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ブリティッシュ・コロンビア大学アジア学部:鈴木紗江子(すずき さえこ)
本稿は、北米の大学図書館における、日本古典籍の電子化事業の2つの事例を紹介し、その意義と問題点を述べる。古典籍という特殊な資料の電子化事業が、海外の大学で、どの様に日本文化の情報発信や日本研究支援に寄与できるのか、を模索していきたい。
舞台となる米国のワシントン大学(University of Washington:UW)と、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学(The University of British Columbia:UBC)は、共に北米北西部に位置する公立の総合大学であり、学生数や日本語資料の所蔵数等が類似してい る(表)。
所 在 | 全学生数(人) | 日本語図書(点) | |
ワシントン大学 | Seattle, WA. | 54,670(1) | 158,709(3) |
ブリティッシュ・ コロンビア大学 | Vancouver, BC. | 59,659(2) | 170,054(4) |
UWの日本研究の教員及び学生の多くは、アジア言語文学科か、ヘンリー・M・ジャクソン国際関係学部(以下、ジャクソンスクール)に属し、UBCの場合は、アジア学部やアジア研究所に所属している。これ以外の学部に所属し、日本関係の研究を行っている学生も 若干名いるが、正確な学生数等は不明である。日本語資料は、各図書館の分館である東アジア図書館(UW)とアジア図書館(UBC)が、所蔵・サービスを行っている。両大学図書館とも電子化作業を担当する部署であるデジタル・イニシアティブスを持ち、今回の作業も、ここで行った(5)。
“Take Me There : Maps and Books from Old Japan” (6)(以下、“Take Me There”)は、2014年5月1日から6月5日まで、UW図書館本館ロビーで開催された展示である。この展示は、シアトルのタテウチ財団の助成により、2010年1月に始まった日本の貴重書の目録作成事業を記念した行事の一つであり、この事業で整理された、日本近世の古典籍や古地図の一部を展示で紹介している。「実際の展示」と「バーチャル展示」の二部構成になっており、実際の展示では、古地図9点、地誌や漂流記の版本・写本5点の電子画像をほぼ原寸大に印刷したものに加え、和装本に使用する和紙や、江戸時代の旅装束の複製等も飾った。バーチャル展示としては、上記の電子画像をインターネット上で公開している。筆者は、同展示のキュレーターを務めた。
UWの学内全体を見渡すと、日本語や日本学を学ぶ学生は少数派であり、多くの学生は、自分の大学が日本古典籍を所蔵することはおろか、東アジア図書館の存在すら知らないのが現状である。“Take Me There”の展示品を本ではなくあえて古地図中心にしたのは、その視覚的なインパクトによって、日本文化に馴染みの薄い利用者(特に学部生)にも、日本近世の出版・印刷文化を理解しやすいように、と意図したためである。
展示品選定にあたっては、筆者が予め選んだ資料の中から、学生数名に興味のある資料を投票してもらい、その結果を反映した。これは、図書館側からの一方的な情報の押しつけを回避し、展示を通じ、利用者側からの古典籍ヘの素朴な反響や驚き(7)を引出すのが目的であった。また、UWは州立大学として、地元の文化拠点の役割を持つため、学生のみならず日本人を含む一般市民の観覧を想定し、解説はすべて英語と日本語の併記とし、専門用語の使用を極力避けた。
「ハイブリッド展示」とは、実際の展示とバーチャル展示という二要素を統合することで、初めて一つの展示として成立する、という意味合いを込めて使用している。バーチャル展示は、実際の展示に準ずるものではなく、両者は同等の立場にある。“Take Me There” は、展示をハイブリッドとすることで、より効果的な啓蒙・広報活動(8)としての図書館展示ができるのではないか、という試みであった。会期中、利用者は実際の展示とバーチャルの展示を行ったり来たりして楽しむ。スマートフォンの使用者を想定し、展示の解説にQR コードを付け、“Take Me There”のウェブサイトの関係ページへ簡単にアクセスできるようにしたのも、このためである。
ハイブリッド展示とは、具体的には次の2点を強調した展示を指す。
・日本文化受容への環境作り
前述のとおり、この展示は図書館側からの一方的な情報発信ではなく、利用者主体の日本文化の受容を目指した。このため、展示会場はできるだけ展示資料そのものの鑑賞に徹する場所にし、解説を熟読したい場合は、あとからウェブサイトでも読むことができるようにした。
・日本学関係資料と図書館の利用促進
同ウェブサイトは、バーチャル展示としての役割以外に、リサーチ・ガイドとしての働きを持つ。各展示資料のページには、参考文献として関連の研究書籍・論文・データベースの他、場合によっては関係のある時代小説なども載せた。特に、自館の所蔵資料・データベースに関しては、利用者が直ちにアクセスしやすいようOPACの固定リンクを貼り、簡単に本を予約したりデータベースの記事を読むことができるようにした。展示を契機として東アジア図書館とその所蔵資料への関心・利用を高めることが狙いである。
メールやギャラリートークで寄せられた、利用者の反応を簡単に紹介する。
第一は、展示資料を研究資料や教材に使いたいという、日本研究・地理学・都市計画といった分野の教員や大学院生からの声である。
第二は、英語教育プログラム(9)のような大学の非正規課程のスタッフや、日本人住民からの問い合わせである。UW東アジア・リソースセンターは、初等・中等教育の教員向けに、アウトリーチ事業を提供するジャクソンスクールの付属機関である。同センターでは、教員向け異文化教育研修のための演習資料として、“Take Me There”の展示パネルを、ここ2年続けて利用している(10)。
第三は、全学生の7割以上を占める学部生(11)、特に若い学生の反応である。展示品の一番人気は、『南瞻部洲萬國掌菓之圖』と、色鮮やかな錦絵の『尾張屋版江戸切絵図』である。彼らにとって『掌菓之圖』は、深遠なる仏教世界観を具現する地図というより、無国籍ファンタジー作品であり、『切絵図』は、現代東京をポップで斬新なイメージで表した作品である。つまり、古地図はアニメや漫画と同等に、「クール・ジャパン」を視覚化している図書館資料、として捉えられているのである。
展示品の電子画像化は、ハイブリッド展示だけでなく、実際の展示会場でも多様なメディアを用いる新しいタイプの展示方法が可能になる(12)。例えば、展示の関連行事では、古地図の画像をプロジェクターで大きく映し出し、地図に描かれている面積の広さを来場者に体感してもらった。また展示品の電子画像化は、古典籍を所蔵する図書館の最重要課題の一つである資料保存に貢献するのは言うまでもない。展示会場であった図書館本館ロビーは、人の往来が頻繁なオープンスペースであるが、電子画像の複製物を展示したため、原資料の現状保存と外光による資料の劣化の回避に繋がった。
しかし、展示場に飾られた複製地図では、軽く丈夫で、折り畳んで携帯しやすいといった、和紙製地図の有形文化財としての特性を伝えきれていないことは否めない。週末にギャラリートークを開催し、利用者に展示品の原資料を観てもらう機会を設けたのは、その懸念からである。日本の古典籍のように、海外の利用者にとって馴染みの薄い資料の電子展示をする場合、誤解・曲解が生じぬよう、なるべく本物の資料を間近で見せる機会や、利用者の疑問に即答できるようなギャラリートークの実施は、有効である。
“One Hundred Poets Digital Collection”は、UBC現職の教授であるモストウ(Joshua S. Mostow)博士の個人コレクションの画像データベースである。コレクションは、小倉百人一首の解説書や女子往来物などの近世の版本、歌がるた、木製カルタだけではなく、近代以降に出版された、国威発揚を意図した愛国百人一首の本やカルタなど幅広い資料を含んでいる。第一期(2014年4月から2015年3月まで)の終了時点で、44点の古典籍と20セットのカルタのデジタル化画像と書誌情報が、図書館の“Digital Collections” (13)のページから検索できる。筆者は、メタデータ作成者として第一期事業より参加しており、第二期(2015年4月から2016年3月まで)では近世版本と版画を中心に、電子化・メタデータ作成作業が進められている。
UWの“Take Me There”同様、“One Hundred Poets Digital Collection”は、自館による小規模電子化事業であるが、その性質は全く異なる。後者は、公益財団法人東芝国際交流財団から調査研究費の助成(14)を受けて行われていることからもわかるように、図書館のパブリック・サービスの一環ではなく、日本文学の調査研究事業としての性格が強い。また、収載資料の翻刻・翻訳文がないため、利用者は、電子画像上のくずし字を、字典などのツールなしである程度解読できる層に限定される点も、大きく異なる。
最初にモストウ博士がデータベースに加える対象資料を選定する。選定された資料は、まず電子化作業の担当部署に送られ、学生スタッフにより古典籍は表紙を含めた全ページが、カルタは一枚一枚がスキャンされ、各画像のファイルが作成される。原資料の状態によっては、補修部署に送られることもある。
メタデータの記述は、北米図書館における日本古典籍の目録作成の標準である“Descriptive Cataloging Guidelines for Pre-Meiji Japanese Books. Enlarged and Revised Edition 2011” (15)に準拠している。UBC図書館の規則により、アクセスポイントは、米国議会図書館(LC)の典拠ファイルにある語彙のみ使用している。
“One Hundred Poets Digital Collection”は、利用者に対していかなる可能性を提供するのかを、大きく二つに分けて説明する。
・研究資料・教材として
“One Hundred Poets Digital Collection”は、モストウ博士の個人コレクションを、不特定多数の多くの研究者・学生が、研究資料や教材として使用することを可能にした。特に、博士が百人一首関係コレクションを、視覚資料としてインターネット上で公開にしたことからは、和歌研究だけではなく、文学における表象文化論を研究する利用者への、資料提供を意図していることがうかがえる。
・研究活動の場として
現在も進行中の事業として、今後、大学院生が中心となり収載資料の文章の翻刻や英訳を加える可能性もあり、これが実現すると、英語圏の利用者の拡大は確実である。このことはまた、同コレクションが、研究資料・教材を提供するデータベースとしてだけではなく、学生・研究者が、収載資料の翻刻・翻訳という研究活動を実践する場、となる可能性を秘めている。
北米において、日本の古典籍のメタデータを記述する場合、一番の問題となるのは、図書館の標準と利用者のニーズとの間の齟齬である。もっとも顕著な例としては、研究者の間で通用している著者や浮世絵師の名前と、LCの典拠ファイル内の名前が一致していなかったり、名前そのものがLCの典拠ファイル内に無かったりすることが挙げられる。研究者からすれば、LCにとらわれず、国立国会図書館や国文学研究資料館の典拠ファイルもメタデータに加えることができないのか、そもそも典拠コントロールの必要性があるのかという疑問が起きる。また、非日本語圏の利用者へ向けたメタデータ独特の問題として、ローマ字記述のバリエーション、例えばヘボン式と訓令式、長音表記方法など、図書館と日本語教育とで一般的に使用される方式が一致せず、検索に支障をきたすこともある。“One Hundred Poets Digital Collection”が、図書館のデジタルコレクションの一部である以上、北米図書館のメタデータ標準に合わせることは必須であるが、利用者から見ると使いにくい理由になっていることも事実である。「より使える」データベース作成のためには、図書館と研究者との密なる連携が必要であろう。
以上、UWとUBCという北米の二つの大学で行われた、性格の異なる電子化事例を紹介した。“Take Me There”が、図書館と日本文化の広報活動のための、小規模電子化事業である一方、“One Hundred Poets Digital Collection”は、人文研究の一環であり、今後、小規模電子化事業から、中規模事業に成長し、別の大規模事業と結びつく可能性を秘めている。また、前者のような事業が、大学の枠を超えて、日本学の裾野を広げる役割を持つのに対して、後者は、国際的な日本学振興・活性化の役割を担っている。
筆者は、幸いにもこの二つの事業に参加することができた。日本国外にある日本古典籍の電子化事業の意義を、カタロガー(情報専門家)であり、日本文学を学ぶ大学院生(利用者)であるという、自身の経験をもとに二つの視点から問い直す良い契機となった。海外の日本研究司書が、海外の大学図書館特有の問題点を理解した上で、利用者と密接なコミュニケーションを持ち、そのニーズを古典籍の電子化事業に確実に反映することが、国際的な視点での日本文化の伝播や日本研究の振興・支援に繋がるのではないだろうか。
UW図書館の同僚であった、サンドラ・クロウパ(Sandra Kroupa)稀覯書担当キュレータからは、図書館展示のあり方について、田中あずさ司書からは新しいメディア利用について、有益なコメントを受けた。UBC図書館のミミ・ラム(Mimi Lam)司書は、日本の古典籍の特殊性にあわせた要求に柔軟に対応してもらった。この場を借り謝意を述べる。
(1) Office of Planning & Building, University of Washington. “Fast Facts: 2015”.
https://opb.washington.edu/sites/default/files/opb/Data/2015_Fast_Facts.pdf [4], (accessed 2015-09-15).
(2) University of British Columbia. “UBC Overview and Facts 2014/15”.
https://www.ubc.ca/_assets/pdf/UBC_Overview_Facts_2014-15_Web.pdf [5], (accessed 2015-09-15).
(3) Council on East Asian Libraries. “CEAL Statistics Data [Quick View]: Data from U.S. Academic Institutions, from 2010 to 2014”.
http://ceal.lib.ku.edu/ceal/php/quickview.php?view=libtype&type=usacad&step=1&tblview=1&from=2010&to=2014 [6], (accessed 2015-09-15).
逐次刊行物はこの数に含まれない。
(4) Council on East Asian Libraries. “CEAL Statistics Data [Quick View]: Data from Canadian University, from 2010 to 2014”.
http://ceal.lib.ku.edu/ceal/php/quickview.php?view=libtype&type=c&step=1&tblview=1&from=2014&to=2014 [7], (accessed 2015-09-15).
逐次刊行物はこの数に含まれない。
(5) デジタル・イニシアティブスは、電子化作業を行う部署兼プログラムとして、北米の大学図書館の多くに存在する。
“Digital Initiatives Program”. UW Libraries.
http://www.lib.washington.edu/digital/ [8], (accessed 2015-11-05).
Digitization Centre.
http://digitize.library.ubc.ca/ [9], (accessed 2015-11-05).
(6) Suzuki, Saeko. “Take Me There: Maps and Books from Old Japan Research Guide.”
http://guides.lib.uw.edu/c.php?g=342150&p=2302850 [10], (accessed 2015-09-15).
(7) Greenblatt, Stephen. Resonance and Wonder. Bulletin of the American Academy of Arts and Sciences. 1990, vol. 43, no. 4, p. 11-34.
http://doi.org/10.2307/3824277 [11], (accessed 2015-11-05).
