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2003年 (通号No.275-No.278:CA1483-CA1514)

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No.278 (CA1507-CA1514) 2003.12.20

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CA1507 - ネット上での合同レファレンスシステムと文献資源共有との関係-上海図書館と知識ナビゲーション合同ネット / 金紅亜,張軼

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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1507

 

ネット上での合同レファレンスシステムと文献資源共有との関係 
−上海図書館と知識ナビゲーション合同ネットワークサイト−

 

 情報技術の飛躍的な発展と図書館業務の絶え間ない拡大によって,ネット上のレファレンスサービスは新しい図書館業務として発展しつつあり,国内外で広がりをみせている。海外で著名なネット上のレファレンスサービスには,米国のQuestionPoint,24/7,VRDがある。[中国]国内では,国家図書館,上海図書館,広東中山図書館などが,ネット上でレファレンスサービスを展開している。なかでも上海図書館の知識ナビゲーションサイトは,[上海市]中心図書館のネットワーク運営モデルをよりどころに,大きな特色と活力を発揮している。

 2001年から,上海図書館では上海市中心図書館システム計画を展開している。すなわちこの計画は,上海図書館を本部,要するに中核の図書館として,上海市内の各公共図書館や大学図書館,科学研究図書館を分館と位置づけることで,文献資源の共有システムを構築するという事業である。2001年5月の開始から28館が順次加わり,その内訳は区・県レベルの公共図書館が21館,大学図書館が5館,専門図書館が2館という構成になっている。そして中心図書館は以下の3種類の運営モデルを採用している。

  • (1)公共図書館モデル:

    主に,共通カードによる貸出計画。すなわち利用者がメンバー館を1枚のカードで利用できるシステム。2003年10月までにすべての区・県レベルの図書館で実用化する。
  • (2)研究図書館モデル:

    外国語およびネットワーク上の資源によって,研究資源の利用効率を上げる。例として,上海図書館,上海交通大学図書館,上海生命科学院図書館など13の研究図書館が共同購入しているOCLCのNetLibraryがある。
  • (3)専門図書館モデル:

    本館と専門図書館(分館)の情報を組み合わせて,専門情報の共有サービスシステムを構築する。

 上海市中心図書館は2001年5月28日から「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」計画を実施している(図1参照)。この計画の主旨は,[上海市]中心図書館の蔵書と専門家の情報を十分に利用し,各図書館の強みを相互に発揮させて,利用者にネットワーク上でレファレンスサービスを提供することにある。

 

図1 知識ナビゲーション合同ネットワークサイト運営


 

図1 知識ナビゲーション合同ネットワークサイト運営

 

 この計画は上海図書館が多数の図書館の参加を得て立ち上げたバーチャル・レファレンス・デスク(Virtual Reference Desk: VRD)である。2001年の創設期には,上海市の7つの著名な図書館の16名のレファレンスライブラリアンによって構成され,今日までに上海図書館,復旦大学図書館,同済大学図書館,上海交通大学図書館,華東師範大学図書館,上海社会科学院図書館,上海生命科学図書館,東華大学図書館,上海水産大学図書館,第二軍医大学図書館,上海第二医科大学図書館,上海戯劇学院図書館,上海杉達学院図書館など13の図書館が参加している。そして20数名のレファレンス専門家が志願して,このサイトを担当している。なお2003年初頭,香港嶺南大学図書館,シンガポール国立図書館委員会(CA1499 [3]参照),マカオ中央図書館もこのネットワークに参加した。参加館とレファレンス専門家,およびサービス分野をまとめたのが表1である。

 

表1 知識ナビゲーション合同ネットワークサイト参加館

機関 人数 サービス分野
上海図書館 4 自然科学,社会科学
復旦大学図書館 2 コンピュータ科学,情報科学,数学,生物学,物理学
同済大学図書館 3 工学,管理学,土木工学,測量,土地情報
[上海]交通大学図書館 3 工学技術,情報学,物理学
華東師範大学図書館 2 管理学,情報学,化学工業,教育学,心理学
上海社会科学院図書館 1 社会科学
上海生命科学図書館 2 生物学,医学,農学,化学
東華大学図書館 1 紡績材料学,工学
上海水産大学図書館 1 漁業,食品,海洋学
第二軍医大学図書館 2 医学,薬学
上海第二医科大学図書館 1 医学
上海戯劇学院図書館 1 演劇
上海杉達学院図書館 1 実用科学
香港嶺南大学図書館 − 香港および海外の文学・歴史・哲学,社会学,商学
シンガポール国立図書館委員会 − シンガポール・海外の多方面の情報調査
マカオ中央図書館 − マカオの歴史,文物,風土人情

 

 ところで上海市中心図書館は年月を経て星型の組織を形成し,21の区・県レベルの図書館が共通カード計画によって,上海のあらゆる図書館業務で提携している。すなわち資源の共有を実現しているのである(図2参照)。

 

図2 中心図書館・区県分館共通カードモデル図

 

 さらに,各区・県の経済発展の不均衡が原因で,各分館の蔵書やサービスにも格差が生じている。このことはレファレンスサービスの力量にも明らかに現れている。こうした状況はいずれ社会の発展要求を満たすことができず,先進国の公共図書館システムに比べて大きく立ち遅れることになるだろう。米国のニューヨーク市クイーンズ地区は人口約220万人,公共図書館は69館,そのうち中央館が1館で68館は分館である。各分館は中央館の下に置かれている。各分館は少なくとも1,2名のレファレンスライブラリアンを(米国では図書館情報学の修士号を持つ者がレファレンスサービスを担当しなければならない)配置し,クイーンズ地区だけで少なくとも150名のレファレンスライブラリアンがいる。上海の公共図書館は明らかに数が少なく,レファレンスサービスが手薄である。「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」では,中心図書館が研究図書館と専門図書館の特色を発揮して,ネットを通じて上海市民にレファレンスサービスを行っている。

 この2年間,「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」は専門家によって維持され,こうした専門的知識の案内サービスは,一般利用者に歓迎されている。上海の一部の公共図書館は365日サービスを行い,「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」の立ち上げ以来,月毎に相当数の質問に6分以内で回答している。多くの利用者が礼状をよこし,当サイトの手助けに感謝している。サイトに寄せられる質問の50%以上は科学研究文献の検索に関する内容で,その次に多いのが生活全般に関する質問(約20%)である。多くの市民がこのサイトを学習や研究に不可欠な手助けと考えているだけでなく,日常生活での良き師,良き友と考えている。2003年9月30日までのデータによれば,質問数は計2,985件,入庫総数(FAQ)は2,187件,1日平均9.8件,平均回答時間は48.97時間となっている。なお入庫総数とは,質問が適切で図書館のFAQに登載することになった件数をいう。

 特に2003年4月から5月にかけての「非典」(新型肺炎:SARS)流行期間には,積極的に利用された。4月の質問数は414件,5月は519件,1日平均15.5件であった。参考までに2003年の月別の質問数を示したのが,図3である。

 

図3 知識ナビゲーション合同ネットワークサイト:2003年の質問件数

 

 社会の発展に伴って,専門家が個別に1対1でサービスするという方式は,広く利用者に歓迎されるようになった。このため,当サイトは専門家グループによる案内サービスの分野の拡大を目指している。たとえば,経済,通信,電子商取引,物流,体育,万国博覧会情報,バイオテクノロジー,法律など国内で急速に発展する産業に広げる努力をしている。また,今年4月に上海博物館が米国から得た北宋の『淳化閣帖』最善本や,2003年10月の中国人を乗せた有人ロケットの打ち上げといった話題についてもネット上でレファレンスサービスを行っている。

 中心図書館の業務は,分館の支持を得て拡大し,ネット上のレファレンスサービスも同じように図書館界の注目を集めている。「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」は独特な分散式の共同運営方法によって,中心図書館の資源共有ネットワークに頼るだけでなく,上海市全体の主要な公共図書館,研究図書館の蔵書資源を組み合わせ,かつ上海の情報学界の優秀な専門家を集めて,効率のよい迅速なネット上レファレンスサービスの提供を実現している。

 中心図書館ネットワークの存在と発展が,「知識ナビゲーション合同ネットワークサイト」の後ろ盾となって,活発な広報効果も生じている。同時に同サイトの発展も,中心図書館に効率的なサービスの提供を保障している。現在このサイトは,こうした強みによって各分野の専門家の参加を増やし,市民への周知を積極的に行ってサイトの社会的知名度や影響力の拡大に努め,社会へのさらなる貢献を目指している。

上海図書館利用者サービスセンター副主任:金 紅亜(きんこうあ)
上海図書館知識ナビゲーション合同ネットワークサイト管理員:張 軼(ちょうよく)
訳 京都大学大学院教育学研究科:川崎 良孝(かわさきよしたか)

 

Ref

Virtual Reference Desk.(online),available from < http://zsdh.library.sh.cn/ezsdh/ [4] >,(accessed 2003-11-04).

 


金紅亜, 張軼. ネット上での合同レファレンスシステムと文献資源共有との関係 
−上海図書館と知識ナビゲーション合同ネットワークサイト−. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1507 [5]

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カレントアウェアネス [6]
レファレンスサービス [7]
中国 [8]

CA1508 - フランスにおける公共図書館利用の停滞感 / 豊田透

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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1508

 

フランスにおける公共図書館利用の停滞感

 

 本年(2003年),Bulletin des Bibliotheques de France(BBF)誌上で,また,書籍見本市の公開討議の場で,フランスの公共図書館の利用状況と将来の展望を巡る議論が行われている。

 最初に,ある数字が示された。フランスの市立図書館における,サービス対象人口に対する登録利用者数の割合の遷移である。1971年の5.9%から,1990年の16.0%を経て,1998年の18.4%まで数字は一貫して上昇してきたのだが,1999年に18.2%,2000年には17.7%と,このところ頭打ち,さらには下降しているのである。

 これについて,< 1 >この停滞の原因は何か,< 2 >そこから抜け出すにはどうすればよいか,というBBF誌の問いかけに対し,市立図書館の現場から回答が寄せられている。

 まず< 1 >についてであるが,おおむね予想される内容である。例えば,国民レベルでの読書行動の低下,課金制度の導入による利用者離れ(これはより料金が高いAV資料の利用はむしろ増えているという事実と矛盾する),資料購入費の逼迫による蔵書の魅力の低下,電子資料への対応の遅れ,等々である。

 実はそもそも,この数字は単に「登録利用者の割合」であって,それだけでは市立図書館活動の停滞を示すとは言えないのではないか,という,設問そのものへの問い直しもある。これはまさに,BBF誌が設問の背後に潜ませた問題提起であると思われるが,その問い直しの過程で多くの寄稿者が言及しているのは,今日では,フランスの図書館界で"UNIB"と呼ばれる利用者層の数がむしろ重要ではないか,という点である。これは"Usagers non inscrits des bibliotheques(登録をしない図書館利用者)"の略である。かつて市民による公共図書館の利用状況を適切に示す数値のひとつは登録利用者数,それはつまり,本を借りる人の数であったが,公共図書館のあり方が多様になった結果,UNIBの存在が以前に増してクローズアップされているのである。UNIBの数を正確に計ることは困難であり(特に「サービス対象市民」に占める割合を求めるには),ここでは7.5%という数字が上がっているものの,もっと高い調査結果も存在する。

 というわけで,この18%前後という数字自体がすべてを語るわけではないことは,寄稿者の誰もが承知している。しかし同時に,そう言う誰もが一様に「停滞感」「閉塞感」そのものを認めている。それは,UNIBの数を考慮すべしと言う一方でそれを以てしても十分でないとも考えており,市立図書館が自らの活動評価基準を見失っている,という結果にもなっている。

 したがって,< 2 >についての回答はあまり歯切れがよくない。抜け出す方策というよりは,その前提となる正確な現状分析がまず提案されている。

 登録者数減少の原因のひとつとして複数の寄稿者から挙げられ,かつ,今後の公共図書館活動への示唆となる点がある。それは学校図書館との競合である。従来,市立図書館利用者の大きな部分を占めてきた児童および若年層であるが,コレージュ(中学校),リセ(高校)の図書館が充実し,貸出図書館として,さらには特にAV資料の利用場所として,中高生の利用が市立図書館からシフトしているのである。もちろん大学図書館も同じ傾向が見られる。こうした,同じ地域で同じサービスをしている機関がある場合はそれらも含めた利用動向の分析,今後の指針作りが求められる。

 また,実際の方策として,図書館運営への市民の参加を提案する寄稿者もいる。

 結局,もはや公共図書館内部のみの調査・分析では不十分な時代になっている,という認識があり,したがって公共図書館という壁を越え,専門家による大規模で徹底的なアンケート調査が必要である,ということになる。当然それは各公共図書館レベルでは実施不可能であり,国レベルの調査が求められる。

 この「公共図書館の壁の外へ」というのは,今回の議論のキーワードのひとつである。それは,競合相手――他種の図書館であったり,読書以外の娯楽であったりする――を知ることであると同時に,顕在的・潜在的サービス対象である市民を,公共図書館の旧来の視点だけで捉えない,ということでもある。

 

 書籍見本市で同じテーマで行われた討論会は,国立高等情報科学図書館学校(ENSSIB)の主催で実施されたものである。ここではさらに踏み込んだ議論となったようである。特に,パネリストの一人,文化通信省公共図書館部のグロニエ(Thierry Grognier)氏から,「競合相手」を知り「顧客」を知る,すなわち,マーケティングの考え方の提案があった際には,少なくとも当日の参加者には図書館人として「顧客」という用語を用いることに抵抗がある者もおり,この発言を巡って議論が白熱した。討論会を主導した,今回の一連の議論の仕掛け人であるBBF編集長ベルトラン(Anne-Marie Bertrand)氏も,この点について,「図書館人は無料サービス,無私の奉仕をする立場であるが,その相手は市民である。市民を知るには,企業が(顧客としての)市民を知ろうとするのと同じ方法で知ろうとしなければならない」と主張した。

 

 具体的なアクション・プランの例示がされているわけではないが,今回投じられた一石に対し,今後公共図書館界がどのように対応していくのか注目される。

関西館総務課:豊田 透(とよだとおる)

Ref.

Debat: La frequentation des bibliotheques municipales.Bulletin des Bibliotheques de France.48(1),2003,84-101.

Debat: La frequentation des bibliotheques municipales.Bulletin des Bibliotheques de France.48(2),2003,66-80.

Nillus,C.Client ou usager? Livres Hebdo,(508),2003,84-85.

 


豊田透. フランスにおける公共図書館利用の停滞感. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.4-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1508 [10]

カレントアウェアネス [6]
利用調査 [11]
フランス [12]
公共図書館 [13]

CA1509 - 米国教育省によるERIC改革案 / 永村恭代

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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1509

 

米国教育省によるERIC改革案

 

 米国教育省は,教育資源情報センター(Educational Resources Information Center:ERIC)の効率化・省力化を図るための改革案を発表した(E077 [15]参照)。

 ERICは,1966年に設立され,米国の教育関係分野の発展のため,教育に関する研究や情報の提供を行ってきた。米国教育省の国立教育図書館,クリアリングハウス,サポート機関(ERIC Document Reproduction Service(EDRS)等)から成り,特に16分野に分かれたクリアリングハウスは,教育関係についての最新情報の発信,ERICデータベース用の資料収集,抄録作成,書誌作成,質問回答を行う。

 なかでもよく知られているのが,ERICデータベースの提供である。雑誌,研究報告,会議録,図書などに掲載された記事100万以上のデータを含み,教育関係の文献データベースでは世界最大である。規模のみならずERICシソーラスによる書誌の質の高さと一貫性の面からも評価は高く,図書館員や図書館支援者にとって貴重なツールとなっている。インターネット(http://ericir.syr.edu/Eric/ [16])で無料で検索可能で,ベンダーからCD-ROMの購入も可能である。

 また,ERICはERIC Digestsを出版している。ERIC digestsは,教育関係の最新のトピックに関する短い報告書で,インターネットで全文を見ることも可能である(http://www.ericfacility.net/databases/ERIC_Digests/index/ [17])。

 こうしたサービスを提供するERICは,教育者,研究者,図書館員,保護者,政策決定者および教育の分野に関心を持つ人々にとって非常に貴重な存在となっている。

 今回,米国教育省は,ERICデータベースの効率化と全文テキストへのアクセスを目的に,ERIC改革草案を発表している。改革案発表の背景としては,クリアリングハウスとの契約が2003年12月で,EDRSとの契約が2004年6月に切れることがある。

 改革案と現状との大きな違いは,クリアリングハウスを廃止し,ERICに関するすべての業務を,ひとつの契約者に任せることである。改革案によると契約者が行う作業は,おおまかに以下のようになる。

  1. 運営委員会とコンテンツ・エキスパートを組織,運営する。運営委員会は,12人程度の専門家から成り,パブリックフォーラムの提案,データベース採録誌についての提案,データベースとウェブサイトのモニター,雑誌のバックナンバーをデータベースに取り込む可能性の考慮といった作業を行う。コンテンツ・エキスパートは,クリアリングハウスで推薦された専門家3人から成り,データベース採録誌の選定,データベースに採録する非ジャーナルの情報源の特定,普及活動といった作業を行う。契約者は,運営委員会やコンテンツ・エキスパートらの意見を参考に,採録誌に関する草案を提出する。
  2. 全文テキストを,可能な限り無料でデータベースから入手できるようにする。無料で提供できない資料については,出版者やアーカイブへリンクをはる。
  3. データベースの書誌作成を行う。索引は自動的に付与し抄録は著者や出版者が作成したものを利用する。
  4. オンラインシステムの管理,運営を行う。
  5. 契約の移行がすみやかに行われるようにする。

 また,この草案には,契約者が,何をいつまでに行うかのスケジュールが細かく記載されていて,契約者のパフォーマンスを評価する項目も記載されている。

 この米国教育省の草案に対し,米国図書館協会(ALA)は,4つの点で疑問をなげかけている。

  1. データベースの書誌作成に際し,索引の自動付与,既存の抄録の利用,ERIC シソーラスの修正は,データベースの質と一貫性や検索の有効性を損なう。有効な索引付与は短期で習得できる技術ではなく,著者や出版者が作成する抄録は客観性に欠ける可能性がある。
  2. データベース採録誌の選定を行うことになる3人のコンテンツ・エキスパートに,今までクリアリングハウスが担当していた広範囲な主題分野をまかないきれるかという問題がある。データベースの質を落とさないためには,他の支援も必要だろう。
  3. 現在のクリアリングハウス機能の多くを縮小することは,特に情報普及の分野で損失である。現在,クリアリングハウスは,毎年15万以上の電子メールと電話に応答することにより,利用者に価値のある情報を提供している。クリアリングハウスの廃止は,ERIC Digestsをはじめとする出版の中止や,ERICクリアリングハウスが構築してきた情報普及活動の存続を危うくすることにつながる。
  4. 急に移行を行うのではなく,猶予期間を長くとることで,混乱を未然に防ぐべきである。また,出版者などベンダーへのリンクは,利用者や図書館員に混乱を招きがちであり注意を要する。

 ちなみに,年報によると,2002年度のERICの予算は1,050万ドルで,内訳は,82%が16のクリアリングハウスに,17%がサポート機関に,1%が政府関係の出版その他に割り当てられている。クリアリングハウスの中では,23%がデータベースの構築に,18%がクリアリングハウスの運営に,17%がERICシステム内のプロジェクトに,15%がERIC Digests等の出版に,15%が電話や電子メールによる質問回答サービスに,10%がワークショップや展示会といった普及活動に,2%が会議等の旅費に当てられている。米国教育省の草案には,これからの予算規模と配分についての記載はない。

 今後の予定としては,AskERICサイトと質問回答サービスを2003年12月19日に,ERICクリアリングハウスを2003年12月末で閉鎖する。これまで行ってきたERICデータベースの検索,教育関係会議のカレンダー,ERDSへのリンクは引き続き提供する。2004年1月からERICデータベースの更新はせず,2004年中には,新体制を確立し,データ更新を行う予定である。ERICのホームページには,ERICに関する一般的な質問を受ける通話料無料の電話番号が記されている。

主題情報部参考企画課:永村 恭代(ながむらやすよ)

 

Ref.

Educational Resources Information Center(ERIC).(online),available from < http://www.eric.ed.gov/ [18] >,(accessed 2003-09-21).

ERIC Annual Report 2002.(online),available from < http://www.eric.ed.gov/resources/annual/index.html [19] >,(accessed 2003-09-21).

Draft Statement of Work 01.(online),available from < http://www.eps.gov/spg/ED/OCFO/CPO/Reference%2DNumber%2DERIC2003/Attachments.html [20] >,(accessed 2003-09-21).

ALA.Comments of the American Library Association on the U.S.Department of Education's Draft Statement of Work for the Design of ERIC.2003,4p.(online),available from < http://www.ala.org/Template.cfm?Section=News&template=/ContentManagement/ContentDisplay.cfm&ContentID=30867 [21] >,(accessed 2003-09-21).

ERIC Reauthorization News.(online),available from < http://www.lib.msu.edu/corby/education/doe.htm [22] >,(accessed 2003-11-14).

 


永村恭代. 米国教育省によるERIC改革案. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1509 [23]

  • 参照(16886)
カレントアウェアネス [6]
データベース [24]
米国 [25]

CA1510 - オープンコンテンツの百科事典ウィキペディア / 福田亮

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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1510

 

オープンコンテンツの百科事典ウィキペディア

 

 2001年1月15日,米国在住のサンガー(Larry Sanger)やウェールズ(Jimmy Wales)らはネット上に 『ウィキペディア(wikipedia)』というオープンコンテンツの百科事典を立ち上げた。その名称は「ウィキ(wiki wiki web)」という協調作業支援システムを利用して作成される百科事典であることに由来する。ウィキペディアの最終目標はフリー(直接的には無料ではなく自由を意味する)で,かつ情報量と情報の深みにおいて歴史上最大の百科事典を創り上げることである。

 オープンコンテンツとは創作物が共有状態に置かれていて自由に利用できることを示す概念である。具体的な自由の内容については多様な場合があり得る。ウィキペディアの場合は,内容の作成が不特定多数のネット利用者に許されており,誰もが自由にウェブページを書き換え,新しい事典項目を追加投稿できる。また,検索,利用,あるいは編集参加について登録が前提とされない。

 サンガーはウィキペディアに先行する『ヌーペディア(Nupedia)』というオンライン百科事典企画の主幹編集者であった。これは査読制度付きで専門家に記事の執筆を依頼するなど従来の百科事典の性格を残していた。このためウィキを利用して"より開放的で格式ばらない"百科事典として企画されたのがウィキペディアである。ウィキペディアでは不特定多数のネット利用者の自発的な,いわば草の根的な協力に依存する方式を採る。個々の投稿が十全でないとしても,大勢の人間が情報資源を共有し,編集を繰り返すことで内容が結果的に精査されると考えているからである。ネット利用者は閲覧者にも,記事の執筆者や編集者にもなることができる。コンピュータ・ネットワークの普及によって実現した新しい形式の知的協調作業である。

 サイトの立ち上げからわずか2年で,英語版ウィキペディアは登録記事数10万件を突破し,2003年10月現在では16万件を超えている。また,英語版に続いて世界の様々な言語による版が順次作成され,今日では多言語によるサイト集合体を形成している。中国語や日本語などアジア系の言語もあれば,エスペラント語のような人工言語のサイトもある。ウィキペディアはウィキを使用する最初の本格的なオンライン百科事典であり,内容,包摂する分野,地域など多くの面で成長を続け,巨大データベースとなりつつある。2003年6月にはウィキぺディア企画を推進する目的で非営利組織ウィキメディアが設立された。

 

1.ウィキと参加者共同体

 ウィキはオブジェクト指向分析やパターンランゲージなどのコンサルティングを行っているカニンガム&カニンガム社が開発した協調作業用の小さなプログラムである。「Wiki」とはハワイの言葉で「素早く」を意味する。ウィキは別のウェブページとの相互リンクを自動生成するなど,強力な支援機能を持っている。ウィキを利用して作成されたウェブページには編集画面へのリンクが付いており,ここをクリックすれば該当ウェブページの内容編集へと進むことができる。まるで自身のホームページを編集するような感覚で,他人の作成したウェブページを編集することが可能である。また,最初の投稿からの変更を保存しておく履歴があるため復元も可能である。汎用性が高く,様々な用途,企画に応用できる反面,システム上の制約が少ないため大勢で利用する場合にはルール作成が必要となる。ウィキペディアでは参加者による自治的な運営が重視される傾向にあり,基本方針,投稿の方法や記述様式,あるいは著作権に関して参加者間で合意事項が作成,維持されている。「ウィキペディアン」と呼ばれる良心的で,熱心な参加者によるメーリングリストなどを通じて討議し,蓄積した慣習,方針が合意事項となっている。

 事典項目の執筆に際しては「観点の中立性」を求められるが,様々な価値観を持つ人々が共同で作業をするため,記述内容について見解が割れ,あるいは思想的な偏りが表出することは避けがたい。悪質な登録参加者の場合には,ウィキペディアの創始者で出資者でもあるウェールズがアクセス禁止処分を決定する権限を持つが,その適用は例外的である。記述内容の調整は基本的に参加者相互の討議に拠っている。ただし,討論は専用のリンクページあるいはメーリングリストを通して行われ,事典項目上には現れない。

 ウィキペディアでは他人の作成したウェブページを容易に編集することができるため,著作者の人格およびその成果を尊重することも参加者の遵守すべき重要な規範である。作成中のウェブページに,ウィキペディアの内外を問わず,他のページから引用することも多く,この場合には利用したウェブページのリンクを明示的に貼り付けるべきとされる。

 

2.著作権:思想的背景

 ウィキペディアは「GNUフリー文書利用許諾契約(GNU Free Documentation License: GFDL)」に準拠している。GFDLの適用された文章,図等さまざまな成果物は一般公衆に対して無条件な再配布,改変の自由が承認されなければならない。例えば,GFDL下にある自身の成果物を誰かが複製した場合にも特別な許諾を要求することはできない。また,一度GFDLが適用されれば,その成果物を利用するすべての派生物にGFDLが適用されるため,連鎖性を持つといえる。ウィキペディアのサイトに自作の記事を載せると,当該記事は自動的にGFDLの適用を受けるため,参加者はまずこの点に留意する必要がある。

 GFDLはコピーレフト契約の1つである。コピーレフトは1980年代のフリーソフトウェア運動で生まれたソフトウェアに関する権利概念であった。コンピュータの黎明期にはプログラマーは相互にソースコードを含めた情報資源を融通,共有することでソフトウェアの開発を促進していたが,商業ソフトウェアの登場により使用許諾という形で情報資源の囲い込みが行われるようになった。これに反対してストールマン(Richard Stallman)らがフリーソフトウェアを用いたシステム開発を目指すGNUプロジェクトを立ち上げた。その基本理念として考案したのがコピーレフトである。著作者に配慮しつつ,ソースコードを含めてソフトウェアの再配布(その前提としてのコピー)や改変を可能とする。自由な情報資源の共有が知的創作活動を活性化するという点を重視した権利概念といえる。

 

3.ウィキペディアの限界と課題

 オープンコンテンツに徹している分,ウィキペディアには問題も少なくない。内容全体を把握し,調整する編集者が存在しないため,分野ごとの記事の記述レベルや分量に偏りが生じるのは避けられない。内容精査のためにはより多くの参加者を獲得しなければならないが,他方で規模が拡大するほど,「観点の中立性」を維持するための政治的努力が必要になる。

 GFDLにも幾つか問題がある。コピーレフト契約は米国著作権法を基に考案されたものであり,法制度の異なる国で問題が生じた場合について法的有効性は保証されていない。インターネットは容易に国境を越えてしまうだけに,問題は複雑である。また,ウィキペディアでは外部の情報資源を利用することが多く,それがフリーであるか否かという問題は常に付きまとう。万が一,フリーでない著作物を勝手に利用してしまうようなことがあれば,それがウィキペディアの企画全体を左右しかねない。

 ウィキペディアは立上げからまだ3年にも満たない若い企画であり,課題がどのように解消されていくのか,今後とも見守っていく必要がある。

関西館資料部文献提供課:福田 亮(ふくだあきら)

 

Ref.

Stalder,F.et al.Open Source Intelligence.First Monday.7(6),2002.(online),available from < http://www.firstmonday.dk/issues/issue7_6/stalder/ [27] >,(accessed 2003-10-04).

Mayfield,K.Not Your Father's Encyclopedia.Wired News.2003-01-28.(online),available from < http://www.wired.com/news/print/0,1294,57364,00.html [28] >(原文);< http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20030131208.html [29] >(日本語訳),(accessed2003-10-04).

Wikipedia.(online),available from < http://www.wikipedia.org [30] >,(accessed 2003-10-04).;ウィキペディア日本版.(online),available from < http://ja.wikipedia.org [31]. >,(accessed 2003-10-04).

GNU FDL.(online)available from < http://www.gnu.org/licenses/fdl.ja.html [32] >,< http://www.opensource.jp/fdl/fdl.ja.html [33] >,(accessed 2003-07-14).

岡村久道.特集:オープンソースソフトウェア,オープンソース・フリーソフトウェアの法的課題.情報処理.43(12),2002,1347-1352.

増井俊之.Wiki Wiki Webとその仲間.ASCII.26(1),2002,230-231.

 


福田亮. オープンコンテンツの百科事典ウィキペディア. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.6-8.
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  • 参照(33269)
カレントアウェアネス [6]
Wikipedia [35]
オープンアクセス [36]
著作権 [37]
米国 [25]

CA1511 - Diffuseプロジェクト-欧州における電子情報交換に関わる標準ポータルサイトの構築- / 村上泰子

  • 参照(22291)

PDFファイルはこちら [38]

カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1511

 

Diffuseプロジェクト 
−欧州における電子情報交換に関わる標準ポータルサイトの構築−

 

 Diffuseは欧州における情報社会技術(Information Society Technologies: IST)計画のひとつで,電子情報の交換に関わる標準や仕様についての包括的なポータルサイトの構築を目的としたプロジェクトである。その維持・管理には主としてフィンランド情報社会開発センター(TEIKE)があたり,1995年に開始されたOII(Open Information Interchange)イニシアチブ(注)に端を発する。Diffuseはこれを受け,欧州研究開発第5次フレームワーク計画(FP5)の資金を得て,2000年2月から2003年1月までの3か年計画で実施された。FP5におけるIST計画は「ユーザーフレンドリーな情報社会」をテーマとし,その観点から4つの重点活動領域を設定している。Diffuseは4領域のうち「新しい業務方法と電子商取引」および「マルチメディアのコンテンツとツール」に関連する。

 欧州においてその後の情報政策の方向性を示したとされるバンゲマン報告(Bangemann Report)を受けて1994年に策定された行動計画の中でも既に明示されていたように,情報社会において欧州が競争力を維持・発展させていくためには,グローバルルールの策定に積極的に関与していくことが必要とされる。国際標準化活動はその重要な一部である。技術の発展速度が早まる中,ある技術が標準となるかどうかは普及率2〜3%の時点で定まるとの見方もあり,既に決定された標準に関する情報のみならず,迅速に幅広く標準に関する情報を提供する意義を見出すことができよう。

 インターネットが商用利用に開放されるようになり,ネットワークを活用してコンテンツを提供しようという試みが激増してきた1990年代半ばは,W3Cが組織されて,業界や団体による標準化活動が活発化し,ダブリンにおいてメタデータに関する議論が開始された時期にあたる。1998年にはW3CでXML勧告が出され,XMLが電子データ交換のユニバーサルな構文として受け入れられはじめた。こうした流れを受けてDiffuseも当初はXML関連の標準や仕様を中心にデータベースが構築されていった。2001年8月に発表された経過報告書によれば,130か国,週3,000サイトからのアクセスがあるという。その情報収集においては,適時に中立かつ質の高い情報を提供するという姿勢を重視し,参考情報やガイダンス情報を含めて,付加価値性の高い単一のアクセスポイントを提供することを目指している。

 Diffuseサイトでは,個々の標準・仕様の一覧,アルファベット順索引,検索エンジン,トピックマップのほか,個々の主要技術領域のコンセプトや発達段階について標準や仕様の応用面からの概観を提供するビジネスガイド,研究・技術開発プロジェクトのリスト,標準策定に関わっている各種フォーラムのリスト,なども用意されている。標準策定プロセスには1990年代後半から,国際標準化団体がトップダウンで策定するデジュール標準,ある規格が広く使用されて事実上の標準として機能するデファクト標準のほかに,同一業種の複数の企業等がフォーラムあるいはコンソーシアムを作成して規格の相互調整を行うという方法も現れた。標準フォーラムのリストが必要とされる背景にはこのような事情がある。

 図書館関連の標準や仕様も,相互貸借,検索,書誌,電子データ交換,統計,MARC,メタデータなど幅広くカバーされている。

 2003年1月にFP5の期間が終了し,今後Diffuseサイトがどのように維持管理されていくか,その体制については未定である。次段階FP6におけるISTの重点活動領域は,「市民および産業界が最も関心を持つ技術領域への研究の再統合」,「コミュニケーションおよびコンピュータの基盤」,「コンポーネントとマイクロシステム」,「情報管理とインタフェース」である。DiffuseがFP6でも引き続きプロジェクト資金を獲得することができるかどうか。そのひとつの道筋を2002年12月開催のDiffuse最終会議(於ブリュッセル)に見ることができる。最終会議では今後のウェブ社会をリードする技術として,ウェブ上での分散処理を実現する「グリッド・サービス」と,XML,RDF,オントロジーなどの階層的構成によりウェブ上での意味的処理を可能にする「セマンティック・ウェブ」とが取り上げられた。すでに関連する数多くの技術が提案されている現在,Diffuseはこれらの技術をターゲットとして標準化合意を推進する過程を支援することに,自らの存続をかけるものと見られる。

梅花女子大学文学部:村上 泰子(むらかみやすこ)

(注)OIIイニシアチブは欧州委員会情報社会総局のIMPACT2プログラムの一部として発足し,INFO2000(CA1068 [39]参照)のもとで,電子情報の交換を促進するような標準や仕様についての情報を提供していた。

 

Ref.

The Diffuse Project Home Page.(online),available from < http://www.diffuse.org/ [40] >,(accessed 2003-09-16).

Li,Man-Sze.Diffuse: Interim Report of the IST Diffuse Project.Diffuse,2001,9p.

Diffuse.Convergence of Web Services,Grid Services and the Semantic Web for delibering e-Services?(online),available from < http://www.diffuse.org/conference3-conclusions.html [41] >,(accessed 2003-09-16).

European Commission.The priorities of the Sixth Framework Programme 2002 - 2006(RTD Info Special edition).European Commission,2002.32p.(online),available from < http://europa.eu.int/comm/research/rtdinfo/pdf/rtdspecial-fp6_en.pdf [42] >,(accessed 2003-09-16).

European Commission.Europe's Way to the Information Society - An Action Plan.19.07.1994.(online),available from < http://europa.eu.int/ISPO/docs/htmlgenerated/i_COM [43](94)347final.html >,(accessed 2003-11-10).

 


村上泰子. Diffuseプロジェクト−欧州における電子情報交換に関わる標準ポータルサイトの構築−. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1511 [44]

カレントアウェアネス [6]
欧州 [45]

CA1512 - 動向レビュー:電子ジャーナルの出版・契約・利用統計 / 加藤信哉

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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1512

動向レビュー

 

電子ジャーナルの出版・契約・利用統計

 

1.電子ジャーナルの出版傾向

 電子ジャーナルの出版タイトル数の推移を正確に追跡することは容易ではない。年刊で刊行され,世界の定期刊行物を収録しているUlrich's International Periodicals Directoryに初めて電子ジャーナルの項目が登場したのは1988-1989年版からである。これに基づいて電子ジャーナルの出版タイトル数の推移が示されることが多い(図1)。しかし年によって出版タイトル数の精度にばらつきが見られる。

 

図1 電子ジャーナル出版タイトル数の推移

 

図1 電子ジャーナル出版タイトル数の推移

 

出典:Ulrich's International Periodicals Directoryの各版の序文による

 

 米国研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL)では1991年にDirectory of Electronic Journals,Newsletters and Academic Discussion Listsを創刊しているが,この中から査読付き(peer reviewed)電子ジャーナルを抜き出してまとめることもある(図2,表1)。

 

図2 査読付き電子ジャーナル出版タイトル数の推移

 

図2 査読付き電子ジャーナル出版タイトル数の推移

 

出典:ARL Directory of Electronic Journals, Newsletters and Academic Discussion Lists 1997年版 
ARL Directory of Scholarly Electronic Journals and Academic Discussion Lists. (online), available from < http://dsej.arl.org/ [47] >, (accessed 2003-05-04).

 

表1 査読付き電子ジャーナルの分野別出版タイトル数および割合(分野の重複あり)

 

 分野   タイトル数   割合 
 人文科学  520 10%
 社会科学  1,969 36%
 生命科学  2,390 44%
 物理科学  1,139 21%
 工学  963 18%
 一般  32 1%
 人物・地域  248 5%


出典:ARL Directory of Scholarly Electronic Journals and Academic Discussion Lists. (online), available from < http://dsej.arl.org/ [47] >, (accessed 2003-05-04).

 

 キング(Donald W.King)等(1)は,Ulrich's International Periodicals Directoryの2002年版に基づき,収録されている250,000タイトルの定期刊行物のうち約15,000タイトルが査読付きの学術雑誌であり,その内10,200タイトルがオンラインで利用できると述べている。

大手の出版社やアグリゲータの電子ジャーナルのタイトル数は次頁(表2)のとおりである。

 

表2 電子ジャーナルの主要な出版社・アグリゲータとそのタイトル数(概数)

 

 出版社等   タイトル数 
 エルゼビア・サイエンス 1,800
 クルーワー 750
 ブラックウェル・パブリッシング  681
 シュプリンガー・フェアラーク 500
 ワイリー 300
 テイラー&フランシス 760
 セイジ 300
 エメラルド 150
 オックスフォード大学出版局  168
 ケンブリッジ大学出版局 150
 米国化学会 34
 IEEE 100
 米国物理学協会 100
 ACM 250
 ハイワイヤー・プレス 343
 プロジェクトMUSE 200
 JSTOR 353

 

出典:各出版社等のホームページ(accessed 2003-10-12)

 

2.電子ジャーナルの価格モデルと契約

 スエッツ・ブラックウェル社が2003年に出版社50社を対象として行った電子ジャーナルの調査(2)によれば冊子体雑誌と電子ジャーナルのバンドル価格を設定している出版社は83%,冊子体雑誌とは別に電子ジャーナルの価格を設定している出版社が58%(価格は冊子体雑誌の80%から100%相当),冊子体雑誌への追加料金として電子ジャーナルの価格を設定している出版社が23%(価格は冊子体雑誌の3%から35%相当)あった。EU諸国では電子ジャーナルに付加価値税(VAT)がかかるので(例:英国17.5%)冊子体雑誌と電子ジャーナルのバンドル価格が多くなっているようである。

 同社の調査によれば,電子ジャーナルの購読契約に当たってコンソーシアム価格体系又は複数サイトユーザ用の価格体系を用意している出版社が63%あり,そのうち冊子体雑誌の購読実績に基づき価格を設定している出版社が6%,パッケージのカタログ価格から値引きしている出版社が55%,その他が33%となっている。

 図書館コンソーシアムの国際的な団体である国際図書館コンソーシアム連合(International Coalition of Library Consortia: ICOLC)は,2001年12月に『電子的情報の選択と購入を巡る現在の情勢と望ましい方向への実施策に関する声明』の改訂版その1『電子ジャーナルの利用許諾をめぐる新たな進展』を発表し,電子ジャーナルの価格設定を冊子体雑誌から切り離し,冊子体雑誌は電子ジャーナルのオプションとすること,料金を定額料金,従量料金,定額料金と従量料金の組み合わせから選択できるようにすること等を主張している(3)。

 現在,商業出版社が図書館コンソーシアムに提供するコンソーシアム・サイト・ライセンスはビッグ・ディール(Big Deal)と呼ばれるもので,出版社が刊行する雑誌の全タイトルを一括して提供するものである。これは一般に契約期間が3年から5年で過去の冊子体の購読総額に電子ジャーナルの利用料金として冊子体購読総額の5%から15%を追加して利用するものであり,冊子体雑誌の値上り率が6%から7%と低く押さえられ,ILLや授業用教材作成への利用も認められている。その反面契約期間内は冊子体雑誌の中止が原則としてできない。ビッグ・ディールは1990年代の後半から急速に普及し,中・大規模出版社の総収入の20%から58%を占めるといわれている。ビッグ・ディールは図書館にとっては利用できる雑誌の種類が増え,出版社にとっては安定した収入をもたらしている。しかしながら,ビッグ・ディールについて根本的な疑問が出されている。それは出版社またはコンソーシアムにとってビッグ・ディールが持続可能なモデルであるかということである。ビッグ・ディールは図書館の通常経費ではなく,特別な予算で賄われていることが多い。ビッグ・ディールの更新時期の財政事情によっては図書館が他の財源を劇的に削減するか,現在とは別のモデルを模索せざるを得ない状況のようである(4)。

 

3.電子ジャーナルの利用統計

 ARLの統計によるとARL加盟館106館の図書館資料費に電子情報資源(electronic resources)の予算が占める割合は平均16.25%であり,全体で132億ドルが支出されている。また,1992-1993年に比べると電子情報資源の予算は5倍近く増加している(5)。このように電子情報資源の図書館予算に占める割合が増えてくると,導入している電子情報資源の費用対効果が問われてくるのは当然であろう。図書館で利用している電子情報資源の多くは,利用の際にインターネットを通じて出版社等のサーバにアクセスするネットワーク情報資源である。これらの情報資源は従来の図書館蔵書と異なって図書館内部で利用実態の把握をすることができない。異なる出版社,ベンダーから電子情報資源の利用統計レポートを入手し,比較することが必要となる。

 ICOLCは,『ウェブベースの情報資源利用に関する統計的測定のガイドライン』(6)を2001年12月に刊行した。このガイドラインでは,提供されるべき最低限のデータ要素として,セッション回数(ログイン回数),クエリー数(検索回数),メニューの選択回数,利用者に提供されたコンテンツ単位の数,アクセス拒否件数を挙げ,それぞれのデータの集計単位についても規定している。

 ARLが開始した電子情報サービスの統計・評価方法を構築するための研究プロジェクト,E-Metricsでは2000年11月から2001年6月にかけて行われたフェーズ2でICOLC等の先行事例を基に統計・評価の実地検査を実施した。その結果,多くのベンダーが利用統計データを全く提供していない,レポートが整合性に欠ける,レポートのフォーマット,項目が異なる,レポートが比較できない,ベンダーによって計数の仕組みが異なる,等の問題点が明らかになった(7)。

 一方,英国の出版社・図書館問題解決委員会(Publishers And Libraries Solutions Committee: PALS)利用統計ワーキング・グループの活動から発展した取り組みであるCOUNTER(Counting Online Usage of NeTworked Electronic Resources)(8)は,電子ジャーナルやデータベース等のオンライン情報資源の利用状況を的確に把握しようとするものであり,そのためには信頼性があり,比較可能で,整合性のある利用統計(usage statistics)が必要である。この達成に向けての重要なステップは,利用データの記録と交換を管理する国際的に合意された実務指針の開発である。COUNTERの最初の主要目的はそのような実務指針を開発することであった。実務指針については,2003年1月14日にリリース1(2002年12月)が公表された(9)。リリース1は電子ジャーナルとデータベースに焦点を合わせた指針であるが,将来的には電子ブックも対象とされるようである。リリース1で規定された利用統計レポートは次のとおりである(表3)。現在,実務指針を遵守している出版社等は,アニュアル・レビューズ,ブラックウェル・パブリッシング,インジェンタ,ISI,オックスフォード大学出版局,ポートランド・プレス,トムソン・ラーニング/ゲールである(10)。今後は,出版社,ベンダーおよび図書館関係団体が創設したCOUNTERがISOやNISOなどの規格制定団体と協力してオンライン情報資源の利用統計についての標準化を国際的に推進していくと予想される。

 

表3 COUNTERリリース1で規定された利用レポートの種類

 

種  類 内  容 レベル
 雑誌レポート1  月別および雑誌別の成功した論文単位での
フルテキスト要求件数
 1(必須) 
 雑誌レポート2  月別および雑誌別のアクセス拒否数
(このレポートは利用者アクセスモデルが
最大同時ユーザ数に基づいている場合にのみ
適用される)
 1(必須) 
 雑誌レポート3  月別、雑誌別、およびページタイプ別の成功
したアイテム要求数とアクセス拒否数
 2(推奨) 
 雑誌レポート4  月別およびサービス別の総検索実行数  2(推奨) 
 データベースレポート1  月別およびデータベース別の総検索数及び
総セッション数
 1(必須) 
 データベースレポート2  月別およびデータベース別のアクセス拒否数  1(必須) 
 データベースレポート3  月別およびサービス別の合計検索数および
合計セッション数
 1(必須) 

 

熊本大学附属図書館:加藤 信哉(かとうしんや)

 

(1) King, D. W. et al. "The role of library consortia in electronic journal services".The consortium site licence: Is it a sustainable model?Oxford,Ingenta Institute,2002,19.
(2) 2003 Swets Blackwell e-journal survey.Lisse,Swets Blackwell,2003,20p.
(3) ICOLC."Statement of Current Perspective and Preferred Practices for the Selection and Purchase of Electronic Information (Update No.1: New Developments in E-Journal Licensing)".(online),available from < http://www.library.yale.edu/consortia/2001currentpractices.htm [48] >, (accessed 2003-10-12).
(4) Rowse,Mark.The consortium site license: a sustainable model? Libri.53(1),2003,1-10.
(5) Young,Mark.et al.ARL supplementary statistics 2000-01.ARL,2002,40p.(online),available from < http://www.arl.org/stats/pubpdf/sup01.pdf [49] >, (accessed 2003-10-12).
(6) ICOLC."Guidelines for statistical measures of usage of web-based information resources".(online),available from < http://www.library.yale.edu/consortia/2001webstats.htm [50] >, (accessed 2003-10-12).
(7) Shim,W.et al.Improving database vendors' usage statistics reporting through collaboration between libraries and vendors.Coll Res Libr.63(6),2002,499-514.
(8) COUNTER.(online),available from < http://www.projectcounter.org/ [51] >,(accessed 2003-10-12).
(9) COUNTER.Code of Practice.(online),available from < http://www.projectcounter.org/code_practice.html [52] >,(accessed 2003-10-12).
(10) COUNTER."Register of Vendors".(online),available from < http://www.projectcounter.org/articles.html [53] >, (accessed 2003-10-12).なお,Shepherd,P.T.COUNTER: from conception to compliance.Learned Publishing.16(3),2003,201-205.によれば,2003年中に遵守予定の出版社等には米国化学会,米国物理学協会,BMJパブリッシング・グループ,CABIインターナショナル,エブスコ,エルゼビア・サイエンス,エクステンザ,ハイワイヤー・プレス,物理学協会出版,リッピンコット・ウィリアムズ&ウィルキンズ,ネイチャー・パブリッシングおよびワイリーが含まれる。

