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2014年 (通号No.319-No.322:CA1812-CA1839)

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CA1833 - 大学の研究戦略支援業務を支える研究力分析ツール / 山野真裕, 鳥谷真佐子

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カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1833

 

大学の研究戦略支援業務を支える研究力分析ツール

 

東京大学 リサーチ・アドミニストレーター推進室:山野真裕(やまの まさひろ)
金沢大学 先端科学・イノベーション推進機構:鳥谷真佐子(とりや まさこ)

1. はじめに

 近年、日本の大学の研究力を測る取り組みが、国として本格的に行われている。研究力は、研究のアウトプットである論文生産の状況、および、研究を行うためのインプットである研究費や研究時間、支援体制の状況などから評価されている(1)。特に、発表された論文の引用関係から研究力を評価・分析するアプリケーションが急速に発展し、多くの大学で導入が進んできた。

 論文の質を測るために用いられるのが、論文の引用関係である。多くの論文から引用されていれば、その研究は、その後に行われた研究への影響が大きいものと捉えられる。また、論文共著の情報によって、国内外の機関をまたぐ共同研究の状況を見ることができる。

 大学では、研究推進部門や大学図書館の職員、また、研究マネジメントの専門職として近年配置されているリサーチ・アドミニストレーター(University Research Administrator: URA)などによって活用が進み、各大学の研究分野の強みや国際共同研究の状況などの分析が行われている(2)(3)。

 本稿では、大学の研究戦略の立案支援や研究開発の現場で用いられている、主な研究力分析ツールを取り上げて比較し、その特徴を紹介する。

 

2. 研究力分析ツールの概観

 現在、日本の大学で導入されている主な研究力分析ツールは、トムソン・ロイター社およびエルゼビア社によって提供されており、表1のように位置付けられる。研究評価・分析のための様々な機能を提供するInCitesやSciValを用いることによって、大学や組織の強みや比較、共同研究の状況などの研究力分析を行うことができる。また、プロファイリングの機能を提供するConverisやPureを用いることによって、所属する研究者ごとの論文情報や業績、プロフィールなどを統合して管理・公開することができる。なお、これらのツールは、それぞれの提供者の抄録・引用文献データベースWeb of ScienceやScopusをデータソースとして活用している。

表 1.主な研究力分析ツールの位置付け
機能 \ 提供者トムソン・ロイター社エルゼビア社
研究評価・分析ツールInCitesSciVal
プロファイリングツールConverisPure
抄録・引用文献データベースWeb of ScienceScopus
表 2.研究力評価・分析ツールの比較
提供者
製品名
 トムソン・ロイター社
InCites NEXT GENERATION
エルゼビア社
SciVal
データソース抄録・引用文献データベースWeb of Science Core CollectionScopus
出版社数3,500以上5,000以上
雑誌数12,000誌以上21,000誌以上
日本国内ジャーナル250誌以上400誌以上
引用情報1900年以降1996年以降
主なジャーナル分類22分野、251小分野27分野、307小分野
製品の仕様等提供形態WebベースWebベース
アクセス権ユーザー数契約による制限なし
データ更新頻度2ヶ月に1回毎週
分析対象国・地域約230約220
大学・研究機関約4,600約4,600
学内組織学内組織別分析が可能Pureと連動した学内組織別分析が可能
個人世界中の研究者の分析世界中の研究者(Author Profile)の分析
分析対象の選択上記の、国・地域、大学・研究機関、個人の間で同時に比較可能上記の、国・地域、大学・研究機関、学内組織、個人の間で同時に比較可能
対象期間2004年以降1996年以降
ベンチマーク機能の主な分析指標論文数Web of Science DocumentsScholarly Output
被引用数Times CitedCitation Count
引用されている論文の比率% Documents CitedCited Publications
論文あたりの平均被引用数Citation impactCitations per Publication
標準化された被引用度Impact Relative to WorldField-Weighted Citation Impact
引用された国の数Numbers of Countries CitedNumber of Citing Countries
高被引用論文分野・年ごとのTop 1%, 10%について、それぞれ率で表示Top 1%, 5%, 10%, 25%について、それぞれ論文数・率で表示
国際共著論文等国際共著論文について、論文数・率、及び被引用数を表示国際/国内/機関内/単著について、論文数・率、及び平均被引用数を表示
産学共著論文論文数、被引用数、被引用数/論文数、被引用論文率を表示論文数・率、及び平均被引用数を表示
学際性等に関する指標Disciplinarity Index, Interdisciplinarity IndexCompetency(大学の強み)分析のScience Mapで可視化
2次引用に関する指標2nd Generation Citations 
h-indexh-indexh-indices(h-index, g-index, m-index)
自己引用に関する指標% Self Citation"Exclude self-citations"オプション
ジャーナル指標Impact Factor, QuatileSNIP, SJR
その他の主な機能大学ランキングへの対応・THE世界大学ランキングに使用された大学のプロフィールデータを収録(Institutional Profiles Data) 
その他の分析手法・世界トップ1%機関(ESI)収録有無(ESI Ranked)
・ニュース・Web情報に基づく分析
・共引用分析による大学のCompetency(強み領域)分析
・研究機関同士のコラボレーション分析
主なカスタマイズ機能・研究者グループ・部局の作成
・論文リストのアップロード
・研究者グループ・部局の作成
・論文リストのアップロード

出典:各社提供資料
Thomson Reuters, InCites Indicators Handbook, 2014.
Elsevier B.V., SciVal Metrics Guidebook Version 1.01, 2014. および、各社へのヒヤリングに基づき作成(2014年9月現在)

 主な分析指標に着目して2つの研究評価・分析ツールを比較したものが、表2である。指標の表現の仕方は提供者によって異なるが、(1)論文数などの生産性、(2)被引用数などの影響力、(3)国際・産学共著などのコラボレーション、(4)高被引用論文などの優位性、(5)論文数と被引用数から算出されるh指数(h-index)、といった指標が、共通して採用されている。これらの指標が、一般的によく参照される、研究力分析の軸となっているところである。

 実際にこれらのツールを使用するとわかるが、ユーザーインターフェースが全く異なり、指標のグラフ化などを行う際にそれぞれの特徴が出る。

 

3. 主な研究評価・分析ツールの特徴

3.1 InCites NEXT GENERATION

 2014年7月に、(1)InCites、(2)ESI(Essential Science Indicators)、(3)JCR(Journal Citation Reports)の3つの機能を統合した新たな研究評価・分析プラットフォームInCites NEXT GENERATIONが公開された。これら3つの機能は、もともと別々の分析ツールとして提供されていたが、統合により複合的な分析が可能となっている。

図 説明

図 1.InCitesによる大学の研究パフォーマンス分析の例

(1)InCites:学術情報に基づく総合的な研究評価・分析ツール

 学術文献データベースWeb of Scienceに収録された文献情報を基に、研究者単位、機関単位、国単位また分野ごとなどの様々なレベルで、研究成果に関するデータを取得し、ランキング分析・共著論文分析などを行うことができる。図 1のように、論文数や被引用度の年次推移などのデータは、自動的にグラフ化される。ダッシュボードと呼ばれる表示機能を用いて、任意のグラフ、データなどの情報を一画面上に保存し、比較分析作業を行うことができる。また、次のESIとJCRの機能を用いた統合的な分析を行うためのプラットフォームの役割を、InCitesが果たしている。

(2)ESI:高被引用論文に基づく研究評価ツール

 ESI単独では、高被引用論文情報に基づき、国や機関を対象としたランキング分析などの研究評価を行うことができる。InCitesはESIの機能も含んだ統合的な分析を行う。

(3)JCR:学術雑誌の評価を把握するためのツール

 学術雑誌を対象として、研究分野や国、出版社などの区分ごとに、総被引用数、インパクトファクターなどの指標によりランク付けすることができ、その雑誌が当該分野でどの程度の位置付けであるのかなどの判断材料を得ることができる。

3.2 Converis

 Converisは、プレ・アワードおよびポスト・アワード(4)のマネジメントモジュールを有する研究マネジメントシステム(5)であり、機関内の他のシステムとの連携が出来るなどの特徴がある。その機能の一つとして、研究者個人・学部・機関のパフォーマンスを把握するプロファイリングツールがある。

 欧州では、大学内のプロジェクト申請や進捗管理での利用が進んでいる。日本では、InCitesとの統合後、2015年に提供開始が予定されている。

3.3 SciVal

 SciValでは、次の3つのモジュールを活用して、様々な角度からの分析結果を、グラフ化、ビジュアル化して示すことができる。

(1)Overview:研究パフォーマンスを多角的に分析するためのツール

 大学などの研究機関や国・地域の研究パフォーマンスの概要を捉えることができる。また、特定の研究チームや研究領域を設定して分析することが可能であり、高い自由度を有する。

(2)Benchmarking:研究力を相対的に把握するためのツール

 国・地域、研究機関、研究チーム、研究領域について、様々な分析指標を使って自機関の研究力を相対的に捉えることができる。英国のトップ8大学が合意して設定された研究評価のための指標であるSnowballメトリクス(6)を含む(7)。

(3)Collaboration:共同研究を戦略的に支援するためのツール

 論文の共著関係に基づいて共同研究状況を捉えることができる。また、将来の共同研究候補を探るための情報収集が可能である。

 図2は、Overviewの中の分析機能の一つであるCompetencies(8)を用いて、共引用分析によって機関全体の強みのある研究領域を可視化(9)した例である。これは、成長性の高い新たな研究領域を視覚的に探索できるSciValの特徴的な機能の一つである。

図 説明

図 2. SciValによるCompetenciesの分析結果例

3.4 Pure

 Pureは、研究マネジメントシステムであり、モジュールの一つとして、研究者個人の研究パフォーマンスを把握するためのプロファイリングツール(旧SciVal Experts)が提供されている。大学が提出する研究者のリストに沿って、組織情報の設定および名寄せが行われ、専用のウェブサイトから組織別に整理された研究者情報にアクセスすることができる。論文情報に基づき、研究者ごとに、類似の分野の研究者や共著者、共著のある研究機関などの情報が集約される。論文及び被引用データは、Scopusに基づいて、Pure側で毎週更新される。また、著作物や特許などの情報登録機能の利用や、学外への公開・非公開を選択でき、研究者各人の業績を共通のプラットフォーム上で公表するという使い方が可能となる。

 例えば英国では、国による大学評価フレームワーク(Research Excellence Framework: REF)に対応するために、大学でのPureの導入が進んでいる。

 

4.おわりに

 本稿では、多くの大学で導入が進んできた、主な研究力分析ツールを紹介した。それぞれのツールの特徴を考慮して、目的に応じて活用することで、分析の幅が広がる。例えば、SciValによる大学の強みの可視化(10)や、InCitesによる学際的な状況の数値的分析(11)など、大学での取組事例が見られる。

 研究力分析ツールは過渡期にあり、本稿で見てきた2社が提供するツールも、高頻度でバージョンアップが進められている。提供者側には、機能面の拡充だけではなく、ユーザーが利用しやすいインターフェースを備えているかという点が求められている。一方、これらのツールは多機能であるがゆえ、ユーザー側には、研究力分析のための利用技術の習得が求められている。

 今回紹介したツールで扱える研究力分析の内容としては、現状では、データソースに含まれる論文引用関係を中心とした研究のアウトプットに限定される。従って、データソースに含まれない多くの日本語文献は、評価の対象にならないという問題があり、特に文系の研究力のベンチマーキングは限定的である。また、今後は、研究がイノベーションにつながったかという視点や、投入した研究リソースと成果の関係も着目される。ユーザー会での意見交換でも、ファンディング・エージェンシー(助成機関)の視点で、資金を重点的に配分すべき研究分野を探索できる環境を求める声とともに、各研究者の資金配分状況や、論文を生み出した研究活動で活用された研究資金の情報を集約することで、インプットとアウトプットを総合的に把握できる環境を期待する声が挙げられている。 現在は、提供者側からのツールの提案を受けた初期の段階と言える。有益な研究力分析の環境作りのためには、今後も引き続き、大学やファンディング・エージェンシー等のユーザー側からの知見をフィードバックし、率直な意見を発信していくことが必要であろう。

 

謝辞

 本稿の執筆にあたり、多大なご協力を頂きました、トムソン・ロイター社の広瀬容子氏、古林奈保子氏、エルゼビア社の福成洋氏、柿田佳子氏に、心より感謝申し上げます。

 

(1) 文部科学省 科学技術政策研究所. 日本の大学における研究力の現状と課題(Ver.2), NISTEPブックレット-1. 2013, 30p.
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-booklet01.pdf [4], (参照 2014-11-7).

(2) 鳥谷真佐子. リサーチ・アドミニストレーターと図書館の研究情報資源. 情報管理. 2014, 57(3), p. 193-195.

(3) 三輪唆矢佳 ほか. エビデンスデータを活用した研究力強化と競争時代の研究大学のありかた. 情報管理. 2014, 56(12), p. 833-841.

(4) プレ・アワードとは、研究予算を獲得する前の申請のプロセス。ポスト・アワードとは、予算獲得後の進捗管理のプロセス。

(5) 研究の予算申請から進捗管理、評価対応までのプロセス全体のマネジメントを支援するシステム。

(6) 大学間の研究業績の比較に共通して必要と考えられる評価指標を定義している。研究活動のインプット、プロセス、アウトプットの観点から、指標が選ばれている。
“Snowball Metrics”.
http://www.snowballmetrics.com/ [5], (accessed 2014-11-7).

(7) 福成洋. 研究戦略のための計量書誌学の実践的活用と応用. 情報管理. 2014, 57(6), p. 376-386.

(8) 従来は「SciVal Spotlight」として提供されていたものが、SciValの機能「Competencies」として組み込まれた。

(9) 石川剛生. SciVal Spotlight(サイバル・スポットライト)戦略的な研究活動計画の策定を支援するソリューション. 情報の科学と技術. 2009, 59(7), p. 356-362.

(10) 市古みどり. 研究支援と大学図書館(員). MediaNet. 2013, (20), p. 25-28.

(11) 山野真裕. 学際研究進展と大学組織改革の相互作用―東京大学における学際研究教育とURA 配置の事例―. 研究技術計画. 2014, (29), p. 132-143.

 

[受理:2014-11-18]

 


山野真裕, 鳥谷真佐子. 大学の研究戦略支援業務を支える研究力分析ツール. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1833, p. 1-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1833 [6]

Yamano Masahiro.
Toriya Masako.
Overview of Research Evaluation Tools for University Strategy.

  • 参照(12442)
カレントアウェアネス [7]
図書館経営 [8]
大学図書館 [9]

CA1834 - 図書館整備「反対運動」とその争点 / 桑原芳哉

  • 参照(14578)

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カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1834

図書館整備「反対運動」とその争点

 

尚絅大学文化言語学部:桑原芳哉(くわばら よしや)

 

1.はじめに

 公共施設の中でも、福祉施設や環境施設の整備にあたっては、住民による「反対運動」や議会による反発等への対応が課題となっている。ゴミ処理施設や火葬場などの「環境衛生施設」の整備に関する紛争のほか、近年では「保育所」についても「迷惑施設」とされ反対運動が起こる例もある。福祉施設や環境施設に関する紛争については、「施設コンフリクト」として、1990年代以降、事例の報告(1)や研究(2)が進んでいる。

 これらの施設と異なり、図書館については、その整備について大きな反対があるという事例は報告されてこなかった。しかし、近年、図書館整備に関連して住民などからの「反対」の意志が表明される事例や、図書館整備の是非が首長選挙の争点となった事例についての報道がある。

 生涯学習や地域の課題解決の拠点として、図書館を求める声がある中で、図書館整備に「反対する」という事例について整理する。

 

2.事例の収集と整理

 公立図書館の整備に関して「反対」という意志が示された国内の事例について、網羅的に収集することを企図した。このような事例は、当該地域では比較的大きく報道される可能性が高いことから、新聞記事による報道事例を収集することとした。

 全国紙、地方紙及び建設関係業界紙の記事検索データベース3種(「G-Search」「EL-NET」「聞蔵Ⅱ」)により、住民や議会、首長による、図書館(または図書館を含む複合施設)の整備に関する反対等の意志表示(反対運動、反対意見表明、整備予算の否決、住民投票、首長リコール、図書館整備を争点とした首長選挙、首長による整備計画の撤回など)の事例を収集した。

 収集した事例について、(1)~(3)の視点により整理し、考察を行う。
(1) 時期
(2) 地域
(3) 争点

表1 図書館整備「反対運動」等の事例
(「期間」開始時期の順)
(「市町村」欄の*は1995年以降に市町村合併を行った自治体)
項番都道府県市町村期間概要
1静岡東伊豆町1995~1997複合施設整備見直しの署名活動
2長崎長崎市(*)1995~2007被爆遺構の保全
3熊本山鹿市(*)1995~1998複合文化施設用地選定への反対
4群馬藪塚本町(*)
(→太田市)
1996~1998文化施設建設反対(町長リコール署名)
5茨城三和町(*)
(→古河市)
1997~1998建設:議会の反対(契約案を否決)
6宮崎新富町1997~1999住民投票条例請求、町長選争点
7熊本菊池市(*)1998~2001複合施設整備:議会の反対、市長選
8山口山口市(*)1998~2002文化交流プラザ整備反対運動
9秋田角館町(*)
(→仙北市)
1999複合施設整備:住民投票条例請求
10宮崎門川町2001~2002住民団体の反対運動(監査請求等)
11長野豊科町(*)
(→安曇野市)
2005住民の反対運動(署名活動)
12長野塩尻市(*)2005~2006市街地への移設に対する反対運動
13山形米沢市(*)2005~2013文化複合施設整備:疑義・反対
14岐阜飛騨市(*)2007~2009複合施設整備:住民団体等の反対
15兵庫伊丹市2007~2010新図書館建設:住民団体等の反対
16長野軽井沢町2008~2009駅舎内への整備に関する疑義
17和歌山田辺市(*)2008~2010新図書館建設に対する反対運動
18京都福知山市(*)2008~2012駅前拠点施設整備への疑義
19岩手一関市(*)2009~2011駅舎との複合施設整備への疑義
20千葉八千代市2010~2013都市再生整備に対する反対
21長野木曽町(*)2011~2012複合施設整備:住民からの反対
22岐阜中津川市(*)2011~2012新図書館建設:反対運動(市長選等)
23兵庫明石市2011~再開発事業:住民団体の反対運動
24茨城古河市(*)2012複合文化施設整備への反対運動
25長崎五島市(*)2012新図書館建設:住民等の反対
26岐阜岐阜市(*)2013~2014複合施設整備:市長選の争点
27北海道釧路市(*)2014~図書館移転整備への反対
28山梨山梨市2014~新市長による整備計画の見直し

 

3.結果

3.1 「反対運動」等の事例

 新聞記事検索により収集した事例について、表1に示す。1995年以降、28件の事例を確認することができる。このうち、岐阜県中津川市の事例については、中津川市のウェブサイト内に「新図書館建設事業」として事業の経緯等に関する情報が公開されている(3)。

3.2 整理・分析

(1) 時期

 確認できた事例で最も古いものは、1995年の事例になる。検索した新聞記事データベースの収録期間の制約により、古い事例が漏れている可能性があるという、調査の限界を考慮する必要があるが、国内において福祉施設の整備に関する「施設コンフリクト」への問題意識が高まった時期が1990年代以降と考えられていることからも、図書館に関する整備「反対」という意志が表明されるようになった時期が、1995年頃以降という結果については受容できるものと思われる。

 表1において「期間」を見ると、1995~1998年頃と、2005年以降の事例数が特に多くなっている。この背景については、次のように推察する。

 1995~1998年頃の事例については、1995年に「地方分権推進法」が施行され、地方分権推進委員会による勧告の後、2000年の「地方分権一括法」の施行により施設整備に係る国庫補助等が大幅に削減されていることから、自治体当局が削減前に国庫補助等を受けるため早急に施設整備を進めようとした事業計画に対して、議会や住民が反対したものと推察できる。表1のうち(1)、(3)、(4)、(5)、(6)が該当すると考えられる。

 一方、2005年以降の事例については、整備費だけでなく「事業の優先度」や「事業の効果」を争点とする事例もあり、施設整備に対する住民等の「納税者意識」が顕在化したものとも考えられる。

(2) 地域

 収集した事例については、まず大都市圏の自治体における事例が少数であり、地方都市や町村における事例が多いことが確認できる。地方都市や町村については、図書館未設置自治体も多いが、過疎化や高齢化が進む中で福祉施設や医療施設等の整備が切実な課題であり、「事業の優先度」が争点になるケースが見られる。

 また、収集した事例のうち20の事例(表1中「市町村」欄の「*」)が、いわゆる「平成の大合併」による市町村合併を行った自治体となっている。

(3) 争点

 28件の事例の主な争点としては、「整備費」「建設地」「事業の優先度」があることが確認できる。

 収集した事例の主な争点として、最も多いものが「整備費」である。何十億という整備費が、住民や議員にとっては「過剰に多額」と見られ、事業の中止や計画の見直しを求める運動につながるケースが多い。整備費が主な争点となった事例について、報道から確認できる計画時の整備費と反対運動等による整備計画の結果を表2に示す。

表2 整備費が主な争点となった事例
自治体名
(整備施設)
整備費(計画時)(百万円)反対運動等による整備計画の結果
静岡県東伊豆町(総合文化会館)3,400計画撤回
群馬県藪塚本町(ホール等複合)1,580計画地に整備
茨城県三和町(図書・資料館)1,000一時撤回→計画地に整備
宮崎県新富町(総合文化会館)8,100文化会館のみ整備(図書館は中止)
山口県山口市(文化交流プラザ)7,000計画どおり整備
秋田県角館町(地域情報センター)2,000計画どおり整備
岐阜県飛騨市(図書館+市議会議場)2,400図書館+会議室として整備
兵庫県伊丹市(新図書館)2,700計画どおり整備
和歌山県田辺市(新図書館)(不明)計画どおり整備
京都府福知山市(市民交流プラザ)4,870計画を見直し整備(施設規模縮小)
岩手県一関市(新図書館)1,800計画を見直し整備
千葉県八千代市(ギャラリー等複合)3,100計画どおり整備
長野県木曽町(複合施設)1,200計画撤回
岐阜県中津川市(新図書館)1,770事業中止
兵庫県明石市(再開発ビルへの整備)5,000(計画どおり整備の方向)
茨城県古河市(文化センター)13,000事業中止
長崎県五島市(新図書館)1,300計画中止
山梨県山梨市(新図書館)1,635(新設整備中止の方針)

 図書館単独施設ではなく、ホールやギャラリーなどとの複合施設として大規模な施設整備を計画していた事例や、自治体の財政規模に比較して多額な整備費と考えられるケースなど、「巨額な整備費」と批判された結果、計画の撤回や事業の中止となった事例も見られる。整備が実現した事例においても、施設規模の見直しなどにより整備費の縮減が図られている事例もある。

 次に、「建設地」が主な争点となった事例を確認する。表1に挙げた事例のうち、(3)、(10)、(12)、(13)、(19)などが該当する。図書館整備の必要性そのものは認めるものの、建設地が適切でないという批判と考えられる。前述の整備費に関する批判と関連した「用地取得費が高い」という批判や、利便性の高い場所を求める意見、逆に、交通量の多い地域を避けて安全な場所にという意見などが見られる。また、建設予定地が首長の利権に関わる土地であるという批判が出た事例もある。

 さらに、「事業の優先度」が争点となる事例も見られる。表1に挙げた事例のうち、(7)、(15)、(20)、(21)、(26)などが該当する。「図書館よりも別の施設を」という批判が出るもので、新図書館の整備計画を進める一方で、公立保育所の民営化を進めていた自治体において、子育て世代の住民から図書館整備に対して多くの反対意見が出された事例もある。また過疎化や高齢化の進展を背景とした福祉施設や医療施設等の整備を求める意見も根強い。

 

4.考察と課題

4.1 「整備費」に関する説明の必要性

 図書館整備に「反対」する意見として、多く見られるのが「高額な整備費」に関する批判である。確かに「数十億」という金額は、多くの住民には想像もつかない高額であり、「図書館にそんな大金を使うのか」という批判に直結することは首肯できる。しかし、その整備費用及び整備後の運営費を含めた経費が、住民にとって実際にどのくらいの負担になるのかについて、具体的に説明している事例は確認できない。

 例として、兵庫県伊丹市の新図書館整備を取り上げる。2007年に新図書館整備が計画された時点での設計費・工事費等の事業費は約27億円とされていた(4)。また、新図書館開館年次である2012年度の図書館費当初予算額は約2億6,000万円とされている(5)。単純な試算として、仮にこの費用で整備され、40年間運営されたとすると、40年間の総経費は131億円、1年間の経費としては3億2,750万円となる。伊丹市の人口は約20万人であるので、単純な試算では図書館整備・運営に係る市民1人当たりの負担額は年間1,600円余り、月額にすれば約140円となる。このような試算を提示することが、整備費に関する大きな批判に対して効果的な説明となる可能性を追求する必要があると考える。

 また、整備費という「インプット」に対する「効果(アウトカム)」を示すことも追求する必要がある。図書館整備を計画する自治体の説明資料や首長の会見での発言等を確認すると、「図書館は将来への投資」「住民の知的財産」といった抽象的な言葉により図書館の必要性を説明しているケースがあるが、このような説明が住民や議会に対して図書館への理解を高めることに結びついているとは考えにくい。

 保育所の整備については、近年、子どもの声や送迎の車に関連して近隣住民の理解が得られない、という事例が多く見られる。このような「迷惑施設」としての対応に加えて、保育所の整備にあたっては、一般に、1か所整備することにより待機児童が何人減少する、という具体的な数字により説明が行われており、その結果、保護者(主として母親)の就労機会が増大するという事業効果が推察され、その必要性についての理解を広めることにつなげている。このような、施設整備の「効果」に関する「わかりやすい説明」を考える必要がある。

4.2 課題

 今回の調査では、対象事例の収集にあたって新聞記事として報道された事例を対象としたが、事例の網羅的な収集方法としては疑義があり、さらに効果的な事例の収集について検討する必要がある。また、個別事例の分析については、福祉施設に関する「施設コンフリクト」研究における実践例(6)(7)や環境衛生施設をめぐる紛争事例、ホールなどの文化施設の整備事例などを参考に、その手法を検討する必要があると考える。

 図書館整備に対して「反対」という意志が表明される事象は、地方自治体の財政事情や住民の意識を考慮すると、今後もさらに発生することが考えられる。図書館への「理解」を求める方策を探るためにも、研究が必要と考えられる。

 

(1) 特集:終わりなき住民紛争~その根底にあるもの~.いんだすと.1998, (127), p. 1-51.
施設コンフリクト:差別がつくられる構造.ヒューマンライツ.1999, (136), p.4-25.
清水修二.NIMBYシンドローム考:迷惑施設の政治と経済.東京新聞出版局,1999, 283p.
特集:施設コンフリクト(摩擦)と自治体.晨.2000, 19(12), p. 10-32.
特集:“迷惑施設”のゆくえ.中央公論.2012, 127(5), p. 26-65
特集:NIMBYを考える.住民と自治.2013, (601), p. 8-29.

(2) 古川孝順[ほか]編.社会福祉施設-地域社会コンフリクト.誠信書房, 1993, 181p, (ソーシャル・リサーチ・シリーズ1).
高橋克紀ほか.迷惑施設の建設をめぐる住民の合意形成.月刊自治研.2003, (525), p. 62-70.
柳尚夫.精神障害者施設コンフリクトへの対応:大阪府池田市での事例をもとに.公衆衛生.2003, 67(5), p. 376-379.
大野裕介.「迷惑」とは何か:「迷惑施設」をめぐる運動を通して.現代の社会病理.2007, (22), p. 135-153.
野村恭代.精神障害者施設におけるコンフリクト・マネジメントの手法と実践:地域住民との合意形成に向けて.明石書店,2013, 254p.

(3) 中津川市.“新図書館建設事業”.
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(4) 伊丹市.“社会教育施設(新図書館)等整備基本計画(案)へのパブリックコメント”.
http://www.itami-library.jp/Sintopubcomkai.pdf [12], (参照2014-09-14).

(5) 伊丹市立図書館編.“図書館の経費”.図書館年報 平成24年度.2013,p. 18.

(6) 古川[ほか].前掲.

(7) 野村.前掲.

 

[受理:2014-11-18]

 


桑原芳哉. 図書館整備「反対運動」とその争点. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1834, p. 5-7.
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Kuwabara Yoshiya.
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カレントアウェアネス [7]
図書館事情 [14]
図書館経営 [8]
日本 [15]
公共図書館 [16]

CA1835 - デジタルアーカイブと利用条件 / 生貝直人

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カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1835

動向レビュー

 

デジタルアーカイブと利用条件

 

東京大学附属図書館新図書館計画推進室・大学院情報学環:生貝直人(いけがい なおと)

 

1:文化資源の保存、公開、その先に

 デジタルアーカイブは、何のために作るのだろうか。世界各国の図書館・美術館・博物館・文書館等の文化施設がデジタル化・公開する無数の文化資源デジタルアーカイブ、そして欧州連合(EU)のヨーロピアナ(参加文化施設数2,300超、登録データ数3,000万超)(1)、米国のDPLA(米国デジタル公共図書館、参加文化施設数1300超、登録データ数700万超)(2)をはじめとする統合的ポータルの第一義的な目的は、おそらく元来は物理的な条件に制約されていた無数の文化資源を、デジタル情報に媒体変換することで「保存」し、インターネットという手段を通じて世界中の人々に「公開」することであったものと考えられよう(3)。

 文化資源のデジタル保存は、記録媒体の物理的耐用年数という論点を一度脇に置けば、文化資源の継承においてきわめて高い価値を有する。東日本大震災で津波に消えた東北の無数の文化資源、あるいは倉庫の中で忘れ去られ、滅失されてきた数多の文化資源は、デジタル化されていさえすれば、少なくともその生命を永らえる方法を、もう一つは得ることができていたはずである。図書館等における一定の著作物複製保存を許容する著作権法31条1項、そして国立国会図書館の大規模なデジタル複製を許容する同2項などの法的措置は、文化資源の保存、そして継承という観点から、他分野の文化施設への適用範囲拡大や権利者補償のあり方を含め、改めて論じ直される余地があるだろう。

 文化資源デジタルアーカイブの「公開」も、また高い価値を有することは疑いようがない。現代の情報社会において、公的な文化施設を支える納税者の多くは、その文化的生活の基盤までをもデジタル空間に移しつつある。さらに日本の文化資源の包括的なデジタルアーカイブ公開は、2020年東京オリンピック・パラリンピックを期に日本に来訪する数千万人の外国人に加え、競技中継やインターネット情報を通じて日本に関心を持ってくれるであろう数十億人に対して、日本の文化を伝え、もてなすための、最も優先順位の高い「文化プログラム」として位置付けられるべきだろう(4)。

 しかし、デジタルアーカイブの価値は、文化資源の「保存」と「公開」のみにとどまるものではない。本稿で焦点を当てるのは、デジタルアーカイブの第三の価値、つまり文化資源の「利用」である。

 

2:デジタルアーカイブと文化資源の「利用」

 デジタルアーカイブを通じて、文化資源を「利用」するとは、どのような行為を指すのだろうか。おそらくは「閲覧」自体も広義の利用に含まれるであろうし、オンラインの文化資源情報を観光誘致などに利用することも重要な観点であるが、本稿が対象とするのは、そのデジタル化された画像や動画、音声、ひいては3Dデータ等、デジタル化された文化資源そのものの「再利用(re-use)」、あるいは「創造的利用(creative use)」である。前述したEUのヨーロピアナは、その登録された文化資源の質と量の両面において、きわめて大きな成功を得ていると評価できる。そしてヨーロピアナは、2014年の事業計画(5)において、公開のための「ポータル」から、再利用と新たな創作活動のための「プラットフォーム」に移行することを主要な課題として明示している(E1557参照 [18])。数千の文化施設における文化資源のデジタル化による「保存」、そしてヨーロピアナのような共通ポータルを通じた「(統合的)公開」の段階を経て、世界のデジタルアーカイブが目指そうとしている第三の段階が、文化資源の「利用」のためのプラットフォーム構築に他ならないのである。

 デジタル文化資源の利用促進のためには、さまざまな方途が考えられよう。例えば統計や地理情報といった公的情報のオープンデータの枠組みで重視される、再利用・アプリ開発コンテスト等の取組は、文化資源デジタルアーカイブの分野でも活発に行われている(6)。さらに専門的な情報技術を持たない一般の人々でも、一定の創作活動への参加が可能なキュレーション基盤の開発も各所で進められている(7)。文化資源を利用したデジタルコンテンツや出版物を作成・販売する営利企業との協働も不可欠となろうし、また近年MOOCs(大規模オンライン公開講座)やインターネット授業、研究活動等で多様なデジタル文化資源を必要とする大学・研究機関との連携も、きわめて優先順位の高い施策として検討が進められなければならない。

 

3:利用条件の問題

 そうした多様な再利用や創造的利用のための前提となるのが、そもそもその「利用条件」が、そうした多様な利用を認めるような条件として設定されているか否かという問題である。ヨーロピアナの事業計画が最も重視しているのもこの点であり、今後はクリエイティブ・コモンズ(Creative Commons, CC)ライセンス(8)をはじめとするパブリック・ライセンスが付与されたコンテンツを大幅に増加させていくものとしている。ヨーロピアナに登録されるデータの再利用条件の設定は、原則としてデータを公開・登録する各文化施設自身の判断に委ねられているが、すでに3,000万超のデータのうち700万以上は、何らかの形でパブリック・ライセンスが付されている。ヨーロピアナとしては、2014年度内においてこの数を1,100万件にするとして、大規模な「権利情報付与キャンペーン」を実施するなどの取組も進めている(9)。そもそもデジタルアーカイブとして公開される文化施設のデータは、利用条件が何ら付されていない場合が多いことは各国において同様の状況であり、2013年の同キャンペーンの開始時には、ヨーロピアナの登録データのうち、利用条件が存在しないものが半数を占めていたとされる(10)。パブリック・ライセンス等においても、その再利用の条件設定には、「一切の権利主張を行わない=CC0」(11)や「クレジット表記のみを求める=CC表示(BY, Attribution)」から、「改変を禁止する=CC改変禁止(ND, Non Derivative)」や「営利的な利用を禁止する=CC非営利(NC, Non Commercial)」などの多様な幅が存在しているが、いずれを採るにせよ、少なくとも再利用条件を一切示さないよりは、その文化資源の「利用」可能性を大きく増大させることだろう。

 言うまでもなく、幅広い再利用のためには、利用条件は幅広い再利用を許すものであることが必要であり、さらに利用者にとっての確認・理解の容易さ、ひいては利用条件同士の相互互換性という観点からも、可能な限り制約の少ない、共通化された利用条件のフォーマットを用いることが望ましい。特にサービス連携などで多様な再利用が不可欠となるメタデータ(書誌情報や作品の基礎データ等)については、少なくとも日本の法制度においては、多くの場合そもそも著作権等の法的権利自体が発生する余地が少ない。しかし提供元文化施設の利用規約などにおいて再利用の制約が課されていることが見受けられること、さらに多様な提供元からのデータを組み合わせて使用するたびに提供元のクレジットを表記することが現実的でないなどの観点から、ヨーロピアナにおいても米DPLAにおいても、参加する文化施設に対して原則として全てのメタデータをCC0、すなわち一切の権利主張を行わないという条件で提供することを求めている(12)。

 

4:利用条件に関わる制度的枠組

 このような文化資源デジタルアーカイブにおける、パブリック・ライセンスの適用や完全な権利放棄の国際的潮流は、近年世界各国で急速に進展するもう一つの政策的イニシアティブ、つまり「オープンデータ」、あるいは「オープンアクセス」に関わる施策の影響を強く受けたものである。オープンデータやオープンアクセスについての優れた論考は既に日本語でも多く存在するのでここでは詳述しないが、その基本的な考え方は、「公の原資によって作成された情報は公のものであり、著作権等による制約なく、誰もが自由に再利用可能とするべきである」と要約することができるだろう。オープンアクセスという表現は、主として学術論文やその関連データなどの公開・再利用促進を目指した一連の国際的活動の総称である。米国では一部の公的助成金によって作成された論文やデータの無償での公開を義務づける連邦法が通過しており、日本でも科学技術振興機構等が徐々にその検討を進めつつある(13)。しかしそれ以上にオープンアクセスは、研究者や学術コミュニティ自身の自律的なイニシアティブで進展している部分が大きい。例えば近年各国で拡大する大学レポジトリでの研究成果の公開等は、研究者コミュニティの自主規制、ないしは大枠の公的要請を受けた自主的な施策としての「共同規制(co-regulation)」として進められてきたと理解できる(14)。

 オープンデータに関しても基本的な状況は同様であるものの、近代的国家が成立した当初から、公的な情報の公開性確保は憲法をはじめとする法律により、強くあるいはより広く規範的に要請されてきた原則であることは論を俟たない。しかし公文書館などの文脈で論じられてきた「保存」の問題、あるいは情報公開法制そしてインターネットなどの影響を受けた「公開」の問題を超えた「再利用」に関しては、その制度的対応は各国において未だ緒につきはじめた段階である。オープンデータの鏑矢である米国オバマ政権の施策も、当初は大統領令に基づく、いわば行政府の自主規制・共同規制と言うべきものであった。また日本の「電子行政オープンデータ戦略」などに基づいて進められるdata.go.jpサイトの開設、あるいは各自治体の活発な施策には、広範・明確な立法措置などが存在するわけではなく、まさしく国・地方における行政機関の自主規制であると理解できる。オープンアクセス、オープンデータいずれも、利用条件の緩和や共通化は、今後の最大の焦点であると言うことができるだろう。

 一方で世界各国を見れば、オープンデータに関わる利用条件の緩和は、徐々により明示的な法的義務、いわば直接規制の方向に進もうとしていることを見て取ることができる。2003年に採択されたEUのオープンデータ政策の基盤法制である「公共セクター情報の再利用指令」(15)は、再利用条件を定める際の非差別性や低廉性こそ義務づけていたものの、その当初は公共情報の再利用可否の判断自体は各国の国内法・手続に委ねられていた。それが2013年の同指令の大幅改正(16)により、各国の公的機関は、第三者の権利や国防などの特段の理由などが無い限り、公開された公的情報は原則として再利用可能としなければならないことが定められた。同改正で最も着目すべき点は、改正前は対象外であった公的な文化施設が、他の公的機関と同様に同指令の適用対象とされたことである。同指令の国内法化に伴い、ヨーロピアナに集積されるEUの文化資源デジタルアーカイブの利用条件は、大幅に再利用を許すものへと緩和されていくことが予想される。

 

5:利用条件自由化と文化施設の特異性

 図書館や美術館、博物館、文書館のような文化施設、あるいは教育・研究機関であれ、その機関が公的な原資、税金によって運営されているのであれば、オープンデータの文脈からは他の行政機関と区別すべき理由はなく、同等の再利用が可能な利用条件設定を義務付けるべきであろう。2013年のEU指令改正・拡大は、そのような観点から行われたものだと理解することができる。しかし一方、デジタルアーカイブの主な担い手である公的な文化施設には、多くの点で他の公的機関とは異なる部分があることにも留意されなければならない。以下、いくつかの観点からの文化施設・デジタルアーカイブの特異性についての検討を行いたい。

 第一に、そのアーカイブに含まれる作品の「第三者性」を挙げることができる。著作権保護期間が満了しているものを含め、文化施設が保有・所蔵する作品は、基本的に全て第三者が創造したものである。第三者が著作権等の権利を保有する文化資源を無断で再利用可能とすることの不可能性は言及するまでもない。さらに美術館・博物館等が所蔵する作品の中には、外部の篤志家から寄贈された、あるいは寄託・貸与されたものがきわめて多く含まれている。法や契約に定めがある場合を除外したとしても、第三者が創作・購入・保存した作品を、デジタル化したアーカイブだからとは言え、文化施設の判断で「自由な再利用」を認める利用条件を設定することには、一定の心理的障壁も存在しよう。これらの点は、基本的に職員自ら(および企業等への外部委託により)作成した情報資源を保有する通常の公的機関とは異なり、公的文化施設への統一的基準の義務付けを困難とする要因として理解する必要がある(17)。一方でその作品のメタデータについては、各文化施設の職員等が自ら作成する場合が多く、ヨーロピアナやDPLAが参加文化施設に完全な自由利用を認めるよう求めていることは妥当であろう。

 さらにこの点に関連して、日本でCC-BYを全面的に採用している大規模文化資源デジタルアーカイブの稀有な例に、京都府立総合資料館「東寺百合文書WEB」(18)が存在する。この文書自体は無論、同館自身が作成したものではないが、東寺百合文書という文化資源自体が公的性質を強く帯びたものであり、そして文書の作成時期は「8世紀から18世紀までの約1千年間」というものである(19)。今後利用条件の緩和・共通化を検討する際には、こうした文化資源自体の性質や、作成されてからの時間的経過という要素をも考慮する必要があるだろう。

 第二に、文化施設の運営原資の問題がある。文化施設の建設・維持・運営には多額の資金を要し、公的な文化施設の場合にはその大部分は公的な予算によって賄われているが、日本の文化予算の相対的な少なさという観点からしても、公費のみによって充実した運営を行うことには限界がある。日本においては、完全な対価無償を原則とする図書館法17条と異なり、博物館法23条では「…但し、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる。」と定められ、公的な美術館・博物館は同条を根拠として一定の入場料等を得ている。公的な文化施設の利用対価徴収には賛否も存在しようが、そうした自主財源確保のための努力こそが、運営の多様性と活発性を担保すると同時に、キュレーションという表現行為の国家権力からの距離を可能ならしめていると考えるべき面も存在しよう。

 それら公的な文化施設が提供するデジタルアーカイブに関しても、同様の議論は不可欠のはずである。ヨーロピアナに参加する文化施設においても、パブリック・ライセンスの付与は拡大してきている一方、現在も原則的には「非営利利用や学術利用は無償だが、営利利用については一定の許諾や対価を要する」としている場合が多く存在する模様である。前述したEU指令においても、同種の利用行為間での利用条件差別を行うことは許されないが、利用カテゴリごとの区別、すなわち商用利用か非商用利用かなどで利用条件を区別することは許容される(20)。さらに2013年の改正後においても、新たに対象に含まれた文化施設に関しては、通常の公的機関では原則として許容されないデジタルデータの利用に関わる営利企業等との排他的契約について、期間の限定等を条件とした一定の例外規定が適用されている(21)。文化資源のデジタル化には、特に大規模・高精細データ作成を中心に多額の予算が必要となるため、デジタル化事業を進める上で、営利企業との共同事業を阻害しないという配慮の元に設けられた規定だと理解できるだろう。

 

6:利用条件緩和の肯定的な側面

 一方で文化資源デジタルアーカイブには、その利用条件を自由とするべき、「文化施設独自の理由」も多く存在する。第一に、社会から支払われる、公的文化予算への「価値還元」の問題である。日本の文化予算はGDP比で見れば相対的に多いものではなく、2012年時点でフランスの約1.06%、韓国の約0.87%にも遠く及ばない、0.11%程度の状況である(22)。日本のデジタルアーカイブを世界に伍するものとしていくためには、この比率を少しずつでも増加させていくための努力は不可欠となろう。しかし同時に、デジタルアーカイブへの公的投資は、原理上、何らかの形でのその投資への還元が求められて然るべきである。広く社会一般、そして研究・教育機関やNPO等での利用の重要性は言う間でもなく、特に営利企業のウェブサービス・アプリケーションやメディアでの利用は、高い経済的価値を社会全体にもたらす可能性がある。直接的には経済的価値を生み出し難いデジタルアーカイブ構築に対する理解と支援を受けるためにも、その利用条件は、営利を含めた幅広い利用を許す、CC-BY程度のものでなければならないだろう。

 第二に、そもそもの利用条件の「有効性」の問題がある。前述の通り、文化施設が保有する作品は原則として全て第三者が創造したものであり、デジタルアーカイブで公開されるのは、著作権者の許諾を得た、あるいは著作権保護期間が満了するなどして、法的問題が解消された作品である。前者については著作権者との契約内容により状況は異なるが、少なくとも後者の著作権保護期間満了後の作品に関しては、文化施設は原則として物理的な所有権以外の権利を何ら有さない。それを撮影した「写真」については、立体物の作品であれば構図や光量の選択等の創作性によって「撮影者(ここでは文化施設自身)の著作権」が発生する可能性がある一方、平面の作品の写真については、撮影者の著作権が発生する余地はきわめて少ない。CC等のライセンスは、著作権者が自らの著作物の利用条件を明示するためのものであり、保護される著作物としての性質を有さない作品写真等へ付与することの法的な意味は、原則として存在しない(23)。ただし、多くの文化施設のアーカイブには、立体物・平面物を含め多くの作品写真、ならびに文化施設の職員が作成した(著作物性を有しうる)作品解説等が混在している。さらに、アーカイブに掲載された作品写真や解説等が、著作物としての保護対象となるか否かの判断自体が困難である場合も多い。一般利用者にとっての利用条件の理解し易さや、海外の利用者への配慮を含め、世界各国の言語で確認可能なCCライセンス等を、個別の作品画像に、あるいはアーカイブ全体に一括で付与することの価値は存在すると言うことができる。

 さらに別の論点として、国内外を問わず一部の文化施設では、元の作品の著作権保護期間が満了しており、さらに作品画像等の著作物性が認めがたい場合にも、ウェブサイトの利用規約等によって「再利用禁止」あるいは「営利的な利用には申請・許可を要する」などの文言を付していることが見受けられる。このような利用規約の是非については未だ議論が存在するところだが(24)、単にウェブサイトの利用規約に記述しただけの利用制限に、法的な有効性が生じる余地は少ない(25)。近年になるまで、情報メディア等への掲載を除けば、文化施設のデジタル画像が広く「利用」可能性の問題になることは多くなかった。しかし今後デジタルアーカイブの多様な利用に基づく価値創出を推進する際には、こうした公的な文化施設における、著作権以外の利用制限の見直しは不可欠となることだろう。

 第三に、何よりも「文化施設自体が、第三者の作品を利用する主体である」という問題がある。図書館・美術館・博物館・文書館をはじめとする公的な文化施設は、さまざまな主体が創造・流通に携わった作品を収集し、広く利用者に提供することをその責務としてきた。今後のデジタルアーカイブの拡大は、その収集や提供という言葉の意味するところを、デジタルによる収集、そしてインターネットを通じた提供へと変容させていくことに他ならない。2013年6月に生じた、国立国会図書館近代デジタルライブラリーにおける「大正新脩大蔵経」公開停止問題は、そのような文化施設の役割に対して新たな課題を突き付けるものであった。当該問題についてはすでに多くの論考が出されているが(26)、端的に言えば「著作権保護期間が満了していたとしても、その作品から利益を得るなどしている主体が存在する場合に、公的文化施設が無償のデジタルアーカイブで提供することの是非」についての議論を広く喚起した問題であったと言うことができる。

 文化施設は常に、他の誰かが労力を払い創造・流通させた文化資源を「保存」し、少なくとも著作権保護期間が満了している場合には「公開」し、「利用」することを必要とする。そのような文化施設自身が、「他者が創造・流通させた作品は自由に使わせて欲しいが、自らが所蔵し、デジタル化した作品は自由に使うことを許さない」という利用条件を定めることの論理的整合性は、果たして擁護可能なのであろうか。この点において、外形的には別の事象ではあるが、2014年5月に、国立国会図書館のウェブサイトに掲載されるコンテンツのうち、国立国会図書館デジタルコレクションまたは近代デジタルライブラリーの著作権保護期間満了書籍等の利用条件が大幅に緩和されたことは(27)、利用条件に関わる文化施設の論理一貫性が実現された事例として理解するべき側面を有しよう。

 

7:最後に、利用者として

 いささか社会科学的ではない表現を用いるが、デジタルアーカイブで公開される無数の文化資源の中の一つの作品、一冊の書籍には、その創造・流通、収集・保存、そしてデジタル化・公開に携わった人々の思い、労苦、人格が込められている。著作権の保護や契約による定めが存在せず、あるいはその利用条件に法的な有効性が認め難かったとしても、我々利用者としては、その作品を「利用」する際には、少なくとも自主的に、創作者・流通・公開に携わった人々についての適切な出典表記、Attributionを付すべきではないだろうか。そのような文化資源に対する尊重の社会的規範の育成こそが、デジタルアーカイブの利用条件をより自由なものとしていくというのが、筆者の考えである。

 

(1) Europeana Annual Report and Accounts 2013. Europeana Foundation, 2013, 47 p.
http://pro.europeana.eu/documents/858566/af0f9ec1-793f-418a-bd28-ac422096088a [19], (accessed 2014-11-17).

(2) Digital Public Library of America Celebrates Its First Birthday with the Arrival of Six New Partners, Over 7 Million Items, and a Growing Community.
http://dp.la/info/2014/04/17/dpla-1st-birthday-announcement/ [20], (accessed 2014-11-17).

(3) ヨーロピアナ・DPLAをはじめとする各国の世界各国のデジタルアーカイブと基盤法制の詳細については以下を参照。
生貝直人. オープンデータと図書館—最新の海外事例と動向. びぶろす-Biblos. 2014, (65).
http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/2014/7/01.html [21], (参照 2014-11-17).

(4) 「なぜ」ヨーロピアナのような包括的なデジタルアーカイブを日本が作る必要があるかの詳細については以下を参照。
生貝直人. なぜ、日本版ヨーロピアナが必要なのか?. 人文情報学月報DHM. (38), 2014.
http://www.dhii.jp/DHM/ [22], (参照 2014-11-17).

(5) Europeana Business Plan 2014.
http://pro.europeana.eu/documents/900548/f19cc4ff-56a3-422c-83d9-f156ecc9b4ca [23], (accessed 2014-11-17).

(6) ヨーロピアナの主催するEuropeana Creative Challenge
(http://pro.europeana.eu/web/europeana-creative/challenges [24])の他、国内では横浜オープンデータソリューション発展委員会(http://yokohamaopendata.jp [25])の主宰するハッカソンやアイディアソン等の取組を参照。

(7) Google Cultural Institute
(https://www.google.com/culturalinstitute/home [26])が提供する「マイギャラリー」機能等を参照。

(8) Creative Commons Japan.
https://creativecommons.jp [27], (参照 2014-11-17).

(9) Daley, Bay. "Europeana Launches Rights Labelling Campaign". Europeana Professionl. 2013-1-24.
http://pro.europeana.eu/web/guest/pro-blog/-/blogs/1494947 [28], (accessed 2014-11-17).

(10) Pekel, Joris "Rights Labelling Campaign reaches its final phase". Europeana Professionl. 2014-5-22.
http://pro.europeana.eu/pro-blog/-/blogs/rights-labelling-campaign-reaches-its-final-phase [29], (accessed 2014-11-17).

(11) "CC0 1.0 Universal (CC0 1.0) Public Domain Dedication". Creative Commons.
http://creativecommons.org/publicdomain/zero/1.0/ [30], (accessed 2014-11-17).

(12) ヨーロピアナと参加文化施設の間で結ばれる以下を参照。
"Data Exchange Agreement". Europeana.
http://pro.europeana.eu/data-exchange-agreement [31], (accessed 2014-11-17).

(13) オープンアクセスに関わる近年の国内外の動向については、
林和弘. 新しい局面を迎えたオープンアクセスと日本のオープンアクセス義務化に向けて. 科学技術動向. 2014, (142), p. 25-31.
http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-STT142-25.pdf [32], (accessed 2014-11-17)
に詳しい。

(14) 自主規制と共同規制、そして直接規制の区分と各分野の政策的実践については、
生貝直人. 情報社会と共同規制—インターネット政策の国際比較制度研究.勁草書房, 2011, 226 p.を参照。

(15) "Directive on the re-use of public sector information, 2003/98/EC". The European Parliament and the Council of the European Union.
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32003L0098&rid=26 [33], (accessed 2014-11-17).

(16) "Directive 2013/37/EU amending Directive 2003/98/EC on the re-use of public sector information". The European Parliament and the Council of the European Union.
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32013L0037&qid=1415875599455 [34], (accessed 2014-11-17).

(17) この点につき、日本の著作権法60条では、著作者の死後においても、原則として、著作者人格権の侵害となるような行為をしてはならないと定められている点にも留意を要する。

(18) “府立総合資料館 東寺百合文書WEB”.
http://hyakugo.kyoto.jp/ [35], (参照 2014-11-17).

(19) この点、少なくとも日本においては、著作者人格権や(遺族への影響を含めた)プライバシー権をはじめとする人格権の終期が必ずしも明確でないという点にも留意を要する。

(20) 前掲2003/98/EC、前文19を参照。

(21) 前掲2013/37/EU、11条を参照。

(22) 2012年時点の数値として以下を参照。
文化庁. “文化芸術関連データ集”.
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/seisaku/11_03/pdf/kijyo_2.pdf [36], (参照 2014-11-17).

(23) 特にCC各ライセンスの証書に記載される「あなたは、資料の中でパブリック・ドメインに属している部分に関して、あるいはあなたの利用が著作権法上の権利制限規定にもとづく場合には、ライセンスの規定に従う必要はありません。」という表記、ならびに利用許諾本文(CC-BY 日本2.1では10条)の「第2条 著作権等に対する制限」を参照。
"Creative Commons 表示 2.1 日本(CC BY 2.1 JP)". Creative Commons.
http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/deed.ja [37], (参照2014-11-17).

(24) 同種の契約等についての裁判例は国内外を問わずきわめて限られているのが現状であるが、米国においてパブリック・ドメイン作品画像の利用者が、利用制限の無効を求めて訴えを提起した事例(和解で終了)として
Schwartz v. Berkeley Historical Society, No. C05-01551 JCS (N.D. Cal. Apr. 15,2005).
解説として
Mazzone, Jason. Copyfraud. New York University Law Review.2006, (86), p. 1055-1057.
http://www.nyulawreview.org/sites/default/files/pdf/NYULawReview-81-3-Mazzone.pdf [38], (accessed 2014-11-17).
等を参照。

(25) ウェブサイトに記述されているのみの利用規約の有効性については、以下を参照。
経済産業省. 電子商取引及び情報財取引等に関する準則. 2014年8月改訂版, p. 22-23.
http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140808003/20140808003-3.pdf [39], (参照 2014-11-17).

(26) 大蔵経問題については、例えば『DHjp No.3 デジタルデータと著作権』(勉誠出版、2014)所収各論文に、その経緯と反響が詳説されている。

(27) “2014年5月1日 国立国会図書館ウェブサイトからのコンテンツの転載手続が簡便になりました”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2014/1205460_1829.html [40], (参照 2014-11-17).

 

[受理:2014-11-18]

 


生貝直人. デジタルアーカイブと利用条件. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1835, p. 8-12.
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Naoto Ikegai.
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クリエイティブ・コモンズ 表示2.1

 本著作(CA1835)はクリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。ライセンスの内容を知りたい方はhttp://creativecommons.org/licenses/ by/2.1/jp/ [42] でご確認ください。

  • 参照(9171)
カレントアウェアネス [7]
動向レビュー [43]
オープンアクセス [44]
オープンデータ [45]
著作権 [46]
デジタルアーカイブ [47]
LC(米国議会図書館) [48]

CA1836 - CrossRefの動向 revisited / 長屋 俊

PDFファイルはこちら [49]

カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1836

動向レビュー

 

CrossRefの動向 revisited

日本原子力研究開発機構 研究連携成果展開部:長屋 俊(ながや しゅん)

 

1. はじめに

 電子ジャーナルをはじめとした電子情報資源を相互にリンクするとともにリンク切れを回避するための解決モデルとしてDOI(Digital Object Identifier)というデジタル識別子の仕組みが考案(1)され、CrossRefにおいて2000年6月にDOIシステムは稼働を開始した(2)。識別子は各種データベースのメタデータを横断的に統合し、相互運用性を担保する連携機能を持つことから、ウェブ上の学術コンテンツの増加、多様化などを背景にますます注目が集まっている(E1621 [50]参照)。CrossRef(3)はDOIの登録機関(Registration Agency:RA)としての役割を中核に据えながら、DOI登録や付随した検索サービスのみならずDOI登録の際に収集したメタデータ・データベース(MetaData DataBase:MDDB)(4)を活用したサービスを順次拡大している。尾城の「CrossRefをめぐる動向」(CA1481 [51] 参照)ではDOIの仕組みや2002年時点でのCrossRefをめぐる動向をまとめているため、本稿ではその後のDOIの動向を踏まえつつCrossRefがリリースした各種サービスを中心に紹介したい(5)。

 

2. Digital Object Identifier

 DOIは2012年にISOに認定された(ISO26324:2012)(6)。デジタルオブジェクト識別子と訳されるが意味としては“identifier of a digital object”ではなく“digital identifier of an object”である(7)。すなわちデジタルオブジェクトの識別子ではなく、オブジェクトのデジタル識別子、という意味でありDOIの付与対象はデジタルオブジェクトに限定されるわけではない。本章ではDOIの機能及び運営組織、デジタル識別子Handle(8)との関連について述べる。

 

2.1 DOIの機能

 DOIは図のようなprefixとsuffixという文字列で構成されている。

 

次のキャプションに説明あり
図 prefixとsuffix

 

 prefixはRAが各コンテンツプロバイダーに発行するDOI登録者番号である。suffixについてはDOI登録者側で各コンテンツに対して任意の番号を付与できるがユニークであることが求められる(9)。また、DOIはウェブ上のデジタル識別子としての機能を備えている。それはDOIと学術コンテンツのアドレスであるURLを紐付ける機能である。たとえば、図のアドレスをブラウザに入力するとDOIのリゾルバサーバ側で実際のアドレスであるURLへと利用者をリダイレクトしてくれる(10)。また、DOI登録者側ではURLの変更に合わせてDOIとの紐付情報を更新することが義務とされている。リンク未解決の発生を防ぐことでウェブ上のデジタル識別子としての質の高さを保つための運用ルールである。

 

2.2 IDF、DOI、RA、CrossRef

 DOIシステムは非営利組織であるIDF(International DOI Foundation)(11)によって運営されている。IDFにDOI登録機関として認定されているCrossRefなどのRAを通じてprefixの発行が行われている。prefixを取得した出版社や学協会などはRAを通じてDOIを付与することができる。

 CrossRefは英オックスフォードと米マサチューセッツにオフィスを持ち24人のスタッフがいる(12)。IDF全体でDOIの登録件数が1億件を突破(13)しているが、全体の約7割にあたる約6,900万件がCrossRefが発行したCrossRef DOIであり、RAの中でも最大のDOI発行機関である。なお、CrossRefへの参加機関は9,874機関である(14)。

 

2.3 HandleとDOI

 非営利組織であるCNRI(Corporation for National Research Initiatives)(15)が提供するデジタル識別子であるHandleを機関リポジトリ用コンテンツに付与するケースがある。DOIのシステムはHandleシステムを利用したものであり、HandleとDOIはデジタル識別子として同等の機能を持つ。さらに、DOIシステムに登録したDOIはHandleシステム側に登録されるなどデータ連携が行われている(16)。

 

2.4 JaLC

 国立国会図書館とJST、NII、NIMSによる共同運営で発足したJaLC(Japan Link Center)(17)が2012年3月15日に日本初のRAとして認定される(18)など、現在ではCrossRefを含む9つのRAがそれぞれの運営方針でサービスを展開している(19)。RAによって提供するサービスやDOI付与対象とするコンテンツなどのポリシーが異なる(20)。たとえばCrossRefでは機関リポジトリのコンテンツはDOI付与対象としていないが(21)、JaLCでは機関リポジトリのコンテンツへのDOI付与を準備(22) (23)しているため今後、機関リポジトリ用コンテンツにJaLC DOIを付与するという選択肢が増えることになる。HandleではなくJaLC DOIの付与を選択した場合、RAとしてのJaLCのサービスを受けられるというメリットがある。

 学術情報流通に関するステークホルダーという観点からみると、CrossRef運営には出版関係者が大部分を占めていることに気がつく(24)。JaLCでは共同運営となる4機関をみても図書館関係者の関与する割合が大きい。JaLCにはCrossRefとは異なる視点を持ったRAとしての展開を期待したい。

 

3. CrossRef発サービス

 CrossRefは様々なサービスを展開している。本章では代表的ないくつかを紹介する。

 

3.1 Cited-by Linking

 Forward Linkingという名称ではじまったCited-by Linkingは論文の引用・被引用文献情報を提供するサービスである(25)。JSTが提供するJ-STAGEでは、論文詳細ページにおいてその論文が引用している論文、また、刊行後に当該論文を引用している論文へのリンクを提供する機能でこのサービスを利用している(26)。PLOS ONEでは論文ごとにAltmericsや引用数の算出などの指標を表示しているが、引用数においてCited-by Linkingを利用している(27)。追加料金を必要としないオプションサービスだが、このサービスを利用する際には自らの登録コンテンツの引用文献情報のメタデータを追加登録することが求められる(28)。現在では240以上の出版社が参加し15,000以上の刊行物のタイトルが登録されている。最低でも一度は引用として参照されている論文はCrossRef全体のDOIの件数である約6,900万件のうち4割を占める約2,700万件あり、引用件数を合計すると4億件にもなる巨大な引用情報のリンク・ネットワークとなる。複数の出版社が参加するCrossRefならではのスケールメリットを得ることができるサービスである。

 

3.2 CrossCheck

 CrossCheck(29)は対象となる論文において剽窃の可能性がある文章を検出するサービスである(30)。iParadigms社(CA1567 [52] 参照)が提供するiThenticate(31)というサービスをベースに2007年8月よりパイロットプロジェクトを開始、2008年6月より正式版サービスの提供を開始した。剽窃有無をチェックする論文をCrossCheckに送信しCrossCheck側で保有する文書群(32)とテキストマッチングし、CrossCheck側で類似度の高い文書をレポートとして表示する(33)。

 JSTのJ-STAGEを通じてCrossCheckを利用することも可能であり(34)、さらに論文投稿システムであるEditorial ManagerやScholar One ManuscriptsとCrossCheckは連携機能を持つ。また、CrossCheckで剽窃チェックを行った論文は刊行後に本文テキストデータをCrossCheck側で収集しテキストマッチングの文書として利用される仕組みである(35)。Cited-by Linkingと同様、スケールメリットを得ることができるサービスである。

 

3.3 CrossMark

 学術コンテンツの更新状態、正誤表の有無などを確認し最新の版情報を確認できるサービスがCrossMark(36)である。2011年にはパイロット版サービスとして提供が始まり、2012年4月には正式版サービスの提供が始まった。サービス開始当初は5機関(Elsevier, Oxford University Press, The Royal Society, Vilnius Gediminas Technical University, Wiley-Blackwell)が参加していたが、2014年10月現在48機関が参加し参加機関はCrossMark用のメタデータをCrossRefに提供している(37)。論文htmlやPDFに表示されるCrossMarkのロゴをクリックすると、書誌事項とともに論文の更新状態や査読の有無、刊行日付などといった情報が表示されるため(38)、その論文htmlやPDFが最新版でなければ最新版へアクセスすることが可能である。また、CrossMarkロゴを表示すること自体が利用者に対し、出版社側での適切な管理下にあることを示すことにもなる。

 

3.4 FundRef

 助成機関の助成による研究成果を追跡できる仕組みとしてFundRefが作られた(E1450 [53]参照)。2012年3月から2013年2月までパイロットプロジェクトを行い,2013年5月に正式版サービスの提供が開始された。Elsevier社のSciVal Fundingを元にした4,000件の助成機関のリストが提供されプロジェクトが進められた(39)。論文投稿システムでの論文投稿時に助成機関リストを用いた入力支援を行うことで、入力済みデータの名寄せ作業ではなく入力時の助成機関の名寄せを実現することで名寄せ作業を進めることができるようになった。他サービスとの連携も進められていて、米国大統領府科学技術政策局による指令(OSTP覚書)(40)を受けて開発が始まったCHORUS(Clearinghouse for the Open Research of the United States)ではFundRefの仕組みを十分に活用しパイロット版サービスの短期間での開発が可能となった。

 

3.5 CrossRef Text and Data Mining

 研究や成果分析の観点から学術コンテンツに関するテキスト・データ・マイニングへの需要が高まっている。パイロット版サービスであるProspectを経てCrossRef Text and Data Mining(TDM)として2014年5月28日から正式版サービスの提供が始まった(41)。従来、論文の全文を分析するためには、たとえば、出版社と交渉しデータを用意してもらう、あるいはWebページごとにスクレイピングによりデータを抜き出すといった方法しかなかったが、CrossRef TDMではシステマティックな手続きで論文の全文テキストデータを入手できる。CrossRef TDMではMDDBから必要な形式でデータを取得できるContent Negotiation(42)を活用し、さらにORCID(Open Researcher and Contributor ID)のシングルサインオンを利用してユーザー認証を行う(43)など外部サービスも含めた既存の仕組みを最大限活用する形で実現している。各出版社側では事前にデータマイニング用のテキストデータを登録しデータ提供を行う(44)。

 

4. 様々な連携

 CrossRefが保有するメタデータは様々な連携の可能性を持つ。本章では連携事例の一部と連携を支える仕組みを紹介したい。

 

4.1 データプロバイダとしてのCrossRef

 CrossRefではDOI番号を利用したリダイレクトによるアドレス解決だけではなく、DOI番号を用いた書誌情報入手、逆に書誌情報を用いたDOI番号検索ができる。たとえば、ある論文の書誌情報を用いて論文のフルテキストを閲覧可能なアドレスを入手する、という書誌情報とフルテキストへのURLというミッシングリンクをつなげることが可能である。方法は後述の通りいくつかあるが、たとえば書誌情報をURLに埋め込むOpenURLという仕組み(ANSI/NISO Z39.88-2004、CA1482 [54] 参照)を利用してDOIに付随した書誌情報を検索結果として得ることができる(45)。SFXなどのリンクリゾルバでOpenURLにて受け取った書誌情報をCrossRefサーバに問い合わせ、不足している書誌情報を埋めることでリンクリゾルバにおける書誌同定の際の補助として利用している(46) (47)。

 このようにCrossRefではメタデータを機械可読可能な形式で提供しているため、システム連携などでデータをフル活用することが可能である。前述のOpenURL、あるいはWeb APIとしてhttp GETリクエスト(48)、CrossRef Metadata Services(49)ではFTPとOAI-PMHでのデータハーベストが可能であり(50)、CrossRef Metadata Search(CMS)(51)やFundRef Search(52)に付随した個別のWeb API(53) (54)もある。CrossRef TDMでも利用しているContent Negotiationも用意されているため最適なデータ形式を指定して取得することも可能である。さらにCrossRef REST API(55)ではより詳細な情報の取得が可能である。

 

4.2 ORCID

 CrossRefでは次の展開への布石として研究者や貢献者の識別子であるContributor IDを構想してきた。CrossRefを始めとした関係者が参画し2012年10月にORCIDは著者名典拠サービスをリリースした(CA1740 [55] 参照)。登録者数は約90万人に達している。ORCIDでは研究者ディレクトリとして自らの研究業績や研究助成などの情報を登録可能であり、FundRef Search や CMS の検索結果に表示された助成機関情報やDOI付与された論文情報をワンクリックでORCIDに取り込める。現在、ORCIDに研究業績として登録されている論文のDOI付与率は約4割程度となっている(56)。また、CrossRefのディレクターでもあるペンツ(Ed Pentz)がORCIDの代表を務めている(57)ことからも、CrossRefとORCIDの協働は今後も進むだろう。

 

4.3 実験空間としてのCrossRef Labs

 CrossRef Labs(58)では、正式版の一歩手前の試験的なツールやサービスが公開されている。たとえば、TOI DOI(59)はCrossRef DOIのprefixとsuffixを短縮しURL全体を短縮化するツールである。現在ではIDF公式のshortDOI(60)というサービスとして提供されているためCrossRef DOIに限らず利用可能である。また、DOIから引用特許を検索するPatentCite(61)というサービスはCrossRef Labsでの公開後、CMSの機能の一部として統合され正式公開された。PubMedでの論文IDでもあるPMIDとDOIのマッピングや(62)、最近ではRAのひとつでもあるDataCite(63)やPANGAEA(64)などの研究データとのリンクを同定しCrossRef REST APIで利用できるようにした実験的なプロジェクトも進められている。後者のサービス提供において小型基盤ラズベリーパイ(65)をサーバとしてサービス稼働していることから(66) CrossRef Labsがテクノロジーセントリックかつ自由な一面を持ったプロジェクトである様子が垣間見え、CrossRef自身がウェブサービスに対する柔軟な開発力を持つ組織であることが推察される(67)。

 

5. おわりに

 CrossRefにとってデジタル識別子としてのDOIとメタデータはいわば車の両輪のような存在である。CrossRefは学術情報流通における識別子が持つ可能性を実際のサービスという形で具現化しつつ展開すると同時に、収集するメタデータの種類を広げてきた。具体的には、DOI発行時にメタデータを集めることで新しいサービスの可能性を拓き、それらがCrossRef参加機関の増加につながりDOI付与が進みメタデータもさらに集まる、という良い循環の中でその存在感を示してきた。また、Linked Open Dataといった動き(CA1746 [56]、CA1825 [57] 参照)も活発であり、識別子を保有する機械可読なオープンデータが増加することで識別子がつながる可能性が高くなる。識別子がつながるとはすなわち、識別子に紐付いたメタデータがつながることを意味する(68)。こうしたメタデータのエンリッチメントの連鎖の先に新しいサービスの可能性が広がっている。この流れの中で識別子活用のノウハウもメタデータも持つCrossRefはキープレイヤーであり続けるだろう。

 

(※参照URLの最終確認日はすべて2014年11月11日)

(1) 著者注:ファイルダウンロード後、 Word形式で開くことができる。
Digital Library Federation Architecture Committee, CHOOSING THE APPROPRIATE COPY(1999)
http://www.doi.org/mail-archive/ref-link/bin00000.bin [58], (via http://www.doi.org/mail-archive/ref-link/msg00060.html [59]).
DOIシステムへと至るまでの解説は下記に詳しい。
時実象一[訳], CrossRef誕生小史(翻訳). 情報の科学と技術. 2010, 60(7), p. 289-295.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007657990 [60].
CrossRef 誕生小史(日本語翻訳版)
http://www.crossref.org/08downloads/CrossRef10Years_Ja.pdf [61].

(2) "history/mission". CrossRef. 2011-03-24.
http://www.crossref.org/01company/02history.html [62].