(8) 米澤誠. 広報としての図書館展示の意義と効果的な実践方法. 情報の科学と技術. 2005, vol. 55, no. 7, p. 305-309.
(9) University of Washington. UW International & English Language Programs.
http://www.ielp.uw.edu/ [12], (accessed 2015-09-15).
(10) East Asia Resource Center, the Henry M. Jackson School of International Studies, University of Washington. “Residential Summer Seminar in Seattle”.
https://jsis.washington.edu/earc/institutes/ [13], (accessed 2015-09-15).
(11) 次の資料より算出。
Office of Planning & Building, University of Washington. “Fast Facts: 2015”.
https://opb.washington.edu/sites/default/files/opb/Data/2015_Fast_Facts.pdf [4], (accessed 2015-09-15).
(12) Bruckner, Uwe. “To Make a Book Talk-Access to Hidden or Secret Worlds, Pt. 1”. Don’t Rock the Cradle: Books in Exhibition - Mounts, Materials, and Economy. Washington, 2015-04-01/03, folger Shakespeare Library, 2015, p. 4.
(13) University of British Columbia Library. “UBC Library Digital Collections: One Hundred Poets”.
http://digitalcollections.library.ubc.ca/cdm/landingpage/collection/hundred [14], (accessed 2015-09-15).
(14) 東芝国際交流財団. “助成プログラム: 調査研究”.
http://www.toshibafoundation.com/jp/program-research/2015/index.html#americas [15], (参照 2015-08-20).
(15) Subcommittee on Japanese Rare Books, Committee on Japanese Materials, Council on East Asian Libraries. “Descriptive Cataloging Guidelines for Pre-Meiji Japanese Books. Enlarged and Revised Edition 2011”.
http://www.eastasianlib.org/cjm/jrb/japaneseRareBooksCatalogingGuidelines_2011version.pdf [16], (accessed 2015-08-10).
[受理:2015-11-16]
鈴木紗江子. 事例報告:北米の大学における日本古典籍の電子化事業. カレントアウェアネス. 2015, (326), CA1859, p. 2-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1859 [17]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9589931 [18]
Suzuki Saeko.
Case Studies: Digitization of Japanese Pre-modern Materials in Academic Libraries in North America.
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電気通信大学学術情報課:上野友稔(うえの ともき)
お茶の水女子大学附属図書館:香川朋子(かがわ ともこ)
国立情報学研究所:古橋英枝(ふるはし はなえ)
京都大学附属図書館:塩野真弓(しおの まゆみ)
近年の学術情報流通においては、論文などの学術情報をインターネットを通じて誰でも閲覧できるようにするOpen Access、研究データなどを特別な制限無しに利用・再掲載できる形で公開するOpen Data、論文や研究データの公開を通して新たなイノベーションを創出することを目指す新たなサイエンスの進め方を指すOpen Scienceといった動きがある。
加えて、研究成果を利用者にナビゲートするために図書館が作成するデータ、例えば電子ジャーナルのタイトルリストなどをオープンにし、図書館コミュニティで管理する動きが世界的に広まっている。
本稿では、オープンな学術情報流通の国際的動向とその背景について、タイトルレベルの電子リソース流通の鍵となるナレッジベース(KnowledgeBase:KB)(CA1784 [30]参照)に焦点を当て、論じる。
米国情報標準化機構(NISO)(1)の定義によれば、KBとは「電子リソースに関するタイトルリストや収録範囲、リンク情報等、リンクリゾルバのベンダーが構築する豊かなデータベース」のこととされている。これに各機関において、特定のコンテンツに関する電子媒体でのアクセス可否や印刷媒体での所蔵の有無を反映したものは、特にローカルKBとして区別されている。
KBはリンクリゾルバを支える一つのデータベースとして誕生した。1990年代後半にソンペル(Herbert Van de Sompel)によって構築された「Resolverモデル」は、従来、電子ジャーナルや電子書籍に代表される電子リソースについて、リンク元とリンク先が1対1 でしか提示できなかったのに対して、リンク元とリンク先の間に中間窓を設定することによって、1つのリンク元から複数のリンク先へとアクセスすることを可能にした(2)。この複数のリンク先情報を管理するデータベースとして「SFX base」が構築され(3)、のちの商用KB の原型となった。その後、このモデルを適用した商用のリンクリゾルバが次々に開発され、現在ではディスカバリサービスや、冊子体資料と電子リソースを共通に管理するLibrary Services Platform(CA1861 [31]参照)の中核としても活用されている。
活用の場が広がる一方で、商用KB には次のような課題があることも明らかになった(4)。
第一に、商用KBベンダーがベンダーにとって都合のよいアクセス先のみ表示させたり、優先順位を高く設定させたりするリスクが存在しており、図書館側ではコントロールできない課題が生じていた。第二に商用KBベンダーが用意したKBに対して、各図書館が個別にメンテナンスを実行することで、同一データに関して複数機関で作業を行う、作業効率の低下が課題となっていた。
これらの課題を解決するために始まったのがGlobal Open Knowledgebase(以下、「GOKb」とする。)(5)とKnowledge Base Plus(以下、「KB+」とする。)(6)に代表されるオープンなKBの構築プロジェクトである。KBをオープンにする理由は、コミュニティでKBを管理することにより、図書館がKBのデータをコントロールするイニシアチブを取り戻すとともに、作業効率の低下を解消するためである。
GOKbは、Kuali OLEプロジェクト(7)(E1003 [32]参照)と英国のJisc(8)がアンドリュー・メロン財団(9)から助成を受け、ノースカロライナ州立大学をリーダー機関として、2012年から構築されている電子リソースの、グローバルでオープンなKBである。GOKbは、サービス指向型アーキテクチャに基づく図書館システムを設計するプロジェクトKuali OLEで利用されることを目的としている。GOKb構築の目的は、Kuali OLEを設計するにあたって、電子リソース管理を支援するオープンでかつ図書館コミュニティによって管理されるKBがないという課題を解決することにあった。
GOKbのデータは、電子リソースを保有する参加図書館から入手している。2015年9月現在、約2万4,000のタイトル情報、約300のタイトルの全部または一部をまとめて販売する形態であるパッケージの情報、18の利用者の範囲などの利用条件や契約条件の情報をもつテンプレートライセンスなどを含み、データはCC0で公開され、誰でもどのような目的でも利用できる。
GOKbの基本精神がオープンかつ図書館コミュニティによる共同管理であることに伴い、KBの情報は電子リソースのメタデータ交換における標準規格であるKBART(10)形式で公開されている。また、データの再利用を促進するため、GOKb Linked Data Ontologyを策定して公開する予定である。同OntologyはGOKbが定義した独自の語彙に加え、BIBFRAME(11)、DataCite(12)、Dublin Core(13)等の汎用的な語彙を取り入れた複合的なメタデータスキーマ(14)で構成される。また、電子リソースのライセンス契約で定められた利用条件(ライセンス情報)は、電子商取引における標準化推進団体EDItEUR(15)が提供する標準規格ONIX for Publications Licenses(ONIX-PL)(16)形式で公開されている。これは、2013~2014年のONIX-PLEncoding Project(17)において作成されたもので、テンプレートの共有により、各図書館が電子情報資源管理システム(ERMS)に重複して登録していたライセンス情報の作成コストを削減し、かつ正確なライセンス情報をユーザに公開されやすくすることで契約資料の最大限の有効活用につながる効果をもたらしている。
KB+は、Jiscと、HEFCE(英国高等教育助成会議)(18)から委任されたJisc Collections(19)により、2012年から英国で共同構築されているKBである。KB+は、英国内でKBを管理しつつ、英国の各大学・研究機関が持つローカルなデータを含めたデータベースである。KB+構築の目的は、英国の大学および高等教育機関向けに正確なKBを提供し、電子リソース情報の管理のために図書館員が費やしている労力と時間を最小化することにあった。
KB+には、NESLi2(20)、Jisc eCollections(21)、SHEDL(22)等のコンソーシアム向けの協定に基づいたKBに加えて、GOKbと異なり、英国の各大学・研究機関の実際の契約に沿った情報、例えばローカルなライセンス情報、JUSP(23)の利用統計などのデータを併せ持っている。また、JiscはGOKbパートナーとなっているので、GOKbのデータがKB+に収録されていることに加え、ローカルな情報を含まないKB+をKBART形式によりCC0で公開している。Jiscは、2007年にライセンス情報の一部をONIX-PL形式にエンコーディングした(24)ことを皮切に商用のERMSへのONIX-PL形式でのデータ取り込みを開始する(25)等、英国コミュニティの枠を超え、ライセンスデータ共有のための基盤整備を国際的に牽引している(26)。
この他にもこれまで世界的にさまざまなプロジェクトで、国またはコンソーシアムレベルのオープンなKBが構築されてきた。例としてカナダのサイモン・フレーザー大学図書館の逐次刊行物管理システムCUFTSのOpen Knowledgebase(27)、ドイツのZDB(Zeitschriftendatenbank)(28)、フランス高等教育書誌センター(ABES)のBACON(29)があげられる。これらはGOKbにデータを搭載する予定である。この他、スウェーデン国立図書館、中国の大学図書館コンソーシアムCALIS、後述する日本のERDB-JPも、GOKbにデータを提供することに関心を寄せている(30)。この他、世界規模の広義のKBとして、ISSN国際センターがユネスコの支援を受けて提供するサービスROAD(Directory of Open Access scholarly Resources)があげられる(31)。
GOKbのような包括的なKBを一つの図書館コミュニティで維持管理していくことは容易ではない。さまざまなコミュニティが作成する、収録対象やデータ内容が異なるKBと連携することで、国際的に作業の重複を避け、より正確で多様なデータを共有することを目指している。
日本の大学図書館でも2000年代半ばから多くの機関で海外製商用KBの導入が進んできた。その中で、特に海外製商用KBに含まれる国内刊行の電子リソースのデータが少ないことが問題になっていた。このため、「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」(32)を母体とする「これからの学術情報システム構築検討委員会」(33)の電子リソースデータ共有ワーキンググループが、国内の電子リソースに関する情報を集約・管理するデータベース“ERDB-JP”(Electronic Resources Database-JAPAN)(34)を構築し、2015年4月に公開した(E1678 [33]参照)。
ERDB-JPのデータ形式はKBARTおよびKBART2にタイトルのヨミ、NACSIS-CAT書誌レコードIDなどの独自拡張フィールドを追加したものである。収録されたデータはCC0で公開しており、GOKbとの連携等、国内外へのデータ流通に向けた活動を予定している。
ERDB-JPは、収録された国内刊行のOAジャーナルの情報をGOKbに提供することで、国際的な学術情報基盤整備と流通の潮流に、そのデータを載せる可能性を持つ。GOKbやKB+との国際連携が進めば、ERDB-JPデータを含むKBが、各種ディスカバリサービスやリンクリゾルバなどの様々なシステムを通して世界中の利用者から利用され、その結果として日本語の研究成果へのアクセス増加が期待できる。
GOKb、KB+、ERDB-JPは、それぞれデータをCC0としており、それぞれのデータを、誰が、どのような目的でも、いかなる負担もなしに幅広く利用できることが期待されている。例えば、複数ある商用KBがこれらのデータを再利用し、より正確でリッチなKBが各種商用ツールをとおして流通することで、より多くの機関で利用されることも考えられる。実際にGOKbは、他国で構築が進むオープンなKBの収録を図りつつ、商用KBのベンダーと協議の場をもち、今後も多くの商用KBベンダーにGOKbデータを提供しようとしている。
世界的なKBができつつある結果、図書館は商用ベンダーと協力しながら、KBの管理に主体的に関与し、KBのデータを正確で最新に保つ役割を担う。図書館がこの世界的なKBをディスカバリサービスなどで活用することで、利用者は電子リソースへの正確なアクセスを享受できる。立場や国を超えて図書館が必要とするデータを構築・管理する世界的なKBの取り組みは、今後、図書館が電子書籍など、より多種類の電子リソースのデータをさらに広く流通させるために、重要なモデルケースになりうる。
(1) “KBART: Knowledge Bases and Related Tools”. National Information Standards Organization.
http://www.niso.org/publications/rp/RP-2010-09.pdf [34], (accessed 2015-09-25).
(2) 増田豊. 学術リンキング S・F・X とOpenURL:―S・F・XとOpenURL―. 情報管理. 2002, vol. 45, no. 9, p. 613-620.
http://doi.org/10.1241/johokanri.45.613 [35], (accessed 2015-09-25).
(3) Herbert Van de Sompel, Patrick Hochstenbach. Reference Linking in a Hybrid Library Environment Part2: SFX, a Generic Linking Solution. D-Lib Magazine. 1999, vol. 5, no. 4,
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(14) その他、“Bibliographic Ontology”,“FOAF”,“MODS RDF Ontology” , “RDF Schema” , “The Service Ontology” , “SKOS Simple Knowledge Organization System Namespace” , “STAC (Security Toolbox: Attack & Countermeasure) ontology”が採用されている。
(15) EDItEUR.
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http://www.jisc-collections.ac.uk/Catalogue/Overview/index/1819 [53], (accessed 2015-09-16).
(22) SHEDL.
http://scurl.ac.uk/what-we-do/procurement/shedl/ [54], (accessed 2015-09-16).
(23) 出版・アグリゲーターのジャーナルの利用実績データを、一元的に閲覧する英国のポータルサイト。
Journal Usage Statistics Portal.
http://jusp.mimas.ac.uk/ [55], (accessed 2015-09-16).
(24) Brian Green, Liam Earney. The importance of linking electronic resources and their licence terms: a project to implement ONIX for Licensing Terms for UK academic institutions. Serials. 2007, 20(3), p. 235-239.
http://serials.uksg.org/articles/abstract/10.1629/20235/ [56], (accessed 2015-09-16).
(25) “JISC Collections licence information to be included in Serials Solutions 360 Resource Manager”. Jisc Collections.
http://www.jisc-collections.ac.uk/News/JISC-Collectionslicences-in-360-Resource-Manager/ [57], (accessed 2015-09-16).
(26) ONIX-PLおよび編集ツールthe ONIX-PL Editor(OPLE)は、JiscとPublishers Licensing Society(PLS)の共同出資により構築された。Jiscは単独でもONIX-PL Encoding Projectに1万ドルを出資し、ウェビナーの実施やe-ラーニング資料の公開等、ONIX-PLの普及活動を行っている。
(27) “Open Knowledgebase: reSearcher”. Simon Fraser University Library.
http://www.lib.sfu.ca/about/initiatives/researcher/openknowledgebase [58], (accessed 2015-09-18).
