月にこれを拡充し、「法律情報コーナー」としている(9)。同館では、このコーナーを軸として、法情報に関する調べ方案内の配布や法律関係の講座等を実施している。

 このほか、宮崎県立図書館では、Webページで法情報の調べ方等を紹介しているほか、宮崎県司法書士会との連携による法律相談会を定期的に実施している(10)。また、奈良県立図書情報館でも、2010年4月に「暮らしに役立つ法律情報コーナー」を設置し、行政書士市民法務研究会と連携して「法務無料相談会&知識セミナー」を実施するなど、積極的な取り組みを開始している(11)。

 ここで挙げた都県の図書館では、いずれも「D1-Law.com」や「LexisNexis JP」等といった法律関係の有料データベースを、少なくとも一種類は導入している。都道府県立図書館のレベルでは、有料データベースの導入も、法情報の提供における一つの要件になっていると考えられる。

 

3. 市区町村立図書館の事例

 市区町村立図書館では、2008年以降に取り組みを開始する図書館が増えてきている。以下、主要な図書館の取り組み内容を簡単に紹介する。

 横浜市立中央図書館では、2008年12月に「法情報コーナー」を設置し、積極的なサービスを展開している。具体的には、「法情報分類索引」等のナビゲーション・ツールや関係機関のパンフレット提供のほか、専用Webページでの情報提供、講演会等を行っている(12)。

 米子市立図書館では、2008年9月に「暮らしの中の法律情報棚」を設置し、Webページで情報提供を行っている(13)ほか、法情報の提供に関する研修会等を実施している(14) 。

 そのほか、2009年以降には、葛飾区立中央図書館(15)やふじみ野市立上福岡図書館でも、法情報に関するコーナーを設置している。これらの図書館では、いずれも近隣の法テラスと連携しており、チラシやパンフレットでの情報提供を行っている。特にふじみ野市立上福岡図書館では、法テラス川越から講師を招聘して職員研修を行うなど、より積極的に連携している(16)。

 

4. 関係機関との連携

 当然のことではあるが、公共図書館は法律の専門機関ではない。このため、提供できる資料や情報にはどうしても限界がある。そこで重要となってくるのが、弁護士会や司法書士会等といった関係機関との連携である。本稿で取り組みを紹介した図書館でも、そのほとんどが連携しており、関係機関のチラシ・パンフレットの配布、弁護士・司法書士等によるセミナーや無料相談会、職員向け研修会等が行われている。

 関係機関のうち、法テラスについては、現在全国規模での連携が始まりつつある。具体的には、2010年5月に「図書館海援隊」プロジェクト(17)との連携を開始し、全国の公共図書館へのポスター配布等を行っている(18)。今後は、さらに活発な連携が行われるものと思われる。

 このほか、裁判員制度のスタート前には、裁判所との連携も活発に行われていた。裁判所から裁判員制度の広報用DVDやポスターが配布されていたほか(19)、裁判官を講師としたセミナー等が各地の図書館で実施されていた(20)。裁判員制度のスタート後には、このような連携はあまり見られなくなったが、司法制度の要である裁判所との連携は、今後も何らかの形で継続することが望ましいだろう。

 

5. 課題

5.1. 法情報コーナーの設置

 法情報の提供を行う場合、法律関係資料を一か所に集めたコーナーを設けたほうが、利用者にとっては便利である。実際に、本稿で取り組みを紹介した図書館の多くは、何らかのコーナーを設置している。しかし、所蔵資料の移動が伴う場合、このようなコーナーの設置はそれほど簡単ではない。

 通常、公共図書館の資料は、日本十進分類法に基づく分類番号順に配置されており、法律関係資料の場合、例えば、憲法(323)、消費者契約法(365)、道路交通法(685.1)等の、各法律の主題に分散している。しかし、コーナーの設置に際しては、分類番号に関わらず資料を集める必要があるため、図書館によっては、このような扱いが難しい場合もあると考えられる。その場合には、鳥取県立図書館の「法情報検索マップ」のような、館内の資料配置がわかる資料を作成するなどの対応が必要となるだろう。

 

5.2. 資料等の整備

 法情報の提供には、その基盤となる資料が必要である。都道府県立図書館の場合は、比較的規模の大きな図書館が多いため、豊富な資料や有料データベース等を背景にサービスを展開できる図書館が多いと考えられる。一方、市町村立図書館の場合、特に小規模自治体の図書館では、乏しい資料費の中で必要な資料を揃えるのは容易ではない。まして、高額な利用料金が必要な有料データベースを導入することは困難であろう。市町村立図書館では、有用な資料を厳選して揃えるとともに、都道府県立図書館等による協力貸出の利用や、関係機関と積極的に連携するなどといった工夫が必要であろう。

 

5.3. 専門性の向上

 図書館員が法情報の提供をスムーズに行うためには、法体系や司法制度のほか、法学文献の特徴等に関する基本的な知識が必要である。これらの知識が乏しい状態では、適切な資料や情報の提供はままならないと考えられる。

 近年は、法情報の提供に対する関心の高まりを受け、各地で図書館員を対象とした研修やセミナーが実施されており、2010年の全国図書館大会でも、「公共図書館員のための法情報検索入門セミナー」が関連事業に含まれている(21)。また、ローライブラリアン研究会による研修事業である「法情報コンシェルジュ」養成プログラムも、間もなく開始される予定となっている(22)。

 このように、自己研鑽の機会は増加しつつある。公共図書館職員の場合、特定の主題のみに傾注することは難しいかも知れないが、法情報の提供に取り組む場合には、積極的に学ぶ姿勢が必要であろう。

 

6. おわりに

 これまで、公共図書館のレファレンスでは、制限事項の一つとして「法律相談」が挙げられることが多かった。しかし近年では、所蔵資料等に基づく情報提供であれば基本的に問題はないとの見解も、一部で示されている(23)。もちろん、利用者が求める資料や情報が見つからない場合や、法令の解釈等が必要な場合には、適切な機関を紹介すべきであるが、図書館に有益な資料や情報があるのならば、それらを提供するのも図書館員の使命であると考えられる。法情報のアクセス拠点としての役割を全うするためにも、公共図書館の職員の積極的な取り組みを期待したい。

大阪府立図書館:日置将之(ひおき まさゆき)

 

(1) 司法制度改革推進本部事務局. 司法制度改革 : より身近で、速くて、頼りがいのある司法へ. 2002, 10p.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/others/pamphlet_h16.pdf [103], (参照 2010-07-19).

(2) 岩隈道洋. 地域法サービスにおけるロー・ライブラリアンの役割―総合法律支援法第30条第1項にいう法情報提供の担い手として―. 杏林社会科学研究. 2006, 22(1), p. 20-36.

(3) 例えば、以下のような雑誌で特集が組まれている。
特集, 図書館における法情報提供サービス. 図書館雑誌. 2008, 102(4), p. 214-230.
特集, 法情報へのアクセス拠点としての図書館. 現代の図書館. 2004, 42(4), p. 207-239.

(4) 東京都教育庁. “都立中央図書館が『法律情報サービス』を開始します”. 東京都. 2006-07-12.
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2006/07/20g7c300.htm [104], (参照 2010-07-19).

(5) 法テラス.netでは、法テラスのコールセンターに直接問い合わせることができるほか、法制度や相談窓口に関する情報検索が可能であった。
東京都教育庁. “「法テラス.net(ネット)」の試験運用について”. 東京都教育委員会. 2008-02-13.
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr080213t.htm [105], (参照 2010-07-19).

(6) 鳥取県立図書館. “沿革”. 平成22年度 鳥取県立図書館のすがた. 2010, p. 53-56.
http://www.library.pref.tottori.jp/event/h22youran.pdf [106], (参照 2010-07-19).

(7) “法情報サービスのご案内”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/law/law_top.html [107], (参照 2010-07-19).

(8) “法情報サービス委員会設置要項”. 「司法制度改革と先端テクノロジィ」研究会.
http://www.legaltech.jp/katudou/pdf/09-0718/Mr.takahashi%20%20koukai090718-s3.pdf [108], (参照 2010-07-19).

(9) 矢島薫. 特集, 図書館における法情報提供サービス: 神奈川県立図書館における法律情報サービスについて. 図書館雑誌. 2008, 102(4), p. 224-226.

(10) “法律情報”. 宮崎県立図書館.
http://www.lib.pref.miyazaki.jp/hp/menu000000700/hpg000000680.htm [109], (参照 2010-07-19).

(11) “「暮らしに役立つ法律情報コーナー」と「法務無料相談会&知識セミナー」をスタート”. 奈良県立図書情報館イベント情報.
http://eventinformation.blog116.fc2.com/blog-entry-370.html [110], (参照 2010-07-19).

(12) “法情報コーナー”. 横浜市立図書館.
http://www.city.yokohama.jp/me/kyoiku/library/chosa/houjouhou/houjouhou.html [111], (参照 2010-07-19).

(13) “法律情報棚について”. 米子市立図書館.
http://www.yonago-toshokan.jp/40/2618.html [112], (参照 2010-07-19).

(14) “「図書館における法情報サービス」研修会のお知らせ”. 米子市立図書館. 2010-01-29.
http://www.yonago-toshokan.jp/46/547/4514.html [113], (参照 2010-07-19).

(15) “図書館のサービスについて”. 葛飾区立図書館.
http://www.lib.city.katsushika.lg.jp/main/0000000801/article.html [114], (参照 2010-07-19).

(16) 本稿の執筆時(2010年7月)には、法律関連資料を集めたコーナーはすでに無くなっており、法テラスのパンフレット等を配布するコーナーのみが残っている。
法テラス埼玉. “ふじみ野市内図書館職員向け「法情報についての研修会」を開催しました”. 法テラス. 2010-02-26.
http://www.houterasu.or.jp/saitama/news/20100112.html [115], (参照 2010-07-19).

(17) 「図書館海援隊」プロジェクトとは、公立図書館が貧困・困窮者支援のほか、地域や住民の課題解決を支援するため、医療・健康、福祉、法務等に関する様々な支援を行うプロジェクトである。参加館は、文部科学省の呼びかけに賛同した有志の公立図書館によって構成されている。
“「図書館海援隊」プロジェクトについて(図書館による課題解決支援)”. 文部科学省. 2010-04-27.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1293814.htm [116], (参照 2010-07-19).

(18) “【プレスリリース】文科省「図書館海援隊プロジェクト」との連携開始について”. 法テラス.
http://www.houterasu.or.jp/news/houterasu_info/220511.html [117], (参照 2010-07-19).

(19) 最高裁判所事務総局. “裁判所における法教育の取組み”. 法務省.
http://www.moj.go.jp/content/000004294.pdf [118], (参照 2010-07-19).

(20) 例えば、大阪府立中央図書館では、複数年にわたって裁判員制度のセミナー等を実施している。
梶原修. 社会的課題解決型図書館への第一歩~大阪府立中央図書館での資料展示と参加型情報サービスとの連動. 情報管理. 2008, 51(8), p. 588-602.

(21) “平成22年度 第96回 国民読書年・図書館法60周年 全国図書館大会奈良大会”. 奈良県立図書情報館.
http://www.library.pref.nara.jp/event/zenkoku/index.html [119], (参照 2010-07-19).

(22) 「法情報コンシェルジュ」養成プログラムは、ローライブラリアン研究会が図書館振興財団からの助成を受けて実施するもので、同研究会から全国の公共図書館等に、法情報に関する研修講師を派遣するプログラムである。
“助成対象事業部ブログのリンク集”. 図書館振興財団.
http://www.toshokanshinko.or.jp/blog/link22.htm [120], (参照 2010-07-19).

(23) 例えば、以下のような記事で、法情報提供の是非について論じている。
山本順一. 特集, 図書館における法情報提供サービス: 公共図書館における能動的な法律情報提供サービスの可能性とその法的基礎. 図書館雑誌. 2008, 102(4), p. 214-217.
奥村和廣. “法情報の提供サービス”. 課題解決型サービスの創造と展開. 大串夏身編. 青弓社, 2008, p. 171-185, (図書館の最前線, 3).

 

Ref:

指宿信編. 法情報サービスと図書館の役割. 勉誠出版, 2009, 223p.

 


日置将之. 国内の公共図書館における法情報提供サービス. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1723, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1723 [121]

カレントアウェアネス [8]
図書館サービス [9]
日本 [10]
公共図書館 [11]

CA1724 - 国立公文書館におけるデジタルアーカイブの取組みについて / 八日市谷哲生

  • 参照(12917)

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カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日

 

CA1724

 

国立公文書館におけるデジタルアーカイブの取組みについて

 

 国立公文書館(以下、「館」という)は、1971年7月、当時の総理府(現在の内閣府)の附属機関として置かれ、国の機関などから移管を受けた歴史公文書等について保存管理し、一般の利用に供するなどの業務を行っている組織である。2001年、館は独法化されるとともに、アジア歴史資料センターが館の組織として新たに開設された。また、公文書のみならず、江戸幕府の紅葉山文庫等や明治政府が収集した資料等が含まれる「内閣文庫」を所蔵しており、館で保存され利用に供されている。

 館におけるデジタルアーカイブの取組みは、館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所図書館が保有するアジア歴史資料をデジタルで提供する「アジア歴史資料センター資料提供システム」(CA1464 [123]参照)が本格的なデジタルアーカイブとしてサービスを開始したことに始まる(1)。さらに2005年には、国が推進する「e-Japan戦略」(2)や内閣府の懇談会等の提言を踏まえ、館所蔵資料のデジタルアーカイブ化を推進するため、「国立公文書館デジタルアーカイブ」の運用を開始した(3)。

 館及びアジア歴史資料センターでは、毎年度、それぞれのデジタルアーカイブにおいて提供画像数を増加させるとともに、提供画像を活用したデジタルコンテンツを作成し、ホームページに掲載、提供している。また機会を捉え、国内外でプレゼンテーション等を行うなど、2つのデジタルアーカイブの利用促進、普及に努めてきたところである。

 さて、こうした館のデジタルアーカイブ化推進については、「国立公文書館デジタルアーカイブ推進要綱」(以下、「推進要綱」という)という形で、基本的な考え方が取りまとめられている(4)。その概要は次のとおりである。

  • ①国の政策や諸提言に対応
    • ・我が国における良質なコンテンツの流通、発信
    • ・国内外を問わず、いつでも館の所蔵資料を利用できる環境の整備・充実
    • ・地方公文書館などの関係機関のデジタルアーカイブ化、連携
  • ②電子的な公文書の「保存」と「利用」に向けた対応
    • ・公文書館の新たな要請である電子的な歴史公文書等の「保存」と「利用」への早急な対応
  • ③デジタルアーカイブの将来像を指向 ―情報知識の提供、経験の「場」へ―
    • ・我が国の営みに係る人や組織、社会などの記憶、情報知識を蓄積、提供し、人々に経験、交換される公共の「場」としての存在を指向

 ①に示す事項は、デジタルアーカイブの推進に関する具体的な要請に対応するものであり、②は新たな責務とも言える電子公文書等の保存と利用に対応するものである。③は、より将来的な指向性を示すものである。つまり、現在のデジタルアーカイブは、資料のデジタル化とその提供を意味するが、将来的には情報知識そのものを蓄積、提供する、あるいは情報交換の「場」として機能する、他機関のデジタルアーカイブとともに我が国の「集合知」を担うものへと変化していくという方向性に対応するものである。

 「国立公文書館デジタルアーカイブ」は、こうした館のデジタルアーカイブの推進に係る取組みの中核として、「いつでも、どこでも、誰でも、自由に、無料で」、館所蔵資料の目録データベースを検索し、資料のデジタル画像を閲覧できるサービスを行っている。2010年3月には、さらに分かりやすく、探しやすい、より利便性の向上したデジアルアーカイブとしてリニューアルしたところである(5)。これまでに蓄積されたデータは目録データ約120万冊分、公文書等デジタル画像約868万画像、大判・貴重資料等1,170点となっている。デジタル化し提供している主な資料としては、「日本国憲法」の御署名原本や法令案審議録、閣議案件資料、明治期に作成された「公文附属の図」や江戸期の「天保国絵図」といった歴史公文書等がある。デジタル化により、これまで利用が難しかった資料でもインターネットを通じて、気軽に利用できるようになったことは、デジタルアーカイブの大きなメリットである。

 さて、館は自らの所蔵資料に関するデジタルアーカイブの構築とともに、国や地方の関係機関との連携も必要不可欠としている。そのため、デジタルアーカイブの導入に当たっては、情報連携が行えるよう国際標準等に基づく技術や仕組みを採用し、様々な形での連携を視野に入れ、その取組みを行っている。現在、組織内連携としてアジア歴史資料センターのシステムと接続しているほか、外部連携としては、国立情報学研究所の“NACSIS Webcat”との横断検索を行っているほか、国立国会図書館の“PORTA”の検索対象にもなっている。また地方の公文書館との間においては、岡山県立記録資料館、奈良県立図書情報館と接続している。

 しかし、地方の公文書館におけるデジタルアーカイブの構築と連携は、これからの課題である。館では地方の公文書館に対し技術的支援を実施するため、2007年度は直接訪問しての調査・意見交換を行うなどの状況把握に努め、2008年度にデジタルアーカイブ・システムに関する標準仕様書(6)等を作成、2009年度に当該仕様書等の配布を開始した。上記標準仕様書においては、デジタルアーカイブ・システムを構築する上でのシステムに関する基本的な考え方等がまとめられており、情報連携の基本となる機能についても盛り込まれている。今後、こうした館によるデジタルアーカイブ化推進に資するための具体的な取組みを踏まえて、地方の公文書館においてもデジタルアーカイブ化が推進され、情報連携が図られることが期待されているところである。

 以上、館におけるデジタルアーカイブの取組みについて、概要を述べてきたが、現在、新たな「デジタル」への対応に迫られているところである。それは、電子公文書等への対応についてである。電子公文書等については、2010年度に電子公文書等の移管・保存・利用システムを構築、2011年度からの移管等に備えることとしている。しかしながら、これは一つの通過点にすぎず、技術の移り変わりがまさに日進月歩の状況下で、今後大きな困難を伴うことも予想され、さらに、長期の保存性と利用性を確保していくための真剣な努力も必要である。こうしたボーン・デジタルを取り巻く状況は図書館界も同様であると思われるが、そこでの知見、ノウハウなども参考にしながら、取り組んでいきたいと考えている。

国立公文書館:八日市谷哲生(ようかいちや てつお)

 

(1) アジア歴史資料センター.
http://www.jacar.go.jp/ [124], (参照2010-07-09).

(2) 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部. “e-Japan戦略”. 首相官邸. 2001-01-22.
http://www.kantei.go.jp/jp/it/network/dai1/1siryou05_2.html [125], (参照 2010-07-09).

(3) 国立公文書館デジタルアーカイブ.
http://www.digital.archives.go.jp/ [126], (参照2010-07-09).
「国立公文書館デジタルアーカイブ」の概要については、次を参照。
国立公文書館. デジタルアーカイブ. アーカイブズ. 2005, (21), p. 1-38.
http://www.archives.go.jp/about/publication/archives/021.html [127], (参照2010-07-09).

(4) “独立行政法人国立公文書館デジタルアーカイブ推進要綱”. 国立公文書館. 2009-04-01.
http://www.archives.go.jp/owning/d_archive/pdf/youkou.pdf [128], (参照2010-07-09).

(5) “インターネットから、歴史資料の宝庫へ 「国立公文書館デジタルアーカイブ」がリニューアル 3月1日より、運用開始”. 国立公文書館. 2010-03-01.
http://www.archives.go.jp/news/pdf/100301_01_02.pdf [129], (参照2010-07-09).

(6) “デジタルアーカイブ・システム標準仕様書”. 国立公文書館.
http://www.archives.go.jp/law/pdf/da_100118.pdf [130], (参照 2010-07-09).

 

 


八日市谷哲生. 国立公文書館におけるデジタルアーカイブの取組みについて. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1724, p. 4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1724 [131]

カレントアウェアネス [8]
デジタルアーカイブ [132]
日本 [10]
公文書館 [133]
国立公文書館 [134]

CA1725 - セクシュアル・マイノリティの問題と図書館への期待 / 小澤かおる

  • 参照(17430)

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カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日

 

CA1725

 

セクシュアル・マイノリティの問題と図書館への期待

 

子どもの当事者の目線から

 「学校の図書室にあったって、まず手は出ないよね。」と当事者の一人が言うと、周囲から賛同の声が次々と上がった。コミュニティのイベントで当事者情報流通に関するアンケート(1)を取ったときのことだった。

 セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)(2)は地域・文化を問わずどこの社会にも5%程度は存在することが知られるようになったが、その特徴のひとつは、「見かけだけからはわからない」ことだ。もしかすると自分もセクシュアル・マイノリティの当事者か、と思った子どもの一部は本を参考にしようとするが、自分のことがわかるかどうかよりも「他人にそういう人だと思われない」ことのほうが、多くの場合彼ら彼女らには重大で、そのような本を切望していればいるほど手に取りにくい。学校生活、テレビや雑誌などのマスコミ、そしてときには家庭内にも、セクシュアル・マイノリティに対する意識的・無意識的な差別や偏見があるからだ。

 他のマイノリティ(国籍や人種のような)の場合は、殆どの場合少なくとも片方の親は同じ当事者として家庭内にいるが、セクシュアル・マイノリティの場合は殆どがまったくの孤独の中で成長する。マスコミでネガティブでない情報も流れるようになったのはここ数年のことにすぎない。インターネットが普及するまでは、本や雑誌は当事者が自己肯定し仲間と繋がる最大の手段だったのである。前述の調査においては、思春期前後に情報を求めた当事者は、地域の公共図書館や大学図書館をよく利用していた。当事者、あるいはセクシュアル・アイデンティティ形成中の人々にとっては、学校・家庭・マスコミ以外の情報へのニーズはいまだに大きい。

 

コミュニティのライブラリ

 マイノリティの当事者コミュニティでは、ニューズレターや関連資料などを収集したライブラリが作られることがある。日本のセクシュアル・マイノリティのコミュニティの中では、女性の当事者スペースであるLOUD(3)にライブラリが作られ維持運営されている。女性のセクシュアル・マイノリティに関する書籍やフェミニズムなど近縁分野の書籍、小説やコミック、映画などの表象分野に至る日本および海外(主として英語)の資料が集められ、閲覧および貸出といったサービスが提供されている。日本のゲイ・リベレーションの活動当初からの貴重なニューズレターのファイリングもある。このライブラリの大きな特徴は当事者以外の利用者も受け入れることである。この規模の当事者によるライブラリは、LOUDが事実上唯一のものとなっている。ただし、資料の収集方法は寄贈のみであること、スペースの関係で蔵書をあまり増やせないこと、閲覧できる時間が1か月に数時間に限られることなど、主として経済的理由による限界がある。

 セクシュアル・マイノリティ関連の資料は全国各地の女性センター、男女共同参画施設などでも閲覧可能なことがある。部落解放・人権研究所の図書室「りぶら」(4)においても関連資料が収集されており、2009年のサイトリニューアルの際にはそれが明示された。

 

自分たちで歴史を作る

 こうしたコミュニティのライブラリは、欧米に長期的な実践例をみることができる。欧州では少数言語話者や民族/国籍マイノリティによる運動、米国では黒人解放運動やフェミニズムなど、そして1980年代頃からはセクシュアル・マイノリティも含む様々な社会運動が、フライヤーやパンフレットの印刷・発行、運動家の研修、ロビー活動を行なってきた。セクシュアル・マイノリティの運動では、同性愛の非犯罪化や非病理化、トランスジェンダーの性別変更(外科的処置、公的文書変更)を求める運動が続けられ、世紀の変わり目の数年で、複数の先進国で同性婚または同性を含むパートナーシップ法を成立せしめた。この動きを支えた諸団体のライブラリは、「親密な性的関係が社会的に‘私的’あるいは‘個人的’性格とされているために、同じジェンダーの性についての公的な記録は、警察の記録、政府の報告書、新聞記事、医学的・精神医学的な論文、そして性指南本に見られるような‘逸脱した’あるいは‘犯罪的’な行動を除けば、ほとんどない」(5)状態であったところから積極的な資料収集を続けた。当事者のエンパワメント、当該カテゴリの可視化に寄与したのみならず、当事者以外の人々にも本来は必要な様々な情報を収集・発信する拠点となったのである。このようなマイノリティ・カテゴリのコミュニティ・ライブラリが集まってカンファレンスを行ない、活動・研究報告も出版されるようになっている(6)。コミュニティのアーカイブを構築することとはすなわち、マジョリティが形成する歴史の中で不可視化あるいはゆがめられたマイノリティの姿を可視化し歴史を書きなおす「記憶の形成」(7)なのである。

 筆者は2009年秋に機会があって、米国モンタナ州の当事者組織、西部モンタナ州コミュニティセンター(8)(訪れたときとは名称や組織が変化している)を訪れることができた。資料の一部は予算をつけて収集しており、データベースがWebで公開されている。有償/無償のボランティアが切れ目なく働いて平日日中には常に閲覧できる体勢を整えている。この団体の活動の中には、地域の学校への出前授業などが含まれ、そうした活動の資源としてもこのライブラリは活用されているのである。

 

ネット時代の図書館・ライブラリへの期待

 インターネットの普及によって、セクシュアル・マイノリティの当事者が関連情報へアクセスするのは格段に容易になった。とはいえ、問題はさまざまにある。閲覧情報が他人に漏洩しないかという当事者の不安は、ネット利用になっても残っている。また、Web上のセクシュアル・マイノリティの「情報」はそのかなり多くの部分が異性愛男性の消費するポルノという形で存在しているが、さりとて政府、教育機関、あるいはネット事業者などによる安易な閲覧制限は、必要な情報(例えば職業選択のための情報など)すらブロックしてしまう。この状況の中では、さまざまな図書館、ライブラリが「選書」というその専門性を発揮し、一貫性があり「外野」のクレームに簡単には動じないような情報セットとしてのコレクションをあらかじめ集めて提示してくれることが期待される。

 冒頭でも述べたように、他人にそういう人だと思われるのを恐れている当事者は簡単には必要な情報に手を出せないことがある。しかし当事者だけではなく、すべての人に向けての情報としてそれが提示されれば、手に取ることもできる。例えば毎年6月は「プライド月間」といって、セクシュアル・マイノリティ関連のイベントが世界的に盛んに行なわれるが、海外の公私の図書館ではこれに合わせた特設展示もあるとのことだ。

 日本では2010年に初めて政府が関与したかたちで、「セクシュアルマイノリティを正しく理解する週間」(9)が開催された。「正しいセクマイ理解」なんてあるのか、と当事者間でも大いに議論されたが、少なくとも世間に流布している「理解」が実際の当事者と乖離していることが多いのもまた事実である。

 書籍以外にも、NHK教育テレビでは番組「ハートをつなごう」でここ数年、セクシュアル・マイノリティの若者に取材した作品を精力的に制作している(10)。

 当事者コミュニティやライブラリでもさらなる情報発信が望まれる。ロビー活動を行なっている共生ネットからは学校教職員向けのDVD(11)も公開された。

 そもそもセクシュアル・マイノリティへの差別や偏見が根強く残るのは、男女二分法と異性愛主義があたかも当たり前のような社会にあって、既存の「男/女らしさ」から外れる存在が生きにくいからである。近代前期に形成されたそうした「らしさ」とそれによって編成された社会はグローバリゼーションの中で溶解し始めている。セクシュアル・マイノリティの情報は、当事者にも、非当事者にも重要な情報であり続けている。図書館やライブラリが、情報利用に困難を抱える人を含むさまざまなマイノリティの「味方」でありつづけてくれることを強く期待する。

首都大学東京大学院:小澤かおる(おざわ かおる)

 

(1) 小澤かおる. 小規模社会運動印刷物におけるデジタル化・データベース化の手順作成2―女性性的少数者運動体ユーザに対するアンケート調査―. 学生研究助成金論文集. 2008, (16), p. 183-199.

(2) ここでは「セクシュアル・マイノリティ」とは、身体的性と社会的性が一致し性的指向が異性である人々「以外」の人々を指す。人数的には同性愛者が多く、トランスジェンダー(傷病名としては性同一性障害)、半陰陽などの人々も含む。

(3) LOUD. http://space-loud.org/ [136], (参照 2010-07-09).

(4) “図書室<りぶら>”. 部落解放・人権研究所.
http://blhrri.org/ribura/ribura.htm [137], (参照 2010-07-09).

(5) Kinsman, Gary. The Regulation of Desire : Sexuality in Canada. Montréal, Black Rose Books, 1987, p. 66.

(6) Bastian, Jeannette A. et al., eds. Community Archives – the Shaping of Memory. London, Facet Publishing, 2009, xxiv, 286p.

(7) 前掲(6)の副題は「記憶を形成する」となっている。

(8) Western Montana Community Center.
http://www.gaymontana.org [138], (accessed 2010-07-09).

(9) 期間限定の電話相談やシンポジウムなどが開催された。
“セクシュアルマイノリティを正しく理解する週間”. LGBT-week.
http://www.lgbt-week.jp/pc/ [139], (参照 2010-07-09).

(10) “虹色 - LGBT特設サイト”. NHKオンライン.
http://www.nhk.or.jp/heart-net/lgbt/ [140], (参照 2010-07-09).

(11) “セクシュアル・マイノリティ理解のために―DVD~子どもたちの学校生活とこころを守る~”. “共生社会をつくる”セクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク(共生ネット).
http://www.kyouseinet.org/dvd/index.html [141], (参照 2010-07-09).

 


小澤かおる. セクシュアル・マイノリティの問題と図書館への期待. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1725, p. 6-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1725 [142]

カレントアウェアネス [8]
図書館サービス [9]
多文化・多言語サービス [143]

CA1726 - シンガポール国立図書館のビジネス支援サービス / 長崎理絵

  • 参照(13309)

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カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日

 

CA1726

 

シンガポール国立図書館のビジネス支援サービス

 

1. はじめに

 シンガポールは、人口約470万人、面積約700km2の小さな国であるが(1)、世界の情報ハブとなることを目指し、国をあげて情報政策に注力している。その中で図書館は主要機能の一つとして重要な位置を占めている。シンガポールには国立図書館(National Library)1館と地域図書館(Regional Library)3館、公共図書館(Public Library)19館、公共児童図書館(Community Children’s Library)1館が存在しており(2)、国家図書館委員会(National Library Board)という組織が国立図書館と公共図書館を運営している(3)。中でも国立図書館では、先進的なビジネス支援サービスを提供しており、多くの新しい取り組みもなされてきた(4)。

 筆者が所属している国立国会図書館の科学技術・経済課では、毎月1,100件を超える口頭・電話レファレンスをカウンターで受けており、その多くはビジネスに関するものである。2010年3月、筆者はシンガポール国立図書館を訪問する機会を得た。そこで、本稿ではシンガポール国立図書館におけるビジネス支援サービスの現状を中心に紹介したい。

 

2. シンガポール国立図書館の概要

 シンガポール国立図書館は、シティと呼ばれる官公庁街の中心に位置し、2005年にリニューアルオープンした(E356 [145]参照)。Lee Kong Chian Reference Libraryという名称で、国家図書館委員会の建物の7階から13階に位置している。同じ建物の1階および地下1階には中央公共図書館(Central Public Library)が入っており、こちらはレファレンス中心の国立図書館とは異なり貸出中心のサービスを展開している(5)。国立図書館の開館日時は、祝日を除く毎日、10時から21時までで、2008年度の来館者数は約190万人である(6)。

図 シンガポール国立図書館の外観

図 シンガポール国立図書館の外観

 国立図書館には、人文社会科学(Social Sciences and Humanities)、科学技術(Science and Technology)、ビジネス(Business)、芸術(Arts)、中国コレクション(Chinese Collection)といった主題ごとに閲覧室がある(7)。敷地面積が広くなく、1フロア1部屋という構造となっており、2つの閲覧室を有するフロアもあるため、厳密に区分された主題専門閲覧室とは言い難い。例えば、ビジネスは芸術と同じフロアにあり、入口向かって右側がビジネス、左側が芸術という配置になっており、入口すぐに設置されたレファレンスカウンターでは両分野に関する問い合わせを受けている。各レファレンスカウンターに配置されるスタッフは1名で、繁忙の時間帯には簡易な利用案内等のためのアシスタントが1名付く。

 

3. ビジネス支援サービス

 ビジネス支援サービスには、来館利用者向けサービスと非来館者向けサービスがある。

 まず、来館利用者向けサービスだが、ビジネスの閲覧室に開架されている資料は約4万冊で、主な資料としては会社録、調査レポート、統計(政府統計、民間統計)、政府刊行物、業界雑誌、業界新聞などがある。なお、利用者は開架資料を返却する際は書架に戻さず返却台に置くことになっている。スタッフが返却台に置かれた資料を書架に戻す際に資料のバーコードを読み取り、利用された資料のデータを収集している。これにより、ビジネス閲覧室の資料の年間利用状況などが分かるとのことで、2009年は年間延べ22万冊が利用されているとのことであった。

 また、提供しているデータベースが豊富なのも特徴の一つである。契約しているデータベース数は約160あり(8)、国立図書館内でのみ利用可能、国内のあらゆる図書館からも利用可能、自宅からも利用可能と3通りの契約体系がある。ビジネス系のデータベースでは、BloombergやSourceOECDは国立図書館内でのみ利用可能だが、KompassやEuromonitor社のGMIDは全図書館から利用可能であるし、EBSCOhost regional business newsやProQuestの各種データベースなど大半のデータベースは自宅から利用可能である。シンガポールのナショナルサイトライセンスにより提供されているデータベースは、自宅で利用できるデータベースが多く、国民にとって非常に便利である。一方で、自宅でデータベースが利用できるという利便性から来館者数は年々減少しているため、図書館としては来館者数を増やすために様々なイベントやワークショップを開催するなどの工夫をしているとのことであった(9)。

表 主要ビジネス系データベース一覧

データベース名利用可能エリア
ProQuest 各種全図書館および自宅
EBSCOHost Regional Business News全図書館および自宅
EBSCOHost Business Source Complete全図書館
Global Market Information Database (Euromonitor)全図書館(プリントアウト制限有)
Kompass全図書館
Economist Intelligence Unit (EIU)国立図書館および地域図書館
Global New Products Database (Mintel)国立図書館および地域図書館
Bloomberg Professional Service国立図書館のみ
Business Monitor Online国立図書館のみ
One Source国立図書館のみ
Source OECD国立図書館のみ

(2010年3月現在)

 以上は、2010年3月時点での情報だが、館内のサービス体系が大きく変わり、閲覧室についても改編がなされる予定であるという話も聞いた。芸術と同じフロアにあったビジネスは、科学技術と合併し、より充実したビジネスサービスの提供を目指しているとのことであった。従来の会社録、調査レポート等に加えて、規格、商標、特許などを融合的に提供することにより、ビジネスコンサルティングセンターとしてのアプローチを強化したいというのが狙いのようだ。改編後の動向については、今後も注目していく必要があろう。

 次に非来館者向けサービスだが、全分野に当てはまることではあるが、e-mailでのレファレンスがある。個人からの依頼が大半だが公共図書館からも受けており、ビジネス分野では3~5日以内には回答するようにしているとのことであった。また、携帯電話からのメール(ショートメッセージサービス:SMS)によるレファレンスも2006年より開始している。レファレンスの月平均受理件数は、e-mailが951件、SMSが48件であり、そのうち科学技術・ビジネスに関するものが50~60%を占めているとのことであった。e-mailレファレンスは、国立図書館のホームページ内のReference Pointから申し込むことができる(10)。また、その中のReference Point Enquiries Bank(11)に、よく聞かれる質問と回答を掲載している。利用者には質問を送付する前にここをチェックし、同様のレファレンスの有無を確認してから質問するよう案内している。質問は10の主題に分けて掲載されており、キーワード検索も可能である。2010年6月現在、ビジネスに関する質問は217件掲載されている。

 

4. 職員の体制

 レファレンス部門の職員55名のうち、ビジネス部門の職員は9名(12)であるが、他の閲覧室のレファレンス業務も定期的に行うことで、レファレンス業務における広い視野を保つよう工夫している。しかし、部門を越えた人事異動は本人の希望がない限り原則的に行わないため、その他の部門の業務を経験することはほとんどない。そこで、他の部門の業務を少しでも経験することで館の業務の概要を把握するような仕組みを設けている。Cross Division Projectというもので、資料収集、書誌作成、レファレンス、イベント等の経験を一定期間(業務内容により数週間~最大1年)積むことができる。また、レファレンス部門に配属する職員は専門性を重視しており、例えばビジネス部門の職員については、大学で経済学や経営学を専攻した者が優先されている。配属されてからは基本的にはOJTでスキルアップを図っており、職員間の知識の共有に関しては特に気を配っているとのことであった。

 

5. おわりに

 シンガポール国立図書館は、政府によるIT振興政策を担う機関の一つと位置付けられており、その果たしている役割、政府や国民からの期待度はとても大きいという印象を持った。国立図書館はもとより、公共図書館や大学図書館も先進技術に基づいたナビゲーションシステムが構築されており、豊富なデータベース、電子ジャーナルを提供している。国立図書館は多くのデータベース、電子ジャーナルの自宅からの利用を可能にする契約を締結しており、国民はその利便性を享受している。そのことが図書館の有用性を国民に印象付けているのかもしれない。また、ビジネス支援サービスについても、シンガポール政府が起業を促進し、国としてビジネス支援を政策にしていることから、専門性の高いサービス内容となっている。今後は経済産業分野と科学技術分野がより強固に結びついた形でのビジネス支援サービスの展開を目指しているとのことであり、その動向は注目に値するだろう。

主題情報部科学技術・経済課:長崎理絵(ながさきりえ)

 

(1) 二宮書店. データブック・オブ・ザ・ワールド Vol.22. 2010, 479p.

(2) 数値は、National Library BoardのHPによる(2010年6月現在)。
“Library Locations”. National Library Board Singapore.
http://www.nlb.gov.sg/page/corporate_page_visitus_AllLibraries [146], (accessed 2010-06-24).

(3) “National Library Board Singapore”.
http://www.nlb.gov.sg/ [147], (accessed 2010-06-24).

(4) 宮原志津子. 図書館サービスの新たなる可能性に向けて:シンガポール国立図書館の取り組み. 情報の科学と技術. 2008, 58(1), p. 13-18.

(5) “Central Public Library”. Public Libraries Singapore.
http://www.pl.sg/PL.portal?_nfpb=true&PlLibraryLocations_1_2BranchCode=CLL [148], (accessed 2010-06-24).
“Central Lending Library FAQ”. Public Libraries Singapore.
http://www.pl.sg/library/images/LibInfo-CLL.pdf [149], (accessed 2010-08-02).

(6) National Library Board Annual report 2008/2009 Statistical Summary.
http://www.nlb.gov.sg/annualreport/fy08/content/NLBarSS09.pdf [150], (accessed 2010-06-24).

(7) “Collection”. National Library Building.
http://virtualtour.nlb.gov.sg/static/collection.htm [151], (accessed 2010-06-24).

(8) “e-Resources Books”. National Library Board Singapore.
http://eresources.nlb.gov.sg/index.aspx [152], (accessed 2010-06-24).

(9) ビジネスに関するイベントページ
“Business”. GoLibrary.
http://golibrary.nlb.gov.sg/Channel.aspx?Channel=057 [153], (accessed 2010-06-24).

(10) “Reference Point”. National Library Singapore.
http://www.nl.sg/NLWEB.portal?_nfpb=true&_pageLabel=NL_ASK&_nfls=false [154], (accessed 2010-06-24).

(11) “Reference Point Enquiries Bank”. National Library Singapore.
http://rpe.nl.sg/index.aspx [155], (accessed 2010-06-24).

(12) 職員は9名で、加えてアシスタントが2名。

 

Ref:

ラマチャンドラン, ラスほか. シンガポールの図書館政策 : 情報先進国をめざして. 日本図書館協会, 2009, 155p.

National Library Singapore.
http://www.nl.sg/ [156], (accessed 2010-06-24).

 


長崎理絵. シンガポール国立図書館のビジネス支援サービス. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1726, p. 8-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1726 [157]

カレントアウェアネス [8]
図書館サービス [9]
ビジネス支援 [158]
シンガポール [159]
国立図書館 [38]

CA1727 - 動向レビュー:ディスカバリ・インターフェース(次世代OPAC)の実装と今後の展望 / 片岡 真

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カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日

 

CA1727

動向レビュー

 

ディスカバリ・インターフェース(次世代OPAC)の実装と今後の展望

 

1. OPACからディスカバリ・インターフェースへ

 図書館が提供するコンテンツは、従来からOPACが守備範囲としてきた冊子体資料に加え、ライセンス契約の電子コンテンツ(電子ジャーナル、電子書籍、文献データベースなど)、リポジトリ中の研究成果、デジタル化された所蔵資料、マルチメディア資料など、多様化している。またユーザは、これらのコンテンツをGoogleのように一度に検索でき、Amazonのようにビジュアル化された画面や内容/レビューの表示、さらにリコメンド機能などが提供されることを期待するようになっている(1)。これを実現するものがディスカバリ・インターフェース(次世代OPAC)(2)であり、これまで海外で導入が進んできたが(3)、最近国内でも導入が始まっている(4) (5) (6) (7)。

 ディスカバリ・インターフェースの特徴やソフトウェアの紹介については、久保山(8)、宇陀(9)、渡邊(10)、らの論文、および拙稿(11)に詳しい。そこで本稿では、筆者の九州大学での経験を踏まえ、ディスカバリ・インターフェースに共通する実装のポイントや、海外製品を導入する際の日本語環境への対応について紹介する。さらに、オープンソースをめぐる状況の変化や、ディスカバリ・インターフェースの最新動向にも触れる。

 

2. 実装のポイント

2.1. メタデータの収集

 ディスカバリ・インターフェースでの検索に必要な情報は、全て図書館システムを始めとするデータソースからのハーベストによって収集される。ハーベスト方式はOAI-PMHの利用が広がっており、MARCXML、Dublin Core(DCMI Metadata Terms)などXML形式のメタデータフォーマットによって受け渡される。データの同期を取るため、追加、更新、削除の3種類のデータが転送できるように準備しておく必要がある。

 なお、海外製品を導入する場合、国内の書誌フォーマットに準拠して作成された図書館システムの書誌・所蔵レコードを、MARC21/XML形式へ変換して取り出すことが考えられる。しかしながら、オリジナルフィールドにはローマ字による記入の原則があるほか、書誌構造の違いから識別子による書誌間リンクが困難なこと、またフィールド値の機械的な置き換えができない場合があるなど、マッピングに工夫が必要である。これを根本的に解決するためには、AACR2の後継として策定されたRDA(Resource Description and Access)の採用やRDF(Resource Description Framework)によるメタデータ交換など、目録データの作成/交換形式そのものを見直さなければならない(12)。

 

2.2. メタデータ・エンリッチメント

 ディスカバリ・インターフェースでは、従来から図書館が目録情報の情報源としてきた表紙、標題紙、背、奥付などに加え、検索のアクセスポイントを増やし、ユーザが検索結果から適切なコンテンツを探しやすくするために、様々な情報を追加している。

 まず、洋書の表紙画像、目次、概要などの情報については、Syndetic Solutions(13)やBaker&Taylor(14)が提供する、図書館OPAC向けのサービスが利用できる。検索結果への表示のみを提供するサービスと、検索インデックスに追加できるサービスがある。また和書については、トーハン、日本出版販売、紀伊國屋書店、日外アソシエーツが共同で、目次、概要、著者名典拠情報などを販売している(15)ほか、図書館流通センター(TRC)が主に公共図書館向けにデータ販売を行っている(16)。和書の表紙画像は、日外アソシエーツが主に書店向けに用意したデータを図書館でも購入できるが、非営利目的の場合は出版社ごとの許諾が必要となる。こうした商用データのほか、Amazon.co.jp(17)、Googleブックス(18)などが提供するAPIを利用する方法もあるが、それぞれ当該サイトへのリンクを置くことが条件となっている。

 また、ソーシャル機能の一つとして、ユーザからレビューを集めて表示することも行われている。例えば商用のAquaBrowserのオプションであるMyDiscoveries(19)では、同製品を導入した機関で入力されたレビューを横断的に表示できるほか、本を利用したソーシャルネットワーキングサービス(SNS)であるLibraryThing(20)が集めたタグやレビューを利用する機能も用意されている。そのほか無料サービスでは、上述のAmazon Webサービス API(17)やGoogle Book Search API(18)が利用できる。レビューに関する機能以外では、Ex LibrisのbX(21)のような、リンクリゾルバの利用ログ分析をベースとしたリコメンデーションサービスも登場している。

 電子ジャーナルや電子書籍を、商用のナレッジベース(A-Zリスト)を用いて管理している場合には、A-Zリストに表示されているような簡単な書誌情報を、ダウンロードして利用することが可能である。また、冊子体と同様の品質のメタデータが必要であれば、Serials Solutionsの360 MARC Updates(22)やEx LibrisのMARC It! (23)のようなMARCディストリビューションを利用できる。ただし、これらは、CONSER(24)などから収集したMARCデータをもとに、各社がデータ拡張したもので、製品によって品質にばらつきがある。また電子書籍については、提供する出版社からMARCレコードを入手することも可能であるが、各社MARCフォーマットの品質が一定していないため、これを調整する作業が必要となる。さらに、国内の電子コンテンツのメタデータに関しては、ISSN日本センター(25)や、個人の取り組みである日本語学術雑誌情報源ナビ(JJRnavi)(26)が提供しているが、前者は網羅性において、後者は正確性と安定的運用の点で十分ではない。堀内ら(27)の指摘や、総務省、文部科学省及び経済産業省からの報告(28)にあるように、国レベルでの書誌情報インフラの整備が必要である。

 

2.3. メタデータ・マネジメント

 いくら多様なリソースから情報を集め、メタデータのエンリッチメントを行っても、検索を信頼性のあるものにし、適切なアイテムを選びやすくするためには、メタデータのマネジメントが欠かせない。具体的には、MARC21/XML、Dublin Core、MODS、独自スキーマなど、様々な形式で収集したデータについて、フィールドのマッピング(タイトル、著者、フォーマット、出版年、言語、ロケーションなど)、重複除去、FRBR化などを行うことになる。

 また、ファセットと呼ばれる検索結果からの絞り込みも、ファセット構成要素(フォーマット、主題、本文言語、出版年、著者、ロケーションなど)のマネジメントが、その有効性を大きく左右する。なかでも主題ファセットについては、NACSIS-CATに準拠した国内の目録データの場合、とくに古い資料では基本件名標目表(BSH)や国立国会図書館件名標目表(NDLSH)などの件名がセットされていないレコードが多く、網羅性が確保できていない状況にある。これを解決するためには、件名データの遡及入力、分類からの機械的な件名生成、外部データの取り込みなど、何らかの作業が必要と考えられる。

 

2.4. 全文検索エンジン

 全文検索エンジンは、集約したメタデータやフルテキストのインデクシングだけでなく、検索結果の重みづけ、ファセットナビゲーションやリコメンド機能のデータ生成などを担っている。この分野は、もともと国内ショッピングサイトで圧倒的なシェアを誇るFAST ESPや、XMLデータベースで出版社の採用が多いMarkLogic Server、安価に導入できるGoogle検索アプライアンスなど多くの製品がしのぎを削っており、導入機関のニーズに応じたカスタマイズや高い拡張性を備えている(29) (30)。ディスカバリ・インターフェースにおいては、2006年に米国ノースカロライナ州立大学が多くのショッピングサイトや検索サービスを手掛けるEndeca(ProFind、現在のInformation Access Platform)を採用し、図書館界を驚かせたが(E566 [161]参照)、最近ではオープンソースのApache Luceneと、それをWebアプリケーション化したSolrの利用が広がっている(31)。

 また、日本語特有の状況に対応するためには、インデクシングの調整が必要である。例えば、精度の高い形態素解析(予め登録された予約語を切り出す)を再現率の高いN-gram(指定文字数ごとに文字列を切り出す)で補完するチューニングを行うほか、異体字の変換、表記のゆれへの対応、ヨミの追加(または追加しない)なども考慮しなければならない(32)。

 

2.5. インターフェースのデザイン

 ユーザインターフェースは、メタデータ・マネジメントや検索エンジンとは別のレイヤーで設定を行う。画面全体のデザインのほか、検索エンジンが返した結果の表示、ファセット表示、Amazonなど外部サイトとのAPI連携、アイテム間や外部サービスへのリンク、リコメンデーション、電子リソースや視聴覚資料のブラウズページなど、設定は多岐に渡る。これらの設定を行う上で、ユーザの検索行動への理解が欠かせない。AppleのiPodが小さいディスプレイで多機能を実現し、便利さを実感させる作りになっているように、ユーザは何をしにサイトへやってくるのか、次に何をしたくなるのかといった行動パターンを把握し、過不足ないデザインを心掛けるべきである。

 また、貸出状況の表示や貸出予約などのパーソナルサービスでは、図書館システムとリアルタイムに連携を行う必要があり、ANSI/NISOが定めるNCIP(NISO Circulation Interchange Protocol;Z39.83)(33)やWebアプリケーションで一般的なSimple REST方式が用いられている。また、貸出状況については、1時間に数回から1日数回の頻度でデータをハーベストするシステムもある。

 そのほか、国内ではインターフェースの多言語化も必要となるが、最近では、gettext(34)に代表されるように、翻訳ファイルによるインターフェースの翻訳が一般的になってきている。これにより、インターフェースの二重化(日本語版と英語版)など複雑な対応を行うことなく、比較的容易に多言語化を行うことができる。

 

3. オープンソースの潮流

 ディスカバリ・インターフェースでは、オープンソースのプロジェクトが、かつてない盛り上がりを見せている。全文検索エンジンでは、前述のとおりオープンソースのApache Lucene/Solrが、Blacklight、eXtensible Catalog、VuFindなどの主要オープンソースのほか、Serials SolutionsのSummon(35)といった商用サービスで採用されている。またユーザインターフェースでは、BlacklightがRuby on Railsを、eXtensible CatalogがDrupalを利用するなど、オープンソースのWebアプリケーションフレームワークの活用が進んでいる。このように共通化されたパーツを組み合わせて利用することで、開発スピードは飛躍的に向上し、より多くの人がWebアプリケーション構築に参加するようになっている。そして国内でも、Next-L Enju(36)が、オープンソースのプロジェクトとして進行しており、国立国会図書館サーチ(開発版)(E1087 [162]参照)などで採用(37)されている。

 共通化されたパーツの採用は、課題解決の共有にもつながっている。例えば米国イェール大学は、VuFindをカスタマイズしたディスカバリ・インターフェースYufindを公開しているが、Apache Lucene/Solrによる多言語検索の改善を検討している。その第一歩として、Arcadia Trustからの助成を利用して、広く状況とニーズを調査し、中間報告をまとめているが(38)、ここで得られた成果は、検索エンジンを共有する他のプロジェクトでも活用できるため、汎用性が高い。

 このように、オープンソースを活用すれば、システム構築を完全にベンダーに依存するのではなく、自ら必要な機能をデザインすることが可能となる。しかし一方で、導入する機関側にテクニカルな人員が必要となるため、導入を躊躇する機関も多いだろう。一つの解決策としては、Web制作会社などと協力して導入やその後の維持管理/アップデートを行う方法がある。

 また、もう一つ注目すべきことは、オープンソースはその発展をコミュニティが担っていることである。必要となる機能の提案や課題解決の共有、独自に修正したソースや見つけたバグのフィードバックなどに参加することで、ソフトウェア全体が発展するばかりでなく、自らも新しい知見を得ることにつながる。

 

4. 最近の動き

4.1. Webスケールのディスカバリ・サービス

 ディスカバリ・インターフェースは、機関が提供するリソースに対するアクセスを統合するツールである。一方で、ライセンス契約の電子コンテンツのディープインデクシングを行い、論文レベルのデータや電子書籍の本文までを含めた、世界中の学術情報を網羅的に探すことが出来る、Webスケールでのディスカバリ・サービスが注目を集めている。Serials SolutionsのSummonは、この分野をリードする製品で、6,800以上の出版社からの協力を得て、94,000以上の雑誌タイトルから、5億以上のコンテンツをインデクシングし、各導入機関に検索サービスを提供している。またOPACのデータなど図書館独自のコンテンツのハーベストにも対応している。そのほか、Ex LibrisのPrimo Central、EBSCO Discovery Serviceも同種のサービスである。また、OCLCが機関向けに提供するディスカバリ・インターフェースであるWorldCat Local(CA1721 [163]参照)は、EBSCOやebraryとの提携により、電子ジャーナル、電子書籍のインデクシングを追加し、電子コンテンツへのアクセスを強化している(39) (40)。こうしたWebスケールディスカバリ・サービスが十分に成熟し、ディスカバリ・インターフェースとの連携が図られれば、図書館が提供する冊子体資料、電子コンテンツ、機関リポジトリ中の研究成果、論文情報、新聞、事典などあらゆる学術情報の検索は、これ一つに集約されることになるだろう。

 

4.2. 次世代図書館システム

 メタデータ・マネジメントの面で注目すべき動きとして、これまでの図書館業務システムが扱ってきた冊子体資料の目録情報と、ディスカバリ・インターフェースに統合している電子コンテンツの両方を扱うことができる次世代図書館システムの開発が、運用フェーズに入ってきていることが挙げられる。オープンソースのOpen Libraryプロジェクトを受け継いだKuali OLEプロジェクト(E1003 [164]参照)、Ex LibrisのUnified Resource Management、OCLCの図書館マネジメントサービス(CA1721 [163]参照)などが動き出している。このような次世代図書館システムによって、現在ディスカバリ・インターフェースが担っているメタデータ・マネジメントを、図書館システム側で柔軟に行えるようになれば、ディスカバリ・インターフェースが果たす役割も変わってくるだろう。

 

4.3. ソーシャル機能の可能性

 そのほか、ディスカバリ・インターフェースをプラットフォームとして、ソーシャル機能を充実させる動きも始まっている。例えば、愛知県立大学を含む5大学が進めるTosho Ring(41) (42)では、教員や学生の参加によって共同蔵書を構築し、ディスカバリ・インターフェース上に投稿された書評を通じて、ユーザどうしがつながるシステムを実験的に提供している。Web上に自分用の図書リストを作成し、それに書評を付けたり、他のユーザの書評を参照するサービスとしては、ブクログ(43)やLibraryThing(20)などがあるが、Tosho Ringでは情報の共有を連携大学内に限定している。大学のような比較的小さい母集団では十分な数の書評が集まりにくいが、共同蔵書の選書ツアーのほか、授業との連携によって、書評を意味あるものにしている。教員が投稿した書評は学生が図書を選ぶ際の参考になっており、また授業で触れた図書について学生たちが書評を書くことによって、他者に伝わりやすい文章を書く訓練にもなり、さらに担当教員が学生の関心や理解度を知ることにもつながっている。

 

4.4. モバイルデバイスと外部システム連携

 携帯電話やiPodなどモバイルデバイスの普及、またiPadの登場により、情報の利用はPCからだけでなく、幅広いデバイスから利用されるようになっている。ディスカバリ・インターフェースにおいても、PCからの利用だけを想定するのではなく、さまざまなインターフェースを追加可能な、柔軟性のあるシステム設計が必要である。また、学習管理システム(LMS)を始めとする、外部システムとの連携も求められている。こうした拡張性を確保する意味からも、汎用的な全文検索エンジンの採用とWebアプリケーションフレームワークを利用したインターフェース構築が有効である。

 

5. おわりに

 ディスカバリ・インターフェースの構築は、図書館がこれまで長く労力をかけてきた蔵書検索サービスの提供(=図書館は書誌情報からのキーワード検索を用意するだけで、適切なものを引き出せるかどうかはユーザの腕にかかっている)からいったん離れて、今のユーザに必要なサービスを用意しなおす(=サジェストし、ユーザどうしをつなぐ)作業である。この仕事をやり遂げることによって、図書館員が忘れかけていた、知識と人をつなぐという図書館本来の役割を再び自覚し、図書館は人類の蓄えた膨大な情報の中から、「確かな」知恵を引き出すことのできる場所として、生まれ変わることを願っている。

九州大学情報システム部:片岡 真(かたおか しん)

 

(1) Calhoun, Karen et al. “Online Catalogs: What Users and Librarians Want”. OCLC.
http://www.oclc.org/reports/onlinecatalogs/fullreport.pdf [165], (accessed 2010-08-13).