(3) CrossRefの運営は出版社国際リンキング連盟(PILA:Publishers International Linking Association, Inc)という非営利組織による。
"Contact/Directions". CrossRef. 2011-11-21.
http://www.crossref.org/01company/03contact.html [63].

(4) MDDBについては「CrossRef Deposit Schema v.4.3」(2014年10月現在)を参照していただきたい。
CrossRef. "CrossRef Deposit Schema". CrossRef Support.
http://help.crossref.org/deposit_schema [64].

(5) CrossRefに関する記事は下記のサイトにまとめられている。
“in the news“ Crossref.
http://www.crossref.org/01company/13inthenews.html [65].
2002年以降にCrossRefに関する動向が書かれた日本語資料は以下の通りである。
PENTZ, Ed. CrossRefについて. 情報管理. 2012, 45(4), p. 227.
http://doi.org/10.1241/johokanri.45.227 [66].
BRAND, Amy. CrossRefを介した学術文献リンキング. 情報管理. 2004, 47(6), p. 410-418.
http://doi.org/10.1241/johokanri.47.410 [67].
BRAND, Amy. CrossRef:未来に向けて. 情報管理. 2007, 50(9), p. 558-568.
http://doi.org/10.1241/johokanri.50.558 [68].
PENTZ, Ed. CrossRefは学術コミュニケーションを促進する. 情報管理. 2011, 54(1), p. 30-39.
http://doi.org/10.1241/johokanri.54.30 [69].
土屋江里ほか. 2013年CrossRef年次総会. 情報管理. 2013. 56(12), p. 881-884.
http://doi.org/10.1241/johokanri.56.881 [70].

(6) ISO 26324:2012. ISO.
http://www.iso.org/iso/catalogue_detail?csnumber=43506 [71].

(7) Digital object identifier (DOI) becomes an ISO standard
http://www.iso.org/iso/news.htm?refid=Ref1561 [72].

(8) Handle System.

http://www.handle.net [73].

(9) "DOI Handbook 2.3 Assignment of DOI name". DOI. 2014-02-13.

http://www.doi.org/doi_handbook/2_Numbering.html#2.3 [74].

(10) DOI番号はURLとしてほぼ機能する“actionable”な識別子である。2009年にISBN-A(The actionable ISBN)が導入されたが、DOIシステム上でISBNをDOI番号のようにURLとして機能させる仕組みである。
Paskin, Norman. E-citations: actionable identifiers and scholarly referencing. Learned Publishing. 2000, 13(3), p. 159-166.
http://doi.org/10.1087/09531510050145308 [75].
ISBN-Aについては以下が詳しい。
“DOI System and the ISBN System”. DOI Handbook.
http://www.doi.org/factsheets/ISBN-A.html [76]

(11) "DOI Handbook 7 International DOI Foundation". DOI. 2014-06-25.
http://www.doi.org/doi_handbook/7_IDF.html [77].

(12) "member". Crossref. 2014-10-28.
http://www.crossref.org/01company/04staff.html [78].

(13) "doi news,September 2014". DOI.
http://www.doi.org/news/DOI_News_Sep14.pdf [79].

(14) CrossRefのメンバーは3種類あり、ここでいう参加機関の総数は3種類全て、つまりCrossRef Indicatorsのpublishers & societies, members, librariesの数字を足したものである。全ての機関がprefixの発行を受けている訳ではない。
"CrossRef indicators". Crossref. 2014-10-06.
http://www.crossref.org/01company/crossref_indicators.html3 [80].

(15) Corporation for National Research Initiatives.
http://www.cnri.reston.va.us/ [81].

(16) CrossRef. "Deposit basics". CrossRef Support.
http://help.crossref.org/deposit_basics [82].
また、CrossRefではCLOCKSS ARCHIVEとPORTICOを通じてデータアーカイブを行っている。
CrossRef. "Archiving Organizations".
http://www.crossref.org/01company/archive.html [83].

(17) Japan Link Center.
http://japanlinkcenter.org/jalc/ [84].

(18) 科学技術振興機構. “ジャパンリンクセンターがDOI登録機関に認定されました”. 科学技術情報連携・流通促進事業.
http://sti.jst.go.jp/whatsnew/2012/03/000547.html [85]

(19) Airiti, Inc. , CrossRef , CNKI (China National Knowledge Infrastructure , DataCite , EIDR (Entertainment Identifier Registry) , The Institute of Scientific and Technical Information of China , JaLC (Japan Link Center) , mEDRA (Multilingual European DOI Registration Agency) , OP (Publication Office of the European Union)
"DOI Registration Agencies". DOI.
http://www.doi.org/registration_agencies.html [86].

(20) DOI. "Registration Agencies - Areas of Coverage".
http://www.doi.org/RA_Coverage.html [87].

(21) CrossRef. "Deposit content types: what can be deposited?". CrossRef Support.
http://help.crossref.org/deposits [88].

(22) 国立情報学研究所. “学術機関リポジトリ構築連携支援事業 - 機関リポジトリのコンテンツにDOIを登録できるようになります”. 学術機関リポジトリ構築連携支援事業.
http://www.nii.ac.jp/irp/2014/03/doi.html [89].

(23) ジャパンリンクセンター事務局. ジャパンリンクセンター 入会の手引き. 初版, 2014, 7p.
http://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_handbook.pdf [90].

(24) CrossRef. "board of directors".
http://www.crossref.org/01company/05board.html [91].

(25) CrossRef. "cited-by linking".
http://www.crossref.org/citedby/index.html [92]

(26) 久保田 壮一ほか, JSTリンクセンターの新機能 ─ Googleとの連携とJ-STAGEにおける論文の被引用関係表示. 情報管理. 2006, 49(2). p. 69-76.
http://doi.org/10.1241/johokanri.49.69 [93].

(27) PLOS ONE. "Article-Level Metrics Information".
http://www.plosone.org/static/almInfo [94].

(28) CrossRef. "Cited-by Linking Policy".
http://www.crossref.org/citedby/index.html#policies [95].

(29) CrossRef. "CrossCheck".
http://www.crossref.org/crosscheck/index.html [96].

(30) 学協会でのCrossCheckを用いた剽窃チェックの運用についてZhejiang University、日本コンクリート工学会、日本疫学会などでの事例報告がある。また、COPE(Committee on Publication Ethics)の研究助成を受け学協会向けに行われたCrossCheckに関する利用調査もある。
Zhang, Helen (Yuehong). CrossCheck: an effective tool for detecting plagiarism. Learned Publishing. 2010, 23(1), p. 9-14. http://doi.org/10.1087/20100103 [97].
多田眞作. “CrossCheck導入後の2ヶ月で気づかされた剽窃問題の緊急性”.
https://www.jstage.jst.go.jp/pub/html/pdf/AY04S260.files/2_crosscheck_jirei.pdf [98].
橋本勝美. CrossCheckを用いた剽窃・盗用チェック:日本疫学会誌Journal of Epidemiologyの事例. 情報管理. 2012, .55(2), p. 87-96.
http://doi.org/10.1241/johokanri.55.87 [99].
Zhang, Yuehong et al. A survey on the use of CrossCheck for detecting plagiarism in journal articles. Learned Publishing. 2012, 25(4), p. 292-307.
http://doi.org/10.1087/20120408 [100].

(31) iThenticate. "Prevent Plagiarism in Published Works".
http://www.ithenticate.com/ [101].

(32) テキストマッチングを行う文書群は以下の通りである。(1)STM分野の530以上の出版社の学術論文記事,プロシーディングス,図書の章など3,800万件(CrossCheck由来含む)、(2)30以上のアグリゲーターが提供するデータベースとコンテンツプロバイダーを含むコンテンツ、(3)10年近くアーカイブし続けている450億ページ以上のウェブページ
iThenticate. "iThenticate contents".
http://www.ithenticate.com/content [102].

(33) CrossCheck側ではマッチングのレポートを表示するだけで剽窃有無の判定はあくまでもレポートを元に利用者側で行う。CrossCheck関連の文献は以下にまとめられている。また情報管理に翻訳記事が掲載されているので参照されたい。
CrossRef. "crosscheck in the news".
http://www.crossref.org/crosscheck/crosscheck_inthenews.html [103].
MEDDINGS, Kirsty. (翻訳記事)論文の著作権を守る:学術出版における剽窃検知. 情報管理. 2010, 53(3), p. 140-144.
http://doi.org/10.1241/johokanri.53.140 [104].

(34) 日本国内の刊行物では、JSTのJ-STAGE掲載誌としてCrossRef DOIを付与していればJ-STAGEを通じてCrossCheckを利用することも可能である。
J-STAGE. “CrossCheckについて”.
https://www.jstage.jst.go.jp/pub/html/AY04S470_ja.html [105].

(35) CrossRef. "CrossCheck indexing".
http://www.crossref.org/crosscheck_indexing.html [106].

(36) CrossRef. "CrossMark".
http://www.crossref.org/crossmark/ [107].
詳細は以下が詳しい。
Meyer, Carol Anne. Distinguishing published scholarly content with CrossMark. Learned Publishing. 2011, 24(2), p. 87-93.
http://doi.org/10.1087/20110202 [108].

(37) CrossRef. "CrossRef Deposit Schema". CrossRef Support.
http://help.crossref.org/deposit_schema [64].

(38) なお、CrossMark内の各情報項目については出版社側で項目名を定義する。
CrossMark. "CrossMark Policy Page".
http://www.crossref.org/crossmark/PublishersPolicy.htm [109].

(39) Elsevier. "Download a list of the sponsors covered in SciVal Funding (updated March 2014)".
http://www.elsevier.com/online-tools/research-intelligence/products-and-services/funding [110].
FundRef Registyで公開されている助成機関リストのデータは2014年6月25日のアップデートでは7,333件となっている。
CrossRef. "FundRef Registry".
http://www.crossref.org/fundref/fundref_registry.html [111].

(40) Executive Office of the President: Office of Science and Technology Policy. “Increasing Access to the Results of Federally Funded Scientific Research” 2013-02-22.
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/ostp_public_access_memo_2013.pdf [112].

(41) CrossRef. "CrossRef Text and Data Mining".
http://tdmsupport.crossref.org/ [113].

(42) CrossRef. "DOI Content Negotiation".
http://www.crosscite.org/cn/ [114].

(43) "CrossRef Click-Through Service".
http://clickthroughsupport.crossref.org/ [115]
ORCIDでは会員の種別ごとにシングルサインオン(OAuth)などの仕組みが使える特典を用意している。
ORCID. "MEMBERSHIP&SUBSCRIPTION".
http://orcid.org/about/membership [116].

(44)以下にあるExample Depositを参照。
CrossRef. "Text and Data Mining for Publishers".
http://tdmsupport.crossref.org/publishers/ [117].

(45) CrossRef. "Using the Open URL Query Interface".
http://help.crossref.org/using_the_open_url_resolver [118].

(46) CrossRef. "DOIs, OpenURL, and link resolvers".
http://help.crossref.org/using_dois_and_openurl [119].

(47) 増田豊. 学術リンキング: S・F・XとOpenURL. 情報管理. 2002, 45(9), p. 613-620.
http://doi.org/10.1241/johokanri.45.613 [120].

(48) CrossRef. "Using HTTP to Query". CrossRef Support.
http://help.crossref.org/using_http [121].

(49) CrossRef. "enhanced cms". http://www.crossref.org/cms/ [122].

(50) CrossRef. "Using OAI-PMH". CrossRef Support.
http://help.crossref.org/using_oai_pmh [123].

(51) CrossRef Metadata Search.
http://search.crossref.org/ [124].

(52) fundref search. http://search.crossref.org/fundref [125].

(53) "/dois". CrossRef metadata search.
http://search.crossref.org/help/api [126].

(54) CrossRef. "FundRef API". CrossRef Support.
http://help.crossref.org/fundref-api [127].

(55) GitHub. "CrossRef REST API".
https://github.com/CrossRef/rest-api-doc/blob/master/rest_api.md [128].

(56) ORCIDに紐付けされたDOI、あるいはDOI登録の際に紐付けされたORCIDの増加によって共著関係の識別子ネットワーク、というネットワーク層が出現する。

(57) ORCID. "Board of Directors".
http://orcid.org/about/team [129].

(58) CrossRef Labs.
http://labs.crossref.org/ [130].

(59) "TOI DOI". CrossRef Labs.
http://labs.crossref.org/toi-doi-i-e-short-dois/ [131].

(60) DOI. "shortDOI". shortDOI Service.
http://shortdoi.org/ [132].

(61) "PatentCite". CrossRef Labs.
http://labs.crossref.org/patentcite/ [133].

(62) pmid2doi
http://labs.crossref.org/pmid2doi/ [134].

(63) DataCite.
http://www.datacite.org/ [135].

(64) PANGAEA.
http://www.pangaea.de/ [136].

(65) Rasberry Pi.
http://www.raspberrypi.org/ [137].

(66) cross tech. "Linking data and publications".
http://crosstech.crossref.org/2014/09/linking-data-and-publications.html [138].

(67) 先進的なウェブサービスを提供する国内の図書館、たとえば佛教大学図書館では技術者であるウェブデベロッパーとウェブデザイナーが活躍しているケースがある。(E1315参照 [139])

(68) データのつながりという観点からみるとCited-by Linkingは被引用文献のネットワーク、CrossMarkは論文の更新履歴、FundRefは名寄せ済の助成機関名に紐付いた論文リスト、といったDOIに紐付いたネットワーク層が徐々に構築されている点にも注目したい。

 

[受理:2014-11-11]

 


長屋俊. CrossRefの動向 revisited. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1836, p. 13-17.
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Nagaya Shun.
Current Status of CrossRef. Revisited.

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CA1837 - ウェブで広がる図書館のメタデータを目指して―RDAとBIBFRAME / 柴田洋子

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カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1837

動向レビュー

 

ウェブで広がる図書館のメタデータを目指して ―RDAとBIBFRAME

収集書誌部 収集・書誌調整課:柴田洋子(しばた ようこ)

 

 図書館では、いわゆる本や雑誌のように書庫で所蔵できる資料だけでなく、これらをデジタル化したものやデジタルファイルでしか存在しないものまで多様な情報資源を扱うようになってきた。これらの情報資源に利用者が確実にアクセスできるためのメタデータを提供することも図書館の重要な役割である。そのためには、データの意味や関連性を機械が的確に処理できるセマンティックウェブ(CA1534 [144],CA1598 [145]参照)環境に適したメタデータを作成する必要がある。さらに、ウェブ上で共有や再利用が容易な形式でデータを公開するLinked Data(CA1746 [56],CA1825 [57]参照)の普及により、情報資源へのアクセスのためだけでなく、メタデータそのものの利用可能性も広がりを見せている。

 このような環境に適した図書館のメタデータを作成するための新たな基準として、Resource Description and Access(RDA)(CA1766 [146],CA1767 [147]参照)が2010年6月に登場した。2013年3月の米国、英国、カナダ、オーストラリアの各国立図書館等における適用を皮切りに、各国でその対応が進んでいる。一方、RDAに則ったデータをセマンティックウェブ環境で有効に機能させるには、それを適切に表現し流通できる器、すなわち「書誌フレームワーク」が必要であり、その検討が始まっている。

 本稿では、まず、主な国立図書館を対象に、2014年8月現在のRDAへの対応状況をまとめる。次に、従来のMARC(MAchine-Readable Cataloging)フォーマットに替わる、新しい書誌フレームワークの一つとして注目されているBIBFRAME(1)について、特に、データモデルと「データのウェブとしての書誌フレームワーク:Linked Dataモデルと支援サービス」(2)(E1386 [148]参照)が公表された、2012年11月以降の動向を紹介する。

 

1. RDAへの対応状況

1.1 主な国立図書館等の採用状況(3)

 主に国立図書館を対象に採用状況をまとめた(表 1参照)(4)。

 

表 1 各機関の採用状況
採用状況 機関名(機関が所属する国名順)
既にRDAを適用している図書館
(特に記載のないものは
2013年から適用)
アラブ諸国の国立図書館のうちの4機関(5)
オーストラリア国立図書館
ケベック国立図書館・文書館
カナダ国立図書館・文書館
アイルランド国立図書館(一部の資料群)(6)
国立国会図書館(一部の資料群)(7)
マレーシア国立図書館(2014年)(8)
ニュージーランド国立図書館
フィリピン国立図書館(9)
シンガポール図書館委員会
英国図書館
米国国立農学図書館
米国国立医学図書館
米国議会図書館(LC)
適用に向けて準備中
または計画中の図書館
(丸括弧内は適用予定年を表す。)
オーストリア図書館ネットワーク(2015年)
コロンビア国立図書館(2015年)
チェコ国立図書館(2015年)(10)
フィンランド国立図書館(2015年)(11)
ドイツ国立図書館(2015年)(12)
ラトビア国立図書館(2016年)
ルクセンブルク国立図書館(2015年以降)
オランダ王立図書館(2015年)
スコットランド国立図書館(2014年)(13)
南アフリカ国立図書館(2015年)
スイス国立図書館(2015年)
採用を検討中、
時期未定等
ベルギー王立図書館(14)
ブラジル国立図書館
中国国家図書館
クロアチア国立図書館
デンマーク王立図書館(15)
フランス国立図書館
アイスランド国立・大学図書館
韓国国立中央図書館(16)
メキシコ国立図書館(17)
ノルウェー国立図書館(正式な採用は未定)
ポーランド国立図書館(当面はテストのみ)
ポルトガル国立図書館(採用するか未定)
セルビア国立図書館
スロベニア国立・大学図書館
スペイン国立図書館(採用するか未定)(18)
スウェーデン国立図書館

 

1.2 各言語における対応状況

 RDAでは国際化や標準化が謳われているものの、従来の英米目録規則(AACR2)の後継として、実際は英米圏の目録慣行に拠っている。そのため、英米圏以外の図書館でRDAの採用可否に至るまでには、RDAを翻訳し、内容を理解した上で、現行基準との比較や影響分析が必要となる。また、自国や自館の言語状況や目録慣行を踏まえ、適用のための基準やルールの策定が必要な場合もある。さらに、LC等による教材(19)やオープンソースのRDA研修ツールRIMMF (RDA in Many Metadata Formats)(20)等が公開されているが、カタロガーの理解促進にはローカライズされた研修プログラムが不可欠である。そのため、英米圏以外では、適用までの時間や人的コストを理由に採用の決定を保留とする機関もある(21)。

表 2 RDAの翻訳・刊行状況
既刊(22) 中国語
ドイツ語
フランス語
作業中 フィンランド語(23)
イタリア語(24)
日本語(25)
韓国語(26)
ノルウェー語(27)
ポルトガル語(28)
スロバキア語(29)
スペイン語(30)
スウェーデン語(31)

 

1.3 RDAの適用に向けての取組み事例

 RDAの現状と今後をテーマとした会議が、2014年IFLA大会のサテライト・ミーティングとしてドイツ国立図書館で開催された(32)。その報告の中から各国の取組みを紹介する。

(1)ドイツ語圏

 ドイツ、オーストリアおよびスイスの3か国の国立図書館、図書館ネットワーク、公共図書館および関連機関等によるRDAの適用を目的とした連携プロジェクトが実施され、2012年から2015年にかけ、次の6つのタスク(①方針決定と文書作成②目録作業のテスト③統一典拠レコード(GND)へのRDA適用④システムの実装⑤研修の準備と実施⑥データ移行)が進められている。

 ただし、多言語国家であるスイスの国立図書館では、ドイツ語以外の言語におけるRDAの適用も検討する必要がある。国際的なデータの相互運用性を確保するため、こうした連携プロジェクトに取り組む一方で、国内の多言語対応によるデータの流通促進も検討している。そのため、他の2か国の適用時期よりも遅れる見込みである(33)。

(2)オランダ

 王立図書館、学術図書館、公共図書館および専門図書館等が共同目録システムを使用している。国内独自の目録規則やデータフォーマットを採用してきたが、現在は、国際標準への準拠を目指し、RDAおよびMARC21の適用に向けたSLIMプロジェクト(2011年~2014年)に国内全体で取り組んでいる。

(3)フランス

 EURIGのメンバーとして、フランス国立図書館が検討作業に加わっている。RDAを分析した結果、別法や任意の選択肢が多く、データ作成時に依然としてカタロガーの判断が必要なため、データの相互運用性の担保が懸念される点や、ツールやシステムの実装状況が整っていない点等から、RDAの採用を決定するのは時期尚早とされている。ただし、自館が目指すサービスの実現には、RDAに対応したデータが有用とも認識しているため、長期的にはRDAを採用する方向であり、適用に向けた準備は続けていく。

 

2. BIBFRAMEの動向

2.1 語彙およびモデル

2014年1月に語彙1.0版が公開された(34)。RDA、Dublin Core等の既存の語彙を用いず、すべて名前空間でRDFを用いて独自に定義されており、52のクラスと276のプロパティから成る(35)。52のクラスの最上位は「リソース(Resource)」である。Resourceは15のクラスで構成され、主要な「著作(Creative Work)」「インスタンス(Instance)」「典拠(Authority)」「アノテーション(Annotation)」(E1386 [148]参照)も含まれる。この主要4クラスにはそれぞれ11、10、4、5の下位クラスがあり、さらにAuthorityの下位クラス「エージェント(Agent)」に5つ、Annotationの下位クラス「所蔵資料(HeldMaterial)」に1つのクラスが紐づく。

 プロパティは、期待される値(値域)に、文字列(Literal)やURIといった記述形式が設定されているものと、クラスが設定されているものがある。また、記述対象の範囲を示す定義域は、必ずしもすべてのプロパティで定義されてはいない。

2015年には、各機関による語彙の検証結果を踏まえ、2.0版に更新される予定である。

 また、モデルの仕様案も公開されている(36)。これらは、LCがプロジェクトを委託したZepheira社の成果物や、2012年10月に開始された英国図書館、ドイツ国立図書館、ジョージ・ワシントン大学、米国国立医学図書館、OCLCおよびプリンストン大学の6機関の“Early Experimenters”によるモデルの実用可能性調査の成果物である。その後もBIBFRAMEの検討用メーリングリストでの議論やコメント等を踏まえ、適宜更新されている。このほか、ユースケースや、録音・映像資料をBIBFRAMEで記述するためのモデルを分析した報告書(37)等も公開されている。

 

2.2 ツール

 データの入力・編集用ツール(BIBFRAME Editor)とMARCからの変換ツール(Comparison serviceおよびTransformation Service)が提供されている(38)。前者は新たなデータの試作、後者は既存のMARC形式のデータからの変換仕様の確認を行い、BIBFRAMEのデータモデルおよび語彙の実用可能性を検証することを目的に開発されたツールである。より多くの機関による検証とその結果のフィードバックを促進するため、オープンソースとしてコードが公開されており、自由にダウンロードできる。また、一部の機能や設定に制約があるが、オンラインのデモ版も公開されている。今後、BIBFRAME Editorの設定変更が容易にできるツールや、作成したデータの検索・表示用インターフェイスの開発等も実施される予定である。

 

2.3 実証試験プロジェクト

 2014年1月、新たな実証試験プロジェクトへの参加機関の募集が開始された。参加機関は、主に機能性と相互運用性をテストし、その成果をメーリングリストで共有および議論する。機能テストでは、BIBFRAMEのデータの作成、変換、受入、表示、保存、検索等の各機能を担うソースコードやソフトウェア、ツールの検証やモデル及び語彙の妥当性の確認等を各機関が独自に進める。相互運用性のテストでは、他機関が作成したデータを入力処理するためのデータ交換を実施し、LCの担当者がその結果を維持管理する。実施期間は2年間(2015年まで)であり(39)、その成果を踏まえた語彙の改訂作業が計画されている。

 また、機関間の情報共有を図るため、既に独自で計画中または実施中のプロジェクトの登録制度も開始された(40)。2014年8月末現在、前述の“Early Experimenters”のほか、キューバのホセ・マルティ国立図書館(Biblioteca Nacional Jose Marti)、コーネル大学図書館、スタンフォード大学図書館、コロラド大学図書館等が登録している。プロジェクトの内容は、各機関の業務にあわせて前述の各種ツールを用いた検証や評価等である。その他、BIBFRAMEのデータモデルを実装したプロトタイプを開発している機関もある。たとえば、ドイツ国立図書館では、OPACの書誌情報表示画面上でRDF/XML形式のBIBFRAMEで表現された書誌データを出力およびダウンロードできる機能を公開している。これは、画面上でBIBFRAMEによる出力形式が選択されると、独自の内部データ形式(Pica+)の書誌データから動的に変換・生成される仕組みである。今後も開発は続き、BIBFRAMEの語彙1.0版との同期や、典拠や所蔵情報への適用等が予定されている(41)。

 

2.4 関連プロジェクト

(1)BIBFLOW(目録作業の再考:図書館業務の将来モデル)(42) (43) (44)

 カリフォルニア大学デービス校図書館およびZepheira社による2年間の米国博物館・図書館サービス機構(IMLS)助成プロジェクトである。学術図書館でBIBFRAMEを適用する際にテクニカルサービスの業務フロー全体に及ぼす影響を調査する。最終的な目標は、各機関におけるBIBFRAME適用計画の立案時に参考となるような成果物の作成である。

 

(2)PCCとの連携

 国際的な共同目録プログラムProgram for Cooperative Cataloging(PCC)では、2013年から典拠データにRDAを適用しており、2015年1月からは書誌データにも適用する予定である。そのため、RDAを適用したデータがLinked Data環境で有効に機能するフレームワークの開発への関心が強い。そこで、2014年6月、LCと連携し、図書館コミュニティのLinked Data環境への移行のためのモデルとして、BIBFRAMEをサポートすることを発表し、その普及活動に着手した(45)。

 また、同月、PCC参加メンバーとその関連ベンダーおよびプログラマー等を対象に、BIBFRAMEの認知度を図る調査が行われた(46)。調査の結果、BIBFRAMEがMARCフォーマットの代わりとして、ウェブ環境における新たな書誌データの基盤となるプロジェクトであるという点については概ね理解されていた。しかし、一方で4割弱の回答者がBIBFRAMEをLCが開発中の新しいシステムであると誤解していることも判明した。BIBFRAMEはある特定のシステムではなく、多様なシステムで利用できるフレームワークである。

 2015年度には、BIBFRAMEによる、図書館コミュニティ以外でも再利用可能な目録データの作成プロジェクトを開始する予定である。

 

3. 書誌フレームワークの課題

 ウェブでデータの流通・交換を促進するには、データの作成に用いる基準のセマンティクス(語彙を設計し、各要素に何を記述するかを定める意味的側面)と、シンタックス(どのような方法、形式でデータを記述し、表現するかといった構文的側面)を分離することが推奨されている。これにより、各機関で柔軟にデータの記述ルールを設定しながらも、データの記述に用いる語彙とその意味は国際的に共有することができ、相互運用性が高まる。RDAはセマンティクスの、BIBFRAMEのような書誌フレームワークはシンタックスの役割に特化して設計されている。

 BIBFRAMEは、従来のMARCのようにレコードを流通・交換の単位とするのではなく、レコードを構成するデータの一つ一つを関連づけることができる。これは、柔軟性の高い、特定のコミュニティのデータモデルや作成基準に拠らないフレームワークとして志向されているからである。そのため、必ずしもRDAに則したデータに特化したものではない。今後、実証試験の参加対象を図書館以外の関連コミュニティにも広げ、相互運用性の向上を図る予定である。

 現在のBIBFRAMEでは、独自のデータモデルに基づく語彙が定義されており、ややセマンティクスの域にも踏み込んでいる印象がある。図書館界においても、BIBFRAMEの実用可能性について期待はしているものの、現段階では未完成のため評価ができない、現行のシステムでは対応できない等、具体的に機関で採用を検討できる段階ではないとの声もあがっている(47)。今後の多様な実証試験の結果を踏まえた動向を注視していく必要がある。

 RDAに則したデータを表現するフレームワークの動きは、RDA Registry.info(48)やRDA/ONIXフレームワーク(RDA/ONIX Framework for Resource Categorization)(49)等もあげられる。前者は、RDAツールキット技術委員会が公開したRDAのエレメントセット(語彙)のレジストリである。機械可読性の高い、ウェブ上で共有しやすい形で定義された語彙だけでなく、利用事例やデータセット等も提供されている。今後は、語彙を利用するためのガイドラインや、どのような方法や形式で利用するかといった構文的な側面を定めたアプリケーションプロファイルも公開される予定である。後者のRDA/ONIXフレームワークは、主に出版情報の流通のための標準的なメタデータであるONIX(ONline Information eXchange)とRDAの共通のフレームワークであり、2006年に公開された。この改訂等を目的としたRDA合同運営委員会(JSC)のワーキンググループが2014年に設置され(50)、11月に開催される会合での提案内容が公開されている(51)。

 いかなる基準およびフレームワークを用いた場合でも、境界のないウェブの世界でデータを流通させるには、国際化と標準化、そして相互運用性が鍵となる。図書館のメタデータがRDAに則って作られ、様々な書誌フレームワークに柔軟に対応でき、BIBFRAMEのような書誌フレームワークで他のコミュニティの基準に則したデータと共通した形で表現されるようになることで、ウェブで広く流通し、利活用されることを期待している。

 

(1) BIBFRAMEが取組み全体の”Bibliographic Framework Initiative”を指す場合もある。用語の厳密な使い方が定まっていないため、本稿では、主にフレームワークの意味で用いるが、文脈によっては、取組み全体にも使用する。

(2) Library of Congress. “Bibliographic Framework as a Web of Data: Linked Data Model and Supporting Services”.
http://www.loc.gov/bibframe/pdf/marcld-report-11-21-2012.pdf [149], (accessed 2014-10-01).

(3) RDAを機関のデータ作成ルールとして用いることを方針として決定した場合は「採用」、RDAに則したデータを作成するまたは作成を開始する場合は「適用」と表記する。

(4) 主に、以下の情報源及び調査結果を対象とした。その他、個別に参照した情報源は、適宜注を付している。
・RDA ツールキット
“Who's Cataloging in RDA”. American Library Association, Canadian Library Association, and CILIP: Chartered Institute of Library and Information Professionals.
http://www.rdatoolkit.org/RDA_institutions [150], (accessed 2014-10-01).
・欧州RDAインタレスト・グループ(EURIG)の調査(2013年7月実施)
Gryspeerdt, Katharine. “EURIG survey on adoption of RDA–2013: report”.
http://www.slainte.org.uk/eurig/docs/EURIG_Survey-2013_v1_0.pdf [151], (accessed 2014-10-01).
・東亜図書館協会(CEAL)技術処理委員会(CTP)の調査(2014年3月実施)
Charlene, Chou. “The annual report of CTP Subcommittee on RDA”.
http://www.eastasianlib.org/ctp/Subcommittees/sub_RDA/RDA_Subcommittee_report.docx [152], (accessed 2014-10-01).
・国際図書館連盟(IFLA)目録分科会ISBDレビューグループの調査(2014年3月~4月実施)
ISBDに関する調査の一環として実施され、現時点では、目録分科会メンバーのみに結果が公開されている。
・国立図書館長会議(CDNL)カントリーレポート(2013年~2014年)
“2014 Country reports”. CDNL.
http://www.cdnl.info/index.php?option=com_content&view=article&id=129&Itemid=66 [153], (accessed 2014-10-01).

(5) Mahmoud, Ossama. “RDA in the Arab Region: Challenges and Proposed Solutions”.
http://www.dnb.de/SharedDocs/Downloads/DE/DNB/standardisierung/iflaVortragMahmoudRdaArabRegion.pdf?__blob=publicationFile [154], (accessed 2014-10-01).

(6) 2014年から冊子体の単行書のみ適用している。今後、他の資料群もRDAを採用する可能性がある。

(7) 外国刊行の洋図書等については2013年4月から適用しているが、和図書等については、RDAに対応した新たな日本目録規則を日本図書館協会と連携して策定中である。
国立国会図書館収集書誌部.“新しい『日本目録規則』の策定に向けて”. http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/newncr.pdf [155], (参照 2014-10-01).

(8) National Library of Malaysia. “ANNUAL REPORT 22nd MEETING OF DIRECTORS OF NATIONAL LIBRARIES IN ASIA AND OCEANIA (CDNLAO) 2014”.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/meetings/pdf/AR2014_Malaysia.pdf [156], (accessed 2014-10-01).

(9) RDA ツールキットでは既に適用している機関として記載されているが、IFLA目録分科会ISBDレビューグループ による調査では、2015年に適用予定との回答がなされている。

(10) “Zápis z Pracovní skupiny 21.11.2013”.Národní knihovna České republiky.
http://www.nkp.cz/o-knihovne/odborne-cinnosti/zpracovani-fondu/zapisy-z-jednani/zapis-z-pracovni-skupiny-21.11.2013 [157], (accessed 2014-10-01).

(11) IFLAのISBDレビューグループによる調査の回答では2016年だが、RDA ツールキットおよびCDNLの報告では2015年と記載されている。
The National Library of Finland. “RDA Annual Report to CENL and CDNL 2013-2014”.
http://www.cdnl.info/2014/Country_Reports/Finland_2014.pdf [158], (accessed 2014-10-01).

(12) プロジェクト進行中に適宜スケジュールが再調整されており、最新のスケジュールは2014年2月現在である。
Deutsche Nationalbibliothek. “Stand: Februar 2014”.
https://wiki.dnb.de/download/attachments/94676208/Zeitplan_AG_+RDA_Februar_2014.pdf?version=1&modificationDate=1405061349000 [159], (accessed 2014-10-01).

(13) Nicholson, N. T. RDA at the national library of Scotland. Alexandria. 2013, 24(2), p. 21-26.
http://search.proquest.com/docview/1548796779?accountid=12687 [160], (accessed 2014-10-01).

(14) 2014年に、王立図書館でRDAを適用する際の要件分析を含む調査研究プロジェクトが公募されている。
http://www.belspo.be/belspo/organisation/doc/Job/KBR_Coll_projets_scient_fr.pdf?jobCode=MFG14057 [161], (accessed 2014-10-01).

(15) 2012年、書誌評議会のワーキンググループがデンマークにおけるRDAの採用を決定した。最終的な意思決定は政府レベルでデンマーク文化庁が行う。
Danish Bibliographic Center. “DBC Annual Report 2012”. http://www.dbc.dk/filer/tekstfiler-pdf-mm./dbc-annual-report-2012-pdf [162], (accessed 2014-10-01).

(16) RDAの適用に向け、RDA韓国版指針研究等を推進している。
국립중앙도서관.“국립중앙도서관 2014~2018”.
http://www.nl.go.kr/servlet/contentPdf?site_code=nl&file_name=2014-2018.pdf [163], (accessed 2014-10-01).
Jinho Park. “국립중앙도서관 RDA 실행전략 보고서”. 2014-05-08.
https://www.slideshare.net/jino/rda-34418131 [164], (accessed 2014-10-01).

(17) スペイン語の翻訳に参加する等、適用に向けた準備は行っている。
Evelia Santana Chavarria. “APLICACIÓN DE RDA EN LA BIBLIOTECA NACIONAL DE MÉXICO AVANCES Y PERSPECTIVAS”. http://www.abinia.org/catalogadores/34-219-1-PB.pdf [165], (accessed 2014-10-01).

(18) 2014年中に採用するか否か決定する予定である。2014年5月に実施した国内におけるRDA適用状況調査の結果では、8割程度の図書館が適用するか未決定であり、その多くが国立図書館の決定を待っていると回答した。
Departamento de Proceso Técnico. “ENCUESTA SOBRE RDA”. http://www.bne.es/webdocs/Prensa/Noticias/2014/0728_InformeEncuestaRDA.pdf [166], (accessed 2014-10-01).

(19) “Library of Congress (LC) RDA Training Materials”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/catworkshop/RDA%20training%20materials/LC%20RDA%20Training/LC%20RDA%20course%20table.html [167], (accessed 2014-10-01).

(20) “RIMMF2”.
http://www.marcofquality.com/wiki/rimmf/doku.php?id=rimmf [168], (accessed 2014-10-01).

(21) Gryspeerdt, Katharine. “EURIG survey on adoption of RDA–2013: report”.
http://www.slainte.org.uk/eurig/docs/EURIG_Survey-2013_v1_0.pdf [151], (accessed 2014-10-01).

(22) ドイツ語とフランス語は冊子体およびオンライン版で刊行されている。中国語版は冊子体のみである。
“RDA in Translation”. American Library Association, Canadian Library Association, and CILIP: Chartered Institute of Library and Information Professionals. http://www.rdatoolkit.org/translation [169], (accessed 2014-10-01).

(23) 翻訳は完了しているが、公開は2015年の予定である。
The National Library of Finland. “RDA Annual Report to CENL and CDNL 2013-2014”.
http://www.cdnl.info/2014/Country_Reports/Finland_2014.pdf [158], (accessed 2014-10-01).

(24) イタリア図書館総合目録・書誌情報中央研究所(ICCU;Istituto Centrale per il Catalogo Unico)がRDAの共同出版者であるアメリカ図書館協会(ALA)から翻訳の許諾を得た。
“Accordo per i diritti di traduzione in lingua italiana dello standard RDA”. Istituto Centrale per il Catalogo Unico . 2014-07-25.
http://www.iccu.sbn.it/opencms/opencms/it/archivionovita/2014/novita_0016.html [170], (accessed 2014-10-01).

(25) 翻訳作業は2015年秋頃の完了を予定しているが、公開時期や方法は未定である。
国立国会図書館収集書誌部収集・書誌調整課. “Resource Description and Access”(RDA)の日本語訳について.NDL書誌情報ニュースレター. 2014, 30(3).
http://ndl.go.jp/jp/library/data/bib_newsletter/2014_3/article_06.html [171], (accessed 2014-10-01).

(26) 국립중앙도서관.“국립중앙도서관2014~2018”.
http://www.nl.go.kr/servlet/contentPdf?site_code=nl&file_name=2014-2018.pdf [163], (accessed 2014-10-01).

(27) Verena Schaffner. “EURIG and its activities”.
http://www.dnb.de/SharedDocs/Downloads/DE/DNB/standardisierung/iflaVortragSchaffnerRdaIflaSatEurig.pdf?__blob=publicationFile [172], (accessed 2014-10-01).

(28) Gryspeerdt, Katharine. “EURIG survey on adoption of RDA–2013: report”.
http://www.slainte.org.uk/eurig/docs/EURIG_Survey-2013_v1_0.pdf [151], (accessed 2014-10-01).

(29) “Slovakia, report 2013”. Slovak National IAML(International Association of Music Libraries, Archives and Documentation Centres).
http://www.iaml.info/fr/activities/slovakia/2013/report [173], (accessed 2014-10-01).

(30) 冊子体およびオンライン版で刊行予定である。
“RDA in Translation - Spanish”. American Library Association, Canadian Library Association, and CILIP: Chartered Institute of Library and Information Professionals.
http://www.rdatoolkit.org/translation/Spanish [174], (accessed 2014-10-01).

(31) Verena Schaffner. “EURIG and its activities“.
http://www.dnb.de/SharedDocs/Downloads/DE/DNB/standardisierung/iflaVortragSchaffnerRdaIflaSatEurig.pdf?__blob=publicationFile [172], (accessed 2014-10-01).

(32) “IFLA Satellite Meeting. Deutsche Nationalbibliothek”. www.dnb.de/iflasatellite [175], (accessed 2014-10-01).

(33) Aliverti, Christian et al. RDA at the Swiss National Library: Challenges and New Opportunities.Alexandria, Alexandria. 2013. 24(2).

(34) “Vocabulary”. Library of Congress. http://bibframe.org/vocab/ [176], (accessed 2014-10-28).

(35) RDFスキーマファイル(http://bibframe.org/vocab.rdf [177])(最終更新日:2014-10-28)を基にした。

(36) “BIBFRAME Model & Vocabulary”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/bibframe/docs/index.html [178], (accessed 2014-10-01).

(37) Kara Van Malssen et al. “BIBFRAME AV Modeling Study: Defining a Flexible Model for Description of Audiovisual Resources”. 2014-05-15.
http://www.loc.gov/bibframe/pdf/bibframe-avmodelingstudy-may15-2014.pdf [179], (accessed 2014-10-01).

(38) “Tools”. Library of Congress.
http://bibframe.org/tools/ [180], (accessed 2014-10-01).

(39) “BIBFRAME Frequently Asked Questions”. Library of Congress. http://www.loc.gov/bibframe/faqs [181], (accessed 2014-10-01).

(40) “BIBFRAME Implementation Register”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/bibframe/implementation/register.html [182], (accessed 2014-10-01).

(41) Heuvelmann, Reinhold. “BIBFRAME Report from the German National Library”. 2014-01-26.
http://de.slideshare.net/sollbruchstelle/2014-0126-bibframeheuvelmann [183], (accessed 2014-10-01).

(42) “BIBFLOW”. BIBFLOW.
http://www.lib.ucdavis.edu/bibflow/ [184], (accessed 2014-10-01).

(43) Colby, Michael. “Reinventing Cataloging: Models for the Future of Library Operations”.connect.ala.org/node/221078, (accessed 2014-10-01).

(44) Miller, Eric. “Reinventing Cataloging: Models for the Future of Library Operations”. 2014-03-06.
http://www.slideshare.net/zepheiraorg/ala-bhem2014249 [185], (accessed 2014-10-01).

(45) “The Program for Cooperative Cataloging and the Library of Congress Support BIBFRAME as the Model to Help the Library Community Move into the Linked Data Environment”. Library of Congress. 2014-06-20.
http://www.loc.gov/aba/pcc/documents/bibframe-pcc.html [186], (accessed 2014-10-01).

(46) Program for Cooperative Cataloging. “PCC BIBFRAME Survey Results”.
http://www.loc.gov/aba/pcc/bibframe/BIBFRAME%20Survey%20Analysis-Web.docx [187], (accessed 2014-10-01).

(47) EURIG. “RDA implementation issues”.
http://www.slainte.org.uk/eurig/docs/EURIG2014/RDA-implementation-issues_2014-07-18.pdf [188], (accessed 2014-10-01).

(48) “RDA Registry”. The Joint Steering Committee for Development of RDA. 2014-07-30.
http://www.rdaregistry.info [189], (accessed 2014-10-01).

(49) Joint Steering Committee. “RDA/ONIX Framework for Resource Categorization”. http://www.loc.gov/marc/marbi/2007/5chair10.pdf [190], (accessed 2014-10-01).

(50) “RDA: Resource Description and Access”. Joint Steering Committee for Development of RDA. 2014-05-14. http://www.rda-jsc.org/rda.html [191], (accessed 2014-10-01).

(51) “Working Documents”. Joint Steering Committee for Development of RDA. 2014-09-27.
4http://www.rda-jsc.org/working2.html [192], (accessed 2014-10-01).

 

[受理:2014-11-17]

 


柴田洋子. ウェブで広がる図書館のメタデータを目指して―RDAとBIBFRAME. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1837, p. 17-21.
http://current.ndl.go.jp/ca1837 [193]

Shibata Yoko.
Towards the Library Metadata Linked on the Web:RDA and BIBFRAME.

  • 参照(14986)
カレントアウェアネス [7]
動向レビュー [43]
Linked Data [194]
書誌情報 [195]
目録 [196]
国立図書館 [197]
議会図書館 [198]
LC(米国議会図書館) [48]

CA1838 - 欧米における図書館活動に係る著作権法改正の動向 / 南 亮一

PDFファイルはこちら [199]

カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1838

動向レビュー

 

欧米における図書館活動に係る著作権法改正の動向

関西館文献提供課:南 亮一(みなみ りょういち)

 

 

 はじめに

 図書館活動に係る著作権法改正の動向は、日本については紹介されることがある(CA1528 [200]参照)(1)ものの、外国の動向については、特定の国(CA1604 [201]参照)や特定の分野(CA1579 [202]参照)を扱ったものはあるが、全体については管見によれば見当たらない。

 そこで本稿では、欧州連合(EU)を含む欧米諸国における著作権法の改正の動向についてレビューすることで、世界的な動向を明らかにすることとしたい。それに際しては、情報のデジタル化・ネットワーク化に係る著作権法の対応が行われた1990年代からの動向と、その対応がおおむね終わるタイミングで生じたGoogleブックスプロジェクトへの対応が中心となった2005年ごろ以降の2期に分けて説明することとする。

 なお、紙幅の都合で、世界知的所有権機関(WIPO)の動向については、別の機会に譲る。

 

1. 1990年代からの動向

1.1 EU及び米国の動向

 EUと米国においては、1990年代の半ばから、情報のデジタル化・ネットワーク化に著作権法を対応させるための著作権法の改正の検討が行われた。WIPOでも同様にこの問題に取り組んでおり、その成果は、1996年に採択された著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)(2)に結実した。ただ、WCTにおいては著作権の権利制限規定は、いわゆる「スリー・ステップ・テスト」に準拠して各国が定めることを認める規定(第10条(2))を置くのみであって、図書館活動に直接適用する規定は置かれていなかった。

 これに対し、EU及び米国では、この検討の中で、図書館の諸活動とデジタル環境との調和を図るための規定を設ける必要性についても提唱された。すなわち、EUでは、1995年7月に出された報告書(3)の中で、デジタル送信等に関する著作権の拡大と、図書館のような機関での著作物等を広める機能との調和が必要であるとする提言を出した。米国においても、同年9月に出された報告書(4)の中で、図書館の諸活動に対して適用される権利制限規定である米連邦著作権法第108条につき、デジタル複製を許容すべきとする提言を出した(CA1115 [203]参照)。

 その結果、米国においては1998年に制定された連邦著作権法の改正法である「デジタルミレニアム著作権法(DMCA)」(5)において、米連邦著作権法第108条(c)項の一部改正がなされ、保存のために許容される複製部数が1部から3部まで増え、さらに、図書館外ではデジタル形式で公衆に利用可能になっていない場合には、デジタル形式で複製してもよいこととされた。また、再生機器が製作されず、または市場において入手できないときは、著作物を新しい形式に複製することが許容された(6)。このほか、同年に制定された「著作権保護期間延長法」(7)においては(h)項が追加され、保護期間の最後の20年間に属する著作物のうち、相当の調査の結果、商業的利用の対象となっておらず、かつ、相当の価格で入手できないと図書館等が判断したものについては、当該図書館等が、保存や学術研究のため、複製、頒布、展示または実演することが許容された(8)。

 また、EUにおいても、2001年に制定された「情報社会における著作権及び関連権の特定側面の調和に関する欧州議会及び委員会の2001年5月22日の指令2001/29/EC」(EU情報社会指令)(9)において、公衆が利用可能な図書館、教育施設もしくは博物館または文書館が、直接的または間接的な、経済的または商業的な利益を目的としない複製の特定の行為につき、EU諸国が複製権についての権利制限規定を設けることを認める規定(第5条第2項(c))を設けた。また、視覚による情報の認識に支障を来す障害者等のための著作物の利用についての権利制限規定を設けることを認める規定(第5条第3項(b))も設けられている。

 また、公貸権制度については、1992年11月に、「貸与権及び貸出権並びに知的所有権分野における著作権に関係する権利に関する1992年11月19日の欧州理事会指令」(10)(EU貸与権指令)が制定され、フランス等の未導入国への導入が進む契機となった(CA1579 [202]参照)。

 

1.2 EU諸国の動向

 EU諸国では、EU指令として定められた内容につき、国内法をEU指令に適合することが義務づけられる。このため、EU諸国では、この適合を行うという形で、障害者サービスを含む図書館活動に係る著作権法の改正が行われることとなった。

(1) ドイツ

 ドイツでは、2003年(第一バスケット)(11)および2007年(第二バスケット)(12)の2回にわたって改正が行われた。前者では、障害者のための非営利目的での複製および頒布につき原則として補償金の支払いを条件に許容する規定(第52a条)が設けられた。後者では、公共図書館等において、その所蔵する著作物をデジタル化の上、当該施設の構内に専用に設置された閲覧用端末を用いて、調査・私的研究目的で提供することを原則として認める規定(第52b条)が設けられた。ただし、この提供にあたっては、集中管理団体への相当な報酬の支払いが必要となる。なお、この改正においては、1999年のドイツ最高裁によるコピー送付サービスに関する判決の条文化のため、第53a条が新設された。これは、公共図書館(13)に対し、一定の要件を満たした場合における郵便・FAXの方法による資料の一部分の送付と、授業の解説または学術的研究等の目的であって、かつ、契約で明示的に禁止されていない場合には、電子的形式により、コピーを画像データで送付することについても許容するものである。

(2) フランス

 フランスでは、2006年8月に「情報社会における著作権及び著作隣接権に関する2006年8月1日の法律第2006-961号」(14)が制定され、公衆に開かれた図書館等における、営利を目的としない業務としての、保存または閲覧のための複製を許容する規定(L.第122-5条第8号)と、視覚による情報の認識に支障を来す障害者等のために図書館等が複製、上演、演奏等を行うことを許容する規定(L.第122-5条第7号)が、知的所有権法典に追加された。

 このほかの動きとしては、公貸権制度を導入するため、2003年6月に「図書館における貸与に基づく報酬及び著作者の社会的保護の強化に関する2003年6月18日の法律第2003-517号」(15)が制定されたことが挙げられる。同法では、図書館の貸出しに対する法定許諾(L.第133-1条)、報酬の受領方法(L.第133-2条)、報酬の財源(L.第133-3条)および受領した金銭の分配方法(L.第133-4条)が、知的所有権法典に追加された。

(3) 英国

 英国では、2002年11月、「2002年著作権(視覚障害者)法」(16)により、視覚障害者自身による録音図書等の作成を許容する規定(第31A条)、図書館を含む(17)非営利団体による、視覚障害者が個人的に使用するための録音図書等の作成を許容する規定(第31B条)、第31条Bによる作成のためのマスターコピーの中間生成物の保有を許容する規定(第31C条)等が、1988年著作権、意匠及び特許法に追加された。

 また、「1996年著作権及び隣接権法」(18)において、EU貸与権指令に適合するために貸与権(rental and lending right)を新たに設けるにあたり、1979年から導入している公貸権制度との整合を取るため、教育機関における無償貸与(lending)(第36A条)とともに、公貸権制度の枠組みで行われる図書館・文書館による無償貸与について、著作権侵害とはならない旨の規定(第40A条)が設けられた。

 

2. 2005年ごろからの動向

2.1 米国の動向

(1)「孤児著作物(Orphan Works)」問題への対応

 米国の「孤児著作物」問題の発端は、1976年の著作権法改正のときにさかのぼる(19)。この法改正により著作権登録が著作権保護の要件ではなくなったことから、著作権の消滅の有無を著作権局の記録から確認できなくなり、ひいては著作物の利用を阻害するのではないかという懸念が生じた。さらに、前述の「著作権保護期間延長法」による保護期間の延長により、その懸念が更に高まったこと等の状況を踏まえ、米国連邦議会からの調査要請が米国著作権局にあり、2006年1月23日に報告書(20)を提出・公表した(21)。

 この報告書では、(1)著作権者または著作者もしくは著作権者の帰属に関する合理的に入念な調査(reasonably diligent search)の要件と、(2)利用者が合理的に入念な調査を行ったことを立証したときの救済の制限を主な内容(22)とする。ただ、この報告書に基づく法案は数回提出されているものの、後述のGoogleブックス訴訟の影響もあり(23)、いずれも成立には至っていない(24)。

(2) 著作権法第108条の改正の検討

 また、前述の米連邦著作権法第108条を、近年のデジタル技術の進展に適合させるための改正内容を検討する動き(CA1604 [201]参照)がある。この検討は、2005年に活動を開始した「第108条研究会(The Section 108 study Group)」の下で行われ、2008年3月に報告書(25)が提出された。この報告書では、(1)博物館も第108条の適用対象にすること、(2)適用対象施設の要件を課すこと、(3)第108条の行為のアウトソーシングを可能とすること等を提言している(26)。

(3) Googleブックス訴訟以降の動向

 2004年ごろからのGoogleブックスプロジェクトは、2005年の権利者側からの訴訟(27)(CA1702 [204]参照)を招き、その経過の中で、書籍の大量デジタル化における法的な問題の存在を顕在化するに至った。このことを受け、米国著作権局は、2011年に報告書(28)を公表した。この中で、大量デジタル化と「孤児著作物」の問題についての解決策として、拡大集中許諾(extended collective licensing)と法定許諾(statutory licensing)を新たに掲げている。この報告書の公表後、米国著作権局は法改正に向けた動きをみせており(29)、近いうちに改正法案が出てくるのではないかと思われる。

 

2.2 EUの動向

 EUでは、2005年に策定された、各国の文化遺産をオンラインで提供する欧州デジタル図書館計画(E390 [205]参照)に係る「孤児著作物」の利用に関する問題の解決のため、2006年8月、そのための「勧告」(30)を出した。ただ、「勧告」は、何ら法的に加盟国を拘束するものではないこともあり、この「勧告」の内容を導入した加盟国はほとんどなかった。このようなこともあり、EUでは、2012年10月、「孤児著作物の特定の許容される利用に関する欧州議会及び委員会による2012年10月25日の指令2012/28/EU」(31)(EU孤児著作物指令)を出し、EU諸国に対応を義務づけることとした(CA1771 [206]参照)。

 この指令では、図書館等が、その所蔵する特定の範囲の著作物につき、権利者に関する入念な調査(diligent search)を行ったにもかかわらず、その所在が確認されないときは、「孤児著作物の状態」であるとされ、デジタル化やインターネット送信、目録・索引の作成、保存・修復のために利用することができることとした。さらに、一の加盟国で「孤児著作物の状態」であると認められたものは、すべての加盟国でも同様に利用できることとされた。そして、権利者によるオプトアウトを認め、その場合の補償金の支払いを求めている(32)。

 

2.3 EU諸国の動向

(1) ドイツ

 ドイツでは、2013年10月8日、「著作権法の孤児著作物及び絶版著作物の利用その他の改正に関する法律」(33)が成立し、EU孤児著作物指令の内容に沿った形で、「孤児著作物」の利用(第61条)、入念な調査の要件(第61a条)、著作権者からの申出による利用の中止と補償金の支払い(第61b条)及び公共放送機関による「孤児著作物」の利用(第61c条)の各条が新設された(34)。また、この法律では、絶版になった著作物につき、一種の拡大集中許諾制度とみられる制度を、著作権等の管理に関する法律に導入する改正も行われた(35)。

(2) フランス

 フランス(36)では、すでに1997年10月に、国立図書館(BnF)による電子図書館Gallicaを開設(CA1193 [207]参照)するなど、電子図書館に関する施策を積極的に行ってきた。そのような中、前述のようなGoogleブックスプロジェクトが始まり、それへの対抗の意味も込めて、2011年2月1日に、文化通信省、BnF、出版社組合及び文学者協会が、絶版資料のデジタル化と有償提供に関する基本合意を締結し、50万件に及ぶ絶版資料を5年間以内でデジタル化し、有償提供を行うこととなった(E1144 [208]参照)。 また、この合意に基づき、2012年3月1日、「20世紀の入手不可能な書籍の電子的利用に関する2012年3月1日の法律第2012-287号」(37)が制定された(E1285 [209]参照)。この法律は、BnFが運用するデータベースに登録された絶版書籍につき、文化・通信相が認可した著作権集中管理団体が、第三者に対して電子的利用を許諾することができるようにしたものである(L.第134-1条〜L.第134-9条)。この中で、図書館に対しては、最初の利用許諾から10年以内に権利者が見つからなかった場合には、無償で利用の許諾を行う規定が設けられている(L.第134−8条)。

 なお、EU孤児著作物指令の国内法化については、閣議決定を経て、2014年10月22日、同指令の内容をそのまま国内法化した条項を含む法案(38)が下院に上程されたところである。

(3)英国

 英国では、知的財産権を取り巻く地球的規模の変化に対応するための検討結果につき、2006年11月、「知的財産に関するガワーズ・レビュー」(39)が公表され(E582 [210]参照)。この報告書では、54項目にも及ぶ提言が掲載され、その中には、補償金なしでの私的複製の例外規定の導入(勧告8)、研究のための私的複製の許容(提言9)、図書館が資料保存のために行う再複製の許容(提言10a)、音楽レコードの劣化防止のための媒体変換の許容(提言10b)、EU情報社会指令に「孤児著作物」に関する規定を加えるよう欧州委員会に提案すること(提言10c)が含まれていた。

 次に英国政府は、デジタル時代における通信、放送、コンテンツに関する包括的な政策「デジタル・ブリテン」の最終報告書(40)を2009年6月に公表した(E946 [211]参照)。この中では、「孤児著作物」について一定の条件のもとで政府が許諾を得られるようにするための措置の導入(p.115-117)や、公貸権制度の図書以外の出版形式のものへの拡大(p.132)(CA1754 [212]参照)が含まれていた。

 この報告書の内容を受け、2010年4月に制定された「2010年デジタル経済法」(41)では、「孤児著作物」に関する規定は含まれなかった(42)一方、公貸権制度に関する規定は設けられた(第43条)。同条は、1979年公貸権法第5条(2)の「図書(book)」にオーディオブック(audio-book)と電子書籍(e-book)を加え、「貸出(lent out)」を、図書館施設外から一定期間内に利用可能となることと定義(館外の場所に電子的な伝達手段で送られる場合は除外)する改正と、1988年著作権、意匠及び特許法第40A条に、この改正内容を反映するための改正を内容としている。この改正の実施は、中央政府の財政難により、しばらく見送られていた(CA1754 [212]参照)が、実施のための細則(43)が2014年8月1日に施行され、2016年2月に支払いを開始するとのことである(44)。

 また、2011年5月には、政府の諮問に基づき、知的財産政策に関する報告書(ハーグリーヴズ・レビュー)(45)が公表され、同年8月、政府がこの報告書の内容をほぼ受け入れた報告書「知的財産及び成長に関するハーグリーヴズ・レビューへの政府の応答」(46)を公表した。ここでは、ハーグリーヴズ・レビューに記された11の提言に対する政府の行動とその期限が記されている。「孤児著作物」(提言4)では「孤児著作物」の大量の許諾手続について拡大集中許諾制度の構築を内容とする提案を、「著作権の制限」(提言5)では限定的な私的複製、図書館でのアーカイビング等の権利制限の枠組みの提案を、それぞれ2011年8月末までに行うこととされている(E1206 [213]参照)。

 これらのうち、「孤児著作物」については、2013年4月に制定された「2013年企業及び規制改革法」(47)第77条により、1988年著作権、意匠および特許法に、大臣による「孤児著作物」利用の許諾の制度(第116A条)及び拡大集中許諾制度(第116B条)が加えられた(48)。さらに、2014年10月には、下位法令(49)が施行され、同月29日には早速9,100万点の文化的に価値が高い「孤児著作物」(日記、写真、オーラルヒストリーの録音物、ドキュメンタリー映像等)が、知的財産庁による許諾の対象となった(50)。

 また、「著作権の制限」については、2014年6月に制定された「2014年著作権及び実演の権利(調査、教育、図書館及び文書館)法」(51)において、調査、私的学習、非営利調査におけるテキスト・データ分析、教育目的での利用、図書館の活動、フォークソングの録音物の作成等、保存目的での放送番組の録音録画に関する権利制限につき、1988年著作権、意匠及び特許法が改正された。このうち図書館の活動については、(1)図書館、文書館、博物館及び教育機関の施設内の端末を通じてのデジタル化された所蔵資料の利用(第40B条の新設)、(2)他の図書館に著作物全体の複製物を提供できる著作物の範囲の拡大(第41条の改正)、(3)代替複製物の作成範囲の拡大(第42条の改正)、(4)図書館員による利用者への発行された著作物の複製物1部の提供(第42A条の新設)及び(5)司書及びアーキビストによる、未発行の著作物のコピーの範囲の拡大(第43条)の5つがある。

 さらに、2014年5月には、「2014年著作権及び実演の権利(障害者)法」(52)が制定され、1988年著作権、意匠及び特許法について、これまで受益者が視覚障害者に限定されていたのを、すべての種類の障害者に拡大する改正を行っている。

 

(1) CA1528のほか、例えば、南亮一.図書館と著作権 文献レビュー.図書館界. 2010, 61(6), p. 610-622, 同.最近10年間における大学図書館に関係する著作権法の改正の動向について.大学図書館研究. 2011, 93, p. 1-16.等がある。

(2) 平成14年2月15日条約第1号

(3) Commission of the European Communities, Green Paper Copyright and Related Rights in the Information Society, Brussels, 19.07.1995, COM(95)382 final. http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:51995DC0382 [214] (accessed 2014.10.27)邦訳に山本隆司訳.欧州委員会グリーンペーパー(1995年7月19日) 情報社会における著作権および関連権.著作権情報センター,1995.がある。

(4) The Report of theWorking Group on Intellectual Property Rights. http://www.uspto.gov/web/offices/com/doc/ipnii/ipnii.pdf [215], (accessed 2014-10-27). 邦訳に山本隆司訳『米国ホワイトペーパー(1995年9月) 知的所有権および全米情報基盤:知的所有権作業部会報告』著作権情報センター, 1995.12.がある。

(5) Digital MillenniumCopyright Act of 1988.Pub.Law 105-384.

(6) The DIGITAL MILLENNIUM COPYRIGHT ACT OF 1998 U.S. Copyright Office Summary, p.15.
http://www.copyright.gov/legislation/dmca.pdf [216], (accessed 2014-10-27).

(7) http://www.copyright.gov/legislation/s505.pdf [217]. (accessed 2014-10-27)

(8) この規定の内容については、三菱UFJリサーチ&コンサルティング編『コンテンツの円滑な利用の促進に係る著作権制度に関する調査研究』2007.3. http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/chousa_kenkyu.pdf [218],(参照2014-10-27), p. 5-6.を参照。

(9) "Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of the Council of 22 May 2001 on the harmonisation of certain aspects of copyright and related rights in the information society". The European Parliament and the Council of the European Union.

(10) "Council Directive 92/100/EEC of 19 November 1992 on rental right and lending right and on certain rights related to copyright in the field of intellectual property". The Council of the European Communities.

(11) Gesetz zur Regelung des Urheberrechts in der Informationsgesellschaft von 10. September 2003.
同法の日本語による解説記事として、三浦正広. WINDOW2004 EU著作権ディレクティブにもとづくドイツ著作権法改正—2003年9月10日の情報社会における著作権規定に関する法律. コピライト. 2004, 515, p. 26-29.
がある。

(12) Zweites Gesetz zur Regelung des Urheberrechts in der Informationsgesellschaft vom 26. Oktober 2007.
同法の日本語による解説記事として、本山雅弘. ドイツ著作権法改正(第二バスケット)〔前編〕. コピライト. 2008, 562, p. 32-39および同.同〔後編〕. コピライト. 2008, 564, p.23-28.がある。

(13) 法案の審議過程では、大学や学校等の教育機関も含められるべきとの意見があったが、容れられなかったとのことである。渡邉斉志. 図書館サービスの観点からみたドイツにおける著作権法改正(第2バスケット). 日本図書館情報学会誌. 2008, 54(2), p. 132-136. http://ci.nii.ac.jp/naid/110007087474 [219]. のp.133を参照。

(14) Loi n° 2006-961 du 1 août 2006 relative au droit d'auteur et aux droits voisins dans la société de l'information. 同法の日本語による解説記事として、井奈波朋子. WINDOW2006 フランスにおける情報社会指令の国内法化について. コピライト. 2006, 541, p.26-27.がある。

(15) Loi n° 2003-517 du 18 juin 2003 relative à la rémunération au titre du prêt en bibliothèque et renforçant la protection sociale des auteurs. 制定の経緯および内容については、
南亮一. 2003年フランス公共貸与権. 外国の立法. 2004, 222, p. 123-132.を参照。邦訳に同. 図書館における貸与に基づく報酬及び著作者の社会的保護の強化に関する2003年6月18日の法律第2003−517号(抄). 同,p. 133-135. http://ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/222/022206.pdf [220], (参照2014-10-27). がある。

(16) Copyright (Visually Impaired Persons) Act 2002.
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2002/33/pdfs/ukpga_20020033_en.pdf [221], (accessed 2014-10-27).

(17) Part2: Country studies. International report on library and information services for visually impaired people. 2007.5.8, http://archive.ifla.org/VII/s31/pub/FGpart2.htm [222]. (accessed 2014-10-27) のUK, Copyrightの項目を参照。

(18) The Copyright and Related Rights Regulations 1996. http://www.legislation.gov.uk/uksi/1996/2967/made [223], (accessed 2014-10-27).

(19) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング編. 前掲. p. 8-9.

(20) United States Copyright Office. "Report on Orphan Works: A Report of the Register of Copyrights", 2006.
http://copyright.gov/orphan/orphan-report-full.pdf [224], (accessed 2014-10-27).

(21) 報告書提出・公表までの経緯については、三菱UFJリサーチ&コンサルティング編. 前掲. p.9-11. を参照のこと。

(22) United States Copyright Office. "Report on Orphan Works: A Report of the Register of Copyrights", 2006. p. 8.
http://copyright.gov/orphan/orphan-report-full.pdf [224], (accessed 2014-10-27).

(23) 前田健. "アメリカ". 諸外国における著作物等の利用円滑化方策に関する調査研究報告書. 情報通信総合研究所, 2013, p. 111-142. http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/riyou_enkatsuka_houkoku_201303.pdf [225], (参照2014-11-06). のp.140.を参照。

(24) このあたりの経過については、前田.前掲. p.133-137.を参照。

(25) The Section 108 Study Group Report.2008.3. http://www.section108.gov/docs/Sec108StudyGroupReport.pdf [226], (accessed 2014-10-27).

(26) 前田. 前掲. p. 137-139.

(27) この訴訟の内容と経過については、前田. 前掲, p. 118-120. および増田雅史. 講演録:Google Books訴訟と各国のデジタル・アーカイブ政策. コピライト, 2014, 641, p. 2-19. のp. 4-12.を参照。

(28) Office of the register of copyrights. Legal Issues in Mass Digitization: A Preliminary Analysis and Discussion Document. 2011.
http://copyright.gov/docs/massdigitization/USCOMassDigitization_October2011.pdf [227], (accessed 2014-10-27).

(29) 前田. 前掲. p.124.

(30) "Commission Recommendation of 24 August 2006 on the digitization and online accessibility of cultural material and digital preservation (2006/585/EC)". The Commission of the European Communities.

(31) Directive 2012/28/EU of the European Parliament and of the Council of 25 October 2012 on certain permitted uses of orphan works. The European Parliament and the Council of the European Union.

(32) 詳細は、今村哲也. "EUにおける孤児著作物指令".諸外国における著作物等の利用円滑化方策に関する調査研究報告書. 情報通信総合研究所. p. 4-18. 鈴木雄一 ほか. EUにおける電子図書館構想と著作権—孤児著作物問題の検討をかねて—. 情報処理学会研究報告. EIP,[電子化知的財産・社会基盤], 2013, 2013-EIP-62(3), p. 1-8. を参照。

(33) Gesetz zur Nutzung verwaister und vergriffener Werke und einer weiteren Anderung des Urheberrechtsgesetzes vom 1. Oktober 2013.

(34) 経緯や各条文の詳細については、潮海久雄. 権利者不明著作物(ドイツ)の追加調査. 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第2回)2014.10.20, 資料5. http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houki/h26_02/pdf/shiryo_5.pdf [228], (参照 2014-11-05). を参照。

(35) 潮海・前掲. p. 2. を参照。

(36) 詳細については、井奈波朋子. フランス. 情報通信総合研究所・前掲注(23), p. 50-66.、同. 著作物等のアーカイブ化の促進について. 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第2回)2014.10.20, 資料4-1. http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houki/h26_02/pdf/shiryo_4-1.pdf [229]. (参照 2014-11-05)
及び増田, 前掲. p. 14-16.を参照。

(37) Loi n° 2012-287 du 1er mars 2012 relative à l'exploitation numérique des livres indisponibles du XXème siècle.

(38) Projet de loi portant diverses dispositions d'adaptation au droit de l'Union européenne dans les domaines de la propriété littéraire et artistique et du patrimoine culturel, n° 2319, déposé le 22 octobre 2014.

(39) Gowers Review of Intellectual Property. https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/228849/0118404830.pdf [230], (accessed 2014-11-05). 邦訳に、知的財産に関するガワーズ・レビュー—Gowers Review of Intellectual Property—に関する報告書.著作権研究叢書No.20. 著作権情報センター,2010. がある。

(40) Department for Business, Innovation and Skills and Department for Culture, Media and Sport. Digital Britain : Final Report (White Paper, Cm 7650, 2009 ). https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/228844/7650.pdf [231]. (accessed 2014-10-27) 概要については、渡邊一昭. 「デジタル・ブリテン」最終報告書の概要について. http://www.kddi-ri.jp/article/RA2009026 [232], (参照 2014-11-04). を参照のこと。

(41) Digital Economic Act 2010.

(42) 法案では、政府が認可した集中管理団体が「孤児著作物」の利用を許諾する権限を有する条項が定められていたが、法案審議の場において、写真家団体からの異論が取り上げられた結果、この条項が削除された。今村哲也. “イギリス”. 諸外国における著作物等の利用円滑化方策に関する調査研究報告書. 情報通信総合研究所, 2013, p. 19-49. のp. 25-26.を参照。

(43) The Public Lending Right Scheme 1982 (Commencement of Variation and Amendment) Order 2014.

(44) UK PLR extended to audio-books and onsite loans of ebooks. http://www.plr.uk.com/allaboutplr/news/UpdateAudioEbooks.pdfAC [233], (accessed 2014-11-04).

(45) Digital Opportunity A Review of Intellectual Property and Growth. https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/32563/ipreview-finalreport.pdf [234], (accessed 2014-11-04).

(46) The Government Response to the Hargreaves Review of Intellectual Property and Growth, 2011. 8.
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/32448/11-1199-government-response-to-hargreaves-review.pdf [235], (accessed 2014-11-04).

(47) Enterprise and Regulatory Reform Act 2013.

(48) 制度の詳細は、今村哲也. 孤児著作物に関連するEUおよび英国の状況. 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第2回)2014.10.20, 資料3. http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houki/h26_02/pdf/shiryo_3.pdf [236], (参照2014-11-05). を参照

(49) The Copyright and Rights in Performances (Extended Collective Licensing)Regulations 2014.およびThe Copyright and Rights in Performances (Licensing of Orphan Works) Regulations 2014.の2本である。

(50) UK opens access to 91 million orphan works. https://www.gov.uk/government/news/uk-opens-access-to-91-million-orphan-works [237], (accessed 2014-11-04).

(51) The Copyright and Rights in Performances (Research, Education, Libraries and Archives) Regulations 2014.