(28) Zeitschriftendatenbank.
http://www.zeitschriftendatenbank.de [59], (accessed 2015-09-18).
(29) BACON.
https://bacon.abes.fr [60], (accessed 2015-09-18).
(30) Kristen Antelman, Liam Earney, and Kristen Wilson. “GOKb: The Global Open Knowledgebase”.
http://www.slideshare.net/gokb/gokb-the-global-open-knowledgebase [61], (accessed 2015-09-18).
(31) ROADはISSNを有するオープンアクセスの学術資料を対象に、書誌情報の他、主要データベースへの採録状況、ジャーナル評価指標などをCC BY-NC 4.0で公開している。ISSN日本センターも2015年3月からROADへの登録を行っている。
ROAD.
http://road.issn.org [62], (accessed 2015-09-18).
(32) 大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議.
http://www.nii.ac.jp/content/cpc/ [63], (参照2015-10-30).
(33) これからの学術情報システム構築検討委員会.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/ [64], (参照 2015-10-30).
(34) ERDB-JPは日本語が主な使用言語となっている、または編集・発行の責任主体が日本にある電子リソース(有料のものを含む)のタイトル情報を収録している。
ERDB-JP.
https://erdb-jp.nii.ac.jp/ [65], (参照2015-09-18).
[受理:2015-11-16]
上野友稔,香川朋子,古橋英枝,塩野真弓. オープンなナレッジベースの進展とその背景. カレントアウェアネス. 2015, (326), CA1860, p. 6-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1860 [66]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9589932 [67]
Ueno Tomoki,Kagawa Tomoko,Furuhashi Hanae,Shiono Mayumi.
Progress and background of open knowledgebase.
PDFファイルはこちら [77]
琉球大学附属図書館:大谷周平(おおたに しゅうへい)
本稿ではLibrary Services Platform(以下、LSP)と呼ばれる製品群の動向を紹介する。LSPの主要製品として、Ex LibrisのAlma(1)、OCLCのWorldShare Management Services(WMS)(2)、Innovative社のSierra Services Platform(Sierra)(3)、ProQuest社のIntota(4)、Kuali財団が開発するオープンソースのKuali Open Library Environment(Kuali OLE)(5)が挙げられる。当初は次世代図書館システム(6)(E1282 [78]、E1307 [79]、E1394 [80]参照)と呼ばれたこれらの製品だが、現在ではLSPという呼称が定着している。図書館システムコンサルタントでありウェブサイト「Library Technology Guides」を運営するブリーディング(Marshall Breeding)氏によるレポート“Library Services Platforms: A Maturing Genre of Products”が、今年の5月に米国図書館協会(ALA)の“Library Technology Reports”誌に掲載された(7)。レポート名に“Maturing”(成熟しつつある)とあるようにLSPはもはや次世代のシステムではなく、運用段階に入っており、海外では図書館システムの有力な選択肢となっている。
以下、ブリーディング氏のレポートをベースとして、LSPの定義、特徴、市場動向、各製品の開発・導入事例、東アジアでの導入状況を概観する。
LSPという呼称はブリーディング氏によって2011年に初めて用いられた(8)(9)。同氏によると、資料の電子化に伴い、図書館は統合図書館システム(Integrated Library System:ILS)の他に電子情報資源管理システム(ERMS)やナレッジベース(CA1784 [30]参照)など複数のシステムを組み合わせて業務を行うことを余儀なくされている。これらのシステムを統合し、図書館業務を効率良くする包括的なプラットフォームを提供する製品群をLSPと定義している。
ブリーディング氏によるLSPの機能面および技術面の特徴は以下のように整理できる。
まず機能面の特徴としては、ILS、ERMS、ナレッジベースなど複数の現行システムを置き換えることが挙げられる。LSPは冊子体資料の購入、電子リソースのライセンス管理、オープンアクセス資料などさまざまな形態の資料を収集することができるワークフローや、MARC、Dublin Core、XML標準など広範なメタデータフォーマットを管理する機能を有している。図1のWMSの雑誌発注画面では、冊子体と電子リソースの契約状況の確認や発注機能が統合されている。また、資料のWorldcatにおける所蔵数なども確認できる。
各種データの共有機能もLSPの特徴的な機能の一つである。コレクション分析を単館のナレッジベースで行うだけでなく、同一システムを利用する他館のナレッジベースを活用することで、より複合的なコレクション分析が可能になる。また、Almaの「コミュニティゾーン・ネットワークゾーン」という機能は、導入館が加盟するコンソーシアム、Alma導入館などさまざまな範囲でメタデータを共有し、目録作業の軽減やコレクション共有を可能とする。
図書館員の意思決定を支援するさまざまな統計機能も充実している。一例を挙げると図2のAlmaのダッシュボード画面では、コストパーフォーマンスのよいジャーナルや各ベンダーとの契約状況、資料分類毎の支出状況などが表示されている。
技術面の特徴へと目を向けると、LSPは大規模Webサービスの技術トレンドに基づいて開発されている。基本的にクラウドサービスとして、GmailやAmazonといったサービスと同様に全ユーザーが一つのインフラを利用するマルチテナントプラットフォームで提供されている(10)。また、開発手法としてシステム全体を小さなサービスの集合としてとらえるサービス指向アーキテクチャが用いられており、機能の追加や修正が比較的容易なこと、Webブラウザを通じて業務インターフェイスを提供することで特別なソフトウェアのインストールが不要になり端末を選ばずに業務を行えることなども特徴である。
図書館システムは図書館内に留まらず大学の財務システムや学生情報管理システムと連携することが一般的であるため、相互運用性や拡張性を高めるAPIの提供も技術面の特徴として挙げられる。Ex Libris、OCLCはそれぞれLSPのAPIを公開し、かつ第三者が作成したプログラムを共有するプラットフォームを公開している(11)(E1250 [81]参照)。例えば、図書館員が自作した統計分析ツールや、利用者からの購入依頼を受けた書籍の在庫情報をAmazonから取得するプログラムなどが公開されている。
クラウドでサービスが提供されることは技術面の大きな特徴であるが、そのメリットとして、一つはハードウェアの調達費用やその維持管理の人件費を軽減できること、もう一つはすべての図書館が基本的に同一バージョンのシステムを利用することになるため、ベンダー側のシステムアップデートのコストが軽減され、小刻みなアップデートが可能となることである。これにより図書館側は小さなバグの解消に長時間待たされることなく、速やかな対処が期待できる。デメリットとして、カスタマイズを行いにくいことや外部サーバーにさまざまなデータをアップロードすることのリスクが挙げられる。図書館コンサルタントであるグラント(Carl Grant)氏は調達時にはベンダーのセキュリティに関する認証取得状況などを確認する必要性を指摘している(12)。
現状では、LSPはILSを完全に置き換えるものではなく、今後もILSは図書館システムの選択肢として残っていくと考えられている。ブリーディング氏が毎年刊行している図書館システムの動向レポート(13)(14)と“Library Journal”誌の編集者であるエニス(Matt Enis)氏のレポート(15)を参考に、主要なLSP、ILSの2012年から2014年までの新規契約数及び2014年末の総契約数を表1に示した。
LSPの導入機関は順調に増えつつあること、VoyagerやMillenniumのように新規契約を中止しているとおぼしきILSが存在する一方で、現時点でもILSを選択する機関が一定数あること、多くの機関がILSを運用していることが読み取れる。
カテゴリー | 企業 | 製品名 | 2012 | 2013 | 2014 | 累計 |
LSP | Ex Libris | Alma | 17 | 31 | 43 | 406 |
OCLC | WMS | 87 | 92 | 79 | 303 | |
Innovative | Sierra | 117 | 113 | 123 | 495 | |
ProQuest | Intota | - | - | 35 | 35※ | |
ILS | Ex Libris | Aleph | 20 | 25 | 25 | 2,392 |
Ex Libris | Voyager | 6 | 0 | 0 | 1,261 | |
Innovative | Millennium | 30 | 6 | 0 | 1,172 | |
Innovative | Polaris | 27 | 44 | 15 | 483 | |
Innovative | Virtua | 14 | 7 | 5 | 370 |
※Intotaは評価版の契約数
Automation Marketplace 2012-2013、Library Systems Report 2014-2015、Managing Multiplicity | Library Systems Landscape 2015 をもとに筆者が作成
LSPは複数のシステムを統合したものだが、そこにディスカバリーサービス(CA1772 [82]、E1604 [83]参照)は含まれていない。しかし、LSPは冊子体資料と電子リソースを統合して管理するものであり、伝統的なOPACよりもディスカバリーサービスとの親和性が高い。加えて、Ex Libris、OCLC、ProQuest社は、それぞれPrimo、Worldcat Local、SummonというWebスケールディスカバリーサービスの提供ベンダーでもある。Innovative社は独自のセントラルインデックス(CA1772 [82]参照)を有していないが、EBSCO社のセントラルインデックスを用いてEncoreというディスカバリーサービスを提供している。このようにディスカバリーサービス提供ベンダーがLSPベンダーとも重なっているため、両者がセットで導入される事例も多い。この場合、同一ベンダーからセットで契約することによる価格面での優遇と初期設定の労力軽減が期待できる。
いずれのLSPもAPIを提供しているため、特定ベンダーに依存することを避けるのであれば、LSPとは異なるベンダーのディスカバリーサービスを導入することも可能であるが、このような選択をする機関は少数派である。
Kuali OLEは独自のディスカバリーサービスを有していないため、Kuali OLEを導入しているシカゴ大学などでは、Kuali OLEと同様にオープンソースで開発されているディスカバリーサービスVuFindが採用されている。オープンソースの採用は、各館のニーズに応じた柔軟なカスタマイズを可能にする一方で、導入機関にも高い技術力が要求されることになる。
図書館システムベンダーの買収・合併による統合が進んでいる。Innovative社は図書館システムベンダーであるVTLS社とPolaris社を2014年に買収した。VTLS社はOver SkiesというLSPの開発を行っていた企業でもある。同年にはProQuest社もIntotaを開発していたビジネス事業部門であるSerials SolutionsをProQuestブランドに統合している。さらに2015年10月にはProQuest社によるEx Libris社の買収が行われた。LSPだけでなく、ディスカバリーサービス・リンクリゾルバなど競合するサービスを提供してきた両者だが、当面それぞれのサービスは引き続き提供されるということである(16)。
一方でディスカバリーサービスの主要なベンダーのひとつであるEBSCO社は、LSPの開発には参入せずにLSPおよびILSベンダーとパートナーシップを締結するという戦略を取っている。結果として独自のセントラルインデックスを持たないSierraやKuali OLEを導入した機関でEBSCO社のセントラルインデックスが活用される事例もあり市場の拡大に成功している。しかし、グラント氏は先述のProQuest社によるEx Libris社の買収をうけて、EBSCO社もいずれInnovative社やSirsiDynix社のような図書館システムベンダーを買収する可能性を指摘している(17)。
LSPの主要5製品について、概要と開発スケジュール、初期導入館、開発における重点事項などをブリーディング氏のレポート、および各公式Webサイトの情報に基づいて紹介する。
Almaはイスラエルに拠点を置く世界でも有数の図書館システムベンダーEx Librisによって開発されてきた。Ex LibrisはAlephとVoyagerという2つのILSも提供しているが、Alma開発にあたっては、一からシステム構築が行われている。2009年7月にUnified Resource Management(統合資源管理)として開発が開始され、2012年7月に米国のボストンカレッジに最初に導入された。大規模な大学図書館を中心に採用されている。
WMSはWorldcatを提供するOCLCによって開発されている。2009年4月にWorldcatの書誌データを活用した新たなWebスケール管理システムとして開発が始められ、2010年11月に米国の公共図書館コンソーシアムであるクレイブン・パムリコ・カータレット地域図書館システム(18)が最初にWMSを導入している。その後、2011年1月に一般向けにリリースされた。Almaと比較して中規模クラスの大学図書館を中心に採用されている。
Sierraを提供するInnovative社もEx Librisとともに主要なILSベンダーの一つである。自社で開発したMillenniumや、買収した企業のPolarisやVirtuaの提供・サポートも行っている。2011年6月にSierraの開発を開始し、2012年4月に米国のブルームフィールドタウンシップ公共図書館で初めて導入されている。SierraはMillenniumをベースに開発されており、開発開始から1年に満たない期間で運用が始められている。大学図書館を中心として採用されているその他のLSPと異なり、Sierraの採用機関には公共図書館が多く含まれている。
Intotaを提供するProQuest社は図書館関連サービス提供企業の中でも最大手に位置づけられる。図書館向けのコンテンツが主要な製品であるが、電子リソース関連サービスを提供していたSerials Solutionsを統合することで、ディスカバリーサービスやLSPの分野にも進出してきている。2011年6月にWebスケール管理システムという名称で開発を発表し、2013年11月にIntotaとして評価版をリリースしている。2014年6月に電子リソース管理とコレクション分析機能を備えた基盤バージョンをリリース、2014年12月の段階で米国のピッツバーグ州立大学を含む31機関がIntotaを契約している。2015年後半には冊子体管理機能を備えた製品版をリリース予定である。もともとサービスとして提供していた電子リソース管理システムを統合して開発しているため、冊子体資料を管理する機能はまだ備えておらず、ILSの代替となる機能は有していない。しかし、2015年内に製品版がリリースされた後には英国ハダーズフィールド大学などいくつかの機関が他社ILSから移行する予定である。
Kuali OLEはアンドリュー・メロン財団から助成を受けて開発されているオープンソースの図書館システムである。2008年8月にスタートし(E1003 [32]参照)、2010年12月には米国インディアナ大学を中心に開発が開始されている。2013年11月に冊子体資料の管理機能を備えたver.1.0がリリースされ、2014年8月に米国のシカゴ大学・リーハイ大学が導入している。2015年4月には英国のロンドン大学東洋アフリカ研究学院が導入している。2015 年後半に電子リソース管理機能を備えたver.2.0がリリースされ、米国のデューク大学も導入予定である。2016年前半には財務システムとの連携などが強化されたver.3.0がリリースされる予定である。
現時点ではIntotaやKuali OLEについてまとまった導入レポートは存在しない。Alma、WMS、Sierraの3製品の導入レポートの一部として以下のものが存在する。例えばAlma-米国のコンソーシアムOrbis Cascade Alliance(OCA)(19)(20)(21)(22)、WMS-米国のペパーダイン大学やニューメキシコ大学(23)(24)、Sierra-米国オレゴン州立大学(25)などの事例である。
本節ではコンソーシアムで共有の図書館システムとしてAlmaを採用したOCAの事例について、概略を紹介する。
OCAは、オレゴン州、ワシントン州、アイダホ州の37の学術機関で構成される地域コンソーシアムである。加盟機関間のリソース共有のため、2008年以降Innovative社のINN-ReachやOCLCのWorldcat Navigatorを利用してきた。また、加盟機関はILSもInnovative社のMillenniumで統一し、データ共有をはかってきた。