(2) これまで“next-generation library catalogs”の訳語として「次世代OPAC」がよく使われてきたが、この新しい製品がカバーするリソースや提供する機能は、もはや「OPAC」の枠にとどまらない。そのため海外では“discovery layer”などの表現がよく用いられているが、ここではブリーディング(Marshall Breeding)の“Next-Gen Library Catalogs”の記述に従い、「ディスカバリ・インターフェース(discovery interfaces)」を用いる。
Breeding, Marshall. “Introduction: Next-Gen Library Catalog Basics”. Next-Gen Library Catalogs. New York, Neal-Schuman Publishers, 2010, p. 2-3.

(3) Breeding, Marshall. Automation Marketplace 2010: New Models, Core Systems. Library Journal. 2010, 135(6), p. 22-36.
http://www.libraryjournal.com/article/CA6723662.html [166], (accessed 2010-07-21).

(4) “KOSMOS”. 慶應義塾大学メディアセンター.
http://kosmos.lib.keio.ac.jp/primo_library/libweb/action/search.do?vid=KEIO&vid=KEIO&mode=Basic [167], (参照 2010-08-13).

(5) “Tulips”. 筑波大学附属図書館.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mytulips/ [168], (参照 2010-07-05).

(6) “Cute.Catalog (alpha)”. 九州大学附属図書館.
http://search.lib.kyushu-u.ac.jp/ [169], (参照 2010-07-05).

(7) “Take Control; eXtensible Catalog”. eXtensible Catalog Organization.
http://www.extensiblecatalog.org [170], (accessed 2010-07-05).

(8) 久保山健. 特集, ファインダビリティ向上: 次世代OPACを巡る動向 : その機能と日本での展開. 情報の科学と技術. 2008, 58(12), p. 602-609.

(9) 宇陀則彦. 特集, ウェブ検索時代の目録: 利用者中心の設計―次世代OPACの登場―. 図書館雑誌. 2009, 103(6), p. 390-392.

(10) 渡邊隆弘. 「次世代OPAC」への移行とこれからの目録情報. 図書館界. 2009, 61(2), p. 146-159.

(11) 工藤絵理子ほか. 次世代OPACの可能性 : その特徴と導入への課題. 情報管理. 2008, 51(7), p. 480-498.

(12) Bowen, Jennifer. “Defining Linked Data for the eXtensible Catalog (XC): Metadata on the Bleeding Edge”. ALA Annual Conference 2009. Chicago, IL, 2009-07-13.
http://www.extensiblecatalog.org/sites/default/files/slides/BowenLinkedDataALA2009.ppt [171], (accessed 2010-08-13).

(13) “Syndetic Solutions”. Bowker.
http://www.bowker.com/syndetics/ [172], (accessed 2010-07-16).

(14) “Content Café 2”. Baker & Taylor.
http://www.btol.com/pdfs/content_cafe.pdf [173], (accessed 2010-07-16).

(15) “「BOOK」データベース”. 日外アソシエーツ.
http://www.nichigai.co.jp/dcs/index3.html [174], (参照 2010-07-05).

(16) “TRC MARC”. 株式会社図書館流通センター.
http://www.trc.co.jp/library/tool/marc_1.html [175], (参照 2010-07-16).

(17) “Amazon Web サービス”. Amazon.
http://www.amazon.co.jp/gp/feature.html?ie=UTF8&docId=451209 [176], (参照 2010-07-05).

(18) “Google Book Search API - Google Code”. Google Code.
http://code.google.com/intl/ja/apis/books/ [177], (参照 2010-07-16).

(19) “Serials Solutions® Now Represents AquaBrowser Library® with MyDiscoveries™ Unified Discovery Interface and Social Library Experience”. Serials Solutions. 2008-05-17.
http://www.serialssolutions.com/news-detail/serials-solutions-now-represents-aquabrowser-library-with-mydiscoveries-uni/ [178], (accessed 2010-08-13).

(20) LibraryThing.
http://jp.librarything.com/ [179], (参照 2010-08-13).

(21) “bX Recommender Service: Overview”. ExLibris.
http://www.exlibrisgroup.com/category/bXOverview [180], (accessed 2010-08-13).

(22) “360 MARC Updates”. Serials Solutions.
http://www.serialssolutions.com/360-marc-updates/ [181], (accessed 2010-07-05).

(23) “MARCit!”. ExLibris.
http://www.exlibrisgroup.com/category/SFXMARCit [182]!, (accessed 2010-07-16).

(24) 米国議会図書館(LC)が行っている逐次刊行物の共同目録プログラム。
“CONSER Program”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/acq/conser/ [183], (accessed 2010-08-13).

(25) “ISSN日本センター”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/issn_02.html [184], (参照 2010-07-16).

(26) 日本語学術雑誌情報源ナビ:目次サイト、記事索引・抄録、全文情報データベース.
http://jcross.jissen.ac.jp/atoz/index.html [185], (参照 2010-07-16).

(27) 堀内美穂ほか. JST国内収集誌の電子化状況調査報告. 情報管理. 2009, 52(2), p. 95-101.

(28) “デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会報告”. 総務省. 2010-06-28.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000075191.pdf [186], (参照 2010-08-13).
p.35に、「紙の出版物と電子出版の両方を統一的に扱える書誌情報(MARC等)フォーマットの策定・標準化と官民の書誌情報提供サービスへの普及等について具体的な検討・実証を進め、こうした取組について国が側面支援を行うことが適当」との記述がある。

(29) 木下和彦. 特集, エンタープライズサーチ: エンタープライズサーチにおける「検索」とは何か. 情報の科学と技術. 2009, 59(9), p. 426-430.

(30) 三原茂ほか. 特集, エンタープライズサーチ: 拡張し続けるエンタープライズサーチ,その現在(いま). 情報の科学と技術. 2009, 59(9), p. 431-437.

(31) Breeding, Marshall. “Profiles of Major Discovery Products”. Next-Gen Library Catalogs. New York, Neal-Schuman Publishers, 2010, p. 31-51.

(32) ダグラス, ベンジャミン. 特集, エンタープライズサーチ: 自然言語処理とエンタープライズ・サーチ. 情報の科学と技術. 2009, 59(9), p. 445-449.

(33) NISO Circulation Interchange Protocol (NCIP - Z39.83) Implementation Group Website.
http://www.ncip.info/ [187], (accessed 2010-07-16).

(34) “gettext”. GNU Project.
http://www.gnu.org/software/gettext/gettext.html [188], (accessed 2010-08-13).

(35) “Summon”. Serials Solutions.
http://www.serialssolutions.com/summon/ [189], (accessed 2010-08-13).

(36) “Next-L Enju”. GitHub.
http://github.com/nabeta/next-l/ [190], (accessed 2010-07-05).

(37) “国立国会図書館サーチ(開発版)のシステムについて”. 国立国会図書館.
http://iss.ndl.go.jp/information/system/ [191], (参照 2010-08-23).

(38) Barnett, Jeffrey et al. “Investigating Multilingual, Multi-script Support in Lucene/Solr Library Applications”. Yale University Library. 2010-06-03.
https://collaborate.library.yale.edu/yufind/Shared%20Documents/Arcadia_External/Final_forOutsideDistribution.pdf [192], (accessed 2010-07-21).

(39) “EBSCO Publishing to acquire NetLibrary Division from OCLC”. OCLC. 2010-03-17.
http://www.oclc.org/news/releases/2010/201015.htm [193], (accessed 2010-08-13).

(40) “OCLC and ebrary sign agreement to add ebook records, links to WorldCat”. OCLC. 2010-06-24.
http://www.oclc.org/news/releases/2010/201037.htm [194], (accessed 2010-08-13).

(41) Tosho Ring.
https://tosho-ring.aichi-pu.ac.jp/opac/ [195], (参照 2010-08-23).

(42) 春日井隆司. 特集, 大学図書館2009: 利用者の視点に立った図書検索システムの開発 : 新たなネットワークシステム(Tosho Ring)の構築を目指して. 図書館雑誌. 2009, 103(11), p. 759-761.

(43) ブクログ web本棚サービス.
http://booklog.jp/ [196], (参照 2010-08-23).

 


片岡真. ディスカバリ・インターフェース(次世代OPAC)の実装と今後の展望. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1727, p. 11-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1727 [197]

  • 参照(25827)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
OPAC [198]
図書館システム [199]
ディスカバリインターフェース [200]

CA1728 - 研究文献レビュー:図書館の「広報」は進化しているか?―説明責任と自己アピールの時代に求められる理論と実践― / 仁上幸治

PDFファイルはこちら [201]

カレントアウェアネス
No.305 2010年9月20日

 

CA1728

研究文献レビュー

 

図書館の「広報」は進化しているか?
―説明責任と自己アピールの時代に求められる理論と実践―

 

1. はじめに―文献レビューの視点―

 「危機管理・広報PR・IRの専門誌」と銘打つ宣伝会議の月刊誌『広報会議』の最近の号を眺めてみれば、「メディア、店頭で話題をつくる 戦略PRの本質」(1)「メディアに出れば世界が変わる マスコミに注目される会社になる」(2)「ステークホルダーが必ず手に取る読まれる広報誌の作り方」(3)などの見出しが目に入る。2009年に話題となった「事業仕分け」は、図書館にとっては目新しいことではない。図書館はこの20年、予算・人員の削減ターゲットであり続けており、図書館員の専門性の崩壊につながっている。それを食い止めるべく図書館が何らかの「アピール」をしなければと考えるのは自然なことである。だが、そもそもその「アピール」は、何を誰にどのようにしようとしているのかが問題である(4)。実践の指針となるはずの「広報」の理論自体が図書館界で正しく理解されているかどうかはかなり疑わしい。昔ながらの利用案内や図書館報では手に取る利用者は少ない。業務報告書に統計数値を掲載する程度では親機関は許してくれない。図書館に投下されている経営資源に見合うだけの存在理由について自ら説明責任を果たすよう求められている。それが十分と認められなければ、予算・人員の削減にとどまらず組織自体の統廃合が待っている。かつての牧歌時代には想像もできなかった厳しい事態である。

 本稿では、図書館界で使われている「広報」という用語をめぐって、2000年以降に刊行された文献を中心に、必要に応じてそれ以前の重要文献と各図書館における活動事例も紹介しながら、図書館の広報の現状と動向を素描してみる。

 

2. 概観

2.1. 雑誌の特集

 1990年代に、図書館界の学協会誌では、「広報」や「PR」関連の特集号がいくつかあった。例えば『図書館雑誌』1993年10月号の特集「図書館のPR活動を考える」を眺めてみると、PRの重要性についての理論的な啓蒙記事の中で、図書館界での理解と実践の不足が指摘され、いくつかの先進的な取り組み事例が紹介されている(5)。2000年代には、各誌が以下のような特集を組んでいる。

  • 特集, 図書館広報. 大学の図書館. 2004, 23(3), p. 42-50.
  • 特集, 図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 283-317.
  • 特集, 図書館を、PRする. みんなの図書館. 2006, (352), p. 1-40.
  • 特集, 図書館のPR. 看護と情報. 2009, (16), p. 22-50.
  • 特集, 図書館のサービスを知ってもらうために-効果的な広報とは. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 1-41.
  • 特集, 図書館アピール. 専門図書館. 2010, (239), p. 1-32.

 そして、1993年から17年を経て、同じ『図書館雑誌』の2010年4月号の特集「図書館を見せる」で、編集部は図書館員の「広報下手」について「さぞや耳にタコができていることでしょう」と少々自嘲気味に記述している(6)。こうした理論啓蒙と実践報告の反復自体が「広報」の理解不足・実践不足という実態にあまり変化がないことを示しているようにも見える。

 

2.2. 研究論文

 これだけ雑誌の特集が組まれているにもかかわらず、ここ10年、「広報」関係の研究文献レビューは見当たらず、研究論文自体が非常に少ないことに改めて気づかされる。研究論文の少なさの理由としては、研究者の間で「広報」への関心が高くない、広報研究者の絶対数が少ない、実務家は「広報」を研究対象とする意識に乏しい、本業が手一杯で論文を書く余裕がない、書く意欲や技能が不足している、などの事情が考えられる。

 注目すべき論文は4章以下で紹介する。

 

2.3. 啓蒙書・実務書

 「広報」に関する文献資料には、啓蒙書・実務書に区分される図書もある。「広報」をテーマとする単行本は、ここ10年では、私立大学図書館協会企画広報研究分科会編『図書館広報実践ハンドブック』(7)だけである。過去50年の範囲に広げても、代表的な図書として挙げられるのは他に4点があるにすぎない(8) (9) (10) (11)。平均して10年区切りの各年代で1冊ずつ刊行されたことになる。図書館界以外の実業界で「広報」関連の実務書が溢れているのと比べて、実にのんびりしたペースである感を否めない。これらの図書は、その時代の「広報」に関する理論と事例、企画・実施の留意点などの記述を含むので、図書館界の「広報」の歴史的な展開を振り返るための基本文献となっている。

 

2.4. 図書館利用教育関連図書

 「広報」を直接のテーマとしていなくても、「広報」に関する記述や文献紹介が載っている文献はある。代表例は、日本図書館協会図書館利用教育委員会による1989年以降の図書館利用教育に関する研究と実践の集大成であるガイドライン(12)とハンドブック(13)である。これらには、市民の情報利用者としての自立を支援するという図書館利用教育の理念と、5領域の目標と方法の一覧表、全体的な理念と長期的な展望を踏まえた部分的段階的な実施の手順が提示されている。特に、「印象づけ」を始めとする各領域における「広報」の方法手段の企画実施上の留意点に注目する必要がある。これらの図書に言及している文献も多く(14) (15) (16)、実践の指針として必読である。

 

2.5. テキスト・概説書

 図書館概論や図書館経営論のテキスト・概説書の中で、「広報」に関する章や節を設けている例がある。柳与志夫『図書館経営論』(17)、三浦逸雄監修『図書館情報学の地平』(18)、尼川ゆらほか『図書館を演出する』(19)などの該当章節を参照されたい。

 

2.6. 業務報告

 研究論文以外に、「広報」に関する記述を含む業務報告や事例報告等の関連記事は多数ある。また、報告の体裁を持つ文献のほかに、各館のホームページ等に掲載されている広報ツールの実物やその説明文などがある。これらを網羅的に紹介する紙幅はないが、いくつかを4章以下で紹介する。

 

3. 広報の定義

3.1. 「広義の広報」と「狭義の広報」

 図書館界には昔から広報活動という業務がある。しかし、広報という概念は依然としてきちんと理解されていない。広報とは文字どおり「広く報じること」であるという理解では、広報とは館報、利用案内、掲示、最近では電子メールやホームページなどの告知手段を企画・実施すること、すなわち「お知らせ」だということになってしまう。

 「お知らせ」の意味の「広報」の対概念として「広聴」を採用すると、広報と広聴を合わせたコミュニケーション活動の全体を指す上位概念を呼ぶ言葉に窮することになる。そこで、田中(20)は、狭義の広報と広義の広報の使い分けが必要と説く。

 しかし、理論上、広義と狭義を概念的に区別することはできるとしても、実際には両者の無造作な混用と無意識の混同が生じて、いつのまにか元の区別が無効になってしまう(21)。

 

3.2. PRという用語の誤解

 柳(22)は、「PRという言葉自体は、日本でも普及している。新しいサービスのPRが足りない、など日常的に図書館でも使われているはずだ。しかし、PR(Public Relations)の本来の意味を考えると、日本では長い間その一側面に、つまり、ある組織からその関係者や利用者への一方的なお知らせ・広報・宣伝の側面だけに偏りすぎていた感がある」と誤解を指摘し、「PR本来の目的は、ある組織(図書館)が、公衆・利害関係者との良好な関係を築くことによって、その経営目標の実現を容易にすること、つまり経営環境の整備にある」と正しい定義を解説している。つまり、広義の広報をPRと捉えれば、一方的な宣伝や世論操作ではなく、コミュニティ構成員に理解と共感を広め、参加と協力を促すために双方向性を重視しなければならない点が見えてくるはずである。柳は、1990年代から、こうした用語についての誤解を指摘し、正確な理解を求めてきた(23) (24)。

 しかし、それから20年近くを経ても、奥ゆかしい控え目さを美徳とする日本的な組織風土の中では、「広義の広報=PR=パブリック・リレーションズ」という世論形成手段としての本来の定義は、残念ながら受け入れられなかった。文献上も職場の日常的なコミュニケーションの中でも、用語の混乱が減っている形跡はない(25)。

 

4. 実践事例

 PRとしての広報という理解の上に立てば、利害関係者との関係の構築・強化を目指す図書館の活動は、そのまま広報活動という位置づけになる。その活動の中で利害関係者の五感に届くように企画制作されるイベントや方法手段、媒体そのものが直接間接の広報手段として捉え直すことができる。

 本章以下では、広義の広報(=本来のPR)という理解を前提として、関連する実践事例報告を仮に12区分に整理して紹介する。

 

4.1. サイン計画

 館内外のサイン(標示)という視覚媒体は、利用者誘導機能と並んで、その図書館のアイデンティティの印象付けという重要な広報機能を担っている。CI(コーポレイト・アイデンティティ)の理論については、1987年の高橋ら(26)のサイン計画の理論・事例の研究以来、成功と失敗の構図は現在も変わっていない。すなわち、新館建設計画の当初から図書館の現場が参画する体制がない、設計者の意向が優先される、建設日程が迫って計画変更ができない、開館後は一度取り付けた高価なサインは差し替えられない、など様々な現実的な理由によって、サイン計画は失敗に向かうという重い教訓が定式化されている(27)。しかし、成功と失敗を分ける教訓はなぜか十分活かされることが少なく、新館開館後に、無用な口頭質問を誘発し、掲示の重ね貼りによる誘導・案内機能の混乱を生んでいる全国各地の事例では、サイン計画は高額な費用に見合う効果を発揮していない(28)。

 

4.2. 情報リテラシー教育への支援による図書館の教育力の訴求

 大学では図書館という組織と職種としての図書館員の生き残りを賭けた取り組みが必要になってきた。大学の情報リテラシー教育の一環として、図書館が実施する図書館オリエンテーションやガイダンス(29) (30) (31) (32)、データベース検索演習会(33) (34)などが実施されている。こうした様々なイベントは、教育・研究に直接貢献することによって自らの存在理由を訴求したい図書館にとって、重要な広報機会となる。最近では、受講する学生だけでなく、引率する教員を唸らせるような質の高い例題の作り方にも関心が集まってきた(35)。従来教員の領域であった基礎教養科目の内容に踏み込んで、レポート作成セミナーを主催する例も報告されている(36) (37)。これらのイベント自体が図書館と図書館員の専門的力量を学内にアピールする機会となり、その事前事後の宣伝・報告が図書館評価の素材になる。

 

4.3. 図書館グッズによる話題づくり

 図書館界には、絵葉書やグリーティングカード、カレンダーなどを有料頒布したり、別枠の予算を立てることもなく印刷費や雑費という費目の中で比較的安価なグッズを無料配布してきた長い歴史がある(38) (39) (40) (41)。

 米国図書館協会(ALA)のALA Graphics Catalog(42)にはポスター、栞、Tシャツ、トートバッグ、エプロン、マグカップ、ピン、ボールペン、鉛筆などの通販図書館グッズが掲載されている。キャラクターの認知度の圧倒的な高さ、楽しさ、親しみやすさを見れば、PRツールとしての威力に異論はないであろう(43) (44)。日本でも私立大学図書館協会企画広報研究分科会が1984年から開始したポスターや栞、掲示用紙などの共同制作事業は10年後、1994年に日本図書館協会に移管されて継続制作され、その後「コニーちゃん」などの話題作が世に送り出された。当時の『図書館雑誌』に告知とカラーカタログが掲載されている(45)。さらに2000年の全国図書館大会沖縄大会で展示即売された日本図書館協会図書館利用教育委員会による「りてらしい」グッズの例がある。この間の歴史については武尾の報告論文を参照されたい(46)。最近のご当地キャラクターの流行に合わせるように、図書館界でも様々なキャラクターやグッズが制作・配布(頒布)されるようになった(47)。

 

4.4. 学生参加型企画による共感の拡大

 大学図書館にとって、学生利用者を運営参加者へと取り込むことは、図書館の利用促進と支援者拡大という広報=PRの目的達成に貢献する。学生参加の機会を提供すること自体が広報=PRの一環という位置づけになる。その事例として、大阪芸術大学における展示(48)、岡山理科大学の利用案内制作(49)、青森県立保健大学の図書館報編集(50)、流通科学大学の選書ツアー(51)、梅光学院大学の図書館サポーター制(52)、滋賀医科大学の学園祭共同企画(53)、筑波大学のボランティア活用(54)、和歌山県立医科大学のグッズの企画制作(55)などがある。また、児童図書室30周年記念事業として卒業生による絵と文、館員による編集で絵本を制作・刊行した北海道武蔵女子短期大学附属図書館の例がある(56)。

 

4.5. 展示というイベントの効果

 所蔵資料の公開によって、認知度や利用率を向上させるイベントとして、展示は有効である。展示イベントの宣伝自体が図書館の資料やサービスの宣伝となり、集客力向上の起爆剤になりうる。大学図書館の例としては、筑波大学(57)、東北大学(58) (59)、滋賀医科大学(60)、一橋大学(61)、天理大学(62)などの事例報告がある。最近は、新着図書の展示について書店の陳列法に学ぶという流れが目立つ(63)。

 

4.6. 機関リポジトリの宣伝

 大学図書館が広報を展開する格好の機会となったのが機関リポジトリである。そもそもそれまで存在しなかったものであるから、その普及のためには認知度向上のための宣伝に大学も図書館も積極的に取り組まざるをえないという事情がある。山形大学(64)、京都大学(65)、筑波大学(66)などの報告を参照されたい。注目するべき例として小樽商科大学の事例では、執筆者へのインタビュー結果をウェブで公開している(67)。また、国立情報学研究所(NII)のリポジトリCSI委託事業成果報告会では「草の根営業活動」などの報告がある(68)。

 

4.7. 利用教育教材によるイメージ革新

 広報を考える際に利用者教育の視点は欠かせない。図書館員のイメージ革新という課題については、旧来の倉庫番タイプから指導サービス専門家タイプへの転換を目標とするべきことが指摘されている(21)。映像教材の中で、この課題に挑戦した事例として、『図書館の達人』『新・図書館の達人』『情報の達人』等のライブラリービデオシリーズがある(69)。

 

4.8. インストラクター養成の企画実施

 図書館員の人員削減と業務の外部委託化という流れの中で、情報リテラシー教育への支援策を考えると、大学院生自身に後輩への指導を担ってもらうというアイデアが浮上してくる。早稲田大学所沢図書館のインストラクター養成計画の事例では、図書館側と教員側の両方の負担を増やさないで実現できそうな「苦肉の策」という面は否めないとはいえ、研究室ごとの固有文化の伝承という意味づけによって教員層の確実な支持を得る可能性が見出された(70)。図書館員が教員との協働のパートナーシップを得るには、専門的知識技能を積極的にアピールする必要があることが指摘されている(71)。

 

4.9. 有料広告の実施

 千代田図書館が2007年の開館日に合わせて地下鉄の車内広告を出した例は注目に値する(72)。日本の図書館界では無料で記事を掲載してもらうパブリシティの事例は多いが、有料の広告の事例は珍しい。マーケティングとPRに関する長年の理論研究の成果を、自ら館長に就任して実際に図書館現場で実現する機会を得た稀有な事例である(73)。

 

4.10. 地域貢献による好感度向上

 大学図書館の地域公開の例として、広島大学では、寄付を募り、一定金額以上寄付した人に図書館の「フレンドリー利用証」をプレゼントしている(74)。聖路加看護大学では、看護師・看護教員と図書館員が一緒になって市民への健康情報の提供を行っている(75)。栃木県の小山市立中央図書館では農業支援のために朝市を開催している(76)。こうした事業は、図書館の認知度・好感度を高めるための効果的なPR活動となる。

 

4.11. 図書館統廃合に反対するための世論喚起

 行政側の政治的判断に影響力を持つために利用者・支援者・後援者の結束を強化することは、広報の目的のひとつである。特に、図書館の統廃合という切迫した状況にある場合、広報活動の成否は文字どおり死活問題になる。最近の事例として、大阪府の大阪社会運動資料センター(77) (78) (79)や、大阪府立女性総合センター情報ライブラリー(80)などが挙げられる。図書館界が学ぶべき教訓としては、味方づくりのための広報=PR活動を常日頃からより意識的により積極的に行っておくべきだということにある。

 

4.12. その他の注目すべき取り組み

 コンシェルジュという異業種の職種名は、図書館界ではレファレンスサービスの概念の拡張深化の方向性を示している(81)。その服装や名札、応接方法などの点で新しい専門職イメージの訴求の可能性を切り開くか注目に値する。

 北海道旭川市図書館では、旭川ケーブルテレビ「ポテト」という局で「本ワカ図書館」という番組枠を持ち、館員が企画・出演していたというユニークな事例がある(82)。

 図書館ねこデューイ(E574 [202]参照)の絶大なPR効果(83)に倣って、図書館へ迷い込んだカモシカをキャラクターとして押し出し、ホームページ上での宣伝のほか、主人公にして図書を刊行したカモシカ図書館の例がある(84)。

 また、従来広報媒体とは見なされていなかったアンケート調査の記入票や集計結果報告書や、大量に印刷配付される帳票類を、広報・利用者教育の有力な媒体として見直し仕立て直すという視点も提示されている(85) (86)。

 

5. 関連する分野の研究動向

 広報=PRに関連する分野の理論研究としては、以下の4つの区分を取り上げて紹介する。

 

5.1. マーケティング

 広報手段としての広告とパブリシティを考えるには、対象者の明確化という課題がある。そこで、もうひとつの理論的枠組みとしてマーケティングが必要になる。柳は、いくつかの重要な指摘を行っている。例えば、「セグメント化」というキー概念について、現在の公共図書館にあるのは「図書館員による感覚的な利用者類型」にすぎないとし、「必要な人は誰でも使ってほしいというのは、セグメント化でも標的化でもない」と批判し、その背景を「単に公共図書館に利用者をセグメント化する技術や概念がないからという問題ではなく、もっと根源的な問題、つまり利用者の明示的な選別を忌避しようとする、マーケティングの本格的適用の成否に関わる重要な要因が潜んでいる」と指摘している(87)。

 図書館界では、経営評価の導入の流れの上で、原理論の研究の蓄積と導入事例がある(88) (89)。課題を整理した研究があり(90) (91) (92) (93)、調査分析の方法論についての研究成果も公表されている(94) (95) (96)。また、広報とマーケティングとの関連についての問題提起がある(97)。中でも、独自のマーケティングによって新しい顧客セグメントを発見し、年会費制の図書館というコンセプトを導入した六本木ライブラリーの存在感は際立っている(98)。指定管理者制度で運営される図書館として、画期的な広報活動を展開してきた山中湖情報創造館(99) (100) (101)と千代田図書館(73) (102) (103) (104) (105) (106)の事例は注目される。

 他方、人材や知識に乏しい大多数の中小図書館にとって、問題はそうした本格的なマーケティング手法をどう導入すればよいのかという点にある。ひとつの方向性として、「プランニング・プロセス」という標準手順の考え方が提示されており(107)、パッケージツール化という方法論による研修の実施事例がある(108)。

 

5.2. ステークホルダー

 ステークホルダー(stakeholders)論が図書館界でも盛んになってきた。日本図書館情報学会研究委員会編『図書館の経営評価』(109)には、顧客評価や満足度評価、サービス品質評価やパフォーマンス指標、アウトカム評価(成果評価)など図書館経営計画の立案のための様々な図書館評価の手法が紹介されている。図書館を取り巻く利害関係者との友好的な関係を構築するべきという主張は、すでに『全国公共図書館研究集会報告』(1955)に「図書館のもつ機能を一般民衆に理解してもらうばかりでなく、さらに民衆が図書館を支持し、積極的に利用されるように努力する活動である」という定義が記載されており(110)、石井敦『PRと図書館報』(1967)もその定義を推奨していた(111)。

 本来、こうした評価手法は、ステークホルダーに対して戦略的PRの視点でアピールすることを重要な目的としている。内部的な自己評価の指標として使うだけで終わらせることなく、外部資金獲得に積極的に取り組む明治大学図書館の事例が注目される(112)。今後は、資金調達との関連で「アドヴォカシー」という視点も注目される(CA1646 [203]参照)(113)。

 

5.3. 図書館グッズ

 図書館の広報=PR史上、地下鉄の車内広告を出した千代田図書館の例は確かに画期的である。ただし、有料の方法手段は、広告だけではないことに留意したい。外部へ予算を支出するという意味では、販売促進(プロモーション)という目的のための物品配付という方法も忘れてはならない。

 従来研究対象ではなかった図書館グッズを研究テーマに取り上げた共同研究がある。図書館サービス計画研究所(図サ研)の有志による図書館サービス・ツール研究会(LiGLAB)はTLA 助成金を得てグッズの国内外の動向、文献、作成方法に関する調査研究を行い、その結果、図書館の広報、利用者教育、展示などを次のレベルへ引き上げる取り組みの起点としてグッズを活用するという戦略の可能性を見出した(114) (115)。同研究会は研究成果を2009年の図書館総合展のフォーラムで発表し、その経緯を報告論文にまとめた(116)。

 

5.4. ブランディング

 「ブランディング」という視点の導入にも注目が集まっている。米国における「図書館のブランド戦略」についてはニューヨーク公共図書館の事例を紹介した菅谷の著書に詳しい(117)。日本では、三重大学附属図書館のブランド化戦略が注目される(118) (119)。

 現場の実践との連携を強く意識した研究活動としては、図書館サービス計画研究所が山中湖フェス2010を開催し(120)、図書館総合展2010でもフォーラムを予定している(121)。

 

6. 今後の課題と展望

 図書館界で生産された広報関連文献といくつかの事例を見るかぎりでは、広報理論として、実業界から評価されるような独自の理論展開はほとんどないと考えざるをえない。総じて、米国由来の理論であるPRに関しては、理論研究面で日本全体が欧米に遅れを取っている中で、その日本において図書館界が実業界から大きく立ち遅れているという構図である。日本の図書館界では、一方に欧米の最新理論を紹介する啓蒙文献の生産があり、他方にその理論との関連が必ずしも明確でない現場実践報告が延々と反復されているという印象を拭えない。

 しかし、だからといって、図書館現場での広報活動の価値が低いということにはならない。確かな問題意識で現場の切実な問題と格闘する中で、創意工夫を重ねながらオリジナルな理論を構築していくこと自体に、実践的な価値が十分にあるはずである。

 最後に、図書館広報の研究と実践の今後に向けて課題と展望をまとめておく。

 

6.1. 表現力の向上

 広報の実務レベルでは、欧米の最新理論の研究と学習とは別に、広報手段の企画・制作に関する実用的技能への強いニーズがある。図書館員が作成する各種の広報媒体、配付資料、スライド、ビデオ教材などが魅力的でわかりやすいかと自問すれば、基本的な知識技能が欠けているという事実を否めない(122)。司書課程では資料としてのメディアの選択・収集・管理については学んだとしても、手段としてのメディアをどう作るかはほとんど習ったことがないため、広報活動に必要な表現力という大きな弱点を図書館員がどう克服するかという難題が浮上している(123) (124) (125)。こうしたニーズに対応する研修も多数実施されている。例えば「行列のできる講座」の牟田静香氏を外部講師として招く研修会について多数の報告がある(126) (127) (128)。

 

6.2. 戦略的PR

 「広報=お知らせ」から「広報=PR=パブリック・リレーションズ」へと認識を改めて、ステークホルダーとの良好な関係を構築し維持し発展させるという本来の「広報」概念を図書館界がしっかり共通認識にすることが必要である。従来のように各広報手段を単発で企画制作するのではなく、話題の増幅や印象の定着を目指してメディアミックスによる相乗効果を仕掛けることが重要になる。そうした考え方は戦略的PRと呼ばれる。キーワードは「双方向性」であることが指摘されている(129)。図書館界でもこれを意識的に応用実践した例がある(130)。こうした理論的実践的な課題に焦点を当てて現職者向けに広報戦略講座を提供する明治大学の司書課程の例がある(131)。

 

6.3. 情報共有の仕組みづくり

 図書館員研修でよく受ける質問のひとつに、「広報の具体的な方法にはどんなものがあるか」というのがある。そこで「『図書館広報実践ハンドブック』は読みましたか?」と聞き返すと、「知らなかった」という答が返ってくる。図書館員が自分の図書館の蔵書を仕事や自己研鑽に本気で活用しているのかどうかという疑問が提出されている(132)。とはいえ、読む時間がないほど多忙な職場状況を勘案すれば、何らかの学習支援の仕組みがあったほうがよいという指摘があり(133)、すでに私立大学図書館協会企画広報研究分科会がツール共有の仕組みを提案している(134) (135) (136)。図書館員の苦境を跳ね返すには、共同利用型の広報ウェブツールの研究開発の場が必要である(137)。

 

6.4. 人材養成

 ステークホルダーに対して図書館員の高度な専門性を印象付けることができる分野として情報リテラシー教育を挙げるとした場合、情報リテラシー教育に強い図書館員はどのように養成されるのかという問題提起がある(138)。また広報についても、理論研究との関連はともかく、「広報」関連の勉強会や研修会は全国各地で開かれ、理論や先進事例の学習機会が提供されている。問題は、研修の成果が本当に現場に還元されているのかという点である(132)。一般館員が研修に参加してサービス改善のためのアイデアを成果として持ち帰っても、管理職が保守的・保身的であれば身も蓋もない。管理職者のメンタリティを変えるための研究と実践のセミナーの記録は多くの示唆を含む(139)。さらに、広報業務を担当する非正規職員も増加しているという実態を勘案して、従来の専任職員向けの研修のありかたを再考する必要が出てきた点も注目に値する(140) (141) (142) (143)。

 

7. おわりに

 文献情報は各種索引データベースである程度までは収集可能ではあるが、現場の実践についての情報を網羅的に収集することは困難である。本稿で紹介した事例は全国的な実践情報のほんの一部にすぎない。広報関係の文献と実践事例の情報を整理するレビューのあとに、それらの情報を共同利用可能な状態でウェブ公開するという研究開発の課題が残されている。本稿が図書館界の広報の進化の一助となれば幸いである。

帝京大学:仁上幸治(にかみ こうじ)

 

(1) 特集, メディア、店頭で話題をつくる 戦略PRの本質. 広報会議. 2010, (18), p. 53-73.

(2) 特集, メディアに出れば世界が変わる マスコミに注目される会社になる. 広報会議. 2010, (19), p. 41-63.

(3) 特集, ステークホルダーが必ず手に取る 読まれる広報誌の作り方. 広報会議. 2010, (19), p. 79-101.

(4) 仁上幸治. 特集, 図書館アピール: 何を誰にどう訴えればよいのか. 専門図書館. 2010, (239), p. 2-7.

(5) 特集, 図書館のPR活動を考える. 図書館雑誌. 1993, 87(10), p. 717-741.

(6) 特集, 図書館を見せる: 特集にあたって. 図書館雑誌. 2010, 104(4), p. 201.

(7) 私立大学図書館協会東地区部会研究部企画広報研究分科会編. 図書館広報実践ハンドブック : 広報戦略の全面展開を目指して. 2002, 303p., (企画広報研究分科会活動報告書, 4).

(8) 石井敦編. PRと図書館報. 日本図書館協会, 1967, 220p., (図書館の仕事, 22).

(9) 図書館学研究会. 大学図書館におけるPR活動. 1978, 44p.

(10) 私立大学図書館協会図書館サービス研究分科会広報グループ. 図書館広報を考えなおす : 戦略への脱皮をめざして. 1982, 186p.

(11) 西田清子. 図書館をPRする. 日本図書館協会, 1997, 175p., (図書館員選書, 13).

(12) 日本図書館協会図書館利用教育委員会編. 図書館利用教育ガイドライン : 図書館における情報リテラシー支援サービスのために. 合冊版, 日本図書館協会, 2001, 81p.

(13) 日本図書館協会図書館利用教育委員会編. 図書館利用教育ハンドブック. 大学図書館版, 日本図書館協会, 2003, 209p.

(14) 仁上幸治. 情報リテラシー教育と新しい図書館員像 : 『新・図書館の達人』から『図書館利用教育ガイドライン』まで. 館灯. 2003, (41), p. 39-52.

(15) 山崎由紀子. 図書館利用教育ハンドブック-大学図書館版. 看護と情報 : 看護図書館協議会会誌. 2004, (11), p. 103-104.

(16) 松本直子ほか. 聖路加看護大学図書館における利用教育サービス : 5年の評価. 看護と情報 : 看護図書館協議会会誌. 2008, (15), p. 54-59.

(17) 柳与志夫. 図書館経営論. 学文社, 2007, 154p., (図書館情報学シリーズ, 2).

(18) 阪田蓉子. “図書館PR”. 図書館情報学の地平 : 50のキーワード. 三浦逸雄監修. 日本図書館協会, 2005, p. 269-274.

(19) 尼川ゆらほか. 図書館を演出する : 今、求められるアイデアと実践. 人と情報を結ぶWEプロデュース, 2010, 97p.

(20) 田中均. 特集, 図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?: 総論 図書館における広報. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 284-288.

(21) 仁上幸治. 特集, 図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?: 学術情報リテラシー教育における広報イメージ戦略-司書職の専門性をどう訴求するか-. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 310-317.

(22) 柳与志夫. 図書館経営論. 学文社, 2007, p. 119, (図書館情報学シリーズ, 2).

(23) 柳与志夫. 図書館におけるマーケティングとパブリック・リレーションズの適用 : その理論的枠組と図書館経営上の意義 (I). 図書館学会年報. 1991, 37(4), p. 153-165.

(24) 柳与志夫. 図書館におけるマーケティングとパブリック・リレーションズの適用: その理論的枠組と図書館経営上の意義 (II). 図書館学会年報. 1992, 38(1), p. 1-18.

(25) 筆者による講演の参加者アンケートの中に「広報というのは"PR"というお言葉…目からうろこでした」という感想がしばしば書かれることがその証拠である。例えば、下記の報告書がある。
“旭川医科大学図書館主催/旭川市図書館共催講演会「図書館をもっと元気に!-“グッズ”活用による新発想広報のすすめ-」実施報告書”. 旭川医科大学図書館. 2010-02-01.
http://acesv.asahikawa-med.ac.jp/info/news-2009-017_houkoku.pdf [204], (参照 2010-09-13).

(26) 高橋昇ほか. 新図書館とサインシステム計画. 早稲田大学図書館紀要. 1987, (27), p. 58-90.

(27) 平岡健次ほか. 大学図書館のサイン 現状分析と一考察 : 利用者の視点に立った改善の進め. 私立大学図書館協会会報. 1999, (112), p. 97-109.

(28) 尾形鏡子. 特集, 魅力ある図書館づくり: 愛知県立看護大学附属図書館における掲示・誘導案内・サインについて. 看護と情報 : 看護図書館協議会会誌. 2007, (14), p. 48-49.

(29) 石川敬史ほか. 大学図書館における新入生オリエンテーションの実証的考察 : 創造的な新入生オリエンテーションの設計に向けて. 図書館情報学研究. 2003, (2), p. 23-37.

(30) 石川敬史ほか. 新入生オリエンテーションの研究と実践 : 情報リテラシー教育研究分科会第一期最終報告. 私立大学図書館協会会報. 2004, (122), p. 169-174.

(31) 仁上幸治. 特集, オリエンテーション: オリエンはエンタメだ!-素敵な印象を伝えるプレゼンテーションを-. 学図研ニュース. 2005, (229), p. 2-5.

(32) 仁上幸治. 特集, 情報リテラシー・サービス: 大学図書館員のためのオリエンテーション技法-印象づけを重視した構成・演出の改善の試み-. 医学図書館. 2005, 52(1), p. 15-24.

(33) 藤村三枝. どうすれば伝わるのか-効果的な広報とは? : 「日経BP記事検索サービス大学版」での実践を通して. 医学図書館. 2009, 56(2), p. 136-140.

(34) 辰野直子. 特集, 第15回医学図書館研究会・継続教育コース: 教養教育における情報リテラシー講習会の試み. 医学図書館. 2009, 56(2), p. 141-144.

(35) 仁上幸治. “情報検索指導における良い例題・悪い例題(初級編)-素材を集め,問題を作り,要点を説明する方法-”. 情報リテラシー教育の実践-すべての図書館で利用教育を-. 日本図書館協会図書館利用教育委員会編. 日本図書館協会, 2010, p. 88-108, (JLA図書館実践シリーズ, 14).

(36) 米澤誠. 特集, 第13回医学図書館研究会・継続教育コース: レポート作成を起点とした情報リテラシー教育の試み. 医学図書館. 2007, 54(2), p. 160-165.

(37)“レポート・論文作成「超」実用講座~第1回 即効入門編~を開催します”. 帝京大学. 2010-07-13.
https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/tos9.html#e201004 [205], (参照 2010-09-03).

(38) 梅澤貴典. 特集, 図書館の経営経済分析と資金調達: アメリカの大学図書館における資金調達. 情報の科学と技術. 2008, 58(10), p. 511-516.

(39) フォード, バーバラ. “アメリカの見地からの図書館アドヴォカシー”. 米国の図書館事情2007 : 2006年度国立国会図書館調査研究報告書. 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本図書館協会, 2008, p. 56-64, (図書館研究シリーズ, 40).
http://current.ndl.go.jp/node/14439 [206], (参照2010-09-13).

(40) 特集, 図書館グッズ―私の創意工夫. 学図研ニュース. 2009, (281), p. 2-12.

(41) 特集, ライブラリー・グッズ. 大学の図書館. 2009, 28(5), p. 70-80.

(42) ALA Graphics Catalogは、年3回更新されており、以下のサイトで最新版をダウンロードできる。
ALA store.
http://www.alastore.ala.org/catalog.aspx [207], (accessed 2010-09-07).

(43) 仁上幸治. 特集, ライブラリー・グッズ: グッズが図書館を元気にする!-暗い状況でも楽しめる最強秘密兵器-. 大学の図書館. 2009, 28(5), p. 70-75.

(44) 仁上幸治. 広報活動における相互協力の拡大-ポスター・本の栞の共同制作の歩み-. 私立大学図書館協会会報. 1986, (86), p. 65-100.

(45) 『図書館雑誌』の綴じ込み広告とカラーカタログは、以下の号などに掲載された。綴じ込み広告:『図書館雑誌』1994年12月号(88巻12号)、『図書館雑誌』1995年1月号(89巻1号)、カラーカタログ:『図書館雑誌』1999年5月号(93巻5号)。

(46) 武尾亮ほか. 特集, 図書館のサービスを知ってもらうために : 効果的な広報とは: 共同制作からはじめる図書館広報グッズの作成 : 創造的な活用と共有をめざして. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 12-22.

(47) 渡辺ゆきの. 特集, 図書館を見せる: 図書館キャラクターミニ図鑑. 図書館雑誌. 2010, 104(4), p. 214-216.

(48) 多賀谷津也子. “利用者が参加できる図書館づくり:コラボレーションの力”. 図書館を演出する : 今、求められるアイデアと実践. 人と情報を結ぶWEプロデュース, 2010, p. 41-70.

(49) 坪井昭訓. 学生と共同制作した利用案内 : 岡山理科大学図書館の事例について. 大学図書館問題研究会誌. 2008, (31), p. 1-5.

(50) 小野由美. 図書館報の発行と企画展示 : 教員と学生の協力を得て行う広報活動. 医学図書館. 2009, 56(1), p. 57-60.

(51) 槻本正行. 学生参加型企画の試み-学生満足度の向上と図書館活動のPR. 私立大学図書館協会会報. 2008, (130), p. 223-230.

(52) 永見昌代. 特集, 学生の力(パワー): 梅光学院大学図書館サポーターについて : 学生による学生のための図書館広報宣伝活動. 大学の図書館. 2009, 28(7), p. 131-133.

(53) 辰野直子ほか. 特集, これからの医学図書館: 図書館を身近に感じてもらうために : 滋賀医科大学学園祭(若鮎祭)海堂尊講演会とタイアップした学生との協働による企画. 医学図書館. 2009, 56(1), p. 39-44.

(54) 大久保明美. 筑波大学附属図書館における図書館ボランティアの活動成果と今後. 大学図書館研究. 2005, (75), p. 71-80.

(55) S@MRY. 栞のテーマ. 図書館報みかづら. 2008, (11), p. 7.
http://opac.wakayama-med.ac.jp/mikazura/mikadura11.pdf [208], (参照 2010-09-13).

(56) ふかおりえ. はなうさちゃんのえほんとしょかん. 北海道武蔵女子短期大学附属図書館, 2006.

(57) 篠塚富士男. 特集, わが図書館のコアコンピタンス: 大学図書館における展示会活動 : 図書館展示の分析および筑波大学附属図書館の事例報告. 大学図書館研究. 2007, (80), p. 43-53.

(58) 木戸浦豊和ほか. 特集, わが図書館のコアコンピタンス: 展示会からはじまる大学図書館の新たな可能性. 大学図書館研究. 2007, (80), p. 33-42.

(59) 米澤誠. 特集, 図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?: 広報としての図書館展示の意義と効果的な実践方法. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 305-309.

(60) 菅修一ほか. 滋賀医科大学附属図書館資料展示会「湖国の医史:先人たちの活躍を知る」報告 : 企画から開催まで. 医学図書館. 2009, 56(2), p. 161-166.

(61) 木下恭子ほか. 一橋大学企画展示「都留重人と激動の時代」-都留資料を整理して-. 大学図書館研究. 2006, (77), p. 12-20.

(62) 三濱靖和. 天理図書館の貴重書とその公開:展覧会を中心に. 大学図書館研究. 2006, (77), p. 41-50.

(63) 特集, 図書館の排架とサイン計画. 図書館雑誌. 2005, 99(3), p. 152-169.

(64) 中村三春. 大学コンソーシアムやまがたの活動と「ゆうキャンパスリポジトリ」. 情報管理. 2008, 51(1), p. 55-65.

(65) 筑木一郎. 図書館は出版社になる : 電子ジャーナル出版支援および大学広報としての京都大学学術情報リポジトリ事業. 大学図書館研究. 2009, (85), p. 63-73.
http://hdl.handle.net/2433/85000 [209], (参照 2010-09-13).

(66) 斎藤未夏. 研究者の2つの側面にアプローチする~筑波大学附属図書館におけるプロモーション活動~. 日本農学図書館協議会誌. 2010, (158), p. 12-14.

(67) “Barrel”. 小樽商科大学.
http://barrel.ih.otaru-uc.ac.jp/ [210], (参照 2010-09-03).

(68) “平成20年度CSI委託事業報告報告会”. 国立情報学研究所. 2009-08-26.
http://www.nii.ac.jp/irp/event/2009/debrief/ [211], (参照 2010-09-03).

(69) 仁上幸治. 『図書館の達人』から『情報の達人』へ―利用者教育映像教材の進化15年の集大成―. 図書館雑誌. 2007, 101(4), p. 238-239.

(70) 仁上幸治. 文献調査法の専門分野別最先端情報の共有へ向けて-研究室内知識伝承者を養成するインストラクター講習会の試み-. ふみくら. 2008, (77), p. 4-5.
http://www.wul.waseda.ac.jp/Libraries/fumi/77/77-04-05.pdf [212], (参照 2010-09-03).