 


加藤信哉. 電子ジャーナルの出版・契約・利用統計. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.9-12.
http://current.ndl.go.jp/ca1512 [54]

  • 参照(38757)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
電子ジャーナル [56]

CA1513 - 動向レビュー:OAI-PMHをめぐる動向 / 尾城孝一

PDFファイルはこちら [57]

カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1513

動向レビュー

 

OAI-PMHをめぐる動向

 

 

はじめに

 OAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting)は,OAI(Open Archives Initiative)(1)が策定したメタデータ収集(メタデータ・ハーベスティング)のためのプロトコル(規約)である。2002年6月に第2版(2)(3)が公表されて以来,OAI-PMHを採用する機関,プロジェクトの数は上昇の一途をたどっている(4)。未だに米国情報標準化機構(National Information Standards Organization: NISO),国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)等の公式の規格とはなっていないが,事実上の標準としての地位を確立している。 本稿では,まずOAIおよびOAI-PMHの概要,プロトコルとしての特質について述べる。次いで,国内外における適用事例を紹介し,最後に,OAI-PMHをめぐる今後の課題と展望について俯瞰することとしたい。

 

1.OAIとは

 OAIは,メタデータ収集を通じて多様なリポジトリ(電子情報庫)間の相互運用を促進することを使命とした国際的な運動である。

OAIの歴史は,1999年10月に米国のサンタフェで開催された会議にまで遡ることができる(5)。当時,その数を増しつつあったeプリントアーカイブ(電子論文保管庫)の相互運用性の確立を目的として開催されたこの会議において,メタデータの収集を通じて複数アーカイブの相互運用を図るという基本的な枠組みが合意された。

 その後,2000年8月には電子図書館連合(Digital Library Federation: DLF)とネットワーク情報連合(Coalition of Networked Information: CNI)が支援を表明し,その活動範囲もeプリントアーカイブから各種電子情報コンテンツのリポジトリへと拡大されることとなる。そして2001年1月にはOAI-PMHと呼ばれるメタデータ収集のためのプロトコル第1版が制定され,さらに翌2002年の6月には第2版が発表されている。

 

2.OAI-PMHとは

2.1 プロトコルの概要

 OAI-PMHの基本的な枠組みは,「データプロバイダ」と「サービスプロバイダ」と呼ばれる2種類の参加者によって形作られる。データプロバイダは,各種電子情報を蓄積したサーバを維持し,OAI-PMHによりメタデータを開示する。一方,サービスプロバイダは,データプロバイダが提供するリポジトリからOAI-PMHを使用してメタデータを収集し,それに基づき各種の付加価値サービスを提供する。

 データプロバイダが維持する「リポジトリ」は,OAI-PMHに定義された後述する6つの要求(リクエスト)に対して応答することのできるサーバである。一方,サービスプロバイダがメタデータ収集に使用する「ハーベスタ」は,OAI-PMHの要求を発行するクライアント側の応用ソフトウェアということになる。

 続いて,プロトコルに従ってやりとりされるメタデータに関する概念と定義について見ていくことにする。

 まず「アイテム」であるが,これはリポジトリの構成要素のひとつであり,あるひとつのリソースに関するメタデータを複数のフォーマットで蓄積する概念的な容れ物(コンテナ)であると定義されている。アイテムにはリポジトリのなかで一意になる識別子が付与される。

 アイテムと対になる概念として「レコード」がある。レコードは,あるひとつのフォーマットで表現されたメタデータのことである。レコードはOAI-PMHの要求に対して,XMLでコード化されて返戻される。

 OAI-PMHでは,複数のメタデータ・フォーマットによるレコードの送信が認められているが,最低限の相互運用性を保証するために,限定子の付かないダブリン・コア(シンプル・ダブリン・コア)での送信が必須の要件となっている。

 リポジトリには,複数のアイテムをグループ化するために「セット」という概念を導入することができる。例えば,主題,リソース種別(図書,論文,教材等)あるいは作成機関などのセットが考えられる。ただし,セットは必須の要素ではなく,あくまでオプションとして設定することができる。ハーベスタは,こうしたセットや日付を利用して,リポジトリの中から選択的にメタデータを収集することが可能になるのである。

 OAI-PMHで使用される要求は以下の6つのみである。

  1. Identify(リポジトリに関する情報を取得する)
  2. ListMetadataFormats(リポジトリにおける利用可能なメタデータ・フォーマットの一覧を取得する)
  3. ListSets(リポジトリのセット構造を取得する)
  4. ListIdentifiers(リポジトリからレコード中のヘッダー情報のみを取得する)
  5. ListRecords(リポジトリから条件に合致するレコード全てを取得する)
  6. GetRecord(リポジトリから個々のレコードを取得する)

 このうち,Identify,ListMetadataFormats,ListSetsの3つは,リポジトリに関する情報を入手するための要求である。残りの3つの要求が,実際にリポジトリからメタデータを収集する際に利用される。ほとんどの要求には引数を指定することができる。

2.2 プロトコルの特徴

 OAI-PMHのプロトコルとしての特徴は,その簡潔性につきる。可能な限り多くのデータプロバイダがOAI-PMHに基づく相互運用性の枠組みに参加できるように,意識的に限定された機能しか組み込まれていない。

 また,既存のウェブ技術標準をそのまま活かし,できるだけ実装者の負荷を軽減させようという意図が伺える。例えば,要求は全てHTTPのGETもしくはPOSTを使って送信する。それに対する応答にはXMLを使用し,文字コードにUTF-8を採用している。Z39.50(ISO23950)のような規格と比較すると,まさに「敷居の低い」プロトコルと言えよう。

 さらに2003年10月には,データプロバイダの負担を一層軽減するための仕組みである静的リポジトリ・ゲートウェイ(Static Repository Gateway)の仕様が公開されている(6)。

2.3 OAI-PMHの適用事例

 2.3.1 関連プロジェクト

  • (1)FAIR(Focus on Access to Institutional Resources):

    FAIRは英国のJISC(CA1501 [58]参照)の助成金によるプログラムであり,2002年1月に開始された。OAI-PMHを通じて学術機関の知的資産を配信し,新たなサービスを創出することをめざしている。合計14のプロジェクト(参加機関数50)により構成される(7)。
  • (2)NSDL(National Science Digital Library):

    NSDLは全米科学財団(National Science Foundation: NSF)が助成するプロジェクトであり,科学に関連する多様なデジタル・コンテンツを提供する電子図書館の構築をめざしている。今後5年間で,数百万の利用者を対象として,数千万の電子リソースを提供する予定である。NSDLのシステム・アーキテクチャにおいてOAI-PMHは不可欠の役割を演じている(8)。
  • (3)メロン財団のイニシアチブ:

    2001年8月,メロン財団からOAI-PMHに基づく多様なサービスを開発するための研究費が7機関に配分された。助成金の総額は,150万ドルに達する。各プロジェクトは以下の3点の課題に取り組んでいる(9)。
    • 複数機関,複数分野にまたがる広範囲なメタデータに基づくポータル・サービスの設計
    • アーカイブや特殊コレクションからのメタデータ収集
    • 特定のトピックに基づく,様々なフォーマットの資料に関するメタデータ収集

 2.3.2 データプロバイダ

 OAI-PMHに準拠したデータプロバイダの例については,OAIのホームページを参照されたい。2003年10月27日現在,121のリポジトリが登録されている(10)。

 2.3.3 サービスプロバイダ

 一方,サービスプロバイダについてもOAIのホームページにリストが掲載されている(11)。以下に代表的な事例を挙げる。

  • (1)ARC:

    米オールド・ドミニオン大学が開発した複数リポジトリの横断検索システム(12)。
  • (2)my.OAI:

    OAI-PMH準拠のデータベースを統合検索するための多機能サーチエンジン(13)。
  • (3)NDLTD OAI Union Catalog:

    電子学位論文ネットワーク(Networked Digital Library of Theses and Dissertations: NDLTD)のOAI版総合目録(14)。
  • (4)OAIster:

    上記メロン財団のイニシアチブのプロジェクトのひとつ。イリノイ大学が開発したハーベスタを使用して,203の機関からメタデータの収集を行い,170万件を超えるレコードの検索サービスを提供している(2003年10月1日現在)(15)。
  • (5)SCIRUS:

    エルゼビア・サイエンス社が開発した,学術文献に特化したサーチエンジン。OAI-PMHによって収集されたメタデータを含む(16)。

 2.3.4 国内の事例

 千葉大学附属図書館では,学内で生産される様々な電子的な研究成果を蓄積し,保存し,発信するための「千葉大学学術情報リポジトリ」の構築が進められている。このリポジトリに蓄えられたコンテンツの視認性をさらに高めるために,OAI-PMHのリポジトリ機能が実装された。

 一方,国立情報学研究所では,大学等からの情報発信を支援することを主たる目的として,平成14年度からメタデータ・データベース共同構築事業を開始している。国立情報学研究所は,OAI-PMHに準拠したハーベスタを開発し,「千葉大学学術情報リポジトリ」から定期的にメタデータを収集し,メタデータ・データベースに格納している。

 OAIの枠組みの中で両機関の役割をとらえるなら,千葉大学がデータプロバイダ,国立情報学研究所がサービスプロバイダとして位置づけられよう。

 

3.今後の展望と課題

3.1 OAI-PMHをめぐる展望

 以上,OAI-PMHを適用した国内外の事例を紹介してきたが,このプロトコルが持つ潜在力は,これらの適用事例以外にも効力を発揮するに違いない。例えば,図書館が提供するOPACにOAI-PMHを実装すれば,分散統合型の総合目録を形成することも夢ではない。また,各機関で構築が進んでいる貴重書データベースや古文書データベースなどの電子図書館に適用することによって,さまざまな付加価値を持ったポータル(統合的情報窓口サービス)を開発することも可能となろう。

3.2 今後の課題

 今のところ,日本においてOAI-PMHのリポジトリとしての機能を備えたデータベースは,千葉大学附属図書館の学術情報リポジトリと国立情報学研究所のメタデータ・データベースの2つのみである。OAI-PMHが持つ潜在的な可能性を最大限に発揮させ,さまざまな付加価値を備えたサービスを開発するには,このプロトコルを世の中に広め,その実装を促すための広報・普及活動が求められる。

 また,新規にOAI準拠のリポジトリを構築したり,既存のデータベース等をOAI準拠にするための支援ソフトウェアの開発も期待される。海外では既にオープンソース化された無償のソフトウェアが多数存在する。日本においても,こうしたツール類の開発および無償頒布が望まれる。

 

おわりに

 昨今,様々な「電子図書館」プロジェクトの旗の下に,多種多彩な電子情報資源が日々生産され,インターネット上に蓄積されている。しかしながら,これらの情報資源は現状では孤立した存在であると言ってよい。利用者は個々の情報資源の提供場所を探し出し,そこを訪問し,それぞれ異なるインターフェイスを介して情報にアクセスすることを強いられている。

 貴重な電子情報資源をインターネットの大海のなかの「孤島」に終わらせないためにも,「孤島」間の相互利用性を確立する枠組みの構築が求められている。本稿で紹介したOAI-PMHはそのための鍵となる要素技術である。多様な可能性を秘めたこのプロトコルのなお一層の浸透が望まれる。

千葉大学附属図書館:尾城 孝一(おじろこういち)

 

(1) Open Archives Initiative.(online), available from < http:// www.openarchives.org/ [59] >,(accessed 2003-10-27).
(2) The Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting [Protocol Version 2.0] .(online), available from < http://www.openarchives.org/OAI/openarchivesprotocol.html [60] >, (accessed 2003-10-27).
(3) OAI-PMH 2.0日本語訳. (online), available from < http://www.nii.ac.jp/metadata/oai-pmh2.0/ [61] >, (accessed 2003-10-27).
(4) Lagoze,Carl et al.The making of the Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting. Libr Hi Tech. 21(2), 2003, 118-128.
(5) Van de Sompel ,H.et al. The Santa Fe Convention of the Open Archives Initiative.D-Lib Magazine. 6(2), 2000. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/february00/vandesompel-oai/02vandesompel-oai.html [62] >, (accessed 2003-10-27).
(6) Specification for an OAI Static Repository and an OAI Static Repository Gateway.(online), available from < http://www.openarchives.org/OAI/2.0/guidelines-static-repository.htm [63] >, (accessed 2003-10-27).
(7) FAIR. (online), available from < http://www.jisc.ac.uk/index.cfm?name=programme_fair [64] >, (accessed 2003-10-27).
(8) NSDL. (online), available from < http://nsdl.org/ [65] >, (accessed 2003-10-27).
(9) Waters, Donald J. The Metadata Harvesting Initiative of the Mellon Foundation.ARL Bimonthly Report. (217), 2001. (online), available from < http://www.arl.org/newsltr/217/waters.html [66] >, (accessed 2003-10-27).
(10) Registered Data Providers. (online), available from < http://www.openarchives.org/Register/BrowseSites.pl [67] >, (accessed 2003-10-27).
(11) Registered Service Providers. (online), available from < http://www.openarchives.org/service/listproviders.html [68] >, (accessed 2003-10-27)
(12) ARC. (online), available from < http://arc.cs.odu.edu/ [69] >, (accessed 2003-10-27).
(13) my.OAI. (online), available from < http://www.myoai.com/ [70] >, (accessed 2003-10-27).
(14) ETD OAI Union Catalog. (online), available from < http://rocky.dlib.vt.edu/~etdunion/cgi-bin/index.pl [71] >, (accessed 2003-10-27).
(15) OAIster. (online), available from < http://oaister.umdl.umich.edu/o/oaister/ [72] >,(accessed 2003-10-27).
(16) SCIRUS. (online), available from < http://www.scirus.com/ [73] >, (accessed 2003-10-27).

 


尾城孝一. OAI-PMHをめぐる動向. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1513 [74]

  • 参照(25242)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
メタデータ [75]
データベース [24]

CA1514 - 研究文献レビュー:利用者教育-「情報リテラシー」との関わりを中心に- / 野末俊比古

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カレントアウェアネス
No.278 2003.12.20

 

CA1514

研究文献レビュー

 

利用者教育
−「情報リテラシー」との関わりを中心に−

 

はじめに

 本稿では,2001年以降を対象とし,「利用者教育」に関するわが国(日本語)の研究文献(実践報告などを含む)のレビューを行う。雑誌論文・記事のほか,図書や報告書なども取りあげる(1)。

 利用者教育(user education)については(2),日本図書館協会(JLA)からガイドラインが発表されており,「大学図書館版」「学校図書館(高等学校)版」「公共図書館版」「専門図書館版」と,4つの館種にわたっている(3)。利用者教育に関するものとしては初めてのハンドブックも刊行されている(4)。また,雑誌の特集として取りあげられたり(5),学協会の年次大会でテーマになったりするなど,利用者教育は,実践のうえでも,研究テーマとしても,その重要性・必要性が広く認識されて,一定の実績や成果が出てきている。レビュー論文・記事が相次いで発表されたことは,一つの表れであろう。この点から,本題に入っていこう。

 なお,利用者教育をめぐっては,近年,情報リテラシー(information literacy)やその教育との関わりで論じられることがほとんどである。本稿でも,情報リテラシー(教育)を視野に入れるが,図書館とは直接関係のない文献は対象としない。

 

1.国内を対象とするレビューの登場(動向研究)

 海外の利用者教育・情報リテラシー(教育)を対象としたレビューは存在していたが,わが国を主な対象としたものが登場したことは,注目すべき点であろう。赤瀬によるレビューは,「情報リテラシーと利用教育」について,1992年頃から2001年頃までの文献を対象にしている(6)。館種としては,大学図書館と公共図書館を取りあげている。安藤は,これに学校図書館を含め,赤瀬の取りあげなかった文献を中心に,1999年から2001年を対象として,「図書館利用教育・情報リテラシー教育」についてレビューを行なっている(7)。安藤は,そこで漏れのあった文献を含め,2001年から2002年についてもレビューを行なっている(8)。こちらは,大学・大学図書館が中心になっている。これら3つのレビューによって,利用者教育・情報リテラシー(教育)に関する最近の国内文献は,相当程度まで網羅することができる(9)。

 上記のほかにも,市村は,「日本の情報リテラシー教育」について,「教育政策」のレビューを行なっており,公共図書館への言及がある(10)。増田によるレビューは,わが国の「初等教育における情報リテラシー教育」に関する部分が新しい(11)。また,長谷川は,「情報リテラシーと大学図書館」をめぐって,教科「情報」の影響など,最近の動向をまとめている(12)。

 安藤のいうように,わが国の文献については,「館種別でみると,大学図書館における利用教育及び情報リテラシー教育に関する文献が多い。大学図書館の場合,研究面では,調査研究,外国研究,理論研究,実験研究,歴史研究など数多く多種多様であり,実践面においては,国立大学附属図書館を中心とした事例報告が多い。一方,公共図書館と学校図書館の場合,文献が少なく,低調で,研究面では,外国研究(主にアメリカ)が多い」(13)。実践面でも,研究面でも,館種による「温度差」が存在することは,館種ごとの機能,環境,歴史などの違いによって,ある意味で当然ではある。それをどう解釈するかが,今後の課題であろう。動向を多様な観点から分析する必要がある。

 

2.大規模な実態調査の実施(調査研究)

 大規模な実態調査がしばしば行われ,結果を報告した文献が出されている。中島らは,全国の大学図書館(大規模大学)を対象としたアンケート調査を実施し(2001年実施,悉皆調査),過去の同様の調査との比較を含め,分析を行なっている(14)。橋は,全国の大学・高専図書館を対象としたアンケート調査を実施している(2000年実施,悉皆調査)(15)。地域を限定したものであるが,短期大学図書館(九州地区)を対象としたアンケート調査も行われている(2001年実施)(16)。三浦らは,「大学における教育改革と大学図書館の役割」に関するアンケート調査(2001年実施,悉皆調査)のなかで,利用者教育に関する設問を設けている(17)。これらの調査によれば,(新入生)オリエンテーションや,図書館内や授業での「図書館」「文献」利用法の指導などについては広く行われるようになっているが,「レポート作成(法)」の指導など,「情報リテラシー」として「期待される」内容については,そこまでは至っていない。

 公共図書館については,全国公共図書館協議会が「電子図書館」に関するアンケート調査のなかで,「情報リテラシー支援講座」について尋ねている(2001年実施,公立図書館への悉皆調査)(18)。コンピュータ,インターネット,OPACに限定したためか,実施率は5%に留まる。野末は,公立図書館を含む生涯学習施設を対象とした「情報化に応じたサービス」に関するアンケート調査のなかで,「『情報』に関する講座等」について尋ねている(2000年実施,都道府県立・市区立図書館への悉皆調査)(19)。「情報」を広く捉えたためか,実施率は15%に上る。

 対象や範囲を限定して,より詳細な分析を行う例もある。例えば,石川らは,12大学(図書館)の新入生オリエンテーションについて,指導内容や教授法などを分析している(20)。今後は,利用者を対象とした調査,インタビューなどによる質的な調査,教育の評価(効果)に関わる調査など,「実施状況の数量的な把握」を超える調査が増えることが期待される。

なお,JLA「日本の図書館」の調査(毎年実施)には,大学図書館に対して利用者教育について尋ねる項目がある(21)。また,今年は,同調査において,利用者教育をテーマとする附帯調査が実施されている。大学図書館を対象とした悉皆調査であり,調査項目も詳細であることから,集計結果の公表が待たれる。

 

3.様々な実践の報告・考察(事例研究)

 実践事例の報告・紹介やその考察・分析を通して得られる示唆は少なくない。ただ,そうした文献はかなりの数に上るため,すべては取りあげられない。まず,わが国の大学図書館・学校図書館について,「授業」に関わるものに絞ってみていこう。

 大学において,図書館が「情報リテラシー」の授業に対して,計画から実施にわたり,教員と連携,協力しながら積極的に関わった例としては,京都大学や慶應義塾大学がよく知られているが(22),ほかにも実践がある。例えば,明治大学については,実施上の課題や「生の声」を記した報告がある(23)。伝統的に利用者教育が積極的に展開されてきた医学(系)図書館からの実践報告にも目を向けたい(24)。また,授業の「全体」ではなく,「一部」を図書館が「借りて」実施される形式(いわゆる「ゼミガイダンス」など)は,専門分野の授業内容や課題と連動して指導されるため,強い動機づけが期待されるが,引き続き,盛んな実践が展開されている(25)。

 なお,大学では,図書館とは独立したかたちで実施される「情報リテラシー」の授業もある。本稿の文脈では,特に図書館情報学担当教員による授業実践を指摘するに留める(26)。

授業に関連して,「教材」の研究も一つの流れとして押さえておきたい。例えば,原田によるデータベースに関する調査や(27),横塚らによるウェブページを使った教材開発(28)などがある。さらに,CAIやパスファインダなども,教材あるいは「ツール」として捉えることができる(29)。ウェブ上で展開する「電子パスファインダ」の開発も進んでおり(30)(31),今後が注目される。

 学校図書館では,「調べ学習」に関するものなど,「授業」に関わる様々な文献を見出すことができる。ここでは,新学習指導要領で全面的に実施された「総合的な学習の時間」と図書館との関わりをめぐる事例報告を挙げるに留める(32)。また,公共図書館による実践の報告も出てきている(33)。大学図書館が地域住民向けに講座を開催する,という試みもある(34)。今後も各館種からの実践の成果を待ちたい。

 海外の実践や動向を紹介,分析した文献も少なくないので,ここで触れておく。大学図書館を対象としたものが多いが(35),公共図書館を対象としたものもある(36)。ウェブなどを利用した試み(いわゆるeラーニング)についても注視しておきたい(37)。

 学校図書館については,米国の新しい基準である 『インフォメーション・パワー:学習のためのパートナーシップの構築』(アメリカ・スクール・ライブラリアン協会ほか編,渡辺信一監訳,同志社大学,2000)に関する研究文献のレビューを行った岩崎らの論考を挙げておく(38)。米国では,『インフォメーション・パワー』に含まれる「児童・生徒の学習のための情報リテラシー基準」(アメリカ・スクール・ライブラリアン協会ほか,1998年)のような基準や指針が策定,活用されるなど,学校図書館や大学図書館を中心に,「情報リテラシー」をキー概念として利用者教育が組み立てられようとしている(39)。海外については,今後,米国以外の実践・動向についても研究が待たれる。

 

4.理論的基盤の模索(理論研究)

 理論的な研究にも目を向けておきたい。瀬戸口は,「情報リテラシー概念」について,米国およびわが国における変遷を整理したうえで,メディアリテラシーなどの類似概念との関係を分析している(40)。また,野末も,図書館における利用者教育にも触れながら,同様の論考を示している(41)。中村は,学校・学校図書館を念頭に,米国における「インフォメーション・リテラシー」概念について,「図書館関係団体の文書」を対象にしたレビューを行なっている(42)。大城は,米国の大学・大学図書館を対象に「情報リテラシーとは何か」を整理している(43)。しばしば「コンピュータの操作能力」と同義にすら用いられる「情報リテラシー」に対して,「図書館情報学」として理論的な枠組みを模索するこれらの試みには意義があろう(44)。

 今後の展開として,瀬戸口の論考には注目したい(45)。瀬戸口は,C.Bruceの「関係的アプローチ」に注目し,先行・関連研究のレビューを踏まえて,分析を加えている。単なる「言葉」上の規定に留まらず,教育・学習に展開できる情報リテラシー概念をめぐる研究の方向を示したものとして期待したい。

 ほかにも,学校教育課程(学習指導)における「図書館的方法」の位置づけを整理した室伏(46),情報の評価技能の育成における学校図書館の役割を論じた平久江(47),組織における情報共有化(ナレッジマネジメント)の必要性の点から利用者教育に言及した戸田(48)などの論考のように,図書館が「教育」に果たす意義や役割を裏づける試みは,今後も求められていこう。

 なお,小山による歴史的な研究も見逃してはならない(49)(50)。「情報リテラシー(教育)」という「理念」のもとで,ややもすると無制限,無方針に「拡大」を続ける利用者教育に対して,その「源流」を辿ることは意味を持つだろう。

 

おわりに

 以上,利用者教育をめぐる研究動向を概観してきた。今回は,館種ごとではなく,研究手法に基づき,4つの観点からまとめた。旧来から利用者教育が目標としてきた「図書館(図書館を介して利用できる資料や情報)を利用する知識や技能」,すなわち「図書館リテラシー」が,情報リテラシーの重要な一部であるという認識に基づき,情報リテラシー教育という社会的文脈に図書館を位置づけるという意識が,館種を超えて,大きな流れを作っている様子が感じられた。

 今後の課題は様々に指摘できるが,とりわけ,情報通信環境の進展に伴って変わってきた利用者のニーズ(潜在的なものを含む)や(51),情報探索・利用行動の様式に対応するために(52),利用者研究(user study)との連携を深めていくことが鍵となろう。また,指導にあたる図書館員の技能・知識やその育成(養成・研修)をめぐる問題も重要であることも強調しておきたい。

 誌面の制約もあり,文献については選択的に取りあげた場合がある。個々の紹介も簡略に留めた。不足する部分は,文中で紹介した文献(特にレビュー)に譲りたい。なお,今回は,専門図書館はほとんど取りあげられなかった。また,主に学校図書館に関わる読書教育・指導や,マスメディアの文脈を重視したメディアリテラシー(教育)などは,対象としていない。文中,敬称は省略した。

青山学院大学文学部:野末 俊比古(のずえとしひこ)

 

(1) 雑誌については,概ね「雑誌記事索引」< http://opac.ndl.go.jp/ [77] >に採録されている図書館情報学関係雑誌や大学紀要を中心にした。図書や報告書などについては,かなり選択的に取りあげた。報告書については,ウェブで公開されているものとした。
(2) 「利用者教育」には,「図書館利用教育」「図書館利用指導」「図書館ガイダンス」などの類義語があるが,本稿では,「図書館において」または「図書館(員)が関わって」実施される「指導的」なサービス(instruction service)や活動を包括する用語として「利用者教育」を用いる。ただし,取りあげる文献中の用語をそのまま使う場合がある。
(3) 日本図書館協会図書館利用教育委員会編.図書館利用教育ガイドライン合冊版.東京,日本図書館協会,2001,81p.なお,収録されている「大学図書館版」「学校図書館(高等学校)版」は1998年に,「公共図書館版」「専門図書館版」は1999年にそれぞれ公表されたものであるが,本書は,それに「総合版」を加えて,編集し直したものである。
(4) 日本図書館協会図書館利用教育委員会編.図書館利用教育ハンドブック:大学図書館版.東京,日本図書館協会,2003,209p.
(5) 例えば次のものなど。特集:情報リテラシー.情報の科学と技術.52(11),2002,549-585.;小特集:利用者教育.大学の図書館.20(9),2001,166-172.
(6) 赤瀬美穂.情報リテラシーと利用教育.図書館界.53(3),2001,314-321.
(7) 安藤友張.図書館利用教育・情報リテラシー教育をめぐる動向.情報の科学と技術.52(5),2002,289-295.
(8) 安藤友張.「情報リテラシー」「情報リテラシー教育」「図書館利用教育」をめぐる最近の動向.短期大学図書館研究.(23),2003,19-25.
(9) 本稿も,これらのレビュー,とりわけ安藤によるところが少なくない。取り上げる文献も重複するものが多いので,譲れるところは譲り,本稿では研究動向の「流れ」を記述することに重点を置きたい。なお,JLA図書館利用教育委員会編集発行の 『通信』(年4回発行,2003年からメールマガジン形式に移行予定)には,利用者教育に関する最近の文献リストが定期的に掲載されている。
(10) 市村櫻子.日本の情報リテラシー教育のレビュー.情報の科学と技術.52(11),2002,557-561.
(11) 増田和子.情報リテラシー教育の研究動向.図書館情報学研究.(2),2003,39-63.
(12) 長谷川豊祐.情報リテラシーと大学図書館.現代の図書館.41(3),2003,163-173.
(13) 前掲(7),p.293
(14) 中島幸子ほか.大規模大学大学図書館における利用教育の研究.同志社図書館情報学.(14),2003,16-36.
(15) 橋洋平.大学・高専図書館における情報リテラシー教育 調査報告.(online),available from < http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/4479/#report [78] >,(accessed 2003-11-20).なお,この報告は,平成12年度科学研究費補助金奨励研究(B)「高専図書館を利用した情報リテラシー教育の実践:方向性と課題」(研究代表者:橋洋平)によるものである。
(16) 谷川麻樹ほか.利用教育の実情:九州地区私立短期大学図書館協議会加盟館を中心として.短期大学図書館研究.(22),2002,71-79.
(17) 三浦逸雄(研究代表者).大学改革と大学図書館の学習・教育支援機能:アンケート調査結果(平成12〜13年度科学研究費基盤研究(B)「大学図書館の学習・教育支援機能に関する日米比較研究」).東京大学大学院教育学研究科図書館情報学研究室.2002,52p.(online),available from < http://www.cl.aoyama.ac.jp/~tnozue/ugl/ [79] >,(accessed 2003-11-20).
(18) 全国公共図書館協議会編.2001年度公立図書館における電子図書館のサービスと課題に関する実態調査報告書.全国公共図書館協議会,2002,76p.(online),available from < http://www.library.metro.tokyo.jp/15/15840.html [80] >,(accessed 2003-11-20).
(19) 野末俊比古.生涯学習施設における情報化に応じたサービスの実施状況等に関する調査.青山学院大学文学部教育学科野末研究室,2001,47p.(online),available from < http://www.cl.aoyama.ac.jp/~tnozue/lll/ [81] >,(accessed 2003-12-10).なお,この調査は,平成11〜12年度科学研究費基盤研究(B)「電子・ネットワーク環境下における研究者・学習者の情報利用行動に関する実証的研究」(研究代表者:内藤衛亮)によるものである。
(20) 石川敬史ほか.大学図書館における新入生オリエンテーションの実証的考察.図書館情報学研究.(2),2003,23-37.
(21) 日本の図書館:統計と名簿.東京,日本図書館協会,1953-.年刊.
(22) それぞれをまとめた図書として次がある。長尾真監修.川崎良孝編.大学生と「情報の活用」:情報探索入門:京都大学全学共通科目講義録.増補版.京都,京都大学図書館情報学研究会,2001,197p.;慶應義塾大学日吉メディアセンター編.情報リテラシー入門.東京,慶應義塾大学出版会,2002,119p.
(23) 大野友和.図書館リテラシー教育と学生の反応.図書の譜.(7),2003,17-34.;斎藤晢.大学図書館の利用教育を考える:明治大学における 『図書館活用法』講座の実践の中から.図書の譜.(6),2002,176-193.
(24) 例えば,新しいものでは次の文献など。野村美智子ほか.図書館員と教員が連携した課題解決型学習における情報検索指導.医学図書館.50(2),2003,141-146.;大川陽子.授業を支援する図書館利用教育の展開.医学図書館.50(2),2003,147-149.
(25) 多くの報告があるので,二つだけ挙げる。青山弘.「授業と連携した」図書館ガイダンスの可能性:岐阜大学の事例を中心に.大学図書館研究.(65),2002,58-66;杉田いづみほか.三重大学附属図書館の情報リテラシー教育支援.情報の科学と技術.52(11),2002,569-574.
(26) 例えば次の文献など。川原亜希世.学生の図書館利用経験から図書館利用教育の意義について考える:北陸学院短期大学「情報サービス論」の授業実践に基づく一考察.近畿大学短大論集.34(1),2001,31-40.;長田秀一.大学における情報リテラシー・プログラムの開発.亜細亜大学学術文化紀要.(1),2001,167-182.;丸本郁子.情報リテラシー教育の評価:大学基礎科目として何ができるか.大阪女学院短期大学紀要.(30),2000,31-54.;岩崎れいほか.本学の情報リテラシー教育における現状と課題:授業の分析を通して.京都ノートルダム女子大学研究紀要.(32),2002,95-107.
(27) 原田智子.産能短期大学における情報検索リテラシー教育のためのデータベース教材に関する調査.産能短期大学紀要.(35),2002,1-14.
(28) 横塚高聡ほか.Webページを用いた図書館の利用指導用教材の開発と評価.宇都宮大学教育学部教育実践総合センター紀要.(25),2002,127-136.
(29) CAIについては,例えば,次の文献がある。金沢みどり.大学図書館利用者の情報活用能力育成に関するCAIの現状と意義.教育情報研究.17(3),2001,33-43.;金沢みどり.“高度情報通信社会における図書館利用教育”.図書館情報学の創造的再構築.東京,勉誠出版,2001,49-59.
(30) 村田輝.教育系電子情報ナビゲーションシステム.大学図書館研究.(64),2002,10-15.;村田輝ほか.教育情報案内パスファインダーによるレファレンスサービスのWebへの展開:東京学芸大学附属図書館における教育情報ポータルサイト“E-TOPIA”.大学図書館研究.(67),2003,37-49.
(31) 私立大学図書館協会.Pathfinder Bank.(online),available from < http://www.jaspul.org/e-kenkyu/kikaku/pfb/ [82] >,(accessed: 2003-11-20).
(32) 例を挙げる。高間幸江.和光中学校の総合学習と図書館.現代の図書館.40(1),2002,19-25.;山中規子.学校図書館が連携した授業「課題研究」の展開:高校図書館からのレポート.現代の図書館.40(1),2002,26-39.;佐藤正代.高等学校における「総合的な学習の時間」に対する学校図書館の支援と利用指導.学校図書館学研究.(5),2003,49-54.図書としては次のものがある。林容子.「総合的な学習」に司書教諭はどう関わるか.東京,全国学校図書館協議会,2002,110p.;「総合的な学習」を支える学校図書館編集委員会編.「総合的な学習」を支える学校図書館:小学校・中学校編.東京,全国学校図書館協議会,2001,149p.
(33) 梅原由紀子.都立中央図書館の利用教育サービス.みんなの図書館.(299),2002,56-65.
(34) 原田こずえほか.横浜市立大学学術情報センターにおける社会貢献の試み:市民への情報リテラシー教育の提供.大学図書館研究.(64),2002,38-47.
(35) 例えば次の文献など。鈴木宏子.アメリカの大学図書館における情報リテラシー教育と利用者支援.大学図書館研究.(62),2001,37-47.
(36) 例えば次の文献など。前川和子.アメリカ合衆国公共図書館における利用教育.堺女子短期大学紀要.(36),2001,47-59.
(37) 上原恵美.大学図書館とe-learning:カナダ・米国の大学図書館を訪問して.大学図書館研究.(68),2003,45-57.
(38) 岩崎れいほか.『インフォメーション・パワー:学習のためのパートナーシップの構築』に関する一考察.同志社図書館情報学.(13),2002,27-52.
(39) 野末俊比古.米国における利用者教育の方向:大学・学校図書館の基準を中心に[CA1445 [83]] .カレントアウェアネス.(268),2001,9-12.
(40) 瀬戸口誠.情報リテラシー概念に関する一考察.同志社図書館情報学.(12),2001,39-68.
(41) 野末俊比古.“第5章 情報リテラシー”.情報探索と情報利用.東京,勁草書房,2001,229-278.
(42) 中村百合子.図書館関連団体文書にみる米国における「インフォメーション・リテラシー」の変遷.日本教育工学雑誌.26(2),2002,95-104.
(43) 大城善盛.情報リテラシーとは?:アメリカの大学・大学図書館界における議論を中心に.情報の科学と技術.52(11),2002,550-556.
(44) なお,「リテラシー」概念をめぐっては,次の文献における整理がわかりやすい。山内祐平.デジタル社会のリテラシー.東京,岩波書店,2003,232p.
(45) 瀬戸口誠.「情報リテラシー」概念の研究動向:Christine S.Bruceを中心に.同志社図書館情報学.(13),2002,112-136.
(46) 室伏武.学習指導における図書館的方法.学校図書館学研究.(5),2003,3-18.
(47) 平久江祐司.“情報の批判力の育成と学校図書館の役割”.図書館情報学の創造的再構築.東京,勉誠出版,2001,95-104.
(48) 戸田光昭.情報共有化の基盤としての情報リテラシー支援:専門図書館のための 『情報活用教育ガイドライン』.専門図書館.(192),2001,1-7.
(49) 小山憲司.Harvie Branscombと図書館利用教育論.中央大学文学部紀要.(188),2001,27-49.
(50) 小山憲司.ジョンソンと図書館利用教育.中央大学文学部紀要.(193),2002,121-133.
(51) 野末俊比古.図書館と情報リテラシー:指導サービスの構築と展開.図書館の学校.(30),2002,7-19.
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野末俊比古. 利用者教育−「情報リテラシー」との関わりを中心に−. カレントアウェアネス. 2003, (278), p.15-18.
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  • 参照(24694)
カレントアウェアネス [6]
研究文献レビュー [85]
情報リテラシー [86]
利用者教育 [87]

No.277 (CA1500-CA1506) 2003.09.20

  • 参照(19807)

pdfファイルはこちら [88]

CA1500 - 英国「国民のネットワーク」の成果と今後 / 橋詰秋子

  • 参照(12559)

PDFファイルはこちら [89]

カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1500

 

英国「国民のネットワーク」の成果と今後

 

 情報化社会における"新しい図書館"の構築を目指し,英国の公共図書館を電子化・ネットワーク化している「国民のネットワーク(People's Network)」プロジェクト(詳細はCA1394 [90]参照)は,公共図書館の利用にどのような影響をもたらしているのだろうか。当初の計画期限であった2002年末を迎えるにあたって,プロジェクトを主導する博物館・文書館・図書館国家評議会(Council for Museums, Archives and Libraries: Resource)は2002年10月に全国の図書館行政庁を対象とした調査を行い,2003年1月にその調査報告書『国民のネットワーク:公共図書館の転換点第一次調査報告(People's Network: A turning point for public libraries - First Findings)』(E054 [91]参照)を発表した。

 この報告書によると,「国民のネットワーク」が推進する公共図書館へのインターネット端末の設置とそれを用いたサービスは,図書館行政庁の作成する年次図書館計画に組み込まれるなど,新たな図書館サービスとして定着していた。2002年11月の時点で,18,578台のインターネット端末が公共図書館で提供され,約2,000館が2Mbps以上の,約200館が10Mbps以上のブロードバンドと接続していた。また「国民のネットワーク」を通して提供されるインターネットアクセス時間は12月までの一年間で約6,800万時間にも達すると予測されている。当初の目標(約4,000の図書館に30,000台の端末を設置)には達していないものの,同書においてResourceは,「国民のネットワーク」は英国各地で"静かな革命"を起こし,利用者に積極的かつ有益なインパクトを与えていると高く評価している。この報告書には今後の資金獲得のねらいがあるとみられるが,同プロジェクトの成果を知る上でも興味深い。以下,その概要を紹介する。

 調査の結果,「国民のネットワーク」のサービスは小学生から高齢者まで幅広く利用され,コンピュータをほとんどあるいは全く使ったことのない人々を公共図書館に引きつける要因となっていた。「国民のネットワーク」は,特に,家庭にインターネットを導入することが困難な低所得者層から歓迎されていた。報告書では,こうした広範な利用の理由の一つとして,公共図書館は一般の人にとって他の公的教育機関よりも心理的な抵抗の少ない場所であるため,公共図書館に設置されたコンピュータには挑戦しやすいことを指摘している。

 「国民のネットワーク」サービスの実施に伴って,閲覧などの伝統的な図書館利用も緩やかな増加傾向を示していた。例えば,図書館に登録していなかった「国民のネットワーク」利用者のうち40%が新たに図書館にも登録していた。

 また,「国民のネットワーク」の利用目的は次のようにカテゴライズできた。

  • (1)学習:これまでも公共図書館は学校教育等のフォーマル・エデュケーション,個人的に行うインフォーマル・エデュケーションを支援してきたが,「国民のネットワーク」は,特に,個人の技能や知識の向上を目的としたインフォーマル・エデュケーションのために多く利用されていた。UKオンラインセンター(CA1394 [90]参照)に指定されている図書館も多く,そうした図書館はUKオンラインが提供する多様な学習講座へのアクセスポイントにもなっていた。
  • (2)就職活動:コンピュータを使った履歴書の作成やインターネットによる職探しなど,公共図書館の端末を使って就職活動をする人が多く見受けられた。図書館が開催した講習会で得た資格によって仕事が見つかった人の例も報告されている。
  • (3)個人的なやりとり:電子メールで遠く離れた親戚や友人とやりとりをする利用者が非常に多く見られた。英国を訪れている観光客などの利用もあった。

 その他,(4)地域活動,(5)低所得者や障害者等の人々の社会的包摂(social inclusion)の促進,(6)レクリエーション,のための利用もなされていた。

 しかし,プロジェクト実施の礎となる資金には問題もあるようだ。同書は,「国民のネットワーク」にはこの3年間で宝くじ基金から1億2,000万ポンドが出資されたものの,より実際的な成果を得るためには更なる資金が必要であり,プロジェクトの資金調達は転換期を迎えていると述べている。実際,自治体監査委員会が昨年発表した公共図書館の現状に関するレポートでは公共図書館にあるコンピュータの古さが指摘されているが,端末のリプレースには今まで以上に資金が必要であり,そのためには新たな資金源の発掘が不可欠であるという。

 

「国民のネットワーク」の今後

 以上のような結果を踏まえ,同書では,プロジェクトの今後の課題として,質の高い多様なデジタルコンテンツの提供とそれに基づいたサービスの構築を挙げている。一方,文化・メディア・スポーツ省は,2003年2月に発表した公共図書館サービスの戦略ビジョン『将来への枠組み(Framework for the Future)』(E056 [92]参照)において,「国民のネットワーク」が国家的な情報政策の中で果たしている役割を評価し,今後の活動に関してはResourceが各地の図書館行政庁と議論を重ねていると言及している。また今後は,これまでの成果に基づいて,オンライン上にコンテンツ,学習支援サービス,コミュニティを構築するための戦略策定へ重心を移すことになるだろうとしている。

 1998年に発表されプロジェクトの礎となった報告書『新しい図書館:国民のネットワーク』(CA1181 [93]参照)では,"新しい図書館"は3つのストランド(より糸)で編まれる,つまり(1)ネットワークの構築,(2)図書館職員の情報技能研修,(3)コンテンツの開発から成るとされていた。「国民のネットワーク」のホームページによると,現在プロジェクトはその活動を第2フェーズと呼ばれる新たな段階へと移行させ,「国民のネットワーク」を図書館外の様々な場所でも利用できるサービスへ展開しようとしている。この第2フェーズは,(1)「国民のネットワーク」を国家規模のオンラインサービスとするためのプロトタイプの開発と(2)それを構成する具体的なサービスの充実という2つのストランドから成っており,後者については,既に,読書促進に焦点をあてた様々なサービスが英国読書協会などの関係諸機関と共同で行われている(CA1498 [94]参照)。

 「国民のネットワーク」はインフラ整備という初期段階を終え,サービスの定着を目指した次なるステップへ進んでいる。今後の展開にも注目していきたい。

関西館事業部図書館協力課:橋詰 秋子(はしづめあきこ)

 

Ref.

Brophy, Peter. The People's Network: A turning point for public libraries -First Findings. resource, 2003, 21p.

DCMS. Framework for the Future : Libraries, Learning and Information in the Next Decade. DCMS, 2003, 59p.

People's Network. (online), available from < http://www.peoplesnetwork.gov.uk/ [95] >, (accessed 2003-05-21).

英国図書館情報委員会情報技術ワーキンググループ. 新しい図書館:市民のネットワーク.東京, 日本図書館協会, 2001, 131p.

