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2018年 (通号No.335-No.338:CA1915-CA1943)

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No.338 (CA1939-CA1943) 2018.12.20

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No.338の 表紙 [1]と 奥付 [2](PDF)

CA1939 - 公共図書館の地域資料を活用した没年調査ソンのすすめ~福井県での事例から~ / 鷲山香織

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PDFファイル [3]

カレントアウェアネス
No.338 2018年12月20日

 

CA1939

 

 

公共図書館の地域資料を活用した没年調査ソンのすすめ
~福井県での事例から~

福井県立図書館:鷲山香織(わしやまかおり)

 

1. はじめに

 「没年調査ソン」は図書館資料等を使って著作者の没年をひたすら調べるイベントである(1)。2016 年、京都府で初めて開催され(E1847 [4]参照)、回を重ねている。福井県では京都府での取り組みを参考に、福井県立図書館(以下「当館」)を会場にして、2018年5月に初めて開催した。本稿では、没年調査ソンの概要と、福井県での成果を紹介することで、地域資料活用の裾野を広げたい多くの公共図書館に没年調査ソンの実施を勧めたい。
 

2. 没年調査ソンとは

 「没年調査ソン」は、著作者の没年調査とマラソンを掛け合わせた造語で、短時間で集中し、みんなで図書館資料等を用いて、著作者の没年を調べるワークショップである。2016年9月、京都府立図書館の自主学習グループ「ししょまろはん」(2)が企画し初めて開催され、その後、表のとおり開催されている。

 

表 没年調査ソンの開催一覧

開催日 イベント名 会場 没年判明数
2016年9月3日 没年調査ソンin京都 vol.1 京都府立図書館 16人
2017年9月23日 没年調査ソンin京都 vol.2 京都府立図書館 31人*
2018年5月26日 没年調査ソンin福井 福井県立図書館 32人
2018年9月22日 没年調査ソンin京都 vol.3 京都府立図書館 -

*後日1人追加。
出典:「 ししょまろはんラボ」ウェブサイト,「没年調査ソンin 福井(福井ウィキペディアタウンin足羽山前夜祭)」のFacebookページ

 

 さて、国立国会図書館は資料のデジタル化を進めているが、そのうち、著作権の保護期間が満了しているもの、または文化庁長官の裁定(E1785 [5]、CA1873 [6]参照)を受けたもの、著作権者の許諾を得たもの等、著作権処理の済んだ資料は、「国立国会図書館デジタルコレクション」(3)で本文の画像がインターネット公開されている。インターネット公開されていないものは、国立国会図書館の図書館向けデジタル化資料送信サービスの参加館内(CA1911 [7]参照)、または、国立国会図書館館内でのみ閲覧することができるが、この中には、著作者の没年が判明し著作権保護期間の満了が確認できれば、インターネット公開できるものが含まれている。国立国会図書館は、文化庁長官裁定を受けてインターネット公開を行っている資料について、著作権保護期間満了による公開や、著作権者の許諾による公開とできるよう、著作者/著作権者に関する公開調査を実施しており、公開調査対象の著作者は約4万9,000件(4)である。また、現在インターネット公開となっていない資料を公開するためにも担当係で著作者の没年調査を行っているとのことだが、とても調査しきれる分量ではないとのことである。一方、地域資料は国立国会図書館に所蔵がないものを、地域の図書館で所蔵していることも多い。そこで、地域にゆかりのある著作権者の没年調査に地域の図書館が協力することを、「ししょまろはん」は呼びかけている(5)。
 

3. 没年調査ソンin福井

 没年調査ソン in 福井は、当館・福井県文書館(以下「文書館」)・福井県ふるさと文学館主催の「福井ウィキペディアタウン in 足羽山」の前夜祭として、福井県庁職員の自主勉強会「チーム福井ウィキペディアタウン」の主催で開催した(6)。ウィキペディアタウン(CA1847 [8]参照)は、まち歩きをし、その際見たものを図書館等の資料で調べ、インターネット上のフリー百科事典Wikipediaに記事を作成するワークショップである。当館では、2017年11月に初めて開催し(7)、 2回目の開催であった。ウィキペディアタウンは調べることを通じて、参加者に図書館の機能を知ってもらう目的がある。図書館資料を紐解き、わかる楽しさ、知る喜びを体験することは、さらなる利用へとつながる。没年調査ソンにも、ウィキペディアタウンと同様に調べる楽しみを知るイベントになることを期待した。

 没年調査ソン in 福井は、翌日の福井ウィキペディアタウンの参加者を中心に図書館司書、学校司書、文書館職員、Wikipedia編集者など11人が参加した(8)。事前に国立国会図書館関西館電子図書館課著作権処理係(以下「著作権処理係」)から、調査対象として、福井県にゆかりのありそうな以下の2種類の著作者リストの提供を受けた。

  • 国立国会図書館の著作者情報公開調査ページから、肩書に「福井」または著作者の出版地に「福井」が入っている著者を抽出したリスト(以下「リスト1」。244人掲載。)
  • 国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities:Web NDLA;E1198 [9]参照)(9)から、肩書に「福井」が入っている著者を抽出したリスト(以下「リスト2」。481人掲載。)

 2種類のリストを見ると、前者は、国立国会図書館が文化庁長官裁定を受けるための要件である名簿等での調査や外部機関への問い合わせ等を行っても没年が判明しなかった著作者であることもあり、初めて目にする人物ばかりで高い調査力が要ることがみてとれた。後者は基本的にまだ生没年調査を行っていない著作者であり、地元の筆者らから見ると簡単に没年が判明しそうな人物が散見され、難易度は低いと感じた。

 当日は、まず、「没年調査ソン in 京都 Vol.2」で著作権処理係の佐藤久美子氏が講師を務めたレクチャーのスライド「国立国会図書館の没年調査について」を用いて没年調査の方法や意義について学んだ。その後、当館の郷土資料コーナー、一般的な人名事典、当館ウェブサイトに公開されている人物文献索引「ふくいの人物について調べる」(10)等を使いながら各々の方法で没年調査を進めた。会場にはホワイトボードを用意し、没年が判明したら、ホワイトボードに書き出し、後で確認できるように根拠資料のコピーをとった。調査は2時間30分ほど行い、その後各々の調べ方と成果について共有する時間を持った。
 

図1 調査の様子

 

図2 没年が判明した著作者を書き出したホワイトボード

 

4. 没年の調べ方の共有から得られた知見

 調べ方は大きく分けると次の2通りであった。

  • 特定の人物を選び人名事典、書籍、インターネット等にて調査する方式(レファレンス方式)
  • 特定の人名事典、書籍等に掲載されている人物が調査対象リストに載っているかを調査する方式(照合方式)

 前者の方式は、リストから、各自の興味関心に基づき人物を選んで調査を進める。ある文書館職員は、リストにあった「石黒湖東」を元県知事・石黒務の雅号と推察し調査をはじめ、人名事典の記述により同定した。調査には、このほか、国立国会図書館デジタルコレクション、Googleブックス(11)、福井県文書館・図書館・ふるさと文学館デジタルアーカイブ(12)を検索し、調査の糸口を見つける参加者もあった。新聞記事データベース(以下「新聞記事DB」)や国立国会図書館のリサーチ・ナビに掲載の「目次データベース」(13)も有用である。当館では新聞記事DBは「日経テレコン」に限られるが、他の全国紙、地元紙等の新聞記事DBがあればもっと判明したはずだ。

 後者の方式は、郷土資料コーナーにある人名事典や人物が多数掲載された書籍から特定の1冊を用いて、その 1 冊の人名を、リスト2の人名と照合していく。ある参加者は、『福井県人物・人材情報リスト』(14)に掲載された人名を片っ端から黙々とリスト2と照合させ、多数の人物の没年を判明させた。なお、この方式では、リスト2に照合させる方法のほか、直接 Web NDLAにて、検索する方法をとった参加者もあった。リスト2は、Web NDLAから肩書に「福井」が含まれる著者を抽出したものであり、「福井」が含まれない著者は抽出されていない。データは書籍の奥付等を典拠としており、書籍には「福井」の記載はなくとも福井ゆかりの著作者もおり、Web NDLAを直接検索することで、より幅広い人物を対象に調べることができる。

 後者の方式は、地域資料になじみのない参加者であっても、没年をきっかけに、地域資料を読んでいき、いわばゲーム感覚で没年を見つける楽しさを体験できる。前者の方式で特定の人物を追求する場合、判明したときの喜びは大きいが、行き詰まる参加者も見受けられた。見つけることは純粋に楽しく、もっと見つけたいという気持ちが働く。特に調べることに不慣れな参加者には、後者の方式を体験できるよう主催者は準備したい。

 

5. 没年調査ソン in 福井の成果

 調査の結果、32人の没年が判明した。国立国会図書館による確認作業を経て、著作者情報公開調査のデータや典拠データに反映された。早いものでは即日反映されたものもあった。国立国会図書館デジタルコレクションでは、合計9点が保護期間満了として、パブリックドメイン(PD)に切り替えられ、その後追加調査したものも含め、Web NDLAへ37件が登録された。自分たちの調査の結果が国立国会図書館のデータに反映され、PDになるという目に見える成果が、参加者の喜びとなり、没年調査ソンが社会貢献につながる手応えを感じた。