ワシントン州立大学のシステムライブラリアンであるコーニッシュ(Alan Cornish)氏らによると、2つの理由から一つの図書館システムを共有することを決定している。一つはILSでは構造上メタデータの共有に限界があり、コンソーシアムにおけるリソース共有のニーズに対応できないこと、もう一つはILSのためのハードウェアやメンテナンスにかかる人件費が高額であり、予算が削減されるなか少しでも負担を軽減する必要があったことである。また、これまでのリソース共有は図書館間の協力に過ぎず、コンソーシアム内で共有システムを用いることで、協力から真の共有へと移行できるとも述べられている。
2011年7月、図書館システムを共有するという意思決定が行われ、プロジェクトチームによって、2011年のRFI(情報提供依頼書)、2012年のRFP(提案依頼書)(26)の策定やベンダーによる提案、2012年10月のAlma導入決定までの過程が述べられている。
Ex Librisとの契約締結後OCAでは、2013年6月から2015年1月にかけて、加盟機関を4つのグループに分けて、順次データ移行を行っている。このデータ移行作業については、ワシントン州立大学とセントラルワシントン大学について、チュ(Lihong Zhu)氏とフウ(Ping Fu)氏がそれぞれの経験を述べている。チュ氏によると新しい図書館システムへと移行することは、従来の運用を見直し、不要なローカライズをやめ、国際標準およびベストプラクティスへと近づくチャンスであると指摘している。フウ氏の論文では各作業段階においてどの程度スタッフの労力が必要とされたかの調査結果が掲載されており、データ移行テストや研修に最も多くの時間が割かれたとしている。いずれの論文でも、ベンダーとスタッフとの十分なコミュニケーション、トレーニング、そしてプロジェクトマネジメントがデータ移行作業成功の重要な要因であると述べている。またフウ氏は、システムライブラリアンポストの求人情報の分析から、LSPの登場によってシステムライブラリアンの役割が直接的なシステム管理から職員や利用者へのサポートやベンダーとのコミュニケーションへと変化していることも述べている(27)。
ブリーディング氏は毎年図書館システムの満足度調査を行っており(28)、一定数の導入機関が存在するAlma、WMS、Sierraの3製品の結果が報告されている。調査結果のうち、図書館システムの満足度を抜粋し、ILS主要製品と比較したものを表2に示す。
館種が混在していることや回答数も異なることから、単純に比較するのは困難だが、公共図書館用の図書館システムPolarisが特に高い評価を受けていることを除けば、現時点でのシステム満足度はLSPとILSでそれほど大きな差異は見られない。
LSPを導入した機関の具体的な評価として、WMSを導入したニューメキシコ大学では、冊子体の目録と電子リソースのリストが統合されたことから電子リソースの可視性が高まったことやシステム維持コストの軽減を挙げている。一方で各業務において求められる全ての機能が提供されているわけではないため、いくつかの業務においてシステムに合わせてワークフローの変更を余儀なくされたことも指摘している。
企業 | 製品名 | 回答数 | 満足度※ | |
LSP | Ex Libris | Alma | 46 | 6.4 |
OCLC | WMS | 72 | 6.9 | |
Innovative | Sierra | 281 | 5.9 | |
ILS | Ex Libris | Aleph | 139 | 6.4 |
Ex Libris | Voyager | 147 | 5.8 | |
Innovative | Millennium | 212 | 6.1 | |
Innovative | Polaris | 169 | 7.5 | |
Innovative | Virtua | 25 | 5.52 |
※満足度の尺度は(低)0~9(高)である。
Perceptions 2014: An International Survey of Library Automation をもとに筆者作成
現在、日本国内でLSPの導入事例は存在しないが、Innovative社のMillenniumを利用している早稲田大学はその後継としてSierraの導入を検討している(29)。対象を東アジアにひろげると韓国のソウル大学が2013年にAlmaの早期導入プログラムに参加しており、2015年8月に運用を開始した。韓国では以前より延世大学がEx LibrisのAlephを導入しており、他にも複数の大学がInnovative社の図書館システムを導入している。京都大学の野上・西川氏(30)が指摘しているように、韓国の標準的な書誌データフォーマットKORMARCはMARC21をベースに作成されており、比較的海外図書館システムの参入障壁が低いと考えられる。筆者がEx Librisに照会したところ、韓国ではソウル大学のほか1大学がAlmaを2015年8月に導入、いくつかの大学が導入を検討しているとのことである。その他の導入事例としては、香港の嶺南大学および台湾の陽明大学がSierraを契約している。
ほとんどの大学図書館が国産の図書館システムを利用し、NACSIS-CATPへの対応が必須とされる日本の現状を考慮すると、国内におけるLSPの普及は相当の困難が伴うであろう。しかし、LSPそのものの導入はできなくとも、クラウドへの移行によるハードウェア維持コストの軽減や複数の管理システムの統合による業務の効率化といったLSPの特徴は、国内の図書館でも求められる機能であろう。ベンダー側へ図書館システムの機能改善を要請するだけではなく、図書館側も特殊なカスタマイズを極力減らし、図書館システムの仕様ひいては各種業務の標準化を進めていく必要がある。LSPの動向を注視しつつ、LSPの存在が日本国内の図書館システム事情にもよい影響を与えることを期待したい。
(1) “Alma”. Ex Libris.
http://www.exlibrisgroup.com/category/AlmaOverview [84], (accessed 2015-10-31).
Ex Librisは3章で述べるように、2015年10月にProQuest社に買収された。現時点では、それぞれのサービス・サポートは継続されるとのことから、本稿ではそれぞれ独立した企業・製品として扱う。
(2) “WorldShare Manegement Services”. OCLC.
https://www.oclc.org/worldshare-management-services.en.html [85], (accessed 2015-10-31).
(3) “Sierra”. Innovatives.
https://www.iii.com/products/sierra [86], (accessed 2015-10-31).
(4) “Intota”. ProQuest.
http://www.proquest.com/products-services/intota.html [87], (accessed 2015-10-31).
(5) “Overview of OLE”. Kuali Foundation.
https://www.kuali.org/ole [40], (accessed 2015-10-31).
(6) Kristen Wilson. Introducing the Next Generation of Library Management Systems. Serials Review. 2012, vol. 38, no. 2, p. 110–123.
(7) Marshall Breeding. Library Services Platforms: A Maturing Genre of Products. Library Technology Reports. 2015, vol. 51, no. 4, p. 1-38.
(8) Marshall Breeding. A Cloudy Forecast for Libraries. Computers in Libraries. 2011, vol. 31, no. 7, p. 32–34.
(9) Marshall Breeding. Smarter Libraries through Technology: Moving Toward the Reintegration of Discovery. Smart Libraries Newsletter. 2011, vol. 31, no. 11, p. 1–3.
http://journals [88] .ala.org/sln/issue/view/299, (accessed 2015-10-31).
(10) Sierraはローカルホスト版も存在するがクラウドでの提供も行っている。Kuali OLEはクラウドではないが、その代わりに提携企業によるホスティングサービスというオプションを提供している。
(11) Matt Enis. Ex Libris Launches Developer Network. Library Journal. 2015.
http://lj.libraryjournal.com/2015/04/technology/ex-libris-launches-developer-network-library-systems-landscape-2015 [89], (accessed 2015-10-31).
(12) Carl Grant. The Future of Library Systems: Library Services Platforms. Information Standards Quarterly. 2012, vol. 24, no. 4, p. 4–15.
(13) Marshall Breeding. “Automation Marketplace 2012: Agents of Change - The Digital Shift”. Library Journal. 2012.
http://www.thedigitalshift.com/2012/03/ils/automation-marketplace-2012-agents-of-change/ [90], (accessed 2015-10-31).
Marshall Breeding. “Automation Marketplace 2013: The Rush to Innovate - The Digital Shift”. Library Journal. 2013.
http://www.thedigitalshift.com/2013/04/ils/automation-marketplace-2013-the-rush-to-innovate/ [91], (accessed 2015-10-31).
(14) Marshall Breeding. “Library Systems Report”. American Libraries Magazine. 2014.
http://americanlibrariesmagazine.org/2014/04/15/library-systems-report-2014/ [92], (accessed 2015-10-31).
Marshall Breeding. “Library Systems Report”. American Libraries Magazine. 2015.
http://americanlibrariesmagazine.org/2015/05/01/library-systems-report/ [93], (accessed 2015-10-31).
(15) Matt Enis. Managing Multiplicity. Library Journal. 2015.
http://lj.libraryjournal.com/2015/04/technology/managing-multiplicity-library-systems-landscape-2015/ [94], (accessed 2015-10-31).
(16) “ProQuest and Ex Libris Join to Accelerate Innovation for Libraries Worldwide”. ProQuest.
http://www.proquest.com/about/news/2015/ProQuest-and-Ex-Libris-Join-to-Accelerate-Innovation-for-Libraries-Worldwide.html [95], (accessed 2015-10-31).
(17) Carl Grant. “Another perspective on ProQuest buying the Ex Libris Group”. Thoughts from Carl Grant.
http://thoughts.care-affiliates.com/2015/10/another-perspective-on-proquest-buying.html [96], (accessed 2015-10-31).
本記事では、ほかにもProQuest社による買収について、Ex Libris社のPrimoがコンテンツ中立のディスカバリーサービスでなくなったこと、まだ市場にでていないIntotaの今後の方向性についての分析なども述べられている。
(18) “CPC Regional Library System”. New Bern-Craven County Public Library.
http://newbern.cpclib.org/nbccpl/cpcrl.html [97], (accessed 2015-10-31).
(19) Marshall Breeding. Case Study: The Orbis Cascade Alliance: Strategic Collaboration among Diverse Academic Institutions. Library Technology Reports. 2013, vol. 49, no. 1, p. 30–31.
(20) Alan Cornish, Richard Jost, Xan Arch. Selecting a Shared 21st Century Management System. Collaborative Librarianship. 2013, vol. 5, no. 1, p. 16–28.
(21) Lihong Zhu, Debra F. Spidal. Shared Integrated Library System Migration From a Technical Services Perspective. Technical Services Quarterly. 2015, vol. 32, no. 3, p. 253–273.
(22) Ping Fu, Julie Carmen. Migration to Alma/Primo: A Case Study of Central Washington University. Chinese Librarianship: an International Electronic Journal. 2015.
(23) Michael W. Dula, Gan Ye. Case Study: Pepperdine University Libraries’ Migration to OCLC's WorldShare. Journal of Web Librarianship. 2012, vol. 6, no. 2, p. 125–132.
(24) Sever Bordeianu, Laura Kohl. The Voyage Home: New Mexico Libraries Migrate to WMS, OCLC’s Cloud-Based ILS. Technical Services Quarterly. 2015, vol. 32, no. 3, p. 274–293.
(25) William Eric Atkinson. The Orange County Library System Environment: Connecting Sierra with Custom Applications on the Web. Information Standards Quarterly. 2012, vol. 24, no. 4, p. 27–32.
(26) “Request for Proposal Shared Library Management Service”. Orbis Cascade Alliance.
https://www.orbiscascade.org/file_viewer.php?id=2789 [98], (accessed 2015-10-31).
(27) Ping Fu. Supporting the Next-Generation ILS: The Changing Roles of Systems Librarians. Library Innovation. 2014, vol. 5, no. 1, p. 30–42.
(28) Marshall Breeding. “Perceptions 2014: An International Survey of Library Automation”. Library Technology Guides.
http://librarytechnology.org/perceptions/2014/ [99], (accessed 2015-10-30).
(29) 今村昭一. IUG2015 参加報告. ふみくら. 2015, no. 88, p. 4–5.
http://www.wul.waseda.ac.jp/Libraries/fumi/88/88-03.pdf [100], (参照2015-10-31).
(30) 野上香織, 西川真樹子. 韓国の大学図書館における利用者サービス実態調査. 2008.
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Otani Shuhei.
Recent trend of Library Services Platforms.