(71) 長澤多代. 情報リテラシー教育を担当する図書館員に求められる専門能力の一考察 : 米国のウエイン州立大学の図書館情報学プログラムが開講する「図書館員のための教育方法論」の例をもとに. 大学図書館研究. 2007, (80), p. 79-91.

(72) 柳与志夫. 千代田図書館とは何か. ポット出版, 2010, p. 110.

(73) 柳与志夫. 公共図書館の変革:新千代田図書館の試み. 情報管理. 2007, 50(8), p. 492-500.

(74) 板谷茂. 特集, 社会連携: 広島大学図書館の社会貢献事業 : 「図書館フレンドリー利用証」と「地域交流プラザ」. 大学図書館研究. 2006, (76), p. 15-20.

(75) 菱沼典子ほか. 看護大学が市民に開いた健康情報サービススポットの広報活動. 聖路加看護学会誌. 2007, 11(1), p. 76-82.
http://arch.slcn.ac.jp/dspace/handle/10285/800 [213], (参照 2010-09-13).

(76) 小山市立中央図書館. 特集, 知識基盤社会における図書館の在り方を探る : 公立図書館はどのようにして人々の生活を豊かにするのか: 「再チャレンジ」を支援する図書館. 社会教育. 2009, 64(2), p. 20-23.

(77) 谷合佳代子. いま、最前線 労働 大阪の社会・労働関係の専門図書館が潰されようとしています!. 飛礫. 2008, (59), p. 101-103.

(78) 谷合佳代子. 特集, [平成20年度専門図書館協議会]全国研究集会 京都からのメッセージ--成長するライブラリアンへ: 大阪社会運動資料センターと大阪府労働情報総合プラザの取り組み : 図書館の廃止と統合、将来展望. 専門図書館. 2008, (232), p. 29-35.

(79) 谷合佳代子. 小規模図書館奮戦記(その148) (財)大阪社会運動協会大阪産業労働資料館 働く人々の歴史を未来に伝える図書館「エル・ライブラリー」 : 開館4か月を過ぎて. 図書館雑誌. 2009, 103(4), p. 243.

(80) 木下みゆき. 特集, [平成20年度専門図書館協議会]全国研究集会 京都からのメッセージ--成長するライブラリアンへ: 大阪府立女性総合センター情報ライブラリーの取り組み. 専門図書館. 2008, (232), p. 36-41.

(81) 福井京子. いま求められる図書館員 : コンシェルジュとしての図書館員. 大学図書館問題研究会誌. 2008, (31), p. 17-24.

(82) “圏域動画ライブラリ(Link)”. 上川中部圏ポータルサイト.
http://www3.city.asahikawa.hokkaido.jp/movie/02_asahikawa.html#toshokan [214], (参照 2010-09-14).

(83) 呑海沙織. 図書館ねこデューイとパブリック・リレーションズ. 情報管理. 2009, 52(2), p. 106-109.

(84) 魚瀬ゆう子ほか. カモシカとしょかん. 舟橋村, 2009.

(85) 仁上幸治. 軽いノリと少しの勇気―利用者満足度調査は自信と希望の証―. 図書館雑誌. 2002, 96(11), p. 872-875.

(86) 仁上幸治. ライブラリアンのための広報戦略マニュアル-専門性を訴求する5つのポイント-. 専門図書館. 2007, (225), p. 88-93.

(87) 柳与志夫. 知識の経営と図書館. 勁草書房, 2009, p. 66, (図書館の現場, 8).

(88) 小竹悦子. 特集, 図書館経営: 図書館マーケティング. 大学の図書館. 2001, 20(5), p. 71-74.

(89) 塩崎亮. 公共図書館へのマーケティング概念導入の意義 : 「公共性」に基づく外部環境適応の視座. Library and Information Science. 2001, (45), p. 31-71.

(90) 戸田光昭. 特集, 図書館とマーケティング: 図書館とマーケティング : これからの情報サービスにおける課題. 専門図書館. 2003, (203), p. 1-8.

(91) 小林麻実ほか. 特集, 図書館とマーケティング: 誌上シンポジウム 図書館とマーケティング. 専門図書館. 2003, (203), p. 9-24.

(92) 松本功. 特集, 図書館とマーケティング: 公共図書館にとってのビジネス支援図書館というコンセプトが生まれるまで. 専門図書館. 2003, (203), p. 25-29.

(93) 石井保志. ハイブリッド図書館時代のマーケティング戦略 : 図書館サービス促進の視点と実践例. 情報管理. 2004, 46(10), p. 647-653.

(94) 南俊朗. 利用者指向サービスのための館内マーケティング. 九州情報大学研究論集. 2006, 8(1), p. 15-33.

(95) 南俊朗. 図書館マーケティングのすすめ : データ分析による利用者サービス向上. 九州大学附属図書館研究開発室年報. 2008/2009, p. 11-20.

(96) 上岡真紀子. 特集, インフォプロのための企画・立案: 利用者調査の結果を活かす : マーケティングの視点から. 情報の科学と技術. 2009, 59(10), p. 492-497.

(97) 藤江俊彦. 特集, 図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?: 新たなパラダイムでの図書館広報とマーケティング. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 289-292.

(98) 小林麻実. 特集, 図書館アイデンティティ: アカデミーヒルズ六本木ライブラリーのアイデンティティ. 情報の科学と技術. 2006, 56(2), p. 52-57.

(99) 丸山高弘. 特集, 図書館の運営: 山中湖情報創造館 : 日本初、指定管理者制度による公共図書館. 専門図書館. 2004, (208), p. 10-18.

(100) 吉井潤. 特集, 自治体における施設管理: NPOによる指定管理者制度 : 山中湖情報創造館の運営実績と課題. 都市問題研究. 2007, 59(8), p. 85-102.

(101) 指定管理者制度最前線 山中湖情報創造館 情報収集と発信拠点としてこれからの図書館像を模索. 指定管理. 2008, (18), p. 14-17.

(102) 丸山修. プレミアムレポート 公共図書館の構造改革 生まれ変わった新・千代田図書館 : 午後10時までの開館で注目!. 社会教育. 2007, 62(6), p. 16-18.

(103) 小形亮ほか. 座談会 三社で指定管理者制度スタート 話題の千代田図書館に行ってみた. ず・ぼん. 2007, (13), p. 38-53.

(104) 沢辺均. 特集, 指定管理の現場: インタビュー 柳与志夫 前千代田図書館長 : 公共図書館の新しいモデルをつくりたかった. ず・ぼん. 2008, (14), p. 62-87.

(105) 導入・運営実態 千代田図書館 公共図書館の常識を破り、調査・研究を目的とする“滞在型図書館”に挑む : ヴィアックス・SPSグループ. 指定管理者制度. 2009, (35), p. 31-36.

(106) 柳与志夫. 千代田図書館とは何か─新しい公共空間の形成. ポット出版, 2010, 197p.

(107) 仁上幸治. 図書館マーケティングとプランニング・プロセス論―経営革新をめざす「実行可能な方法」の開発と導入―. 専門図書館. 2002, (192), p. 8-18.

(108) “ライブラリ・コネクト・ワークショップ2010 図書館マーケティング (Library Marketing)”. エルゼビア・ジャパン.
http://japan.elsevier.com/news/events/lc2010/ [215], (参照 2010-09-07).

(109) 日本図書館情報学会研究委員会編. 図書館の経営評価:パフォーマンス指標による新たな図書館評価の可能性. 勉誠出版, 2003, 170p., (図書館情報学のフロンティア, 3).

(110) 日本図書館協会公共図書館部会編. 全国公共図書館研究集会報告. 日本図書館協会, 1955, p. 22.

(111) 石井敦. PRと図書館報. 日本図書館協会, 1967, p. 11-12, (図書館の仕事, 22).

(112) 中林雅士. “外部資金獲得と図書館マネージメント”. 私立大学図書館協会.
http://www.jaspul.org/e-kenkyu/el-ken-b/shiryo/090199_nakabayashi.pdf [216], (参照 2010-09-07).

(113) 福田都代. 特集, 図書館の経営経済分析と資金調達: 図書館財政と資金調達の最新動向. 情報の科学と技術. 2008, 58(10), p. 486-491.

(114) “「平成21年東京都図書館協会研究助成報告書」 完成”. 図書館サービス・ツール研究会. 2010-02-23.
http://library-tools.blogspot.com/2010/02/21.html [217], (参照 2010-09-07).

(115) 石川敬史. 特集, 図書館を見せる: 図書館グッズに関するツクル・ツカウの調査. 図書館雑誌. 2010, 104(4), p. 205-207.

(116) 仁上幸治ほか. 笑顔を生み出す“魔法”の戦略ツール-図書館グッズの研究・開発・普及活動-. 薬学図書館. 2010, 55(2), p. 94-101.

(117) 菅谷明子. 未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―. 岩波書店, 2003, 230p.
特に「図書館のブランド戦略」(p. 176-184)参照。

(118) 杉田いづみ. 大学図書館を取り巻く環境変化と図書館の広報戦略―図書館サービスのブランド化を目指して―. 館灯. 2007, (45), p. 1-7.

(119) 柴田佳寿江ほか. 特集, わが図書館をブランドにするために!: 三重大学附属図書館のブランド化戦略 : 広報誌のリニューアルを中心に. 大学の図書館. 2008, 27(9), p. 183-185.

(120) “トサケンセミナー in 山中湖 図書館ブランディングフェスタ2010―グッズ企画開発のためのデザイン会議―”. 山中湖情報創造館.
http://www.lib-yamanakako.jp/event/tosaken2010.html [218], (参照 2010-09-07).

(121) “図書館総合展2010 トサケンフォーラムの開催決定!”. 図書館サービス計画研究所. 2010-09-14.
http://tosaken.blogspot.com/2010/09/20102010914.html [219], (参照 2010-09-14).

(122) 仁上幸治. 図書館広報はなぜ読みにくいのか(中級編)-レイアウト改善の5つのポイント-. 館灯. 2009, (47), p. 124-129.

(123) “第13回「図書館利用教育実践セミナー」【in京都】の報告”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/cue/friday13_f.html [220], (参照 2010-09-07).

(124) “私立大学図書館協会東地区部会研究部研修分科会 月例会配布資料 第2回7月10日(金)”. 私立大学図書館協会.
http://www.jaspul.org/e-kenkyu/el-ken-b/getsureikai0902.html [221], (参照 2010-09-07).

(125) 野末俊比古. 第11回図書館総合展にてフォーラムを開催―「伝える技術と方法」について考える機会に. 図書館雑誌. 2010, 104(4), p. 195.

(126) 牟田静香. 特集, 図書館界以外の方に訊く: 人気講座企画担当者の「広報」. 専門図書館. 2006, (221), p. 2-6.

(127) 牟田静香. 2008年度 [私立大学図書館協会]東地区研究部 研究会 行列のできる講座とチラシの作り方. 私立大学図書館協会会報. 2009, (132), p. 84-87.

(128) 牟田静香. 特集, [平成21年度専門図書館協議会]全国研究集会 チェンジ!!新たな専門図書館をめざして: 人が集まる図書館広報の工夫. 専門図書館. 2009, (237), p. 63-66.

(129) 呑海沙織. 特集, 図書館を見せる: 図書館をみせる―双方向のパブリック・リレーションズに向けて―. 図書館雑誌. 2010, 104(4), p. 202-204.

(130) 作野誠. 特集, 図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?: 図書館広報戦略構築の取組. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 293-298.

(131) “実践的ビジュアル・コミュニケーション論”. 明治大学リバティ・アカデミー.
https://academy.meiji.jp/shop/commodity_param/ctc/30/shc/0/cmc/10230023/ [222], (参照 2010-09-07).

(132) 仁上幸治. なぜ研修の成果が出ないのか-現場で活かすための7つの秘訣-. 館灯. 2009, (47), p. 46-54.

(133) 仁上幸治. ホ-ムペ-ジ上に「万能道具箱」を!―情報リテラシー支援装置としての上部団体の役割―. 大学図書館研究集会記録. 2002, (18), p. 91-99.

(134) 秋山朋子ほか. 図書館広報手段と「Lib.PR:図書館広報実践支援サイト」の立ち上げについて : 図書館のベンリ!を利用者に伝える. 私立大学図書館協会会報. 2006, (126), p. 148-154.

(135) 石川敬史ほか. 学んだ知識とヒントを活かすのは実践力! : すぐできることから主体的に(「図書館広報実践講座」報告). 図書館雑誌. 2007, 101(11), p. 769-770.

(136) 石川敬史ほか. 図書館広報活動の共有化と相互支援 : 現場の力を活かし可能性を探る. 私立大学図書館協会会報. 2008, (130), p. 156-162.

(137) 仁上幸治. 特集, 大学図書館界の新しい“芽”: せめて大江戸一家の心意気で-トサケンは司書職の「奇跡のV字回復」を目指す-. 大学の図書館. 2008, 27(1), p. 4-8.

(138) 仁上幸治. デジタルリソースのフル活用に向けて-講習会の刷新からオンデマンド教材の開発まで-. 館灯. 2008, (46), p. 22-38.

(139) 尼川洋子. 特集, インフォプロのための企画・立案: ライブラリーも自分も元気に! : ライブラリーマネジメント・ゼミナールの企画と運営. 情報の科学と技術. 2009, 59(10), p. 513-518.

(140) 長谷川昭子. 特集, [平成21年度専門図書館協議会]全国研究集会 チェンジ!!新たな専門図書館をめざして: 専門図書館における人材育成 : これからの現職者教育. 専門図書館. 2009, (237), p. 67-72.

(141) 櫻井由佳. 特集, [平成21年度専門図書館協議会]全国研究集会 チェンジ!!新たな専門図書館をめざして: 読後コメントの活用とその効用 : 図書室内の情報を社内に開き、利用者のニーズを図書室に反映させる. 専門図書館. 2009, (237), p. 73-78.

(142) 作野誠. 専任職員と委託スタッフの連携による効果的なサービスの提供―愛知学院大学歯学・薬学図書館情報センターにおけるガイダンス実施の事例―. 館灯. 2008, (46), p. 47-52.

(143) 對村絵美ほか. 特集, 第13回医学図書館研究会・継続教育コース: 委託スタッフによる「ライフラインとしての学術情報を効果的に提供するための試み」 : 愛知学院大学歯学・薬学図書館情報センターの事例. 医学図書館. 2007, 54(2), p. 146-149.

 


仁上幸治. 図書館の「広報」は進化しているか?―説明責任と自己アピールの時代に求められる理論と実践―. カレントアウェアネス. 2010, (305), CA1728, p. 16-24.
http://current.ndl.go.jp/ca1728 [223]

  • 参照(26752)
カレントアウェアネス [8]
研究文献レビュー [99]
図書館広報 [224]
日本 [10]
公共図書館 [11]
大学図書館 [225]

No.304 (CA1715-CA1722) 2010.06.20

  • 参照(16616)

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CA1715 - 図書館及び関連組織のための国際標準識別子ISIL / 宮澤 彰

  • 参照(18649)

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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1715

 

図書館及び関連組織のための国際標準識別子ISIL

 

 ISO15511「図書館及び関連組織のための国際標準識別子」(International standard identifier for libraries and related organizations:ISIL)に対し、国立国会図書館が日本の登録機関としての準備を進めている。標準化の関係者にとっては長年の懸案が解決に向けて動き出すことになる。その名の通り、図書館等を識別するコードであるが、図書館関係者の間でもあまり知られていないこの識別子について解説し、その意義を述べる。

 

1. 構成

 ISILは、16文字以内の可変長コードで英大文字、小文字、数字および3種類の記号(文字名でSOLIDUS「/」、COLON「:」、HYPHEN-MINUS「-」)のみを使用する。例をあげると、“GB-UkOxU-CC”というのが英国オックスフォード大学クライストチャーチ図書館のISILコードである。最初のHYPHEN-MINUSの前のGBの部分がプリフィクスとよばれ、通常2文字の国名コード(ISO3166-1)が使われる。後ろのUkOxU-CCが図書館識別子とよばれ、各国で割り当てられる部分である。図書館識別子は最大11文字、この例のように大文字小文字を混用してもよいが、大文字小文字の別を識別要素にしてはならない。すなわち、UKOXU-ccを別の図書館に割り当ててはならない。プリフィクス部分は、国名コード以外のものもあって、この場合1文字、3文字又は4文字になる。内容は次の登録制度の項で紹介する。

 

2. 登録制度

 ISILは登録制で、デンマークのDanish Agency for Libraries and Mediaという機関が国際登録機関“ISIL RA(Registration Authority)”を務めている。「その国の図書館界でその役割が広く受け入れられている適切なナショナルエージェンシーがISILを管理する」(1)の規定の下、各国からナショナルエージェンシーをISIL RAに登録することで登録制度が動いている。ナショナルエージェンシーは、ISIL RAのウェブサイト(2)に公開されているが、2010年4月現在では、22か国(うち米国は準備中)が登録されている(表1参照)。

表1 ISIL RAに登録されているナショナルエージェンシー

AUオーストラリアNational Library of Australia
ARアルゼンチンArgentine Standardization and Certification Institute (IRAM)
BEベルギーRoyal Library of Belgium
BYベラルーシNational Library of Belarus
CAカナダLibrary and Archives Canada
CHスイスSwiss National Library
CYキプロスCyprus University of Technology – Library
DEドイツStaatsbibliothek zu Berlin
DKデンマークDanish Agency for Libraries and Media
EGエジプトEgyptian National Scientific and Technical Information Network (ENSTINET)
FIフィンランドThe National Library of Finland
FRフランスAgence Bibliographique de l'Enseignement Superieur
GB英国British Library
GLグリーンランドCentral and Public Library of Greenland
IRイランNational Library of Iran
ITイタリアIstituto Centrale per il Catalogo Unico delle biblioteche italiane e per le informazioni bibliografiche
KR韓国The National Library of Korea
NLオランダKoninklijke Bibliotheek
NOノルウェーNational Library of Norway
NZニュージーランドNational Library of New Zealand Te Puna Mātauranga o Aotearoa
SIスロベニアNational and University Library
US米国Library of Congress – 登録準備中

出典:(2)(日本語訳は筆者)2010-04-09現在

 国名以外のプリフィクスは、ISIL-RAに別途登録されることにより有効となる。2009年4月現在、OCLCなど4種類が登録されている(表2参照)。OCLC及びZDBは国際的に通用している図書館コードを持っている機関として、そのコードにこのプリフィクスをつければISILとすることができるようになっている。プリフィクスMは、未だ準備中で詳細が公表されていないが、各国に属さない国際的な機関を登録できるようにするためと考えられている。

表2 国名以外のプリフィックス

MLibrary of Congress 米国以外(登録準備中)
OOCLCでRFID等用の短縮形
OCLCOCLC WorldCat Symbol
ZDBStaatsbibliothek zu Berlin – Zeitschriftendatenbank

出典:(2)を基に筆者が作成 2010-04-09現在

 ISILは、図書館及び関連組織を識別するためのものである。関連組織は、書誌的環境でサービスや活動を行う組織と規定されているが、特に公文書館と博物館が明示されている。

 登録にあたっては、本館と分館のような構造のある場合、全体と部分にそれぞれ識別子をつけてもよいし、全体だけでもよい。また、1つの図書館が2つ以上の識別子を持つことも禁止はされていない。こういった柔軟性は、既存の図書館コードをなるべくそのまま取り込めるようにという配慮からきている。

 

3. 経緯

 ISILは、「国際標準化機構第46専門委員会」(ISO/TC46)の「相互運用技術分科会」(SC4)で定められた。1996年にイタリアから提案され、2003年に国際標準として成立している。もともと、欧州の多くの国にあった図書館コードの前に国名コードをつけて国際化しようというアイディアである。当初の名称は“International Library Code”(ILC)であった。現在のISO/TC46の体制(CA1465 [228]参照)からはISBNやISSNなどの識別子を手がけている「識別と記述分科会」(SC9)が担当する方が自然に思えるかもしれない。しかし、この提案がなされたのは、図書館の機械化等を扱うSC4であり、そのままSC4が担当することになった。当時のTC46の体制では、SC9は文献の記述に現在より大きな比重をおいていたことにもよる。

 SC4での委員会案は1997年に出ている。この時から国際標準に至るまでの段階で、技術的な変更は、最大長や使用可能な記号の増加だけであった。例えば最大4文字というプリフィックスの最大長は、OCLCを意識して変更されたものである。技術的問題よりも議論を呼び、標準化の遅れの原因ともなったのは、適用範囲の問題である。当初図書館のみの適用を考えていたが、検討の過程で関連機関も対象とされるようになった。この関連機関の範囲を広く書いたため、流通関係の標準である“Electronic Data Interchange”(EDI)側から、EDIの“Location Number”を使用することを求められ問題化した。結局、関連機関の範囲を「書誌的」なものに縮めてEDI側の要求を却下して2003年に国際標準として発行された。

 開発した委員会の中では、提案国であったイタリアの国立図書館がISIL RAを引き受けるものと思われていた。しかし、国際標準の発行段階になって、イタリアがこれを拒否、最終的にはデンマークの現機関が引き受けることとなったという事情もあって、ISIL RAの活動開始は遅れた。このため、まだ広く普及しているという状態には至っていない。

 

4. ISILの意義

 ISILの意義としては、技術的なものと社会的なものが考えられる。

 技術的な意義は、さまざまなネットワーク上のアプリケーションに対して、図書館界としての「固有名詞」を提供できる点である。複数の図書館がかかわるサービスをネットワーク上に展開する場合、図書館の識別は必須で、アプリケーションごとに個別に識別子を用意することは、無駄が多くサービスの展開を遅らせる原因にもなる。

 より差し迫った技術的意義としては、電子タグ(RFID)の識別子作成があげられる(CA1574 [229]、E826 [230]参照)。最近図書館アプリケーションでも使われるようになったUHF帯の電子タグでは、タグの識別子(Unique Item Identifier:UII)を図書館で用意する必要がある。このための基礎として、図書館の識別子が必要とされている。電子タグの識別子は、国際的にユニークになっていないと、日本の図書館で借りた本を外国に持って行くとブザーが鳴るといったことにもなりかねない。

 社会的な意義としては、業界としてのまとまりを築き、新しいサービスを作るためのインフラを維持していく活動の一環という面がある。このようなインフラは、情報化社会の中で業界としての活力を保つために大切なものであり、図書館という業界が今後も発展していくための重要な資産である。さらに、関連の他の業界のサービスとの間で交渉していく場合にも、力となりうるものである。このような、社会的意義も忘れてはならない。

国立情報学研究所:宮澤 彰(みやざわ あきら)

 

(1) “Registration Agencies”. ISIL.
http://biblstandard.dk/isil/reg_agencies.htm [231], (accessed 2010-04-28).

(2) “ISIL Registration Authority”. ISIL.
http://biblstandard.dk/isil/ [232], (accessed 2010-04-06).

 


宮澤彰. 図書館及び関連組織のための国際標準識別子ISIL. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1715, p. 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1715 [233]

カレントアウェアネス [8]
RFID [234]
国際規格 [235]

CA1716 - 図書館によるTwitter活用の可能性 / 原 聡子

  • 参照(23578)

PDFファイルはこちら [236]

カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1716

 

図書館によるTwitter活用の可能性

 

シンプルなサービス「Twitter」旋風

 近年、Twitter(ツイッター)というウェブサービスが話題である。本稿では、様々に指摘されているTwitterの特徴のうち一部を取り上げながら、図書館によるTwitter活用の可能性を探る。

 2009年以降、Twitter旋風とも言われるほどに注目を集めているが、その正体は、「ツイート(tweet)」と呼ばれる140字以内のメッセージをウェブ上に投稿するという、至ってシンプルなサービスである。無料のユーザ登録をすれば、誰でもツイートを投稿できる。さらに、気に入ったユーザがいれば、「フォロー(follow)」することができ、ユーザに割り当てられたホームページには、自らのツイートとフォローしているユーザのツイートが時系列に表示され、それらを一覧することができる。

 2006年に米国でサービスを開始したTwitterは、2009年に主要なメディアによる報道や著名なユーザの影響で急激にユーザ数を伸ばし(1)、2010年4月現在、全世界の登録ユーザ数は1億人を超えているという(2)。また、2010年4月には、米国議会図書館(LC)が、公開されている全てのツイートをアーカイブする方針を発表した(E1042 [57]参照)(3)。学術・研究目的での使用が想定されており、具体的な活用はこれからではあるが、Twitterへの注目の高さが伺える出来事だと言えるだろう。

 日本においても、2009年に各界の著名人がTwitterを使い始めたことで、注目を集めた。Twitterを活用する「ツイッター議員」も増加しており、2010年1月1日には、当時の鳩山由紀夫首相がTwitterを開始し、その存在はより広く知られるところとなった。

 

投稿内容の自由度は高い

 ツイートを書き込む投稿ボックスの上部には、「いまどうしてる?」と書かれており、自分の現在の状況を投稿することが想定されているようにも見える。しかし、実際のツイートの内容は、それにはとどまらない。特定の事象に対する自らの考え、気になったニュースへのリンク等も数多く投稿されている。また、ユーザは個人に限らず、テレビ局や新聞社等のメディアによる広報情報やニュースの配信を始め、企業による活用例も多く見られる。

 図書館においても、米国を中心に、イベントの案内や休館日のお知らせのためにTwitterを利用する例が増加している(E888 [237]参照)。正確な統計情報はないが、Twitterを使用している図書館のリストがまとめられているブログで確認できるだけでも、米国で600館以上(4)、米国以外で100館以上(5)の図書館がTwitterを使用していることがわかる。

 日本においては、図書館関連のユーザのまとめ(6)やユーザ検索サービスを用いて調べたところ、図書館による公式なTwitterの使用と思われる事例は、試行段階のものも含めて10館前後である。

 例えば、千葉県横芝光町立図書館では、Twitterを利用し、イベント情報や新着図書、地域に関する新聞記事の紹介等をしている(7)。郡山女子大学図書館では、実験中ではあるが、自館及び福島県内市町村の新着情報を、ブログ等の更新情報を自動でTwitterに投稿できる「Twitterfeed」というサービスを利用して配信している(8)。図書館からの情報発信だけでなく、福島県の気象情報や地域のイベント情報も提供している点が特徴的である。

 国立国会図書館のウェブサイト「カレントアウェアネス・ポータル」では、Twitterを利用し、図書館界・図書館情報学に関するニュース速報「カレントアウェアネス-R」のタイトル等を配信するサービスを試行している(9)。

 また、2010年9月に奈良で開催される全国図書館大会のニュースを発信するために、奈良県立図書情報館でもTwitterの利用を開始している(10)。「白鹿くん」というキャラクターがしゃべっているという形式をとっており、全国図書館大会の準備の様子や同館からのお知らせが、親しみやすい言葉づかいで発信されている。

 

Twitterによるコミュニケーションと情報伝播

 これまで例に挙げた図書館によるTwitter利用事例は、一方的な情報発信をするものが中心であった。しかし、Twitterにはユーザ間のコミュニケーションを可能にする機能がある。図書館での活用事例や筆者自身の経験に沿って、コミュニケーションの機能を見てみたい。

 神戸大学附属図書館では、神戸大学学術成果リポジトリ「Kernel」や震災文庫、新聞記事文庫等のデジタルアーカイブについての情報発信にTwitterを活用している(11)。新たに公開した資料の紹介やサービスに関するお知らせを発信する一方で、文頭に「@ユーザ名」をつけて投稿することで、他者にも公開された状態で特定のユーザ向けの投稿をすることができる「リプライ(Reply)」という機能を用いて、図書館関係者との情報交換や利用者からの質問等への対応を行なっている。さらに、他のユーザのツイートを引用して再投稿する「リツイート(ReTweet)」という機能を使って、同館のサービスのメディアへの掲載情報等を再投稿している。同館のツイート全体から見れば、リプライやリツイートの使用頻度は決して高いわけではないが、これらの機能を活用することで、図書館と他のユーザ間のコミュニケーションが生まれている。

 また、筆者もTwitterユーザであり、これまで例に挙げてきたような図書館によるTwitterをフォローしている。それらのツイートの中に気になるイベント情報やニュースがあれば、自分のための覚え書きも兼ねて、リツイートすることがしばしばある。筆者をフォローしているユーザの中には、特に図書館に興味のない人、図書館によるTwitterの存在を知らない人も数多くおり、筆者がリツイートすることで、普段は図書館が発信する情報に触れることのない人が、その情報にふれる可能性が高くなる。こうしたリツイートが繰り返されれば、情報は急速に、かつ広域に伝播される。このように、1つ1つのツイートは強力な情報伝播力を秘めており、この情報伝播力の強さは、Twitterの大きな特徴の1つであると言われる。

 

発想を形にするための基盤を作り、より豊かな社会へ

 今後、図書館によるTwitter利用は増加するだろう。ただし、Twitterはあくまでも補完的なツールであり、図書館のサービスそれ自体ではない。図書館には、蔵書や図書館員のノウハウといった知の蓄積があり、まずそれらを提供する基本となるサービスをより整備・充実させることが大前提である。その上で、これまで述べてきたTwitterの特性をふまえ、図書館によるTwitter活用の姿について考えたい。

 例えば、1人の専門家によるツイートや専門家ではない複数人のTwitter上でのコミュニケーションの中から、商品やサービスについてのアイデアが生まれたとする。図書館は、そのアイデアを形にしていくための手助けをできないだろうか。ただ新着図書を紹介するのではなく、テーマをもって蔵書を紹介すれば、図書館には商品開発等に有用な資料もあることを知ってもらうことができる。調べ方のノウハウを公開やレファレンスサービスについても、Twitterを補完的なツールとして利用し、Twitter上での簡易なレファレンスサービスを展開することも考えられる。すべてを図書館で担おうというのではないが、これまでであれば些細な思いつきとして実を結ぶことのなかったアイデアが形になっていくための知的基盤の一部を担えるのではないだろうか。そうして、図書館が社会により根ざしたものとなるためのつなぎ目として、Twitterというツールを据えることもできる。

 新しいツールに飛びつけばいいというものではないが、まずは、Twitterが図書館サービスをより充実させるため、そして社会がより豊かになっていくための契機になりうるか、その可能性を考えてみてもいいのではないだろうか。

総務部情報システム課:原 聡子(はら さとこ)

 

(1) “Inside Twitter”. Sysomos.
http://www.sysomos.com/insidetwitter/ [238], (accessed 2010-05-20).

(2) 特集, 2010年ツイッターの旅 : 140字、1億人の「つぶやき」革命. 週刊ダイヤモンド. 2010, 98(4), p. 28-69.

(3) Raymond, Matt. “How Tweet It Is!: Library Acquires Entire Twitter Archive”. Library of Congress Blog. 2010-04-14.
http://blogs.loc.gov/loc/2010/04/how-tweet-it-is-library-acquires-entire-twitter-archive/ [239], (accessed 2010-04-20).

(4) Brown, Lindy. “Libraries on Twitter (updated list)”. Circulation.
http://lindybrown.com/blog/2009/01/libraries-on-twitter-updated-list/ [240], (accessed 2010-04-21).

(5) Brown, Lindy. “International Twittering Libraries”. Circulation.
http://lindybrown.com/blog/2009/03/international-twittering-libraries/ [241], (accessed 2010-04-21).

(6) “図書館関連アカウントまとめ用(lib_list)”. Twitter.
http://twitter.com/lib_list [242], (参照2010-05-24).

(7) “横芝光町立図書館 (lib_yhikari)”. Twitter.
http://twitter.com/lib_yhikari [243], (参照 2010-05-12).

(8) “郡山女子大学図書館(実験中) (LibKGC)”. Twitter.
http://twitter.com/libkgc [244], (参照 2010-05-12).

(9) “国立国会図書館関西館図書館協力課 (ca_tweet)”. Twitter.
http://twitter.com/ca_tweet [245], (参照 2010-05-12).

(10) “奈良県立図書情報館 白鹿くん (nplic)”. Twitter.
http://twitter.com/nplic [246], (参照 2010-05-24).

(11) “Kobe Univ. Kernel (kobekernel)”. Twitter. http://twitter.com/kobekernel [247], (参照2010-05-24).

 

Ref:

津田大介. Twitter社会論. 洋泉社, 2009, 191p.

 


原聡子. 図書館によるTwitter活用の可能性. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1716, p. 4-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1716 [248]

カレントアウェアネス [8]
情報公開 [249]
図書館サービス [9]
Twitter [250]

CA1717 - DAISYの新しい展開:DAISYオンライン配信プロトコル / 水野翔彦

  • 参照(15013)

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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1717

 

DAISYの新しい展開:DAISYオンライン配信プロトコル

 

 2010年4月2日、DAISY(デイジー)規格を管理する団体であるDAISYコンソーシアムはDAISYオンライン配信プロトコル(以下、「プロトコル」)の仕様書を勧告案として公表した。これは、インターネットを用いて図書館などのサーバーから利用者のパソコンや専用端末までコンテンツを届けるための通信規格をまとめたものである。

 

 DAISYとはDigital Accessible Information System(デジタルでアクセシブルな情報システム)の略称で、DAISYコンソーシアムの管理する国際標準のデジタル図書規格である(CA1471 [252]、CA1486 [253]参照)。一般的には「CDの録音資料」と認識されがちだが、デジタル資料であるDAISY資料の記録媒体は必ずしもCDでなければならないわけではない。物理的な媒体という制約から逃れオンラインでコンテンツの流通を行えば、資料の作成、保存、流通などすべての過程においてコストと時間が節約できるのである。

 そのような理由から、現在に至るまで各国の点字図書館などでDAISY資料のインターネット配信の実現に向けた取り組みが行われてきた。しかし、多くの場合は各機関で個別の開発が進められており、相互の互換性は担保されていなかった。配信における互換性が担保されていなければ図書館間における資料の共有化などの妨げとなり、折角の国際標準規格としてのDAISYの意義も薄れてしまう(1)。DAISYコンソーシアムは2007年のプロジェクト立ち上げ以来、DAISY資料の配信のための国際標準規格の策定を通じ、オンラインの世界でも互換性を確保することを目指している。

 

 仕様書の冒頭ではプロトコルの主要な目標として二つの事柄が挙げられている。一つ目は「サービス提供者から末端の利用者へデジタル資料を届けること」(2)である。ここでいう「デジタル資料」とは主にはDAISY資料を指すものの、その他のアクセシブルなデジタル資料全般も含む。多くの館では点字データなどもオンライン配信されていることを受け、プロトコルがアクセシブルな資料の配信全般にも利用されることを意識しているといえる。

 二つ目は国際標準規格として、オンライン配信サービスを既に実現している、あるいはこれから実現しようという館に受け入れられるものとすることである。プロトコルでは、他のDAISY関連の技術と同じく、基礎となる技術にHTTP/HTTPSやSOAPといったW3Cの標準仕様が採用されている。

 

 そのような背景のもとで策定されたプロトコルだが、これによって何が可能となるのだろうか。まず、サービスの提供者はプロトコルを利用することで、コンテンツの受け渡しを物理的な媒体を用いずに行うことが可能になる。コンテンツや書誌情報はサーバーに蓄積されており、利用者は端末を利用してアクセスする。これにより電子上の「資料貸借」を含む仮想の図書館サービスが可能となった。電子データの「貸出」というとイメージしにくいが、これは予め貸出期限を設定し、利用者はダウンロードしたデータを期限までに消去することで返却とみなす仕組みである。一定の期間だけコンテンツを利用させたいサービス提供者側の要望を実現するものである。併せて期限到来とともに自動でコンテンツが削除できるような仕組みも用意されているが、仕様書ではそれよりもPDTB2(3)などその他のコンテンツ保護手段を利用することを推奨している。

 また、サーバー上に情報を蓄積することでサービス提供者が遠隔操作でコンテンツを登録し、自動でダウンロードさせるという機能についても定めている。一般的に中高年の利用者は最新の再生機器、再生ソフトの操作が困難なことが多く(CA1611 [254]参照)、そうした利用者に対しては策定過程の当初から配慮がなされていた。

 自動ダウンロードを利用する場合、利用者は電話やEメールなどでサービスの提供者へ連絡をし、提供者はサーバー上にある利用者のリクエスト情報を登録する。その後利用者の端末からサーバーにアクセスすると、登録された情報に従い自動でコンテンツがダウンロードされる。この機能によって、パソコンや機械に不慣れな利用者も、電話で図書を郵送してもらうのと同じ手軽さで、もっと早く図書を利用することができる。

 一方、利用者自身が端末を操作して、主体的にサービスを利用することも可能である。その場合は“Dynamic Menus Primer”という仕組みを利用する。これは一つの質問からツリー上につながった質問に順々に利用者が答えていくことで、目的とするサービスまで誘導する仕組みである。この仕組みでサービスの一覧や書誌検索、オンライン購入、お知らせの入手などのナビゲーションが可能になる。また、上記の自動ダウンロード機能と組み合わせればDynamic Menus Primerで新聞を選択したのち、定期的に自動ダウンロードを行うといったこともできる。

 

 以上がプロトコルとそれを利用するサービスの主な内容だが、サービス提供者側の動向についてもここで触れておく。世界の多くの地域ではカセットテープの録音図書が未だ利用され続けているが、そのような中でデジタル資料の配信サービスは受け入れられるのだろうか。

 それに関しては国際図書館連盟の視覚障害者図書館サービス分科会(International Federation of Library Associations and Institutions, Libraries for the Blind Section: IFLA/LBS)(4)とDAISYコンソーシアムが行った調査が参考になる。2009年に両者はグローバルライブラリー(5)について各国の点字図書館などに対して実態調査を行っており、その中にオンライン配信サービスについての質問が含まれていた。それによると回答した23機関のうち半数はプロトコルが承認され次第、あるいは自機関の配信サービスの環境が整い次第採用すると答え、採用しないと答えたのは2機関のみだった(6)。数多くの機関が配信サービスに前向きである一方で、そうでない機関もある。その原因は機関によって様々だろうが、例えば著作権に絡む問題や、資料のデジタル化が不十分であることが考えられるだろう。

 なお、日本でも点字図書館が相次いでカセットテープ形式の録音図書の製作を中止し、DAISY化を急ピッチで進めている。2010年4月からスタートしたサピエ図書館(7)ではプロトコルを利用した配信が行われる予定だ。Plextor社の再生機での利用を想定しており、2010年中にパイロット館での検証を行う予定とされている。利用者はDynamic Menus Primerを利用して「新着完成情報」、「人気のある本」、「ジャンル検索」などにアクセスし、録音データをストリーミングしたり、ダウンロードしたりすることができる。

 

 これまで述べてきたように、国際標準のプロトコルによるオンライン配信は、著作権処理やデジタル化資料の拡充など解決すべき課題があるものの、即時配信や流通コスト削減、利便性の向上といったメリット、特にそれぞれの利用者に応じた多様なサービス展開を実現するという点で大きな可能性を秘めている。また、次世代規格であるDAISY4の策定が進められており(8)、制作と変換に関するパートの他、流通や利用についてのパートが定められる予定である。ここから、プロトコルだけでなくDAISY規格そのものにおいても流通や利用などの視点が強調されていることがわかる。DAISYはもはやただの録音図書の規格ではない。DAISYはアクセシブルな情報システムであり、製作から利用までアクセシブルであってこそ意義があるといえる。そのためには、プロトコルの整備に加えて、国内外、官民問わずすべての関係者が協力し配信システムの構築を進めていくことが必要なのではないだろうか。

関西館電子図書館課:水野翔彦(みずの やすひこ)

 

(1) 日本障害者リハビリテーション協会情報センター. “マイクロソフト社とDAISYコンソーシアムの協力 障害者の情報アクセスへの新たな展望”. 障害保健福祉研究情報システム(DINF).
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/microsoft.html [255], (参照 2010-05-12).

(2)“Specification for the DAISY Online Delivery Protocol”. DAISY Consortium.
http://www.daisy.org/projects/daisy-online-delivery/drafts/20100402/do-spec-20100402.html [256], (accessed 2010-04-15).

(3) DAISYコンソーシアムが策定するデジタル暗号化技術。現在はPDTB2と呼ばれる第2版が策定されており、米国議会図書館の視覚障害者および身体障害者のための全国図書館サービス(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped:NLS)が採用している。仕様書は以下で見ることが出来る。
“Specification for DAISY Protected Digital Talking Book: Version 2.0 Approved, Specification for DAISY Protected Digital Talking Book”. DAISY Consortium.
http://www.daisy.org/projects/pdtb/daisy-pdtb-spec.html [257], (accessed 2010-04-15).

(4) 現在は「印刷物を読めない障害がある人々のための図書館サービス分科会」(Library Serving Persons with Print Disabilities Section : LPD)と改称されている。

(5) 「グローバルライブラリー」はIFLAとDAISYコンソーシアムが進めるプロジェクトで、国際的な資料の検索と活用を実現するためのオンラインネットワークである。詳細は以下を参照。
日本障害者リハビリテーション協会. “新分野の開拓:印刷物を読めない障害がある人々のアクセスを拡大するバーチャルグローバルライブラリーサービス”. 障害保健福祉研究情報システム(DINF).
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/rae_090825.html [258], (参照 2010-04-15).

(6) “Global Library Survey Final Report: Version: Final”. DAISY Consortium.
http://www.daisy.org/projects/global-accessible-library/survey_final_report.html [259], (accessed 2010-04-15).

(7) 全国の会員施設・団体が製作または所蔵する資料の目録などからなる点字、録音図書の書誌データベース。会員は点字やDAISY資料の一次データの利用が可能だが、非会員でも書誌検索サービスを利用できる。
“サピエとは”. サピエ.
https://www.sapie.or.jp/contents/what_is_sapie/ [260], (参照 2010-05-12).

(8) DAISY4の開発状況や最新のドラフトは以下のページで確認することができる。
“ZedAI UserPortal”. DAISY Consortium.
http://www.daisy.org/zw/ZedAI_UserPortal [261], (accessed 2010-05-26).

 

Ref:

“DAISY Online Delivery Protocol - Dynamic Menus Primer”. DAISY Consortium.
http://www.daisy.org/projects/daisy-online-delivery/drafts/20100402/do-dm-primer.html [262], (accessed 2010-04-15).

Tank, Elsebeth et al. “The DAISY standard: Entering the global virtual library”. Library Trends. 2007, 55(4), p. 932-949.

 

補記:
 本稿脱稿後、2010年5月28日から29日にかけて開催されたDAISYコンソーシアムの理事会にて、プロトコルの勧告案は技術的勧告として採択された。

 


水野翔彦. DAISYの新しい展開:DAISYオンライン配信プロトコル. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1717, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1717 [263]

カレントアウェアネス [8]
DAISY [264]
国際規格 [235]
障害者サービス [265]
デジタル化 [266]

CA1718 - 動向レビュー:電子化の現場からみたOCRの動向 / denshikA

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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1718

動向レビュー

 

電子化の現場からみたOCRの動向

 

1. はじめに

 インターネットを通じて、自宅や職場などから閲覧できる本が増えている。あるものは無料で、あるものは有料で閲覧することができる。電子化された本がインターネット上で公開される利点は、いつでも/どこでも読むことができるということだけではない。これまで目当ての本を探そうとすると、タイトル、著者名、分類などを頼りに探すしかなかったが、電子化された本は、その中の文章や内容の一部からでも検索可能となる。つまり、インターネット上に電子化された本が公開されると、本の探し方/使い方が変わる、と言える。この新しい「本の探し方/使い方」を陰で支えているのが「光学式文字読取装置」(Optical Character Reader:OCR)というテクノロジーである。本稿では、本や新聞の電子化に携わる者(1)の視点で、OCRの動向を紹介する。

 

2. OCRはどのように使われているのか

 世界各地で進行中の電子化プロジェクトにおいて、OCRはどのような位置づけとなっているのかを確認してみる。

 

2.1. インターネットで公開する2種類の方法

 インターネット上には、電子化された本が、たくさん公開されている。その公開方法には、大きく分けて、2種類ある。

  • 1. 本のページを画像として公開する方法
     例えば、国立国会図書館の近代デジタルライブラリー(2)、米国国立医学図書館(3)など
  • 2. 本のページに書かれた文字をデータとして公開する方法
     例えば、青空文庫(4)、Project Gutenberg(5)など

どちらの方法で公開されていようと、インターネットに繋がっていれば、いつでも、どこからでも閲覧できる、という利点を持つ。「文字をデータとして公開」している場合には、私たちはその内容を直接検索することができる。世界的に見て、本や新聞を電子化している最近のプロジェクトでは、後者の「文字をデータとして公開」することを目標としている場合が多いと思われる。

 

2.2. 文字データを作成する2種類の方法

 文字データを公開することは利点も多いが、その分、コストもかかる。文字データを作成することは、画像を作成するよりも、はるかに手間と時間がかかるからである。その文字データを作成する方法には、大きく分けて、2種類ある。

  • 1. 人手による入力を行う
  • 2. OCRなどのテクノロジーを使う
  •  「人手による入力」という方法で文字データを作成している例として、日本の「青空文庫」が挙げられる。その他、米国において、Distributed Proofreadersというグループが同様の活動を行っている。過去には、Questia社が、「人手による入力」という方法で、大規模に文字データを作成した。一方、OCRなどのテクノロジーを使う例として、Googleブックス(6)や、Amazon.co.jpの「なか見!検索」(7)などが挙げられる。

     一般的に、「人手による入力」という方法を使えば、精度の高いものを作ることができるが、時間がかかる。一方、OCRを使えば、効率的に作業が進められるが、精度の点で劣る。欧米でのプロジェクトなどでは、OCRである程度のデータを作成してから、「人手による入力」で修正をしていく方法(8)を採ることもありうるが、それは欧米各国語のOCRが、一般的に精度が高いために可能となっている。日本語のOCRは、欧米各国語に比べて一般的に精度が劣るため、OCRのデータを修正するくらいなら、最初から「人手による入力」を行ったほうが、時間と費用を節約できる場合がある。

     

    2.3. 新しい動き

     近年、OCRと「人手による入力」の組み合わせについて、インターネットの特性をうまく活かした「ソーシャル型」とも呼べるような、新しい動きが生まれている。

     Australian Newspapers Digitisation Program(ANDP)(9)というオーストラリアの新聞電子化プロジェクトでは、OCRにかけた生データを公開し、それを閲覧者に修正してもらう、という形をとっている(10)。

     また、米国議会図書館や米国国立公文書館と提携して電子化を進めているFootnote社では、ユーザーが画像内の手書き文字などを読み取り、画像内の該当する箇所に、付箋を貼れるようなサービスを提供している(11)。

     さらに、“reCAPTCHA”(E662 [268]参照)というものがある。詳しくは、サイボウズ・ラボ社の秋元氏のブログに書かれている(12)。非常に複雑に組み込まれたシステムであるが、簡単に説明すると、Webサービスの認証プロセスを利用して、OCRの誤変換を訂正していくシステムである。こちらも一種の「ソーシャル型」と言える。

     このように、文字データの作成は、コストと時間がかかるので、各社・各機関が様々な工夫を凝らしてくる領域である。後述するように、OCRは完璧ではない。したがって、OCRの動向という場合、実際の電子化現場において、OCRの限界を補うために、「ソーシャル型」をはじめとして、どのような工夫がされているのか、ということまで目を配っておいたほうが良いであろう。

     

    3. OCRの精度に関連する最近の報告

     「OCRの精度」というものについて、よく質問を受けるので、一般的にOCRの精度に対する関心は高いと思われる。現在進行中の電子化プロジェクトから、OCRの精度に関連する考察がいくつか提示されているので、その一部をここで紹介する。以下の論文で論じられているように、そもそも「精度の測定」自体が難しいという事情が存在するが、各社・各機関はOCRの精度を高めるために様々な工夫を実施している。

     

    3.1. OCRの精度とは何か?

     タナー(Simon Tanner)の論文(13)は、そもそもOCRの精度とは何であり、どのように測定するのか、ということを論じる(E960 [269]参照)。そして、彼らの提案する測定方法を用いて、実際に、英国図書館が電子化した新聞コレクションのOCR結果を測定した。特筆すべき点として、精度を測定する際、OCRのC(Character)が示すような「文字(Characters)単位」での正確さだけでなく、「単語(Words)単位」、「ストップワード(検索対象から外す機能語など)を除いた単語(Significant words)単位」、「固有名詞など、大文字から始まる単語(Significant words with capital letter start)単位」、「数字(Number groups)単位」を含む5種類の正確さを検討していることが挙げられる。そして、人名・地名などの固有名詞が多く含まれるような対象は、OCR精度が低くなる可能性を指摘している。

     

    3.2. OCRの精度を上げるために

     クリーン(Edwin Klijn)の論文(14)は、現在オランダで進行中の新聞電子化プロジェクトを開始する前に、マイクロフィルムの電子化、JPEG 2000を含むファイルフォーマット、OCRなどに関して、世界の状況を調べたサーベイ論文である。2008年時点での状況を知ることができる。中でもOCRの精度向上に関して、スキャンをカラーで行うか、それともグレースケール(モノクロ写真のように白と黒の間に、段階的な灰色の階調があるもの)で行うか、ということに関して、業者間で意見の相違が見られるとし、ある業者の話として、カラーでスキャンした方が、より良いOCR結果を得ることができると述べている。ただし、あくまで業者の話であって、実際に比べてみたわけではないので、注意が必要である。

     パウエル(Tracy Powell)らは、ニュージーランドで新聞電子化を進めるにあたって、グレースケール画像でのOCR変換の是非を論じている(15)。これまで、ニュージーランドにおける新聞電子化は、2値(通常のファックスのように、白黒だけで表現されたもの)でのスキャンを行っていたが、もし、グレースケールでスキャンをした場合、OCRの精度が向上するのかどうかを、コストとのバランスを見ながら、詳細に検討している。その結果は、グレースケールにしたところで、たいした改善は見られない、というものであった。著者らも注意書きをしているが、この結果は必ずしも、グレースケールよりも2値が良い、ということを意味しない。もしすでに2値でスキャンした画像を持っているなら、わざわざグレースケールで再スキャンをする必要はない、ということを示しているだけである。

     ホリー(Rose Holly)は、現在オーストラリアで進行中の新聞電子化プロジェクト(ANDP)に関して、OCRの精度を上げるために、「何ができるか」を検討し、そのいくつかを実際に試してみた結果を報告している(16)。著者らが検討したOCRの精度を向上させるかもしれない13個の方法は、原本の選択から、スキャン方法、ファイルフォーマット、画像処理、OCRソフト選定、OCR処理後の修正などを含んでいて、包括的なリストとして参考になるだろう。著者らは、いろいろな方法を組み合わせれば、より良い結果を得ることができる、と結論している(17)。

     

    4. OCRは使えるか?

     現在のところ、OCRによる変換は、間違いを伴う。それゆえ、OCRは使い物にならない、という話をよく聞く。ところが、使い物にならないか、それとも使えるのか、というのは「使い方」による。つまり、OCRで作成されたテキストデータをどのように使うのか、という用途次第である。

     話を分かりやすくするために、極端な例を紹介する。

     筆者の知る限り、2003年10月に米国Amazon社が、“Search Inside”(18)というサービスを発表するまで、「公開するテキストデータは、正確でないといけない」という通念があった。例えば、Questia 社のプロジェクトなどが、その考えに忠実なプロジェクトの例である。

     ところが、米国Amazon社は、「内容を検索する目的であれば、OCR結果は必ずしも正確でなくても良い」という新しい考えを持ち込んだ、と筆者は考える(19)。いろいろな解釈がありうるが、おおよそ以下のような理由を挙げておく。

    • それ以前は検索が不可能であったのだから、多少の誤変換が含まれていようが、たった1冊でも検索にひっかかるようになるならば、それは前進である。
    • もし検索しているキーワードが重要な単語ならば、探している本の中で、繰り返し現れてくるはずである。多少の誤変換があったとしても、本1冊の中で、どこかの部分がちゃんと変換される可能性がある。ひとつでもちゃんと変換されていれば、検索でその本はヒットする。
    • さらに、誤変換の中には、「m(エム)」と「rn(アール エヌ)」(20)に代表されるような「予想できる誤変換」というのがある。このような頻繁に起こる誤変換は、検索システムが処理をすることで、検索の漏れを減らし、再現率を上げることができるかもしれない。

     このように、2003年以降、検索目的のプロジェクトでは、OCR変換したテキストデータを、修正することなしに公開する例が増えている(21)。その意味で、OCRは十分に使えるテクノロジーであると言えるが、これはOCRの性能が十分高くなったからではない。誤変換を含むOCR結果を使いこなす方法が見つかったからである、ということに留意する必要がある。

     

    5. おわりに

     電子図書館や電子書籍などが盛り上がりを見せている。これから出版される本などは、間違いなくテキストデータでの公開を伴い、検索可能な状態になるはずである。それと同時に、過去に出版された本などを、いかにテキストデータ化して合流させるのか、ということがますます重要な課題になってくる。本稿では、そのような背景を踏まえて、OCRというテクノロジーが、現状どのように使われていて、その精度はどのように考えられているのか、ということを、電子化の現場からの視点で見てきた。OCRの技術者や、販売業者などは、当然、異なる見解を持っているはずなので、本稿はOCRというテクノロジーの一側面だけを紹介した、ということに留意してほしい。

    http://denshikA.cc [270] : denshikA

     

    (1) 筆者のプロフィールは、以下を参照。
    “自己紹介”. denshikA.
    http://denshikA.cc/profile.php [271], (参照 2010-05-14).