 

6. おわりに

 公共図書館は、地域に関する資料を収集、保存、提供している。国立国会図書館、大学図書館、公共図書館など、図書館にはそれぞれの機能や役割があるが、公共図書館それぞれの館の特徴となる資料群は、地域資料である。図書館法第3条1項においても、公共図書館における地域資料(郷土資料)について、十分留意して収集し、一般公衆の利用に供すべき資料として挙げられている。地域資料は、地元の公共図書館こそが多く所蔵しており、インターネットにはない情報も数多い。一部の研究者や郷土史愛好家にはよく使われている地域資料を、もっと広く住民にアピールすることは公共図書館の日々の課題である。

 没年調査ソンは、公共図書館が収集している地域資料のアピールや、地域資料活用を体験する手段として、有効である。「ししょまろはん」は、一見地味な没年調査を、ネーミングもあいまって、参加型で楽しく魅力あるイベントに引き上げた。さらには、著作権の保護期間を確認するために没年調査を行うという側面から、著作権の周知にも使える。没年が判明することにより著作権の保護期間満了が確認されれば、インターネット公開になりオープンデータも増えるなど、一粒で幾度もおいしい企画である。本稿がより多くの公共図書館で没年調査ソンが広まる一助となれば幸いである。


(1)是住久美子. 没年調査ソン in 京都 Vol.1開催報告. ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2016, (611).
http://www.arg.ne.jp/node/8592 [10], (参照 2018-08-30).

(2)ししょまろはんラボ.
http://libmaro.kyoto.jp/ [11], (参照 2018-08-30).

(3)国立国会図書館. “国立国会図書館デジタルコレクション”.
http://dl.ndl.go.jp/ [12], (参照 2018-08-30).

(4)国立国会図書館. “著作者情報公開調査”. 国立国会図書館デジタルコレクション.
https://openinq.dl.ndl.go.jp/search [13], (参照 2018-08-30).
著作者情報公開調査の検索ページにおいて、何も入力せずに検索すると全件検索することができる。全件検索すると検索結果は4万9,430件(2018年8月30日現在)。

(5)是住久美子. 没年調査ソン in 京都 Vol.1開催報告. ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2016, (611).
http://www.arg.ne.jp/node/8592 [10], (参照 2018-08-30).
ししょまろはん. “Lodチャレンジ2017アイデア部門応募作品 没年調査ソン”. SlideShare.
https://www.slideshare.net/kumikokorezumi/lod2017 [14], (参照 2018-08-31).

(6)没年調査ソンin福井(福井ウィキペディアタウンin足羽山前夜祭).
https://www.facebook.com/events/388166654926400/ [15], (参照 2018-10-01).

(7)鷲山香織. “福井ウィキペディアタウンを開催して”.
ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2017, (673).
http://www.arg.ne.jp/node/9178 [16], (参照 2018-10-15).

(8)参加者のブログ記事に以下のものがある。
Asturio Cantabrio. “ 「没年調査ソンin福井」に参加する”. 振り返ればロバがいる. 2018-06-01.
http://ayc.hatenablog.com/entry/2018/06/01/170250 [17], (参照 2018-09-10).

(9)国立国会図書館. “国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)”.
https://id.ndl.go.jp/auth/ndla [18], (参照 2018-09-10).

(10)福井県立図書館. “ふくいの人物について調べる”. 福井県立図書館. https://www.library.pref.fukui.jp/winj/reference/search.do [19], (参照 2018-09-03).
URLは、2019年4月に変更予定。

(11)Google. “Googleブックス”.
https://books.google.co.jp/ [20], (参照 2018-09-10).

(12)“福井県文書館・図書館・ふるさと文学館デジタルアーカイブ”. 福井県文書館. http://www.archives.pref.fukui.jp/archive/search_keyword.do [21], (参照 2018-09-10).
URLは、2019年4月に変更予定。
文書館にある歴史的公文書、古文書等や当館保管の松平文庫等の目録を検索し、画像データがあれば、目録の検索結果からリンクして閲覧することができる。

(13)国立国会図書館. “目次データベース”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/mokuji/ [22], (参照 2018-09-10).

(14)日外アソシエーツ編. 福井県人物・人材情報リスト2017. 日外アソシエーツ, 2016, 478p.

[受理:2018-10-31]

 


鷲山香織. 公共図書館の地域資料を活用した没年調査ソンのすすめ~福井県での事例から~. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1939, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1939 [23]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11203355 [24]

Washiyama Kaori
“Botsunen Chosa-thon” (Public Event to Discover the Death Years of Local Writers Using Local Collections at Public Libraries)− How We Did This at Fukui Prefectural Library
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CA1940 - システムとしての国立国会図書館オンライン / 川瀬直人

  • 参照(7802)

PDFファイル [33]

カレントアウェアネス
No.338 2018年12月20日

 

CA1940

 

 

システムとしての国立国会図書館オンライン

電子情報部電子情報サービス課:川瀬直人(かわせなおと)

 

 国立国会図書館オンライン(NDLオンライン)は国立国会図書館蔵書検索・申込システム(NDL-OPAC)に代わる国立国会図書館(NDL)のサービスへの申込窓口として、2018年1月5日に稼働を開始した。これによってNDLのサービスや申込方法がどのように変わったかや、NDLオンラインの使い方については、小林や阿部による解説がある(1)(2)(3)。サービス面での解説はそちらに譲ることとし、本稿では、主にシステム的な観点からみたNDLオンラインのユーザインターフェースデザインやシステムの特徴について概説する。
 

ユーザインターフェースデザイン

 NDLオンラインは、そのデザインや機能の検討において従来の開発時よりも、図書館員ではなく、一般の利用者による利用を意識して開発している。そのため、全体としてはシンプルなデザインにするとともに、特に既にオンラインショップの利用等に慣れた多くの利用者にとっては、特に説明がなくとも利用可能なシステムとなることを意図している。画面は全体として配色をおさえたシンプルなデザインとなっている。このデザインは専門のウェブデザイナーが、ヒューリスティック評価(4)、過去の利用者アンケートの回答の分析等を行って、NDL-OPACの持っていた問題点を改善できるよう考えられたものである。例えば利用者が申し込むために押す必要があるボタンは、一つのエリアにまとめる、資料に対してどのような申込が可能かを予め表示して、ボタンのデザインで申込可否が判別できるようにし、申込ができない場合はその理由を表示する等の点でデザインによる改善を図っている。NDLオンライン全体のデザインコンセプトについては、小林(5)も参照いただきたい。ログインした後の画面上部には入館状態の表示に加え、現在の申込済み件数や申込カート、申込状況の確認画面へのリンクのある申込ステータスバー(図1)を設置し、現在の申込状況が常に確認しやすいようになっている。

 

図1 申込ステータスバー

 

 またスマートフォンからの利用に対応するため、レスポンシブウェブデザインを採用している。後述するようにCSSフレームワークには、AngularJS Material(6)を利用し、マテリアルデザイン(7)の考え方を取り入れている。スマートフォン版の画面でも、ほとんどの機能がPC版の画面と同様に利用できる。機械的なアクセスを除いた2018年7月のアクセス数を見ると、インターネットからのアクセスの内、約23%がスマートフォンからのアクセスであり、スマートフォンからの利用も進んでいることが見受けられる(8)。

 NDLオンラインのロゴに用いているアイコンも同じデザイナーによって提案されたものであり、東京本館の外観と本をめくる様子をモチーフにデザインされている(図2)。

 

図2 NDLオンラインのロゴとそのモチーフ

 

書誌データの収集と検索結果一覧での表示

 NDLオンラインで提供している書誌データは、NDLが収集した資料を整理する(申込や利用者情報を管理するシステムとはまた別の)内部の業務システムから出力される書誌データと、国立国会図書館デジタルコレクション(NDLデジタルコレクション)から収集したデータを用いている。これらは国立国会図書館サーチがそれぞれのシステムから収集したものをコピーして利用している。収集後の処理は国立国会図書館サーチとは別になるため、検索項目や検索時の挙動・表示などは国立国会図書館サーチとは異なっている。またリサーチ・ナビで提供している目次データベースに収録されている目次データもあわせて検索できるようにしている。これに加えてNDLで導入しているリンクリゾルバを活用して、NDLが契約している電子ジャーナルやオープンアクセスジャーナル等の書誌データも提供している。これによって契約ジャーナル等がNDLオンラインでの検索でヒットした場合にはリンクリゾルバを経由して利用することが可能となっている。このように従来の図書館資料(主として紙媒体)とデジタル化された資料を統合して提供している点も特徴の一つである。

 NDLの所蔵資料をデジタル化してNDLデジタルコレクションで提供しているものについては、業務システムとデジタルコレクションの双方にメタデータが存在する。NDLオンラインでは双方からデータを収集したうえで、それらをIDを用いて突合し、1対1で同じものと同定できた場合には、1件のデータに統合して見せている(書誌同定)(図3)。その場合、表示するアイコンも二つのアイコンを重ねたイメージとしている(図4)。