PDFファイルはこちら [108]
東京大学附属図書館:熊渕智行(くまぶち ともゆき)
1980年の学術審議会答申「今後における学術情報システムの在り方について」(1)以下、「1980年答申」という。)を受け、1985年に大学等を対象として、総合目録データベースの形成と図書館間相互利用を目的とする目録所在情報サービスの運用が開始されて30年が経過した(2)。
現在、「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」(3)(以下、「推進会議」という。)の下に設置された、「これからの学術情報システム構築検討委員会」(4)(以下、「これから委員会」という。)では、同サービスの運用開始時とは学術情報を取り巻く環境に様々な変化が生じている中で、国公私立大学図書館等と国立情報学研究所とが連携して、従来の学術情報システムの中核をなしてきたNACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化を図りつつ、そうした変化への対応を行える新たな学術情報システムを構築していくための方策を検討している。本稿では、「これから委員会」での検討の状況について、委員の一人である筆者の理解の範囲で、その概要を紹介する。
1980年答申では、当時の日本の学術情報の流通システムの状況を分析し、取り組むべき諸課題を指摘した上で、新たな学術情報システムの基本的な考え方や整備の方策等について言及している。
その中で必要とされた、「諸機能を集中的、効率的に達成するため、全国的な学術情報システムの中枢となる機関」として、1983年に、東京大学情報図書館学研究センターを改組・転換させる形で東京大学文献情報センターが設置され、1986年の改組により学術情報センター(National Center for Science Information Systems:NACSIS)が設立された。
中枢機関であるNACSISが維持・管理する総合目録データベースに対して、学術情報ネットワークで結ばれた全国の大学図書館等が、共同分担目録方式により、所蔵する資料の書誌・所蔵情報をオンラインで登録し(NACSIS-CAT)、また、各大学図書館等は総合目録データベースにより相互に所蔵資料を確認し、それをもとに大学間の資料の複写や貸借に係る依頼及び受付のメッセージ交換を電子化する(NACSIS-ILL)という目録所在情報サービスの仕組みは、1980年答申を忠実に実体化したシステムと言える。1985年に図書のみを対象として目録システム(NACSIS-CAT)の運用が開始された後、雑誌についても1988年から運用が開始され、1992年にNACSIS-ILLの運用が開始されたことで、目録所在情報サービスの全ての機能が稼働するに至った。2000年に学術情報センターが国立情報学研究所(NII)に改組された後も、目録所在情報サービス事業は同研究所に継承されている。
また、総合目録データベースそのものの一般公開についても、1989年から学術情報センター情報検索サービス(NACSIS-IR)上で、有料ではあるが検索可能になった(2005年サービス終了)。その後、1997年には無料の総合目録データベースWWW検索サービス(Webcat)の試行運用が開始され(1998年に本格運用開始)、2012年からはCiNii Booksへと継承されている(CiNii Booksのサービス開始を受け、Webcatの運用は2013年に終了した)(5)。
目録所在情報サービスは、2015年3月末現在で1,263機関が参加するサービスとなり、総合目録データベースは、図書の書誌が1,144万7,200件、所蔵が1億2,774万2,459件、雑誌の書誌が34万1,415件、所蔵が465万6,320件(件数はいずれも2015年9月27日現在)という大規模なデータベースへと成長している(6)。
目録所在情報サービスは、資料の目録情報を網羅的にデータベース化し、ユーザーの求める資料を的確に提供するに止まらず、大学図書館等業務の効率化をも進め、極めて重要な学術情報基盤としての地位を築いている。
一方で、目録所在情報サービスの運用開始以降、現在までに学術情報を取り巻く環境には様々な変化が生じている。目録所在情報サービスに関わる最も大きな変化は、1980年答申当時には資料の大部分が紙媒体資料であったのに対し、今日では電子媒体資料の普及 により、学術情報の概念そのものが大きく変貌していることである。
1980年答申においても「将来の展望」の中で、「学術情報システムの各種の機能の発展は今後の技術革新に大きく依存しており、特に一次情報の記録媒体の開発とその効果的な伝送技術の開発が待たれている。コンピュータネットワークによる効果的な情報検索システムと連動して、記録された一次情報をターミナル間に迅速に伝送するメカニズムができるだけ早く実現することを期待したい。」と述べているが、当時想定可能であった範囲をはるかに超える状況になっている。
紙媒体資料の書誌・所蔵情報の登録を前提としたNACSIS-CATでは電子情報資源に対応しきれず、新たなシステムの構築が不可欠であるという点は、例えば2011年には国立大学図書館協会学術情報委員会学術情報システム検討小委員会(7)が、2012年にはNIIの学術コンテンツ運営・連携本部図書館連携作業部会(8)が、各々の報告書の中で指摘しており、大学図書館およびNIIの双方にとって、解決すべき重要課題となっていた。
「これから委員会」は、NIIと国公私立大学図書館協力委員会との連携・協力の推進に関する協定書(9)に掲げられた「電子情報資源を含む総合目録データベースの強化」に関する事項を企画・立案し、学術情報資源の基盤構築、管理、共有および提供にかかる活動を推進することを目的として、2012年に「推進会議」の下に設置された組織である。2014年7月に開催された「推進会議(第8回)」において、「(総合目録データベースに関する)検討を加速させるためにも2020年には現在のような枠組みでの目録システムは終了していることを想定して議論」することが求められ、当面の最重要課題と位置付けられている。なお、「推進会議」の要請は、NACSIS-CAT/ILLの運用を終了させることを意味するものでは無く、今後を見通した上での「現在の(従来の)枠組み」の見直しを求めるものである。
「これから委員会」では、NACSIS-CAT/ILLに係る見直しのみを行うのではなく、今後の学術情報システムが進むべき方向性を検討する中でこの問題を扱っている。状況の変化に対しては、特に、電子ジャーナルをはじめとした電子情報資源の普及によって資料の流通・管理のあり方が大きく変貌していること、研究者・学生の情報利用や研究・教育のプロセスがますます電子的手段を前提とするものになっていることへの対応が大学図書館にとっての急務ととらえている。
学術情報システムに求められるのは、ユーザーが必要とする学術情報を直接的かつ迅速に入手することのできる環境であり、そのために、以下の3点を推進する必要があるとしている。
1点目は、統合的発見環境の提供である。電子情報資源・紙媒体資料を区別することなく統合的・網羅的に発見できる仕組みを構築し、ユーザーが最終的に必要とする学術情報にアクセスできる環境を構築することが重要となる。2点目は、メタデータの標準化である。学術情報の発見可能性を向上させるために、関係機関(出版社、国立国会図書館等)との連携による、メタデータの標準化と相互利用を図る必要がある。3点目は、学術情報資源そのものの確保とその利活用である。特に、従来の紙媒体資料に加えて、有料の電子情報資源のライセンス契約、学内で生産された研究成果の収集、所蔵資料の電子化等を通して幅広く電子情報資源を確保するとともに、その利活用のための仕組みを構築することが重要となる。
その上で、以下の2 点を当面の最重要課題と認識している。
一つは、電子情報資源を管理し共有する仕組みの構築である。今後ますます増加する電子情報資源への迅速かつ的確なナビゲートを実現し、学術情報へのアクセシビリティを向上させるための、管理・共有機能の実現を図る。当面は、電子情報資源の日本版ナレッジ ベースERDB-JP(E1678 [33]参照)の整備を促進していく。
もう一つが、30年間学術情報システムの中核をなしてきたNACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化(再構築)である。
NACSIS-CAT/ILLの再構築について述べる前に、NACSIS-CAT/ILLに対して行われてきた過去の改訂(10)に触れておく。微細な仕様変更も含めた大小様々な改訂の内容やその背景等については、『オンライン・システムニュースレター』(11)や『NACSIS-CAT/ILLニュースレター』(12)の記事で確認することができるが、システム面での最も大規模な改訂として、1997年から1998年にかけての新CAT/ILLサーバの公開開始(CATPによる運用開始)が挙げられる。従来のシステムが、表示あるいは登録しようとするデータのみならず、表示・登録を行う画面そのものをやりとりする仕組み(画面指向型)であったのに対して、データのみをやりとりする仕組みへの移行である。従来のシステムでは、全ての大学図書館等が同一画面で共通の操作を行える反面、各大学図書館等のシステム構築における自由度が制限される仕組みであった。これに対して、新たなシステムでは、大学(ベンダー)毎に操作が異なる反面、各大学図書館等のシステム構築における自由度が大幅に上昇した。
また、総合目録データベースの構成そのものに係る大規模な改訂も行われている。運用開始からわずか2年後の1987年に実施された、典拠リンクの任意化と「書誌構造の2階層化」や、1997年に実施された、図書・雑誌の和洋ファイル統合などが代表例である。
現在の最重要課題とされているNACSIS-CAT/ILLの再構築は、過去の改訂の延長線上にあるものではないが、上記のような大規模改訂は大学図書館の目録業務そのものに多大な影響を及ぼすものであったにも関わらず、大学図書館はそれに取り組んできたという事 実は認識しておきたい。
本稿の執筆時点で、「これから委員会」として、今後のNACSIS-CAT/ILLの具体的機能要件を示せる段階にはないが、筆者は大学図書館における検討のポイントを以下のようにとらえている。また、それぞれを独立に議論するのではなく、相互に検証しながら議論していくことが必要であると認識している。
(1)需要の変化に伴う人的物的資源配分の検討
電子的に流通する一次情報の絶対数や全体に占める割合が大きく増加し、一次情報そのものの電子的な入手要求が高まる中、紙媒体資料の目録情報に対するユーザーの需要は相対的に下がっていると考えられる。
一方、大学図書館の職員数が減少する中、大学図書館に求められる機能は拡大・多様化しており、整理業務を担当する職員の割合は著しく減少し、業務全般を担当する職員の割合が増大している(13)。
そうした状況において、今後の学術情報システム全体を「4.」で示したようにとらえた場合、大学図書館とNIIは紙媒体資料を中心とした目録所在情報サービスの運営や各図書館における紙媒体資料の目録業務に対して、各種の人的、物的な資源をどれだけ割り当て続けることができるのか(割り当てるべきか)、割り当てられる人的、物的資源の減少が必至であるならば、その中でどのようなシステムであれば、運用モデルであれば、安定的に維持可能であるのかを改めて議論する必要がある。
(2)総合目録的機能の実現方法の検討
ユーザーが紙媒体資料の目録情報を利用(検索)するための、従来の総合目録的機能は引き続き必要だとしても、それを実現する上でNACSIS-CATが担うべき機能については再整理する必要がある。
紙媒体資料の書誌情報そのものの流通性は、運用開始時とは比べようもなく向上している。少なくとも市場に流通する資料であれば、誰でもインターネット上でその書誌情報を参照可能であるといって過言ではない。今では既に存在する資源を効率的に活用し、サービスにつなげていくことが重要であり、全国の大学図書館等が共同分担目録方式により、全ての書誌・所蔵情報を総合目録データベースという一つの「器」に入力する大規模なシステム基盤が、今後も必要であるか否かという点については議論を行うべきであろう。少なくとも、現在のように、外部MARCを「参照ファイル」と位置付けした上で、「流用入力」により総合 目録データベースに再度登録する方式が適切であるか否かは効率化の観点から再検討が必要である。
(3)独自基準の見直しと品質に対する検討
外部MARC等の他機関・組織が作成・提供する書誌情報を有効活用しようとする場合や、逆にNACSIS-CATにより作成・提供される書誌情報を広く利活用しようとする場合には、総合目録データベースと外部MARC 等とのフォーマットの違いや、「固有のタイトル」か否かによる単行書誌単位の判定とそれに基づく書誌レコード作成、各種レコード間のリンク形成といった総合目録データベースに独自の基準を、どのように見直していくかということも課題となる。その際には、全国の大学図書館等が、「目録情報の基準」や「コーティングマニュアル」という共通の規則に基づき、総合目録データベースのみに登録することで確保されてきたデータの品質についても併せて検討する必要がある。今後も従来同様の品質管理が求められているか否か、求められているのであれば、再構築を進める中でも何らかの方法で実施可能であるか否かは重要な問題であろう。具体的には、重複登録を排除するための事前検索、規則に合致しないと思われるレコードに対する大学図書館間のレコード調整といった現行の運用を継承すべきか、それともシステムによる自動的な書誌同定技術等の活用や、新たな品質管理体制を整備するべきかといった点が議論されることになるであろう。
(4)新システム移行による影響についての検討
先に述べた新CAT/ILLへの移行においては、1997年に新システムの運用が開始された後、旧システムの運用が終了したのは2004年であり、7年(事前の広報期間も含めるとそれ以上)の移行期間がとられている。今回も、2020年からの新システムの運用開始を目指して検討を行っているが、再構築によって、現在のNACSIS-CAT/ILLと大きく異なるシステムになる場合には、各大学図書館におけるシステム対応や業務体制の再整備等が必要となるはずであり、新システム運用開始後も相当期間は現行システムの利用を可能とした上で、段階的に新システムへの移行を進めるなど、十分な準備期間を設ける必要がある。もちろん、再構築そのものにかかる物的・人的なコストについても無視できない要素である。
従来の学術情報システムの中核的存在として長く安定的運用が続いているNACSIS-CAT/ILLではあるが、新たな学術情報システムを実現する上で、その再構築は避けて通れない喫緊の課題となっている。一方、安定的運用が続いた故に、NACSIS-CAT/ILLそのもののあり方について議論される機会が長く存在しなかったことも事実である。
「これから委員会」では、現在直面している課題を大学図書館全体の共通認識とすることを目的として、「これからの学術情報システムの在り方」(14)をまとめ、2015年6月の国公私立の各大学図書館協会・協議会等の場での周知を行った。さらに、「NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化について(基本方針案の要点)」(15)を11月10日に公表し、国公私立大学図書館協力委員会と日本図書館協会大学図書館部会の主催により2015年11月12日の図書館総合展で開催された「平成27年度大学図書館シンポジウム」では、「2020年のNACSIS-CAT/ILLを考える」とのテーマで、具体的な検討課題の共有と意見交換が行われた。
今後は、NACSIS-CAT/ILLが担ってきた機能のうち、今後の学術情報システムにおいても不可欠な機能が何であり、そのうちNACSIS-CAT/ILLが存在しなければ実現できない機能が何であり、他で代替可能な機能が何なのか、さらにたとえ必要な機能であっても従来のままの仕組みが必要なのか否かを十分に見極めた上で、新しいNACSIS-CAT/ILLに求められる最適な機能要件を整理していくこととなる。
1980年答申において「これまで既存の各大学等の諸機関において蓄積されてきた人的、物的な各種の資源、今後新たに蓄積される可能性のある資源等を含め、有効な相互利用を前提とし、機関間の全国的なネットワークを構成することが望ましい」、あるいは「学術情報システムと利用者である研究者との媒介の役割を果たす窓口またはターミナルの機能が必須である。この機能は、国公私立の大学等の各図書館が担うことが最も適切であろう。各図書館は、一次情報の流通においては、蓄積・供給する機能とターミナル機能の双方を有し、所在情報の形成においては、入力の機能をもつ言わば情報の形成者である。」とされた機能を、大学図書館は30年間忠実に果たしてきたと言える。1980年答申に基づく学術情報システムの中核をなしてきたNACSIS-CAT/ILLを再構築しようとも、その根本的機能を損なうものではない。大学図書館に求められる機能や、それをどのように果たしていくかは時代と共に常に変化するものである。
(1) 学術審議会. 今後における学術情報システムの在り方について(答申)(昭和55年1月29日学術審議会第23号). 1980, 17p.
(2) NACSIS-CAT/ILL関連文献目録(含む「学術情報システム」関連文献)1975-2008 : NACSIS-CAT/ILL 登録1億件突破記念. 第1版, 東京. 「NACSIS-CAT/ILL 関連文献目録」作成委員会, 2009.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/biblio/ [109], (参照 2015-09-30).
2009年にNACSIS-CATの図書と雑誌の所蔵レコードの合計数が1億件を突破したことを記念して作成されたものであり、NACSIS-CAT/ILLを中心とした学術情報システムに係る文献が丹念にまとめられている。
(3) 大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議.
http://www.nii.ac.jp/content/cpc/ [63], (参照 2015-09-30).
(4) これからの学術情報システム構築検討委員会.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/ [64], (参照 2015-09-30).
(5) “事業について”. 国立情報学研究所目録所在情報サービス.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/history.html [110], (参照 2015-09-30).
(6) “NACSIS-CAT 統計情報”. 国立情報学研究所目録所在サービス.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/stats/cat/db.htm [111], (参照 2015-09-30).