    (2) “近代デジタルライブラリー”. 国立国会図書館.
    http://kindai.ndl.go.jp/ [272], (参照 2010-05-14).

    (3) “Turning The Pages Online”. National Library of Medicine.
    http://archive.nlm.nih.gov/proj/ttp/books.htm [273], (accessed 2010-05-14).

    (4) 青空文庫.
    http://www.aozora.gr.jp/ [274], (参照 2010-05-14).

    (5) Project Gutenberg.
    http://www.gutenberg.org/ [275], (accessed 2010-05-14).

    (6) Google ブックス.
    http://books.google.co.jp/ [276], (参照 2010-05-14).

    (7) “なか見!検索”. Amazon.co.jp.
    http://www.amazon.co.jp/b?node=15749671 [277], (参照 2010-05-14).

    (8) 前出のQuestia社はこの方法を採用した。

    (9) Australian Newspapers Digitisation Program.
    http://www.nla.gov.au/ndp/ [278], (accessed 2010-05-14).
    詳しくは、以下を参照。
    denshikA. “全豪新聞電子化プログラム”. 電子化. 2009-08-28.
    http://d.hatena.ne.jp/denshikA/20090828 [279], (参照 2010-05-14).

    (10) Holley, Rose. “Many Hands Make Light Work: Public Collaborative OCR Text Correction in Australian Historic Newspapers”. National Library of Australia.
    http://www.nla.gov.au/ndp/project_details/documents/ANDP_ManyHands.pdf [280], (accessed 2010-05-14).

    (11) 詳しくは、以下を参照。
    bookscanner. “電子化と怒った歴史家”. bookscanner記. 2007-01-27.
    http://d.hatena.ne.jp/bookscanner/20070127 [281], (accessed 2010-05-14).

    (12) 秋元. “reCAPTCHA - キャプチャを利用した人力高性能OCR”. 秋元@サイボウズラボ・プログラマー・ブログ. 2007-05-25.
    http://labs.cybozu.co.jp/blog/akky/archives/2007/05/recaptcha-human-group-ocr.html [282], (参照 2010-05-14).

    (13) Tanner, Simon et al. Measuring mass text digitization quality and usefulness: Lessons learned from assessing the OCR accuracy of the British Library's 19th century online newspaper archive. D-Lib Magazine. 2009, 15(7/8).
    http://www.dlib.org/dlib/july09/munoz/07munoz.html [283], (accessed 2010-05-14).

    (14) Klijn, Edwin. The current state-of-art in newspaper digitization: A market perspective. D-Lib Magazine. 2008, 14(1/2).
    http://www.dlib.org/dlib/january08/klijn/01klijn.html [284], (accessed 2010-05-14).

    (15) Powell, Tracy et al. Going grey?: Comparing the OCR accuracy levels of bitonal and greyscale images. D-Lib Magazine. 2009, 15(3/4).
    http://www.dlib.org/dlib/march09/powell/03powell.html [285], (accessed 2010-05-14).

    (16) Holley, Rose. How good can it get?: Analysing and improving OCR accuracy in large scale historic newspaper digitisation programs. D-Lib Magazine. 2009, 15(3/4).
    http://www.dlib.org/dlib/march09/holley/03holley.html [286], (accessed 2010-05-14).

    (17) ホリーは、OCRの精度を上げるために、あれこれと試してみたが、一番効果的なのは、技術的なものではなく、「人手による入力」によって修正をする、という方法であった、ということも述べていて、本稿2.3.で紹介した「OCRにかけた生データを公開し、それを閲覧者に修正してもらう」というANDPの手法の有効性を示していることにも留意する必要がある。

    (18) “Search Inside the Book”. Amazon.com.
    http://www.amazon.com/b?node=10197021 [287], (accessed 2010-05-14).

    (19) bookscanner. “証人喚問前半”. bookscanner記. 2007-01-31.
    http://d.hatena.ne.jp/bookscanner/20070131 [288], (参照 2010-05-14).
    bookscanner. “証人喚問後半”. bookscanner記. 2007-02-02.
    http://d.hatena.ne.jp/bookscanner/20070202 [289], (参照 2010-05-14).
    少しふざけた調子で書かれているが、大筋を理解する程度には正確な内容となっている。

    (20) 例えば、「make」(エム、エイ、ケイ、イー)は頻繁に「rnake(アール、エヌ、エイ、ケイ、イー)」と誤変換される。「rnake(アール、エヌ、エイ、ケイ、イー)」で、検索してみると、いくつかヒットする。
    “rnake”. Google ブックス.
    http://books.google.co.jp/books?q=rnake [290], (参照 2010-05-14).

    (21) 例えば、Googleブックス、Internet Archiveなど。

     


    denshikA. 電子化の現場からみたOCRの動向. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1718, p. 8-11.
    http://current.ndl.go.jp/ca1718 [291]

  • 参照(16428)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
情報検索 [292]
電子書籍 [293]
デジタル化 [266]

CA1719 - 動向レビュー:デジタルゲームのアーカイブについて―国際的な動向とその本質的な課題― / 細井浩一

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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1719

動向レビュー

 

デジタルゲームのアーカイブについて―国際的な動向とその本質的な課題―

 

1. はじめに

 世界的に活動しているゲーム開発者、研究者のNPO組織「国際ゲーム開発者協会」(International Game Developers Association:IGDA)の専門部会である「ゲーム保存研究会」(Game Preservation SIG)は、2009年3月、最近のデジタルゲーム保存の現状と課題についての白書(以下、「ゲーム保存白書」と称する)を取りまとめた。それは、次のような書き出しで始まっている。

 

「デジタルゲームの保存は急を要している。毎年、何千ものゲームが、他のすべてのデジタルメディアを脅かしている寿命の問題、すなわち情報の欠落と旧式化によって失われつつある。デジタルメディアは、原材料の経年劣化によって驚くほど寿命が短く、メディアフォーマットが絶えず変化するために急速に陳腐化する。そして、それらを動かすためのハードウェアも同様である。」(1)

 

 デジタルゲームは、マンガやアニメーションとならんで現代のポップカルチャーを代表する表現文化であり、コンテンツであるが、その収集、保存、伝承が極めて危機的な状況にあることは間違いない。その危機は、他の分野が主な保存形式としている紙媒体、画像、映像、文字記録などより、おそらくはるかに深刻な状況である。同白書にも整理されているように、それはデジタルゲームの多くがメディア(ROMカートリッジ、磁気ディスク、光学ディスク等)とその再生装置(ゲームプラットフォーム)の組み合わせによって成立しており、そのそれぞれが物理的、技術的、法的な意味において、現実性のある長期保存のプロセスを確定することを困難にしていることに起因する(2)。

 また、同白書は保存する対象を「デジタルゲーム」と表記しているが、情報通信技術の劇的な変革に伴い、デジタル技術を基盤とするゲームとして認識される対象は、いわゆるビデオゲーム(日本ではテレビゲーム)やアーケードゲームだけでなく、オンラインゲームや携帯電話等によるモバイルゲームなどを含む多メディアに展開し、またその内容についても、ごくシンプルなライトゲームから重厚なストーリーと世界観を備えた複雑なインタラクティブ・エンタテインメントまで、非常に大きな振幅を持つようになっている。そのため、ゲームの収集や保存、アーカイブと一口に言っても、具体的で統一的な手法やプロセスをイメージしにくい状況になっている現実がある。

 旧来のパッケージ型のゲームであれば、ゲームソフト本体とゲームハードウェア、およびソフトのパッケージや取扱説明書などがさしあたりの保存対象となり、劣化や陳腐化の問題は免れないとしても、ゲーム保存のプロセスに一定の具体性を見いだすことは困難ではない。しかし、パソコンとネットワークを使うオンラインゲームや携帯電話でのモバイルゲームの場合は、特にゲームのプログラムが依存するプラットフォームの多様性と変化のスピードがネックとなって、パッケージ型のゲームよりはるかにその保存の方法やプロセスが見通しにくい。

 このような状況を総合的に踏まえて、IGDAのゲーム保存白書のタイトルは“Before It's Too Late”となっている。まさに「手遅れになる前に」であるが、本稿では、ゲームをめぐる状況と変化を踏まえながら、ゲームの保存あるいはアーカイブという取り組みの現状がどうなっているのか、またそれをさらに進めて行くために必要な条件や課題がどこにあるかについて簡単な整理を試みたい。

 

2. ゲームアーカイブのコンセプトとアーキテクチャ

 筆者は、1998年に京都府と立命館大学および任天堂株式会社、株式会社セガ等による産学公連携でゲームを保存、利活用するプロジェクト「ゲームアーカイブ・プロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトでは、多種多様な展開を見せるデジタルゲームであっても、その原点はビデオゲームであり、そのアーカイブの構築は他のすべてのデジタルゲームのアーカイブに対するフィージビリティスタディ(実現可能性調査)となりうるという仮説的前提を置きつつ、実験的なゲームアーカイブを構築してきた(3)。その活動と経験の中で、ビデオゲームのアーカイブについて以下のような基本要件を確定してきた。

 

2.1. ゲームアーカイブの対象

 ビデオゲームは、その多くが文化的側面をもつ商業的な科学技術知財であり、通常のリニア的動画類と比較すると、プレイヤーとしてのユーザによる相互操作性を内包する特異なコンテンツであることから、保存しなければならない基本的な対象は次のような内容を持つ(4)。

  • ①動画キャラクタと背景画
  • ②効果音と背景音楽
  • ③ゲームの展開順序
  • ④コントローラのボタン操作とゲーム画面の関係
  • ⑤ゲーム全般の操作感覚(ゲームプレイ感覚)

 

2.2. ゲームアーカイブの方法と目的

 次にゲーム保存の方法について、一般的なビデオゲームを想定する場合、現状では下記の3種類の方法が考えられる。

  • a)「現物保存」:ゲームのハードウェア本体とソフト及び取扱説明書類等の付属資料を現物保存する。
  • b)「エミュレータ」:ゲームのハードウェアと同じ機能を有するエミュレータをパソコン等の汎用コンピュータ上で作動させ、エミュレータソフト及びゲームソフトをデータとして保存する。
  • c)「ビデオ映像」:ゲームを実際に利用している映像(プレイ映像)をVTRやパソコンを使用してビデオ映像データとして保存する。

 もちろん、それぞれの方法には、物理的、技術的、法的な課題(5)があるが、加えて、保存すべき対象との相関において下記のような特徴および限界がある点に留意が必要である。

 「現物保存」は、保存対象①~⑤の全てをアーカイブすることが可能である。しかし、現物保存であるために多くの利用者が同時に活用出来る研究素材としては適さない。「エミュレータ」も、保存対象①~⑤の全てをアーカイブすることが可能である。しかもデータ状態での保存のため、多くの利用者が同時に活用することができる。「ビデオ映像」は、保存対象①~③はアーカイブ可能であるが、コントローラ操作に関する保存対象④と⑤の情報を記録することはできない(6)。しかし多くの利用者が同時に活用する事ができる上、利用者が自らゲームプレイをする必要がないため、利用者が直接プレイできない操作の複雑なゲームに関しても参照、研究する事が可能である。また映画や放送等の映像資料を保存するために開発された仕組みを活用して保存することも可能となる。

 したがって、これらの方法は相互補完的であり、どれか一つを採用するのではなく、保存すべきゲームの種別や量に応じて組み合わせた形でアーカイブのための方法論とすべきものである。

 そして、ゲームアーカイブの目的については、さしあたり他の標準的な文化的アーカイブにならって「保存・所蔵」、「展示・展覧」、「利用・活用」という大まかなカテゴリーを想定するならば、ゲームアーカイブのための手段と目的のコンビネーションは図1のように示される。

図1 ゲームアーカイブのパースペクティブ

図1 ゲームアーカイブのパースペクティブ

 また、具体的なゲームアーカイブには、このコンビネーションに加えて、収集対象とするゲームの属性(種別、プラットフォーム、発売地域や時期など)によるその包括性(特定のゲームだけをアーカイブするか、全般的なゲームアーカイブを目標とするか)という第三の軸が存在するが、現状のゲームアーカイブの試みは、どのような機関や組織が主体であるかによって、このようなパースペクティブを明示化しているケースとそうでないケースがある。

 

3. 国内外におけるゲームアーカイブの現状

3.1. 海外における状況

 IGDAゲーム保存白書における、具体的なアーカイブ機関や組織、プロジェクトの活動内容の記載は限定的で、北米5、欧州7の機関・団体と、オンラインアーカイブ2組織が記載されているだけであるが、ゲーム保存研究会による情報提供の呼びかけと調査によって、継続的に情報がアップデートされている(7)。

 同白書の筆頭著者であるデヴィン・モネン(Devin Monnens)が2010年2月の学会発表で公表した最新リストでは、以下のように大幅に情報が拡充され、種別ごとに整理、紹介されている(8)。

  • ①ゲームライブラリとゲームアーカイブズ:The American Classic Arcade Museum at Funspot(米国・ニューハンプシャー州ラコニア)、 Association MO5.com(フランス・パリ)など41機関、組織、グループ。内訳は、米国22、英国4、フランス4、日本2、カナダ、ドイツ、ニュージーランド、オランダ、ロシア、イタリアが各1、国を特定しないあるいはネット上のみの活動3となっている(9)。
  • ②ゲーム企業によるコレクション:Nintendo of America Museum(米国・ワシントン州レドモンド)、The SEGA Game Archive(米国・カリフォルニア州サンフランシスコ)の2企業。
  • ③ゲーム保存を提唱するプロジェクト:Internet ArchiveのClassic Software Preservation Society(CLASP;米国)、Historia Komputera(ポーランド)、NDIIPPのPreservation Virtual Worlds Project(米国)など14機関、組織、グループ。内訳は、米国5、英国、ポーランド、オランダ、オーストリアが各1、国を特定しないあるいはネット上のみの活動5となっている。
  • ④コンピュータの歴史博物館:American Computer Museum(米国・モンタナ州ロゼモン)、Computer Museum(イタリア・ノヴァラ)、ENTER-Museum(スイス・ソロトゥルン)、Kiev Computermuseum(ロシア)、Museo do Computador(ブラジル・サンパウロ)など17機関。内訳は、米国7、ロシア2、英国2、ドイツ、イタリア、スイス、ブラジル、カナダ、オランダが各1となっている。
  • ⑤オンラインのアーカイブ:The Arcade Flyer Archive、AtariArchive.org、Virtual Worlds Timelineなど10団体。

 これらの情報から見えてくることは、一つには、図1に示したゲームアーカイブのパースペクティブで言えば「現物保存」+「保存・所蔵」(あるいは「展示・展覧」)を主とするタイプの試みが着実に増加し、グローバルに展開していることである。とりわけ注目したいのは、The Early New Zealand Software Database(ビクトリア大学;ニュージーランド・ウェリントン)のような、特定のゲームプラットフォーム、特定の地域に限定したゲームアーカイブの動向である(10)。

 このプロジェクトは、ニュージーランドのビクトリア大学のメラニー・スワルウェル(Melanie Swalwell)博士が主催し、1970年代後半から1980年代にかけての同国の初期的なゲーム状況(セガ社のゲーム機SC3000が市場を牽引して、オリジナルのソフトウェアハウスが多数誕生した)を記録するためのゲームアーカイブを構築しているもので、日本や米国などとは異なった発展を見せた地域に固有のゲーム文化を保存、伝承しようとするものである。このようなアーカイブは、全般的なゲームアーカイブを構築しようとする試みとはやや異なる動機とインセンティブによって運営されており、国や地域の歴史研究、社会文化研究などの重要な資料を提供することによって、独自の存在意義を獲得していく可能性が考えられる。

 また、もう一つは、全米デジタル情報基盤整備・保存プログラム(NDIIPP)が推進する“Preserving Virtual Worlds”のようなデジタル情報の包括的保存プロジェクトである(11)。同プロジェクトの基幹組織の一つであるメリーランド大学のMaryland Institute for Technology in the Humanities(MITH)の所長であるネイル・フライスタット(Neil Fraistat)教授によれば、このプロジェクトは、MMORPG(多人数同時参加型オンラインゲーム)のようなネットワークゲームから、リンデンラボ社が運営するセカンドライフのようなメタバース(仮想空間)まで、デジタルなデータとしてネットワーク上に存在するものを、プラットフォームやコンピュータプログラムの種別を超えて一次的にそのまま保存する技術とその再現技術の総合的な研究スキームである。現状では、データの保存に際して現行のソフトウェアを提供している企業等の協力がないと不可能であることから、リンデンラボ社などが研究体制に加わっていることで一定の目処が立っているようであるが、それらを保存した後にどのように再現する環境を構築、維持していくかについては、まだ研究課題として検討段階ということであった(12)。

 とはいえ、このような有力な総合大学を横断するメガプロジェクトは、現状では、図1における「エミュレータ」や「ビデオ映像」を組み合わせる形でしか実現を試みることが出来ない、ゲーム自体とそのインタラクティブな特性のデジタル情報化による保存に対して、革新的なアプローチを生み出す可能性を十分に秘めており、引き続き注目していく必要がある。

 

3.2. 日本の状況

 日本におけるゲームアーカイブは、納本制度に基づく国立国会図書館による継続的な収集を除くと、立命館大学の「ゲームアーカイブ・プロジェクト」以外には組織的な取り組みは見られない(13)。

 ゲームアーカイブ・プロジェクトは、図1でいえば目的と手段のコンビネーション全体を横断的に指向するプロジェクトであるが、収集、保存する対象についてはデジタルゲーム全般ではなく、日本で制作されたビデオゲーム(海外販売されているものも含む)に限定している。また、方法としては図1の3つのアプローチを複合してゲームアーカイブを構築しており、そこから現段階で以下のような経験と知見が得られている。

 「現物保存」は、ハードウェアの物理的限界が明白であったとしても、散逸の恐れのあるソフトウェアが多数存在する現状では最も必要性の高いアプローチであるといえる。プロジェクトでは、まず日本および世界における初期的なゲーム状況の中で最も重要な位置づけを持つ任天堂ファミリーコンピュータ(ファミコン)の全ソフト(1,769タイトル)に加えて、セガ系、マイクロソフト系の各種ソフトウェアをおよそ500タイトル収集し、シュリンク(透明フィルム)によるパッケージ保護を含む現物保存環境の構築とともに、著作権表記を含む制作者情報、パッケージ画像、取扱説明書の一部などをデータベース化している(14)。

 また、2009年度より、これまでアーカイブしたソフトウェア情報について、フルテキストサーチに加えて、ジャンル、プラットフォーム、発売日、レーティング、売上規模などを検索キーとして検索することが可能な新しいデータベースモジュールに移行する準備を進めている。昨今のUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)の潮流にも対応し、利用者が必要に応じて、ゲーム概要やタグ、外部リンクなどのアップデート情報をデータベースに追記できる機能や、動画共有サイトのEmbedコード挿入機能、動画アップロード機能についても、許諾関係の課題が整理されれば実装を検討する予定である。

図2 ゲームデータベース「Ludoly」(開発中の画面)

図2 ゲームデータベース「Ludoly」(開発中の画面)

 「エミュレータ」によるゲーム保存は、ゲーム内容の保存についてはバランスのとれた方法である。プロジェクトでは、このようなエミュレータによるゲーム保存のフィージビリティスタディとして、任天堂株式会社の許諾を得てファミコンのハードウェア・エミュレータ「FDL」を開発し、ゲーム保存の観点から運用実験を行っている。

図3 ファミコンエミュレータ「FDL」

図3 ファミコンエミュレータ「FDL」

 しかし、「ゲーム全般の操作感覚(ゲームプレイ感覚)」については、ゲームハード、特にコントローラの特性に依存する性格が強いため、ソフトウェア・エミュレータによる保存では限界がある。エミュレータによるゲーム保存の可能性としては、開発コスト、ランニングコスト、技術リスク、インタフェース、総合的な操作感等のトータルバランスをどう実現するかという課題を踏まえて、エミュレーションのハードウェアとソフトウェアをデリケートにデザインしていく必要がある。

 「ビデオ映像」によるゲーム保存は、全く新しいゲームアーカイブのアプローチであるが、プレイヤーの操作情報を内包した保存になるため、「コントローラのボタン操作とゲーム画面の関係」および「ゲーム全般の操作感覚(ゲームプレイ感覚)」が欠落する構造になる(15)。しかし、デジタルゲームは、同じ映像創作物である映画等とは違い、その映像を操作したユーザの感性も同時に付加される所に今までになかった新しい創作物の特性があると考えられる。このような観点からすれば、ゲームの映像保存アーカイブは、「創作者と遊び手の感性の記録・保存」として、ゲーム開発者の感性だけでなく、遊び手の感性も同時に記録・保存することが可能となり、後々に参照、研究素材として価値あるものとなることが十分に予想される(16)。

 収集しているソフトウェアのビデオ映像を順次撮影してアーカイブするという段階にはまだ至っていないが、このような観点から、ゲームアーカイブ・プロジェクトでは、立命館大学内のゲームアーカイブ利用者の研究テーマ(ゲーム中のユーザ心理とコントローラの操作の相関研究など)に即して、研究資料としてのビデオ映像を撮影して蓄積している(17)。

図4 記録されたビデオ映像の例(右下がボタン映像)

図4 記録されたビデオ映像の例(右下がボタン映像)

 

4. After It's Too Late

 以上、ゲームアーカイブをめぐる国内外の最新動向を簡単に紹介してきたが、IGDAのゲーム保存白書が警告するように、デジタルゲームの素材的属性から考えて、すでに多くの資産が失われているかその間際である可能性がある。もちろん、「手遅れになる前に」できることはまだ多くあると信じたいが、すでにそうなりつつあるという現実を率直に認めた上で、いくつかの新しい展望について指摘して本稿を締めくくりたい。

 一つは、3.1.に見たように、世界のそれぞれの国や地域で、固有の若者文化として定着したゲーム文化をアーカイブしておこうという動きが活発になっていることである。どこか一つの機関や組織が全体としてのゲームアーカイブを達成することは困難であるとしても、それらの試みをネットワーク化したバーチャルなゲームアーカイブは現実的な実現可能性がある。

 もう一つは、いままでゲームアーカイブの主体としては想定されてこなかった個人、グループによる活動である。筆者は、あるフランス人ゲームコレクターのアーカイブ(18)を紹介されて感嘆したことがあるが、公開性と長期保存という観点からは限界があるこのような個人的な試み(コレクション)についても、なんらかの組織化を通じてバーチャルで継続性を持つゲームアーカイブに転換していく方法を検討してもよいであろう。

 ただし、いずれの場合にも、デジタルゲームという特異な属性を持つ素材をどのように扱い、保存し、利活用する道筋をつけていくかについて、ゲームの開発販売者、ユーザ、研究教育者とゲームアーカイブに関わる機関や組織、グループ、個人が共通して理解、納得しうる考え方とルールづくりが前提である。IGDAなどのゲーム開発者団体、デジタルゲーム研究協会(Digtal Games Research Association)、日本デジタルゲーム学会、ゲーム学会などの学術団体においても、このテーマの議論を広く公開しつつより一層活発に取り組んでいく必要がある。

立命館大学:細井浩一(ほそい こういち)

 

(1) Monnens, Devin et al. Before It’s Too Late: A Digital Game Preservation White Paper. International Game Developers Association, 2009, p. 3.
http://www.igda.org/wiki/images/8/83/IGDA_Game_Preservation_SIG_-_Before_It [295]'s_Too_Late_-_A_Digital_Game_Preservation_White_Paper.pdf, (accessed 2010-04-05).

(2) Monnens, Devin et al. Before It’s Too Late: A Digital Game Preservation White Paper. International Game Developers Association, 2009, p. 3-8.
http://www.igda.org/wiki/images/8/83/IGDA_Game_Preservation_SIG_-_Before_It [295]'s_Too_Late_-_A_Digital_Game_Preservation_White_Paper.pdf, (accessed 2010-04-05).

(3) デジタルゲームは、必然的にコンピュータゲームという側面を持つが、それを「コンピュータによって処理されるゲーム」(後藤敏行. コンピュータゲームアーカイブの現状と課題. 情報の科学と技術. 2010, 60(2), p. 72.)と広く捉えた場合、アーケードゲームのUFOキャッチャーのような、映像を活用しないタイプの筐体型アミューズメントもすべて対象とすることになる。しかし、デジタルゲームの核心は、テレビ画面に映し出された映像をテレビゲーム機に備え付けられた専用のコントローラで操作することから始まったところにあると考えると、そのような広義のとらえ方は、デジタルゲームという新しい表現メディアの展開とは異なる文脈において発生してきたものまでを対象とすることになり、映像コンテンツ領域から拡散することになる。この意味で、筆者が代表を務める「ゲームアーカイブ・プロジェクト」は、あくまでも映像メディアの一種としてのデジタルゲームに限定し、特にビデオゲームを中心とするパッケージ型ゲームのソフトウェアならびにハードウェアを対象として活動してきた。プロジェクトの詳細については下記の公式ウェブサイトを参照。
GAPweb:GameArchiveProject.
http://www.gamearchive.jp/ [296], (accessed 2010-04-05).

(4) 以下により詳しく展開されている。
細井浩一ほか. ゲームアーカイブの構築と活用に向けて. 京都アート・エンタテインメント創成研究News Letter. 2005, (4), p. 10-14.
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/art_coe/nl/nl_4_03.html [297], (accessed 2010-04-05).

(5) 後藤敏行. コンピュータゲームアーカイブの現状と課題. 情報の科学と技術. 2010, 60(2), p. 69-70.

(6) ビデオ映像によるゲームアーカイブは、一定のゲーム操作スキルを有したプレイヤーによるゲームプレイをビデオ撮影することによって制作されるが、そのままではビデオゲームの特徴であるコントローラ操作に関連する情報を記録・保存できない欠点を持っている。そこで、立命館大学では、上村雅之教授の研究室においてゲーム機のコントローラボタンの操作状況を可視化する装置をテレビゲーム機に新たに付け加え、その装置をビデオカメラで撮影記録する事で、テレビゲームのコントローラのボタン操作状況をビデオ映像(ボタン映像)として保存する事を可能にした。さらに、ボタン映像とビデオ映像の時間関係を調整した上で画面合成したビデオ映像を作成することで、ゲームの保存対象の「コントローラのボタン操作とゲーム画面の関係」を直接観測可能なビデオ映像とすることができる展望を得ている。

(7) IGDAゲーム保存白書は、対象とするデジタルゲームを広く定義しているため、コンピュータハードおよびソフト、アーケードゲームおよびオンラインゲームについてのアーカイブの試みも含めてリストアップしている。

(8) Monnens, Devin. “State of game preservation in 2010: A survey of game preservation programs in the United States and abroad”. Southwest/Texas Popular Culture and American Culture Association 31st Annual Meeting Albuquerque, New Mexico, 2010-02-10/13.
公開されたリストには若干ではあるが休館、休止中の機関、組織、活動が含まれている。

(9) 日本の2機関は、立命館大学のゲームアーカイブ・プロジェクトと東京大学である。

(10) The Early New Zealand Software Database.
http://nztronix.org.nz/main.php [298], (accessed 2010-04-05).

(11) Preserving Virtual Worlds.
http://pvw.illinois.edu/pvw/ [299], (accessed 2010-04-05).

(12) 立命館大学において開催されたデジタルヒューマニティーズのシンポジウム(2009年2月27日)に参加した同氏へのインタビューより。

(13) 長期保存という観点から見れば本質的に困難性があることから、本稿でもゲームアーカイブの主体としては取り上げないが、個人およびグループによるゲーム保存の実践や試みはPCゲームのようなコンピュータベースのものも含めて多数存在している。また、ゲームアーカイブ・プロジェクトより先行していた筐体型ゲーム機の収集と研究を中心とする「テレビゲーム・ミュージアム・プロジェクト」は、ゲームミュージシャンのすぎやまこういち、ゲームデザイナーの桝山寛らを中心として結成され、主にビデオゲーム期以前のアーケイドゲームマシンを収集し研究対象として整理・保存・展示してきたが、2007年度に正式に活動を停止した。同プロジェクトがアーカイブしてきた筐体型ゲームマシンの主要部分は、ゲームアーカイブ・プロジェクトが受託して引き継いでいる。

(14) ゲームデータベースの詳細については、以下を参照。
砂智久ほか. デジタルアーカイブの社会的利活用とその政策的課題について:GAP(ゲームアーカイブプロジェクト)の活動から. 政策科学. 1999, 6(2), p. 79-110.
また、特に取扱説明書のデータベース化については、以下を参照。
尾鼻崇. ゲームマニュアルを対象としたビデオゲーム研究の可能性:デジタル保存とデータベース構築の意義と課題. アートリサーチ. 2010, (10), p. 101-110.
ゲームデータベースの基礎情報の一部は下記URLで一般公開している。
“ゲームアーカイブ タイトルリスト”. GAPweb:GameArchiveProject.
http://www.gamearchive.jp/gatl/fctitle.html [300], (accessed 2010-04-05).

(15) 注(6)に示したように、ボタン記録装置を映像に付加することで「コントローラのボタン操作とゲーム画面の関係」についてはアーカイブ対象とすることができる。図4のビデオ映像には、右下にゲーム映像と同期しているボタン装置の点灯画面が組み込まれている。

(16) ゲームデータベースの項でも述べたように、動画投稿サイト等のウェブ上には、UGCとしての膨大なゲームプレイ画面の動画が存在する。これらの情報とゲームアーカイブをどのように関連させるかについては、特に法的な問題を含む議論になると考えられるが、本プロジェクトで取り組んでいるゲームプレイのビデオ映像は、撮影するゲームシナリオの部分(プロット)、撮影環境、撮影方法を一定にした人工的なものであり、ネット上の動画とは多くの点で異なっている。

(17) ゲームビデオ映像の撮影装置の詳細、およびそれを利用した実験についての詳細は、以下を参照。
上村雅之ほか. “ゲームアーカイブのための映像記録システム”. 中山隼雄科学技術文化財団研究助成(H17_A-12)最終報告書. 2008.
http://www.ritsumei.ac.jp/~hosoik/works/dp2006a.pdf [301], (参照 2010-04-05).

(18) Gorges, Florent. L'Histoire de Nintendo Volume 1. Paris, Pix'n Love, 2008, 226p.
Gorges, Florent. L'Histoire de Nintendo Volume 2. Paris, Pix'n Love, 2009, 195p.

 


細井浩一. デジタルゲームのアーカイブについて―国際的な動向とその本質的な課題―. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1719, p. 11-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1719 [302]

  • 参照(18216)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
資料保存 [303]
ゲーム [304]

CA1720 - 動向レビュー:電子リソースの普及と研究活動への影響 / 佐藤 翔

PDFファイルはこちら [305]

カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1720

動向レビュー

 

電子リソースの普及と研究活動への影響

 

1. はじめに

 電子ジャーナルの利用が日常化し、電子書籍も普及しつつある等、学術コミュニケーションの在り様は近年大きく変化している。それに伴い教員や大学院生等の研究活動にも変化が現れると考えられ、多くの研究がなされている。本稿ではそれらの研究からいくつかを取り上げ、電子ジャーナル・電子書籍等の電子的なリソースにより研究者の行動がどのように変化したか、あるいは今後変化するかについて、情報探索・閲読行動、研究・執筆行動、情報発信行動、研究評価の観点から検討する。なお、電子環境の発展・変化は著しく、電子ジャーナル・電子書籍以外にもWebサイトや主題リポジトリをはじめ様々な電子リソースが現れ、使われている。それら全てを含めた影響の検討は膨大になり過ぎるため、ここでは電子ジャーナル・電子書籍の影響に限定して取り上げる。

 

2. 電子ジャーナル・電子書籍の普及状況

 1995-2004年の研究をレビューした三根によれば、電子ジャーナルは年代を経るにつれ普及し、2000年前後には多くの研究者が用いるようになった(1)。近年の日本の状況については、学術図書館研究委員会(SCREAL)が2007年に国公私立大学等の研究者を対象に電子ジャーナル利用に関する調査を実施し、2001・2003年の国立大学図書館協議会、2004年の公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)の同様の調査と結果を比較している(2)。それによれば週1回以上電子ジャーナルを利用する研究者の割合は2001年の37%から2007年には77%と倍増した。また、ニウ(Xi Niu)らが2009年に米国の5大学の自然科学・工学・医学研究者を対象に行った調査によれば、回答者が日常読む論文の大部分は電子ジャーナルであった(3)。SCREAL調査でも回答者の約70%が最近読んだ論文は電子的に入手したとしており(2)、現在の研究者は単に電子ジャーナルをよく利用するだけでなく、論文利用の大部分が印刷媒体から電子ジャーナルに移っている。

 一方で電子書籍の利用は必ずしも一般化していない。SCREAL調査では複数の電子書籍サイトの認知度と利用度を尋ねているが、ほとんどのサイトで存在すら知らないとの回答が5割を超えていた(2)。2007年にebrary社が世界の図書館を対象に行った調査でも電子書籍の利用状況が低調とする館22%に対し、目覚ましいとした館は6%にとどまり(CA1648 [306]参照)(4)、2008年に同社が大学生・大学院生を対象に行った調査でも回答者のほぼ半数は所属機関提供の電子書籍を使ったことがなかった(E807 [307]参照)。また、2006年にスウェーデンの3つの大学で若手研究者24名を対象に観察調査を行ったハグランド(Lotta Haglund)らによれば、電子ジャーナルは全ての研究者が用いていた一方、電子書籍利用者は1人のみだった(5)。

 しかしここにきて電子書籍をめぐる状況は大きく変わりつつある。2009年に英国情報システム合同委員会(JISC)と、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の情報行動・研究評価センター(CIBER)が英国の教員・学生を対象に行った調査では、回答者の65%が電子書籍を利用した経験があった(E927 [308]参照)(6)。Kindle等の電子書籍リーダーの普及に伴い高等教育への電子書籍リーダー導入例も増えており、ニューメディア・コンソーシアムの年報である『ホライズン・レポート』の2010年版では今後2~3年で大学での電子書籍利用が普及すると予測している(7)。

 

3. 情報探索行動・閲読行動の変化

 研究者の行動のうち、電子リソースの普及で最も変わったのは情報探索行動であろう。電子リソースの与えた影響に関する研究でも情報探索行動にかかわるものが目立つ(8)。

 テノピア(Carol Tenopir)らは電子ジャーナルが研究者の情報探索行動に与えた影響について、1977年から2005年に行った5つの質問紙調査に基づき分析している(9)。それによれば回答者が最近読んだ論文の発見方法は、1977年には59%がブラウジングで、検索サービスによる発見は1%未満であったのに対し、2005年にはブラウジングが34%に減少し、検索による発見が23%と大幅に増えた。電子化により抄録索引データベース(DB)、サーチエンジン等から容易に電子ジャーナルの論文本文に辿りつけるようになったことで、論文を検索して読む行為が普及したと言える。

 検索のツールには電子ジャーナルサイト内の検索機能、各種のDB、サーチエンジン等があるが、どのツールを用いるかには研究分野によって差がある。2009年にCIBERが行った2つの電子ジャーナルサイトの分析によると、サイト内の検索機能は経済学、歴史学等の人文社会系で比較的用いられるのに対し、生命科学・医学や物理学等の自然科学系ではほとんど使われない(10)。生命科学・医学ではPubMed等のDBからの利用が66%と主である。また、物理学では36%、歴史学では40%がGoogle経由の利用であった。日本についても、倉田らが2007年に行った医学研究者を対象とする調査では、最近読んだ電子版論文の80%をPubMedで発見しており、サーチエンジンによる発見はほとんどなかった(11)。SCREAL調査でも医歯薬学の研究者はDBをよく用いる一方、サーチエンジンによる論文発見の割合は少なく、数物系科学や総合領域(情報学を含む)ではサーチエンジンによる発見の割合が多かった(2)。PubMedのような支配的なDBが存在する分野では論文発見のほとんどがそれに依拠し、そうでない分野はサーチエンジンも含め多様なツールが用いられていると言える。

 利用される論文の範囲も変化している。世界の多くの大学では電子ジャーナル導入に併せ雑誌を出版者ごとのパッケージ単位で契約するビッグ・ディール契約を結んでいる。ニコラス(David Nicholas)らはビッグ・ディールにより読めるようになった(冊子体では契約していなかった)雑誌の利用を分析し、それらの雑誌も研究者はよく利用していることを示している(E492 [309]参照)(12) (13)。また、出版年の古い論文の利用が増えたとする研究も多い(9) (14) (15)。電子化で過去の論文へのアクセスが容易になったこととあわせ、サーチエンジンで論文を探す研究者が増えたことが一因である。サーチエンジンの検索結果は一般に論文の出版年と関係なく表示されるため、古い論文が検索上位に表示されることがある。ログ分析を行った研究でもサーチエンジンからの利用者は出版年とかかわりなく論文を利用する傾向が知られている(15) (16) (17)。中でも若い研究者の間でサーチエンジンと古い論文の利用が普及しており(15) (18)、今後もこの傾向は拡大すると考えられる。ただし、読まれる論文の範囲が広がった一方、引用される論文の範囲(雑誌タイトル数や出版年)は狭まったとする研究もある(E907 [310]参照)(19)。

 論文の探索方法や利用範囲が変化した一方、論文の読み方自体には大きな変化はない。ほとんどの研究者は論文をプリントアウトし、紙で読んでいる(9) (10) (11)。米国ロチェスター大学の大学院生を対象に行った調査によれば、これは画面での読みづらさの他に、紙の携帯性の高さ、紙の論文にメモを書き込むことを好む者が多いこと、紙媒体が物理的なバックアップを兼ねていること等が理由である(20)。

 一方、2009年のJISCの調査によれば電子書籍については電子ジャーナルと異なり、印刷する者は少なく、利用者の多くは画面上で利用している(6)。一部の電子書籍サイトのインタフェースや印刷制限の問題が一因だが、電子書籍の利用目的自体が冊子体と異なるためでもある。電子書籍利用者の閲覧時間は非常に短く、全体を通して読むのではなく、検索機能を用いてヒットした部分を事実確認的に読む、という辞事典的な使い方をしている。電子書籍は紙の本の代替ではなく、異なる使い方をするものとして学生・研究者の間で普及していると考えられる。

 さらにこれらの情報探索・閲読行動を行う場所については、資料が研究者のデスクトップから検索・利用できるようになったことで物理的な図書館への来館が減少している(3)。一方で電子ジャーナル化に伴い雑誌の利用が個人購読から図書館購読にシフトしたともされ、組織としての図書館の果たす役割はむしろ大きくなっている(9)。

 

4. 研究・執筆行動の変化

 電子リソースが研究活動そのもの(実験、調査、開発、思索等)になんらかの影響を与えたのか、どんな影響がありうるのかの研究は少ない。今後、研究の余地のあるテーマであるが、もしなんらかの影響があったとしても、それが電子リソースの普及によるものか、研究を取り囲む環境全体の変化による影響なのかを区別することは容易ではない。

 研究結果を論文として執筆する際の行動の変化については、2006年から2008年のロチェスター大学の大学院生を対象とした調査の中で触れられている(CA1709 [311]参照)。それによれば論文を読むときと同様、執筆時においても大学院生は紙に印刷したものに手で注釈を加えながら推敲することを好み、指導教員や友人からアドバイスを受ける際もプリントアウトしたものにコメントを付けて受け取ることが多かった(20)。ワープロソフトのコメント機能等による添削は好まれず、文章を推敲する際には紙に印刷したものに手で書き込む、というスタイルは電子リソースが普及しても変化していない。

 

5. 情報発信行動の変化

 研究者が成果発信時に選ぶメディアの変化についての研究は、情報探索行動にかかわるものと同様に数多い。電子ジャーナル普及以前には、どのような分野の研究者が発表媒体として電子ジャーナルを選ぶかについての研究もなされていたが(1)、ほとんどの国際誌が電子ジャーナル化した現在ではそのような研究は行われなくなった。現在注目されているのはブログ、Wiki等の新たなメディアを通じた研究成果発信や、研究データを論文と併せて公開し、広く利用に供する試みの普及状況である。

 新たな形での情報発信は、幼少時から電子リソースに接してきた若い世代の研究者の間で広く用いられるのではないかと推測される。実際に情報探索行動の変化に関する研究の中では、若手研究者の間でGoogleの利用が広く普及していること、Wikipedia等のWebサイトも研究に用いられることが知られている(5) (15)。しかし、2007年から2010年にかけて考古学等7つの分野の研究者160人を対象にインタビュー調査を行った米国カリフォルニア大学高等教育研究センターの報告によれば、情報探索とは異なり、研究成果発信において若手研究者は最も保守的で、既に地位を確立した教授等の方が革新的なメディアを選ぶ傾向があった(E1020 [312]参照)(21)。テニュア(終身在職権)獲得前の若手研究者にとって、テニュア獲得や昇進のために査読雑誌論文や図書等の業績評価の対象となる媒体での発表が最重要視されるためである。一方で既にテニュアを得た研究者はある程度自由に振舞うことができるようになるため、革新的な媒体での発表も特に忌避することなく行うようになる。データ公開も同様で、若手研究者・大学院生ほど自らの研究データの公開に消極的であった。

 Public Library of Science(PLoS)(22)等のいわゆるWeb2.0風のジャーナルや、Cellが公開した新たな論文フォーマット(23)、あるいは最近のデータ共有の取り組み等(E903 [313]参照)、単なる紙媒体の代替を超えた電子的な情報発信・共有の試みは枚挙にいとまがない。また、Nature Precedings(24)やPLoS ONE(25)による、論文公開後に読者からのコメントや評価を受け付ける出版後査読の試み等、電子環境を利用し査読制などの学術コミュニケーションの在り方を改革しようという取り組みも複数なされている。これらの取り組みが普及するには現在の、あるいは今後研究の世界に参入してくる若手研究者ではなく、既に確固たる地位を築いたベテラン研究者に受け入れられることが重要である。各分野の権威に受け入れられ、分野の規範として確立することで初めて研究者間の情報発信行動は大きく変化すると考えられる。

 

6. 研究評価の変化

 電子リソースの普及により研究評価も大きく変化する可能性がある。現在の研究評価はピアレビュー等の質的な評価のほか、論文数や被引用数を用いた量的指標によって行われている。電子ジャーナルの普及で論文がアクセスされた回数が把握できるようになったことで、アクセス数を論文や雑誌、研究者の評価に用いる可能性が検討され、Usage Factor等の新たな評価指標の提案がなされるようになってきている(26)。既にPLoSの各雑誌など、論文単位でのアクセス数統計を読者に提示する雑誌もある。アクセス数が研究の評価に加味されるようになれば、研究者もこれを意識せずにはいられなくなるであろう。雑誌のImpact Factor(IF)に基づいて論文の投稿先を選ぶのと同じように、多くの読者を得られる雑誌を選んで投稿したり、より多くの利用を得るために解説論文を書くモチベーションが高まること等が考えられる。既に述べたように研究者は高い評価を受けテニュアを獲得することを重視するため、評価指標にアクセス数が組み込まれれば(IFがある時から急に意識されだしたように)情報発信行動が一変する可能性もある。

 一方で被引用数や論文数と異なり、アクセス数は水増し等の不正操作が容易に行える。不正の実例として、社会科学分野のリポジトリであるSocial Science Research Network(SSRN)でのアクセス数水増し行為を調査したエデルマン(Benjamin Edelman)らの研究がある(27)。SSRNではアクセス数の多い論文上位10位を「よく読まれた論文」として紹介する仕組みがあり、10位以内に含まれれば多くの人の目につく可能性が増える。そのため上位10位以内に入るか入らないかの瀬戸際にある論文の著者は自ら何度も自分の論文にアクセスする等の不正行為をしやすいという。電子ジャーナルの利用統計についてはCOUNTER等で標準化も試みられているが(CA1512 [314]、CA1666 [315]、E299 [316]、E757 [317]参照)、現在のところは統計の枠組み整備に主眼があり、悪意ある偽装には脆弱である。アクセス数への注目が高まればより高度な方法によって不正を図る研究者が現れることも考えられる。現在はまだアクセス数に基づく研究評価は検討の端緒についた段階であるが、もし一般化した場合には研究者の行動に多大な影響(悪影響?)を与える可能性もあり、今後の動向に注意が必要である。

 

7. おわりに

 電子リソースの普及状況と情報探索・閲読行動、研究・執筆行動、情報発信行動、研究評価の変化について近年の研究を取り上げてきた。現在のところ電子リソースの普及により最も変化したのは情報探索行動であり、今後変化する可能性が比較的大きいのが研究評価である。また、従来あまり普及していないとされてきた電子書籍にも普及の兆しがあり、その利用方法は電子ジャーナルのような紙媒体の代替物ではなく電子書籍独自のものとなっている。

 一方で研究活動そのものが電子リソースによりどう変化したのかについて扱った例は少ない。しかし電子ジャーナルの普及が引用される論文の範囲を狭め、研究者の視野を狭くしたのではないかとする研究があるように(19)、電子リソースの普及によって変化した情報探索行動が研究活動そのものの在り方も変容させている可能性もある。今後はこのような観点も含め、電子リソースが研究活動に与えた影響の全体像についてさらに多くの角度から研究がなされていくことに期待したい。

筑波大学大学院:佐藤 翔(さとう しょう)

 

(1) 三根慎二. 研究者の電子ジャーナル利用 : 1990年代半ばからの動向. Library and Information Science. 2004, (51), p. 17-39.

(2) “学術情報の取得動向と電子ジャーナルの利用度に関する調査(電子ジャーナル等の利用動向調査2007)”. 学術図書館研究委員会.
http://www.screal.org/apache2-default/Publications/SCREAL_REPORT_jpn8.pdf [318], (参照 2010-03-26).

(3) Niu, Xi et al. National study of information seeking behavior of academic researchers in the United States. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2010, 61(5), p. 869-890.
http://www3.interscience.wiley.com/journal/123302555/abstract [319], (accessed 2010-05-10).

(4) “ebrary's Global eBook Survey”. ebrary.
http://www.ebrary.com/corp/collateral/en/Survey/ebrary_eBook_survey_2007.pdf [320], (accessed 2010-03-26).

(5) Hagland, Lotta et al. The impact on university libraries of changes in information behavior among academic researchers: A multiple case study. The Journal of Academic Librarianship. 2008, 34(1), p. 52-59.

(6) “JISC national e-books observatory project: Key findings and recommendations”. JISC.
http://www.jiscebooksproject.org/wp-content/JISC-e-books-observatory-final-report-Nov-09.pdf [321], (accessed 2010-03-26).

(7) Johnson, L. et al. ホライズン・レポート:日本語版. 放送大学ICT活用・遠隔教育センター訳. Austin, Texas, The New Media Consortium, 2010, 34p.
http://intl.code.ouj.ac.jp/portal/report/NMC_HorizonReport_2010_Japanese.pdf [322], (参照 2010-03-26).

(8) 例えば、以下のものなど。
Rowlands, Ian. Electronic journals and user behavior: a review of recent research. Library & Information Science Research. 2007, 29(3), p. 369-396.
概要については、E726 [323]を参照。
Tenopir, Carol et al. Electronic journals and changes in scholarly article seeking and reading patterns. Aslib Proceedings. 2009, 61(1), p. 5-32.
概要については、E948 [324]を参照。

(9) Tenopir, Carol et al. Electronic journals and changes in scholarly article seeking and reading patterns. Aslib Proceedings. 2009, 61(1), p. 5-32.

(10) “E-journals: their use, value and impact”. Research Information Network. 2009-04-07.
http://www.rin.ac.uk/our-work/communicating-and-disseminating-research/e-journals-their-use-value-and-impact [325], (accessed 2010-03-26).

(11) 倉田敬子ほか. 電子ジャーナルとオープンアクセス環境下における日本の医学研究者の論文利用および入手行動の特徴. Library and Information Science. 2009, (61), p. 59-90.

(12) Nicholas, David et al. The Big Deal - ten years on. Learned Publishing. 2005, 18(4), p. 251-257.

(13) Nicholas, David et al. Electronic journals: Are they really used?. Interlending & Document Supply. 2006, 34(2), p. 48-50.

(14) Guthrie, Kevin M. Lessons from JSTOR: User behavior and faculty attitudes. Journal of Library Administration. 2002, 36(3), p. 109-120.

(15) Tenopir, Carol et al. Variations in article seeking and reading patterns of academics: What makes a difference?. Library & Information Science Research. 2009, 31(3), p. 139-148.

(16) Huntington, Paul et al. Article decay in the digital environment: An analysis of usage of OhioLINK by date of publication, employing deep log methods. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2006, 57(13), p. 1840-1851.

(17) Nicholas, David et al. Finding information in (very large) digital libraries: A deep log approach to determining differences in use according to method of access. The Journal of Academic Librarianship. 2006, 32(2), p. 119-126.

(18) Jamili, Hamid R. et al. Intradisciplinary differences in reading behavior of scientists: Case study of physics and astronomy. The Electronic Library. 2010, 28(1), p. 54-68.

(19) Evans, James A. Electronic publication and the narrowing of science and scholarship. Science. 2008, 321(5887), p. 395-399.

(20) Ryan, Randall et al. “次世代の学者 ロチェスター大学での調査報告書”. Digital Repository Federation.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=Foreign%20Documents&openfile=NextGeneration_ja.pdf [326], (参照2010-03-26).
Ryan, Randall et al. “The Next Generation of Academics: A Report on a Study Conducted at the University of Rochester”. University of Rochester. 2008-09-17.
http://hdl.handle.net/1802/6053 [327], (accessed 2010-03-26).

(21) Harley, Diane et al. Assessing the Future Landscape of Scholarly Communication: An Exploration of Faculty Values and Needs in Seven Disciplines. Berkeley, California, Center for Studies in Higher Education, 2010, 733p.
http://escholarship.org/uc/item/15x7385g [328], (accessed 2010-03-26).

(22) Public Library of Science.
http://www.plos.org/ [329], (accessed 2010-03-26).

(23) “Cell launches a new format for the presentation of research articles online”. Cell Press Beta.
http://beta.cell.com/index.php/2010/01/cell-launches-article-of-the-future-format [330], (accessed 2010-03-26).

(24) Nature Precedings.
http://precedings.nature.com/ [331], (accessed 2010-03-26).

(25) PLoS ONE.
http://www.plosone.org/home.action [332], (accessed 2010-03-26).

(26) Shepherd, Peter T. “Final Report on the Investigation into the Feasibility of Developing and Implementing Journal Usage Factors”. United Kingdom Serials Group.
http://uksg.org/sites/uksg.org/files/FinalReportUsageFactorProject.pdf [333], (accessed 2010-03-26).