 

図3 同定された書誌情報の表示例

 

図4 冊子体のアイコン(左)とデジタル資料と同定された場合のアイコン(右)

 

 また電子ジャーナル書誌と冊子体のジャーナルの書誌を ISSN を用いて同定したり、雑誌記事索引とデジタルコレクション収録の目次情報との同定を行っている。これらについては、1件にまとめるのではなく、インデントをつけてまとまりのあるグループであることがわかるように表示している(図5)。(インデントをつけた表示は適合度順の場合のみとなっている。)

 こうした機能は、単に紙資料とデジタル資料を統合して検索・提供するだけでなく、できるだけわかりやすく短い手順でデジタル化された資料にナビゲートするために考えられたものである。

 NDLが作成した書誌データとNDLデジタルコレクションから収集するデータは週末を除いた日次での更新となっている。目次データや契約電子ジャーナル等の書誌データは必要に応じて更新が可能となっており、現在は年3・4回程度の頻度で更新を行っている。契約電子ジャーナル等のデータは更新の都度、全件を最新の情報に入れ替えるという運用となっている。

 

図5 インデントによるグループ表示例

 

書誌詳細画面のデザイン

 検索結果一覧から書誌詳細画面(図6)に遷移すると、画面上部に書誌データ、画面下部に当該の資料に関する所蔵一覧(アイテム情報)を表示している。書誌データは開閉式になっており、主要な項目のみをデフォルトで表示するようになっている。これはデザイン検討の結果であり、資料を特定し申し込むという用途においては、詳細な書誌データまで必要になる場合は少なく、所蔵一覧を確認しやすくする方が利用者の利便性に資するという考えによる。

 

図6 書誌詳細画面

 

 各種の申込は、所蔵一覧に表示される各アイテム情報を指定したうえで、提示されている申込メニューを選択して申込カートに一時保存して、申し込むことになる。NDL-OPACが1件ずつしか申込を行うことが出来なかったのに対し、NDLオンラインでは申込カートを使うことで、申込カートにアイテム情報を保存し、申込メニューごとにまとめて申し込むことを可能としている(図7)。このため、検索から申込の完了までを都度繰り返すのではなく、検索の結果申し込みたいものを申込カートに保存しておき、最後に申込カートから、申込件数の上限を超えない範囲でまとめて申込を行うことで、申込に関する操作の省力化を図ることができる。また申込カートへの保存まではいつでも可能であるため、来館前に検索・カートに保存して準備を行っておくことで、来館してから(閲覧等の)申込を迅速に行うことができるし、申込を完了させるまでの時間のない時でも申込カートへの保存を使うことで作業を容易に再開することが可能である。

 

図7 申込カート画面

 

システムアーキテクチャ

 NDLオンラインはJavaScriptを用いて構築されたSPA(Single Page Application)である(9)。SPAは従来のウェブページと異なり画面全体が遷移するのではなく、一枚のHTML上で画面の一部を書き換えることで画面を更新している。これによってパフォーマンスの向上やユーザエクスペリエンスの改善、開発コストの低減などを図っている。そのため画面描画や動作にはクライアント側の処理能力、特にブラウザのJavaScriptエンジンの処理能力が大きく影響しており、Internet ExplorerよりもFirefoxやGoogle Chromeを使う方が処理速度の観点からは適している。JavaScriptの開発フレームワークとしてはAngularJS(10)を採用している。CSSフレームワークもそれに合わせAngularJS Material(11)を用いている。また最近の動向を踏まえ、常時SSL化を実現している。

 書誌詳細画面(図6)で表示されるデータの内、書誌データは前述した通り、内部の業務システムで作成した書誌データをNDLオンラインに取り込み、検索・表示に用いているが、アイテム情報はNDLオンラインでは保持していない。アイテム情報や利用者の情報は、申込を処理する別の業務システムが保持しており、NDLオンラインは都度その業務システムのAPIに対しリクエストを投げることで、当該の資料に対して可能な申込メニュー、資料の状態や資料が利用中であるかどうか、ログインしている利用者の種別、入館状態などの情報を取得し、それぞれの状態に応じて申込メニューの表示やボタンの押下可否を制御している。例えば、閲覧申込はNDL館内で資料を出納し閲覧するための申込であるため、申込カートに保存しておくことは可能だが、入館した状態にならなければ申込はできない。NDLオンラインの画面上では、入館していない状態では(申込カート上の)閲覧申込ボタンは表示されているが押下できない(グレーアウトされている)状態になっており、それを見るだけで、館外からは閲覧申込は行えないことが直感的に理解できるようになっている。入館してから申込カートにアクセスすると、ボタンは押下可能となっており、申込手続きを進めることができる。申込が出来ない状態でもボタンを表示し、押下できない状態にする仕様となっているのは、その利用者・資料にとって利用できるメニューに何があるのかを予め提示することで、条件が揃えば利用可能となるサービスにどんなものがあるのかの全体像を、利用者に示すことを意図したデザイン上の工夫である。

 また、利用者のパスワードや認証、利用者情報の変更等も同様に内部の業務システムで管理されており(12)、APIを介して実現している。新規のインターネット限定利用者登録の登録時や、パスワードの変更時には確認のためのメールが送信されるが、このメール送信も NDLオンラインではなく、内部の業務システムが担っている。一方で、利用者が認証済みかどうかの情報については、NDLオンラインだけではなく、国立国会図書館サーチ、NDL内の利用者用端末の3者の間で共有されるようになっている。このため、来館した利用者が、利用者用端末に利用者カードを置いて端末にログインを行い、その端末のブラウザでNDLオンラインにアクセスすると、NDLオンラインでもログインした状態となる。

 従来のNDL-OPACが、統合図書館パッケージシステム(13)の一部として、全てを統合した一つのシステムの一機能であったのに対し、NDLオンラインは資料の検索と表示、申込カートまでを管理するシステムとなっている。別のシステムとAPIで連携することで、認証や申込、アイテム、利用者情報の変更等の機能を含めた全体のサービスを提供しているのが、特徴の一つである。図8はNDLオンラインとその他のシステムとの関係を概略として示したものである。

 

図8 システム間連携概要図

 

検索機能

 検索はオープンソースの検索エンジンであるApache Solr(14)をSolrCloudと呼ばれるクラスタリング構成で構築して行っている。一部の項目を除いて、形態素解析を用いたインデクスとn-gram(bi-gram)を用いたインデクスの両方を用意して使っている。また完全一致検索に使うためのインデクスも別に持っている。詳細検索画面をみるとわかるように、資料群で共通の検索項目の他、各資料群に独自の検索項目(例えば「地図」における「縮尺」、「博士論文」における「授与大学」等)がある。こうした多岐にわたる検索項目に対応した多数のインデクスを持っている。そのため、例えば簡易検索のように多数の検索項目を対象とする場合、単純に検索式を構築すると、多数のインデクスに対してOR検索を行う必要があるため、パフォーマンスの低下が懸念される。そこで、項目ごとのインデクスを集約したインデクスを作成し、それを検索に用いることでパフォーマンスの向上を図っている。

 例えば、タイトルという検索項目には本タイトルの他、タイトルよみ、部編名、部編名よみ、シリーズタイトル、シリーズタイトルよみ、内容細目、内容細目よみ等の多くのデータ項目が検索対象に含まれている。これらのそれぞれに形態素解析のインデクス、n-gramインデクス、また一部では完全一致用のインデクスも作成している。これを形態素解析のインデクス、n-gramインデクス、完全一致用インデクスの3つに集約したインデクスを作り、タイトルの検索ではこの3つのインデクスだけを見に行くことで、多数のデータ項目に対するOR検索を行うことによるパフォーマンスの劣化を防いでいる。

 いずれにしても、かなり多くの検索項目を簡易検索で検索可能となるように設定しており、多くの場合は詳細検索の項目を意識することなく、簡易検索のキーワード欄で検索し、必要に応じてファセットで絞り込んでいく使い方が可能である。

 

おわりに

 NDLオンラインは、資料の検索からサービスの申込までのインターフェースを担う、NDLにとっては最も重要なシステムである。今後もNDLのオンライン上の「顔」として活用が進むことを期待したい。

 

(1)小林芳幸. 新たな利用の窓口: 国立国会図書館オンライン. 参考書誌研究. 2018, (79), p. 3-14.
https://doi.org/10.11501/11064400 [34], (参照 2018-10-11).

(2)小林芳幸. 国立国会図書館オンライン, その新しいサービス. 図書館雑誌. 2018, 112(2), p. 96-97.

(3)阿部幸江. 国立国会図書館オンラインの目次データを使用した資料の検索方法. 参考書誌研究. 2018, (79), p. 15-59.
https://doi.org/10.11501/11064401 [35], (参照 2018-10-26).

(4)篠原稔和. ウェブ・ユーザビリティテスティングの実際. 情報の科学と技術. 2004, 54(8), p. 398-406.
https://doi.org/10.18919/jkg.54.8_398 [36], (参照2018-10-11).