 


橋詰秋子. 英国「国民のネットワーク」の成果と今後. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1500 [96]

カレントアウェアネス [6]
図書館政策 [97]
英国 [98]
公共図書館 [13]

CA1501 - デジタル学術情報のアーカイビング-英国JISCの動き- / 呑海沙織

PDFファイルはこちら [99]

カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1501

 

デジタル学術情報のアーカイビング −英国JISCの動き−

 

1. はじめに

 デジタル情報資源の長期保存は,「文化の継承」および「研究・教育・学習環境の整備」という二つの側面をもつ。知を継承し,情報を提供するという使命をもつ図書館にとって,爆発的に増え続けるデジタル情報資源の長期保存は避けて通れない問題であり,その方法論の確立と実行は急務となっている。

 米国はもとより欧州でも,様々なデジタル情報資源の保存に関するプロジェクトが進行中である(CA1490 [100]参照)。英国では,2001年5月から6か月間実施された英国図書館のウェブ・アーカイビング・パイロット・プロジェクトであるDomain.uk(CA1467 [101]参照),英国の総合的電子図書館プロジェクトeLib(CA1333 [102]参照)の助成の下で実施されたCedars (CURL Exemplars in Digital Archives)プロジェクトをはじめ,2001年7月には電子情報保存連合(Digital Preservation Coalition:DPC)が設立されている。

本稿では,主要なデジタル学術出版物である電子ジャーナルに焦点をあて,英国の情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee:JISC)(1)によるアーカイビングに関する動向について概観したい。

 

2. 英国継続・高等教育機関におけるJISCの役割

 JISCは,情報技術を活用することによって,継続・高等教育機関における学習や研究,教育を促進することを目的とした非営利団体である。1993年4月1日,高等教育財政審議会(Higher Education Funding Councils:HEFCs)によって設立された。

 HEFCsは,1992年の継続・高等教育法によって,イングランド,ウェールズ,スコットランドそれぞれに設置された高等教育機関への補助金配分を主たる目的とする独立法人である。英国では,高等教育機関への補助金総額は政府によって決定されるが,各高等教育機関への配分は,HEFCsの裁量に任されている。補助金は各機関に一括して配分され,機関内の配分は各機関に任されている。補助金の各機関への配分は原則として機関側の代表との協議を経て決定され,配分に対して政府が直接関与することは許されていない。

 継続・高等教育法では,複数のHEFCsが共同して活動することを推奨している。1992年4月30日の閣内大臣からHEFCsへの指針書が,ネットワークや専門的な情報サービスに対応するJISCの設立へとつながった。

 JISCの主たる役割は,英国における継続・高等教育に情報通信技術を活用するための基盤整備を行い,洗練された情報サービスを構築するための戦略をたてることである。実際には,JISCの全国的ビジョンにそったプロジェクトに対して公募を行い,選出された高等教育機関等およびそのコンソーシアムへ助成を行っている。JISCが助成を行っているプロジェクトおよびサービスには,高速学術情報ネットワークであるSuperJANET4(2),包括的電子図書館プロジェクトであるeLib(Electronic Libraries Programme)(3),ソフトウェア,データベース等IT関連製品の契約交渉代行機関であるCHEST(4),全国認証システムであるATHENS等,多岐にわたっている。

3. JISCによるデジタル学術情報のアーカイビング指針

デジタル・アーカイビングについては,JISCの2001年からの5か年計画(JISC 2001 to 2005 strategy)(5)において,主要な戦略のひとつとして掲げられている。学習・教育・研究のための新しい環境を創出するために,デジタル資料の保存やレコード管理についての助言が必要であるとされ,デジタル情報資源の保存およびレコード管理に関する助成プログラムの下,6プロジェクトが立ち上がった。

 Archiving E-Publicationsは,上記プロジェクトのひとつであり,2002年5月1日から2003年4月30日まで実施された。このプロジェクトは,デジタル学術情報のアーカイビングに焦点をあてたプロジェクトである。

 英国では,1995年より学術雑誌のナショナル・サイト・ライセンスに関わるプロジェクトが進行している(CA1438 [103]参照)。PSLI(Pilot Site Licensing Initiative)としてはじまったプロジェクトは,NESLI(National Electronic Site Licensing Initiative)に引き継がれ,現在第3フェーズにさしかかっている。NESLIは,高等教育機関に代わって,複雑な電子ジャーナルのナショナル・サイト契約を行い,電子ジャーナルの統合インターフェースを提供することを目的としたプロジェクトである。

 ウェブにおける電子ジャーナルのアクセス契約では,利用権限をもつ利用者が,出版社のサーバに直接アクセスして論文を利用する。従来のプリント版雑誌の購読とは異なり,コンテンツは図書館に所蔵されることなく,契約終了後は,契約中に利用できた論文へのアクセスも保証の限りではない。このアクセスの不安定性の問題と長期的アクセス確保の必要性については,早くから指摘されており,JISCの電子ジャーナルに関するライセンス・モデル(JISC Model Licence)(6)においても3条項(2.2.2,5.4.1および5.4.2)に渡って言及されている。

 電子ジャーナルの入手や利用についてはNESLIの範疇であるが,そのアーカイビングについては,Cedarsプロジェクトにおいて研究が進められた。アーカイビングについて技術的なアプローチがなされたこのプロジェクトは,1998年から5年間の時限プロジェクトであり,2002年に終了した。最終的に,更なる査定とビジネス・モデルの必要性が課題として残され,この継続プロジェクトとして立ち上げられたのが,Archiving E-Publicationsである。

 Archiving E-Publicationsでは,これまで行われてきたライセンス契約の評価や,出版社などデジタル情報資源へのアクセスや保存に関わる組織の調査,デジタル・アーカイビングに関する海外のプロジェクトの分析等を行い,2003年5月,高等教育機関におけるデジタル学術情報のアーカイビングについての草案『Archiving E-Journals Consultancy - Final Report』(7)を発表した。主査は,Cedarsの主査を務めたジョーンズ(Maggie Jones)氏である。6月30日まで,図書館や出版社等デジタル・アーカイビングに関わる組織からの意見を募り,これらを加味して最終報告書がまとめられる予定である。

 この報告書では,JISCライセンスモデルにおけるアーカイビングに関する条項の実現に向けて出版社と交渉を続けることや,アーカイビングに関して図書館界と出版界の連携を深めること,ジャーナル保存の経済性に関する研究を行うこと,LOCKSSやOCLC Digital Archive,JSTOR等,他のアーカイビングに関わるプロジェクトやサービスに対する分析を引き続き行うこと,ビジネス・モデルを作成すること等13の勧告がなされている。

 

4. おわりに

 英国の大学では,学術雑誌においてプリント版離れの傾向がみられる。プリント版・デジタル版双方の経費は,もはや維持できる段階ではない。しかしデジタル版への移行には,大きな壁が立ちはだかっている。これまで述べてきた長期的アクセスの確保―アーカイビングと,VAT(付加価値税)の問題である。英国においては,出版物に対するVATはゼロ税率であるが,デジタル出版物においては17.5%とされている。この税率不均衡問題に対しては今後,出版者協会(Publishers Association)の動きに注目したい(8)。

英国の学術情報流通の発展は,JISCの存在なくしては語ることができない。どの機関にも属することなく,かつ確固たる財政的基盤を持つJISCは,全国的な視野をもったプロジェクトを次々と立ち上げてきた。デジタル情報資源のアーカイビングについても,個々の組織で対応すべき問題ではなく,全国的・全世界的視点からのグランドデザインが不可欠な分野であろう。Archiving E-Journals Consultancyの最終報告書が待たれる。

京都大学人間・環境学研究科・総合人間学部図書館:呑海 沙織(どんかいさおり)

 

(1)JISC. (online), available from < http://www.jisc.ac.uk [104] >, (accessed 2003-07-01).
(2)JANET and UKERNA. (online), available from < http://www.ja.net/ [105] >, (accessed 2003-07-01).
(3)eLib. (online), available from < http://www.ukoln.ac.uk/services/elib/ [106] >, (accessed 2003-07-05).
(4)呑海沙織. 英国における学術情報資源提供システム. 情報の科学と技術. 51(9), 2001, 484-494.
(5)JISC Strategy 2001-05. (online), available from < http://www.jisc.ac.uk/index.cfm?name=strategy_jisc_01_05 [107] >, (accessed 2003-07-04).
(6)Model Ejournal Licence(based on the NESLI and PA/JISC model licence for journals). (online), available from < http://www.nesli.ac.uk/modellicence.pdf [108] >, (accessed 2003-07-04).
(7)Jones, Maggie. Archiving E-Journals Consultancy - Final Report: Report Commissioned by the Joint Information Systems Committee (Consultation Draft). 2003, 64p. (online), available from < http://www.jisc.ac.uk/uploaded_documents/ejournalsdraftFinalReport.pdf [109] >, (accessed 2003-07-16).
(8)Publishers Association. "The New European VAT Legislation (November 2002)". (online), available from < http://www.publishers.org.uk/paweb/paweb.nsf/0/BD213DEBD5B73E6B80256C36003E3138?opendocument [110] >, (accessed 2003-07-04).

 


呑海沙織. デジタル学術情報のアーカイビング −英国JISCの動き−. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1501 [58]

  • 参照(16918)
カレントアウェアネス [6]
電子情報保存 [111]
JISC(英国情報システム合同委員会) [112]

CA1502 - 国家規模でデジタル情報を保存する-LC主導のNDIIPPが本格始動- / 塩崎亮

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カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1502

 

国家規模でデジタル情報を保存する
−LC主導のNDIIPPが本格始動−

 

 デジタル形式でしか存在しない情報(ボーンデジタル情報)の量的拡大(ウェブページの増大等)と質的多様化(テキスト,ハイパーテキスト,画像,音声,動画等の複合化等)が加速し,それらにも人類の知的・文化的遺産としての価値があると認めざるをえない状況となってきた。つまり,それらデジタル情報を誰がどのように後世に残していくかという未知かつ壮大なるテーマが現出したのである。

 アナログ情報保存の場合は「モノ」としての媒体を保存することが主目的であったが,デジタル情報保存の概念枠組みは様相を異にする。再生するための機器・ソフトウェア等を組み合わせて,いわば「コト」としてのアクセスを長期的に保証することが「保存」と同義になる。8インチのフロッピーを保管しているだけでは,あるいはビット列が存在するだけでは,後世における利用機会を何ら保証できないのである。

 国際的には,ユネスコが「デジタル文化遺産」の保存に関する憲章およびガイドラインの策定に取り組みはじめた(E021 [114]参照)他,国立図書館長会議(CDNL)デジタル問題委員会においても国立図書館の責務としてデジタル情報保存を重要視すべきことが謳われてきた。とはいえデジタル情報保存の取組みは総じて揺籃期にある。欧米におけるデジタル情報保存計画の動向について調査した英国の情報システム合同委員会(JISC)のビーグリー(Neil Beagrie)氏は,現状ではデジタル情報保存よりもデジタル化の取組みに対して資金配分されることが主であり,短期的なアクセスが重視され,長期的な益をもたらすはずの保存問題は軽視傾向にあることを指摘した。確かにウェブページをアーカイブする計画は各国においていくつか確認できるものの(CA1490 [100]参照),これまでの電子図書館事業が主にコレクションの電子化に重点を置いてきたことは否定できないだろう。このような意味で,国家規模の包括的なデジタル情報保存プロジェクトが米国において本格始動したことは注目に値する。本稿ではその米国議会図書館(LC)が主導する「全米デジタル情報基盤整備・保存プログラム(National Digital Information Infrastructure and Preservation Program: NDIIPP)」について紹介したい。

 NDIIPPの直接的な引き金は,全米科学アカデミー(National Academy of Science: NAS)全米研究協議会(National Research Council: NRC)により2000年7月に提出された報告書『LC21:LCのためのデジタル戦略』である。当該報告書では,LCに対し,他の公共・民間部門と連携してデジタル情報を国家規模で協同的に収集保存するためのリーダーシップを取るべきことが提唱された(CA1343 [115]参照)。この提言を受ける形で,2000年12月,主にボーンデジタル情報を長期的に保存するために,LCが全米規模の基盤整備を主導することを目的としたNDIIPP法が成立(Public Law. No.106-554)。さらに2003年2月14日には,NDIIPPの初期基本計画が議会で承認されたとビリントン(James H. Billington)LC館長は公表した。その予算額は初期計画策定および選択的なウェブアーカイビングのために500万ドル,議会承認後の初期計画履行のために2,000万ドルと報告されているが,加えて,民間部門から寄付等により資金調達すれば,連邦政府が同額の予算(上限7,500万ドル)を計上措置することになっているともいう。なお,NDIIPPの使命は「現在および将来世代のために,急増するデジタル情報―特にデジタル形式でしか存在しない情報―を収集保存するための国家戦略を策定すること」と定義されている。

 この使命を達成するための国家的基盤は,(1)多様なパートナーとの協同的なネットワーク構築,(2)そのネットワークを介し協同的なデジタル情報保存を可能とする分散型のシステムアーキテクチャ構築,から構成されるべきだという。この発想の根底には,デジタル情報保存は単独の組織で解決できる問題ではないという現実が潜む。冒頭に述べたように,「コト」としての保存プロセスにおいては利害が複雑に絡みあう。例えば記録フォーマットの統一,プロトコルやメタデータの標準化,知的財産権の処理等の諸問題が存在し,それらに取り組むためにはどうしても異業種組織間での協力体制が不可欠となるのである。実際,NDIIPP初期計画策定段階において,LCは全米デジタル戦略諮問委員会(National Digital Strategy Advisory Board)を設置するなどし(公共部門から商務省,ホワイトハウス科学技術政策室,国立公文書館,国立医学図書館など,民間部門から図書館関連業界やデジタルコンテンツ業界,IT業界などで構成),多様な利害関係者との協議を重ねてきた。

 これら戦略を現実のものとするため,ウェブサイト等を介した広報体制も充実させながら,具体的には次の諸プロジェクトを当面1〜5年の期間で進めていくことが初期基本計画では定められている。

  • (1)誰が何を保存するか:誰が何を保存するかを明確にするために,国立図書館間あるいは他の収集機関と協同収集の協定を結ぶこと,永続的価値があるコンテンツを査定するためのガイドライン策定,動的なデジタル情報を選択するためのベストプラクティスの検証,ウェブコンテンツの保存対象範囲の定義,デジタル情報にも適用可能なコレクション構築方針の検証が実施される。
  • (2)ビジネスモデルの開発:保存プロセスを事業として成立させるにはそれを支える仕組みが不可欠となる。そこでビジネスモデルを開発するために,コンテンツを納本する情報作成者側等のインセンティブの同定,デジタル情報保存の費用と便益を測定する手法の策定,長期性を保証しえない可能性のある営利組織等が保存する資料の避難場を設けるためのモデル化,などに資源が投資される。
  • (3)標準化の促進:標準化を促進するために,メタデータおよび永続識別子などの標準化,記録フォーマットや符号化方式に関する調査およびベストプラクティス活用の推奨,マイグレーションやエミュレーションなどに関する調査や戦略策定などが挙げられている。
  • (4)知的財産権問題:障害となる知的財産権問題を解決するために,インターネット上のデジタル情報をLCが保存するために必要な権限についての調査,デジタルコンテンツと納本制度との関係性の調査,デジタル情報保存の上でのセキュリティやプロテクト機能の調査,他の国立図書館や多国籍出版・メディア産業との協同において問題となる著作権法等の国際的な適用範囲の調査なども実施される。
  • (5)システムアーキテクチャの構築:現実化するには高度なシステムが必要となるために,LCは他機関と協同し,以下の要件を満たすアーキテクチャ構築を目指している。その要件とは,組織間の連携協力を支援するものであること,保存とアクセスの問題を区分して扱えるような設計とし,概念的に4層構造―インタフェース層,コレクション層,ゲートウェイ層,レポジトリ層―とすること(つまり,法的・経済的問題が解決するまで暫定的なアクセス制限を容認しておく戦略をとることを意味する),可能な限り既存技術を活用しモジュール方式での設計とすること,一度に構築するのではなく長期的に組み立てていくことができるような設計とすること,幅広く適用されているプロトコルを採用すること,としている。

 このように米国は,LCがリーダーシップをとり,多様な利害関係者とのパートナーシップにより実現しうるデジタル情報保存のネットワークとアーキテクチャから成る国家基盤を築き,責任を分担する形で全米のデジタル情報を国家遺産として保存していく戦略を選択しようとしている。翻って日本の現状を鑑みると,デジタル情報保存に対する認識は総じて低く,直面する問題の緊急性に比して課題の困難度は相当程度高いといわざるをえない。従ってデジタル情報保存のWHY,HOWは重要な問題であるけれども,現段階で日本において早急に取り組むべきは,誰が責務を負うべきなのかという問い「WHO」に他ならないと思われる。

総務部企画・協力課電子情報企画室:塩崎 亮(しおざきりょう)

 

Ref.

NDIIPP. (online), available from < http://www.digitalpreservation.gov/ [116] >, (accessed 2003-07-08).

Beagrie, Neil. National Digital Preservation Initiatives: An Overview of Developments in Australia, France, the Netherlands, and the United Kingdom and of Related International Activity. (online), available from < http://www.clir.org/pubs/abstract/pub116abst.html [117] >, (accessed 2003-07-08).

 


塩崎亮. 国家規模でデジタル情報を保存する−LC主導のNDIIPPが本格始動−. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1502 [118]

  • 参照(18236)
カレントアウェアネス [6]
電子情報保存 [111]
LC(米国議会図書館) [119]

CA1503 - RLGの新総合目録RedLightGreenにみる図書館目録の可能性 / 松井一子

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カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1503

 

RLGの新総合目録RedLightGreenにみる図書館目録の可能性

 

 米国の研究図書館グループ(Research Libraries Group:RLG)のプロジェクトRedLightGreenは,RLG参加館の総合目録をウェブ上で提供する方法を再検討し,図書館目録に新たな価値を生み出そうとする試みである。2003年1月現在,データを限定して試験公開中であり,2003年秋に全データを使用した試験公開を予定している。

 RLGの持つ書誌データは合計約1億2,600万件(タイトル数は約4,200万。RLGでは個々の図書館がそれぞれ書誌データと所蔵データを維持しているため,システム内部では同一の書誌データが並存する),300か国以上の機関が作成しており,370種以上の言語を扱う。現在はEureka(Web),RLIN(telnet),Z39.50ゲートウェイにより提供されている。日本国内では,2002年に慶應義塾大学が正会員(general member)として加盟した。また,図書館流通センターからTRC MARC(児童書と翻訳書を除く)が提供されている。

 RLGは新たな総合目録を設計するにあたり,「図書館らしさ」を払拭すること,「GoogleやAmazon.comのような」機能とインタフェースを持つこと,書誌データ利用の新たな可能性として,「単に資料のありかを探すためのものではなく,信頼できる有用な情報資源を目指す」ことを目標とした。

 2002年3月,メロン財団の援助のもとでプロジェクトが開始された。第一段階では,主な利用対象を学部生とし,ニーズ調査を行った。その結果,次の5点がオンライン目録の重要な要件として浮かび上がった。[1]発見:関連する資料,最新かつすぐ入手できる(current)資料,信頼度の高い(legitimate)資料を見つけられること,[2]フィルタリング(filtering):検索結果の絞り込みやソート機能,[3]入手:発見した著作を入手するための情報,[4]パーソナライズ(個人の要求への対応):目的に応じて検索結果を編集できること,[5]使いやすさ:親しみやすく,利用者の感覚に合ったインタフェース。また,学部生が図書館用語を好まないこと,米国議会図書館分類表のように詳細な分類表や件名標目表を利用したがらないことなども判明した。これらの調査結果をもとに,RedLightGreen試行版が作られた。

 edLightGreenの第一の特徴は,徹底した利用者志向である。図書館用語を極力避け,一般的な言葉を使用することを基本方針としている。検索画面はシンプルで,入力欄は1か所である。利用者は思いつく言葉を自由に入力し,検索ボタンを押すだけでよい。

 検索結果の表示には,FRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records:書誌的記録の機能要件,CA1480 [121]参照)の提案が実践されている。FRBRで提示された四つの実体モデル「著作(Work)」「表現形(Expression)」「実現形(Manifestation)」「個別資料(Item)」のうち,RedLightGreenでは「著作」と「実現形」を利用している。ある一つの著作の詳細表示画面では,「英語版12件,中国語版1件…」,また「図書17件,録音資料(audio)2件」のように,言語や媒体を選ぶことができる。

 

 

検索結果画面

 

 システム内部では,利用者が入力した自然語のほか,関連する統制語でも検索し,利用者自身が絞り込みの範囲を選択できるような形で表示する。たとえば国名を特定せず"civilwar"で検索すると,米国やスペインなど国別の件名ごとに検索結果が表示され,求めるものを選ぶことができる。"New York riots"で検索すると,"New York−History−Civil War, 1861-1865"のほか,"Civil War, 1861-1865−Fiction"など,検索語とは異なる件名も選択肢として表示される。また,検索結果は著者や言語別でも表示される。

 第二の特徴は,複数の図書館の所蔵情報を一望できる総合目録の特性を,資料の価値判断材料として利用していることである。多くの図書館が所蔵するほど資料へのアクセスしやすさが増し,さらに,資料の信頼性も高まるとみなして,所蔵情報による検索結果の重みづけを行っている点が興味深い。ただし,RLGのデータには個々の図書館内の所在情報までは記録されていないので,実際に資料にたどりつくためには,各図書館のOPACを再検索する必要がある。

 そのほか,検索式の保存機能や,検索結果を数種類の定型的な参照文献記述書式でダウンロードする機能など,利用者の便宜が各所で考慮されている。今後は,利用者の要望の高い雑誌論文への対応が必要との認識が示されている。

 データベースの構築にあたっては,書誌データのフォーマット変換に多大な苦労があったようである。問題の一つは文字コードであった。従来使用していたEBCDIC(IBM社が策定した8ビットの文字コード体系)をUTF-8(UCS(Universal Multiple-Octet Coded Character Set)で表現される文字のためのエンコード方式の一つ)に変換したのだが,非常に複雑な仕様を必要とした。特にアジア・中東地域の言語の処理が問題だったようだ。

 また,従来のデータをXMLフォーマットに変換するためのDTD(XML文書におけるタグや属性の定義)を策定するのも一苦労だった。当初は米国議会図書館(LC)のMARC XML(MARCのデータをそのままXMLに変換するためのDTD)を使おうとしたが,RLGのデータにはMARC21(LCで維持・管理しているMARCフォーマット)に存在しない独自のフィールドがあるため,独自のDTDを作成しなくてはならなかった。また,従来のデータベースにおける要素名の中に,XML上で使用できないものがあったことも足かせとなった。最終的には,2,000以上のサブフィールドを除外し,分量にしてLCのDTDの20%ほどの「ゆるやかな」ものとした。従来のデータベースがMARCフォーマットへの対応を済ませていたことも幸いした。しかし今後はより厳密なDTDが必要になると予測されている。

 図書館目録,特に総合目録が有用な情報源として機能するためには,書誌データの内容や提供方法の高度化だけでなく,蔵書構築やILLなど他の図書館機能の存在が重要であることを,RedLightGreenの試みは示している。また,分類表などの図書館独自の技術を利用者に直接使わせるのではなく「裏」の仕組みとして活用することで,簡易かつ正確な検索システムを構築しようとしている点も参考になる。多言語データの提供や大量データ変換などの点からも注目すべき事業であり,本格公開が待たれる。

 日本国内でも,国立情報学研究所のWebcat Plusが,連想検索や検索結果の表示方法,他のデータベースとの連携などについて取り組みを進めている。国立国会図書館のNDL-OPACでは,典拠データの利用により検索機能の高度化を図ったほか,郵送複写や閲覧予約の申込みが可能となった。目録の「利用者志向」は着々と実現しつつあり,さらに意識していく必要があるだろう。

書誌部国内図書課:松井 一子(まついかずこ)

 

Ref.

"Revolutionizing the Catalog: RLG's RedLightGreen Project". RLG. (online) , available from < http://www.rlg.org/redlightgreen/ [122] >, (accessed 2003-07-09).

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松井一子. RLGの新総合目録RedLightGreenにみる図書館目録の可能性. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.7-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1503 [125]

  • 参照(12794)
カレントアウェアネス [6]
総合目録 [126]
RLG(研究図書館グループ) [127]

CA1504 - 動向レビュー:韓国における子ども図書館をめぐる動向 / ジョ在順

PDFファイルはこちら [128]

カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1504

動向レビュー

 

韓国における子ども図書館をめぐる動向

 

はじめに

 いままで韓国では,ほとんどといっても過言ではないほど,子ども図書館への関心が示されてこなかった。しかし,21世紀に入ったここ数年間,子ども図書館への関心が急激に高まり,その設立運動が活発になっている。本稿では,韓国における子ども図書館の現状を踏まえ,子ども専門図書館を中心にその動きの背景を分析しながら,国,地方自治体,民間の3つのレベルに分けて,2000年以降の動向を考察したい。

 

1.これまでの状況(1)

 韓国における一般的な子ども図書館サービスは,公共図書館の一部施設として,児童室あるいは子ども閲覧室などの名をもって提供されている。

 サービスプログラムはほとんど読書中心に構成されている。その中でも,全国的に実施されている夏休み・冬休みの「読書教室」は特筆すべきものである。「読書教室」は,1971年1月から小・中学生を対象とし,夏休み・冬休みの1週間を利用して国立中央図書館分館が実施してきた読書教育プログラムである。プログラムの内容は,図書館利用指導,読書資料選択法,読後感想文の作成法などで,これらを通し読書意欲を高めて読書の習慣付けを図ることにその目的がある。年を重ねるにつれ呼応するところが増え,現在は国立中央図書館の指導・支援のもとに,全国の60%以上の公共図書館が参加している。2002年の冬休みには266の公共図書館で読書教室が開かれ,3,099の学校の11,902名の生徒がこれに参加した(2)。

 一方,子ども専門図書館の歴史は非常に浅い。まず,公立の子ども専門図書館としては「ソウル市立子ども図書館」がある。この図書館は,1979年「国際児童年」を記念し,同年5月4日に設立された。開館以来20年以上に渡って,韓国唯一の公立の子ども専門図書館として位置づけられてきた(3)。

 次に,私立の子ども図書館であるが,1990年代に入ってからはじめて民間レベルの子ども専門の公共図書館が設立された。韓国有数の製靴会社を母体とするエスクァイアー文化財団が,企業利益の社会還元を目的として設立した「寅杓(インピョ)子ども図書館」がそれである。同社会長の名前「李寅杓(イ・インピョ)」から名付けられたこの図書館は,1990年5月ソウル市の上渓洞(サンゲドン)に誕生した。2003年6月現在,国内に14館,中国に6館,カザフスタン共和国とロシアのサハリンに1館ずつの合計22館の分館をもっている。その主な特徴は,文化的,経済的に恵まれない地域の子どもを主たる対象としていることにある。そのため,ほとんどの図書館は社会的弱者のための福祉施設である「総合社会福祉館」のなかに位置している(4)。

 

2.2000年以降の動向

(1)国レベルの動き
 国レベルで図書館政策を担当している文化観光部では,1999年に「国立子ども図書館」の設立計画を立てたが,国の厳しい財政事情のため結局計画段階で終わってしまったことがある(5)。現在同部は,子ども専用の図書館の設立よりは,一般公共図書館の設立に力を入れ,既存の公共図書館における子ども資料室の水準を高めることに重点を置いている(6)。その理由として以下のことが考えられる。

 現在,韓国には462館の公共図書館があり,1館当たりのサービス対象人口は10万人以上にものぼる。また,各館に設けられている子どもの閲覧席は平均約10%にすぎないのが現状である。しかし,韓国の「図書館及び読書振興法」施行令第3条に関わる「図書館及び文庫の種類別施設及び資料の基準」には,「公共図書館における子どものための閲覧席は全体閲覧席の20%以上とする」と規定されている。このような事実に鑑みれば,公共図書館の子ども閲覧席を法律の基準に到達させることと,公共図書館の設立支援を先決問題として挙げていることが理解できる。

 一方,文化観光部の管轄下にある国立中央図書館は,「学位論文館」の機能転換を検討している。国立中央図書館は,児童図書の唯一の納本図書館として,現在,毎年約3万5千冊の児童図書を受け入れている(7)。しかし,1999年末から分館の機能が学位論文の提供に変わるにつれ,それまで所蔵していた児童図書は20歳以上の利用年齢制限のある本館に移された。そのため,児童図書サービスの直接的提供は中止されている。

 国立中央図書館は,現在2008年度の開館を目標として「国立デジタル図書館」計画を推進しており,今後,本館と学位論文館,国立デジタル図書館の3館システムで運営する展望である。そこで役割分担の調整という点から,学位論文館として運営されている分館の機能に対する根本的な見直しが行われている。つまり,学位論文館の廃止と同時に,司書研修館および研究所として活用する一方,子ども・青少年図書館としての機能を検討中である(8)。

 いずれにしても,国レベルの動きは,子ども専門図書館の設立ではなく,子どもを含む図書館サービスの計画あるいは強化である。

(2)地方自治体レベルの動き
 地方自治体レベルでは,単独の子ども専門図書館の設立が盛んである。特に,ソウル市をはじめ,首都圏の地方自治体の動きが活発である。

 具体的には,まず,ソウル市に2つめの子ども専門図書館が誕生した。2000年に着工し,今年2月にソウル市蘆原(ノウォン)区に開館した「蘆原子ども図書館」がそれである。区レベルの自治体として公立の子ども専門図書館を設立したのは,全国ではじめてのことである。地下1階,地上3階,延べ面積1,274平方メートルの自然採光を十分に取り入れたこの図書館は,子ども専用のデジタル図書館としての機能に焦点を合わせている(9)。

 次に,京畿道の場合は最も壮大な計画を表明している。京畿道はソウルを囲む形の隣接地域で,1990年代以降形成された,いわゆる「新都市」と呼ばれるベッドタウンが多い。この新都市は超高層団地で人口密度が高いことが特徴である。同道は,地域間教育機会の不均衡現象の解消とともに,子どもたちの図書館利用率を高めることを目的に,2006年までに先端施設を備えた子ども専門図書館を31館建てる計画を公表した。今年はまず8館を建てる方針であり,そのため256億ウォン(約25億円)の予算を割当てている(10)。

 なお,ソウルの隣接都市で国際空港がある仁川広域市の計画によれば,2007年まで約1,000億ウォン(約100億円)の予算を投入し公共図書館17館を設立することになっている。その中には8館の子ども専門図書館の設立計画が含まれている(11)。ほかに,慶尚地域の鬱山広域市の場合は,同市北区地域に子ども専門図書館を建てる予定があり,それとともに2,000坪規模の子ども公園を作って,子どもタウンを造成する展望をもっている(12)。

 ソウル市以外の他の自治体の政策は今年発表されたばかりで,特に「奇跡の図書館」プロジェクト(後述)を掲げたマスコミの影響が強いものと考えられる。

(3)民間レベルの動き
 現在韓国では,個人や市民団体を中心とした民間レベルの子ども図書館づくり運動が盛んである。児童図書出版量の増加とともに,1990年代半ばから児童専門書店が登場しはじめた。それとほぼ同時に,個人が運営する私立で有料の会員制子ども図書館が増えるようになった。それが2000年代に入ってからは急増し,児童専門書店は60店以上,子ども図書館は100館以上を数えることとなった。

 その背景には,政府の図書館政策が期待に応じられず満足できないこと,インターネットの急速な普及への反作用から読書,とりわけ幼いときからの読書の重要性を再認識するようになったこと,学校図書館運動が活発に展開され,より低年齢の子どもにも関心が向けられるようになったこと,首都圏を中心とする市民の意識高揚と運動の活性化が全国に広まったこと,特に今年からは,市民運動にマスコミの影響が加わることによって,国民的な関心を呼び起こす起爆剤になったこと,などが考えられる。

 以下では,個人,市民団体,宗教団体などの動きをそれぞれ考察する。

 まず,個人運営の「子ども図書館」が2000年を前後して急増している。これらはほとんど小規模で,法律上私立文庫に該当するが,親の教育熱が高い団地を中心に形成・拡張されつつある。人口の多い首都圏,特に新都市地域に集中している。現在,約45館以上あり,その内20館は1998年に設立された「小さな子ども図書館協議会」に加入し活躍している。ほとんど有料の会員制度で運営されており,会員になると図書の閲覧や貸出はもちろん各種の読書指導プログラムにも参加できる(13)。

 市民団体としては,既存の「子ども図書研究会」およびその地域組織の性格をもつ「童話を読む大人の会」(全国112か所),「小さな子ども図書館協議会」,「ソウル読書教育研究会」などに加え,2000年代に入ってからは「本を読む社会づくり国民運動」,「盆唐(プンダン)子ども図書館建設推進運動の会」(盆唐は新都市名),「2002社会福祉共同募金会」などの団体が結成され,活発な活動を行っている。

 特に,「本を読む社会づくり国民運動」(以下「本読む社会」)は,いままで公共図書館の増設,図書館資料・予算の確保のための運動を展開してきた市民団体である。「本読む社会」は,子ども専門図書館の設立を民間放送局に提案・連携し,今年1月から1年間の計画で「奇跡の図書館」プロジェクトを推進している。「奇跡の図書館」とは,韓国文化放送(MBC)テレビの娯楽番組「!」が毎月選定する本の販売売上金と,個人および団体の寄付金によって,子ども専門図書館を建てる計画である。「!」が選定する本は爆発的な人気で常にベストセラーとなるので,その弊害を怖れる批判の声も高いが,子ども図書館に対する一般市民や地方自治体の関心と積極的な参加を誘導している点で,大局的には肯定的に評価されている。現在,全国的な反響の中で6つの地域が選定され,その設立が推進されている段階である(14)。

 その他,「ソウル読書教育研究会」は「ソウル子ども図書館」(仮)の設立運動を推進しており,「盆唐子ども図書館建設推進運動の会」は2004年の子ども図書館完成を目指して活発な運動を展開している(15)。なお,「2002社会福祉共同募金会」の支援で学習室に設けられた子ども図書館も10館ある。

 宗教団体による子ども図書館設立運動で目立つのは,キリスト教会図書館,とりわけメソジスト教会の活動である。「メソジスト教会子ども図書館協議会」は,日々深刻になっていく教育の現状への対案を提示し,地域社会における教会の定着を通じ21世紀における布教モデルを模索することを目的とし,2001年4月に結成された。しかし,必ずしも布教の目的だけをもっているのではなく,一般児童書も備えて広く地域の子どもや住民に開放している。運営はほとんど有料の会員制を採用している。2002年8月現在,同教会に建てられた子ども図書館は21館ある(16)。

 

むすび

 以上のように,韓国における子ども図書館設立の動きは,2000年代に入ってから急激に高まっている。特に,今年放映されているテレビ番組の強い影響で,子ども専門図書館設立への熱い関心は当分の間続く見込みである。その主な特徴は,独立した子ども専門図書館が求められていること,民間レベルの動きが積極的に広げられていること,にまとめられる。

しかし,韓国における子ども図書館がうまく機能するためには,公共図書館における児童室の拡充,所蔵資料の充実,様々なサービス・プログラムの提供,専門司書の確保および教育など,今後解決すべき課題は多いだろう。

東京大学大学院教育学研究科:曺 在順(じょじぇすん)

 


 〔 〕はハングルであることを示す。
(1)詳しくは,以下の2つの文献を参照すること。 宋永淑. 韓国の図書館と読書教育. 現代の図書館. 34(4), 1996, 175-180. ; 韓允玉 (林昌夫訳). アジアの子どもと図書館−韓国の図書館における児童サービスと子どもの本(前編). 図書館雑誌. 91(5), 1997, 351-354.
(2)〔国立中央図書館〕. 〔2002年度国立中央図書館年報〕. 2003, 82.
(3)〔ソウル市立子ども図書館〕. (online), available from < http://children.lib.seoul.kr/ [129] >, (accessed 2003-08-08).
(4)〔寅杓(インピョ)子ども図書館〕. (online), available from < http://www.inpyolib.or.kr/index_new.jsp [130] >, (accessed 2003-08-08).
(5)〔文化観光部,今年の主要業務計画〕. 京郷新聞. 1999-02-20. ; 〔暮らしと文化/国立子ども図書館のない国〕. 東亜日報. 2001-09-25.
(6)〔本で育つ子ども/子ども専門図書館に多様なコンテンツ必要〕. 世界日報. 2003-01-18.
(7)〔国立中央図書館〕. op.cit., 37.
(8)〔国立中央図書館〕. 〔国立デジタル図書館(仮称)設立基本計画樹立技術外注報告書〕. 2002, 138-141.
(9)〔蘆原子ども図書館開館〕. (online), available from < http://www.nowon.seoul.kr/nowonnews/nw0302/pdf/01.pdf [131] >, (accessed 2003-08-08).
(10)〔京畿道,暮らしの質を高める公共図書館など大幅に拡充〕. 〔国民日報〕. 2003-04-07.
(11)〔仁川,公共図書館拡充:2007年まで17か所〕. 〔毎日経済〕. 2003-06-17.
(12)〔鬱山北区に子ども図書館建てられる〕. 〔国民日報〕. 2003-04-28.
(13)〔全英順〕. "〔私立子ども図書館の現状〕". 〔公共図書館における児童サービス活性化の方策模索のための討論会〕. 〔韓国図書館協会〕, 2003, 33-37.
(14)〔子どもの目線に合わせた「奇跡の図書館」着工〕. 〔韓国日報〕. 2003-04-01 ; 〔!:本本本,本を読みましょう〕. (online), available from < http://www.imbc.com/tv/ent/big5/html/kymyjs_01.html [132] >, (accessed 2003-08-08). ; 〔奇跡の図書館〕. (online), available from < http://www.kidslib.or.kr/sub01/sub01.asp [133] >, (accessed 2003-08-08). ; 〔想像力の運動場を作る:<!>・本読む社会,子ども図書館設立プロジェクト開始〕. (online), available from < http://www.bookreader.or.kr/news/nk_view.php?num=40 [134] >, (accessed 2003-08-08).
(15)〔我が子どもたちに専用図書館を〕. 〔韓国日報〕.2001-01-29.
(16)〔メソジスト教会子ども図書館協議会創立〕. 〔国民日報〕. 2001-04-30.

 


曺在順. 韓国における子ども図書館をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.9-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1504 [135]

  • 参照(15757)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
図書館政策 [97]
韓国 [136]
児童図書館 [137]

CA1505 - 動向レビュー:図書館員教育の国際動向 / 中村香織, 三浦太郎, 山形八千代, 石井奈穂子, 刈田朋子

PDFファイルはこちら [138]

カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1505

動向レビュー

 

図書館員教育の国際動向

 

 情報通信技術の進展や経済状況の悪化など図書館を取り巻く環境の変化は,図書館員教育プログラムのあり方にも大きな影響を及ぼしている。本号では,米国,ドイツ,フランス,オランダ,台湾における取組み事例について紹介する。

 

1. 図書館職員の研修ニーズを探る −米OCLCによる研修市場調査−

 OCLCは,米国の調査会社であるOutsell社に依頼し,図書館職員研修に関する調査を行った。目的は,図書館の研修ニーズを把握し,OCLCがどのようにそのニーズに応えることができるかを,特にウェブを用いた研修に焦点を当てて探ることである。2000年7月から2001年6月までのデータによると,OCLCが系列の図書館サービス機関で行った研修のうち,約3分の1が遠隔研修となっていた。OCLCでは図書館職員のための研修を継続的に行っており,今回の調査に先立つ2002年4月には,「職員育成に果たすOCLCの役割に関する作業部会(Task Force on OCLC's Role in Staff Development)」を設置している。

 調査は,2002年8月20日から同年9月13日まで,ウェブを通じて行われた。主な対象は,学術図書館,中規模の大学や研究所の図書館,大規模公共図書館,専門図書館とされた。期間内に得られた回答は2,112件で,うち32%は米国外からの回答であった。回答分析は主に,1)需要と市場機会,2)市場浸透と市場機会,3)現在行われている研修,4)研修予算,以上の観点から行われた。以下に分析結果の概要を紹介する。

(1)需要と市場機会について

 現在のところ,講師主導の研修や会議への参加といった伝統的形態に比べ,ウェブなどを用いた新しい形態の研修は普及度も重要性の認識も低い。職員の所属機関もまた,新しい形態の研修よりも伝統的形態の研修に参加する職員をより援助する傾向がある。しかし,ウェブ研修は遠隔学習形式の中では最も普及しており,1年以内にウェブ研修を利用する意思のある人も少なくない。ウェブ研修参加の潜在的な動機は,仕事において専門的能力の開発が要求されていること,という回答者が約5分の1を占める。回答者の3分の1は個人的に能力開発計画を立てており,分野は「情報技術・コンピュータ」が最も多かった。

 1年のうち研修に費やす日数は平均で約5日であり,69%の人は適切な研修機会が得られているという。しかし,専門的能力の開発に必要なだけの時間があるという人は60%で,適切な時期に研修がある,参加に必要な財源があると考える人は半数以下であった。全体としてウェブ研修への需要はあるが,十分な機会が提供されているとは言いがたい。

(2)市場浸透と市場機会について

 ウェブ研修を利用する意思のある人の内訳を見ると,自分以外の職員の研修についても助言や計画ができ,職員の研修の選択に影響を与える立場にある「影響者(influencers)」が59%を占めたのに対し,自分個人が受ける研修についてのみ計画できる立場の「消費者(consumers)」は28%であった。加えて,管理的立場にある人も他の職員より多かった。よってウェブ研修の浸透度を高めるために,「消費者」に直接働きかけるより管理職や「影響者」に働きかける方が効果的かもしれないと指摘されている。また,「影響者」が選んだ職員育成計画の評価基準で最も多かったのは「図書館サービスの質」であったことから,研修を働きかける際には,研修の結果,サービスの質が向上することに焦点を当てるとよいとしている。

 研修の開催情報を得る手段で最も多かったのは専門職の協会(57%),次いで図書館ネットワーク(52%)であった。ここでは研修のマーケティングにおける協会やネットワークとの提携可能性が示唆されている。

 研修テーマごとのニーズについては,所属機関の職員に必要なテーマを尋ねた場合と自分自身に必要なテーマを尋ねた場合とでは結果が違っていたが,双方に共通して需要が高かったのは,「データベース検索」,「図書館マーケティング」,「コンピュータ,ネットワーク,OS」などであった。一方,ある程度需要が高いものの現在受講できない研修のテーマには,「電子図書館構築」,「コレクションの構築と管理」,「図書館の機械化」などが挙げられた。これらが比較的市場浸透率の高いテーマと言うことができるだろう。

(3)現在行われている研修について

 現在最も利用されている研修は,地域の図書館ネットワークの研修(71%),職場内の研修(70%),図書館協会の研修(62%)の順に多く,最も良質と考えられているのは協会の研修である。民間機関の提供する研修を利用しているのは約3分の1である。

 現在の研修に対する考え方をみると,回答者の97%が図書館員のための継続教育には賛成であり,継続教育を受ける第一の理由は「時代の変化についていくこと」とする人が多い。また,「影響者」にとっては「能力格差の縮小」も同様に重要な理由となっている。

 さらに,これまでに受けたウェブ研修に対する満足度は非常に高い。ウェブ研修の利点では,86%が挙げた利便性,費用効果の高さ(82%),ウェブでなければ受講できなかった講座を受講できること(71%)などがあった。問題点では,困難なこととして,時間を作ること(42%),適切な講座を探すこと(32%),費用の獲得(32%),利用できる講座の情報入手(26%)などが上位を占めた。インターネット接続環境などの技術基盤はそれほど問題にされていないことが明らかになった。

(4)研修予算について

 図書館の研修受講のための平均予算額は年12,067ドルで,館の運営予算総額の約0.5%である。翌年の研修予算が削減されると考える人は,増額されると考える人より多い。しかし今後3年間について尋ねると,増額を予測する人の方が多くなっている。

 一人当たりの研修費用については,現在の年平均額は531ドルだが,妥当とみなされた額の平均はそれより高い692ドルであった。一方,ウェブ研修は費用効果が高いとみなされており,妥当とされる額は1回平均171ドルで,講師主導の研修の285ドルに比べて低くなっている。

 OCLCは,この調査報告が,図書館員や研修に関する決定を行う人たちに仕事の助けとなる情報を提供するとともに,研修機会を提供する人たちに図書館のニーズに応えるよう働きかけるものになることを期待している。さらに,前述の作業部会と引き続き協力し,調査結果を今後のOCLCの活動に生かす方法を明らかにしていくとしている。

 調査では,研修に関する様々な問題が挙げられたものの,図書館員の研修意欲は全体的に高いことが窺える。研修提供側だけでなく研修を受ける側にとっても,この調査結果が良い刺激となるのではないだろうか。

関西館事業部図書館協力課:中村 香織(なかむらかおり)

 

Ref.

Wilkie, Katherine. et al. OCLC Library Training and Education Market Needs Assessment Study. Burlingame, Outsell, 2003, 119p.

OCLC. "FY01 Network Training Survey". (online), available from < http://www.oclc.org/oclc/uc/pdf/Network_Training_Survey_by_B_Juergens.pdf [139] >, (accessd 2003-07-08).

OCLC. "News : OCLC Library Training & Education Market Needs Assessment Study". (online), available from < http://www.oclc.org/promo/unlimited/edu01b.htm [140] >, (accessd 2003-07-08).

 

2. ドイツの図書館学教育改革

 近年,ドイツでは経済の低迷と州財政の逼迫事情を反映して大学再編が進められ,その余波は司書養成講座の閉鎖や統合にまで及んでいる。以下,変革にさらされるドイツ図書館学教育の動向について報告する。

 ドイツの図書館学教育は,< 1 >専門学校(Fachschule)での職業教育,< 2 >大学での「上級職(gehobener Dienst)」司書教育,< 3 >「高等職(Hoeherer Dienst)」司書教育の3つのレベルに大別できる。高等職とはある学問分野でディプロームやマギステルといった第一学位を得て,その上で図書館学関連課程を修めた司書のことであり,上級職は図書館学関連の学位のみを取得した司書を指す。大規模な図書館で館長や部局長などの職位に就くためには,高等職の資格が必要とされる。

< 1 >専門学校での職業教育

 1998年,情報専門職として「メディアおよび情報サービス職員(Fachangestellten fuer Medien- und Informationsdienste : FaMI)」が新設された。これは,限りなく増え続ける書籍や電子情報の効果的活用に資するため設けられた専門職であり,資料館,図書館,情報と資料,写真や絵画資料,医学関係資料の各領域を対象としている。司書職とは別に養成される。教育期間は3年で,最初の2年間は専門学校で理論面の教育が共通に行われ,3年目から専門領域の教育や実習が始められる。共通講座では,情報選別能力の育成,データベース構築,コミュニケーション・ネットワークの分析,マーケティング理解などが目指される。専門学校以外にも,カールスルーエ情報センター[http://www.fiz-karlsruhe.de] [141]やドイツ医学ドキュメンテーション研究所[http://www.dimdi.de] [142]などの教育機関で養成が行われている。

< 2 >大学での「上級職」司書教育

 ドイツには351大学(2001年現在)が存在する。このうち次頁に挙げる総合大学1校と専門大学(Fachhochschule : FH)9校に司書養成の講座が置かれている。修学期間は7〜8学期であり,たいていは期間中に半年間の実習が義務づけられる。卒業生はディプローム(専門大学の場合にはディプローム(FH))の学位が与えられ,上級職に就くことができる。

  • ベルリン フンボルト総合大学 哲学部図書館学科 [http://www.ib.hu-berlin.de/] [143]
  • ケルン専門大学 情報・コミュニケーション学科 [http://www.f03.fh-koeln.de/] [144]
  • シュトゥットガルト メディア専門大学 情報コミュニケーション学科 [http://www.hdm-stuttgart.de/] [145]
  • ダルムシュタット専門大学 情報および知識マネージメント学科 [http://www.iud.fh-darmstadt.de/] [146]
  • ハノーファー専門大学 情報・コミュニケーションシステム学科 [http://www.ik.fh-hannover.de/] [147]
  • ハンブルク応用科学専門大学 図書館情報学科 [http://www.haw-hamburg.de/] [148]
  • ポツダム専門大学 情報ドキュメンテーション学科 [http://www.iid.fh-potsdam.de/] [149]
  • ボン公共図書館制度専門大学 [http://www.fhoebb.de/] [150]
  • ミュンヘン バイエルン行政専門大学 資料館・図書館学科 [http://www.baybfh.bayern.de/] [151]
  • ライプチヒ技術・経済・文化専門大学 書籍・博物館学科 [http://www.htwk-leipzig.de/] [152]

 フランクフルトには1967年から学術図書館高等職および上級職を養成する図書館学校(Bibliotheksschule)が置かれていたが,2000年にこれがダルムシュタット専門大学に統合された。図書館学に関わる教科は「情報および知識マネージメント学科」に取り込まれたが,学術図書館高等職の資格付与は廃止され,上級職に相当する情報経済学士(Diplom- Informationswirt/ -in)(FH)のみが付与されている。

 シュトゥットガルトには,戦後1946年4月という早い時点で南ドイツ図書館学校が再開され,これが1970年の大学組織改編とともに図書館情報専門大学へと移行したのちも,公共図書館司書の養成を中心的に行ってきた。しかし2001年に印刷メディア専門大学と合併し,メディア専門大学と改称されている。

 司書養成の講座の縮小,改編も随所に見られる。ケルンでは,1946年夏から西ドイツ図書館学校が再開され,1949年にはケルン大学にノルトライン・ヴェストファーレン州の図書館司書養成所が置かれた。1971年以降はケルン専門大学で公共図書館司書,ケルン大学で学術図書館高等職・上級職の養成に力が注がれてきたが,近年になってケルン大学における養成課程がなくなり,またケルン専門大学の図書館情報学科は言語学科と統一され「情報・コミュニケーション学科」へと改組された。同学科では図書館学士(Diplom- Bibliothekar/ -in)(FH)や情報経済学士(FH)などの学位を取得することができる。

 司書養成カリキュラムの変更も顕著である。従来のカリキュラムは,公共図書館,学術図書館,専門図書館など図書館制度に則った編成であったが,情報環境の変化を背景に情報やメディア,さらには市場意識が強く反映されるようになった。講座内容の変化にともない,講座名に「図書館制度」や「図書館システム」といった言葉が使われることは稀になっている。

< 3 >「高等職」司書教育

 高等職となるための講座を開講しているのは,目下のところ上記10大学のうちバイエルン行政専門大学だけである。

 これ以外に,修士課程を修了して高等職に就く道もある。ドイツでは1998年に高等教育大綱法(Hochschulrahmengesetz)の第4次改正が行われ,ディプロームやマギステルといったドイツ固有の学位のほか,国際的に通用する修士号(マスター)を取得することができるようになった。ベルリンのフンボルト総合大学やいくつかの専門大学で,図書館学修士の講座が開講されるようになっている。シュトゥットガルトのメディア専門大学でも,図書館およびメディア・マネージメントの分野で「情報・メディアコミュニケーション学修士」の資格講座が用意されている。修士号を持つ者は原則として高等職に就けるが,専門大学で修士号を取得した者は一定の実務経験の上で初めて高等職に任じられる。

 2000年にはノルトライン・ヴェストファーレン州学校・教育・研究省の指導のもと,ケルン専門大学に図書館情報学修士課程が開設された。従来ケルン大学で行われた学術図書館高等職養成に代わり,3学期間で修士号を授与する体制が整えられた。ただし,専門大学でディプローム(FH)の学位を取得していても受講することはできず,大学で学位を取り直すことが要件である。

 このほか,フンボルト総合大学では図書館学分野において博士学位や大学教授資格を得るための研究をすることができる。

東京大学大学院教育学研究科:三浦 太郎(みうらたろう)

 

Ref.