(27) Edelman, Benjamin et al. Demographics, Career Concerns or Social Comparison: Who Games SSRN Download Counts?. Harvard Business School, 2009, 30p., (Harvard Business School NOM Unit Working Paper, 09-096).
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1346397 [334], (accessed 2010-03-26).

 


佐藤翔. 電子リソースの普及と研究活動への影響. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1720, p. 17-20.
http://current.ndl.go.jp/ca1720 [335]

  • 参照(12147)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
情報検索 [292]
学術情報 [336]
電子ジャーナル [337]
電子情報資源 [338]
電子書籍 [293]

CA1721 - 動向レビュー:OCLCの最近の動向:OCLCのウェブ戦略とその展開 / 中元 誠

PDFファイルはこちら [339]

カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1721

動向レビュー

 

OCLCの最近の動向:OCLCのウェブ戦略とその展開

 

 最近のOCLC年報(2007/2008年(1)および2008/2009年(2))において、WorldCatに収録されているレコードの急激な増加が報告されている。2007/2008年報では、1971年~2002年の30年余りの間の書誌レコードの件数が5,000万件であったことに対し、2002年~2008年のわずか7年間で5,000万件がWorldCatに搭載されたことが報告されている。また、2008/2009年報では、単年度で2億4,200万件のバッチロードが実行され、所蔵レコード件数は14億5,000万件に達したとされる。同年報には、当該年度の主なバッチロードの対象となった機関が一覧されているが、この中には、北米の主な研究図書館にとどまらず、米国議会図書館(LC)や主なドイツの州立図書館、中国国家図書館など各国の主要な図書館が散見される。2010年4月7日付けのOCLCのプレスリリース(3)によると、フランス国立図書館などのフランス国内の主要図書館とOCLCとの2009年の合意にもとづき、フランス語のレコードがバッチロードによりWorldCatに搭載されたとのことである。これらのバッチロードによるおびただしい数の書誌レコードの搭載を始めとした、OCLCのサービスの基盤であるWorldCatの近年の著しい成長は驚異的ですらある。2009年のWorldCat搭載書誌レコード数は、1億3,900万件におよび、言語は50言語以上とのことである。搭載書誌レコード数の1998年から2009年までの推移が2008/2009の年報に掲載されているが、1998年の3,900万件から2009年の1億3,900万件までの伸び率をみるとResearch Libraries Group(RLG)がOCLCに統合された2006年を境に急速な拡大が図られつつあることがみてとれる。2005年のWorldCat搭載件数が6,100万件であったのに対し2009年ではおよそ2倍以上の1億3,900万件とわずか4年で急速に拡大したことがわかる。この巨大なデータベースを有する世界最大の図書館共同体(Library Cooperative)であるOCLCは、今どこへ行こうとしているのだろうか。

 

Open WorldCat

 OCLCは、2004年、2005年に2つの調査レポートを発表した。2004年に出された“2003 OCLC Environmental Scan : Pattern Recognition”(E177 [340]参照)では、100人の情報専門家に対するインタビューと文献のレビューが行われ、主に以下の知見が示された(4)。

  • 伝統的な手法(図書館目録やそれに基づく図書館レファレンス等)による情報へのアクセスの減少とインターネットによる情報入手の拡大
  • 伝統的な情報の集積物(図書や雑誌)へのアクセスの減少と、求める情報そのものへのアクセスの拡大
  • 新たなテクノロジー(つまりインターネット)による情報社会の変容
  • 情報のグローバル化

 さらに、2005年に出された“Perceptions of Libraries and Information Resources”(E422 [341]参照)では、6か国における情報利用者の調査にもとづき、主に以下の知見が報告された(5)。

  • 回答者の84%が情報探索の最初に検索エンジンを利用する。
  • 情報探索の最初に図書館のウェブサイトを利用するのは1%にすぎない。
  • 90%が検索エンジンに満足している。
  • 人々は図書館を図書に関わるところだと考えている。
  • 大多数が図書館を確実・迅速に情報(とりわけデジタル情報)を得られるところだとは考えていない。

 こうした調査と並行して、2003年よりOpen WorldCatと呼ばれるプロジェクトが開始された(6)。このプロジェクトは、上で述べた調査結果を踏まえて、GoogleやYahoo!などの一般的な検索エンジンの検索対象としてWorldCatに搭載された目録レコードと所在情報を加えることにより、ウェブ環境下における図書館の視認性を向上させることを目的として開始された。このスキームでは、一般的な検索エンジンの検索結果として表示されたWorldCatのレコードは、ワンクリックで該当する資料を所蔵する直近の図書館サイトへと利用者を導く。公開する目録レコードを限定する形でいくつかのウェブサイトで試行がすすめられた。正式なOCLCによるプログラムとなった2005年には、Open WorldCatのサイトには5,960万のアクセスがあり、そこから170万アクセスが図書館のサイトへと導かれた。2008年には、1億3,450万アクセスのうち、890万アクセスが図書館のサイトへと導かれた。なお、同様の試行は、当時のRLGによってRedLightGreen(CA1503 [342]参照)というプロジェクト名で知られていたが、2006年のOCLCへの統合によって姿を消し、Open WorldCatが唯一のプログラムとなった。

 

WorldCat.org

 2006年8月、OCLCは、WorldCat.orgというウェブサイトを立ち上げた。このサイトに設けられた検索ボックスから利用者は、WorldCatに搭載されたレコードの全てについて検索、ダウンロードが可能となり、それにより、検索されたレコードに該当する情報資源を所蔵する直近の図書館を認識することが可能となった。このことは、視点をかえてみるとOCLCという巨大な図書館共同体が拠って立つWorldCatがウェブ環境に織り込まれる結果となり、文字どおり、グローバルな情報基盤の一翼をOCLCが、つまり図書館が新たな形で担うことを意味する。

 WorldCat.orgでは、さらに単なる目録レコードの提供にとどまらないサービスの展開をすすめた。2,500万件以上の著者レコードの公開(WorldCat Identities)につづき、横断検索サービスFirstSearchで提供されていた雑誌記事に関わる索引情報とフルテキストへのリンク情報などが段階的に拡充された。2008年の段階でこうしたフルテキストへのリンク情報をもったレコード数は5,800万件におよぶ。ウェブ環境下でのOCLCのコンテンツ戦略の展開をここから読み解くことも可能かもしれない。

 

書誌ユーティリティの整備と統合図書館システムの展開

 OCLCの創立者として知られるフレデリック・キルゴア(Frederic G. Kilgour)は、1965年にOCLCの設立に向けて、その達成すべき新たなサービスについて以下の項目を掲げていた(7)。

  • 1. 迅速で網羅的な目録情報の検索
  • 2. LCからのオンラインによる機械可読目録(MARC)レコードの入手
  • 3. MEDLARSやCheminal Abstractsと同様の機械可読索引の検索
  • 4. 受入手続きにおける目録情報の提供
  • 5. シリアル処理と貸出・返却記録のためのリアルタイムコンピュータサービスの提供

 これらのサービスを実現するために1967年、OCLC(当時はOhio Computer Library Center)が設立された。キルゴアは1971年、コンピュータネットワークによるオンライン総合目録と分散目録システムをオハイオ州立大学に立ち上げ、1979年には、ネットワークによる相互貸借(ILL)システムを立ち上げた。この間、ネットワーク参加図書館は確実に数をふやし、その広がりは全米50州におよんだ。OCLCの当初の目的であった、コンピュータネットワークによる目録にかかる図書館運営経費の節減とそれを基盤としたILLシステムの構築は、新たな時代の図書館協力の形として実を結ぶこととなった。後に書誌ユーティリティとよばれる図書館ネットワークの構築は、1974年のRLGなど北米を中心にいくつか試みられることとなった。その後、1990年代の後半から2000年代の前半にかけて、いくつかのネットワークが、OCLCによる図書館協力の外延を広げる形でOCLCの提供するサービスに吸収され、さきに述べたように2006年のRLGの統合によって現在の形を見ることになる。北米における最大規模のネットワークの基盤であったRLG総合目録のWorldCatへの統合により、約780万レコードがWorldCatに追加された。

 書誌ユーティリティの整備と歩調をあわせるかのように整備がすすめられたのが統合図書館システム(Integrated Library System:ILS)である。特に1980年代からOPAC(Online Public Access Catalog)と呼ばれる図書館目録のオンラインによる提供は、その他の図書館業務、キルゴアがかかげた図書館運営経費の節減を図書館単位で進めるものとして脚光を浴びた。OPACは、ネットワーク整備の初期段階でのテルネットによる一般利用から、ウェブ環境下でのGUI(Graphical User Interface)へと進化をとげたことは、当然の成り行きであった。しかし、一方で、これもウェブ環境の進化がしからしめた結果であったが、図書館が利用者に提供するコンテンツそのものの電子化が劇的にすすめられた。ILSの言葉が意味する、統合型システムが対応しきれないコンテンツ環境が図書館システムの市場を混乱させている。こうした状況を端的に指し示すのが、2000年以降のILSベンダーとコンテンツベンダーのおびただしいまでの吸収・合併である。新たなコンテンツ環境に対応するためにILSに加えて近年、図書館市場に登場したサービスとして、OpenURL Link Resolver、Federated search tool、Digital archive、Institutional repository、Electronic Resource Management(ERM)、Next-generation portal and discovery toolsなどがある。

 

WorldCat Local、そしてWeb-scaleへ

 WorldCat Localは、2007年にワシントン大学図書館においてパイロットプロジェクトとして開始された(E643 [343]参照)。WorldCat Localでは、図書館が個々に提供していたOPACの検索窓にかわってWorldCatの検索窓をおき、検索結果をその利用者が所属する図書館から順番に直近の図書館の所蔵情報を提供する。検索結果からWorldCat上のILL申し込みまで一連の流れとして処理する、リンクリゾルバによって契約コンテンツのフルテキストに直接リンクするなどシームレスなサービスが提供される。これらの機能によってWorldCat Localの参加図書館は、OPACでの目録提供サービスまでの一連の業務負荷をWorldCatの環境下で軽減することが可能とされる。さらに、上でのべたように、WorldCatに搭載されるほとんどあらゆる種類のサービスがローカルな図書館サービスの環境下で提供されることになり、図書館は必要に応じてWorldCatサービスのポートフォリオを選択すればよいことになる。個々の図書館は、その図書館に特有の情報の管理(たとえば、ユニークなコレクションに関わる業務と図書館資料の貸出・返却管理に必要な情報など)に特化してワークフローを想定すればよくなり、サービスの省力化と効率化が一気に実現することになる。現在、北米の数十の図書館がこのパイロットプロジェクトに参加し、システムの実効性の検証がすすめられている。

 40年前にキルゴアが掲げた目標の実現にむけて、OCLCは2009年4月にWorldCat Localのコンセプトをクラウドコンピューティング環境下でさらにすすめた、Web-scaleによる図書館管理の考え方“Web-scale Management”を公表した(8)。Web-scale Managementでは、WorldCatによる検索サービスと関連する目録業務に加え、蔵書管理と関連する利用者情報の管理、印刷・電子媒体の収集管理、ライセンス管理、サービスのポートフォリオ管理、これら管理業務にかかるワークフロー管理、図書館経営上の管理情報の共同管理など図書館運営にかかわるほとんどの業務がWorldCatというネットワーク上(いいかえればクラウド上)の処理ということになる(9)。開発にあたるOCLCのアンドリュー・ペイス(Andrew K. Pace)によれば、2010年6月からのパイロット図書館として、すでにいくつかの米国の図書館が決まっているとのことである。また、パイロットと並行してLibrary Advisory Councilが組織され必要な助言が行われる運びとなっている(10)。

 

 Open WorldCat、WorldCat.orgからはじまり、WorldCat Local、Web-scale Managementまで概観してきたが、1998年にOCLCのCEOに就任したジョーダン(Jay Jordan)は、OCLCによるグローバル戦略展開の必要性を強く訴えてきたことで知られる(11)。これまで見てきたようにジョーダンによるグローバル戦略の展開とは、ウェブ戦略の展開に他ならない。

 一方で、ジョーダンは、OCLCのガバナンスの改革をすすめた。それまでは、北米の図書館中心で構成されていたUsers Councilを北米以外の地域代表を加えたMembers Councilとし、Councilの規模を拡大した。現在では、Global Councilと世界をいくつかの地域にわけたRegional Councilの構成となっている。一連のOCLCによる戦略の展開が図書館共同体というガバナンスのもとですすめられていることは重要である。2008年11月に提案されたWorldCatのレコード利用に関わるガイドラインの改定案がおびただしい批判にさらされたことは記憶に新しい。これらの批判に対応して、現在、新たな提案が公開されているが、OCLCによってとられたこの間の一連の対応は、こうしたガバナンスのもとで理解される必要がある(12)。

早稲田大学図書館:中元 誠(なかもと まこと)

 

(1) OCLC Annual Report 2007/2008. Dublin, Ohio, OCLC Online Computer Library Center, 2008, 56p.
http://www.oclc.org/news/publications/annualreports/2008/2008.pdf [344], (accessed 2010-04-20).

(2) OCLC Annual Report 2008/2009. Dublin, Ohio, OCLC Online Computer Library Center, 2009, 62p.
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  • 参照(14553)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
OPAC [198]
ディスカバリインターフェース [200]
書誌ユーティリティ [354]
総合目録 [355]
WorldCat [356]
OCLC [357]

CA1722 - 研究文献レビュー:学校図書館に関する日本国内の研究動向―学びの場としての学校図書館を考える / 河西由美子

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カレントアウェアネス
No.304 2010年6月20日

 

CA1722

研究文献レビュー

 

学校図書館に関する日本国内の研究動向―学びの場としての学校図書館を考える

 

はじめに

 2010年は「国民読書年」である。2000年の「子ども読書年」以来、2001年施行の「子どもの読書活動の推進に関する法律」を経て自治体の子ども読書推進計画も整備され、子どもの読書については成果の多かった10年といえるだろう。

 学校図書館には、1997年の学校図書館法の改正により、12学級以上の学校(全小・中・高校の約半数)という制約つきながら、2003年度以降司書教諭の配置が義務付けられた。ほぼ時を同じくして改訂(1998-1999年)された学習指導要領では、小学校に「総合的な学習の時間」が誕生し、学校図書館メディアを活用した「調べ学習」の機会増加をもたらした。2008年度の全国一斉学力調査の結果からは、学校図書館を計画的に授業で活用した学校では、成績集団の低・高層ともに学力の向上が見られたことが大きく報道された(1)。この10年は読書と学習の両面において「学校図書館の再発見」が行われた期間と言えるのではないだろうか。

 

研究動向とテーマ

 本稿に先行する研究文献レビューには2004年に中村百合子氏が著した「学校図書館に関する日本国内の研究動向」(CA1546 [359]参照)があるため、本稿では以降の2005年から2009年までの5年間の動向を取り上げる。中村氏も指摘している「本格的な研究、つまり査読を経て発表された論文や、オリジナリティのある質の高い研究書となると、その数は未だに極めて限られている」状況については残念ながら2010年の今日も大きな変化はない。そこで本稿では学術論文に限らず、図書館関係の専門誌に掲載された論考も対象にしている。さらに本稿では新学習指導要領の実施を前に注目が高まっている学校図書館における教育・学習活動をテーマとし「学びの場としての学校図書館」に関する研究動向調査とする。

 なお、「学校図書館員のあり方に関する研究(職員制度、職員養成、職務内容等)」(上記中村氏レビュー内での分類)や「学校図書館と読書(子ども読書推進計画を含む)に関する研究」については冒頭で触れたとおり、学校図書館法改正による司書教諭の配置や「子どもの読書活動の推進に関する法律」の成立を受けて多数の論考が存在するため、独立した主題として取り扱われることが望ましいと考え、本稿の対象範囲には含めないこととした。文献データはNDL-OPACを利用して検索・収集した。学校図書館界の動向を概観するため雑誌記事(全国規模で刊行されている専門・研究誌)を中心に追究した。必要に応じて単行書・博士論文・調査報告書についても触れている。

 

1. 研究の全体的な傾向

 NDL-OPACで「学校図書館」を論題名キーワードとし、2005年から2009年の5年間の雑誌記事を検索すると、967件(2010年4月2日現在)となる。2000年から2004年の5年間の検索結果では942件であるので、微増傾向にある。この条件による検索結果には網羅性に限界があるが、おおよその動向の目安として紹介する。

 

2. 情報教育(情報活用能力・情報リテラシー)と学校図書館

 1997年に発表された「体系的な情報教育の実施に向けて」(2)によって、小学校・中学校においては既存科目で情報教育を展開する方針が示され、1999年3月に告示された学習指導要領によって、高等学校には独立科目としての教科「情報」が誕生した。その前年の1998年に情報教育の骨子を定めた「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」の最終答申(3)が発表され、司書教諭は「メディア専門職」、学校図書館は「学習情報センター」と位置づけられていた。教科「情報」実施年の2003年が奇しくも学校図書館法改正による司書教諭配置義務化開始の年でもあり、情報教育と学校図書館の連携への期待が生まれたが、現実にはこの情報教育側の呼びかけに対し、学校図書館界からは明確な反応が無く、米国で1960年代に視聴覚教育と学校図書館が結び付き「学校図書館メディアセンター」が生まれた展開(4)にはほど遠いものとなった。

 しかしながら2000年代前半には、1998年に米国で発表された学校図書館における情報リテラシー教育を宣言した「インフォメーション・パワー」の翻訳書(5)および関係文献や論考(CA1546 [359]参照)が出揃い「情報リテラシー教育」への関心が高まった。2005年以降、学校図書館関係の論考にも情報教育を取り上げたものが現れる。

 日本で政府用語として使用されている「情報活用能力」と、図書館分野で英語圏から輸入された「情報リテラシー」の用語や概念については筆者の博士論文(6)や、国立国会図書館の図書館調査研究レポート(7)で整理を行っているので、詳細についてはそちらを参照されたい。2008年に大城善盛氏が、5社6種の「学習指導と学校図書館」テキストにおける「情報リテラシー」や「メディア・リテラシー」、「コンピュータ・リテラシー」、「情報活用能力」等の用語使用のばらつきについて論じている(8)が、本稿で取り上げる文献の中にもそのような用語の混在が見られることをあらかじめ指摘しておきたい。

 情報教育発足間もない時期の論考としては藤間真氏らによるもの(9) (10)がある。教科「情報」の検定済み教科書14社25種を対象に「図書館」というキーワードの出現回数を調査し、出現回数ゼロの教科書が3点あったことが報告されている。また教科書出版社(11社中4社回答)および「情報科教育法」担当者(「情報」の教職課程認定を受けている185校に送付し37校41名が回答)へのアンケート調査では、「学校図書館に関する要素を情報教育の範疇に含めて考えているか」を調査し、結論として、情報教育関係者の学校図書館認識は極めて限定的であることが示されている。

 全国学校図書館協議会が発行する『学校図書館』誌は2006年1月号(第663号)で「司書教諭による学習指導」を特集している。調べ学習、教科での活用、複数教科や全教科での図書館活用の中に情報活用能力の育成も含まれており、兵庫県の県立高校司書教諭である村木俊二氏は、「情報活用能力を育成する」という実践報告の中で、以下の5つの演習課題を報告している(11)。学習の各要素と段階が緻密に構成された興味深い実践である。

  • ① 問いを考える
  • ② 図書館利用指導と資料検索
  • ③ 「本」の中の情報を探し整理して記録する課題
  • ④ 情報の読み方や記録のしかたを学ぶ課題
  • ⑤ 調べる方法を身につけるための課題

 2006年には家城清美氏の私立学校の事例(12)や、山梨県立高校の教諭・司書の共同研究(13) (14)などが発表されている。後者は2004年度からの教科・情報における実践として、情報検索やホームページ作成のための情報収集、などを報告している。

 同誌2006年12月号(第674号)は「学校図書館と情報教育」の特集である。巻頭では、情報教育の成立に関わってきた教育工学者の堀田龍也氏がその論考の末尾で「情報教育の基礎体験としての図書館教育の可能性」に触れ、「ある程度の確信度が保たれている図書の情報をしっかりと読み取ることから始める」必要性について指摘している(15)。同特集は、情報教育との連動の中で育成される能力概念のショーケースといった趣があり、林尚江氏は「スキル学習」を(16)、中條敏江氏は「図書館教育・コンピュータ教育」を(17)、糸山恵美子氏は「調べ学習」(18)、井上千里氏は「学習・情報センター」(19)、栗原峰夫氏は「グローバル・ラーニング」(20)、大場弘美氏は「メディア・リテラシー」(21)、佐藤義弘氏は「情報検索」(22)と、観点の豊富さは当該分野の発展可能性を示唆しているといえよう。

 2007年には鎌田和宏氏が、小学校教員による情報リテラシー教育の実践報告を行っている(23)。情報リテラシー教育を単発的な図書館オリエンテーションに留めず学習者の経験に応じた段階的な教育活動に仕立てている点が注目に値する。鎌田氏はその後『先生と司書が選んだ調べるための本―小学校社会科で活用できる学校図書館コレクション』(24)を著している。

 塩谷京子氏は、図書資料を活用した授業実践を「情報活用能力の育成」と位置づけている(25)。塩谷氏は、児童文学評論家で近年は学校図書館での活動が注目されている赤木かん子氏との共著『しらべる力をそだてる授業!』(26)、教育工学者の堀田龍也氏と共に『学校図書館で育む情報リテラシー―すぐ実践できる小学校の情報活用スキル』(27)を2007年に出版しており、情報教育と学校図書館をつなぐ実践者としての評価は高い。参考図書と情報活用能力を結び付けたものには、辞書・辞典の活用と情報活用能力を結び付けた渡邊重夫氏の論考(28)もある。またこの時期非常に注目を集めた公立小学校の学校図書館利用指導の事例として、山形県鶴岡市立朝暘第一小学校における一連の実践と著作がある(29)。

 

3. PISA型読解力と学校図書館

 この期間(2005年-2009年)の教育界の大きな「事件」の一つに「PISAショック」がある。日本の子どもの学力が、国際調査の「OECD生徒の学習到達度調査2003年調査」(PISA2003)において必ずしも高く評価されなかったことは、教育界のみならず、日本社会に大きな衝撃を与えた。文部科学省も分析と改善に乗り出し(30)、その後の全国学力調査の実施や様々な学力低下論議の展開に影響したことは記憶に新しい。

 『学校図書館』誌は2005年3月号(第653号)の特集「OECD調査を読む」でPISA調査を取り上げ、有元秀文氏(31)や浅田匡氏(32)がPISA調査2003の概観と分析を示している。同誌2006年4月号(第666号)には2005年に文部科学省が発表した「読解力向上プログラム」(33)も掲載されている。

 学校図書館における「PISA型読解力」の受容には大きく分けて2つの流れがあると考えられる。一つは読書指導や読書活動、国語教育や言語教育への新たな視座の提供である。これは読書分野の研究に関わる(34)テーマであるので本稿では詳しく取り上げないが、「読解力」というキーワードは「読書」と「学習」に二分されがちな学校図書館の活動に連環をもたらす触媒となり得ると筆者は見ている(35)。というのも、もう一つの流れは、学校図書館における学習指導への理由付けになると考えられるからである。文部科学省がPISAの「読解力」について「我が国の国語教育等で従来用いられていた『読解』ないしは『読解力』という語の意味するところとは大きく異なる」と指摘したように、読解の対象自体も「文章で表されたもの(物語、解説、記録など)だけではなく」、「データを視覚的に表現したもの(図、地図、グラフなど)も含まれ」、「教育的内容や職業的内容、公的な文書や私的な文書など、テキストが作成される用途、状況にも配慮されるなど、テキストの内容だけでなく、その構造・形式や表現法も、評価すべき対象」とするなど幅広い(36)。多様な素材を的確に読み取る能力を育成するには、多様な情報源を提供することで学習に貢献するという目的を有する学校図書館はまさにうってつけと言える。

 『学校図書館』誌は2008年4月号(第690号)から「シリーズ・PISA型読解力の向上を目ざす学校図書館」を開始しており、熊本県立教育センターの吉永鈴子氏は「自ら本に手を伸ばす子どものための学び方の指導体系表」をまとめている(37)。杉本洋氏の論考(38) (39)では、PISA型読解力育成と情報リテラシー教育の内容の関連性を認識しつつ実践を展開している様子が興味深い。

 

4. 学びの場としての学校図書館

 日本の学校図書館は長らく学校教育の傍流に置かれてきたが、近年「学習に役立つ図書館」への関心が高まっている。そのために学校図書館関係者による教育課程の理解は不可欠であり、実施を待つ新しい学習指導要領に対する記事は増加している。

 『学校図書館』誌では2009年に一年間に亘る連載「新教育課程における学校図書館の活用」において、ほぼ全教科での学校図書館の活用について解説と提案を行っている。2009年3月に小・中学校に続いて高校・特別支援学校の指導要領が出揃ったことを踏まえ、2009年5月号(第703号)では「新学習指導要領(高等学校、特別支援学校)における「学校図書館」関連の記述(新旧対照表)」(40)を掲載し読者の理解を促している。同年7月号(第705号)では再び新学習指導要領が取り上げられている。2009年の学習指導要領改訂の眼目であるとされる「言語活動の充実」(41)に関する論考が多く(42) (43) (44)あるが、「探究型学習」を取り上げたものもある(45)。高等学校の学習指導要領全体を読み込んだものには、東海林典子氏の司書教諭および学校司書の立場から資料構成をはじめ学校図書館経営に活かすという観点からの分析があり、実務者の参考となろう(46)。

 根本彰氏は、学習指導要領の性格や、改訂の経緯、系統学習と問題解決学習の相克など、さまざまな論点から整理を行っている(47)。総合的な学習の時間の取り扱いについて「各教科のなかで、知識の応用や課題解決学習、そして探究的な学習が具体的に書き込まれることにより、総合的学習でやるべきことが教科横断的・総合的なものであることが明確になった」(48)という指摘や、新学習指導要領が、必ずしも現行の指導要領に否定的な系統学習への後退ではなく、「1977年の改訂以降に敷かれた路線」(49)の確実な進行と見る視点は重要であろう。一方で根本氏は「文部科学省のスタンスがこのような課題解決と探究的な学習を振興し、学校図書館をそのための拠点として積極的に位置づけようとしていることは明らかであるのに、本当にそれが可能な体制になっているとは言えない」(50)と、学校図書館制度や整備状況の問題点を指摘している。学習指導要領や教科書の学校図書館記述が増加しても、そのほとんどがスキップされてしまうような事態を招くのでは意味がない。学校図書館の本質的活動である「学習」を扱おうとしても、絶えず制度や整備の問題にぶつからずにはいられないところが、現在の学校図書館の抱える構造的な問題と言える。

 以下、その他の学習と学校図書館に関する論考についてテーマごとに紹介していきたい。まず、この時期に顕著なテーマとして学校図書館支援センター事業における地域協力、公共図書館との連携についての記事があるが、実施報告に留まるものが多く、調査研究としては2007年度に指定された59地域へのアンケート調査(28地域から回収)を分析した中村由布氏の研究がある(51)。

 中村百合子氏のレビュー(CA1546 [359]参照)で「学校図書館の電子化」の問題として触れられていた問題については、『学校図書館』誌2005年4月号(第654号)が「ホームページの作成と活用」を特集しており、北海道・立命館慶祥中学校・高等学校の斎藤忠和・斎藤博之両氏による論稿(52)のほか、山田知倢氏による論稿(53)などが掲載されている。オンラインデータベースの活用については櫻井強氏による報告(54)がある。

 今日的な学校図書館メディアへの対応という点では、ケータイ小説を取り上げた林貴子氏の報告(55)が、学校図書館の新たな利用者への対応として「ケータイ小説の次の一冊」を意識したサービスを提案している点で興味深い。またマンガについても『現代の図書館』誌が2009年に「図書館におけるまんがの行方」という特集を組んでおり、高校図書館の立場から笠川昭治氏(56)が、小学校図書館から渡部康夫氏(57)が執筆している。ケータイ小説やマンガを図書館の「呼び水」として活用することには未だ学校現場での抵抗は根強いようだが、娯楽としての読書を糸口に読書への興味喚起や読書習慣の定着に結び付ける視点は重要である。

 著作権教育については『学校図書館』誌が5年間に2回著作権に関する特集を編んでいる。2005年9月号(第659号)「特集I 学校図書館と著作権」には小学校司書教諭・熊谷一之氏による実践報告などが掲載されている(58)。2009年5月号(第703号)でも再び「学校図書館と著作権」が特集されている。後者では、神奈川県SLA司書教諭専門委員会による資料集作成の報告(59)や、山口真也氏による学校図書館担当者養成を意識した著作権学習の試行が紹介されており(60)、著作権教育をより組織的・体系的に実践する必要性が示されている。山口氏には、個人情報保護の問題についての記事もある(61)。

 また特別支援教育では松戸宏予氏による一連の研究(62) (63)や、歴史研究に類するが、野口武悟氏による米国盲学校図書館の研究(64) (65)などが出揃ったのもこの時期特筆すべきことであろう。

 

5. 学校図書館研究動向の課題と展望

 本稿冒頭で述べたとおり、この間学校図書館研究における学術論文の数の飛躍的な増加は無かったものの、NDL-OPACで学校図書館を題目に含む博士論文を検索すると、全5件中4件は2006年から2008年の間に提出されている。他の1件が1977年に遡ることを考えると大きな進展である。しかしながら、その内訳を見ると、2点が歴史研究(66) (67)、2点が特別支援教育に関するもの(68) (69)であり、学校図書館において展開される実践、ことに学習活動に関するものは皆無である。全国レベルの図書館情報学の学会である日本図書館情報学会の論文誌を見ても、学校図書館研究の偏りは明らかで、2005年から2009年までに掲載された学校図書館関係論文10本のうち、歴史研究的アプローチを取る論文が7本を占め、その内訳は、読書指導に関するものが2本(70) (71)、戦後教育史(72)、特別支援教育(64)、米国事情(73)、カリキュラム史(74)、専任司書教諭配置政策(75)が各1本である。歴史研究以外では、特別支援教育が2本(62) (63)、自治体教育委員会(76)に関するものが1本である。これを見ても、学校図書館実践を実証的に論じた本格的な研究は皆無であることがわかる。学校図書館学会による『学校図書館学研究』誌は、全編学校図書館を主題とした論文誌であるが、実践報告のレベルに留まるものも多く、本格的な研究、ことに本稿の主題とする学習活動に触れたものはやはり少ない。学校図書館分野の実践と研究の間には大きなギャップがあることがわかる。研究主題やアプローチにこのような偏重が表れることには2つの要因が考えられる。第一に、実践研究に耐えうる環境を持つ学校図書館の絶対数不足の問題、もう一つは研究者養成機関における学校図書館分野の指導教員の専門分野と研究方法の偏りの問題である。

 日本の学校文化の中で諸外国から高く評価されるものの一つに授業研究(77)の質の高さがある。しかしながら学校図書館研究において、授業を分析したり評価する授業研究との関連において学校図書館活動を論じた実践的研究が少ないということは大きな問題である。教科教育分野で充実した授業研究が展開されてきた歴史を持つ日本の教育風土において、充実した実践研究を持たない学校図書館が一体どのように教育への貢献を主張できるというのだろうか。ことに学校図書館研究においては、教育学の諸分野(特に教授法、教育方法学など)に越境可能な研究者を養成していくことは大きな課題であろう。

 図書館分野以外の媒体では、たとえば情報教育系の『学習情報研究』誌が2009年11月号で「学校図書館と情報教育」の特集を組んでおり、全編が学校図書館分野の執筆者の論考で占められている。堀田龍也氏の論考(78)を皮切りに、筆者も寄稿している(79)。その他の執筆者は、1997年の学校図書館法改正後、県をあげて司書教諭配置に尽力した静岡県出身の司書教諭(80) (81)や、改正前から活動してきた学校図書館先進校の司書教諭・学校司書(82) (83)、学校図書館の地域ネットワーク事業の草分け地域である市川市(84)や近年の躍進地域である東京都荒川区(85)など、実績ある実践者が担当しており、この分野の学校図書館実践の見取り図とも言える構成となっている。学校図書館と情報教育からさらにメディア・リテラシー教育へ展開する様相も報告されている(86) (87)。こうした分野越境的な取り上げ方は、情報教育分野の読者が、学校図書館活動の先進事例を知り、また学校図書館分野の読者が、隣接分野の媒体を目にして、双方が連携を深める上で貴重な機会を提供した。ちなみに同特集号は異例の完売品切れとなり、特集に寄せられた各界の関心の大きさが示される結果となった。この特集号に至る背景には、2008年9月に玉川大学で開催された日本教育工学会研究会(テーマ:学校図書館と情報教育)の成功があった。学校図書館における情報リテラシー/情報活用能力に関する研究発表が一定数集まり、独立した研究会として成立したことが情報教育分野でも注目されたということである(88)。

 筆者の私見として、今後の学校図書館における実践の核となるのは、本稿でも取り上げた「情報リテラシー」や「読解力」の育成のほか、「探究型学習」などの学習に関わる主題であると考えている。この5年間を見る限り、上記の主題の紹介記事は散見されても本格的な研究の域に達するものはほとんど無い。欧米の学校図書館研究では情報リテラシー教育や探究型学習の理論的根拠として、認知心理学分野や学習理論の知見が援用されてきたが、日本では学習観への言及も、枝元益祐氏の論考(89)などまだ数少ない。

 その他今後期待される主題に、学習空間や学習環境といった見地からの学校図書館のデザイン研究がある。この分野は日本ではほとんど論考らしい論考がないが(90)、情報技術と学習理論・コミュニケーション理論を取り入れた学習環境作りという観点(91)から注目される領域である。

 またこの期間中に実施された科学研究費助成対象の調査に「情報専門職の養成に向けた図書館情報学研究体制の再構築に関する総合的研究」(通称LIPER)(92)がある。筆者は学校図書館班のメンバーとして、学校図書館専門職の提案に関わった(93)。学校図書館の人の問題には長い紛糾の歴史があり、1997年の学校図書館法改正以後も、司書教諭・学校司書の二職種をとりまく混乱状態は必ずしも解消されず、二職種のいずれかに立脚した対立構造から離れて既存制度の構造的な問題に立ち向かおうとする論考が生まれにくい状況にある。LIPER研究は膠着した図書館の人的制度の現状に対峙し研究面から提言しようとした試みであり、今後の方向性議論の素材にされるべき共同研究であろう。

 学校図書館の将来像を描こうとする研究が少ない中、原田隆史・田村香澄両氏による「学校図書館の将来像に関するデルファイ調査」(94)は興味深い試みである。図書館の将来像を問う研究は、モデル間の比較検討が可能となる程度の量が存在することが望ましい。図書館のように臨床の場を抱える分野の研究者には、政策提言に貢献する責任も要求されると筆者は考えている。

 最後に学校図書館の国際化という課題を挙げたい。長倉美恵子氏による論稿(95)は、内向的な日本の学校図書館業界の様相を鋭く批判している。上記LIPERの後継研究「情報専門職養成をめざした図書館情報学教育の再編成」(通称LIPER2)(96)の下部研究として、「情報専門職養成カリキュラムの国際相互認証と単位互換制度に関する研究」が実施されたが(97)、このほどその後継となる国際研究「情報専門職教育における学位・資格の国際的な同等性と互換性に関する研究」(2010年度~2012年度基盤研究B 代表:三輪眞木子)の開始が決まった。研究計画の中にはアジア太平洋地域の学校図書館国際研修プログラムの共同開発および日本における国際セミナーの開催が含まれており、筆者も研究分担者として関わっている。今後の日本の学校図書館の質的向上と進化に期待したい。

玉川大学: 河西由美子(かさい ゆみこ)

 

(1) 図書館活用で学力アップ : 文科省, 全国学力調査分析. 朝日新聞. 2008-12-16, 朝刊, 1面.

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(8) 大城善盛. 司書教諭課程用のテキストの中に見られる「情報活用能力」と「メディア活用能力」に関する考察. 現代の図書館. 2008, 46(4), p. 239-247.

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(11) 村木俊二. 特集, 司書教諭による学習指導: 情報活用能力を育成する. 学校図書館. 2006, (663), p. 39-41.

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(13) 小澤雅美ほか. 学校図書館を活用した「情報」の授業<1>. 学校図書館. 2006, (670), p. 81-83.

(14) 小澤雅美ほか. 学習図書館を活用した「情報」の授業<2>. 学校図書館. 2006, (671), p. 87-89.

(15) 堀田龍也. 特集, 学校図書館と情報教育: 情報社会を生きる力に対応した図書館教育に期待する. 学校図書館. 2006, (674), p. 17.

(16) 林尚江. 特集, 学校図書館と情報教育: 情報活用能力を育てるスキル学習. 学校図書館. 2006, (674), p. 18-19.

(17) 中條敏江. 特集, 学校図書館と情報教育: 図書館教育・コンピュータ教育の連携で作成する情報教育カリキュラム. 学校図書館. 2006, (674), p. 23-27.

(18) 糸山恵美子. 特集, 学校図書館と情報教育: ワークシートを活用する調べ学習. 学校図書館. 2006, (674), p. 28-30.

(19) 井上千里. 特集, 学校図書館と情報教育: 情報教育を支える「学習・情報センター」作り. 学校図書館. 2006, (674), p. 33-35.

(20) 栗原峰夫. 特集, 学校図書館と情報教育: 図書館を拠点に行う「グローバル・ラーニング」. 学校図書館. 2006, (674), p. 36-40.

(21) 大場弘美. 特集, 学校図書館と情報教育: 学校図書館ではぐくむメディア・リテラシー. 学校図書館. 2006, (674), p. 41-45.

(22) 佐藤義弘. 特集, 学校図書館と情報教育: 図書館との連携でおこなう情報検索の授業. 学校図書館. 2006, (674), p. 46-48.

(23) 鎌田和宏. 特集, 情報リテラシーの育成と図書館サービス: 小学生に情報リテラシーを育てる. 現代の図書館. 2007, 45(4), p. 220-225.

(24) 鎌田和宏ほか. 先生と司書が選んだ調べるための本―小学校社会科で活用できる学校図書館コレクション. 少年写真新聞社, 2008, 159p.

(25) 塩谷京子. 特集, 参考図書の活用: 児童生徒の情報活用能力育成を助ける参考図書. 学校図書館. 2008, (691), p. 14-17.

(26) 赤木かん子ほか. しらべる力をそだてる授業!. ポプラ社. 2007, 159p.

(27) 堀田龍也ほか編. 学校図書館で育む情報リテラシー ~すぐ実践できる小学校の情報活用スキル~. 全国学校図書館協議会, 2007, 126p.

(28) 渡邊重夫. 特集, 辞書・辞典の魅力を探る: 辞書・辞典、その活用の意義と重要性―情報活用能力、言語力育成の指導とかかわって. 学校図書館. 2009, (708), p. 16-18.

(29) 山形県鶴岡市立朝暘第一小学校編. 図書館へ行こう!図書館クイズ : 知識と情報の宝庫=図書館活用術.国土社, 2007, 82p.
その他類書複数あり。

(30) “読解力向上に関する指導資料―PISA調査(読解力)の結果分析と改善の方向―”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/siryo/05122201.htm [363], (参照 2010-04-09).

(31) 有元秀文. 特集Ⅰ, OECD調査を読む: OECD生徒の学習到達度調査(PISA)における読解力の結果と読書について. 学校図書館. 2005, (653), p. 14-16.

(32) 浅田匡. 特集Ⅰ, OECD調査を読む: 「生きる力」を育成する真の教育. 学校図書館. 2005, (653), p. 19-20.

(33) “読解力向上プログラム”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/siryo/05122201/014/005.htm [364], (参照 2010-04-09).

(34) 『現代の図書館』の46巻1号では「子どもの読書を再考する」という特集を組んでおり、福田誠治氏や、桑田てるみ氏によるものなど読書と絡めた論考がある。
福田誠治. 特集, 子どもの読書を再考する: 国際学力調査PISAにおける読解力と日本の子どもの読書. 現代の図書館. 2008, 46(1), p. 9-16.
桑田てるみ. 特集, 子どもの読書を再考する: 思考力(PISA型読解力)を高めることを目的とした学校図書館の「読書」支援. 現代の図書館. 2008, 46(1), p. 17-25.

(35) 河西由美子. 知識基盤社会における学びを支える図書館 : 「学校図書館」か「学校の中にある図書館」か. 現代の図書館. 2008, 46(4), p. 223-230.

(36) “「読解力」向上に関する指導資料[1 PISA調査(読解力)の結果から明らかになった課題]‐1”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/siryo/05122201/001.htm [365], (参照 2010-04-09).

(37) 吉永鈴子. PISA型「読解力」向上を目ざす学校図書館. 学校図書館. 2008, (690), p. 52-55.

(38) 杉本洋. 情報リテラシー教育を通して育成するPISA型「読解力」(1). 学校図書館. 2008, (695), p. 53-56.

(39) 杉本洋. 情報リテラシー教育を通して育成するPISA型「読解力」(2). 学校図書館. 2008, (696), p. 67-70.

(40) 新学習指導要領(高等学校、特別支援学校)における「学校図書館」関連の記述(新旧対照表). 学校図書館. 2009, (703), p. 90-94.

(41) 特集, 新学習指導要領を活用する: 特集にあたって. 学校図書館. 2009, (705), p. 15.

(42) 熊谷一之. 特集, 新学習指導要領を活用する: 学校図書館が支える言語活動-“出版活動”がある小学校社会科授業, 学校図書館. 2009, (705), p. 16-18.

(43) 佐藤照子. 特集, 新学習指導要領を活用する: 言語活動を支える読書と学校図書館. 学校図書館. 2009, (705), p. 40-41.

(44) 山崎寛雄. 特集, 新学習指導要領を活用する: 「言語力の育成」を核とした授業の創造に向けて. 学校図書館. 2009, (705), p. 42-43.

(45) 橋本芳雄. 特集, 新学習指導要領を活用する: 「地域研究発表会」における探究的学習と学校図書館の活用. 学校図書館. 2009, (705), p. 29-31.

(46) 東海林典子. 特集, 新学習指導要領を活用する: 高等学校の新学習指導要領を読む. 学校図書館. 2009, (705), p. 37-39.

(47) 根本彰. 特集, 新学習指導要領を読む: 学校図書館の重要性を示唆する新指導要領. 学校図書館. 2008, (693), p. 15-18.

(48) 根本彰. 特集, 新学習指導要領を読む: 学校図書館の重要性を示唆する新指導要領. 学校図書館. 2008, (693), p. 17.

(49) 根本彰. 特集, 新学習指導要領を読む: 学校図書館の重要性を示唆する新指導要領. 学校図書館. 2008, (693), p. 17.

(50) 根本彰. 特集, 新学習指導要領を読む: 学校図書館の重要性を示唆する新指導要領. 学校図書館. 2008, (693), p. 18.

(51) 中村由布. 学校図書館と公共図書館の連携 : 学校図書館支援センター推進事業指定地域へのアンケート調査を実施して. 図書館界. 2009, 61(1), p. 30-34.

(52) 斎藤忠和ほか. 特集, ホームページの作成と活用: 学習を支援するホームページの作成と運用. 学校図書館. 2005, (654), p. 59-62.

(53) 山田知倢. 特集, ホームページの作成と活用: 「全国学校図書館協議会ホームページ評価基準」の制定と活用. 学校図書館. 2005, (654), p. 63-64.

(54) 櫻井強. 特集, レファレンスツールの整備と活用: 有料オンラインデータベースの活用. 学校図書館. 2005, (657), p. 33-35.

(55) 林貴子. 特集, 子どもの読書環境はいま: 「ケータイ小説」と学校図書館-読書会・研究会から見えたこと-. 図書館雑誌. 2008, 102(10), p. 712-718.

(56) 笠川昭治. 特集, 図書館におけるまんがの行方: 学校図書館とマンガ : 図書館が苦手なマンガと上手につきあう方法. 現代の図書館. 2009, 47(4), p. 258-264.

(57) 渡部康夫. 特集, 図書館におけるまんがの行方: マンガと学校図書館 : マンガを正当なメディアとして評価するには. 現代の図書館. 2009, 47(4), p. 265-270.

(58) 熊谷一之. 特集I, 学校図書館と著作権: 司書教諭として行う著作権指導. 学校図書館. 2005, (659), p. 27-29.

(59) 神奈川県SLA司書教諭専門委員会. 特集, 学校図書館と著作権: 実践で身につく著作権意識 : 資料集作成の活動より. 学校図書館. 2009, (703), p. 34-36.

(60) 山口真也. 特集, 学校図書館と著作権: 学校図書館担当者養成を意識した著作権学習の試み. 学校図書館. 2009, (703), p. 39-42.

(61) 山口真也. 学校図書館と個人情報保護. 図書館雑誌. 2005, 99(8), p. 514-515.

(62) 松戸宏予. 特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対する学校司書の意識と対応. 日本図書館情報学会誌. 2006, 52(4), p. 222-243.

(63) 松戸宏予. 特別な教育的ニーズをもつ児童生徒に関わる学校職員の図書館に対する認識の変化のプロセス―修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を通して―. 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(2), p. 97-116.

(64) 野口武悟. アメリカ・パーキンス盲学校における学校図書館の成立と展開―学校創立から1930年代までの検討を中心に―. 日本図書館情報学会誌. 2007, 53(1), p. 1-16.

(65) 野口武悟. 川本宇之介の盲唖学校図書館に関する理論と実践. 学校図書館学研究. 2005, (7), p. 17-26.

(66) 國枝裕子. 近代日本学校図書館史論. 神戸大学, 2007, 博士論文.

(67) 中村百合子. 占領下日本における学校図書館改革. 東京大学, 2007, 博士論文.

(68) 野口武悟. わが国特殊教育における学校図書館の導入と展開に関する研究. 筑波大学, 2006, 博士論文.

(69) 松戸宏予. 学校図書館における特別な支援の在り方に関する研究. 筑波大学, 2008, 博士論文.

(70) 中村百合子. 滑川道夫の読書指導論の形成-戦前から戦後へ. 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(3), p. 204-221.

(71) 野口久美子. 滑川道夫読書指導論の特徴に関する一考察. 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(3), p. 163-187.

(72) 中村百合子. 『学校図書館の手引き』に見る戦後初期の学校図書館論の形成. 日本図書館情報学会誌. 2005, 51(3), p. 105-124.

(73) 鈴木守. NEA・ALA合同委員会報告書(1941)における学校図書館サービスの原則-学校と公共図書館との関係に関する原則を中心に-. 日本図書館情報学会誌. 2007, 53(2), p. 90-102.

(74) 今井福司. コア・カリキュラム運動に見られる資料を活用した教育. 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(3), p. 188-203.

(75) 安藤友張. 1950-60年代の日本における専任司書教諭の配置施策. 日本図書館情報学会誌. 2009, 55(3), p. 172-194.

(76) 渡辺暢恵. 小・中学校図書館に対する市町村教育委員会の支援-平成18(2006)年度千葉県内市町村調査より-. 日本図書館情報学会誌. 2009, 55(4), p. 245-269.

(77) 日本教育方法学会編. 日本の授業研究 上巻 : 授業研究の歴史と教師教育. 学文社, 2009, 173p.
日本教育方法学会編. 日本の授業研究 下巻 : 授業研究の方法と形態. 学文社, 2009, 201p.

(78) 堀田龍也. 特集, 学校図書館と情報教育: 学校図書館と情報教育の接点. 学習情報研究. 2009, (211), p. 2-5.

(79) 河西由美子. 特集, 学校図書館と情報教育: 学校図書館の学習支援機能. 学習情報研究. 2009, (211), p. 6-9.

(80) 塩谷京子. 特集, 学校図書館と情報教育: 図書館教育と情報教育の連携カリキュラムの開発と実践. 学習情報研究. 2009, (211), p. 10-13.

(81) 小谷田照代. 特集, 学校図書館と情報教育: 総合的な学習と学校図書館. 学習情報研究. 2009, (211), p. 22-25.

(82) 中山美由紀. 特集, 学校図書館と情報教育: 小学校図書館の利用指導. 学習情報研究. 2009, (211), p. 14-17.

(83) 庭井史絵. 特集, 学校図書館と情報教育: 探究的な学習を支える学校図書館と司書教諭の役割. 学習情報研究. 2009, (211), p. 26-29.

(84) 小林路子. 特集, 学校図書館と情報教育: 行政による学校図書館整備・運営のアプローチ~千葉県市川市~. 学習情報研究. 2009, (211), p. 30-33.

(85) 藤田利江. 特集, 学校図書館と情報教育: 学校図書館支援センターの意義と役割. 学習情報研究. 2009, (211), p. 34-37.

(86) 植田恭子. 特集, 学校図書館と情報教育: 教科教育と学校図書館, 学習情報研究. 2009, (211), p. 18-21.

(87) 福本徹. 特集, 学校図書館と情報教育: メディアリテラシー教育から見る学校図書館. 学習情報研究. 2009, (211), p. 38-41.

(88) 日本教育工学会研究報告集 : 学校図書館と情報教育/一般. 東京, 2008-09-06, 日本教育工学会, 2008, 174 p.

(89) 枝元益祐. 学校図書館における学習支援-教育者中心の教育観から学習者中心の教育観への展開-. 学校図書館学研究. 2009, (11), p. 25-40.

(90) 公立学校の事例としてはわずかに以下の記事がある。
糸山恵美子. 特集, 学校図書館のアメニティ: 学習・情報センターを目ざす佐賀市の「メディアセンター」. 学校図書館. 2007, (675), p. 32-34.

(91) 「図書館雑誌」2008年6月号が「デザイン-場としての図書館」を特集しているが、学校図書館からは、京都府の同志社国際中学・高等学校の事例が紹介されている。
川井国考. 特集, デザイン―場としての図書館: コミュニケーションセンターのデザイン-利用者が作っていくデザイン-. 図書館雑誌. 2008, 102(6), p. 382-383.
また拙稿に以下がある。
河西由美子. 玉川学園マルチメディアリソースセンターの挑戦-新しい学習観を反映した学びの場の創造-. 文教施設. 2007, (26), p. 26-29.

(92) 上田修一. 情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に関する総合的研究 : 平成15年度~平成17年度科学研究費補助金(基盤研究(A))研究成果報告書. 2006, 456p.

(93) 河西由美子. 特集, これからの図書館員制度(2)具体化に向けて: これからの学校図書館専門職について-LIPER提言と現実的課題. 図書館雑誌. 2008, 102(3), p. 160-161.

(94) 原田隆史ほか. 学校図書館の将来像に関するデルファイ調査. 学校図書館学研究. 2009, (11), p. 3-23.

(95) 長倉美恵子. 日本の学校図書館国際化への提言. 学校図書館学研究. 2008, (10), p. 1-4.

(96) 根本彰(研究代表者). 情報専門職養成をめざした図書館情報学教育の再編成(通称LIPER2) : 2006年度~2009年度科学研究(基盤研究A(1)).

(97) LIPER2国際研究班. 「情報専門職養成カリキュラムの国際相互認証と単位互換制度に関する研究」報告書. 2010.

 


河西由美子. 学校図書館に関する日本国内の研究動向―学びの場としての学校図書館を考える. カレントアウェアネス. 2010, (304), CA1722, p. 24-30.
http://current.ndl.go.jp/ca1722 [366]

  • 参照(20360)
カレントアウェアネス [8]
研究文献レビュー [99]
情報リテラシー [367]
読書 [368]
日本 [10]
学校図書館 [369]

No.303 (CA1704-CA1714) 2010.03.20

  • 参照(14194)

pdfファイルはこちら [370]

小特集 諸外国の読書推進活動(CA1704-CA1708)

 

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

 

小特集 諸外国の読書推進活動

 

 2010年は「国民読書年」です。「国民読書年」は2008年6月6日の国会決議により定められたもので、読書を推進するための行事や取り組みが各地で行われています。今号では、諸外国における全国規模での取り組みとして、中国、韓国、ドイツ、英国、米国の5か国の読書推進活動を小特集で紹介します。

2010国民読書年

 

 

 


小特集, 諸外国の読書推進活動. カレントアウェアネス. 2010, (303), p. 2-11.