(5)小林芳幸. 新たな利用の窓口: 国立国会図書館オンライン. 参考書誌研究. 2018, (79), p. 3-14.
https://doi.org/10.11501/11064400 [34], (参照 2018-10-11).

(6)AngularJS Material.
https://material.angularjs.org/ [37], (accessed 2018-09-20).

(7)2014年にGoogleが発表した、ユーザエクスペリエンスデザインに関する考え方。フラットデザインに対して、影や奥行、質量を取り入れることで利用者の操作性の改善を図っている。
“Material Design”. Google.
https://material.io/design/introduction/ [38], (accessed 2018-10-18).

(8)なおアクセス数は Logstash、Filebeat、Elasticsearch、Kibanaといったツールを用いて集計され、業務統計として数値が取得できるようになっている。

(9)鈴村幸太郎 . Single Page Application(SPA) サーバーで画面生成しない 応答と操作性が向上 . 日経 systems. 2015, (261), p. 30-35.

(10)AngularJS.
https://angularjs.org/ [39], (accessed 2018-09-20).

(11)AngularJS Material.
https://material.angularjs.org/ [37], (accessed 2018-09-20).

(12)稼働時に、移行したログインパスワードが大文字になっている点について注意喚起が行われたが、NDLオンラインが大文字でパスワードを保持しているわけではなく、内部システムに移行前の統合図書館パッケージシステムが、大文字でパスワードを保存していたことが理由である。NDLオンラインと利用者情報を管理している内部システムでは、従前よりも厳しいパスワードポリシーを設定しており、パスワード変更時にはこのポリシーが適用される。
“お知らせ”. 国立国会図書館オンライン.
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/static/info#2131 [40], (参照 2018-09-20).

(13)“Aleph”. Ex Libris.
https://www.exlibrisgroup.com/products/aleph-integrated-library-system/ [41], (accessed 2018-09-20).

(14)Apache Solr.
http://lucene.apache.org/solr/ [42], (accessed 2018-09-20).

[受理:2018-10-26]

 


川瀬直人. システムとしての国立国会図書館オンライン. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1940, p. 5-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1940 [43]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11203356 [44]

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CA1941 - 日本図書館協会建築賞について / 植松貞夫

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カレントアウェアネス
No.338 2018年12月20日

 

CA1941

 

 

日本図書館協会建築賞について

公益社団法人日本図書館協会図書館施設委員会:植松貞夫(うえまつさだお)

 

 日本図書館協会建築賞(以下「図書館建築賞」)は、1984年に、優れた図書館建築を顕彰し、これを広く世に知らせることによって、日本の図書館建築の水準の向上に寄与することを意図して創設された。

 発案者である協会内の施設委員会(現図書館施設委員会)において、1983年に公募から審査までの方法等について取りまとめられ、理事会等の承認を得て「協会の賞」として発足した。1984年度の第1回以降、若干の変更を加えながら毎年継続して実施し、現在第35回の募集を行っている。

 建築に関する学協会・業界が設けている賞(E1829 [51]参照)は、デザインの美しさ、新規性や、建築物としての品質を評価するものであることから、建築の用途を問わないのが主である。その点、特定用途の建築物ないし建築空間のみを対象とし、ソフトとハードの両面から評価する図書館建築賞は、ユニークな存在である。なお、一般社団法人日本医療福祉建築協会は、1991年より同様の趣旨で医療福祉建築賞(当初は病院建築賞)を設けている(1)。
 

優れた図書館建築とは

 優れた図書館建築とは、応募要項においては「建築としての質はもとより、そこで展開されるサービスもよく行われていることが条件となる。つまり、器(建築)と中身(サービス)が調和し、いずれにおいても優れていることを意味する」と表現している(2)。それを実現するためには、発注者である図書館やその設置主体と、設計者とが共通目標に向け協調的な関係を築くことが欠かせない。そのため、賞は図書館と建築設計者の両方に与えられる。また、応募資格は、図書館及び機関等に付随する図書館(室)、資料室とし、館種は問わず、単独館・複合館の別や新築・増改築の別も問わないが、中身の評価を行うことから、公募の前年度末までに開館(翌年の実地視察までには最短でも1年以上経過)したものとしている。
 

選考方法

 図書館施設委員会(以下「親委員会」)のもとに設ける選考専門委員会が候補館を選考し、親委員会での審議、常務理事会の承認を経て決定される。選考専門委員会は、現在は、親委員会の図書館員またはその経験をもつ委員(ソフト)と建築を専門とする委員(ハード)が同数ずつ、及び公益社団法人日本建築家協会よりの委嘱委員1名で構成している。委嘱委員を加える理由は、専門的な視点からの評価を得るためであり、一方で、図書館建築に理解と興味をもつ建築家が増えていくことを期待するからである。委嘱期間は2年を基本としており、2年目には専門委員会主査を務める。賞創設以来、建築家協会からは副会長レベルの経験豊富な建築家が派遣されている。また、具体的な審査は、提出された書類に基づく第一次審査、一次合格館に対する複数委員での実地視察に基づき総合判定を行う第二次審査の二段階方式である。
 

選考基準に関する議論

 館種、規模、地域、運営方針等が一つ一つ異なる図書館に対し、さまざまな図書館観・建築観をもつ委員が評価に当たることから、審査基準については、最も議論が重ねられ、外部からの意見も集中している。創設からの約20年間は審査基準は非公開とし、賞創設時に決めた「図書館建築賞運用心得」(施設委員会内規、1985年12月16日)の該当部分を参照しつつ、総合的な判定を行うことを、毎年度の選考専門委員会で確認する方式であった。しかし、本賞が社会的にも認知され、受賞が有形無形の効用を生むに従い、審査基準を明確化し公開すべきとの意見が寄せられるようになった。親委員会では4度にわたり審査基準に関する見解を説明してきたが、2003年の常務理事会における意見を受けて検討した結果、「日本図書館協会建築賞の選考のための評価項目(申合せ)」を原案作成、試行の後2005年8月に公表し、第21回(2005年)から適用している(3)(4)。これは、選考基準・評価の考え方を表記した上で、「全体の構成・内容」「建築計画・スペース」「サービスの提供・利用」「特徴となるポイント、新しい提案・試み」の4視点の計13項目について詳細な評価要素を列挙したものと、評価採点表とからなる。以降は、各年度の選考専門委員会の発足時に、この申合せに則して評価を行うことを確認している。しかし、同一年度における他の応募館との比較や、受賞館が後に続く館の計画・設計の範となることから、図書館建築の水準も年々上がっていくため、それまでの受賞館との比較も選考の基準となる。従って、視点と項目は同じであっても、一律の基準を継続して点数化することは適切ではなく、相対的・総合的に判定している。

 そして、賞創設時から一貫して、顕彰された図書館の長所・短所を含む詳細な講評と、選考経過及び応募館全体への短評(これも常務理事会の承認事項)を毎年『図書館雑誌』で示すことで、審査の透明性を担保するとともに、新たに計画する図書館関係者にとって参考に資することを意図している(5)。
 

審査料の導入等応募要項の変更

 現地審査の交通費など選考経費確保のため、応募要項において、第18回(2002年)より「応募料(1作品につき5万円)を応募時に納入」とした。しかし、第一次審査で選外となる応募館からの徴収には異議が呈され、第28回(2012年)より、「第二次審査の対象館は審査料(前記同額)を納入」に改めた。審査料徴収には、本賞の目的、顕彰制度の趣旨に照らしての批判や、会計制度上応募料を支出できない館があり、応募館が減少する恐れがあるなど批判が寄せられたが、(1)前記の医療福祉建築賞を含め多くの建築賞は応募料を徴収している、(2)応募は設計者でもできる、(3)設計者では、受賞が設計競技などへの応募資格要件とされる事例が増加するなど、営業上の効果をもたらしていること、などから有料化は問題ないと認識している。とはいえ、2000年以降新設図書館数が減少傾向にあるとはいうものの、第17回(2001年)の計13館(公共図書館12館)から有料化開始の第18回は9館(同7館)と減少し、以降も応募館数は減少傾向にある。また、同じく第28回から、応募要項の公表段階で選考専門委員の氏名を明らかにしている。
 

応募館数と顕彰館数

 第1回より第34回(2018年)までの応募館の総数は416館(公共331、大学・短大71、その他(国立、学校、法人)14)であり、受賞館の総数は83館(応募数に対し20%)、内訳は公共62館(同18.7%)、大学・短大18館(25.4%)、その他3館(21.4%)である。なお、本賞は第10回(1994年)まで、全体的に優れている「優秀賞」と、多少の欠点はあっても特定の部分について奨励するに値するものについてその理由を付して顕彰する「特定賞」を選定していた。前記の受賞館には特定賞を含む。また、第11回以降は特定賞を廃し「建築賞」で統一している(6)。
 