FH Darmstadt. "Informations- und Wissensmanagement an der FH Darmstadt". (online), available from < http://www.iud.fh-darmstadt.de/fachbereich/nfd_artikel_2002.htm [153] >, (accessed 2003-07-10).

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3. フランスにおける司書教育のあり方をめぐって −DCBの評価−

 国立高等情報科学図書館学校(Ecole nationale superieure des sciences de l'information et des bibliotheques: Enssib)における教育のあり方について,2000年から2年にわたって再検討が行われた。

 Enssibは,1992年に国立高等図書館学校(Ecole nationale superieure des bibliothecaires: Ensb。1964年創設)の後を受けて発足したフランスで唯一の図書館管理職養成のための高等専門教育機関で,図書館上級司書免許(Diplome de conservateur de bibliotheque: DCB)等の資格取得を目的とした教育を行っている。

 さて,Enssibの核とも言うべきDCBの教育内容については,当初より,在校生,卒業生のみならず図書館界や関係省庁からも厳しい批判の声が挙がっていた。Enssibではこうした状況を踏まえてDCBの評価への着手を決定し,1994年,ボルドー市立図書館長ボティノー(Pierre Botineau)氏を座長とするワーキング・グループが設置された。グループは翌年『DCB:そのカリキュラムの評価』と題する報告書を提出,教育は重大な機能不全に陥っており,将来の上級司書を養成するにはあまりに不十分であることを指摘した。そして,より構造化された,一貫性のある,明確な教育計画を目指すよう勧告するとともに,Enssibは自己点検・自己評価できる手段を持つことが必要であると結論づけた。Enssibでは,グループの提言に従ってDCB刷新の努力を続けること,という1999年から2002年期の文化通信省との取り決めに従い,学術委員会の中に3つの委員会(DCB検討委員会,図書館員の初期教育検討委員会,図書館員の継続教育検討委員会)を設置した。「真の教育スタッフの構築」,「学生一人一人の要望にあわせた教育」を実現するためである。

 DCB検討委員会は,国民教育省の図書館監督官ゴーティエ=ジャンテス(Jean-Luc Gautier-Gentes)氏を座長とし,2000年から2002年にかけて5回にわたって開かれた。委員会では,学校側が作成した資料を参考にしながら,DCB第10期生76名(2001年−2002年期。教育期間は18か月)に適用される教育の評価を行い,Enssibの学術委員会に報告書を提出した。

 女性が多いこと,ほとんどが文科系であるという共通点を除けば,年齢,経歴,知識,図書館での勤務経験の有無も様々な10期生への教育評価,提言は以下のようなものである。

  1. 教育目標:「DCB取得者は教育課程修了後,どんな能力を身につけているべきか」についてEnssibは明確に答えられず,「上級司書」の標準的な定義を示すことができなかった。
  2. 教育の状況:授業,実習,研修は,一見バランスの取れた配置になっている。また,学校における研究活動の経験は,将来上級司書となる学生にとっては不可欠なものであるが,その意味が学生たちによく理解されておらず,教育課程の最後に提出する研究報告も,単なる報告や調査と研究が混同されている。学校と指導教官の注意が必要である。Enssibでは技術のための技術の教育が先行し,理論と研究がなおざりにされており,それが学校に危機的状況をもたらしている。
  3. 教育課程の構成:8つのユニットに分けられた教育課程は,そのこと自体に異論はないにしても,統一性と一貫性を欠く危険性がある。
  4. 教育課程の内容:以下のテーマの欠如,あるいは存在の希薄さ。「図書館の使命」,「図書館の行政的・法的背景」,「図書館員としての職業倫理」,「図書館員という職業の展望」,「マネジメント,特に人事管理」,「図書館に勤務する職員の身分規定と管理」,「公衆とサービス」,「相互協力」,「報告と評価」。実情にあっていない「図書館資料」と,単なる技術的アプローチに終わっている「情報学」の2つの科目。また,授業の中で大学図書館に比べて地方自治体の図書館が低く扱われているとの指摘が学生からあった。
  5. 教育スタッフ:学校に勤務する教育スタッフが図書館の日常業務を知ることは大切である。定期的な教育スタッフの入れ替えが,Enssibにとっても関係者にとっても望ましい。
  6. 監視と評価の手段:Enssibは委員会に「図書館職監視委員会」の創設を提案した(ここでいう「図書館職」とは,Enssibを卒業した上級職の司書を指す)。Enssibでは図書館職に関する研究は未発達であり,是非準備をすすめてもらいたい。

 委員会の教育評価,提言は上記のボティノー・ワーキング・グループのそれをかなり色濃く反映している。教育のより一層の専門化,理論と実践のバランスをとること,いくつかの基礎的な領域についての教育の構造化などである。

 委員会がその任期の間に取り上げられなかった,入学試験,学校の中での研究活動の位置,必修教育と選択教育との配分などは,今後の検討課題となった。

恵泉女学園大学図書館:山形 八千代(やまがたやちよ)

 

Ref.

Gautier-Gentes, Jean-Luc. Evaluation du diplome de conservateur. Bull Bibl Fr. 48(1), 2003, 16-27.

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4. オランダTicerの研修プログラム

 「あなたなら,この大学を,この図書館を再建するために何をしますか?どのようなアドバイスができますか?」2002年7月大阪で開催されたTicerの「明日のリーダーのためのデジタル・ライブラリー管理」セミナーで,ワークショップはこのような問いかけで幕を開けた。デジタル時代における図書館員の役割を考察すべく,また電子図書館構築に向け先進的な取組みを進めているTicerを紹介する。

(1)Ticer設立の歴史・経緯−ティルブルグ大学との関係−

 Ticer(Tilburg Innovation Centre for Electronic Resources)B.V.は,オランダのティルブルグ大学が100%出資して設立した民間会社である。オランダ南部のティルブルグ市にあるティルブルグ大学(Katholieke Universiteit Brabant)は,ヨーロッパでも早くから電子図書館構想を戦略的に推進してきた大学として知られている。「ユーザのデスクトップから電子情報へのアクセスを」をスローガンに,1992年に新図書館を建築した際,館内に450台の利用者用ワークステーションを設置し,様々な電子情報源をすべての学内構成員に開放した。電子図書館構築に向けたプロジェクトは,図書館員だけではなく,計算機センターのスタッフもメンバーとして加わったことが成功の一因であった。

 その後,33を超える国々から,ティルブルグ大学における電子図書館の取り組みやITインフラ整備に関して見学が相次いだ。増加するその要求を満たすべく,大学とは別の組織で請け負うことを可能にするために,1995年,図書館と計算機センターが共同で設立したのがTicerである。現在では年間50万ドルを超える利益があり,それらは大学内での新たな取り組みの原資となっている。

(2)Ticerの活動内容

 当初,ティルブルグ大学への見学者に対応するために設立されたTicerであったが,現在ではその活動内容を大きく広げ,各種セミナーの開催や図書館業務のコンサルタントを主な業務としている。

 設立の翌年には,ティルブルグ大学を会場としたサマースクールが57人の参加者を得て開催された。ティルブルグ大学で開催するメリットとして以下の点が認識されている。

  • 図書館や事務室内を見学しながら,コースを進められること
  • 学内の情報基盤を活用して,セミナーが進められること
  • ティルブルグ大学の図書館員や計算機センター職員と直接議論する機会が持てること

 以降サマースクールは毎年開催されており,内容は技術的なものから,デジタル・ライブラリー構築に向けた事例研究へとシフトしてきている。

 同時に,Ticerでは世界各国でセミナーも開催している。こちらはサマースクールよりも短期間で,テーマも限定して開催されている。

(3)「明日のリーダーのためのデジタル・ライブラリ管理」セミナーに参加して

 2002年7月,アジア地区としては初めてのTicerセミナーが,ソウル,東京,大阪で開催された。エルゼビア・サイエンス社との共催で,ティルブルグ大学図書館長,カリフォルニア大学バークレー校図書館副館長,スウェーデン国立図書館の図書館員による講義およびワークショップが行われた。講義の中で,カリフォルニア大学バークレー校においては,図書館の役割を文書の配信およびレファレンスのゲートウェイと置き,単なる倉庫としての役割ではなく,空間や場所にとらわれないサービスを提供しているという内容が非常に印象に残った。

 ここで冒頭の問いかけに戻ることになる。どこの大学でも直面しがちなシチュエーションを与えられた架空の大学について,図書館機能の建て直しに向け,セミナーの参加者自身がコンサルタントとして,図書館と学習支援施設の今後のビジョンを提示し,それを実現するための提案を行うというものである。5〜8人ずつのグループに分かれ,提案書をまとめた上で,各グループ5分程度でプレゼンテーションを行うという形で進められた。討議をはじめる前に,ティルブルグ大学図書館長より「出来るだけシンプル,かつゲーム感覚あふれる提案にしてほしい」とのコメントもあった。

 セミナーへは,大学図書館だけではなく専門図書館からも参加していたため,様々な立場から討論を行うことができた。課題は非常に難しく,即座に答えの出るものではなかったが,このワークショップを通して,自らのユーザを知りそのニーズをつかむことの重要性を再認識し,ニーズをビジョンへと昇華させる経験をすることができた。

 Ticerが目指しているのは,まさにこの点で,自ら戦略を立て,能動的に,自らの手で図書館を運営し得る図書館員を育成することであり,これを達成するために,経営的な視点を現場に提供しうるカリキュラムが各種セミナーで組まれているのである。

 ここで再度,自分自身に問いかけたい。「私なら,この大学を,この図書館を活性化させるためにどのようなプランが考えられるだろうか?」

立命館大学総合情報センター:石井 奈穂子(いしいなほこ)

 

Ref.

Geleijnse, Hans. et al. Developing the library of the future : the Tilburg experience. 2nd rev. ed. Tilburg University Press, 1996, 125p.

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永田治樹. 大学におけるディジタル図書館−英国並びにオランダの大学図書館での試み. ディジタル図書館. (5), 1995, 19-28. (online), available from < http://www.dl.ulis.ac.jp/DLjournal/No_5/nagata/nagata.html [163] >, (accessed 2003-06-26).

 

5. 台湾国家図書館の遠隔教育プログラム

 台湾行政院の教育部は1998年を「生涯学習年」とし,理念を形にするため『学習社会推進白書(邁向学習社会白皮書)』を公布し,生涯学習を社会目標とした。同時に,現代の高度情報化社会においては,市民の情報リテラシーの向上が必要であり,それには図書館情報の効率的な利用が不可欠であるとして,国家図書館(CA1083 [164]参照),中国図書館学会,各大学図書館情報学部,各種図書館,各教育機関が共同で市民の生涯学習と情報リテラシー教育に積極的に貢献していく方針を固めた。

 台湾では,インターネット人口が2000年末にはすでに626万人(全人口の27%)を超え,インターネットを通じた遠隔教育が盛んに行われている。その中で,国家図書館は2000年に「情報リテラシーおよび図書館情報学専攻遠隔教育開始協同計画(合作建置資訊素養及圖書資訊學專業非同◆遠距教學計畫)」を策定した。計画書では以下の3点に重点が置かれている。

  • 市民の情報リテラシー向上による国際競争力の増強
  • 情報科学技術による学習環境の地域格差の縮小
  • 遠隔教育の基盤システムの構築,他機関との協力によるカリキュラムの作成

 この計画書に基づき,遠隔教育プログラム「国家図書館遠距学園」を2000年12月に発表した。

 この国家図書館遠距学園は他の遠隔教育システムとは異なり全て無料で提供されている。すなわちインターネットに接続して国家図書館遠距学園のホームページにアクセスさえできれば,いつでも自由に学習を開始することができる。また,各講座は開設から最低5年間保存され,その間はいつでも利用することができる。

 創設当初は,小学生以下の子どもや一般向けの図書館情報リテラシー講座や教養講座が開設された。しかし,市民すなわち図書館利用者のより高度な要求に応えるためには,図書館員はより専門的な能力と最新の知識を身につける必要があるとし,国家図書館は2001年に「図書館情報リテラシーおよび図書館情報学専攻課程遠隔教育開始計画(建置圖書資訊利用素養及圖書資訊學專業課程非同遠距教學計畫)」を策定し,図書館員を対象としたカリキュラムを開設した。

 図書館員を対象に公開されているのは,「図書館情報学専攻課程」と「遠隔教育または図書館情報学シンポジウム・セミナー課程」である。これらは一般向け講座と同様にいつでも無料で受講・聴講でき,図書館員は日常業務に従事しながら専門能力を高め,進んだ学術スキルを身につけることができるようになっている。なお図書館員を対象にしているが,図書館情報学を専攻している学生が日頃の学習の補助として受講することも可能である。

 遠距学園では学生登録をしなくても全講座について聴講ができるようになっているが,ハンドルネームや電子メールアドレス等を登録すると,各講座の試験が受験できたり,教師や他の受講生との討論に参加できるようになる。また受講生個人のページに受講講座の履修進度や試験の点数などが表示され,学習に役立てることができるようになっている。

 「図書館情報学専攻課程」のうち2003年7月現在受講が可能な講座は,「利用者サービス」「レファレンスサービスとレファレンス情報源」など基礎的な図書館情報学の講座や,「ビデオ・マルチメディア資料製作および保管管理」「中国語の文字セットと文字コード」など比較的新しいテーマに関する講座の計10科目である。各講座とも10章前後に分かれており,基本理論から実務,図書館界の進展動向までの解説がなされている。各章はPowerPointなどの講義のレジュメと講義の音声映像ファイルからなる。講師は主に台湾各大学の図書館情報学あるいは関連分野の教員と国家図書館の職員が担当している。

 「遠隔教育または図書館情報学シンポジウム・セミナー課程」では,過去に関係学会などで行われた各シンポジウム・セミナーの講演や討論のレジュメと音声映像ファイルが公開されている。

 2002年12月には,インターネットへの接続が困難な地域に対する配慮と国家図書館遠隔教育課程の一層の普及を目的とし,「図書館情報学専攻課程」の講義をまとめたCD-ROMが出版された。

 生涯学習に対する関心が高まるなか,図書館はどのような役割を負うべきか,また,時代の変化に対応できる図書館員をどのように養成していくべきかという,図書館が現在直面する二つの問題に対して,台湾の国家図書館の取り組みはわが国にとっても大いに参考になることであろう。

関西館資料部アジア情報課:刈田 朋子(かりたともこ)

 

Ref.

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中村香織, 三浦太郎, 山形八千代, 石井奈穂子, 刈田朋子. 図書館員教育の国際動向. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.12-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1505 [169]

  • 参照(5898336)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
研修 [170]
オランダ [171]
ドイツ [172]
フランス [12]
台湾 [173]
米国 [25]
OCLC [174]

CA1506 - 研究文献レビュー:電子資料と目録規則,メタデータ,リンキング・テクノロジー / 北克一

PDFファイルはこちら [175]

カレントアウェアネス
No.277 2003.09.20

 

CA1506

研究文献レビュー

 

電子資料と目録規則,メタデータ,リンキング・テクノロジー

 

 

はじめに

 「国内の図書館情報学研究に関する概況把握を目的として,特定テーマに関する最近2年間の研究論文をレビューする」というのが,この企画である。この種のレビューは,日本図書館研究会が機関誌『図書館界』において,50号区切りで実施してきた。ただし,隔月刊の同誌において50号の刊行単位は,8年強の時間経過であり,そのレビューは実質には概ね過去10年間を対象として行われてきている(1)。また日本図書館協会では,各年の『図書館年鑑』において,「図書館概況」の下に館界の各種動向レビューを行ってきた(2)。

 本稿では,「電子資料と目録規則,メタデータ,リンキング・テクノロジー」を対象範囲として,2000年以降を中心に文献レビューを行う。なお,対象論文等をやや広めに採録し,動向記事・実践報告等も対象とした。また,単行書についても一部を取り上げた。

 21世紀の最初の数年は,20世紀最後の10年間における情報基盤ネットワークの進展と,WWWテクノロジーを核としたアプリケーション・プラットホーム上で展開されてきたネットワーク情報資源への対応をめぐって,目録法原理,目録法関係標準化規則,MARCの見直し,メタデータ規則開発,リンキング・テクノロジーとその実装・展開などが中心となる。

 

1. 目録規則等

 目録法関係が大きく動き出したのは,1997年頃からである。同年には,1)国際標準書誌記述(電子資料)(ISBD(ER))の刊行(3),2)書誌的記録の機能要件に関するIFLA研究グループによるFRBRの最終報告書(書誌的記録の機能要件: Functional Requirements for Bibliographic Records : final report)(翌年刊行)(4),3)AACR2の原則と将来展開に関する国際会議開催(5)があった。和中(6)がこれらを軸に英米目録規則(AACR2)の2002年改訂版までを手際よくまとめている。

 AACR2の2002年改訂版が2002年9月に刊行され,1999年以降の改訂を取りまとめるとともにいくつかの大きな改訂が行われた(7)。直近の改訂版は1998年版であるが,今回は1999年修正事項,2001年修正事項を統合し,さらにAACR改訂合同運営委員会の2002年改訂に対応した(8)。なお,今回より加除式媒体のみの刊行となった(9)。以下,主な改訂点を見る。

 第一は,条項0.24「規則適用原則」(Cardinal principle)の「資料の記述は,第一に当該資料が属する資料の種別を扱う章に基づく」を変更した。従来より目録規則の章立ては,資料種別といいつつも,この種別の区分原理の混在が指摘されてきた。今回の改訂版では,「記述対象資料のあらゆる側面(内容,媒体,刊行タイプ,書誌的関連,逐次刊行等)を明らかにすることが重要」と抽象的語句に変更されている。目録の記述対象のレベル,媒体型資料以外の資料への対応,逐次刊行性の見直し等の影響である。

 第二には,第12章「逐次刊行物(Serials)」が,「継続資料(Continuing Resources)」となり,根本的な変更がなされた。「継続資料」の下に,「逐次刊行物」と「更新資料」とに二分した点が大きな特徴である。この新第12章の対象範囲は,a.従来の逐次刊行物,b.継続する更新資料(加除式媒体資料やウェブサイトやデータベースなどの電子資料),c.終期があるが逐次刊行物の要件を備えている資料(逐次刊行物の復刻,期間限定の「逐次刊行物」,期間限定の「更新資料」)となった。ただし,項番「c.」は,以前よりの課題である逐次刊行性という第12章の基本原則との「衝突」を包含し,拡大している。

 関連して,記述の基盤を,逐次刊行物は初号主義,ネットワーク情報源等の更新資料は新規号主義を採用した。また,ISSN(国際標準逐次刊行物番号),ISBD(CR)との調整の上で,「タイトル変更」の判断基準を緩和し,新規書誌レコードの抑制を図った。

 その他,第3章「地図資料(Cartographic Materials)」が電子資料に関わる事項を中心とする全面改訂,第9章は2001年修正条項を反映して「コンピュータ・ファイル(Computer File(s))」から「電子資料(Electronic Resource(s))」への変更,出版者・頒布者の記述の簡略化などがある。

 古川が改訂の動向を紹介するとともに(10),第9章についてはISBD(ER)との比較考察,第12章については詳しい変更の考察を行っている(11)。他には,吉田ほかの論及がある(12)。

 IFLAの国際標準書誌記述(ISBDs)関係では,2002年6月に「国際標準書誌記述(単行書)(ISBD(M))」が改訂された(13)。同年8月には,「国際標準書誌記述(逐次刊行物)(ISBD(S))」の改訂版が,「国際標準書誌記述(逐次刊行物およびその他の継続資料)(ISBD(CR))」と名称変更の上,刊行されている(14)。1998年刊行の「書誌的記録の機能要件(FRBR)」における全国書誌の基礎的レベル要件とISBDs条項との整合性の見直しの一環である。

 ISBD(M)では,記述対象資料の同定識別のための記述要素が見直され,記述要素の「必須」と「選択」の項目が変化している。ISBD(CR)では,先のAACR2改訂項目で言及した電子的外部環境の変化を大きな背景に,ISSNおよびAACR側との協議,調整を経て改訂がなったものである。

 この間の経緯については,ISBD(M)と(CR)について関連する「国際標準逐次刊行物タイトル(International Standard Serials Title: ISST)」を含めて,那須による詳しい論考がある(15)。

 話題を国内に転じると,「日本目録規則1987年版改訂版(NCR1987R)」の第9章改訂案が,1999年11月に「電子資料の組織化:日本目録規則1987年版改訂版第9章の改訂とメタデータ検討会」で公表された(16)。後に,日本図書館協会のWWWでも公開,意見聴取が行われた。

 同案に対しては,北(17),北・村上(18)の論考がある。同第9章改訂案は,若干の修正の後,抜き刷りで刊行され(19),その後「日本目録規則1987年版改訂2版」が刊行された。第9章改訂案は,ISBD(ER)に依拠したものであり,電子資料をローカルアクセス資料とリモートアクセス資料に二分し,それぞれに対応した記述の情報源や記述要素を整理した。しかし,この第9章改訂案は,あらゆる電子資料を扱えることとしたことから,従来の規則において逐次刊行性を軸に第2章図書から第12章マイクロ資料と第13章逐次刊行物とに二分されていた規則構成構造に,「電子資料」という第三の軸を持ち込み,規則構造は複雑化した。

 NCR1987Rの第13章逐次刊行物の改訂案が,『図書館雑誌』に公表,WWWにも公開されている(20)。ISBD(CR),AACR2の2002年改訂に対応したものである。対応する論考は,寡聞にして未見である。その他,NCR1987Rに関しては,志保田・北(21),古川・志保田(22),古川等(23)がある。

 一方,国立国会図書館のJAPAN/MARCのNCR1987Rへの対応,UNIMARCフォーマット対応に関連して,JAPAN/MARCマニュアルの新規刊行がなされた(24)。

 いずれにせよ,国内規則のみならず,目録規則原則を規定する総則をも含め,規則の基本的な枠組みの見直し,改訂は今後の課題である。

 

2. メタデータ

 2000年当初から,メタデータに関する言及が増大している。メタデータとは,「データに関するデータ」や「データに関する構造化されたデータ」といわれる広範な概念であり,一般的にはサロゲート(代替物)とも総称される二次情報である。広義には,目録,書誌,索引,抄録,辞書,書評等々を含み,媒体や種類を問わない。

 しかし,最近のメタデータを巡る動向は,情報資源発見のためのメタデータという目的と,情報の意味的な相互可搬性(セマンティック・インターオペラビリティ)を中心として論議が進んでいる。すなわち,1)キーワード検索や全文検索の一定の限界への対処,2)保存関係や権利関係等の記述対象そのものに含まれない情報の保持,3)様々な種類のデータの統合検索基盤,4)既存媒体資料情報(目録)などと,ネットワーク情報資源等との統合検索の基盤などをその視野に入れている。

 図書館界においては,特にネットワーク上の情報資源へのメタデータとして構想,開発されたダブリン・コア(Dublin Core)を中心に論議,実践報告,実務報告が進展した(25)。従来の図書館界の目録規則との相違を念頭にダブリン・コアの特徴を簡単に整理しておく。

 第一には,目録規則では記述要素ごとに記述の情報源を規定し,「何を記述するか」という意味定義(セマンティクス定義)と「どのように記述するか」という構文定義(シンタックス定義)を行っている。

 別の見方では,カード目録では入力・出力が一体であり,MARCフォーマットにおいても目録規則との間に相互規定性・拘束性を持っている。一方,ダブリン・コアでは意味定義のみを規定し,記述文法は規定していない。なお,汎用的な記述形式としては,XML(26)を記述言語としたW3CによるRDF(Resource Description Framework)が標準的な枠組みを与えている(27)。

 ダブリン・コアの第二の特徴として,緩やかな定義とオプション性の保持がある。これは,このメタデータを「作成者」自身が記述・付加することを想定していることから,1)基本エレメントとして15項目(当初は13項目)を制定し(Simple Dublin Core: DCS),2)この15基本エレメントのいずれに対しても入力必須項目を定めず,すべてが任意項目であり,繰り返し可能である。

 第三の特徴として,拡張性の構造化が指摘できる。DCSの記述を詳細化するために,要素詳細化(qualifier)(28)と要素コード化形式(encoding scheme)を付加したDCQ(Qualified Dublin Core)セットが開発された。要素詳細化については,基本エレメントに対して詳細化を図るエレメント詳細化(Element Refinement Qualifier: 例えば,「日付」エレメントに対する「作成日付」や「更新日付」など)と,値が依拠する体系を示す値のコード化形式(Encoding Scheme Qualifier: 例えば,「主題」エレメントに対する「LCC」や「MeSH」など)がある。

 なお,要素詳細化において,「限定子を含む記述から限定子を取り除いても記述に矛盾を生じないこと」を限定子導入可否の基本原則(Dumb-down原則)としている。

 さらに,さまざまなコミュニティにおいて,ダブリン・コアに依拠してメタデータを開発・運用するには,一層の記述要素の拡張性が求められることが多い。こうした拡張枠組みを,アプリケーション・プロファイル(Application Profile: AP)という。APはそれぞれのコミュニティにおいてひとつ以上の名前空間(namespace)をXMLによってエレメントの定義とその場所を宣言し,エレメントの共有を可能にする枠組みである。なお,こうしたコミュニティ単位でのAPに対してのダブリン・コア・コミュニティ(DCMI)の対応が,運用審議会(Usage Board)での指針として2002年春に合意されている。

図書館界のAP(Library Application Profile: LAP)については,Dublin Core Libraries Working Group(29)によって開発され,ネットワークで公開されている(30)。

 このように,DCS,DCQ,APという階層構造をもつことで,広い範囲のコミュニティでの柔軟な運用と参加と相互運用性の確保が整備されつつある。

 以上のような国際的な動向を受けて,ダブリン・コアの動向紹介では,杉本に一連の論述がある(31)。また少し広い範囲でメタデータを検討したものに,目録規則とメタデータの関係を考察した渡邊(32),流通から保存までを射程した田畑(33),他には堀池・吉田(34)等がある。

 また,フィレンツェにおいて開催されたDublin Core-2002(2002.10.14-17)を踏まえた,国立国会図書館第3回書誌調整会議での永田(35),杉本(36)は参考になる。永田は,メタデータを巡る今後の課題を5つにシンプルに整理してみせた。杉本はダブリン・コアの論議を,意味,構文,具体的記述方式に総括した。共に,メタデータ・スキーマ・レジストリと,メタデータ・ハーベスティング(37)に言及している。今後の課題であり,共に必見としておきたい。併せて,同連絡会議記録集(38)に収録の「討議」記録は,メタデータを巡る国内を中心とする図書館関係の協同化,文書館等他のコミュニティとの協同化などを巡り,短いが多くの示唆に富んでいる。

 また,国立大学図書館協議会図書館高度情報化特別委員会ワーキンググループによる報告書(39)が出されている。併せて参照したい。

 一方,メタデータ構築事業の報告が輩出している。国立国会図書館関係では,例えば中井(40),大幸(41),河合(42)の報告がある。国立情報学研究所(NII)関係では,米澤(43),杉田(44)の報告がある。大学図書館関係でのメタデータを軸にした実践報告には,栃谷(45),尾城(46),平岡(47)などがあり,公共図書館関係では,森山(48)などがある。また,デジタル情報資源の保存問題とメタデータを考察したものに,大島(49),栗山(50)などがある。

 OCLC等の海外の動向等に関連してのものには,鹿島によるCORCプロジェクト参加報告(51)や中井のOCLC Connexion紹介(52)がある。

 2000年に米国議会図書館は200周年シンポジウム「新千年紀のための書誌調整に関する200周年記念会議(Bicentennial Conference on Bibliographic Control for the New Millennium)」を開催した。同館のネットワーク開発・MARC標準局(Network Development and MARC Standard Office)は,MARC21と共にMARC21のダブリン・コアへのマッピングも公表している(53)。

 また,2002年6月には新しいメタデータ・スキーマとして,MODS(Metadata Object Description Schema)を発表した。MARC21をXMLで展開したものであるが,MARC21のサブセットでもあり,新たなメタデータ・スキーマとも位置づけできよう。MODS開発の経緯を含めて,MARC21,MODS,ダブリン・コアの比較考察を,鹿島(54)が論考している。

 なお,国内では国立国会図書館が,上記のテーマを中心に「書誌調整連絡会議」を開催している(55)。

 

3. リンキング・テクノロジー

 情報資源提供の新しい環境構築が模索されている。先に触れた国立国会図書館のインターネット資源選択的蓄積実験事業(WARP),データベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)や,国立情報学研究所の学術コンテンツ・ポータル(GeNii),引用文献情報ナビゲータ(CiNii)などのサービス(56)が試験公開されている。

 一方,大学図書館等では電子ジャーナル,二次データベース,アグリゲータ・サービス,OPAC等の統合環境での提供を目指して,学術情報ポータル(玄関)の構築努力が始まっている。これらは初期のURLベースに基礎をおいたOPAC間の横断検索やOPACと電子情報とのリンクに止まるのではなく,新しいリンキング・テクノロジーと情報環境への挑戦と理解できる。

 外部環境としては,伝統的なISBN,ISSN,キータイトルに加えて,DOI(Digital Object Identifier)システム(57)による文献の一意識別コードによる名前空間の導入がある。 DOIは,オブジェクト識別子体系,DOIからURLへの変換を行うディレクトリ・サーバ(リゾルバー),オブジェクト(対象文献等の著作物)が保存されている出版社等のサーバから構成される。これを実装したサービスに出版者国際リンキング連盟(Publishers International Linking Association. Inc.: PILA)が運営するCrossRefがある(58)。関連文献に,鎌倉(59),時実(60),Pebtz, Ed(61),尾城(62)などがある。尾城は一読しておきたい。

 一方,1)すべての電子情報が一つのサービスで組織化されておらず,また2)利用者の所属,属性などによりアクセス条件が変わること,3)媒体型資料はOPACから所蔵情報やILLシステムに依存すること,また逆に4)複数の情報アクセス方法が存在する場合の優先順序提示の必要性などに対して,バン・デ・ソンペル(Herbert Van de Sompel)らが提唱したOpenURLテクノロジー(63)が,実装されてきた。OpenURLはリゾルバーが様々な情報資源からのメタデータや識別子情報を含むURLを受け,適切に解釈するためのデータ表記法の構文であり,BASE-URLとDESCRIPTIONから構成されている。多くのネットワーク情報資源提供者が,リゾルバーにOpenURLに準拠したメタデータを送信する機能に対応し始めている。詳しくは,その実装システムS・F・Xと共に紹介した増田(64)の論述がある。

 

最後に

 以上,21世紀に入っての目録規則,国際標準等の動向,ダブリン・コアを中心にメタデータの開発と導入実践例,リンキング・テクノロジーを軸とする新しい情報提供環境の変化を中心に駆け足でレビューした。明らかに,初期のWWW OPACや貴重書コレクションの電子化,二次情報データベースや電子ジャーナルのLAN提供等が個々のサービスとして独立に提供されてきた段階から,時代の階段は一段のぼった。一方,こうしたリゾルバーモデルによる統合環境を維持する資源や,複数資源の優先順位を規定する内部データベースの維持などにおいて,大多数の図書館において投入可能な資源の限界とのせめぎあいが見えてきている。図書館経営の視座,外部ビジネス・モデルの視点からも注視していきたい。

 なお,文中の敬称は略させていただいた。本稿では情報検索プロトコル関係,電子ジャーナルそのものを巡る課題等は対象外とした。

大阪市立大学大学院創造都市研究科:北 克一(きたかついち)

 

(1) 直近の『図書館界』のレビュー特集は,
特集:図書館・図書館学の発展−21世紀を拓く. 図書館界. 53(3), 2001, 173-406.
であり,本稿とテーマ的に関連したレビュー類は,次である。
北克一,呑海沙織 「学術情報流通の変容と大学図書館:20世紀最後の10年間」 ; 高鍬裕樹 「ネットワーク情報資源」 ; 田窪直規 「書誌情報とその標準化」.
(2) 毎年の『図書館年鑑(日本図書館協会発行)』の「I 図書館概況」中の「整理技術と書誌情報(執筆:永田治樹)」が概ね対応している。
(3) IFLA. ISBD(ER). K.G. Saur, 1997, 109p.
(4) IFLA. Functional Requirements for Bibliographic Records: Final Report. K.G. Saur, 1998, 136p. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.pdf [176] >. (accessed 2003-07-10).
(5) Weihs, Jean ed. The principles and future of AACR: proceedings of the International Conference on the Principles and Future Development of AACR, Toronto, Ontario, Canada, October 23-25, 1997. ALA, 1998, 272p.
(6) 和中幹雄. AACR2改訂とFRBRをめぐって:目録法の最新動向[CA1480 [121]]. カレントアウェアネス. (274), 2002, 11-14.
(7) ALA et al. AACR2. 2002 revision. ALA, 2002, 772p.
(8) Joint Steering Committee for Revision of Anglo-American Cataloguing Rules (JSC)。米国図書館協会,オーストラリア目録委員会,英国図書館,カナダ目録委員会,英国図書館・情報専門家協会(CILIP),米国議会図書館で構成。< http://www.nlc-bnc.ca/jsc/ [177] >参照。
(9) 今回のAACR2 2000年改訂版自体が,その新第12章「継続資料(Continuing Resources)」の中の「更新資料(Integrated Resources)」になった。
(10) 古川肇. "アメリカにおける『英米目録規則』改訂の動向". 電子資料の組織化:日本目録規則(NCR)1987年版改訂版第9章改訂とメタデータ. 東京, 日本図書館協会, 2000, 10-16 ; 古川肇. 『英米目録規則』に関する改訂の動向:一つの展望. 資料組織化研究. (43), 2000, 15-29.
(11) 古川肇. 『英米目録規則 第2版2002年版』の二つの章. 資料組織化研究. (47), 2003, 15-24.
(12) 吉田暁史ほか. 記述対象と書誌記述:最近における国際的な目録研究および規則改訂動向をふまえて. 図書館界. 54(2), 2002, 110-115.
(13) IFLA. ISBD(M). 2002 revision. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/pubs/isbd_m0602.pdf [178] >, (accessed 2003-07-10).
(14) IFLA. ISBD(CR). K.G. Saur. 2002, 112p.
(15) 那須雅煕. ISBDの新たな展開:ISBD(M)と(CR)[CA1485 [179]]. カレントアウェアネス. (275), 2003, 4-7.
(16) 日本図書館協会目録委員会編. 電子資料の組織化:日本目録規則(NCR)1987年版改訂版第9章改訂とメタデータ. 東京, 日本図書館協会, 2000, 95p.
(17) 北克一. 『日本目録規則1987年版改訂版』第9章改訂案「電子資料」の検討. 整理技術研究. (42), 2000, 1-12.
(18) 北克一, 村上泰子. 電子資料と目録規則―NCR第9章を対象に. 図書館界. 53(2), 2001, 134-141.
(19) 日本図書館協会目録委員会編. 日本目録規則1987年版改訂版第9章電子資料:旧第9章コンピュータファイル改訂版. 東京, 日本図書館協会, 2000, 37p.
(20) JLA目録委員会. 『日本目録規則 1987年版改訂2版』第13章検討のポイント. 図書館雑誌. 96(2), 2002, 132-133. (online), available from < http://wwwsoc.nii.ac.jp/jla/mokuroku/13point.html [180] >, (accessed 2003-07-10).
(21) 志保田務, 北克一. 『日本目録規則 1987年版改訂版』における区切り記号法に関する一検討:書誌レベルを主軸に. 整理技術研究. (42), 2000, 13-18.
(22) 古川肇, 志保田務. 続『日本目録規則1987年版改訂版』への意見と提案(下). 整理技術研究. (42), 2000, 19-26.
「上」は,同誌(41), 1999, 13-27. に掲載。
(23) 古川肇. 目録の構造に関する試論. 資料組織化研究. (44), 2001, 1-9.
(24) 国立国会図書館編. JAPAN/MARCマニュアル 単行・逐次刊行資料編. 東京, 日本図書館協会, 2002, 183p.
なお,合わせて次にも目配りをしておきたい。国立国会図書館 - 図書館員のページ - 書誌データの作成及び提供 < http://www.ndl.go.jp/jp/library/data_make.html [181] >.
(25) Dublin Core Metadata Initiative DCMI. (online), available from < http://dublincore.org/ [182] >, (accessed 2003-07-10).
Simple Dublin Coreが,2003年1月に,ISO/TC46/SC4で投票結果,承認されている。
(26) XMLの基礎知識については,例えば次がわかり易い。
特集:学術・情報分野のためのXML基礎. 情報の科学と技術. 52(8), 2002, 395-434.
(27) Resource Description Framework (RDF). (online), available from < http://www.w3c.org/RDF/ [183] >, (accessed 2003-07-10).
(28) Dublin Core Qualifiers. (online), available from < http://dublincore.org/documents/2000/07/11/dcmes-qualifiers/ [184] >, (accessed 2003-07-10).
ISO15836として,承認されている。
(29) DCMI Libraries Working Group. (online), available from < http://dublincore.org/groups/libraries/ [185] >, (accessed 2003-07-10).
(30) DC - Library Application Profile. (online), available from < http://dublincore.org/documents/2001/10/12/library-application-profile/ [186] >, (accessed 2003-07-10).
(31) 多筆なので一部を紹介する。
杉本重雄. Dublin Coreについて:最近の動向,特にqualifierについて. ディジタル図書館. (18), 2000, 36-48, (online), available from < http://www.dl.ulis.ac.jp/DLjournal/No_18/4-sugimoto/4-sugimoto.html [187] >, (accessed 2003-07-10). ; 杉本重雄. Dublin Coreについて(1)概要. 情報管理. 45(4), 2002, 241-254.;杉本重雄. Dublin Coreについて(2)より深い理解のために. 情報管理. 45(5), 2002, 321-335.;杉本重雄. "情報資源組織化の努力―メタデータについて―". 電子図書館:デジタル情報の流通と図書館の未来. 東京, 勉誠出版, 2001, 103-129.
(32) 渡邊隆弘. 図書館目録とメタデータ. 図書館界. 53(2), 2001, 126-133.
(33) 田畑孝一. ディジタル図書館. 東京, 勉誠出版, 1999, 155p. (特に「IV目録とメタデータ」および「V情報資源のメタデータ記述の枠組み」);田畑孝一. "デジタル情報の流通・保存と電子図書館システム". 電子図書館:デジタル情報の流通と図書館の未来. 東京, 勉誠出版, 2001, 87-101.
(34) 堀池博巳, 吉田暁史. ネットワーク情報資源の組織化. 図書館界. 55(2), 2003, 94-100.
(35) 永田治樹. "メタデータをめぐる問題−図書館コミュニティの対応". ネットワーク系電子出版物の書誌調整に向けて:メタデータの現況と課題(第3回書誌調整連絡会議記録集). 東京, 日本図書館協会, 2003, 11-20.
(36) 杉本重雄. "Dublin Coreの最近の話題から". 前掲, 21-32.
(37) 例えば,Open Archive InitiativeによるハーベスティングのプロトコルであるOAI-PMH(Protocol for Metadata Harvesting)< http://www.openarchives.org/OAI/openarchivesprotocol.html [60] >参照。
(38) 国立国会図書館編. ネットワーク系電子出版物の書誌調整に向けて:メタデータの現況と課題(第3回書誌調整連絡会議記録集). 東京, 日本図書館協会, 2003, 128p.
概要は< http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/030228-1.html [188] >参照。
(39) 図書館高度情報化特別委員会ワーキンググループ. 電子図書館の新たな潮流:情報発信者と利用者を結ぶ付加価値インターフェイス. 国立大学図書館協議会, 2003, 49p. (online), available from < http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/Kdtk/Rep/73.pdf [189] >, (accessed 2003-07-10).
(40) 中井万知子. 国立国会図書館におけるメタデータ記述の検討と計画. ディジタル図書館. (22), 2002, 19-29. (online), available from < http://www.dl.ulis.ac.jp/DLjournal/No_22/3-mnakai/3-mnakai.html [190] >, (accessed 2003-07-10).
(41) 大幸直子. "国立国会図書館におけるネットワーク系電子出版物の組織化". 前掲(38), 33-42.
(42) 河合美穂. "国立国会図書館のインターネット資源選択的蓄積実験事業(WARP)及びデータベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)について". 前掲(38), 43-57.
関連して,前掲(38)には,「付録1 国立国会図書館メタデータ記述要素」も収録されている。また,関係情報としては,第三回書誌調整連絡会議報告―インターネット上の情報資源の組織化―. 国立国会図書館月報. (503), 2003, 16-20.;WARP. < http://warp.ndl.go.jp/ [191] >;Dnavi. < http://dnavi.ndl.go.jp/ [192] >を参照。
(43) 米澤誠. 国立情報学研究所のメタデータ共同構築計画. ディジタル図書館. (22), 2002, 30-35. (online), available from < http://www.dl.ulis.ac.jp/DLjournal/No_22/4-yonezawa/4-yonezawa.html [193] >, (accessed 2003-07-10).
(44) 杉田茂樹. "国立情報学研究所のメタデータ・データベース共同構築事業について". 前掲(38). 59-66.
関連しては,NIIメタデータ・データベース入力マニュアル1.2版. (online), available from < http://www.nii.ac.jp/metadata/manual/ [194] >, (accessed 2003-07-10).
(45) 栃谷泰文. ゲートウェイ・サービスのためのメタデータ: 「インターネット学術情報インデックス」作成の事例報告. 現代の図書館. 38(1), 2000, 55-62.
(46) 尾城孝一. サブジェクトゲートウェイの構築と運営:理工学分野の高品質なインターネットリソースの提供をめざして. 情報の科学と技術. 50(5), 2000, 280-289.
関連して,尾城孝一. 電子図書館サービスの新たな可能性:欧米の動向のレビューを中心に. (online), available from < http://yicin.komachi.gr.jp/~dtk/kenkyu/resource/DOC12_ojiro.pdf [195] >, (accessed 2003-07-10).がある。
(47) 平岡博. 図書館情報大学ディジタル図書館のメタデータ作成. ディジタル図書館. (16), 1999, 44-49. (online), available from < http://www.dl.ulis.ac.jp/DLjournal/No_16/5-liru/5-liru.html [196] >, (accessed 2003-07-10).
なお,これ以外に例えば次のような関連発表の文献がある。
石村恵子ほか. 筑波大学電子図書館の現状と課題. 大学図書館研究. (55), 1999, 65-74.;新麗. "2.4 考古学フィルムライブラリー". NAIST電子図書館レポート 2000. 2000, 24-27.;今井正和. "2.5 学位論文のメタデータ". NAIST電子図書館レポート 2000. 2000, 28-40.;渡邊隆弘. "震災アーカイブにおけるメタデータの設計". 人文科学とコンピュータシンポジウム論文集. 東京, 情報処理学会, 2000, 89-96.
(48) 森山光良. Z39.50とDublin Coreを用いた郷土関係電子図書館ネットワークの構築: 「デジタル岡山大百科」における構想と課題. ディジタル図書館. (21), 2002, 3-18. (online), available from < http://www.DL.ulis.ac.jp/DLjournal/No_21/1-moriyama/1-moriyama.html [197] >, (accessed 2003-07-10).
(49) 大島薫. 電子出版物の保存. 情報の科学と技術. 50(7), 2000, 383-388.
(50) 栗山正光. デジタル情報保存のためのメタデータに関する動向[CA1489 [198]]. カレントアウェアネス. (275), 2003, 13-16.;栗山正光. ディジタル情報保存のためのメタデータ(2). (online), available from < http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/memb/mtkuri/reports/metadata2.html [199] >, (accessed 2003-07-10).
関連して, RLG. Working Group on Preservation Issues of Metadata : Final Report. (online), available from < http://www.rlg.org/preserv/presmeta.html [200] >, (accessed 2003-07-10).
(51) 鹿島みづき. CORCプロジェクトに参加して. 情報の科学と技術. 51(8), 2001, 409-417.
(52) 中井惠久. OCLC Connexion:目録作成サービスの統合[CA1477 [201]]. カレントアウェアネス. (274), 2002, 3-4.
関連して,OCLC Connexion. < http://www [202]. oclc.org/connexion/ >;OCLC Connexion: Guide to Migration. < http://www.nelinet.net/tech/cat/connex.htm [203] >。基本は,OCLCとLCを中心とする目録世界とメタデータ世界のCross Walkの挑戦である。
(53) LC. MARC STANDARDS. (online), available from < http://lcweb.loc.gov/marc/marc.html [204] >,(accessed 2003-07-10).;LC. MARCXML. (online), available from < http://www.loc.gov/standards/marcxml/ [205] >, (accessed 2003-07-10).
(54) 鹿島みづき. MODS:図書館とメタデータに求める新たなる選択肢. 情報の科学と技術. 53(6), 2003, 307-318.
関連して,MODS < http://www.loc.gov/standards/mods/ [206] >。
(55) 国立国会図書館編. 書誌コントロールの課題(第2回書誌調整連絡会議記録集). 東京, 日本図書館協会, 2002, 78p ; 前掲(38).
概要は< http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/020228.html [207] >参照。
(56) GeNii. (online), available from < http://ge.nii.ac.jp/ [208] >, (accessed 2003-07-10).;CiNii. (online), available from < http://ci.nii.ac.jp/ [209] >, (accessed 2003-07-10).
また,メタデータ・データベース共同構築事業として,学術情報リポジトリー・ポータル(NII-IRP: NII Institutional Repository Portal),統合サブジェクト・ゲートウェイ(NII-USG: NII Union Subject Gateway)の構築が構想されている。
(57) DOI. (online), available from < http://www.doi.org/ [210] >, (accessed 2003-07-10).
(58) CrossRef. (online), available from < http://www.crossref.org/ [211] >, (accessed 2003-07-10).
(59) 鎌倉治子. DOI(デジタル・オブジェクト識別子). 国立国会図書館月報. (455), 1999, 32-35.
(60) 時実象一. 引用文献リンクプロジェクトCrossRef:「情報検索」から「情報リンク」へ. 情報管理. 43(7), 2000, 615-624.
(61) Pentz, Ed. インタビュー ペンツ,エド氏に聞く:CrossRefについて. 情報管理. 45(4), 2002, 227-229.
(62) 尾城孝一. CrossRefをめぐる動向[CA1481 [212]]. カレントアウェアネス. (274), 2002, 14-17.
(63) OpenURL syntax description. (online), available from < http://www.sfxit.com/openurl/openurl.html [213] >, (accessed 2003-07-10).;OpenURL Generator. (online), available from < http://demo.exlibrisgroup.com:9003/OpenURL/ [214] >, (accessed 2003-07-10).
(64) 増田豊. OpenURLとS・F・X[CA1482 [215]]. カレントアウェアネス. (274), 2002, 17-20.;増田豊. 学術リンキング:S・F・XとOpenURL. 情報管理. 45(9), 2002, 613-620.
関連して,OpenURLを実装したシステムとして,SFX Source(Open-URL Enabled Resources)< http://www.sfxit.com/sources-list.html [216] >がある。