(7) “電子環境下における今後の学術情報システムに向けて(国立大学図書館協会学術情報委員会学術情報システム検討小委員会報告書)”. 2011, 23p.
http://www.janul.jp/j/projects/si/gkjhoukoku201111.pdf [112], (参照 2015-09-30).
(8) “電子的学術情報資源を中心とする新たな基盤構築に向けた構想(学術コンテンツ運営・連携本部図書館連携作業部会報告書)”. 2012, 37p.
http://www.nii.ac.jp/content/archive/pdf/content_report_h23_with_glossary.pdf [113], (参照 2015-09-30).
(9) “大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所と国公私立大学図書館協力委員会との間における連携・協力の推進に関する協定書”.
http://www.nii.ac.jp/content/justice/documents/kyoteisyo_20101013.pdf [114], (参照 2015-09-30).
(10) “ 事業について”. 国立情報学研究所目録所在情報サービス.
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/history.html [110], (参照 2015-09-30).
(11) 「オンライン・システム・ニュースレター総目次」から該当記事を参照可能である。
http://catdoc.nii.ac.jp/PUB/nletter_mokuji.html [115], (参照 2015-09-30).
(12) 「NACSIS-CAT/ILLニュースレター総目次」から該当記事を参照可能である。
http://catdoc.nii.ac.jp/PUB/nletter2_mokuji.html [116], (参照 2015-09-30).
(13) 関川雅彦. 大学図書館の現状と課題(平成26年度大学図書館職員短期研修 平成26年11月11日資料). p. 2-5.
http://www.nii.ac.jp/hrd/ja/librarian/h26/lib-01t.pdf [117], (参照 2015-09-30).
(14) “これからの学術情報システムの在り方について(これからの学術情報システム構築検討委員会)”. 2015.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20150529.pdf [118], (参照 2015-09-30).
(15) “NACSIS-CAT/ILL の軽量化・合理化について(基本方針案の要点)”. 2015.
http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20151027.pdf [119], (参照 2015-11-10).
[受理:2015-11-16]
熊渕智行. これからの学術情報システムとNACSIS-CAT/ILL. カレントアウェアネス. 2015, (326), CA1862, p. 15-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1862 [120]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9589934 [121]
Kumabuchi Tomoyuki.
Future scholarly information systems and NACSIS-CAT/ILL.
PDFファイルはこちら [126]
一般社団法人情報科学技術協会:時実象一(ときざね そういち)
近年、Europeanaへの関心が高まっている。文化庁の文化関係資料のアーカイブに関する有識者会議の「中間とりまとめ」(2014年8月27日)(1)においては、「文化関係資料のアーカイブの将来的な全体像」の中核が「文化ナショナルアーカイブ(日本版ヨーロピアーナ)」であると書かれており、Europeanaが日本が目指すべきモデルと取られていることがわかる。また、2015年1月20日には、国立国会図書館において国際シンポジウム「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会図書館サーチ」が開催され、Europeana執行委員のニック・プール(Nick Poole)氏らが講演した(2)。アーカイブに関する書籍でもEuropeana について論じられることがある(3)。このようにしばしば語られるEuropeanaであるが、その実態についてはあまり知られていない。
Europeanaの概要については古山氏のレビュー(CA1785 [127]参照)がある。また鈴木氏らは、孤児著作物に関するEUの動向(CA1771 [128]参照)を解説する中でEuropeanaの生い立ちについて解説している(4)。
筆者は、2015年6月11日に、オランダにあるEuropeanaの本部を訪問し、Europeana Foundation副所長ハリー・フェアウェイエン(Harry Verwayen)氏らに面会して、ヒアリングを行った。本稿では、そのヒアリングもふまえ、Europeanaの最近の状況に焦点をあてて紹介する。
Europeana はGoogle Booksプロジェクトに対する欧州の危機感、特にフランスの危機感から生まれた。当時フランス国立図書館長であったジャン・ノエル・ジャンヌネー(Jean-Noël Jeanneney)氏によれば(5)、ジャンヌネー氏が2005年1月にルモンド紙に「グーグルがヨーロッパに挑むとき」という記事を書いたが、その後フランスのシラク大統領は彼に面会を求め、彼の運動を支援するつもりだと述べたという。その結果が4月28日にシラク大統領の書簡となったのである(表1)。
年月日 | 出来事 |
2005/04/28 | フランスのシラク大統領の他、ドイツ、スペイン、イタリア、ポーランド、ハンガリーの各首脳が欧州委員会(EC)のバローゾ委員長に書簡を送り、欧州の仮想図書館建設を提言 |
2005/09/30 | ECがデジタル図書館の建設の提言、"i2010:Digital Libraries"を欧州議会に提案 |
2006/02/27 | ECは高官レベルの検討委員会を設置 |
2006/08/24 | ECは欧州の文化遺産のデジタル化と公開についての提言を採択 |
2006/11/13 | ECが欧州の文化遺産のデジタル化と公開についての結論を採択 |
2007/09/27 | 欧州議会が欧州デジタル図書館の設立を決定 |
2008/02/01 | フランクフルトの会議でEuropeanaの最初のモデルが提示される |
2008/11/20 | Europeanaが公開 |
2009/08/28 | ECがEuropeanaの次期計画提案を承認 |
2010/05/10 | 欧州議会がEuropeanaの次期計画結論を採択 |
2011/10/27 | ECが文化資産のデジタル化と公開とデジタル保存についての勧告を採択 |
2012/05/10 | 欧州議会がECの勧告を採択 |
2014/07/03 | Europeana Strategy 2015 - 2020を公表 |
2014/07/22 | ECが欧州の文化遺産のための統合的戦略を欧州議会に提案 |
なお、Europeanaのプロジェクトは、当初European Digital Library Network (EDLnet)と呼ばれていた(7)。当初の開発にはEUから200万ユーロ(2009-2011年)の資金が投入された(8)。Internet ArchiveのWayback Machine(9)には、Europeanaのベータ版が2007年3月28日に記録されている。プロトタイプの正式な公開は2008年11月20日で450万件のコンテンツが提供された。しかし、1時間に1,000万件ものトラフィックが殺到したので即日ダウンし、一旦閉鎖して12月に再オープンした(10)。
Europeanaの正式版Europeana v1.0開発プロジェクトは2009年2月1日に開始され、2011年10月に公開されて(11)、現在に至っている。
Europeanaの運営はEuropeana Foundationによって行われている(12)。Europeana Foundationは主として欧州委員会(EC)の予算で運営されている。
Europeana Foundationの本部はオランダのデン・ハーグにあり、約60名の職員がいる。フェアウェイエン氏によれば、デン・ハーグに事務所を開いたのは、開設当時オランダ政府が大変協力的だったためで、この事務所も格安で借りているとのことであった。
Europeana Foundationはいわばネットワーク組織である。理事会は17 名からなり、図書館・博物館などの代表からなっている(13)。
理事会の下に執行委員会があり、そこが日常の運営に責任を持っている(14)。
年次報告によれば(15)、2014年の収入は約506万ユーロである。ほとんどがEU等からの補助金であり、事業収益というものはない。また、おそらく経理上の仕組みと思われるが、剰余金や年次繰越金は記載されていない。
また2014年の支出の内訳は、プロジェクト費用約475万ユーロ、人件費約32万ユーロ、管理費約19万ユーロなどである。ただし、ほとんどの職員の人件費はプロジェクトの費用でカバーされており、詳細は年次報告からは読み取れない。
なお、フェアウェイエン氏によれば、Europeanaが受け取っている2015年の資金は約890万ユーロで、そのうち270万ユーロは27のパートナーに配られているとのことであった。パートナーの例としては、European Film Gateway(16)やArchives Portal Europe(17)などがある。European Film Gatewayはその資金で映画のデジタル化を行っている。
Europeanaは一種のポータルである。デジタル・コンテンツはEU各国にあるコンテンツ・プロバイダが保有しているが、そのメタデータをEuropeanaが収集し、APIを用いてウェブで公開している。データ提供者は2015年7月現在152機関ある(18)。こうして集められたメタデータの数は2014年現在、約3,600万件となっており(19)、2008年の約450万件から順調に増加している。
Europeanaでのメタデータ収集はOAI-PMH(CA1513 [129]参照)によっておこなわれている(20)。OAI-PMHは米国デジタル公共図書館(Digital Public Library of America:DPLA;CA1857 [130]参照)でも使われている(21)。Europeanaのメタデータについては、塩崎氏らが国立国会図書館サーチとの比較で論じている(22)。本稿では、コンテンツ・プロバイダから収集したメタデータの流れを中心に解説したい。
Europeanaにおけるデータの流れは大変複雑である(図1)。すなわち、博物館・文書館・図書館などのデータ提供者(Memory Institution)は、国や地域単位のアグリゲータ (National/Regional Aggregator)、博物館・文書館・図書館など、館種別のアグリゲータ(Domain Aggregator)、ファッション・食品・飲料など主題別のアグリゲータ(Thematic Aggregator)など、さまざまなルートでEuropeanaにデータを提供している(24)。
たとえばルーブル美術館の所蔵品のデータは、フランスの国立アグリゲータであるmoteur Collections経由で搭載されているので、提供者としてのルーブル美術館は見つからない。一方直接Europeanaにデータ提供しているところもある。有名なところでは、オラ ンダのアムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)がある。
こうした柔軟性により、Europeanaは多数のデータを集めることができているが、一方、複数のルートから集められるためデータの重複が頻繁に生じることが問題である。また、これらアグリゲータの中には、後述のAthena、AthenaPlusのようにプロジェクトとして構築されたものもあり、その場合は予算が切れるとサイトが閉鎖される可能性もある。そうした場合のデータやリンクの継続性も課題である。
国単位のアグリゲータは提供データ数も大きく、また永続性もある程度保証されているので、Europeanaの核ということができる(表2)。
データ提供者 | 機関数 | メタデータ数 (2014/12) |
国単位アグリゲータ | 34 | 12,528,959 |
館種別アグリゲータ | 4 | 9,441,012 |
EUプロジェクト(主題別) | 33 | 13,097,791 |
その他のアグリゲータ | 5 | 119,282 |
館が直接提供 | 37 | 935,722 |
合 計 | 113 | 36,122,766 |
また2014年におけるコンテンツの種類別の割合は、“Image”が約6割、“Text”が約4割などとなっている(26)。
同様に、主要国の国別のコンテンツ数は、ドイツ、オランダ、フランス、スペインのコンテンツ数が400万前後で拮抗しており、スウェーデン、英国、イタリアが300万前後でこれに次ぐ(27)。
以下主要なアグリゲータを紹介する。
The European Library(CA1556 [131]参照)は欧州国立図書館協会(Conference of European National Libraries : CENL)が運用する欧州48の国立図書館および研究図書館の共同プラットフォームで、これら図書館のメタデータやコンテンツをインターネットで提供している(28)。Europeanaの立ち上がりを人的・技術的に支援し、現在でも協力が続いている。現在でも、各国の国立図書館のデジタル・コンテンツをEuropeanaへ提供するアグリゲータとなっており(29)、1,074万件のデータを提供するEuropeana最大のアグリゲータである。現在の主要なプロジェクトのひとつは欧州の新聞のデジタル化である(30)。
Europeanaにデータを提供しようとする博物館等のためのアグリゲータとしてEUのeContentplusプログラムの中で構築されたプロジェクトである(31)。2008年に開始し、2011年に終了したので、ATHENA自体はデータを公開していない。その後2013年3月にAthenaPlusプロジェクト(32)が開始されたがこれも2015年10月に終了した。
Digitale Collectie(33)はオランダの図書館・博物館等7館のコンソーシアムで、現在、Europeanaには263万件のデータを提供している。
スペインの図書館と博物館のデジタル化プロジェクトのディレクトリで、Europeanaの国単位アグリゲータとなっている(34)。現在、239万件のデータを提供している。
フランス、ハンガリー、ドイツなど15か国、16のフィルム・アーカイブの協力プロジェクトで、2008年に結成された(35)。2012年現在で、Europeanaに約55万件のデータを提供している。その90%は画像、5%がテキスト、5%が動画である。
moteur Collections(36)はフランスの文化通信省が提供しているデジタル・アーカイブのポータルで、フランスの国立図書館、美術館・博物館 (ルーブル、オルセーなど)、文書館などのデジタル・データを提供している。現在、Europeanaには96万件のデータを提供している。
その他、Europeanaでは現在、Europeana Cloud(E1539 [132]参照)を開発中である(37)。小規模のアグリゲータは、Europeanaのためにサーバーを維持したり、メタデータを変換したりするのが大変である。これを支援するのがEuropeana Cloudである。ここでは、データの保存をおこなうほか、メタデータの変換やチェックのためのツール、研究者のためのツールなどを用意する予定である。
Europeanaは2011年から2015年までの戦略方針(38)に基づいて建設されてきた。これを引き継ぐ最新の戦略方針、Europeana Strategy 2015-2020(39)(E1620 [133]参照)は、次のように述べている。
欧州に存在すると推定されるアーカイブのうち、デジタル化されているのは10%程度だと思われる。さらにその内の12%、約3,200万件がEuropeanaに登録されている。さらにその中で、再利用可能なものは35%である(これにはパブリック・ドメイン、クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons : CC)ライセンスのCC0、CC BY、CC BY-SAなどが含まれる(40))。フェアウェイエン氏によれば、目標はその比率を48%まで高めることである。
プラットフォームとしてのEuropeanaは、一般利用者、専門職(図書館、博物館等の文化機関の関係者)、開発者の3つのグループをサポートしている(図2)。専門職はデータを提供し、トラフィックを享受する。開発者は新しいAPIや機能を開発し、Europeanaの再利用を促進する。一般利用者に対しては、使いやすいようにテーマ毎のビューを提供したり、教育のための利用を促進する。
この中心となるのが“Core”とよんでいるメタデータのデータベースである。
具体的な目標として以下の3点を掲げている。
(1)データ品質の向上
メタデータの品質を向上させ、かつオープンなコンテンツを増やす。
(2)データのオープン化
コンテンツの再利用のためデータのオープン化を促進する。
(3)パートナーの利益の創造
パートナー機関の可視性が向上し、コストも削減できるよう努力する。
フェアウェイエン氏によればEuropeana Foundationの組織もこの3つのグループに対応するように組織されている。
出典: Europeana. ‘We transform the world with culture’: Europeana Strategy 2015-2020. p. 11.