  • 参照(7905)
カレントアウェアネス [8]
読書 [368]
ドイツ [371]
中国 [372]
米国 [54]
英国 [26]
韓国 [373]

CA1704 - 中国の読書推進運動―知識基盤の向上をめざして― / 篠田麻美

  • 参照(10115)

PDFファイルはこちら [374]

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1704

小特集 諸外国の読書推進活動

 

中国の読書推進運動―知識基盤の向上をめざして―

 

 中国出版科学研究所が実施している国民読書調査によると、2008年の中国の成人の書籍読書率は49.3%で、1人当たりの1年間の読書冊数は平均4.72冊である。都市と農村では読書量に顕著な差があり、例えば雑誌の年間平均読書冊数は、都市住民の11.8冊に対し、農村住民は5.5冊である(1)。中国では、著しい経済発展を続ける都市の住民と、開発から取り残された農村の農民や出稼ぎ農民との経済格差が大きな問題となっており、読書推進活動は都市の図書館にとどまらず、農村や出版業界も巻き込んで幅広く進められている。中国の読書推進活動に関する政府の方針、およびその方針を受けて公共図書館や各地方で行われている取り組みについて紹介したい。

 

1. 政府の方針

 1997年1月に中国共産党中央宣伝部、文化部、新聞出版署など9部門が共同で発布した「全国の知識プロジェクトの実施に関する通知(关于在全国组织实施“知识工程”的通知)」(2)により、図書館の事業を通じて「国民の読書の唱導と読書社会の建設(倡导全民读书、建设阅读社会)」を実現するためのプロジェクトが開始された。2004年には4月23日の「世界図書・著作権の日」にあわせて、4月を「国民読書月間(全民读书月)」とし、その活動を中国図書館学会が担当することとした(3)。

 2006年には中国共産党中央宣伝部、新聞出版総署など11部門が共同で、「国民読書活動の推進に関する提議書(关于开展全民阅读活动的倡议书)」を発表し、「読書に親しみ、よい本を読もう(爱读书、读好书)」をスローガンに、世界図書・著作権の日に因んだ読書活動を推進している(4)。さらに2009年には中央宣伝部と新聞出版総署が「国民読書活動のより一層の推進に関する通知(关于进一步推动全民阅读活动的通知)」で、各地域で活動の具体的な計画を策定するよう呼びかけている(5)。

 

2. 図書館界の取り組み

2-1. 中国図書館学会の取り組み

 図書館の読書活動で中心的な役割を果たすのは、全国規模の職能・学術団体である中国図書館学会である。2005年からは国民読書活動に評価の仕組みを導入し、毎年、活動についての通知を公布して当該年度の活動の要点を示すと同時に、前年度の活動で成果のあった図書館や地方の図書館学会を表彰し、「国民読書基地(全民阅读基地)」の称号を与えている(6)。

 例えば、「2009年の国民読書活動の展開に関する通知(关于开展2009年全民阅读活动的通知)」では、「読書で一緒に成長する(让我们在阅读中一起成长)」をテーマに、2009年の1年間における児童の読書と科学の普及に重点を置いた活動の要点が示されている(7)。児童への読書推進活動については、読書大会などのイベントや「聞一多(8)杯」と称した創作漫画、書道・絵画のコンテストのほか、児童の読書調査や児童サービスのための研究が計画されている。また、貧困地区の公共図書館へ本を送ることも活動に含まれている(9)(10)。科学普及のための読書推進活動については、中国図書館学会と中央広播電視大学が共同で主催する「09湿地中国行」という活動が展開された。活動の総括の際に使われた「知行合一」という言葉が示すように、単なる読書にとどまらず実践を行うことに特徴がある。具体的には、環境保護に関する図書の寄贈などに加えて、関連講座の開催、サマーキャンプ、読書感想文などの文章の募集、湿地を訪れての詩歌の創作、書画や写真のコンテストなどのさまざまな活動を行うというものである(11)(12)。

 また、その他の活動として、2006年には、中国図書館学会は図書館と読書文化、図書館が国民読書活動で果たす役割などについて研究を行う「第1回科学普及と読書指導委員会(第一届科普与阅览指导委员会)」を開催した。出版業界からも専門家が参加し、「読書文化研究委員会」などの6つの専門委員会が設けられ、それぞれ特色ある活動を行っている(13)。

 

2-2. 情報格差是正への取り組み

 図書館の全国読書推進活動においては、開発の遅れた地域の支援も重要な課題である。文化部と財政部は「農村に本を送るプロジェクト(送书下乡工程)」を行い、2003年から2008年までの間に、農村地域の11,000の重点開発対象地域にある、県の図書館および郷鎮(14)の図書館(室)に合計1,000万冊の資料を送った。毎年2,000万元(約2億7,000万円)の予算が投入され、各地で図書館の貸出冊数の向上などの顕著な効果をあげている(15)。

 前述の中国出版科学研究所の読書調査によると、2005年に読んだ本について、図書館などから借りたという割合は14.8%にとどまっている(16)。中国では図書館の利用カードの作成や館外への資料の貸出に料金が必要な場合が多く、利用に一定のハードルがあることがその要因の一つといえる。そこで、2006年の杭州、深圳の公共図書館を始めとして、中国各地で一般利用者のカード作成手数料の撤廃といった公共図書館の無料開放の取り組みが広がりを見せている。また、都市部では出稼ぎ農民である「農民工」に対して、貸出カード作成手数料の免除、就職や社会保障などの情報を提供するサービスを行う図書館も出始めている(E401 [375]参照)。こういった取り組みも情報格差の是正に貢献している。

 

3. 新聞出版総署の取り組み

 図書館以外に国民読書活動で重要な役割を果たす機関に、新聞出版総署があげられる。新聞出版総署は国務院の直属組織の一つで、主に出版に関する事業の監督・管理を行っており、出版事業の振興という側面から各地の読書活動を支援している。毎年6月1日の「国際児童の日」にあわせて、青少年向けの推薦図書のリストを公開(17)するほか、2003年からは農村地域の支援のための「農家書屋(农家书屋)」を設置する事業を行っている。

「農家書屋」とは、農民の文化的需要を満たすために農村に設置された、実用書や新聞雑誌、音楽映像資料等が閲覧できる施設である。図書1,500冊以上、雑誌新聞30タイトル以上、電子音楽映像資料100タイトル以上が配置される(18)。計画では、2010年までに約20万の農家書屋を建設し、2015年までにはすべての農村に設置することを目標にしている(19)。なお、農家書屋に配置すべき資料の推薦リスト(2009年分は、図書3,600タイトルなど)も提示され、所蔵資料の7割以上はこのリストから選ぶ必要がある。同時に所蔵資料のうち何冊が推薦リストに該当するのかを記入する調査票(20)の提出も求められ、所蔵資料の質についても適切な「管理」が目指されている。

 

4. 地方の取り組み

 読書活動に熱心に取り組んでいる地域には、深圳や上海、南京などが挙げられる。深圳では2000年から独自に11月を読書月間に設定しており、2009年にはこの10年の活動を回顧して、過去の読書月間の活動を撮影した作品の募集などさまざまなイベントが行われた。また、世界図書・著作権の日にあわせて、市街地に図書館サービスを行う機器を40台導入したことも注目される(21)。この図書館サービス機は6㎡に400冊の本を収容でき、24時間セルフサービスで図書の貸出しができるものである。第1号機が導入された2008年4月23日から2009年10月末までの統計によると、利用者カード約1万枚が発行され、延べ50万人余りが利用し、貸出冊数は延べ100万冊以上に上っており、好評を博している(22)。より利用しやすい図書館の環境を整えることで、読書活動の推進に貢献しているといえよう。

関西館アジア情報課:篠田麻美(しのだ あさみ)

 

(1) “中国出版科研所发布"第六次全民阅读调查"成果”. 中国出版网.
http://cips.chinapublish.com.cn/yw/200904/t20090422_47512.html [376], (参照2010-02-15).

(2) “关于在全国组织实施"知识工程"的通知”. 中国科普网.
http://www.kepu.gov.cn/kp_fagui_show.asp?ArticleID=74995 [377], (参照2010-02-15).

(3) 四月是全民读书月. 中华读书报. 2004-04-21, 13版.
http://www.gmw.cn/01ds/2004-04/21/content_15781.htm [378], (参照2010-02-15).

(4) 关于开展全民阅读活动的倡议书. 中国新闻出版报. 2006-04-18, 1版. 入手先, 中国重要报纸全文数据库,
http://cnki.toho-shoten.co.jp/kns50/Navigator.aspx?ID=CCND [379], (参照2010-02-15).

(5) “关于进一步推动全民阅读活动的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/508/200904/463374.html [380], (参照2010-02-15).

(6) “2008年全民阅读获奖名单”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-11/EnableSite_ReadNews1124239571257264000.html [381], (参照2010-02-15).

(7) “关于开展2009年全民阅读活动的通知”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-03/EnableSite_ReadNews156829601238428800.html [382], (参照2010-02-15).

(8) 聞一多(1899-1949) 中華民国時期の詩人。

(9) “2009全国少年儿童阅读年启动”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-04/EnableSite_ReadNews1524430251240416000.html [383], (参照2010-02-15).

(10) 全国少年儿童阅读年官方网站.
http://www.nycr.org.cn/ [384], (参照2010-02-15).

(11) “2009年全民阅读活动"09湿地中国行"读书活动启动”. 中国图书馆学会.
http://www.lsc.org.cn/CN/News/2009-04/EnableSite_ReadNews156830211239897600.html [385], (参照2010-02-15).

(12) “09湿地中国行”. 读书活动专题网站.
http://shidi.crtvul.cn/ [386], (参照2010-02-15).

(13) “中国图书馆学会第一届科普与阅读指导委员会成立”. 中国图书馆年鉴 2007. 中国图书馆学会ほか編. 北京, 国家图书馆出版社, 2009, p. 34-38.

(14) 白雪华. “"送书下乡"工程实施情况”. 中国图书馆年鉴 2007. 中国图书馆学会ほか編. 北京, 国家图书馆出版社, 2009, p. 54-57.

(15) 中国の行政単位は、省級(直轄市、省、自治区など)、地級(地級市、自治州など)、県級(市轄区、県級市、県など)、郷級(鎮、郷、街道など)の4つのレベルに分かれている。鎮、郷は郷級の行政単位にあたる。

(16) 中国出版科学研究所《全国国民阅读与购买倾向抽样调查》课题组編. 全国国民阅读与购买倾向抽样调查报告(2006). 北京, 中国出版科学研究所, 2006, p. 58-59.

(17) “关于2009年向全国青少年推荐百种优秀图书并开展相关读书活动的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1385/200909/466092.html [387], (参照2010-02-15).

(18) “农家书屋工程建设管理暂行办法”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1166/200808/459325.html [388], (参照2010-02-15).

(19) “关于印发《"农家书屋"工程实施意见》的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1166/200703/450516.html [389], (参照2010-02-15).

(20)     “关于印发《2009年农家书屋重点出版物推荐目录》的通知”. 中华人民共和国新闻出版总署.
http://www.gapp.gov.cn/cms/html/21/1166/200910/668039.html [390], (参照2010-02-15).

(21)     深圳:打造“书香之城”. 光明日报. 2009-04-23, 5版.
http://www.gmw.cn/01gmrb/2009-04/23/content_912630.htm [391], (参照2010-02-15).

(22)     图书馆领域的一场革命―深圳建设街区24小时自助图书馆纪事. 光明日报. 2009-12-11, 2版.
http://www.gmw.cn/01gmrb/2009-12/11/content_1019611.htm [392], (参照2010-02-15).

 

Ref:

张鹰. “论公共图书馆与全民阅读”. 中国图书馆学会年会论文集(2007年卷). 中国图书馆学会編. 北京图书馆出版社, 2007, p. 286-296.

洪文梅. 公共图书馆在全民阅读活动中的作用与对策探讨. 图书馆理论与实践. 2009(7), p. 85-88. 入手先, 中国期刊全文数据库,
http://cnki.toho-shoten.co.jp/kns50/Navigator.aspx?ID=CJFD [393], (参照2010-02-15).

 


篠田麻美. 小特集, 諸外国の読書推進活動: 中国の読書推進運動―知識基盤の向上をめざして―. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1704, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1704 [394]

カレントアウェアネス [8]
読書 [368]
中国 [372]
公共図書館 [11]

CA1705 - 韓国の読書推進活動―国の政策と図書館の活動― / 阿部健太郎

  • 参照(11620)

PDFファイルはこちら [395]

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1705

小特集 諸外国の読書推進活動

 

韓国の読書推進活動―国の政策と図書館の活動―

 

 韓国の読書推進活動は、1990年代、読書の重要性が叫ばれるようになって以降活発になる(1)。同じ時期、韓国の児童書の中心が翻訳された海外作品から国内の作品へと(2)、また子どもの読書運動を主導する主体が教師から親へと(3)移りつつあり、児童書への関心が高まっていた。

 

1. 国の読書推進政策

 1990年代以降の韓国の読書推進政策において、画期となったのは、「読書文化振興法」(2006年12月28日制定法律第8100号;以下「振興法」という)の制定である。振興法の目的は、読書を生活に根付かせることで国民の知的能力を向上させて、国家の知識競争力を強化することである。振興法第5条に基づいて、文化体育観光部(部は日本の省に相当)は「読書文化振興基本計画」(독서문화진흥기본계획;以下「計画」という)を5年ごとに策定する。計画に示された、読書文化振興政策の基本的な方向性や例示事業をもとに、関係する中央行政組織や地方自治体(市・道)は、それぞれの実情に応じて、「読書文化振興施行計画」を策定して読書振興事業を施行する。

 初めて計画が策定されたのは2008年であり、2009年から2013年の5か年に関する計画となっている(4)。計画では、国民の読書を活性化するための4大課題、すなわち①「読書環境の形成」、②「読書を生活に根付かせるための事業の推進」、③「読書運動の展開」、④「疎外階層(5)の読書活動の支援」が設定されている。これらの課題についての具体的な推進戦略は以下のとおりである。

  • ①「読書環境の形成」
    •  「子どもの家」(日本の保育園に相当)・幼稚園や学校(初等学校、中学校、高等学校)、職場、家庭、地域の読書環境の形成や優秀図書に対する出版支援事業を推進する。この中で図書館は、専ら地域の読書環境の形成(図書館の拡充・用地確保や図書館支援の条例制定など)に関係するが、学校(学校図書室の運営活性化や司書教師の配置・養成)や職場(職場内図書館の設置)の読書環境の形成とも無関係ではない。
  • ②「読書を生活に根付かせるための事業の推進」
    •  生涯周期(ライフサイクル)別読書プログラムやマニュアルを開発して普及させ、全国民を対象に読書の機能や方法論など多様な知識を習得できるような読書教育を実施し、また読書関連の官民ネットワークや読書情報総合データベースを構築する。
  • ③「読書運動の展開」
    •  読書の月(9月)に「読書文化賞」授賞式や読書キャンペーンを展開、「世界図書・著作権の日」(4月23日。韓国では普通「世界図書の日」と略称される)に本とバラの花を贈る行事を行うなど、国内外の優れた読書運動の事例を参考に多様な読書運動を展開する。
  • ④「疎外階層の読書活動の支援」
    •  障害者のために点字図書などの代替資料を製作して普及させ、また兵営や矯導所(刑務所)、福祉施設における読書活動を支援する。

 計画は、国から地方自治体まで、韓国の読書文化振興政策全体の基礎となるものであり、文化体育観光部の政策も、計画の方向性に従うことになる。文化体育観光部の政策は、「小さな図書館」(E696 [396]参照)の整備(6)などもあるが、計画に例示されたものの中では、重点推進課題として、a)全国民対象の無料読書教育の実施、b)政府・自治体及び民間団体共同の読書運動の展開、c)読書情報ワンストップサービスの提供、d)疎外階層の読書活動の支援、の4つが挙げられている(7)。具体的な内容は以下のとおりである。

  • a)全国民対象の無料読書教育の実施
    •  2007年に韓国刊行物倫理委員会がソウルで試験的に実施した読書教育「読書アカデミー」を2008年から全国的に拡大し、体系的な読書プログラムが不足している地方8都市に出張して、各地の図書館などで地域の実情に合った読書プログラムを開講する訪問読書アカデミーを運営する。また、インターネットを通して読書教育を受けられるサイバー読書アカデミーシステムも開発・運用する。そのほかに、職場での読書の雰囲気の醸成や本を通じたメセナ運動の活性化のために企業の経営者を対象にした読書特別講座を実施する。
  • b)政府・自治体及び民間団体共同の読書運動の展開
    •  乳幼児を対象に本を提供する「ブックスタート運動」など、官民共同の読書運動を展開する。
  • c)読書情報ワンストップサービスの提供
    •  新刊図書情報、読後活動(読書感想文を書いたり人に本を推薦したりすること)、読書教育、国内外の読書運動の事例、読書に関する専門的な知識や情報など、各種図書情報を連係した読書情報ワンストップサービス体制を構築・運用する。
  • d)疎外階層の読書活動の支援
    •  障害者用の代替資料の製作・普及に加え、2012年までに完工予定の「国立障害者図書館支援センター」内に「読書障害者用代替資料製作室」を設置・運営し、また農山漁村の子どもなどの読書活動を引き続き支援する。

 d)に関しては、「読書障害者図書館振興法案」が提出されており、その行方が注目される(8)(9)。

 

2. 各図書館の読書推進活動

 各地の公共図書館の読書推進活動は、自治体が策定した読書文化振興施行計画に基づいて行われるため、上記の内容でほぼ網羅される。計画の類型に当てはめると、全国的には、地域の読書環境形成に重点を置く自治体が多いようである。

 さらに、こうした施行計画に基づいたもの以外にも、学校図書館なども含めた各地の図書館は、実に多様な読書推進活動をしている(10)。一般的な読書教室(CA1504 [397]参照)や読書感想文大会のほかに、読書や課題図書に関するクイズを出題する「読書クイズ」(11)なども開催されているが、そのほかにも興味深く特徴的な活動が多々見られる。以下、それらをいくつか紹介する。

 まず、読書キャンプ(12)や文学紀行(13)がある。読書キャンプは、特定のテーマを設定して本と自然にふれあうキャンプをするものであり、テーマに適ったキャンプ地や本を選び、読書討論や感想文の発表などを通じて自然体験との一体化を目指すものである。また文学紀行は、本や文学にゆかりのある土地を訪ねるものである。その他「読書通帳」を作り、多くの本を借りて読んだ子どもを「読書王」として表彰するなど、多読者を表彰する活動(14)もある。

 また、人形劇も行われている(15)。童話を題材にすることで、人形劇を通してその題材の本を読むことに興味を持たせる狙いがある。ほかに、絵本を映画のように見せたり、また童話を口演したり演劇にしたりする試みもあり、目的は同じである。金重喆は、このような活動により、音楽や詩なども含めて文化媒体の多様化・活性化をはかるべきだ、との考え(16)を示している。

 これらの活動の中には、子ども、とりわけ幼児や初等学校の児童に対する読書推進活動が多く見られる。学校図書館に公共図書館が協力して人形劇や演劇などの読書プログラムを実施する例(17)がある。また、読書キャンプでは子どもと両親が一緒に参加できるものもあり、親を対象にした読書教育の専門家などによる講演会(18)なども開催されている。これらは、単なる地域の社会教育に留まらず、家庭教育の側面も多分に有している。

 

おわりに

 文化体育観光部の国民読書実態調査によれば、1990年代に低下しつつあった読書活動は、2000年ごろから、読書時間は相変わらず減少傾向にあるものの、読書率は下げ止まり、読書量は回復傾向にある。とくに初等学校の児童の読書量は大きく持ち直し、1990年代の読書量を超える勢いである(19)。韓国の読書推進活動は、少しずつではあるが、着実に成果を挙げていると言える。

関西館アジア情報課:阿部健太郎(あべ けんたろう)

 

(1) 宋永淑. 特集, アジアの図書館事情: 韓国の図書館と読書教育. 現代の図書館. 1996, 34(4), p. 175-180.

(2) 朴鍾振. 特集, いま、韓国の子どもの本と読書は: 韓国の子どもの本と読書事情. 子どもと読書. 2009, (376), p. 2-6.

(3) 金重喆. アジアの読書運動 韓国における児童読書文化運動の流れと展望(1). 下橋美和訳. 子どもの本棚. 2000, 29(8), p. 16-21.

(4) この2008年に策定された計画は、以下に詳しい。
河本彩子. 政府主導で急速に進む読書環境整備. 読書推進運動. 2008, (491), p. 6.

(5) 読書活動に困難を伴う人々を広く指す。

(6) 2007年5月、図書館行政は国立中央図書館から文化観光部(当時)へと移管された(CA1635 [398]参照)。

(7) 문화체육관광부. 독서문화진흥기본계획 관련 문화체육관광부 중점 추진과제. 2008, 2p.
http://www.mcst.go.kr/web/notifyCourt/press/mctPressView.jsp?pSeq=9301 [399], (参照 2010-02-19).

(8) “독서장애인도서관진흥법안”. 대한민국국회 의안정보시스템.
http://likms.assembly.go.kr/bill/jsp/BillDetail.jsp?bill_id=PRC_Y0A9A1G1M2L0C1U5T5H3M3F8R6H6Y1 [400], (参照 2010-02-19).

(9) [이 의원, 이 법안] 한나라 정병국 의원, 독서장애인도서관 진흥법. 동아일보. 2009-11-24, A8면.
http://news.donga.com/3/all/20091124/24313120/1 [401], (参照 2010-02-15).

(10) 市民団体やマスメディア、出版界や書店の活動については、CA1635やE387及び以下のもので言及されている。
舘野皙. 海外出版レポート 韓国 ユニークな読書振興運動の始まり. 出版ニュース. 2008, (2156), p. 24.

(11) 例えば、以下のものなどがある。
어린이날 '독서 퀴즈대회' 무등도서관. 무등일보. 2009-04-27.
[원주]시립도서관 독서퀴즈 진행. 강원일보. 2009-04-09, 18면.
http://www.kwnews.co.kr/nview.asp?s=501&aid=209040800047 [402], (参照 2010-02-15).
대구 남부도서관, 매월 어린이 독서퀴즈 개최. 매일신문. 2009-02-03, 17면.
http://www.imaeil.com/sub_news/sub_news_view.php?news_id=4982&yy=2009 [403], (参照 2010-02-15).

(12) 例えば、以下のものなどがある。
宋永淑. 特別講演 韓国の図書館の児童サービスと家族読書. 同志社大学図書館学年報. 2009, (35), p. 16-33.
‘독서의 달인’ 에게 듣는 책읽는 비법: ‘추적놀이’ 하며 도서관과 친해지기. 경향신문. 2009-10-27, 25면.
http://news.khan.co.kr/section/khan_art_view.html?mode=view&artid=200910261735075&code=900314 [404], (参照 2010-02-15).
중봉도서관 독서 캠프 참가자 모집. 내일신문. 2009-09-17, 25면.
http://www.naeil.com/news/NewsDetail.asp?nnum=497033 [405], (参照 2010-02-15).
[춘천]춘천시립도서관 에코독서캠프 운영. 강원일보. 2009-07-24, 16면.
http://www.kwnews.co.kr/nview.asp?s=501&aid=209072300127 [406], (参照 2010-02-15).

(13) 例えば、以下のものなどがある。
'독서의 계절' 도서관 여행. 인천일보. 2009-09-04, 6면.
장유도서관 독서프로그램 운영. 경남신문. 2009-09-12.
http://www.knnews.co.kr/?cmd=content&idx=832867 [407], (参照 2010-02-15).

(14) 例えば、以下のものなどがある。
진해 시립도서관 이달의 독서왕 운영. 경남도민일보. 2009-12-01.
http://idomin.com/news/articleView.html?idxno=304087 [408], (参照 2010-02-15).
가을만난 한밭도서관 풍성한 독서잔치 한마당. 중도일보. 2009-09-30, 12면.
http://www.joongdoilbo.co.kr/jsp/article/article_view.jsp?pq=200909290018 [409], (参照 2010-02-15).
<영동>도서관 없는 시골학교 '독서 열풍'. 중부매일. 2009-09-16, 17면.
http://www.jbnews.com/news/articleView.html?idxno=246777 [410], (参照 2010-02-15).

(15) 例えば、以下のものなどがある。
장수도서관 독서의 달 인형극 공연. 새전북신문. 2008-09-24.
http://www.sjbnews.com/news/articleView.html?idxno=276296 [411], (参照 2010-02-15).
작가 만나볼까… 낭독회 가볼까… 독서퀴즈 나가볼까…‘가을 책잔치’ 뷔페처럼 즐기세요. 동아일보. 2009-09-16, A28면.
http://www.donga.com/fbin/output?n=200909160086 [412], (参照 2010-02-15).

(16) 金重喆. アジアの読書運動 韓国における児童読書文化運動の流れと展望 (2). 下橋美和訳. 子どもの本棚. 2000, 29(9), p. 16-20.

(17) 例えば、以下のものなどがある。
천안 중앙도서관 독서문화 프로그램 운영. 충북일보. 2009-09-23, 11면.
http://www.inews365.com/news/article.html?no=97183 [413], (参照 2010-02-19).

(18) 例えば、以下のものなどがある。
`독서의 계절' 도서관서 알차게 보내요. 중도일보. 2009-10-06, 18면.
http://www.joongdo.co.kr/jsp/article/article_view.jsp?pq=200910050048 [414], (参照 2010-02-19).

(19) 문화체육관광부. 2008년 국민독서실태조사. 2008, 501p.

 

Ref:

문화체육관광부. 2009년도 독서진흥에 관한 연차보고서. 2009, 261p.

문화체육관광부. 독서문화진흥기본계획. 2008, 44p.
http://www.mcst.go.kr/web/notifyCourt/press/mctPressView.jsp?pSeq=9301 [399], (参照 2010-02-15).

 


阿部健太郎. 小特集, 諸外国の読書推進活動: 韓国の読書推進活動―国の政策と図書館の活動―. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1705, p. 4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1705 [415]

カレントアウェアネス [8]
読書 [368]
韓国 [373]
公共図書館 [11]
学校図書館 [369]

CA1706 - ドイツの読書推進運動―読解力向上のための取り組みとして― / 伊藤白

  • 参照(10999)

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カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1706

小特集 諸外国の読書推進活動

 

ドイツの読書推進活動―読解力向上のための取り組みとして―

 

1. ドイツの読書推進活動の特徴

 連邦制をとるドイツでは、文化・教育に関する事項は州の所掌とされており、読書推進の分野においても連邦レベルでの法律は存在しない。しかし、実際の読書推進活動においては、州政府・学校・その他の機関の協同で全国規模のプロジェクトが数多く実施されている。その大きな特徴は、楽しみとしての読書、教養としての読書というよりは、読解力・批判的思考力・情報利用力を向上させるための読書に重点が置かれているということである。そして、それを達成するためにこそ、読書へと誘うための創意工夫に満ちた「楽しい」取り組みが、主に子どもを対象に行われている。

 ドイツは戦後、トルコをはじめとする近隣諸国から積極的に移民を受け入れてきたが、移民のドイツ語力の向上は大きな課題となっていた。実際、2000年に行われた「第1回OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)(1)では、他国に比べて読解力の不足が明るみに出る結果となり、「PISAショック」と言われた。これを打開すべく連邦政府の編集で2007年に報告された『読解力の促進』(Förderung von Lesekompetenz)(2)は、図書館等によって担われる読書振興活動を、読解力向上のための一手段と見なしている。学力低下という社会問題の存在と、それをむしろ好機と捉えた読書推進関係団体の積極的な取り組みが、ドイツの読書推進活動の2大原動力となっていると言えよう。以下、その具体例を紹介することでドイツの読書推進活動の状況を概観したい。

 

2. 読書基金

 ドイツの読書推進活動において中心的役割を果しているのが、1988年に設立された「読書基金」(Stiftung Lesen)(3)である。読書に関する調査研究を行う一方、常時数十ものプロジェクトを展開・支援し、ウェブ上で募集、紹介、報告を行っている。最大のプロジェクトは、ドイツ鉄道や『ツァイト』(Zeit)紙と提携して毎年11月に開催される「読み聞かせの日」である。毎年8,000人もの人々が、街で、駅で読み聞かせを行い、その状況がテレビや新聞で報道される大規模なイベントであるが、これついては既に日本語での紹介(4)があるため、ここではそれ以外の特色あるプロジェクトを3つ紹介する。

 1つ目は、子どもがコンピュータゲーム等のソフトウェアを審査するコンテスト「トミー」(TOMMI)(5)である。ゲームに関心のある子どもたちは、各都市の図書館を通して審査員に応募する。資格を得た子ども審査員は、図書館のプレイステーション・ポータブルやWiiといったゲーム機(ドイツでは図書館でのコンピュータゲームの提供は珍しいことではない)で、ノミネートされたゲームソフトをテストし、優劣を決める。優秀作品はフランクフルトブックフェアで表彰される。良いゲームを広めること、ゲームへの批判的なかかわり方を子どもたちに教えることを目的としているが、子どもが興味を抱くものを積極的に取り入れていこうとする図書館の柔軟な発想が見られる。

 2つめは、ビデオ投稿サイトYouTubeを利用した取り組み「360度みんな読書人」(360-Grad-Leser)(6)である。子どもたちは、一人であるいは友達と、自分の好きな本や雑誌などを紹介するビデオを、携帯カメラ、ビデオカメラ等で作製し、投稿する。YouTubeの評価機能で最も高い評価を得た投稿者には、賞が与えられる。

 3つ目は、読書推進活動の企画そのものを競うコンテスト「アウスレーゼ」(Auslese)(7)である。模範とすべき活動やアイデアを広めることを目的に、2年に1度、いくつかの部門ごとに優れた読書推進活動を選び、表彰する。たとえば2009年には「優れた市民活動」の部門で、本に世界を旅させる活動であるブッククロッシング(E683 [417]参照)のための本棚を街路樹に設置した建築業関連団体や、宇宙旅行に見立てた小学校の読書運動(クラスの全生徒が本を1冊読むとロケットの燃料が補充されるという設定など)を考案し実践した公共図書館などが表彰されている。ユニークな読書推進活動をさらに生み出していくための、いわば読書推進活動を推進する活動である。

 

3. 青少年審査員賞(ドイツ青少年文学賞)

 ドイツで唯一国家の支援を受けて行われる読書推進活動として、「ドイツ青少年文学賞」(8)の一部門「青少年審査員賞」がある。「ドイツ青少年文学賞」は50年以上の歴史を持つ、ドイツで最も権威のある青少年文学賞であるが、文字どおり子どもたちが審査員となる同部門を2003年に新設した。州横断的な読書クラブの子どもたちで構成された青少年審査員が、前年に出版されたドイツ語圏の作品の中から最大6冊を選び、ノミネートする。最終的に選ばれた1冊は、フランクフルトブックフェアで表彰される。同世代の選んだ本に賞を与えることでより多くの関心を集め、読書推進につなげようという試みである。

 

4. 「ドイツで読む」

 上記「読書基金」や「青少年文学賞」の活動、各州の取り組みなど、ドイツの読書推進活動についての情報を集め、紹介するサイト「ドイツで読む」(Lesen in Deutschland)(9)についても触れておこう。州ごと、日付ごと、活動タイプごとに情報が整理され、検索もできるなど、さながら読書推進活動のデータベースとして機能している。分野を超えた連携を促進する役割を担っている。

 

5. 図書館による読書振興活動事例

 最後に、筆者が2009年11月にゲーテ・インスティトゥート(Goethe-Institut)の奨学金でドイツを訪問した際に見学することのできた、個別の図書館の事例を紹介しておきたい(10)。

 1つ目は、ケルンの市立図書館の事例である(上述の報告書『読解力の促進』によれば、類似した方法による推進活動はドイツでは盛んな模様)。子どもが図書館利用登録をすると、図書館は利用カードや本を持ち帰るための布製バッグとともに、1冊のカラフルなノートを手渡す(図参照)。子どもたちは、読み聞かせの催しに参加するたびに、聞いた物語の絵をノートに描いて図書館員に見せる。図書館員はそれによって、子どもたちが本当に理解したのかどうかを知るのだという。

図 ケルン市立図書館で配布するバッグとノート

図 ケルン市立図書館で配布するバッグとノート

 もう1つは、ベルリンの、外国人が人口の37%を占める地域の小さな図書館の取り組み「ヴォルトシュターク」(WortStark)である。移民の子どもを中心に、幼稚園の10人以下のグループが図書館を訪れ、図書館員(やインターンシップの学生)とともに輪を作って座り、「歯ブラシ」「鍋」といった言葉を、用意された実物を手に取りながら学習する(実際、子どもたちはこういった言葉も知らないことがしばしばある)。そしてその後にはじめて、それらの言葉が重要な役割を果たす絵本の読み聞かせを行う。いずれも背景には、単に聞くこと、あるいはそらんじることと「読解する」ということとのギャップに気づかされた「PISAショック」の反省がある。子どもたち一人ひとりの読解力までにかかわろうとする、踏み込んだ取り組みである。

総務部人事課:伊藤 白(いとう ましろ)

 

(1) 2000年の第1回調査では総合読解力において、ドイツは31か国中21位(日本は8位)であった。なお2006年の第3回調査では56か国中18位(日本は15位)。
OECD Programme for International Student Assessment (PISA).
http://www.pisa.oecd.org/pages/0,2987,en_32252351_32235731_1_1_1_1_1,00.html [418], (accessed 2010-02-18).
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http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/index28.htm [419], (参照 2010-02-18).
“OECD生徒の学習到達度調査(PISA) : 2006年調査国際結果の要約”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/071205/001.pdf [420], (参照 2010-02-18).

(2) “Förderung von Lesekompetenz. Expertise”. Bundesministerium für Bildung und Forschung.
http://www.bmbf.de/pub/bildungsreform_band_siebzehn.pdf [421], (accessed 2010-02-18).

(3) Stiftung Lesen.
http://www.stiftunglesen.de/default.aspx [422], (accessed 2010-02-18).

(4) 川西芙沙. 子どもの本の現場より : 「ドイツ読書基金」(Stiftung Lesen)について. JBBY. (102), 2009, p. 77-79.

(5) TOMMI.
http://www.kindersoftwarepreis.de/ [423], (accessed 2010-02-18).

(6) 360-Grad-Leser.
http://www.youtube.com/360gradleser [424], (accessed 2010-02-18).

(7) Auslese.
http://www.stiftunglesen.de/projekte/auslese/default.aspx [425], (accessed 2010-02-18).

(8) Deutscher Jugendliteraturpreis.
http://www.djlp.jugendliteratur.org/ [426], (accessed 2010-02-18).

(9) Lesen in Deutschland.
http://www.lesen-in-deutschland.de/html/index.php [427], (accessed 2010-02-18).

(10) ガンツェンミュラー文子. 特集, 21世紀 子どもの読書活動推進のために: ドイツの読書推進活動. JBBY. 2002, (95), p. 18-20.

 


伊藤白. 小特集, 諸外国の読書推進活動: ドイツの読書推進運動―読解力向上のための取り組みとして―. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1706, p. 6-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1706 [428]

カレントアウェアネス [8]
読書 [368]
子ども [429]
ドイツ [371]
公共図書館 [11]

CA1707 - 英国の読書推進活動―国民読書年を中心に― / 北條風行

PDFファイルはこちら [430]

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1707

小特集 諸外国の読書推進活動

 

英国の読書推進活動―国民読書年を中心に―

 

 英国では、ブックスタート事業(E480 [431]参照)をいち早く始めたほか、読書推進事業を担う団体・組織が数多く存在するなど、読書推進活動が比較的活発に行われている(CA1498 [432]参照)。本稿では、最も有名な活動の一つでもある「国民読書年」(National Year of Reading;以下「NYR」とする)を中心に紹介する。

 

1. 第1回国民読書年

 英国では、1998年9月から1999年8月にかけて、第1回のNYRが実施された。NYRが計画された背景には、読書離れによって当時の英国内の初等・中等教育を受ける児童・生徒のリテラシーが低下していることへの危惧があったとされている(CA1241 [433]参照)。1997年、当時の教育雇用大臣であったブランケット(David Blunkett)氏の発案により、子どもたちのリテラシーの向上と成人の生涯学習支援のために、読書推進活動を全国規模で行うNYRを翌1998年に実施することが決まった。

 教育雇用省(1)から委託を受けた英国リテラシー・トラスト(National Literacy Trust)が中心となって結成されたプロジェクトチームは、NYRの開始前には、教育、図書館、スポーツ、ボランティア団体などさまざまな関係機関に働きかけて周知活動を行い、期間中は、ニュースレターやウェブサイトなどを使った情報提供の面において、各地の図書館、学校、コミュニティなどのイベントやキャンペーンをサポートするという役割を担った(CA1354 [434]参照)。また、それらの活動に対する資金的なサポートも行っており、その総額は80万ポンド(当時のレートで換算して1億5,000万円ほど)にも上ったという(2)。

 

2. 第2回国民読書年

 第2回のNYRは、第1回NYRから10年が経過した、2008年に実施された。その背景には、依然として、読書に対する意識の低さがあった(3)。2006年に行われた読書に関する国際調査PIRLSの結果によると、学校以外で楽しみとしてほぼ毎日読書をするイングランドの子どもの割合は33%と、他の国と比較してかなり低かった。また2001年の調査結果と比較して、その割合には増加が見られなかった(4)。第2回NYRの活動報告書『読書:その未来』(Reading: The Future;E915 [435]参照)によれば、第2回NYRの目的として、家庭やその他の場所での読書を推進すること、および第1回NYRでも示されていた、人々の読書に対する意識を変えて、英国を「読む人の国」(nation of readers)にすることが掲げられた(5)。

 第2回NYRでは、児童・学校・家庭省から委託を受けた英国リテラシー・トラストと読書協会(The Reading Agency;E017 [436]参照)が、ブックトラスト(Booktrust)や初等教育リテラシーセンター(Centre for Literacy in Primary Education)といった読書推進事業を担う諸機関の協力を得て活動を取り仕切った(6)。

 2008年1月から3月までの最初の3か月は各機関・団体に対して参加を呼びかける期間とされ、4月からは月ごとに設定されたテーマを基に、各機関・団体によるイベント、キャンペーンなどが実施され、NYR公式サイトに登録されたイベントの数はおよそ6,000にも上った。各種イベントの情報や関連記事はNYR公式サイトだけでなく、各機関・団体がイベントの情報を投稿できるサイト“WikiREADia”(7)でも提供された。“WikiREADia”は、NYR以外の情報も掲載した読書支援サイトとして機能しており、このサイトの開設が第2回NYRの大きな成果の一つであるとの評価も与えられている。

 

3. 図書館の活動

 第2回NYRでは、新規利用者を増やすためのキャンペーンが英国全土の図書館で展開された。ラジオの地方局の協力を得たり、ショッピングセンターへ出向くなど様々な方法で呼びかけが行われた。その結果、2008年4月から12月までの間に当初の想定を大幅に超える230万人が新規利用登録を行った(5)。

 個々の図書館でも様々な活動が行われた。屋外での読書を通して読書の楽しみを知ってもらおうという“Reading Garden”(8)や、読書の機会を広げるためにビーチに図書館の分館を臨時に設置するイベント(9)といった読書の「場」に着目した活動があった。また、子どもとその家族を対象にしたイベントが多かったことも目に付く(10)。子どもたちだけでなく、大人たちと一緒に読書を楽しもうとの考えによるものであろう。

 

4. 国民読書年の効果

 NYRは、それ自体は非継続的であるが、継続的な活動のための出発点となるべきものとされている。第1回NYRの1999年から全英規模に拡大したブックスタート事業や、第2回NYRを機に開始した学校図書館協会(School Library Association)による“Book Ahead”(11)といった大規模なものから、個別の機関による小規模なものまで、NYRを契機とした継続的な活動が数多くある。第2回NYRの活動報告書によれば、期間中に組織された団体の97%がNYR以降も継続的に活動する予定とあり、期間中に実施されたプロジェクトの80%が2009年も引き続き行われたという(5)。

 NYRの影響、効果を測る指標として2つのデータを紹介しておく。1つは、英国の調査会社Taylor Nelson Sofresが第2回NYRの期間中に2度にわたって実施した、読書に対する人々の意識の変化を調べた調査の結果である。その概要は前述の活動報告書の中で紹介されている。それによると、比較的下位の社会階層に属する人々のうち、毎日子どもに本を読むという親の割合はNYR初期の3月には15%であったのがNYR後半の12月には20%に、毎日母親と一緒に本を読むという子どもの割合も17%から32%に増加しており、家庭で楽しみとしての読書をする機会が増している(5)。もう1つは、「ナショナル・テスト」での11歳の生徒らの英語(国語)の読み書きの成績である。目標水準に達している生徒の割合は、NYR実施前の1997年が62.5%、第1回NYRの翌年に当たる2000年が75%、第2回NYRの翌年の2009年が80%という結果が出ており、向上が見られる(12)。NYRを中心とした読書推進活動の目に見える効果と見ることもできよう。

関西館図書館協力課:北條風行(ほうじょう ふうこう)

 

(1) 組織改変により、教育雇用省(Department for Education and Employment)の中の教育部門は、現在、児童・学校・家庭省(Department for Children, Schools and Families)に引き継がれている。

(2) “National Year of Reading 1998-1999”. National Literacy Trust.
http://www.literacytrust.org.uk/campaign/execsummary.html [437], (accessed 2010-02-18).

(3) “Frequently asked questions about the National Year of Reading”. WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/index.php?title=Frequently_asked_questions_about_the_National_Year_of_Reading [438], (accessed 2010-02-18).

(4) PIRLS(Progress in International Reading Literacy Study)は2001年に第1回、2006年に第2回の調査が行われている。
“Readers and Reading: The National Report for England” National Foundation for Educational Research.
http://www.nfer.ac.uk/nfer/publications/PRN01/PRN01.pdf [439], (accessed 2010-02-18).
National Foundation for Educational Research. “Progress in International Reading Literacy Study (PIRLS 2006)”. Department for Children, Schools and Families.
http://www.dcsf.gov.uk/research/data/uploadfiles/DCSF-RBX-03-07.pdf [440], (accessed 2010-02-18).

(5) National Literacy Trust, ed. “Reading: The Future”. Reading for Life.
http://www.readingforlife.org.uk/fileadmin/rfl/user/21522_NYR_Guide_AW_v3.pdf [441], (accessed 2010-02-18).

(6) “2008 National Year of Reading”. WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/index.php?title=2008_National_Year_of_Reading [442], (accessed 2010-02-18).

(7) WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/ [443], (accessed 2010-02-18).

(8) 例えば、以下のものなど。
“Reading Garden at Hayle Library”. WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/index.php?title=Reading_Garden_at_Hayle_Library [444], (accessed 2010-02-18).
“Reading garden - New Ash Green library, Kent”. WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/index.php?title=Reading_garden_-_New_Ash_Green_library%2C_Kent [445], (accessed 2010-02-18).

(9) “Books on the beach - Poole libraries”. WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/index.php?title=Books_on_the_beach_-_Poole_libraries [446], (accessed 2010-02-18).

(10) 例えば、以下のものなど。
“Family Reading - a town fun day in Wiltshire”. WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/index.php?title=Family_Reading_-_a_town_fun_day_in_Wiltshire [447], (accessed 2010-02-18).
“Family Reading Groups in Leicestershire”. WikiREADia.
http://www.wikireadia.org.uk/index.php?title=Family_Reading_Groups_in_Leicestershire [448], (accessed 2010-02-18).

(11) 0歳から7歳までの幼い子どもたちに読書の楽しみを広める学校図書館協会の取り組み。
“Book Ahead”. School Library Association.
http://www.bookahead.org.uk/ [449], (accessed 2010-02-18).

(12) 「ナショナル・テスト」(National Test)は、イングランド地域の生徒らを対象にした統一学力テストで、1988年から実施されている。7歳、11歳、14歳の生徒を対象としてきたが、14歳の生徒を対象としたテストは2008年を最後に終了している。
“School and college achievement and attainment tables”. Department for Children, Schools and Families.
http://www.dcsf.gov.uk/performancetables/ [450], (accessed 2010-02-18).

 


北條風行. 小特集, 諸外国の読書推進活動: 英国の読書推進活動―国民読書年を中心に―. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1707, p. 8-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1707 [451]

  • 参照(9044)
カレントアウェアネス [8]
読書 [368]
リテラシー [452]
英国 [26]

CA1708 - 米国の読書推進活動―Big Readが図書館にもたらすもの― / 田中敏

  • 参照(8287)

PDFファイルはこちら [453]

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1708

小特集 諸外国の読書推進活動

 

米国の読書推進活動―Big Readが図書館にもたらすもの―

 

  米国の国立芸術基金(National Endowment of Arts;NEA)は、2009年1月に『盛んになる読書』(Reading on the Rise)という報告書(1)を公表した。これは、5~10年おきに実施されている、米国の成人の文学作品の読書に関する調査の報告書で、2008年の調査では、1982年の調査開始以来低下を続けていた、文学作品を読む成人の比率が上昇に転じたことが報告された(E885 [454]参照)。その前の2002年の調査では、比率が初めて50%を下回り、その報告書『危機にある読書』(Reading at Risk)(2)では、タイトルが示すように、読書活動の衰退とそこから起こりうる社会への悪影響への危機感が示されていた(E224 [455]参照)。状況が好転した要因の一つは、官民での様々な読書推進・リテラシー向上のための活動(3)であると思われる。本稿では、その代表的な例として、NEAが中心となり全米規模で実施している読書推進活動“Big Read”について紹介する(4)。

 

1. Big Read開始の経緯とその概要

 Big Readは、博物館・図書館サービス機構(Institute of Museum and Library Services;IMLS)及び芸術支援団体Arts Midwestとの協力のもとNEAが2006年から実施しているもので、1つの文学作品を中心とした地域全体での読書推進活動に対し、助成金やその他の活動支援を行うというプログラムである。文学作品に限定しているのは、想像力や他者への共感能力といった、文学作品がもたらす力が重視されているためである。

 開始の契機となったのは、2004年に出された前述の『危機にある読書』であった。NEAはまず、米国各地で行われていた“One Book, One Community”プログラム(5)等の読書推進活動の成功点と課題について調査した上で、2006年に10地域を対象にBig Readプログラムを試験的に開始した。翌2007年から対象地域を100以上に拡大して本格的に実施し、2009年6月に終了した第5期までの累計で、全50州の500以上の地域でBig Readが開催され、各地域でのイベントに200万人以上が参加している。2009年9月から2010年6月までの第6期は、過去最多となる約270の地域で実施されている。

 各地域でBig Readを開催するためには、NEAに申請をして審査に通らなければならない。主催者として申請できるのは、図書館等の公共機関や非営利団体等で、図書館以外の機関・団体が申請する場合には、図書館をパートナーとすることが求められる。申請にあたっては、コミュニティ全体を対象とした約1か月間の活動計画を提出しなければならない。助成金は2,500ドルから2万ドル(約23万円から約180万円)の範囲となっているが、主催者側でも助成金と同額の資金を用意しなければならない。第6期の助成金の総額はおよそ370万ドル(約3億4千万円)である。

 対象となる作品(6)は、図書館員・作家ら22人で構成される委員会の推薦に基づき決定される。米国議会図書館のビリントン(James H. Billington)館長も委員会のメンバーである。作品は米国文学が中心であるが、19世紀から21世紀まで、幅広い年代の作品が選択されている。第6期では28作品と3人の詩人の詩が対象となっており、『トム・ソーヤーの冒険』『グレート・ギャツビー』『マルタの鷹』『怒りの葡萄』『華氏451度』『ゲド戦記』『ジョイ・ラック・クラブ』等の作品が含まれている。各地の主催者は、これらの作品の中から1つを選ぶことになる。

 

2. 各地域での実施にあたって

 コミュニティ全体に活動を行き渡らせるためには、図書館、学校、大学、芸術団体、地方自治体、マスメディア、出版社、書店等の、官民の各機関とのパートナーシップが必要となる。各地域の主催者は、NEAによる事前のオリエンテーションで、実務的な知識や過去の実践例を学んだり、他地域の主催者と意見交換を行うなどして実施に備える。NEAからは、作品についての資料(読者用ガイド、音声ガイド等)や広報用キット(ポスター、横断幕等)、情報を掲載したウェブサイト等が提供される。

 各地で開催されるイベントの種類としては、市長等が参加するオープニングイベント、対象作品を主内容としたイベント(パネルディスカッション等)、対象作品に関連したイベント(映画上映等)等がある。

 選定作品を多くの人に読んでもらう手段として、多くの主催者が、ペーパーバック版を大量に購入し住民に無料で提供している。図書館や学校だけでなく、バスターミナルや薬局等、様々な場所で配布されている。また、地元メディアへの取材依頼や新聞広告等、認知度を高めるための工夫も実施している。

 対象作品の中からどの作品を選ぶかは悩ましいところであるが、その地域の事情を意識した選定を行っている地域もある(7)。公民権運動の一つの契機となった「ブラウン対教育委員会」裁判の地であるカンザス州トピカの図書館では、黒人女性の主人公の生涯を描くハーストンの『彼らの目は神を見ていた』を選定し、ブラウン裁判記念館でのイベントに多くの住民が参加するなど、人種問題への関心を喚起した。ロシア系移民の多いペンシルバニア州ランカスター郡の図書館では、トルストイの『イワン・イリイチの死』を選定し、さまざまなイベントにロシア系住民が参加したことで、新旧の住民の間での交流が生まれた。

 各地の事例報告を見ると、Big Readは単なる読書イベントではなく、コミュニティをまとめる原動力となっており、しかもそれは地域でのBig Readプログラムが終了した後も続くようである。

 

3. 図書館にとってのBig Read

 主催者あるいは共催者としてBig Readに関わる図書館にとっても、特に他機関とのパートナーシップの経験から、得られるものは大きい。テキサス州の図書館でBig Readを担当した職員は、他機関との連携により新たなサービス対象に接することができるだけでなく、図書館がコミュニティの重要な部分であることを示すチャンスともなると指摘している(8)。つまり、他分野のリーダーと協同している姿を見せることが、図書館への信頼を高め、図書館の活動と予算への理解を得ることにもつながりうるということである。IMLSの図書館部門のチュート(Mary Chute)氏は、他機関と協同する能力は21世紀の図書館に最も求められるものであり、Big Readはその能力を鍛える理想的な機会であるとしている(7)。

関西館図書館協力課:田中 敏(たなか さとし)

 

(1) National Endowment for the Arts. Reading on the Rise : A New Chapter in American Literacy. 2009, 11p.
http://www.arts.gov/research/readingonRise.pdf [456], (accessed 2010-02-08).

(2) National Endowment for the Arts. Reading at Risk : A Survey of Literary Reading in America (Executive Summary). 2004, 6p.
http://www.nea.gov/pub/ReadingAtRisk.pdf [457], (accessed 2010-02-08).

(3) 連邦政府教育省によるリテラシー向上支援を主目的とする読書プログラムや、各種団体等による読書推進活動を紹介したものとして、次の文献がある。
岩崎れい. “読書プログラムの現状と課題”. 米国の図書館事情2007 : 2006年度国立国会図書館調査研究報告書. 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本図書館協会, 2008, p. 329-332, (図書館研究シリーズ, 40).
http://current.ndl.go.jp/node/14419 [458], (参照2010-02-08).

(4) Big Readの概要、経緯等については、主にウェブサイトの情報による。
The Big Read.
http://www.neabigread.org/ [459], (accessed 2010-02-08).
“The Big Read Brochure”. National Endowment for the Arts.
http://www.neabigread.org/docs/BigReadBrochure.pdf [460], (accessed 2010-02-08).