(52) The Copyright and Rights in Performances (Disability) Regulations 2014.

 

[受理:2014-11-20]

 


南亮一. 欧米における図書館活動に係る著作権法改正の動向. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1838, p. 22-26.
http://current.ndl.go.jp/ca1838 [238]

Minami Ryoichi.
Trends of Reform of Copyright Law for Libraries in Europe and the United States of America.

  • 参照(11714)
カレントアウェアネス [7]
動向レビュー [43]
著作権法 [239]
ドイツ [240]
フランス [241]
米国 [242]
英国 [243]
欧州 [244]

CA1839 - Akoma Ntoso :法令・議会情報のためのXMLスキーマ / 澤田大祐

PDFファイルはこちら [245]

カレントアウェアネス
No.322 2014年12月20日

 

CA1839

動向レビュー

 

Akoma Ntoso:法令・議会情報のためのXML スキーマ

調査及び立法考査局調査企画課連携協力室:澤田 大祐(さわだ だいすけ)

 

 本稿では、法令・議会情報を記述するためのXMLスキーマ、Akoma Ntoso(1)について、開発の経緯と目的、EUを中心とした最新の状況について取り上げる。紙幅の都合上、技術的な詳細にまで言及することはできないが、ぜひ脚注に示したWebページ等を参照していただきたい。

 

【Akoma Ntosoとは】 

 2004年から2005年にかけて、国際連合経済社会局(United Nations Department of Economic and Social Affairs)は、「アフリカにおける議会情報システムの強化」と題するプロジェクトを行った。立法技術の向上や議員活動の活性化、一般市民による議会情報へのアクセスの向上にICT技術を使うことを通じて、アフリカ諸国の民主的な政治を支援するというこのプロジェクトは、2005年12月の全アフリカ議会の決議によって「Africa i-Parliament Action Plan」(2)と名前を変え、その後も引き続き行われることとなった。

 このプロジェクトの中で技術的側面から重要な役割を果たしているのが、Akoma Ntosoである。Akoma NtosoのXMLスキーマ(以下、単にAkoma Ntosoと書いて、このXMLスキーマを指すこととする)と、文書の一意性を確保するためのURI命名規則、法案起草のためのガイドラインがセットとして各国で共有されている。  

 ここで注意すべきは、Akoma Ntosoが書誌情報だけを記録するのではなく、法令・議会文書そのもの、すなわち全文を書き下すためのスキーマという点である。具体的には、以下の5つを目的としている(3)。

 

(1)共通の文書フォーマットを定めること

 議会審議や裁判手続きなど、これらの分野では文書を扱うことによってプロセスが進められる。Akoma Ntosoは、XMLベースのファイル形式であるOpenDocument Format(4)(E489 [246]参照)に基づいて、議事録や判決文など、様々な種類の法令・議会文書を扱うための構造と文法を定め、これによって法令・議会文書の共有と集約の合理化を図ろうとするものである。

 

(2)データ交換のための共通モデルを定めること

 どの国であれ、どのような言葉で書かれたものであれ、法律や会議録といった法令・議会文書には、それぞれの形式に共通する点がある。Akoma Ntosoは、そこに着目している。つまり、これらの文書の取り扱いが、初めからどの国でも共通の規格に基づいたものであれば、データの共有や横断検索、オープンアクセスに役立つだけでなく、同じシステムを使い回すことで、情報システムに対する開発期間と資金の投資を抑える、言わば「車輪の再発明を防ぐ」という効果も見込めるのである。さらに、文書を当初作成した時のソフトウェアが何らかの理由で失われたとしても、共通の規格に基づいたものであれば、他のソフトウェアを使って編集が可能である。共通の規格に基づいた文書とすることは、文書の長期可用性を確保することにもつながる。

 Akoma Ntosoは、国や言語を問わず、一般的な文書作成ソフトと同様に文書を作成し、画面に表示させ、紙に印刷すること、さらにリンクを張ったり、検索エンジンを使用できたりといった、Web上で扱われる他の文書と何の違いもないモデルを定義している。それだけでなく、言語の違いや、各国ごとにある法的慣習にも対応する拡張性も備えている。

 

(3)共通のデータスキーマを定めること

 Akoma Ntosoが扱う様々な法令・議会文書のうち、主要なものについては、それぞれに見合った文書構造があらかじめ用意されている。Akoma Ntosoを用いて記述されるすべてのXML文書は、<akomantoso>から記述が始まるが、その中で文書の種類を選べるようになっている。例えば法律なら、

 

<akomantoso
xsi:schemalocation="http://docs.oasis-open.org/legaldocml/ns/akn/3.0/CSD03../../Akoma/3.0/ [247] akomantoso30.xsd">
<act>

  (以下、メタデータ、法律名、前文、本文…)

 

議会の会議録であれば、

 

<akomantoso
xsi:schemaLocation="http://docs.oasis-open.org/ [248] legaldocml/ns/akn/3.0/CSD03 ../../Akoma/3.0/ akomantoso30.xsd">
<debate>

  (以下、メタデータ、日時等の情報、発言…)

 

というように、<act>、<debate>、<judgement>など、記述する文書の種類を冒頭に定めて、それに見合った下位のタグを記載していくようになっている。書くべき文書の内容が世界共通であるからこそ、文書のフォーマットを決めておいて、そこに必要事項を埋めていけば、世界共通水準の法令・議会文書が出来上がる、という仕組みである。

 

(4)共通のメタデータスキーマとオントロジー(5)を定めること

 どの国の議会であっても、議事録には開催日時と場所が記載されているだろう。また、どの国の裁判所であっても、判決文には裁判官の氏名が記述されているだろう。それだけでなく、例えば文書の保存年限のような、文書の中身にかかわらず文書そのものが持つべき情報も、法令・議会文書には付き物である。このように、法令・議会文書で当然メタデータとして記述されるべき事項については、Akoma Ntosoでメタデータスキーマが整備されており、さらにオントロジーが用意されている。

 メタデータを記述するタグ<meta>は、8つの下位構造から成るが、その一つである<identification>タグの中で、FRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records)(CA1665 [249]参照)に対応した記述を行うこととなっている。Akoma Ntosoで扱われる文書は、以下のように記述される。

 

<frbrwork> (著作)
当該情報に関する抽象概念(例:2014年法律第1号)

 

<frbrexpression> (表現形)
著作に関する各バージョン(例:起草時原案、英語版)

 

<frbrmanifestation> (体現形)
表現形に関する、電子的あるいは物理的なフォーマット(例:XML形式、PDF形式)

 

<frbritem> (個別資料)
体現形のフォーマットで示される、電子的あるいは物理的実態(例:あるサーバーに置かれたファイル、特定の冊子)

 

 法律の版管理ができることは極めて重要であり、FRBRに基づいた運用とすることでそれを容易にしている。例えば、ある特定の法案が同時に複数の委員会で審議されて手が加えられているような場合であっても、<frbrexpression>に日付やステータスを書き込むことができるようになっている(6)。

 また、オントロジーの語彙は法令の専門家による活用に堪えるものとなっており、さらに各国議会や裁判所のニーズに応じて追加できる拡張性も備えている。

 

(5)引用と相互参照のための共通スキーマを定めること

 Akoma Ntosoの命名規則と文献参照のメカニズムは、永続的に、かつ該当する文書の保存場所を問わずに、特定の文書が一意に参照されることを目指している。あらゆる法令・議会文書がAkoma Ntosoに基づいて記述されていれば、判決文の中で法律にリンクを貼ることも、自国の議会の議事録の中で全アフリカ議会の議事録に言及することも、簡単にできる。さらに、法案の起草や判決文の作成の際にも、過去の事例に簡単にアクセスすることができるようになる。

 

 Akoma Ntosoの実装は、Akoma Ntosoと同様に、国連経済社会局によるアフリカ諸国の議会情報整備支援プロジェクトであるBungeni(7)によって行われてきた。当初は、オープンソースとして開発されていたOpenOffice.org WriterへのアドオンとしてBungeni Writerが開発された(8)が、現在のBungeniはWebベースのものになっている(9)。Akoma Ntosoがオープンスタンダードであるのと同様、Bungeniもオープンソースである。すなわち、オープンスタンダードとオープンソースの両面から、アフリカ諸国議会を支援することで、議会による情報発信が強化され、議会運営の透明性が増し、市民による議会活動への関心と参加が促される、という見立てである。

 

【世界に広まるAkoma Ntoso】

 当初はアフリカ諸国の立法活動を支援するためのAkoma Ntosoであったが、現在では国際標準化の動きが進められており、ヨーロッパ、南米、そしてアジアにまでもその取り組みが紹介されている。

 標準化の主体となっているのは、OASIS(Organization for the Advancement of Structured Information Standards)である。1993年にSGMLの標準化を目的として結成された非営利の業界団体(当時はSGML Openと称した)であるOASISには、世界各国の600を超える業界団体から5,000名を超える会員が参加しており、OpenDocument Formatなど、ビジネス分野を中心とした様々な規格の標準化を行っている。

 2012年、Akoma Ntosoの標準化を検討するための会議体LegalDocumentML Technical Committee(10)がOASISに設置され(11)、各国の企業や大学の研究者が参加した。その成果は、2013年にOASISの手による最初のバージョンである、Akoma Ntoso3.0として公開された。以後も度々微修正が加えられており、現行の最新版は、2014年1月版のCSD08 AN3.0(12)である。2014年末までには、Akoma NtosoはOASISによる公式規格として認証される予定である(13)。

 既に、欧州議会、イタリア元老院(上院)及びチリ議会図書館でAkoma Ntosoを用いたシステムが実装されている。また、ウルグアイ、スイス、ニカラグア、香港、ケニアなど各国・地域の政府機関において、Akoma Ntosoを活用したシステムの構築が進められている(14)。例えば、欧州議会では、Akoma Ntoso を用いたWebベースでの法令等修正管理ツールであるAT4AM(Automatic Tool for AMendments)が、2010年2月から稼働しており、2013年2月には25万件の処理を達成した(15)。2013年3月には、オープンソース化されたAT4AM for Allが公開された(16)が、その開発にはBungeniの開発チームが係わっており、AT4AM for AllはBungeniの派生形の一つとして見ることができる(17)。Akoma Ntosoの当初の目的とは異なり、欧州会議に対して改めて運営の透明性を問題視する必要はないと思われるが、欧州議会にはベンダーロックイン(18)の回避という重要な課題があり、Akoma Ntosoはそのその解決策の一つとして注目されているのである(19)。

 また、2014年3月には、イタリア・ボローニャ大学のパルミラーニ(Monica Palmirani)准教授率いるチームが開発したXML文書エディタLIME(Language Independent Mark-up web Editor)(20)が、オープンソースとして公開された。このエディタではAkoma Ntosoを扱うことが可能になっており、Web上では英語・スペイン語・イタリア語・ルーマニア語・ロシア語の5か国語による体験版を使うこともできる(21)。LIMEに一般的な文書エディタで用いられる形式のファイルを投入すれば、適切なマークアップを施したうえで、HTMLやXML、PDF、EPUBといった、Web上で流通するにふさわしい形式のファイルに簡単に変換することができる。

 さらに、欧州連合の第7次研究枠組み計画(FP7)(22)による資金支援の下で行われる研究プロジェクトEUCases(23)は、より大規模なものである。2013年10月から2年間の予定で開始されたこのプロジェクトでは、構造論的及び意味論的分析を経た上で、EU加盟諸国の多言語から成る法律文書をLinked Open Dataに変換し、EUを統一する法律及び判例法のプラットフォームを作ろうとしている(24)。用いられるXMLスキーマはAkoma Ntosoであり、2014年6月までに詳細な規格解説書がまとめられた(25)。Akoma Ntosoは、将来的な構想であるLegal Semantic Webにも対応し得るものであるとされる(26)。

 一方、米国議会図書館(Library of Congress: LC)もAkoma Ntoso普及の取り組みを進めている。2013年7月、LCは米国政府の懸賞金プロジェクトに関するポータルサイト”Challenge.gov”で、5,000ドルの懸賞金を懸けたプロジェクトを周知した(27)。課題は、Akoma Ntosoを使って、米国議会での指定された4法案をマークアップせよ、というものである(28)。同年10月までに3名から応募があり、マンジャフィコ(Jim Mangiafico)氏が最優秀に選ばれた(29)。

 同年9月には、第2回として、15,000ドルを懸けた募集を行った。英米4つずつ、両国独自のXMLスキーマで書かれた法案を題材に、両国のスキーマをAkoma Ntosoにマッピングするという課題(30)で競った結果、5名の中から第1回と同じくマンジャフィコ氏が第1位として10,000ドルを獲得、第2位のシューレ(Garrett Schure)氏には5,000ドルが贈られた(31)。言うまでもなく、この取組みは単なる懸賞金争いではなく、LCは参加者に対して、Akoma Ntosoの運用に関するフィードバックを求めている。今後LCがAkoma Ntosoを採用したシステムを構築するかどうかは定かではないが、懸賞金プロジェクトは実用化を見据えた動きであろう。

 このように、Akoma Ntosoは、その構想の開始から10年の間に、活用に関する十分な実績を重ねてきた。この取り組みは、国際連合と列国議会同盟(IPU)(32)による「世界電子議会レポート2012」でも取り上げられており(33)、今後も、アフリカや欧州だけでなく、世界各国での法令・議会文書の電子化に少なからず影響を与えるものであると考えられる。

 

【日本の状況は?】

 法令・議会文書のXML化とその活用については、日本でも研究が行われている。例えば、北陸先端科学技術大学大学院の片山らは、平成16年度に開始された21世紀COEプログラム「検証進化可能電子社会」の中で、主要な研究課題の1つとして「法令工学」を提唱した。法令工学とは、「法令がその制定目的にそって適切に作られ、論理的矛盾や文書的問題がなく、関連法令との整合性がとれていることを検査・検証し、法令の改定に対しては、矛盾なく変更や追加削除が行われることを情報科学的手法によって支援することを目的とする学問分野である」と定められている(34)。すなわち、法令文書を、コンピューターがその意味を解釈できるような論理式に変換することで、法令内や複数の法令間で矛盾する記述があればそれを自動的に検出したり、法令に改正があれば他の法令にもその影響が波及するかどうかを自動的に調べたりできるようにするというものである。法令文を自動的に論理式に変換する研究も行われている(35)。

 名古屋大学の角田は「法制執務の作業を念頭に置いて、立法過程の作業やルール作り一般の作業にITを導入すること」を提案し、これをe-Legislationと呼んでいる(36)。作業過程をシステム化することについて、

  • 法制執務の作業の効率化とその正確性の向上
  • 法令案や条例案の作成の簡易化による、一般市民の政策立案への参加の促進と立法過程に関する手続きの透明化
  • 客観化とデータの共有による、定量的分析のための素材提供
  • 意味構造を反映した形で電子化することによる、制度の流用や輸出の容易化

といった長所を挙げている(37)。

 これらの例のように、情報工学の観点から法情報の整備や法令執務の支援を行おうとする研究は日本にもある。わかりやすく、また誰が読んでも誤解することなく、さらに既存の法令と矛盾することのない法令文書を作成するには、見出しの文字数から用語の定義、条文の順番、内容に関する細かい解釈に至るまで、しばしば「職人芸」と称される程高いレベルの知識と技術を必要とするものであり(38)、コンピューターによる支援が実現すれば、その効果は大きいだろう。

 また、各種法令・議会文書のテキストデータの公開も進められている。国立国会図書館は、衆参両院事務局と合同で2001年から「国会会議録検索システム」(39)をインターネット公開している。同年から総務省行政管理局は「法令データ提供システム」(40)を公開しているほか、条約(41)や英訳版の法令(42)など、様々な法令文書が政府によってインターネット上で公開されている。地方自治体の条例や、地方議会の会議録も、インターネットでの公開が一般的になりつつあり、その中には単なるPDFファイルの列挙ではなく、何らかの検索システムを備えているものも多い。条例について、前述の角田は、自治体横断的に比較分析を行い、新たに条例の制定を検討する際の参考に使えるシステムを公開している(43)。また、会議録については、音声データの文字起こしからWebでの公開をパッケージとして販売しているベンダーもある。

 しかし、本稿の執筆にあたって筆者が調査した限りでは、日本でAkoma Ntosoを活用した法令・議会文書のXML化の取り組みは見つからなかった。法令・議会文書の記述について標準化されたXMLスキーマが用いられていなければ、たとえXMLで記述されているとしても、その書き方はシステムごと・研究者ごとにバラバラになってしまう。もし日本のあらゆる法令・議会文書が特定のXMLスキーマに基づいて管理されていれば、横断検索のみならず、実務的にも学術的にも大きく発展することが期待できる。もちろん、その時にAkoma Ntosoが役立てられるのであれば、まずは日本の法令・議会文書のいくつかをAkoma Ntosoで書いてみるなど、検討が必要である。

 今後、Akoma Ntosoは日本でも普及が進むのだろうか。日本における法情報学の研究成果が、Akoma Ntosoを用いて世界的に発信されることはあるのだろうか。動向が注目される。

 

(1) 西アフリカに住むアカン族の言葉で、理解と同意の象徴とされる「結ばれたハート」を意味する。また、Architecture for Knowledge-Oriented Management of Any Normative Texts using Open Standards and Ontologiesの略でもある。
Palmirani, Monica et al. “Akoma-Ntoso for Legal Documents”. Legislative XML for the Semantic Web. Sartor, Giovanni et al. Dordrecht, Springer, 2011, p. 75.
United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Akoma Ntoso”.
http://www.akomantoso.org/ [250], (accessed 2014-10-22).

(2) United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Africa i-Parliaments”.
http://www.parliaments.info/ [251], (accessed 2014-10-22).

(3) United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Akoma Ntoso in detail”. Akoma Ntoso.
http://www.akomantoso.org/akoma-ntoso-in-detail/referencemanual-all-pages [252], (accessed 2014-10-22).

(4) ワードプロセッサや表計算、プレゼンテーションなどのオフィスソフト用ファイルフォーマット。特定のベンダーに依存しないオープンフォーマットである。

(5) 知識を共通の認識に基づいて体系化、形式化し、計算機で扱うことができるように記述したもの。(CA1598 [145]参照)

(6) Palmirani, Monica. “Legislative Change Management with Akoma-Ntoso”. Legislative XML for the Semantic Web. Sartor, Giovanni et al. Dordrecht, Springer, 2011, p. 118-128.

(7) スワヒリ語で「議院内」の意味。
United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Bungeni”.
http://www.bungeni.org/ [253], (accessed 2014-10-22).

(8) United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Bungeni Editor Alpha release”. Bungeni. 2009-01-13.
http://www.bungeni.org/news/2009-11-04.9569270178/ [254], (accessed 2014-10-22).

(9) United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Documentation and Installation”. Bungeni.
http://www.bungeni.org/setting-up-bungeni/documentation-and-installation/ [255], (accessed 2014-10-22).

(10) Organization for the Advancement of Structured Information Standards. “OASIS LegalDocumentML (LegalDocML) TC”.
https://www.oasis-open.org/committees/tc_home.php?wg_abbrev=legaldocml [256], (accessed 2014-10-22).

(11) United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Akoma Ntoso on the path to becoming a fully recognised international standard”. Akoma Ntoso. 2012-02-13.
http://www.akomantoso.org/rss-manager/akoma-ntoso-on-the-path-to-becoming-a-fully-recognised-international-standard/ [257], (accessed 2014-10-22).

(12) CSDはCommittee Specification Draftの略。United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “Differences from previous releases”. Akoma Ntoso.
http://www.akomantoso.org/release-notes/akoma-ntoso-3.0-schema/differences-from-previous-releases/ [258], (accessed 2014-10-22).

(13) Legal XML | Akoma Ntoso. The EUCases Project Newsletter. 2014, (2), p. 4.
http://eucases.eu/fileadmin/EUCases/documents/EUCases_Newsletter_2_Final.pdf [259], (accessed 2014-10-22).

(14) Robert C. Richards, Jr. “Palmirani: Akoma Ntoso Implementations”. Legal Informatics Blog. 2014-01-27.
http://legalinformatics.wordpress.com/2014/01/27/palmirani-akoma-ntoso-implementations/ [260], (accessed 2014-10-22).

(15) European Parliament. “AT4AM reached 250.000 amendments!”. AT4AM for All. 2013-02-06.
http://www.at4am.org/news/2013/02/26/achievement/ [261], (accessed 2014-10-22).

(16) European Parliament. “AT4AM for All”.
http://www.at4am.org/ [262], (accessed 2014-10-22).

(17) United Nations Department of Economic and Social Affairs (UNDESA). “AT4AM for ALL, the web editor for amending legislation of the European Parliament is released in Open Source”. Bungeni. 2013-04-01.
http://www.bungeni.org/news/at4am-for-all-the-web-editor-for-amending-legislation-of-the-european-parliament-is-released-in-open-source/ [263], (accessed 2014-10-22).

(18) ある特定のベンダーの独自仕様のシステムやサービスを採用したことによって、他のベンダーが提供する同種のシステムやサービスへの乗り換えが困難になる現象。

(19) Hillenius , Gijs. “New MEPs urge building links to open source communities”. Joinup. 2014-07-16.
https://joinup.ec.europa.eu/community/osor/news/new-meps-urge-building-links-open-source-communities/ [264], (accessed 2014-10-22).

(20) TEI、LegalRuleMLの各メタデータスキーマにも対応する。

CIRSFID, University of Bologna. “LIME | Language Independent Markup Editor”. http://lime.cirsfid.unibo.it/ [265], (accessed 2014-10-22).

(21) CIRSFID, University of Bologna. “LIME | Language Independent Markup Editor”.
http://lime.cirsfid.unibo.it/demo-akn/ [266], (accessed 2014-10-22).

(22) 大磯輝将. “研究開発政策―新リスボン戦略とFP7―”. 拡大EU : 機構・政策・課題. 国立国会図書館調査及び立法考査局. 国立国会図書館, 2007, p. 224-239.
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/document/2007/200705/224-239.pdf [267], (参照 2014-10-22).

(23) EUCases. “EUCASES”. http://eucases.eu/start/ [268], (accessed 2014-10-22).

(24) EUCases. “About the project”. EUCases.
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(25) EUCases. “D2.2: Legal XML Schema”. EUCases.
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(26) Legal XML | Akoma Ntoso. The EUCases Project Newsletter. 2014, (2), p. 4.
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http://eucases.eu/fileadmin/EUCases/documents/EUCases_Deliverable_1_1_submitted.pdf [271], (accessed 2014-10-22).

(27) Gheen, Tina. “Library of Congress Announces First Legislative Data Challenge”. In Custodia Legis: Law Librarians of Congress. 2013-07-16.
http://blogs.loc.gov/law/2013/07/library-of-congress-announces-first-legislative-data-challenge/ [272], (accessed 2014-10-22).

(28) ChallengePost. “Rules | Markup of US Legislation in Akoma Ntoso”. ChallengePost.
http://akoma-ntoso-markup.challengepost.com/rules/ [273], (accessed 2014-10-22).

(29) Mangiafico, Jim. “Four US Legislative Documents in Akoma Ntoso”. ChallengePost. 2013-10-31.
http://akoma-ntoso-markup.challengepost.com/submissions/18344-four-us-legislative-documents-in-akoma-ntoso [274], (accessed 2014-10-22).

(30) ChallengePost. “Rules | Legislative XML Data Mapping”. ChallengePost.
http://legislative-data-mapping.challengepost.com/rules/ [275], (accessed 2014-10-22).

(31) Library of Congress. “Library of Congress Announces Legislative Data Challenge Winners”. News from the Library of Congress. 2014-02-25.
http://www.loc.gov/today/pr/2014/14-026.html [276], (accessed 2014-10-22).

(32) Inter-Parliamentary Union(IPU)。1889年に設立された、166か国の議会から成る国際組織。国際連合経済社会局と列国議会同盟は、2005年に「議会におけるICTグローバルセンター」(Global Centre for ICT in Parliament)を立ち上げた。

(33) Global Centre for ICT in Parliament. “From Paper Documents to Digital Information: Managing Parliamentary Documentation”. World e-Parliament Report 2012. New York, United Nations, 2012, p. 100-110.
http://www.ictparliament.org/sites/default/files/wepr2012_-_chapter5.pdf [277], (accessed 2014-10-22).
中井万知子. 電子議会(e-Parliament)の進展―「世界電子議会レポート2012」からの概観―. レファレンス. 2013, (746), p. 24-25.
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8098955_po_074601.pdf?contentNo=1 [278], (参照 2014-10-22).

(34) 片山卓也編. 法令工学の提案. 2007, p. 13, (COE Research Monograph Series, 2).
https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/bitstream/10119/4497/1/COE-Research-vol2.pdf [279], (参照 2014-10-22).

(35) 島津明. 法令工学: 安心な社会システム設計のための方法論―法令文書の解析を中心に―. Fundamentals Review. 2012, 5(4), p. 322-328.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/essfr/5/4/5_4_320/_pdf [280], (参照 2014-10-22).

(36) 角田篤泰. e-Legislationの構想―情報処理としての立法過程―. 名古屋大學法政論集. 2011, (241), p. 1.
http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/bitstream/2237/15904/1/Y001_kakuta.pdf [281], (参照 2014-10-22).

(37) 角田篤泰. e-Legislation環境の構築へ向けて―情報科学を応用した立法過程の作業支援―. 情報ネットワーク・ローレビュー. 2012, (11), p. 15.

(38) 角田篤泰. e-Legislationの構想―情報処理としての立法過程―. 名古屋大學法政論集. 2011, (241), p. 5.
http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/bitstream/2237/15904/1/Y001_kakuta.pdf [281], (参照 2014-10-22).

(39) “国会会議録検索システム”. 国立国会図書館.
http://kokkai.ndl.go.jp/ [282], (参照 2014-10-22).

(40) “法令データ提供システム”. 総務省行政管理局.
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi [283], (参照 2014-10-22).

(41) “条約データ検索”. 外務省.
http://www3.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/index.php [284], (参照 2014-10-22).

(42) “日本法令外国語訳データベースシステム”. 法務省.
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/ [285], (参照 2014-10-22).
外山勝彦ほか. 日本法令外国語訳データベースシステムの設計と開発. 情報ネットワーク・ローレビュー. 2012, (11), p. 33-53.

(43) “eLen条例データベース”. 名古屋大学大学院法学研究科附属法情報研究センター.
http://elensv.law.nagoya-u.ac.jp/project/elen/ [286], (参照 2014-10-22).

 

[受理:2014-11-17]

 


澤田大祐. Akoma Ntoso :法令・議会情報のためのXMLスキーマ. カレントアウェアネス. 2014, (322), CA1839, p. 28-32.
http://current.ndl.go.jp/ca1839 [287]

Sawada Daisuke.
Akoma Ntoso : XML Schema for Legal Documents.

  • 参照(8416)
カレントアウェアネス [7]
動向レビュー [43]
政府情報 [288]
メタデータ [289]
オープンソース [290]

No.321 (CA1827-CA1832) 2014.09.20

  • 参照(6782)

No.321の表紙 [291]と奥付 [292](PDF)

CA1827 - ウェブスケールディスカバリと日本語コンテンツをめぐる諸課題―海外における日本研究の支援を踏まえて / 飯野勝則

 

PDFファイルはこちら [293]

カレントアウェアネス
No.321 2014年9月20日

 

CA1827

 

 

ウェブスケールディスカバリと日本語コンテンツをめぐる諸課題
―海外における日本研究の支援を踏まえて

佛教大学図書館:飯野勝則(いいの かつのり)

 

 

1.はじめに

 日本におけるウェブスケールディスカバリ(Web Scale Discovery、以下WSD)は、学術情報を統合的に検索するツールとして、大学図書館において着実に普及しつつある(CA1772参照)。しかし、検索対象となる日本語コンテンツの収録状況は、英語コンテンツに比して、未だ十分なものとは言い難い。従って、WSDにおける日本語コンテンツを充実させることは、利用者ニーズに直面する国内のWSD導入館にとって喫緊の課題であることは間違いない。一方で、WSDのセントラルインデックスを有するという特性(CA1772参照)を勘案するに、日本語コンテンツの充実がもたらす効果は、国外にも広く波及することが予想される。本稿ではこの状況を巡る諸課題について、関係するベンダーの方々へのヒアリングや国内外のWSD導入館との意見交換で得られた知見をもとに、改めて考えてみたい。

 

2.BIG4における日本語コンテンツの現状

2.1 日本語コンテンツの収録状況

 WSDには、OCLCのWorldCat Local (1)、ProQuest社のSummon(2)、EBSCO社のEBSCO Discovery Service(3)、Ex Libris社のPrimo Central(4)という、通称BIG4とよばれる、海外ベンダーによる代表的製品が存在する(5)。2014年6月末現在、WSDの国内導入館は総計で80館ほどと推定される。また日本語コンテンツに着目すると、CiNII Articles(NII-ELS)、JAIRO、国立国会図書館雑誌記事索引、J-STAGEといった公的な性格が強く、利用者の需要も旺盛なデータベースに関しては、各WSDに既に収録を済ませているか、収録に向けた動きを見せる状況となっている。商用データベースでは、JapanKnowledge Lib、magazineplus、医中誌Webなどが同様の状況にあるが、どちらかと言えば例外的である。たとえば利用者のニーズが大きい朝日、読売、毎日といった新聞データベースは、全く収録されていない。

 

 

2.2 WSDに収録されたメタデータの言語別割合

 WSDに収録されたメタデータに関し、例として佛教大学図書館のSummonを用いて、言語別の割合を調査した。その結果、上位5言語のメタデータ件数と割合は以下のようになった。すなわち、(1)英語7 億7,060万件(78%)、(2)ドイツ語8,530万件(8.5%)、(3)中国語4,470万件(4.5%)、(4)日本語3,500万件(3.5%)、(5)スペイン語1,300万件(1.3%)、である(2014年6月20日現在)。英語のメタデータ件数が群を抜いている一方、他の言語のメタデータ件数は相対的に少ない。日本語は第4番目に位置するものの、その割合は全体の3.5% に過ぎない状況である。

 

2.3 WSDへの収録が進まない要因

 筆者が複数のコンテンツベンダーと各WSDベンダーにヒアリングしたところによると、コンテンツベンダーの視点からは、WSDへのコンテンツ提供について、懸念や困惑を抱かせるような各種の阻害要因が存在する。これらの要因を類型化すると以下のようになる。

(1)心理的要因

 海外に拠点を置くWSDベンダーとのやり取りに拒否感を持ったり、WSDに検索をさせることで、その下風に立つことになりはしないかといった不安感が該当する。

(2)ライセンス的要因

 海外に拠点を置くWSDベンダーと契約書を交わす段階での管轄裁判所の設定や、契約を解除した場合のメタデータの処分方法など、法理面での懸念が該当する。

(3)技術的要因

 運営するデータベースが、WSDとの間で、データを効率的に連携するための仕組みを持っていなかったり、コンテンツの一次情報のURLがパーマネントでないといった点で、連携が技術的に困難である場合がある。

(4)ビジネス的要因

 WSDに二次情報データベースのコンテンツを提供した場合、運営するデータベース本体へのアクセスが減少することが予想されるが、それを理由に本体のデータベースが解約されるのではないか、との懸念を持つ場合がある。また、データベースの価格体系を同時アクセス数によって決定している場合、WSDに提供したコンテンツへのアクセス状況を制御することができないことから、ビジネスモデルの構築に行き詰まる場合がある。

 これらの要因はコンテンツベンダーがWSDが何たるかを認知して、初めて生じる問題でもある。しかし、今回のヒアリング時には、WSDベンダーから「コンテンツベンダーにおけるWSDの認知度が低く、折衝しにくい場合がある」との声も寄せられており、現実には、必ずしも全てのコンテンツベンダーがWSDを認知しているわけではない。

 

3.図書館がとるべきアクション

3.1 コンテンツベンダーへのアプローチ

 前章の状況を踏まえると、WSDにおける日本語コンテンツの収録が進展するためには、(A)コンテンツベンダーにおいてWSDの認知が深まることが必要であり、その上で、(B)WSDへのコンテンツ提供に関する阻害要因の克服が必要となると考えられる。

 現状、WSDへの日本語データベースの収録は、初めに図書館からWSDベンダーに要望が出され、その要望をうけたWSDベンダーがコンテンツベンダーと折衝するという流れが一般的である。しかしコンテンツベンダーにとって、WSDベンダーは、直接の顧客ではなく、影響力には限界がある。それゆえ、図書館が問題解決に向けて、積極的に関与してくことが望ましいと考える。たとえば(A)については、図書館がコンテンツベンダーに対し、直接WSDが何たるかを伝え、積極的に認知度を上げていくといった努力が求められるだろう。一方、(B)については、コンテンツベンダーの懸念を払拭できるような提案やアドバイスを行っていくことが必要となる。とくに阻害要因のうち、コンテンツベンダーの収益確保に絡む、「ビジネス的要因」に類型化される事象については、顧客の立場から、WSDに適したビジネスモデルを提案するなど積極的な関与を行うことが有効であろう。

 

3.2 ビジネスモデルの提案

 実のところ、ビジネスモデルの提案といっても、それほど難しく考える必要はない。国内外を問わず、WSDにおけるコンテンツベンダーのビジネスモデルの事例は増え続けている。図書館は顧客として、コンテンツベンダーに対し、適切な事例紹介を行うことで、十分にその役割を果たすことができる。

 たとえば2.3(4)で言及した「データベースの解約の恐れ」に対しては、「本体解約後には、WSDでのコンテンツ利用は一切できなくなる」ような契約を締結すれば、本体のアクセスが減っても、契約解除にはつながらないとアドバイスできる。そのほか、同時アクセス数による価格体系で運用するデータベースについては、「WSDでの使用料」を見込んだ価格体系を作ってはどうかという提案を行うこともできる。

 また、WSDへのコンテンツ提供が、ビジネスの拡大につながる要素を持っていることもアピールする必要があるだろう。とくに一次情報データベースであれば、WSDを通じたアクセスの増加により、図書館側で、同時アクセス数を増やそうという動きが出てくる可能性もある。更に、WSDのセントラルインデックスを通して、日本のみならず、諸外国の図書館でコンテンツが検索され、目にさらされるようになることで、データベースの知名度が高まることも期待できる。これは海外からの新規の問い合わせや、契約に結び付く要素となるだろう。

 今後、図書館はWSDにおけるビジネスモデル情報のハブとして、コンテンツベンダー、WSDベンダー、各種代理店の橋渡しを行い、WSDにおける日本語コンテンツの収録促進に寄与していくことが望ましいと考える。

 

4.WSDにみえる海外日本研究の危機

 WSDにおける日本語コンテンツの貧弱さは、海外、とくにWSDが普及した米国において危機的状況を招いている。例として、以下に米国ミシガン大学図書館のSummonで2014年5月30日に、『枕草子』を検索した場合の上位7レコードの内容を示す。なお、この時点でのヒットレコードは144件であった。

 

図1 『枕草子』の上位7レコード(協力:ミシガン大学図書館 横田カーター啓子氏、2014-05-30)
表示順 言語 コンテンツタイプ 作者 レコードタイトル 図書/雑誌/叢書名等
1 中国語 雑誌論文 清少纳言[日] 枕草子 视野
2 中国語 雑誌論文 清少纳言[日] 枕草子 文苑
3 中国語 雑誌論文 宋茜茜 《枕草子》与《浮生六记》中“趣”之比较 华北水利水电学院学报:社会科学版
4 日本語 電子ブック   枕草子 新編日本古典文学全集
5 日本語 参考文献   枕草子 日本大百科全書
6 中国語 雑誌論文 涂云帆 又宁静又美好——《枕草子》读书小记 小溪流:成长校园
7 中国語 雑誌論文 姚继中林茜茜 日本文学理念(五)「枕草子」之和雅——「をかし」 日语知识

 

 WSDの収録コンテンツは膨大であることから、上位に適切な検索結果が表示されることは重要である。ところが、ここでは日本文学を代表する『枕草子』の検索結果であるにも関わらず、日本語レコードは2件しか含まれていない。また上位3レコードはすべて中国語のコンテンツとなっている。このような状況が生じた理由は以下のようなものである。

(1)中国語データベースは有償のため、図書館において「購読」の意識があり、WSDの検索対象に設定する作業が行われていたが、国立国会図書館雑誌記事索引に代表される、日本語のオープンアクセス形式のデータベースには、図書館側に「購読」の意識がなく、WSDの検索に設定する作業が全く行われていなかった。

(2)日本におけるWSDにおいては、おおむね日本語コンテンツが優先的に表示される設定になっているが、海外においては、純粋にメタデータの内容のみで「関連度」が判断されるため、貧弱なメタデータは下位に埋もれがちになる。中国語コンテンツの場合、日本語コンテンツに比べ、抄録や本文テキストデータを含む、エンリッチメントされたメタデータになっていることが多く、「関連度」の分析により、上位に表示される傾向が強い(6)。

 実のところ、(1)については、WSDの検索の対象に日本語コンテンツを設定するという、必要最低限の対応に過ぎない。このため、その効果は限定的である。図2に、この設定作業を行った後の2014年6月26日の検索における、上位7レコードを示す。なおヒットレコード件数は1,723件である。

 

図2 『枕草子』の上位7レコード(協力:ミシガン大学図書館 横田カーター啓子氏、2014-06-26)
表示順 言語 コンテンツタイプ 作者 レコードタイトル 図書/雑誌/叢書名等
1 中国語 図書 清少纳言著 周作人译 枕草子 苦雨斋译丛
2 中国語 雑誌論文 清少纳言[日] 枕草子 视野
3 中国語 雑誌論文 清少纳言[日] 枕草子 文苑
4 中国語 雑誌論文 宋茜茜 《枕草子》与《浮生六记》中“趣”之比较 华北水利水电学院学报:社会科学版
5 日本語 図書 清少納言作,バラエティ・アートワークス漫画 枕草子 まんがで読破
6 日本語 図書 坂本和子 朗読,田辺聖子 解説 枕草子 新潮CD
7 日本語 電子ブック   枕草子 新編日本古典文学全集

 

  検索結果のトップレコードに変化が見られ、また日本語のレコードが増えたものの、依然として上位の3レコードは中国語のままである。

 米国の大学は、日本研究の拠点として長く知日派を排出する揺籃となってきたと筆者は考える。しかし、米国のWSDにおいて、日本語での検索にも関わらず、検索結果に日本の学術情報が出現しなかったり(7)、他のアジア諸国のコンテンツに埋もれるという現状が続けば、日本研究の将来は相当危ういものになるだろう。とくに日本研究の中心となる、日本語の人文社会系の学術誌の電子化が、遅々として進んでいない現状を踏まえると(8)、その事態は非常に深刻である。

 

 

5.おわりに

 WSDに日本発のコンテンツの収録を推し進めることは、日本国内のエンドユーザに対するサービスの向上にも直結する、重要な課題であるのみならず、世界的な学術情報流通の枠組みのなかでも大きな意味を持つ。本稿では、WSDにおける日本語コンテンツの収録を加速するために、図書館がとるべきアクションについて述べたが、今後は人文社会系日本語コンテンツの電子化促進やメタデータのエンリッチメントをどう行うのかという課題も検討する必要がある。また本稿では言及していないが、グローバルな視点に立てば、理工系の英語のコンテンツも、日本の技術立国としての地位を担保するために収録の促進が求められる(9)。日本の政府・学術関係者には、WSDが海外の研究者や学生に与える広報効果や影響力を正確に認識して、WSDに向き合う姿勢が求められるのではないだろうか。

 

(1) “WorldCat Local”. OCLC.
http://www.oclc.org/en-asiapacific/worldcat-local.html [294], (accessed 2014-06-25).

(2) “The Summon Service”. ProQuest.
http://www.proquest.com/products-services/The-Summon-Service.html [295], (accessed 2014-06-25).

(3) “EBSCO Discovery Service”. EBSCO Publishing.
http://www.ebscohost.com/discovery/eds-about/ [296], (accessed 2014-06-25).

(4) “Primo Central Index”. Ex Liblis.
http://www.exlibrisgroup.com/category/PrimoCentral/ [297], (accessed 2014-06-25).

(5) 2014年6月には、米国情報標準化機構(NISO)により、Open Discovery Initiative(ODI)ワーキンググループの最終報告に基づく、WSDの仕様に関する推奨指針も公開された。

(6)たとえばSummonにおいては、ユーザインターフェースで利用する言語のコンテンツが優先的に表示される設定となっている。すなわち日本語の検索画面を利用すれば、日本語が上位に表示されるが、英語の検索画面を利用すると、日本語も中国語も優先されない、ニュートラルな状況となる。またOPACなど、ローカルコンテンツについては、上位に表示される設定となっている。なお「関連度」の判定において、抄録はタイトルに次いで2番目に重要な項目とされており、全文を凌ぐとされている。

(7) なお日本漢字と中国簡体字といった言語を超えた異体字の統合検索も、WorldCat Localを除き十分には対応できていないようである(例:「検索」と「检索」)

(8) 佐藤竜一ほか. J-STAGE新システムが加速する国内学術論文誌の電子化と流通. 情報管理. 2012, 55(2), p. 106-114. https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/55/2/55_2_106/_article/-char/ja/ [298], (参照2014-06-25).

(9) 飯野勝則. 佛教大学図書館におけるウェブスケールディスカバリーSummonの導入効果と課題. 情報管理. 2014, 57(2), p. 99-108.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/57/2/57_99/_article/-char/ja/ [299], (参照 2014-06-25).

 

[受理:2014-08-18]

 


飯野勝則. ウェブスケールディスカバリと日本語コンテンツをめぐる諸課題―海外における日本研究の支援を踏まえて. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1827, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1827 [300]

Iino Katsunori.
Problems Concerning Japanese Database Contents in Web-Scale Discovery Services - From the Viewpoint of the Necessity of Increasing and Enriching Metadata in Japanese.

  • 参照(11886)
カレントアウェアネス [7]
ディスカバリインターフェース [301]
日本 [15]

CA1828 - ドイツにおける、電子ジャーナルの戦略的な供給・流通の動向 / 坂本 拓

PDFファイルはこちら [302]

カレントアウェアネス
No.321 2014年9月20日

 

CA1828

 

 

ドイツにおける、電子ジャーナルの 戦略的な供給・流通の動向

京都大学附属図書館:坂本拓(さかもと たく)

 

はじめに

 かつて冊子体のジャーナルのみを購読し、総合目録により各館の所蔵情報が共有されていた時代に比べ、今日の大学図書館は複雑な問題を多く抱えている。止まることを知らないジャーナルの価格高騰のために図書館の提供する学術基盤は不安定化し、また同時に出版社のビジネスモデルが従来の購読料徴収型からAPC(論文加工料)徴収型へと移行しつつあるため、図書館が関与できない学術情報流通の仕組みができつつある。加えて、以前は図書館が総合目録として管理していた書誌のデータベースが、現在はナレッジベースという形でベンダーの有料商品と化し、所蔵情報(購読情報)が共有されなくなってしまった。このような状況下でドイツでは、(1)電子ジャーナルのナショナル・ライセンス、(2)APCに対する国家的支援、(3)相互分担入力による電子ジャーナルの総合目録といったプロジェクトにより、既に成果を上げている。本稿では、これらドイツの先駆的プロジェクトの詳細を紹介したい。

 

 

1. ドイツの学術情報基盤の背景

 ドイツは16の州から成る連邦国家であり、各州は教育・研究を含む行政・立法分野で非常に大きな独自の裁量権を有しており(1)、大学もほとんどが州立大学である。しかし図書館サービスにおいては、各州内だけで利用者の需要を完全に満たすことができないため、他州と連携することによって、よりマクロな基盤を構築するというネットワークの志向性が伝統的に強かった。一例として、1910年に誕生した特別収集領域制度(Sondersammelgebiete、以下SSG)が挙げられる(2)。これは諸州の大規模図書館が学問分野を詳細に分類した上で自館の担当分類を決め、それに該当する学術資料を網羅的に収集し共有するという制度である。SSGはやや形を変えてはいるが、今日も存続している。

 また国全体としての戦略が要求される重要な案件については、これまでドイツ研究振興協会(以下DFG)のイニシアティブによって多くが推進されてきた。DFGは、ドイツ国内の研究者によって構成され、予算のほぼ全てを連邦政府と州政府から支給されてはいるが、完全に独立して研究者の公益のために研究プロジェクトへの助成やドイツ国内の研究インフラへの資金提供を、ピア・レビューに基づき行っている研究者の自治組織である。次章以降紹介するプロジェクトも全てDFGの支援によるものである。

 

2. 電子ジャーナルのナショナル・ライセンス

2.1 Nationallizenzen

 ドイツでは2004年から2010年までの間、DFGの全面援助によりNationallizenzen(以下ナショナル・ライセンス)が実施された。これは、主に電子ジャーナルのバックファイル、データベース、電子ブックの3種のコンテンツの恒久アクセス権を国として買い取り、国内の大学・研究所の所属者、そして学術に関心がありIDを申請した国民が、自由にアクセスできるようにしたものである。購読するタイトルの選定および出版社との交渉は、SSG担当館が行ってきた (3) 。

 

2.2 Alienz-lizenzen

 ナショナル・ライセンスは、1日あたり最大で73,000アクセスがあり(4)、重要な学術情報基盤となったと言える。しかし自然科学分野の研究者から、通常5年から10年前のコンテンツしか含んでいないバックファイルだけでなく、電子ジャーナルの最新の契約対象巻号(以下カレント分)もナショナル・ライセンスとして利用したいとの要望が強まり、2006年から、DFG主導によりカレント分のナショナル・ライセンス化の可能性について検討が開始された。そして2008年から2010年までの2年期限で、上記検討内容を実装するためのパイロット・プロジェクトNationallizenzen für laufende Zeitschriften(以下NLZ)が実施された。

 当初このNLZのパートナーとして、世界シェアで上位4位に入る大手出版社のうち2社にDFGがヒアリングを行ったが、非現実的な金額であったために断念し、代わりにOxford University Press、Sage、Annual Reviewsといった中堅規模の出版社およびRoyal Society of Chemistry、American Institute of Physicsといった学協会の計12社をパートナーとすることとした(5)。そしてこれら出版社との交渉・協議については、DFGとともに、すでに電子ジャーナル・データベースの契約について多大な経験を有している、バイエルン州立図書館、技術情報図書館、ゲッティンゲン大学図書館等の7館がドイツ語圏コンソーシアムGASCO(German, Austrian and Swiss Consortia Organisation)の代表として担当した。ここで少しドイツのコンソーシアムについて紙幅を割きたい。ドイツでの電子ジャーナルの契約については、基本的には各州でコンソーシアムが組まれ出版社と交渉が行われている。そしてドイツの16州のコンソーシアムとドイツ語圏国家であるオーストリアのKooperation E-Medien ÖsterreichおよびスイスのKonsortium der Schweizer Hochschulbibliothekenを含めたGASCOというコンソーシアムが結成されており(6)、NLZに参加している上記7館は、このGASCOで中心的な役割を担っている大規模図書館である。これら7館と12出版社の間での検討が終了し、2011年からナショナル・ライセンスの後継にあたるAlienz-lizenzen(以下アライアンス・ライセンス)がスタートした(7)。

 アライアンス・ライセンスは、ナショナル・ライセンスのように契約した全コンテンツに無条件で全大学・研究機関がアクセスできるものではなく、上記12出版社のカレント分の購読に参加する意思表示をした機関だけが、そのアクセス権を獲得できるオプト・イン形式になっている。しかし例えば3年契約のうち初年度が終了し2年目に入ったタイトルについては、その初年度分のコンテンツがナショナル・ライセンスと同様のアクセスが可能になる“Moving Wall”というシステムが取られている。出版社側でパッケージ化された5年から10年ほど前のバックファイルにしかアクセスできなかった状況に比べ、1年遅れとは言えカレント分に全大学・研究機関がアクセスできる利点は非常に大きいと言えるだろう。またDFGからの援助が全額ではなく25%のみとなった点もナショナル・ライセンスとの大きな違いである。さらに、アライアンス・ライセンス参加機関の著者が上記出版社に投稿した論文については、エンバーゴ無しで機関リポジトリでのオープンアクセス(以下OA)を認めさせた、という点も重要な成果と言える(8)。2014年度契約実績としては、電子ジャーナル10パッケージ、データベース5、電子ブック1セットとなっている(9)。

 

3. APCの国家的支援プロジェクト“Open Access Publizieren”

3.1プロジェクトの概要

 DFGは“Open Access Publizieren” というAPC支援専用のプロジェクトを2010年から5年期限で実施している。概要としてはドイツ国内の研究者がOAジャーナルに論文を投稿した際、そのAPCの75%をDFGが援助するというものである(10)。

 このプロジェクトは、複数の研究者からAPC専用の助成プログラムを創設するようDFGに要望がよせられたことが契機となりDFG内で審査が始まった。APC支援のプロジェクトを創設すること自体は決定されたが、その支援を研究者個人に直接行うのか、所属機関を介して間接的に行うのかで議論が分かれ、最終的に後者が選択された。これは、飽くまでもAPC援助を行う主体は研究者の所属機関であり、DFGは各機関がそのためのAPC財源を確立するまでの間の援助を行うにすぎない、という方針をとったことを意味する(11)。

 DFGによる支援の対象となる論文の条件は、APCがおおよそ平均的な金額である2,000ユーロ以下の論文であること、そして「純粋なOAジャーナル」への投稿論文であること(12)、という2点である。支援の実績としては、2012年度21の大学に1,300万ユーロの援助が行われた (13) 。

 

3.2明らかになったAPCの課題

 APCの75%がDFGにより援助されるとはいえ、残りの25%を所属機関が負担せねばならず、大規模研究大学の場合は対象論文の絶対数が多くなるため、この25%の財源の確保も容易ではない。ゲッティンゲン大学の場合は、この25%のAPCのために、図書館の既存の購読誌の1部をキャンセルした上で、医学部からの予算提供を受け、学内にOAファンドを創設した。医学部にのみ予算の提供を申し入れたのは、ゲッティンゲン大学のAPC支援対象論文のうち約60%が、医学系研究者によるものであったためである(14)。 

さらに、DFGによるOpen Access Publizieren プロジェクトは2014年末をもって終了し、これ以降各機関の負担率が現在の25%から増大する可能性が高い。外部資金等により予算が比較的潤沢な医学部の場合はまだ対応が容易であろうが、それ以外の学部の研究者のAPC財源を今後学内でどのように確保していくのかという点が最大の課題であると言える。

 

3.3プロジェクトの成果

 2012年の第3者機関による評価では、このプロジェクトにより多くの機関でAPCに対する意識が高まり、OAへと移行する構造が確立されつつある、と高く評価されている(15)。

 また、このAPC援助を2012年度から受けた機関は、年間投稿論文に占めるOA論文の割合が約9%であったが、2010年度から援助を受けていた機関の場合はその割合が約20%と大きく上がっている点からも、このプロジェクトがOAに大きく貢献していると言えるだろう (16) 。

 

4.相互分担入力による電子ジャーナル総合目録

4.1 概要

 電子ジャーナルへの適切なアクセスを実現するため、17年前の1997年から電子ジャーナル総合目録・Elektoronische Zeitschriften Bibliothek (以下EZB)をレーゲンスブルク大学がDFGの支援の下提供している(17)。このEZBは、書誌情報(66,000を超える電子ジャーナルのメタデータ)と(18)、所蔵情報(世界10か国622機関の上記タイトルの購読情報)を内包している、電子ジャーナルの総合目録であり、ナレッジベースである。

 

4.2 EZBの機能

 利用者はEZBから、タイトルのAtoZ、主題分類、キーワード検索の3手段により、ジャーナルを検索することができ、その検索結果一覧には各ジャーナルに信号の「青、黄、赤」のアイコンが表示される。青はOAジャーナル等自由なアクセスが可能なタイトル、黄は有料誌であるが利用者の所属機関が契約しているタイトル、赤は残念ながらアクセス権が無いことをそれぞれ表している。また各ジャーナルの詳細画面では、一般的な書誌情報に加えて出版社の当該誌のサイトへのリンクURL、契約機関一覧表示へのリンクが表示される。2012年のEZB利用実績としては、ジャーナル詳細画面に年間約1,600万アクセスがあった(19)。

 管理面では、全参加館が共有する中央データベースにて、高い頻度で各館が共同で各ジャーナルの書誌情報の確認とメンテナンスを行い、常に最新の状態を保っている。購読情報については各館の責任において更新が行われ、そのためのインターフェイスが用意されている。

 

4.3 EZB発展のプロセス

 17年前、わずか数百タイトルでEZBがスタートしてから現在に至る過程で、成功の最大の要因となったのは2000年からコンソーシアムのパッケージライセンスの管理を実現した点である(20)。個々の雑誌のタイトルのアクセス管理だけでなく、先述のドイツ各州のコンソーシアムが契約しているパッケージについて、一括してEZB管理者が該当するパッケージの契約情報を更新する運用を開始し、これが加盟館の絶大な業務の効率化に繋がった。

 他にも大きな転機となったのは2002年からインターフェイスを英独2か国語対応に変更した点である。これにより東欧諸国の加盟館を獲得し、2003年から米国議会図書館との書誌データの交換も実現させた(21)。また2002年から、アグリゲータ系ツールに含まれる膨大な数の書誌データを獲得したことも非常に大きい(22)。

 サービス面においては、2004年からリンクリゾルバの機能も実現させている。これは、Open URLの技術を用いて、DFGによって構築されている主題データベースから、EZBを介して論文単位での本文へのアクセスを実現させたものである。またEZB内のデータのアウトプット機能も備えており、KBART形式でのデータ出力も可能にしている(23)。

 

おわりに

 ドイツでは電子リソースに関する、先駆的な試みが早い段階から実現されてきた。特筆すべきは、それらが全てDFGという研究者コミュニティによって審査され、推進されてきた点である。昨今日本でも、図書館による研究支援は話題になっているが、図書館によって構築されたサービスの意義について研究者コミュニティから評価を受ける機会は無く、また研究者の総意として必要な情報基盤・サービスについて提案され支援を受ける機会もない。この構造的問題の解決は一朝一夕には行かないが、我々が学術情報の近視眼的な専門家になることなく、できる限り研究者の最新の需要・動向を把握することにも力を割く必要があると思われる。

 

(1) ギーセラ・フォン・ブッセほか. ドイツの図書館 : 現在・過去・未来. 日本図書館協会, 2008, p. 3.

(2) 前掲. p. 70.

(3) “Nationallizenzen Über nationale Lizenzen: DFG geförderte nationale Lizenzen für elektronische Medien Nationallizenzen "Classics" (2004-2010)”. DFG Nationallizenzen.
https://www.nationallizenzen.de/ueber-nationallizenzen/nationallizenzen [303], (accessed 2014-06-30).

(4) “DFG-Nationallizenzen : VHO und Shibboleth”. Gerald Steilen. Mannheim. 2008-06-03/06. Vereins Deutscher Bibliothekare. Berufsverband Information Bibliothek. 2008.
http://www.opus-bayern.de/bib-info/volltexte//2008/585/pdf/nl_vzg.pdf [304], (accessed 2014-06-30).

(5) “Pilotprojekt „Nationallizenzen für laufende Zeitschriften“ (NLZ, 2008-2010)”. DFG Nationallizenzen.
http://www.nationallizenzen.de/ueber-nationallizenzen/weitere-massnahmen#4.1 [305], (accessed 2014-06-30).

(6) “Mitglieder der GASCO”. Hbz.
http://www.hbz-nrw.de/angebote/digitale_inhalte/gasco/mitglieder [306], (accessed 2014-06-30).

(7) “Allianz-Lizenzen Über nationale Lizenzen: DFG geförderte nationale Lizenzen für elektronische Medien Allianz-Lizenzen (2011 ff.)”. DFG Nationallizenzen.
https://www.nationallizenzen.de/ueber-nationallizenzen/allianz-lizenzen-2011-ff [307], (accessed 2016-06-30).

(8) Stöber, Anja. “Open-Access-Rechte in Allianz- und Nationallizenzen : Eine Handreichung für Repository-Manager, Bibliothekare und Autoren”. Bibliothek Forschung und Praxis. 2012, 36(3), p. 364-368.

(9) “Bewilligte Allianz- Lizenzen 2014”. DFG Nationallizenzen.
https://www.nationallizenzen.de/ueber-nationallizenzen/bewilligte-allianz-lizenzen-2014 [308], (accessed 2014-06-30).

(10) “Merkblatt : Open Access Publizieren”. DFG.
http://www.dfg.de/formulare/12_20/12_20_de.pdf [309], (accessed 2014-06-30).

(11) 2013年11月21日、DFGの図書館サービスと情報システム関連プログラムの責任者である Johannes Fournier氏に対して、DFGボン・オフィスにて筆者が行ったインタビューによる。

(12) 購読料徴収型の雑誌に追加料金を支払うことでOAにできる所謂ハイブリッドタイプの論文は、出版社が購読料と投稿料の二重取りを行っている恐れがあるため、対象としていない。

(13) Fournier, Johannes; Weihberg, Roland. Das Förderprogramm»Open Access Publizieren« der Deutschen Forschunggemeinschaft. Zum Aufbau von Publikationsfonds an wissenschaftlichen Hochsculen in Deutschland. Zeitschrift für Bibliothekswesen und Bibliographie. 2013, 60(5), p. 236-243.

(14) 2013年11月20日、ゲッティンゲン大学図書館電子出版部門のチーフである Margo Bargheer氏に対して、現地で筆者が行ったインタビューによる。

(15) Fournier. op. cit.

(16) 2013年11月21日、DFGの図書館サービスと情報システム関連プログラムの責任者である Johannes Fournier氏に対して、DFGボン・オフィスにて筆者が行ったインタビューによる。

(17) “Wir über uns”. Elektoronische Zeitschriften Bibliothek.
http://rzblx1.uni-regensburg.de/ezeit/us.phtml?bibid=AAAAA&colors=7&lang=de [310], (accessed 2014-06-30).

(18) University Library of Regensburg. “Electronic Journals Library Annual Report 2012”.
http://ezb.uni-regensburg.de/anwender/Jahresbericht_EZB_2012engl_1.pdf [311], (accessed 2014-06-30).

(19) Ibid.

(20) Hutzler, Evelinde et al. “EZB - Elektronische Zeitschríftenbibliothek : 10 Fragen von Bruno Bauer an Evelinde Hutzler, Projektverantwortliche für die EZB an der Universitätsbibliothek Regensburg”. Arbeitsgemeinschaft für Medizinisches Bibliothekswesen. 2002, p. 26-30.
http://eprints.rclis.org/6654/1/hutzler.pdf [312], (accessed 2014-06-30).

(21) Penza, Don et al. “E-Journal Access through International Cooperation: Library of Congress and the Electronic Journals Library EZB”. Serials Review. 2004, (30), p. 176-182.

(22) Hutzler, Evelinde. “10 Jahre Elektronische Zeitschriftenbibliothek-Kontinuität und Wandel einer kooperativen Dienstleistung”. Bibliotheksdienst. 2008, 42(2), p. 169-181.

(23) 2013年11月18日、EZB利用部門責任者であるEvelinedeHutzler氏に対して、現地で筆者が行ったインタビューによる。

 

[受理:2014-08-02]

 


坂本拓. ドイツにおける、電子ジャーナルの戦略的な供給・流通の動向. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1828, p. 5-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1828 [313]

Sakamoto Taku.
The Strategic Supply and Distribution of E-Journals in Germany.

  • 参照(10343)
カレントアウェアネス [7]
電子ジャーナル [314]
学術情報流通 [142]
ドイツ [240]

CA1829 - 査読をめぐる新たな問題 / 佐藤 翔

  • 参照(23280)

PDFファイルはこちら [315]

カレントアウェアネス
No.321 2014年9月20日

 

CA1829

動向レビュー

 

査読をめぐる新たな問題

同志社大学社会学部:佐藤翔(さとう しょう)

 

 

1.はじめに:でたらめな「査読」論文

 2014年2月、英Nature誌電子版に衝撃的なニュースが掲載された。SpringerやIEEEが出版している会議録の中に、コンピュータで自動生成された、でたらめな論文が掲載されていたというのである(1)。発見したのは自動生成論文を発見する技術を開発したフランスの研究者、Cyril Labbéで、彼の技術により100本以上の論文が自動生成によるものと特定された。その中には「査読が行われている」としていた会議録に載ったものもあった。

 このような査読制度の信用をゆるがす告発が近年、相次いでいる。研究の質を担保するフィルターとして機能してきた査読に今、何が起こっているのだろうか。

 

2.査読とは:形態と意義

 学術雑誌に論文が投稿されると、編集者は内容を審査するにふさわしい外部の研究者(査読者)に原稿を送り、掲載するに値するか否か判断を仰ぐとともに、改善すべき点や疑問点についてのレポート執筆を依頼する。査読者の判断とレポートを参考に編集者は論文の採否を決定したり、著者に対して査読者からの意見を伝え、修正・再投稿を求めたりする。このような仕組みを「査読」と呼ぶ(2) (3)。

 一般的に、査読にあたっては1論文に対して2名の査読者が指名される。これは1名だけでは意見に偏りが出る場合があるためである。著者は査読者が誰であるかは知らされない一方、査読者は著者名を知ることができる場合が多い(シングル・ブラインド制)。2名の査読者の意見が大きく異なる場合には3人めの査読者に審査を依頼することもあるが、多くの場合、編集者が採否を決定する(4)。

 倉田は査読には二つの側面から意義があると指摘している(5)。一つは投稿された論文を、その分野において適切な、標準的な形式にする機能である。実際に査読前後の論文の内容を比較し、査読後の方が改良されていることを示した研究も存在する(6)。

 もう一つは選別あるいは「質のフィルター」としての役割である。研究活動から産み出された情報・知識について、同じ研究者の目から評価を行い、選別した情報を社会へ配布していくこの機能は、「科学情報の生産と伝達プロセスに欠くことのできないもの」(7)である。査読には後述する問題点もあるため、それに代わる「質のフィルター」構築の提案もいくつも行われてきたが、いずれも実現しておらず(8)、「査読は質の高い学術雑誌を実現するために最も重要かつ効果的なメカニズムである」と言われている(9)。研究者にも査読は支持されており、2008年に行われた研究者を対象とする調査によれば、回答者の85%は査読は学術コミュニケーションにおいて大きな役割を果たしていると考えており、83%は査読なしでは学術コミュニケーションは統制がとれなくなると考えていた(10)。

 

3.従来から指摘されてきた査読の問題点

 一方で、査読には多くの問題も指摘されている。それらの問題点は大きく分けて、(1) コストと時間がかかる、(2) 査読の過程で不正が行われる場合がある、(3) 査読が「質のフィルター」として適切に機能しない場合がある、という三つに分けられる。

 

3.1 査読にかかるコストと時間

 査読には一定のコストと時間がかかる。「研究を開始し、その成果を発表するまでの数千にわたるプロセスからすれば、論文審査に費やす期間はわずかでしかない」(11)とする考えもあったが、研究のタイムスパンがより短くなっている現在、査読にかかる時間への不満は大きい。前述の研究者に対する調査によれば、回答者の38%が「査読に時間がかかりすぎる」ことを不満に感じていた(12)。また、査読者に謝礼が払われることは多くはないが、適当な査読者を探し、やりとりする編集者の雇用にはコストがかかる。さらに言えば、査読者は査読にかかる時間の分、研究のための時間が奪われるわけであり、研究コミュニティ全体の視点に立てば「研究者の時間」というコストがかかっている。

 査読にかける時間・コストの短縮については様々な試みが取られている。PLOS ONEを嚆矢とする、いわゆるオープンアクセス(OA)メガジャーナルで採用された簡易査読はその一つであろう。OAメガジャーナルでは査読者は手続き上の問題点等、研究論文としての要件を満たしているかのみを審査し、その論文の中で示された新たな発見の価値については考慮しないことで査読にかける時間を短縮しようとしている(13)。このような手法は一定の成功を収め、同様の雑誌の創刊も相次いでいる。

 

3.2 査読の過程において行われる不正

 前述の通り、多くの場合査読者に対して謝礼等は支払われず、査読は科学のためのボランティアとして行われている。ただし査読者に全くメリットがないわけではなく、公刊前の情報をいち早く知ることができる点は査読者にとって利益になると指摘されてきた(14)。

 この立場を査読者が悪用しかねない、というのが査読の第二の問題点である。査読の過程で知り得た情報を、その論文が公刊される前に自身の論文中で盗用したり、自身の研究成果を先に発表するために査読結果の提出をわざと引き伸ばす、といった不正の存在はしばしば指摘されている。2005年に発表された研究と発表をめぐる倫理違反に関する調査報告によれば、報告事例212件中、6件が査読者による不正であった(15)。

 このような不正は著者が査読者名を知らされない、シングル・ブラインド制だからこそ起こるとも考えられる。そこで対策として、査読者名を著者に知らせるオープン・ピア・レビュー(Open Peer Review)を採り入れる雑誌も現れている(16)。

 

3.3 「質のフィルター」としての査読の問題

 前述のとおり査読は「質のフィルター」であることが求められるが、それが適切に機能していない場合がある。この点については多くの研究で検証されており、Lutz Bornmannが2011年にその網羅的なレビューを行っている。そのレビューの中でBornmannはフィルターとしての査読に関する研究を、「信頼性」、「公正性」、「有効性」に関するもの、という三つにわけている(17)。

 

(1) 査読の信頼性

 信頼性のある機能とは、条件が同じであれば同じように挙動するものである。全く同じ論文が投稿されても査読結果がバラバラになるのでは、その査読自体が信頼できない。この点の傍証として、多くの場合2名いるとされる査読者の審査結果がどれだけ一致しているかを見た研究が多数存在し、実は2名の結果が一致することは少ないことがわかっている(18)。ただし、これは2名それぞれが同じ論文を査読しても違う側面を見ているためであるとも言われており、多様な情報を編集者に提供しているという点ではむしろ価値がある、という意見もある。

 より直接的な実験として、心理学分野で、ある雑誌に掲載された論文を、著者名や題名等を改変した上で、全く同じ雑誌に投稿するという実験も行われている(19)。その結果、まず既に掲載済みの論文であることに気付かれた例はわずかであり、しかも気付かれないまま審査された論文の多くは、一度は査読を通過した論文であったにも関わらず、却下されてしまった。

 

(2) 査読の公正性

 査読においては様々なバイアスが存在し、必ずしも公正性が保たれているわけではない。この点についてはBornmannのレビューのほか、査読におけるバイアスに絞ったCarole J. Leeらのレビューに詳しい(20)。

 例えば論文の内容に関するバイアスとしては、内容が従来の定説に合致しているか、革新性の高いものかで結果が変わり、革新性の高い論文の方が採択されにくいという査読の保守主義が指摘されている。その他にも著者の所属機関、職位、性別、国籍、母語など様々なバイアスの存在が指摘されている(21)。このうち著者の属性に基づくバイアスについては、査読時に査読者名を著者に伏せるだけではなく、著者名も査読者に伝えないダブル・ブラインド制の導入により対応する試みもあるが、直接伝えられなくても本文や参照文献から著者を容易に特定できてしまい、意味がないとする批判もある(22)。

 

(3) 査読の有効性

 査読は「質のフィルター」として、世に広めるべき研究成果を選び出す役割を担うものである。しかし実際に優れたものを選べているのか、という有効性の点については疑義が有り、例えば前述のように革新性の高い論文が採択されにくいために、後にノーベル賞をとる研究成果が、最初に投稿された雑誌で却下されてしまった例もある(23)。

 多くの論文は一度却下されても別の雑誌への投稿が繰り返され、いずれは出版される。そこである雑誌で却下された後に別の雑誌に採択された論文について、最初に投稿された雑誌に採択された論文と被引用数を比較する研究がいくつか行われている(24)。結果は最初の雑誌に採択されたものの方が被引用数が多い場合が多いとされているが、被引用数という偏りの大きいデータで全体を比較することの問題点を考慮に入れると、本当に査読で優れたものを選べているのかという疑問が解消したとは言いがたい。

 

 以上のように査読にも様々な問題があり、その対応策も検討されている(25)。その中には前述のとおり査読の代替手法の提案もあるものの、いずれも実現には至っておらず、査読への研究者からの支持も大きい。そこでオープン・ピア・レビューやダブル・ブラインド制、簡易査読等の試みが導入されているわけであるが、現状、それらがどの程度の効果をもたらしうるのかははっきりとはしていない(26)。

 そして近年、従来からある上記の点に加え、新たな問題点が指摘されるようになった。そもそも、その査読は本当に行われているのだろうか?