近年の状況と課題

 35回を数えるに至り、本顕彰事業は定着したといえる状況にある。主な課題を挙げれば以下である。

(1)応募館の減少傾向

 2016年1年間で新たに建設された公共図書館が38館あるのに対し、応募館は9館と少ない(7)。第6回(1990年)から応募を待つだけでなく、会員からの推薦を呼び掛けているが、事例はごくわずかにとどまる。設計者には応募に熱心な者、そうでない者、賞の存在を知らない者があることから、周知方法に改善を要する。

(2)開館後の年数

 開館後1年以上を応募資格としているが、多くの場合、開館後1年間程度は活況が続くものであり、それが継続するかの判定は難しい。開館後の年数を延長すべしとの意見もある。

(3)施設整備への関与者の増加に伴うプロセスの変容

 市民参加によって案が練られていく例、首長部局主導で進行する例、コンサルタント会社、PFIや指定管理者予定事業者が先導する例など、計画・設計プロセスへの関与者が多様化している。図書館員と図書館長(候補者)の関与を重視する考え方も見直す必要があるといえる。

 筆者は、賞創設以来、くり返し選考専門委員を務めている。意欲と工夫に富む設計と運営の図書館を、深くかかわった人々から、直接説明を受けながら拝見できるのは委員の特権である。近年の応募館からは、取り巻く環境の変化を読み取ることができる。盛り込まれた創意や、新しいサービス、利用行動は、次のそして今後の図書館像を考える種である。読者各位には複数の受賞館の視察を推奨するとともに、大幅な増改築により一新された館、既存他用途施設を転用した館、全く新しい発想のもとで蘇った館など、多様な図書館の応募を待ちたい。

 

(1)“医療福祉建築賞”. 一般社団法人日本医療福祉建築協会.
https://www.jiha.jp/awards/architectureaward [52], (参照2018-10-16).

(2)“日本図書館協会 建築賞”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/Default.aspx?TabId=699 [53], (参照2018-10-25).

(3)評価基準を明確にすべしとの意見に対し施設委員会では、以下の4つを発表している。
栗原嘉一郎. 日本図書館協会建築賞について. 現代の図書館. 1989, 27(3), p. 167-173.
関根達雄. 日本図書館協会建築賞における評価と最近の特徴. 図書館雑誌. 1994, 88(2), p. 100-102.
JLA施設委員会. 日本図書館協会建築賞の概要. 図書館雑誌. 1996, 90(8), p. 569-571.
JLA施設委員会. 日本図書館協会建築賞に関する評議員会での質疑について施設委員会の見解. 図書館雑誌. 2003, 97(1), p. 39-41.

(4)JLA施設委員会. 日本図書館協会建築賞の選考のための評価項目について. 図書館雑誌. 2005, 99(8), p. 519.
日本図書館協会施設委員会. 日本図書館協会「図書館建築賞」の評価項目について(申合せ). 図書館雑誌. 2005, 99(8), p. 520-521.

(5)選考経過、受賞館の講評などは、『図書館雑誌』毎年度8月号に掲載されている。また、次年度の応募要項は同じく8月号の折り込みにて公表している。

(6)第1回から第22回(2006年)までの受賞70館については作品集にまとめられている。
社団法人日本図書館協会施設委員会図書館建築図集編集委員会. 日本図書館協会建築賞作品集1985-2006. 社団法人日本図書館協会, 2007, 210p.

(7)植松貞夫. 図書館の施設と設備. 図書館年鑑2017. 2017, p. 113-116.

[受理:2018-11-07]

 


植松貞夫. 日本図書館協会建築賞について. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1941, p. 10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1941 [54]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11203357 [55]

Uematsu Sadao
About the Japan Library Association Library Architecture Award

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JLA(日本図書館協会) [57]

CA1942 - 動向レビュー:学校と公立図書館との複合施設 / 長澤 悟

PDFファイル [58]

カレントアウェアネス
No.338 2018年12月20日

 

CA1942

動向レビュー

 

学校と公立図書館との複合施設

株式会社教育環境研究所:長澤 悟(ながさわさとる)

 

1. 学校と地域の関り

 図書館と学校との複合について考えるに当たって、はじめに学校と地域の関りの変遷をたどってみたい。明治維新により近代学校がスタートした時、校舎建設は地域が担った。「おらが学校」とは「おらたちが作った学校」だったと言えるだろう。学校は単に教育施設という枠を超えて、地域の未来とともに捉えられてきた。学校が地域を支え、地域から頼られる存在となっているのは、日本がつくり上げてきた学校文化ということができる。

 戦後に目を転じると、学校施設の地域に対するあり方には年代による変遷がみられる。1954年に起きた都心の小学校内で女児が殺害されるという事件で管理責任が問われてから、学校は閉鎖化に向かうようになった。文部省(当時)も学校施設は学校教育目的にしぼって施設整備を進めた。これに対して1960年代から都市化が進むと、子どもの遊び場開放として屋外運動場の開放が始まり、1970年代になると勤労青少年の健全育成、社会教育と教育の連携を図るために体育館や校舎等の施設開放が見られるようになった。1970年代前半にコミュニティ形成が課題となり、コミュニティセンターという新たな建物種別が生まれたが、その動きとともに、学校施設の可能性が注目され、学校開放事業の先駆的な取組が始まった。当初は施設整備の遅れに対する間に合わせ策という捉え方もあったが、意義や効果が認められるようになり、1976年には文部省が社会体育の振興のため体育館施設開放事業を制度化するなど、学校施設の地域利用が積極的に行われるようになった。

 

2. 地域に開かれた学校図書館

 学校図書館法第4条第2項には「学校図書館は、その目的を達成するのに支障のない限度において、一般公衆に利用させることができる」とある。上記の動きの中で学校図書館の地域開放が始まった(1)。先駆的な例が、神戸市が1969年に学校公園構想と共に始めた市民図書室である。学校の図書室を生かして地域の図書室、勉強室をつくることとしたものである。1973年に設置された高倉台小学校は、ニュータウンの核となるよう学校と公民館を合築し、公民館の中心に学校図書館を配置している。直接利用できるようにその出入口は校門の外に顔を出し、図書館の管理者が置かれた。ラベルの色で学校図書と地域住民対象の図書を区分し、児童と住民利用者が一緒の空間で過ごす様子が見られた。兵庫県明石市では1972年以降、市のコミュニティセンター構想に基づき、中央公民館を中心に市内の全中学校にコミュニティセンター(通称コミセン)が設置された。これには体育館を重層化して1階部分に設けたものと、独立した建物としたものがあり、運営委員会が組織されて運営に当たった。その中に図書室が設けられている。1977年に東京都練馬区は学校開放を従来の遊びから知的教育の側面を加えて充実を図ることとした。そして、重要な文化施設の開放という観点から、児童・生徒を中心とした地域住民の余暇善用と情操育成、豊かな人間関係づくりを目的として図書館開放を始めている。1978年に札幌市、1980年には横浜市と、大都市で同様の事業が始まった。いずれも管理者、司書、相談員等を配置し、図書購入費が用意された。図書館整備の遅れに対応する面もあったが、意義も広く認められてスタートしたものである。

 しかし既存の学校図書館を利用する場合、管理区分を明確にするのが難しく、また、大人にとって魅力のある蔵書の構築、管理者だけでなく司書の配置の必要性、市の図書館ネットワークへの組み込み等が課題として指摘されるようになった。学校図書館の開放は校庭や体育館の開放と違い、単にスペースの利用だけではなく、本来の図書館機能を充実する必要があったのである。

 

3. 学校施設の変革と学校図書館

 戦後、RC造校舎の標準設計により画一化した学校建築は1970年代後半に変化を始め、1985年前後にそれは本格化する。戦後の量的整備が一段落し、次代を見据えた学校施設のあり方として、多様な教育方法に対応する教育空間、豊かな生活環境、地域に開かれた学校という3点から施設計画の目標が示された。

 学校図書館については、教育活動面から読書や学習の場としての拡充、学校生活の中での居場所として豊かな空間が求められた。また、地域利用や地域との連携という点から、配置や計画のあり方が問い直された。例えば最上階の廊下の突き当りにあって、目が届かないためにいつも鍵がかかっているようなそれまでの学校図書館の状態が見直され、学校の中心あるいは昇降口に面するなど移動動線上に置き、利用しやすく、常にその存在が意識されるようにすることが重視されるようになった。常に目の届く位置に開放的な図書ラウンジとして計画する例や、さらには学校全体を図書館と捉え、教室まわりのオープンスペースに図書を分散配置する例も現れた。これらを経て、司書の配置、図書の管理、地域開放等、総合的な観点から学校図書館を捉え直し、充実を図ることが意識されるようになった。

 

4. 地域の核となる学校づくりと学校図書館

 昭和から平成に移る1990年頃、高齢化、情報化の進行に対して生涯学習が目標とされ、そのための社会基盤整備が課題となった。学校も生涯学習機関の一つとされる中、文部省は「文教施設のインテリジェント化について−21世紀に向けた新たな学習環境の創造」(2)と題する調査研究報告書をまとめ、学校と他の文教施設との複合化を積極的に推し進めるようになった。その後、福祉施設との複合も含め、従来の学校建築のイメージを破った複合化の実例が相次いで誕生した。