 

 


北克一. 電子資料と目録規則,メタデータ,リンキング・テクノロジー. カレントアウェアネス. 2003, (277), p.19-24.
http://current.ndl.go.jp/ca1506 [217]

  • 参照(22422)
カレントアウェアネス [6]
研究文献レビュー [85]
メタデータ [75]
電子情報資源 [218]
目録規則 [219]

No.276 (CA1491-CA1499) 2003.06.20

  • 参照(18917)

pdfファイルはこちら [220]

CA1491 - 英国CILIPの活動-LAとIISの統合- / 須賀千絵

  • 参照(12990)

PDFファイルはこちら [221]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1491

 

英国CILIPの活動 ―LAとIISの統合―

 

 2002年4月に,英国図書館協会(Library Association:LA)が英国情報専門家協会(Institute of Information Scientists:IIS)と統合し, 英国の図書館情報分野の専門職団体として,新たに,「図書館・情報専門家協会(Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)」が誕生してから,約一年が経過した。CILIPのウェブサイトの情報をもとに,初年度の活動を振り返る (統合の経緯についてはCA1279 [222]参照)。

 CILIPは,正会員(Member)と特別会員(Fellow)から成るチャーター会員(Chartered Member),チャーター会員以外の専門職や図書館情報学専攻の院生などが対象のアソシエイト会員, 非専門職を対象とした一般会員(Affiliate),その他の個人を対象としたサポート会員, 機関会員などから構成された団体である。チャーター会員は,チャーター会員とアソシエイト会員の投票により,一定の条件を満たし,会員候補として登録したアソシエイト会員のなかから選ばれる。現在の会員は約30,000名で,その大半は旧LAの会員である。統合時に,IISの会員数は,LAの会員数の一割程度で,しかも両者に重複する会員も多かった。

 この一年間,CILIPは,専門職を代表した立場での意見の表明や広報活動(Advocacy),専門職の養成および再教育の支援,出版などの各種関連事業を軸に,活発な活動を行ってきた。2002年には,国際図書館連盟(IFLA)の大会が英国スコットランドのグラスゴーで開催されたため,CILIPはそのホスト役も務めた。広報活動の分野では, 2002年7月に,『知識経済におけるCILIPの役割(CILIP in the Knowledge Economy)』を発表し,現在出現しつつある知識ベースの経済において, CILIPが果たすべき役割を示した。このなかで,CILIPは,基準やガイドラインの策定,研究の推進,人材育成などを通して,知識経済に関わっていくことを述べている。

 このほか,2002年10月に,『小学校の図書館のガイドライン(Primary School Library Guidelines)』,および今後の児童サービスのあり方をまとめた『スタート・ウィズ・ザ・チャイルド(Start with the Child:E019 [223]参照)』,2003年2月に,図書館における安全管理のガイドラインである『子どもにとって安全な場所であるために(A Safe Place for Children)』など,児童を対象とした図書館サービスに関連したガイドラインや将来のビジョンを相次いで発表した。これらの文書は,すべてCILIPのウェブサイト上で公開されている。

 CILIPは,図書館・情報政策に関し,政府に対して,しばしば個別に公式見解を発表している。しかし,現在,特に公共図書館政策をめぐって,CILIPは政府と鋭く対立しており,両者の関係は望ましいものであるとは言いがたい。図書館軽視の観のある包括的業績評価制度(Comprehensive Performance Assessment:CPA 各種公共サービスや財政面の評価を総合して,自治体の経営能力を評価するための枠組み)の導入や厳しい状態の続く図書館予算の問題などが,両者の対立の原因になっている。

 専門職の育成と再教育の分野では,LAの業務を引き継いで,図書館情報学分野の公認大学院の認定,各種の研修会の開催などを行っている。このほかに,児童サービスおよび学校図書館,16歳(義務教育修了年)以降の生涯学習,情報および知識マネジメント,図書館における労働問題などの分野において専門のアドバイザーを配置して,会員の個別相談などに対処している。

 また,CILIPでは,「専門職の倫理綱領 (CILIP's Code of Professional Ethics)」 の制定や,資格のあり方の見直しにも着手している。倫理綱領の制定は,LAの綱領をもとに進められており,2003年4月には,その草案がCILIPのウェブサイトに公表された。同時に,資格のあり方を見直すためのプロジェクトも進められており,2005年3月までに,「資格の新しい枠組み(The New Framework of Qualification)」が構築される見込みである。LAとIISの統合を反映して,多様な背景を持つ人材に対応できるような枠組みをつくることをめざしている。2003年4月には,CILIPのウェブサイトに,「情報専門家(information professional)」になるには多様なルートがありうることを発表して,学部卒業後,CILIP公認の情報学分野の大学院修士課程に進むという伝統的なルートのほかに,図書館で準専門職を経験してから公認大学院に進むルート,他分野の大学院の修士・博士課程から直接専門職をめざすルートを紹介している。

 CILIPが展開している事業には,LAの出版部を引き継いだファセット出版(Facet Publishing),図書館情報学分野の求人・求職の紹介や斡旋を行うインフォマッチ(INFOmatch)などがある。後者もLAの同名の事業を引き継いだものである。また機関誌として『アップデイト(Update)』(月刊)を刊行するとともに,ウェブサイトの充実にも力を入れている。

 CILIPには,現在,27の分科会(Special Interests Group)が設置されている。IISの分科会を引き継いで,特許・商標分科会(Patent and Trade Mark Group),英国オンライン端末利用者分科会(UK Online User Group: UKOLUG)が設置されたが,残りの大半は,LAの分科会を引き継いだものである。2003年4月には,新たに,図書館情報学研究分科会(Library and Information Research Group)が設置された。この分科会は,1977年以降,主に図書館情報学の実務に結びついた研究を支援してきた同名の団体を母体としている。

 現在のところ,CILIPの活動の多くは,LAの活動を引き継いだ形で展開されており,LAの影響が色濃く残っているようである。しかしサザンプトン大学(University of Southampton)の学術支援サービス部長からCILIPの初代会長となったシーラ・コラール(Sheila Corrall)は,専門家の多様なニーズを考慮して,分科会や全国にある支部の再編を予定していることを明らかにしている。従って,今後,活動内容が少しずつ変化していく可能性も考えられる。コラールは,次年度以降の課題として,会員のための魅力的で充実したウェブサイトの構築,チャーター会員になるためのルートの多様化を反映した,資格の新しい枠組みの構築,情報の連続体(information continuum),すなわち様々な情報が互いに関連し合いながら存在する世界における専門家およびCILIPの位置づけの見直しを挙げた。LAとIISの統合は,図書館を中心に活躍する伝統的な「情報専門家」と主に電子情報を扱う新しいタイプの「情報専門家」が一体になることによって,多様な情報関連分野において,強大な発言力を得ることがねらいであった。今後の活動を通して,このねらいが実現することが期待される。

慶應義塾大学文学部非常勤:須賀 千絵(すがちえ)

 

Ref.

Chartered Institute of Library and Information Professionals (CILIP). (online), available from < http://www.cilip.org.uk/ [224] >, (accessed 2003-04-10).

CILIP year one: Plenty of progress but more tasks ahead. (online), available from < http://www.cilip.org.uk/news/2003/010403.html [225] >, (accessed 2003-04-10).

 


須賀千絵. 英国CILIPの活動 ―LAとIISの統合―. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1491 [226]

カレントアウェアネス [6]
英国 [98]

CA1492 - 図書館での貸出有料化の問題-フランスの場合- / 宮本孝正

  • 参照(14103)

PDFファイルはこちら [227]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1492

 

図書館での貸出有料化の問題 −フランスの場合−

 

 「図書館における貸与権」は,著作者の権利の一部をなすものとして,フランスの著作権法に明記されている。知的所有権法典L第131-4条の規定によれば,著作者は,図書館での著作物の利用について報酬を得る権利を有するのである。

 従来この権利は単なる法律上の文言にとどまり,図書館での閲読は大目に見られていた。しかしながら,デジタル技術が普及し国境を越えての情報交換が活発化した現在,著作者は著作物の利用に対しそれ相応の報酬を受け取っていない,と感じられるようになってきた。最大多数の人々が書物と読書に親しめるようにするという図書館の基本的な役割と,著作者が報酬を得る権利との間に,折り合いを付けることが求められている。

 具体的な数値を挙げよう。フランスでは,1980年に図書館930館,登録者260万人,貸出6,000万冊であった利用形態が,1999年には,図書館3,560館,登録者660万人,貸出1億9,000万冊というように,特に貸出冊数については3倍以上に増大している。このような勢いで著作物が広まるのであれば,著作者の側から報酬の問題が提起されるのも不思議とは言えないだろう。

 2000年春,書物の専門家の間で会議が持たれた時に,激しい論議が沸き起こった。出版者と一部の著作者は,貸出という行為に対価を支払う制度を設置するよう求め,なかには図書館での貸出そのものを禁止するよう主張する著作者もいた。図書館職員は,別の一部著作者の支持を得て,そのような態度は公共機関での閲読の発展を否定することにつながる,との懸念を表明した(CA1351 [228]参照)。

 文化通信相の主導のもとで深められた協議の末,貸与権行使の原則および態様について,大局的な合意が得られた。この合意事項を法案にまとめ上げたのが,現在審議中の「図書館での貸与を名目とする報酬および著作者の社会的保護を強化する法律(案)」である。

 法案の主旨説明から要点を紹介しておこう。以下の4項目である。

  • (1)著作者および出版者,ならびに図書館に対して,法律上の認可を創設する

     欧州共同体の指令(賃貸借権および貸借権に関する指令no.92-100CEE,1992年11月19日)は,「著作者が著作物の貸出を許可または禁止することのできる排他的権利の原則を設けるよう」加盟国に義務づけているが,フランスではすでに,知的所有権に関する法律を1957年に制定して以来,この原則が確立している。欧州共同体の指令は,さらに,「少なくとも著作者が貸出の名目で報酬を受け取ることを条件として」加盟国が上記の原則に反することを容認している。今回の法案は,指令のこの例外規定に則り,図書館での著作物の貸出を名目として,著作者が報酬受給権を行使することができるよう,新しい制度の確立を企てるものである。同時に,出版者も,報酬受給権の恩恵に与ることができるものとしている。

  • (2)できるだけ多くの人が書物と読書に親しむ機会を得るという図書館の基本的な役割に鑑みれば,「支払い貸出(pret payant)」(利用料金をその場で支払う方式)ではなく「既払い貸出(pret paye)」(利用料金を別途支払い済みとする方式)の制度を設けるのが妥当である

     「支払い貸出」の方式は,最大多数の人々が書物と読書に親しめるよう努めるという図書館の役割に抵触する。著作者への報酬は,「既払い貸出」の方式により運営するものとする。報酬は,読者へ貸し出す時点ですでに報酬を管理する機関に支払われており,出資者は,国,地方公共団体,および図書館を所有するその他の機関である。同方式の概略を図に示した。

     


     

    図 「既払い貸出」方式の概略

     

     「既払い貸出」のための資金は,(a)「一括払い」と(b)「購入時払い」の2種類の財源から成る。

     (a)「一括払い」は,国による支払いの形を取る。図書館利用者の貸出対価を国が一括代金として支払うもの。登録者数の算定にあたり,公共図書館およびその他の図書館と,大学図書館とで,算定の率が異なる(公共図書館は大学図書館の1.5倍)。一括代金の総額は政令で定め,予算法による国の予算を確保する。上記の算定率は,初年度については,2分の1に設定する。

     学校や大学での閲読については,大学図書館の一括代金は低めに設定するとともに,学校図書館については「一括払い」を免除する。

     (b)「購入時払い」は,国,地方公共団体,教育・職業教育・研究機関,労働組合,企業委員会および団体が,貸出を行う施設に著作物を購入した時点で支払う。金額は,著作物の価格の6%に固定する。代価は,当該著作物を納入した業者から,報酬を管理する機関である「共同管理団体」へ振り替える。

  • (3)貸出の名目による報酬の管理は,(一または複数の)「共同管理団体」に委託する。報酬は,2種類に分かれる。1つ目は,著作権料(=印税)の名目による,著作者および出版者への直接報酬。2つ目は,著作者への後払い報酬。後者は,補助年金(retraite complementaire)制度への資金提供という間接的方法で行う

     貸与権行使のために必要とされる資金は,1年あたり2,226万ユーロ(約29億円)と見積もられている。これを以下の(a)(b)2項目として支出する。

    • (a)著作権料の支払い:タイトルごとの貸出回数ではなく購入書籍のタイトル数を基礎に勘定するものとする。この計算方法であれば,購入図書の多様性が反映できる。また,限定販売や小規模出版者にとっても不利にはならない。
    • (b)AGESSA(著作者社会保障管理協会)に加入している著作者および翻訳者に対する補助年金制度への資金提供:創作家の中で著作者および翻訳者だけが,今日に至るまでこの制度の恩恵を受けていない。そのため,著作者および翻訳者は全活動を創作や翻訳に集中できないでいる。貸与権に由来するこの資金を,50%を限度として,年金拠出金の一部とする。むろん,拠出金の残りの部分は,この制度に与する著作者および翻訳者が支払わなければならない。

     貸与権の名目で集めた金額は,共同管理の対象としなければならない。文化通信相が認可した団体のみが,支払いを請求することができる。

     (法案は,これに続けて,複写物に関する合意基準を取り上げているが,今回は割愛する。)

  • (4)書物の経済的連鎖のバランスを強化する

     「支払い貸出」でなく,「既払い貸出」を実現させるためには,書物の価格に関する1981年8月10日の法律(公共団体への書籍販売について割引の上限を設定するもの)の強化が必要である。

     公共団体が書物を購入する場合,割引が可能である。これは1981年の法律に基づく措置によるものであるが,この措置のおかげで,現在,書店側には損失が生じている。図書館市場に多数の卸売商が参入した結果,割引率の嵩上げが生じ,そのアップ率が大部分の書店に近寄れないほどの水準に達したのである。

     このような条件下で,付帯措置を欠いたまま「既払い貸出」を実施すれば,購入者である図書館は値引きに敏感になり,書店は図書館市場からの撤退を余儀なくされるかもしれない。したがって,割引については上限を設定することとする。

     公共団体の補助的負担を軽くするため,「購入時払いによる既払い貸出」は,2年以内に実施する。初年度について,値引きの上限は12%,図書館への納入業者による「共同管理団体」への振り替え率は3%とする。

     この法案(上院先議)は,2002年2月21日,国会に提出され,同年10月8日に上院を通過した。その際,法律施行の2年後に政府は国会に報告書を提出する,という条項が付加された。2003年5月現在,下院での修正案に基づき、上院での第2読会が行われている。フィンランド,英国,スウェーデンでは,図書館での貸出に起因する著作者の印税損失を補填する制度がすでに確立しているが,この法案が可決されれば,フランスもこれら3国と並ぶことになる。

調査及び立法考査局農林環境課:宮本 孝正(みやもとたかまさ)

 

Ref.

Droit de pret. Association des bibliothecaires francais. (online), available from < http://www.abf.asso.fr/dossiers/droitdepret/ [229] >, (accessed 2003-05-06).

Non au droit de pret. Association des Directeurs des Bibliotheques Departementales de Pret. (online), available from < http://www.adbdp.asso.fr/association/droitdepret/index.html [230] >, (accessed 2003-05-06).

Senat. Project de loi relatif a la remuneration au titre du pret en bibliotheque et renforcant la protection sociale des auteurs. (online), available from < http://www.senat.fr/leg/tas02-003.html [231] >, (accessed 2003-05-06).

Senat. Remuneration du pret en bibliotheque et protection sociale des auteurs. (online), available from < http://www.senat.fr/leg/pjl01-271.html [232] >, (accessed 2003-05-06).

Assemblee national. Projet de loi relatif a la remuneration au titre du pret en bibliotheque.(online), available from < http://www.assembleenat.fr/12/dossiers/pret_bibliotheque.asp [233] >, (accessed 2003-05-06).

 


宮本孝正. 図書館での貸出有料化の問題 −フランスの場合−. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1492 [234]

カレントアウェアネス [6]
貸出 [235]
フランス [12]
BNF(フランス国立図書館) [236]

CA1493 - カナダの政府情報管理政策と現状 / 野澤明日香

  • 参照(11767)

PDFファイルはこちら [237]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1493

 

カナダの政府情報管理政策と現状

 

 カナダにおける政府情報管理の指針となるものに「政府所有情報に関する管理政策(Policy on the Management of Government Information Holdings: MGIH)」がある。MGIHは政府情報を網羅的にかつ整合性を持って取扱う目的で1987年に策定された(1994年に改定)。具体的にこの政策が目指すものは,有益な政策決定を行うための資料提供の手段を確保し,情報が最大限有効に活用されるよう,管理し,また不必要な情報を排除することで国民への負担を減少させることである。この政策の対象者は各政府機関をはじめ付属する図書館である。これらの機関は各機関で計画・発行した情報について,その形態や媒体に関わらず,収集から保管に至るまでの全工程に責任を持たねばならない。

 この政策が各機関において機能しているかどうかは,国家財政委員会事務局(Treasury Board Secretariat)が各省庁の内部報告書を通して監査している。またカナダ国立公文書館(National Archives of Canada)は国家財政委員会事務局の代理としてこの政策に対する評価責任を負い,かつ公文書館で保有する資料に関する問題点等について報告することが義務づけられている。各政府機関においても情報収集に際しての固有の問題点等について報告することが認められており,カナダ国立図書館(National Library of Canada: NLC)も出版物について同様に報告することが規定されている。

 このMGIHの認知度および達成度を把握する目的で2002年,NLCによる調査が行われた。同様の調査は1999年にも行われているが,電子情報等紙媒体にとどまらない情報が近年増大し,その収集の実態を把握する必要性から,今回再調査が行われた。この調査を通して政府情報の形態,管理部門,公開方法および問題点が明らかになった。

 調査は2002年3月14日〜4月26日の間に行われ,調査票はカナダ国内の省庁や政府機関に設立されている連邦図書館の評議会(Council of Federal Libraries)の委員に配布された。回答は68機関中52機関(76%),190人中97人(51%)から得られた。そのうち68%の機関が出版物を管理する部門を持ち,さらに半数は付属する図書館がその役割を担っていると回答している。また大多数の官庁出版物はインターネットを通して,あるいは付属図書館並びにNLCへの寄託によって国民に提供されている。しかしながら,大部分の機関は,出版物の目録情報をNLCの全国総合目録データベースAMICUSに掲載するための手続きをとっておらず,また全ての出版物をNLCに寄託しているわけではないと回答している。ここで留意すべき点は,電子形態で発行された出版物について長期的なアクセスを保証し,かつ付属の図書館やNLCに寄託をしている機関は半数にとどまり,大多数の機関では長期間に及ぶアクセスを想定していない点である。電子形態の政府情報の保存と長期的なアクセスの保証という問題にはNLCが対応しているが(CA1198 [238],CA1332 [239]参照),NLCへの寄託が回答数の半数にとどまり,また各付属の図書館間に連携がない点や官庁出版物の出版方法や目録作業に一貫性がない点は,情報収集・管理の網羅性が保たれないという問題点を浮き彫りにしている。

 NLCが行ったこの調査のもう1つの目的は,MGIHを遂行していくうえで,NLCが提供できる援助,およびNLCに期待されている役割の把握が挙げられる。1999年の調査結果では,資料の取扱いや保存方法についての助言に期待が寄せられており,官庁出版物の副本利用や対付属図書館サービス,および目録情報の提供については期待されていなかった。そこで今回の調査では特に後者のサービスの利用を問う項を加えた結果,40%の回答者が目録情報の問い合わせをしたことが分かった。こうしたNLCのサービスを受けた大多数が満足,もしくは大変満足したと回答しており,NLCが果たしている役割の大きさを示している。

 NLCが政府情報の収集・管理において担う役割は,先ごろ策定された新しい政府情報に関する政策「政府情報管理政策(Management of Government Information (MGI) Policy)」の中に明示されている。MGIはMGIHと比較して政府情報の定義,目的,政策内容をより詳しく説明しているほか,NLCに期待される役割についても国立図書館法を明示し,それに基づいてより厳密に規定している。さらにNLCは国家財政委員会事務局との協力のもと,調査を行う責務があることも明記されており,NLCの果たすべき役割がより明確になっている点に今後の期待がかかる。

書誌部外国図書・特別資料課:野澤 明日香(のざわあすか)

 

Ref.

National Library of Canada. "Executive summary-Management of government Publication Survey". (online), available from < http://www.nlc-bnc.ca/8/4/r4-401-e.html [240] >, (accessed 2003-03-13).

Treasury Board of Canada. "Policy on the Management of Government Information". (online), < http://www.tbs-sct.gc.ca/pubs_pol/ciopubs/tb_gih/mgih-grdg_e.asp [241] >, (accessed 2003 -05-30).

 


野澤明日香. カナダの政府情報管理政策と現状. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1493 [242]

カレントアウェアネス [6]
政府情報 [243]
カナダ [244]
LAC(カナダ国立図書館・文書館) [245]

CA1494 - PADIとSafekeepingプロジェクト / 原田久義

PDFファイルはこちら [246]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1494

 

PADIとSafekeepingプロジェクト

 

 「電子情報へのアクセスの保存(Preserving Access to Digital Information: PADI)」はオーストラリア国立図書館(NLA)が運営するイニシアチブで,電子情報の長期にわたる保存とアクセスの保証に関する活動を行っている。主な目的は次の4点である。

  1. 電子情報へのアクセスを保証するための戦略やガイドラインの開発・促進
  2. 電子情報保存に関する情報の提供と振興を図るウェブサイトの開発・運営
  3. 電子情報保存に関連する活動の積極的な発掘と提供
  4. 電子情報保存において関係各機関の協力を実現するためのフォーラムとなること

 PADIは1993年の発足当初,NLAを中心に文書館,博物館,美術館,フィルムサウンド・アーカイブやオーストラリア図書館情報サービス評議会,通信芸術省など国の文化関連機関の協力のもとにスタートした(CA1160 [247]参照)。しかし活動が進展するにつれて,協力関係も国際的な広がりをもつようになってきた。

 米国の図書館情報資源振興財団(Council on Library and Information Resources: CLIR)は現在スポンサーとしてPADIのプロジェクトに財政的な支援を行っている。また,英国の電子情報保存連合(Digital Preservation Coalition: DPC)とも複数のプロジェクトについて協力関係を結んでいる。

 PADIイニシアチブには諮問委員として,米国議会図書館,英国図書館,カナダ国立図書館,オランダ国立図書館,フィンランド国立図書館,ノルウェー国立図書館といった,電子情報の長期的な保存について主導的な役割を果たしてきた各国の図書館の代表も参加し,PADIの活動について助言を行っている。

 電子情報の長期的な保存とアクセスの確保というテーマには,多岐にわたる課題が含まれているため,PADIのウェブサイトでは,メニューをリソースのタイプとトピックに二分し,情報を整理して提供している。電子情報保存に関する質,量ともに充実したゲートウェイになっている。

 またDPCと共同で隔月のオンラインニューズレター(DPC/PADI What's new in digital preservation)を発行して,その間にあった重要な研究発表や会議,イベント等を精選して,メーリングリストを通じて発信している。

 そして今PADIのこれまでの活動の集大成として,ひとつの成果がまとめられようとしている。ユネスコが「デジタル文化遺産保存(The Preservation of the Digital Heritage)」憲章の採択を目指す中,ユネスコからの委託でNLAが中心になってまとめようとしているガイドライン「デジタル文化遺産保存のためのガイドライン」がそれである(E021 [114]参照)。世界各地域での意見聴取会を経て今年,最終版が提出されたが,その草稿を見ると,PADIに収められた広範な情報をもとに,電子情報保存の責任の所在,情報発信者との協働,長期保存する電子情報の選択,保存のためのメタデータやOAIS参照モデル,著作権管理等,電子情報の長期的な保存とアクセスの保証に最低限必要な枠組みが提示されているのがわかる。

 このガイドラインとあわせてPADIが提供するウェブサイトをレファレンスツールとして活用することで,我々はこの複雑で困難な課題の全体像を,立体的に把握することができる。

 

 PADIが提供するウェブサイトには様々なタイプの情報へのリンクが収録されているが,リンクのいくつかに「Safekept」というマークが付いている。これは永続的な価値を有する論文,レポート,プロジェクト,方針,議論等へのアクセスを長期保存するために,NLAが2001年5月から行っているSafekeepingというプロジェクトから生まれたものである。

 PADIのデータベースは世界各国の登録ユーザによって情報が更新されているが,Safekeepingプロジェクトもそうした協力関係を基礎にしている。

このプロジェクトの最も困難な点は,情報の選択にある。つまりどのような情報が永続的な価値を持つのかの判断である。判断に当たって最も重視されるのは,その情報が独創性に富んだものであること,あるいは電子情報保存に関する考察において転換点となるものであることだ。具体的には,1996年に出されたUS Task Force on Archiving of Digital Informationの最終報告や米国研究図書館連合(Research Libraries Group: RLG)のウェブサイトで提供される基礎的な論考等が,この範疇に含まれる。次に,電子情報保存に当たって重要な問題やアプローチ,プロジェクト,研究等を扱った情報も収められる。また10年,20年にわたって価値を有するとは考えにくいが,一定期間,継続的な重要性をもつであろう情報も,レファレンスを目的として収録されている。このような事情からSafekeepingには,最新の情報は取り上げられていない。選択とその基準作りは当初,NLAのスタッフによって行われたが,現在,国外の協力者も多数参加するプロジェクトに進化している。

 また,Safekeepingの特徴的な点として,図書館が電子情報を収集保存するアーカイビングと異なり,保存の責任を情報の発行者や所有者にもたせていることが挙げられる。Safekeepingはあくまで,それを促す装置として機能する。保存に責任をもつ機関や人はSafekeeperと名付けられている。

 プロジェクトの第一段階で170の情報資源が選ばれた。その半数以上が図書館あるいは図書館関係の組織が発行したものだった。次いで高等教育機関が16%,残りは政府,電子ジャーナルの出版社,民間機関,調査機関,研究者等で構成されていた。2001年12月には,それらの電子情報の所有者とSafekeepingプロジェクトの間で,77の情報資源について,所有者の責任において長期保存を行うという合意がなされ,20の所有者と交渉を進めている。

 NLAがこのプロジェクトを推進していく過程で,電子情報の所有者と保存を行う機関との権利関係の調整が,電子情報の長期的な保存を行っていく上での最大の課題であることが明らかになった。いくつかの情報については,一機関内,例えば図書館とその研究部門で調整や交渉が可能なものもあるが,電子情報にあっては,所有権が複数の機関や個人にまたがる場合が多い。当然,権利交渉も複雑になる。そうした調整,交渉をどのようなメカニズムで処理していくのが適切であり,効率的であるのか。加えて,情報の所有者や提供者と保存を行っていく側は,電子情報の保存に当たってどのような役割を持ち,責任を果たしていくべきなのか。NLAはSafekeepingプロジェクトを通じた経験を蓄積していく中で,それを見出していこうとしている。このプロジェクトは,電子情報保存の小さな,しかし大きな意味を持つ実験場といえる。

関西館事業部電子図書館課:原田 久義(はらだひさよし)

 

Ref.

National Library of Australia. PADI. (online), available from < http://www.nla.gov.au/padi/ [248] >, (accessed 2003-04-11).

Berthon, Hilary. et al. Safekeeping: A Cooperative Approach to Building a Digital Preservation Resource. D-Lib Magazine. 8(1), 2002. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/january02/berthon/01berthon.html [249] >, (accessed 2003-04-14).

 


原田久義. PADIとSafekeepingプロジェクト. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.6-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1494 [250]

  • 参照(13467)
カレントアウェアネス [6]
国際協力 [251]
電子情報保存 [111]
NLA(オーストラリア国立図書館) [252]

CA1495 - スロバキアの遠隔研修プロジェクトPROLIB / 岡本常将

  • 参照(11289)

PDFファイルはこちら [253]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1495

 

スロバキアの遠隔研修プロジェクト PROLIB

 

 

1.背景

 図書館職員の専門職研修の必要性については世界中の共通テーマになっているが,インターネットの発達した現代においては,その要請がいっそう強くなっている。氾濫した情報の中で,情報の収集・蓄積・提供に携わる図書館の役割が増大するにつれ,図書館職員も時代に対応した能力を身につける必要がある。

 たとえば英国政府は公共図書館職員のIT技術習得のために2,000万ポンドを拠出した(CA1212 [254]参照)。また,東南アジアではユネスコが各国政府と協力して図書館の機械化に伴う研修を行っている。

 中・東欧諸国においても,1990年からEUが主体となって政治・経済面での改革プログラム(Phare Programme)が実行された。このプログラムの中で,中・東欧諸国の政治・経済の改革には高等教育システムの改善が必要であるとの認識から,高等教育の推進を目的としたプログラムTempus Phare Programmeが実施され,施設面の充実やカリキュラム整備などの支援が行われた。

 このプログラムの一環としてスロバキア国内で実行された計画が「PROLIB(Professional Development Programme for Slovac Librarians)」である。PROLIBの目的は2つある。(1)スロバキア国内の図書館職員の継続的な能力向上を図る研修プログラムを開発し,(2)先端知識の中心地として情報の収集機能を高め,国民の生涯学習機関として図書館の機能を拡充すること,である。

 以下PROLIBの詳細についてみてみたい。

 

2.PROLIB

 PROLIBは1998年12月から2001年3月まで行われ,EUから331,000ユーロの資金援助を受けた。目的ははじめに述べたように,図書館職員の研修プログラムを開発・提供することにある。中でも注目すべきなのはそのプログラムを遠隔研修の形で提供することにある。この期間中,約180の様々な種類の図書館が研修に参加した。

 インターネットの発達により,地理的・時間的にそれまで困難だと思われていた研修を,パソコンを介して実施できるようになった。実際にコシツェ(Kosice)とズヴォレン(Zvolen)両大学図書館に遠隔研修センターが設立され,各施設に15台のパソコンが設置された。

 研修プログラムの開発にあたっては,多数の機関が協力した。コシツェ工科大学(TUK)をはじめとした国内の大学図書館やスロバキア教育省などの政府機関,さらにはスウェーデンのルンド大学図書館などの国外の機関も参加した。各機関の代表が1名,PROLIB運営委員となり,定期的に委員会を開いてプログラムの進捗状況の点検や政策決定を行った。参加機関の多数は大学図書館ということもあり,プログラムの内容もより大学図書館に比重を置いたものになっている。

 プログラムはすべてスロバキア語で行われるため,使用する教材等もスロバキア語で新たに執筆する必要があった。これまでスロバキア語による図書館研修の資料が十分でなかったため,各開発者はそのノウハウ蓄積のために英国やスウェーデンを訪問した。教材の執筆や講座の運営には40人ほどが関わり,大学教授や大学図書館職員,技術者が主なメンバーであった。

 プログラムの内容については,大きく6つの講座に分けることができる。以下はそのタイトルである。

  • < 1 >図書館の変革と経営改革の必要性
  • < 2 >図書館における利用者サービス論
  • < 3 >図書館運営におよぼす情報技術の影響
  • < 4 >図書館におけるインターネットと新しい情報技術
  • < 5 >電子図書館
  • < 6 >電子出版

 それぞれの講座には,自己学習用のテキストが添付されている。そのテキストはあくまでも受講生が一人で読んで分かるように書かれ,各単元末には演習問題も付されている。また,受講生は2週間ごとに課題を提出せねばならず,一つの講座ごとに6つの課題が用意されている。各受講生には電子メールアドレスが配布され,受講生同士,あるいは講師とも常時コミュニケーションがとれるようになっている。具体的には1週間の対面授業,テキスト主体の自己学習,インターネットを介した3か月の遠隔研修が含まれ,一つの講座が140時間で終了するようになっている。研修の最後には筆記試験と口頭試問があり,3人(うち2人はプログラムの講師,1人は図書館学の専門家)で運営される試験委員会で認定されると講座修了となる。

 遠隔研修という性格上,テキストに沿って学習し,課題を提出することがメインとなる。しかしはじめに行われる1週間の対面授業は,先に述べたコシツェとズヴォレンにある研修センターで受講することになっている。

 近年,英語の必要性が高まり,スロバキア国内では第2言語としての地位を築きつつある。それに伴って,受講生の中でも特に優秀な者には上級英語コースを設け,図書館業務に耐えうる英語力の養成をはかっている。

 受講生の募集はリーフレットやインターネットを介して行われ,期間中に175名が受講し,117名が修了した。

 

3.結論と将来性

 PROLIBによって,スロバキア語による,まとまった形での初の図書館職員研修プログラムが完成した。2000年にはスロバキア政府教育省がTUKにおける上記の6講座の開講を承認した。そして講座で使用されるテキスト類の保存を大学側に義務付けることにした。

 PROLIBは,内外にも様々な影響を及ぼした。2000年9月にはソロス基金主催による17か国の協力者会合が開催された。そこでPROLIBが紹介され,コンピューターを駆使した遠隔研修の方法が注目された。2001年3月,基金はズヴォレン出身のプログラム開発者を1名,米国のイリノイ大学における6週間の研修に派遣した。2001年7月にはブリティッシュ・カウンシル,スロバキア政府,TUKおよびソロス基金の運営機関であるOSI(Open Society Institute)の代表者がコシツェに集まり3日間のセミナーを開催した。そこでは英国,スウェーデン,米国を訪問した講座開発者の経験を,今後のスロバキアの図書館にどのように活かしていくかが話し合われた。

 PROLIBはEUによる試験的なプロジェクトであるため,プログラムの継続を望む声も強く,2000年1月から「EDULIB(Education for Librarians)」という名でPROLIBの事業が継続された。資金はOSIによって提供された。EDULIBでは研修施設をさらに充実し,6つの講座のうち4つの内容を更新し,39人の図書館員が受講した。さらに2001年8月から2002年2月まで「EDULIB II」として事業が継続され,知的所有権や資料管理システムに関わる新たな講座が開発されている。

関西館資料部文献提供課:岡本 常将(おかもとつねまさ)

 

Ref.

Dahl, Kerstin. et al. Training for professional librarians in Slovakia by distance-learning methods.Libr Hi Tech. 20(3), 2002, 340-351.

Tedd, Lucy. et al. Training librarians in the production of distance learning materials: experiences of the PROLIB project.Education for Information. 18(1), 2000, 67-76.

Sliwinska, Maria. "ICIMSS: a new opportunity for Central and Eastern Europe". Online Information 99. proceedings 23rd international online information meeting. McKenna, Brian ed. Learned Information Europe Ltd, 1999, 79-85.

About the Open Society Institute and the Soros Foundations Network. (online), available from < http://www.soros.org/about_network/index [255]. html >,(accessed 2003-03-20).

 


岡本常将. スロバキアの遠隔研修プロジェクト PROLIB. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1495 [256]

カレントアウェアネス [6]
国際協力 [251]
研修 [170]

CA1496 - 出版情報システムの基盤整備-日本出版インフラセンターの紹介- / 本間広政

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1496

 

出版情報システムの基盤整備 −日本出版インフラセンターの紹介−

 

1.はじめに

 有限責任中間法人「日本出版インフラセンター(Japan Publishing Organization for Information Infrastructure Development : JPO)」は,平成14年4月12日に「日本出版データセンター(JPDC)」として設立された。設立を支援し,基金を拠出した設立社員は,日本書店商業組合連合会,日本出版取次協会,日本雑誌協会,日本書籍出版協会,日本図書館協会の5団体である。しかし,半年後の平成14年10月25日の理事会において,出版業界の流通改善と読者サービスをより積極的,かつ広範囲に推進する必要から,事業の拡大とそれに伴う機構改革および名称変更を行い,冒頭の名称となった。

 以下に,当センターの当初の設立の目的とねらい,設立までの経過,また改革後の機構と事業,とりわけICタグ研究委員会とICタグ技術協力企業コンソーシアムの活動について紹介する。

 

2.センター設立の目的とねらい<

 目的は出版情報および出版情報システムの基盤整備を図り,出版および関連産業の発展に寄与することにある。そのために,出版情報等の標準フォーマットの作成と普及促進,出版情報の収集と配信,出版情報提供者の情報システム基盤整備の支援,電子データ交換システム基盤整備の支援,その他,当センターの目的を達成するために必要な事項の事業を行う。

 そのねらいは次のとおりである。

  • < 1 >読者サービスの向上
     読者が書店にほしい本を注文すると,3週間後に書店から「品切れです」と返答されることがある。読みたい時がほしい時であるのに,3週間も経過してから「品切れです」と言われたのでは,本からの読者離れが進行しても仕方がない。こうしたことのないように,重版未定(絶版)情報,在庫情報をより正確に反映させ,読者サービスの向上を図る。
  • < 2 >増売の支援
     刊行予定情報を読者に配信したり,発売日前の受注を参考にした配本で返品と機会損失を減少させたりして増売を図る。
  • < 3 >効率化の支援
     出版物の刊行予定情報・重版未定(絶版)情報・定価改定情報をJPOが集中受信し,それを必要とする企業・団体にJPOが配信する枠組みを構築することにより,業界全体の効率化を図る。
  • < 4 >インフラ整備に関する調整力の強化
     世の中で部分最適が必ずしも全体最適にならないことはよくある。既存システムとの利害調整を図りつつ業界の情報システム基盤整備の全体最適化を実現しようとすると,利害関係者のいずれにも偏せず中立的立場を確保することが最低の必要条件となる。その意味でJPOの成り立ちと構造は,その要件を備えている。
  • < 5 >収集データの網羅性・信頼性・迅速性の向上
     出版物の刊行予定情報・重版未定(絶版)情報・定価改定情報の収集率は,現行のどちらの企業・団体の書誌データベースも単独では不完全である。協力し合うことによってのみ高品質な書誌データベースの実現が保障される。

 JPOの設立によって次のような方法で業界内に協調の環境を整えることができる。たとえば,取次の「仕入システム」にJPOの受信情報を流し,仕入窓口において発売日前にJPOに出版情報が届いている社か,いない社かの判断をする。届いていない社に対しては,設立社員団体会長・理事長連名のお願い状を手渡す,という方法である。この仕組みは,確実にデータの網羅性・信頼性・迅速性を向上させると考えられる。

 

3.設立までの経過

 日本書籍出版協会・理事会は,平成13年6月26日に書誌データベース構築事業を日本書籍出版協会単独事業から日本図書館協会も含めた業界5団体による共同事業とする旨の「書協の経営に関する答申書」を承認し,同年9月25日の理事会において,他の業界4団体に対してJPDCの設立を提唱する「日本出版データセンター構想」を決定した。そして,日本書籍出版協会内に「日本出版データセンター」設立準備室を設置した。

 日本書店商業組合連合会をはじめ業界4団体は,平成13年10月にJPDCの設立支持団体になること,また同年12月に基金の拠出者になること,そして翌年2月にJPDCの定款を承認した。

 JPDCは,平成14年4月5日に定款が認証され,次いで12日に設立登記申請が受理され設立にいたった。

 

4.現在の機構と事業

 前述のごとくJPOは,昨年10月25日の理事会において,取り組む事業をこれまでの書誌データベース構築とそれにかかわる事業に限定するだけでなく,出版社等の取引先データベースの構築や,出版VANを発展させたWebEDI(電子データ交換)の構築,サプライチェーン・マネージメント(供給連鎖管理:SCM)をIT化したビジネス・モデルの特許出願調整,コミックを中心にした貸与ビジネス・モデルの構築,万引き防止対策に端を発した「本にICタグを装着する」案件等の業界課題を解決するために,各種研究委員会を当センター内に設置した。

 これに伴い,従来の書誌データベース構築を専業とする「総会―理事会―データセンター」という一部門制を,企画研究部門の研究委員会を統括する運営委員会と,従来の業務実行部門であるデータセンターの二部門制に改革した。また新たに事務局も新設した。

 運営委員会とデータセンターは,理事会の下部機関であり,事務局は,理事会直轄である。

 研究委員会は平成15年4月11日現在,ビジネス・モデル研究委員会,貸与ビジネス研究委員会,ICタグ研究委員会の3委員会である。

 

5.ICタグ研究委員会とICタグ技術協力企業コンソーシアムの活動

  • < 1 >委員会およびコンソーシアムの設置・設立の経緯
     JPOは,業界の一部から万引き防止対策として浮上したICタグ(チップ)を,それだけの利用に限定せず,出版流通改善や読者サービス向上の視点から見直すために,平成14年11月28日付で「ICタグ研究委員会」を当センター内に設置し,さらに平成15年3月19日に,ICタグ関連ベンダーの協力を得るために「ICタグ技術協力企業コンソーシアム」を設立した。
  • < 2 >コンソーシアムの目的・性格
     コンソーシアムの目的は,「ICタグは出版物の流通改善や読者サービスの向上を図るツールとして利用できるのか」を調査・検討し,総合的な枠組みを構想・提言することにある。研究委員会から依頼されたICタグの技術的な課題や,ICタグを使ったときに出版業界の業務に与える影響などを,ICタグメーカーをはじめ,それにかかわる周辺機器メーカー,システム開発会社等とともに調査・検討する。また,出版業界内でのICタグの利用場面,機能,仕様,コストや,周辺機器の機能,仕様を提案する。さらに,それらがより効果的に作動するために,各種データベースやネットワーク等の情報システム基盤整備を前提にした枠組みを構想・提言する。
  • < 3 >コンソーシアムの当面の活動
     コンソーシアムは,早期に出版業界,とりわけ出版流通の現状を調査・分析(そのための「現場」見学等も実施する)し,年内を目処にベンダーそれぞれから提案書を提出してもらい,その上で,それらのすりあわせをする。そして来年の3月までに報告書をまとめる。
  • < 4 >報告説明会の実施
     ICタグ研究委員会は,上記の報告書をもとに出版業界におけるICタグ導入の可否を検討し,その結果を来年の3月末から4月初めに,書店・取次・出版社・図書館等の出版業界関係者に報告・説明をする予定である。

日本出版インフラセンター:本間 広政(ほんまひろまさ)

 

Ref.

日本出版インフラセンター ICタグ技術協力企業コンソーシアム. (online), avaliable from < http ://www.jpo.or.jp/ [258]>, (accessed 2003-05-02).