 

4.新たな問題:査読は本当に行われているのか

4.1 SCIgenの登場

 査読を巡る新たな問題、それは「査読がある」と明言しながら、実は行っていない出版者や会議主催者が存在することである。

 この問題が最初に取り沙汰されたのは学術雑誌ではなく、国際会議での発表であった。コンピュータサイエンス分野では査読の存在する国際会議での発表は雑誌論文と同等かそれ以上に重要な成果となる。一方で、国際会議の中には参加費収入を得ることだけを目的とするものもあるのではないかと疑われている。そういった会議であっても「査読を行う」としている場合もあるが、目的が参加費であれば実際には査読のコストなどかけず、全て採択してしまった方が合理的であり、本当に査読が行われているのかも疑わしい。

 これら疑わしい会議の査読を実際に検証してみようとしたのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生Jeremy Striblingらであった。彼らはコンピュータサイエンス分野の、一見すると論文らしい体裁を整えており、文法的な誤りはないものの、文意はまったく通らないでたらめな論文を自動生成するソフトウェア、SCIgenを開発し、実際に自動生成した論文をある国際会議に投稿した。真っ当な研究者が読めば却下する以外の判断はし得ない論文であったが、その論文は採択された(27)。

 査読が適切に機能しているかどうかを知る方法として、実際に論文を投稿してみるというのは古典的な方法である。前述の心理学分野での同一論文再投稿実験のほか、方法論にわざと明確な誤りを含んだ論文を投稿してみる実験(28)等も行われている(29)。さらに著名なものには、カルチュラル・スタディーズの領域で数学や物理学等の専門用語を誤った形で利用していることに疑問を覚えたAlan Sokalが、そうした論文が掲載されていた雑誌に意図的に専門用語をでたらめに用いた論文を投稿したところ掲載に至ったという、いわゆるソーカル事件がある(30)。これらは査読あるいはなんらかのチェックが存在することを前提とし、そのチェックの問題点を検証するもので、論文はいずれもそれなりの文章にはなっていた。これに対し、SCIgenで生成される論文は文意を汲み取りながら読む、ということ自体難しいものであり、それが採択されるということは、誰も論文を読んですらいない可能性を示している。

 

4.2 次なる問題:OA雑誌

 MITの学生らは、誰もが利用できるようにSCIgenをインターネット上で公開した(31)。これを利用して、著者が払う論文処理加工料(APC)によって刊行されるタイプのOA雑誌の中に、査読が存在しない例があることを示したのがPhilip Davisである。

 DavisはOA雑誌出版者の一つ、Bentham Science社から論文投稿の広告メールがしばしば届くことを不審に思い、そのような雑誌ならどんな論文でも掲載されるのではないかと考え、複数の雑誌にSCIgenを用いて生成した論文を投稿した。そのうちThe Open Information Science Journal誌でこの論文が採択され、Davisは結果をブログ上で公開し、大きな話題となった(32)。

 さらに2013年にはScience誌の編集部らが、高校生レベルの化学に関する知識があれば誤りに気付くような偽論文を304のOA雑誌に投稿する実験も行っている。そのうち半数を超える157誌がこの論文を受理し、中にはElsevierやSageなどの大手商業出版者の雑誌も含まれていた(33)。この実験ではSCIgenは使われていないが、SCIgenによる実験と同様、まともな査読が存在しない自称「査読誌」を告発するために行われたものである。

 

4.3 問題の背景:ビジネスとしての査読

 なぜ査読の存在自体、疑われるような雑誌や会議が多数現れるようになったのか。その一因には、現代において査読がビジネスとなっていることがある。

 読者が支払う購読料に依拠する、従来型の学術雑誌においても、査読はビジネスの中核であった。研究者コミュニティから高い評価を得て、多くの人(あるいは機関)に購読され、収入を得続けるためには、魅力的な論文を掲載する必要がある。その選別のために、コストをかけてでも査読を行う意味があった。また、質の高い論文が多く載る有名誌には、自身の論文も載せたいと思う研究者が多く、それが一層質の高い論文を集めることにもつながった。

 一方で、国際会議やOA雑誌は参加費やAPCによって運営され、利益もそこから生まれる。この場合、短期的には査読の手を抜くか、あるいはいっそ査読を実施せず、投稿論文をすべて出版し、最大の参加費あるいはAPCを得ることが、コストをかけずに儲けを最大にする方法である。しかし長期的にはそういった質の低い国際会議や雑誌は、研究者コミュニティからの評価を得られず、論文が採録されても誰にも読まれないために、投稿が集まらず淘汰されるだろう。そのためOA雑誌であっても査読はきちんと行いながら、できるだけ投稿されたものを逃さない工夫が様々になされ、PLOS ONEのようにビジネスとして成立するようになった(34)。

 しかし、全てのOA雑誌や国際会議等がそのような道を歩んだわけではなく、スパムのように投稿を勧誘しつつ、まともに査読をせずに論文を掲載してAPCをせしめる雑誌や出版者も存在する。このような出版者を「ハゲタカ出版者」と呼ぶこともあり、リストが作成され、注意が呼びかけられている(35)。

 なぜ有名でもない雑誌にAPCを支払ってでも載せようとする著者がいるのか。更なる背景には、激化する研究者間の競争と、業績に対するプレッシャーの大きさが挙げられるだろう。研究における競争の中ではインパクトの高い、有名誌に論文を出すことが重要で、それ以外は意味がないと言われることも多い。しかし著者が有名誌に載らないような内容と自覚している場合、「どこでもいいからとにかく査読のある雑誌に載せたい」ということもある。とにかく査読誌に掲載されれば、査読論文として研究業績や研究成果報告書に挙げることはできる。実態はともかく「査読」があることになっている場があれば、それが発表の視野に入ってしまうこともうなずける。

 査読がなくても良いのなら、自らリポジトリ等で公開することと大差がない。査読という「質のフィルター」をくぐりぬけた業績である点が必要なのである。自身の業績に対し「査読」というお墨付きを与えてくれることは研究者にとって意味があり、だからこそ査読がビジネスとして成立するようになった。近年では査読を専門に行う(その結果を付した上で各雑誌等に投稿できる)商用サービスまで現れるほどである(36)。その需要につけこんで、査読を行うと騙った者たちが現れ、査読の存在自体を疑ってかかる必要が出てきた。それが現在の、新たな査読をめぐる問題である。

 

5.査読の存在をどう保証するのか

5.1 ハゲタカ出版者だけの問題ではない

 前章では業績をあげることに追われる研究者が、「ハゲタカ」に食い物にされる被害者であるかのように書いた。しかし実際には、研究者の側にも「査読がある」としつつ実際にはほとんどない、という場が求められていた、だからこそハゲタカ出版者の商売が成立しているという面もある。

 その疑念をいっそう深くするのが、冒頭で述べたSpringerとIEEEの会議録に自動生成論文が掲載されているのが発覚した事件である(37)。この事件でもSCIgenを使って偽論文が生成されているが、過去の事件と違うのは、告発者が偽論文の投稿者ではない点である。つまりこれらの偽論文は、実験目的で国際会議に投稿されたのではない可能性が高い。ではなんの目的で投稿されたのか。はっきりとはわからないが、今回指摘されるまで、これらの論文には著者の業績として記載しうる可能性があった。少なくともこの事件によって、著者の中に悪意を持って偽論文を投稿した者がいる可能性を意識しないわけにはいかなくなったと言えよう。

 ハゲタカ出版者と、不正に査読済みの業績を増やそうという研究者の需給がマッチしてしまえば、「査読済み」と名乗るでたらめな論文が蔓延しかねない。SCIgenによる自動生成は既に見破る手法が開発されているが(38)、人間が適当に論文を書いた場合はどうか。質の低い論文をハゲタカ出版者の雑誌で大量に公開し始めたら。おそらく大半は一度も読まれることなく消えていくだろうが、データベース等のレコードにはそれらも含まれてしまいうるし、検索の度に「査読があるとなっているけれど、本当かはわからない」と疑ってかからねばならなくなる。実際、SpringerとIEEEのデータベースに、自動生成論文は含まれていたのである。

 

5.2 考えられる対策

 このような状況を回避するには、査読を本当に行っていることを示す、なんらかの機能が必要である。

 一つの可能性として、査読レポートを広く公開してしまおうというPeerJの試みが挙げられる。PeerJはいったん、有料会員として登録すれば、その後生涯APC無料という新たなビジネスモデルによって話題になったOA雑誌であるが、その他の取り組みとして査読者と著者の同意があった場合、査読レポート等の査読のプロセスも公開している(39)。この査読プロセスを全てねつ造するにはさすがに手間がかかるため、この取り組みは査読を行っていることを保証するものとなりうる。ただし、査読者の氏名を公開すると若手研究者など、立場が弱い者が自由に意見を述べられなくなる可能性も指摘されており、他の雑誌等にもこの試みが広まるかは定かではない。その他には、査読者の業績等に基づく、査読の質に関する評価指標構築の試み等も行われており、普及すれば査読を行っていることの保証としても使える可能性がある(40)。

 

6.おわりに

 前述のとおり、SCIgenで生成された論文については既に特定する手法が開発されている。しかしSCIgen以外に新たなツールが開発されたり、あるいはそもそもツールを使わず人の手で、質の低い論文やでたらめな論文が作られ、実際には査読の行われていない「査読誌」に掲載されていた場合は、現状、読んでみるまで真っ当な論文かどうかを知る術はない。例えば研究助成応募者の業績欄や、研究成果報告書の成果欄にそうした論文が紛れていたとして、審査者は気付くことができるだろうか。

 日常的に使っている雑誌を離れた場合には、そもそも「質のフィルター」としての査読が存在するのかどうか、たとえそれが「査読がある」と名乗っている雑誌であっても、疑ってかからねばならない。それが査読をめぐる、新たな問題である。

 

(1) Van Noorden, R. Publishers withdraw more than 120 gibberish papers. Nature News. 2014-02-24.
http://dx.doi.org/10.1038/nature.2014.14763 [316], (accessed 2014-06-18).

(2) 査読についてはピアレビュー(Peer review)やレフェリーシステム(Referee system)など複数の呼び方があるが、それぞれに意味する範囲が異なり、ピアレビューと言った場合には研究助成や研究者の任用時に行われる、他の研究者からの評価をも含む。本稿では主として論文の審査制度を対象に「査読」の語を用いる。

(3) このような他の研究者による審査により論文の採否を決定する制度は17世紀半ばに創刊した、初期の学術雑誌においても既に存在していたことが明らかになっている。詳しくは以下も参照:

・山崎茂明. パブリッシュ・オア・ペリッシュ. みすず書房, 2007, 163p.

・Zuckerman, H. et al. Patterns of evaluation in science:

Institutionalisation, structure and functions of the referee system. Minerva. 1971, 9(1), p. 66-100.

(4) 山崎茂明. 学術雑誌のレフェリーシステム. 科学. 1989, 59(11), p. 746-752.

(5) 倉田敬子. 学術情報流通とオープンアクセス. 勁草書房, 2007, 196p.

(6) Goodman, S. N. et al. Manuscript quality before and after peer review and editing at Annals of Internal Medicine. Annals of Internal Medicine. 1994, 121(1), p. 11-21.

(7) 山崎茂明. 科学者の不正行為. 丸善出版, 2000, 195p.

(8) Bornmann, L. Scientific peer review. Annual Review of Information Science and Technology. 2011, 45(1), p. 197-245.

(9) Abelson, P. H. Scientific communication. Science. 1980, 209(4452), p. 60-62.

(10) Ware, Mark et al. Peer review in scholarly journals. Publishing Research Consortium, 2008.
http://www.publishingresearch.org.uk/PeerReview.htm [317], (accessed 2014-06-18).

(11) 山崎茂明. 科学者の不正行為. 丸善出版, 2000, 195p.

(12) Ware. op. cit.

(13) PLOS ONE Journal Information. PLOS ONE.
http://www.plosone.org/static/ [318] publication, (accessed 2014-06-18).

(14) ガーベイ,ウィリアム D. コミュニケーション. 津田良成監訳, 高山正也ほか訳. 敬文堂, 1981, 302p.

(15) The COPE Report 2005. Committee on Publication Ethics. 2005, 23p.
http://publicationethics.org/annualreport/2005 [319], (accessed 2014-06-18).

(16) 山崎茂明. 学術雑誌のレフェリーシステム. 科学. 1989, 59(11), p. 746-752.

(17) Bornmann, L. Scientific peer review. Annual Review of Information Science and Technology. 2011, 45(1), p. 197-245.

(18) Bornmann, L. Scientific peer review. Annual Review of Information Science and Technology. 2011, 45(1), p. 197-245.

(19) Peters, D. P. et al. Peer-review practices of psychological journals. Behavioral and Brain Sciences. 1982, 5(2), p.182-255.

(20) Lee, C. J. et al. Bias in peer review. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2013, 64(1), p.2-17.

(21) Bornmann, L. et al. Convergent validation of peer review decisions using the h index. Journalf of Informetrics. 2007, 3(1), p. 204-213.

(22) Lee. op. cit.

(23) Horrobin, D. F. The philosophical basis of peer review and the suppression of innovation. The Journal of the American Medical Association. 1990, 263(10), p. 1438-1441.

(24) Bornmann, L. Scientific peer review. Annual Review of Information Science and Technology. 2011, 45(1), p. 197-245.

(25) 査読に対してはそのほかに、論文の内容に誤りが含まれていた場合や、意図的なねつ造等の不正行為が行われた場合、それを発見できないことが多い、ということがしばしば問題として指摘される。しかしこの点については、「それは査読の問題ではない」というべきだろう。査読では書かれた内容の論理的妥当性等は検証できても、記述やデータ自体の誤りや偽りまで検証できるものではなく、その役割が期待されるものでもない。編集者によるチェック体制の整備やチェックシステムの普及等、査読以外の方法で対応することが期待される。

(26) Lee. op. cit.

(27) Ball, P. Computer conference welcomes gobbledegook paper. Nature. 2005, 434(7036), p. 946-946.

(28) Peters. op. cit.

(29) ただしこれらの実験には査読者や編集者に迷惑をかけるなど、研究手法に倫理上、問題があることも指摘されている。

(30) ソーカル事件については以下も参照。ただし、ソーカル事件の舞台となった雑誌は当時、査読制度がなく、ソーカルの論文は編集者の判断により掲載されたものである:ソーカル, アランほか. 「知」の欺瞞. 田崎晴明ほか訳. 岩波書店, 2000, 338p.

(31) SCIgen - An Automatic CS Paper Generator.
http://pdos.csail.mit.edu/scigen/ [320], (accessed 2014-06-18).

(32) Davis, P. “Open access publisher accepts nonsense manuscript for dollars”. The scholarly kitchen. 2009-06-10.
http://scholarlykitchen.sspnet.org/2009/06/10/nonsense-for-dollars/ [321], (accessed 2014-06-18).

(33) Bohannon, J. Who's afraid of peer review?. Science. 2013, 342(6154), p. 60-65.

(34) OA雑誌のビジネスモデルが如何にして確立しているかについては、以下の佐藤の論文も参照: 佐藤翔. オープンアクセスの広がりと現在の争点. 情報管理. 2013, 56(7), p.414-424.

(35) 実際にはScience誌での実験で示されたとおり、ハゲタカ出版者に限らずElsevier等の大手商業出版者でも査読を本当に行っているのか疑われている雑誌を出していることがある。出版者単位、個別の雑誌単位でのリストは以下のサイトにまとめられている: Beall, J. Scholarly Open Access.
http://scholarlyoa.com/ [322], (accessed 2014-06-18).

(36) Van Noorden, R. Company offers portable peer review. Nature. 2013, 494(7436), p. 161-161.

(37) Van Noorden. op. cit.

(38) 以下のサイトでSCIgenで生成された論文か否かをチェックできる: SCIgen detection website.
http://scigendetection.imag.fr/main.php [323], (accessed 2014-06-18).

(39) “The Reception to PeerJ’s Open Peer Review”. PeerJ the blog. 2013-02-15.
http://blog.peerj.com/post/43139131280/the-reception-to-peerjs-open-peer-review [324], (accessed 2014-06-18).

(40) 査読の質を評価する新たな指標:preSCORE. USACO News. 2014, 247.
http://www.usaco.co.jp/itemview/template44_3_7609.html#a00 [325], (accessed 2014-06-18).

 

[受理:2014-08-18]

 


佐藤翔. 査読をめぐる新たな問題. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1829, p. 9-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1829 [326]

Sato Sho.
An Emerging Problem in Peer Review Practices.

 

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出版 [328]
学術情報流通 [142]

CA1830 - 新しい本の楽しみ方「ビブリオバトル」の多方面への展開動向 / 吉野英知

  • 参照(18143)

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カレントアウェアネス
No.321 2014年9月20日

 

CA1830

動向レビュー

 

新しい本の楽しみ方「ビブリオバトル」の多方面への展開動向

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング・国際事業本部
:吉野英知(よしの ひでとも)

 

1.はじめに

  近年、「本との出会い方」が多様化してきている。本を読むという行為自体は普遍的であるが、本に出会う主な場所が書店や図書館であった過去と比べて、インターネットを介して本に出会いより多くの本の情報を得られる時代となった。それゆえに「いかに自分にとって良い本と数多く出会えるか」という新たな課題にも直面している(1)

 本稿で紹介する「ビブリオバトル」は、自分のお気に入りの本を書評という形で聞き手に紹介するコミュニケーションを用いたゲームである。ビブリオバトルは、「人を通じて良い本に多く出会えうる」という本の楽しみ方を可能にするだけでなく、読書というパーソナルな行為を他人との双方向のコミュニケーションへとつなぐ点が、参加する人々にとって新たな面白さとして受け入れられ、今、多くの場面で普及しはじめている。

 本稿では、ビブリオバトルの概要とともに、ビブリオバトルに期待されている役割の観点から、動向を紹介したい。

 

2.ビブリオバトルの概要

 読書は一般的にはパーソナルな行為と認識されているが、「こんな本を読んで面白かったよ」と他人と感想を共有し、推薦し合うことは誰もが経験しているのではないだろうか。自分ひとりでは無意識に特定のジャンルに偏りがちである。自分と異なる価値観を持つ他人が読んでいる本、それが指し示す世界観は、自分には未知で未経験の世界である。したがって「本の推薦」という行為を通して示される世界観は、知的好奇心を大いにかきたてることになる。

 ビブリオバトルは、この「他人に本を推薦する」という点に、ゲーム性とプレゼン要素を加味した、「みんなで」本を楽しむための新しい仕組み(2)である。

 ビブリオバトルは、2007年に京都大学大学院の研究室で、ゼミ内の勉強会の派生形として生まれた。研究を進めていく過程において、広範な研究範囲から必要な知識をいかにして効率的に得ていくか、参加するメンバーが有している多様な関心をどうやって共有するか、書籍を通じた情報共有をどうやって無理なく続けるか、という視点から設計された(3)。ここで留意すべきは、ビブリオバトルは当初から「読書量を増やす」目的ではなく、むしろコミュニケーションや人間関係を深めるための仕掛けから生まれたという点である。

 発祥以降、インターネットによる広がりや参加者の口コミ等もあって、公共図書館や大学図書館、書店、教育機関、地域コミュニティ、民間企業など多様なフィールドでビブリオバトルが開催されるようになった。近年では、大学生・高校生による全国大会も開催されるなど、裾野の広がりを見せている。また、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどのマスメディアで各地の開催情報が採り上げられるケースや、メディア自身が企画してビブリオバトルを実施する例もみられる。

 

3.ビブリオバトルのルール

 ビブリオバトルはあくまで「ゲーム」という位置づけであり、ゲームを構成するために「ルール」が定められている。普及を推進する全国の有志メンバーで構成される「ビブリオバトル普及委員会」では、公式ルールについて以下の通り定めている(4) 。

図1 ビブリオバトルの公式ルール

図1 ビブリオバトルの公式ルール

出典:ビブリオバトル普及委員会公式ウェブサイト 2014

(1)発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる
(2)順番に一人5分間で本を紹介する
(3)それぞれの発表後に参加者全員で発表に関するディスカッションを2~3分行う
(4)全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員(各自一票)で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする(5) 。

 公式ルールは最低限の遵守事項であり、主催者によっては公式ルールを守ったうえで、オプションのルールを加えているところもある。具体的には、本選びに際してテーマやジャンルの制約を与えたり、コミュニケーションを深める目的で終了後に自由な交流ができる時間を設けたりしている。ビブリオバトル普及委員会では「ビブリオバトル」の名称を利用する際には、公式ルールに従って開催するよう求めている。

 ここで、公式ルールを少し吟味してみたい。まず、5分間(5分「以内」ではない)という限られた時間で本を紹介するためには、一通りの本のあらすじを客観的に整理するだけではなく、本に対する洞察や、他の本との比較も踏まえた本全体の俯瞰、自分がどこを面白く思ったかという主観的な情報なども必要になる。また、聞き手からの質問に対応するためにも、発表者自身がより深い読みや理解を行い、自身の言葉で発表内容を整理することが求められる。

 また、初めてその本に触れる「眼前の聞き手」をいかに読みたくさせるか、という視点で、発表内容をわかりやすく構成する必要がある。この相手が明確という点は、本の理解を不特定多数に表現する従来の読書感想文と大きく異なる点である。もちろん、聞き手の評価指標が「読みたくなったか」にあるので、あえて全てを述べず聞き手の読みたい感情を掻き立てる余地を残すことも必要である。

 一方の聞き手にも、最後に投票する役割が与えられており、自分が一票を投じるために、5分の発表内容を聞いて理解し、発表者や他の聞き手とのコミュニケーションを深めるための質問をするという、一段高いレベルで聞く行動が求められる。

 このように、ビブリオバトル導入によって、「読む・聞く・話す」というコミュニケーションの基本的な要素に効果があると考えられている(6)。しかも、発表者と聞き手に求められていることはあえて明示化されておらず、凝縮された公式ルールに沿って手軽にゲームを楽しむ中で、自然にこうした点を意識するように設計されている。

 一部には、著作物に安易に順位をつけることは、著作者への敬意を欠くという指摘を受けることもあるが、ビブリオバトルにおいてチャンプ本を決めることは、「発表も聞いてその本を読みたくなった」という発表者に対しての聴衆の意思表示の結果であり、著作物の順位付けを意図したものではない。また、本を第三者が評価することは、書評という形で既に広く行われており、ビブリオバトルは、自分が読んで良かったと思える本を他人に紹介する、という行動を形式化したに過ぎない。

 

4.現在の普及の動向

 ビブリオバトルはそのシンプルさゆえに、図2に示すように、年々開催が増えてきている。本を通じてコミュニケーションを深める、という点は全てのフィールドで共通するが、プラスアルファの役割を期待されている部分もある。そこで次に、各方面の展開の動向と期待されている役割について紹介する。

図 2 日本国内におけるビブリオバトルのオープンな開催確認回数 2014年5月現在

図 2 日本国内におけるビブリオバトルのオープンな開催確認回数 2014年5月現在

出典:ビブリオバトル普及委員会公式ウェブサイト 2014 
(*ビブリオバトル普及委員会が公開情報として開催を確認した件数のみであり、実際の開催はこれよりも多いとみられる)

(1)公立図書館

 ビブリオバトル普及のフィールドとして昨今賑やかなのが公立図書館である。特に、NPO法人「知的資源イニシアティブ」が毎年選定している「Library of the Year」に、ビブリオバトルが図書館の先進的な活動として大賞を受賞した時期(2012年)と並行して、公立図書館での開催が本格化している。

 これまで公立図書館は、来館者への書籍類の貸し出しとレファレンスに応える役割が重視されてきたが、今後の図書館はこれに加えて、地域住民が集まるコミュニティの場、あるいは家と仕事場以外の第三の場として住民が日々の時間を過ごす「サードプレイス」としての位置づけが増していくとみられる。こうした流れの中で、公共図書館の多くが、コミュニティを形成できるよう多様な人が集まる新しいイベントの開催を模索している。

 実際に、ビブリオバトルを開催している公立図書館では、利用者に本との新しい楽しみ方を提起するイベントとしてビブリオバトルが活用されている。ビブリオバトルの開催により、普段と異なる利用者層が積極的に来館し、多様な年代からなる地域住民同士が初対面で本を媒介にしてコミュニケーションを深める様子は、図書館が地域コミュニティの場として機能する将来像を示していると思われる。

 ビブリオバトルが定着している事例として、公立図書館開催の端緒となり今も毎月開催している奈良県立図書情報館のほか、毎回の開催の様子を小まめに情報発信する堺市立中央図書館(大阪府)、入門講座や関連イベント等を積極的に開催する千代田区立図書館、毎回特定の作家をテーマにする文京区立本郷図書館(いずれも東京都)などが挙げられる。2014年6月末現在では114の公立図書館で開催実績がある(7)。関心も高まってきており、公立図書館での普及の流れは、今後も当面続くものと予想される。

(2)大学 

 大学でのビブリオバトルの展開も進んでいる。大学のゼミが発祥ということもあり、教養科目やゼミでのプログラムで実施されているほか、それに留まらず、オープンキャンパス、学会など、多様な展開を見せている。また、留学生による日本語での発表、日本人学生による英語での発表が行われており、実践的な外国語習得のプログラムとしても評価されている。

  大学でビブリオバトルに主に期待されている機能の一つは、学生のプレゼンテーション能力の向上である。昨今、大学では卒業後の実践的スキルの習得を重視する傾向が強まっており、プレゼンテーション能力の向上もまた重要なテーマとなっているようである。5分間で内容をまとめて発表し合うビブリオバトルは、題材として適している。大学生になると読書量の個人差が大きくなるが、本選びにテーマを与えるなど、教育の趣旨に沿った運用の工夫が教員独自になされているケースもみられる。

 大学内図書館においては、公立図書館と同様に、利用促進のイベントや学部を越えた学生・教職員の交流を促進するための施設活用方法の一つとして、ビブリオバトルが積極的に取り入れられている。

(3)小学校・中学校・高等学校

  小・中・高等学校の教育機関でのビブリオバトルは、昨今特に展開が顕著にみられるフィールドである。小・中・高等学校では特に、教員同士による研修会を通じて実践例の水平展開が多くなされており、総合学習や国語教育、図書委員会の課外活動などにおいて多様な形でビブリオバトルが取り入れられはじめている。こうした初等教育において、ビブリオバトルに期待されているのは、教育の基礎ともいうべき「読み・書き・話す」という能力を、児童・生徒たちが取り組みやすい「ゲーム」形式で向上させる機能である。

  初等教育での導入にあたっては、通常の授業と異なるため、現場では運用に留意されている点が見られる。筆者が研修会等でビブリオバトルを先生方に紹介する中で、「ビブリオバトルを授業に取り入れたいが、どのように評価を行えばよいか」という質問を戴くことが多い。授業で取り入れる場合は、発表自体の評価は先生で行わず、「読みたくなったか」という生徒の民主的な評価を尊重することが望まれる。先生がその場での評価者になると、ビブリオバトルではなく「発表審査会」になってしまう。生徒は先生だけを向いて発表し、聞き手の生徒は投票する権利を失うことで、ビブリオバトルに本来期待されている双方向のコミュニケーションが発生しなくなる恐れがある。

 先生方の実践例を伺うと、できる限り先生はビブリオバトルの円滑な進行をサポートする役だけに徹し、発表・質問、できれば進行も生徒に任せるのが理想的な進め方のようである。授業において評価が必要な場合も、講評はその場では行わず、また発表そのものよりも発表への挑戦回数や質問での貢献などを総合的に評価するほうがビブリオバトルを教育場面で活用する際には適していると言えるだろう。

 教育場面での導入は発展途上にあり、現場では先生方が趣旨を理解しながら、円滑な運用に向けたアレンジを進めている段階である。また、文部科学省「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の中にもビブリオバトルが「読むことにとどまらず言葉の力や表現力を競う新しい取組」(8)と紹介されており、自治体や書店による中学生・高校生のビブリオバトル大会が開催されるなど、盛り上がりの機運は高まってきている。今後一層の普及が期待される。

(4)書店

 書店でのビブリオバトルの位置づけは、店頭での販売促進のイベントの一環と考えられる。ただしビブリオバトル開催当日に得られる店頭での直接的な収入よりも、長期的に店舗の集客力を高めファン顧客を増やすことへの貢献、言い換えれば長期的な店舗の価値向上策の一環として期待されているようである。定期的に開催する書店も散見される。

 あくまで私見であるが、都心部の書店でのビブリオバトルはトークショーのようにイベント要素が強くなる一方、郊外の書店でのビブリオバトルは参加メンバーの顔がある程度特定され、地域コミュニティの形成を促すサロンの要素が強くなる、という傾向の違いはある。しかし、どちらも来店客同士の双方向コミュニケーションが発生する点は、従来の書店イベントではあまり見られなかった点であろう。

  書店開催の場合は、紹介された本や関連する本を、聴衆がその場ですぐに手に取り購入することができる点がメリットである。書店によっては、ビブリオバトルで紹介された本を、発表者が自筆で作成した店頭POPを掲示して、特設コーナーで販売するなど、顧客との連携も進んでいる。

  現在はインターネット販売に押される形で、リアルな店舗の多くが以前より厳しい環境下にあるが、ネットとの差異化の一方向性として、図書館同様に「人が集まってこられる場所」という特徴を活かす取り組みが模索されており、ビブリオバトルもその取り組みの一つとして注目されている。

(5)大型イベント

 ビブリオバトルは、相互に顔が見える少人数での開催を前提としたゲームであるが、聴衆を大規模に集めた百人以上の大型イベントとして開催される事例が出てきている。

 大型イベントになると、発表者・聴衆の相互のコミュニケーションという観点はやや失われ、プレゼンテーション色の強まりや、ショー的要素がより強まる。ビブリオバトルの知名度がその地区で急速に高まるなど普及効果も高い。

 大型イベントの実例として、2010~2013年に開催された「ビブリオバトル首都決戦」が挙げられる。東京都等が主催し、全国各地の予選を勝ち抜いた大学生・大学院生が、東京に集まって参加するビブリオバトルの全国大会である。2013年には予選参加者783名から、予選を勝ち抜いた30名が集まり、総来場者3,300名(9)を超える大規模イベントとなった。メディア等でも大きく取り上げられ、全国規模でビブリオバトルの名前が一般に広く知られるようになった。

 これに続く形で、ビブリオバトルを大型イベント化す る動きが始まっている。2013年には、兵庫県が主催し、県内の教育委員会、教育機関、公立図書館等と連携した「ひょうご子ども読書活動推進フォーラム」の中で、ビブリオバトルを開催した。中高生、社会人ともに県内各地区の予選、準決勝、決勝とビブリオバトルに参加する大掛かりなものとなった。関係者へのインパクトは大きく、その後県内の様々なところで新たにビブリオバトルの開催がはじまっている。2014年も複数の自治体で、ビブリオバトルを開催する事業が計画されている。

 

5.おわりに

 ビブリオバトルという、新しい本を楽しむための仕掛けが多様なフィールドで広がっている点について、現在取り入れられている主な流れと、その場面でビブリオバトルに期待されている機能について横断的に論じた。本を読み他人に紹介する、という行動を可視化しただけだが、その場面に応じて様々な側面が評価される点が興味深く、今後の展開が期待される。

 

(1) 谷口忠大. ビブリオバトル : 本を知り人を知る書評ゲーム. 文春新書, 2013, 262p.

(2) 吉野英知. ビブリオバトルが目指す読書推進の新しい形. 兵庫教育. 2014, (2), p. 4-7.

(3) ビブリオバトル普及委員会編著. ビブリオバトル入門 : 本を通して人を知る・人を通して本を知る. 情報科学技術協会, 2013, 158p.

(4) 前掲.

(5) ビブリオバトル普及委員会. 知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト. http://www.bibiliobattle.jp/ [330], (参照 2014-06-21).

(6) 吉野英知. 前掲.

(7) 前掲

(8) 文部科学省. 子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画(平成25年5月). 2013. P 24

(9)ビブリオバトル普及委員会. ビブリオバトル首都決戦2013. http://shuto13.bibliobattle.jp/ [331], (参照 2014-06-21).

Ref:

(1) 谷口忠大ほか. ビブリオバトルを楽しもう : ゲームで広がる読書の輪. さ・え・ら書房, 2014, 63p.

(2) 兵庫県教育委員会. ひょうご子ども読書活動推進フォーラム実施報告書平成25年度. 2014, 71p.

 

[受理:2014-08-12]

 


吉野英知. 新しい本の楽しみ方「ビブリオバトル」の多方面への展開動向. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1830, p. 14-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1830 [332]

Yoshino Hidetomo.
Bibliobattle: a Novel Method of Enjoying Books Spreading to Multiple Fields.

カレントアウェアネス [7]
読書 [333]
日本 [15]
公共図書館 [16]
大学図書館 [9]

CA1831 - マラケシュ条約―視覚障害者等への情報アクセスの保障に向けたWIPOの取り組み / 野村美佐子

PDFファイルはこちら [334]

カレントアウェアネス
No.321 2014年9月20日

 

CA1831

動向レビュー

 

マラケシュ条約
―視覚障害者等への情報アクセスの保障に向けたWIPOの取り組み

日本障害者リハビリテーション協会:野村美佐子(のむら みさこ)

 

はじめに

 2013年6月27日に、世界知的所有権機構(WIPO)が開催したモロッコのマラケシュにおける外交会議において、「盲人、視覚障害者およびプリントディスアビリティ(印刷物を読むことが困難)のある人々の出版物へのアクセス促進のためのマラケシュ条約(仮訳)」が採択された(1)(E1455 [335]参照)。6月28日には、129の加盟国が最終文書を採択し、条約には51の加盟国が署名した(2)。この条約の背景には、アクセシブルな形態の複製物の製作・頒布およびこれらの複製物の国境を越えた流通の促進に向けた世界盲人連合(WBU)のWIPOへの働きかけがあった。また障害者団体や図書館団体だけでなく、著作権者団体や出版社団体を巻き込んだ「ステークホルダー・プラットホーム(Stakeholders Platform)(3)」の取り組みがあった。

 欧州連盟(EU)が、2014年4月に署名を行い、多くの欧州の国々が続けて署名を行った。現在(2014年6月30日)の署名国数は75を超えている(4)。6月24日にはインドが最初の批准国となった(5)。

 本稿は、採択までの歴史的な背景、英国のWBUが開始した「本の飢餓(book famine:情報と知識へのアクセスの欠如)」の解消への世界的な呼びかけと活動、それを受けたWIPOの一連の取り組みの紹介を行う。また視覚障害者およびその他のプリントディスアビリティのある人々(以下、視覚障害者等とする)の情報格差の解消に向けた今後の動きについて展望を述べる。

 

1.歴史的な背景

 1981年、WIPOとUNESCOが著作物の複製への視・聴覚障害者のアクセスについて作業グループを立ち上げた。その翌年には、同グループがパリで会合を持ち、国内著作権法における著作権で保護された著作物へのアクセスに関するモデル条項を含んだ報告書を作成した(6)。この会合には、4人の専門家と、WBUの前身となる団体や国際出版連合(IPA)がアドバイザーの立場で、また8つの国際非政府組織(NGO)がオブザーバーとして参加した。モデル条項は、作成にあたって障害者のニーズと著作権者の権利の調和、複製物の不正使用、特にオーディオビジュアル作品の不正コピーに対する技術的な対策について検討された。また同法の受益者となる障害者が比較的少数であることが考慮された。その結果、視覚障害者を対象とした著作物へのアクセスに関して、著作権料の有無の違いがある2つのモデル条項が策定された。その他の映画やオーディオビジュアル作品においては、聴覚障害者のための字幕(caption)制作は、翻案(adaptation)の権利に関わり、権利制限や強制ライセンスを与えるには、当時の多数の国々の国内法や著作権関連の国際条約と相容れないとした。そのため同条項は、視覚障害者のニーズのみに応えた点字、大活字、音声録音、ラジオを使った朗読サービスなどの放送、および公定翻訳物のための権利制限を内容とするものになった。なお、この報告の中では、通常の方法では著作物にアクセスできない身体障害者について、作業グループの付託事項の範囲でなかったものの、検討すべきこととして認識されている。

 その後、1984年、ベルンユニオン実行委員会と万国著作権条約政府間委員会は、モデル条項について締約国に意見を求め、あわせて上記会合に参加したワンダ(Noel Wanda)の「著作物にアクセスするために障害者が直面した問題」についての報告書(7)を公表した。その内容は、著作権処理の交渉は満足な結果にならなかったこと、著作権料なしには許諾が得られなかったこと、許諾に時間がかかったこと、許諾が得られても利用、配布、サービスについて制限があったため不満が募る作業であったことを報告するものであった。ワンダは、こうした状況を踏まえ、著作権のある作品への障害者のアクセスと利用における問題を解決するために、国内における著作権の権利制限の必要性とアクセシブルな複製物の多国間での共有の重要性の2つの課題に注目した。前者については、WIPOとUNESCOの主導のもとすでにモデル条項が制定されていた。後者については、ワンダは、WIPOに対して特別な媒体の資料と多国間でのサービスの提供に関する問題を解決するために新しい条約を提案した。

 しかし、このワンダの報告書に対して、WIPOは、1995年に設立された世界貿易機関(WTO)が知的財産権の制限に関する新しい課題(8)を突きつけるまでは、積極的な取り組みを行っていない。

 

2.「本の飢餓」への取り組み (2000年~)

 2000年から英国世界盲人連合とその会員である王立盲人援護協会(RNIB)が中心となった「読む権利(Right to Read)」の強力なキャンペーンが始められた。その際に使用されたのが「本の飢餓」という言葉であった(9)。英国の多くの出版社は、アクセシブルな形式での出版は行わず、RNIBなどの慈善団体が製作をしているため、タイトル数などに限りがありアクセシブルな図書は少なかったからである。

 WBUによれば毎年世界中で出版される100万冊程度の書籍のうち、視覚障害者等が利用できるアクセシブルな形式の書籍(点字や音声および拡大図書など)が占める割合は、5%であり、最も先進的な国と考えられるところでも7%であると公表している。さらに開発途上国においては1%であるという(10)。WBUはこれらの状況を「本の飢餓」と呼び、その原因は、現況に合わない国内著作権法と国際的な知的財産(IP)制度だと考えた。そこでWBUは、国内法における著作権の権利制限と例外規定の下で、視覚障害者等のためのアクセシブルな図書が製作できることと、それらが国境を越えて共有できる国際的な法の枠組みを実現することを目指した。そのため、WBUは国内にとどまらず各国のWBUのネットワークを通してキャンペーンの呼びかけを行い、WIPOに対する働きかけを強めていった。またWBUのみならず多くの関係団体、WIPO関係者によりしばしば「本の飢餓」という言葉が使われるようになった。マラケシュ条約の採択後でもその実施にむけた目標として使われている。

 

3.WIPO著作権および著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)での取り組み(2001年~2008年)

 SCCRには、WBUを中心としながら、国際図書館連盟(IFLA)、ヨーロッパディスアビリティ・フォーラム(EDF)、DAISYコンソーシアムなど様々なNGOがオブザーバーとして参加した。これらの団体には、SCCRでの決議権はなかったが、発表の場は設けられた。SCCRの視覚障害者等のための著作物のアクセスのための著作権の権利制限と例外について主要な動きを紹介する。  2001年には、WBUとIFLAが共同で障害者に関わる著作権の問題についてWIPOへの働きかけを始めた。その翌年、WBUがWIPOの第7回 SCCRで提案を行った(11)。その内容は、視覚障害者の保護された資料へのアクセスについてフェアユースと関連する権利の検討を求めたものであった。また、著作権法の権利制限規定を持たない開発途上国への法的なアドバイスや、電子フォーマットでの資料提供によるデジタル著作権管理(DRM)などを検討するためのサポートもWIPOへ要望した。それを受けて2003年の第9回SCCRでは、デジタル環境における著作権の権利制限と例外についての報告を基にして、初めて委員会の中で討議を行った(12)。 さらにWIPOは、2006年9月の第15回SCCRで、サリバン(Judith Sullivan)による視覚障害者のための著作権の権利制限と例外についての調査報告(13)を公表した。その調査報告においてサリバンは、存在する国際条約における著作権の権利制限と例外についてと、アクセシブルな形式で50か国以上において提供するための特別な条項について概説している。そしてそれらの調査結果をもとにWIPOがこの著作権問題の解決への議論を深めていくことを示唆している。具体的には、WIPOが政府、出版社、技術者やソフトウェア製作者、図書館関係者、その他のアクセシビリティに関連する団体、視覚障害者団体などのステークホルダーによる討議を促進する役割を担うことを提言している。

 2006年12月、国連障害者権利条約が採択され、障害者の情報へのアクセスの権利は、国際条約による法的な拘束力を持つ基本的人権として確立された。これにより、視覚障害者等の情報アクセス権と著作権の調和を求めた新著作権条約の必要性についての議論が再燃した。

 2008年10月にWBUが視覚障害者等のための著作権の権利制限に関するWIPO新条約案((14)をだした。それに対して、2008年11月の第17回SCCRは、この条約案の視覚障害者等のニーズへの対応が重要であるとして、その権利制限や例外についての分析を踏まえたうえで、保護された著作物へのアクセスの促進および増強を図る方法や手段について国内および国際的なレベルで討議することを決定した。さらに、著作物への視覚障害者等のアクセスを確保するために、WIPO事務総長が主催するステークホルダー・プラットフォームを利害関係者の直接の意見交換の場として設置することとなった(15)。

 

4.ステークホルダー・プラットフォーム

  2009年1月から上記ステークホルダー・プラットフォームの活動が開始し、視覚障害者等の情報と知識へのアクセスの改善を目指した次の具体的な3つのプロジェクトが始まった(16)。
(1)信頼のおける媒介機関(TI)によるグローバル・アクセシブル・リソース(TIGAR)プロジェクト
(2)キャパシティー・ビルディング(Capacity Building)プロジェクト
(3)インクルーシブな出版プロジェクト

 (1)については、IFLAのプリントディスアビリティのある人々のための図書館分科会(IFLA/LPD)と、DAISYコンソーシアムが共同で始めた、グローバル・アクセシブル・ライブラリープロジェクトと、TIのプロジェクトが結合した取り組みであった。DAISYコンソーシアムのいくつかの会員団体がTIとなって試験的に著作権のある図書の共有への具体的な作業を始め、アクセシブルな書誌データベースもたち上げた。(2)については、開発途上国の各機関がTIとして機能できるようにするための支援を行うことを目的として研修を行っていった。(3)のプロジェクトによりWIPO「アクセシブルな出版物の制作:出版社のためのベストプラクティスガイドライン」が2011年に出版され、日本語訳にもなっている(17)。

 

5.マラケシュ条約の採択に向けて (2009年~2013年6月)

 2009年5月の第18回SCCRでは、2008年にWBUが作成したWIPO新条約案をブラジル、エクアドル、パラグアイがWIPOに提出したことから視覚障害者等のための新条約の議論が始まった。

 WBUとしてはWIPOとステークホルダー・プラットフォームのパイロットプロジェクトを推し進めながら、権利の保障となるWIPO新条約をめざしていた。つまり「2本立てのアプローチ」と考えていた。しかし、2011年2月には、WBUはWIPOステークホルダー・プラットフォームおよびTIGARプロジェトへの参加を一時停止すると発表した。著作物のアクセシブル版の国境を越えた貸借に関する問題を解決するためには、拘束力のある法的枠組みがどうしても必要であると考えたからである(18)。この頃からSCCRで条約案について活発な討議と交渉が行われた。

 2012年12月のWIPO総会の特別会議において、WIPO新条約の採択に向けた外交会議をモロッコで開催することが合意され、それまでに条約内容の条文を完成させるためのSCCRのセッションが開催された。しかし、翻訳権、商業利用の可能性、技術的な保護手段、また過去の著作権に関する国際条約で定められた義務の遵守などについて、条文に関する事前の合意が得られず、2013年6月の外交会議においても条文に関する交渉が継続された。そのため新著作権条約の合意も危ぶまれたが、最終的には妥協点が見出され、採択に至った。このような経過から「奇跡のマラケシュ条約」とも言われる。

 

6.マラケシュ条約採択後の動き

 条約の内容については、条文が日本語訳(19)されているので詳細を省くが、条約の締約国においては、国内法令における制限または例外が、著作物をアクセシブルなフォーマットにするために必要な変更を許可することで、この条項により著作権者の許諾なしに複製が可能となる。また各国でマラケシュ条約が採択されても、多くの国が批准し、実践していかなければ、「本の飢餓」の状況は変わらない。たとえば締約国として著作物をアクセシブルなフォーマットにした複製物の提供をしたくても、アクセシブルな複製物の提供を受ける国が締約国でない場合もありうるのである。そういった意味では、発効するために必要な20か国による批准が早い時期であることを期待したい。

 TIGARプロジェクトから得られた知見と経験は、今後のマラケシュ条約の実施において役に立っていくと考えられる。2014年2月の報告(20)によれば、最終的に22~24か国からのTIと45名の著作権者がプロジェクトに参加している。TIGARの書誌データベースには、アクセシブルなフォーマットの21万件を超えるタイトルが含まれ、様々なアクセシビリティ要件を満たした技術的な進歩による工夫が明らかにされた(21)。

 このTIGARプロジェクトは、2014年5月に終了となったが、6月末からは、TIGARサービスとして他の2つのプロジェクト(キャパシティ・ビルディングとインクルーシブな出版)と共に、アクセシブル・ブック・コンソーシアム(Accessible Books Consortium:ABC)のもとで進められることになった。このコンソーシアムは、マラケシュ条約を実施するために、WIPOと主要なステークホルダーのグループが、前述のステークホルダー・プラットフォームの後継として設置したものである(22) 。ABCの目的は、「盲人、視覚障害者およびその他のプリントディスアビリティのある人々が入手可能な本の増加により世界的な「本の飢餓」を解消することに意味のある貢献をすることである。またこのことは、マラケシュ条約とその他の適用するWIPO条約に従って成し遂げられる(23)」としている。TIGARプロジェクトで立ち上げられたデータベースをWIPOが公式に管理することによって、著作権を制限して製作されるアクセシブルな著作物の国際交換が容易になることが期待される。

 

おわりに

 日本においては、2010年に施行された著作権法第37条で、図書館等の非営利団体は、著作権者の許諾なしにアクセシブルな図書の製作が可能となっているため、批准に当たって大きな法令の改正はないと考えられる。しかし、欧州のようにプリント・ディスアビリティという認識がないため、明確にその範囲を定義づけることが難しい。この条約の採択をきっかけに国内法における対象者の範囲を見直し、読むことが困難なすべての人がアクセシブルな資料を入手可能になる提供システムの構築が望まれる。同時に出版社によるアクセシブルな資料の出版も進むことが期待される。

 また、アクセシブルな形式の資料の国際的な交換が行われる際、重要な役割を担うのが「公認機関(Authorized Entity)」である。ABCの設立以降、TIGARプロジェクトのTIであった機関には、政府の公認機関としてWIPOとの協定に署名することが求められているが、日本においては、文化庁はまだ認定する団体について明確にしていない。公認機関に対してどのようなことを期待しているのだろうか。すでに世界の12の図書館等の機関が公認機関としてABCによるグローバルなデータベースにタイトルを提供しているが、そこに日本語のアクセシビリティの観点から積極的に関わり、DAISYのアクセシビリティの機能を含むEPUB3フォーマットを推進する図書館等が公認機関となることを望んでいる。

 

(1) “Historic Treaty Adopted, Boosts Access to Books for Visually Impaired Persons Worldwide”, WIPO. 2013-06-27.
http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2013/article_0017.html [336], (accessed 2014-07-06).

(2) 日本障害者リハビリテーション協会訳. “スティービー・ワンダー氏、書物への全盲の人々および視覚障害のある人々によるアクセスを高める画期的なWIPO条約を称賛”. 日本障害者リハビリテーション協会訳. 障害者保健福祉研究情報システム. 2013-06-28.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/wipo_mt201306news2.html [337], (参照 2014-07-06).

(3) 日本障害者リハビリテーション協会抄訳. “WIPO(世界知的所有権機関)ステークホルダー・プラットフォーム第7回中間報告“. 障害者保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/wipo_report_20131216.html [338],(参照 2014-07-06).

(4) “India Is First to Ratify “Marrakesh Treaty” Easing Access to Books for Persons Who Are Visually Impaired”. WIPO.
http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2014/article_0008.html [339], (accessed 2014-07-06).

(5) Ibid.

(6) Report: Working Group on Access by the Visually and Auditory Handicapped to Material Reproducing Works Protected by Copyright. Paris, 1982-10-25/27, UNESCO, WIPO. WIPO, 1983.
http://unesdoc.unesco.org/images/0005/000539/053955eb.pdf [340], (accessed 2014-07-06).

(7) “Wanda Noel's 1985 Report on Problems Experienced by the Handicapped in Obtaining Access to Protected Works”. Knowledge Ecology International.
http://keionline.org/node/644 [341], (accessed 2014-07-06). .

(8)1980年代の後半から1990年代の前半にかけて知的財産権の保護の強化が相次ぎ、先進国と途上国との対立が激しくなり、WIPOにおける既存の条約の改正による知的財産制度の国際的調和の実現が困難になった。そこで1994年にWIPOの外で「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)が成立し、このルール作りを貿易機関であるWTOが扱うこととなった。WTOは、「TRIPS協定と公衆の衛生に関するドーハ宣言」(2001年)を採択し、HIV/AIDS・結核・マラリアその他の感染症等の公衆衛生の危機に対処するために発動される「医薬品のアクセス」に関する知的財産権の制限を規定した。

(9) King, Steven. “Swedish DAISY Consortium 10year Anniversary: Ending the Book famine. How does the WIPO treaty help? ”. 2013-12-02.
http://www.slideshare.net/daisyconsortium/stephen-kings-presentation-solving-the-book-famine-wipo-treaty [342], (accessed 2014-07-06).

(10) “A step towards adoption of Treaty to ensure equal access to books for visually impaired”. 2014-3-24.
http://www.gr2014.eu/news/press-releases/step-towards-adoption-treaty-ensure-equal-access-books-visually-impaired-and [343] (accessed 2014-08-21)

(11) Report: Standing Committee on Copyright and Related Rights Seventh Session. Geneva, Geneva, 2002-5-13/17, WIPO.
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_7/sccr_7_10.pdf [344], (accessed 2014-07-06).

(12) WIPO Study on Limitations and Exceptions of Copyright and Related Rights in the Digital Environment: Standing Committee on Copyright and Related Rights Seventh Session. Geneva, 2003-6-23/27. WIPO.
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_9/sccr_9_7.pdf [345], (accessed 2014-07-06).

(13) Study on Copyright Limitations and Exceptions for the Visually Impired: Standing Committee on Copyright and Related Rights Fifteenth Session. Geneva, 2006-9-11/13. WIPO.
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_15/sccr_15_7.pdf [346], (accessed 2014-07-06).

(14) ) 日本障害者リハビリテーション協会抄訳. “全盲、弱視およびその他の読字障害者のアクセス改善のためのWIPO(世界知的所有権機関)条約”. 障害者保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/wipo_report_20131216.html [338], (参照2014-08-21).

(15) Report: Standing Committee on Copyright and Related Rights Seventeenth Session. Geneva, 2008-11-3/7. WIPO.
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_17/sccr_17_5.pdf [347], (accessed 2014-07-06).

(16) 日本障害者リハビリテーション協会抄訳. “WIPO(世界知的所有権機関)ステークホルダー・プラットフォーム第7回中間報告”. 障害者保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/wipo_report_20131216.html [338], (参照2014-07-06).

(17) 日本障害者リハビリテーション協会訳. “アクセシブルな出版物の制作 出版社のためのベストプラクティスガイドライン”. 障害者保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/guideline/Accessible_PublishingBestV4/Accessible_Publishing_Guidelines_v4.html [348], (参照 2014-07-06).

(18) 日本障害者リハビリテーション協会訳. “2011年2月26日付の世界盲人連合(WBU)による声明に対するDAISYコンソーシアムの声明”.障害者保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/20110226_wbu.html [349], (参照2014-07-06).

(19) 日本障害者リハビリテーション協会訳. “全盲の人々、視覚障害のある人々、あるいはその他のプリントディスアビリティのある人々のために、出版物へのアクセスを改善するマラケシュ条約草案”. 障害者保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/marrakesh_treaty_jp_wipo201306.html [350], (参照2014-07-06)

(20) 日本障害者リハビリテーション協会抄訳. “WIPO(世界知的所有権機関)ステークホルダー・プラットフォーム第7回中間報告”. 障害者保健福祉研究情報システム.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/wipo_report_20131216.html [338], (参照2014-07-06).

(21) 前掲

(22) Eighth Interim Report of the Stakeholders' Platform: Standing Committee on Copyright and Related Rights Twenty-Seventh Session. Geneva, 2014-4-28/5-2. WIPO.
http://www.wipo.int/edocs/mdocs/copyright/en/sccr_27/sccr_27_4.pdf [351], (accessed 2014-07-06).

(23) Ibid.

Ref:
Francisco Javier Martinez Calvo. The Miracle of Marrakesh: The WIPO Treaty for the Visually Impaired. IFLA Conference in Singapore, 2013,13p

 

[受理:2014-08-21]

 


野村美佐子. マラケシュ条約―視覚障害者等への情報アクセスの保障に向けたWIPOの取り組み. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1831, p. 18-21.
http://current.ndl.go.jp/ca1831 [352]

Nomura Misako.
Marrakesh Treaty- WIPO's Initiative to Facilitate Access to Published Works for Persons Who Are Blind, Visually Impaired, or Otherwise Print Disabled.

  • 参照(11757)
カレントアウェアネス [7]
障害者サービス [353]
著作権 [46]
視覚障害者 [354]
WIPO(世界知的所有権機関) [355]

CA1832 - 教科「情報」と図書館 / 小野永貴

PDFファイルはこちら [356]

カレントアウェアネス
No.321 2014年9月20日

 

CA1832

動向レビュー

 

教科「情報」と図書館

千葉大学アカデミック・リンク・センター:小野永貴(おの はるき)

 

はじめに

 2003年に高等学校へ教科「情報」が導入されてから、11年が経った。日本の初等中等教育における初の本格的な情報教育として注目された本科目は、当初より図書館関係者からも関心が寄せられていた(1)。この11年の間には、全国的な未履修問題(2)や、科目としての存続を疑問視する要望書の提出(3)など、存続が危ぶまれる事態もあったが、2009年告示の学習指導要領において大幅な改善がなされ、2013年より実施の新課程においても発展的継続がなされることとなった。

 教科「情報」と図書館のつながりについては、これまでも度々言及されてきたが、今回の学習指導要領改訂においては、図書館の取り扱いはどのように変わったのか。本稿では、教科「情報」のこれまでの経緯や実態をふまえながら、図書館との連携の可能性や課題について明らかにしたい。

 

1. 高等学校「情報科」の概要

 従来から、初等中等教育における情報領域の授業は、複数の教科の中で部分的に取り扱われていた(4)。一方、社会の高度情報化に伴って体系的な情報教育への注目が高まり、臨時教育審議会等において議論がなされ、各種答申の中で言及されてきた(5) (6)。その成果が反映されたのが、1999年改訂の学習指導要領である。「総合的な学習の時間」が新設されたほか、中学校の技術・家庭科の技術分野では「情報とコンピュータ」として情報領域が拡充された。そして、高等学校にのみ新設されたのが「情報科」という必履修教科であり、2003年度入学生より年次進行で導入された。

 情報科の目標は、学習指導要領において、(1)情報活用の実践力、(2)情報の科学的な理解、(3)情報社会に参画する態度の3点が掲げられた。全高等学校が対象となる普通教科「情報」では、「情報A」「情報B」「情報C」の三つの科目が設置され、1科目2単位が必履修とされた(7)。これらの科目は、いずれも上記三つの目標を達成することができるとしつつも、情報Aでは(1)を、「情報B」では(2)を、「情報C」では(3)に重点を置き、それぞれ異なった内容が含まれている。

 具体的には、「情報A」は、コンピュータを用いた情報収集や文書表現から、画像・音声・動画等のマルチメディア処理、プレゼンテーションやWebページを通した情報発信まで、幅広く実習を行う。また、それらを安全に行うための社会的・倫理的知識として、知的財産権や個人情報の概念、情報モラルや情報セキュリティの動向なども学ぶ。

 「情報B」は、コンピュータにおける演算やアルゴリズム、情報システムを構成するデータベース技術、社会事象や自然現象のモデル化やシミュレーション等を学習する。これらを通して、情報社会を支える情報技術の役割や影響を理解し、問題解決にコンピュータを活用する科学的思考を身につけることを目指している。

 また、「情報C」は、情報社会におけるコミュニケーションやメディアの特性、情報通信ネットワークやWWWの仕組み、デジタル情報の表現や伝達手法等を学習する。さらに、社会調査や課題研究を通して一連の情報活用の統合的能力を習得し、最終的には望ましい情報社会の在り方を議論する。

 なお、これらの内容は排他的ではなく、重要な部分が科目を横断して含まれている教科書も多い。現場教員においては、学校行事や開設年次等に応じてより独特な内容を含めることもあり、授業内容の実態は学校によって多種多様な状況である。ただ、いずれにせよ、コンピュータを活用した実習が前提とされているものの、決してパソコンの操作方法自体が重要なわけではなく、「未来の情報社会で生きる術」をあらゆる観点から包含する科目となっていた。

 

2. 2009年新学習指導要領における改訂点

 2009年度の学習指導要領改訂において、3科目あった普通教科「情報」の科目構成は大幅に変更され、「社会と情報」「情報の科学」という2科目に集約された。この2科目は、それぞれ旧課程の「情報C」「情報B」を継承し、内容を発展させた新科目となっている。一番初歩的で最も多くの学校で開講されていた「情報A」については、教科創設時から約10年の間に小・中学校での情報教育が充実し、高校入学時点における生徒の情報活用能力が向上をしたことを見込んで、発展的に解消するという趣旨が学習指導要領解説に示されている(8)。「情報A」に含まれていた情報活用の実践力や情報モラルに関する基礎的内容は、双方の科目で実施されるよう共通して振り分けられたが、それでも小・中学校における一連の情報教育のなかで部分的に既習であることが前提とされており、情報社会の高度化に対応した教科のレベル底上げの意図が読み取れる。

 授業の実施形態についても変更がなされている。旧課程では座学と実習の割合が規定されており、総授業時数に対する実習の配当時間数を情報Aで2分の1以上、情報B・Cで3分の1以上は最低限確保しなければならなかった。新課程においてはこの明示が撤廃され、学校の実習環境や生徒の前提レベルに応じて、教員の裁量で柔軟に授業形態を設計できるようになった。

 その他、この改訂では、中学校の技術・家庭科や高等学校数学科など、他教科における情報教育に関連する内容も変化がみられる(9)。特に、新課程情報科の学習指導要領解説では「公民科及び数学科などとの関連を図るとともに,教科の目標に即した調和のとれた指導が行われるよう留意する」(10)と明示されるようになり、他教科連携が極めて重要視されたことも大きな特徴である。

 

3. 教科「情報」の授業実態と大学入試

 学校現場の実態としては、必ずしも学習指導要領の趣旨を全て反映した理想的な授業が展開できているわけではない。

 まず、どの科目を開設するかという点をとっても、学校間で偏りが非常に大きい。検定教科書の採択割合によると、経年によって少しずつ「情報B・C」が増加しているものの、新課程開始直前の2012年時点においても半数以上が「情報A」であった(11)。新課程における2科目集約化に際しては、科目間の偏りは生じないことが期待されたが、結果としては「社会と情報」が圧倒的多数という状況である(12)。また、学習指導要領上では「あらかじめ各学校でどちらか一方の科目に決めてしまうのではなく,いずれの科目も設定して生徒が主体的に選択できるようにすることが望まれる」(13)とされているが、選択科目の開講を実現できている学校は少ない(14)。開講学年についても、学習指導要領では同一学年での2単位開講が推奨されているが、入試科目でない情報科は他教科との調整の中で優先度が下がり、学年単位数に余裕のある高学年に分割して配置する学校も少なくなかった。ただし、科目横断的に必要な基礎的情報活用能力の育成という教科趣旨を鑑み、1学年へと集約する学校も増えてきている(15)。

 授業内容や実習方法に関しても、学校ごとの裁量や現場教員の得意分野が反映される場合が多い。前述の通り、固有のソフトウェアの操作自体は本科目の趣旨ではないものの、現実的にはいわゆるオフィスソフトの利用が大部分を占めてしてしまう場合もあった。新課程の教科書においては、ますますソフトウェアの操作に関する説明は減少しており、本質的な活用や問題解決への応用実習が重視されるが(16)、一方でコンピュータ環境の整備が追いつかず、情報モラル等の座学を中心に行う学校もある。日常的なセキュリティアップデートやOS・機材の更新などにかかる金銭的・人的負担は大きく、陳腐化した学校のPCよりも生徒自宅の個人PCのほうが高性能ということも多々あり、理想的な情報教育環境を維持することは容易ではない。

 内容的に大学の情報リテラシー教育に直結する部分も多く、大学初年次教育の円滑化が期待されていたが、学校によって実施内容が異なり、生徒の習得スキルや到達レベルの差が大きいため、全体的な底上げまでは至っていない。8年間にわたり大学新入生に対する継続的な調査を行っている神田らは、「大学における情報教育の負担を軽減するまでには至っていない」(17)と結論づけている。

 このような格差の大きい状況を解消するために、大学入試に情報科を取り入れることで、一定の均一的な到達レベルを確保しようとする動きも盛んである。情報処理学会は情報科を大学入試センター試験に取り入れることを提言している(18) (19)ほか、情報入試研究会は試作問題を作成し模擬試験を実施している(20)。また、明治大学などの一部の大学は2次試験に情報分野の内容を独自に取り入れ始めている(21)。一方で、教育再生会議の第四次提言を発端に、中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会で検討されている、大学入試センター試験に代わる「到達度テスト」においては、情報科が入試科目として一斉導入される可能性は引き続き低い見通しである (22)。

 

4. 教科「情報」における図書館の扱い

4.1 学習指導要領での扱い

 新課程の学習指導要領やその解説では、全教科にわたって、学校図書館活用や言語能力向上に関する記述が増加していることが知られている(23)が、情報科に限っていえば、図書館が登場する箇所は多くない。

 情報科新学習指導要領解説の「高等学校の他教科との関係」という節では、「学校図書館を計画的に活用しその機能の活用を図ることも大切である。書籍やDVD,ビデオなどの情報と情報手段を合わせて利用できるようにした学校図書館を,学習情報センターとして生徒の主体的な学習活動に役立てていけるように整備を図り活用していくことが必要である。」(24)と記載されており、旧課程でも同様の記述がなされていた。一方で、この表記のとおり、「情報手段」と「書籍やDVD,ビデオなど」は個別の概念として捉えられている。情報手段の有効活用は学習指導要領で極めて重視されており、上記の節以外でも各所で頻出する表現であるが、その主眼はコンピュータや情報通信ネットワークであり、図書館や図書館資料が情報手段の文脈で同等視されるまでには至っていないことが伺える。

 また、各単元における具体例の題材として、図書館が例示に用いられている箇所が存在する。例えば、旧課程においては、「情報A」における「情報共有の工夫」の節で「図書館の蔵書と蔵書目録のような一次情報と二次情報の関係」の理解を求められていたり、「情報B」における「情報の蓄積・管理とデータベースの活用」の事例として「図書目録」が題材としてあげられている。新課程においても、「社会と情報」の「社会における情報システム」の節で取り上げるべき例として、「図書館での本の検索や予約」があげられているほか、「情報の科学」における身近なデータベースの例としても、引き続き掲載されている。

 その他、学習指導要領中に図書館という単語の形で明記されていなくとも、問題解決や情報検索の一手段として、新聞や書籍、オンラインデータベースや電子百科事典の活用が促されている箇所は複数存在しており、検定教科書の該当単元においては、図書館を題材として解説されている場合も多い。

 

4.2 旧課程の検定教科書における取り扱い

 藤間らは、旧課程情報科の各社の検定教科書について、本文に「図書館」「司書/司書教諭」といったキーワードが出現する回数を調査している(25)。その結果、図書館という単語が全く出現しない教科書も確認されたほか、複数回出現したとしても図書館の社会的意義に立脚した解説はなく、期待したレベルの記述は無いとしている。また、司書/司書教諭に関してはほとんどの教科書で一切の記述が無く重要な情報専門職として意識されていないことが指摘されている。また、後藤田も同様の調査(26)を行い、多くの教科書では「図書館で本を調べてみる」程度の記述が1度か2度ある程度で、例外的に相互貸借やレファレンスサービスに関する記述を行っている教科書でも、記述量は全体の1%にも満たないと問題提起している。

 

4.3 新課程の検定教科書における取り扱い

 新課程の検定教科書における実態を把握するために、筆者は2014年現在出版されている全社の新課程情報科の教科書13種(27)から、図書館関連の記述箇所を抽出した。以下に、図書館関連の話題が掲載されていた例を、学習内容の場面ごとに整理して列挙する。

 

(1)情報社会におけるメディアの一つとして

 新課程ではメディアリテラシーの指導が重視される傾向にあり、社会における多様なメディアの特性理解の内容が増加している。その中では、テレビ、ラジオ、インターネット等とあわせて、書籍や新聞・雑誌、もしくは人の話といった幅広い媒体も対象に比較されており、図書館や博物館・美術館も同様にあげられている場合もある。

 

(2)情報収集における情報源としての図書館やデータベース

 新課程では問題解決の実習も重視され、そのための調査や情報収集のプロセスとして、図書館関係の情報源を題材に解説されているものも多い。多様な調査手法として、実験やフィールドワークとあわせて文献調査が紹介されている場合もあれば、具体的な情報源として学校図書館や公共図書館、専門図書館の活用に言及している場合もある。電子情報資源として、論文検索サービスや新聞記事データベース、百科事典等のオンディスクデータベースが紹介されていることも多く、特許電子図書館は知的財産権の単元でも頻出する。

 また、新課程の教科書では、実在するWebサービスを掲載している場合も多く、Twitter等のマイクロブログやWikipedia等の集合知の事例が、スクリーンショットとともに実名で紹介されている場合もある。図書館に関しては、国立国会図書館「NDL-OPAC」や、国立情報学研究所の「CiNii」「Webcat Plus」、NPO法人連想出版の「新書マップ」を掲載している教科書が存在する。

 

(3)情報検索技術の習得の題材として

 情報検索の単元では、いわゆるロボット型Web検索エンジンの仕組みだけでなく、情報を探しやすくする工夫の学習も含まれており、その例示として旧課程の時から図書館が多く用いられてきた。例えば、キーワード検索とカテゴリ検索の違いを解説するにあたり、後者の例示に日本十進分類法の抜粋が掲載されていることがある。また、論理演算子や各種検索オプションの活用のほか、シソーラス辞書を用いた統制語彙による検索など、高度な検索技法を取り上げている教科書もある。また、人に聞くことも有効な検索手段の一つとして、司書によるレファレンスサービスが取り上げられる場合もある。

 なお、これらの内容は、旧課程においては学習指導要領上で「情報の検索と収集」という形で項目化されていたが、新課程ではこれに対応する項目が無いことに留意されたい(28)。実際に、教科書によっては記載量が大きく減少しているものもあり、情報検索の文脈で図書館が取り上げられる可能性は減少したとも捉えられる。

 

(4)情報社会の発展の歴史のなかの位置づけ

 人間のコミュニケーションの本質に着目する新課程においては、紙媒体や口承での情報伝達の時代も含め、太古からの一連の流れとして情報通信技術の歴史を学ぶ。その中では、パピルス紙や活版印刷が必ずと言って良いほど触れられているほか、さらなる未来のメディアとして電子書籍が説明されているものもある。

 

(5)社会基盤の情報システムの一つとして

 情報社会を支える公共的な情報システムの実例として、住民基本台帳ネットワークシステムやe-Govとあわせ、公共図書館の蔵書検索や予約システムが紹介されている教科書もある。

 

(6)著作権の権利制限規定の一つとして

 個人情報や知的財産権等に関する情報倫理教育は、禁止事項の周知などのリスク抑止型の内容から、保護と活用のバランスを考える内容と移りつつある。例えば、著作権の単元では、複製権や公衆送信権といった支分権の理解や、それらの権利侵害となりうる違法行為の例を知るだけでなく、どうすれば安全に他者の著作物を利用できるかという観点を重視する。具体的には、著作権管理団体への許諾手続き、クリエイティブ・コモンズ等の著作権者による意思表示の理解のほか、私的複製、引用、教育機関での授業の過程での複製等の権利制限規定があげられる。そしてこの中で、公共図書館における複製や貸与について触れられている教科書も複数存在する。

 

(7)データベースの事例・RDBやSQLの実習題材として

 「情報の科学」の科目では、データベース技術やデータベースシステムの構築の内容が必ず含まれているが、大半の教科書ではその題材として図書館システムが取り上げられている。図書館の蔵書目録や貸出システムを作るというテーマを掲げ、書誌事項の表や分類表、生徒名簿表などの例を示しながら、リレーショナルデータベースの正規化や関係演算の処理等が解説されている。また、教科書によっては、貸出履歴を分析して利用傾向を把握したり、図書館向上に活かすといった問題解決実習まで含まれるものもある(29)。

 

(8)その他の単元における例示

 図書館は、高校生にとって身近な例示題材として捉えられているようで、上記以外の単元各所でも、関連項目として取り上げられていることも多い。例えば、ユニバーサルデザインやアクセシビリティに関する単元で「DAISY図書」が紹介されていたり、身近な情報の符号化の例として図書館のバーコードが挙げられているものもある。また、問題解決の実習例として、「図書館はなぜ利用されないか」という問題提起のもと、ブレーンストーミングやロジックツリー、MECEやテキストマイニング等、多様な問題解決プロセスを通して図書館活性化を図る事例もあった。

 

 なお、各社それぞれの教科書に上記の内容が全て掲載されているわけではないことに留意されたい。これらの記載例のうちどの程度掲載しているかは、教科書会社によって大きく異なり、新課程においても図書館がほぼ登場しない教科書も存在する。また、図書館活用のことを体系的に学ぶ単元は相変わらず存在せず、期待されていたような図書館教育の一端を担うまでには至っていない。

 一方で、上記の記載例をみると、図書館に関連する内容は教科書内各所に分散して、様々な単元に溶け込んでいると捉えることもできる。これは、新課程の情報科が単なるコンピュータリテラシーだけでなく、問題解決能力やアカデミックスキルの習得へと指向したことが反映された、必然の結果ともいえる。むしろ、現代の多様化するメディアの中で、図書館が自然に位置づけられていると解釈することもできるだろう。

 

5. 情報科と図書館の連携の難しさ

 実際の授業としては、情報科と図書館が連携した実践はいくつか報告されている(30) (31)ものの、多くの学校現場では、情報科の授業で図書館が積極的に意識されているとは言い難い。情報科はコンピュータ教育であるという先入観はいまだに強く、特に他教科との連携においては、校内PCの基本操作やオフィスソフトの活用指導を期待されてしまうことも多い。また、近年においては、スマートフォン普及による中高生の問題事例多発により、情報モラル教育へのニーズも高まり、限られた授業時数の中で図書館関連単元の優先度を上げて授業を構成することは、難しい状況であったともいえる。

 情報科の教員養成課程の問題も、情報科で図書館が重視されない一要因として指摘されている。教職課程には図書館に関する必修科目は無いうえ、情報科の教科教育法の授業でも図書館関連事項の優先度は高くないことが報告されている(32)。また、教科創設時は、数学・理科等の一部教科の現職教員が講習により情報科教員免許を取得し、教科兼任の情報科教諭が多数うまれたが、わずか15日間の講習で専門的知識を得ることは無理があったといわれている(33)。このように、そもそも図書館に精通した情報科の専門教員が輩出される体制が、確立されてこなかった。

 その他、情報科教員や学校司書の多忙さゆえの連携の難しさや、コンピュータ室と学校図書館が離れているという物理的制約も、連携阻害要因として指摘されている(34)。情報科の創設年がちょうど学校図書館法改正による司書教諭配置義務化の年でもあったため、これらが融合した「学校図書館メディアセンター」のような連携に期待がされたが、学校図書館側からも明確な反応はなく実現しなかったとされており(CA1722参照)、現在でもこのような状況は大きく変わっていないだろう。

 

おわりに

 高等学校「情報科」が取り扱っている内容は、いずれ中学校・小学校へと段階的に学習年次が下がっていくだろう。また、それらで取り扱う内容も、生徒を取り巻く情報社会の発展や、家庭環境における情報デバイスの変化に伴い、刻々と変わりうることは容易に予測される。学校全体としても、情報科の中での情報教育よりも、電子黒板やタブレットPC等を用いた一般教科指導におけるICT活用に注目が移りつつあり、情報科自体の位置づけや情報科教員に要求される資質も、今後大きく変化しうる。

 つまり、現在時点での高等学校「情報科」という枠組みに限って図書館が繋がるポイントを探るだけでなく、小学校から大学まで続く一連の情報教育およびそれを支える学校情報環境の中で、図書館という存在をどのように位置づけるか、総体的な視点をもつことが必要である。

 そのためにも、今後は情報科教員が図書館に関する研鑽を積むことはもちろん、学校図書館や大学図書館等の図書館関係者側も、日本の情報教育の体制や実情について理解を深め、相互に議論を重ねることに期待したい。

 

(1) 例えば、2004年の図書館総合展では、「『情報科』後の図書館利用教育 -変わる利用者をどう迎えるか-」と題したフォーラムが組まれた。
“JLA-CUE (JAPANESE): Library Fest. Seminar”. 日本図書館協会.
https://www.jla.or.jp/portals/0/html/cue/sogo6.html [357], (参照2014-05-01).