 図書館については学社連携、学地連携さらには学社融合を目標に掲げ、公民館や地域図書館と積極的に複合する例や、子供たちの地域の中の居場所として学校図書館の開放や地域図書館との複合、融合の例が生まれた。これらの運営には司書の指導の下、地域の人々やPTAが図書館ボランティアとして活躍する例も見られる。

 

5. 学校と公立図書館の複合事例

 学校と図書館の連携や複合事例は、学校図書館開放、学校と図書室・図書館を含む公民館やコミュニティセンターとの複合・合築、学校と地域図書館との複合・合築というタイプに分けられる。また、学校図書館と地域図書館との機能連携や位置関係については、地域図書館の併設、平面的な隣接や断面的な重合、一体的空間とする融合というバリエーションが見られ、目的、運営、利用状況等に違いがある。

 

(1)学校図書館開放

 長野県浪合村立浪合小中学校(現阿智村立浪合小学校、1989年)は「村民全ての浪合学校」として、住民が検討を重ねて地域の誰もが利用できる学校づくりを目標として実現された。校舎は小学校、中学校、小中共用3棟からなり、共用棟には地域活動の場として音楽室、食堂、調理教室等が設けられ、その中央に小中交流の場ともなる図書館が置かれている。図書館は地域の人々の利用が想定され、一角には掘りごたつのある畳コーナーがあるなど、「みんなの学校」のシンボルともなるよう計画されている。

 愛知県旭町(現豊田市)立旭中学校(1996年)は町内の2校を1校に統合する計画である。各中学校区の人々が学校に足を運ぶ機会を用意することにより、統合校が双方にとって自分たちの学校という意識を持てるように施設計画がなされた。学校図書館はその中心施設として地域利用を想定して昇降口に面する位置に、学校の周囲の自然景観が見えるように設けられている。

 東京都青ヶ島村立青ヶ島小・中学校(1997年)は人口約200人の離島の学校改築計画である。校地は役場を含む公共施設群と道路を挟む位置にあり、道路をまたいだ役場側の一角に、地域利用を想定して特別教室・ランチルーム・学校図書館棟を建設し、学校図書館は道路に面して専用の出入口を持ち、村民の図書館として利用できるようにしている。

 一方、都心部の東京都武蔵野市立千川小学校(1997年)は、ホールと体育館からなる地域利用施設と向かい合う位置に、地域利用を想定して独立した出入口を持ち、広さを確保した学校図書館を設けている。

 また、福岡市立博多小学校(2001年)では、統合小学校、公民館、幼稚園が複合し、学校図書館は地域利用を想定した大空間として計画された。

 

(2)地域図書館と学校図書館との融合

 福岡県山田市(現嘉麻市)立下山田小学校(1999年)は、新たなまちづくりに向けて学校に本格的なホールを含むコミュニティ施設機能を持たせ、学童保育室から成る複合施設として計画することになった。基本構想策定委員会の下、5つの部会・小委員会を設け、幅広く地域住民、教職員、行政職員が一緒に議論して計画を立案した。学校の中心部に学校図書館を配置し、住民と子どもが触れ合う場として地域図書館機能を持たせ、司書が図書館の環境構成や利用の活性化の役割を担った。管理区分のため独立した出入口を設けている。

 山口県豊北町(現下関市)立豊北中学校(2005年)は、町の生涯学習の拠点として、学校全体が地域の人を迎え入れるたたずまいをもつ。学校の中心、昇降口の正面に広がる吹抜けのホールに中学校の図書館と市立図書館の分室である豊北図書室が融合して置かれている。図書館と特別教室や体育館を合わせた地域開放ゾーンと教室ゾーンとの間には明確な仕切りはないが、職員室、司書室から昇降口までのアプローチ路とホール全体が見渡せ、セキュリティを確保している。

 山口県田万川町(現萩市)立田万川中学校(2005年)は2校の統合計画である。地域の人々の集まりや活動の場となるよう計画され、地域ラウンジをもつ特別教室棟と教科教室棟とをつなぐ学校の中心部に吹抜けの図書館が学校図書館と融合して設けられている。2つの棟を結ぶ廊下が図書館上部を通り、教室棟とは明確に管理区分しながら、視覚的な一体感を持たせている。図書館は専用の出入口を持ち、司書が置かれる。

 東京都千代田区立昌平小学校(昌平童夢館、1996年)は都心にあって、学校図書館と一体の空間に、エリアを分けて地域利用のまちかど図書館を設けており、周辺で働くサラリーマンが昼休みに読書する姿が見られる。司書が全体の管理だけでなく、児童の対応も行い、学校図書館機能を高める役割を果たしている。

 

(3)地域図書館と学校図書館の隣接

 福島県西会津町立西会津中学校(2002年)は、教室棟の中央部から突き出た形で図書館棟を設け、1階を町立図書館、2階を学校図書館としている。一般利用者は1階のみ、中学生は全体が利用でき、学校図書館では、休日にも生徒が一人であるいは友達と一緒に学習したり読書したりする姿が見られる。

 青森県名川町(現南部町)立名川中学校(2005年)は、伝統芸能を鑑賞できるホールと町民図書館がほしいという旧町民の長年の悲願を、中学校の統合計画の際に、財政的にこれが最後のチャンスとして、複合化して実現したものである。地域開放ゾーンに面した1階に町民図書館、それを吹抜けから見下ろす2階に学校図書館を配置し、一体感を持たせながら管理区分を明確にし、司書が配置されている。

 埼玉県和光市立下新倉小学校(2016年)は新設小学校に児童館と図書館を複合する構想の下、教職員、PTA、市民に市立図書館の館長も加わったワークショップで複合のあり方や運営方法まで検討が重ねられた。図書館は和光市図書館下新倉分館として、校舎の中心となる2階に置かれた学校図書館と隣接して配置された。体育館、地域開放される特別教室、児童館とともに交流テラスを囲む一体感のある配置で、樹木や草花の散策路を通って専用入口に導かれる。小学校図書館とはガラス面で仕切られ、児童は直接利用もできる。

 

(4)公民館・地域図書館と学校図書館との複合・融合

 富山県利賀村(現南砺市)立利賀小学校・中学校(1998年)は、当時人口1,000人の村の拠点となるよう校舎と一体に公民館を複合した計画である。公民館図書室を公民館入口から教室ゾーンを通り抜けずに行けるように校舎の中に埋め込まれ、中学校のラーニングリソースセンターにもなっている。

 埼玉県志木市立志木小学校(2003年)は市が掲げる学社融合の教育を目指し、コミュニティ・センター(いろは遊学館)と地域図書館(いろは遊学図書館)が複合化され、教室棟と連続的な位置に管理区分を明確にして配置している。地域図書館は学校図書館の役割を兼ね、司書が学校時間内外とも児童の対応をしている。

 東京都立川市立第一小学校(2015年)は、別敷地にあり共に老朽化した学校と公民館の建て替えを学校敷地に複合化して計画したものである。道路を挟んだ敷地の一方に小学校、他方に公民館の研修室・ホール・管理室を置き、道路上空のブリッジでつないでいる。公民館にあった図書室を学校敷地側1階に学校図書館とエリアを分けながら一体に配置し、専用の出入口を持つ地域図書館とした。運用開始後、利用者からの声に応えて遮音のための間仕切りが設けられている。

 

(5)地域図書館と学校図書館との併設

 東京都調布市立調和小学校(1999年)は国内初のPFI事業による学校建設例である。地域利用される屋内運動場、温水プールと共に、学童保育用の施設、地域図書館が明確な管理区分のもとに複合化されている。

 

6. 複合化とセキュリティの確保

 「地域に開かれた学校」は、学校改革の主要テーマであった。その考え方や取組に冷水を浴びせたのが2001年6月の大阪教育大学附属池田小学校で起きた児童殺傷事件である。当初、開かれた学校が事件を招いたという批判や、高い塀で囲い、校門を施錠することが必要という意見も強かった。しかし、閉鎖的な学校環境は学校と地域の関係を分断してしまう。学校には開いて守るという学校の守り方がある。そもそも開かれた学校とは不審者が入りやすい無防備な施設という意味ではない。学校と地域の関りについて本来の理念、趣旨はしっかりと保った上で、学校ごと、地域ごとの施設も含めた防犯の仕組みを整え、地域と共に守ることが大切である(3)。防犯環境設計(CPTED)の3原則、すなわち第一に守る範囲すなわち警戒線を明確にし、第二にそこへの出入りをしっかり管理し、第三にその範囲全体に目が届くようにすることが基本となる。囲障は侵入しにくくするだけでなく、守る範囲を明確にするものである。目が届かないところには高い塀を設ける、錠をかける、防犯カメラを設置すること等が必要となる。警戒線は通常学校敷地境界となるが、校庭は開放し建物周囲あるいは建物に設定することも考えられる。それぞれ出入り管理を明確にし、その中にいる人が不審者でないことをお互いに確認しあうことが大切である。学校図書館の開放や学校と図書館を複合する場合にも、この原則に当てはめて考えればよい。司書のいることは最大の強味と言える。