(5) コミュニティ全体で議論ができるような1つの作品を選び、読書によるコミュニティの結びつきの強化を狙う取組み。1998年にシアトル市で始まり他地域にも広まったもので、現在も実施されている。
One Book, One Community.
http://www.oboc.org/ [461], (accessed 2010-02-08).

(6) “The Big Read Catalogue”. National Endowment for the Arts.
http://www.nea.gov/pub/BigReadCatalog.pdf [462], (accessed 2010-02-08).

(7) Dempsey, Beth. Big Read, Big ROI. Library Journal. 2008, 133(19), p. 26-29.
http://www.libraryjournal.com/article/CA6611581.html [463], (accessed 2010-02-08).

(8) Hilyar, Nann B. The Big Read = A Big Opportunity for Your Library. Public Libraries. 2009, 48(5), p. 9-15.

 


田中敏. 小特集, 諸外国の読書推進活動: 米国の読書推進活動―Big Readが図書館にもたらすもの―. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1708, p. 10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1708 [464]

カレントアウェアネス [8]
読書 [368]
米国 [54]
IMLS(博物館・図書館サービス機構) [465]

CA1709 - 米国ロチェスター大学での研究者・学生の行動調査 / 西川真樹子

  • 参照(10962)

PDFファイルはこちら [466]

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1709

 

米国ロチェスター大学での研究者・学生の行動調査

 

はじまり

 ロチェスター大学はニューヨーク州北西部、五大湖のひとつオンタリオ湖のほとり、カナダとの国境にも近く、コダックやゼロックスの発祥地でも知られるロチェスター市にある。学部生が約5,000人、大学院生らが約4,000人、3つのキャンパスと6つの部門をもつ中規模の大学で、U.S. News & World Report誌の2010年大学ランキング(1)では全米35位にランクされている。また、1936年、社会運動家の賀川豊彦が、後に世界各国で翻訳・出版された“Brotherhood Economics”の講演を行い(2)、2002年ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏が博士学位を取得した大学でもある。

 このロチェスター大学リバーキャンパス図書館で、注目すべき取り組みが行われている。それはシンプルで、原始的だが、図書館員の多くが見落としているという点で新しい、大学の構成員の行動を調査するというものである。本稿では、この取り組みを紹介する。

 

教員への調査―機関リポジトリ拡張―

 始まりは2003年、その前年に設置していた機関リポジトリが思っていた以上に利用されていないことに図書館員が気づいた。リポジトリ設置当初は、教員も積極的に利用し、研究成果を登録すると言っていたのに、である。機関リポジトリが教員をはじめとする研究者たちのニーズに合っていないのか、そもそも研究者たちのニーズとは何なのか、研究者たちはどうやって研究をしているのか。これらのことを理解するために、図書館員は教員を対象に調査を始めた(3)。

 この調査にあたって、リバーキャンパス図書館では、人類学者のフォスター(Nancy Fried Foster)博士を起用し、ワーク・プラクティスという調査方法を用いた。ワーク・プラクティスは、人類学で行われてきた、調査対象の行動を詳細に観察し、記録するという方法である。図書館員たちは、調査手法について訓練を受けた後、どのようなプロセスを経由してアイデアに辿り着き、研究しているのかを教員にインタビューし、研究に使っているコンピュータや研究室の書棚、研究に使っているツールを見せてもらった。そして、それらを記録し、図書館員同士で話し合った(4)。

 専門分野が異なれば、違う部族に属しているグループと見なすくらいがいいというフォスター博士のアドバイス通り、教員たちの研究方法や文献整理方法は専門分野によって様々で、個人によっても異なっていた。しかし、いくつかの共通点もあった。まず、研究者自身の考え方についてである。研究者は所属機関にではなく、同じ分野の研究者や同僚に対して、非常に高い関心を持っている。そして、研究者は自分の研究が一番であり、研究に役に立つものなら進んで取り入れている。機関リポジトリがあまり取り入れられなかったということは、この時点での機関リポジトリが、研究に利益をもたらすとは思われていなかった、ということである(5)。

 また、共通した悩みも持っていた。共同研究者と原稿を書き進めていく際に効率的に原稿のバージョンを管理する方法や、学会の口頭発表資料などを保存し、必要なときにすばやく探すことができる方法を望んでいた。つまり、これらをうまく機関リポジトリに機能追加できれば、もっと使ってもらえるリポジトリになるのではないか。このことから、コンテンツ登録の動機を活性化させるためにダウンロード統計を表示し、機関リポジトリに研究者個人用のページを追加設計し、公開部分では研究者の研究成果のすべてを展示するショーケースとして、非公開部分では、原稿執筆や共著作業、セルフアーカイビング、セルフパブリッシングといった研究支援ツールとなるよう、大幅な機能拡張を行った。

 機関リポジトリのコンテンツ数を増やすには、2008年にハーバード大学が取り決めたように登録を義務化する方法がある。また別の方法としては、図書館ユーザが自然と使いたいと思うような機関リポジトリにすることである。ロチェスター大学では、まさに後者の方法を行おうとしている。教員への調査は、機関リポジトリをよりよくするという目標を超えて、ユーザのニーズを満たすために、真にユーザを理解するという点で大きな収穫となった。しかし、ユーザは教員だけではない。2004年、次は学生たちの調査を開始した。

 

学生への調査―学生たちが望んでいること―

 学生たちは実際、どのようにして研究論文を書いているのか、どのようなサービス・リソース・設備が彼らにとって最も役に立つのか、ということに関心を持った図書館員たちは、ブラックボックスにも思える学生たちの行動習慣調査を行った(6)。

 まずは、14人の教員に、優れた論文の特徴と学生らがどのようにして論文を書くことを期待しているのかについてインタビューした。ここでも回答はバラバラだが、全般的には課題設定が適切で、説得力のある論文が優れているとする共通点が見えた。しかし、教員の多くは、大学院生は研究の方法を知っていると答えたが、学部生がどうやってその技術を身につけることができるのかについては明確に説明できなかった。

 次に図書館のレファレンスデスクに相談に来た学生やキャンパス内にいた学生にインタビューを行った。学生たちは参考文献を見つけることよりも、論文の編集や執筆作業に不安を感じており、図書館員は資料を探す人でしかなく、教員こそが主題専門家であると語った。

 学生への調査ではインタビューの他に、紙の上で図書館のレイアウトを自由にデザインさせる方法や、図書館内で気に入っている場所の写真を撮影し、その理由を聞き出す写真抽出法、学生の一日の行動を地図上に落として、時間とその行動理由をインタビューしてマッピングする方法が用いられた。図書館員の想像以上に、学生たちのスケジュールは朝早くから夜遅くまでびっしりと埋められ、授業やミーティング、グループ研究、クラブ活動、アルバイト等でキャンパス内外を忙しく動き回り、ようやく午後11時頃から集中して課題に取り組む時間を持てることがわかった(ロチェスター大学の大半の学生はキャンパス内の寮に居住している)。

 この学生対象の調査では、図書館員たちが従来考えてきたものとはかなり異なる学生像が浮かび上がってきた。まず、学生たちが図書館に求めるのは、静かな場所やくつろげる場所、友達と一緒に勉強・議論できる場所、飲食できる場所、メールをチェックできるコンピュータ、資料の探し方を相談できる人、カフェなど実に様々であるが、要は一つ屋根の下で全てのことをしたいと思っている。これは図書館員が従来考えてきたサービスモデルとは極めて異なっている。今の学生は何でもしてくれる母親のようなサービスを求めている。また、学生たちはとても忙しく、レファレンスサービスをはじめ、多くの図書館サービスが学生たちのスケジュールに一致していない。これらの調査結果から、午後9時に閉まっていたリバーキャンパス図書館レファレンスデスクのサービス時間を延長し、ライティングセンターとの連携を拡大する試みを、2006年春学期と秋学期のそれぞれ最終4週間に行った。

 学生たちに話を聞くには、考えているような大がかりな装置は必要ない。少しの報酬(ひとりあたり5ドル程度)とピザとコーヒーがあれば、学生たちは協力的に話をしてくれる。学生たちに話を聞くことができたことは、図書館員の間に実験的精神を根付かせた。即ち、図書館員が学生たちに勝手な想定をするのではなく、図書館内で、あるいは図書館を出て、実際に学生に話を聞いてみるという共通の考え方が図書館員の間にできてきた。

 

大学院生への調査―オーサリングツールとの関わり―

 最後に2006年から2008年まで大学院生への調査を実施した(7)。論文を個人や共同で執筆するときに、どのようなオーサリングツール(ウェブ上で論文を編集・管理できるアプリケーション)が必要かを知るためであり、これらのオーサリングツールは機関リポジトリに搭載される予定である。研究・執筆・保存活動を1つのインターフェースで実現するための機関リポジトリの補強には、大学院生の研究行動調査が最適と思われた。というのは、大学院生は将来、教員や研究者になろうとしている、論文執筆者であるからだ。

 今回もワーク・プラクティス法で、25人の大学院生とその指導教員にインタビューを行い、図書館での勉強場所や研究室、自宅の部屋などにビデオカメラを設置し、大学院生の研究プロセスを記録した。

 調査の結果、さまざまなことがわかってきた。大学院生は自分の研究者としての未熟さを心配していることが見てとれた。大学院生の最大の敵は、論文を執筆するために読まなければならない大量の文献(PDF / HTML / 紙媒体など)であり、それをどのように整理し、保存し、必要なときにすばやく取り出すことができるかに頭を悩ませていた。これを解決するために、ノートに記録するような従来の技術と、Google Docs / DocuShare / RefWorks / EndNoteといったデジタル技術を、時と場合に応じて組み合わせて使っているが、その技術を図書館員から学ぶことはなく、自習や仲間、指導教員から学ぶことで対処していることがわかった。図書館員が行う支援が大学院生にとって十分に価値のあるものであると受け入れてもらえれば、図書館が大学院生を支援するチャンスは存在する。

 

ユーザ中心の図書館へ

 教員、学部生、大学院生らの行動を調査し、ニーズが多様であることも、いくつかの共通した要望があることもわかってきた。ユーザが望むことの全てを実現するキラー・アプリケーションツールを開発し、何でもしてあげる学生たちのママになることは、できそうもなく、将来的にも不可能と思われる。学生たちへの調査でわかったように、昔と今の学生は驚くほど変化しているし、もっと短いスパンでも変化している。ユーザは変わり、ユーザの要望は変わっていくのだ。重要なことは、その変化に向き合うことである。「これが図書館のサービスです」といった図書館側からの提示ではなく、ユーザの行動に注目し、その声に耳を傾け、それを図書館に活用する変化を恐れないことである。そこからユーザ中心の図書館は生まれてくると考えられる。

 リバーキャンパス図書館の人類学的手法を使った調査は、問題関心と対象を変えて継続されている。ロチェスター大学の挑戦は続く。

京都大学附属図書館:西川真樹子(にしかわ まきこ)

 

(1) “National Universities Rankings Best Colleges 2010”. US News and World Report.
http://colleges.usnews.rankingsandreviews.com/best-colleges/national-universities-rankings/ [467], (accessed 2010-01-12).

(2) 賀川豊彦. 友愛の政治経済学. 加山久夫ほか訳. コープ出版, 2009, 171p.

(3) Foster, Nancy Fried et al. “より多くのコンテンツを機関リポジトリに集めるために教員を理解する”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/metadata/irp/foster/ [468], (参照2010-01-12).
Foster, Nancy Fried et al. Understanding Faculty to Improve Content Recruitment for Institutional Repositories. D-Lib Magazine. 2005, 11(1).
http://www.dlib.org/dlib/january05/foster/01foster.html [469], (accessed 2010-01-12).

(4) Gibbons, Susan. Assessment in Academic Research Libraries. 大学図書館研究. 2008, (84), p. 1-4.

(5) Gibbons, Susan. “Studying Users to Design a Better Repository”. DRF International Conference 2009 発表予稿集. 東京工業大学, 2009-12-3/4, DRF International Conference 2009実行委員会, 2009, p. 66-71.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=DRFIC2009&openfile=session3_susangibbons.pdf [470], (参照2010-01-12).

(6) Foster, Nancy Fried et al., eds. Studying Students: The Undergraduate Research Project at the University of Rochester. 2007, 90p.
http://docushare.lib.rochester.edu/docushare/dsweb/View/Collection-4436 [471], (accessed 2010-01-12).
邦訳については、国立情報学研究所の協力を得た。

(7) Ryan, Randall et al. “次世代の学者 ロチェスター大学での調査報告書”. Digital Repository Federation.
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&refer=Foreign%20Documents&openfile=NextGeneration_ja.pdf [326], (参照2010-01-12).
Ryan, Randall et al. “The Next Generation of Academics : A Report on a Study Conducted at the University of Rochester”. University of Rochester. 2008-09-17.
http://hdl.handle.net/1802/6053 [327], (accessed 2010-01-12).

 

Ref:

University of Rochester. http://www.rochester.edu/ [472], (accessed 2010-01-12).
River Campus Libraries, University of Rochester.
http://www.library.rochester.edu/ [473], (accessed 2010-01-12).
Gibbons, Susan. 大学図書館評価. 西川真樹子訳. 大学図書館研究. 2008, (84), p. 5-8.
http://hdl.handle.net/2433/81821 [474], (accessed 2010-01-12).

 

補記:
本稿脱稿後、ロチェスター大学が機関リポジトリのリニューアル版を発表している。新たに追加された機能には、リバーキャンパス図書館の調査結果が反映されている模様である。
“Virtual Work Space for Academics Promises Greater Access to Research”. University of Rochester.
http://www.rochester.edu/news/show.php?id=3556 [475], (accessed 2010-03-05).

 


西川真樹子. 米国ロチェスター大学での研究者・学生の行動調査. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1709, p. 12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1709 [311]

カレントアウェアネス [8]
利用者サービス [476]
機関リポジトリ [477]
米国 [54]
大学図書館 [225]

CA1710 - ロシアの公共図書館の現状とその発展構想 / 兎内勇津流

  • 参照(10846)

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カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1710

 

ロシアの公共図書館の現状とその発展構想

 

1. 2020年までのロシアの発展構想

 ロシアは、1998年の経済危機以後、石油・天然ガスの輸出価格高騰にも助けられて急速な経済成長を遂げ、近年では、BRICsと呼ばれる、新興経済大国の一角を占めるに至った。ウラジーミル・プーチン大統領(当時)は、2006年7月に経済発展貿易省を中心に、2020年までの社会経済の発展戦略を示す「ロシア連邦の長期社会経済発展構想」の策定を始めた。これは、資源産業を中心に発展しつつあるロシア経済を、その果実を利用しつつ、将来的には製造業による発展を可能にする方向に構造転換をはかり、世界的強国としての地位を確立するとともに、国民生活の向上をはかろうというものである(1)。

 構想の策定においては、国民各層が討議に参加する形がとられ、2007年に一次案、二次案が発表された後、大統領がドミトリー・メドヴェージェフに交代した後の2008年11月に政府決定として採択された(2)。

 構想は、法令集の120ページ以上にわたるものだが、簡単にまとめると、次のような部分から成る。

  • 1. 人的ポテンシャルの発展
    • 人口政策、保健、住宅、年金、雇用、若年層施策などの福祉・社会政策、および、教育、文化、スポーツ政策、環境政策。
  • 2. 経済制度の発展とマクロ経済の安定性維持
    • イノベーションが可能となるような、制度的、金融的環境づくり。
  • 3. 国家競争力の向上
    • 科学技術の発展、ハイテク産業の発展、産業基盤を提供する産業部門(エネルギー、運輸等)、資源産業(水、森林等)、農業、水産業の発展と競争力強化。
  • 4. 対外経済政策
    • 貿易の発展と多角化、CIS諸国との関係強化、外国資本と技術の導入と規制の透明化。
  • 5. 地域の発展

 構想中、図書館・情報政策に関係すると思われるのは、「1. 人的ポテンシャルの発展」中の、教育の発展に関する部分である。具体的には、次のような項目が入っている。

  • 地域図書館、自治体図書館を基盤に、法律、ビジネス情報、社会的に重要な情報のセンターを発展させる。
  • 集会所、図書館、博物館、展示場、児童芸術学校等を一体化した多機能複合文化施設網を形成する。
  • 巡回複合文化施設(移動集会所、移動図書館、映写設備等)を増やす。
  • 文化機関に、近代化と技術革新のための投資を行う。
  • 図書館、博物館、文書館、映画資料館、写真館等が機能し発展する条件を保証する。
  • 図書館資料、博物館資料、文書館資料、映画・映像・写真・音声資料の保存と補充。
  • 文化財の状態と利用を把握できる全ロシア的データベースの構築。
  • 文化財集成の編集と出版。
  • 文書館・図書館・博物館の映画・写真・映像・音声資料のデジタル化とインターネットによる公開。
  • 文化施設の利用者を、2012年には2007年比10%増加させる。
  • 図書館蔵書は、82.3%の施設が基準を満たすように充実させる(3)。
  • 私企業と国家とのパートナーシップ制度を発展させ、予算外の資金を導入することで、予算支出を削減する。

 なお、2007年には対GDP比0.7%だった文化予算の比率を、2020年までに1.5%に引き上げるとしている。

 

2. 公共図書館の現状

 ソ連解体後のロシアにおいては、社会主義経済から市場経済への移行に際して、急激な経済の落ち込みが数年にわたって生じた。この間、公共図書館は厳しい経営状況におかれたことは、想像に難くない(4)。その底は1998年の金融ショックであったが、その後、石油等の資源輸出の成長を主要な原動力として、2000年以後、ロシア経済は急速な成長を遂げたのは、前述のとおりである。

 このことが、ロシアの図書館にどう作用したのか、興味深いところであるが、最近ようやく、この間のロシアの公共図書館に関する統計が発表されたので、その一部を紹介しよう(5)。

 先ず、公共図書館の館数だが、1989年の62,900館が、1996年には53,500館、2006年には47,100館に減少を続けている。都市と農村で区分すると、都市部は1989年の20,800館から1996年には13,800館、2006年には10,900館に減少。農村部は、1989年の42,100館から1996年に39,700館、2006年には36,200館に減少した。減少は農村部より都市部において顕著で、体制転換前のほぼ半数になった。図書館が閉鎖される理由について、統計書は、地方行政機関が、住民の意見を聞かず「施設網最適化のため」として、予算削減を目的に実施することが多いとコメントしている。

 また、この間、公共図書館の所蔵資料数は、1989年に11億5,600万冊であったのが、1996年は9億8,200万冊、2006年は9億2,800万冊に減少した。この理由について、統計書では、古くなった資料の廃棄が受入を上回っているためと解説する。なお、2006年における内訳は、都市部5億8,600万冊、農村が3億4,200万冊である。

 この他、『図書館』(Библиотека)誌の記事によると、コンピュータを設置している公共図書館は約8,200館で全体の17%、インターネットに接続している館は約3,100館で7%に満たない。電話がある図書館が約13,500館とのことなので、裏を返せば、33,000以上の館には電話すらないということになる(6)。

 もとの統計に戻ると、2006年の公共図書館に対する公共支出は、85億8,000万ルーブル、うち、建物などの固定資産修復に8億9,600万ルーブル、設備の導入に6億6,600万ルーブル、蔵書の購入に15億9,700万ルーブルが支出された。単純に図書館数で割ると、1館あたりの公共支出は18万3,000ルーブル、2006年当時のルーブルのレートは、1ルーブルが4円程度であったので、邦貨では70万円強ということになる。

 このように、ロシアの公共図書館をめぐる現実は厳しいが、一方、2009年5月にはサンクトペテルブルクの中心部に、歴史的資料を主に扱う大統領図書館が開館するなど、最近、国民の福利向上および国民文化の発展という見地から、図書館への注目度は向上しつつあるように思われる。先述した「発展構想」において図書館施策が取り上げられているのも、その表れと見ることができよう。

 

3. 文化省の図書館振興プログラム

 ロシア連邦文化省は「ロシア文化2001-2005」および「同 2006-2010」という計画に図書館振興策を盛り込み、状況の改善をはかってきたが、2008年9月に後者を大幅に改訂した、「2015年までのロシア連邦の文化とマスコミュニケーション分野の発展に関する国家基本計画およびその実行プラン」(7)を採択した。

 この「計画」は、最初にその目的を、①文化の維持・発展、②社会の安定、③経済成長、④国家の安全とした上で、以下の4つの事項に分けて、実施すべき項目を列挙している。

  • 1. ロシアの一体的な文化・情報空間の維持と発展
  • 2. ロシア諸民族の多民族的文化遺産の維持と発展
  • 3. 芸術教育と科学の制度改善
  • 4. 世界的文化プロセスへのロシアのさらなる統合と、外国でのその肯定的イメージの強化

 図書館関係でここに掲げられているのは、移動図書館サービスのスタート、図書館関係法規の改善(8)、資料収集の強化(住民1,000人当たり年間250タイトル)、情報システムを利用した収集方法と目録方法の改善、共同電子技術への移行とロシア図書館総合目録の作成である。

 これだけでは、断片的で、政策としての整合性が伝わってこないが、文化省文化遺産局次長で、図書館文書館課長のタチヤーナ・マニーロヴァ(Татьяна Манилова)によると、文化省はこのプログラムを図書館政策面で具体化するものとして、「2015年までのロシア連邦における図書館事業発展プログラム構想」を策定したという(6)。

 彼女の論文によれば、ここでは、人権としての情報アクセスの保証、国民文化遺産の保護とともに、情報技術を導入してサービスを近代化することに重点がおかれているようであり、今後の行方に注目していきたい。

北海道大学:兎内勇津流(とない ゆづる)

 

(1) 検討のプロセスについては、以下の文献を参照。
平和・安全保障研究所. 2020年のロシア. 2008, 135p.

(2) Ст. 5489. Концепция долгосрочного социально- экономического развития Российской Федерации на период до 2020 года. Собрание законодательства Российской Федерации. 2008(47), p. 14010-14135.

(3) 「構想」中には、基準の具体的な内容は示されていない。

(4) 1990年代半ばまでの状況については、以下の文で扱ったことがある。
兎内勇津流. “図書館”. 情報総覧 現代のロシア. ユーラシア研究所編. 大空社, 1998, p. 477.

(5) Библиотечные ресурсы России в 1996-2006 гг. : информационно-аналитический обзор. Москва, Пашков дом, 2009, 265p.

(6) Манилова, Татьяна. О концепции программы развития библиотечного дела в Российской Федерации до 2015 года. Библиотека. 2009(2), p. 6-9.

(7) “Основные направления государственной политики по развитию сферы культуры и массовой коммуникации в Российской Федерации до 2015 года и план действий по их реализации”. Министерство Культуры Российской Федерации.
http://mkrf.ru/documentations/581/detail.php?ID=61208 [479], (accessed 2010-02-01).

(8) 具体的には書かれていないが、運営に関する基準の充実や、法制上の優遇を内容とするのではと想像される。

 


兎内勇津流. ロシアの公共図書館の現状とその発展構想. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1710, p. 14-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1710 [480]

カレントアウェアネス [8]
図書館事情 [36]
ロシア [481]
公共図書館 [11]

CA1711 - 米国議会図書館における録音・映像資料の保存と活用の状況 / 川野由貴

  • 参照(11319)

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カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1711

 

米国議会図書館における録音・映像資料の保存と活用の状況

 

1. はじめに

 米国議会図書館(Library of Congress;以下、LCとする)の映画放送録音物部(Motion Picture, Broadcasting, and Recorded Sound Division;以下、MBRSとする)は、100万点を超える映像資料(映画フィルム、テレビ番組等)と300万点近くの録音資料(音楽CD・レコード、ラジオ番組、歴史的音声等)を所蔵する、世界有数の規模を誇る録音・映像アーカイブである(1)。所蔵するコレクションには、あらゆる記録メディアが含まれており、古いものでは、エジソンが発明した円筒型レコードや、1950年代頃まで使われていたナイトレートフィルムといわれる強い可燃性をもつ映画フィルム等が保存されている(2)。

 国立国会図書館で音楽・映像資料室に勤務する筆者は、2009年10月から11月にかけてLCを訪問する機会を得た。本稿では、LCにおける録音・映像資料の保存と活用の状況について紹介する(3)。

 

2. 保存状況と保存設備について

 MBRSでは主に、納本制度による納入、寄贈、購入の方法で資料を収集している。録音資料については、納本制度が整備されたのが1972年と比較的遅く、それまでは主に寄贈により資料を収集しており、それが現在のコレクションの基礎となっている。収集された資料は、これまでLC内部と米国内数か所の倉庫で管理されていたが、2007年、ワシントンD.C.から約100キロメートル離れたバージニア州カルペパーに国立視聴覚資料保存センター(National Audio Visual Conservation Center;以下、NAVCCとする)(4)が開館し、LCが所蔵する視聴覚資料が全て集められ、収集・整理から保存、デジタル化までが一貫して行われるようになった。

 NAVCCは丘陵地を利用して建てられており、丘の斜面に横穴を掘って書庫が作られている。建物は3階建てで、総面積は約41.5万平方フィート(約38,500平方メートル)、書庫スペースは棚の長さにして約90マイル(約145キロメートル)にも及ぶ。その他、124のナイトレートフィルム専用保管庫なども備えられている(5)。

 建物の内部は、資料の受入れから整理、書庫に収めるまで効率よく作業できるように設計されている。1階が映像セクション、2階が録音セクションの作業フロアと書庫になっており、搬入された資料は、映像資料は1階、録音資料は2階で受入れ、整理された後、それぞれそのまま同じフロアにある書庫に運ばれる。書庫内には、各媒体の大きさに合ったキャビネットや収納棚が空間に無駄なく設置されており、温湿度も各媒体に最適な設定が維持されている。録音資料は一律、華氏50度(摂氏10度)・湿度35%、映像資料は媒体に応じて華氏25度(摂氏-3.9度)から華氏50度まで4段階の環境(湿度は30%から35%)が整えられている(6)。地中のため、温度・湿度を調節しやすいとのことである。

 資料の整理にあたっては、LC分類(Library of Congress Classification)ではなく、独自の分類方法(資料の形態による分類)がとられており、書庫にも分類別に収められる。なお、新しい出版物よりも、利用者の要望の多い、古い資料の整理を優先して行っているとのことである。

 3階は、デジタル化や映画フィルムの保存作業のためのフロアである。録音資料のデジタル化は音響設備の整った専用ルームでエンジニアの手作業により行われており、ビデオカセットのデジタル化には、全自動のデジタル化システムSAMMA(System for the Automated Migration of Media Assets)(7)が導入されている。デジタル化作業では、保存用ファイル、再生専用ファイル、メタデータが作成され、保存用ファイルはNAVCC内に設けられたデータセンターに保管される。なお、デジタル化された後も、オリジナル資料は必ず保存される。このように、NAVCCは、保存やデジタル化のための最先端の設備と、大規模かつ長期保存に最適な保管庫を備えており、世界的にも注目される施設となっている。

図 NAVCCの外観

図 NAVCCの外観

 

3. 利用方法と活用状況について

 録音・映像資料はすべてNAVCCに保存されることになったが、利用者はこれまで通りワシントンD.C.中心部(キャピトルヒル)にあるLC(8)の閲覧室でサービスを受けることができる。マディソン館1階で録音資料レファレンスセンター(Recorded Sound Reference Center)が、同3階で映画・テレビ資料閲覧室(Motion Picture and Television Reading Room)が運営されており、利用方法は各閲覧室で若干異なる。録音資料の場合、利用申込みがあるとNAVCCで再生専用のデジタルファイル(保存用デジタルファイルとは異なる)が作成され、閲覧室に送信される。利用者はその音源を備え付けのPCで利用する。ジャケットや歌詞カードの閲覧を希望すれば、それらの画像もデジタル化して提供される。著作権上の問題があるため、利用できるのは閲覧室内のPCに限られる。映像資料の場合、録音資料とは異なりファイル容量が大きくなるため、オンデマンドによるデジタル化には対応していない。そのため、デジタル化済みでない資料については、コピー資料があるものに限り、週に一度NAVCCから運搬して閲覧に供している(オリジナル資料しかないものは利用不可)。いずれの場合も、利用は研究目的に限られ、資料の準備に時間を要するため閲覧には予約が必要とされる。また、著作権者の許諾を得られれば、複製サービスを受けることができる。

 資料の検索手段として、LCのメインのオンライン目録(9)および一部の録音資料でSONICと呼ばれる独自のオンライン目録(10)が利用できるが、一部では依然としてカード目録が使用されており、タイトルからしか検索できないものも多い。今のところ、全ての資料を網羅的に検索できるデータベースは無いとのことである。そのため、特定の主題から資料を探したい場合などは、レファレンスライブラリアンに相談をしながら探すことになる。レファレンスは、直接来館のほか、“Ask a Librarian”システム(11)、メール、電話等でも受け付けている。

 情報発信事業として、LCでは“American Memory”と題し、米国の歴史に関わる資料の一部を主題別にホームページ上で公開しており(12)、MBRSからも録音・映像資料などのコンテンツを提供している。最近では、MBRS以外でも、音楽部(Music Division)が中心となって、“Performing Arts Encyclopedia”として、音楽や舞台芸術に関する資料の公開に積極的に取り組んでいる(13)。公開される資料には、楽譜や音源、映像、写真、手稿等の様々な形態の資料が含まれる。このような、資料の形態にとらわれない情報発信は、デジタル化によって可能となった所蔵資料の活用方法の一つであろう。

 また、マディソン館3階とNAVCCには映画の上映ホールがあり、定期的に上映会が開催されている。NAVCCのホールには無声映画の伴奏ができるスペースも設けられている。さらに、ジェファソン館1階には展示室とコンサートホールがあり、ホールでは定期的に演奏会が開催されている。その音源も録音・保存されており、MBRSのコレクションの一つとなっている。

 

4. おわりに

 NAVCCの開設により、録音・映像資料の保存と利用・活用方法は大きく様変わりした。デジタル化によって、利用の度に資料を動かさずに安全な場所で長期的に保存することが可能になるだけでなく、これまで劣化の恐れがあるために利用を制限してきたような資料も提供できるようになり、「保存」と「利用」という二つの役割を同時に果たすことが可能になった。筆者が訪問した時点では、閲覧システムはまだ試行段階であったものの(14)、オリジナル資料を一か所に集中管理し、デジタル化したものを利用者に提供するという基本的な閲覧体制は、良好に機能しているものと思われた。ただし、保存のためのデジタル化作業はまだ始まったばかりの状況であり、今後は、デジタル化作業の進展に加え、デジタルコンテンツをいかに活用していくか、その動向を注視していく必要がある。

資料提供部電子資料課:川野由貴(かわの ゆき)

 

(1) “Experience the Collections”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/avconservation/collections/ [483], (accessed 2010-01-12).

(2) Dalrymple, Helen. The scope of the collections. Library of Congress Information Bulletin. 2007, 66(7/8), p. 149.
http://www.loc.gov/loc/lcib/07078/scope.html [484], (accessed 2010-01-12).

(3) 録音・映像資料以外の音楽資料(楽譜等)は音楽部(Music Division)が、野外録音により収集された資料(民族音楽や方言等)はアメリカン・フォークライフ・センター(American Folklife Center)が所管する。紙幅の都合もあり、本稿ではMBRSの所管する録音・映像資料を取り上げる。各部門の概要はそれぞれ以下のURLを参照。
“Performing Arts Reading Room”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/perform/ [485], (accessed 2010-01-12).
“The American Folklife Center”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/folklife/ [486], (accessed 2010-01-12).

(4) NAVCC設立の背景には、パッカード財団からの多額の寄付がある。そのため、“Packard Campus”と冠される。

(5) “The Packard Campus”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/avconservation/packard/ [487], (accessed 2010-01-12).

(6) 数値は現地での取材による。

(7) Media Matters.
http://www.media-matters.net/index.html [488], (accessed 2010-01-12).

(8) ジェファソン館、マディソン館、アダムス館の3館から成る。

(9) Library of Congress Online Catalog.
http://catalog.loc.gov/ [489], (accessed 2010-01-12).

(10) “SONIC(Sound Online Inventory and Catalog)”. Library of Congress.
http://star1.loc.gov/cgi-bin/starfinder/0?path=sonic.txt&id=webber&pass=webb1&OK=OK [490], (accessed 2009-01-12).

(11) “Ask a librarian”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/askalib/ [491], (accessed 2010-01-12).

(12) “American Memory”. Library of Congress.
http://memory.loc.gov/ammem/index.html [492], (accessed 2010-01-12).

(13) “Performing Arts Encyclopedia”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/performingarts/ [493], (accessed 2010-01-12).

(14) 閲覧システムが本格稼動すれば、利用者各自にログインID・パスワードが付与され、個人専用画面で資料の検索、申込、閲覧および複写申込ができるようになるとのことであった。

 

Ref:

Library of Congress Motion Pictures, Broadcasting, Recorded Sound Division. Motion Pictures, Broadcasting, Recorded Sound : An Illustrated Guide. Washington D.C., Library of Congress, 2002, 88p.

“Audio-Visual Conservation”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/avconservation/ [494], (accessed 2010-01-12).

“Recorded Sound Reference Center”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/record/ [495], (accessed 2010-01-12).

“Motion Picture and Television Reading Room”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/mopic/ [496], (accessed 2010-01-12).

Dalrymple, Helen et al. A remarkable gift. Library of Congress Information Bulletin. 2007, 66(7/8), p. 147-154.
http://www.loc.gov/loc/lcib/07078/packard.html [497], (accessed 2010-01-12).

Dalrymple, Helen. Film & sound treasures in the mountain lair. Library of Congress Information Bulletin. 2006, 65(7/8), p. 167-171.
http://www.loc.gov/loc/lcib/06078/navcc.html [498], (accessed 2010-01-12).

2006年度文化庁委嘱調査 音楽情報・資料の保存及び活用に関する調査研究「報告書」(2). ニッセイ基礎研究所, 2007.

岡島尚志. 米国の公的フィルム・アーカイブ(2) : 議会図書館・映画放送録音物部. NFCニューズレター. 2004, (57), p. 14-16.

 


川野由貴. 米国議会図書館における録音・映像資料の保存と活用の状況. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1711, p. 16-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1711 [499]

カレントアウェアネス [8]
資料保存 [303]
録音資料 [500]
デジタル化 [266]
視聴覚資料 [501]
アーカイブ [502]
米国 [54]
国立図書館 [38]
議会図書館 [79]
LC(米国議会図書館) [81]

CA1712 - 動向レビュー:電子書籍端末――誰にでも与えられるものとして / 萩野正昭

PDFファイルはこちら [503]

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1712

動向レビュー

 

電子書籍端末――誰にでも与えられるものとして

 

本という優れたビークル

 書物の内容(コンテンツ)を格納するうえで本は優れたビークルだという。ビークルとは英語でいうvehicleのことで乗り物という意味だ。紙を束ねて綴じた本がこの場合中味を伝播させる最適な乗り物だということである。かつては、こんな言い方をとりわけすることもなかったと思う。本は本であり、長い間その姿を本質的に変化させることはなかったのだから、それが何であるかと疑問を差し挟む余地もなかったのだといえるだろう。

 電子的な出版という技術的な方法が提示され、ネットワークという流通の基盤を伴うことによって、徐々にではあるがコンテンツを電子的なデバイス(装置)で読むスタイルが浸透してきた。正確にいい直すなら、インターネットはコンピュータで情報を摂取する生活スタイルを定着させ、膨大な文字情報の閲覧を促進させた。そして、パーソナルコンピュータ(PC)に代表される電子機器で文字を読む、時間も分量も増大させていった。この傾向は1990年代から起こり、日常生活に浸透する一般性をもって今日に至っている。

 ひとは電子の文字を読むようになった。当り前になった電子的文字情報の閲覧に対して専用のビークルが生まれるのは自然な流れであった。今やそれなりの歴史をもつにいたっている。導入された専用デバイスもかなりの数に及んでいる。だが、これらのデバイスは、導入されては瞬く間に消え去ることの繰り返しであった。

 

なぜ消えたのか

 技術は常に発展の途上にある。最新技術は陳腐化を免れない。新製品はひっきりなしに出現し以前の製品はやがて市場からの退場を余儀なくさせられる。振り返ってみればあたりまえの理のように思える。だが、人は目先の新奇さに心を奪われる。新しいデバイスが考案され、美辞麗句の宣伝文句にのって市場に躍り出ていったのはつい昨日のことである。そして消え去っていった。私たちは日本においてこの事実を目撃してきた。なぜ消えたのか?

 読むべきコンテンツは専用デバイスには供給されず、供給元と思われた出版社/作家は潤沢にコンテンツを流さなかった。コンテンツとは、従来からの作品という形だけとはもはや限らない。インターネット上には無尽蔵ともいえるコンテンツが展開されるにいたっている。これを分類し、ある種の目次を司る検索エンジンが必要だったし、即ジャンプして当該コンテンツにたどり着くには、そこに確固とした通信機能が備わっている必要があった。日本を代表する電機メーカーのソニーとパナソニックが2004年の春に発売した電子書籍専用デバイスはともに十分な通信機能を備えるという観点を欠いていた。

 日本におけるさまざまな電子書籍端末の導入と失敗について明らかにする作業は真剣に行われたとは思えない。事業者は儲からなければ即断即決、新たな進路を取るのがビジネスというものだとまことしやかに開き直る。電子出版に心血を注ぐならば、一度や二度の失敗から立ち直るために本質を見極める努力があったはずであろう。自ら退路を閉じて、痛苦に耐えるに値する何ものもなかったのだろうか。失敗の当事者は現実を振り返りたがらない。それらの機器は、失敗が何であったかさえ顧みられない「端末」として捨て去られていったことになる。

 

電子出版と出版社の位置

 本が築いてきた世界は、出版社や編集者という品質管理のプロセスを経ながら、流通という確立した仕組みの上に市場を形成している。市場規模は書籍と雑誌をあわせておおよそ2兆円といわれる。この市場はもはや上昇の見通しの中になく、明らかな下降線をたどりつつある。なんとか現状維持を願うことが先にたち、市場を蚕食する要因にはひときわ厳しい視線が注がれる。出版社はこのジレンマの中にある。現状を維持することと、新規市場を形成することが多くの場合、相対峙して重なりあい、自分の「手足」を喰うという例えのごとく、弱った現状からの利の取崩しにつながっている。根元を一にして、生じる売上を奪い合うことほど対立を深めるものはなく、従来の秩序と電子のそれはなかなか調和することができない。

 この状況は日本だけのものではない。米国においても大きな違いがあるわけではない。ただ、そこに情報流通という巨大組織が介在し、インターネットという通信網を利用した物理的な本の配送から電子的なものへの意識的なシフトが考えられてきた。既存の出版業とは離れた新しい産業の担い手達によって突き動かされることになったのだ。アマゾン、アップル、グーグルはそれを代表する。やがてくる時代を先取りして起こした企業であるアマゾンが、いつまでも物理的な「もの」の配送販売を中心とした事業展開を続けると考えるほうが不自然きわまりないだろう。

 

Kindleは同じ顔をしている……

 インターネット上の巨大書店に成長したアマゾンは、2007年末、電子書籍の専用端末としてKindleをリリースした。リリース当初に300,000作品を準備し、わずか1年ばかりの間にニューヨークタイムズで書評として扱われる新刊のほとんどをカバーした。売上は着実に向上した。

 読みやすいとか軽くてハンディだとかの特徴はあまり決定的な理由とはいえなかった。それらは日本でも同じだったし、特に2004年4月にソニーが日本で発売した「リブリエ」とは表面上は同じ顔をしていたのだ。

 違いは通信にあった。Kindleでは直接3G携帯回線を経由して本を即購入できた。Kindleを買いさえすれば通信に関わる手続きも費用も必要としなかった。通信料が購入する本の代金に上乗せされると誰もが思ったが、代金は9.99ドル以下という、いままでの書籍の価格設定からは総じて低廉なものだった。通信料の上乗せを揶揄する根拠にはなり得なかった。明らかに先例の失敗から教訓を得たことがうかがえる。他ならぬ日本での失敗から本質を抉りだすチャンスをつかんだのだ。

 Kindleの順調な滑り出しを見ていたかのように、同類の読書専用デバイスが現れてきた。2010年1月にラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショーでは、20を越える専用デバイスのブースが軒を連ね、それぞれに読書デバイスの優劣を競い合った(1)(2)(3)。

 

そしてiPadの出現

 2010年1月が終わる頃、アップルからiPadのアナウンスが流れた。携帯電話機能をもつモバイル端末としてのiPhoneとノートPCとの間に位置するタブレット型端末だった。

 アップルは、会場に投影されたKindleに入れ替わるように、新製品iPadの出現を紹介してみせた。そこには洗練されたデザインと華やかなカラー画像、音楽、映像、スピーディーなアクセスというKindleを凌駕する圧倒的な機能がちりばめられていた。WiFiと3Gという通信機能の装備に段階的な導入の差異はあるものの、早いものでは2010年3月に発売を開始する予定である。そしてKindle=アマゾンという書籍流通の巨人に対抗するかのようにアップル独自のネット書店“iBooks Store”の導入を表明した。

 

電子出版市場を鳥瞰する

 米国における卸売りベースでの電子書籍の売り上げ(Electronic Book Sales)は、2008年通年で5,350万ドル(約48億円)であったのが、2009年は通年で1億6,580万ドル(約150億円)にまで伸長しており、1年間で209%増となっている(International Digital Publishing Forum発表)(4)。小売りベースではほぼこの倍になるとすれば、米国での電子出版は300億円市場規模になると思われる。力強い成長のカーブを見れば、将来を見越しての潜在性は計り知れない。しかしこの数字は、現状において見る限り日本の電子出版市場と比べて大きなものではない。

 日本の電子出版事情を振り返ってみると、2003年末にKDDIが携帯電話au向けにEZフラットという新サービスを導入しており、これが携帯電話向けとしては日本で初めて一定月額料金で端末単体でのインターネットサービスが使い放題になるというものだった。いわゆるパケットフリーと呼ばれるこうした定額サービスは瞬く間に日本の携帯電話に普及し、これを契機として携帯電話でのコンテンツサービスに人気が集まっていく。

 2009年現在、日本の電子出版の売上総額は500億円にとどく勢いをもっており、そのなかでも携帯電話の配信は400億円になっている(5)。少なくとも数字としてみた場合、日本の電子出版市場は世界第一位ということだ。現状では米国以上の売上をもっており、はるかに先行して市場形成をしてきた実績がある。携帯電話の存在が日本の電子出版市場の拡大にいかに大きな影響を与えたかということである。わずかなサイズでしかない画面、表示・品質ともに劣る携帯電話で、若者はマンガや小説を読んでいる。見た目の品質などよりも、いつでも、どこでも、欲しい時に即応えてくれる通信という機能こそ、彼らの読書にとって欠くことのできない大きな要素だったといえるだろう。

 日本の電子出版がはたして市場をこのままリードしていけるのかどうか。昨今の米国での動きを見るに心もとない限りである。いわゆる「ガラパゴス携帯」と言われるように、日本の携帯電話は独自の進化をとげた市場であった。国内の隆盛から目を転じて世界市場を眺めると、進化の先頭をきる日本携帯の仕組みもハードも極めて小さな影響力しかもちえていない。電子出版を携帯電話というカテゴリーに限定して考察するとしても、この日本式携帯コンテンツが世界に普及するとは容易に考えられない状況なのだ。

 世界の携帯電話の出荷台数は12億台(2008年実績)であり(6)、国内の出荷を約1億台とすると、その割合の少なさは明らかであろう。この中でスマートフォンといわれるiPhoneやAndroidという、インターネットアクセスを縦横に行なう携帯電話が、2009年に至り大幅に成長を遂げている。全体に携帯市場が伸び悩む中で、このスマートフォンの拡大は世界的な傾向となっている。成長率は12%~27%という高い率を記録しており(7)、今後とも世界市場での大幅な拡大が見込まれている。独自の隆盛を誇った日本の携帯市場には少なからず波及することは間違いない。

 

見えてくる「覇権主義」

 華々しいニュースに彩られ、電子出版の喧伝が繰り返されている。さらに1000万冊に達するという全書籍電子化計画は進行している。右往左往する日本の出版書籍業界は、あたかもペリーの「黒船」に狼狽する徳川幕府のようである。独自の守られた秩序の中に長い安定と成長を育んできた産業がその母体から崩れようとしているのだ。やってくる「黒船」である、アマゾン、アップル、グーグルは、はたして電子出版において何を目論んでいるというのだろうか。

 ここにはインターネットを駆使した寡占という姿が見えてくる。流通という「電網打尽」になりかねない集中化、新しいビークルとしての圧倒的シェア、本を買う・読むという読者行動を完膚なきまでに押さえてしまう情報の掌握、これらの一つあるいは二つ、そしてまた全部を手にすることがどれだけ大きな利潤を集中させるかは想像に難くない。事業家であればここを垂涎の的としないはずはなく、もてる力のかぎりを投入して奪取しようと態勢を組んでいる。

 すべてがこの方向に進んで行くことを「覇権」ととらえ、グーグル訴訟の法廷の公聴会などでも意見として主張されている。アマゾンが書籍流通を握り、その専用デバイスKindleを梃子とする挙に出れば、アップルがそれを上回る機能を誇示してiPadを準備し、音楽業界における“iTunes Music Store”のように、本においても“iBooks Store”を押し出してくる。角逐がある意味で市場的な均衡を与えているけれど、勝負の結果を見とどけて、あるいは合戦の駆け引きから導かれる有利な条件を見比べて、どちらかに与しようという態度が迎える日本側にあるとすれば「黒船」の例えは笑い話ではなくなってしまうだろう。「覇権主義」の先に何がもたらされていくのかは明らかである。

 米国の非営利組織Electronic Frontier Foundation(以下、EFF)が公開したプライバシーポリシーの一覧がある(8)。ここには電子出版における読者の行動についてグーグルやアマゾンがどのように情報を記録し、書籍検索を記録するか、購入履歴を記録するか、読者が何を読んでいるか監視するか、など実際の対応が明記されている。

 人が本を読むということに含まれる情報の付加価値を、提供する側が把握し利用できる姿勢がそこには見てとれる。これらの情報をつかむことがむしろ目的であり、本を提供すること自体は二の次だとさえいえないこともない。すべての掌握が寡占市場によって達成されたとき、そこに現れる世界の巨大さ傲岸さを喜べるのは覇権の達成者でしかないだろう。

 

誰にでも与えられるものとして

 一体どうしたら電子出版の理想的な世界がつくり出せるのだろうか?

 そのためには、まずどんな本が電子的に出版されているのか、書店や地域や国という限定をこえて世界的に把握できるようにしなければならない。読者からのアクセスに検索エンジンが瞬時に世界をめぐり、要求された出版物の在処や内容が情報として伝えられなければならない。本を入手したいならば、直接出版社への購入アクセスを保証するか、出版社が委託するネット書店へとつながることであってもいいだろう。あるいは出版社のコントロールのもとに配信される何らかの方法、例えば通常の販売とは別に視覚障碍者への音声読上げ対応の配信や、図書館での無償貸出しなどへのアクセスも同時に可能とすることも考えられる。

 何よりも大事なことは、読者がもつ読書ビークルであるデバイスでの閲覧を保証することだ。読者が所有する幾多のデバイス環境での閲覧に供することのできるフォーマットとビューアの基準が確立していなければならない。少なくともこの方向を目指して世界の共通基準を確立する必要がある。EFFのプライバシーポリシーの一覧にある、電子書籍ストアから購入した本の互換性を見ると、自社に囲い込む姿勢を持ちながら、一方で開かれた先へ触手を伸ばす本のもつ本来の姿がうかがえてくる。互換性を求める姿がそこには映しだされている。電子的であるが故にそれが可能なのであり、また電子的であるが故にそれを遮って寡占に走ろうとすることも可能なのだ。

 

 出版とは何であり、その電子化が目指すもの、望むものとは一体なんであったのか?もう一度深く考えてみる必要がある。これは出版自体が陥った問題を回避し救うための術として考えられるべきものだと思う。その意味では出版する主体である人がまずもって考え対処しなければならない問題である。誰かがそれを代行してくれると思うのならば、もはや出版する主体としての資格を放棄しているようなものだろう。何故ならばデジタルの技術は誰にでも与えられるものとしてあり、インターネットは基盤としてその適正な利用を待ち望んでいる。生かすも殺すも自分次第なのだ。はるかに先行した米国の巨人達が基盤とするものもインターネットなのだ。力づくで世界を牛耳るのではなく、誰もが平等にいつでもどこでも電子的な出版を享受できる世界を構築していく必要がある。

株式会社ボイジャー:萩野正昭(はぎの まさあき)

 

(1) “CESで電子書籍リーダーが次々と発表される”. スラッシュドット・ジャパン. 2010-01-21.
http://slashdot.jp/mobile/10/01/12/0719239.shtml [504], (参照 2010-02-22).

(2) “相次ぐ参入で活気づく電子書籍端末市場”. ウォールストリートジャーナル日本版. 2010-01-08.
http://jp.wsj.com/Business-Companies/Technology/node_20571 [505], (参照 2010-02-22).

(3) 藤原隆弘. “2010 International CES報告 : 電子ブック/コンテンツリーダー、スレートPC”. 日本電子出版協会. 2010-02-15.
http://www.jepa.or.jp/material/files/jepa0000409158.pdf [506], (参照 2010-02-22).

(4) “Wholesale eBook Sales Statistics”. International Digital Publishing Forum.
http://www.openebook.org/doc_library/industrystats.htm [507], (accessed 2010-02-22).

(5) インプレスR&Dほか. 電子書籍ビジネス調査報告書2009. 2009, 330p.

(6) “2009年の世界携帯電話販売台数は微減にとどまる,グレイ・マーケット拡大が一因に”. ITpro. 2009-12-16.
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Research/20091216/342264/ [508], (参照 2010-02-22).

(7) 市川類. “米国におけるスマートフォンの産業構造を巡る最近の動向”. 情報処理推進機構.
http://www.ipa.go.jp/about/NYreport/200912.pdf [509], (参照 2010-02-22).

(8) “電子書籍のプライバシーポリシー一覧”. マガジン航.
http://www.dotbook.jp/magazine-k/privacy_policies_of_ebooks/ [510], (参照 2010-02-15).

 

Ref:

特集, 活字から、ウェブへの……。. 考える人. 2009, (30), p. 13-80.

The Association of American Publishers.
http://www.publishers.org/ [511], (accessed 2010-02-15).

Internet Archive.
http://www.archive.org/ [512], (accessed 2010-02-15).

マガジン航.
http://www.dotbook.jp/magazine-k/ [513], (参照 2010-02-15).

Bayley, Ed. “An E-Book Buyer's Guide to Privacy Electronic”. Electronic Frontier Foundation. 2009-12-21.
http://www.eff.org/deeplinks/2009/12/e-book-privacy [514], (accessed 2010-02-15).

インプレスR&Dほか. ケータイ利用動向調査2010. 2009, 192p.

イースト. 世界の電子ブックリーダー調査報告書2010 : Amazon Kindle をはじめとする34機種の仕様とファイルフォーマット. インプレスR&D, 2010, 126p.