(2) “高校教科「情報」未履修問題とわが国の将来に対する影響および対策”. 情報処理学会.
http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/Highschool/credit.html [358], (参照2014-05-01).

(3) “教科「情報」の扱いなど全高長協会が要望 [KKS]教育マルチメディアニュース 2007”. 教育家庭新聞.
http://www.kknews.co.jp/maruti/2007/news/070413.html [359], (参照2014-05-01).

(4) 例えば、平成元年改訂の学習指導要領においては、中学校の技術・家庭科の一領域として設けられていた「情報基礎」や、高等学校の数学科における「計算とコンピュータ」「算法とコンピュータ」等の単元がそれにあたる。

(5) 米谷優子. 情報化と学校図書館 –デジタルメディアとの関わりから–. 園田学園女子大学論文集. 2013, (47), p. 17-37.
http://www.sonoda-u.ac.jp/tosyo/ronbunsyu/ [360]園田学園女子大学論文集47/017-037.PDF, (参照2014-05-01).

(6) 澤田大祐. 高等学校における情報科の現状と課題. 調査と情報. 2008, (604), p. 1-10.
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0604.pdf [361], (参照2014-05-01).

(7) これらの科目の他に、専門教科「情報」として11科目が設置されたが、これらは主として職業学科を設置する専門高校において開講されるものであるため、本稿では普通科高校において開講される普通教科(新課程では共通教科という呼称に変更)のみを対象とする。

(8) 学習指導要領解説では、次のように記述されている。『今回の改訂では、共通教科情報科の改訂の趣旨及びこの間の義務教育段階における情報教育の充実や成果を踏まえ、義務教育段階において情報手段の活用経験が浅い生徒の履修を想定して設置した「情報A」については発展的に解消し、「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する内容を重視した基礎的な科目として「情報の科学」と「社会と情報」を新設することとした。』
文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p. 14-15.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf [362], (参照2014-05-01).

(9) 中学校技術・家庭科の技術分野においては、旧課程では全体で2単元の内の1単元が情報領域とされていたものが、新課程では全体が「材料と加工」「エネルギー変換」「生物育成」「情報」の4単元に枠組みが変わり、相対的に割合は減少した。一方で、旧課程では一部選択であった内容が全て必修化され、中学校卒業時点での既習内容の均一化が図られたこともあり、高等学校情報科においても中学校までの成果を活かした連続的な教育が重要視されているといえる。また、高等学校数学科においては、これまで「数学B」における選択領域であった統計処理の内容が、「数学I」の単元「データの分析」として必履修になった。学習指導要領解説においては、「例えば表計算用のソフトウェアや電卓も適宜用いるなどして、目的に応じデータを収集・整理し(後略)」と記載されているが、このような実習は情報科との連携が期待される部分である。詳細は、以下の各教科の学習指導要領を参照されたい。
文部科学省. 中学校学習指導要領解説 技術・家庭編. 2008, p. 6-10.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf [362], (参照2014-05-01).
文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 数学編. 2009, p.25.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/06/06/1282000_5.pdf [363], (参照2014-05-01).

(10) 文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p. 9-10.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf [362], (参照2014-05-01).

(11) 佐藤万寿美. 高等学校全体の教科「情報」の状況について. 大学教育と情報. 2012, 2012(1), p. 3-6.

(12) “平成 26 年度使用 都立高等学校及び中等教育学校(後期課程)用教科書 教科別採択結果(教科書別学校数)”. 東京都教育庁.
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/08/DATA/20n8m300.pdf [364], (参照2014-05-01).

(13) 文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p. 10.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf [362], (参照2014-05-01).

(14) 生田茂. 教科「情報」における必履修科目の履修割合の変遷. 筑波大学学校教育論集. 2008, 30, p. 7-13.

(15) 生田茂. 教科「情報」の現状 : ホームページ上の教育課程表から. 筑波大学学校教育論集. 2007, 29, p. 1-4.

(16) 実際には、小・中学校段階まででのソフトウェア操作の習熟度のばらつきは大きく、高等学校情報科の導入としても最低限の操作説明をすることは避けられないため、検定教科書によっては、巻末資料として固有のソフトウェアの画面イメージを用いた操作解説を独自に掲載しているものも多い。また、代表的なオフィスソフトウェアの各製品に対応した利用ガイドの副読本が、教科書会社から販売されているものもあり、補助教材として採択する学校もある。

(17) 神田久恵, 西荒井学. 教科「情報」の修得内容と情報活用ツールについての実態調査 : 2006 年度から2013 年度までの新入生を対象として. 愛知淑徳大学論集 人間情報学部篇. 2014, (4), p. 47-61.

(18) “大学入試センター試験における教科「情報」出題の要望”. 情報処理学会.
http://www.ipsj.or.jp/03somu/teigen/kyoiku201104.html [365], (参照2014-05-01).

(19) “「達成度テスト」における情報科試験採用の要望”. 情報処理学会.
https://www.ipsj.or.jp/release/teigen20131211.html [366], (参照2014-05-01).

(20) “情報入試研究会 | Joho Nyushi Study Group”. http://jnsg.jp/ [367], (参照2014-05-01).

(21) “2014年度情報コミュニケーション学部一般選抜入学試験 B方式”. 明治大学.
http://www.meiji.ac.jp/infocom/examination/generalb.html [368], (参照2014-05-01).

(22) 平成26年03月07日に公表された審議まとめ(案)の中で、「保健体育、芸術、家庭、情報及び専門学科の各教科は、実習等による幅広い学習活動によって評価される比重が高く、一般的にペーパーテストになじみにくいこと等に配慮し、引き続き専門的に検討。」と記されている。
“初等中等教育分科会高等学校教育部会審議まとめ(案)~高校教育の質の確保・向上に向けて~”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/houkoku/1346339.htm [369], (参照2014-05-01).

(23) “新学習指導要領における「学校図書館」関連の記述”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/material/research/post-46.html [370], (参照2014-05-01).

(24) 文部科学省. 高等学校学習指導要領解説 情報編. 2010, p.4.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/01/26/1282000_11.pdf [362], (参照2014-05-01).

(25) 藤間真, 志保田務, 谷本達哉, 西岡清統. 「情報」科目テキストにおける「図書館」. 図書館界. 2004, 56(2), p. 120-126.

(26) 後藤田洋伸. 普通教科「情報」と図書館. VIEW POINT. 2003, (3).
http://www.ctc-g.co.jp/~caua/viewpoint/vol3/index.htm [371], (参照2014-05-01).

(27) 文部科学省. 高等学校用教科書目録(平成26年度使用). 2013, p. 34.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/mokuroku/25/__icsFiles/afieldfile/2013/04/26/1333777_03.pdf [372], (参照 2014-05-01).

(28) 情報検索の能力は、小・中学校段階である程度育成された前提で、高等学校段階からは削減されたものと考えられる。その他、新課程における各単元の取り扱い状況の変化は以下に掲載されている相関表を参照されたい。
“共通教科「情報」Q&A”. 愛知県総合教育センター.
http://www.apec.aichi-c.ed.jp/project/joho/H21/q_and_a/index.htm#qa_1_14 [373], (参照 2014-05-01).
“ 共通教科「情報」Q&A ”. 愛知県総合教育センター.
http://www.apec.aichi-c.ed.jp/project/joho/H21/q_and_a/index.htm#qa_1_14 [373], (参照 2014-05-01).

(29) しかし、利用者名が匿名化されていない生の履歴データのまま処理を行っている処理例もあり、あたかも実社会の図書館でも同様なことを行っているかのような誤解を与え、プライバシー保護の指導と矛盾する記載となってしまっている場合もある。このような教科書においては、年度ごとの微修正の中で、図書館の自由に関する宣言への言及や、あくまで仮想データを用いた例題である旨の注釈が追記されたものもあり、年々向上されているようである。

(30) 青山比呂乃. 司書教諭のいる学校図書館と情報教育の可能性 : 1つの事例報告. 情報の科学と技術. 2000, 50(8), p. 425-431.

(31) 萩原環. 教科「情報」とのコラボレーション授業. 現代の図書館. 2004, 42(1), p. 59-63.

(32) 藤間真, 志保田務, 谷本達哉, 西岡清統. 「情報」科目テキスト等における「図書館」(その2). 図書館界. 2005, 57(2), p. 112-119.

(33) 久野靖. 高校教科「情報」のこれまでとこれから(前). 情報処理. 2011, 52(4・5), p. 559-562.

(34) 中園長新. 高等学校における情報教育と学校図書館 —教科「情報」の実践事例を参考に—. LISN. 2011, (148), p. 1-4.

 

[受理:2014-08-11]

 


小野永貴. 教科「情報」と図書館. カレントアウェアネス. 2014, (321), CA1832, p. 22-27.
http://current.ndl.go.jp/ca1832 [374]

Ono Haruki.
Senior High School Subject "Information" and Libraries.

  • 参照(9139)
カレントアウェアネス [7]
日本 [15]
学校図書館 [375]

No.320 (CA1821-CA1826) 2014.06.20

  • 参照(7664)

No.320の表紙 [376]と奥付 [377](PDF)

CA1821 - 辞書の向こう側:生きた用例と辞書を往き来する / 高橋さきの

PDFファイルはこちら [378]

カレントアウェアネス
No.320 2014年6月20日

 

CA1821

 

 

辞書の向こう側:生きた用例と辞書を往き来する

翻訳者・お茶の水女子大学非常勤講師所属
:高橋さきの(たかはし さきの)

 

 「電子化されたテキスト」というかたちで蓄積されてきた先人の文章を「電子化された辞書」と行き来しつつ手軽に利用できる環境が実現しつつある。

 

1.記憶をたどって青空文庫を読む

 青空文庫という存在の大きさについては、いまさら多言を要すまい。青空文庫を支えてこられたみなさんのおかげで、著作権保護期間を満了した作品を、書籍の香りをしっかりと残したかたちで作品として読むことができる。しかしそれだけではない。『トロッコ』で「トロッコはどんな音をたてて動き出したんだっけ」という疑問も、テキストデータである青空文庫なら、検索という手段でたちどころに解決する。

 そう、トロッコは3人の子どもの力が揃うと「突然ごろりと車輪をまわし」、この音にひやりとしつつも「良平」たちが押し続けると、「ごろり、ごろり、――トロッコはそう云う音と共に、三人の手に押されながら、そろそろ線路を登って行った」のである。

 しかし大抵の場合、前後も読んでみたくなるはずで、『トロッコ』のこのくだりは、冒頭の物語りが動きだすシーンなので、視線は自ずと先へと向かうことになる。

 かくして検索者は、「良平」がトロッコに飛び乗ると、トロッコが最初は「徐おもむろに」、それから「見る見る勢いきおいよく」動き出し、さらには風景が「忽たちまち両側へ分かれるように、ずんずん目の前へ展開して来」る現場に立ち会うことになる。

 「ごろり」を探してたどりついたはずの『トロッコ』冒頭という現場で、「ごろり」という状況に「突然」遭遇し、「ごろり、ごろり」に耳を澄まし、「そろそろ」、「徐ろに」、「見る見る勢よく」動くトロッコを観察し、さらには「良平」と一緒に「ずんずん」を体感したということだ。

 文脈という存在のもとで作品の「現場」を体験するというのは、たとえばこういうことなのだと思う。「用例は、まるごとのすがたで法則をおしえてくれる」(1)。

 青空文庫は、こうしたかたちでも利用されてきた。

 

2.コーパスとして青空文庫を使う

 記憶の奥深くに沈潜していた特定作品の特定場面に検索を介してたどりつくのではなく、「ごろり」の使用場面を多数確認したいという場合には、『トロッコ』1作品のみでなく、青空文庫全体を検索対象とすることになる。これは、青空文庫を文章表現のコーパスとして利用するということである。

 「検索」や「コーパス」というと、コンピュータ以降の世界のことと思われがちだが、そんなことはない。文学作品は、電子化される前から、文法研究などに利用されてきた。高橋の「文法資料としての文学作品―文法形式のゆたかさの面から」から一節を引用する(2)。

「文学作品は、ものの見かたの独自性とむすびついて、表現のしかたがゆたかである。これは、新聞や評論の文章とくらべてタイプ化がよわいことであるが、このことが、ゆたかな形式を得られるという、文法研究にとって有効な結果をもたらすことになる。具体的にいえば、文学作品を資料にすれば、基本的なことが、だいたいいえるということである。」

 ここには書かれていないが、文学作品であれば文庫本が使えた。コピーがまだまだ高かった時代、比較的廉価で、カードに貼り込みやすい文庫本の存在は貴重だった。当時は、文庫本のページを張り込んで必要箇所を赤鉛筆で囲むなどしてこしらえたカードを特注の引出しにあいうえお順にしまうなどして、検索可能な環境を整備していたのである。こうしたカードは辞書の語釈執筆の際にも使われた(3)。

 文学作品を中心とする青空文庫には、パターン化を免れた表現の多様性や、よく推敲された安定感が確かにある。さらに、文学作品からははみだす幅広いジャンルの作品、たとえば科学随筆や評論(例:寺田寅彦、戸坂潤)も収載されているし、事態が順調に推移すれば、2021年には1970年没の作家の作品までが収載されることになる。

 そして、青空文庫であれば、検索した表現を、上であげた『トロッコ』のケースのような前後数段落にとどまらず、それこそ作品全体という現場で検討することもたやすい。

 さて、ここまでは、十数年前から言語関連分野の研究者の間で日常的に行われてきた作業である。しかし、文章執筆をなりわいとする者にとって、文章執筆の傍ら青空文庫をコーパスとして使うというのはハードルが高かった。つまり、辞書を引きながら、その語彙の複数の用例を青空文庫で検索して文脈を確認し、そうした作業を通じてその語彙をきっちり身につけ、自信をもって執筆中の文章で使うというのは、大変手間のかかる作業だったということだ。

 特に、日本語を母語とする自分のような翻訳者の場合、訳出対象文書に書かれている内容そのものの理解や確認だけでなく、相対的に不得意な英語側表現の検討作業にも時間をとられる分、言語力の源たるはずの母語側表現の検討に割ける時間が限られてしまい、宝の山がそこに横たわっているとわかってはいても、青空文庫の参照を励行するのは正直難しかった(4)。

 そうした状況が一変したのが2013年だった。

 

3.青空WINGがやってきた

 少々時間を遡る。

 紙の辞書全盛時代に翻訳、それも基本的に理系の翻訳の仕事をしていたころは、机の前の書棚のみならず、手の届く限りが辞書の海だった。英和辞典、和英辞典、国語辞典、英英辞典などのいわゆる語学辞書だけでなく、理化学辞典、生物学辞典をはじめとする英日双方の専門辞書もたくさん使うから、辞書引きの作業はちょっとした筋肉労働だった。

 90年代になって、CD-ROM形式で辞書が販売されるようになると、多数の辞書をパソコンのハードディスク・ドライブに保存しておいて、辞書ブラウザ(辞書閲覧用のソフトウェア)で、串刺し検索(複数の辞書を一度に検索して、その検索結果を行き来しながら読むような検索)を行うのが普通になった(5)。フリーウェア、シェアウェアの作者さんたちが優れた辞書ブラウザを作ってくださったおかげである(6)。

 当時CD-ROMのかたちで販売された電子辞書の多くが採用していたのが、EPWINGという電子辞書に特化したデータ形式だった。言い換えると、他の形式の辞書データや、青空文庫のような辞書用データではないものも、EPWING形式に変換・加工することさえできれば、EPWING用の辞書ブラウザを使った串刺し検索が可能になる。ただし、これはあくまでも理屈の上でのはなしで、そう簡単ではない。

 そして2013年、「青空WING」によって、青空文庫が辞書ブラウザで検索できるようになった。もう少しきちんと書くと、青空文庫のテキストデータをEPWING形式に加工した「青空WING」を作ってくださった作者さんがおられ、辞書ブラウザで「青空WING」を引くことができるようになったということだ。青空文庫のテキストデータは、辞書データではないわけで、それを、どのように実際に使いやすいかたちに加工するかというのは、一律に決まるような機械的作業ではないし、「青空WING」は、現在もどんどん進化中である(7)。

 かくして、辞書を引きながら、青空文庫で多くの用例を確認し、それからまた辞書に戻るといった作業が楽に行えるようになった。

 

 

4.辞書の向こう側

 通常の国語辞典には、ごくごく大ざっぱに分けて、3種類くらいあるように思う(8)。

 一つは、収録語彙数が多く、新語や百科事典的記載も数多く含まれるような大型辞典、もう一つは、すでに知っている語彙の表記を確認するのに適していたり、辞書執筆者の顔が見えたりするような辞典で、こちらは基本的に小型である。

 三つ目が、収録語彙数は第一のタイプの辞書ほど多くないものの、丁寧な語義分類を特徴とし、典型的用例や類義語の記載も充実したタイプの辞書で、その筆頭は『学研国語大辞典』だろう。用例や類義語の記載は別として、『大辞泉』(小学館)、『三省堂国語辞典』などもこのタイプの辞書だといえる。コーパスとしての青空文庫と組みあわせて日常的に使用するのに適しているのは、このタイプの辞書だと思う。

 『学研国語大辞典』の場合、用例の多くが出典明示のうえで近代文学から採られている。一例を挙げれば、「満面」を引くと出てくる用例二つのうち片方は、『蜜柑』(芥川龍之介)の「この煙を満面に浴びせられたおかげで、殆息もつけない程咳(セ)きこまなければならなかった」というものである(もう一つは「満面に笑みをたたえて」のような表情に関する用例)。これでも、この語彙の含意の大枠はわかる。

 しかし、青空WINGで、『蜜柑』に実際にあたってみれば(図1)、これが「元来咽喉のどを害していた私」の乗った汽車がトンネルに入った際の描写であることがわかるし、「火の粉が降るやうに満面に吹き附けて」(田山花袋『重右衛門の最後』)といった他の用例も簡単に拾え、この表現が、実際にはからだ全体が晒されているが、そのことを顔で感じたような場面で使用されていることがわかる。さらにいえば表情に関する用例にくらべて圧倒的に使用頻度が低いことや、「帆を満面にはらませた船」、「爽やかな春風を満面にはらんだ椎の樹の梢」といった顔以外の場面でも使用可能なこともわかる。

 

画面キャプチャ画像。次のキャプションに説明あり
図1 青空WINGで「満面」をひいたところ(辞書ブラウザはEBWin4)。片方の(ここでは左)ペインに検索語の含まれる作品の段落のリストが並び、そこで選んだ段落が前後とともにもう片方の(ここでは右)ペインに表示される。

 

 

 「満面」の例は、辞書に出典明示の用例が載っていた例であるが(9)、辞書の用例を経由せずに直接検索する場合も基本は同じで、複数の用例を見わたした後、先人の知の集積としての辞書の記載を再度確認しておくことになるはずだ。なお、自分の場合は翻訳者でもあるので、日本語の用例に関しては、国語辞典だけでなく和英辞典も参照して言語間の交通をつけているが、研究社の『新和英大辞典』の記載は、歴代の国語辞典に影響を与え続けてきただけあって、青空文庫の用例の広がりとよく符合する。青空文庫の用例を通じて、国語辞典と和英辞典が結ばれているような具合だ。

 なお、辞書ブラウザを使わずに、ウェブ上の青空文庫を検索しても、ある程度似たような作業を行うことはできる(10)。

 《辞書+青空文庫》の組み合わせということで以上に述べてきたような使い方は、語義を示す辞書の奥行きを広げるような使い方かもしれない。

 

5.コロケーション辞書への広がり

 青空文庫の辞書的利用には、少しちがったかたちのものもある。その一つが、格関係などの文法事象を利用したコロケーション辞書としての利用だろう。

 コロケーション辞典を過去に遡れば、勝俣銓吉郎の『英和活用大辞典』(研究社、1939)に行き着く。『新英和活用大辞典』(研究社、1958)の序文には、「語義を示すのではなくて、語が他の語と慣習的に結合して一つの表現単位をなすその姿を広く採集し、これを文法的に排列(ママ)したもので、その狙いは英語活動態(English in action)を展示しようとするにある」と書かれている。

 日本語のコロケーション辞典としては、書籍版の小内一の『てにをは辞典』(三省堂、2010)の利用者が多い。この辞書は、手作業も介して大変丁寧に作られており、それぞれの語彙の「~を」などのかたちが実際にどのように使われているかを、共起語を手がかりとして知ることができる。この辞書は、電子辞書化の要望が群を抜いて高い辞書でもある。

 ウェブ上のコロケーション辞書としては、国立国語研究所が構築した『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese: BCCWJ)を利用して、Lago言語研究所が同研究所とともに開発したNLB (NINJAL-LWP for BCCWJ)があり、これも大変使いやすく、数十字~百字程度の用例を確認できる。この辞書は、通常の全文検索型インタフェースである『少納言』と組みあわせて利用してもよい(11)。

 青空文庫に関しても、辞書ブラウザと組みあわせてのコロケーション型辞典として利用するためのデータが公開されおり、現在も着々と改良が重ねられている(12)。

 

6.さらなる表現検索の可能性

 青空文庫の辞書ブラウザ経由での利用には、さらに別の展開もありうる。

 たとえば、辞書ブラウザを使うと、辞典や事典の記載も検索対象として使える。辞典や事典の記載というのは、よく推敲された安定感のある文章で、『岩波理化学辞典』、『岩波生物学辞典』のような専門辞書のみならず、『平凡社大百科事典』や『小学館百科全書』などの記載を青空文庫と組みあわせて利用できることのメリットは大きい。

 辞書ブラウザによっては、句読点も検索できるので、それらを利用した文頭検索、文末検索、文中切れ目検索(例:「。すなわち」、「のである。」、「、すなわち」)も可能である(13)。青空WINGの場合は、改行検索が可能な段落開始・終了記号(↑↓)付きのバージョンも用意されているので、段落冒頭検索や段落末検索(例:「↑すなわち」、「のである↓」)もでき、語彙を検索する際にこうした検索を組みあわせることもできる。

 かくして、接続表現や文末表現などに狙いをしぼった表現検索を、青空文庫だけでなく、辞書や辞典の記載も含めて行うことが可能になっている。執筆の傍らで、こうした幅広い表現検索を手軽に行えることの意味は大きい。

 

 文章の執筆という作業は、執筆内容だけではなく表現においても「巨人の肩」上の作業だといえる。先人による整理の結果たる「辞書」と、先人の文章という「現場」を自在に行き来しつつ文章を執筆できる環境が整いつつあることは意義深い。先人の文章を電子テキストとして蓄積してきてくださった皆さん、そうした資産を辞書と行き来しつつ利用できるようにしてくださった皆さんに心から感謝したい。

 

(1) 高橋太郎. 言語の記述にとって用例とは何か. 国文学と鑑賞. 1989, (1), p. 10-15.

(2) 高橋太郎. 文法資料としての文学作品: 文法形式のゆたかさの面から. 国文学と鑑賞. 1988, (7), p. 6-18.

(3) 筆者の記憶による。

(4) ウェブ空間全体をコーパスとして表現検索を行うことも可能ではあるが、検索対象の信頼性にばらつきがあり、検索ツールであるGoogleが完全一致から曖昧検索に軸足を移したこと等の問題がある。

(5) CD-ROM形式の辞書等については、
翻訳者の薦める辞書・資料. 2014-04-15.
http://nest.s194.xrea.com/lingua/ [379], (参照 2014-04-20).
On the Backstage: 翻訳者のための情報源. 2014-03-25.
http://home.att.ne.jp/blue/onback/ [380], (参照 2014-04-20).
などが詳しい。

(6) DDWin、Jamming、EBWin、Logophileなど。

(7) 青空WING. 2014-04-19.
http://aozorawing.sourceforge.jp/ [381], (参照 2014-04-20).

(8) 小学館『日本国語大辞典』は、現代語のみの辞典ではなく、語釈掲載順も頻度順でなく時代順、用例も初出重視と性格が異なるので、ここではとりあげない。

(9) プリンストン大学の語釈付きシソーラスWordNet(英語)をEPWING化し、ブラウンコーパスの用例も表示可能とした「Brown Corpus付きPrinceton WordNet 3.1」(青空WINGと同じ作者の方の作品)では、語釈の画面から、コーパスの元祖とされるブラウンコーパスの当該用例部分を見ることができる。
WordNet EPWING. 2013-11-24.
http://wordnetepwing.sourceforge.jp/ [382], (参照 2014-04-20).
また、京都大学のライフサイエンス辞書プロジェクトによる「ライフサイエンス辞書オンラインサービス」は、コロケーション辞書機能(「英語共起表現検索」)を備えており、薬学系ジャーナルのコーパスの検索結果を表示させることもできるようになっている。
ライフサイエンス辞書プロジェクト.
http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/index.html [383], (参照 2014-04-20).
これらのケースは、辞書とコーパスの一体性が青空WINGよりさらに高い。

(10) 青空文庫.
http://www.aozora.gr.jp/ [384], (参照 2014-04-20).
の画面右上の窓、
えあ草紙・青空図書館 | 青空文庫の図書館.
http://www.satokazzz.com/books/ [385], (参照 2014-04-20).
での全文検索など。

(11) NINJAL-LWP for BCCWJ(NLB).
http://nlb.ninjal.ac.jp/ [386], (参照 2014-04-20).
少納言. http://www.kotonoha.gr.jp/shonagon/ [387], (参照 2014-04-20).

(12) 上記青空WINGのサイトには、青空文庫のデータをコロケーション辞書として使用するためのEPWING形式のデータ(通称「青空てにをは辞典」)も置かれている。この形態は進捗が著しく、終止形縮約版と相互情報量順の試作品も公開されている。
“aozorawing”. Sourceforge.jp.
http://sourceforge.jp/projects/aozorawing/releases/60423 [388], (参照 2014-04-20).
筆者は、書籍版『てにをは辞典』と組み合わせて使用している。

(13) 句読点を検索する場合に使用する辞書ブラウザは、EBWinがよい。

 

[受理:2014-05-13]

 


高橋さきの. 辞書の向こう側:生きた用例と辞書を往き来する. カレントアウェアネス. 2014, (320), CA1821, p. 2-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1821 [389]

Takahashi Sakino.
Beyond Dictionary: From Dictionary to Corpus and Back.

  • 参照(15232)
カレントアウェアネス [7]
電子書籍 [390]
デジタル化 [391]
日本 [15]

CA1822 - 大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)-欧州随一の言語・文化図書館- / Clotilde Monteiro

PDFファイルはこちら [392]

カレントアウェアネス
No.320 2014年6月20日

 

CA1822

 

 

大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)-欧州随一の言語・文化図書館-

Bibliotheque universitaire des langues et civilisations:Clotilde Monteiro
(翻訳 収集書誌部逐次刊行物・特別資料課:本間渚沙・ほんまなぎさ)

 

1.ドキュメンテーション・多言語教育のための新たな施設

 大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)(1)は2011年12月12日、建築家イヴ・リオンの設計による新たな建物内に開館した。ここにはフランス国立東洋言語文化研究所(INALCO)(2)も同居しており、パリ13区のフランス国立図書館からほど近くの場所にある。

 BULACを設立するにあたっては、旧東洋語大学共同利用図書館(BIULO)と、4つの大学(パリ第1大学、パリ第3大学、パリ第4大学、パリ第7大学)(3)、そして5つの高等教育・研究機関(高等研究実習院、社会科学高等研究院、INALCO、フランス極東学院、フランス国立科学研究センター)が連携した。その設立により、これまでパリ及びその近郊14か所に分散していたコレクションが一か所に集結することとなった。そのコレクションの一部には今まで一般に公開されていなかったものもあった。BULACの蔵書が扱う範囲は、バルカン半島、中央・東欧、マグレブ、中近東、中央アジア、アフリカ、アジア、オセアニア諸国といった文化圏から、ネイティブアメリカン文明(南北アメリカ、グリーンランド)にまで及んでいる。つまり西欧の文明・言語や西欧に由来するものを除いた全世界を対象としているのである。

 

次のキャプションに説明あり
BULAC外観の遠景写真
(C) Gregoire Maisonneuve / BULAC

 

次のキャプションに説明あり
BULAC外観の近景写真
(C) Gregoire Maisonneuve / BULAC

 

  構想期間中(4)、司書や教員、研究者らは、その各文化圏について、資料収集方針の共有や書誌情報の交換を行うため、そして特にBULAC全体の収集方針を調整するために、定期的に参集した。最終的に、特徴ある研究・教育部門には、研究対象の文化・言語の多様性のために、並外れた規模(150万冊)の蔵書が集められた。そしてこの蔵書により、この新たな文献施設は、国際的なレベルの研究ツールとなっているのである。

 

2.BULACで利用可能な蔵書

 当館の閲覧室で利用可能な蔵書は以下のリストの通りである。なおBULACの目録は、リストに記載した資料だけを載せているわけではないという点に留意する必要がある。実際、この目録はBULAC計画の参加機関がそれぞれの施設で保管することを選択した非西洋語の蔵書も含んでいる。

  • BIULOの蔵書:パリ及びイル・ド・フランス地域の別々の5つの地から集められた最大規模のコレクション
  • ソルボンヌ図書館のスラヴ語コレクション(パリ第1大学)
  • ロシア語、ベラルーシ語、ウクライナ語コレクション(パリ第4大学スラヴ研究センター、スラヴ研究所)
  • インド学者ジュール・ブロック(Jules-Bloch)及びイラン学者ジャーム・ダルメステテール(James Darmesteter)のオスマン・トルコ語、フィン・ウゴル語派コレクション(パリ第3大学)
  • 韓国語コレクション、途上国社会研究センター(SEDET)コレクション(パリ第7大学)
  • インド学者シャーロット・ヴォードヴィル(Charlotte Vaudeville)とマドレーヌ・ビアルドー(Madeleine Biardeau)のコレクション(高等研究実習院)
  • 社会科学高等研究院の各研究センター(アフリカ研究センター、ロシア・カフカス・中欧世界研究センター、近現代中国研究センター、インド・南アジア研究センター、日本研究センター、朝鮮研究センター)の主要な蔵書、定期刊行物及び個人コレクション
  • フランス極東学院のチベット語コレクション、クメール語、中国語、日本語等の定期刊行物

  

3.多言語かつ多種文字体系の目録

 以上の蔵書には、約350の異なる言語(そのうち90の言語についてはINALCOで教えられている)と、既知のほぼ全ての語族に及ぶ数十種の文字体系で書かれた資料を含んでいる。それらの蔵書を移転しながら、規模が様々で多少なりとも互いに重複した東洋学コレクションを統合するためには、出来うる限りの正確さでそれらを同定していかなければならなかった。それが総合目録構築の目的である。この総合目録においては多言語かつ多種の文字体系によるデータを集約し、しかも利用者に対してそれらを同時に表示しなければならないため、全くもって独特なものといえる。この重要な課題は、世界の何処においてもまだ十分に達成されてはいないのである。しかしながら、万国共通の文字コード体系であるUnicodeの発達により、今日知られている大部分の文字体系でこの課題は達成可能になっている。BULACは構想当初から、この多種の文字体系を扱う目録の開発を重要な任務の一つとしていた。2005年以降、学生や研究者はこのツールを利用し、BULACの目録を構成している資料の書誌記述を、翻字と同時にオリジナルの文字によっても見つけることが可能になったのである。

 

4.研究者のための図書館

 BULACの主な目的の一つは、研究者にとって蔵書を利用しやすいものにし、彼らに蔵書構築や管理に関して実質的な発言力を持たせることであった。そのことはBULACの当初のコレクションを豊かなものにしていた蔵書のほぼ半数が、国際的に著名な研究者らにより直接組織された図書館や資料センターに由来するものだということからもうかがえる。資料方針に関する継続的な共同作業が実施され、そこでは資料収集の優先度を決定したり、例えば外国で活動する研究者による資料の購入を可能にしたりするような資料編成を実現することが図られた。BULACにおける教育・研究連携ミッションはこの精神によって確立されたのである。教育・研究連携ミッションは、BULACと同館が対象とする地理言語学分野の研究者との交流を活発化させるために設立されたBULACにとってまさになすべきことである。その目的は、研究者と司書との交流を奨励すること、図書館蔵書を活用すること、研究者にとってBULACの施設を利用しやすくすること、研究者に対し資料を届ける仕組みをつくること、BULACを研究ネットワークに組み込むことである。このミッションが想定する利用対象者は世界の文化的、政治的、経済的に多様な分野について研究する教員、研究者、博士課程学生、ポスドクとなっている。

 研究者は図書館において自らのニーズに合った作業スペースを自由に使うことができる。閲覧室、個室(閲覧者が連続した複数日を予約することが出来、人を招いたりもできる個人閲覧室)、グループ用研究室とも、24時間、予約、利用が可能である。

 

次のキャプションに説明あり
グループ用研究室の写真
(C) Gregoire Maisonneuve / BULAC

 

 だがBULACはこうした研究者の利用者に向くことをだけを重視しているわけではない。計画の考案者であるモーリス・ガルダン(Maurice Garden)は2007年に行われた対談の中で次のようにはっきり述べている。「私たちは学生のための図書館と研究者のための図書館との間の矛盾、つまりどちらかが多くなればどちらかが少なくなり、どちらかが利用しやすければもう一方はしにくくなるという矛盾を常に認めてきました。私はBULACにおいて研究に必要なツールを提供しつつも、教育課程の学生に開かれた図書館にすることで、こうした考えを克服することをしきりに奨励してきたのです。」BULACは開館以降2万5千人の閲覧者を受け入れてきた。週6日間、10時から22時まで開館しており、18歳以上であるという唯一の条件をクリアすれば登録により無料で全ての人が利用できる(18歳に達していない場合はバカロレアの資格を取得しているか、高校で西洋語以外の言語を一つ学んでいれば利用可能である)。利用はBULACの設立母体に由来する学生や教員、研究者が優先されている。一般利用者は資料を借りる権限はないが、書庫資料の閲覧や電子情報源、キオスク(5)、外国語学習ツールの利用、パソコンの貸与、本に関するシンポジウムや交流会といったホールでの文化活動への参加等多くの無料サービスを優先利用者と同じように館内で受けることが出来る。

 

5.BULACの日本コレクションについて

 最後に、パリに立ち寄りBULACを利用しようと考えている日本人のために、日本分野に関するいくつかの情報を提供しよう。

 日本の国文学研究資料館の研究者らが、2001年3月から2005年11月まで和古書目録を編集するために年に数回訪れており、目録は2006年3月に出版された。そこにはBULACが所有している刊本(冊子・地図)と約30の写本が収められている。タイトルは『パリ東洋語図書館蔵日本書籍目録:1912年以前』である。目録には1605年から1912年の間に日本語や欧州言語(フランス語、ドイツ語、英語、ロシア語)で作成された1,691の書誌情報が記載されている。

 BULACはフランスの中で最も古く、最も大規模な日本コレクションを収蔵している。この分野における蔵書は書籍6万2千点(うち4万点は日本語資料)、雑誌147タイトルから成っている。この分野が実際に創設されたのは、1853年の日本の開国と、1863年に東洋語学校で日本語の授業が開始されたことの結果である。そしてこのコレクションは日本が高度経済成長を経験していた1960年代に飛躍を遂げた。コレクションに含まれる主な分野は、アイヌ語を含む言語学、文学、歴史、次に哲学、社会科学となっており、一次資料(全集、アンソロジー、国及び地域の歴史資料)もまた含まれている。書庫には、特定の条件を満たせば利用することが出来る貴重資料があり、例えば「婚礼大嶋台」などが収蔵されている。

 

(1) BULAC. http://www.bulac.fr/ [393], (accessed 2014-05-19).

(2) INALCO. http://www.inalco.fr/ [394], (accessed 2014-05-19).

(3) パリ大学を構成する大学のうち、パリ第1大学(パンテオン・ソルボンヌ)、パリ第3大学(新ソルボンヌ)、パリ第4大学(パリ・ソルボンヌ)、パリ第7大学(ドゥニ・ディドロ)。

(4) 構想は2000年7月にさかのぼる。この時世界の言語・文化のための図書館の建設とINALCOの建替え・拡張の決定について定めた国/地域圏計画契約第11条が公示されたためである。また、建設工事の開始通知は2008年7月にかわされている。

(5) BULACが対象とする全ての国の雑誌や新聞を読むことが出来る交流スペースとなっている。

 


Clotilde Monteiro. 大学間共同利用言語・文化図書館(BULAC)-欧州随一の言語・文化図書館-. カレントアウェアネス. 2014, (320), CA1821, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1821 [389]

Clotilde Monteiro.
(Translation: Honma Nagisa).
La Bibliotheque universitaire des langues et civilisations (BULAC): Une bibliotheque de langues et civilisations unique en Europe.

Acknowledgement:
Aude le Moullec Rieux helped to write this article during her internship.

  • 参照(8042)
カレントアウェアネス [7]
欧州 [244]
専門図書館 [395]

CA1823 - 大学図書館におけるFacebookを利用した広報戦略 / 伊藤仁浩

  • 参照(12925)

PDFファイルはこちら [396]

カレントアウェアネス
No.320 2014年6月20日

 

CA1823

 

 

大学図書館におけるFacebookを利用した広報戦略

北海道大学附属図書館:伊藤仁浩(いとう きみひろ)

 

1.はじめに

 私たち大学図書館職員は、日頃から利用者の声に耳を傾け、より良いサービスを提供できるよう努力している。しかし、私たちが日々悩み、そして生まれたサービスも、広報の仕方が不十分だと、メインターゲットである大学生へも満足に伝えることができない恐れがある。ポスターで知る学生、ホームページで知る学生、情報入手の仕方は様々なため、一つの媒体で多くの学生に伝えるのは非常に難しい。

 見渡せば、あちらこちらでスマートフォンを手にした人があふれる現代。図書館でもTwitterやFacebookといったソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を利用すれば、より多くの利用者へ早く手軽に情報を伝えることができるだろう。

 

2.新たな広報手段の導入

 北海道大学附属図書館では2012年4月に広報ワーキンググループ(1)を設置し、図書館広報全体を見直した。その結果、ターゲットが定まっておらず、在庫を多数抱えた広報誌があり、また、広報手段も十分とはいえない状態であることがわかった。そこで、毎月発行していた図書館報速報版「楡蔭レター」を廃止し、代わりに、より速報性の高いSNSの導入を決め、Facebookを採用した。写真をメインで掲載するFacebookは、図書館のサービスを1番わかりやすく伝えることができるツールと考えたためである。他にもユーザー数の多さや口コミ力の強さといった特徴を踏まえ、2012年10月、本学の学生をターゲットとした北海道大学附属図書館公式Facebookの運用を開始した。

 近年、他の大学図書館でもFacebookの導入が進み、2012年7月に調査した時点で利用が確認できた図書館は11館のみであったが、2014年5月では49館に増えている。

 

3.北海道大学附属図書館Facebookのコンセプト

 本学図書館Facebookのコンセプトは、「顔が見える図書館」である。図書館には多くの人が出入りし、様々なスタイルで過ごす人がいる。そして、それを支える人がいる。真剣な顔や悩んでいる顔、笑っている顔等、実に様々な表情が見られる。従来の広報の掲示板では伝えることができないその姿を伝えたいと考えた。いつも図書館を利用する学生、たまにしか利用しない学生、何らかの事情で利用できない学生、どのようなタイプの学生でも今の図書館の表情を知ってもらい、その場にいるような感覚になってほしい、そんな思いを込め、人物を多く登場させた方法で現場の様子を伝えている。

 

4.運用方針

 組織でFacebookの運用を検討する際、初めに決めなくてはならない課題の一つが、どのように管理し維持するかである。担当者が一人の場合、発信のスピードが速い、投稿の統一感を出しやすいというメリットがある反面、不在時に投稿や対応ができない恐れがある。また、広報のノウハウが組織内で共有されづらい点も問題である。担当者が複数の場合は、確認作業が増え、投稿までの時間を要するが、完成度の高い内容が投稿できることや担当者の負担が分散されるというメリットがある。本学ではこれを考え合わせ、後者の体制で管理する方法が最適と判断した。

 Facebookには管理人機能があり、登録された担当者は投稿、コメントの返信や削除、ページ編集等が可能となる。2014 年5月時点で、本学図書館Facebookに管理人として登録されている担当者は25名である。内訳は広報委員が8名、学生協働ワーキンググループ等の委員が3名、図書館の各業務担当が14名である。

 他には、ターゲット設定(誰に向けて発信するか)や投稿ルール(何を投稿するのか、いつ投稿するのか等)について、広報ワーキンググループで方針を決定した。また、管理人及び職員間のコンセンサスを図るため、Facebookの基本情報や操作方法及び投稿ルールについてまとめた資料を作成し、説明会を開催した。

 

5.具体的な運用

 

  • 何を投稿するのか
  •  では、Facebookに何を投稿するのか。まずは、これまで掲示板やホームページ等で通知していた内容を、少し口調を柔らかくした言葉に変え、それに合わせた写真を用意する。写真に悩むということであれば、実際にポスター等を掲示している様子を撮影、またはポスターそのものを掲載する。文字数はあまり多く載せず、詳細な情報はウェブサイトへ誘導する。図書館には利用者へ伝えたいサービスが豊富にあり、話題が尽きるということはないと思うが、より個性的なFacebookに成長するためには、新しいタイプの内容にも挑戦する。例えば、わざわざ通知するまでもないと考えていたことを投稿するのも良い。素晴らしい設備が整っているといった図書館自慢、職員の仕事紹介、天候や季節の話題などを本学では掲載した。何れにしても楽しく運営し、感情を込めて投稿することが、より多くのファン獲得につながる。これまで、本学で閲覧者数が多かった投稿は、国立国会図書館デジタル化資料送信サービスの導入といった新たな利用法や図書館報発行の告知であった。

  • 写真撮影
  •  数多くのFacebookページの中から、ユーザーに記事を読んでもらうためには、いかに写真に目を留まらせるかがポイントとなる。そのためには、文章を読まなくても写真のみで内容を伝える構図を意識するといった、写真の表現力が求められる。撮影は主に撮影技術を持つ管理人が行っているが、担当者自身でも良い写真を撮影できるよう勉強会を行った。

     人物を配置しての撮影は、肖像権のトラブルが起きないよう、撮影前に内容を説明し、承諾を得たもののみ投稿している。

  • 投稿内容の承認
  •  投稿内容について、どこまで承認を得るのか。本学では担当者自身の判断で投稿することとした。速報性を重視したツールであることが1番の理由であるが、投稿内容の大半がすでに図書館として承認済みの情報が多く、改めてFacebook記事用としての再承認を得ないこととした。ただし、業務担当内やワーキンググループ内での意志疎通は図るようにしている。

  • 投稿のタイミング
  •  文と写真が完成すれば、すぐに投稿すればいいというわけではない。投稿日時のタイミングによっては、どんなに良い記事でも、全く閲覧者数が伸びない場合があるからだ。初めに確認することは、他の担当者と投稿日時が重なっていないかである。短時間で連続して投稿した場合、一つ前の記事の閲覧者数が少なくなることが多いためだ。それを防ぐため、オンラインのスケジュール表を作成した。担当者はあらかじめ投稿したい日にチェックを入れることで、担当者全員がスケジュールを把握することができる。

     本学図書館Facebookの投稿を見るユーザーは、正午の時間帯が比較的多い。そのため、正午より少し前に投稿することで、閲覧者数が増えることがわかった。これらのデータは「インサイト」と呼ばれるページ解析機能から情報を得ることができる。また、1日の投稿数は最大2つまでとし、週に2~3日程度の投稿を維持している。長期間投稿しないとユーザー離れにつながるため、投稿し続けることが大切である。

     

  • 「いいね!」数の伸ばし方

 当然、Facebookをただ維持するだけでは、「いいね!」数は増えていかない。Facebookの存在を伝える何らかのアクションが必要である。ポスター、デジタルサイネージ、垂幕といった掲示物。しおり、ティッシュペーパー、付箋をプレゼントする方法等でFacebookを告知する。本学では2014年4月の入学式で新入生全員へ図書館報を配布し、Facebookの存在をアピールした。効果的と思われる方法として、費用が必要とはなるが、Facebook内に広告を掲載(2)することも考えられる。これは、図書館のページに「いいね!」をしていないユーザーであっても、図書館が投稿した内容が表示されるため、存在を知らせることができる。この方法は本学でもぜひ試してみたいところである。

 

6.導入効果

 Facebook開設後、利用者の行動にはどのような変化が起きたのか。学生から投稿されたコメントには「講習会の存在を今まで知らなかった。Facebookで紹介されているのでとても便利」、「自動化書庫なるものがあるなんて、知らなかった!本が好きといいながらも、こんなにある蔵書を活かせていないなと」等があった。他にも、シェアされた記事が学生の間で盛り上がっている場面も見られた。そういった反応から、図書館Facebookの存在を知り、「いいね!」、コメントの投稿、シェアの機能を使い、情報が確実に広まり、図書館へ足を運ぶきっかけになることがわかった。また、学生に直接聞いて印象的だった感想が、「いつもFacebookで職員さんの顔を見るので、以前よりも話しかけやすくなった」であった。図書館では、何かを相談したくても話しかけづらい雰囲気があったのかもしれない。Facebookはそれを解消できる方法でもあることがわかった。

 図書館職員にも変化があった。それは情報共有という面である。大きな組織になるほど周りの動きが見えづらくなり、隣の課や係が今何に向けて業務を行っているかわからないことが多い。しかし、運用を開始したことによって、多くの職員も本学図書館Facebookを閲覧するようになり、図書館全体の動きが見えるようになった。

 

7.まとめ

 Facebookはアカウントを作成し、プロフィール写真を用意すれば、すぐにでも公開できる簡単な広報手段である。組織で行う場合はそれに加えて、誰が管理し、投稿するかの運用方針を決めれば、開始できる。図書館Facebookの理想的な運営方法は、職員全員が管理人として登録し、投稿ができる体制である。広報の業務は、広報担当者だけが行うものではなく、職員全員が広報マンになるべきであるためだ。業務上、何か伝えたいことが発生したとき、いつでも誰でも投稿ができれば、Facebook、そして図書館全体にさらに活気が生まれ、利用者へもその雰囲気が伝わるだろう。

 また、Facebookは一方的に伝える広報ツールではなく、コミュニケーションツールであるので、ユーザーは投稿された記事に、共感、質問、意見等を自由にコメントできる。それに対し、運営者側がどのようにリアクションするのか、ページ内に運用方針を記載し、ユーザー側にも理解してもらう必要がある。本学では「いただいたコメントはすべて読ませていただいておりますが、すべてのコメントに対して個別の回答をさせていただくわけではございません」とし、各投稿者が対応を行っている。ただ、本学図書館のページには、実際にはコメントを寄せられることが少ないのが現状で、もっとユーザーがコメントしやすい雰囲気作りが今後の課題である。

 SNSを利用するユーザーにはFacebookは使わず、Twitter派やLINE派が存在する。より多くのターゲットへ情報を届けるためには、広報ツールを併用する手段が効果的である。本学でもTwitterの導入を検討したが、管理が手薄になることが予想されたため、見送られた。今後世の中の情勢を見つつ、新たなSNS導入を視野に入れたい。

 消費者をターゲットにした世の中のあらゆる商品は、それを生み出すのと同じぐらい広報戦略に時間をかけている。図書館でも一つ一つのサービスについて、どのような広報手段が最適かを慎重に検討し、既存の媒体に加えて、時代に合わせた広報媒体も利用すれば、図書館のサービスを知らなかったと言う利用者を確実に減らすことができるだろう。

 

(1)平成25年4月1日より、広報ワーキンググループとホームページ委員会が廃止となり、広報委員会が発足。

(2)まだ図書館のページに「いいね!」をしていない個人ユーザーの画面に、強制的に投稿記事の掲載や、画面端の広告欄にプロフィール画像と紹介文を掲載することができる。どのようなユーザーに掲載するかは、細かくターゲット設定をすることができるため、図書館に関わりのあるユーザーへ確実に伝え、ファンの獲得や閲覧者数が増えることが期待できる。

[受理:2014-05-19]

 

 


伊藤仁浩. 大学図書館におけるFacebookを利用した広報戦略. カレントアウェアネス. 2014, (320), CA1823, p. 8-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1823 [397]

Ito Kimihiro.
PR Strategies for University Libraries Using Facebook.

カレントアウェアネス [7]
図書館広報 [398]
SNS [399]
日本 [15]
大学図書館 [9]

CA1824 - ロンドンオリンピックの文化プログラム-博物館・図書館・文書館の取組み- / 福井千衣

PDFファイルはこちら [400]

カレントアウェアネス
No.320 2014年6月20日

 

CA1824

 

 

ロンドンオリンピックの文化プログラム-博物館・図書館・文書館の取組み-

 

利用者サービス部複写課:福井千衣(ふくい ちえ)

はじめに

 2020年オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「五輪」とする。)の開催地は、2013年の立候補プレゼンテーションにおいて、“Discover Tomorrow(未来をつかもう)”というスローガンを掲げた東京に決まった。東京の立候補ファイルには、競技大会の開催とともに「文化プログラム」を行うことが明記されている(1)。

 この文化プログラムは、2012年ロンドン五輪における同プログラムの成功事例を意識したものである。同プログラムの事例に学ぶべく、2014年2月13日、観光庁文化庁及びブリティッシュ・カウンシルの共催で、文化プログラムの実施において中心的な役割を果たした実務者を招聘して、文化政策・観光関係者及び行政関係者向けに、ロンドン五輪の文化プログラムに関する情報提供が行われた。

 英国では、ロンドン五輪に先立つ2007年、博物館・図書館・文書館国家協議会(当時。以下「MLA」(2)とする。)及び9つの地方機関から成る会議体「MLAパートナーシップ」が、“Setting the Pace(模範を示せ)”(3)を作成した(E824 [401]参照)。これは、博物館・図書館・文書館が、文化オリンピアードにどのように貢献するかについてのビジョンを示したものであり、五大プロジェクトの実施を掲げたものである。それによると、博物館が「国際展覧会プログラム」を、文書館が「人々の記録」及び「競技大会の記録」を、図書館が「文学及びストーリーテリング」並びに「情報ハブ」を、それぞれ担当することとされた。

 ロンドン五輪の文化プログラム全体については、文化オリンピアード委員会が委嘱したリバプール大学文化首都研究所(4)を始め、イングランド芸術評議会(5)、民間識者(6)が総括を行い、その成果物を公表している。しかし、同プログラムのうち、博物館・図書館・文書館業界(以下「MLA業界」とする。)の活動については、MLAが2012年3月に解散したためか、まとまった総括がなされていない(7)。

 そこで、以下、東京五輪の文化プログラムに資するよう、ロンドン五輪においてMLA業界に期待された五大プロジェクトの企画内容に焦点を当てて、その概要を紹介する。

 

1.国際展覧会

 「国際展覧会」とは、英国の博物館等のコレクションを国際社会や地域社会からの多様な観点から再考し、再解釈するために、「ストーリーズ・オブ・ザ・ワールド」と名付けた国際展覧会を開く企画である。この企画は、長期の教育プログラムを含むもので、国立博物館、地方博物館、私立博物館等が参加する。また、同企画は、ロンドン五輪組織委員会(LOCOG)の主なプロジェクトの一つでもあり、MLAは、博物館等に諮問したうえで企画案を作るよう要請を受け、プログラムディレクターの費用を受け持つとともに、LOCOG及び他の主要機関が同意した査定基準に従って、効果的なプロジェクト管理を行い、共催者の選択に責任を持つこととされた(8)。

 同企画の目的は、(1)若者(9)、多様な地域社会及び障害者(10)に対する博物館の関与を発展させ維持すること、(2)博物館・美術館の国際的な連携を新たに開拓し、かつ、既存の関係を発展させること、(3)英国のコレクションについての多様な解釈を永続的に記録すること(11)、(4)コレクションに係る業務従事者の職業技術を高め、地域社会の関与及び来館者数を増やし、これらの連携関係を強化すること、(5)MLA業界内でのボランティア受入の機会を創出し、発展させること、とされた。

 

2.人々の記録

 「人々の記録」は、五輪開催により変化することが見込まれるロンドン及び英国の人々の人生のストーリーを記録しておくという企画である。同企画は、地域社会に、自らの五輪の経験を記録し、文化遺産として記録する権限を与えることにより、地域社会の多様性及びその具体的なイメージを明らかにすることを目的としている。

 同企画は、MLAパートナーシップ、英国映画協議会、ボランタリーセクター等の連携によって実行される。データは、高い倫理基準に則り収集され、オンラインプラットホーム及びその他のデジタルメディア上で公開され、蓄積される(12)。

 同企画の目標は、(1)多様な地域社会及び諸団体の記録のデジタルアーカイブに、将来の世代及び五輪開催国がアクセスできるようにすること、(2)英国における未知の歴史を明らかにし、共有し、評価すること(13)、(3)若者及び多様な地域社会(14)の「現在」を記録することについての理解を深めること、(4)参加者の記録に係る諸技術の向上(15)、(5)文書館、地域社会グループ及び民間非営利部門間に強力な連携関係を築くこと、とされている。

 

3.競技大会記録

 競技大会記録の管理については、LOCOG及び五輪実行委員会(ODA)が強固なシステムを構築したが(16)、このうちMLA業界の所管は、国立公文書館(17)、ロンドン市公文書館(18)が、LOCOG及びODA等とともに、(1)記録作成団体によるアーカイビング及び記録管理のベストプラクティスの実施を支援すること、(2)大会記録がそれぞれどこで作成され保管されるのかを示す地図を作成すること、(3)未来の五輪開催国のために競技大会のアーカイビングに係る新基準を設定すること、(4)連携相手と協同し、競技大会に関心のある研究者、都市計画者、政策決定者、教育等専門家及び地域社会が、記録・作成された情報の遺産を存分に利活用できるように図ることとされた。

 MLA業界はまた、将来への遺産として、(1)記録に係るオンライン索引を作成し、(2)「人々の記録」と関連付けられた競技大会記録が最大限に活用されるように明確な戦略を策定し、(3)国際五輪委員会(IOC)に評価報告を提出し、その情報が将来の開催国に伝達されるよう図ること、とされた。

 

4.文学及びストーリーテリング

 「文学及びストーリーテリング」の企画においては、(1)参加型の読者育成プログラム、各種イベント及び文芸創作をとおして、若者と文学をつなげること(19)、(2)五輪までの期間中、文学、文芸創作、ストーリーテリング及び演技詩(performance poetry)(20)に対する世間の関心を高め、かつ、それらの価値を向上させること、(3)各種プログラム及びイベントを通じて、参加者の文学及びストーリーテリングに係る技術を向上させ、新しい作品の創作を促し、図書館等のサービスを向上させることが目的とされた(21)。

 同企画の目標は、(1)若者を読者、作家、パフォーマーに育てること、(2)学校等での基礎的な学習や社会的な反応に縛られることなく若者が文芸作品を作るよう促すこと、(3)若者と英国及び海外の作家を結びつけること(22)、(4)翻訳を含む、より多様な図書及び印刷物を図書館で入手可能にすること、とされた。

 

5.情報ハブ

 五輪において、公式会場に入ることができるのは、通常、承認を受けた報道関係者のみであるが、実際には、北京五輪まで、五輪開催国では、承認を受けていない報道関係者であっても、五輪の文化プログラムとして開催される各種イベントを取り上げ、報道することを支援してきた経緯がある。

 このことをふまえ、MLAは、文化・スポーツ・メディア省、LOCOG、大ロンドン市、Visit London、旅行会社、24 Hour Museum(23)、地方振興庁、文化コンソーシアム、ロンドンにある高等教育機構等と連携し、文化分野の活動を促進し、より多くの訪問者及び報道関係者が受け入れられるような受け皿をつくることを企画した。それが「情報ハブ企画」である。

 同企画のねらいは、ロンドン及び地方に非公認メディアセンターのネットワークを作り、それらを、文化オリンピアード、並びに、ロンドン及び英国の文化遺産及び社会に関する情報発信基地とすることである。また、高等教育機関は、訪問者に対して宿泊施設、図書室、ネットワーク手段を提供する。

 MLAパートナーシップは、博物館、図書館、文書館と協働して、あらゆる地域社会出身の「市民ジャーナリスト」(24)を発掘し、彼らが文化オリンピアードに関連する地方の視点からストーリーを作ることにより、世界の観客に訴えることを支援するものとされた。

 

おわりに

 以上、ロンドン五輪においてMLA業界に期待された役割について紹介してきた。

 2020年五輪開催地として、東京及び日本がみずからの魅力を世界に発信するにあたり、我が国のMLA業界がどのような「ストーリー」を編み出すことができるか、期待されるところである。

 

(1) 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会. “立候補ファイル”. TOKYO 2020.
http://tokyo2020.jp/jp/plan/candidature/ [402], (参照 2014-05-21).

(2) MLAは、2012年3月に解散した。

(3) MLA Partnership. Setting the Pace. 2007, MLA Council.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20080727010417/http://www.mla.gov.uk/resources/assets//S/setting_the_pace_11937.pdf [403], archived 2008-07-27, the National Archive. (accessed 2014-05-21).

(4) Garcia, Beatriz. Et al. London 2012 Cultural Olympiad Evaluation. The Institute of Cultural Capital, 2013, p. 194.
http://www.artscouncil.org.uk/media/uploads/pdf/london_2012_academic_report/London_2012_Cultural_Olympiad_Evaluation_ICC_updated.pdf [404], (accessed 2014-05-21).

(5) “London 2012”. Arts Council England.
http://www.artscouncil.org.uk/what-we-do/our-priorities-2011-15/london-2012/ [405], (accessed 2014-05-21).

(6) Coveney, Michael et al. Independent Evaluations on London 2012 Festival. 2013, p. 34.
http://www.artscouncil.org.uk/media/uploads/pdf/Independent_Evaluations_London_2012_Festival.pdf [406], (accessed 2014-05-21).

(7) 例えば、Institute of Cultural Capitalによる London 2012 Cultural Olympiad Evaluationには、2011年10月から2012年9月までの1年間において、博物館・美術館等の来館者数は顕著に増え、図書館・文書館の来館者数は減った、と記述がある程度である。
Institute of Cultural Capital. op. cit. p. 67.

(8) MLA Partnership. op. cit. p. 6.

(9) 博物館の企画においては最大規模の1,500人の若者がキュレーターとして採用され、国際展覧会企画の進行役を務めた。50以上の博物館を擁する8地方と協力して行われたロンドン2012フェスティバルでの展覧会は、移民、ファッション、大英帝国等の示唆に富むテーマを取り上げ、英国のアイデンティティをより明確にするものとなっている。文化プログラムでは、非伝統的な場所で各種公演が行われることが多かったが、博物館もその会場になった。その結果、博物館には新たな観客が呼び込まれることになった。
Museums, Libraries and Archives Council. “Stories of the World”. the National Archive.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20110514080520/http://www.mla.gov.uk/what/programmes/setting_pace/stories%20of%20the%20world [407], archived 2011-05-14, the National Archive. (accessed 2014-05-21).

(10) 英国王立盲人擁護協会(RNIB)及びMLAの合同プログラムである「カルチャーリンク」の目的は、視覚障害者又は弱視者の博物館又は文化遺産のウェブサイトへのアクセスを容易にし、かつ、彼らが文化プログラムにおいてより重要な役割を果たせるように図ることである。地域のボランティアに対して視覚障害者又は弱視者とのマッチングを行い、当該者に対するガイド及び説明のスキルを提供する。障害者が訪問する博物館では、新しい観客である障害者対応のスキルを獲得する。同時に、視覚障害者に対する社会的排除と闘うことをも目的としている。
MLA . “Paralympic Inspirations”. the National Archive.
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20110514080520/http://www.mla.gov.uk/what/programmes/setting_pace/festival%20of%20storytelling [408], archived 2011-05-14, the National Archive. (accessed 2014-05-21).

(11) 例えば、ケンジントンにあるレイトンハウス博物館における英国在住のイスラム系アーティストの再解釈の事例や、マンチェスター博物館が人類学上のコレクションを再解釈し、映画化した作品「団体間の対話」等の事例が紹介されている。
MLA Partnership. op. cit. p.8-9.

(12) The people’s record.
http://www.peoplesrecord.org.uk/ [409], (accessed 2014-05-21).

(13) 例えば、「テムズ・ゲートウェイの職業生活」は、ロンドン東部の6区における過去及び現在の産業(自動車製造、軍需品製造、造船、食品加工、化学品製造、電気機械及び印刷)に関して、人々のオーラルヒストーリーを記録し、かつ、保存する4か年プロジェクトである。
“Thames Gateway Archive: Working Lives of the Thames Gateway”. Community Archives and Heritage Group.
http://www.communityarchives.org.uk/page_id__337_path__0p2p12p29p.aspx [410], (accessed 2014-05-21).

(14) 例えば、バーミンガムでは、ウェブサイト“Connecting History”上で、文書館のコレクションを用いて、世界各地からの移民を受け入れてきた歴史を公開している。
Connecting Histories.
http://www.connectinghistories.org.uk/ [411], (accessed 2014-05-21).

(15) 例えば、創造産業技能評議会(SSC)は、ロンドン五輪で需要が見込まれる写真撮影技能等の訓練プログラムを提供した。
Skillset, Annual Report 2009-2010. Skillset, 2010, p. 63.
http://creativeskillset.org/assets/0000/0256/Annual_Report_2009-10.pdf [412], (accessed 2014-05-21).

(16) データの授受については、以下に詳述されている。
Whyte, Jennifer et al. Learning Legacy-lessons learned from London 2012 Games construction project. ODA, 2011, p. 12.
http://learninglegacy.independent.gov.uk/documents/pdfs/systems-and-technology/425009-231-data-transfer.pdf [413], (accessed 2014-05-21).

(17) “The Olympic Record”.
http://www.nationalarchives.gov.uk/olympics/ [414],(accessed. (accessed 2014-05-21).

(18) ロンドン市公文書館の使命は、ロンドン五輪に向けて情報ツールキットを作り出すこと、北京五輪までの大会記録の索引を作成することと明記されている。
Smith, Cathy. The Record: a legacy for the London 2012 Olympic and Paralympic games and the Cultural Olympiad. The British Library, 2009, p. 4.
http://www.bl.uk/sportandsociety/legacy/articles/nationalarchives.pdf [415], (accessed 2014-05-21).

(19) 例えば、英国プロサッカー業界との連携により、全国リテラシートラストが主導した「ゲームを読む(RTG)」プログラムは、2002年にサッカー基金の資金により始められ、サッカープレミアリーグクラブ、各地方の図書館等と協力して行われた。RTGにおいては、家族で読書グループを作ってサッカー選手についての本を読んだり、クラブのコーチの指導のもと図書館でストーリーテリングが行われたりした。「本日の試合」というDVDが22,000の公立学校及び2,000の公共図書館に配布され、読書しているサッカー選手のポスターが作られた。2005年から2007年にかけて、RTGには子ども約25,000人及び大人約2,500人が参加している。
MLA Partnership. op. cit. p.17.

(20) 物語詩(narrative poetry)の一つ。

(21) 同企画には、既存の読書及びリテラシー向上キャンペーンも包摂されている。例えば、年間65万人の青少年が参加するまでになっている「夏季の読書への挑戦」や、英国全土であらゆる世代の人々が同じ本を読む集団読書プロジェクト「グレート・リーディング・アドベンチャー」等である。
他方、新企画として、五輪を記念してコンテストが行われ、選ばれた作家に新作の執筆が依頼された。文芸創作コンテストでは、新進メディアが若者の文芸創作体験を取材したり、物語詩の全国トーナメントなどのライブの文学イベントが行われたり、新文学が翻訳されたりした。
MLA Partnership. op. cit. p.16.

(22) 「若い文化創造者」プログラムは、子どもたちが美術館、博物館又は文書館を訪問し、芸術やストーリーに関して行った調査結果を広く共有するものである。図書館や教室でのフォローアップにより、子どもたちに自信をもたせ、創造的表現力をもって自分の作品を作ることをいっそう促すことが期待された。
サウスワークの公立学校の生徒は、王立地理学協会において、内なる旅と外なる旅というテーマについて調査した。生徒たちは、南極点に到達したアムンゼンとスコットに関連する文書館所蔵資料(食糧リスト、写真、器具、衣類等)を用いて調査を行った。
MLA Partnership. op. cit. p.19.

(23) 非営利の文化支援団体で、現在は「Culture 24」という。「Culture 24」「Show Me」というウェブサイトを運営している。
Culture 24.
http://www.culture24.org.uk/home [416], (accessed 2014-05-21).

(24) 市民ジャーナリストに対して、オリンピック実行委員会が、しばしば批判的な報道をしないように苦情の手紙を出していたことが報じられてもいる。
Wells, Mike. “Olympic Chiefs Flout Legal Principle By Threatening Citizen Journalist”. GamesMonitor. 2012-04-17.
http://www.gamesmonitor.org.uk/node/1618 [417], (2014-05-21).

 

[受理:2014-05-22]

 


福井千衣. ロンドンオリンピックの文化プログラム-博物館・図書館・文書館の取組み- . カレントアウェアネス. 2014, (320), CA1824, p. 10-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1824 [418]

Fukui Chie.
The London 2012 Cultural Olympiad: The Contribution of Museums, Libraries and Archives.