 

7. 学校施設の複合計画の新たな課題と図書館の関係に向けて

(1)復興の核となる学校づくり

 学校施設は大災害が起こるたびに避難場所となり、地域の安全・安心のための最後の砦としての役割を果たしてきた。2011年の東日本大震災では学校自体が津波被害を受け、その復興が課題となった。新しい土地で地域そのものの復興が必要とされる中、地域づくりの核として期待されたのが学校である。多くの学校計画で地域の人々が日常的に、自由に立ち寄れる場として学校図書館が位置づけられている。岩手県大船渡市立赤崎小学校(2017年)、岩手県陸前高田市立高田東中学校(2016年)、宮城県東松島市立宮野森小学校(2016年)等は、屋外運動場や公道に面した場所に、独立性の感じられる姿で学校図書館が復興住宅地の顔となるよう配置されている。

 

(2)小中一貫教育と複合

 9年間を見通した小中一貫教育が課題となり、2016 年には9年制の義務教育学校が法制化された。小中一貫教育は地域ぐるみの教育、社会総がかりの教育を理念としており、施設一体型で地域施設と複合した計画が多く見られる。一例として、ニュータウンに建設された千葉県流山市立おおたかの森小・中学校(2015年)は地域の交流センター、こども図書館、学童保育所と複合し、こども図書館は学校図書館に併設する形で設けられている(E1829 [51]参照)。蔵書数1万冊程で、目の前を子どもが行き来するのが見えるので、就学前の幼児と親たちが学校という空間にごく自然に馴染む効果も期待されている。

 

(3)公共施設マネジメントと複合

 今日、学校施設・公共施設整備の最大の問題は、膨大な量の施設の老朽化対策である。財政的に厳しい状況の中でこれを進めるには、既存施設の長寿命化とともに、少子化を視野に入れ、地域生活を維持するための公共施設機能は維持しつつ施設総量を減らす公共施設マネジメントが課題となっている。新しい地域像を描き、学校を核とした複合施設のありようを地域ごとに描くことが求められる。

 

8. 地域の参加による計画プロセス

 学校施設の計画においては、地域の人々が参加する計画プロセスが定着してきた。本稿で紹介した学校と図書館の複合事例も、話し合いを重ねて実現されている。複合化は地域のための施設として、どこをどう使うか、使えるかということが検討課題となり、運営方法や施設管理も含め、地域の状況を踏まえて個々に答を見出す必要がある(4)。屋内運動場の地域利用は災害時の避難場所としての利用も含め、一般的だが、一方、校舎について要望が出され、あるいは思いつきやすいのが学校図書館の地域利用である。その要望に応えるために学校図書館の面積や設備の充実が図られる様子も見られる。しかし、本来の図書館機能を果たすためには、完成後の人的配置や運営体制まで含めて検討することが不可欠である。第 2 章で述べたように、初期の学校図書館開放が魅力を失ったのと同じ道をたどることのないよう、蔵書の充実、司書によるレファレンスサービス、図書館ネットワークへの位置づけ等が必要とされる。将来の地域利用を想定して計画しておくことも大切である。

 誰もが足を向けやすく、豊かな時間を過ごせる場として学校図書館開放、学校と地域図書館との複合は、今後、一層大きな課題となるだろう。司書配置、新規購入費用の確保、開館時間帯等の運営体制、単独施設では得にくいスペースの充実や交流の創出、安全確保のための管理区分、上下足の区分等の施設計画、図書館ネットワークへの位置づけ等、その意義と効果を高めるための検討が必要とされる。

 

(1)長澤悟. わが国における学校体育施設の開放<現状と課題>. 月刊体育施設. 1980, (111), p. 23-36.

(2)文教施設のインテリジェント化に関する調査研究協力者会議[編]. 文教施設のインテリジェント化について―21世紀に向けた新たな学習環境の創造. 文部省, 1990, 68p.

(3)学校施設の防犯対策について. 学校施設の安全管理に関する調査研究協力者会議, 2002, 30p.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/04091401.htm [59], (参照 2018-11-09).

(4)参考文献としては例えば次のようなものがある。
文部省. 学校開放のための施設・環境づくり. 文教施設協会, 1995, 75p.
文部省教育助成局. 子ども達の未来を拓く学校施設~地域の風がいきかう学校:学校週5日制時代の公立学校施設に関する調査研究協力者会議報告. 文部省教育助成局, 1999, 36p.
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http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/020401.pdf [60], (参照 2018-10-23).
文部省大臣官房文教施設部指導課 . 高齢者との連携を進める学校施設の整備について―世代を越えたコミュニティーの拠点づくりを目指して. 文部省大臣官房文教施設部指導課, 1999, 31p.
文部科学省. 文部科学省インフラ長寿命化計画(行動計画). 文部科学省, 2015, 29p.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/03/__icsFiles/afieldfile/2015/03/31/1356260_2_1.pdf [61], (参照 2018-10-23).
報告書「学習環境の向上に資する学校施設の複合化のあり方について~学びの場を拠点とした地域の振興と再生を目指して~」. 文部科学省. 2015-11-20.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/013/toushin/1364500.htm [62], (参照 2018-10-23).

[受理:2018-11-09]

 


長澤悟. 学校と公立図書館との複合施設. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1942, p. 12-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1942 [63]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11203358 [64]

Nagasawa Satoru
Complex Facilities with Schools and Public Libraries

  • 参照(8915)
カレントアウェアネス [25]
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CA1943 - 動向レビュー:デジタルアーカイブコンテンツの児童・生徒向け教育への活用をめぐって:米国・欧州の動向を中心に / 古賀 崇

PDFファイル [70]

カレントアウェアネス
No.338 2018年12月20日

 

CA1943

動向レビュー

 

デジタルアーカイブコンテンツの児童・生徒向け教育への活用をめぐって:
米国・欧州の動向を中心に

天理大学人間学部総合教育研究センター(図書館司書課程):古賀 崇(こがたかし)

 

1. はじめに

 日本において、デジタルアーカイブを学校の児童・生徒向け教育に活用する取り組みはさまざまな形で見られるものの、個々の館やプロジェクトのレベルでの取り組みにとどまっている印象が強い(1)。一方、米国・欧州では、米国デジタル公共図書館(DPLA;CA1857 [71]参照)(2)、Europeana(CA1785 [72]、CA1863 [73]参照)(3)という、それぞれの包括的ポータルサイトにおいて、児童・生徒向け教育を体系的に展開しようとする取り組みが認められる。本稿では、日本の関係方面への参考として、こうした米国・欧州の取り組みを紹介したい。

 なお、米国では上記の取り組みの背景に、米国アーキビスト協会(SAA)などによる「一次資料を用いた、あるいは一次資料に関する教育(Teaching with/about Primary Sources:TPS)」の推進活動が存在する。本稿ではTPSについても、最初に触れておきたい。本稿でいう一次資料は、出版のために編集される前段階の、当時の出来事をそのまま記録した、文書、書簡、写真、動画などを指す。

 また、本稿は2018年9月時点での動向をまとめたものだが、米国・欧州とも取り組みが活発で、これ以降も新たな動きが生じる可能性が高い。最新の動向、および、本稿に収録できなかった実践事例などについては、カレントアウェアネス・ポータルなどをご参照いただきたい。

 

2. 米国の動向

2.1. 一次資料を用いた、あるいは一次資料に関する教育(TPS)

 TPSについては、SAAが2010年より、「一次資料を用いた、あるいは一次資料利用に関する教育についての委員会(Teaching with/about Primary Sources Committee)」を設置し、TPSに関する実践記録などの文献リストをウェブ上で提供するなどの取り組みを行っている(4)。また、SAAは2016年にテキストブックを刊行し、TPSに関する米国での歴史的経緯や、実践事例などをまとめている(5)。この中には、米国議会図書館(LC)の「アメリカン・メモリー」をはじめとする、1990 年代からの先駆的なデジタルアーカイブ、あるいは「オンライン上の一次資料」が、学校教員にとってTPSを促す契機のひとつになった、との記述も見られる(6)(7)。このほか、米国大学・研究図書館協会(ACRL)や、K-12を含めた児童・生徒・学生を教える教員が関与する、TPSの事例集なども刊行されてきた(8)。なお、これらの動向については、鎌田の論稿もあわせてご参照いただきたい(9)。

 TPSに関する最近の到達点として、「一次資料リテラシーのためのガイドライン(Guidelines for Primary Source Literacy)」の策定がある(10)。これは、ACRLの貴重書・手稿部会(RBMS)とSAAの合同タスクフォースが策定に当たり、2018年にACRL・SAAの各理事会の承認により、両団体による公式なガイドラインと位置づけられた。このガイドラインは、大学生相手に仕事をする図書館員、アーキビスト、教員などを主な利用者として想定している一方、K-12の児童・生徒や一般市民も利用できるように柔軟に書かれている、としている。内容は「(1)序文」「(2)中核的思想」「(3)学習目標」「(4)付録」の4部構成をとり、(2)では分析・倫理・理論に関する概念と、実践上の留意点を、ガイドラインの基盤として挙げる。その上で、(3)では「概念化」「発見とアクセス」「読解、理解、要約」「解釈、分析、評価」「利用と[引用・参照としての]取り入れ」の5点にわたり、一次資料を用いる学習者にとっての学習目標を掲げている。なお、このガイドラインは、ACRLが2015年に策定した「高等教育のための情報リテラシーの枠組み」(CA1870 [74]参照)の理念の上に成り立っている、とも記している。