 


本間広政. 出版情報システムの基盤整備 −日本出版インフラセンターの紹介−. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.9-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1496 [259]

  • 参照(13540)
カレントアウェアネス [6]
出版 [260]
情報インフラ [261]
日本 [262]

CA1497 - 動向レビュー:電子図書館パフォーマンス指標に関するテクニカルレポートISO/TR20983の動向 / 宇陀則彦

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1497

動向レビュー

 

電子図書館パフォーマンス指標に関するテクニカルレポートISO/TR20983の動向

 

1.はじめに

 1990年代半ばのWorld Wide Web (WWW)の普及に伴い,電子図書館がインターネット上の重要な応用分野として位置づけられ,米国をはじめ,各国で大規模な電子図書館プロジェクトが開始された。これらはコンテンツ指向のプロジェクトと技術指向のプロジェクトに大別されるが,どちらもシステム構築の側面が強調され,図書館サービスとしてどのように位置づけられるかについてはあまり議論されてこなかった。

 一方,伝統的な図書館に対しては,図書館パフォーマンス指標などを定義し,これまでの「インプット(投入)」を重視した評価だけでなく,「アウトプット(産出)」「アウトカム(成果)」「プロセス(効率)」といった側面からもデータを収集し,図書館サービスの向上や図書館経営の改善に積極的に役立てようという動きが盛んになってきた。昨年,図書館パフォーマンス指標ISO11620がJIS X 0812になったのは記憶に新しいが,ISO11620は伝統的な図書館サービスが前提になっており,電子図書館サービスに関する指標が入っていない。電子図書館サービスに関する指標については,テクニカルレポートISO/TR20983としてまとめられる予定である。

 そこで本稿では,ISO/TR20983を題材に電子図書館評価の問題点と方向性について考察する。また,今後の評価に関して興味深い示唆を含むものとして,電子図書館サービスに関する大規模なアンケート調査を行ったeVALUEdプロジェクトについても紹介する。

 

2.ISO/TR20983(1)に関連する動き

2.1 EQUINOX(2)

 EQUINOXプロジェクトは1998年に規格化された図書館パフォーマンス指標ISO11620を増強し,補足することを意図して,1998年11月から2000年11月までEUの助成を受けて行われた。比較的早い時期にネットワークを前提とした電子化環境におけるパフォーマンス指標の開発を第1の目的としたのが大きな特徴である。プロジェクトに参加したのは,英国,アイルランド,ドイツ,スペイン,スウェーデンの5か国8館である。参加館で実際にデータ収集を行いながら議論し,最終的に以下の14指標を定めた。

  1. サービス対象人口当たりの電子図書館サービス全体の利用率
  2. 各サービスに対するサービス対象人口当たりのセッション数
  3. 電子図書館サービス全体に対するサービス対象人口当たりのリモートセッション数
  4. 各サービスにおいて閲覧された資料数およびレコード数<
  5. 各サービスに対するセッション当たりのコスト
  6. 各サービスにおいて閲覧された資料およびレコードに対するコスト
  7. 電子的に申し込まれたリクエスト率
  8. 図書館に設置されたコンピュータ利用率
  9. サービス対象人口当たりのコンピュータ利用可能時間
  10. セッションの拒否率
  11. 資料費全体に対する電子資料費の率
  12. サービス対象人口当たりの電子図書館サービス講習会の参加人数
  13. 電子図書館サービスの開発,管理,提供,講習会に従事する図書館員の率
  14. 電子図書館サービスに対する利用者満足度

 ここで電子図書館におけるサービス対象人口と伝統的図書館サービスにおけるサービス対象人口は同じ集合である。次のISO/TR20983も同様である。

2.2 ISO/TR20983(1)

 EQUINOXで定義された指標を参考に,国際標準化機構第46専門委員会の第8分科会(TC46/SC8)では,ISO11620では盛り込まれなかった電子図書館サービスに関する指標をテクニカルレポートISO/TR20983としてまとめることになった。2003年5月27日の時点で最終原案の段階ISO/PRF TR20983である。PRF (Proof of a new International Standard)は最終原案投票なしにApproval Stageを通過する場合に適用される。

 ISO/TR20983では以下の15指標が定義されている。

  1. サービス対象人口当たりの電子図書館サービスの利用率
  2. 情報提供に関わる支出全体に占める電子資料費の率
  3. セッション当たりの文献ダウンロード数
  4. .データベースセッションのコスト
  5. 文献ダウンロードのコスト
  6. セッションの拒否率
  7. OPACのリモート利用率
  8. 全来館者に対するウェブサイト来館率
  9. 電子的に申し込まれたリクエスト率
  10. サービス対象人口当たりの電子図書館サービス講習会の参加人数
  11. サービス対象人口当たりのコンピュータ利用可能時間
  12. 図書館に設置されたコンピュータ数当たりのサービス対象人口
  13. 図書館に設置されたコンピュータ利用率
  14. 図書館員当たりのIT関連講習会への参加時間数
  15. 電子図書館サービス提供・開発に従事する図書館員の率

 EQUINOXで定義された項目でISO/TR20983に盛り込まれなかったのは,「各サービスに対するサービス対象人口当たりのセッション数」と「電子図書館サービスに対する利用者満足度」の2項目で,EQUINOXにはないが,ISO/TR20983で新しく定義されたのが,「全来館者に対するウェブサイト来館率」,「図書館に設置されたコンピュータ数当たりのサービス対象人口」,「図書館員当たりのIT講習会への参加時間」の3項目である。

 利用者満足度がISO/TR20983に盛り込まれなかったのは,いずれISO11620に統合され,図書館サービス全体の満足度の中で評価すればよいと考えたからだろう。また,図書館員の講習会参加時間に関する指標を加えたのは,図書館員のスキル向上を測るためとされている。

2.3 ISO 2789(3)

 ISO/TR20983に関連する規格として,ISO2789がある。ISO2789は国際図書館統計に関する規格で,2003年2月15日に第3版が制定された。第3版では電子図書館サービスの利用測定が大きく取り上げられ,付属書Aの中で詳細に論じられている。ISO2789では電子図書館サービスの形態,電子情報資源の形態および電子的サービスの利用形態に関する定義を重点的に行っており,これらはISO/TR20983からも参照されている。詳細についてはCA1460 [264]に報告されているとおりだが,本稿では電子図書館サービスの定義部分だけ改めて紹介しておきたい。

 ISO2789では電子図書館サービスは以下のように定義されている

  • OPAC
  • 図書館ウェブサイト
  • 電子資料
  • (仲介者としての)電子ドキュメントデリバリ
  • 電子レファレンスサービス
  • 電子サービスの利用者講習
  • 図書館によるインターネットアクセスの提供

 本稿では特に断らない限り,電子図書館サービスはこの内容を指す。この定義を見る限りでは,電子図書館サービスは図書館ローカルの資料を提供するという視点で定義されており,サブジェクトゲートウェイ機能など積極的な意味での情報ナビゲーション機能は含んでいない。ただし,電子環境は刻一刻と変化しており,評価指標は変化する可能性が大きいとされている。

 

3.電子図書館サービス評価に関するアンケート調査

 eVALUEd(4)は2001年12月から2004年5月にかけて行われている英国のセントラル・イングランド大学の情報研究センター(CIRT)によるプロジェクトである。このプロジェクトは高等教育における電子図書館評価のための互換性モデルを開発するとともに, 電子図書館評価の普及およびトレーニングを行うことを目的としている。 最初の段階として, どのくらい電子図書館が開発されているかを調査するために194の高等教育機関に対してアンケートを行った。 調査で行われたアンケート項目は, 電子図書館サービスに関する業務報告の有無, 提供している電子資料の種類およびその評価方法,電子図書館サービス管理の種類および評価方法,理想の評価方法や評価の限界など20項目に及ぶ。アンケート回収率は58%であった。

 アンケートを分析した結果,業務報告を行っているのは23%であること,電子的な学習環境を用意している機関は54%であること,電子図書館サービスに関して何らかの評価を行っているのは72%であることなどが明らかになった。また,評価にあたって役に立つ統計や指標があったかという質問に対して,EQUINOXなどの指標があがることをeVALUEd研究チームは期待したが,残念ながらそのような記述はなかった。電子資料の評価方法で最も多く用いられているのは,利用統計やウェブアクセス回数などの情報である。また,オンラインによる調査方法,紙による調査方法ともに多く用いられている。

 理想の評価基準はどのような基準を設けるべきかという質問に対しては,「利用方法」のカテゴリを設けるべきだというのが一番多かった。また,評価を妨げている要因は何かという質問に対しては,時間が不足していることが一番多く,次いで統計データの不足,スタッフの不足などがあげられた。その他としては,「電子図書館サービスはまだ始まったばかりなので,評価できない」,「評価の方法が大雑把であり,多面的に評価することが苦手である」,「システム的な評価ができていない」などのコメントがあった。今後の展開を考える上で重要だと思われるのは,「コストを評価するのは重要だが真の意味でのValue for Money (金額に見合う価値)を評価するのは難しい。評価するためには長期的な視野が必要である」という指摘である。

 このようにeVALUEdは大規模なプロジェクトであり,電子図書館評価に関して様々な示唆を与えてくれる。その他,成果や効果を示す「アウトカム評価」の報告書,アンケート調査で得られた知見や経験を強化するための図書館長やサービス責任者への追跡インタビューの報告書,電子図書館サービス評価のためのツールキット開発に関わるエキスパートへのインタビューの報告書など(5)が作成されている。

 

4.電子図書館サービス評価指標の課題

 電子図書館サービス評価指標において考慮すべき点は,インターネットからの利用を前提としている点である。インターネット利用時を思い浮かべればわかるように,情報要求を満たすときに単一のサイトで完結することはまれで,複数の情報資源の中から情報要求に合致するものを選択し,集合的に利用するのが普通である。そういう意味で電子図書館はインターネット上の数ある情報資源のうちの一つであり,ある一つの電子図書館のサイトだけで情報要求が満たされることは少ない。一方,図書館側から見た場合も電子図書館サービスだけが図書館サービスではなく,図書館が提供するサービスのほんの一部分でしかない。このことはつまり,特定多数の地域住民がある一つの図書館の完結したサービスを受けるという伝統的図書館サービスの形態とは異なることを意味する。

 この観点から改めて電子図書館サービス評価を見直すと,インプット指標は伝統的図書館サービス指標と同様に考えてよいが,アウトプット,プロセス,アウトカムの各指標は伝統的図書館サービス指標と同様には考えられない。アウトプットやプロセスを測定するサービス人口当たりの利用率やウェブ来館率を測定したところで,利用者からは集合的に利用したサイトの一つでしかなく,必ずしも「その図書館」のサービスを受けた意識はないだろう。また,今後重視されるアウトカム指標も,個々のローカル図書館だけに注目するのではなく,インターネット全体の中での位置付けを評価しなければ,利用者の満足度を正確に測れないと思われる。

 このことから電子図書館サービスを評価するにはそれぞれの図書館ごとの評価(ローカル評価)だけでなく,インターネット全体からみた評価(ネットワーク評価)が必要であることがわかる。電子図書館評価はローカル評価とネットワーク評価が両輪のように支えてはじめて正当な評価ができる。そういう意味で,EQUINOXとISO/TR20983(とISO2789)はローカル評価としては十分機能するが,これだけでは電子図書館評価として十分とは言えない。eVALUEdプロジェクトのアンケート調査に対する回答コメントの中で,「利用方法のカテゴリを設定すべきだ」という意見や「多面的評価とシステム的評価が重要」といったコメントは,明らかにネットワーク評価の必要性を示唆している。

 

5.おわりに

 図書館機能が単に資料を蓄積することだけでなく,利用者の情報アクセスを支援することにあるとすれば,電子図書館に期待されているのは,図書館ローカルの資料の提供というよりはむしろ,世界中の図書館資料へのアクセスを支援することであろう。最近の電子図書館の話題が電子化資料の蓄積から,図書館ポータル機能に移っているのはそれを表している。今後,電子図書館がどの方向に向かうのかはわからないが,電子図書館評価を通じて,これまで不十分だった図書館サービスとしての電子図書館に関する議論が活発になることを期待する。

筑波大学図書館情報学系:宇陀 則彦(うだのりひこ)

 

(1) ISO/TR20983. Information and documentation - Performance indicators for electronic library services. (online), available from < http://www.iso.org/iso/en/stdsdevelopment/techprog/workprog/TechnicalProgrammeProjectDetailPage.TechnicalProgrammeProjectDetail?csnumber=34359 [265] >, (accessed 2003-05-27).
(2) EQUINOX: Library Performance Measurement and Quality Management System. (online), available from < http://equinox.dcu.ie/ [266] >, (accessed 2003-04-21).
(3) ISO 2789. Information and documentation - International library statistics. (online), available from < http://www.iso.org/iso/en/CatalogueDetailPage.CatalogueDetail?CSNUMBER=28236&ICS1=1&ICS2=140&ICS3=20 [267] >, (accessed 2003-04-21).
(4) eVALUEd -an evaluation model for e-library developments. (online), available from < http://www.cie.uce.ac.uk/evalued/ [268] >,(accessed 2003-04-21).
(5) eVALUEd. "Project Documents Library" (online), available from < http://www.cie.uce.ac.uk/evalued/library.htm [269] >, (accessed 2003-04-21).

 

Ref.

徳原直子. 特集:図書館パフォーマンス指標と経営評価の国際動向, 図書館パフォーマンス指標と図書館統計の国際標準化の動向. 現代の図書館. 40(3), 2002, 129-143.

Saracevic, Tefko. Digital Library Evaluation: Toward an Evolution of Concepts. Libr Trends. 49(2), 2001, 350-369.

Greenstein, Daniel. et al. The Digital Library: A Biography. Council on Library and Information Resources, 2002, 70p. (online), available from < http://www.clir.org/pubs/abstract/pub109abst.html [270] >, (accessed 2003-04-21).

 


宇陀則彦. 電子図書館パフォーマンス指標に関するテクニカルレポートISO/TR20983の動向. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.12-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1497 [271]

  • 参照(16019)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
図書館評価 [272]
国際規格 [273]
電子図書館 [274]
標準化 [275]

CA1498 - 動向レビュー:英国の読書促進活動 / 堀川照代

PDFファイルはこちら [276]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1498

動向レビュー

 

英国の読書促進活動

 

1. 英国のリテラシー政策

 英国の読書促進活動を概観する前に,その背景にあるリテラシー政策について少々触れておきたい。というのは,「読み」と「読書」の間に境界をひくことが難しいのと同様に,読書促進活動という場合にも,リテラシー向上のための活動と本の世界の楽しさを伝える活動との区切りが難しいように思われるからである。

 英国では1988年の教育改革法によって,全国共通カリキュラム(National Curriculum)が導入され,リテラシーの水準を向上させることに力が注がれてきた(CA1241 [277]参照)。

 1996年には11歳児の57%が,1997年には63%がその年齢の英語能力の標準に達していないという状況のなかで,1996年5月にリテラシーに関する調査委員会が設置され,リテラシーの水準を高める方策が検討された。1997年2月にその予備調査結果『読みの革命(A Reading Revolution: how we can help every child to read well)』が発表され,1997年9月に最終報告『リテラシー政策の実施(The Implementation of the National Literacy Strategy)』が発表された。

 これによりリテラシー政策(National Literacy Strategy)の基礎として,1998年9月から英国のすべての初等学校において「リテラシーの時間(literacy hour)」の実施が義務づけられた。

 リテラシーの時間は,例えば次のように4段階で行うように説明されている。< 1 >学習の目的を明らかにし,クラス全体で読む・書く練習。15分。< 2 > クラス全体で文字・文の練習。15分。< 3 > グループか個人で読む・書く,あるいは文字・文の練習。約20分。< 4 > クラス全体で学習活動を振り返り,何を学んだかを生徒自身が説明する。約10分。

 具体的には,例えば「バーミンガム市内の学校では毎週6〜7時間,月曜から金曜まで毎日,各1時間から1時間半程度・・・全員で読み(リーディング),書き取り(ライティング)をし,ストーリーを作り,そして全体で話し合うという形で進められる。リスニング,リーディング,ライティングとスピーキングのスキル(技能)を含み,具体的にはスペリング,文法,文字の手書き,創作,フォニックスなどの方法を用いているようである。フォニックスとは,音声を重視した文字の学習方法である。」(1)

 また,リテラシー政策を支援するために1998年9月〜1999年8月が英国読書年(National Year of Reading: NYR)とされ(CA1354 [278]参照),多くのキャンペーンがなされた。そのなかには,1日に20分間保護者が子どもに本を読んでやったり,子どもが本を読むのを聞いてやったりすることの奨励もあった(2)。

 以上のような国家のリテラシー政策と並行して,各種組織・団体の協力によって多くの読書促進活動が展開されている。これらの活動は,英国リテラシー・トラスト(National Literacy Trust: NLT)のウェブページによって概観し検索することができる。

 このウェブページ(3)では,読書促進活動を,< 1 >対象(乳幼児期,初等学校期,中等学校期,16〜25歳,成人,60歳代以上,特別なニーズをもつ者,コミュニティ,男性と少年),< 2 >主催者(刑務所,連携・協力によるもの,産業界,ボランティア,図書館,芸術団体,保健分野のもの),< 3 >開催地域(全国的,地域)という観点から検索することができる。この観点(分類)をみるだけでも実に多様な活動が展開されていることがわかる。このページには他に,主要な促進活動として9つをあげそのページにリンクを張り,また,検索のために3つのデータベースへのリンクを提供している。

 以下に,読書促進活動の主な例をみていこう。

 

2.ブックトラストの活動

 1926年設立のブックトラスト(Booktrust, 旧称:National Book League)は, 年齢や文化的背景に関わらず,すべての読者が本を見出し本を楽しむことを推進する,つまり本と人をつなぐことを目的とした教育基金団体である。

 2つのサイトによる情報提供のほか,国内向けに電話による情報サービスを行っている。本,出版者,作家,著作権所有者などに関わることについて,毎年7万件以上の質問が,書店,図書館,出版者,リテラシー団体,TV・映画会社,新聞社などから寄せられるという。

 ブックトラストはまた,機関誌のBooktrusted News(年4回)や青少年のためのペーパーバックの小説の推薦リスト 100 Best Books (年刊)等を出版したり, 国籍に関わらず女性によって英語で書かれた優秀な小説に与えられるオレンジ賞(Orange Prize for Fiction), 児童向けの小説や詩の優秀作品に与えられるスマーティ賞(Smarties Book Prize)などの賞を出したり,書店や作家,出版者,図書館等の関連団体が参加している全国図書委員会(National Book Committee)の設立(1974年)を働きかけ事務局を担当したり,児童図書週間(Children's Book Week, 10月第1週)を開催したりしており,英国における図書・出版関連の傘下機関といえる。

わが国でもよく知られている「ブックスタート(Bookstart)」はブックトラストによって1992年に始められたもので,世界で初めての赤ちゃんのための本を扱った全国的プログラムである。英国のすべての赤ちゃんに本や資料の入ったブックスタートパックが渡される。

 このほか,プロの作家を学校に招いて話を聞いたりする「Writing Together」など,ブックトラストのサイトには進行中のプロジェクトが5つ挙げられている。

 

3.英国リテラシー・トラスト(NLT)の活動

 1993年設立のNLTは,リテラシーのスキルや自信,喜びを享受できるような社会を創造するために,自主的・戦略的・実践的な貢献をすることを目的とした団体で,次のような読書促進活動を行っている。

  • < 1 > 英国読書キャンペーン(National Reading Campaign)
     教育・訓練省(Department for Education and Skills)の依頼によって,英国読書年の成功に基づいて1999年から始められた。父親や兄弟,サッカー選手や消防士などの男性や少年が読書チャンピオンとして,自らの読書への情熱や読書体験を語るなどして,読書促進を図る「読書チャンピオン(Reading Champions)」や,職場などで本を交換することを推奨する「本の交換(Swap a Book)」などの活動や, 他の組織との協働プロジェクトを推進している。
  • < 2 > 読書は基本(Reading Is Fundamental, UK)イニシアチブ
     英国では1996年に設立。0〜19歳の青少年に本を選択し保有する機会を無償で提供し,読書の楽しみや,本の選択の重要性,家庭に本があることの恩恵を普及するリテラシー・プロジェクトを行っている(CA1241 [277]参照)。
     現在,300以上のプロジェクトが進行中であり,これまでに51万冊以上の本が17万人以上の子供たちに手渡された。就学前児の言語やリテラシー支援のための実際的な知識や方法を両親に伝えるプロジェクト(Shared Beginnings)や,図書館訪問,読書援助ボランティア,読書クラブなど初等・中等学校で行われる各種プロジェクトや,サッカークラブや刑務所などの地域の機関との連携によるプロジェクトが行われている。プロジェクトの規模により参加者は4〜450人と幅があるが,各プロジェクトからは平均70人の子どもたちが恩恵を得ている。
  • < 3 > リーディング・ザ・ゲーム(Reading The Game)イニシアチブ
     2002年9月に開始。サッカークラブと協力し,サッカーに対する関心を利用して,リテラシーと生涯学習を促進するもの。

    以上のほかNLTのイニシアチブには,中等学校の支援ネットワークを作って,生徒と成人のリテラシー能力を高めようとする「Reading Connects」や,すべての子どもが豊かな言葉の環境で人生のスタートが切れるように両親に働きかける「Talk To Your Babyキャンペーン」(2003年開始)がある。また,英国読書協会らとの協力によって,学習機会を逸した成人に基本スキルを高め読書・学習の窓口として図書館を利用する「Vital Linkプロジェクト」を2001年から行っているなど,他機関との共同プロジェクトも多い。

 

4.英国読書協会の活動

 英国読書協会(The Reading Agency)は,2002年7月に3つの既存の機関(LaunchPad, The Reading Partnership, Well Worth Reading)の合併によって設立された(E017 [279]参照)。読書は人生を豊かにする無限の可能性をもっており,人々に本をもたらす最も民主的な手段は図書館であるという理念に基づいている。主要な図書館ネットワークと緊密に協力しており,美術館や図書館の関連団体や政府機関から資金援助されているという。

 この協会の活動として第一に挙げられるのは,「夏休み読書チャレンジ(Summer Reading Challenge)」である。図書館関連団体やブックス・フォー・スチューデント(Books for Students:BfS), 児童書出版者の協力により行われる子ども(4〜11才)の全国的読書促進活動の最大のもので,毎年テーマが決められ夏休みに公共図書館で実施される。毎年50万人の子どもたちが参加する。

 2003年のテーマは「読書の迷路(Reading Maze)」で,読書の旅においてわくわくするような多くの可能性と著者との思わぬ出会いが用意されている。国民のネットワーク(the People's Network, CA1394 [90], E054 [280]参照)との連携により,子どもたちは,「読書の迷路」のサイトから自分のペースで写真やオーディオ,ビデオの情報をとおして新しい読書体験を探求することができる。サイトから著者を訪ねることもできる。2003年の読書チャレンジは,「本とITとの融合」なのである。

2002年には3,500の地域の図書館が参加したが,1999年のプロジェクト開始以来,毎年3万人以上の子ども達が図書館に新しく登録するという成果があった(4)。

 そのほか,2001年7月に開始された「ブックス・コネクト(Books Connect)」がある。本や読書をとおして公共図書館と芸術家,博物館との活発な協働を図るプロジェクトである。創作,パフォーマンスとビジュアルアート,ストーリーテリング,ダンス,工作,写真撮影などの実践が行われ,その実践例データベースや協力関係構築のツールキットが開発された。2003年4月から第2段階が始まっている。

 以上のほか,このサイトでは,20余りのプロジェクトが紹介されている。

 

5.その他の組織による活動

  • < 1 > ビッグ・リード(The BBC's The Big Read)プロジェクト
     BBCが,NLT(英国読書キャンペーン)と協力し,テレビ,ラジオ,オンラインなどにより2003年に行うフィクションの人気投票プロジェクト。
     3月にPRを開始し,4月に著名人が好きな本について語る番組などがあり,視聴者からお気に入りの本を推薦してもらう。4月末にトップ100が,秋にトップ10が発表され,年末に最終投票によってベストワンが決定される予定。
  • < 2 > おはなし袋(Storysacks)プロジェクト
     おはなし袋とは,絵本のほかに読書を促すための指人形やおもちゃ,録音テープなどを入れた大きな布の袋のことである。子どもや保護者が家庭でこれを楽しんだり,学校のリテラシーの時間に利用されたりしている。読書を促進し,リテラシー能力を高めることが目的である。袋は,保護者やボランティアが作るほか市販のものもある。このプロジェクトは,ほとんどすべての地方教育当局に普及しており,基本技能協会(Basic Skills Agency)によって支援されている。
  • < 3 > 読書回復(Reading Recovery)プログラム
     英国ではロンドン大学教育研究所が1990年に開始。読み書きの困難な6歳児に,学校教育の補助として毎日30分間,訓練を受けた教師が教える。個々の子どもに即したプログラムが実施されるが,何冊かの本を読みストーリーを書くという方法は共通している。

 

6.読書促進活動への基盤的支援

(1)英国図書館・情報専門家協会(CILIP)の報告書

 上述のNLTのサイトでは,図書館が行う読書促進活動が,一般的なもの,男性・少年対象のもの,学校と関連したもの,若者対象のものなどに分類されている。

 こうした公共図書館の活動を方向づけているもののひとつに,1995年に図書館情報サービス評議会(Library and Information Services Council)が発表した報告書『子どもへの投資(Investing in Children)』がある。過去数年間に行われた活動,すなわちブックスタートやホームワーク・クラブ,スタディ・サポート,夏休み読書活動のアイデアは,この報告書の中に現われていたという(5)。

 2001年秋に,英国図書館協会の青少年図書館委員会(Youth Libraries Committee)は,再び図書館サービスの検討の必要性を認め,図書館員,リテラシー団体,著者,出版者,政府の代表から構成される調査委員会を設置した。

 この調査報告書が,CILIPによって2002年10月に発表された。この報告書『スタート・ウィズ・ザ・チャイルド(Start with the Child:E019 [281]参照)』には次のことが勧告されている(6)。

  • 図書館は青少年に対する活動のために,市場調査的手法を用いるべきである。
  • 例えば「夏休み読書チャレンジ」,「ブックスタート」,スタディ・サポートやホームワーク・クラブのような活動は,プロジェクトではなく,すべての図書館当局によって提供されるべきコアサービスとし,政府から資金が提供されるべきである。
  • 若い図書館利用者にとってサービスを魅力あるものとし,そうしたサービスを提供するために,情報通信技術(ICT)が創造的に用いられなければならない。
  • ますます多くの施設を利用するようになる14歳以上の生徒たちを支援するために,図書館とユースサービス,児童保護機関との間や,学校と成人教育を行う図書館との間での協力・連携を強めるべきである。

(2)国民のネットワークの整備(7)

 このネットワークは,英国のすべての公共図書館のすべての利用者にインターネットアクセスを提供するもので,2002年末までに英国の4,488の図書館・分館のうち4,000以上がこのネットワークに接続された(CA1394 [90]参照)。

 2003年の「夏休み読書チャレンジ」が,本とITを融合したものとして展開できるのは,国民のネットワークが整備されたからである。

 ITを利用するために初めて図書館を訪れた人々の40%が図書館に登録し,貸出しがわずかだが伸びているという。また,図書館利用者は「みんなの選ぶ本大賞(WHSmith People's Choice Book Awards)」へオンラインで投票ができるようになった。このように,ネットワークというインフラ整備が,読書促進の要因のひとつとなっている。

(3)情報・資料の共有

 ブックトラストやNLTなどのサイトには,実践例や研究の成果,統計,ニュース等,多種多様な情報が多量に提供されている。これらは,読書促進活動を進めたりPRしたり,自己学習をしたりするために非常に有用な情報である。

(4)道具の共有

 CILIPは,上述の報告書の説明用としてパワーポイントによるプレゼンテーション用ファイルをウェブ上に公表している。英国読書協会では,例えば,「読書の未来(Their Reading Futures)」プロジェクトの一環として,児童図書館員のための新しい訓練用教材やテーマを作成しており,また,ポスターやステッカー,ポストカード,旗,書架用飾り,雑誌,ハンドブック,プログラム例など,各種の道具を開発し販売している。

 以上の(3)(4)のように,個人で探索・入手の難しい情報がウェブ上で簡単に収集でき,個人で準備するには時間的・能力的に制約のある資料や道具などが,ウェブ上で入手できたり注文できたりすることは,活動に携わる者や関心のある者,研究者などにとってどんなに便利であろうか。活動にとって共通に必要なものがこのように一括して作成されたら,どんなに効率的に効果的に活動が展開できることであろうか。また,活動に携わる人々の質を高めるための訓練用のものも種々に用意されている。読書促進活動は,共通に必要なもの・ことに共同あるいは集中的に開発にあたり,成果を共有して効率的・効果的に展開すべきことを,わが国は学ぶべきである。

 また英国では,わが国のような「子ども読書年」ではなく「英国読書年」であったことにも注目しておきたい。社会的背景が異なるとはいえ,子どもに限定せずに,生涯をとおして読者として成長するように人々に働きかけることが重要であろう。

島根県立島根女子短期大学:堀川 照代(ほりかわてるよ)

 

(1) 佐貫浩.イギリスの教育改革と日本.東京,高文研,2002,32-33.
(2) National Literacy Trust. "The role of parents, schools, LEAs and the inspectorate in the NLS". (online), available from < http://www.literacytrust.org.uk/Update/strat.html#role [282] >, (accessed 2003-04-11).
(3) National Literacy Trust."Reading Initiatives". (online), available from < http://www.literacytrust.org.uk/campaign/targets1.html [283] >, (accessed 2003-04-11).
(4) Cilip."News 26/09/02, Announcing The SummerReading Challenge 2003". (online), available from < http://www.cilip.org.uk/news/260902.html [284] >, (accessed 2003-04-11).
(5) Douglas, Jonathan. Start with the child. Library + Information Update. 1(9), 2002. (online), available from < http://www.cilip.org.uk/update/issues/dec02/article4dec.html [285] >, (accessed 2003-04-11).
(6) Cilip."News 16/10/02, Start with the Child calls for increased investment in children's libraries". (online), available from < http://www.cilip.org.uk/news/161002.html [286] >, (accessed 2003 -04-11).
(7) National Literacy Trust."Net begins to spark library revival, 24/01/2003". (online), availablefrom < http://www.literacytrust.org.uk/research/libresearch3.html [287] >, (accessed 2003-04-11).

 

Ref.

以下のURLを起点にした各種ページを参照した。

CILIP < http://www.cilip.org.uk [288] >, Reading Agency < http://www.readingagency.org.uk [289] >, National Literacy Trust < http://www.literacytrust.org.uk [290] >, Booktrust < http://www.booktrust.org.uk [291] > および < http://www.booktrusted.com/ [292] >.

 


堀川照代. 英国の読書促進活動. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.15-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1498 [94]

  • 参照(16580)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
情報リテラシー [86]
読書 [293]
英国 [98]

CA1499 - 動向レビュー:シンガポールの図書館IT戦略 / 呑海沙織

PDFファイルはこちら [294]

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1499

動向レビュー

 

シンガポールの図書館IT戦略

 

1.はじめに

 シンガポールの公共図書館は,現在,目覚しく変化している。20年以上にわたる情報政策の中で図書館は,国民の知的水準を高める役割を担い,知的情報センターとして確たる地位を築きつつある。インテリジェント・アイランド化政策の中で,図書館は,どのような位置を占め,どのようなグランド・ビジョンをもって変化しているのだろうか。

 

2.シンガポールの情報政策

 シンガポールは,マレー半島の最南端にある,赤道直下の小さな島である。マレーシアとインドネシアに囲まれたシンガポールは,総面積約650平方キロメートル,日本の淡路島とほぼ同じ面積を占める。人口約400万人のうち,77%が中国系,14%がマレー系,8%がインド系という,複合民族国家である。公用語は,英語,マレー語,中国語,タミル語である。国語はマレー語とされているが,行政用語は英語とされており,実際は英語が共通語となりつつある。マレー国家に囲まれながらの華人国家であるという特徴は,シンガポールの国家形成に大きな影響を与えてきた。

 1965年,マレーシア連邦から分離したシンガポール共和国は,リー・クアンユーのリーダーシップの下,政府主導型の経済成長を遂げた。天然資源に乏しいシンガポールは,電気,ガス,工業用水,コンピュータ・ネットワーク等インフラを整備し,東南アジア地域での有利な立地条件を活かして,交通,貿易,金融,さらには情報のハブとしての役割を確立してきた。

 1980年,情報政策を経済発展の要と位置付けた国家コンピュータ計画が開始され,1981年には国家コンピュータ委員会(National Computer Board)が設置された。1986年,国家情報技術計画(National IT Plan)が発表され,ITに関する人材の育成,ITに対する意識の向上,ITインフラの整備,ITアプリケーションの開発,IT産業の振興を柱として,IT整備が推進された。1992年には,シンガポールのITマスタープランであるIT2000が,2001年には国家情報通信技術計画(ICT21)が発表され,情報化政策が推し進められている。

 このような政府主導型の情報政策の下,図書館は,情報化社会における重要な機関として位置付けられている。1992年6月,Library2000検討委員会が発足し,100人以上の図書館員と国家コンピュータ委員会の職員によって,次世代の図書館サービスのあり方について検討が行われた。こうして1994年3月5日に発表されたのが,"Library2000"である(CA1136 [295]参照)。この報告書では,図書館を情報化社会における知識データベースと位置付けるものであり,情報化促進の手段として図書館の活用を図ろうというものであった。1995年には,国立図書館委員会(National Library Board : NLB)が設置され,国立図書館および公共図書館システムの包括的管理と運営を行っている。

 Library2000では下記6つの戦略の下,図書館のシステム改革が推進されている。

  • 1) 順応性のある公共図書館システムの構築
  • 2) ボーダレスな図書館ネットワークの整備
  • 3) 調整されたナショナル・コレクションの形成
  • 4) マーケット指向の良質なサービスの提供
  • 5) ビジネスやコミュニティとの共生関係の構築
  • 6) グローバルな知識ハブとしての役割の確立

 以下,情報政策に裏打ちされたシンガポールの図書館の現状を概観したい。

 

3.グランド・デザインとしての図書館システム

 Library2000をまとめるにあたり,当時のシンガポールの図書館事情について調査が行われたが,結果は思わしいものではなかった。公共図書館は,20万人に1館の割合で設置されており,これは1990年に欧州文化都市(European Culture City)(注1)に選ばれたグラスゴーの6万5千人に1館という割合に比べると,不十分といわざるをえない。また,図書館の利用状況も芳しいものではなく,過去1年間に公共図書館を訪れたことがあるのは,人口のわずか12%であった。さらに,シンガポール人が1年間に読む図書は,16.5冊であり,これは米国の3分の1であるという調査結果も明らかになった。人的資源を最大の武器とするシンガポールにとって,国民の知的水準の向上は,国際競争に打ち勝つための必須要件である。こうしてシンガポールが目指す学習国家(a learning nation)に向けて,公共図書館システムの大規模な見直しが行われることとなった。

 Library2000では,新しい公共図書館システムとして,公共図書館を3階層に分け,それぞれの設置目的および対象,目標設置館数を掲げている。1) 地域図書館(Regional Library)は,従来の分館の2倍の規模を持ち,40万冊の蔵書を備える。地下鉄やバスで15分以内の距離に位置し,全ての図書館サービスが受けられる。地域図書館の設置目標館数は5館とされ,一般市民やビジネス利用者を対象とする。2) コミュニティ図書館(Community Library)は,分館の半分の規模を持つ図書館であり,10万冊から20万冊の蔵書を備える。バスで10分以内の距離に位置し,図書や雑誌,視聴覚資料の貸出などの図書館サービスを中心とする。地域の住民を対象とする。設置目標館数は,18館である。3) 近隣図書館(Neighbourhood Library)は,10歳以下の子供を対象とする蔵書冊数1万冊から1万5千冊の小さな図書館で,徒歩10分以内の距離に設置される。設置目標館数は100館である。

 毎年,新館が開館されており,現在,地域図書館2館,コミュニティ図書館19館,コミュニティ子供図書館(近隣図書館)46館が開館されている。

 また,学校図書館や学術図書館の増強,ビジネス図書館やアート図書館のネットワーク形成も推奨されており,2002年9月には初の舞台芸術図書館であるlibrary@esplanade [296]が開館されている。

 

4. 図書館のコア・コンピタンス

 シンガポールにおいては,「図書館のコア・コンピタンス(注2)はレファレンスである。」と明確に位置付けられている。レファレンス以外の貸出・返却業務や整理業務に費やされる時間を,レファレンス業務やレファレンス・スキルを向上させるための時間に振り向けつつある。

 公共図書館の図書には全て非接触型ICチップが貼付されており,貸出・返却は利用者によるセルフ・サービスである。貸出・返却のセルフ・サービスについては,メリット・デメリット双方を考慮する必要があろうが(CA1174 [297]参照),シンガポールにおいては,自動貸出システム導入時の細やかな図書館スタッフの対応によって,利用者の年齢に関係なく,受け入れられている。自動貸出システムが導入されるまでは,貸出手続きに最大45分待たなければならなかったことを考えると,自動貸出システムの導入は画期的だったといえるだろう。利用者による貸出・返却のセルフ・サービスは,DIY(Do It Yourself)コンセプトと呼ばれている。

 また,受入業務や目録,装備は全て,一か所で集中管理されている。町の中心地から離れたライブラリ・サプライ・センターは,公共図書館の受入資料の整理業務を一括して請け負っている。さらに近年,装備のアウトソーシングが進んでおり,装備済みの図書(shelf-ready books)が納入されるようになってきている。

 こうして図書館員がこれまで,整理業務や貸出・返却業務に費やしてきた時間は,レファレンス・サービスへと集約することができるようになった。レファレンス・サービスの強化に向けて,図書館員にも再教育が行われている。また,2002年6月より,CARES (Consultation, Assistance, and Reference Services)プログラムが開始されている。これは,オンデマンド型のレファレンス・サービスを提供する試みである。利用者自身が図書館やその資料を使いこなすスキルを会得することが目的である。レファレンスのDIYと言い換えることもできるだろう。

 

5. 利用者指向の物流システム

 図書の貸出は自動貸出システムにおいて,利用者のセルフ・サービスによって行われることは先述したが,返却にも大きな特徴がある。ブックドロップ・システムである。ブックドロップは,一見閉館時に返却するためのブックポストのようであるが,似て非なるものである。これは,ブックドロップに図書が返却されると,図書に貼付された非接触型ICチップにより,返却処理がなされるというシステムである。現在では,ほぼ全ての貸出図書が,図書館カウンターではなく,ブックドロップに返却されている。

 利用者は,借りた図書を必ずしも借りた図書館へ返す必要はない。どの図書館に設置されているブックドロップへも返却可能である。図書館から図書館への資料の移動は,日に2度,郵便を使って行われる。また,図書館以外の場所に,ブックドロップを設置する試みもなされている。2001年には,ビジネス街の中心に位置する銀行のロビーにブックドロップが設置された。昼休みに気軽に図書を返却できるので,ビジネスマンに歓迎されている。利用者の視点に立った物流が確立されているといえよう。

 

6.基本的サービスと付加価値的サービス

 図書館サービスにITを活用することによって,その可能性は大きく広がる。しかし,限りある予算の中で,無限にサービスを拡大することは難しい。シンガポールの公共図書館では,基本的な図書館サービスと,付加価値的な図書館サービスを明確に分け,基本的なサービスは無料で,付加価値的なサービスは有料で,提供するという区分けをしている。

 付加価値的な有料サービスには,マルチメディア・ステーションで提供されるデータベースやビデオ・オンデマンド,電子ジャーナルや電子ブック等,ネットワークで提供されるサービス,ビジネス向けサービス,などがある。

 マルチメディア・ステーションの利用料金は,1分あたり0.03シンガポール・ドル(約2.1円。1シンガポール・ドル=70円換算)である。支払いは,「キャッシュ・カード」と呼ばれるICカードで行われる。この「キャッシュ・カード」は,図書館だけでなく,銀行やコンビニエンス・ストア,ガソリン・スタンド等でも入手できる。マルチメディア・ステーションの利用の他,文献複写サービス,延滞料金の支払い,資料の紛失・破損に対するペナルティ等,他の有料サービス全てに使用することができる。

このキャッシュレス・システムは,小額の料金徴収を簡便に実現しており,利用者にとっても,図書館にとっても有益なシステムとなっている。

 

7.e-ワンストップ・サービスの実現

 eLibraryHubでは,ウェブ上でワンストップ・サービスを実現している。eLibraryHubは,統合的電子図書館と位置付けられており,電子的資料を提供するにとどまらない,より広範囲の図書館サービスを展開している。eLibraryHubでアカウントを作成すると,ウェブページをカスタマイズすることができる。

 この入口を通過すると,有料・無料に関わらず,様々な図書館サービスを受けることができる。13,000タイトルの電子ジャーナルやデータベースだけでなく,電子ブック提供サイトであるnetLibraryを通じて10,000タイトルの電子ブックを利用できる。また,蔵書検索システムを検索し,受け取りたい図書館を指定して図書の予約をしたり,貸出の更新をしたりすることもできる。Amazon.comのように,興味のある分野のお勧め図書の紹介や,仮想書棚を構築することも可能である。また,オンライン・レファレンスサービスを提供している上海図書館と提携して,オンライン・レファレンスサービスや各種調査,文書の翻訳サービスを受けることもできる(E041 [298]参照)。

 また,年間3シンガポール・ドルの会費で,返却日付の数日前に返却日を携帯電話などの携帯端末に知らせるリマインダー・サービスや,携帯端末からの貸出の更新,各種料金の照会を行うことができるモバイル・サービスも提供されている

 

8. 最後に

 図書館と情報通信技術の融合体である電子図書館を考える場合,まず頭に浮かぶのは,資料の電子化や電子的資料の提供ではないだろうか。けれども実際に,図書館が提供する資料の多くを占めているのは,紙媒体の資料である。シンガポールでは,電子的資料に偏重することなく,非接触型ICチップの導入により,洗練された紙媒体の物流システムが構築されている。また,貸出更新や予約等,手続きをオンライン化することによって,利用者に快適な図書館利用環境を提供している。政府主導型で進められているシンガポールの情報政策ではあるが,その視点は政府だけではなく,確実に個人に向けられている。

 シンガポールでは今,専門家,経営者,企業幹部,ビジネスマンをPMEBs(Professionals, Managers, Executive and Businessmen)と呼び,これらの人々に読書と学習を勧めるLibrary@Office [299]プロジェクトが開始されている。シンガポールのインテリジェント・アイランド計画のソフト面は,図書館を中心に,静かに進行中である。

京都大学人間・環境学研究科・総合人間学部図書館:呑海 沙織(どんかいさおり)

 

(注1) 欧州連合(European Union:EU)文化閣僚委員会による選定事業。EU加盟国から毎年一都市が選ばれ,文化事業への取り組みが推奨される。1985年,ギリシャの文化相メリナ・メルクーリの提案によって開始され,アテネが最初の欧州文化都市として選定された。

(注2)ある組織独自の中核的能力・技術。『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞社)によって広められた概念である。この著書では,「顧客に特定の利益を与える一連のスキルや技術」と説明されている(参考:経営用語の基礎知識 野村総合研究所 http://www.nri.co.jp/m_word/ [300])。

 

Ref.

Library 2000 : Investing in a Learning Nation : Report of the Library 2000 Review Committee. SNP Publishers, 1994, 171p.

Teng, Sharon. et al. Knowledge management in public libraries. Aslib Proc. 54(3), 2002, 188-197.

Keng, Kau Ah. et al. Segmentation of library visitors in Singapore: learning and reading related lifestyles. Libr Manage. 24(1/2), 2003, 20-33.

National Library Board Singapore. (online), available from < http://www.lib.gov.sg/ [301] >, (accessed 2003-3-20).

eLibraryHub. (online), available from < http://www.elibraryhub.com/ [302] >, (accessed 2003-4-2).

netLibrary. (online), available from < http://www.netlibrary.com/ [303] >, (accessed 2003-4-2).

原田勝・永田治樹. "シンガポールにおける図書館・情報サービス活動の現状". 学術情報ネットワークの基盤構造に関する調査研究:アジア・太平洋地域における(SISNAP report; 5). 文部省科学研究費国際学術研究学術調査 (研究課題番号:06041014) 平成7・8年度研究報告. 1998, 45-55.

図書館協力部国際協力課. シンガポール国立図書館における電子情報の収集と提供. 国立国会図書館月報.(484),2001,22-25.

 


呑海沙織. シンガポールの図書館IT戦略. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.19-22.
http://current.ndl.go.jp/ca1499 [3]

  • 参照(15987)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
図書館政策 [97]
シンガポール [304]

No.275 (CA1483-CA1490) 2003.03.20

  • 参照(27616)

CA1483 - 連携強化を図る英国の国立図書館と学術界 / 竹内秀樹

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1483

 

連携強化を図る英国の国立図書館と学術界

 

 英国下院の教育・雇用訓練特別委員会(Educationand Skills Committee,以下,「委員会」)(1)は,2002年6月『高等教育のための図書館資源』(2)と題する報告書(以下,「委員会報告書」)を発表した。

 出版物の価格高騰,出版点数の増加,電子出版物やインターネットの普及など,学術情報をめぐる環境の変化を受けて,高等教育機関の教育・研究水準を維持するために,学術情報の提供において図書館が果たすべき役割と,その実現に必要な政策課題を明らかにし,政府に勧告することが委員会報告書の目的である。

 委員会報告書の勧告の骨子は,(1)情報環境が急速に変貌している中で,英国の研究者に世界最高水準の情報資源の利用を保障していくために,研究図書館と3つの国立図書館,各々の所管官庁である教育・雇用訓練省(Department for Education and Skills : DfES)と文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture, Media and Sport : DCMS),また高等教育財政審議会(Higher Education Funding Council : HEFC)(3)が連携協力を密にし,国家戦略を策定し実行すべきであること,特に全国電子研究図書館(National Electronic Research Library : NERL)を協同構築すること,(2)学術情報の流通における英国図書館(BL)の役割は重要であり,BLは蔵書のデジタル化を一層進めるとともに,商業出版社に独占されている学術論文の頒布機能をBLの電子図書館が担えるように必要な方策を講じること,の2点である。

 この報告書の内容には,研究支援図書館グループ(Research Support Libraries Group : RSLG)の議論や一連の調査活動が強い影響を与えている。

 

1.RSLG設立の背景

 1990年代以降の英国の学術図書館に大きな影響を与えてきたのが,フォレット・レポート(1993年)(4)とアンダーソン・レポート(1996年)(5)である。

 フォレット・レポートは,3つのHEFCと北アイルランド教育省により設置された調査委員会の報告書であり,学生数と学術出版物の増加,情報技術の進展に対応した学術図書館のあり方を提示している。これを受けて,学術図書館の施設整備が進められるとともに,情報システム合同委員会(Joint Information Systems Committee : JISC)の主導のもと,学術情報ネットワークSuperJANETの整備や,多彩な電子図書館プログラム(eLib;CA1333 [102]参照)が展開されている(6)。

 アンダーソン・レポートは,フォレット・レポートを踏まえ,国内における学術情報資源の偏在を解消し,必要とするあらゆる学術情報に研究者がアクセスできるよう,研究図書館と国立図書館,大規模公共図書館,専門図書館による,国レベル,地域レベルでのネットワーク形成の必要性を提言した。特に,収集・廃棄方針の全国的調整とOPACの横断検索の実現,電子情報資源の収集・保存を提唱した。

 フォレット・レポートとアンダーソン・レポートの提言は,学術図書館界においては,その多くが実施に移されていったが,館種を超えた全国レベルの連携がなされるには至らなかった。

 そこで,これを実現するために2001年6月,BL,スコットランド,ウェールズの各国立図書館,3つのHEFC,北アイルランド教育省により設置されたのがRSLGである(7)。RSLGの委員長はフォレット・レポートをとりまとめたブライアン・フォレット(Brian Follett)が務め,アンダーソン・レポートをとりまとめたマイケル・アンダーソン(Michael Anderson)も委員に名を連ねている。

 RSLGは,英国の研究者が誰でも等しく利用できる世界最高水準の学術情報資源の整備を実現する国家戦略の策定を目的としており,とりわけ,アンダーソン・レポートで提唱されている収集・廃棄方針の全国的調整に基づいた分散型ナショナルコレクションの構築,館種を超えたオンライン総合目録の作成,全国に分散した電子情報資源への一元的アクセスを実現するNERLの構築等を進めていくことを目指している。RSLGの議論は委員会報告書の随所に反映されており,その提言をBLとHEFCが受け入れ実行することを期待する,と委員会報告書は述べている。

 

2.委員会報告書とBL

 BLの活動の半分以上は高等教育・研究の支援に向けられており,BLは英国の高等教育・研究の水準の維持に不可欠の存在であるとして,委員会報告書はBLに関する勧告に紙幅を費やしている。

 BLのブリンドリー(Lynne Brindley)館長は委員会で次のように資料収集予算の不足を陳述している。紙資料,電子出版物のいずれも出版点数が増大しており,またその価格上昇は平均的な物価上昇率を大幅に上回っていることから,現在の予算では収集水準を維持していくのは困難になっている。よって,蔵書のデジタル化の重要性は認めつつも,資料の購買力の維持を優先させるため,国から措置される予算はデジタル化経費には充当していない。

 これを受けて,委員会報告書は,DfESが所管の異なるBLを直接に支援することは従来なかったが,今後はDCMSと協力して,高等教育機関のための研究資源に十分な資金が供給されるようにすべきであると勧告している。また,BLの蔵書のデジタル化の重要性を指摘し,DCMSがBLのデジタル化計画を支援し,予算配分に反映させるように勧告している。

 一方,BLに対しては,現在の商業出版社による学術出版市場の独占の弊害に対応するために,それに代わる学術研究成果の頒布機能をBLの電子図書館に持たせることを勧告している。

 委員会報告書について,英国図書館・情報専門家協会の機関誌Library + Information Updateは,BLは2002年初めから委員会に接触し,ロビー活動を展開した結果,新たな財源の獲得に成功したと報じている(8)。

 2001年に発表した戦略計画において,BLは学術界へのサービスと連携強化を最大の目標に掲げており(CA1424 [305],1425 [306]参照),委員会への働きかけやRSLGへの関与はその戦略の一環である。このほかにも,イングランド高等教育財政審議会やLSE(London School of Economics)図書館との戦略的提携を次々に発表するなど,自らの生き残りを賭けて,着実に布石を打っている。

関西館事業部図書館協力課:竹内 秀樹(たけうち ひでき)

 

(1) 下院の特別委員会(select committee)の一つで,教育・雇用訓練省の財政支出,管理運営,政策等を審議するとともに,当該分野における比較的短期的な政策課題について,参考人から意見聴取し,下院に報告書を提出することが任務。
(2) House of Commons Education and Skills Committee. Library resources for higher education. The Stationery Office Limited, 2002, 17p. (online), available from < http://www.publications.parliament.uk/pa/cm200102/cmselect/cmeduski/804/804.pdf [307] >, (accessed 2003-01-24).
(3) 国の高等教育補助金配分機関。イングランド,ウェールズ,スコットランドにそれぞれ設置されている。
(4) Joint Funding Council's Libraries Review Group. Report (The Follett Report). 1993. (online), available from < http://www.ukoln.ac.uk/services/papers/follett/report [308] >, (accessed 2003-01-24).
(5) Joint Funding Council's Library Review. Report of the Group on a National/Regional Strategy for Library Provision for Researchers (The Anderson Report). 1996. (online), available from < http://www.ukoln.ac.uk/services/elib/papers/other/anderson/ [309] >, (accessed 2003-01-24).
(6) 呑海沙織.英国における学術情報資源提供システム.情報の科学と技術.51(9),2001,484-494
(7) RSLG. "Welcome to the RSLG site". (online), available from < http://www.rslg.ac.uk/ [310] >, (accessed 2003-01-24).
(8) Give BL more - official. Library + Information Update. 1(6), 2002, 3.