 


萩野正昭. 電子書籍端末――誰にでも与えられるものとして. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1712, p. 19-22.
http://current.ndl.go.jp/ca1712 [515]

  • 参照(12430)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
出版 [516]
電子書籍 [293]
インターネット [517]
Google [518]
Amazon [519]
Apple [520]

CA1713 - 動向レビュー:目録に関わる原則と概念モデル策定の動向 / 和中幹雄

PDFファイルはこちら [521]

カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1713

動向レビュー

 

目録に関わる原則と概念モデル策定の動向

 

 2009年は、図書館目録に関わるいくつかの国際的な標準(あるいは標準案)が公開された、目録法における特筆すべき年であった。以下にその主な成果を紹介する。

1. パリ原則から国際目録原則へ

 2003年以来、国際目録規則に関する国際図書館連盟(IFLA)専門家会議(以下、IME ICC)において検討が進められてきた「国際目録原則覚書」(Statement of International Cataloguing Principles;以下、ICP)が合意され、2009年2月に刊行された(1)。この覚書は、50年近く前の1961年に策定され、目録法に関する国際標準策定の出発点となり、「英米目録規則」(AACR)の基本ともなった「パリ目録原則覚書」(Paris Principles;以下、PP)(2)に取って代わる、国際的に合意された目録原則である。カード目録全盛の時代に作られた原則に代わって、21世紀初頭のインターネット環境にある現在に即応した新たな原則を世界の図書館界が獲得することとなった。このICPがどのようなことを規定しているかを、1961年のPPと比較しながら述べる(3)。

 

1-1. 策定の経緯

 まず指摘すべき点は、目録原則に対する合意形成のプロセスの相違である。

 PP策定に関わった者は、主として欧米の図書館関係者に限定され、国際会議としては1961年のパリにおけるただ一回の会議によって決定を見たのに対して、ICP策定においては、欧米の図書館関係者が主導した点に変わりはないが、それに関わった者が、日本も含めて世界各国の図書館関係者に及ぶとともに、検討に十分な時間がかけられた点が大きな相違である。ICP策定時には、各国の目録規則の実情と、それら目録規則とPPとの関連の調査も実施された。

 IME ICCは、2003年のドイツのフランクフルトでの第1回会議を皮切りに、翌年の2004年には南米アルゼンチンのブエノスアイレスで、2005年にはエジプトのカイロで、2006年には韓国のソウルで、2007年には南アフリカのプレトリアで、それぞれ文化・言語・歴史の大きく異なる世界各地で開催された(4)。また、検討が開始された2003年のIME ICCにおいて、すでに覚書のドラフトが作成されていたが、それが毎年の会議で加筆修正が繰り返されていった(5)。例えば、2003年当初のドラフトに存在したheading(標目)という語は、まず2004年のブエノスアイレス会議の決議により、同ドラフトの用語集においてaccess pointへの参照語に格下げされ、2008年作成の覚書最終草案の段階では、本文においても用語集においても、headingという語は一切使用しないことになり、controlled access point(統制形アクセスポイント)などに置き換わることとなる。このように、カード目録時代の重要な用語を新しい時代のそれに置き換えるだけでも、5年の歳月を要している。

 

1-2. 目録原則の適用範囲

 PPとICPの内容上の大きな相違は、原則適用の範囲である。

 PPにおいては、①図書館、特に大規模な総合図書館の蔵書を列挙したアルファベット順の著者書名目録が対象であり、②目録に収録される資料は印刷された図書(および印刷図書と性質の類似する他の図書館資料)のみを想定し、③しかも目録データ全体ではなく、記入の排列順序を決定する要素としての標目と記入語(entry word)の選定および形式のみに適用される原則であった。記述データの標準化については、1969年から検討が開始され、1970年代以降に資料種別ごとに順次策定されていく国際標準書誌記述(ISBD)を待つことになる。

 それに対して、ICPは、①オンライン図書館目録(およびそれ以降)を対象とし、②すべての資料種別(テキスト資料には限定されない)を想定し、③標目に限定せず、記述も含めた目録全体、さらには典拠データをも含めた原則、「あらゆる種類の書誌的資源の記述目録法と主題目録法に対して、一貫した道筋を提供すること」(6)を示すことになった。

 

1-3. 用語法と概念枠組み

 「原則」(principles)というのは、具体的な記録方法を定める目録規則とは異なって、その規定は抽象的である。ICPはPPと比較して、そこで述べられている事柄の抽象度はより高い。その第一の理由は、印刷図書に限定されず、対象とする資料の種類が多様となったこと、目録媒体がカード目録からオンライン目録に移行したことなどに因っている。例えば、author(著者)という用語はテキスト以外のさまざまな資料を扱うためにcreator(作成者)になり、book(図書)はbibliographic resource(書誌的資源)となった。また、main entries(基本記入)やadded entries(副出記入)やcatalog card(目録カード)はbibliographic records(書誌レコード)やauthority records(典拠レコード)となり、uniform heading(統一標目)はauthorized access point(典拠形アクセスポイント)やcontrolled access point(統制形アクセスポイント)となった。

 抽象度を高めたもう一つの理由は、ICPの背後にある概念枠組みの存在に由来する。PPには明文化された概念枠組みはなく、PPが依拠したのは、カッター(Charles Ammi Cutter)の目録機能論、著者性の原則に基づく基本記入制、団体著者の概念、著作と図書の対比(文献単位と書誌的単位の対比)といった目録理論であった。ICPはその序論において、PP時代のこれらの目録理論を「世界の偉大な目録法の伝統」(7)としてその継承を謳っているが、それに加えて、ICPには明確な概念枠組みが存在している。それは、現在FRBRという略称で人口に膾炙している文書が示す概念モデルである。

 FRBRとは、1992年に発足したIFLA書誌レコードの機能要件研究グループが、5年後の1997年9月、IFLA目録部会常任委員会に提出して承認を受けた最終報告書を基に翌年刊行された「書誌レコードの機能要件」(Functional Requirements for Bibliographic Records)(8)である。実体関連分析の手法を用い、利用者の観点から、書誌レコードが果たす諸機能を、明確に定義された用語によって叙述し、目録の機能要件のモデル化を図ったものである(CA1480 [522]参照)。

 ICPはこのFRBRとともに、後述するFRAD(典拠データの機能要件)に示された概念枠組みを前提として作成されている。

 

1.4 「一般原則」の提示

 PPもICPも、目録の目的と機能を規定するものであるが、ICPでは、目録規則策定のための指導原理となる原則を「一般原則」(general principles)と名付けて規定した点がPPと大きく異なる点である。その最上位の原則を「利用者の利便性」に置き、「用語法の一般性」やデータ要素の「有意性」、目標達成に用いる方法の「経済性」、「一貫性および標準性」などの9つの原則を列挙し、「目録規則中の規定は、説明が可能でなければならない。また恣意的であってはならない」としている(9)。

 

2. FRBRの拡張

2-1. FRADの刊行

 FRBRにおいては、目録利用者の関心対象を「実体」(entity)として捉え、それを三つのグループに大別している。第一グループの実体は、書誌レコードにおいて命名あるいは記述される知的・芸術的活動の成果を異なる側面から見たもの、すなわちwork(著作)、 expression(表現形)、manifestation(体現形)、item(個別資料)である。第二グループの実体は、知的・芸術的内容、物的生産と頒布あるいはこれらの成果の保管に責任をもつperson(個人)とcorporate body(団体)であり、第三グループの実体は、知的・芸術的活動の主題としての役割を果たす付加的な実体の集合を指している(concept(概念)、object(物)、event(出来事)、place(場所)が挙げられている)。

 しかし、FRBRにおいて詳細なモデル化を行ったのは第一グループの実体のみであり、第二グループと第三グループの実体については、「このモデルは、典拠レコードに通常記録される付加的なデータに及ぶように拡張できるであろう。特に、件名典拠、シソーラス、分類表にとって中心に置かれる実体と、それらの間の関連について、もっと深い分析が必要である」(10)として将来課題とされていた。「典拠レコードに通常記録される付加的なデータ」とは、図書館目録や書誌ファイルにおける書誌的引用や書誌レコードに対する統制形アクセスポイントの基礎として使用される個人名、家族名、団体名あるいは著作名に関する情報の集合である。

 このような課題を受けて、1999年4月に典拠レコードのための機能要件と典拠番号に関するワーキンググループ(以下、FRANARワーキンググループ)が発足し、典拠レコードにおいて記録される「実体」に関する概念モデルの開発が始まり、その成果が「典拠データの機能要件」(Functional Requirements for Authority Data;以下、FRAD)としてまとめられ、2009年3月にIFLA目録分科会およびIFLA分類・索引分科会の両常任委員会で採択され、同年6月に刊行された(11)。

 FRADは、以前は、「典拠レコードの機能要件」(Functional Requirements for Authority Records;以下、FRAR)と呼ばれていた(E363 [523]参照)。2005年7月に発表されたFRAR草案に対して寄せられた意見には、FRARの概念モデルの対象が典拠「データ」であるのか、それとも典拠「レコード」であるのか、相当の混同が見られた。モデルを作成し概念化する対象はあくまでも典拠データであるため、タイトルは「典拠データの機能要件」に変更された。すなわち、FRADとは、統制形データに関わる機能要件を示したものである。以下にその概略を述べる(12)。

  • ① FRBRと同様に、実体関連分析の手法により、実体の属性や関連を利用者タスクに関連づけている。
  • ② 文書館コミュニティとの連携を考慮して、FRBRの10個の実体に、第二グループの実体として「家族」が加わり、書誌的実体としては11個となったが、その中に含まれる主題に関わる第三グループの実体の属性・関連は未定義のままである。
  • ③ 上記の書誌的実体に関連する実体として、name(実体が知られている「名称」)、identifier(実体に付与される「識別子」)、controlled access points(典拠ファイルに登録される名称や識別子に基づいた「統制形アクセスポイント」)、rulesとagency(アクセスポイントの内容と形式を決定する手段となる「目録規則」と「データ付与機関」)が、FRADにおける新たな実体として定義されている。
  • ④ 典拠データの利用者は、典拠データ作成者と、図書館職員および一般利用者に大別されている。
  • ⑤ 利用者タスクとしては、find(発見)とidentify(識別)はFRBRと同じであるが、FRBRのselect(選択)とobtain(入手)に代わって、contextualize(個人、団体、著作などの実体を文脈に当てはめ、実体間の関連を明らかにする)とjustify(典拠レコード作成者が統制形アクセスポイントのために一定の名称や形式を選んだ理由を文書化する)が定義されている。
  • ⑥ 典拠データの機能は次の5点としている。
    • 1)決定の文書化、2)レファレンス・ツールとしての役割、3)アクセスポイントの形式の制御、4)書誌ファイルへのアクセスの支援、5)書誌ファイルと典拠ファイルのリンク

 

2-2. FRSADドラフト第2版の公開

 1999年のFRANARワーキンググループに続いて、2005年には主題典拠レコードのための機能要件に関するワーキンググループ(以下、FRSARワーキンググループ)が発足し検討が行われてきたが、2009年6月、「主題典拠データの機能要件」(Functional Requirements for Subject Authority Data;以下、FRSAD)ドラフト第2版(13)が公開され、レビューが行われた。FRSARワーキンググループに委託された検討事項は次の三点であった。

  • ① FRADにおいても未定義であった主題に関わる実体の概念モデルを構築すること。
  • ② 主題典拠レコードに記録されるデータをそのレコードの利用者のニーズに関連付けるための、明確に定義され構造化された考え方の枠組みを示すこと。
  • ③ 図書館部門およびそれを越えた部門での主題典拠データの国際的な共有と利用の可能性を評価することに資すること。

 次にFRSADの概要を述べる。

  • ① subjectとはなにか、aboutness(「著作と主題の関連」と定義している)とはなにかについて、言語哲学、論理学、図書館情報学でさまざまな見解があるが、いずれの哲学的な立場にも立たず、利用者の観点から問題を検討する。
  • ② 概念枠組みの基本となる語は、1)work(著作)、2)thema(著作の主題として使用される実体)、3)nomen(それによって、themaが知られ、参照され、記述される記号あるいは記号列)の3つである。FRSADの概念モデルは次のとおりである。
    • workは主題(subject)としてthemaを持ち、themaはworkの主題である。
    • themaはnomenという名称を持ち、nomenはthemaの名称である。
    ここで定義されているthemaはきわめて抽象的かつ一般的な概念であり、その属性は、分類表であれ件名標目表であれ、個々のシステムに依存して決定される。概念(thema)と記号(nomen)と情報源(work)から成るこの抽象的なモデルは、「思想あるいは指示」(thought or reference)、「象徴」(symbol)および「指示物」(referent)から成るオグデン&リチャーズの古典的な「意味の三角形」(14)を模したものである。
  • ③ 主題典拠データの潜在的な利用者を、1)メタデータを作成する情報専門家、2)仲介者として情報を探索するレファレンス担当者、利用者サービス担当者およびその他の情報専門家、3)カタロガーやシソーラスおよびオントロジー作成者のような統制語彙作成者、4)自らの情報要求を満たすために情報検索システムを利用するエンド・ユーザーの4種類に分けている。
  • ④ 著作と主題の関連(aboutness)をどのようにカテゴリー化するかについて、FRBRの第3グループの実体やランガナタン(Shiyali Ramamrita Ranganathan)のファセット分析で用いる基本カテゴリーPMEST、実体のプラグマチックなリストの作成など6つのシナリオを比較分析し、予備的利用者研究を実施した結果、「主題のカテゴリー化についての勧告は行わない」という、最も抽象的とはなるが、実践に制約条件を課すことのないシナリオを採用することとなった。

 

2-3. FRBRオブジェクト指向版(FRBRoo)1.0版の策定

 国際博物館会議(ICOM)の国際ドキュメンテーション委員会(CIDOC)とIFLAが協同で開発している、「書誌レコードの機能要件(FRBR)」のオブジェクト指向(object-oriented)版であるFRBRooの1.0版が2009年6月に策定され、CIDOCのウェブサイトで公開されている(15)。FRBRooは、博物館情報の概念参照モデルCIDOC CRM(CA1434 [524]参照)と図書館コミュニティの概念モデルFRBRとの調和を目指したものである。その目的として、①文化遺産情報の共通認識、②FRBRの内的整合性の検証、③情報の相互運用性と統合の実現、④FRBRとCIDOC CRMの相互強化、⑤FRBRとCIDOC CRMの対象範囲の拡大、の5点が挙げられている。

 

3. 目録規則等の改訂

 国際目録原則やFRBRなどの概念モデルは、同一の概念や同一の用語を使用して理解を共通にする枠組みに過ぎない。このような枠組みを用いて、21世紀の現在にふさわしい図書館目録構築のための規則を生み出す努力が開始されている。その先陣を切るのが、英米目録規則第2版(AACR2)の後継目録規則であるRDA (Resource Description and Access)の刊行である。全体草案かつ最終草案が2008年11月に公開され(CA1686 [525]参照)、2009年11月末に刊行が予定されていたが、2010年6月に延期されることとなった。

 また、ISBDもFRBRの概念モデルの取り込み作業を行いつつある。ISBDは、資料種別ごとに策定され、第1エリア「タイトルと責任表示」から始まる8つのエリアで構成される記述規則であるが、それらを一本化したISBD統合版を2010年に刊行するに先立って、2009年12月に、新たにエリア0を新設する文書“Area 0: Content form and media type area”(コンテンツ形式とメディア種別エリア)が公表された(16)。これは既存のArea 3: Material or type of resource specific area(資料または資源タイプの特性エリア)に関連するが、FRBRの概念モデルに従ってISBDのエリアの再構築を図るものである。コンテンツ形式は表現形に関わるもので、どのような形式で表現されているか(画像、テキスト、プログラム、音声等々)を記述するのに対して、メディア種別とは体現形に関わるもので、録音資料か電子資料かマイクロ資料か等々を記述することになる。

 わが国においても、日本図書館協会第32期目録委員会第6回委員会記録(17)で示唆されているように、このような動向を参考にして、日本目録規則の改訂作業が開始されたようである。

同志社大学:和中幹雄(わなか みきお)

 

(1) 次の文献には、日本語訳も含めて20か国語による覚書が収録されている。
Tillett, Barbara B. et al., eds. IFLA Cataloguing Principles: the Statement of International Cataloguing Principles (ICP) and its Glossary in 20 Languages. München, K.G. Saur, 2009, 304p., (IFLA Series on Bibliographic Control, 37).
原文も含めて23か国語による覚書が、IFLAのウェブサイトから入手可能である。
“Statement of International Cataloguing Principles”. IFLA.
http://www.ifla.org/en/publications/statement-of-international-cataloguing-principles [526], (accessed 2010-01-04).
日本語訳については、覚書と用語集が国立国会図書館のウェブサイトで入手可能である。本稿の用語はこの日本語訳に従っている。
“国際目録原則覚書”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/kokusai.html#02 [527], (参照 2010-01-04).

(2) Verona, Eva, ed. Statement of Principles: adopted at the International Conference on Cataloguing Principles, Paris, October 1961. Annotated ed., with commentary and examples, London, International Federation of Library Associations (Committee on Cataloguing), 1971, xviii, 119 p.
国際図書館協会連盟 パリ目録原則 コンメンタール 決定版. 坂本博ほか訳. 図書館技術研究会, 1977, 142 p.

(3) ここでの比較は、主として次の論述を参考にしている。
Creider, Laurence S. A comparison of the Paris Principles and the International Cataloguing Principles. Cataloging & Classification Quarterly. 2009, 47(6), p. 583-599.

(4) IME ICCの5回の会議で、81か国からの参加を得ている。

(5) 2003年、2005年9月、2006年4月、2008年4月10日の各段階での覚書草案の日本語訳が、国立国会図書館のウェブサイトから入手可能である。
“書誌データの基本方針と書誌調整”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/kokusai.html [528], (参照 2010-01-04).

(6) 国際目録原則覚書. 国立国会図書館収集書誌部訳. 2009, p. 2.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/ICP-2009_ja.pdf [529], (参照 2010-02-03).

(7) 国際目録原則覚書. 国立国会図書館収集書誌部訳. 2009, p. 1.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/ICP-2009_ja.pdf [529], (参照 2010-01-29).
「世界の偉大な目録法の伝統」として、カッター、ランガナータン、ルベツキーの次の三つの文献を引用している。
Cutter, Charles A. Rules for a Dictionary Catalog. 4th ed., rewritten, Washington, D.C., Government Printing office, 1904.
Ranganathan, S.R. Heading and Canons. Madras [India], S. Viswanathan, 1955.
Lubetzky, Seymour. Principles of Cataloging Final Report Phase I: Descriptive Cataloging. Los Angeles, Calif., University of California, Institute of Library Research, 1969.

(8) IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. Functional Requirements for Bibliographic Records: Final Report. München, K.G. Saur, 1998, viii, 136p., (UBCIM Publications New Series, 19).
1998年刊テキストとともに、2007年刊行の修正版がIFLAのウェブサイトから入手可能である。
“Functional Requirements for Bibliographic Records”. IFLA.
http://www.ifla.org/en/publications/functional-requirements-for-bibliographic-records [530], (accessed 2010-01-29).
日本語訳も含めて、18か国語訳がIFLAのウェブサイト等から入手可能である。
“Translations of FRBR”. IFLA.
http://www.ifla.org/publications/translations-of-frbr [531], (accessed 2010-01-29).
日本語訳については、日本図書館協会のウェブサイトからも入手可能である。
“目録関係情報”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/mokuroku/link.html [532], (参照 2010-01-29).

(9) この一般原則は、次の個人著作の記述に基づいて作成されている。
Svenonius, Elaine. The Intellectual Foundation of Information Organization. Cambridge, Mass., MIT Press, 2000, p. 65-85, (Digital Libraries and Electronic Publishing).

(10) IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. 書誌レコードの機能要件 : IFLA 書誌レコード機能要件研究グループ最終報告. 和中幹雄ほか訳. 日本図書館協会, 2004, p. 13.
http://www.jla.or.jp/mokuroku/frbr_japanese.pdf [533], (参照 2010-01-29).

(11) IFLA Working Group on Functional Requirements and Numbering of Authority Records (FRANAR). Functional Requirements for Authority Data: a Conceptual Model. München, K.G. Saur, 2009, 101 p., (IFLA Series on Bibliographic Control, 34).

(12) IFLAミラノ大会(2009年8月)におけるFRANARの班長による報告に基づく。
Patton, Glenn E. “From FRBR to FRAD: Extending the Model”. IFLA.
http://www.ifla.org/files/hq/papers/ifla75/215-patton-en.pdf [534], (accessed 2010-02-18).

(13) IFLA Working Group on Functional Requirements for Subject Authority Records. “Functional Requirements for Subject Authority Data (FRSAD) : a Conceptual Model : 2nd Draft”. 2009-06-10.
http://nkos.slis.kent.edu/FRSAR/report090623.pdf [535], (accessed 2010-01-04).
Subject Authorityには、件名典拠ファイル、シソーラスの他に分類表等も含まれるので、訳語は「主題典拠」とした。

(14) オグデン, C. ほか. 意味の意味. 石橋幸太郎訳. 新版, 新泉社, 2001, p. 56.

(15) International Working Group on FRBR and CIDOC CRM Harmonisation. “FRBR: Object-oriented Definition and Mapping to FRBR ER (version 1.0)”. CIDOC CRM.
http://cidoc.ics.forth.gr/docs/frbr_oo/frbr_docs/FRBRoo_V1.0_2009_june_.pdf [536], (accessed 2010-02-03).

(16) “ISBD Area 0 published”. IFLA.
http://www.ifla.org/en/news/isbd-area-0-published [537], (accessed 2010-01-04).

(17) “第32期目録委員会記録 No.6”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/mokuroku/gijiroku/32-6.pdf [538], (参照2010-01-04).

 


和中幹雄. 目録に関わる原則と概念モデル策定の動向. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1713, p. 23-27.
http://current.ndl.go.jp/ca1713 [539]

  • 参照(26109)
カレントアウェアネス [8]
動向レビュー [53]
FRBR [540]
目録 [541]
目録規則 [542]
IFLA(国際図書館連盟) [543]

CA1714 - 研究文献レビュー:日本の公立図書館経営における組織形態 / 小泉公乃

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カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1714

研究文献レビュー

 

日本の公立図書館経営における組織形態

 

1. 図書館経営の組織形態を考える前提・枠組み

 本稿の目的は、公立図書館経営の組織形態に関する研究文献をレビューすることである。先行する研究文献レビュー(CA1589 [545]参照、2006年)以降の公立図書館経営の組織形態に関する議論は、指定管理者制度の議論であるといっても過言ではない。このような状況から、本稿では、指定管理者制度を中心とした公立図書館経営の組織形態についての議論を整理し、理解を深めることを目的とする。

 まず、図書館経営の組織形態を図書館経営の観点から理解するために基礎となる前提・枠組みを記述する。図書館経営において組織形態を検討する際の観点は、1)図書館の理念・使命を誰が執行するのか、2)利用者は誰なのか、3)何を執行するのか、4)組織あるいは個人としてどのような組織形態で業務を執行するのか、5)サービス品質や成果(利用者の満足度や便益)は継続的に上がっているのか、6)現場の図書館員は幸せか、があると考えられる。つまり、図書館経営者はこれらのことを総合的に考慮して組織形態を決める必要があり、この問いに答え続けることが図書館経営者の組織形態に関する意志決定となる。ただし、本稿では、研究文献がほとんど存在しない「利用者は誰なのか」(具体的には、市場細部化と組織形態の関係性)については扱わない。

 

2. 「誰が執行するのか」と指定管理者制度

 公立図書館の理念・使命を誰が執行するのか、という議論は、管理権限を有し公立図書館の理念や使命を執行する担い手に、自治体、非営利団体、営利企業のうちどの組織に属する者がなるべきか、というものである。このことについて、図書館界で注目を浴びてきた法律・制度が、2003年6月13日に改正された地方自治法(同年9月2日に施行)により導入された指定管理者制度である。この制度は、改正された地方自治法第244条に規定されており、図書館に限らず、これまで国や自治体が管理していた施設(公の施設)について、団体であれば営利企業も含め誰でも管理権限を有し、経営管理業務を実施できるようになった。この指定管理者制度によって、それまで管理委託制度(1963年の地方自治法改正によって導入)として、国、自治体やそれらが出資する団体に管理権限(経営管理業務)が限定されていた制約がなくなり、公的事業の経営管理業務に営利企業も参入できるようになった。つまり、「図書館の理念・使命を誰が管理権限を有して執行するか」について、団体であれば、館長業務を含めて誰でも執行できるようになったのである。最終的な意志決定者であり管理権限を保有する館長も営利企業に所属している者を採用することが可能になったことは、図書館界に大きな影響を与えた。最近の公立図書館経営の組織形態に関する議論が、指定管理者制度に集中している理由は、こうした「管理権限(経営管理業務)の民間開放」にある。

 

2.1民間開放の流れ:業務委託、管理委託制度、PFI法、指定管理者制度、市場化テスト法

 指定管理者制度が導入されるまでの歴史的背景については、山口(1)、中嶋(2)、小川(3)、高山(4)、塩見(5)が記述している。これらの文献から、図書館業務の外部化(民間開放)の流れは1947年の業務委託から始まり、その後拡大し続け、管理委託制度、PFI(Private Finance Initiative)の導入を経て、指定管理者制度に至っていることがわかる。「業務委託」や「管理委託制度」の中では、経営管理以外の個々の業務について、正規職員(主に公務員)と非正規職員(主に民間企業)のどちらが執行するかという観点から議論されてきたものが多かった。これが「指定管理者制度」の導入によって、個々の業務に加え、議論の対象が本格的に経営管理業務にまで拡大したのである。

 この指定管理者制度を導入する前段階として、1999年7月30日に公布された「民間資金等の活用による公共設備等の整備等の促進に関する法律」(同年9月24日に施行。以下、通称の「PFI法」とする)があった。これは、主として図書館などの公共施設を新たに建設する際に民間資金や民間サービスの活用を可能にすることを目的とした法律である。PFI法については、藤江(6)、伊藤(7)、青柳(8)が詳しく論じている。PFIの事例については、氏家(9)、日高(10)、小川(11)が詳しく論じている。PFI法では、その正式な法律名からもわかるように、民間企業によって投じられる資金の主目的は「施設(建物)」であり、建設が伴うことから図書館界での採用件数は7件(7)と少なく、普及していない。また、PFIを導入した多くの公共施設は、時間の経過と共に建設から運用の段階に入っていった。こうした状況から、建設を伴わずとも、民間の「人的資源」(例えば、図書館では経営管理の技能を持つ館長)を活用することを可能にし、民間の市場参入を促進するために、指定管理者制度が導入されたといえる。

 また、この民間開放の流れをさらに強化する法律として、「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(2006年6月2日に公布、同年7月7日に施行。以下、通称の「市場化テスト法」とする)がある。これは、官と民が対等な立場で機会を与えられる競争入札制度を国や地方自治体に導入することを目指した法律である(12)。2003年6月の地方自治法の改正で導入された指定管理者制度では、制度の具体的な運用については地方自治体の条例に委任しているが、市場化テスト法では競争入札制度を法定していることに大きな違いがある。市場化テスト法は、市場の競争原理の導入を法定化することで、民間企業の参入機会を増やし、競争強化によるサービス品質の向上を目指した法律であるといえる。なお、地方自治体に関しては、市場化テスト法の対象は、証明書の交付などの「特定(窓口)6業務」(同法第34条)であり、公立図書館は市場化テスト法の直接的な影響を受けていない。しかし、今後、対象業務が拡大される可能性も内閣府によって示されており(13)、注視する必要性が南(14)によっても指摘されている。

 前述のように、現時点で公共図書館は市場化テスト法の直接的な影響は受けていない。しかし、法律の特例を講じる必要のない業務については、地方自治法と地方自治法施行令に基づき、条例または規則に手続を規定することにより、法と同様の手続で官民競争入札を実施することができる(15)。地方自治体の裁量で市場化テストを検討・導入した事例として大阪府立図書館があり、脇谷(16)(17)(18)が詳しく論じている。

 

2.2 指定管理者制度の導入根拠

 指定管理者制度が導入された根拠として挙げられているのは、主に、1)厳しい財政状況とそれに伴う行政の「新公共経営」(New Public Management)の流れ、2)図書館のサービス品質の向上、である。厳しい財政状況と行政における新公共経営の流れについて、荻原(19)が詳細に論じている。他に、安藤(20)、糸賀(21)、青柳(8)らが同様に指摘している。

 一つめの「新公共経営」は、a)マネジャリズムあるいはニューマネジャリズム(いわゆる経営優先主義)とb)新制度派経済学の両方の影響を受けて成立したもの(22)(23)であるが、図書館界の多くの文献が経営優先主義についてのみに触れ、新制度派経済学に言及していない。「経営優先主義」は、組織が行なう業務の中でも特に経営を重視するものであり、「新制度派経済学」は、組織の経済学ともいわれ、組織内部の経済効率を重視するものである。ここで重要なのは、「新公共経営」を導入すると、経営優先主義のみならず新制度派経済学の影響により、組織内部の効率性に視点が移ることである。つまり、新制度派経済学の影響によって、本来、経営者が最も重視すべき市場(利用者)の視点が欠落しやすくなる。このことは、もっと指摘されてもよいだろう。

 二つめとして、「サービス品質の向上」がある。サービス品質の向上で主に指摘があるのは、「図書館員の専門性の確保」や「長期契約による専門的図書館員の養成」についてである。高山(4)(24)(25)は、指定管理者制度の導入に好意的な立場から、公務員のキャリア形成における専門性の高い司書養成の限界を指摘し、その解決策として指定管理者制度導入の必要性を述べている。

 

2.3 指定管理者制度の導入状況

 指定管理者の導入が可能になっても、「誰が図書館事業を執行するのか」についての判断は各自治体に委ねられているために、すべての図書館が営利企業や非営利団体に管理されるようになったわけではない。日本の公立図書館における指定管理者制度の導入・検討状況について日本図書館協会(JLA)が、2006年から毎年調査を実施しており(26)(27)(28)、その結果を分析したもの(29)(30)(31)(32)がある。2008年度までを対象とした2009年の調査で、都道府県立図書館では2館、市町村立図書館では169館(全体の5.6%)が導入しており、割合としては低い。しかし、指定管理者制度の採用件数は、わずかではあるが、増加傾向にあることも明らかになっている。

 このJLAの調査結果と関連して、山口(33)は図書館における指定管理者制度の導入率や管理委託時代との違いについて考察している。また、安藤(34)は独自に調査を行なっている。

 これらの網羅的な調査以外に、指定管理者制度の検討過程や導入事例の報告も多数なされている。県立図書館に関する報告には、松田(35)や高橋(36)によるものがある。市町村立図書館に関する事例として、津田(37)、佐久間(38)、東野(39)、竹田(40)、川越(41)によるものなどいくつかの報告がある(42)(43)(44)(45)(46)(47)。また、神奈川県内の図書館については、『みんなの図書館』誌(2008年4月号)に特集記事が掲載されている(48)(49)(50)(51)。複数の事例に関する報告や事例に基づいた議論をしているものには、西村によるもの(52)や図書館問題研究会の全国大会の報告(53)(54)などがある。これらは図書館職員など内部からの事例報告であり、その多くは指定管理者制度に批判的な見解である。一方、行政担当者や指定管理者となった営利企業・非営利団体からは、図書館総合研究所(55)、図書館流通センター(56)(57)によるものを始めとして、肯定的な見解からの事例報告が多い(58)(59)(60)(61)(62)(63)(64)。また、一部の受託者からは事例報告と共に受託上の課題も指摘されている(65)(66)(67)。その他に、研究者による論稿としては、野依(68)や田井(69)(70)によるものなどがある。

 

3. 何を執行するのか

 図書館の業務は、高山(4)と山本(71)の説明を統合すれば、1)受入収集、2)整理保管、3)利用提供、4)経営管理、5)システムの活用と運用管理、の5種類がある。これらの業務のうち、経営管理以外の業務については、1947年に業務委託が始まって以降、継続的に議論の的となってきた。そして、2003年の指定管理者制度の導入と共に「経営管理業務の民間開放」が最大の議論となった。

 このように、業務委託や管理委託制度と指定管理者制度を通して図書館界で行なわれてきた「どこまでの範囲の業務を地方自治体が執行し、どこまでを委託先となる組織が執行するのか」という議論は、組織形態を考える際に重要な観点である。先に挙げた5つの業務の中でも、さらに地方自治体が執行すべきものと、委託先が執行しても問題が生じない(とされる)ものが存在する。こうした、何を執行するのかの議論は、図書館員の専門性と関係する。これまで、図書館界では、図書館の理念・使命を果たすために図書館員としての専門性が必要となる業務(根幹的業務)は自治体に所属する職員(司書資格あり)が担当し、それ以外の業務(非根幹的業務)は委託先が担当することが望ましいとされ、図書館の根幹的業務は、経営管理、選書、読書相談(読書案内とレファレンスサービス)とされることが多かった(3)(72)。このような業務委託と図書館の専門性については渡邉(73)らが詳しく論じているが、そこで紹介されている議論は複雑であり解決をみていない。また、指定管理者制度によって民間に開放された経営管理業務と図書館員の専門性について触れられた研究は確認されず、今後、議論が期待される。

 また、何を執行するのかについて、JLAの調査結果を基礎に山口(33)が考察を加えている。この山口の議論から、図書館の組織や業務の複雑性が伺える。ここから、例えばスポーツ施設など、組織形態が比較的単純な施設が対象とされることが多い指定管理者制度が、組織や業務が複雑な図書館に適用されたことによる問題も立ち上がる。「誰が何をどこまで担うか」という議論が複雑になっているのは、図書館の組織や業務の多様性に起因していることが推察できる。

 

4. どのような組織形態で業務を執行するのか

 ここまでの指定管理者制度の議論で明らかになっているように、誰が何を執行するかは、図書館の現場で誰がどの業務を行なうのかについての議論であって、具体的な組織形態に関するものではない。また、図書館業務の民間開放を促した各制度には組織形態を記述した内容は含まれておらず、図書館の経営層は、制度以外も根拠として組織形態に関する意志決定を行なわなければならない。管理委託制度、PFI法、指定管理者制度、市場化テスト法は、法的な制度(政策・法律レベル)であるが、政策や法律以外にも、図書館の組織形態に影響を与えるものがある。それが、経営(経営レベル)である。

 たとえば、政策・法律は、各図書館に対して基本的には平等な機会をもたらす。しかし、同じ政策を採用しても、図書館によって成果が異なることから、各図書館の組織に対して政策以外の何らかの要因が働いていることがわかる。それが、組織形態に影響を与える図書館の「経営」であり、図書館経営が政策・法律と共に重要な役割を果たす理由である。

 経営における組織形態とは、例えば、静的組織(ライン・アンド・スタッフ、マトリックスなど)、動的組織(チーム制、プロジェクト制など)やミンツバーグ(Henry Mintzberg)が提唱する5~7種類の組織形態(74)(75)など、図書館の理念・使命を果たすためにどのような組織形態を採用するのが適切かを検討するものがある。また、組織形態に影響を与える「経営組織論」として、図書館長としての在り方を理論的かつ体系的に示す「リーダーシップ論」や職員による自主的な学習活動を推奨するアージリス(Chris Argyris)(76)やセンゲ(Peter M. Senge)(77)の「組織学習論」などがある。

 図書館界で、経営レベルにおける経営組織論を検討した文献で指定管理者制度と関連しているものに豊田(78)(79)(80)によるものがある。豊田は、経営組織論の中でもセンゲの「学習する組織」を図書館に適用することや非正規職員化を前提とした経営改革を通して、図書館の使命を果たすことを目指している。また、指定管理者制度と直接関連しないものであれば、上岡(81)や小泉(82)が論じている。

 他に、山本(83)、楠本(84)、安藤(20)らは、具体的な経営組織論に触れたものではないが、指定管理者制度における組織形態の課題を事例と共に指摘している。彼らは、指定管理者制度を導入することによって、組織が分断されることや指示系統が二重化されることを主な課題として挙げている。これらは、経営組織論の領域の議論であるといってよいだろう。

 

5. サービス品質や成果は継続的に上がっているのか

 指定管理者制度を適用したことにより、サービス品質や図書館経営の成果が継続的に上がるかどうかの議論は、1)指定管理者との契約期間、2)指定管理者の経営管理能力と職員の専門性、3)指定管理者制度の成果の測定という3つの観点から議論されることが多い。

 「指定管理者との契約期間」に関する課題として、本来、図書館における専門職の確保を目的とした指定管理者制度に対し、指定管理者との一般的な契約期間である3年から5年程度の短い期間では、契約更新と共に積み上げた専門性が消失してしまう可能性が指摘されている。小川(85)は、渡海文部科学大臣(当時)の、契約期間が短期である指定管理者制度は図書館になじまないとする発言や、衆参両院の委員会での附帯決議に言及することで、この課題を指摘している。小川と同様に、南(14)、山口(33)、中嶋(86)、松岡(31)、大橋(32)らによっても契約期間と図書館員の専門性の消失の問題が指摘されている。これに併せて、契約期間満了に伴う契約更改(いわゆる二巡目)の事例を谷垣(87)や片野(88)が報告している。

 「指定管理者の経営管理能力と職員の専門性」については、官民問わず、受託者の経営者の能力不足や図書館職員の有期・低賃金の不安定雇用から来るサービス品質の低下が指摘されている。この課題を指摘している文献として、安藤(20)、沢辺(89)、山口(33)によるものなどがある。

 指定管理者制度に関連して、「図書館経営の成果やサービス品質を何で評価するか」についての議論もなされている。根本(90)は、教育施設に指定管理者制度を適用することを助長している原因が図書館員自身にあることを示し、レファレンスなどの、重要であるにもかかわらず、量的に測ることが容易でない観点からも図書館のサービス品質を評価するべきであると主張している。高橋(91)や小田(92)は、岩手県立図書館と千代田区立図書館の事例から、継続的に図書館の経営を評価する必要性について述べている。

 なお、これらに関連した議論で欠落している観点として、委託者の経営管理能力がある。一般論からすれば、受託者よりも経営管理能力が高くなければ、委託者は受託者を管理・評価することはできない。委託者の経営管理能力についての議論は重要であるだけに、今後に期待したい。

 

6. 現場の図書館員は幸せか

 図書館の組織形態を考える際に、現場の図書館員も重要な要素である。特に現場の図書館員については、「誰が何を執行するか」と同時に、「現場の図書館員は幸せか」という経営の視点が重要になる。現在、現場の図書館員をめぐる課題として挙げられているのが、非正規職員化である。非正規職員化は主に業務委託に伴うもので、PFI、指定管理者制度、市場化テストといった図書館業務の民間開放の流れがそれを助長している。

 図書館員の非正規職員化から生じる経営上の問題は、低賃金による厳しい労働環境から離職率が高まることである。離職率が高いということは、現場の図書館員が幸せに働ける労働環境にないということを意味している。このことを指摘している、座談会の記録(93)がある。その中で、「図書館で働ければ私は給料はいくらでもいい、という乙女心があるんじゃないか」、「委託の現場では職員が次から次に辞めて、回転率がすごく早くなっていると聞きます」という現場からの生々しい発言がみられる。

 こうした課題を網羅的に取り上げた文献には小形によるもの(94)(95)がある。小形は、正規職員と非正規職員を比較して論じることで、非正規職員の不安定な雇用や流動性の高さと共に、脆弱化する図書館員の専門性を指摘している。同様に非正規職員化の課題を扱った文献は多数(96)(97)(98)(99)(100)(101)(102)(103)(104)あり、継続的な図書館の成長には、図書館員が幸せに働ける環境も不可欠であることがわかる。

 

7. 指定管理者制度の法的課題

 「図書館法」、「地方自治法」、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の間における不整合性や官民の事業目的の相違により、図書館の理念・使命が実現できなくなるという課題を倉澤(105)が詳しく指摘している。また、同様の根拠に基づいた指摘を山口(33)、安藤(20)(34)、山本(83)、中嶋(86)、大橋(106)らも行なっている。

 

8. 図書館経営という観点から組織形態について必要な議論は何か

 このように、公立図書館経営の組織形態についての議論は、指定管理者制度を採用していない公立図書館の数のほうが圧倒的に多いにもかかわらず、指定管理者制度が中心にあるといえる。さらに、指定管理者制度やそれを包含する委託についての課題は数多く指摘されているが、その最終的な論点はひとつに集約されてしまう。それは、「指定管理者制度や外部人材の採用の是非」である。このことは高山(4)も指摘しているが、指定管理者制度が導入されてから7年が経とうとしている現在においても、この二元論はいずれの立場からも解決をみていない。

 また、組織形態と図書館員の専門性に関連して、業務委託が導入されて以来、「何を執行するか」の中でも、特に、「どの業務をどの組織に所属する者が行なうべきか」という議論が数多くみられてきた。しかし、これらの議論には、図書館組織や業務の複雑性から各業務を統合的に扱った研究が存在せず、主観的な結論に陥りやすくなっている。さらに、「図書館として利用者に何を行なうべきか」という外向きな視点から組織形態を考えようとする研究は、皆無に等しい状況にあり、組織形態に関する議論は極めて内向きなものとなっている。結果として、先の二元論と同様に「ある業務に外部人材を採用すべきか否か」という狭い範囲における二者択一の論理に陥っている。

 そのような中、指定管理者制度や外部人材の採用の是非にとらわれた二者択一の論理を超えたものとして、豊田(78)(79)(80)や根本(90)による議論があった。それは、組織形態に直接的に影響を与える経営組織論や、ある組織形態で執行された業務の成果を測る視点についての議論である。これらは、「政策・法律レベル」の議論のみならず、経営的観点から具体的に何をどのような組織形態で行なうか、あるいは現在の組織形態で執行された業務の成果を何で測り、どうやって未来につなげていくのかという、館長や現場の図書館員が具体的に意志決定できる「経営レベル」の議論である。こうした経営レベルの研究の数は非常に少ないものの、公立図書館経営の組織形態における「外部人材の採用の是非」という二元論から脱却する可能性を持つものである。

慶應義塾大学:小泉公乃(こいずみ まさのり)

 

(1) 山口源治郎. 第47回研究大会シンポジウム 多様化する図書館の管理運営: 多様化する図書館経営. 図書館界. 2006, 58(2), p. 59-61.

(2) 中嶋哲彦. 第47回研究大会シンポジウム 多様化する図書館の管理運営: 公立図書館への指定管理者制度導入の問題点. 図書館界. 2006, 58(2), p. 73-78.

(3) 小川俊彦.“公共図書館の委託”. 公共図書館の論点整理. 田村俊作ほか編. 勁草書房, 2008, p. 126-172, (図書館の現場, 7).

(4) 高山正也. “指定管理者制度の意義と背景”. 市場化の時代を生き抜く図書館 : 指定管理者制度による図書館経営とその評価. 図書館総合研究所編. 時事通信出版局, 2007, p. 3-20.

(5) 塩見昇. “公立図書館の動向と日本図書館協会”. 変革の時代の公共図書館 : そのあり方と展望. 日本図書館情報学会研究委員会編. 勉誠出版, 2008, p. 39-56, (図書館情報学のフロンティア, 8).

(6) 藤江昌嗣. 特集, 図書館の経営経済分析と資金調達: PFIによる図書館経営を評価する : 桑名市立中央図書館を例に. 情報の科学と技術. 2008, 58(10), p. 517-522.

(7) 伊藤久雄. 特集, 自治体経営と図書館:公共サービス運営主体の多様化と課題 : 自治体の図書館などの文化施設の現状を概観する. 現代の図書館. 2009, 47(3), p. 135-144.

(8) 青柳英治. 特集, 自治体経営と図書館: ニュー・パブリック・マネジメントによる公立図書館の運営 : 官民の職務分担にもとづく人材育成. 現代の図書館. 2009, 47(3), p. 158-169.

(9) 氏家和正. “PFIと図書館経営”. 図書館の活動と経営. 大串夏身編. 青弓社, 2008, p. 106-123, (図書館の最前線, 5).

(10) 日高昇治. “緑の丘に浮かぶ白い図書館”. 図書館の活動と経営. 大串夏身編. 青弓社, 2008, p. 124-154, (図書館の最前線, 5).

(11) 小川俊彦. 特集, 図書館をつくる: 長崎市立図書館の建設と運営. 現代の図書館. 2009, 47(2), p. 103-119.

(12) 内閣府公共サービス改革推進室編. 詳解公共サービス改革法 : Q&A「市場化テスト」. ぎょうせい, 2006, 240p.

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(15) “地方公共団体における官民競争入札等のFAQ”. 内閣府. http://www5.cao.go.jp/koukyo/faq/faq.html [547], (参照 2010-02-15).

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(17) 脇谷邦子. 特集, 図書館委託のいま・2009年: 本当に怖い市場化テスト : 大阪府立図書館に導入. みんなの図書館. 2009, (386), p. 26-33.

(18) 脇谷邦子. 特集, トピックスで追う図書館とその周辺: 橋下府政の下、大阪府情報提供施設が危機に. 図書館雑誌. 2009, 103(1), p. 26-27.

(19) 荻原幸子. “「公の施設」と「社会教育機関」をめぐる変革の動向”. 変革の時代の公共図書館 : そのあり方と展望. 日本図書館情報学会研究委員会編. 勉誠出版, 2008, p. 1-15, (図書館情報学のフロンティア, 8).

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(28) “図書館における指定管理者制度の導入の検討結果について2009年調査(報告)”. 日本図書館協会図書館政策企画委員会. 2009-07-03.
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(29) 山本宏義. 特集, 変わり目にある図書館: 公立図書館への指定管理者制度導入・最近の展開. 図書館雑誌. 2006, 100(8), p. 486-488.

(30) 特集, 最新の数値データを基に導入実態を検証!: 図書館における指定管理者制度の導入実態~(社)日本図書館協会の調査報告より~. 指定管理者制度. 2009, (44), p. 4-9.

(31) 松岡要. 公立図書館の指定管理者制度の検討状況: 導入館は7.1%と低い―日本図書館協会の調査から. 出版ニュース. 2009, (2184), p. 9-13.

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(42) 藤本冨美子ほか. 市民にとっての図書館を考え続けて―指定管理者制度導入に反対したこの1年の歩み. みんなの図書館. 2007, (365), p. 32-43.

(43) 勝俣千恵子ほか. 特集, 図書館委託のいま・2008年春: わたしたちの図書館どうなるの??? : 毎日の暮らしと隣り合う図書館を. みんなの図書館. 2008, (374), p. 22-26.

(44) 井波輝子. 特集, 図書館委託のいま・2008年春: リニューアルの千代田図書館. みんなの図書館. 2008, (374), p. 27-31.

(45) 鳥羽徳子. 大磯町立図書館 指定管理者制度導入への反対 : わたしたちの取り組み. みんなの図書館. 2008, (375), p. 72-77.

(46) 溝井正美. 特集, 検証:指定管理者制度: 市民・図書館利用者から指定管理者制度導入を考える : 横浜市立図書館・山内図書館への指定管理者導入問題に対する取り組み. 図書館雑誌. 2009, 103(3), p. 158-159.

(47) 細谷洋子. ワーカーズコープによる指定管理受託. 図書館評論. 2009, (50), p. 22-30.

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(51) 中野陽子. 横浜市図書館指定管理者制度導入か?集会「みんなの図書館があぶない」報告. みんなの図書館. 2008, (373), p. 59-61.

(52) 西村一夫. 特集, 図書館の原点を見直す: 図書館の原点を大事にしよう. みんなの図書館. 2007, (368), p. 2-10.

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(55) 図書館総合研究所. “戦略的な図書館経営、三つの事例”. 市場化の時代を生き抜く図書館 : 指定管理者制度による図書館経営とその評価. 図書館総合研究所編. 時事通信出版局, 2007, p. 21-51.

(56) 大阪狭山市立図書館 すべての市民に役立つ場を目指し、公立図書館のあるべき姿を追求する : 株式会社図書館流通センター. 指定管理者制度. 2008, (31), p. 20-25.

(57) 情報化時代に向けて、地域創生に繋がる新しい図書館作りを模索する図書館流通センター(TRC) : 株式会社図書館流通センター. 指定管理者制度. 2008, (25), p. 27-32.

(58) 鈴木節子. 特集, 神奈川の図書館: わたしたちの挑戦 : NPO法人による相模大野図書館運営受託について. みんなの図書館. 2008, (372), p. 36-40.

(59) 大下直弘. “文化による町づくりを目指して: 高山市図書館指定管理 業務の理念と実践”. 図書館の活動と経営. 大串夏身編. 青弓社, 2008, p. 156-183, (図書館の最前線, 5).

(60) 田中榮博. “公共図書館の新たな挑戦:千代田図書館の使命”. 図書館の活動と経営. 大串夏身編. 青弓社, 2008, p. 184-200, (図書館の最前線, 5).

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(62) 千代田区立千代田図書館 公共図書館の常識を破り、調査・研究を目的とする“滞在型図書館”に挑む : ヴィアックス・SPSグループ. 指定管理者制度. 2009, (35), p. 31-36.

(63) 小林耕平. 特集, 検証:指定管理者制度: 指定管理者制度のもとでの図書館運営. 図書館雑誌. 2009, 103(3), p. 156-157.

(64) 小林壽一. 市立図書館への指定管理者制度導入 市民へのサービス向上に取り組む. 週刊教育資料. 2009, (1065), p. 24.

(65) 丸山高弘. 山中湖情報創造館 : はじめての指定管理者制度導入図書館の運営. みんなの図書館. 2006, (356), p. 33-44.

(66) 橋本辰夫. NPO指定管理者による図書館運営について. 図書館評論. 2006, 47(7), p. 23-37.

(67) 地域の広範なネットワークづくりで地域図書館の再生を目指す : 自由主義行政が民の豊かな発想を生かす : 播磨町立図書館株式会社図書館流通センター. 指定管理者制度. 2007, (17), p. 10-15.

(68) 野依智子. 特集, 社会教育施設の指定管理者制度: 北九州市立図書館における「指定管理者制度」の現状と課題. 月刊社会教育. 2006, 50(8), p. 44-48.

(69) 田井郁久雄. つくられた「現実」、虚像としての民営化. みんなの図書館. 2006, (354), p. 28-42.

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(71) 山本宏義. 公立図書館における指定管理者制度について : 職員問題を中心に. 関東学院大学文学部紀要. 2007, (112), p. 131-144.

(72) 梅原実ほか編. 公立図書館の管理委託と地方公社. 青弓社, 1990, 202p.

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(85) 小川一郎. 特集, 問われる社会教育の理念と施策: 公立図書館に指定管理者制度はなじまない. 議会と自治体. 2008, (126), p. 90-95.

(86) 中嶋哲彦. 特集, 検証:指定管理者制度: 公立図書館の多面性と指定管理者制度. 図書館雑誌. 2009, 103(3), p. 148-150.

(87) 谷垣笑子. 特集, 検証:指定管理者制度: 指定管理者制度を選択しなかった図書館は今. 図書館雑誌. 2009, 103(3), p. 154-155.

(88) 片野祐嗣. 特集, 図書館委託のいま・2009年: 岩手県立図書館の指定管理者第2期選定の経過. みんなの図書館. 2009, (386), p. 10-18.

(89) 沢辺均. 特集, 指定管理の現場: インタビュー 楠本昌信 : 公務員図書館員から受託会社に転職した私. ず・ぼん. 2008, (14), p. 26-43.

(90) 根本彰. 特集, 誌上討論 現代社会において公立図書館の果たすべき役割は何か(第5回・最終回): 地域において展開する公立図書館サービス : 続・貸出しサービス論批判. 図書館界. 2007, 59(4), p. 244-252.

(91) 高橋俊一. 特集, 図書館委託のいま・2008年春: 図書館業務の委託先を評価する際の視点. みんなの図書館. 2008, (374), p. 10-14.

(92) 小田光宏. 特集, 検証:指定管理者制度: 指定管理者が行う図書館運営に対する第三者評価 : 千代田区における取り組み. 図書館雑誌. 2009, 103(3), p. 151-153.

(93) 特集, 指定管理の現場: 座談会 千代田図書館の記事へ反論. ず・ぼん. 2008, (14), p. 44-61.

(94) 小形亮. 特集, 図書館界60巻記念企画 構造的転換期にある図書館の法制度と政策(第4回): 非正規職員化する図書館. 図書館界. 2009, 60(5), p. 302-312.

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(96) 自治労東京都本部図書館職場交流会編. 特集, 非正規職員として図書館で働くということ―その現状と改革の取り組みから: 非正規職員として図書館で働くということ : 委託で、非常勤で働いて. みんなの図書館. 2007, (365), p. 2-6.

(97) 奈良法男. 特集, 問われる社会教育の理念と施策: 図書館の理念の実現をめざして. 議会と自治体. 2008, (126), p. 96-101.

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図書館員 [553]
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