  • 参照(14589)
カレントアウェアネス [7]
日本 [15]
英国 [243]
博物館 [419]
図書館 [420]
美術館 [421]

CA1825 - オープンデータと図書館 / 大向一輝

  • 参照(15705)

PDFファイルはこちら [422]

カレントアウェアネス

No.320 2014年6月20日

 

CA1825

動向レビュー

 

オープンデータと図書館

 

国立情報学研究所:大向一輝(おおむかい いっき)

 

1. はじめに

ネットワークの高速化やサーバ・ストレージの低廉化に伴い、ウェブにおける情報公開のコストは低減し続けている。その中で、いわば完成品の情報である文書・文献だけを公開するのではなく、それらを作成するための基礎資料やデータを同時に共有する事例が増加している。これらの情報を参照することで、元の文書・文献の信頼性を確認することが可能になるとともに、さまざまな情報源からのデータを組み合わせて新たな知見を引き出すことや、新規ビジネスの基盤になることが期待される。近年、このようなデータの公開・共有の取り組みがオープンデータと呼ばれ、主に政府・自治体や学術コミュニティにおける活動が注目されている。本稿ではオープンデータの現状について概説し、図書館による支援あるいは貢献の可能性について述べる。

 

2. オープンデータの基礎

 オープンデータは字義通りに解釈すれば「データの公開」にすぎないが、より詳細には「ウェブ上での再利用性の高いデータの公開」と定義できる。再利用性には制度と技術の2つの観点がある。制度面での再利用性とは、データの2次利用や再配布に制約が設けられていないことを指す。英国Open Knowledge Foundation(OKFN)は、商用・非商用を問わず誰もが利用・再利用・再配布できることがオープンの定義であり、その他の制約としてはクレジットの明記と再配布に対して同様の利用条件を課すことのみが可能であるとしている(1)。技術面では、公開されたデータがコンピュータで容易に取り扱えることが重要である。例えば紙の文書をスキャンした画像データなどは再利用性が低いため、オープンであるとは言い難い。

 これらの諸条件をわかりやすく整理したのがウェブの開発者であるティム・バーナーズ=リーの5 star Open Dataである(2)。5 star Open Dataは5つ星でオープン化のステップを示す枠組みである。1つ星に認められるためにはオープンライセンスが必要である。オープンライセンスは、制度面でのオープンさを満たすために、データ提供元が提示する利用者への事前許諾である。ライセンスは提供元が独自に定めることができるが、他サイトとの互換性を重視してCreative Commons(3)やOpen Data Commons(ODC)(4)が採用される例が多い。なお、米国では政府・行政機関が提供するデータは原則としてパブリックドメインに置かれており、ライセンスを明示する必要はない。

 2つ星ならびに3つ星は技術面での再利用性に関する指標である。プログラムで処理できるようにデジタル化されたデータには2つ星が、データの形式が特定の商用プログラムに依存していないものには3つ星が与えられる。3つ星の例としてはカンマ区切りテキスト(CSV)やXMLが挙げられる。4つ星、5つ星はLinked Open Dataに関する指標であるが、本稿では詳述せず、別稿(5)を参照されたい。

 オープンデータ自体は分野を限定するものではないが、現状では政府・自治体を中心とした公共セクターと、大学・研究機関等を含む学術コミュニティの動きが目立っている。前者においては政府・自治体の透明性を高め、市民との対話・協働による行政の実現を目指すオープンガバメント運動の実現手段のひとつとして認識されており、全世界的にデータ公開の動きが広まった。政府レベルでは米国のData.gov(6)や英国のdata.gov.uk(7)など、先進諸国はいずれもポータルサイトを開設し、オープンデータに関する取り組みの紹介、データの検索機能を提供している。日本でも電子行政オープンデータ戦略(8)に基づき各府省のデータのオープン化が順次進められており、これらを一元的に検索・アクセスするためのデータカタログサイト試行版が開設された(9)。2013年のG8サミットではオープンデータ憲章が採択され、行動計画の策定や進捗の確認が義務づけられた(10)。

 自治体の取り組みは国内・国外を問わず年々増加している。この勢いを象徴するイベントとして、2014年2月22日に行われたInternational Open Data Day(IODD)を挙げる (11)。IODDはオープンデータ関連の催しを都市ごとに同時多発的に行うもので、2013年度は102都市の参加であったものが、2014年度は194都市にまで増加している。日本からはそれぞれ8都市から32都市に拡大しており、伸び率が最も高い。

 学術コミュニティでは、研究活動の過程で得られるデータを学術論文と同様に共有し、参照・引用による評価のサイクルを形成する動きが活発化している。その意味では研究データを対象としたオープンアクセス化と捉えることも可能である。研究データ共有においてはデータ管理のためのポリシー策定や技術的な支援、人材育成などの課題について図書館の参画が期待されている(CA1818 [423]参照)。

 オープンデータが利活用されるためには、単に公開するだけでなく市民や開発者のコミュニティを巻き込むことが重要である。データ利活用のアイデアを募るアイデアソン、アプリケーションを短期間に開発するハッカソンといった形式のワークショップが各地で行われている。また、オープンデータに特化したアプリケーションコンテストも多数開催され、活況を呈している(12)。

 

3. オープンデータと図書館の関係

3.1 情報源としての図書館

 図書館コミュニティにおいては、書誌データ・典拠データのオープン化が積極的に進められている。米国議会図書館をはじめとする各国の国立図書館、OCLC、米国デジタル公共図書館(DPLA:E1429 [424]参照)といった大規模なデータベースにおいてCreative CommonsあるいはODCのライセンスが付与され、自由な利活用が認められた(13)(14)。データの公開と並行して、各国国立図書館やOCLCの連携によるバーチャル国際典拠ファイル(VIAF)(15)や、EU参加国の図書館・美術館・博物館によるデジタルアーカイブEuropeana(16)といった国際的なプロジェクトが立ち上がり、図書館データのプレゼンスを高めている。

 国内では2010年に国立国会図書館が典拠データを公開し(17)、2012年にはVIAFに参加した。「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」(18)では書誌データの開放性を主要テーマのひとつとして掲げている。また国立情報学研究所が運営し、大学図書館が参加する総合目録データベースNACSIS-CATでは、書誌データのオープン化の方針が決定され、ライセンスや公開方法に関する詳細が検討されている(19)。

 デジタルアーカイブの分野でもオープンライセンスの適用が進んでいる。京都府立総合資料館の東寺百合文書WEBは書誌だけでなく画像データに対してもCreative CommonsのCC BY(クレジットの明記のみを求める)が適用されており、自由な利用・改変が認められている(20)。

 

3.2 利用者支援としての図書館

 以上のように、オープンデータの情報源としての図書館の役割は拡大していくと思われる。またこれらのデータを利用したアプリケーションも増加傾向にある。一方、データの利用者として、あるいは利用者の支援機関としての図書館の役割については十分な議論がなされていない。文献あるいは視聴覚資料以外の情報源として入手可能になったオープンデータをどのように捉えるべきであろうか。

 例えば、白書などの政府刊行物はこれまでもオンライン、オフラインを問わず入手・閲覧することが可能であったが、その後の利用方法を含めて考慮されていたとは言い難い。オープンデータとして公開されている総務省の情報通信白書では、本文がテキストデータとしてコピーできるだけでなく、文中の図表については画像の他に数値データをCSV形式で入手することができる(21)。さらに詳細な情報が必要な場合には政府のデータカタログサイトを通じて元データを得ることもできる。これらはすべてオープンライセンスが付与されており、利用者はクレジットを明示するのみでそのまま再利用、再配布が可能である。

 数値データが入手できれば、表計算ソフト等を使って複数のデータを組み合わせ、付属の可視化ツールでわかりやすく表現することも容易である。例として、筆者が作成した人口ピラミッドの時間的推移の可視化を示す(22)。元データは実績値が統計センターが公開する国勢調査のデータから「年齢(5歳階級),男女別人口及び人口性比-全国(大正9年~平成22年)」(23)、将来予測が国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口から「男女年齢各歳別人口:出生中位(死亡中位)推計」(24)である。双方のデータの形式が異なるため多少の整形が必要であるものの、表計算ソフトの基本的な操作を理解していれば簡単にインタラクティブなグラフを作成することができる。またデータ中の時間情報や位置情報を用いて時間軸あるいは地図にマッピングするTimeMapperはデータの時空間的分布を確認するのに有用である(25)。このように、オープンデータを処理して利用者の課題や疑問を解決するようなスキルが今後のレファレンス業務において求められるのではないだろうか。

 こういった一連の作業を行うためには、まずデータの所在を知ることが必要である。これまで公共セクターのデータの多くは組織の縦割り構造を反映してウェブサイトの中に散在していることが多かったが、データの管理に特化したポータルサイト(データカタログサイト)を立ち上げ、一括管理する事例が増えている。データカタログサイトでは個々のデータにメタデータが付与されており、名称や作成年月日、作成部署といった項目で検索することができる。経済産業省ではデータカタログサイトで掲載しているデータ以外にも、省全体で保有しているすべてのデータの棚卸しを行い、一覧を公開している(26)。これらのデータは情報公開制度に基づく開示請求を行うことで入手できる可能性がある。

 得られたデータの成り立ちや作成プロセスを理解することも利用者の支援につながる。ある統計情報が悉皆調査に基づいているのかサンプリングによるものなのかといった由来に関する情報や、各項目の分類の方法について知ることは、利活用のためにデータを加工するうえで重要な情報となる。オープンデータを用いたレファレンス業務を行う際にはこのような背景情報の調査を含めて提供する必要があると思われる。

 市民自らがオープンデータを作成する事例も増加している。図書館によるデータ作成の支援という観点では、Wikipediaタウンの試みが注目されている(27)。Wikipediaタウンは、ボランティアが地域の観光施設や文化財を取材し、その結果をWikipediaに掲載して共有することを目的とするワークショップである。Wikipediaでは掲載される情報については何らかの裏付けが求められる。そこで、Wikipediaタウンでは現地取材の前後に図書館で関連資料を探し、その資料に基づいて記事を執筆するというプロセスが設けられている。そこでは図書館員の資料に対する知識やファシリテーション能力が求められており、今後も需要が高まるものと思われる。

 2013年10月に起こったアメリカ政府機関の停止では、Data.govのサイトもアクセス不能になり、データの入手が困難になった。また2014年4月には日本政府のデータカタログサイトが予算の関係から一時的に休止したことも記憶に新しい。このような事態は望ましいことではないが、それぞれのサイトに格納されているデータはオープンライセンスが付与されていることから、事前に第三者がバックアップしておき、代替サイトを立ち上げることも原理的には可能である。実際に日本政府の例では筆者が関わるData for Japanコミュニティにおいてミラーサイトを立ち上げた(28)。学術情報流通の分野では電子ジャーナルの長期保存を目的として国際的にアーカイブを持ち合うCLOCKSS(29)が存在するが、それに類する枠組みによってデータの永続性を担保することが図書館コミュニティにも求められるようになるのではないか。

 いまや多くの文献がデジタル化され、単なるキーワード検索で探せるような情報はユーザ自身が発見できるようになった。今後は複数の情報源を組み合わせて新たな知識を作り出すことや、利用者の情報発信を支援することが図書館のミッションになるだろう。その変化の中でオープンデータの重要性はますます高まるものと期待される。

 

(1) “Open Definition”. Open Knowledge Foundation.
http://opendefinition.org [425], (accessed 2014-05-07).

(2) “5 star Open Data”.
http://5stardata.info [426], (accessed 2014-05-07).

(3) Creative Commons.
http://creativecommons.org [427], (accessed 2014-05-07).

(4) Open Data Commons.
http://opendatacommons.org [428], (accessed 2014-05-07).

(5) 大向一輝. オープンデータとLinked Open Data. 情報処理. 2013, Vol. 54, No. 12, p. 1204-1210.

(6) Data.gov.
http://www.data.gov [429], (accessed 2014-05-07).

(7) data.gov.uk.
http://data.gov.uk [430], (accessed 2014-05-07).

(8) “電子行政オープンデータ戦略”.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/120704_siryou2.pdf [431], (参照 2014-05-07).

(9) データカタログサイト(試行版).
http://data.go.jp [432], (参照 2014-05-16).

(10) "オープンデータ憲章(概要)”. 外務省.
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page23_000044.html [433], (参照 2014-05-07).

(11) International Open Data Day.
http://opendataday.org [434], (accessed 2014-05-07).

(12) Linked Open Dataチャレンジ Japan.
http://lod.sfc.keio.ac.jp [435], (accessed 2014-05-07).

(13) “Data licenses & attribution”. OCLC.
http://www.oclc.org/data/attribution.en.html [436], (accessed 2014-05-07).

(14) “Policies”. Digital Public Library of America.
http://dp.la/info/about/policies/ [437], (accessed 2014-05-07).

(15) VIAF.
http://viaf.org [438], (accessed 2014-05-07).

(16) Europeana.
http://www.europeana.eu [439], (accessed 2014-05-07).

(17) Web NDL Authorities. 国立国会図書館.
http://id.ndl.go.jp/auth/ndla [440], (参照 2014-05-07).

(18) “国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/shintenkai2013.pdf [441], (参照 2014-05-07).

(19) “総合目録データベースのデータ公開方針”. 国立情報学研究所.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/od/ [442], (参照 2014-05-07).

(20) 東寺百合文書WEB. 京都府立総合資料館.
http://hyakugo.kyoto.jp [443], (参照 2014-05-07).

(21) 情報通信白書. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ [444], (参照 2014-05-07).

(22) “人口ピラミッド(国勢調査・将来人口推計)”. 大向一輝.
http://bit.ly/japan-population [445], (参照 2014-05-07).

(23) “年齢(5歳階級),男女別人口及び人口性比-全国(大正9年~平成22年)”. 統計センター.
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000001085926 [446], (参照 2014-05-07).

(24) “男女年齢各歳別人口:出生中位(死亡中位)推計”. 国立社会保障・人口問題研究所.
http://www.ipss.go.jp/pp-newest/j/newest03/02_syosai/01/Mm1-9.xls [447], (参照 2014-05-07).

(25) TimeMapper. Open Knowledge Foundation Labs.
http://timemapper.okfnlabs.org [448], (accessed 2014-05-07).

(26) “オープンデータに関する調査研究(2012年度)”. 経済産業省.
http://datameti.go.jp/data/ja/dataset/report-001-2012 [449], (参照 2014-05-07).

(27) “YOKOHAMA International Open Data Day 2014 「Wikipedia Town」レポート”. 横浜オープンデータソリューション発展委員会.
http://yokohamaopendata.jp/?p=239 [450], (参照 2014-05-07).

(28) datago.jp.
http://datago.jp [451], (accessed 2014-05-07).

(29) CLOCKSS.
http://www.clockss.org [452], (accessed 2014-05-07).

 

[受理:2014-05-19]

 


大向一輝. オープンデータと図書館. カレントアウェアネス. 2014, (320), CA1825, p. 14-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1825 [57]

Ohmukai Ikki.
Open Data in Libraries.

カレントアウェアネス [7]
オープンデータ [45]
日本 [15]
図書館 [420]

CA1826 - アジアにおける納本制度の動向―シンガポール、マレーシア、ベトナム、台湾の事例― / 齊藤まや

  • 参照(10605)

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カレントアウェアネス
No.320 2014年6月20日

 

CA1826

動向レビュー

 

アジアにおける納本制度の動向―シンガポール、マレーシア、ベトナム、台湾の事例―

 

関西館アジア情報課:齊藤まや(さいとう まや)

はじめに

 納本制度は、指定機関に出版物の納入を義務付け、文化資産として保存する制度である。日本も含め、多くの国で、法律が定める納本制度下で資料を収集してきた(1)。

 アジアにおいても、多くの国や地域が納本制度を設けて資料を収集している。近年では、ウェブ情報や電子書籍などのネットワーク系電子出版物(2)が増加し、その対応が課題となっているが、中国(CA1786参照)や韓国(3)ではそれらを収集対象とするための取り組みが始まっている。アジアのその他の国や地域においても、ネットワーク系電子出版物への対応のほか、納本率向上のための取り組みなどの動向が注目される。

 本稿では、シンガポール、マレーシア、ベトナム、台湾の納本制度について、それぞれ(1) 概要、(2) 納本状況と納本率向上のための取り組み、(3) ネットワーク系電子出版物への対応を紹介する。

 なお、本稿に掲載する情報の一部は、筆者が2013年11月にシンガポール国立図書館、マレーシア国立図書館、ベトナム国立図書館、台湾の国家図書館を訪問した際に実施したインタビューによる。

 

1.シンガポール

(1) 概要

 シンガポールの納本制度は、英国海峡植民地期の1835年に制定された印刷出版者条例の中で、図書の保護を規定したことに始まる(4)。その後、1970年に印刷出版者条例に代わって印刷出版者法が制定され、引き続き図書の保護を規定した。さらに、1995年に国立図書館委員会(5) (National Library Board、以下NLBとする)の設立にあたって国立図書館委員会法(6)が制定され、その中で現行の制度を定めている。

  • 法定納本に係る規定
     国立図書館委員会法第10条は以下のように定める(一部抜粋)。
     第1項 シンガポールで出版されたあらゆる図書館資料について、出版者は、出版日から4週間以内に、自己負担にて、1出版物につき2部を委員会(7)に納本しなければならない。
     第3項 本条項に違反する出版者には、5,000シンガポールドル以下の罰金を科す。
  • 収集の範囲
     同法第10条に述べる「図書館資料」は、同法第2条で以下のように定義される。
     (a)図書、逐次刊行物、新聞、パンフレット、楽譜、地図、海図、設計図、図画、写真、複製画及びその他の印刷物
     (b)フィルム類(マイクロフィルム及びマイクロフィッシュを含む)、ネガ、テープ、ディスク、サウンドトラック及びその他の視覚イメージ、音声、データ類を収録し、(装置類を使用して、あるいは単独で)再生することができるデバイス類。
  • オンラインシステムを活用した納本
     納本資料は、出版者が直接NLBに納本する。納本の際に、出版者は、NLBが提供するオンラインシステム(8)を使用することを奨励されている。オンラインシステムでは、ISBN、ISSN、ISMN(9)の申請、納本資料の書誌情報登録などが行える。このシステムは、出版者にとっては、ISBNなどの申請から納本資料の登録までを効率的に行えるメリットがある。さらに、オンラインシステムを使用する出版者は、納本の際に、システム上に登録した書誌情報のプリントアウトを同封することになっているので、NLBにとっても受理した資料の処理に要する労力を省力化できるメリットがある。

 

(2)納本状況と納本率向上のための取り組み

 NLBでは、2013年11月までに約103万件の出版物を法定納本によって収集してきた (10)。NLBの担当者によると、納本率の正確な数値は不明だが、大手出版者の出版物はほぼ100%納本されている一方で、中小出版者の出版物の多くは納本されていないという。前述のとおり、国立図書館委員会法では、納本を定める条項に従わなかった場合の罰則を定めている(第10条第3項)が、現在までに罰則が適用されたことはなく、現時点では適用の検討は行われていないという。

 納本率向上のため、NLBは、出版者にポストカードを送付して納本を呼びかけるほか、オンラインシステムの機能改善により、納本の手続きをより簡易にすることを目指しているという。また、納本のインセンティブを高めるため、DNet(C)(11)という制度も導入している。DNet(C)は、積極的に納本を行い、NLBの活動に貢献した出版者がメンバーになれるネットワークである。メンバーに選出さた際には、特別セッションや図書館イベントで表彰される。2014年3月現在、60の出版者がDNet(C)のメンバーになっている。

 さらに、納本制度の周知には教育が重要であることが指摘されていることもあり(12)、NLBでは、長期的な取り組みとして、教育省と連携し、納本制度も含む図書館学の授業を学校教育に取り入れることも検討しているという。教育によって納本制度の重要性を国民に浸透させ、長期的な戦略で納本率向上を図りたいとのことである。

 

(3)ネットワーク系電子出版物への対応

 現行の制度では、ネットワーク系電子出版物は納本対象に含まれない。現在、NLBでは、ネットワーク系電子出版物も納本対象とするデジタル法定納本制度の設立を目指し、知的財産庁や情報通信省などの関係行政機関と調整中である。しかし、著作権の問題など、解決するべき問題が多く、想定よりも時間を要しているという。

 そこで、NLBでは、デジタル法定納本制度を設立するまでの間に有用なネットワーク系電子出版物が消失するのを防ぐため、ネットワーク系電子出版物の任意による納本を呼びかけている(13)。ネットワーク系電子出版物のうち、オンライン資料については、CD-ROMなどの電子メディアにデータを保存して納本するほか、前述のオンラインシステムにデータをアップロードすることでも簡単に納本でき、同時にデータの公開範囲やプリントアウトの可否を設定できる。

 ウェブ情報については、2006年にウェブアーカイブ事業を立ち上げて収集を開始し、成果の一部を公開している。ウェブアーカイブ事業は、ウェブ情報の「選択的アーカイブ」、「ドメインバルクアーカイブ」、「テーマ別アーカイブ」の3種に分けて実施されている(14)。収集したウェブ情報のうち、「選択的アーカイブ」で収集した、特に重要性が高い約1,000のウェブサイトについては、“Web Archive Singapore”(15)で公開している。NLBでは、デジタル法定納本制度の設立により、“sg”ドメインの全てのウェブ情報を収集・公開の対象とすることを目指しているという。

 

2.マレーシア

(1) 概要

 マレーシアの納本制度は、前述のシンガポールと同様、海峡植民地期の制度に由来し、1886年に制定された図書登録条例が大英博物館を法定納本機関と定めたことに始まる(16)。英国領マラヤ連邦期の1950年には、図書登録条例に代わって図書保存条例が制定され、引き続き大英博物館を法定納本機関とした。英国から独立後の1966年には図書保存法が制定され、初めて国立図書館に出版物を2部ずつ納本することが規定された(17)。図書保存法は1986年に廃止され、代わって現行の納本制度を定める図書館資料納本法(18)が制定された。

  • 法定納本に係る規定
     図書館資料納本法で以下のように定める(関連条文抜粋)。
     第3条
     第1項 本法の目的を果たすため、国家の資料保管機関としてマレーシア国立図書館を設立する。
     第4条
     第1項 マレーシアの全ての印刷図書館資料の出版者は、資料の刊行から1か月以内に、自己負担にて、付則1が定める部数を館長(19)に納本する。
     第3項 本条項が納本することを求める図書館資料を納本しない出版者には、3,000リンギット以下の罰金を科す。
  • 収集の範囲
     同法第4条に述べる「図書館資料」は、同法第2条において、「図書、逐次刊行物、地図、図画、ポスターなどの印刷物」及び「映画フィルム、マイクロ資料、音声記録、ビデオ、オーディオ記録、その他の電子メディアなどの非印刷物」と定義される。

 納本部数は、付則1において、印刷物は5部、非印刷物は2部と定める。なお、印刷物についてはマレーシア国立図書館(National Library of Malaysia、以下NLMとする)に5部が納本されるが、そのうち2部はマレーシア科学大学とサバ州立大学に1部ずつ供用される。NLMに残る3部については、2部が閲覧に供され、1部が国家コレクションとして永久保存書庫に収められる(20)。

(2) 納本状況と納本率向上のための取り組み

 納本資料は、出版者から直接NLM宛に送付される。2012年には、図書16,669冊、逐次刊行物410タイトルなどが納本により収集された(21)。

 NLMの担当者によると、マレーシア国内の主要出版者や政府系企業(GLC)も含む政府関係機関の出版物は、ほぼ100%が納本されているが、地方の出版者や中小出版者の出版物の多くが納本されていないことが推測されるという。特に、首都クアラルンプールを含むマレー半島から地理的に分断されているボルネオ島北部地域のサラワク州、サバ州で刊行された資料については、収集が極めて不十分であるという。

 図書館資料納本法では、図書館資料を規定通りに納本しなかった出版者に対する罰則が定められているが、現在までに適用したことはなく、現時点では適用の検討は行われていないという。納本されない資料があるのは、NLMによる制度の周知不足が原因であり、その責任はNLMが負うべきと認識しているためだという。そこで、NLMでは、罰則の適用よりも、広報の強化によって納本制度を周知し、納本率を高めたいとしている。

 このほか、納本率の向上に関連する取り組みに“Writers' Fund”がある。これは、国内で刊行された図書のうち、特に有用なタイトルを選定し、政府が出資してまとまった部数を購入し、公共図書館に配布する制度である。この制度により、政府は、2007年から2013年までに1,760万リンギットを出資し、1,160タイトル864,400部を購入している(22)。公共図書館の蔵書充実と国内の出版者や作家の活動意欲向上のために設立された制度であるが、図書館資料納本法に従って正しく納本されたタイトルのみが購入資料候補となるため、納本のインセンティブ向上への効果も期待されている。

 

(3)ネットワーク系電子出版物への対応

 現行制度は、ネットワーク系電子出版物を法定納本の対象としておらず、制度改定の目途も立っていない。しかし、NLMでは、館内の情報専門部門(Information Specialist Division)に調査チームを編成し、ネットワーク系電子出版物収集のための予備調査を進めている。特に、ウェブアーカイブ事業については前向きに検討している。そのため、調査チームは、インターネット上の情報源や無料のコンテンツについての調査と評価を行い、シンガポールなど海外の先行事例についても研究しているという。今後、十分な予算と人員が整えば、システムの構築に着手したいとしている。

 

3.ベトナム

(1)概要

 ベトナムの納本制度は、フランス領インドシナ連邦期の1922年に制定された納本法に始まる(23)。納本法により、現在のベトナム国立図書館(National Library of Vietnam、以下NLVとする)のの前身であるインドシナ中央公共図書館に法定納本部が設置され、インドシナで出版された図書、新聞、雑誌、地図を収集することが規定された。その後、1946年に制定された文物納本条例では、全ての出版物を国立図書館に納本することを定めた(24)。

 現行の納本制度は、1992年に制定された出版法(25)の中で図書などの納本規定を定めるほか、博士論文についてはNLVが定める「ベトナム国立図書館博士論文提出規定」に、新聞及び雑誌については報道法にそれぞれ規定がある。

  • 法定納本に係る出版法の規定
     出版法では、出版前に情報通信省などの行政機関に、出版後に国立図書館に出版物を納本することを定めている。納本制度に関する出版法の条文は以下の通りである。

     第28条 法定納本とベトナム国立図書館への納本(一部抜粋)
     第1項 全ての出版物は発行日の10日前までに国家の出版管理機関に納本されなければならない。法定納本については以下の規定に従うこと。
     a) 情報通信省により出版免許(26)を付与された出版者、機関及び組織は、1出版物につき3部を情報通信省に納本しなければならない。出版部数が300部以下の場合は、2部を納本する。
     b) 各省の人民委員会に出版免許を付与された機関及び組織は、1出版物につき2部を省の人民委員会に納本し、1部を情報通信省に納本しなければならない。出版部数が300部以下の場合は、1部を省の人民委員会に納本し、1部を情報通信省に納本する。

     第2項 出版免許を取得した出版者、機関及び組織は、発行日から45日以内に、1出版物につき3部をベトナム国立図書館に納本しなければならない。出版部数が300部以下の場合は、2部を納本する。

     なお、出版法第5条第2項に、国家は出版物の検閲をしないことを定めており、同法第28条第1項に定める出版前の納本は、検閲のためではなく、版権登録のために実施されている。

  • 罰則
     第14条第5項において、12か月連続で納本を行わなかった出版者の出版免許を取り消すことを定める。
  • 収集の範囲 
     出版法第28条で述べる「出版物」は、同法の第4条第4項で以下のように定義される。
     出版物は、出版免許を持つ出版者、代理店、組織によって、様々な言語、画像、音声を用いて出版される、政治、経済、文化、社会、教育及び訓練、科学、技術、文学、芸術に関する作品や記録であり、次の形式で表現される。
     a) 印刷図書
     b) 点字本
     c) 図画、写真、地図、ポスター、チラシ、リーフレット
     d) カレンダー
     e) 図書に代替する、または図書を説明するコンテンツを収録する録音物及び録画物
  • 出版法以外の関連規則によって収集される資料
    (i)博士論文
     NLVの法定納本部では、博士論文の収集も行っている。収集対象には、ベトナム国内の大学に提出された論文だけでなく、ベトナム国籍保持者が国外の大学に提出した論文も含む(27)。博士論文は、NLVが定める「ベトナム国立図書館博士論文提出規定」(28)に従い、執筆者が正本1部に、所定の形式でデータを保存したCD-ROMを添えてNLVに納本する。
    (ii) 雑誌・新聞
     新聞や雑誌の出版や発行については、報道法(29)が別途定めており、同法の実施細則「報道法の実施細則及び条文の改正と補遺」(30)の第16条が、情報通信省及びNLVへの納本を規定している。

(2)納本状況と納本率向上のための取り組み

 NLVでは、2013年には15,736タイトル70,849冊の納本資料を受理し、これまでに納本によって収集した資料の総数は158万件にのぼる(31)。

 NLVでは、出版法第28条により情報通信省に納本された出版物について、同省出版局が作成したリストを参照し、情報通信省には納本されたものの、NLVには納本されていない資料を特定している。NLVの担当者によると、小規模出版者を中心に規定通りに納本を行わない出版者が多く存在するという。NLVでは、それらの出版者に対し、文書や電話により納本を督促している。それでも納本しない出版者も存在するが、これまでに出版法が定める罰則を適用したことがなく、現時点では適用の検討は行われていないという。NLVでは、広報の強化や納本手続きの簡略化によって納本率を向上させたいとしている。

(3)ネットワーク系電子出版物への対応

 2012年の出版法改正により、「第5章 電子出版物の出版と発行(第45~52条)」が追加され、「電子出版物」について新たに規定している。

  • 電子出版物の定義
     「電子出版物」は、同法第4条第9項で「デジタル方式で配列し、電子メディアを介して閲覧、視聴される」ものと定義され、「電子メディア」は、第4条第10項で「電気、電子、デジタル、磁気、光学、ワイヤレスなどの方式による伝達技術で運用される媒体」と定義される。さらに、電子出版物の出版者が満たすべき要件について第45条で「法律で定められたベトナムのインターネットドメインを持ち、インターネット上での出版事業ができる」ことを定める。以上のことから、同法第5章に述べる電子出版物は、オンライン資料であると考えられる。
  • 電子出版物の法定納本に係る規定
     第48条第1項で以下のように定める。
     第48条 電子出版物の法定納本及び国立図書館への納本
     第1項 出版者及び非売品資料の出版免許を付与された組織は、本法第28条に従い、電子出版物を国家の出版管理機関及びベトナム国立図書館に納本しなければならない。
  • 電子出版物の納本状況
     このように、電子出版物の納本が新たに規定されたものの、NLVの担当者によると、それらを受け入れるためのシステムの整備が追いついていないため、まだ満足に収集できていないという。また、ウェブアーカイブシステムについても、将来的には構築したいと考えているが、まだ着手できておらず、今後の課題となっている。NLVでは、紙媒体資料の納本率向上を優先事項としており、ネットワーク系電子出版物の本格的な収集開始には時間がかかる見込みであるという。

 

4.台湾

(1) 概要

 台湾の納本制度は、1930年に制定された出版法(32)中の規定に始まる。出版法では、第6条、第13条、第15条に中央党部宣伝部及び内政部に所定の部数を送付することが定められた。1934年に国立中央図書館(33)が設立された後、1936年改正の出版法(34)で初めて図書館への納本が定められ、第8条により、国立中央図書館及び立法院図書館に出版物を1部ずつ納本することが規定された。

 現行の納本制度は、出版法廃止後の2001年に制定された図書館法のほか、政府出版物については政府出版品管理法、学位論文については学位授与法にそれぞれ規定がある。

  • 法定納本に係る規定
     図書館法(35)の第15条に以下のように定める。
     第1項 国家の図書文献を完全に保存するため、国家図書館を全国の出版物の法定納本機関とする。
     第2項 政府機関(機構)、学校、個人、法人、団体及び出版機構は、第2条第2項に定める出版物を発行した際には、国家図書館及び立法院国会図書館にそれぞれ1部ずつ納本しなければならない。ただし、政府出版物については関係法令の規定による。
  • 罰則
     同法第18条に、国家図書館の督促に従わず、出版物を納本しない出版者には、出版物の定価の10倍相当の罰金を科すことを定める。
  • 収集の範囲
     同法15条の対象となる出版物は、同法第2条第2項で「図書、雑誌、新聞、視聴覚資料、電子メディアなどの出版物及びネットワーク資料」と定める。
  • 図書館法以外の関連法令によって収集される資料
    (i)政府出版物
     図書館法が定める納本とは別途、1998年に制定された政府出版品管理法(36)の第7条に、「各機関が発行した出版物は、行政院研究発展考核委員会及び国家図書館にそれぞれ2部ずつ、行政院秘書処及び立法院国会図書館にそれぞれ1部ずつ送付すること」を定める。
    (ii)学位論文
     学位論文については、図書館法が定める法定納本資料の対象外であるが、学位授与法(37)の第8条に、「修士論文及び博士論文は、文書、ビデオテープ、カセットテープ、光ディスク及びその他の方式にて、国立中央図書館(38)で保存する」と定める。

(2)納本状況と納本率向上のための取り組み

 納本資料については、四半期ごとに国家図書館ウェブサイト内の「納本成果」(39)で数量を公開するほか、図書についてはタイトルリストも公開している。例えば、2013年の第4四半期(2013.10~2013.12)には、1,634の出版者から13,107冊の図書を受理している。

 国家図書館の担当者によると、図書は一部の専門書など高額なタイトルには納本されないものが多いが、全体として95%以上のタイトルが納本されているという。また、雑誌については、学術機関の学報などの一部に納本されていないタイトルがあるが、民間の刊行する雑誌はほぼ100%が納本されているほか、新聞は納本率100%である。一方、CDやDVDなどの視聴覚資料の納本率は極めて低く、国家図書館では、出版者に対する広報の強化を急ぎたいとしている。

 出版物を納本しない出版者に対し、国家図書館は文書や電話によって納本を督促している。以前は、出版者を直接訪問して納本を求めることもあったが、近年は省力化のため行っていないという。国家図書館では、納本率を100%に近づけるため、これまで適用したことがない納本規定違反に対する罰則を適用し、同時に、現行の無償での納本を有償にする、「アメとムチ」の対策も検討したいとしている。

 

(3)ネットワーク系電子出版物への対応

 台湾では、前述の図書館法第2条第2項によると、「ネットワーク資料」も法定納本の範囲に含まれる。ここで述べる「ネットワーク資料」は、後述の通り、ウェブ情報を含まず、主にオンライン資料のことを指す。オンライン資料については、2011年8月、出版物の収集から閲覧提供までを行えるプラットフォーム「電子出版物保存閲覧サービスシステム」(40)(E-Publication Platform System、以下EPSとする)のサービス開始以降、収集が進んでいる。EPSは、オンライン資料のISBN申請と納本を同時に行うことができ、提供範囲やプリントアウト可否などの設定もできる(CA1759参照)。これまで、ESPで12,000件以上の出版物を収集してきたが、EPSによる納本は、ISBNが付与される出版物が多くを占める。ISBNが付与されないネットワーク系電子出版物については、公的機関の出版物以外はほとんど収集できておらず、今後の課題となっているという。

 一方、ウェブ情報については、国家図書館が「台湾ウェブアーカイブシステム」(41)を構築している。同ページ内でも述べている通り(42)、現時点では法定納本の対象となっていないものの、すでに5,000以上のウェブサイトを収集し、許諾を得たウェブサイトについては、インターネット上で公開している。今後、ウェブサイトの収集範囲を広げると同時に、法定収集も目指したいという。

 

おわりに

 以上、納本制度についてアジアの4つの事例を取り上げ、概要と動向を紹介した。いずれも納本率向上という課題を抱えているが、罰則を適用する以外の手段で解決を図っている。4つの事例において、「納本制度の周知」を納本率向上の取り組みの柱としている点が共通するが、その他の取り組みとして、シンガポールの学校教育を利用した納本制度周知の検討やマレーシアの“Writers’ Fund”によるインセンティブ向上も注目に値する。

 また、進捗状況に差はあるものの、いずれの事例においても、ネットワーク系電子出版物への対応を進めている。特に、シンガポールと台湾では、オンラインでネットワーク系電子出版物を納本できるシステムを構築し、出版者と図書館の双方の労力を省力化している点は注目に値する。欧米などに比して、注目されてこなかったアジアの納本制度であるが、その変化は著しい。今後も動向を注視する必要があろう。

 

表1 4か国の納本制度概要
国・地域 根拠法令 法定納本機関 法定納本の対象 違反時の 罰則 納本率向上のための取り組み
シンガポール 国立図書館委員会法;第10条 シンガポール国立図書館委員会 全ての印刷出版物及びCDやDVDなどのパッケージ系電子出版物 5,000シンガポールドル以下の罰金 出版者へのポストカード送付、オンライン納本システムの機能改良、DNet(C)による優良出版者の表彰
マレーシア 図書館資料納本法 マレーシア国立図書館 全ての印刷出版物及び視聴覚資料、映画フィルム、電子媒体などの非印刷出版物 3,000リンギット以下の罰金 広報強化や“Writers’ Fund”によるインセンティブの向上6
ベトナム 出版法:第28条、 第48条 ベトナム国立図書館博士論文提出規定 報道法の実施細則及び条文の改正と補遺:第16条 ベトナム国立図書館、情報通信省など 合法的に出版された全ての印刷出版物及びオンライン資料 出版免許の取り消し 出版者への文書送付や電話による納本督促
台湾 図書館法:第15条 政府出版品管理法:第7条 学位授与法:第8条 国家図書館、立法院国会図書館 図書、雑誌、新聞、電子メディアなどの出版物及びオンライン資料 出版物の小売価格の10倍に相当する金額の罰金 出版者への文書送付や電話による納本督促
(参考)日本 国立国会図書館法:第24条、第25条 国立国会図書館 図書や逐次刊行物などの印刷出版物、視聴覚資料や映画フィルムなどの非印刷出版物及び公共機関のウェブサイト、無償のオンライン資料 出版物の小売価額の5倍に相当する金額以下の罰金 シンボルマーク、標語、パンフレット作成などの広報や出版者への納本督促など

 

(1) “納本制度”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit.html [454], (参照2014-05-16).

(2) 本稿では、インターネットを介して送受信される情報と定義する。そのうち電子書籍や電子雑誌など図書または逐次刊行物に相当するものをオンライン資料とする。

(3) 加藤眞吾. 韓国の納本制度. アジア情報室通報. 2010, 8(1). p.2-6.
https://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin8-1-1.php [455], (参照2014-05-16).

(4) Lily Chow and Lim Siew Kim. “The Legal Deposit in Singapore”. CDNLAO Newsletter. No. 56, July 2006.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/newsletter/056/564.html [456], (accessed 2014-05-16).

(5) 国立図書館委員会は、シンガポール国立図書館、シンガポールの全ての公共図書館及びシンガポール国立公文書館の運営を担う機関である。

(6) “National Library Board Act”. Attorney-General’s Chambers.
http://statutes.agc.gov.sg/aol/search/display/view.w3p;page=0;query=DocId%3A%22fbf7d269-e298-4085-bcce-d25e024fdd6d%22%20Status%3Ainforce%20Depth%3A0;rec=0 [457], (accessed 2014-05-16).

(7) 国立図書館委員会のこと。

(8) “Services for publishers”. National Library Board Singapore.
http://www.nlb.gov.sg/deposit/faces/login.jsp [458], (accessed 2014-05-16).

上記のシステムの利用方法については、出版者向けのオンラインマニュアルで確認できる。
“Deposit: A Step-By-Step Guide for Publishers”

http://www.nlb.gov.sg/deposit/faces/Step-by-step%20Guide%20for%20Publishers.pdf;jsessionid=5DEE429F2E61E4D8DD93E6EB69376E50 [459], (accessed 2014-05-16).

(9) 国際標準楽譜番号。国際識別番号として楽譜出版物に付与される。
The International ISMN Agency.
http://ismn-international.org/ [460], (accessed 2014-05-16).

(10) “National Library Board Annual Report”. The 22nd Conference of Directors of National Libraries in Asia and Oceania, 27 February 2014.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/meetings/pdf/AR2014_Singapore.pdf [461], (accessed 2014-05-16).

(11) “Introducing DNet(C)”. National Library Board Singapore.
http://www.nlb.gov.sg/deposit/faces/DNetScheme.jsp [462], (accessed 2014-05-16).

(12) “Legal Deposit Development in Singapore: Future Challenges and Issues”. Proc. International Conference on National Libraries in the Knowledge Based Society, Bangkok, July, 6-8.
http://www.ntu.edu.sg/home/sfoo/publications/2005/2005Bangkok_LD_fmt.pdf [463], (accessed 2014-05-16).

(13) “Digital Legal Deposit”. National Library Board Singapore.
http://www.nlb.gov.sg/deposit/faces/voluntaryDeposit.jsp [464], (accessed 2014-05-16).

(14) Sharmini Chellapandi and Siow Lian San. “Web Archiving Programme at National Library Singapore”. CDNLAO Newsletter. No. 66, November 2009.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/newsletter/066/664.html [465], (accessed 2014-05-16).

(15) “Web Archive Singapore”.
http://was.nl.sg/ [466], (accessed 2014-05-16).

(16) Zawiyah Baba. “Chapter 9 Library as a heritage of a new nation: The National Library of Malaysia”. Libraries and the Malay world. Institut Alam dan Tamadun Melayu, Universiti Kebangsaan Malaysia, 2009. p.149-167.

(17) Khoo Siew Mun. Malaysian library deposit legislation and use of official publications. Government Publications Review. 1990. Vol.17. p.73-82.

(18) “Deposit of Library Material Act 1986”. Attorney General's Chambers of Malaysia.
http://www.agc.gov.my/Akta/Vol.%207/Act%20331.pdf [467], (accessed 2014-05-16).

(19) マレーシア国立図書館長のこと。

(20) Zawiyah Baba. op. cit.

(21) “Perpustakaan Negara Malaysia Laporan Tahunan 2012 [English Version]”. p36.
http://www.pnm.gov.my/upload_documents/laporantahunan/PNM_AR12_BI.pdf [468], (accessed 2014-05-16).

(22) National Library of Malaysia. “Annual Report”. 22nd meeting of directors of national libraries in Asia and Oceania (CDNLAO) 2014.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/meetings/pdf/AR2014_Malaysia.pdf [156], (accessed 2014-05-16).

(23) “Key Milestones”. National Library of Vietnam.
http://nlv.gov.vn/ef/en/general-introduction/key-milestones.html [469], (accessed 2014-05-16).

(24) Ibid.

(25) “Luật Xuất bản”. Bộ Tư pháp Việt Nam. .
http://www.moj.gov.vn/vbpq/Lists/Vn%20bn%20php%20lut/View_Detail.aspx?ItemID=28213 [470], (accessed 2014-05-16).

(26) ベトナムでは、出版事業を開始する際に、情報通信省に出版免許の申請をすることを定めており、出版免許を持たない出版者による出版活動を禁じている(出版法第10条第2項、第14条第1項、第25条第1項)。

(27) “Legal Deposit Division”. National Library of Vietnam.
http://nlv.gov.vn/ef/en/cac-phong-ban/legal-deposit-division.html [471], (accessed 2014-05-16).

(28) “Quy định về việc nộp luận án tiến sĩ tại Thư viện Quốc gia Việt Nam”. Thư viện Quốc gia Việt Nam.
http://nlv.gov.vn/quy-dinh-nop-luan-an-tien-si-tai-thu-vien-quoc-gia.html [472], (accessed 2014-05-16).

(29) “Luật báo chí”. Bộ Tư pháp Việt Nam
http://www.moj.gov.vn/vbpq/Lists/Vn%20bn%20php%20lut/View_Detail.aspx?ItemID=2085 [473], (accessed 2014-05-16).

(30) “Quy định chi tiết thi hành Luật Báo chí”. Bộ Tư pháp Việt Nam.
http://www.moj.gov.vn/vbpq/Lists/Vn%20bn%20php%20lut/View_Detail.aspx?ItemID=22520 [474], (accessed 2014-05-16).

(31) “National Library of Viet Nam Annual Report”.
The 22nd Conference of Directors of National Libraries in Asia and Oceania 25-28 February 2014.
http://www.ndl.go.jp/en/cdnlao/meetings/pdf/AR2014_Vietnam.pdf [475], (accessed 2014-05-16).

(32) “出版法(民國19年11月29日)”. 中華民國立法院.
http://lis.ly.gov.tw/lghtml/lawstat/version2/02402/0240219112900.htm [476], (参照 2014-05-16).

(33) 現在の国家図書館の前身で、中国の南京に設立された。

(34) “出版法(民國25年11月27日)”. 中華民國立法院.
http://lis.ly.gov.tw/lghtml/lawstat/version2/02402/0240225112700.htm [477], (参照 2014-05-16).

(35) “圖書館法(民國90 年1 月17 日總統華總)”. 國家圖書館.
http://www.ncl.edu.tw/public/Attachment/7121310405471.pdf [478], (参照 2014-05-16).

(36) “政府出版品管理?法(民國90年12月10日修正)”. 中華民國法務部.
http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?PCode=A0030054 [479], (参照 2014-05-16).

(37) “學位授予法(民國93年6月23日修正)”. 國家圖書館.
http://www.ncl.edu.tw/public/Data/82258574171.pdf [480], (参照 2014-05-16).

(38) 国家図書館のこと。

(39) “送存成果”. 國家圖書館.
http://www.ncl.edu.tw/lp.asp?ctNode=1287&CtUnit=336&BaseDSD=7&mp=2 [481], (参照 2014-05-16).

(40) “電子書刊送存?覽服務系統(2012年12月に「數位出版品平台系統」から改称)”.
http://ebook.ncl.edu.tw/webpac/ [482], (参照 2014-05-16).

(41) “臺灣網站典藏系統”.
http://webarchive.ncl.edu.tw/ [483], (参照 2014-05-16).

(42) “關於本系統”. 臺灣網站典藏系統.
http://webarchive.ncl.edu.tw/nclwa98Front/commend/aboutme.jsp [484], (参照 2014-05-16).

 

[受理:2014-05-17]

 


齊藤まや. アジアにおける納本制度の動向―シンガポール、マレーシア、ベトナム、台湾の事例―. カレントアウェアネス. 2014, (320), CA1826, p. 17-23.
http://current.ndl.go.jp/ca1826 [485]

Saito Maya.
Legal Deposit in Asia : Examples of Singapore, Malaysia, Vietnam and Taiwan.

カレントアウェアネス [7]
電子出版 [486]
納本制度 [487]
シンガポール [488]
台湾 [489]
マレーシア [490]
ベトナム [491]
国立図書館 [197]

No.319 (CA1812-CA1820) 2014.03.20

  • 参照(8156)

No.319の表紙 [492]と奥付 [493](PDF)

小特集 マイクロ・ライブラリー(CA1812-CA1814)

  • 参照(3486)

 

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

 

小特集 マイクロ・ライブラリー

 

 個人や小規模な団体により運営される“ マイクロ・ライブラリー” が、全国に広がっています。 また2013 年8 月には、マイクロ・ライブラリーを運営する人たちによる「マイクロ・ライブラリーサミット」が開催されるなど、その相互のネットワークも構築されつつあります。今号では、 このマイクロ・ライブラリーの動きを小特集で紹介します。

 

 

 


小特集, マイクロ・ライブラリー. カレントアウェアネス. 2014, (319), p. 2-10.

カレントアウェアネス [7]
図書館事情 [14]
日本 [15]
図書館 [420]

CA1812 - 新時代におけるマイクロ・ライブラリー考察 / 礒井純充

  • 参照(17036)

PDFファイルはこちら [494]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1812

 

新時代におけるマイクロ・ライブラリー考察

 

まちライブラリー / マイクロ・ライブラリーサミット提唱者 
一般財団法人森記念財団、大阪府立大学観光産業戦略研究所
:礒井純充(いそい よしみつ)

 

1 はじめに

 個人で気軽に始められるマイクロ・ライブラリーが、全国各地に広がっている。筆者も本で人と出会う「まちライブラリー」というマイクロ・ライブラリーを提唱し、その活動は、オフィス、カフェ、お寺、病院などの場所を利用して急速に広がっている。ただ、これらマイクロ・ライブラリーの実態は顕在化しておらず、全体像も把握されていない。そこでこのような小さな個人図書館活動をしている人たちが一堂に会する機会を持とうと第1回マイクロ・ライブラリーサミット(1)(以下サミット)を、2013年8月24日、まちライブラリー@大阪府立大学(2)にて開催した(E1468参照 [495])。サミットの企画・提案者として、サミットの意図と目的を以下に記載させていただきたい。

 (1)個人または小規模なグループの図書館活動が、図書を取り巻く新しい環境を作り、本を通じて人とつながる「場」を創生しつつあることに焦点を当てる。
 (2)マイクロ・ライブラリー実施者間の連携を図り、それぞれが築いてきた知見や経験を共有し、おのおのの活動のさらなる発展とその質的向上を図る。
 (3)「個人」と「組織」の役割を考え、社会における「個人」の役割の重要性を再認識する。

 以上の趣旨を踏まえ、本論述における問題意識として近年発生しつつあるマイクロ・ライブラリーの概説(定義、分類、事例)および活動の利点と課題、社会的意義について記述する。

 

2 マイクロ・ライブラリーの定義

 マイクロ・ライブラリーという用語については、筆者が知る限り日本においては過去の論述などにおいて具体的な定義がなされていない。これは、ここで定義するマイクロ・ライブラリーが、新たな領域に属する私設図書館として誕生しつつあり、網羅的、体系的な整理、研究が十分進んでいないためであろう。

 そのために私なりの「マイクロ・ライブラリー」の要件を以下のように提案する。

<マイクロ・ライブラリーの定義>
 (1)個人の私的蔵書を基本に一部、またはその全部を他者に開放し閲覧提供ないし貸出を行っている。
 (2)図書を通じて自己表現し、活動拠点の活性化、参加者の交流を目途として活用されている。
 (3)運営主体が、個人または小規模な団体によるものであり、法的な規制や制度にしばられない運営がなされている。

 もとより上記のような小規模な読書施設は、現代にいたるまで多数生まれ、また消えている。これらの小規模な読書施設は戦前・戦後における篤志家による私的文庫、個人ないし小規模な集団による家庭文庫(こども文庫)や学級文庫、企業・団体による専門図書館の領域まで広く、多岐にわたっている。特に家庭文庫は、今回記述するマイクロ・ライブラリーと類似点もあり興味深い点も多々あるが、既に多くの研究者の著書や論述もある(3)。今回、これらの活動を網羅的、体系的に整理するのは、筆者の専門性と能力を超えるので、ここにおいては、サミットに参加した事例を中心に考察したい。特に近年の情報化社会における「場」の創生や、「人との連携」における個人の役割やその意義について言及する。

 

3 マイクロ・ライブラリーの分類と事例

 サミットでは、上記に定義したマイクロ・ライブラリーを下記のように分類した。

 

<マイクロ・ライブラリーの分類>


 (1)図書館機能優先型
 (2)テーマ目的志向型
 (3)場の活用型
 (4)公共図書館連携型
 (5)コミュニティ形成型
 筆者が出会ったマイクロ・ライブラリーをおのおのの分類に基づき典型的事例を紹介していきたい。

 

<マイクロ・ライブラリーの事例>

 

(1)図書館機能優先型

 このタイプのマイクロ・ライブラリーは、読書好きがこうじて自らの蔵書や寄贈本の貸出などに力を入れているのが特徴である。運営は、概ねボランティアスタッフに委ねられている。

<曽田篤一郎文庫ギャラリー>
 本好きの亡妻の遺志を受け継いだ米田孟弘氏が、妻の実家(島根県松江市雑賀町)を改修して開設した。名称は、妻の祖父、篤一郎氏の名前に由来する。2003年3月開設され、蔵書数5,000冊超になる。現在は米田氏が病気になり図書館運営が困難になったため、松江市民による「曽田文庫応援隊」が結成され、運営を継続中である。応援隊は、資金サポートし、福祉団体と連携して蔵書の整理・閲覧・貸出の運営を担当している。

<わたしの図書館ミルキーウェイ>
 愛読家の石田通夫氏が、個人蔵書、寄贈蔵書を中心に和歌山県和歌山市に2010年に開設した。蔵書数は20,000冊を超える。蔵書以外にも図録、CD、レコード、雑誌、まんがなど多数ある。石田氏は、当初自宅(大阪府交野市)にて私設図書館を2003年に開設したが、勤務の関係で転勤先の和歌山市内の商店街に和歌山市の協力を得て移転させた。移転先の施設には和歌山市が運営する学習センター「みんなの学校」があり、図書館の運営は同センターのボランティアスタッフが担当している。

<もものこぶんこ>
 桃山学院大学図書館が運営していた児童図書館が2004年に閉館されるのに伴い、小学生時代にこの図書館を利用していた河野美苗氏が仲間とともに蔵書の一部を引き受け、自費で店舗を借りて開設した。現在、蔵書数は約8,000冊にのぼる。地域の児童図書館として貸出や読み聞かせ活動を展開している。

<情報ステーション>
 千葉県船橋市を中心にNPO法人情報ステーションが運営する民間図書館。2006年に第1号を設立した。現在19カ所の図書館を運営している。蔵書数は60,000冊を超える。図書館を開設したい場所のオーナーが当該NPOに開設費・運営費を拠出し、NPO側が市民ボランティアを構成して運営をしている。

 

(2)テーマ目的志向型

 “テーマ目的志向型”の特色は、館の活動目的が明確であり、主催者が運営費を負担し、直接運営をしている点である。

<森の図書館(ベルガーディア鯨山)>
 岩手県上閉伊郡大槌町のベルガーディア鯨山にある児童書を集めた石造りの図書館で、2011年の東日本大震災の後、全国から児童書の寄贈を受け、2012年に設立される。蔵書数は約4,000冊にのぼる。佐々木格氏ご夫妻による手作りの建物とそれを取り囲む広大な英国庭園風の庭を利用者に提供している。東日本大震災で大きな被害を受けた大槌町の山の中で児童のために読書環境を提供し、情操教育環境を創出したいという思いを大切に運営されている。

<少女まんが館>
 東京都あきる野市にある少女まんがを専門に収集した、一般の人も閲覧できる図書館である。1997年、東京都西多摩郡日の出町に誕生し、2002年一般公開を開始、2009年に現在地に移転した。蔵書数は50,000冊を超えている。中には戦前のものもあり、遠くから閲覧に訪れる人もいる。少女まんが愛好家で個人収集家の中野純氏、大井夏代氏夫婦二人が運営している。

<走れ東北!移動図書館プロジェクト>
 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会が運営する移動型の図書館。2011年の東北の大震災の後、東北の支援活動の一環として運営されることとなった。

 

(3)場の活用型

 “場の活用型”の特色は、場の利用者の業務支援や学習支援の一環として、蔵書を利用者の仲間づくりや知識・感性の共有手段として活用していることである。

<co-ba library>
 株式会社ツクルバが運営する東京都渋谷区のコワーキングスペース(4)の中に2012年に誕生した。コワーキングスペースの会員メンバーが、自分の蔵書を所定の本棚に配架し、他のメンバーと本の閲覧や交換を通じてお互いの興味や仕事に関する情報交換ができる仕組みになっている。

<下北沢オープンCafe/リブライズ>
 2010年、東京都世田谷区の下北沢地域に誕生したコワーキングスペースに併設されたIT関連の書籍を中心とした図書館で、蔵書は800冊である。運営メンバーの河村奨氏、地藏真作氏が製作したのが全ての本棚をネットに掲出しようとしているリブライズ(5)という図書登録システムである。

<にんげん図書館>
 2012年、名古屋市中村区本陣通を中心に、本で人と出会う活動をしている勉強会グループの本棚が誕生した。現在、蔵書数は150冊である。NPO法人が複数入居したビルの一角に設置され、活動参加者の本を中心に集めている。

<GACCOH>
 京都市の出町柳駅近くにある街の学校として若い人たちが2012年に設立した、哲学・思想・サブカルチャー勉強会グループの図書館である。蔵書数は約890冊ある。発案者の一人が住処とする家屋に設置されている。家屋は3階建てで、1階が学びの場、2階が図書コーナーと台所、3階がシェアハウスになっている。当該家屋に入居する仲間の蔵書を中心に、勉強会に参加するメンバーなどが持ち寄ったものを集めて閲覧提供し、貸出も行っている。

 

(4)公共図書館連携型

 “公共図書館連携型”は、公共図書館が主体となり、運営においては市民の参加を得ながら、まちの活性化や図書館の利用促進、読書環境の充実を目指していることが特徴である。

<伊丹市立図書館ことば蔵カエボン部>
 2012年、伊丹市立図書館ことば蔵の新設を機に施設の一部に市民との協働スペースを設け、市民グループによるカエボン部の本棚が誕生した。蔵書数は約300冊になる。カエボン部は、本を持ち寄りメッセージを付けて交換する図書館利用者の活動グループである。

<おぶせまちじゅう図書館>
 2012年、小布施町立図書館主導のもと、町の中にある銀行や土産物屋など諸施設の中に本棚を設置し、それぞれの設置場所のオーナーが本を配架した。町内観光や人的交流が目的である。各館の運営は、それぞれのオーナーに委ねられている。

<北海道恵庭まちじゅう図書館>
 2013年、市の条例整備(6)により、恵庭市立図書館が中心になって、読書環境をまち中に広めるための活動の一環として開設した。運営は、おぶせまちじゅう図書館同様、各館に委ねられている。

 

(5)コミュニティ形成型

 “コミュニティ形成型”の特色は、参加者が主体的に本を持ち寄り、運営に参画するなどマイクロ・ライブラリーの形成に関与し、相互の人間関係が生まれやすくなっている点である。

<まちライブラリー>
 「本を通じて人と出会う」を標榜し、メッセージを付けた本を持ち寄り、共通の本棚に置き交換していくことで、顔の見える関係性を創り上げることを狙う。筆者自らが2011年から提案し、実行を支援している。設置されている本棚は、自宅、オフィス、お寺、病院、カフェなど生活空間のあらゆるところにあり、現在全国で70カ所を超える。運営は、おのおの別々の個人または団体に委ねられている。おのおのの場所で設置目的は多少とも違うが、共通しているのは本を通じて人と出会うことにより、各場所で顔の見える関係を生み出そうとしていることである。

 特に2011年に設置したISまちライブラリー(大阪市中央区)では、毎月「本とバルの日」を定め、参加者が本を持ち寄り紹介しあい、各種話題を提供し、最後に飲食を楽しむ活動の中で家族的な絆が生まれつつある。蔵書数は、現在4,000冊になる。

 2012年、埼玉県越谷市にある藤田歯科医院に誕生したまちライブラリーでは、スタッフの顔写真を付けたお奨め本コーナーがあり、院内で読み聞かせや本を持ち寄るイベントも実施されていて、まちのコミュニティスペースになっている。蔵書数は500冊を超えている。

 大阪府守口市にある関西医科大学附属滝井病院では医師、医療従事者、患者が持ち寄った本を透析治療室の前に配架し、閲覧、貸出をするまちライブラリーが2013年に誕生した。蔵書数は100冊に満たないが、動物や作家別に病院スタッフと患者による読書グループも誕生している。

 さらに東京都新宿区の四谷三丁目駅近くにある陽運寺というお寺でも2011年よりまちライブラリーが設置されている。ここでは、月に一度の参拝日に参拝者や住職のご家族の本が持ち寄られ、交換されている。蔵書数は約200冊になる。

 まちライブラリー@大阪府立大学は、2013年4月、南海なんば駅南側再開発地区最南端にあるビルの中にできた同大学の学外拠点内に設立された。大学が本棚設置までを行い、本の寄贈、貸出、イベントの運営などを全て市民グループに委ねた「学設民営型」の図書館として位置付けられ、新聞などでも「蔵書ゼロ冊からの図書館」として紹介された。現在の蔵書数は約4,300冊である。

 この他にも個人宅やオフィスの一角、カフェやゲストハウス、ギャラリーなど、まちのいたるところで展開されている。

 

4 マイクロ・ライブラリーにみる利点と課題

 マイクロ・ライブラリーは、公共図書館のような公的な規制や基準もなく、また小規模なものからスタートできるという利点があり、誰でも、どこでも設立、運営できる。その分、個人のアイデアや思いが自由に表出でき、特色のある図書閲覧・貸出環境が生まれつつある。また様々な形式の知的な交流活動や表現活動が行われているケースもある。公共図書館とは違い館内で談話や飲食ができるところも多くあり自由な運営がなされ、個人個人の顔が見える活き活きとした雰囲気が伝わるものが多い。一方で資金面や主催者の労力負荷により継続性が危ぶまれる声もあるが、この点について以下に整理した。

 まず運営資金については、マイクロ・ライブラリーの分類によって違いがある。分類(1)の図書館機能優先型については、施設の維持、管理といった面からも運資金への関心が大きく、常に努力がなされ、運営資金での不安感が高いと言える。分類(2)のテーマ目的志向型では、個別差はあるが(1)の図書館機能優先型ほど運営資金へのこだわりはない。テーマや目的を完遂することにこだわった活動をしているため、運営資金での懸念が分類(1)よりは低いのだと推察される。分類(3)の場の活用型では、施設がコワーキングなど別の目的で運営され、それを通じて運営資金を得ているケースが多い。蔵書は、施設や構成員の活動内容や個性を出す媒介として利用されており、これら蔵書を維持する運営資金への関心は低いと思われる。ただ、施設の投資などには、別途資金提供者が必要となるケースもある。分類(5)のコミュニティ形成型は、本はコミュニティ形成への媒介として重視され、また蔵書の多くが寄贈による持ち寄りのため、本を維持管理するための運営資金へのこだわりは低い。また本棚を設置した施設は、他の目的で使用されているものの一部を蔵書スペースとして利用しているので設置コストも少なく済み、設置しやすいと言える。分類(4)の公共図書館連携型は、公共図書館が活動を実施または支援しており、運営資金での不安はない。

 以上が、運営資金での各類型の概況であるが、運営資金が安定していても継続的にマイクロ・ライブラリーが運営されるかというと必ずしもそうとは言えない。むしろ活動の継続性には、運営資金より活動を続ける動機づけが重要と言える。特に分類(3)場の活用型や分類(5)コミュニティ形成型では、本来の目的が別にあり、図書活動は付随的な要素になりがちで、目的が他の手段で達成された場合は蔵書への関心を失う可能性もある。その場合、マイクロ・ライブラリーは縮小あるいは廃止もありえる。また分類(4)の公共図書館支援型の場合も個々の参加ライブラリーは同様の傾向にあるといえよう。逆に分類(1)、(2)は、動機づけが明確なため主催者のマイクロ・ライブラリーを継続する意思は高いと言える。

 以上のように各分類による動機づけについては違いがあるが、経年による意欲の減退を少しでも軽減するために、冒頭に紹介したサミットなどによりお互いの活動を紹介し、評価する仕組みが必要である。英国の個人庭園(7)が、お互いに庭を公開し、チャリティ活動を通して発展してきたように、お互いのマイクロ・ライブラリーが手法や活動状況を共有することが継続・発展には有用である。今後、より密度の高い情報交換や連携活動をすることにより継続性が増し、個々のマイクロ・ライブラリーの活性化につながると考えている。

 また、このような横断的な活動を通して、マイクロ・ライブラリーの楽しさや意義が広く周知されれば、結果としてマイクロ・ライブラリーを実施する主催者が生まれ続け、利用者も増加すると確信する。今、このような土壌づくりが大切な段階にあると言える。

 

5 おわりに

 近年生まれつつあるマイクロ・ライブラリーは、従前の私設図書館や文庫活動との類似点も見られるが、どちらかと言えば個人の社会参画による自己実現、自己表出を第一義にしている事例が多い。イベントの実施や参加者の交流に主眼が置かれ、読書環境実現に力点を置いてきた私設図書館・文庫活動とは違いがある。逆に読書環境が一定程度充足している現代社会では、より広い層に読書や本に関わってもらうためのヒントも多々見受けられる。個人的活動であっても極めて公共性が高く、志や社会的意義が高いものも散見される。公共図書館関係者もこれらの活動と連携、あるいは個人の立場で活動に参画されるなど、おのおのの立場で無理のない関与を目指されることが、広い意味での図書環境の充実につながると信じる。「組織」の領域でやれないことを「個人」の活動で補い、逆に「個人」の力でできないことを「組織」が支援する。両方の領域の融合が何より重要だと考えるからである。筆者自身は、今後もマイクロ・ライブラリーの活動を通して多くの人から学び続けていく決意を述べ、新時代におけるマイクロ・ライブラリーの考察としたい。

 最後に、2014年もマイクロ・ライブラリーサミットを実施する予定であり、また2013年の各マイクロ・ライブラリーの発表成果を含めて全国のマイクロ・ライブラリー情報を収集し『マイクロ・ライブラリー図鑑』として出版する予定である。まだ力不足で全国を網羅的に掌握する力はないが、今後もより多くの方のお力をお借りしてマイクロ・ライブラリーサミットの継続と図鑑の充実を図りたいと思う。各方面からのご支援、ご指導、情報提供を期待してやまない。

 

(1) 第1回マイクロ・ライブラリーサミット
2013年8月24日まちライブラリー@大阪府立大学にて実施。参加発表マイクロ・ライブラリー17館(本屋2軒含む)。以下発表館(当日発表順)
 (1)わたしの図書館ミルキーウェイ.
 http://homepage2.nifty.com/my-library-milkyway [496]
 (2)情報ステーション.
 http://infosta.org/index.html [497]
 (3)co-ba library.
 http://tsukuruba.com/works/co-ba-library/ [498]
 (4)OSSCafe.
 http://www.osscafe.net/ja/ [499]
 (5)ツルハシブックス.
  http://tsuruhashi.skr.jp/ [500]
 (6)放浪書房.
 http://horoshobo.com/ [501]
 (7)おぶせまちじゅう図書館.
 http://machitoshoterrasow.com/pg675.html [502]
 (8)伊丹市立図書館ことば蔵カエボン部.
 https://www.facebook.com/kotobagurakaebonbu [503]
 (9)曽田篤一郎文庫ギャラリー.
 http://sotalibrary.will3in.jp/ [504]
 (10)森の図書館.
 http://www4.plala.or.jp/bell-gardia/ [505]
 (11)少女まんが館,
 http://www.nerimadors.or.jp/~jomakan/ [506]
 (12)走れ東北!移動図書館プロジェクト.
 http://sva.or.jp/tohoku/ [507]
 (13)にんげん図書館.
 http://blog.canpan.info/future-library/ [508]
 (14)GACCOH.
 http://www.gaccoh.jp/ [509]
 (15)もものこぶんこ,
 http://momobun.kiwamari.org/ [510]
 (16)コミュニティカフェからをとまちライブラリー.
 https://www.facebook.com/karawoto [511]
 (17)ISまちライブラリー.
 http://is-library.jp/ [512]

(2) まちライブラリー@大阪府立大学:全国70カ所(2013年12月現在)あるまちライブラリーの大型拠点の一つとして2013年4月開設。大阪府立大学の学外拠点I-siteなんば内に設置。運営は、一般社団法人まちライブラリー。「蔵書ゼロ冊からの図書館」としてイベント実施ごとに寄贈本を持ち寄り運営されている。専用区画は約240㎡あり、延べ150mある書棚にイベントごとに集まる本を配架。また「食の特別コーナー」や藤本義一、東野圭吾など同大学卒業生の専用棚も設置。蔵書数約4,000冊(2013年12月現在)
http://opu.is-library.jp/ [513] (参照 2014-02-14)

(3) 参考にした文献:
 (1)汐崎順子. 児童サービスの歴史. 創元社, 2007, 213p.
 (2)汐崎順子. 研究助成による研究報告: 子ども文庫の今とこれから. こどもの図書館. 2012, (10), p. 4-7.
 (3)汐崎順子. 文庫・BUNKOの今明日(全18回).こどもの図書館, 2010, 57(8) - 2013,60(2).
 (4)堤美智子. 富士文庫のあゆみ: 私設図書館から富士市立富士文庫へ. 花園大学文学部研究紀要. 2009, (41), p. 17-34.
 (5)運営委員会私立図書館小委員会. 新しい時代の私立図書館を求めて. 専門図書館, 2013, (260), p. 55-57.

(4) コワーキングスペース:個別の仕事を有する個人や小規模事業者が共通のオフィススペースを共有利用しながら情報の交換や共同事業を展開している場所。
宇田忠司. コワーキングの概念規定と理論的展望. 經濟學研究. 2013, 63(1), p. 115-125.
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/52844/1/ES_63%281%29_115.pdf [514], (参照2014-02-15).

(5) リブライズ:「すべての本棚を図書館に」と標榜した、無料で使用できる図書登録サイト。
リブライズ. http://librize.com/ja [515], (参照2014-02-14).

(6) "恵庭市人とまちを育む読書条例".
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1370313641873/files/dokusyozyorei.pdf [516], (参照2014-02-14).

(7) The National Gardens. Scheme.
http://www.ngs.org.uk/ [517], (accessed 2014-02-14).

[受理:2014-02-14]

 


礒井純充. 新時代におけるマイクロ・ライブラリー考察. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1812, p. 2-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1812 [518]

Isoi Yoshimitsu.
The study of the Micro Library for the New Age.

 

カレントアウェアネス [7]
図書館事情 [14]
日本 [15]
図書館 [420]

CA1813 - 「本がある」交流広場、まちじゅう図書館 / 花井裕一郎

  • 参照(14951)

PDFファイルはこちら [519]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1813

 

「本がある」交流広場、まちじゅう図書館

 

NPO法人オブセリズム:花井裕一郎(はない ゆういちろう)

 

まちじゅう図書館の誕生

 創業231年を迎える味噌醸造の老舗「穀平味噌醸造場」。暖簾をくぐると味噌桶や商品が並ぶ店内の奥に100冊の本が並ぶ。

 味噌に関する本はもちろん、店主の興味のある宇宙に関する本や小布施町に関する本、晩年小布施に逗留していた葛飾北斎の本、中には貴重な本も並んでいる。

 2012年に小布施町で始まった「まちじゅう図書館」の一館である。ご近所の方々はもちろん、小布施町の来訪者も多く来店するこの店に味噌を買い求める人だけではなく、「本棚みせてください」と声を掛けて入店してくる人が増えている。

 「まちじゅう図書館」とは、小布施町立図書館まちとしょテラソが開館する際に考えられた、本を通じた交流の場づくりである。1000㎡ほどの小さな図書館では、すぐに本棚はいっぱいになると考えた設計者、古谷誠章さんによって発案された。小さな図書館であり、町の規模も小さいということから、町すべてに本棚を置いて、町中を図書館に例えようというものだった。当初は図書館が本を提供し、どこでも借りられてどこでも返せるといった構想だった。しかし、それを実現するための予算がなかった。

 それでもなんとか実現をしようと考えた。2年間を準備に費やした。

 小布施町には本屋さんがない。そこから考えることにした。町に「本がある」という状態を作っていくことから考えたのだ。

 町民有志とともに東京・不忍ブックストリートの一箱古本市に学び、小布施町でも一箱古本市を開催することにした。一箱古本市とは、参加者が一箱に売りたい本を持ち寄って、販売しながら交流を楽しむ、古本市である。春はお寺で、秋は観音通りという1kmの範囲で開催した。

 一箱古本市で学んだことは、本は人と人をつなぐ道具として存在できるのだということだった。一人のこだわりや箱の中のテーマにそった本を並べる編集力によってその人と同じ趣味や興味をもっている人が吸い寄せられていくのだと感じた。

 この本がつなぐ物語を小布施にいくつも生み出すことは、素晴らしいことだと思い始めた。ただ図書館が提供する本ではなく、誰かが一生懸命読み、そして本棚に並べる。それが人と人をつなぐ「本がある」広場となるのだと確信した。上記した穀平味噌醸造場では、きっと味噌に関する本を読んでいるだろう。酒屋さんは酒に関する本を、パン屋さんはパンやコーヒーに関する本を読んでいるだろうと考えたとき、それをご自宅の本棚に並べているだけではなく、店先に置いてくれないかと考えた。店先でわからないことがあれば、店主に尋ねればいい。そこで会話が生まれ、もっと交流が深まるかもしれない。そう考えた時に、これは図書館で行われているレファレンスサービスであり、店主は図書館スタッフと考えられた。これだ!まさしくこれは図書館になっている。「まちじゅう図書館」の誕生だ。まちじゅう図書館は、“交流の図書館”である。店や家、商店街などに本棚を置くことにより、持ち主の個性が感じられたり、馴染みの人の違う一面を感じたり、本をきっかけに同じ関心を持つ人とつながることである。この人と人との交流こそがまちを元気にする原動力だと考えている。

 一般のお宅でも主が興味を持つ本を玄関近くにおいていただけないかとお願いした。

 参加していただけるすべての空間を図書館とし、そこの主を館長とした。これまでの参加者は、酒造メーカー、銀行、カフェ、農家、一般のお宅など17館。それぞれがユニークな本棚を構成している。

 穀平味噌醸造場には、本の持ち込みもあるという。自分ではまちじゅう図書館に参加して本棚を公開することにまだ積極的ではないけれど、多くの人に知ってほしい本を持っている、できれば穀平味噌醸造場のまちじゅう図書館の本棚に並べてほしいということなのだ。また、一般のお宅のまちじゅう図書館では、本棚も人気だが、そこの空間(場)も人気である。近くの町民がミーティングに使用したり、試験前になると中学生たちがやってきて勉強をしている。まさにこれも図書館的である。

 それぞれが、工夫を凝らし本のある空間を演出している。そこに居心地の良さを発見した人たちは、交流を始めるのである。

 

全国に広がる「本がある」広場

 この動きは、小布施町だけの動きではない。福岡県、愛知県、千葉県、岩手県、北海道にも広がっている。千葉県の特定非営利活動法人情報ステーションでは、地域住民が気楽に立ち寄れてふれあえる場として民間図書館を運営している。小布施町のまちじゅう図書館との違いは、まちじゅう図書館は、それぞれの参加館に貸し借りの運営を任せているのに対して、民間図書館では、情報ステーションである程度ルールを決め、組織的に運営をしている点である。

 また昨年3月、社会実験プロジェクトとして渋谷・原宿で16日間「はしご図書館(1)」が開催された。これは本を介して、まちに集う人々をつなぎ、 まち全体をネットワーク化することを目的に行われた。

 30cm☓30cmほどの木箱に店主の好みの本を並べてもらうという方法。ここでもその店の特徴が現れていた。例えば、原宿で米を販売する店では、お米、ごはん、料理本といったラインナップ。またコミュニティFM局を運営するカフェでは、音楽やスタイリッシュな本が並んだ。

 他にも北海道恵庭市(2)や福岡県八幡区(3)でも同様な動きがある。

 「本がある」という空間が、人と人をつなぐということを多くの人が気づいている。今では、サービス業を営む企業からもまちじゅう図書館に関する問い合わせが筆者のところにきている。

 「本がある」という空間は、ただ人と人とを交流させてというものではなく、人を滞留させ、そこでコミュニケーションを生むことができるのだ。

 ある本のファンであった人が、ある本を持っていた人と出会い、会話し、交流を重ねることによって、お互いにファンとなる。このつながりは、まちづくりの大きな一手だと確信している。

 観光でお金をいくら落としてくれるのだろうと考える「観光客」扱いではなく、「本がある」空間に来訪者としてこられる方々へ「おもてなし」をするという感覚を持ち迎えるという考え方だ。

 

東北まちじゅう図書館プロジェクト

 NPO法人オブセリズムでは、この「本がある」空間となる広場づくりをさらに広げようと試みている。

 最初の試みは、「東北まちじゅう図書館プロジェクト」である。

 これまでのまちじゅう図書館と少し違うのは、これまでは館長(主)に本を提供してもらっていたが、この「東北まちじゅう図書館プロジェクト」は、まず全国から本を集めている。集まった本から館長が選び、そして読んでいただき、気にいった本を並べていただこうというものだ。というのは、東北では震災による津波で本も流され不足している。それには本を集め、図書館的なものを作らなければいけないと感じたからだ。それは大きな図書館ではなく、まちじゅう図書館のような広場的感覚から始めることだと考えた。そして、まちじゅう図書館を作り上げていくプロセスでも、本を提供してくれた方と館長たちの交流が始まればと期待している。

 また、パートナーとして、株式会社紬のKUMIKI PROJECTに参加していただいている。岩手県陸前高田市の森では、復興住宅を建設するために数多くの杉が伐採されているが、KUMIKI PROJECTは、その切り株を有効利用し、自由に組み合わせて壁や床、家具を作る木材キット「KUMIKUBRICS」を作っている。その他にも大阪を拠点に、家具、空間、プロダクト・グラフィックのデザインから食、アートにわたって様々なクリエイティブ活動を展開する会社grafにも参加していただいている。

 本の管理などには、本を通じて人と場所をもっと面白くするサービスを展開中のリブライズ。また古書を使って日本に住むすべての人々が素晴らしい本と出合うことができ、より良い人生を送ることを願い活動されているバリューブックスにパートナーとなっていただいている。

 全国から送られる本は、要らなくなった本ではなく、誰かに読んでほしい本でなければならない。

 現在、岩手県陸前高田市と宮城県石巻市にて、最初の「東北まちじゅう図書館プロジェクト」を行う準備をしている。

 石巻市では、すでに「本がある」場をつくり活動している「石巻 まちの本棚」がある。この動きと「まちじゅう図書館」がコラボレーションすることを考えている。

 

まちづくりとしての「本がある」広場

 小さなまちの小さな図書館と住民が始めた「本がある」広場づくり。今この考えが全国の同じような考えを持つ人々や団体と同調し始めている。

 シャッター街となってしまった商店街や廃校、人の交流が希薄になったコミュニティなどは、今まさにこの「まちじゅう図書館」的な動きが必要な時となっていると考える。是非!小さくてもいい「本がある」広場を少しずつそれぞれの個性によって広げていってほしいと願っている。

 

(1) はしご図書館.
http://hashigo.org [520], (参照 2014-02-13).