 


竹内秀樹. 連携強化を図る英国の国立図書館と学術界. カレントアウェアネス. 2004, (275), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1483 [311]

  • 参照(12029)
カレントアウェアネス [6]
英国 [98]
BL(英国図書館) [312]

CA1484 - ドイツのドキュメントサプライサービスsubitoの現在 / 山岡規雄

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1484

 

ドイツのドキュメントサプライサービスsubitoの現在

 

 ドイツのドキュメントサプライサービスsubitoが1997年のサービス開始以来,順調に業績を伸ばしている。subitoは,1994年に連邦教育学術省と州の文部大臣会議の図書館共同事業体の提案によって発足したプロジェクトであり,すでに本誌でも1997年のサービス開始段階の状況について紹介している(CA1227 [313]参照)。その後5年ほどを経て,いくつかの点において状況の変化が見られるため,前回の記事との相違点を中心にsubitoの現状について述べることにしたい。

 まず,事業の担い手の組織形態に変更があり,1999年12月に,連邦と州の手を離れ,subito共同事業体が組合組織として設立されることになった。連邦教育学術省は,最高6年の財政援助を保証しているが,それ以降,subito共同事業体は,自助努力によって経営を成り立たせていかなければならない。

 サービスに関する変更点は以下のとおりである。参加館が,5年前の18館から26館に増加し,サービス提供機関が数的に増加しただけでなく,オーストリアの2館が参加するなど地域的にも広がりを持つようになった。サービスの内容も拡充し,5年前は雑誌論文複写のみのサービスであったが,現在では図書の貸出サービスと図書の部分複写のサービスも行っている(1999年9月からサービス開始)。またサービスの提供対象について,グループ分けの変更が行われた。5年前は,国内の非営利目的利用者(グループ1)と営利目的利用者・国外の利用者(グループ2)という区分であったが,現在は国内・国外の区別がなくなり,学生・大学職員・公法人の職員等(グループ1),企業の図書館・自営業者等の営利目的利用者(グループ2),個人(グループ3),図書館(グループ4)という区分になった。

 前回の記事では出版者側とsubitoとの間で,著作権法の解釈をめぐって意見の相違があり,出版者側は,とりあえず試行段階としてドキュメント・デリバリー・サービスを認めることにしたという状況まで紹介した。その後,複製物の送付・送信の問題に関しては,司法による判断が下され,解釈問題に一定の解決がもたらされた。1999年1月の連邦最高裁判所の判決によれば,私的使用,学術目的使用などの著作権法第53条の要件を満たしている場合には複製物の送付・送信は認められる,ただしその場合には著作者に対して相当額の補償金を支払わなければならないとされたのである。この判決を受けて,連邦・州と著作権処理団体との間で包括契約が締結され,subitoは補償金を著作権処理団体VG Wortに支払うことになった。その結果,subitoの利用料金は2000年9月から値上げされている。現在の料金体系は,利用者グループ1の通常サービスの場合,1文書あたり,電子媒体4ユーロ,郵送6ユーロ,FAX7ユーロとなっており,利用者グループ3の通常サービスの場合は,電子媒体6.5ユーロ,郵送8ユーロ,FAX9ユーロとなっている。補償金を支払わなければならないのは個人に複製物を直接配送する場合のみであり,図書館を経由するサービス,すなわち,グループ4のサービス(ライブラリー・サービス)には影響しない。ライブラリー・サービスとは,図書館が利用者に代わって文献複写を依頼し,製品を受け取り,利用者に納品を行うサービスである。このサービスは通常サービスのみであり,料金は電子媒体で3ユーロ,郵送で5ユーロ,FAXで6ユーロである。グループ2と特急サービスの料金設定については,subito参加館の裁量に任されている。

 利用件数は,年々拡大し,1998年には約10万件だったものが,2001年には約73万5千件にまで増加した。2001年の数字では,複写サービスのうち,92.5%が72時間以内に提供する通常サービス(2002年2月の平均処理時間は35時間)で,7.7%が24時間以内に提供する特急サービスである。提供手段別では,77%が電子メール,22.3%が郵送,0.3%がFAXである。

 先に述べたように,数年先には連邦からの財政援助を得られなくなるため,subitoは採算性を確保するための努力を払わなければならなくなった。subitoは今後の事業拡大の柱として,以下のような戦略を立てている。一つはサービスの国際化であり,その一環として国際的に広く利用されている検索システムとの連携が模索されている。すでに2000年の12月には,オランダの書誌ユーティリティ・サービス機関であるPICAと協定を締結し,PICAの利用者はsubito参加館に文献を依頼することができるようになった。さらに今後は,OCLCとの提携も検討されているとのことである。また,国外の利用者のために,日本語を含む外国語によるPR用資料も作成され,subitoのホームページで参照できるようになっている。事業拡大戦略の二つめは,提供した文書の電子的な保存を認めるサービスの導入である。現在の法的な枠組みの範囲内では,電子的に伝送された文書はプリントアウトした後に消去しなければならないことになっている。これは,前回の記事においても検討課題とされていた事項であるが,今後subitoがどのようにこの問題を解決し,サービスを拡大していくのか,注目されるところである。

調査及び立法考査局政治議会課憲法室:山岡 規雄(やまおか のりお)

 

Ref.

subito. (online), available from < http://subito-doc.de [314] >, (accessed 2003-01-06).

subito - Lieferdienst der Bibliotheken. medizin - bibliothek - information. 2(2), 2002, 53-56. (online), available from < http://www.akh-wien.ac.at/agmb/mbi/2002_2/53-56subito.pdf [315] >, (accessed 2003-01-06).

寺倉憲一. ドイツの図書館における著作権問題−公共貸出権を中心に. 現代の図書館. 40(4), 2002, 232-238.

 


山岡規雄. ドイツのドキュメントサプライサービスsubitoの現在. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.3-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1484 [316]

  • 参照(12653)
カレントアウェアネス [6]
文献提供サービス [317]
ドイツ [172]

CA1485 - ISBDの新たな展開-ISBD(M)と(CR)- / 那須雅煕

  • 参照(14452)

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1485

 

ISBDの新たな展開−ISBD(M)と(CR)−

 

1.背景

 2002年6月,「国際標準書誌記述(単行書)(ISBD(M))」(以下,単行書(M)もしくは(M)と表記)が改訂されIFLANET上に電子版が掲載された(1)。続いて8月には,「逐次刊行物(S)」の改訂版である「逐次刊行物およびその他の継続資料(CR)」が冊子体で刊行され,電子版も2003年1月にIFLANET上に掲載された(2)。

 ISBDは,国際図書館連盟(IFLA)によって制定された書誌レコードの記述部分を作成するための標準規則で,(M),(S)のほか,「非図書資料(NBM)」,「地図資料(CM)」,「楽譜(PM)」,「古典籍(A)」など種別ごとに制定されている。各ISBDを整合させるための枠組みを用意した「一般(G)」も存在する。各ISBD は,5〜10年ごとにISBD検討グループにより改訂され維持されてきた。

 電子資料については,当初は(NBM)で取扱われていたが,1988年に「コンピュータ・ファイル(CF)」として独立した。しかし1990年代に入ると,目録環境が一変する。電子資料の激増,書誌情報のグローバル化,ネットワーク化,書誌的記録の共同利用が進み, ウェブOPACが普及した。そのため1997年に,(CF)は双方向性マルチメディアの出現,光学技術の進歩,インターネットおよびウェブ情報資源,電子資料の複製への対応を理由に名称も「電子資料(ER)」として改訂された(3)。ただし,ウェブサイト,データベース,電子ジャーナル等のように継続して刊行される性質(逐次性)の取扱いについては,課題として残されていた。

 一方IFLAの目録分科会は,新たな環境における目録のあり方について研究するため「書誌的記録の機能要件に関するIFLA研究グループ」を立上げ,検討を開始した。その結果を盛り込むため,ISBDの改訂はしばらく留保されてきた。同グループの報告書である『書誌的記録の機能要件(FRBR)』(4)(CA1480 [121]参照)が1998年に刊行されると,各ISBDの検討グループが一斉に活動を再開した。目録分科会が,FRBRにおける全国書誌の基礎的レベルの要件とISBDの条項との一致を要請したためである。これまでISBDで必須とされていた多くのデータ要素は,選択的とされ目録作成機関の自由な判断に任されることになった。

 (M)の新版においても,示されたデータ要素がすべて記述される必要はない。そのデータ要素が基本的に不可欠の場合,もしくは出版物の同定のために必要な場合や書誌や目録の利用者にとって重要とみなされる場合に「必須」とされる。後者の場合それぞれの特別な条件によるが,その運用を容易にするため特別なデータ要素については「選択」(optional)の指示がされている。

 さらに,FRBRでは資料の物的形態よりも著作(Work)と表現形(Expression)を重視するとともに,伝統的な書誌情報を個別の情報ユニットに分割する方向が示されている(共著,文と挿絵等の個別記入)こと,またOPACやウェブ上の書誌情報の要件が提示されていることなど,ISBDに深い影響を与えずにはおかなかった(5)。

 (S)の改訂については,この電子資料への対応とFRBRの適用という2つの問題が契機となっている。また国際標準逐次刊行物番号(ISSN)や『英米目録規則 第2版(AACR2)』も同じ状況におかれており,三者で相互に協調しながら同時並行的に改訂が進められてきた。

 

2.ISBD(S)の主要な改訂内容

 まず(S)の改訂内容について述べ,次いでそのような結論に至った検討過程を述べる(6) (7)。

 近年はウェブサイト,データベースや加除式資料のように絶えず追補,更新され,その際分離されず全体として統合されるような更新資料(Integrating Resources)が増えている。更新の度に新規に書誌レコードを作成する必要のないものである。従来,図書館では資料を単行書と逐次刊行物に二分してきたが,更新資料には終期を予定せず継続的に刊行されるものと,終期を予定する資料もあり従来の二分法には納まりきらない。(CR)では,これを整理し,まず終期を予定する資料(Finite Resources)と終期を予定しない資料すなわち継続資料(Continuing Resources)に二分し,前者には従来の単行書と終期を予定する更新資料,後者には従来の逐次刊行物と終期を予定せず継続的に刊行される更新資料に分類する。その上で終期を予定する更新資料も継続資料とみなし,あらゆる種類の継続資料を取り扱うこととした。また,逐次的に刊行され終期の予定されるイベントのニュースレターや,逐次刊行物の復刻等もこの規則を適用することとした。そして従来の逐次刊行物に加えてタイトルを「逐次刊行物およびその他の継続資料」に変更している。

 また,近年の軽微な改題の増加に対応し,新しい書誌レコードの作成に関する指示も改訂された。ISBD(S),ISSN,AACR2で考え方が異なっており,これまでカタロガー泣かせであった改題であるが,新規作成を減らすことで標準化し,データの交換,質の維持,コスト削減に資することをねらったものである。

 

3.ISBD (CR)への検討過程と今後の課題

 (S)(1988年刊)を改訂する検討グループは1997年のIFLAコペンハーゲン大会の目録分科会の申合わせに基づき,1998年に設置された。委員長にI.ペアレント(カナダ国立図書館収集・書誌サービス部長),メンバーは主に目録分科会の委員であったが,他に逐次刊行物分科会の委員,ISSNネットワークとAACRの代表が加わった。少なくとも年に一回,IFLA大会とその後に会合をもつこととした。任務は,(1) FRBRの勧告およびISBD(ER)の反映,(2) 継続して刊行される電子出版物を考慮した逐次性の定義および理論の提示とその反映,(3) 書誌記述の初号優先および逐次刊行物の主たる情報源の考え方の再考,(4) データの識別に望まれる記述のエリアの考慮,(5) メタデータ標準の出現と遠隔電子資源へのアクセスの基礎レベルと記述の検討,(6) 最新例の用意,(7) 逐次刊行物の専門家の教示を考慮,(8) ISSNマニュアルとISSNネットワークが行っている電子出版物に対する実務を考慮することであった。

 1998年8月のIFLAアムステルダム大会では,キータイトル,大幅な改題と軽微な改題,電子データベースやウェブサイトについて審議した。11月にコペンハーゲンで会合を持ち,(S)制定の目的,本タイトルとキータイトルの合併,(S)の範囲が論議され,逐次刊行物に加除式資料やデータベースなどを含めることが決定された。大幅な改題と軽微な改題についての提案があったが,ISSNおよびAACR側との協議が必要とされた。2000年1月に米国のテキサス州サンアントニオで会合を持ち,あらゆる継続出版物を範囲に含めることが決定された。頭字も(CR)とし(SOCR;Serials and Other Continuing Resources)は採択されなかった。

 AACRは,「AACR改訂合同運営委員会(JSC)」が12章「逐次刊行物」の改訂の任にあたり(2002年9月に改訂版が刊行された。CA1480 [121]参照。),ISSNは「ISSNマニュアル作業部会」,国際センターと各国からのISSNセンター長会議で審議された。2000年11月に米国議会図書館(LC)に三者の代表が集まり調整した。この結果を検討グループに提出し,2001年春から,ドラフトをIFLANETに搭載し,世界各国の専門家たちからコメントをもらった。最終的にISBD(M)との一貫性を検証し,FRBRとの関係付けを行い,2002年6月17日,目録分科会および逐次刊行物分科会で承認された。

 他の目録規則の動きとしては,ドイツのRAK(Regeln fuer die alphabetische Katalogisierung)の維持管理を担当している「標準化委員会(Standardisierungsausschuss)」(注)が今年末までの予定で国際標準(MARC21,AACR2)との調整を進めており,また最近は常設の「オンライン資源専門家グループ」を立上げ,継続資料等のためのRAKの改訂に着手している。

 一方,書誌情報の共有化,ネットワーク化が進む中,逐次刊行物のタイトルの識別に関する標準化については,別途LCを中心にサブグループが設置され検討されてきた。国際標準逐次刊行物タイトル(ISST)が提唱され推進されている。ISSTは(S)およびISSNのキータイトル,AACR2の統一タイトルに代わる国際的な基準となるもので,データの国際交換や検索の際にISSN番号と並んで識別の手段となるものである。記録の安定性,効率性が保証されるだけでなく,ISSNレコードと国内レコードの統一も図られる。今回の改訂には,時期尚早ということで盛り込まれなかった。また,出版社および出版地をどう効率的に扱うか,版および版表示の検討,ISSTを改題の基準とするための最新号主義への復帰,(CR)の実際の適用において起こる状況や未来の技術的発展がもたらす影響をどのように取り込むかなどが将来の課題とされている。

 現在改訂中の各ISBDも出揃い,今後その中から資料に適切なISBDが適用されることになるが,多様なメディアやオンライン情報資源に対応するにあたっては,各ISBDの垣根を越えて相互に参照しながら適用していくことになる。さらに言えば,OPACや書誌情報ネットワーク環境の中でFRBRの考え方を追求していくと,図書館の枠組みを越えた文書館,美術館等のもつ資料の目録レコードとの相互運用性について考えざるを得なくなる。一つの国際ドキュメント記述(ISDD)というような考え方もあるが,将来ISBDはどのような方向に向かうのだろうか。

書誌部:那須 雅煕(なす まさき)

 

(注)ドイツの代表的な図書館,学術振興会,オーストリア,スイスの代表等で構成され,フランクフルトのドイツ国立図書館の標準化オフィスに事務局を置く。

(1) IFLA. ISBD(M): International Standard Bibliographic Description for Monographic Publications. 2002 Revision. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/pubs/isbd_m0602.pdf [178] >, (accessed 2003-1-10).
(2) IFLA. ISBD(CR): International Standard Bibliographic Description for Serials and Other Continuing Resources. K.G.Saur, 2002, 112p. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/pubs/isbdcr-final.pdf [318] >, (accessed 2003-2-17).
(3) Byrum, John D. "The birth and re-birth of the ISBDs". 66th IFLA General Conference, Jerusalem, 2000-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla66/papers/118-164e.htm [319] >, (accessed 2003-2-17).
(4) IFLA. Functional Requirements for Bibliographic Records : Final Report. K.G. Saur, 1998, 136p. (online), available from < http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.pdf [176] >, (accessed 2003-1-14).
(5) Le Boeuf, Patrick. "The impact of the FRBR model on the future revisions of the ISBDs". 67th IFLA General Conference, Boston, 2001-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla67/papers/095-152ae.pdf [320] >, (accessed 2003-2-17).
(6) Bunn, Paul V. "Bibliographic Standards for Serials : recent developments". 68th IFLA General Conference, Glasgow, 2002-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla68/papers/151-162e.pdf [321] >, (accessed 2003-2-17).
(7) Swanson, Edward. "Editing ISBD(CR) : approach, scope, definitions". 68th IFLA General Conference, Glasgow, 2002-08. (online), available from < http://www.ifla.org/IV/ifla68/papers/148-162e.pdf [322] >, (accessed 2003-2-17).

 


那須雅煕. ISBDの新たな展開−ISBD(M)と(CR)−. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.4-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1485 [179]

カレントアウェアネス [6]
標準化 [275]
目録 [323]
目録規則 [219]

CA1486 - 米国におけるデジタル録音図書をめぐる動き-NLSを中心に- / 深谷順子

  • 参照(16947)

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1486

 

米国におけるデジタル録音図書をめぐる動き−NLSを中心に−

 

 2002年3月,米国情報標準化機構(National Information Standards Organization:NISO)は,デジタル録音図書(Digital Talking Book:DTB)(注1)に関する基準をNISO規格として承認した(ANSI/NISO Z39.86-2002, Specifications for the Digital Talking Book)。この基準は,DTBを含む電子ファイルのフォーマットと内容を定義し,DTBの再生装置の必要条件を設定するものである。国際標準規格DAISY(注2)2.02仕様をさらに進化させ,従来の音声や静止画像だけでなく,動画やビデオデータを含めたオープンなマルチメディア仕様となっている。ANSI/NISO Z39.86-2002は,NCX.xmlファイル(DTBの階層構造を示すためのxmlファイル。これにより本文のフレキシブルアクセスが可能となる)とSMIL2.0(W3Cが推奨するXMLに準拠したマルチメディア対応言語)ファイルからなり,より検索性に優れた構成となっている。事実上のDAISY3.0仕様と目されている。

また,米国議会図書館の視覚障害者および身体障害者のための全国図書館サービス(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped:NLS)は,2002年5月にDTB計画に関する進捗報告書を発表した。その内容は,2004年からは最新タイトルのデジタルフォーマットでの製作を開始すること,アナログからデジタルへの変換を2008年の4月までに完了させ,約2万タイトルの録音図書をデジタル形態で利用できるようにすることであった。

 このように現在の米国では,DTBに対して国をあげて取り組もうとしている。しかし,世界的なレベルでのDTBの標準化の必要が討議され,開発が行われた当初は,米国は必ずしも国際的な流れに歩調を合わせていたわけではなかった。

 視覚障害者のためのDTBの標準化が最初に討議されたのは,1986年のIFLA東京大会の専門家会議であった。1990年にはスウェーデンを中心にDTBシステムDAISYの開発がはじまった。1995年,トロントで開かれたIFLAの国際会議で,(1) 2年以内にDTBの標準化を図ることをIFLAの名前で宣言して各国が独自の方式でスタートすること,(2) 目標達成のために国際共同開発組織を発足させること,を確認した。このとき米国は,国際標準化に対しては消極的であった。

 1996年5月にDAISYコンソーシアムが結成されるものの,米国は参加を拒否している。そのためDAISYコンソーシアムは,日本,スウェーデン,英国,スイス,オランダ,スペインの6か国で発足した。

 1997年3月,DAISYコンソーシアムはロサンゼルスで開催された「技術と障害」という国際会議においてDAISYを紹介し,米国のRecording for the Blind(RFB)(当時の名称。現在は,Recording for the Blind & Dyslexic:RFB&D)と意見交換の場を持った。これがきっかけとなり,8月には米国もDAISYコンソーシアムに加入した。(会員としてRFB&Dが,準会員としてアメリカ盲人協会(American Foundation for the Blind:AFB)等が参加している。)米国の参加決定は,折しもトロント会議で決定した標準化の期限の直前であった。この米国の参加を受けて,1997年IFLAコペンハーゲン大会においてDAISYがDTBの国際標準仕様であることが確認された。

 これに先立ち1996年12月に,NLSは,NISOを通じてDTBの標準化に着手することを発表していた。NISOがDTBの標準化について定期的に討議するようになったのは1997年5月からである。NLSのムーディ(Michael M. Moodie)氏がワーキンググループの議長を務めた。ワーキンググループには,NLSのほかに,AFBやRFB&Dなど,視覚障害者に関わる21機関の代表が参加した。このワーキンググループにはDAISYコンソーシアムの方から参加を表明し,代表を派遣した。このことも米国がDAISYコンソーシアムに参加するきっかけになったと考えられる。

 1998年には,NLSは,DTBに関する将来計画を発表し,研究開発の目標として,点字雑誌や録音雑誌の評価のほかに,DTBの基準に関する議論を展開すること,NLSの録音資料にデジタル録音技術を応用すること,利用者にDTBを提供する方法を調査することを挙げている。また,次世代録音図書システムを計画し,実行するために必要な20の課題を明らかにした。

 この将来計画に基づいて5年間かけて,標準規格の作成,マネジメントツールの作成,デジタルコレクションの構築,再生機器の設計が行われた。その結果,ANSI/NISO Z39.86-2002が承認され,NLSはDTBの製作に対する年度目標を立てることができた。今後は,これに従い実際の業務をどのように進めていくのかが注目される。

日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科:深谷 順子(ふかや じゅんこ)

 

(注1)デジタル録音図書(DTB)とは,視覚障害者,身体障害者,学習障害者やその他の印刷物を読むことが困難な人々(print-disabled readers)に代替メディアによって情報を提供するために編集された電子ファイル資料のことである。
(注2)DAISYは,Digital Audio-based Information Systemの略である。2001年12月からは,Digital Accessible Information Systemとされている。日本では「アクセシブルな情報システム」と訳されている。視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセットに代わるDTBの国際標準規格として,12か国(日本,スウェーデン,英国,スイス,オランダ,スペイン,ドイツ,カナダ,デンマーク,オーストラリア,ニュージーランド,米国)の正規会員団体で構成するDAISYコンソーシアム(本部スイス)により開発と維持が行なわれている情報システムである(CA1471 [324]参照)。DAISYコンソーシアムの目的は「既存の国際基準をベースとしつつ,あらゆるメーカーが参入できる,開かれた国際規格を開発すること」である。1990年に「パソコンで録音し,パソコンで再生する録音図書」として,スウェーデンで開発された初期のDAISYは,1997年5月の「次世代の録音図書のフォーマットに関する国際会議」を契機に,インターネット上のテキスト,音声,画像などの多様な形態のファイルを共存できる第二世代に進化した。それを受けて,2001年1月に公式推薦されたのがDAISY仕様2.02である。その後W3CによるSMIL標準化決議やhtmlのXMLへの移行が決定されたことにより,DAISYはさらに次の世代へと進化を始めている。その進化を体現したのがANSI/NISOZ39.86-2002といえる。このようなDAISYの進化は,視覚障害者以外の読書に障害のある人の利用にも有効であり,新仕様に対応したソフトウェアの開発が期待されている。DAISYについての詳細は次のサイトを参照。< http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/about/consortium.htm [325] >

 

Ref.

ANSI/NISOZ39.86-2002 Specifications for the Digital Talking Book. (online), available from < http://www.niso.org/standards/resources/Z39-86-2002.html [326] >, (accessed 2003-01-12).

Geller, Marilyn. "Digital Talking Book Standard Approved".(online), available from < http://www.cni.org/Hforums/niso-l/2002/0008.html [327] >, (accessed 2003-1-12).

LC. "Library of Congress Issues Report on Digital Talking Books". News form The Library of Congress. (online), available from < http://www.loc.gov/today/pr/2002/02-080.html [328] >, (accessed 2003-01-12).

All Ears: Library Service Seeks New Digital Player. Washington Post 2002-06-15. (online), available from < http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn?pagename=article&node=&contentId=A54630-2002Jun14&notFound=true [329] >,(accessed 2003-01-12).

"Technology Reports: NISO Digital Talking Books(DTB)". Cover Pages 2002-03-15. (online), available from < http://xml.coverpages.org/dtb.html [330] >, (accessed 2003-01-12).

DAISY Consultings Co.,Ltd. DAISY. (online), available from < http://www.daisyc.co.jp/content.htm [331] >, (accessed 2003-02-02).

Daisy Consortium. "Daisy Consortium ... a better way to read". (online), available from < http://www.daisy.org/ [332] >, (accessed 2003-01-12).

DAISY コンソーシアム. (online), available from < http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/daisycon/ [333] >, (accessed 2003-01-12).

DAISY研究センター. Welcome to DAISY. (online), available from < http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/ [334] > (accessed 2003-01-12).

河村宏.DAISYのこれから−次世代録音図書の国際標準−.びぶろす.49(1), 1998, 4-6.

LC. National Library Service for the Blind and Physically Handicapped (NLS). That All May Read... (online), available from < http://www.loc.gov/nls/ [335] >, (accessed 2003-01-14).

 


深谷順子. 米国におけるデジタル録音図書をめぐる動き−NLSを中心に−. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.7-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1486 [336]

カレントアウェアネス [6]
障害者サービス [337]
標準化 [275]
米国 [25]
LC(米国議会図書館) [119]

CA1487 - 米国における学校図書館職員養成の動向 / 中村百合子

  • 参照(14723)

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1487

 

米国における学校図書館職員養成の動向

 

 日本では,学校図書館法の改正によって学校図書館への司書教諭の配置が進む中,改めて学校図書館職員制度のあり方に関心が集まっている。本稿では,米国図書館協会(American Library Association: ALA)や米国学校図書館員協会(American Association of School Librarians: AASL)の取り組みに注目し,近年の米国における学校図書館職員の養成と採用・配置の状況について紹介したい。

 米国では2000年ころから,有資格の学校図書館職員の不足が深刻化している。米国の学校図書館は,1957年のスプートニク・ショックに端を発する教育改革で大きく発展した。1960年代には全米で学校図書館施設が整備され,学校図書館職員(スクール・ライブラリアン)の採用が進められた。現在,この時期に採用された多くの学校図書館職員が退職の時期を迎えている。また,いくつかの州で早期退職に関する法律が制定されたことも職員不足に拍車をかけている。このため,全米50州のうち半数以上の州で学校図書館職員が不足してきており,中には求人の半数程度しか有資格の職員を確保できない州もある。そうした州では,無資格の職員を採用しなければならなくなってきており,また,もっと悪い場合には図書館プログラムの解体ともなりかねない状況が生まれてきている。

 こうした理由に加えて,図書館学教育を受けることの難しさ,資格制度がより厳しくなっていること,基準や試験の得点の重視という教育界の傾向も,職員不足に影響を与えている。そのうち,図書館学教育を受けることの難しさについては,ALA認定校(認定プログラム)のない州の存在が挙げられる。米国には56のALA認定校(58の認定プログラム)があるが,それらは32の州に集中している。従って,プログラムのない州では,有資格の学校図書館職員(学校図書館メディア・スペシャリスト)の養成は行われ得ないということになる。各州政府の定める学校図書館専門職の資格要件や学校図書館関連職員に求める要件の中に,ALA認定校(認定プログラム)での単位取得が含まれない場合も少なくないのはこのためでもあろう。この問題に関しては,近年,認定プログラムのいくつかがオンラインで提供されはじめたことに,学校図書館関係者の期待が高まっている。

 

1.NCATE-ALA/AASL学校図書館メディア・スペシャリスト養成基準

 ALAは,1988年に教員養成プログラム認定全国協議会(National Council for the Accreditation of Teacher Education: NCATE)に加盟し,学校図書館職員養成プログラムの認定を開始した。これはALAの認定校以外で学んだ学校図書館職員の質を高めるための一方策である。認定のためのガイドラインをALA(AASL)が作成し,NCATEがそれを承認する形をとっている。このガイドラインは1988年9月にはじめて承認され,1993年10月に一度改訂された。その再改訂を目指して,AASLは2000年に特別の作業部会を設立し,「学校図書館メディア・スペシャリスト養成のためのAASL基準最終案(Final Draft of AASL Standards for School Library Media Profession)」を作成した。そして、2002年10月に開かれたNCATEの専門分野研究委員会(Specialty Area Studies Board: SASB)に同最終案を提出した。

 この最終案は,AASLと教育コミュニケーション工学協会(Association for Educational Communications and Technology: AECT)による,学校図書館メディア・プログラムのガイドライン『インフォメーション・パワー』(1989, 1998)(CA1361 [338]参照)の枠組みを用い,最新の学術研究の成果を取り入れて作成された。そして,学校図書館メディア・スペシャリスト認定の対象は修士号を授与する機関に限定した。一部の州には学士号レベルのプログラムや資格付与のためのプログラムもあり,希望により審査を受けることができるが,ALA(AASL)が出版物やウェブサイトでその認定を発表することはない,とした。

 これにより,ALA認定校での専門職養成を補完する教育が,形としても修士号以上,また内容的にも『インフォメーション・パワー』の考え方を反映した一定水準以上に維持されることが期待されている。

 

2.NBPTS優秀教員認定への関心

 

 AASLはまた,「危機に立つ国家」(1983)(注)等の提言に応えるため,1987年に設立された全国教育専門職基準委員会(National Board for Professional Teaching Standards: NBPTS)との連携も強めていこうとしてきた。NBPTSは,「図書館メディア」分野の教員を独自のガイドラインと志願者のポートフォリオで評価する優秀教員認定を2002年に開始した。そして今回,全米で435人(うち95名がAASL会員)が認定を受けた。

 AASLはこの認定制度に強い関心を寄せており,今回認定された会員とまた認定を受けることに関心を持つ会員の組織を作ろうという動きも,AASL内に現れてきている。今後,学校図書館職員が達成すべきパフォーマンスの指標として,同認定制度が定着していきそうである。

 

3.まとめ

 以上のように,有資格の学校図書館職員の不足が問題となっている中で,ALAやAASLは学校図書館職員の質の維持・向上のために努力している。また,学校図書館職員や学校図書館メディア・プログラムの評価が教育界と社会一般に広く認められるよう,外部の機関との連携を強めている。米国では今後もこうした専門職団体の努力が,学校図書館の発展の推進力となっていくように思われる。

東京大学大学院教育学研究科:中村 百合子(なかむら ゆりこ)

 

(注)米国経済の国際競争力回復のための教育改革を,連邦レベルの大きな課題として衝撃的に押し出した文書。子どもの基礎学力やモラルの低下への対策を訴えた。

 

Ref.

AASL. ALA and AASL Assuring Quality in SchoolLibrary Media Education Programs. (online), available from < http://www.ala.org/aasl/aasl-ncate/ [339] >, (accessed 2002-12-19).

NBPTS Library Media Standards. (online), available from < http://www.nbpts.org/pdf/ecya_lm.pdf [340] >, (accessed 2002-12-19).

AASL. 93 AASL members achieve National Board Certification. (online), available from < http://www.ala.org/aasl/news/2002nbcts.html [341] >, (accessed 2002-12-19).

AASL. AASL Board to discuss possibility of NBPTS Interest Group. (online), available form < http://www.ala.org/aasl/news/nbpts_group.html [342] >,(accessed 2002-12-19).

Everhart, Nancy. School Staffing Survey 2000:Looking for a few good librarians. Sch Libr J. 46(9), 2000, 58-61.

Lord, Mary. Where have the all librarians gone? US News & World Report. June 12, 2000, 53. (online), available from < http://www.usnews.com/usnews/issue/000612/lib.htm [343] >, (accessed 2002-12-19).

 


中村百合子. 米国における学校図書館職員養成の動向. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.9-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1487 [344]

カレントアウェアネス [6]
図書館員 [345]
研修 [170]
米国 [25]
学校図書館 [346]

CA1488 - 動向レビュー:デジタルレファレンスサービスの特性と展開 / 齋藤泰則

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1488

動向レビュー

 

デジタルレファレンスサービスの特性と展開

 

1.はじめに

 インターネットを利用したレファレンスサービスは,図書館におけるレファレンスサービスの形態として広く認知されるようになり,試行的にせよ,導入する図書館は年々増加している。米国研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL)に加盟する大学図書館の調査によれば,その実施率は1997年に77%であり,2000年には回答した大学図書館の全てで実施されるまでに至っている(1)。レファレンスにおけるインターネット利用には,ウェブをレファレンス質問への回答のための情報源として利用する側面と,ウェブを利用者と図書館員とのインタフェース,すなわち利用者からの質問の受付,レファレンスインタビューや回答提供の手段として利用する側面とがある。デジタルレファレンスサービス(以下, DRS)は,後者のウェブをインタフェースとして利用するレファレンスサービスの形態である。DRSは,これまでの試行的導入の時期を経て,本格導入の段階に移行する時期を迎えている。そこで,本稿では,その特性や今後のサービス展開について,米国の研究事例をもとに見ていきたい。

 

2.デジタルレファレンスサービスの特性

 DRSが,レファレンスデスク上で提供される伝統的なレファレンスサービスと大きく異なる点は,第一に利用者と図書館員との相互作用が非同期的,間接的であり,第二にサービスの時間と場所が限定されないことである。これら二つの点は相互に関係しており,非同期的であるがゆえにサービス時間の制約がなく,間接的であるがゆえにサービスを利用できる場所が図書館内に限定されないことになる。こうした諸特性について,DRSと伝統的なレファレンスサービスとを比較したものが次頁の表である。以下,DRSの特性について,新たな動きや事例を取り上げながら,今後のDRSの展開を見ていく。

 

表 デジタルレファレンスサービスの特性

 

項目デジタルレファレンスサービス伝統的なレファレンスサービス
特性方式・事例
相互作用非同期・間接電子メール, ウェブフォーム同期・直接
同期・間接チャット(ライブレファレンス)
サービス時間・場所非限定(24時間/7日間,遠隔利用) 開館時間内・館内
レファレンス質問の類型調査質問,探索質問指向電子メール, ウェブフォーム即答質問,探索質問,調査質問
即答質問指向チャット(ライブレファレンス)
情報源所蔵レファレンス資料
商用外部データベース
 所蔵レファレンス資料
商用外部データベース
ウェブ上の情報源MARS Best Web Reference Sites
他館との協力関係質問回答事例のナレッジベース化とその提供
質問回送による共同デジタルレファレンス
GRN(QuestionPoint), VRD他館への質問回送による協力
レファレンス

 

3.利用者と図書館員との相互作用

 伝統的なレファレンスサービスは,利用者がレファレンスデスクにおいて情報要求を図書館員に提示し,図書館員から回答の提供を受けるサービス方式が基本となる。この状況では,利用者と図書館員との相互作用(質問応答)は同期しており,利用者と図書館員はレファレンスデスクを挟んで直接対峙する。それに対してDRSでは,電子メールやウェブフォームからの質問の提示,電子メールによる回答の提供という方式をとり,利用者の質問提示と図書館員からの回答提供は非同期的である。一方,チャットによる質問回答サービス(ライブレファレンス)も導入されつつあり,この場合,レファレンスインタビューを含めて利用者と図書館員との相互作用は同期しているが,ネットワークを介している点でその相互作用は間接的である。非同期的あるいは間接的な相互作用において問題となるのが,レファレンスインタビューの扱いである。ウェブフォームからレファレンス質問を提示する場合には,利用者の属性や情報利用目的など,必要な情報の主題以外の入力項目を設定するなど,DRSには伝統的な対面状況下でのレファレンスインタビューに代わる機能が組み入れられているのが一般的である。しかしながら,ウェブフォームや電子メールによるサービス形態では,インタビューが同期的に行えないために利用者の情報要求を十分に確認できないことや,回答が即座(同期的)に提供されないことが問題となる。

 レファレンスサービスにおける同期性(即時性)の問題については,米国の先駆的DRSプロジェクトであるAskERICの非同期的サービスを対象に実施したランクス(R.D. Lankes)らの利用調査がある(2)。それによれば,非同期的サービスは,回答提供に数日を要する場合であっても,利用者からは有用なものと評価されている。また,バーチャルレファレンスデスク(VRD)プロジェクトによるAskAサービス(CA1323 [347]参照)の利用調査では,非同期的サービスの利用は年々増加傾向にあるとの結果が示されている(3)。これらの結果から,ランクスはレファレンス質問の内容や種類によっては,利用者は非同期的サービスで十分に満足していると結論付けている。伝統的なレファレンスサービスにおいても,文書によるレファレンス質問の受理・回答方式という非同期的,間接的な相互作用をとるサービス形態があり,上記の結果はこの文書レファレンスに対応したDRSの機能が利用者から評価されたものといえる。

 

4.レファレンス質問の類型

 レファレンスインタビューの機能が十分でないDRSでは,回答可能なレファレンス質問には一定の制約が伴うものと考えられる。ジェーンズ(J. Janes)らの調査によれば,DRS実施館において即答質問や事実質問は広く受け付けられているが,探索質問や調査質問を受理するか否かは,個々の図書館におけるDRSの方針によって異なる(4)。ところで,即答質問や事実質問に限定せずにレファレンス質問を受理する場合,実際に寄せられた質問に調査質問が多いことを示す調査結果が出ている。スローン(B. Sloan)は米国イリノイの9大学図書館におけるDRSで受理した877の質問を8類型に分類しているが,それによれば既知文献に関する質問が77件(8.78%),即答質問が125件(14.25%),特定主題に関する文献探索質問が179件(20.41%),文献の引用の仕方に関する質問が36件(4.1%),調査質問が260件(29.65%),図書館利用に関する質問が71件(8.1%),テクニカルサービスに関する質問が79件(9%),その他の質問が50件(5.7%)であった(5)。このように,調査質問が全体の30%近くを占め,最も多い質問の類型となっている。調査質問は回答に多くの時間を要する複雑,高度な要求の場合が多く,レファレンスインタビューの機能が十分でないDRSでは対応できないものと考えられてきた。しかし,少なくとも利用者側にそのような認識はなく,利用者は質問類型に関わりなくDRSに質問を寄せていることがわかる。DRSで扱われるレファレンス質問については,今後さらに調査が必要であるが,調査質問が回答の探索に一定の時間を要する質問であることを考えるならば,調査質問は非同期的サービスの形態をとるDRSに適した質問類型であるといえよう。

 

5.情報源の問題

 DRSでは,回答に利用する情報源として,図書館が所蔵する印刷媒体あるいはCD-ROM媒体のレファレンス資料に加えてウェブ上の情報源が重要となる。ただし,ウェブ上の情報源については,図書館のレファレンスサービスのための情報源として一定の要件を満たす必要がある。

 米国図書館協会(ALA)のレファレンス・利用者サービス部会(Reference and User Services Association: RUSA)に設置されたコンピュータによるレファレンス支援部門(Machine-Assisted Reference Section: MARS)では,1998年から毎年,ウェブ上の有用なレファレンスサイトとして20〜30件程度を調査,選定し,解題付きでRUSAの機関誌に発表している(6)。レファレンスサイトの選定にあたっては9の規準が示されている。それによれば,コンテンツについては質・詳細度・有用性,独自性,更新性が挙げられており,ウェブページの生産者については権威ある機関であることが要件となっている(6)。これらの規準は印刷媒体のレファレンス資料の選定にも当てはまるものであり,レファレンスサービスに使用される情報源が備えるべき基本要件といえる。

 米国議会図書館(LC)の書誌レコード高度化諮問チーム(Bibliographic Enrichment Advisory Team: BEAT)では,上記のMARSが選定したレファレンスサイトの解題を目録レコードに付加するプロジェクトを開始している(7)。これにより,目録データベースから有用なレファレンスサイトとその内容の検索が可能となり,レファレンスサービスに適したより質の高いウェブ上の情報源の活用が期待される。

 

6.デジタルレファレンスにおける協力体制

 DRSではインターネットを介して複数の図書館が共同してレファレンスサービスを提供する体制が進行している。これは従来のレファレンスサービスにおける協力レファレンスに相当するものである。その例として,LCのグローバルレファレンスネットワーク(GRN)のプロジェクトにおけるQuestionPointサービス(8)(CA1476 [348]参照)と,米国教育省とシラキュース大学によるVRDプロジェクト(9)があげられる。従来の協力レファレンスは,レファレンスデスクにおいて利用者から受付けた質問が自館資料では回答不能な場合に,その質問を他館に回送し他館から得られた回答を利用者に提供するというものである。それに対してDRSでは,利用者はウェブ上でこれまでに寄せられた質問とその回答の記録が蓄積されたナレッジベースを使って回答を探すことから始める。利用者はウェブを通して質問を提示する前に,ウェブ上に用意されているこれらの質問回答のナレッジベースをまず使って自分の要求について調べ,それでも解決できない場合にウェブから質問を提示することになる。このように,質問回答のナレッジベースをもとにした協力レファレンス体制がDRSの大きな特徴である。

 

7.おわりに

 DRSは,利用者と図書館員との相互作用,情報源,サービス体制の面で,図書館内での実践を基本とする伝統的なレファレンスサービスとは異なる。この違いは,伝統的なレファレンスサービスを規定してきた基本的な考え方に変更をもたらすものである。DRSに関するこれまでの記事や報告は,様々な先進的事例や新たなシステムの導入成果を紹介するものが中心であったが,最近になってDRSの基本的な考え方やモデルを対象とする理論研究が発表されるようになってきた。例えば,フリッツ(J.W. Fritch)らは,伝統的なレファレンスサービスを規定してきた保守理論と自由理論(注)からDRSを考察し,DRSには保守理論と自由理論を混成した理論が必要であると指摘している(10)。

 一方,ディレブコ(J. Dilevko)は,レファレンスサービスへのデジタル技術の導入が引き起こす図書館職の変化についてブルデューの社会学理論を使って考察している(11)。そこでは,レファレンスサービスへのコンピュータ技術の導入により,レファレンスライブラリアンが備えるべき重要な能力とされている多様な分野に関する主題知識や日常業務がその価値を失い,脱専門職化の道を辿る問題についてブルデューの理論を使って説明を加えている。特に興味深い論点は,図書館における技術革新は地域性を考慮に入れない支配装置として図書館を機能させることになり,図書館が果たしている地域住民の活動支援という機能を弱体化させるという点である。すなわち,レファレンスサービスへのコンピュータ技術の導入を唱導する者が価値のない業務として批判するレファレンスライブラリアンの日常業務(館内で騒ぐ子どもに注意したり,子どもに読み聞かせをしたり,施設・設備を管理するなどを含む)が実は日常生活を送る地域住民の日々の活動やニーズを支援する環境を作り出すうえで重要な役割を果たしていると指摘している。

 DRSは,インタフェースの改良,情報源の拡充,質問回答記録の蓄積とそれに基づくナレッジベース化など,今後も時間と場所に拘束されない利用者への情報要求支援サービスとして発展し,利用者に計り知れない利便性をもたらすであろう。しかし,地域の子どもたちへの読書環境を用意し,読み聞かせなどの児童サービスを提供し,また成人への貸出サービスを通じて教養娯楽機能を発揮するなど,図書館員が図書館という物理的施設のもとで地域住民の日常生活を情報・資料面から支援する人的サービスの重要性は,DRSによっていささかも減じることはない。大学図書館においても,一般教育,教養教育の再認識,重視が叫ばれる今日,適切な読書相談サービスや一般教育,教養教育に有用な資料の収集・提供など,読書環境の整備は重要な責務である。公共図書館や大学図書館には,DRSが指向するような先端的な情報サービスとは別に,場としての図書館が果たす機能が依然として求められていることを忘れてはならない。

玉川大学教育学部:斎藤 泰則(さいとう やすのり)

 

(注)保守理論,自由理論は,レファレンスサービスにおける人的サービスの方針に関する考え方を示すものである。保守理論は利用指導を重視し,利用者の求める情報を含むような情報源を図書館員が紹介し,また情報源の利用方法を指示するという最小限の援助にとどめる考え方を指す。それに対して,自由理論は,情報提供を重視し,利用者の求める情報自体を図書館員が検索,提供するという最大限の援助を行う考え方を指す。

(1) Tenopir, C. et al. A decade of digital reference, 1991-2001. Ref User Serv Q. 41(3), 2002, 264-273.
(2) Lankes, R.D. et al. The necessity of real-time : fact and fiction in digital reference systems. Ref User Serv Q. 41(4), 2002, 350-355.
(3) Lankes, R.D. AskA's : lesson learned from K-12 digital reference services. Ref User Serv Q. 38(1), 1998, 63-71.
(4) Janes, J. et al. Finger on the pulse : librarians describe evolving reference practice in an increasingly digital world. Ref User Serv Q. 42(1), 2002, 54-65.
(5) Sloan, B. "Asking Questions in the Digital Library". (online), available from < http://www.lis.uiuc.edu/~b-sloan/ask.htm [349] >, (assessed 2003-1-14).
(6) RUSA Machine-Assisted Reference Section (MARS).Best free reference web sites : forth annual list. Ref User Serv Q. 42 (1), 2002, 34-40.
MARS Best Free Websites Committee. (online), available from < http://www.ala.org/rusa/mars/MARSBEST.html [350] >, (accessed 2003-1-14).
(7) The Library of Congress Bibliographic Enrichment Advisory Team. (online), available from < http://lcweb.loc.gov/catdir/beat/ [351] >, (accessed 2003-1-14).
Bibliographic Record Enrichment Project. IFLA Journal. 28(4), 2002, 211.
(8) The Library of Congress. "Global Reference Network." (online), available from < http://www.loc.gov/rr/digiref/ [352] >, (accessed 2003-1-14).
QuestionPoint Collaborative Reference Service. (online), available from < http://www.QuestionPoint.org/ [353] >, (accessed 2003-1-14).
(9) The Virtual Reference Desk. (online), available from < http://vrd.org/ [354] >, (accessed 2003-1-14).
(10) Fritch, J.W. et al. The emerging reference paradigm : a vision of reference services in a complex information environment. Libr Trends. 50(2), 2001, 286-305.
(11) Dilevko, J. An ideological analysis of digital reference service models. Libr Trends. 50(2), 2001, 218-244.