Europeanaでは、コンテンツにキーワードを付与するため独自の語彙(vocabulary)を持っているが、同時に他所で開発されている語彙を活用して補強している。Europeanaが活用している語彙には、GeoNames(場所)、GEMET(概念)、DBpedia(概念・エージェント)、Semium Time(時間)のようなものがある(41)。
大きな問題としては、多言語対応がある。Europeanaには30の言語の資料がある。たとえば、「眼鏡」についてのコンテンツを探そうとして英語で“glasses”と入力しても、ドイツ語で“brill”、あるいはフランス語で“lunettes”と記載されていると、現在は見つけることができない。このために外部で利用できる典拠データベースを利用して、Europeanaのメタデータを強化することを考えている(42)。現在利用できる典拠データベースには、VIAF(Virtual International Authority File)(43)(CA1521 [134]参照)、GeoNames(44)、Wikidata(Wikipediaで利用可能なデータベースを提供するプロジェクト)(45)などがある。
絶対数からいえばVIAFの方がWikidata/DBpedia(Wikipediaから抽出された構造化データ)より多いが、Wikidataの方がより多言語である。したがってWikidataを利用している。VIAFの方は同じ言語における綴りの違いが多く収録されている。
またWikidataには概念データもある。たとえば「食品と飲料」という概念についてWikidataには6,600もの「食品」の概念がある。またWikipedia全体には「食品」に関連する記事は60万から120万件あると思われる。
Wikidataには現在1,400万件のデータが登録されており、APIで利用できるほか、オープンデータとしても利用可能である。今後VIAFとWikidataの連携が進められる方向である。EuropeanaとしてはWikidataを用いて、セマンティックの充実を行うとともに、EuropeanaのコンテンツをWikidataにリンクすることを考えている。Wikipediaの記事をつくらなくとも、Wikidataにエントリーを作成することは可能で、自動的に登録することができる。
フェアウェイエン氏によれば、EuropeanaはポータルというよりはAPIのかたまりであるという。このポータルはAPIを使って作られている。メタデータのデータベースはクラウドにある。コンテンツについては直接リンク、またはサイトへのリンクを要求しているが、API開発のためにはAPIがトップページなどでなくコンテンツに直接リンクできないと意味のある表示ができない。
現在APIキーは2,000件発行している。その成果はEuropeana Labs(46)で見ることができる。
フェアウェイエン氏によれば、Googleとの関係については、Google Virtual Exhibition(47)などでGoogle Cultural Institute(E1477 [135]参照)と協力している。
一方Google Art Project(48)については競合関係にある。Google Art Projectは主として大美術館を相手にしているが、Europeanaはより広範な美術館・博物館を対象とすることで差別化したいとのことであった。
Wikipediaとは協力を強めている。一つは前述のWikidataの利用である。もう一つはコンテンツのアップロードである。WikipediaのGLAM-Wikiツールを使うとコンテンツをWikimedia Commonsに簡単にアップロードできる(49)。メタデータはXMLで用意する必要がある。
Europeanaとしばしば並び称されるアーカイブ・ネットワークであるDPLAとはさまざまな協力関係にある。特にメタデータ標準についてはEuropeanaが開発したメタデータ・スキーマ(Europeana Data Model: EDM)(50)をDPLAも利用することとし、これを基礎にしてDPLA Metadata Modelを開発した(51)。フェアウェイエン氏によれば、DPLAではEuropeanaとの同時検索のためのアプリをすでに開発し(52)、Europeanaでは、Europeana、DPLA、Digital New Zealand(ニュージーランド国立図書館の電子図書館ポータル)を横断検索できるツールを開発中である。このような横断検索の実現のためにもメタデータの標準化が必要である。
また著作権などの権利情報の記述についても協力している(後述)。さらにGoogleに対抗するためにVirtual Exhibitions(53)などに使用されるソフトの共同開発も行っている。フェアウェイエン氏によれば、これはSPOTLIGHTというオープンソースのツールを使っている。
先に述べたように、Europeanaではコンテンツの再利用に力を入れている。再利用ができなければAPIを使ったアプリでコンテンツを表示・加工することも制限され、教育での利用などが広がらない。再利用のためには、正確な権利情報の記述が必要となる。現在Europeanaで再利用可能を明示するために使われているものは、Public Domain Mark(PDM)、Out of copyright - non commercial re-use(OOC-NC)、CC0やCC BYなど、合計9種類である(54)。
Europeanaは権利関係の記述についてもDPLAと協力して標準化をすすめている。その報告書(55)では、CCライセンスに加えて著作権が保護されているもの、パブリック・ドメインのものなど11種類の権利表示を提案している。
EuropeanaはEUの強いイニシアチブと、各国の博物館・文書館・図書館の積極的な協力により影響力のあるアーカイブ・ネットワークに成長した。DPLAとの協力も進展し、合わせて西欧文化の壮大なパノラマを提供している。わが国で学ぶべきことは次のような取り組みであると考える。
1.政府と各機関の協力の仕組みを構築する
Europeanaは多数の国家の統合体であるEUの中で、政治的な思惑を超えて、国あるいは民間の機関との連携によって構築されたという点が画期的である。理念を先行させてエゴイズムを克服した点が成功の鍵であったと考えられる。
2.コンテンツの公開に対する文化機関の消極性・閉鎖性を打ち破る
この点はEuropeanaでも必ずしも成功しているとは言い難い。大美術館・博物館の多くは、コンテンツの独自公開、もしくはGoogle Art Projectなどに注力しており、Europeanaへの協力は十分とはいえない。コンテンツの再利用についてもまだまだ消極的である。このことはわが国でも同様である。
3.APIを中心としたシステムを中央でも地方でも構築する
わが国のシステム開発、特に図書館システムを含む公的システムにおいては、伝統的なパッケージ開発が中心である。EuropeanaはデータベースのまわりにAPI群を開発し、インタフェースはAPIを利用して自由に作成できる仕組みをとっており、外部のボランティアがどんどん便利なツールを開発できる。このようなオープンな仕組みがデジタル・アーカイブには好ましい。
4.メタデータのCC0による公開を促進する
CC0とは、著作者が著作権を放棄することを示す。Europeanaではコンテンツを記述する情報(キーワードなども含め)はCC0と規定しており、誰でもAPIなどで自由に利用できる。わが国ではまだそのコンセンサスがない。
5.若い人の力を活用する
EuropeanaではAPI開発を中心にさまざまなワークショップがある。各国の図書館や博物館、大学生などが参加して活発な活動をおこない、それがシステムに反映されている。企業に丸投げしたシステムと異なり、いわば「開発者の顔が見える」システムである。わが国でもCode4Libなどの活動があるので、これらの力を借りることが望ましい。
わが国では「産学官」の協力ということがしばしば語られる。Europeanaは、「国、図書館・博物館・文書館、ギーク(ITに関する高い知識と技術力を持つ人々)」の協力の結実ということができよう。わが国とは置かれた環境が異なるものの、学ぶところは多い。
(1) 文化庁. “文化関係資料のアーカイブに関する有識者会議 中間とりまとめ”. 2014-08-27.
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/bunka_archive/pdf/torimatome.pdf [136], (参照 2015-11-18).
(2) “国際シンポジウム「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会図書館サーチ」”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20150122sympo.html [137], (参照 2015-11-18).
(3) 福井健策. 誰が「知」を独占するのか−デジタルアーカイブ戦争. 集英社, 2015, p. 39-44.
時実象一. デジタル・アーカイブの最前線. 講談社, 2015, p. 163-164.
(4) 鈴木雄一, 玉井克哉, 村上愛. EU における電子図書館構想と著作権-孤児著作物問題の検討をかねて. 研究報告電子化知的財産・社会基盤(EIP). 2013, 2013-EIP-62(3), p. 1-8.
(5) ジャン・ノエル・ジャンヌネー. 佐々木勉訳・解題. Googleとの闘い 文化の多様性を守るために. 岩波書店, 2007, 166p.
(6) “Timeline of digitisation and online accessibility of cultural heritage”. Digital Agenda for Europe.
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(9) Wayback Machine.
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(18) Europeana. “Providers”.
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(19) Europeana Pro. “Annual Report for 2014”.
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(20) “D5.3.1 – Europeana OAI-PMH Infrastructure – Documentation and final prototype”. Europeana Connect. 2010-10-11.
http://www.europeanaconnect.eu/documents/01_Europeana_OAI_PMH_Infrastructure.pdf [151], (accessed 2015-11-18).
(21) 時実象一. 米国デジタル公共図書館 (Digital Public Library of America: DPLA). 図書館雑誌. 2013, 107(2), p. 118-120.
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(23) Henning Scholz. “D1.1: Recommendations to Improve Aggregation Infrastructure”. Europeana Pro. 2015-03-03, p. 9.
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(24) Europeana. “Providers”.
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(25) Henning Scholz. “D1.1: Recommendations to Improve Aggregation Infrastructure”. Europeana Pro. 2015-03-03, p. 10.
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(26) Europeana Statistics Dashboard. “Content”.
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(27) Ibid.
(28) The European Library.
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(29) Valentine Charles, Nuno Freire, Antoine Isaac. “Links, languages and semantics: linked data approaches in The European Library and Europeana”. IFLA 2014 Lyon.
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(36) moteur Collections.
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(37) Europeana Pro. “Europeana Cloud”.
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(39) Europeana. “‘We transform the world with culture’: Europeana Strategy 2015-2020”.
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(41) Valentine Charles, Hugo Manguinhas, Antoine Isaac, Vladimir Alexiev. “Wikipedia, a target for Europeana's semantic strategy”. SlideShare.
http://www.slideshare.net/valexiev1/wikidata-a-target-foreuropeanas-semantic-strategy-glamwiki-2015 [168], (accessed 2015-06-17).
(42) Ibid.
(43) VIAF (Virtual International Authority File).
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(44) GeoNames.
http://www.geonames.org/ [170], (accessed 2015-11-18).
(45) Wikidata.
https://www.wikidata.org/ [171], (accessed 2015-11-18).
(46) Europeana Labs.
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(47) Europeana Blog. “New Virtual Exhibition: “To My Peoples!””. 2014-07-23.
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(48) Art Project.
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(49) “Wikipedia:Wikipedia Signpost/2014-07-23/News and notes”. Wikipedia.
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Liam Wyatt. “Sharing multimedia on Wikipedia now easier with new tool”. Europeana Pro. 2014-07-22.
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(50) “Europeana Data Model Documentation”. Europeana Pro.
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“Introduction to the Europeana Data Model (EDM)”.Europeana Pro.
http://pro.europeana.eu/files/Europeana_Professional/Share_your_data/Technical_requirements/EDM_Documentation/EDM_slides_130714.ppt [178], (accessed 2015-11-18).
(51) “An introduction to the DPLA Metadata Model”. DPLA. 2015-03-05.
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(53) Europeana Exhibitions.
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(54) Europeana Pro. “Available rights statements”.
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(55) International Rights Statements Working Group. “Recommendations for Standardized International Rights Statements”. 2015-05.
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[受理:2015-11-18]
時実象一. 欧州の文化遺産を統合するEuropeana. カレントアウェアネス. 2015, (326), CA1863, p. 19-25.
http://current.ndl.go.jp/ca1863 [184]
DOI:
http://doi.org/10.11501/9589935 [185]
Tokizane Soichi.
Europeana - Integrating European Cultural Heritage.