(2) "恵庭まちじゅう図書館".恵庭市.
http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/contents/1379387062881/ [521], (参照 2014-02-13).

(3) BookBuffet.
http://bookbuffet.jimdo.com/ [522], (参照 2014-02-13).

[受理:2014-02-14]

 


花井裕一郎. まちじゅうライブラリー. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1813, p. 7-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1813 [523]

Hanai Yuichiro.
“Machijyu Tosyokan”: Making Micro Libraries Where People Can Communicate through Books All Over the Community.
Co-working and Micro-Libraries.

カレントアウェアネス [7]
図書館事情 [14]
日本 [15]
図書館 [420]

CA1814 - 知の貸し借りの場 : コワーキングから生まれる図書館たち / 河村奨

  • 参照(9884)

PDFファイルはこちら [524]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1814

 

知の貸し借りの場 : コワーキングから生まれる図書館たち

 

コワーキング協同組合・リブライズ合同会社:河村奨(かわむら つとむ)

 

 本論では、「コワーキング」という比較的新しい働き方について概観し、そこで知の共有がどのように起きているか簡潔に解説する。また、コワーキングの延長として生まれた私設の図書館について紹介し、場の活用という視点から考えを述べる。

 

1. コワーキングスペース

 会社でもなく、学校でもなく、街の中に「知」の貸し借りの場がある。人々はそこに集まって、各々の仕事をし、ときに勉強をして帰っていく。ノートPCを広げて作業する者が多いが、手書きの書類を広げる者、打ち合わせをする者、職種もその内容も様々だ。このように、場を共有する働き方をコワーキング、そのための場をコワーキングスペースと言う(1)。

 従来型シェアオフィスは、オフィスを単純に複数企業で使う、というだけのものだった。それらとの明確な違いはコミュニティの有無にある。コワーキングスペースで常連の様子を観察していると、仕事の合間に隣席と雑談を交わしているのに気づく。会社が同じという訳でもなく、居合わせた同士で話題を紡いでいる。「今日は冷えますね」「最新のあのニュースは見ましたか」「最近、こんなことをやっているんです」から始まって、「特ダネ」が語られることも多い。こういったコミュニケーションは、筆者の知る限り、従来型シェアオフィスではほとんど見られない。

 雑談の中で共通の興味が見つかると、周囲も誘って少人数のゼミが企画されることがある。新技術の勉強会、写真の研究会など内容は多岐にわたり、必ずしも業務に直結するものだけではない。そこには、オフィスという言葉から連想されるような殺伐とした空気はなく、雑談とイベントが場の雰囲気を作り、人々を緩い連携で結ぶ道具だてになっているようである。

 

2. コワーキングの発祥とその本質

 コワーキング(coworking)という単語が現れるのは1999年、一般に概念形成されて行くのが2006年のことである。ニューヨーク市のアパートを自宅兼仕事場にしていたアミット・グプタ(Amit Gupta)らは、「家で働く」という、言ってみれば個人事業者の特権を謳歌していた。しかし、ブレインストーミングやアイデアを共有する機会に不足を感じてもいた。そこで、彼らは自宅に同じような個人事業者を集めて仕事をすることを思いつく。このシンプルなイベントは"Jelly!"と呼ばれ、一人で働いていた人々の共感を呼び、定期的に開催されるようになった(2)。

 また、同時期のサンフランシスコ市で、ブラッド・ニューバーグ(Brad Neuberg)はコワーキングスペース"Hat Factory"を始めた。この時点では、シェアオフィスを日中開放するという形式だったが、その後の本格的なコワーキングスペース"Citizen Space"の創業につながった(3)。米国の東海岸と西海岸で、時を同じくして、場を共有する働き方が生まれたのである。この時期は、アメリカの大学では既にラーニングコモンズが普及し始めた時期にも重なるのは非常に興味深い(CA1603 [525]、CA1804 [526]参照)。

 施設としてのコワーキングスペースが生まれたことで、コワーキングの認知が急速に広まり、米国を中心にその動きは世界に広がっていった。コワーキング情報サイト"deskmag"によれば、昨年の2013年3月時点で、世界で2,500カ所以上が存在し、少なくとも11万人がそこで働いている。また、世界のどこかで、1日平均4.5カ所のコワーキングスペースが新たに開業しているという(4)。なお、2014年版の統計として"The 4th annual Global Coworking Survey 2013/14"が準備されているが、執筆時現在、まだ公開を待っている状態だ(5)。

 ただ施設があるだけで、コミュニティが成立する訳ではない。「コワーキングの原点」はJelly!にある(6)。場とアイデアを共有することこそがコワーキングであり、共有の精神が根底にあるからこそ、従来型の受け身のオフィスとは一線を画している。

 

3. コワーキングから生まれる図書館

 日本では2010年に神戸にコワーキングスペース「カフーツ」が初めて導入され、現在では300カ所近くに増えた(7)。その多くに本棚が設えられている(後述のリブライズに登録されているだけで50カ所以上)。オーナーの蔵書や、利用者からの寄贈が中心で、貸出を行っている場合も多く、私設の図書館としての性格も持ち始めている。例えば、埼玉の「Office 7F」には3,000冊のIT関連書籍が集められている。アサヒグループホールディングスが運営する「アサヒ ラボ・ガーデン」には1,000冊を超えるお酒に関する本が並ぶ。場所の特性を映した蔵書が興味深い。

 そんな中、2012年に「リブライズ~すべての本棚を図書館に~」(以下、リブライズ)がコワーキングスペースの1つである下北沢オープンソースCafeで生まれた(8)。リブライズは、バーコードリーダを使った蔵書管理・貸出のWEBサービスで、利用者の携帯端末を貸出カードの代わりとして使用することにより、容易に導入できるシステムとなっている。コワーキングスペースを利用する個人の中にも「図書館を開きたい」と考える人は多く、リブライズの出現は、そういった人々を後押ししている。現在では、コワーキングスペース以外にも広まって、カフェやオフィス、大学の研究室、個人など、400拠点あまりで導入されている(9)。

 

4. 場の活用のきっかけに

 何故、コワーキングスペースにおいて本棚が設置されているのか。それは、本棚がコワーキングという場の活用のきっかけになっているからである、と筆者は考えている。

 コワーキングスペースに設置されている「図書館」の蔵書は数百冊、多いところでも数千冊ほどである。公立図書館に比べると圧倒的に少ない。しかし、本棚の内容は個性的だ。むしろ、蔵書数ではなく、専門性と趣味性の高さ・偏りが本棚の評価となっている。

 コワーキングスペースの本棚は、利用者との積極的な関わりの上で成り立つという点が重要だ。顔の見えない誰かではなく、知人の薦める本という価値は大きい。また、本は人の属性を様々に表す媒体である。本棚から何を貸りるかにより個人の興味がわかり、本棚に何を寄贈するかにより個人の専門がわかる。それが積み重なって、本棚はコミュニティを映す鏡になる。初めて訪れる人にとって、リブライズで本棚の蔵書を確認できることは、その場の雰囲気を知る一助となっている。実際、筆者のスペースにも蔵書をきっかけに訪れた人は多い。

 コワーキングとは知の貸し借りの場であると冒頭に書いた。場を共有することで、人々の間に雑談が交わされる、あるいは明示的に勉強会として知識の交換が行われる。その延長には本があり、コワーキングスペースに図書館が自発的に生まれたのは、必然だったと思われる。昨年の図書館総合展のフォーラムでは、場の活用としてコワーキングの可能性について検討するなど、図書館側からの動きも出て来た(10)。双方の動きに今後も注目したい。

(1) 佐谷 恭ほか. 一つながりの仕事術~「コワーキング」を始めよう. 洋泉社, 2012, 189p.

(2) Todd Sundsted et al. I'm Outta Here: How Co-Working Is Making the Office Obsolete. Not an MBA Press, 2009, 134p.

(3) Ibid.

(4) Carsten Foertsch. “4.5 New Coworking Spaces Per Work Day”. deskmag. 2013-03-04.
http://www.deskmag.com/en/2500-coworking-spaces-4-5-per-day-741 [527], (accessed 2014-01-07)

(5) “The 4th annual Global Coworking Survey 2013/14”
http://www.coworkingsurvey.com/ [528], (参照 2014-01-07)

(6) 佐谷 恭ほか. 前掲.

(7) “コワーキングスペース検索”. コワーキング協同組合.
[529]http://coworking.coop/space/search/ [530], (参照 2014-01-07)

(8) “本棚のある場所を“図書館”に変える、「リブライズ」がサービス開始”. カレントアウェアネス-R. 2012-09-04.
http://current.ndl.go.jp/node/21754 [531], (参照 2014-01-07)

(9) “ブックスポット一覧”. リブライズ ~すべての本棚を図書館に~.
http://librize.com/places [532], (参照 2014-01-07)

(10) “図書館における公共空間とコラーニング-コワーキングから学ぶ「人が集う場所」のつくり方”.
http://2013.libraryfair.jp/node/1292 [533], (参照 2014-01-07)

[受理:2014-02-14]

 


河村奨. >知の貸し借りの場 : コワーキングから生まれる図書館たち. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1814, p. 9-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1814 [534]

Kawamura Tsutomu.
Co-working and Micro-Libraries.

カレントアウェアネス [7]
図書館事情 [14]
日本 [15]
図書館 [420]

CA1815 - 図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における東日本大震災関連資料収集の現状と課題-震災の経験を活かすために- / 永井伸

  • 参照(9887)

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カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1815

動向レビュー

 

図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における
東日本大震災関連資料収集の現状と課題
-震災の経験を活かすために-

 

東北大学附属図書館:永井伸(ながい しん)

 

 

1.はじめに

 東日本大震災による津波は、広い範囲に渡って甚大な被害をもたらし、被災地は依然として復興からほど遠い状況である。また、福島第一原子力発電所の事故は、今なお予断を許さない状況で、引き続き深刻な影響を広範囲にもたらしている。 このような大災害に際し、関連資料を収集、保存し、公開することは、図書館が果たすことのできる大きな役割である。これにより、災害時に何があったかを記憶し、後世に伝えることはもちろん、これだけの大災害の経験をもとに、世の中のあり方を再考し、これからの日々の暮らしを新たに創っていこうという人々のために、参考となる資料を提供できるからである。

 本稿では、市販の図書や雑誌を始め、自治体の広報紙や学校で作成された文集、学協会で刊行した報告書、支援団体が発行したイベントのチラシなど、東日本大震災に関連する様々な印刷媒体の資料(以下、「震災資料」という)の収集・公開の取組みについて、被災地の図書館共同キャンペーンを中心に現状を報告する。また、今後、震災資料の収集・公開を有意義に進める上で、筆者が課題であると感じた点について述べる。

 なお、東日本大震災をテーマとしたデジタルアーカイブの取組みが複数あるが、紙数の関係上、ここでは取り扱わないこととする。

 

2.震災資料収集・公開の状況

(1)図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」

 東日本大震災後には、被災地にある図書館を中心に、震災資料の収集が自発的に始まった。これには、阪神・淡路大震災に際し、神戸大学附属図書館を始めとして行われた資料収集の取組み(1)が大きな影響を与えていると考えられる。特別に広報していない場合でも、館内に震災資料の特設コーナーを設置している、あるいは一時的にでも設置した例は相当な数に上るのではないかと予想される。

 そのような中、各図書館での震災資料の収集・公開の取組みについて、広くその重要性を知って頂くため、岩手県立図書館、宮城県図書館、福島県立図書館、仙台市民図書館、岩手大学情報メディアセンター図書館、福島大学附属図書館、神戸大学附属図書館および東北大学附属図書館の8館が呼びかけ団体となり、図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」を2012年3月から実施している。

 具体的には、ポスターの配布、雑誌への広告の掲載、ホームページの作成などを通して、震災資料の収集、公開の活動を広報するとともに、震災資料の寄贈を広く一般にお願いしている。

 キャンペーンの呼びかけ団体を中心としたもう一つの活動として、震災資料収集・公開に取り組む図書館等の担当者が集まり、情報交換会を開催していることが挙げられる。毎回、収集済み資料の数や、収集上の工夫、新たな取組みの内容など、11の項目(2)について各館の情報を交換し、課題について相談できる場になっている。

 

(2)キャンペーン呼びかけ団体の資料収集・公開状況

 上記の情報交換会での報告内容をもとに、「震災記録を図書館に」キャンペーン呼びかけ団体となっている各館の震災資料収集・公開状況を振り返ってみたい。 まず、震災発生から10ヶ月が経過した2012年1月12日に、仙台国際センターで開催した第1回の情報交換会の時点では、多いところでも図書が500~600冊程度といった収集状況で、チラシやパンフレットなどは、ほとんど収集が進んでいない館が多かった。 第3回(2012年8月30日開催)の時点では、1,000冊を超える図書を収集した図書館が多くなった。例えば岩手県立図書館では、震災関連資料を14のテーマ別に検索できるようにしたという報告もあり、各館で分類方法もある程度確定し、本格的な公開を迎える段階になった。

 第4回(2013年2月27日開催)の情報交換会では、国立国会図書館の担当者から、震災資料の横断検索システムである「ひなぎく(3)」へのデータ提供の依頼があった。各館の資料の横断検索の実現は一つの課題であったが、解決の糸口ができることとなった。さらに、書架を整備するだけでなく、企画展示や、ブックガイドの作成、ギャラリートークといった震災資料活用のための活動を実施する図書館も増えてきた。仙台市民図書館が開催する「としょかん・メディアテークフェスティバル(4)」の展示のために、各館の知恵を出し合うこともあった。

 第5回(2013年10月23日開催)では、複本も含め2,000冊以上の図書を備える図書館が多くなった。館によって差があるが、雑誌やチラシ・パンフレットといった資料についても、千点から数千点規模で収集している図書館も出てきた。まずは公開を目指して手探りで進んできたが、利用者の便宜を考えて、当初の分類方法の見直しを検討し始めた図書館も出てきた。

 震災から3年の節目を前にして、資料の収集・公開の流れは各館である程度確立されてきたと言える。今後は、資料をどのように活用するか、また、取組を継続するために、資料の収集範囲なども含め、震災資料の収集をどう位置付けるかが、各館の課題となっている。

表1 「震災記録を図書館に」呼びかけ団体の震災関連資料コーナー
 図書館名震災資料コーナーの名称備考
公共図書館岩手県立図書館震災関連資料コーナー定期的に展示会などを開催。
宮城県図書館東日本大震災文庫資料の電子化、オンライン公開を計画中。
仙台市民図書館3.11震災文庫「せんだいメディアテーク」とフェスティバルを実施。
福島県立図書館東日本大震災福島県復興ライブラリーブックガイドの作成や出張展示セットの貸出を実施。
大学図書館岩手大学情報メディアセンター図書館自然災害関連資料コーナー岩手県の自然災害一般に関する資料を扱う。学内組織と連携し資料収集。オンライン公開資料あり。
東北大学附属図書館震災ライブラリー学内組織と連携し資料収集。オンライン公開資料あり。
福島大学附属図書館震災関連資料コーナー学内組織と連携し資料収集。
神戸大学附属図書館震災文庫阪神・淡路大震災の関連資料が対象。オンライン公開資料あり。

ここで取り上げた図書館以外でも、例えば東北学院大学などで、特色のある取組みが行われている(5)。

 

(3)震災資料の特徴

 震災資料の収集にあたっては、どのような資料がどのくらい刊行されているかを押さえておく必要がある。震災資料がどの程度刊行されているかを概観するために、国立情報学研究所が提供している大学図書館等の所蔵資料を検索するシステムであるCiNii Booksで、「東日本大震災」、「福島第一原子力発電所」をキーワードとして2011年以降に刊行された資料を検索すると、件数は表2のようになる。これらには重複もあるが、少なくとも2,000点以上の関連資料が刊行されていることがわかる。

 これは「阪神・淡路大震災」をキーワードとして検索したときの件数を現時点で既に超えている。復興への道のりは未だ道半ばであり、また原発事故の影響は半永久的に継続することから、震災資料は今後長期にわたって刊行されることが予想される。一時的な収集体制では、これらの資料収集にはとても対応できないだろう。

表2 CiNii Booksに登録されている震災関連の資料数(2014.2.10現在)
キーワード検索件数
東日本大震災(2011年以降刊行分) 2,214件
福島第一原子力発電所(2011年以降刊行分)428件
阪神・淡路大震災 2,090件

 震災資料の内訳について、東北大学附属図書館の「震災ライブラリー」を例に、もう少し詳しく見てみたい。「震災ライブラリー」では、2013年12月現在、約3,200点の資料を整理して公開しているが、内訳は表3のようになっている。このほか、未整理のチラシやパンフレット類が2,000点ほどある。

 図書は、「震災ライブラリー」が設置されている東北大学附属図書館本館の通常資料と同様、国立国会図書館分類により分類している。表4に分類別の資料数を示した。EG77(災害・災害救助)が付与されている図書が多いのは当然であるが、その他の分類が付与されている資料もかなりの数存在している。今回の震災が、エネルギーやライフスタイルについて見直す契機となったり、地域の特色を活かしたまちづくりに取り組むきっかけとなるなど、防災・減災に限らない多方面に影響を与えていることが見て取れる。

 震災資料として収集したチラシやパンフレットなどの刊行物を見ても、子どもに遊び場を提供する団体や放射線の自主測定を行うグループが発行したものから、震災をテーマとした映画上映会のお知らせまで、日常生活の様々な場面に震災が絡んできていることが窺える。

表3 東北大学附属図書館「震災ライブラリー」の公開資料内訳(2013年12月2日現在)
資料種別資料数
図書2,370冊
雑誌659冊
ポスター118枚
CD、DVD71点

 

表4 東北大学附属図書館「震災ライブラリー」配架図書の分類別資料数(2013年12月2日現在)
分類冊数
A(政治・法律・行政)110
D(経済・産業)463
E(社会・労働)922
F(教育)127
G(歴史・地理)86
H(哲学・宗教)37
K(芸術・言語・文学)193
M(科学技術)120
N(科学技術:原子力工学など)92
P(科学技術:化学・化学工業など)3
R(科学技術:農林水産学など)38
S(科学技術:医学など)119
U(学術一般・ジャーナリズム・図書館・書誌)60

 

3.震災資料をより活用していくために -日常とつなぐ-

 以上、図書館における震災資料の収集・公開の活動について述べた。「このたびの震災の教訓を活かす」ことが世間で盛んに言われているが、そのために震災資料の収集・公開の取組みをどのように位置付けたら良いのか、東北大学附属図書館で震災資料を担当するものの一人として、筆者の考えを述べたい。

 

(1)利用の日常化

 震災資料は、前述の通り幅広い分野の内容を含んでおり、防災や減災はもちろん、これから世の中をどうしていくのか、どう生きていくのかを考えるといった目的にも、日常的に利用できるものである。

 そのような幅広い利用を促進するには、震災資料をメモリアル的な存在の、特別コレクションとして扱うだけでなく、各図書館の蔵書検索システムで、通常資料と同様に検索できるようにしておくことが必要である。

 また、「震災資料コーナー」を日常的に活用してもらうための工夫も必要だろう。大学図書館で震災資料が、アクティブラーニングに利用されているという指摘がある(6)。筆者自身、震災の教訓を日々の生活に十分活かせているとは言えない状況だと感じているが、当館の「震災ライブラリー」に行き、資料を手にとってみると、このままでいいのだろうかという思いがふつふつと涌いてくる。多忙な日常の中にあっても、震災資料に囲まれて、震災であった出来事に心を向け、そこから学ぶことのできる場を、日常の授業の中で活用できるよう、教員や学生と取り組むことができると考えている

 

(2)業務の日常化

 当館では、震災資料の購入のために特別な予算はなく、資料の寄贈依頼や整理に新たな人員が配属されているわけでもない。そのような中、何とか資料を収集している状況である。資料の収集・公開を永く継続していくには、業務面においても、日常業務にいかにつなげるかが課題だと痛感している。

 前述の通り、震災資料は膨大な数に上っている。網羅的な収集が必要だという考えや、まず集められるだけ資料を集め、あとで必要なものだけ残せばよい、という考え方もあるだろう。しかし、業務として続けていくには、自分の図書館にどの資料が必要なのか、利用者が何を求めているのかを判断し、「必要な資料」を収集する力が求められる。

 震災の影響は各分野に及んでおり、例えば当館でも、震災に関係する資料は「震災ライブラリー」だけでなく、学生用図書のコーナーや書庫など、通常資料の配架場所にも存在している。震災資料についても通常の選書と同じ位置付けで、職員一人一人が、この資料には価値があるか、利用者の姿が想像できるかといったことを判断しながら資料収集を行うことで、継続した取組みができると考えている。そういった姿勢は、魅力的なコレクションの構築にもつながるはずである。

おわりに

 2012年9月2日に開催された「いま仙台で学ぶことの意義~ほんとうの生きがいとは~」と題された仙台学長会議主催のシンポジウム(7)に参加したことがあった。パネリストからは、主に学生ボランティアの活動報告がなされたが、参加者から「ボランティアではなく、学生の本務である勉強の状況はどうなのか」という質問があった。ボランティアももちろん重要だが、「大学の研究や学習は、震災を経てどう変わったのか」という指摘であると感じた。

 震災をきっかけとして、大学だけでなく、それぞれが所属するコミュニティをどのようにしていくのか、根本的に考える時が来ている。それを考えるための手助けとなる資料を図書館は提供していく必要がある。このたびの震災をどのように捉え、どのような資料を収集するのかは、被災地の図書館に限らず、全ての図書館が挑戦する課題である。

 

(1) 稲葉洋子. 阪神・淡路大震災と図書館活動 : 神戸大学「震災文庫」の挑戦. 人と情報を結ぶWEプロデュース, 2005, 91 p.

(2) 次の11項目である。収集済み資料の種類・数、収集範囲の特徴、市販資料以外の収集方法、収集体制、収集上工夫している点、収集上の課題、一般公開の有無、デジタル化の実施計画、震災関連資料のデータベース化の際の使用項目、震災関連資料の分類方法、前回以降の特記事項

(3) 図書館や東松島市図書館,(参照2014-2-10).

(4) せんだいメディアテーク.“としょかん・メディアテークフェスティバル –対話の可能性-”.図書館情報発信サイト: 図+.
http://www.smt.jp/toplus/?p=941 [536],(参照2014-2-10).

(5) 東北学院大学図書館では、学校法人東北学院(大学・中学・高校・幼稚園を含む)の活動記録を収集し、公開している。東松島市図書館では、震災資料の収集に加え、取材による体験談の収集も行っている。

(6) 米澤誠. ラーニング・コモンズの大いなる可能性 : 東北大学での事例をまじえ. IDE : 現代の高等教育. 2013. (556), p. 23-27.

(7)下記にシンポジウムの概要が掲載されている。
日本私立大学協会. “仙台学長会議主催「市民公開シンポジウム」いま仙台で学ぶことの意義~ほんとうの生きがいとは~”.教育学術オンライン. 2012,.(2498). 2012-10-03.
http://www.shidaikyo.or.jp/newspaper/online/2498/5_a.html [537],(参照 2014-2-10).

[受理:2014-02-14]

 


永井伸. 図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における東日本大震災関連資料収集の現状と課題-震災の経験を活かすために-. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1815, p. 11-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1815 [538]

Nagai Shin.
Current Status and Challenges of the Great East Japan Earthquake Archive Activity by Libraries in the Tohoku Region: To Make Use of the Experience of the Disaster for the Future.

 

カレントアウェアネス [7]
災害 [539]
資料収集 [540]
日本 [15]
公共図書館 [16]
大学図書館 [9]

CA1816 - 電子書籍を活用した図書館サービスに係る法的論点の整理 / 間柴泰治

PDFファイルはこちら [541]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1816

 

電子書籍を活用した図書館サービスに係る法的論点の整理

 

収集書誌部収集・書誌調整課:間柴泰治(ましば やすはる)

 

はじめに

 紙書籍と電子書籍。いずれも「書籍」という語を含むが、図書館サービスを実施する上での取扱いは同じだろうか。例えば、図書館で電子書籍を購入したとして、紙書籍と同様に貸出やコピー(プリントアウト)はできるだろうか。そもそも電子書籍を「購入」するとはどういうことを意味するのであろうか。図書館で長期に保存することはできるのであろうか。本稿は、このような電子書籍を活用した図書館サービスに係る論点を法的観点から整理しようとするものである。

 

1. 紙書籍を活用した図書館サービスと著作権の関係

 図書館資料は、その多くが「著作物」で構成されており、これに係る著作権は著作権法の保護を受ける。したがって、図書館資料を活用した図書館サービスは、著作権を侵害しない範囲で行う必要がある。しかし実務上、図書館サービスを実施する際に著作権処理をいちいち行うことは、まずない。なぜだろうか。典型的な図書館資料である紙書籍を例に考えてみよう。

 「著作物」を含む紙書籍を図書館が購入した場合、その所有権は図書館に移転する。では、その著作権はどうだろう。結論としては、特に契約で定めない限り移転しない。つまり、その書籍の著作権、たとえば、そのコピー(印刷)に係る「複製権」(法21条)、貸出に係る「貸与権」(法26条の3)は、その書籍の販売によって所有権が移転しても、著作権者が保有する。にもかかわらず、図書館は蔵書を利用者に貸し出し、そのコピーを利用者に提供することができるのは、これらのサービスに法30条以下の「権利制限規定」が適用されるからである。図書館が行う紙書籍の貸出については法38条4項が、そのコピーについては法31条1項1号が適用され、著作権者の許諾なく実施できるのである。なお、紙書籍の図書館施設内での閲覧、図書館による保存については、著作権が及ばないので自由に行うことができる。

 

2. 電子書籍を活用した図書館サービスと著作権の関係

 電子書籍を活用した図書館サービス(以下「電子書籍サービス」という)の例として秋田県立図書館の例(1)を見ると、同図書館では、実際に来館することなく電子書籍の貸出を受けることができる。具体的には、利用者のスマートフォンまたはタブレットで専用アプリケーションを起動し、貸出を希望する電子書籍を検索・指定することにより、同図書館のサーバーに保存されている電子書籍がインターネットを通じてスマートフォン等にダウンロードされ、閲覧が可能となる(2)。

 このサービスを著作権法の観点から見ると、「同図書館のサーバーに保存されている電子書籍がインターネットを通じてスマートフォン等にダウンロードされ」るというプロセスが、公衆送信権(法23条1項)に関係する。公衆送信権については、図書館サービスに関連して適用可能な権利制限規定はないので、電子書籍サービスの実施には、著作権者の許諾が必須となる。したがって、電子書籍サービスの内容は、紙書籍を活用した図書館サービスと異なり、必要な著作権処理等を行った上で電子書籍サービスを図書館に提供するベンダーとの契約によって決定される。

 では、電子書籍は、図書館で長期に保存することができるだろうか。この点については、電子書籍は無体物であるデジタルデータなので所有権の対象とはならないことに留意する必要がある(3)。すなわち電子書籍の「購入」は、必ずしもその所有を意味せず、したがって無条件に図書館での保存に結び付くわけではない。また、その電子書籍を図書館のサーバーやDVD等に保存しようとする場合は「複製権」(法21条)にかかわるが、このような保存行為に係る権利制限規定は著作権法にはない。したがって、電子書籍の保存にも著作権者の許諾が必要となる(4)。仮に図書館で電子書籍の保存ができないまま、ベンダーやその電子書籍を供給する出版社や書店等が営業を停止した場合は、電子書籍サービスが直ちに停止する可能性があることに注意が必要である(5)。

 

3. 電子書籍サービスをめぐる論点と対応

 以上から、電子書籍サービスを実施しようとする場合は、同サービスを提供するベンダーと契約を結ぶ必要があり、また、この契約が同サービスの内容を規定するため、契約内容によっては十分な図書館サービスを提供できない可能性がある(6)。さらには、そもそも図書館への電子書籍の供給を著作権者や出版社等が認めず、図書館が入手できない場合もある(7)。電子書籍サービスに関する先進地域である欧米では、実際に、電子書籍の利用に厳しい条件を付されたり、電子書籍の供給を拒否されたりする事態が生じているという(8)。

 電子書籍をめぐるこのような状況において、図書館はどう対応すれば良いのだろうか。このような状況において国際図書館連盟(IFLA)は、「図書館による電子書籍貸出のための原則(9)」を2013年2月に公表した(10)。この「原則」は、出版社や書店等と交渉し、ダウンロード型の電子書籍の貸出サービスの実施を目指す図書館職員が留意すべき事項を、以下の6点に整理したものである。

 (1)収集する電子書籍を自ら策定した収集方針に基づいて選択する前提条件として、すべての市販の電子書籍が入手可能であること
 (2)実際に購入し、電子書籍サービスが実施できる条件で利用契約を結ぶこと
 (3)著作権の権利制限規定により実施可能な図書館サービス(読書障害者のアクセシビリティ確保のためのサービスを含む。)が、契約によって禁止されないよう同規定を尊重すること(11)
 (4)一般的なプラットフォーム・アプリケーション・機器で利用可能であること
 (5)長期的に利用可能であること
 (6)利用者のプライバシーを保護すること

 この「原則」が公表された背景には、紙書籍がダウンロード型の電子書籍へと移行していくことに伴い、従来の図書館に関する諸原則が変化を迫られているという認識がある(12)。ここでいう「従来の図書館に関する諸原則」については様々な整理が可能であろうが、本稿では、「図書館の自由に関する宣言」(13)が示す諸原則(図書館の資料収集の自由、図書館の資料提供の自由、図書館の利用者の秘密を守る義務)を手がかりに、これら6つの事項の意義を確認してみたい。

 そうすると、(1)と(2)は、著作権者や出版社が図書館への電子書籍の供給に消極的な現状を踏まえて、「図書館の資料収集の自由」を再構成したものと解される。また、(3)は、利用方法を契約に強く規定される電子書籍の著作権法上の特性を、(4)と(5)が、その利用が特定のアプリケーションや機器等に依存する電子書籍の技術的特性を踏まえて、「図書館の資料提供の自由」を再構成したものと解される。最後に(6)は、利用者の情報が図書館内に留まらず、ベンダーでも管理される状況を踏まえ、「図書館の利用者の秘密を守る義務」に対応するものと理解できる(14)。以上のとおり整理すると、この「原則」は、従来の図書館に関する諸原則を、電子書籍という技術的にも、また法的にも全く新しいメディアに対応して再構成したものと理解できる。

 なお、上記のうち(1)と(5)については、国レベルでの取組みとして、立法的解決策が提案されている。まず(1)については、図書館へ電子書籍が供給されない、あるいは厳しい利用条件でしか電子書籍が図書館に供給されない事態を避けるため、合理的条件での契約の義務付けが提案されている。また(5)については、出版社と図書館との共同による保存事業に加えて、電子書籍の納本制度創設が提案されている。このような立法的解決策の実現可能性は、その国の事情により異なるだろうが、たとえば(1)に関する提案は、カナダのように出版社や著作者に公的助成が行われている国で、より現実味を帯びるとされている。

 

おわりに

 最近、日本でも出版社等が図書館の電子書籍サービスに本格参入するとの発表(15)が相次いだが、同サービスの実施に必要な電子書籍の確保はいずれも今後の課題としており、日本における電子書籍サービスモデルの確立には時間を要すると思われる。したがって、今後より良い電子書籍サービスを構築していくためには、著作者・出版社・図書館・利用者等の当事者が相互に協力し、すべての当事者にとって合理的なサービスモデルを模索していく必要があろう。その模索の過程にあって、図書館側も、電子書籍サービスへ強い関心を持ち、積極的に提案を行うことで、電子書籍サービスの発展に貢献でき、ひいては図書館サービスの発展につながるのではないかと思われる(16)。

 

(1) 山崎博樹. 秋田県立図書館における電子書籍サービスの構築と課題. 図書館雑誌. 2013, 107(12). p. 762-763.

(2) なお、プリントアウト(印刷)はできない。

(3) 民法85条は、「この法律において「物」とは、有体物をいう。」と規定しているので、無体物である電子書籍は、民法に規定する所有権の対象とはならない。ただし、電子書籍がDVDなどに固定されれば、そのDVDなどが所有権の対象になり得る。この点に注目すると、電子書籍の購入とは、データベースサービスの利用権を取得することと類似していると言える。

(4) 仮に電子書籍の保存について許諾を得たとしても、特殊なフォーマットである場合や利用に特殊なソフトウェアが必要な場合は、長期的な保存・利用に支障をきたす可能性があるが、本稿の論旨を超えるので言及しない。

(5) 森山光良. 日本の公共図書館の電子書籍サービス:日米比較を通した検証. カレントアウェアネス. 2012, (312). p. 23.
電子書籍サービスが終了した最近の例として、2013年3月31日に楽天がサービスを終了した「Raboo」、2014年2月24日にローソンがサービスを終了する「エルパカBOOKS」がある。

(6) 具体的な契約内容の例を挙げると、

 (1)個人向け通常価格の数倍となる図書館向け価格の設定、
 (2)同時に貸し出すことができる点数の制限、
 (3)貸出回数の上限設定(例:30回貸し出したら改めて購入)、
 (4)電子書籍の図書館サービスの対象者の限定(例:X市在住者のみに限定し、X市在学・在勤者は対象外)、
 (5)図書館での電子書籍の保存不可、
 (6)プリントアウト(印刷)不可、などがある。

(7) 一般に、商業出版社や著作者は、公共図書館での電子書籍サービスの実施は、電子書籍の販売を減少させ、結果的に経済的利益の損失をもたらすことを懸念していると理解されている
“IFLA Principles for Library eLending.” IFLA. 2013-11-14. http://www.ifla.org/node/7418 [542]. (accessed. 2014-02-10).
この全文和訳として以下のものがある。
IFLA. “IFLA 図書館の電子書籍貸出(eLending)のための原則(和訳)”. 国立国会図書館訳. 2013-8-16.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/pdf/ifla_elending.pdf [543]. (参照. 2014-02-10)

(8) たとえば、アメリカの状況については以下を参照。
時実象一. 特集,公共図書館と電子書籍のいま:米国公共図書館の電子書籍利用事情. 図書館雑誌. 2013, 107(12), p. 766-768
井上靖代. アメリカの図書館は、いま。(69): 図書館での電子書籍貸出をめぐる議論(1). みんなの図書館. 2013, (433), p. 62-68.

(9) IFLA. 前掲.

(10) なお、個別の電子書籍サービスに関する契約の内容について留意すべき事項を取りまとめたものとして、アメリカ図書館協会(ALA)が2012年8月に公表した報告書「公共図書館のための電子書籍ビジネスモデル」がある
"EBook Business Models for Public Library".,American Library Association. 2012-08-08.
http://connect.ala.org/files/80755/EbookBusinessModelsPublicLibs.pdf [544], (accessed. 2014-02-10).
この報告書は、電子書籍サービスに関する契約内容の標準は未だ流動的であるとの現状認識に立ち、契約交渉に臨む姿勢、契約内容を評価する基準、具体的な契約条件の評価について取りまとめたものである。評価対象とした具体的な契約条件とは、

 (1)同時アクセス数制限
 (2)総アクセス回数制限
 (3)図書館向け価格の設定
 (4)発行後一定期間経過後の購入
 (5)図書館施設内のみでの貸出手続
 (6)コンソーシアム内または図書館間の貸出制限である。

(11) 日本の著作権法30条以下に権利制限規定が設けられているが、これらの規定と相いれない内容を契約で定めた場合、この契約内容は有効であろうか、無効であろうか。この論点は、著作権法上の権利制限規定が強行法規であるか、任意法規であるかという論点として捉えられ、具体的には、各規定の果たす役割や成果を踏まえた上で解釈すべきものとされる
作花文雄. “4. 制限規定と契約”. 詳解著作権法. 第4版, ぎょうせい, 2010, p.309-313.
仮に、図書館サービスに関わる権利制限規定が任意法規であると解される場合は、電子書籍サービスの提供に関する契約でその規定と相いれない内容を含む場合、契約で定めた内容が有効となるので、結果的に権利制限規定で認められた図書館サービスが実施できないことになる。

(12) "IFLA E-Lending Background Paper", IFLA.
http://www.ifla.org/files/assets/clm/publications/ifla-background-paper-e-lending-en.pdf [545], (accessed. 2014-02-10)

(13)日本図書館協会が1954年に採択、1979年に改訂。この宣言の全文および解説は、以下を参照。
日本図書館協会図書館の自由委員会編.「図書館の自由に関する宣言1979年改訂」解説. 第2版, 日本図書館協会, 2004, p.127.

(14)たとえば、アメリカのオーバードライブ社が提供する電子書籍サービスにおいては、電子書籍は同社のサーバーから利用者が直接インターネットを通じてダウンロードするので、利用者の利用情報が同社に蓄積される可能性がある
溝口敦. アメリカ公共図書館の95%が導入するオーバードライブの電子図書館モデルとは?. ず・ぼん. 2013, (18), p. 116.
このような電子書籍サービスの場合、ベンダーが利用者のプライバシーである利用情報を把握する可能性があるので、利用者のプライバシー保護に特に留意する必要があろう。

(15) KADOKAWA・講談社・紀伊國屋書店の3社は、共同で日本電子図書館サービスを設立し、早期の図書館向け電子書籍サービスを提供することを目指すと発表した。
"株式会社日本電子図書館サービスの設立について". 株式会社KADOKAWA. 2013-10-15.
http://ir.kadokawa.co.jp/topics/20131015_jdls.pdf [546], (参照. 2014-02-10).
また、大日本印刷グループ3社と日本ユニシスは、2014年4月から図書館向けに新たな電子図書館サービスを開始すると発表した。
"大日本印刷 日本ユニシス 図書館流通センター 丸善:クラウド型電子図書館サービスを刷新、図書館と生活者の利便性向上へ". 大日本印刷. 2013-10-29.
http://www.dnp.co.jp/news/10092989_2482.html [547], (参照. 2014-2-10).

(16) 間部豊. 公共図書館における電子書籍の導入状況について. 図書館雑誌. 2013, 107(12), p.758.
山崎. 前掲. p. 763.

[受理:2014-02-10]

 


間柴泰治. 電子書籍を活用した図書館サービスに係る法的論点の整理. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1816, p. 14-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1816 [548] Mashiba Yasuharu.
Discussion on the E-book Library Service.

  • 参照(15412)
カレントアウェアネス [7]
図書館サービス [549]
電子書籍 [390]
著作権法 [239]
日本 [15]

CA1817 - オープンキャンパスにおける図書館イベントの現状-受験生・学生協働・教職協働の観点から- / 澁田勝

PDFファイルはこちら [550]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1817

動向レビュー

 

オープンキャンパスにおける図書館イベントの現状
-受験生・学生協働・教職協働の観点から-

 

獨協大学図書館事務課:澁田勝(しぶた まさる)

 

はじめに

 近年、受験生を対象に学校説明会、学内見学会、模擬授業などを行うオープンキャンパス(1) (2)(以下、OCという)が多くの大学で実施されており、大学図書館(以下、図書館という)においても様々なイベントが実施されている。

 OCが受験生に与える影響は大きく、参加した高校3年生の77.4%が「進学したいと思った」との調査(3)がある。また、高校3年生までに94.4%がOCなどのイベントに参加し、参加校数は平均で1人あたり3.62校という調査(4)もある。受験生のほとんどが複数の大学のOCに参加した上で、進学先を検討しているといえる。

 大学にとってもOCは受験生獲得のための重要なイベントであるが、図書館で実施しているイベントについて個々の取り組みに関する報告はあるものの、全体を概観した報告は三浦(2010)(5)以外にほとんどない。三浦の報告はOCにおける図書館イベントの紹介や課題、期待するところなどを自身の知見に基づきまとめたものであるが、全国的なイベント実施状況をまとめているものではない。

 そこで筆者は、まずOCに関する文献や各大学図書館のウェブサイトの調査と、独自に実施したアンケート調査(6) (7)により、図書館で実施されているイベントの傾向を把握することを試みた。アンケート調査は図書館員個人を対象とする任意のアンケート方式で実施したものである。調査期間は2013年12月17日から12月25日までであり、全国の国公私立大学・短期大学142校163館(分館含む)から回答を得ることができた。本稿では、この調査結果について紹介し、その上で各図書館のイベントを企画・運営する際の参考となるよう、「受験生のニーズ」と「学生協働・教職協働アプローチ」の観点から状況を整理する。

 

1.実施イベントの現状

 OCでは、学内で多くのイベントが実施されるが、図書館もその一環として様々なイベントを実施している。

 そこでアンケート調査では、図書館でのイベント実施内容を確認するため、ウェブサイトの調査と筆者のOCへの視察経験に基づいた選択肢を設けて、イベント実施の有無や内容を尋ねるとともに、自由記述により情報を得た。提示した選択肢中、最も多く実施されているイベントは自由見学(131館)であり、以下、ツアー(72館)、展示(貴重書、特集展示など)(54館)、スタンプラリー(18館)、書庫見学(18館)、展示(教科書・シラバスなど)(15館)、大学案内、学部案内などの説明ブース(8館)、ビブリオバトル(4館)、となっている。また、自由記述欄には、模擬授業、模擬ゼミ、留学説明会、学生トーク、博物館との共同での展示、ブックトーク、グッズ作り(栞、うちわなど)、記念撮影、古本市、カフェや休憩所の運営など、多種のイベント内容の情報が寄せられた。

 これらを、受験生の行動の観点から、見学型(知る)、講義型(体験する)、相談型(相談する)、その他に分類し整理した(表1)。アンケートの結果を踏まえると、現状では見学型(知る)のイベントが中心となっていることが伺える。

表1 OC における図書館イベントの内容
見学型
(知る)
自由見学、ツアー、スタンプラリー、クイズラリー、書庫見学、
展示(貴重書、特集、教科書、シラバス、入試の過去問題など)、講演会
講義型
(体験する)
模擬授業、模擬ゼミ、講習会(情報検索)、
DB 体験、EJ 体験
相談型
(相談する)
説明会、個別相談、学生トーク
その他ビブリオバトル、ブックトーク、読み聞かせ、上映会、サークル紹介、
コンサート(ハンドベル、ピアノ)、グッズ作り(栞、うちわなど)、
記念撮影、古本市、カフェ、休憩所

 また、OC向けに図書館独自で作成、配布しているものについても複数選択式で尋ねた。その結果、利用案内・見学案内(OC用)(43館)、チラシ(OC用)(20館)、栞(19館)、展示解説(OC用)(14館)、ブックカバー(8館)、ホームページのニュース(OC用)(6館)、クリアファイル(4館)、うちわ(2館)、ビニールバック(1館)となっている。自由記述欄では、缶バッジ、ポストカード、図書館キャラクターシールなどの回答も寄せられた。この結果から、図書館が主に作成、配布しているものも「見学型」のイベントに対応する配布物が中心となっていることが伺える。

 

2.OC時の図書館及びイベントの運営

 続いてOC時の図書館の開館状況やイベントの運営体制について見ていきたい。

まずOC実施時の図書館の開館状況についてである。OC時に開館した場合、受験生は学生が図書館を使って勉強している様子を見ることでき、大学に入ってからの学習イメージを持つことができる。一方、見学に伴う音に対して図書館利用者からのクレームなども予想される。このため、実施にあたっては利用者への事前の周知も欠かせない(8)。

 アンケート調査の結果によると、通常通り開館している(100館)が最も多く、OC参加者のみ入館できる(22館)、通常通り開館している日とOC参加者のみ入館できる日の両方がある(22館)、閉館している(10館)との回答となっている。

 次にイベントの運営体制についてである。OCで図書館職員がイベントを担当することは、受験生や保護者の生の声、反応を見聞きすることができる機会となる。

 そこでアンケート調査では、図書館職員がOCでどのような業務に従事しているか複数選択式で尋ねた。その結果、図書館の施設管理、案内のみを担当(開閉館など)(99館)が最も多く、以下、図書館内のイベント運営などを担当(46館)、学内全体のイベント運営なども担当(37館)、OC業務に関わっていない(20館)となっている。

 自由記述欄では、人員が少なくカウンターなど持ち場を離れられない、学内業務(案内、誘導、送迎バスの対応など)を担当するため図書館の企画ができないなど、運営体制の課題をあげる回答も多かった。

 また、イベント運営に関して他部署との連携を課題にあげる図書館も多かったが、他部署との連携により学部案内や留学相談(9)などのイベントを図書館内で実施している例もいくつかあり、なかには学内のOCのワーキンググループに参加している図書館もあった。人的制約により図書館独自でイベントを実施することが難しい場合、他部署のイベントを図書館内に取り込むことでも受験生の来館が期待できる。受験生だけでなく、他部署の職員に対しても図書館をPRする機会となりうる。図書館にとってメリットのある試みとして注目してよいだろう。

 

3.受験生のニーズに応える取組み

 OCに参加している受験生はどのような情報を求めているのだろうか。

 受験生がOCで知りたいことの上位3つは、「キャンパスの雰囲気」、「学内で勉強できる内容」、「学生の様子や雰囲気」との調査(10)がある。

 またOCの参加者は受験生ばかりではない。進路決定に影響力のある保護者の参加もここ数年増えており(11) (12)、保護者向けのOC(13)やプログラムを実施している大学もある。保護者は校風や大学の雰囲気だけでなく、「大学では何が学べるのか」、「入学後の成長イメージ」、「就職状況」などに関心を持っている(14)。

 現状では、図書館で実施しているイベントは見学や展示など受動的なものが中心となっており、それだけでは受験生や保護者のニーズに応えることは難しいのではないだろうか。受験生のニーズを押さえた上で、能動的に参加できる仕掛けを増やしていく必要があるだろう。

 学生の様子や雰囲気、入学後の成長イメージを伝える方法としては、学生と接する機会を増やす方法が考えられる。例えば、学生との連携(学生協働)によるイベント運営や卒業生や同窓会との連携、ホームカミングデー(15)や学園祭(16)との同時開催なども考えられる。学生、卒業生と交流することで、入学後の成長イメージだけでなく卒業後のイメージにもつながる。

 また大学での学びを伝えるためには、表1の「講義型(体験する)」に挙げた模擬授業や模擬ゼミなどのイベントをはじめ、教員との連携(教職協働)による取り組みを増やしていくことが考えられる。

 学生の日常の様子を伝える方法としては、OC以外の時期に実施するものも考えられる。通年や夏休み・春休みなど高校生への図書館開放(17) (18) (19)を行っている大学もある。学生が図書館を使って学んでいる様子を見ることができ、高校生自身も大学での学びを体験する機会となりうる点から、OCと同様の取り組みと捉えることもできる。

 

4.学生協働・教職協働によるアプローチ
4.1学生協働

 図書館における学生協働については八木澤(2013)(CA1795参照 [551]) (20) により様々な事例が報告されている。また、入試スタッフとしての学生協働の事例(21)は多く、メリットを取り上げる報告(22)も多い。受験生や保護者は、学生と接することでその大学の学生像を掴むことができるばかりでなく、学生スタッフにとっても、受験生に説明するために事前準備、予習を行うことで図書館に対する理解も深まり、その後の図書館の有効な活用につながるメリットがある。また図書館にとっても、学生との協働によって学生スタッフとの距離が縮まり、学生を理解するきっかけとなる。

 そこでアンケート調査では、図書館で実施されているOCのイベントに対し、学生スタッフがどのように関わっているのかも確認した。

 その結果、学生スタッフは関わっていない(66館)が最も多く、入試課などの学生スタッフが関わっている(47館)、図書館の学生スタッフ(23)が関わっている(17館)となった。学生が担当している業務内容はツアーガイドがほとんどであり、その他はポスターなど掲示物の作成、入館対応などであった。アンケートの自由記述欄では、学生スタッフが受験生に正しくない情報を伝えている場合もあるため、事前の講習などの必要性を指摘するコメントがいくつかあった。図書館職員が事前講習などを実施し、学生スタッフと協働することは、図書館イベントの成功に寄与すると考えられる。

 

4.2教職協働

 大学での学びを受験生に伝えるためには教員との連携(教職協働)は欠かせない。今回実施したアンケート調査では、図書館で実施しているイベントに何らかの形で教員が関わっていると回答した図書館は34館であった。関わっている内容としては、展示のための企画や解説資料の作成、図書館案内や図書館内での模擬授業やイベントなどであった。以下、教職協働と思われるイベントの一例を挙げる。

 愛知県立大学(24)では、教員とめぐる図書館ツアーが実施されており、教員による具体的な図書館活用法を聞くことができる。

 別府大学(25)では、「教職」「学芸員」「司書」「アーキビスト」といった各資格取得に関連した情報コーナーが設けられ、資格に関する資料の展示、教員や履修中の学生による資格の取得方法や授業の内容紹介が行われている。

  九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻(26)では、専攻説明と模擬授業が実施され、動画が九州大学iTunes Uと九州大学YouTubeで公開されている。

 愛知大学(27)では図書館内の施設を活用し、公開ゼミナールを開催し、受験生にゼミの様子を公開している。受験生だけでなく、学生に対しても図書館施設の活用法を体験させることのできる取り組みといえる。

 司書課程を開講している秋草学園短期大学(28)では、レファレンスサービスの業務を体験することのできるイベントが実施されている。

 また図書館によるイベントではないが、八洲学園大学(29)では図書館司書を目指す人を対象としたOCが実施されている。ターゲットを絞り込んだOCの事例として注目される。

 そのほかにも、授業に関する教科書や参考書、教員著書・研究論文、ゼミ紹介や研究成果、学生のノートや卒業論文・修士論文などを展示することも、間接的に大学の学びを伝える取り組みといえる(30) (31) (32) (33)。

 

4.3学生協働・教職協働のビブリオバトル

 OCのイベントとして2012年から増えている新たな取り組みがビブリオバトルである。皇學館大学(34)、東北大学(35)、宮城教育大学(36)、福島大学(37)、九州国際大学(38)などで実施されている(39) (40) (41)。ビブリオバトルは学生、教員、職員、どの立場からも参加・運営ができることから、学生協働・教職協働の1つの試みといえる。受験生も聴衆として巻き込むことができるため、受験生にとっても参加型のイベントといえる。

 ここ数年、ラーニングコモンズ、アクティブラーニングが大学界において注目されており、OCにおいてラーニングコモンズを活用したイベント(42) (43)やアクティブラーニングを取り入れたイベント(44)も今後増えていく可能性がある。図書館にとってもOCのイベント手法の1つとして考えられるが、教授法や活用法などとも密接に関係してくるため、教員と協力し、教職協働のもと検討していく必要がある。

 

5.OCに関する情報の発信と図書館の役割

 入試や大学に関する情報は多数のメディアで発信されているが、OCに関する情報発信については時に問題が見受けられる。例えば、大学ホームページにおいてOCの詳細なスケジュールが直前まで公開されないことや、掲載内容も同一URLで上書き更新され、過去の情報がアーカイブされていないといったケースである。過去の情報も学内外にとって貴重な参考情報であり、大学アーカイブの観点からも記録を残したいところである。

 図書館は普段から機関リポジトリで大学の研究成果を公開している。帯広畜産大学の図書館紹介ポスター(45)、別府大学のOCパンフレット(46)などのように、受験生向けに作成した資料を機関リポジトリで保存・公開することも、学外に対し大学の教育内容や研究内容を伝える方法であり、図書館が担える役割の1つである。

 遠方の受験生や日程的にOCに参加できなかった受験生のための情報発信も必要である。ここ数年はUstreamやYouTubeなどで説明会を中継(47)するケースも増えている。映像だと伝わる情報量も多く、録画があれば受験生はいつでも内容を確認することができる。また教職員にとっても視聴者数により受験生の反応を知ることができ、実施内容の記録の意味でも有効な手段といえる。動画情報を図書館が収集・保存し、今後の教育研究での活用に資することも考えられる。

 

おわりに

 図書館は、受験生をどのように認識しているだろうか。高大接続・高大連携の観点からも、高校での学びに注目し、OC参加者の感想やイベント実施結果から、今後の学生募集や教育内容にフィードバックしていく必要がある。また、受験生へのアプローチを考えることは、その後の入学前教育や初年次教育にもつながるはずであり、今一度その重要性について考えてみてもよいのではないだろうか。

 大学職員として受験生に対し大学の魅力を伝えるためにも、自学の学生の質保証(48)に対する取り組み、アドミッションポリシー(入学者受入方針)・カリキュラムポリシー(教育課程編成・実施方針)・ディプロマポリシー(学位授与方針)などを認識し、IR(Institutional Research )(49)や学生ポートフォリオ(50)の活用、FD・SD(51)などに参画していくことも必要である。

 また、文部科学省の答申(52) (53)において、大学図書館に対する指針が示されている。大学の教育方針と答申を踏まえた上で、図書館としてのイベント運営を考えることは、大学の独自性、魅力を伝えることにつながるのではないだろうか。学生や教員の学習支援・研究支援を行っている図書館だからこそ、学生協働や教職協働も取り入れ、受験生がこの大学で学びたいと思えるような魅力あるイベントを行っていきたいところである。

 

謝辞

 本稿執筆のためのインターネット調査では、調査期間が短期間であったにも関わらず、多くの回答を得ることができた。ご協力いただいた図書館の方々には心より感謝申し上げたい。

 

 

(1) 小島理絵. “オープンキャンパスの研究(修士論文)”. FMICS レポート(高等教育問題研究会). 2007-01.
http://www.fmics.org/report/200701kojima.pdf [552], (参照 2014-01-07).

(2) 山田尚彦. オープンキャンパスランキング:大学を知り尽くした職員が魅力を伝える. 大学ランキング. 2014年版, 朝日新聞出版, 2013, p. 90-93.

(3) “進学するかどうかは「雰囲気」重視 高校生7割 オープンキャンパスで進学決定”. 高校生対象オープンキャンパス調査.ライセンスアカデミー. 2010-2-22.
http://licenseacademy.jp/public/pdf/nr_100222.pdf [553], (参照 2014-01-07).

(4) 特集 進学センサス2013: 高校生の進路選択行動を科学する. リクルートカレッジマネジメント. 2013, Jul-Aug, p. 4-29.

(5) 三浦治. オープンキャンパスと大学図書館. 大学の図書館, 2010, 29(9), p. 176-178.

(6) “オープンキャンパスでの図書館活動に関するアンケート”. 澁田勝, 2013-12-17.
https://docs.google.com/forms/d/1LpBnNiq7UCf3rg3qEPAUq6YPQfuDYCfjt-JTk4apwbg/viewform [554], (参照 2013-12-24).

(7) “『カレントアウェアネス』誌の記事執筆の一環として「オープンキャンパスでの図書館活動に関するアンケート」実施中!”. カレントアウェアネス・ポータル, 2013-12-17.
http://current.ndl.go.jp/node/25102 [555], (参照 2013-12-24).

(8) “オープンキャンパスに伴う図書館見学について”.関西大学図書館.
http://web.lib.kansai-u.ac.jp/library/news/info/2013s_700.html [556], (参照 2014-01-27).

(9) “オープンキャンパス2013タイムテーブル”. 横浜国立大学.
http://www.ynu.ac.jp/exam/ynu/pdf/opencampus2013.pdf [557], (参照 2014-01-07).

(10) 特集 進学センサス2013. 前掲.

(11) 学費、就職状況など保護者向け説明会も充実: オープンキャンパスは親子で行くのが常識!. サンデー毎日, 2010, 89(29) , p. 70-71.

(12) 特集5子どものやる気アップ作戦: 親子で行こう!オープンキャンパス. 親と子のかしこい大学選び : 受験から就職まで. 2014年版, 日経HR, 2013, p. 113-122.

(13) “南山大学 受験生の皆様 受験生のための入試相談会 保護者のためのオープンキャンパス”.南山大学.2013-10-28.
http://www.nanzan-u.ac.jp/admission/event/open/2013hogosha/index.html [558], (参照 2014-01-07).

(14) 保護者にとって重要情報は「進学費用」「将来の職業との関連」: 校風を確かめるオープンキャンパス. リクルートカレッジマネジメント. 2012, May-Jun, p. 39.

(15) “近畿大学ホームカミングデー”.近畿大学.
http://www.kindai.ac.jp/graduates-information/homecoming.html [559], (参照 2014-01-30).

(16) 今井和佳子, 石田翔子. 大学祭での模擬店出店について:イベントを活用した広報の事例. 薬学図書館, 2013, 58(3) , p. 212-215.

(17) “夏休みに図書館開放を行っている大学まとめ”. しぶろぐ(努力の上に花が咲く). 2013-08-14.
http://shibure.hatenablog.com/entry/2013/08/14/225240 [560], (参照 2014-01-07).

(18) “通年で高校生に図書館の一般開放を行っている大学まとめ”. しぶろぐ(努力の上に花が咲く). 2013-08-17.
http://shibure.hatenablog.com/entry/2013/08/17/134554 [561], (参照 2014-01-07).

(19) 水溜友紀子. 高校生への図書館開放-Open Library-について. 薬学図書館, 2013, 58(3), p. 209-211.

(20) 八木澤ちひろ. 大学図書館における学生協働について-学生協働まっぷの事例から-. カレントアウェアネス. 2013, (316), CA1795, p. 10-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1795 [551], (参照 2014-01-07).

(21) 伊藤隆敏ほか. 特集, 学生参加による大学改革: 学生による学生のためのオープンキャンパス: 専修大学「入学センター学生スタッフ」. 大学マネジメント. 2009, 5(6), p. 12-17.

(22) 特集, 育成型学生受け入れへの転換. Between, 2011, 4-5月号, p. 2-19.

(23) 大学スタッフは、SA(スチューデントアシスタント)、TA(ティーチングアシスタント)、メンター、ピアサポーター、サポーター、チューターなど大学によって表現は様々である。

(24) “愛知県立大学長久手キャンパス図書館だより”.愛知県立大学学術研究情報センター 長久手キャンパス図書館.2011-09-29.
http://www.aichi-pu.ac.jp/library/pdf/dayori17.pdf [562], (参照 2014-01-07).

(25) “ARGONAUTESかわら版 第8号”.別府大学機関リポジトリ.2013-02-22.
http://repo.beppu-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=ak00801 [563], (参照 2014-01-07).

(26) “オープンキャンパスの動画を公開しています”.九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻.2013-07-09.
http://lss.ifs.kyushu-u.ac.jp/?p=754 [564], (参照 2014-02-12).

(27) “オープンキャンパスお礼&浴衣ゼミ”.愛大,経営学部のスタッフブログ.2012-08-06.
http://blogs.yahoo.co.jp/aidai_keiei/30872436.html [565], (参照 2014-01-07).

(28) “6月9日(日) オープンキャンパス受付中”.秋草学園短期大学.
http://www.akikusa.ac.jp/tandai/open_campus/0401.html [566], (参照 2014-01-07).

(29) “オープンキャンパス”.八洲学園大学.
http://www.yashima.ac.jp/univ/entrance/opencampus.php [567], (参照 2014-01-07).

(30) “秋田県立大学 オープンキャンパス2013”.秋田県立大学. 
http://www.akita-pu.ac.jp/bioresource/opencampus/2013/schedule.html [568], (参照 2014-01-30).

(31) “附属図書館★マップ”.福山市立大学附属図書館. 
http://lib.fcu.ac.jp/tosho_img/2013/20130719/map20130720.pdf [569], (参照 2014-01-30).

(32) “オープンキャンパス2010で図書館を開放しました”.横浜国立大学附属図書館.
http://www.lib.ynu.ac.jp/hus/lib/1037/ [570], (参照 2014-01-30).

(33) “オープンキャンパス情報 (6/16)”.阪南大学経営情報学部.
http://www2.hannan-u.ac.jp/~mi/oc/oc_6_16.php [571], (参照 2014-01-30).

(34) 岡野裕行. “大学でビブリオバトルに取り組むということ”.第65回近畿地区図書館学科協議会.2013-09-05.
http://www.nc.otemae.ac.jp/kenkyu/yosida/kiroku/2013/siryo_okano.pdf [572], (参照 2014-01-07).

(35) “附属図書館本館オープンキャンパスに7,800名が来館”.東北大学附属図書館.2012-08-10.
http://tul.library.tohoku.ac.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=501 [573], (参照 2014-01-07).

(36) “MYU Library News 第70号”.宮城教育大学.2013-07-12.
http://library.miyakyo-u.ac.jp/top/News/h25_news.html#a0717 [574], (参照 2014-01-07).

(37) “ビブリオバトル首都決戦2013★宮城・福島ブロック 福島予選”. 福島大学図書館.
http://www.lib.fukushima-u.ac.jp/bibliobattle2013/fukushima.html [575], (参照 2014-01-07).

(38) “ビブリオバトル学内予選会報告”. KIUブログ(九州国際大学). 2013-09-05.
http://www.kiu.ac.jp/kiublog/2013/10/-20130901-.html [576], (参照 2014-01-07).

(39) “ビブリオバトル首都決戦2012 地区予選会 in 東北芸術工科大学”.東北芸術工科大学.2012-07 -24.
http://www.tuad.ac.jp/2012/07/25005/ [577], (参照 2014-01-07).

(40) “夏のオープンキャンパスin大和キャンパスは、7月21日(日)の開催です!”.宮城大学.2013-07-12.
http://www.myu.ac.jp/uploaded/attachment/1285.pdf [578], (参照 2014-01-07).

(41) “ビブリオバトル首都決戦予選会のお知らせ!!”. 椙山女学園大学. 2013-05-30.
http://www.lib.sugiyama-u.ac.jp/event/2013/05/post-17.html [579], (参照 2014-01-07).

(42) 米澤誠. 特集, ラーニング・コモンズ-学習の支援と空間-: ラーニング・コモンズの大いなる可能性-東北大学での事例をまじえ-: 3.大学を魅せる場としてのLC: オープンキャンパスの重要性. IDE・現代の高等教育, 2013, 558, p. 26-27.

(43) “【2013KSCオープンキャンパス】 アカデミックコモンズの学びを体験「Feel Learning 感学」”.YouTube(関西学院大学).2013-09-03.
http://www.youtube.com/watch?v=kpliV5gxY10 [580], (参照 2014-01-07).

(44) “小樽の街を探る!高校生のためのアクティブラーニング”.小樽商科大学.
http://www.otaru-uc.ac.jp/hnyu1/info/oc2013/oc2013.htm [581], (参照 2014-01-07).

(45) 清水夫美子. “帯広畜産大学附属図書館コーナー”.
http://jairo.nii.ac.jp/0093/00001799 [582], (参照 2014-01-13).

(46) “Let's体験!2010年オープンキャンパス”.別府大学/別府大学短期大学部.
http://jairo.nii.ac.jp/0127/00002350 [583], (参照 2014-01-13).

(47) “2013年 知識情報・図書館学類 学類説明会(終了)”.筑波大学情報学群知識情報・図書館学類.2013-07-29.
http://klis.tsukuba.ac.jp/OpenCampus2013.html [584], (参照 2014-01-07).

(48) 文部科学省中央教育審議会. “学士課程教育の構築に向けて(答申)”. 前掲.

(49) 江原昭博. 特集, I Rで教学をマネジメントする:【現状分析】日本型IRの現在地‐「自学にとって」機能的なIRの設計を. Between, 2013, 10-11月号, p. 3-5.

(50) “YNU学生ポートフォリオ”.横浜国立大学.
http://www.ynu.ac.jp/career/ynu/portfolio.html [585], (参照 2014-01-07).

(51) 文部科学省中央教育審議会大学分科会. “用語解説(学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ))”. 文部科学省. 2008-04.
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/05/13/1212958_002.pdf [586], (参照 2014-02-14).

(52) 文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会. “大学図書館の整備について(審議のまとめ)-変革する大学にあって求められる大学図書館像-”. 文部科学省. 2010-12
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1301602.htm [587], (参照 2014-01-07).

(53) 文部科学省科学技術・学術審議会 学術分科会 学術情報委員会. “学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ)”. 文部科学省. 2013-08.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/031/houkoku/1338888.htm [588], (参照 2014-01-07).