 


斎藤泰則. デジタルレファレンスサービスの特性と展開. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.10-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1488 [355]

  • 参照(27763)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
レファレンスサービス [7]
図書館サービス [356]

CA1489 - 動向レビュー:デジタル情報保存のためのメタデータに関する動向 / 栗山正光

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1489

動向レビュー

 

デジタル情報保存のためのメタデータに関する動向

 

1.はじめに

 デジタル情報資源の急増に伴い,その長期保存体制の欠如が深刻な問題になってきている。デジタル情報はコピーを繰り返しても内容が劣化しないことから,一度デジタル化しさえすれば半永久的な保存が可能だという期待が大きかった。しかしながら,デジタル情報を記録する磁気ディスク,CD,DVD等の媒体の寿命は紙に及ばないとみなされており,さらにそれ以前に,急激な技術革新によって媒体の規格やデータのフォーマットがすぐに廃れてしまう。気付いた時には読み取りに必要なハードウェアあるいはソフトウェアが入手できなくなってしまっている,といったことも容易に起こり得る。

 こうした状況に対して,デジタル情報の長期保存に関する研究が様々な形で行われているが,中でも盛んなのが保存のためのメタデータの枠組み作りである。ここでのメタデータは情報資源を発見したり検索したりするためのものではなく,情報資源の保存に役立つ様々な情報を記録しておくものである。以下,この保存のためのメタデータに関する動向について述べる。

 

2.OAIS参照モデル

 デジタル情報の長期保存システム構築に関する有力な指針として,「開放型アーカイブ情報システムのための参照モデル(Reference Model for an Open Archival Information System : OAIS)(以下OAIS参照モデル)」(1)がある。これはNASA, NASDAはじめ世界各国の宇宙開発機関で組織する宇宙データシステム諮問委員会(Consultative Committee for Space Data Systems)が策定したもので,1999年5月にRed Book, Issue 1という形で原案が示され,2001年7月に改訂版(Red Book, Issue 2)が出され,2002年に国際標準規格(ISO 14721:2002)として承認された。これはデジタルデータにとどまらず,情報一般の保存に関するあらゆる側面を扱った総合的な内容を持ち,アーカイブの責任,情報パッケージの概念,機能エンティティとそれらの相互関係,保存戦略,さらにはアーカイブ間の連携に至るまで詳細に論じたものである。2000年,Red Book, Issue 1の段階で,わが国にも簡単に紹介されている(2)。

 「OAIS参照モデル」では,保存対象となるデータを関連するメタデータと組み合わせた情報パッケージ(Information Package)が取扱いの単位となる。情報パッケージは,情報生産者からアーカイブへの提出,アーカイブ内部での保管,アーカイブから消費者への配布といった段階に応じて,提出用情報パッケージ(Submission Information Package: SIP),保管用情報パッケージ(Archival Information Package: AIP),配布用情報パッケージ(Dissemination Information Package: DIP)の3種類に分けられている。おのおのの情報パッケージは内容情報(Content Information)と保存記述情報(Preservation Description Information)からなり,それらを結びつけるパッケージ情報(Packaging Information)が付与される。この外側にいわば目録情報である記述情報(Descriptive Information)が作成される。内容情報はもともとのデータであるビット列(データ・オブジェクト)と,それを解釈・提示するための表現情報(Representation Information)からなる。保存記述情報には内容情報の由来を示す来歴(Provenance),他の情報との関係を示すコンテクスト(Context),内容情報を同定するためのID情報である参照(Reference),内容情報が変更されていないことを示す固定性(Fixity)の4種類があるとされる。

 こうした情報モデルに基づき,いくつものデジタル情報保存プロジェクトにおいて,具体的なメタデータの項目や表記法が検討されている。

 

3.「OAIS参照モデル」に基づくメタデータの規定

 デジタル情報保存のためのメタデータを具体的に規定する先駆的な試みの例として,CEDARS(CURL Exemplars in Digital Archives)プロジェクトがある。このプロジェクトでは,2000年,「OAIS参照モデル」(当時はまだ規格案の段階)に準拠したメタデータの要素(elements)案を公表し,広く意見を求めた(3)。この案では要素を示すのみで表記法やデータの持ち方には触れていない。また,「OAIS参照モデル」で言うパッケージ情報,記述情報は扱わず,保存記述情報と内容情報に検討の範囲を限っている。著作権者にアーカイブへの登録を促すため,特に知的所有権関係の項目を充実させたとしている。さらに,メタデータは変化する可能性があり(たとえば権利関係など),その維持管理がアーカイブの主要な管理機能の一つである,という重要な指摘がある。

 OCLCとRLGは,2000年3月,保存メタデータに関するワーキンググループ (OCLC/RLG Working Group on Preservation Metadata)を発足させた。このWGは翌2001年に現状レビューの白書(4),さらに2002年6月,「OAIS参照モデル」に基づいたメタデータを規定した報告書(5)を発表した。この報告書で提案されているメタデータ要素は,CEDARS,オーストラリア国立図書館(National Library of Australia : NLA),ヨーロッパ寄託図書館ネットワーク(Networked European Deposit Library: NEDLIB),OCLCといった4つの組織の先行プロジェクトにおけるメタデータを総合的に検討し,さらにWG独自の要素も加えて出来上がったものである。CEDARS同様,パッケージ情報と記述情報の検討は除外されている。その理由として,パッケージ情報は保存対象データとメタデータを結びつけるだけのものであり,記述情報は資源発見のためのメタデータで保存用メタデータの範囲外であるという説明がなされている。

 下の図に要素の概略を示す(インデントで階層構造を表す。ただしすべての階層,項目を記してはいない)。

 

図: OCLC/RLG メタデータ要素の概略

 

内容情報
 ・内容データ・オブジェクト
 ・表現情報
  ■内容データ・オブジェクト記述
 (ファイル記述,サイズなど)
  ■環境記述
   - ソフトウェア環境
    表示プログラム
 (パラメータ,入力フォーマットなど)
    オペレーティング・システム
 (OS名,バージョンなど)
   - ハードウェア環境
 (マイクロプロセッサ要件,メモリ要件,記憶装置,周辺機器など)
保存記述情報
 ・参照情報
 (アーカイブ内でのID,グローバルID,資源記述)
 ・コンテクスト情報
 (作成理由,別表現形(異版等)との関係など)
 ・由来情報
 (原資料,生成過程,受入過程,権利管理など)
 ・固定性情報
 (真正性認証手続き,認証日付など)

 

 この報告書に示されたメタデータの枠組みは,現時点では,最も総合的かつ先進的なものだと言えるが,それでも決定版というわけではない。たとえば,保存戦略としてエミュレーションを選択した場合は,ハードウェア環境などに関してここに規定された以上に詳細な情報が必要となるだろうし,適用対象情報資源の粒度(granularity)や,項目が必須か,あるいは繰り返し可能か,などについては今後の検討課題としている。

 

4.メタデータ記録方式としてのXML

 以上のようなメタデータの枠組みは,メタデータの要素を定めたものであって,実際にそれをどういう形で記録するかはまた別の問題である。もちろん個々の保存機関がそれぞれ決定することであり,たとえば特定メーカーのデータベースの形式を採用することも十分考えられる。しかし,保存機関同士が連携する上において,またメタデータ自体の長期的な保存を考えた場合,世界的に広く通用する標準的な形式を採用した方が当然有利である。あるいは,内部では独自形式で持つにしても,データ交換用に標準形式への変換を行えるシステムを採用することも考えられる。

 標準的なメタデータ記録方式として最も注目されているのがXML(eXtensible Markup Language,T33 [357]参照)である。XMLはW3C(World Wide Web Consortium)が定めた文書構造記述のためのタグ付け言語だが,このXMLによるメタデータ記録方式の標準を定めたものとして,メタデータ記号化・伝送標準(Metadata Encoding & Transmission Standard: METS)がある。これはMaking of America II(MOA2)プロジェクトの経験をもとに電子図書館連合(Digital Library Federation)が策定したものである。METSは以下の5つの主要セクションから成る(6)。

  • 記述メタデータ(タグ:< dmdSec >)…外部の記述メタデータへの参照あるいは記述の埋め込み。
  • 管理メタデータ(タグ:< amdSec >)…ファイルがどのように作成されたかとか知的所有権に関する情報を記録。OAIS参照モデルの保存記述情報はこのセクションに入ると考えられる。
  • ファイル・グループ(タグ:< fileGrp >)…関連するすべてのファイルをリストアップ。
    構造マップ(タグ:< structMap >)…デジタル資料を構成するファイルの階層構造を記述。
  • 動作(タグ:< behaviorSec >)…実行可能な動作と内容データとを結びつける。

 さらに,それぞれのセクション内の表記法が詳しく規定されている。METSの最大の特徴は構造マップで,これにより,異なった種類のファイルで構成された複雑なデジタル資料の構造を表現することができる。

 他方,XMLはメタデータに限らず,内容データ・オブジェクトを含めたデジタル情報全体を保存するためのフォーマット,あるいは保存データを新しいハードウェア,ソフトウェア環境に移行するためのデータ交換フォーマットとしても有力視され,研究が進んでいる。そうしたプロジェクトの一つがオランダのデジタル保存テストベッド(Digital Preservation Testbed)で,電子メールをXML形式に変換して保存する実験を行っている(7)。また,XMLとデジタル情報の保存に関して概観した白書(8)を発表している。

 

5.デジタル・アーカイブでの事例

 北テキサス大学図書館(The University of North Texas Libraries)では,連邦政府や州政府と共同で行政文書のデジタル化プロジェクトを行っているが,保存のためのメタデータ項目は,やはりOAIS,CEDARS,NLA,OCLC/RLG等により提案されたものを組み合わせて規定している(ただしOCLC/RLGが国家標準規格を定めるまで,としている)(9)。また,メタデータ作成・編集ツールとしてNoteTab(10)というソフトウェアの試用を行っている。

 数学の分野では,ドイツのゲッチンゲン大学,米国のコーネル大学,中国の清華大学などの図書館が参加して電子数学アーカイブ・ネットワーク・イニシアチブ(Electronic Mathematics Archives Network Initiative: EMANI)という共同プロジェクトが行われている。このうち清華大学図書館が,保存のためのメタデータの枠組みを策定し,発表している(11)。項目は記述,権利,技術,ソース,デジタル化プロセスといったモジュールに分けられ,それぞれが階層構造を持つ。記録方式としてMETSを採用しており,数学に限らず全分野に適用が可能だとしている。

常磐大学人間科学部:栗山 正光(くりやま まさみつ)

 

(1) Consultative Committee for Space Data Systems. Reference Model for an Open Archival Information System (OAIS). Blue Book, Issue 1 (CCSDS 650.0-B-1). 2002, (online), available from < http://wwwclassic.ccsds.org/documents/pdf/CCSDS-650.0-B-1.pdf [358] >, (accessed 2003-01-06).
(2) 大島薫. 電子出版物の保存. 情報の科学と技術. 50(7), 2000, 383-388.
(3) The Cedars Project Team and UKOLN. Metadata for digital preservation : The Cedars project outline specification. 2000, 33p. (online), available from < http://www.leeds.ac.uk/cedars/MD-STR~5.pdf [359] >, (accessed 2003-01-06).
(4) OCLC/RLG Working Group on Preservation Metadata. Preservation Metadata for Digital Objects : A Review of the State of the Art. 2001, 49p. (online), available from < http://www.oclc.org/research/pmwg/presmeta_wp.pdf [360] >, (accessed 2003-01-08).
(5) OCLC/RLG Working Group on Preservation Metadata. Preservation Metadata and the OAIS Information Model : A Metadata Framework to Support the Preservation of Digital Objects. 2002, 51p. (online), available from < http://www.oclc.org/research/pmwg/pm_framework.pdf [361] >, (accessed 2003-01-08).
(6) Metadata Encoding & Transmission Standard. "METS: an Overview & Tutorial". (online), available from < http://www.loc.gov/standards/mets/METSOverview.html [362] >, (accessed 2003-01-08).
(7) Potter, Maureen. XML for Digital Preservation : XML Implementation Options for E-Mails. (online), available from < http://www.digitaleduurzaamheid.nl/bibliotheek/docs/email-xml-imp.pdf [363] >, (accessed 2003-01-08).
(8) Testbed Digitale Bewaring. "XML and digital preservation : Digital Preservation Testbed white paper". (online), available from < http://www.digitaleduurzaamheid.nl/bibliotheek/docs/white-paper_xml-en.pdf [364] >, (accessed 2003-01-08).
(9) Alemneh, Daniel Gelaw et al. A Metadata Approach to Preservation of Digital Resources : The University of North Texas Libraries' Experience. First Monday. 7(8), 2002. (online), available from < http://firstmonday.org/issues/issue7_8/alemneh/index.html [365] >, (accessed 2003-01-08).
(10) Notetab homepage. (online), available from < http://www.notetab.com/ [366] >, (accessed 2003-01-08)
(11) Niu, Jinfang. A Metadata Framework Developed at the Tsinghua University Library to Aid in the Preservation of Digital Resources. D-Lib Magazine. 8(11), 2002. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/november02/niu/11niu.html [367] >, (accessed 2003-01-08).

 


栗山正光. デジタル情報保存のためのメタデータに関する動向. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.13-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1489 [198]

  • 参照(26137)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
メタデータ [75]
電子情報保存 [111]

CA1490 - 動向レビュー:欧州のウェブ・アーカイビング / 村上泰子, 齋藤健太郎, 松林正己, 清水裕子, 井田敦彦

カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20

 

CA1490

動向レビュー

 

欧州のウェブ・アーカイビング

 

1.欧州におけるウェブ・アーカイビングの背景と全域プロジェクト

 欧州委員会(European Commission: EC)は欧州域内の情報格差および欧州と米国との情報格差の拡大への懸念から,総合的な情報基盤整備を目指し,2000年6月に電子欧州行動計画(eEurope2002)を開始した(1)。欧州のデジタルコンテンツ整備は計画の主要課題のひとつであり,電子出版物の保存もこの領域に位置付けられ,推進されてきた。背景には特に,米国との格差縮小を情報面を含むあらゆる面において最重要課題とする欧州の姿勢を見て取ることができる。また電子出版物の保存の意義は,学術研究の環境整備と文化政策の両面に見出すことができるが,欧州において,特に英語を母国語としない国々においては,国内の出版物を保存することはすなわち,母国語の出版物という独自の文化資産をいかにして次世代に遺していくか,という課題に結びつくという面で重視される。

 自国出版物の保存は,多くの国では納本制度によって担保されてきた。納本法によるもの,著作権法によるもの,国立図書館法によるもの,など依拠する法に違いはあるが,それらの法を通じて,すでにいくつかの国が電子出版物を納入対象に含めている。オフラインの資料に限定するものが多数ではあるが,デンマーク,フィンランドなどオンライン出版物を対象としている国もすでに見られる。オンライン出版物については,著作権やプライバシーなどに関わる法的問題や保存範囲の問題など,解決しなければならない課題も山積している。一方で,その対応策を模索している間にも日々多くの情報が失われており,特に動きの激しいウェブ上の情報資源の保存問題は各国において極めて緊急度の高い課題となっている。

 こうした危機感のもとにユネスコもまた,『法定納本制度のためのガイドライン』(2)において,あらゆる種類の電子出版物が各国の責任において法定納本されることが原則であり,技術的法的課題が解決されていないことを理由に,世界の出版文化遺産の重要な一部が保存されないということは,到底正当化できない,との厳しい見解を示し,早急の対応を呼びかけている。また,こうした取り組みに対して国の政策レベルで高い優先順位が与えられるよう,「デジタル文化遺産保存憲章」(E021 [114]参照)の準備も進められている。

 欧州では北欧諸国をはじめとして多くの国が,早くからこの課題に取り組んできた。しかしながら,歴史も母国語も異なる国々の取組みは決して一様ではない。

 欧州の電子出版物保存プロジェクトのうち,英国が中心となっているものに,英国図書館によるDomain.uk,電子情報保存連合(Digital Preservation Coalition:DPC)の活動,主として高等教育機関が展開するCEDARS(CURL Exemplars in Digital Archives)などがある(CA1467 [101],1489 [198]参照)。欧州大陸部では,国全体のウェブ情報を保存する試みが,Kulturarw3プロジェクトをいち早く立ち上げたスウェーデンをはじめ,フィンランド,デンマークなど北欧諸国に見られる(3)。

 一方,欧州全域に及ぶものに欧州納本図書館の実現を目指すNEDLIB(Networked European Deposit Library)プロジェクトがある(CA1401 [368]参照)。これは欧州委員会の資金援助によって1998年から2000年にかけて実施されたもので,最終的にEU12か国の国立図書館の参加を得た。出版社と共同で先進的な試みを行ってきたオランダが主導的役割を果たした。国によって方針や見解,アーカイビングへのアプローチも異なりはするが,それらを共通の議論の俎上に載せることによって,情報を共有し,共通の基盤を築くことに貢献した(4)。

 NEDLIBでの成果をふまえて,2001年11月,欧州委員会は2002年からの新たな3か年のプロジェクトERPANET(Electronic Resource Preservation and Access Network)を立ち上げた(5)。NEDLIBが比較的技術的な共通基盤のモデル構築に力を注いでいたのに対し,ERPANETではより総合的な政策面に重点が置かれている。電子出版物の保存に関する欧州域内での取組みの不要な重複を排し,情報交換のためのクリアリングハウスおよび研究開発,政策プラニングのための組織を目指す。

 ERPANETは特に,電子資料の保存を支える関係者〜技術提供者,作成者(著者等),保存者,監視者,利用者,支援者(政策決定者等)〜の相互の連鎖に注目し,総合的な政策の必要性を訴えている(図)。すなわち,保存の問題は情報流通の最終段階のみでなく,その連鎖全体に関わる問題である,という認識を共通のものにすることを目的と考えるのである。

 

 

 この目的を達成するため,ERPANETは以下の6つのサービスを展開している。

  • ワークショップの開催(erpaworkshops)
  • 研修活動(erpatraining)
  • 実地研究活動(erpastudies)
  • 調査/評価活動(erpaassessment)
  • 助言活動(erpaadvisory)
  • 様々な枠組みの提供(erpatools)

 欧州のウェブ・アーカイビングは,重層化,多様化を極めており,今後これらの取組みが相互にどのようにリンクし,協力関係を築いていくのか,注目される。

 次項以下では,欧州域内のオランダ,ドイツ,フランス,スウェーデンの4か国のトピックが取上げられている。これらの非英語圏の取組みは,わが国にとっても貴重な示唆を与えてくれるであろう。

梅花女子大学文学部:村上 泰子(むらかみ やすこ)

 

(1) eEurope2002. (online), available from < http://europa.eu.int/information_society/eeurope/index_en.htm [369] >, (accessed 2003-02-06).
(2) Lariviere, Jules. "Guidelines for legal deposit legislation". UNESCO, 2000, 61p. (online), available from < http://www.unesco.org/webworld/publications/legaldeposit.rtf [370] >, (accessed 2003-02-06).
このガイドラインは欧州の法定納本制度を対象に作成された次のガイドラインを下敷きにしている。
Council of Europe. Council for Culutural Co-operation. Culture Committee. Guidelines on Library Legislation and Policy in Europe. 1999, 26p. (online),available from < http://www.coe.int/T/E/Cultural_Co-operation/Culture/Resources/Reference_texts/Guidelines/ecubook_R3.asp [371] >, (accessed 2003-02-06).
(3) 廣瀬信己. 北欧諸国におけるウェブ・アーカイビングの現状と納本制度. 国立国会図書館月報. (490), 2002, 14-22.
(4) Van der Werf-Davelaar, Titia. Long-term Preservation of Electronic Publications. D-Lib Magazine. 5(9), 1999, (online) available from < http://www.dlib.org/dlib/september99/vanderwerf/09vanderwerf.html [372] >, (accessed 2003-02-06).
(5) ERPANET - Electronic Resource Preservation and Access Network. (online), available from< http://www.erpanet.org [373] >, (accessed 2003-02-06).
ERPANET. Principles of digital preservation Draft v.4.1. ERPANET, 2002, 7p. (online), available from < http://www.erpanet.org/www/content/documents/Digitalpreservationcharterv4_1.pdf [374] >, (accessed 2003-02-06).

 

2.オランダ国立図書館のアーカイビング事業

 オランダ国立図書館(Koninklijke Bibliotheek: KB)では目下のところ,「ウェブ・アーカイビング」と名づけた事業は行っていない。しかしこれは,電子情報やウェブ情報を軽視しているためではない。むしろKBでは,電子情報の時代を意識した取り組みを積極的に推進している。その姿勢は,貴重書の電子化,JSTORの活用といった事業面に現れている。特筆すべきは,電子情報の長期的な保存と提供を図書館が担うべき役割として位置付け,それを意識した調査研究を進めてきたことである。以下ではこのことを,ウェブ・アーカイビングに関係する三つの点を通して確認する。システムの開発,出版業界との連携,そしてオンラインジャーナルのアーカイビングである。

 第一にKBは,電子情報を扱えるシステムの開発に取り組んできた。ウェブ・アーカイビングに関しては,NEDLIBプロジェクトがまず目を引く。NEDLIBはヨーロッパの納本図書館による共同研究で,KBが事業の中心となった。この事業ではNEDLIB ハーベスタという,ウェブ情報の収集に特化したソフトを開発している。しかしそれ以上に重要なのは,IBM社との協力関係である。KBでは,電子情報を処理するシステムの開発をIBM社に依頼すると同時に,電子情報の長期的保存について,同社と共同研究を進めてきた。マイグレーション等の技術的課題はもちろん,ウェブ・アーカイビングもまた,ここでの研究課題の一つとなっている。アーカイビングを進める上で踏まえなければならない問題点が,ここで検討されたのである。IBM社からは2002年秋に,電子情報の収集,検索,管理のためのシステム「e-depot」が納められた。後述するオンラインジャーナルの処理に用いられるのは,このシステムである。

 第二には,出版業界との連携である。KBでは1996年に,文化遺産の保存の責務を果たす観点から,パッケージ系の電子出版物の収集を始めた。しかし電子出版物を確実に納本制度の枠に含めるため,さらに踏み込んだ措置をとった。1999年に,オランダ出版協会との間で,電子出版物の納入について協定を結んだのである。この協定は,オンラインの出版物を納本制度に含める根拠になるものである。

 しかし第三に,最も注目すべき事業として挙げられるのは,オンラインジャーナルのアーカイビングである。オランダには,エルゼビア・サイエンス社の本社がある。いうまでもなく同社は,オンラインジャーナル発行の最大手である。そしてKBが同社と提携し,同社発行のオンラインジャーナルを保管する公的な電子アーカイブの役割を果たすことが,2002年の国際図書館連盟(IFLA)グラスゴー大会で公表されたのである。

 この提携関係は三つの点で,通常の利用契約とは異なる。第一に図書館側は,蓄積と保存のための研究開発を行う。特に重要なのは,記録内容と読み取りソフトとの両面にわたり,マイグレーションの責任を持つことである。第二に図書館側は,収められた情報を自館資料として提供する権利を持つ。このため,エルゼビア側が天災や倒産等で提供を停止しても,図書館での提供は継続される。第三に,納入対象が現在提供中のものに限られない。新規創刊誌も納入対象となり,目下電子化作業中である紙媒体時代のバックナンバーもまた,電子ファイルの形で納入される。

 上記の特徴は,オンラインジャーナルの長期提供のための難点を意識し,その解決を目指したものである。つまり版元と図書館とが協力して,オンラインジャーナルが紙媒体より劣る点の解消を試みたのである。したがって,オンラインジャーナルが紙媒体に取って代わるかどうか,またその際に図書館が果たしうる機能は何かを見極める上で,この試みは重要である。

 この事業はウェブ・アーカイビングと銘打ってはいない。しかしKBは,エルゼビア社という絶好の提携相手が国内に存在する利点を活かしつつ,ウェブ・アーカイビング実現に向かう第一歩を,オンラインジャーナルという比較的処理が容易な領域から踏み出したものと考えられる。KBは,ウェブ情報への着実な対処の途上にある。今後の動きが無視できない。

関西館資料部収集整理課:齋藤 健太郎(さいとう けんたろう)

 

Ref.

Elsevier Science and Koninklijke Bibliotheek. "National Library of the Netherlands and Elsevier Science make digital preservation history". (online), available from < http://www.elsevier.com/homepage/newhpgnews/preview/KB/links/link5.htm [375] > and < http://www.kb.nl/kb/pr/pers/pers2002/elsevier-en.html [376] >, (accessed 2003-02-04).

Dutch Publishers' Association et al. "Arrangement for depositing electronic publications at the Deposit of Netherlands Publications in the Koninklijke Bibliotheek". (online), available from < http://www.kb.nl/kb/dnp/overeenkomst-nuv-kb-en.pdf [377] >, (accessed 2003-02-04).

KB. Articles. (online), available from < http://www.kb.nl/kb/menu/cat-art-en.html [378] >, (accessed 2003-02-04).
KB. Deposit of dutch electronic publications. (online), available from < http://www.kb.nl/kb/dnp/dnep-en.html [379] >, (accessed 2003-02-04).

KB. Digital archiving and preservation. (online), available from < http://www.kb.nl/kb/menu/ken-arch-en.html [380] >,(accessed 2003-02-04).

KB. e-depot: KB accepted new system october 1. (online), available from < http://www.kb.nl/kb/ict/dea/planning-en.html [381] >, (accessed 2003-02-04).

KB. Electronic journals - full-text articles. (online), available from < http://www.kb.nl/kb/zoek/db/etij-en.html [382] >, (accessed 2003-02-04).

KB. Project history. (online), available from < http://www.kb.nl/kb/ict/dea/ltp/jointstudy/page1.html [383] >, (accessed 2003-02-04).

鈴木敬二. 在外研究報告:オランダにおける大学図書館活動. (オンライン), 入手先 < http://www.ulis.ac.jp/library/Choken/1999/choken7_15.html [384] >, (参照 2003-02-04).
Verhoeven, Ir. Hans. Archiving Web Publications. (online), available from < http://www.kb.nl/kb/ict/dea/ltp/reports/6-webpublications.pdf [385] >, (accessed 2003-02-04).

 

 

3.ドイツ・ネットワーク情報イニシアチブ(DINI)

 欧州の動向については本誌(CA1467 [101]参照)で報告されたようにいくつかのプロジェクトがある。ドイツに関しては,本誌でも電子図書館関連の報告がなされており(CA1257 [386],1263 [387],1270 [388]参照),欧米諸国に遅れをとっているわけではない。本稿ではドイツ図書館(CA1144 [389]参照)を含めたプロジェクトとドイツ全体の政策として構想された「ドイツ・ネットワーク情報イニシアチブ( Deutsche Initiative fuer Netzwerkinformation: DINI)」の動向を報告する。

 電子出版物の収集活動に関しては,すでに報告されている(CA1204 [390]参照)。DINIの動向を要約すると,ネットワーク情報資源の収集・保存・管理・利用という側面からのみを検討するのではなく,戦略的な視点で構成されている。つまり連邦教育学術省(BMBF)が進める電子図書館プロジェクトDigital Library Forum (DLF)の一環に組み込まれている。ウェブ・アーカイブの収集対象としてネットワーク情報源すべてを対象にするのではなく,大学が刊行する「灰色文献(graue Literatur)」(商業ベースに乗りにくい出版物である博士学位論文,教授資格論文(Habilitationsschrift)等が最初に指定された対象である。)を優先している。米国でのオープン・アーカイブ・イニシアチブ(OAI)を範とし,ドイツ版OAIと位置付け,世界的な学術情報流通ネットワークでの利用に資することを目的としている。戦略的な施策の背景には,2002年に公表された「生徒の学習到達度調査(OECD/PISA: OECD Programme for International Student Assessment)」での順位が加盟国中平均20位前後という衝撃的な結果がある。教育改革の一環としてEラーニング政策を掲げ,ネットワーク情報の普及と推進に連邦を挙げて取り組む姿勢を顕著にしている。DINIの特徴に教育の基盤として組み込まれている点を挙げることができるかもしれない。DINI発足の端緒は,1991年秋の第1回学術計算機センター所長会議とドイツ図書館協会の第4部会が共催した「新しいコミュニケーションと情報サービス:学術計算機センターと大学図書館の連携の可能性と形態」会議に遡る。関連機関や諸学会が数年おきにネットワーク情報に連関するシンポジウムやワークショップを開催しながら,現在の組織を発足させたのは2000年初頭である。以後,年次総会を開きながら戦略的な議論を煮詰めている。以下,年次総会のテーマを示す。

  • 第1回(2000年9月 ドルトムント)
    「ネットワーク情報のコーディネーション,共同作業と相乗効果」
    (OAIを支援するDINIアピールを刊行)
  • 第2回(2001年12月 ボン)
    「危機あるいは好機?情報基盤の変革」
  • 第3回(2002年9月 ドレスデン)
    「Eラーニング普及のための基盤必要条件」

 DINIは,会議を重ねながら参加機関と協定を取り結ぶことで事業を具体化している。主要な活動をあげておく。

 さらにネットワーク情報の生産者組織「IuKイニシアチブ:ドイツにおける学術情報とコミュニケーション(IuK Initiative: Information und Kommunikation der wissenschaftlichen Fachgesellschaften in Deutschland.)」との共同作業推進を協定した。重点領域は次の4点である。1)メディア制作,2)教育におけるビデオ技術とその応用シナリオ,3)公開設置コンピュータ,4)電子出版。(協定草案2001年3月14日 トリール大学)

 「DINI展望のためのブレインストーミング」の会議(2002年1月 ゲッティンゲン大学図書館)では,「重点作業領域2002」として,9つのグループに分かれて問題を検討することが取り決められた。

 重点領域のひとつ「電子出版」に関して,第1回年次総会の成果物として『大学での電子出版:勧奨事項 (Elektronische Publizieren an Hochschulen: Empfehlungen)』が刊行された。その中では,電子出版の特徴を活かして,可能な限り著者が作成するデータを自動的に図書館システムの目録作業に活用する視点を用いて以下のようにまとめられている。

  • (1) 商業ベースで出版されない灰色文献をネットワーク情報として体系的検索・利用を可能にする。
  • (2) 大学は学術情報生産者として,査読システムの担い手でもあると同時に消費者でもある。大学はこの学術情報流通全体に責任があり,世界規模での競合関係にある。
  • (3) デジタル形式による学術文献の利用と提供は,新しい「電子出版文化」とも言える。著者の役割は極めて重大である。テキストの構造化は定性的な検索精度の改善に重要な役割を担うからだ。
  • (4) 上述の機能を確実に遂行するためには,標準規格と原則の徹底に重要な意義がある。特にダブリン・コア,OAI等世界標準の規格がそれである(注)。
  • (5) 大学では,法的,財務的,人事的,資源的な諸前提が出版過程において問題となる。
  • (6) 文献サーバと出版サーバが,技術の中核である。これは大学の(7)の出版指針の問題でもある。
  • (7) ドイツの大学では,様々な変則的な問題(大学ごとの慣例等)があろうが,技術的にはOAIの仕様に則った基本指針を作成することが望ましい。

     

     勧奨案では,著者の視点,利用者の視点,図書館,計算機センター,大学経営,出版の6項目に配慮することが確認されている。

     現在のDINIの参加機関数は下記のとおりである。バイエルン州立図書館など主要な大図書館が参加していない。

    機関種別参加登録数
    図書館23
    メディア・センター14
    計算機センター15
    専門学会4

     参加機関数が増えれば,ネットワーク情報資源が産み出す知的生産は著しく伸びるであろう。東西ドイツの統合が財政を逼迫させ,ドイツ図書館研究所の閉鎖などの問題を誘発しているが,統合の弊害を解決しながら学術情報政策は成果をあげている。DINIはいずれ国際的に大きく開花し,利用されるであろう。

    脱稿を前にして,メーリング・リスト上でミュンヘン大学に提出した博士論文がフランスのサイトで閲覧可能と著者自ら知らせてきた。論題は「電子出版影響下でのSTM雑誌の変革」とある。ネットワーク情報資源のダイナミックな運用に直面した一瞬であった。ネットワーク情報資源は共有が容易である。共有の相乗効果が知の創造を活性化するとスタンフォード大学のレッシグは運動を推進しているが,欧州の動向はこの運動をまさに実践しているともいえよう。知をネット環境で共有する意義が,知の公共性を改めて問い質しているように思われる。

    中部大学附属三浦記念図書館:松林 正己(まつばやし まさき)

     


    (注) なおテクニカル面では,主題分類にはデューイ十進分類(DDC)を導入する。メタデータの変換と交換を容易にするためにOAIに準じた規準を導入する。それは「OAIインターフェイスの内容構成:ドイツの大学のためのデータ供給勧奨案(Inhaltliche Gestaltung der OAI-Schnittstelle: eine Empfehlung fuer Daten-Provider an deutschen Universitaeten)」で指示されている。またネットワーク面ではグリッド・コンピュータの導入が計画されている。

     

    Ref.

    Deutsche Initiative fuer Netzwerkinformation(DINI). (online), available from < http://www.dini.de/index.php [391] >, (accessed 2003-01-24).

    digital library forum. (online), available from < http://www.dl-forum.de/ [392] >, (accessed 2003-01-24).

    IuK Initiative. (online), available from < http://www.iuk-initiative.org/ [393] >, (accessed 2003-01-24).

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    4.BnFの実験―大規模ウェブ・アーカイビングの実現に向けて―

     インターネット資源は代々受けつがれていくべき遺産であり,その保存は緊急に実行されなければならない。フランス国立図書館(Bibliotheque nationale de France: BnF)はこれまでも「記憶の機関」として,納本制度により,1537年図書,1921年定期刊行物,1992年音楽,ビデオ,マルチメディア,ソフトウェアとその収集対象を拡げてきたが,ウェブ・アーカイビングという新しい使命をどのように果たしていくべきか探るために,1998年からいくつかの予備研究をスタートさせた。

     技術面ではNEDLIBに参加することで,BnFは他の国立図書館と親密な交流を行い,特に収集ロボットの実験に協力した。

     1999年にはドキュメントコンテンツの研究が行われた。この研究はBnFが提供しているサイト集"Signets de la BnF"の中から,大学,研究所などが提供する23のサイトをサンプルとして選び,146,000のファイルについて,そのタイプ,容量,リンク数,メタデータの分析を行ったものである。その結果,(1)サイト全体の一括収集の必要性,(2)豊富なコンテンツ,(3)メタデータ項目の小なさ,(4)リンクの多さという,ウェブの納本制度のための重要な諸点が明白になった。

    2000年には,国立高等情報科学図書館学校(Ecole nationale superieure des sciences de l'information et des bibliotheques : ENSSIB)と共同でフランスの電子雑誌の予備調査が行われた。結果,その多くが不安定,不定期で出版の様式が絶えず進化する電子雑誌の調査は,その時点では困難であることが明らかになった。6月には,スウェーデン国立図書館が1997年から行っているバルク収集についての研究も行われた。

     これらの研究を受けて,7月,法定納本制度学術委員会は,インターネットサイトが有益な共有財としての性格をもち,オンラインドキュメントにも納本制度を拡大する必要性があると判断を下し,文化通信省に勧告がなされた。

     BnFは現在,将来の新法の枠内で大規模にウェブ・アーカイビングが行われるように,ウェブの収集選択,変換,保存に関わる運営,処理についてさらに研究を積み重ねている段階である。

     BnFのウェブ・アーカイビングの特徴は,できるだけ自動収集を行い,必要なときだけ人間が介入する方法にある。BnFは2001年から協力関係にあった国立情報処理・自動化研究所(Institut national de recherche en informatique et en automatique : INRIA : 研究省および経済・財政・産業省の監督下にある科学技術機関)と協力して,包括的なウェブ・アーカイビングのための初めての実験を行った。自動収集プロジェクト「Xyleme」においてINRIAが開発したロボット技術を基礎とし,収集範囲はフランスのドメイン.frにしぼられた。スナップショットによる収集の後,職員によってデータの分析が行われた。

     ロボット収集と人手による選択の比較をするために,2002年冬,BnFはサイトの重要度を推測する調査を実施している。8人の専門知識をもつ職員が参加して,ランクづけされたサイトを標本評価した。調査標本は2001年秋にXylemeによって収集された8億ページから抽出され,国のドメイン.frに限られた。標本サイトの重要度は,当該サイトにリンクしている外部ページの数に基づいたXylemeのランキングアルゴリズムを用いて10から100までの数値で表され,その数値をもとに9つのレベルに区切り,各レベルごとに100のサイトを選択した。応答がないサイトとe-コマースサイトについては,手動で664サイトが除かれた。残った236サイトについて,職員が,(1)収集されるべきではない,(2)収集されてもよい,(3)コレクションの中にある方がよい,(4)確実にコレクションの中にあるべきだ,という4レベルで評価を行った。理想の評価と考えられる職員評価の中間値が,Xylemeのランキングアルゴリズムに基づいた選択と比較された。その結果は,Xylemeのランキングアルゴリズムに基づく選択が,人の評価にかなり近かった。積極的には収集しない(1)と(2)のレベルにおいて両者の合致率は60パーセント,積極的に選択するレベル(3),(4)においては75パーセントであった。この結果をBnFは肯定的に評価しており,主題を限定すれば合致率はさらに向上すると見ている。

     BnFはまた,データベースなどの深層ウェブについても実験を行った。視聴覚資料部によって選択された16サイトについてウェブ管理者より情報を得,小さなロボットによってそのコンテンツを収集する試みを行った。その結果,ほとんどのサイトがダウンロードできず,中には,巨大容量のもの,静的サイトが動的に変化するもの,キャッシュストリーミング技術を使用しているものなどが含まれ,自動アーカイビングが困難であることが判明した。

     ウェブページやサイトを分析して評価することは,大規模なウェブコレクションを築くための優先課題である。現在は人によっても,またロボットによっても満足する選択はないであろう。さらなる技術と実験が必要である。

    日仏会館図書室:清水 裕子(しみず ゆうこ)

     

    Ref.

    Abiteboul, S. et al. "A First Experience in Archiving the French Web." (online), available from < http://www-rocq.inria.fr/~cobena/Publications/archivingECDL2002.pdf [396] >, (accessed 2003-1-10).

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    5.スウェーデン国立図書館のウェブ・アーカイビングに関する政令

     スウェーデン国立図書館(Kungliga Biblioteket)は1996年から「Kulturarw3 projekt(ウェブ文化遺産計画)」(CA1214 [400]参照)と称して,ウェブ上の情報資源を収集し,保存し,利用可能にするウェブ・アーカイビング計画を実行中であるが,2002年5月に関係する政令が出たので,ここに紹介する。

     政令のタイトルは「国立図書館のデジタル文化遺産計画(訳注:ウェブ文化遺産計画)における個人情報の処理に関する政令(2002年法令第287号)」である。

     政令制定の背景には国立図書館がウェブ・アーカイビングを行うことに関する法的根拠の曖昧さがある。ウェブ・アーカイビングはロボットと呼ばれるプログラムを用いてウェブ上の情報を自動的に収集するため,個人情報の保護の問題が生じてくる。関係する法律として1998年の個人情報保護法(Personuppgiftslagen(1998: 204))があるが,国立図書館がウェブ・アーカイビングを行うことについて直接の規定はない。国立図書館は1996年の計画開始当初から,収集を妨げる規定は法律上存在しないという解釈をとってきたが,一方で収集した情報資源に対するアクセスの許可申請は当面すべて拒否してきた。2001年の夏,計画の合法性に疑問をもつ者が現れ,個人情報保護法の監督官庁であるデータ検査院が疑義の一部を認めたことから,問題は表面化した。国立図書館はこれに対し裁判所に異議の申立てを行い,一方で政府も政令の制定を急いだ。制定に中心となって取り組んだのは教育省である。政令は2002年5月8日に制定された。政令は国立図書館に対し,ウェブ上の情報資源を収集する権限のみならず,図書館の敷地内でこれを利用させる権限をも与えている。

     政令の具体的な内容は次のとおりである。政令は全13条からなる。

     第1条は政令の適用範囲である。「この政令は,デジタル文化遺産計画に係る国立図書館の業務における個人情報の自動処理に対し,完全に,又は部分的にこれを適用するものとする」(条文を全訳,以下同じ)。

     第2条は定義規定である。「(第1項)この政令においてデジタル文化遺産計画(訳注:以下,計画という)とは,インターネット上にスウェーデンの資料の形態で発表される国のデジタル文化遺産を自動ロボット技術を用いて収集し,保存し,かつ利用可能にする国立図書館の計画をいう」。「(第2項)この政令においてインターネット上で発表されるスウェーデンの資料とは,アドレス,名宛人,言語,著者又は発信者を媒介として,スウェーデンに属するとされる資料をいう」。

     第3条は個人情報保護法との関係を規定する。「(第1項)個人情報保護法(1998年法令第204号)は,この政令又は同法第2条にいう別段の定めがある場合を除き,計画における個人情報の処理にこれを適用する」。「(第2項)記録された個人は,この政令により認められる処理に反対する権利を有しない」。

     なお個人情報保護法については専修大学名誉教授の菱木昭八朗氏による全訳,解説があるが,その概要を述べると次のようになる。同法は「個人情報」を「処理される情報の対象となっている生存者に関する直接的又は間接的なすべての個人情報」と定義する(第3条)。また「個人情報の処理」を「個人情報の収集,記録,編集,蓄積,改訂,変更,授受,利用,第三者を通じての情報の提供,拡散,その他情報の供給,編成,合成,封鎖,消去又は破壊等に関する個別的もしくは一連の作業」と定義し(第3条),個人情報の全部又はその一部が電算機によって処理される場合には同法を適用するとしている(第5条)。そして個人情報を処理する「個人情報管理者」は,処理される個人情報の対象者である「被記録者」の同意がある場合か,又は法的義務を履行するために必要な場合など特段の事由がある場合に限り,個人情報を処理することができる(第10条)。個人情報管理者は処理に先立ち監督官庁に届け出を行うか,又は個人情報が適法,適正に処理されているか否かを独立して監視する自然人である「個人情報代理人」を選任する(第36-37条)。個人情報代理人は処理の方法に瑕疵を発見した場合,そのことを個人情報管理者に指摘しなければならず,個人情報管理者が早急に改善措置を講じなかった場合,その事実を監督官庁に報告しなければならない(第38条)。監督官庁は処理が行われている場所への立ち入り検査を行い,改善を指示し,又は制裁金を付して処理の中止を命ずる等の権限を有する(第43-47条)。監督官庁はデータ検査院である(個人情報保護規則(Personuppgiftsfrorning(1998: 1191))第2条)。

     話を戻して政令第4条は個人情報の責任についての規定である。「国立図書館は,計画における自己の個人情報の処理に対して,個人情報に関する責任を負う」。なお個人情報管理者は個人情報保護法により,様々な注意義務や安全対策を講じる義務を負っている(第9条,第31-32条など)。

     第5条は計画の目的について規定する。「個人情報は,研究および報道の必要を満たすために,計画において処理することができる」。

     第6条は「センシティブ(訳注:特に注意を要する)個人情報」の処理について規定する。「個人情報保護法第13条にいうセンシティブ個人情報は,この政令第5条にいう目的を満たすために不可欠である場合に限り,計画において処理することができる」。個人情報保護法第13条のセンシティブ個人情報とは,人種,民族,政治信条,信教,思想,労働組合への加入,健康および性生活に関する個人情報をいう。

     第7-10条は計画のためのデータベースについて規定する。「(第7条)国立図書館は,第5条に定める目的のために用いられる個人情報を,計画において自動処理により収集しデータベースとして保有することができる」。「(第8条)本データベースは,インターネット上で公開されたスウェーデンの資料中の個人情報のみを,計画に基いて処理することができる」。「(第9条)本データベース内の情報は,研究に用いることを目的とする場合に限り,自動処理のための媒体(訳注:CD-ROMなどの媒体)に転送することができる。国立図書館は,原価に相当する金額について,当該媒体の代価として料金を徴収することができる」。「(第10条)本データベース内の情報について,その直接の取得は,国立図書館内の端末を通してのみ,認められる」。

     第11条は,検索語に関する規定である。「個人情報保護法第13条にいうセンシティブ個人情報および同法第21条にいう個人情報は,検索語としてこれを便用することはできない」。個人情報保護法第21条にいう個人情報とは,犯罪,犯罪事件に関する判決,刑事訴訟手続きによる処分又は行政手続きによる自由拘束に関する個人情報である。

     第12条は訂正および損害賠償に関する規定である。「訂正および損害賠償に関する個人情報保護法の規定は,この政令に基づく個人情報の処理にこれを適用する」。個人情報保護法は適法に処理されていない個人情報について,被記録者による個人情報管理者への訂正請求を認めている(第28条)。また同法の規定に反して他人に対し損害を与えた場合や,人権侵害によって被記録者に損害を与えた場合には,その損害を賠償しなければならないとしている(第48条)。

     第13条は提訴に関する規定である。「個人情報保護法第26条に基づく情報提供申請に対する国立図書館の訂正又は拒否の決定は,行政法(1986年法令第223号)第22条に定める一般行政裁判所にこれを提訴することができる」。個人情報保護法第26条は1暦年に1回,無料での,被記録者による個人情報管理者への情報提供申請を認めている。

     以上の政令制定の効果についてスウェーデン国立図書館のトマス・リドマン(Tomas Lidman)館長は,「非常に長期的な視野に立ち国際的にも高く評価されている当館の計画が最終的に公式の承認を得ることができてうれしい」と述べている。

    調査及び立法考査局社会労働課:井田 敦彦(いだ あつひこ)

     

    Ref.

    "Forordning (2002:287) om behandling av personuppgifter i Kungl. bibliotekets digitala kulturarvsprojekt"Rattsnatet. (online), available from < http://www.notisum.se/rnp/sls/lag/20020287.htm [401] >, (accessed 2002-12-27).

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    菱木昭八朗. スウェーデン個人情報保護法. 新聞研究. (582), 2000, 86-92.

    菱木昭八朗. スウェーデンの新しい個人情報保護法について. 比較法研究. (61), 1999, 158-166.

     


    村上泰子, 齋藤健太郎, 松林正己, 清水裕子, 井田敦彦. 欧州のウェブ・アーカイビング. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.17-24.
    http://current.ndl.go.jp/ca1490 [100]

  • 参照(10956184)
カレントアウェアネス [6]
動向レビュー [55]
電子情報保存 [111]
オランダ [171]
スウェーデン [403]
ドイツ [172]
フランス [12]
欧州 [45]
BNF(フランス国立図書館) [236]

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