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調査及び立法考査局経済産業課:渡邉太郎(わたなべ たろう)
公衆を対象とした商業放送の歴史は、1920年に米国で開局したKDKAをはじめとするごく少数のラジオ局までさかのぼることができる(1)。発祥の地である米国は、1,784のテレビ局と1万5,358のラジオ局を抱え(2013年12月現在)、今や世界で最も放送が普及した国といわれている(2)。また、放送事業そのものの活況に加え、後々の検証や研究を目的として、多様な主体によって放送番組(以下「番組」)が収集・保存され、利用に供されている点に、米国の放送メディアの成熟度が表れてもいる。
筆者は、国立国会図書館電子情報部電子情報企画課在籍時の2015年3月に、米国の3つの放送アーカイブ(3)を訪問する機会を得た。本稿では、その際のヒアリング内容を基に、米国における放送アーカイブの現状を紹介する(4)。なお、本稿の意見に属する部分は筆者の私見である。
ペイリーメディアセンター(The Paley Center for Media)(5)は、1975年にCBS(CBS Broadcasting)会長のペイリー(William S. Paley)によって設立された非営利組織で、メディア業界やメディアに関心のある人々のために、テレビ、ラジオ等の文化・創作・社会的意義に関する議論の先導的役割を果たしている(6)。ニューヨークに本部(写真1)、ロサンゼルスに支部があり、番組を収集・保存・利用提供するだけでなく、業界関係者のための会合や一般公衆向けのセミナー等の啓蒙活動を精力的に行っている。放送アーカイブとしての機能(収集・保存・利用提供)に携わる職員は合計21名である。
番組の収集は5名のキュレーターの「目利き」による選択的なもので、放送局との契約・寄贈に基づいて物理媒体によって行われており、同センターでは日本も含むおよそ80か国の番組(テレビ、ラジオ、CM)約16万本を所蔵している。大多数の番組は放送局がかつて利用していた旧式の媒体で保存されており、U規格カセットテープ(約50%)、ベータカム・デジタルベータカム(約20%)、D2カセットテープ(約10%)などのほかに、1インチや2インチのオープンリール式テープ類も保存している。
所蔵資料はオンラインデータベース(7)から検索可能だが、番組の視聴はニューヨーク及びロサンゼルスの施設内ライブラリーでのみ可能である。会員以外は10ドルの入館料が発生するものの、目的を問わず誰でも利用できる。なお、番組の複製等のサービスは行っていない。個人的な関心を動機とした者が利用者の6割以上を占め、残りは研究者、学生、会員等である。
メタデータは専属の担当職員3名が番組を視聴しながら一から作成しており、1時間番組のメタデータを作成するのに3時間半程度かかるとのことだった。メタデータには、放送局、放送時間、出演者、解題等の情報が含まれ、作成のための基準はあるが独自のものであり、明文化されている訳ではない。
デジタル化から保存・提供のワークフローはおおむね次のように進む。まず、アナログ形式の媒体の場合はデジタル変換、ノイズ除去等を行う(現状では作業の95%以上がアナログ媒体からのデジタル化である)。その後、ノンリニア編集(8)ソフトによって編集され、旧来のアナログテレビ相当の画質であるSD(Standard Definition)規格8bitの非圧縮MOV形式のファイルとして、容量96TB(テラバイト)のNAS(9)に保存される。当該ファイルからは自動的にWMV、MPEG2及びH.264の各形式の視聴用ファイルが作成され、元ファイルは保存用のLTO(10)テープに格納される。ニューヨークとロサンゼルスの施設内にある端末からは、WMVとH.264形式のファイルをストリーミングで視聴することが可能で、ロサンゼルスで視聴するためのファイルは、クラウドサービスに保存されている。保存用のLTOテープは、130km程離れたストレージ会社の倉庫に保管されている。
デジタル化の優先順位はもっぱらキュレーターの選択や利用者のニーズに基づいて決められており、媒体の劣化状況等は特段考慮されていない。1日におおむね1~2TB分の番組がデジタル化されるが、デジタル化設備と施設内にある劇場での上映のための設備が同一のため、イベントで上映を行う際にはデジタル化作業は中断される。現在、およそ3万7,000本の番組約3万時間分をデジタル化済で、保存用のファイルの総容量は2.5PB(ペタバイト)に達する。
ヒアリングでは、課題として、メタデータ作成とデータ登録の作業を限られた人員で行うための業務プランの改善が必要であることが挙げられていた。また、放送業界の再編が進み、各放送局間の競争が強まる中で、番組収集のための放送局との交渉も難しくなってきており、限られた予算内での番組の選定が収集部門における課題となっていた。
ヴァンダービルト大学テレビニュースアーカイブ(Vanderbilt Television News Archive:VTA)は、大学図書館の一施設としてテネシー州ナッシュビルに設置された、テレビのニュース番組に特化したアーカイブである。職員は6名で、1968年の設立以来、三大ネットワーク(ABC(American Broadcasting Company)、CBS、NBC(National Broadcasting Company))の夕方のニュース番組を録画によって収集・保存しているほか、近年はニュース専門局であるCNN(Cable News Network)(1995 年~)やFox News(2004年~)も対象に含めている。また、そのほかに特別コレクションとして大統領の演説、選挙、戦争、9.11テロなど主要な出来事に関するニュースも別途保存しており、現在約7万本のニュース番組の約107万項目のニュースが利用可能である(11)(12)。
所蔵資料はオンラインデータベース(13)から検索可能で、誰でも来館利用が可能だが、特徴的なのは、学内外の利用者に対して有料で複製物を提供している点である。複製サービスには、①単純な番組の複製(Duplication)と、②必要な箇所を複製・編集して1つにまとめるもの(Compilations)の2種類があり、手数料や送料等の実費程度の料金で利用可能である(14)。インターネット経由で依頼が可能で、DVD又はVHSが配送されるが、複製物の提供はあくまで米国著作権法第108条第(f)項第(3)号に基づく「貸出」であり、利用者は通常1か月程度で媒体を返却することが求められる。
なお、権利権限により視聴覚ニュース番組の複製・貸出を明確に認める当該規定は、VTAが業務を開始した当時は存在しておらず、CBSは1973年にこのサービスが著作権侵害に当たるとして訴訟を起こしている。しかし、VTAの果たす役割に対する配慮もあり、1976年の著作権法改正で同規定が新設されたことにより、裁判は訴えの取下げをもって終了した(15)。そのため、同規定は「ヴァンダービルト条項」とも呼ばれる(16)。
複製物貸出の約4割は研究者や学生による利用だが、近親者や知人が出演したニュース番組を視聴したいといった娯楽目的の利用や、ドキュメンタリー番組の製作など仕事に関連した利用も多い。一方で、実際にVTAに来館して視聴する利用者は、約9割が大学の教員や学生で、文理の別を問わずほとんど全ての分野の学生が利用するという。
また、2008年からはNBC及びCNNとの契約により、有料の登録を行った米国とカナダの大学に対して、ストリーミングでニュース番組を提供している。最新のニュースは放送から72時間待たなければならないが、登録している大学の教員や学生は、自学のキャンパス内でNBCとCNNのニュース番組を自由に視聴することができる(17)。現在126機関が登録しており、利用は通常1日に50~100件程度だが、大学の授業や課題等でニュース番組が利用されることで、急激に利用件数が増加する日もあるとのことだった。
2003年以降、番組の録画は10チャンネルを同時に録画可能なデジタルビデオレコーダー(Snap Stream)とMicrosoft WindowsのPC7台を用いて自動的に行われており(写真2)、保存用のファイルはSD規格のMPEG2(動画の品質は6Mbps)形式、ストリーミング用のファイルはReal Media形式で、それぞれサーバーに保存される。保存用のファイルの総容量は現在150TB程度である。まれに気象状況等の影響で録画に失敗することもあり、その場合はニュースモニタリング会社から番組を購入することもあるという。
複製用のファイルはDVD-Rでも保存しており、古い年代の番組については旧式の媒体も多く残っていたが、国立科学財団(National Science Foundation)や全米人文科学基金(National Endowment for the Humanities)からの補助金等を利用して、2000年代に大規模なデジタル化を実施した(18)(19)。データベースに登録されたニュース番組は全てデジタル化済だが、一部登録されていないテープ群もあり、現在はイラク戦争関連の特別コレクションのデジタル化を実施中である。なお、VTAで録画されたニュース番組は長期保存用に米国議会図書館(Library of Congress:LC)に送付され、LCではそれらを恒久的に保存するとともに、利用にも供している。
メタデータは全て手作業で作成しており、独自の作成ルールを持っているが、これは1995年まで紙媒体の解題索引“Television news index and abstracts”を作成してきた経験に基づくもので、明文化されたものではない。件名やシソーラスといったものも使用していないが、用語の選定には“New York Times”や“Facts on File”を参照している(20)。ニュースで取り上げられた単語や文章を単純にそのまま引用する訳ではなく、前例や経験に基づいて要約するのが特徴で、30分のニュース番組のメタデータを作成するのに、熟練した職員でおよそ1時間半かかる。大統領選が近づくと、メタデータを作成するニュースの話題の3分の1はそれに関連した内容になるとのことだった。
VTAにおける最大の課題は、このメタデータ作成に携わる人員の確保である。日々録画されていくニュースひとつひとつに人手で解題を付与するのは時間がかかる上、相応の教養や経験も求められるが、多くの職員は高齢化して後任も育っていない。ヒアリングでは、Internet Archive(21)を念頭に、クローズドキャプション(22)利用の可能性も言及されたが、当面は従前の方法でメタデータ作成を続けるようであった。
LCは、図書や雑誌等の紙資料だけでなく、番組を含む録音・映像資料も収集しているが、その収集・保存業務はワシントンD.C.にある本館ではなく、ヴァージニア州カルペパーにある国立視聴覚資料保存センター(National Audio-Visual Conservation Center:NAVCC)が担当している(CA1711 [200]参照)。NAVCCでは、約300万点の録音資料と約150万点の映像資料を所蔵しており、うちおよそ100万点がラジオ番組、50万点がテレビ番組と推定されている。
大半の資料は著作権登録手続きの過程で納入されるもので、毎週ワシントンD.C.からトラックで配送されており、U規格カセットテープからBlu-ray Discに至るまで、ありとあらゆる媒体が含まれる。
NAVCCでは、精力的にデジタル化を実施しており、とりわけU規格とVHSビデオのテレビ番組に関しては、全自動のデジタル化システム(SAMMA)(23)4台が絶えず稼働することで着実にデジタル化を進めている(写真3)。SAMMAでは、ロボットアームが棚に並べられたテープの背面に貼られたバーコードを読み取り、対象の資料をデッキに挿入してデジタル化する。オープンリールで保存された番組もデジタル化しているが、こちらは人手でセットしている。磁気テープ類のデジタル化においては湿度がその成否の重要な要素となるが、作業エリアは湿度までは制御されていないため、夏季など湿度が高い日は作業を行わないということだった。ラジオ番組等の録音資料についても、媒体種別ごとに分かれた9か所の録音ブースでデジタル化を行っている。こうしたデジタル化の作業ポイントは50か所以上あり、システム全体を通じたスループット(現在は最大6Gbps)をどのように最大化するかが課題となっている。
デジタル化の対象資料は、閲覧室(利用者)からの要求とキュレーターの選択によって決めている。デジタル化に先立ち、資料は必要に応じて専用のオーブンで2日間かけて乾燥させられる。これによりバインダーが空気中の水分によって分解し、テープがべたついてしまう「スティッキー・シェッド」が一時的に解消するため、古い資料でもデジタル化が可能となる。また、故障したものも含め、あらゆる型番の再生機器を保管しており、現役の再生機器が故障した際の部品交換等を自前で行っている。
デジタル化のファイル形式は、映像(SD規格)の保存用ファイルがJPEG2000 Lossless(reversible 5/3)MXF OP1a、提供用ファイルがH.264/MOV、音声の保存用ファイルがBroadcast WAV(BWF RF64)96kHz/24bit、提供用ファイルがWAV 44.1kHz/16bitである。デジタル化されたファイルは一旦ディスクアレイ(24)に保存され、代替施設に保存するためのバックアップファイルが作成される。全てのファイルは、生成と同時に技術的なメタデータが自動的に作成され、定期的にSHA-1(25)ダイジェストによる完全性検査を受ける。NAVCCに保管されるファイルは、最大容量49PB(空きスロットも含めた容量。既に用意されているテープは7.5PB分)のテープライブラリに保存され、アクセス時には該当するテープのファイルがディスクアレイにアップロードされる。リクエストからアクセスまでの時間は20GBのファイルでも5分以下とのことである。現在、合計で約5.2PB分のファイルが保存されており、1日平均4TBずつ増加している。
また、NAVCCでは現在、264チャンネル分のテレビ・ラジオ番組を同時に直接録画・録音するためのシステム(Live Capture)を構築中である。NAVCCでは、近接する4つのテレビ放送圏の地上波放送、衛星放送(DirecTV 及びDish Network)、有線放送、FM放送が受信可能で(26)、Snap StreamとApple社のMac Miniを使用して既に複数のチャンネルを同時録画できるようになっているものの、ファイル形式の変換や、24時間録画され続ける番組のメタデータ作成にかかる膨大なコストがネックとなっているため、システムの改良が検討されている。
NAVCCで保存されている番組を含む録音・映像資料は、ワシントンD.C.にあるLCの2つの閲覧室(録音資料レファレンスセンター(Recorded Sound Reference Center)、映像・テレビ資料閲覧室(Motion Picture and Television Reading Room))で提供されている。両閲覧室とも、調査研究目的で事前予約した場合に限り、無料で視聴可能である。有料の複製サービスも提供されているが、著作権保護期間が満了していない資料については、利用者が著作権者の許諾を得る必要がある。利用者は閲覧室内に設置された端末から専用の検索システムで資料を検索し、デジタル化されている場合はその場で、デジタル化されていない場合は資料を請求した上で後日視聴することが可能である。デジタル化済の資料はごくわずかであり、特にデジタル化に要する時間が比較的長い映像資料は、ほとんどが週に1度の媒体の搬送によって提供されている。また、必ずしも全ての資料が検索システムに登録されている訳ではなく、カード目録を含む複数の検索手段を併用する必要があることが、膨大な資料を所蔵するLC ならではの課題でもある。
日本の放送アーカイブとしては、埼玉県川口市のNHKアーカイブスや神奈川県横浜市の放送ライブラリーなどが挙げられるが、その収集範囲や公開の自由度といった面で、米国には遠く及ばない。
例えば、NHKアーカイブスは、著作権法で規定される「公的な記録保存所」として例外的に6か月を超える番組の保存が可能だが、その公開に当たっては権利処理が前提となるため(27)、公開番組数は所蔵のごく一部にとどまる(28)。また、放送ライブラリーは放送法に規定された「放送番組センター」によって運営されるが、その事業資金のほとんどは民放各社とNHKが出捐しており、収集対象となる番組は「賞を受けた番組」や「記録として価値のある番組」等に限定される(29)(30)。
放送済の番組の保存や限定的公開が、権利者や放送局の判断のみに委ねられるとすれば、文化の発展や公共財たる電波を用いる放送の公共性といった観点からは、必ずしも好ましい状況とはいえない。政治・社会・文化等の様相を伝える貴重な資料である番組を、価値判断を排して網羅的に保存し、利用しやすい形で次世代に受け継ぐために、より良い放送アーカイブのあり方に関する丁寧な議論が求められる。
(1) 日本放送協会編. 20 世紀放送史 上. 日本放送出版協会, 2001, p. 21-23.
(2) NHK 放送文化研究所編. NHK データブック 世界の放送2015. NHK出版, 2015, p. 255.
(3) 本稿において「放送アーカイブ」とは、放送番組を収集、整理、保存して、有償・無償の別を問わず、視聴又は貸出等の形で公衆に提供する機関を指す。
(4) 特段の注記がない限り、各機関の情報は、2015年3月訪問時のヒアリング内容に基づく。
(5) 村中智津子. 活用するためのアーカイブ「ザ・ペイリー・センター・フォー・メディア」. AURA. 2009, (198), p. 48-49.
(6) “Mission”. The Paley Center for Media.
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(7) “The Collection Advanced Search”. The Paley Center for Media.
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(8) デジタル技術により、時間軸に縛られずに任意の場所の編集が可能な映像編集方式。
(9) Network Attached Storageの略。ネットワーク経由での利用が可能な外部記憶装置。
(10) Linear Tape-Openの略。IBM社、Hewlett-Packard 社、Seagate Technology社の3社が共同で策定した磁気テープ記憶装置の規格。
(11) “Television News Archive”. Vanderbilt Television News Archive.
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(20) Althaus, Scott L et al. Using the Vanderbilt Television Abstracts to Track Broadcast News Content: Possibilities and Pitfalls. Journal of Broadcasting & Electronic Media. 2002, 46(3), p. 473-492.
(21) “TV NEWS”. Internet Archive.
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(22) 主に聴覚障害者を対象とした、番組中の音声を文字で表示する機能で、Internet Archiveでは保存したニュース映像の検索に利用されている。
(23) “SAMMA - System for the Automated Migration of Media Assets”. Vimeo.
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(24) 複数のハードディスクを一つの補助記憶装置としてコンピューターに認識させて利用するシステム。
(25) 元の数値や文字列から固定長の擬似乱数(ダイジェスト)を生成するハッシュ関数の一つ。デジタル認証やデータの完全性検査に利用される。
(26) AM 放送と短波放送は現在対象としていない。
(27) ただし、記録保存所において保存を認める趣旨から、学術研究を目的とする部外者の求めに応じて記録した番組を再生して視聴に供する等の行為については、問題ないとの解釈も示されている(加戸守行. 著作権法逐条講義(六訂新版). 著作権情報センター, 2013, p.342.)。
(28) “よくある質問/お問い合わせ”. NHK アーカイブス.
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