 

[受理:2014-02-14]

 

 


澁田勝. オープンキャンパスにおける図書館イベントの現状-受験生・学生協働・教職協働の観点から-. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1817, p. 16-20.
http://current.ndl.go.jp/ca1817 [589]

  • 参照(13436)
カレントアウェアネス [7]
動向レビュー [43]
図書館サービス [549]
日本 [15]
大学図書館 [9]

CA1818 - 研究データ共有時代における図書館の新たな役割:研究データマネジメントとデータキュレーション / 池内有為

PDFファイルはこちら [590]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1818

動向レビュー

 

研究データ共有時代における図書館の新たな役割
:研究データマネジメントとデータキュレーション

 

筑波大学大学院図書館情報メディア研究科:池内有為(いけうち うい)

 

  研究データの採取コストが高い天文学、地球科学、ゲノミクス、素粒子物理学といった分野では、世界中の研究者がデータを共有して問題解決にあたり、目覚ましい成果を上げてきた(1)。近年、研究の信頼性の向上やオープンアクセスの方針といった様々な要因によって研究データ共有が拡大している。さらに助成機関によるデータ公開の義務化が相次いでいることを契機として、海外の学術図書館は研究データ共有の支援サービスを開始している。本稿では、「研究データマネジメント」や「データキュレーション」と呼ばれるこれらのサービス、すなわちデータリポジトリの運営やガイダンスといった業務の内容と、そのための人材育成について紹介する。

 

1. 研究データ共有の意義と動向

1.1 研究の効率化と信頼性の向上

 研究データ共有(Data Sharing)の成功例としてしばしば言及されるのは、ヒトの全遺伝子配列を解読したヒトゲノムプロジェクトである。バミューダ原則(2)によって、世界中の研究者が解読した遺伝子配列をパブリックドメインで24時間以内に公開するように定められたことで、当初の予定より2年早く、プロジェクト開始から13年で達成された。その後も生命科学分野では研究データの共有と再利用が盛んに行われ、新たな成果を生み出している(3)。

 一方、研究データの改竄や論文の捏造は、長年にわたって科学界の重要な問題と目されてきた。複数の調査によって医学生物学論文の実験結果は70%以上が再現できない”(4)とする指摘もあるが、研究データの公開によって追試や再現を可能にし、研究の透明性を向上させることでこうした問題に対応できるものと期待されている。特に臨床試験データは被験者のプライバシーと企業の利益保護のため公開が困難であるとされてきたが、公開に向けた調整が進んでいる(5)。2013年11月には、東京大学医学部附属病院の大学病院医療情報ネットワーク研究センターが、すべての研究者が活用できる症例データリポジトリUMINI-ICDRの運用を開始した(6)。

1.2 研究データ公開の義務化

 オープンアクセスの趨勢も研究データ共有を牽引している。経済開発協力機構(OECD)(7)や米国大統領府科学技術政策局(OSTP)(8)、欧州議会(9)といった政府組織が、公的資金による研究成果を広く市民に公開するために、論文(出版物)と同様にデータを公開するよう指示している。さらに、助成金の申請にあたって研究データをどのように保存し、共有するのかを記載した「データマネジメント計画」(10)の提出を義務付ける助成機関が増えており(11)、図書館が支援に乗り出す契機となっている(E1481 [591]参照)。たとえば、健康科学分野では図書館員の新たな役割として、補助金の申請支援や、「データマネジメント計画」の作成とその実施の支援が行なわれているという報告がある(E1508 [592]参照)。

 日本ではまだ義務化されていないものの、文部科学省や厚生労働省、科学技術振興機構の助成を受けた一部の研究については、公募の段階からデータ共有への協力を呼びかけている(12)。データ共有による研究の効率化は、助成金の節減にもつながる。

1.3 分野を超えた活用と引用、インパクトの測定

 さらに、分野を超えて研究データを活用し、新たな成果を生み出すことをめざした国際活動が行われている。たとえば、現在57カ国が参加している研究データ同盟(Research Data Alliance)は、“障壁なきデータの共有”をスローガンとして(13)、メタデータなどの技術的な基盤と共通方針などの社会的基盤の構築に努めている(E1531 [593]参照)。研究データ同盟と連携しているDataCiteは、研究データに永続的な識別子であるDOIを付与し、データの発見、引用、その追跡とインパクトの測定に資することを目指しており、2014年2月現在、260万件を超えるデータが登録されている(14)。

 トムソン・ロイター社は2012年11月にData Citation Indexを公開し(15)、Web of Science(公開当時の名称はWeb of Knowledge)に収録している論文と研究データのリンクや引用データを提供している(16)。また、研究データを公開すると、元論文の引用が増えるという調査もある(17) (18) (19)。さらに、2013年1月から米国科学財団(NSF)の助成金申請のガイドラインが変更され、業績は「出版物(publication)」から「生産物(products)」に名称が変わり、論文と並んで研究データを挙げられるようになった(20)。2014年5月には、Nature Publishing Groupから研究データのみを採録するオープンアクセス誌Scientific Dataが刊行される予定である(21)。

 このように、研究データが分野を超えて活用され、論文と同様に業績として評価される仕組みが整いつつある。こうした状況は、研究者にとって共有のインセンティブにも、強制力にもなるだろう。また、図書館においても出版物と同様にデータを収集することが自然なこととなるかもしれない。

 

2. 研究データマネジメントの3つの役割

 研究データ共有の拡大とともに、図書館には新たな役割が期待されている。米国の研究者1,329名を対象とした2010年の調査によれば、自身のデータに他の研究者が容易にアクセスできるとした回答者は36.2%に留まり、その理由として、充分な時間がないこと(53.6%)、資金がないこと(39.6%)、データの登録先がないこと(23.5%)などが挙げられている(22)。データを公開したい、あるいは公開しなければならないが、実現できずにいる研究者を支援することが、図書館に期待されている(23)。

 さて、研究データ共有に関する図書館サービスの総称として「研究データマネジメント(Research Data Management、以下RDM)」が用いられることが多い。図1は、英国のディジタルキュレーションセンター(Digital Curation Centre: DCC)によるRDMサービス構築ガイド(24)に掲載されたRDMサービスの要素で、(1)機関全体の研究データ公開ポリシーやサービスの実施計画を立てること、(2)データの長期保存と公開を支援すること、(3)研究者へのガイダンスや研修を行うことの3点から構成されている。以下では、各要素について実例を交えながら紹介する。

 

図1 DCC「Components of an RDM service」

図1 DCC「Components of an RDM service」

出典: Jones, Sarah et al. How to Develop Research Data Management Services - a guide for HEIs. DCC. 2013, 22p. http://www.dcc.ac.uk/sites/default/files/documents/publications/How-to-develop-RDM-services_finalMay2013rev.pdf [594], (accessed 2014-01-16).

 

 

2.1 データポリシーとサービス実施計画の策定

 大学や研究機関におけるRDMサービスは、ポリシーや戦略の策定と、実施のためのコスト計算や年次計画からはじまる。2012年に英国で行われた調査によれば、公式なデータポリシーがある大学は30.9%、2013年に作成を予定している大学は43.2%であり、7割以上の大学がポリシーの策定に取り組んでいる(25)。各大学や学術機関のポリシーは、DCCの“UK Institutional data policies(英国)” (26)や、研究者への情報提供を目的として、ノーステキサス大学図書館、同大学情報学科、そして図書館情報資源振興財団(CLIR)が協同運営しているDataResの“University Data Management Policies(米国)” (27)などにまとめられている。

 たとえば、エディンバラ大学は2011年5月に英国ではじめてRDMポリシー(28)を策定し、2012年8月から2014年8月までのロードマップ(29)とともに公開している。ポリシーは、「新規の研究申請には研究データマネジメント計画を含めなくてはならない」など10項目あり、ロードマップにはデータマネジメント計画、インフラストラクチャ、データの管理責任、データマネジメント支援の4部門の目標と、予想される成果がフェーズ0から2までの3期間に分けて記されている。

 2013年8月にDCCやエディンバラ大学でインタビューを行ったところ、機関全体のポリシー策定や戦略、実施計画の立案にあたっては、図書館がリーダーシップを発揮していること、また、分野や研究者によって支援のニーズが大きく異なるため、充分なコミュニケーションが必要であることなどが語られた(E1481 [591]参照)。

 

2.2 データキュレーション

 図書館の第二の役割は、研究データ共有のための技術的な支援、すなわちデータキュレーションである。データキュレーションの定義は多様だが(30)、ここでは研究に用いたデータを公開し、アクセスと再利用を可能にするための計画、選択、組織化、長期保存までの一連の過程とする。

 まず、助成機関や学術雑誌のポリシーに応じてデータの登録先、方法、保存期間といったデータマネジメント計画を作成する。登録先としては、GenBankやDryad(31)など分野別のリポジトリや学術雑誌の出版社のサーバ、助成機関のリポジトリ、figshare(32)などのデータ保存・共有サービス、そして著者の所属機関のデータリポジトリ(33)などがある。また、「データマネジメント計画」作成の補助ツールとして、カリフォルニア大学キュレーションセンター(UC3)のDMPTool(34)、バース大学のResearch360によるテンプレート(35)、DCCによるチェックリスト(36)や助成機関のポリシー一覧(37)といった資料が公開されている。

 英国の社会・経済学分野のデータを収集するUK Data Archiveは、データキュレーションを
 (1)データの転送
 (2)データをどのレベルで処理するかの割り当て
 (3)データ処理
 (4)データの付属ドキュメントの処理
 (5)メタデータの作成
 (6)ユーザ情報の追加(Readファイル
 (7) データ目録の公開
 (8) ダウンロードシステムによるデータの配信
 (9) データの保存
の9段階で説明している(38)。長期的な保存と広範なアクセス、および再利用を目指すためには、(3)データ処理にあたっては適切な形式へとマイグレーションを行い、(5)メタデータはできるだけ標準化されたスキーマを選択してハーベスティングに備え、(7)データ目録の公開では引用や評価を見据えたDOIの付与や論文とのリンクを行うこと、そして著作権や倫理規定に応じた認証などの仕組みも必要だろう。

 こうしたサービスは、データライブラリアン、サブジェクトライブラリアン、リポジトリマネージャー、ITサービス担当、リサーチアドミニストレータなどが連携しながら実施している(39)。

 

2.3 研究者のためのトレーニングと支援サービス

 RDMにおける図書館の第三の役割として、研究者や大学院生を対象としたガイダンスやトレーニングがある。RDMの重要性や実践のための技術や知識を伝えるために、ウェブサイトを構築し、研修、コンサルティングサービスなどを提供している。

 RDMのサイトでは、機関のポリシーや、メタデータや著作権、データ引用といったトピックの解説、助成機関のポリシー、「データマネジメント計画」の作成アドバイス、ワークショップや研修の案内などをまとめて掲載していることが多い。ケンブリッジ大学(40)、MIT(41)、UCLA(42)など多くの大学でRDMサイトが作られているが、専門分野に関するトピックは、他大学の研究者にとっても有用だろう。

 図書館員が研究者や大学院生に研修を行うための教材も公開されている。UK Data Archiveは、計画、データ形式、蓄積など8つのトピックについて、PowerPointスライドやプレゼンテータ向けのガイド、練習問題、テストなどの教材を提供している(43)。また、マサチューセッツ大学の“New England Collaborative Data Management Curriculum”(44)では、健康科学や技術分野の学生や研究者にデータマネジメントを教えるための7つのモジュールと教材を提供している。

 ミネソタ大学図書館による支援サービスの実績を見てみよう。2010年から2013年秋にかけて、RDMサイト(図2)への訪問数は47,862、教職員向けのワークショップ「データマネジメント計画」への参加者は360名であった。また、大学院生のオンラインコース「データマネジメント(単位なし)」の履修者は、2012年秋と2013年春の2回で合計58名だったという(45) 。

 

図2 ミネソタ大学図書館「Data Management」

図2 ミネソタ大学図書館「Data Management」

出典:“Data Management - Home”. University of Minnesota Libraries. https://www.lib.umn.edu/datamanagement [595], (accessed 2014-01-16).

 

なお、2013年に発表された9か国30大学を対象とした調査によれば、図書館に研究データマネジメント関連の専属職員を雇用・配属している大学は56.7%、教員へのトレーニングを行っている大学は46.7%、助成金申請等のためのデータマネジメント計画に関するアドバイスを行っている大学は63.3%であった(46)。

 

3. 研究データマネジメントのための人材育成

 北米の図書館で、2011年10月から2012年4月に出されたデータキュレーション担当の求人情報173件を分析した調査によれば、コミュニケーション、コンテンツのキュレーションと保存、マネジメントや計画、評価、システム管理といった能力が要求されている(47)。このような需要に応えるため、図書館情報学大学院やインフォメーションスクールでは、研究データマネジメントに関連するコースやプログラムが提供されている。たとえば、イリノイ大学の図書館情報学大学院修士課程のデータキュレーションのコースには、メタデータやデジタル保存といった必修科目のほか、デジタルライブラリーやオントロジー開発といった科目がある(48)。

 また、現職の図書館員のための研修プログラムやワークショップも実施されている。CLIRの報告書である“The Problem of Data”には、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のDigCCurr II Professional Institute(49)、米国議会図書館(LC)のDigital Preservation Outreach and Education(50)、DCCのData Curation 101(51)などが紹介されている。ただし、これらは修了証を発行しておらず、インセンティブが弱いとされている(E1330 [596]参照)。

 DCCの「データマネジメントとキュレーション教育と研修」(52)では、欧米の大学や関連機関のコースや研修プログラムを、イリノイ大学の「データキュレーションカリキュラムサーチ」(53)では、米国の大学で実施されているコースやプログラムを検索できる。

 現職者にとっては、ウェビナーやオンラインコースの方が活用しやすいかもしれない。誰でも参加できる無料のウェビナーは、各国の機関によって実施され、資料や映像が公開されている(54)。筆者は2013年9月に英国逐次刊行グループ(UKSG)が開催した「研究データマネジメントとは何か、そしてそれを支援する図書館の役割は?」と題する初学者向けのウェビナー(55)に参加した。講師はシェフィールド大学インフォメーションスクールのアンドリュー・コックス(Andrew Cox)氏で、「バーミンガム大学の研究データは、約10億フォルダにのぼる」といった具体例を交えながら、研究データマネジメントが重視されるようになってきた背景、研究者にとっての問題点、図書館が担う役割などが解説された。45分と短時間ながら、重要な論点がコンパクトにまとめられ、随時質問することもできるなど、充実した内容だった。

 図書館員に向けた独習用のオンライン教材としては、DataONEのEducation Modules(56)やシェフィールド大学のRDMRose(57)などがあり、データマネジメント全般についての体系化された教材が提供されている。また、文献管理ツールのMendeleyには、図書館員を中心とした”Data Management for Librarians”(58)というグループがあり、関連論文が共有されている。

 このように、RDMサービスのための情報やチュートリアルビデオといった有用なツールが、まるで研究データのように公開され、国を超えて研究者や図書館員に共有されている。グラスゴー大学のRDM担当スタッフはわずか数名だが、公開されている資料を活用することによって、効率的にサービスを構築しているという。

 

おわりに

 データ共有は、研究のライフサイクルに欠かせない要素となりつつある。その重要性は充分に認められるものの、実現にあたっては、技術、制度、法や倫理、財源など、未解決の問題や障壁も多い。こうした状況で図書館が支援を行うことには、困難や試行錯誤が伴うだろう。しかし、先行事例に学びながら「研究データ共有の支援」という新たな役割を担うことによって、図書館は研究活動に欠かせないパートナーとなりうるのではないだろうか。

 

(1) 科学とデータ共有の動向については、次の文献に詳しい。
Fienberg, S.E. et al [eds.]. Sharing research data. National Academies Press. 1983, 234p.
Hey, Tony et al. The Fourth Paradigm: Data-Intensive Scientific Discovery. 1st ed., Microsoft Research, 2009, 284p.
http://research.microsoft.com/en-us/collaboration/fourthparadigm/ [597], (accessed 2014-02-10).
倉田敬子. 特集, e-Scienceとその周辺?現状とこれから?: e-Scienceとは. 情報の科学と技術. 2013, 63(9), p. 352-357.

(2) "Policies on Release of Human Genomic Sequence Data Bermuda-Quality Sequence". Human Genome Project Information Arvhive 1990-2003.
http://web.ornl.gov/sci/techresources/Human_Genome/research/bermuda.shtml [598], (accessed 2014-02-10).

(3) 高祖歩美. 生命科学分野におけるデータの共有の現状と課題. 情報管理. 2013, 56(5), p. 294-301.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/56/5/56_294/_pdf [599], (参照 2014-01-16).

(4) Wadman, Meredith. 医学生物学論文の70%以上が、再現できない! : NIH mulls rules for validating key results. 三枝小夜子訳. Natureダイジェスト. 2013, 10(11), p. 28-29.
[元論文]
Wadman, Meredith. NIH mulls rules for validating key results. Nature. 2013. 500, p. 14-15. 2013-08-01.
http://www.nature.com/polopoly_fs/1.13469!/menu/main/topColumns/topLeftColumn/pdf/500014a.pdf [600], (accessed 2014-01-16).

(5) Cressey, Daniel. Secrets of trial data revealed. Nature. 2013. 502(7470), p. 154-155.
doi:10.1038/502154a.
http://www.nature.com/news/secrets-of-trial-data-revealed-1.13913 [601], (accessed 2014-01-16).

(6) 東京大学医学部附属病院. 臨床研究不正防止のために、すべての研究者が活用できる世界初の症例データレポジトリを運用開始. [プレスリリース] 2013-11-28.
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20131128.pdf [602], (参照 2014-01-16).

(7) OECD. OECD Principles and Guidelines for Access to Research Data from Public Funding. OECD Publications. 2007, 23p.
http://www.oecd.org/science/sci-tech/38500813.pdf [603], (accessed 2014-02-10).

(8) Executive Office of the President: Office of Science and Technology Policy. “Increasing Access to the Results of Federally Funded Scientific Research” 2013-02-22.
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/ostp_public_access_memo_2013.pdf [112], (accessed 2014-02-10).

(9) '3. Open Scientific Research Data'. "G8 Science Ministers Statement". gov.uk. 2013-06-13.
https://www.gov.uk/government/news/g8-science-ministers-statement [604], (accessed 2014-02-10).

(10) 佐藤義則. 特集, e-Scienceとその周辺?現状とこれから?: e-Scienceと大学図書館. 情報の科学と技術. 2013, 63(9), p. 377-384.
では、“データとデータ・フォーマットに関する情報”、“メタデータの内容と形式”など、環境情報学分野でのデータマネジメント計画に記載すべき5つの構成要素を紹介している。

(11) たとえば、米国国立科学財団(NSF)は2011年1月18日から研究データ管理計画の提出を義務付けている。
“NSF Data Management Plan Requirements”. National Science Foundation.
http://www.nsf.gov/eng/general/dmp.jsp [605], (accessed 2014-01-16).
また、シェフィールド大学のSHERPA/JULIETでは、各助成機関のデータアーカイブポリシーを調べることが出来る。
“Research funders’ open access policies”. University of Nottingham.
http://www.sherpa.ac.uk/juliet/index.php [606], (accessed 2014-01-16).

(12) 高祖歩美. 生命科学分野におけるデータ共有の取り組み. 情報処理. 2013, 54(12), p. 1226-1229.

(13) 恒松直幸ほか. 集会報告:研究データ同盟(Research Data Alliance)第2回総会. 情報管理. 2013, 56(10), p. 724-727.
http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.724 [607], (accessed 2014-01-16).

(14) DataCite.
http://www.datacite.org [608], (accessed 2014-01-16).
連携機関は、研究データにDOIを付与して蓄積し、提供することができる。たとえば、オーストラリア国立データサービス(ANDS)は“Cite My Data Service”として提供している。
http://ands.org.au/services/cite-my-data.html [609], (accessed 2014-01-16).
また、DataCite Statistics Beta. http://stats.datacite.org [610], (accessed 2014-02-10). によれば、2014年2月現在、DOI Registrationsは2,631,764件である。

(15) Swoger, Bonnie. "Reference: ereviews: Thomson Reuters Data Citation Index". Library Journal. 2012-12-27.
http://reviews.libraryjournal.com/2012/12/reference/ereviews/reference-ereviews-december-1-2012/ [611], (accessed 2014-01-16).

(16) Torres-Salinas, Daniel. et al. "An introduction to the coverage of the Data Citation Index (Thomson-Reuters): disciplines, document types and repositories". 2013-06-27.
http://arxiv.org/abs/1306.6584 [612], (accessed 2014-01-16).
によれば、自然科学(80%)、社会科学(18%)、人文・芸術(2%)の研究データが対象となっている。

(17) Piwowar, Heather A. et al. Sharing Detailed Research Data Is Associated with Increased Citation Rate. PLOS ONE. 2007, 2(3), e308.
doi:10.1371/journal.pone.0000308, (accessed 2014-01-16)

(18) Henneken, Edwin A. et al. "Linking to data: effect on citation rates in astronomy". 2011-11-15.
http:// arxiv.org/abs/1111.3618, (accessed 2014-02-10).

(19) Piwowar, Heather A. et al. "Data reuse and the open data citation advantage". PeerJ.
https://peerj.com/articles/175/ [613], (accessed 2014-02-10).

(20) NSF. “GPG Summary of Changes”. National Science Foundation.
http://nsf.gov/pubs/policydocs/pappguide/nsf13001/gpg_sigchanges.jsp [614], (accessed 2014-01-16).

(21) Nature Publishing Group. “NPG to launch Scientific Data to help scientists publish and reuse research data”. nature.com. 2013-04-04.
http://www.nature.com/press_releases/scientificdata.html [615], (accessed 2014-01-16).

(22) Tenopir, Carol. et al. Data sharing by scientists: practices and perceptions. PLoS ONE. 2011, 6(6). e21101.
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0021101 [616], (accessed 2014-01-16).

(23) Monastersky, Richard. 再起動する大学図書館 [日本語翻訳記事]. 三枝小夜子訳. Nature. 2013, 495(7442), p. 430-432.
http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/specials/contents/scipublishing/id/news-feature-130328-2 [617], ( 2014-01-16).

(24) Jones, Sarah. et al. How to Develop Research Data Management Services - a guide for HEIs. DCC. 2013, 22p.
http://www.dcc.ac.uk/sites/default/files/documents/publications/How-to-develop-RDM-services_finalMay2013rev.pdf [594], (accessed 2014-01-16).

(25) Cox, Andrew M. et al. Research data management and libraries: current activities and future priorities. Journal of Librarianship and Information Science. 2013.[preprint]
http://eprints.whiterose.ac.uk/76107/7/WRRO_76107.pdf [618], (accessed 2014-01-16).

(26) DCC. "UK Institutional data policies". Digital Curation Centre.
http://www.dcc.ac.uk/resources/policy-and-legal/institutional-data-policies/uk-institutional-data-policies [619], (accessed 2014-01-16).

(27) DataRes. "University Data Management Policies". DataRes.
http://datamanagement.unt.edu/univ_policies [620], (accessed 2014-01-16).
掲載大学一覧データが併せて公開されており、UNT Digital Libraryからダウンロード可能である。

(28) “Research Data Management Policy”. University of Edinburgh.
http://www.ed.ac.uk/schools-departments/information-services/about/policies-and-regulations/research-data-policy [621], (accessed 2014-01-16).

(29) “Research Data Management (RDM) Roadmap: August 2012 - Aucust 2014”. Information Services RDM Implementation Committee, University of Edinburgh.
http://www.ed.ac.uk/polopoly_fs/1.101179!/fileManager/UoE-RDM-Roadmap130722.pdf [622], (accessed 2014-01-16).

(30) 類語としてデジタルキュレーション(Digital Curation)が用いられる場合や、保存(Preservation)をデータキュレーションと分ける場合もある。また、データキュレーションとRDMの定義や包含関係は文献によって異なるが、どちらもしばしば使われるため、本稿では両方の用語を取り上げた。

(31) NCBI. "GenBank Overview."
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/ [623], (accessed 2014-01-16).

DRYAD. http://datadryad.org [624], (accessed 2014-01-16).

(32) figshare. http://figshare.com [625], (accessed 2014-01-16).

(33) たとえばPurdue Universityの” Purdue University Research Repository (PURR)”は、DataCiteのDOI付与ツールや後述のDMPToolなども組み込んでいる。https://purr.purdue.edu [626], (accessed 2014-01-16).

(34) University of California Curation Center of the California Digital Library. DMPTool.
https://dmp.cdlib.org/ [627], (accessed 2014-01-16).

(35) University of Bath. “Postgraduate DMP template first draft”. Research360. 2012-03-19.
http://blogs.bath.ac.uk/research360/2012/03/postgraduate-dmp-template-first-draft/ [628], (accessed 2014-01-16).

(36) Donnelly, Martin. et al. “Checklist for a Data Management Plan”. Digital Curation Centre. 2011-03-17.
http://www.dcc.ac.uk/sites/default/files/documents/data-forum/documents/docs/DCC_Checklist_DMP_v3.pdf [629], (accessed 2014-01-16).

(37) “Overview of funders’ data policies”. DCC.
http://www.dcc.ac.uk/resources/policy-and-legal/overview-funders-data-policies [630], (accessed 2014-01-16).

(38) “How we curate data: The process”. UK Data Archive.
http://www.data-archive.ac.uk/curate/process [631], (accessed 2014-01-16).

(39) Lyon, Liz. The informatics transform: re-engineering libraries for the data decade. International Journal of Digital Curation. 2012, 7(1), p. 126-138. doi:10.2218/ijdc.v7i1.220
http://www.ijdc.net/index.php/ijdc/article/view/210 [632], (accessed 2014-01-16).

(40) “Support for Managing Research Data”. University of Cambridge.
http://www.lib.cam.ac.uk/dataman/ [633], (accessed 2014-01-16).

(41) “Data Management and Publishing”. MIT Libraries.
http://libraries.mit.edu/guides/subjects/data-management/ [634], (accessed 2014-01-16).

(42) “Data Management”. UCLA Library.
http://www.library.ucla.edu/service/data-management [635], (accessed 2014-01-16).

(43) “Create & Manage Data: Training Resources”. UK Data Archive.
http://www.data-archive.ac.uk/create-manage/training-resources [636], (accessed 2014-01-16).

(44) “New England Collaborative Data Management Curriculum”. University of Massachusetts Medical School.
http://library.umassmed.edu/necdmc/modules [637], (accessed 2014-01-16).

(45) Johnson, Lisa. “Academic Libraries Get Ready: Big data is here and it needs a (caring) home”. NISO Webinar: Research Data Curation Part 2: E-Science Librarianship. 2013-09-18.
http://www.niso.org/news/events/2013/webinars/data_curation/ [638], (accessed 2014-01-16).

(46) Primary Research Group. International Survey of Academic Library Data Curation Practice. Primary Research Group, 2013, 62p.

(47) Kim, Jeonghyun et al. Competencies required for digital curation: an analysis of job advertisements. International Journal of Digital Curation. 2013, 8(1), p. 66-83.
http://ijdc.net/index.php/ijdc/article/view/8.1.66 [639], (accessed 2014-01-16).

(48) “Specialization in Data Curation”. Graduate School of Library and Information Science, The iSchool at Illinois.
http://www.lis.illinois.edu/academics/degrees/specializations/data_curation [640], (accessed 2014-01-16).

(49) DigCCurr. http://www.ils.unc.edu/digccurr/index.html [641], (accessed 2014-01-16).

(50) “Digital Preservation Outreach & Education”. Library of Congress.
http://www.digitalpreservation.gov/education/ [642], (accessed 2014-01-16).

(51) “Digital Curation 101: How to Manage Research Data”. Digital Curation Centre.
http://www.dcc.ac.uk/training/digital-curation-101 [643], (accessed 2014-01-16).

(52) “Data management and curation education and training”. Digital Curation Centre.
http://www.dcc.ac.uk/training/data-management-courses-and-training [644], (accessed 2014-01-16).

(53) “Data Curation Curriculum Search”. CIRSS: Center for Informatics Research in Science and Scholarship.
http://cirssweb.lis.illinois.edu/DCCourseScan1/index.html [645], (accessed 2014-01-16).

(54) たとえば、NISO(米国情報標準化機構)の
Research Data Curation Part 1: E-Science Librarianship. 2013-09-11.
http://www.niso.org/news/events/2013/webinars/escience [646] ,
ANDS(オーストラリア国立データサービス)の
ANDS Webinars: Data Management Series.
http://ands.org.au/events/webinars/data_management_series.html [647],
RDC(Research Data Canada)の
Webinars.
http://rds-sdr.cisti-icist.nrc-cnrc.gc.ca/eng/events/webinars/index.html [648], (accessed 2014-01-16).など。

(55) “UKSG Webinar Series 2013 - What is Research Data Management and what is the library role in supporting it?”. UKSG. 2013-09-04.
http://www.uksg.org/webinars2013-0409 [649], (accessed 2014-01-16).

(56) “Education Modules”. DataOne.
http://www.dataone.org/education-modules [650], (accessed 2014-01-16).

(57) RDMRose.
http://rdmrose.group.shef.ac.uk [651], (accessed 2014-01-16).

(58) “Data Management for Librarians”. Mendeley.
http://www.mendeley.com/groups/2956801/data-management-for-librarians/ [652],

 

[受理:2014-2-11]

 


池内有為. 研究データ共有時代における図書館の新たな役割:研究データマネジメントとデータキュレーション. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1818, p. 21-26.
http://current.ndl.go.jp/ca1818 [423]

Ikeuchi Ui.
New Role of Academic Libraries in the Age of Data Sharing: Research Data Management (RDM) and Data Curation.

  • 参照(16012)
カレントアウェアネス [7]
動向レビュー [43]
図書館サービス [549]
学術情報 [141]
電子情報保存 [653]
電子情報資源 [654]
大学図書館 [9]
RDA(研究データ同盟) [655]

CA1819 - 北米における冊子体資料の共同管理の動向 / 村西明日香

PDFファイルはこちら [656]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1819

動向レビュー

 

北米における冊子体資料の共同管理の動向

 

名古屋大学附属図書館:村西明日香(むらにし あすか)

 

  大学図書館にとって、コレクションを管理することは重要な使命のひとつである。現在の教育・研究を支えるために新しい資料を受け入れ、さらにそれらを将来の利用のために保存するという責任を果たそうとするとき、図書館はスペースの問題に必ず直面する(1)。既存の資料を費用対効果が高く効率的な方法で所蔵し、かつ、新しい資料を所蔵するためのスペースを空け、さらに最近では、ラーニングコモンズのような学生のためのスペースを確保することも加わり、冊子体資料の管理は図書館員を悩ませる課題となっている。

 こうしたスペース問題に対処するため、北米の大学図書館では主に次のような方法で、冊子体資料の管理に取り組んできた。

 (1)各大学で独自に、キャンパス内外に新たな書庫を建設し、利用頻度の低い資料を移す。
 (2)複数の大学で共同利用する書庫を建設し、利用頻度の低い資料を移す。ただし、書庫内の他機関の資料については関与せず、資料の所有権はその資料を預けた図書館にあり、各機関はあくまでも施設を共有するのみである。この種の共同書庫は「デポジトリ(Depository)」(2)、あるいは“Cooperative Storage(3)”などと表現される。
 (3)大学間やコンソーシアム内でコレクションの共同運用協定を結び、原則として複本を持たず、その集団内で1冊のみを保存するよう調整する。この手法は“Shared Print Repository”、“Shared Print Archiving”、“Collective Collection”など様々な表現がある(4)。また、特定の共同書庫において資料を保存する場合と、各参加機関の図書館や書庫において資料を保存する場合の両方があり、前者は「集中型」(5)、「リポジトリ(Repository)」(6)、“Collaborative Storage(7)”、後者は「分散型」(8)、“Virtual Storage(9)”などと表現される。

 本稿では、これら3種類の冊子体資料の管理手法についてその特徴と代表的な事例を紹介し、最後に日本における冊子体資料の共同管理の可能性について述べる。

 

 

1. 各大学における書庫の建設 

 増え続ける冊子体資料を所蔵するため、各図書館はキャンパス内外に新たな書庫を建設し、そこに利用頻度が低くなった資料を移して、図書館内のスペースを確保してきた。

 これらの書庫の多くは、従来の図書館で利用されてきた集密書架よりもさらに多くの資料を所蔵できる、高密度ストレージ施設(high-density storage facility)として建設された。2007年夏の時点で、北米には68の高密度ストレージ施設が存在し、そのうち、各大学が自身の図書館の資料のために建設した書庫は54施設(79%)であったとされる(10)。

高密度ストレージ施設の主な特徴は次の通りである(11)。

  • 図書館やキャンパスから離れた遠隔地にある。
  • 利用者の立ち入りを想定しない。
  • 大量の資料を効率的に所蔵できるように設計されており、数十万冊から数百万冊ほど所蔵できる。
  • 請求記号ではなくサイズによって配架し、書架内の資料の密度が最大になるようにされている。
  • 資料の保存に適した環境(温度10℃前後、湿度35%前後)を保つようコントロールされている。

 高密度ストレージ施設は1986年にハーバード大学が運用開始したものに始まり、以降多くの大学図書館がそれにならった施設を建設した(12)。この高密度ストレージ施設は、ハーバードモデル(Harvard-model)と呼ばれている。ハーバードモデルの書庫に資料を所蔵するプロセスは次の通りである(13)。

 (1) 資料のサイズを測り、サイズに合ったトレイに収納する(図1)
 (2) トレイのバーコードとトレイ内の図書のバーコードをスキャンし、相互に紐付して登録する(図2)
 (3)トレイを書架の割り当てられた場所に配架する(図3)

 書架は9メートルほどの高さの固定書架(図4)で、資料の入ったトレイの出し入れはリフト(図5)を用いて行う。職員がリフトに乗って所定の棚の前まで運転し、必要な高さまで上昇させ、資料を取り出す。

図1
図1

図2
図2

図3
図3

図4
図4

図5
図5

注:図1は2014年1月8日にReCAP(アメリカ合衆国ニュージャー ジー州)において、
図2 ~ 5は2014年1月6日にWRLC(アメリカ 合衆国メリーランド州)において筆者が撮影した。

 

2. 共同書庫(デポジトリ)の建設

 高密度ストレージ施設における冊子体資料の管理にメリットがあることは理解されつつも、建設コストが上昇し、高等教育機関の予算も厳しくなる中(14)、書庫建設のための資金を得ることが難しい大学もあったという(15)。こうした状況を受け、複数大学で共同利用する冊子体資料保存のための書庫が導入・運用されるようになった。北米研究図書館協会(Association of Research Libraries:ARL)の調査によれば、2013年時点で22の共同書庫が稼働している(16)。ただしこの22施設の中には、デポジトリとリポジトリが混在していることに留意する必要がある。

 以下、共同書庫(デポジトリ)の事例を二つ紹介する。

 

2.1 WRLC

 WRLC(Washington Research Library Consortium)は、ワシントンDC近郊の大学の図書館サービス(情報サービスを支えるため、1987年に設立された非営利組織である。2013年12月現在、9大学が加盟している(17)。

 共同書庫は1994年、メリーランド州アッパーマルボロに建設された。土地は州からの、建設費は連邦政府教育省(Department of Education)からの寄付であった。第一書庫モジュールの面積は約1,100㎡で150万冊が収容可能だが、すでに満杯となっており、同じ大きさの第二書庫モジュールが2010年に建設された。この建設費は、書庫内で必要なスペースの割合に応じて、各参加機関がローンで払い続けている(18)。さらに、第三書庫モジュールの建設も決定している(19)。

 共同書庫に移す資料は、WRLCが定めた方針に基づいて各参加機関が決定している。書庫内における重複については、2008年以降、冊子体雑誌は書庫内に1冊、単行書は書庫内に2冊と定めて制限している(20)。ただし、これはあくまでも先着順で1冊ないし2冊を保存するという規則に過ぎず、最も良い状態のものを選んで保存するということは行っていない。また、共同書庫内の資料はもともとの所蔵館に関わらず混配されるが、その資料の所有権はもともとの所蔵館のままである点に注意が必要である(21)。

 共同書庫内資料の所蔵情報は、WRLC参加機関が共同運用している図書館システムで管理され(22)、共同書庫にあることを示す配架場所が付与される(23)。

 共同書庫の運営資金は、各参加機関が均等負担しているコンソーシアム全体の運営費の中に含まれている(24)。資料の共同書庫への移送費や出納のための配送費など共同書庫の利用に関連する費用は、各参加機関がかかった分だけ負担する(25)。

 

2.2 ReCAP

 ReCAP(Research Collections and Preservation Consortium)は、コロンビア大学、プリンストン大学、ニューヨーク公共図書館によって運用されている共同書庫施設である。2000年に共同書庫のためのコンソーシアムを設立し、2002年に運用を開始した。

 共同書庫はニュージャージー州にあるプリンストン大学フォレスタルキャンパスに建設された。土地はプリンストン大学から購入した。当初は3つの書庫モジュール(面積はそれぞれ1,300㎡)と業務スペースで構成され、土地購入費も含めた総コストは2,500万ドルで、3機関で等分された(26)。2013年12月までに書庫モジュールは全部で7つになり、収容可能冊数は1,750万冊となっている。なお、敷地には最大収容可能冊数3,750万冊までモジュールを増設することが可能である(27)。

 共同書庫内の書架は列ごとに使用する機関が決まっており、各機関から共同書庫に移された資料は混配されることなく、割り当てられた書架にそれぞれ分けて配架される。どのような資料を共同書庫に移すかは各参加機関が自由に決めることができ、資料の所有権もそのままである。また、現在のところ重複資料の調整も行っていないが、共同書庫内の資料を共同コレクションとして活用するため、3機関共通の所蔵目録の検討に着手している(28)。

 共同書庫内資料の所蔵情報は、前述の通り3機関共通の所蔵目録を持っていないため、各機関がそれぞれ独立したシステムを使って管理している(29)。

 共同書庫の運営費は、各参加機関の共同書庫の利用頻度に応じて日割り計算で算出される。またそれとは別に、各参加機関の資料が共同書庫のスペースに占める割合に応じて負担する固定費用もある(30)。

 

3. 共同保存コレクションの構築

 図書館のスペースと予算への圧迫が強まるにつれて、さらに効率的に冊子体資料を管理するため、複数大学の所蔵をひとつに統合し保存・活用する、共同コレクションを構築する動きも見られるようになった。

 特定の書庫内において共同コレクションを構築するというリポジトリとしての共同書庫を検討するにあたっては、デポジトリとしての共同書庫ではあまり問題とならなかった以下の事項について、参加機関とよく協議する必要がある(31)。

 (1)資料の所有権を誰が持つか。リポジトリとしての共同書庫に置かれる資料は参加機関全体のものとして扱われるため、その資料の所有権は参加機関全体やコンソーシアムなど共同書庫の管理主体に移譲されることになるが、次のような懸念が示されることがあり、これらを解消しておく必要がある。

  • 図書館は蔵書の規模によって評価されるところがあり、共同書庫に所有権を移して蔵書数が減ることを嫌がる。
  • 教員は自身の専門分野の資料が失われることを恐れる。
  • 図書館はキャンパス内における複本を廃棄するため、自身が所有しているわけではない共同書庫内の資料に依存することに関して気が進まない。

 (2)リポジトリのガバナンス。多くのこれまでの共同書庫はボランタリーな組織で運営されており、ときに強制力をも発揮するようなガバナンス組織がない。そのため、キャンパス内における複本を廃棄するためには、共同書庫に所蔵されている資料への永久的なアクセスが協定などで保証されることが必要である。

 また、特定の共同書庫を持たずに共同コレクションを構築する“Virtual Storage”の取り組みも見られる。各大学は自身が責任を持って保存する資料を決め、自身の図書館や書庫において保存し、利用に供する。保存責任のない大学は、その複本を廃棄するという選択が可能になる(32)。

 以下、リポジトリの事例を二つ紹介する。

 

3.1 FCLD

 FCLC(Five College Library Consortium)は1965年に設立された教育コンソーシアムで、参加機関はマサチューセッツ州立大学アマースト校、アマースト大学、スミス大学、マウントホリヨーク大学、ハンプシャー大学の5大学である。1999年には図書館活動における協力が開始され、共同書庫(Five College Library Depository)の運用も開始された(33)。

 共同書庫は、もともとアマースト大学が所有していた書庫の一部を借用したものである。そのため、建設コストはかかっていない。この書庫は空軍の地下基地を買い取って書庫に改修したものであり、環境コントロールやセキュリティは十分であるが、建物の大きさが決まっているため書庫モジュールの増設はできない。また、ハーバードモデルの書架システムの導入も不可能であり、高さ約4メートルの移動式書架を用いている。所蔵可能冊数は55万冊である(34)。

 共同書庫に移すことができる資料は、共通の方針によって調整されている。この方針によって、貴重書や劣化が進んだ資料、共同書庫内にすでにある資料などが移せないと定められている(35)。共同書庫に移された資料は、5大学で共有している所蔵目録において、共同書庫を示す配架場所が付与され管理される(36)。

 共同書庫内の資料の所有権については、マサチューセッツ州立大学アマースト校から移された資料は維持され、残りの4大学から移された資料はコンソーシアムに移譲される。これは5大学のうちマサチューセッツ州立大学のみが州立の機関であり、州の法的規制のため、資産を移管することができないためである。ただし5大学全体で製本雑誌は1冊のみとする重複調整を進めることなどがすでに行われており、実質的には共同書庫内の資料は5大学全体の共同コレクションとして扱われている。これは、ARLの統計の方針が改訂され、共同書庫内の資料も各大学の蔵書としてそれぞれカウントできるようになったことが影響している(37)。

 共同書庫の運営資金は、11ths方式と呼ばれる方法で5大学によって分担されている。これは各大学の規模や、共同書庫内のどのくらいのスペースを利用するかといった見積もりに応じて負担するもので、その割合はハンプシャー大学は1/11、スミス大学、マウントホリヨーク大学、アマースト大学はそれぞれ2/11、マサチューセッツ州立大学は4/11となっている(38)。

 

3.2 ASERL

 ASERL(Association of Southeastern Research Libraries)は1956年に設立された、米国南東部の研究図書館によるコンソーシアムである。現在38大学が加盟しており(39)、共同コレクション構築やリソースの共有など、様々な活動を展開している(40)。

 2000年からは遠隔地書庫の必要性についての検討が開始された。参加機関への調査により書庫の必要性は明らかになったものの、当時は遠隔地に資料を移すことへの不安や、複本廃棄への抵抗などがみられた。しかしその後10数年を経て、リポジトリの活用についての検討が進むにつれ、ASERLでも共同冊子体管理についての検討グループが立ち上がり、2011年に共同雑誌保存プログラム協定(ASERL Collaborative Journal Retention Program Agreement)が承認されるに至った(41)。

 ASERLは前述のFCLCのようにコンソーシアムの共同書庫を持っているわけではなく、各参加機関が図書館内や自らが所有する遠隔地書庫内において指定された雑誌を保存するという形での共同管理を行っており、「分散型」“Virtual Storage”としての運用であるといえる。

 各参加機関は保存の責任を負う雑誌について保存状態を確認し、オンラインカタログの所蔵データや図書館システム等に記録する。その情報をもとに、他の参加機関は自館の重複資料を除却することが可能になる(42)。状態や貸出条件、どのような書架・書庫で保存されているかなど、様々な情報はASERLのWebサイトに掲載されているExcelシートでも確認できる(43)。

 

4. おわりに

 以上、北米における冊子体資料の管理手法を概観した。最後に、日本における動向について触れておきたい。

 日本では、2013年8月に発表された文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会による「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ)」においてシェアードプリントの利活用について言及される(44)など、冊子体資料の管理というトピックが注目されるようになりつつあるものの、実際のアクションとしてはまだ目立ったものがみられない。書庫の狭隘化や学修支援のためのスペースの確保など、スペース問題は各図書館で直面していると思われるが、まだ各機関個別での対応にとどまっている(45)。しかし、すべての大学が各々必要な書庫を建てられるだけの予算措置が今後されることも考えにくい。

 大学図書館が扱うコレクションの中で、電子資料が大きな位置を占めるようになっている。また、大学教育の質的転換が目指される中で、学修環境としての図書館のあり方にも変化が生じている。こうした図書館を取り巻く大きな変革の中で、冊子体資料という図書館が伝統的に取り扱ってきたものと今後どのように向き合っていくべきなのか。将来の利用のために、どのように継承していくべきなのか。このような大きな課題は、短期的な各機関レベルの対応で対処しきれるものではない。長期的な視点に立ち、地域や国レベルで検討する必要があると考える。幸いにも日本の大学図書館には、NACSIS-CATという共同目録がすでに存在する。これをうまく活用し、後世まで確実に保存継承される共同コレクションを構築した上で、各大学が図書館スペースを自身の大学のミッションに合わせて再検討し、個性ある図書館に変化させていくことができれば、大学図書館に新たな光が当たるのではないかと感じる。

 

(1) Bridegam, Willis E. “Preface”. A Collaborative Approach to Collection Storage: The Five-College Library Depository. Council on Library and Information Resources, 2001, p. v.
http://www.clir.org/pubs/reports/pub97/pub97.pdf [657], (accessed 2014-01-04).

(2) Payne, Lizanne. Depositories and repositories: changing models of librarystorage in the USA. Library Management. 2005, 26(1/2), p. 12-13.

(3) O’Connor, Steve et al. A study of collaborative storage of library resources. Library Hi Tech. 2002, 20(3), p. 261.

(4) Clement, Susanne K. From Collaborative Purchasing Towards Collaborative Discarding: The Evolution of the Shared Print Repository. Collection Management. 2012, 37(3/4), p. 164.

(5) Johnson, Brenda L. CIC共同保存書庫の展開とインディアナ大学の役割. 市古みどり訳. 大学図書館研究. 2012, 95, p. 16-20.

(6) Payne 2005. op. cit.

(7) O’Connor et al. op. cit.

(8) Johnson, 市古. 前掲

(9) Payne, Lizanne. “Key trends”. Library Storage Facilities and the Future of Print Collections in North America. OCLC Programs and Research, 2007, p. 19.
http://www.oclc.org/programs/publications/reports/2007-01.pdf [658], (accessed 2014-01-04).

(10) Ibid. p. 8.

(11) Ibid.

(12) Ibid.

(13) 2014年1月6日、WRLCの共同書庫スーパーバイザーTammy Hennig氏に対して筆者が現地で行ったインタビューによる。

(14) Bridegam. op. cit.

(15) Reilly, Jr., Bernard F. “U.S. Regional Repositories: General Characteristics and Features”. Developing Print Repositories: Models for Shared Preservation and Access. Council on Library and Information Resources, 2003, p. 5.
http://www.clir.org/pubs/reports/pub117 [659], (accessed 2014-01-04).

(16) Britton, Scott et al. “Survey Results”. SPEC Kit 337: Print Retention Decision Making. Association of Research Libraries, 2013, p. 32-33.

(17)“Creating Synergies for Success”. Washington Research Library Consortium.
http://www.wrlc.org/ [660], (accessed 2014-01-04).

(18) Buchalter, Alice R. et al. “Off-Site Library Storage Facilities: Select models”. Sharing a Federal Print Repository: Issues and Opportunities. Library of Congress, Federal Research Division, 2011, p. 10-12.
http://www.loc.gov/flicc/publications/FRD/FLICC-REPORT_Revised-July2011%5B2%5D.pdf [661], (accessed 2014-01-04).

(19) Jacobs, Mark. “SCF3 Progress”. Washington Research Library Consortium Newsletter. 2013-10-22.
http://us1.campaign-archive2.com/?u=31c9fc16228794561a5c20738&id=d26826f2f5 [662], (accessed 2014-01-04).

(20) WRLC参加機関のうちジョージメイソン大学とディストリクト・オブ・コロンビア大学は、公立機関であるため公的資産である資料を他の私立の参加機関と同じように扱うことができず、この規則の適用を除外されている(2014年1月6日、WRLC事務局長のMarc Jacobs氏に対して筆者が現地で行ったインタビューによる)。

(21) 2014年1月6日、WRLC事務局長のMarc Jacobs氏に対して筆者が現地で行ったインタビューによる。

(22) Buchalter. op. cit.

(23) Payne, Lizanne.“The Washington Research Library Consortium(WRLC): Off-Site Storage in a Voluntary Regional Consortium”. Library off-site shelving: guide for high-density facilities. Libraries Unlimited, 2001, p. 42-48.

(24) 2014年1月6日、WRLC事務局長のMarc Jacobs氏に対して筆者が現地で行ったインタビューによる。

(25) Payne 2001. op. cit.

(26) さらに防火設備10万ドル、書架の環境設定100万ドルの追加コストがかかっている。
Buchalter. op. cit. p. 8-10.

(27)“Size and Description”. ReCAP.
http://recap.princeton.edu/about/index.html [663], (accessed 2014-01-04).

(28) 2014年1月8日、ReCAP事務局長のJacob J. Nadal氏、プリンストン大学テクニカルサービス部門のRick Schulz氏に対して筆者が現地で行ったインタビューによる。

(29) Buchalter. op. cit. p. 8-10.

(30) Reilly, Jr. op. cit. p. 23.

(31) Payne 2005. op. cit. p. 13-14.

(32) Payne 2007. op. cit. p. 19.

(33) Buchalter. op. cit. p. 12-14.

(34) Ibid.

(35)“Depository Policies”. Five College Consortium.
https://www.fivecolleges.edu/libraries/depository/policies [664], (accessed 2014-01-04).

(36) Bridegam. op. cit. p. 21.

(37) 2014年1月10日、マサチューセッツ州立大学アマースト校アクセスサービス部門(兼FCLDの諮問グループメンバー)のKathryn Leigh氏に対して筆者が現地で行ったインタビューによる。

(38) Reilly, Jr. op. cit. p. 24.

(39) “Member Libraries”. ASERL.
http://www.aserl.org/about/members-all/ [665], (accessed 2014-02-07).

(40) Bruxvoort,Diane et. al. “Like a Snowball Gathering Speed: Development of ASERL's Print Journal Retention Program”. Collection Management. 2012, 37(3/4), p. 223-236.

(41) Ibid.

(42) “ASERL Collaborative Journal Retention Program Agreement”. Association of Southeastern Research Libraries.
http://www.aserl.org/wp-content/uploads/2011/07/ASERL_Journal_Retention_Agreement_FINAL.pdf [666], (accessed 2014-01-04).

(43) “The current working title list”. Association of Southeastern Research Libraries.
http://www.aserl.org/wp-content/uploads/2013/12/ASERL-Working-list_updated_2013_12_04.xlsx [667], (accessed 2014-01-04).

(44) “「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ)」について”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/08/1338778.htm [668], (参照 2014-01-04).

(45) 直近では、広島大学や奈良女子大学などで自動化書庫の導入が決定している。
“資料の一部利用制限について”. 広島大学図書館. 2013-07-26.
http://www.lib.hiroshima-u.ac.jp/index.php?key=jokdudew4-619 [669], (参照 2014-01-04).
奈良女子大学附属図書館. “自動書庫の導入工事について”. 図書館だより. 2013, 21, p. 5.
http://hdl.handle.net/10935/3477 [670], (参照 2014-01-04).

 

[受理:2014-2-7]

 


村西明日香. 北米における冊子体資料の共同管理の動向/ カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1819, p. 26-31.
http://current.ndl.go.jp/ca1819 [671]

Muranishi Asuka.
Trend of Shared Print Management in North America.

 

  • 参照(10466)
カレントアウェアネス [7]
動向レビュー [43]
資料保存 [672]
資料管理 [673]
米国 [242]
大学図書館 [9]

CA1820 - 研究文献レビュー:日本人研究者の情報利用行動 / 倉田敬子

PDFファイルはこちら [674]

カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1820

研究文献レビュー

 

日本人研究者の情報利用行動

 

慶應義塾大学:倉田敬子(くらた けいこ)

 

1. はじめに

 本稿では、カレントアウェアネス編集事務局から依頼のあった「日本人研究者の情報行動に関して日本語で最近(過去5年程度に)書かれた研究論文」に関してレビューを行う。情報行動にどこまで含めるかについては、多様な立場が存在するが、よく使われている意味で、日本人研究者がどのように情報を探索し、さまざまな情報源を入手・利用しているかに焦点を当てることとした。この条件に当てはまる雑誌論文は、4論文しか見あたらない状況であった。(これら4論文に関しては、3で詳細を紹介する。)

 欧米においては、研究者の情報行動に関する研究は一つの研究領域を形成するほど、数多くなされている。もともとは図書館や情報サービスの利用者がどのような関心、ニーズを持ち、実際に情報を探索し、入手しているのかを明らかにする、いわゆる「利用者」という視点からの調査であった。しかし、そのような図書館や特定情報サービスの利用という視点ではなく、研究者の研究活動の全体における情報の意義、利用される情報メディアの特性、入手・利用行動のパターンなどを明らかにしようとする研究が学術コミュニケーション、学術情報流通という研究領域を構成するようになった(1)。 

 このような学術コミュニケーション分野の研究においても、たとえば雑誌やデータベースの利用、図書館の利用も調査項目とはなるが、焦点は研究活動の推進に情報メディアや学術情報がどう関わるのかであり、研究者の行動や意識を研究活動の特性との関連で明らかにすることに主たる関心がある。特に、電子ジャーナルの普及は研究者の情報行動を大きく変化させる可能性があり、導入の初期から現在まで数多くの研究がなされてきている。

 他方、日本においては、電子ジャーナルの利用に関する論文や記事はそれなりに存在するが、その大部分は大学図書館等に電子ジャーナルや特定のサービスを導入した結果の報告である。

 たとえば、三村は杏林大学医学図書館における電子ジャーナルやデータベース導入の歴史をまとめた上で、新たに2010年にAnnual Review Onlineを導入した後の利用状況を、前年までの冊子体利用との比較、費用対効果といった点から分析している(2)。大学図書館における新しいメディアの導入とその後の利用の変化に関する報告としてはよくまとまっており、実際にAnnual Review Onlineの導入を検討している大学図書館にとっては役に立つ情報となろう。しかし、研究者の行動などの特性、その理由に関する言及はない。

 林と阪口は文献データベースと電子ジャーナル等の原文入手手段とを仲介するリンクリゾルバの効果を確かめるために、農林水産研究情報総合センターにおける文献データベース、電子ジャーナル、リンクリゾルバ(SFX)それぞれのアクセスログ解析を行った(3)。その結果として、たとえばSFXが中間窓として表示する各種サービスへのリンクのうち、電子ジャーナルに関しては、表示された回数の内84%で実際にクリックされていることがわかった。

 この論文の結果は、研究者の電子ジャーナル利用の特徴の一端を明らかにしている。ただし、それは一研究機関におけるSFXサービスに関連してわかる電子ジャーナル利用の側面に関してのみである。この利用行動の特徴は、より広い文脈での電子ジャーナルやデータベース利用の動向と比較することで、その意味や位置づけを明らかに出来る。実際この論文では、後述するSCREAL調査の結果をたびたび引用して、日本人研究者の電子ジャーナル利用の特性を前提に調査対象を選んだり、考察を行ったりしている。

 これらの論文以外にも、個別の図書館や図書館サービスの利用状況の調査は行われていると考えられる。しかしそれらでは、提供されているサービスが調査の中心で、研究者がどのような情報ニーズを持ち、どう情報の入手・利用を行っているか、そしてそれは何故なのかという、研究者やその研究活動、学術情報流通全体の動向などの文脈には関心が示されていないため、今回のレビューの対象とはしなかった。

 日本人研究者の情報行動に関する最近の研究の少なさと、学術コミュニケーションという研究領域に関する関心の薄さを鑑み、本稿では最初に学術コミュニケーションの古典的研究について簡単な概説を行い、その後で前述した日本の研究者の情報行動に関する最近5年の日本語の研究論文についてレビューを行う。日本人研究者を含めた全世界規模の調査を報告した英語の論文はもちろん存在するが、そこで日本人研究者の動向だけが取り上げられることはないため、今回与えられたレビューの対象からは外れていると判断し、ここでは言及していない。

 なお、日本で学術コミュニケーション領域を研究している研究者が少ないため、本稿で紹介する研究の多くに筆者自身が関与している。そのため、第三者としての研究レビューではないことにご留意いただきたい。

 

2. 学術コミュニケーションとは

 1970年代になされたGarveyを中心とする一連の研究が、研究者の学術コミュニケーション(Scholarly communication)に関する研究の本格的な始まりと捉えることが出来る(4)。これらの研究がその後長い間、多くの研究者によって古典的研究として引用されてきたのは、彼らの学術コミュニケーションに対する基本的な立場にある。彼らは、研究者の情報探索や入手という点だけに焦点を当てるのではなく、研究活動全体のプロセスにおいて、学術情報をやりとりすることがどういう意味を持つかという観点から研究している。特に以下の2点が特質できる(5)。

 (1)インフォーマルコミュニケーションとフォーマルコミュニケーションという特性の区分
 (2)学術コミュニケーションを実現するための多様な情報源の時間軸に沿った整理

 インフォーマルコミュニケーションとは、研究者同士の個別の情報交換(直接対話、メールなど)を典型とするもので、このようなコミュニケーションは研究活動そのものを推進するのに非常に効果があるが、知り合いとならなければコミュニケーションができないという意味では閉鎖的なものである。他方、フォーマルコミュニケーションとして彼らが認めるのは、査読制のある学術雑誌で公開されて以降のコミュニケーションである。ここでは研究成果として認められた情報が公的な形で流通し、評価され、長い期間を経て知識体系へと組み込まれていく。研究者であれば誰でも情報を入手できるし、出版社や図書館などの研究者ではない仲介者が役割を果たすこともできる。

 彼らは学術雑誌(雑誌論文)が学術コミュニケーションにおける要となる情報メディアと考えている。それは、単に研究者が新しい研究動向を知るという役割があるだけではなく、自らの研究成果を公表する場であり、その分野の研究者に認めてもらえるという機能も果たしているからである。研究者は情報の利用者であると同時に、情報の生産者でもある。情報メディアの成果公表としての機能も重要な側面である。

 また、インフォーマル、フォーマル両方のプロセスにおいて、学術情報は少しずつ形式や内容を変化させながら、多様な情報源で繰り返し流通していく。ある程度業績を積んだ研究者であれば、学術雑誌論文が刊行される以前に、その成果について個人的な会話、講演会、学会発表などを通して既に知っていることが多い。もちろん論文になって初めて知る情報もあるが、多くの研究者が多様な情報源をそれぞれの状況に応じて利用しているのである。

 一時期研究が活発ではなくなった学術コミュニケーション分野だが、1990年代に入り研究が再び盛んになる。その最大の要因は、電子ジャーナルに代表されるデジタルメディアへの関心の高まりである。電子ジャーナルに代表されるデジタルメディアは、紙媒体とは根本的に異なる特性を持っており、もし研究者が紙からデジタルへとコミュニケーションの利用方法、形態を変えるのであれば、それは学術コミュニケーションに関わる体制の根本的な変容となるため、重要な研究課題と考えられた。

 研究者の電子ジャーナル利用に関する代表的な研究者としてTenopirを取り上げる。電子ジャーナル導入の比較的初期の段階で刊行されたTowards electronic journals は、印刷版から電子への学術雑誌の歴史から始まり、研究者の公表と利用、図書館の役割、出版社の役割や価格、電子化の技術的な課題まで網羅的に電子ジャーナルについて整理している(6)。

 TenopirはKingをはじめとする多くの研究者との共同研究で、紙の雑誌の時代から研究者による利用動向についての研究を積み重ねてきた。特に、「最近読んだ論文」が紙なのか電子なのか、刊行年代、入手経路、利用目的などについて詳細にたずねる調査手法は、研究者がどのような論文をどう利用しているのかの実態を明らかにできる手法として定着した。

 彼女はこの方法を、米国天文学会の会員、米国の多くの大学所属の研究者、開業医など多様な調査対象に対して適用し、フィンランド、オーストラリアなどとの国際比較もなされている(7)。

 非常に数多くの研究が、主として電子ジャーナル、検索手段の利用に関してなされたが、その多くが質問紙調査(一部インタビュー調査)であった。それらに対して、ロンドン大学のCIBERを中心として、英国の大学における研究者の電子ジャーナル利用をログアナリシスによって分析された一連の研究は、情報利用行動を調査する新しい手法として注目された。多数の雑誌論文が刊行されているが、Elservier社とOxford出版局の電子ジャーナルに関する英国10大学での2006/2007年の利用についての主な成果はResearch Information Networkの報告書としてまとめられた(8)。アクセス回数やダウンロード論文数、利用の集中度(利用の上位5%の雑誌で全利用の3割~5割を占める)などアクセスログの分析に特徴的な多数の結果を示している。さらに大学を研究レベルでランクして、電子ジャーナルの利用の仕方との関係を見たり、電子ジャーナル論文のダウンロード回数と大学の論文刊行数や博士学位授与数との関係を見たりもしている。

 電子ジャーナルなどのデジタルなメディアに関しては、大量の利用データを収集することが可能であり、ログアナリシスによる調査分析は、質問紙調査では明示的には示せない利用の実態を明らかにできる利点がある。ただし、雑多で大量のデータは標準的な指標で分析しなければ無意味な結果にもなりかねない。現在のところ、個人を特定できる形での利用データの収集や分析は本格化していないが、個人の属性と利用動向とを併せて、しかも大量に分析することが可能になれば、研究者の情報行動や情報メディアの利用動向に関しても新しい展開が可能となろう。

 

3. 日本人研究者の学術コミュニケーション

 日本人研究者が電子ジャーナルに代表される電子情報資源をどの程度利用しているのかの動向について、過去5年以内に日本語で刊行された4論文を発表順に紹介する。

 

(1) 医学分野の大学所属研究者の利用動向

 この論文では、日本における医学研究者の論文の読みの形態、入手経路、検索手段に、電子ジャーナルとオープンアクセスの普及がどの程度影響しているかを明らかにすることを目的として、2007年に調査された結果を検討している(9)。

 論文の中心は医学研究者への質問紙調査であるが、調査の前に電子ジャーナルの利用に関する先行研究のかなり詳しいレビューを行っている。海外の研究が中心であるが、日本に関しても、国立大学図書館協議会の調査や個別の大学図書館の利用者調査を整理して、電子ジャーナルを週1回以上利用した割合が4~7割であることなどを示している。

 質問紙の調査対象は日本の大学の医学部等に所属する研究者約2000人で、有効回答数は651件であった。中心となるのは、「最近読んだ論文」の(1)形態、(2)入手経路、(3)検索手段である。電子ジャーナルの利用頻度をたずねるのではなく、Tenopirの提案しているLast readingを調査するという方法を踏襲している。

 その結果、読まれた論文全体の7割が電子版、3割が印刷版であり、電子版のファイルをダウンロードして読む形が最も多く全体の53%を占め、さらにそれらの論文の85%は図書館の電子ジャーナルから入手していた。印刷版の雑誌をそのまま読んでいるのが全体の17%であったが、その64%は個人購読雑誌であったのと対照的である。

 これらの論文を見つけた手段は、印刷版学術雑誌の場合は当然のことながら雑誌のブラウジングが7割を占めていたが、電子版の場合は8~9割がPubMedを検索して論文を見つけていた。他方、サーチエンジンで見つけたという回答はほとんどなかった。検索手段として一般的にどの程度利用するかをたずねた設問でも、PubMedは毎日が28%、週1回以上では9割近いのに対して、サーチエンジンは週1回以上の利用が6割程度で、図書館サイトの利用割合よりも低くなっていた。英国での2006年の調査ではサーチエンジンの利用が最も頻度が高いという結果と異なり、日本の医学研究者はPubMedに非常に依存している状況が明らかになった。

 オープンアクセスに関して、認知度や利用度をたずねているが、全般的には非常に低調で、機関リポジトリを知らないとした研究者が86%にものぼっていた。一方で米国国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)の主題リポジトリであるPMCを利用したことがある研究者は53%とかなりの割合を示し、また最近読んだ論文の1割がPMCから入手したという回答であった。ただし、論文ではこの数値をそのまま受け取ってよいかどうかには疑問があり、研究者がPMCをPubMedと混同している可能性も検討している。

 

(2) ライフサイエンス分野の研究機関に所属する研究者の利用動向

 松林等は、大学以外に所属する研究者の成果公表、情報源利用の動向、情報提供環境を明らかにするために2005年に国公立研究所の研究者への質問紙郵送調査、2008年に国公立研究所と企業の研究者へのインターネット調査を行った(10)。研究の焦点は、国公立の研究所や企業に所属する研究者の研究活動、情報行動が、大学所属の研究者のものとは違いがあるのかどうかである。

 成果公表のために使う情報メディアとしては、研究所の研究者は大学の研究者と同じく学術雑誌が8割以上であるが、企業の研究者は特許が4割、成果は公表しないとする回答も4割であった。研究活動に利用する情報源は、9割が学術雑誌、7割が学会という点は共通であったが、研究所の研究者はこの二つの情報メディア以外はあまり利用していないのに対して、企業の研究者の場合、業界紙、特許、図書、大学・研究所のサイトを利用するという研究者もそれぞれ4~5割おり、多様な情報源を利用していた。

 電子ジャーナルの利用は、2008年の研究所の研究者の42%が毎日、37%が週1回と、非常に頻繁に利用していた。企業の研究者は毎日が27%、週1回が43%と多少落ちるが、それでも高い頻度で利用していた。また、情報検索に関しては、研究所、企業ともに約4割が毎日、週2、3回が約3割とこちらもかなり高い頻度で検索している。情報検索を行っている研究者のうち、83%がPubMed、62%がGoogleを使っていた。

 これらの結果を受けて、ライフサイエンス分野においては、研究所や企業の研究者と大学所属研究者との間に、情報利用行動に大きな違いがないことがわかったとされている。ただし、企業の研究者の成果公表のあり方と、利用する情報源の多様さに違いが見られた。Tenopir等のエンジニアに対する調査結果とはかなり違いがあり、所属機関の差よりも研究分野の差の方が大きいのではないかと考察している。

 

(3) 心理学者の機関リポジトリ利用

 この論文は心理学研究者の情報の検索、入手全般ではなく、機関リポジトリが成果公表と情報源入手のためにどれだけ利用されているかを調査している(11)。その意味では機関リポジトリという情報メディアに焦点が当たっているが、研究者にとってその位置づけを考察していると解釈してレビューの対象とした。

 2010年に日本の心理学者への質問紙調査を行い、回答数は526件であった。オープンアクセスの認知度は、言葉も活動概要も知っている者が23%、何も知らない者が23%であった。機関リポジトリの言葉も活動概要も知っている者は41%、何も知らない者が22%であった。機関リポジトリに過去3年間に登録した経験のある者は11%にとどまったが、論文入手のために利用したことがある者は63%にのぼった。

 (1)で述べた医学研究者の場合、オープンアクセスの認知度は34%にとどまっていたが、主題リポジトリであるPMCの認知度は65%であった。両者の調査の間には3年間の経過があるが、その間にオープンアクセスの認知度はかなり広まったと考えられる。他方で、主題リポジトリと機関リポジトリの認知度と利用度の違いに関しては、研究領域による差なのか、オープンアクセスの普及によるものなのかは判然としない。

 

(4) SCREAL 2011調査

 佐藤義則を中心とするSCREAL(学術図書館研究委員会)によって2011年になされた電子ジャーナル等の利用および論文の読みの調査の報告がなされている(12)。SCREALの調査は国立大学図書館協会電子ジャーナルタスクフォースおよび公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)によって実施された過去の電子ジャーナル利用調査の一部を引き継ぐとともに、Tenopir等の最新論文の読みの調査の設問も加えたものとなっている。なお、2007年にも同様の調査を実施している。2011年の調査では、45の大学、研究機関の協力の下で自然科学、社会科学、人文科学全分野の研究者を対象に実施され、博士課程の院生を含め3922件の回答を得ている。

 電子ジャーナルの利用度は、分野による差が大きいが、自然科学系の場合週1回以上利用する割合は6割から9割にのぼり、社会科学でも5割、人文学でも3割を超えており、その利用は定着したといえる。2011年調査は、2007年調査と比べると中小規模の大学も含めた多様な機関が参加しているため、週1回以上電子ジャーナルを利用する研究者の割合が95%を超える機関から、30%程度の機関まで差が大きかった。

 最近読んだ論文の言語を見ると、自然科学系の分野ではほぼ9割が国際文献であるが、人文学、社会科学では半分以上が国内文献を利用していた。国際文献を利用するグループと国内文献を利用するグループとでは、電子ジャーナルの利用度の顕著な差があり、国際文献を利用しているグループでは電子ジャーナルを週1回以上利用する割合は6割から9割弱なのに対して、国内文献を利用するグループでは、3割から4割にとどまっている。

 電子ジャーナルがあれば印刷体雑誌は不要かという設問に対して、2007年では両方必要とする回答の方が多かったのに対して、今回の調査では、自然科学分野で最新号に関しては54%、バックナンバーに関しては62%が不要と回答している。人文社会科学では両方必要とする回答の方が多いが、バックナンバーに関しては4割が不要と回答している。

 最近読んだ論文の読み方は、自然科学系の研究者がPDFをダウンロードして読むが50%、画面で読むが24%、印刷体雑誌をそのままが12%となっており、2007年調査と比べると、ダウンロードの割合が減り、画面で読む割合が多少増えているといえる。他方、人文社会科学の研究者の場合、4割が印刷体雑誌をそのまま読んでいた。

 以上日本人研究者の情報行動に関する4研究論文からいえる全体の動向としては、電子ジャーナルの利用が全体としてはほぼ定着したといえ、海外の状況と比べても日本は利用が進んでいる。ただし、専門分野による差はかなりあり、自然科学系の分野でも人文社会科学と同じ程度もしくはそれ以下の電子ジャーナル利用しかない領域もある。また医学の中でも、基礎と臨床のように研究環境が異なると大きな差がある。

 論文の読み方は、PDFをダウンロードし印刷して読むという、電子ジャーナルではあっても印刷版の形式をそのまま維持した形での読みが主流であるが、徐々に画面での読みが増えてきている。また、分野によって違いはあるが、雑誌のブラウジングだけでなく、文献データベースやサーチエンジンの利用が広がっている。

 オープンアクセスの情報源の利用は、徐々になされだしているが、これらについては調査自体が少なく、動向はまだよくわかっていない。

 

4. おわりに

 日本人の研究者の情報行動に関しては、調査が決定的に不足しているといえる。できるだけ多様な分野における広範囲の研究者を対象とする調査が定期的に行われることが必要である。その際には、海外を含めた先行調査を踏まえ、標準的な調査項目を取り入れた設問とすることで、調査結果を学術コミュニケーションという広い文脈に位置づけ解釈していくことが重要である。

 

(1) 倉田敬子. "4.1学術コミュニケーション". 図書館・情報学研究入門. 三田図書館・情報学会編. 勁草書房. 2005, p. 105-108.

(2) 三村沙矢香. 杏林大学医学図書館におけるAnnual Review Online導入と利用状況について. オンライン検索. 2010, 31(4), p. 243-248.

(3) 林賢紀ほか. 文献データベースと電子ジャーナルの利用行動に対するリンクリゾルバの影響の分析. 情報知識学会誌. 2012, 22(3), p. 238-252.

(4) Garvey, W.D. コミュニケーション:科学の本質と図書館員の役割. 敬文堂. 1981,302p.

(5) 倉田敬子. "2.6 学術コミュニケーション".図書館情報学. 上田修一, 倉田敬子編著. 勁草書房, 2013, p. 91-106.

(6) Tenopir,C. et al. Towards Electronic Journals: Realities for Scientists, Librarians, and Publishers. Washington, DC, Special Libraries Association. 2000, 488p.

(7) Tenopirの著作は非常に多いので,彼女のサイトの著作一覧を参照のこと。
http://scholar.cci.utk.edu/carol-tenopir/publications [675]
この中で,国際比較を行った論文は以下のものである。
Tenopir, C et al. Cross country comparison of scholarly e-reading patterns in Australia, Finland and the United States. Australian Academic & Research Libraries (AARL). 2010, 41(1), p. 26-41.

(8) Research Information Network. E-journals: their Use, Value and Impact. 2009, 51p.

(9) 倉田敬子ほか. 電子ジャーナルとオープンアクセス環境下における日本の医学研究者の論文利用および入手行動の特徴. Library and Information Science. (61), 2009, p. 59-90.

(10) 松林麻実子ほか. 日本研究機関に所属する研究者における電子メディア利用実態:ライフサイエンス領域の研究者を対象とした実態調査報告. 日本図書館情報学会誌. 2009, 55(3), p. 141-154.

(11) 佐藤翔ほか. 日本の心理学者に対し機関リポジトリが果たしている役割. Library and Information Science. 2012, (68), p. 23-53.

(12) 佐藤義則ほか. 日本の研究者による電子情報資源の利用:SCREAL2011調査の結果から. 情報管理. 2013, 56(8), p. 506-514.

 

[受理:2014-02-01]

 


倉田敬子. 日本人研究者の情報利用行動. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1820, p. 32-36.
http://current.ndl.go.jp/ca1820 [676]

Kurata Keiko.
Information use and exchange by Japanese researchers.

This article reviews research articles on the information use and exchange by Japanese researchers of published in Japanese during the past half decade. Given that there are few research articles in this category, the article begins with a introduction of basic research on scholarly communication. Major trends for information use by Japanese researchers are include the following:
1) Extensive use of electronic journals,
2) Reading articles in PDF format as typical pattern,
3) Increasing use of information retrieval through a bibliographic database or search engine such as Google, and
4) Less use of open access resources.
Continued research into how scholarly communication is conduction in Japan is urgently needed.

 

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  • 参照(8814)
カレントアウェアネス [7]
研究文献レビュー [678]
日本 [15]
大学図書館 [9]

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リンク
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