 

2.2. 米国デジタル公共図書館(DPLA)での教育活動

 2013年4月に公開されたDPLAは、教育諮問委員会(Education Advisory Commmittee)(11)が、「オンライン上の一次資料」の項目と教材・指導案を取りまとめて公開する「一次資料セット(Primary Source Sets)」(12)の構築・改訂に当たるほか、外部資金を受けつつ、教育活動を展開している(13)。

 「一次資料セット」は、2018年9月時点で141の項目を収録しており、各項目にはテーマに即したDPLA内の複数の一次資料と、Wikipediaを含めた外部の関連資料、そして指導案として質問項目や課題の事例、およびTPSのための留意点などが掲載されている。「一次資料セット」の対象時期は、米国建国に先立つ「アメリカ大陸の探検(Exploration of the Americas)」から、「1980年代の保守主義の高まり(Rise of Conservatism in the 1980s)」などの直近の事柄まで幅広く、また主題面でも政治・経済・社会のみならず文学・文化の領域をも対象としている。「1980年代の保守主義の高まり」の項目を例にとると(14)、レーガン政権期の戦略防衛構想(SDI)を記した政策文書や、当時の政権高官へのインタビューなどの動画、政権批判の風刺画などが一次資料として収録されている。また、この項目の指導案では、一次資料をもとに当時の外交政策、都市政策、薬物対策などを児童・生徒に考えてもらう質問・課題の例が提示されている。

 2018年9月には、DPLA内に「DPLA教育ガイド(Education Guide to DPLA)」のページが新設された(15)。ここでは、上述の「一次資料セット」のほか、オンライン展示、利用者がDPLAで発見したアイテムのリスト作成機能、低所得層の子どもを対象に電子書籍を提供するOpen eBooksなど、DPLAを児童・生徒向けの教育に活用するためのコンテンツや機能が紹介されている。

 

3. 欧州の動向:EuropeanaとHistoriana

 一方、2008年11月公開のβ版に端を発するEuropeanaはもともと、EUでの文化・文化遺産に関する政策やプロジェクトを基盤としつつ、欧州での図書館・文書館・博物館等がもつウェブ上のデジタルコンテンツを一括して検索できるようなしくみとして、構築・運営されてきた(CA1863 [73]参照)(16)。

 2017 年に入り、Europeanaは収録コンテンツの利用に関する重点領域を、学校教育から生涯教育までにわたる教育と定め、同年 3 月に教育活動に特化したウェブページ“Education”を、専門家向けサイト“Europeana Pro”の中に立ち上げた(17)。ここでの取り組みのひとつとして、教育利用のための Europeana利用ガイドの作成・公開が挙げられる(18)。本稿執筆時点で公開されている 2017 年版では、Europeanaの検索・利用方法の解説のほか、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなど「再利用可能なコンテンツ」の探し方、出典表記の仕方の説明に分量を割いていることが特色と言える。またEuropeanaが提供するAPIの説明が、このガイドや、Europeana Pro内の教育ページに加えられている。ただし、米国でのTPSに相応する取り組みは、これらにおいて確認できない。このほか、フランスでのEuropeana活用のための「シナリオ」をまとめた報告書なども、このEuropeana Proの教育ページで紹介されている(19)。ただし総じて、Europeanaの直接の関心は、TPSのような取り組みよりも、API活用も含めた教材開発のほうに向けられていると、筆者は考える。

 TPSのような、デジタルアーカイブないし「オンラインの一次資料」を用いて「何を、いかに教えるか」を提示する取り組みは、Europeanaと協力関係を結びつつ、実際に教育に携わる人々やその団体に委ねられているのが、欧州の現状と言える。その一例が Historianaというウェブサイトであり(20)、これは Europeanaとの協力のもと、欧州歴史教育者協会(EUROCLIO)と、システム開発企業たるWebtic社(オランダ・アムステルダム)が運営主体となっている。

 Historiana は主に以下のようなコンテンツから構成されている。

  • 歴史的コンテンツ(Historical Content):Europeana を通じ欧州の各機関からアクセスできるデジタルアーカイブのコンテンツをトピックごとにまとめた項目や、第1次・第2次世界大戦、冷戦といった主題ごとにEuropeanaやWikimedia Commons上の画像等を用いつつ、歴史的事柄を解説した文章などが含まれる。
  • 教授と学習(Teaching & Learning):トピックごとの教材や指導案。DPLAの「一次資料セット」のように、テーマに対応する一次資料をもとに学習を進めるための指導案もあれば、外交問題など児童・生徒のロールプレイを通じて、歴史や交渉力を理解させるための指導案も見られる。
  • 資料の検索(Search Sources):Europeanaの検索機能のほか、Historianaと提携する図書館・博物館等からのデジタルアーカイブ資料の紹介、またそれぞれのデジタルアーカイブの検索機能を提供する。

 Historianaのウェブサイトでは、EUROCLIOがEuropeanaと協働して作成した「教員研修者向けガイド:歴史的思考力を高めるために、オンライン上のツールをいかに使うか(Teacher Training Guide: How to use online tools to promote historical thinking?)」も公開しており、HistorianaやEuropeanaを児童・生徒向けの歴史教育・学習に活用するための要点・実例や情報源、およびその基盤となる「高い質を伴う歴史教育のための基本的考え方」を提示している(21)。すなわち、「証拠に基づく討議」「歴史の多様性」「現状が過去(への認識)に影響を与えることの自覚」などの点が「基本的考え方」に含まれ、それがEUROCLIOの活動や、Historianaの内容に反映されている、と言えよう。

 

4. おわりに

 本稿は、DPLAを中心とする米国の取り組みと、Europeanaを中心とする欧州の取り組みを解説したが、教育面での運営方針や活動についてはそれぞれ対照的な姿勢を取っていることが確認できた。つまり、DPLAは運営の面で教育の専門家をまじえた諮問委員会を置き、TPSを意識した一次資料活用のための指導法まで自ら発信している。一方、Europeanaはコンテンツの権利に関する表示やAPIの構築も含め、自らをあくまで「教材などの新たなコンテンツを他の関係者や企業等が開発するためのインフラストラクチャー」と位置づけているようにうかがえる。

 このような、米国・欧州でのデジタルアーカイブの教育活用への取り組みや教材・指導案等の作成などの実践以上に、日本では米国のTPSや、EUROCLIOでの「高い質を伴う歴史教育のための基本的考え方」のような、「歴史資料となり得るものを教育・学習に活用するための基本的考え方や思想」に学ぶ面が多いはず、と筆者は考えたい。つまり、公文書管理をめぐる問題が頻発する日本の現状では、デジタル技術の活用以前に、一次資料や証拠の成り立ち・形状・出所から考えつつ学習を進める、という取り組みこそが、さまざまな人々との討論・交渉を進め、よりよい意思決定を行うために、必要となるはずである(22)。

※本稿は JSPS 科研費 JP16K00454 による成果の一部である。
 

(1)日本での例として下記を参照。
“社会科授業用資料リスト”. アジア歴史資料センター.
https://www.jacar.go.jp/siryolist/index.html [75], (参照2018-09-14).
“学校向けアーカイブズガイド”. 福井県文書館.
http://www.library-archives.pref.fukui.jp/?page_id=912 [76], (参照2018-09-14).

(2)Digital Public Library of America.
https://dp.la/ [77], (accessed 2018-09-14).

(3)Euroepana Collections.
https://www.europeana.eu/portal/en [78], (accessed 2018-09-14).

(4)“Teaching with Primary Sources – Bibliography”. Society of American Archivists.
https://www2.archivists.org/groups/reference-access-and-outreach-section/teaching-with-primary-sources-bibliography [79], (accessed 2018-09-14).

(5)Prom, Christopher J.; Hinchliffe, Lisa Janicke, eds. Teaching with Primary Sources. Society of American Archivists, 2016, 204p.

(6)Ibid. p. 43-45.

(7)米国議会図書館でもTPSを含めた学校教員向けの活動を行っており、2008年から2016年にかけて、Teaching with Primary Sources Journalと題する雑誌を15号まで発行した。
“Teachers”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/teachers/ [80], (accessed 2018-09-14).

(8)例として下記を参照。
Mitchell, Eleanor, et al., eds. Past or Portal?: Enhancing Undergraduate Learning through Special Collections and Archives. Association of College and Research Libraries, 2012, 320p.
Bahde, Anne, et al., eds. Using Primary Sources: Hands-on Instructional Exercises. Libraries Unlimited, 2014, 170p.

(9)鎌田均. 一次資料の利用と情報リテラシー:米国大学におけるアーカイブ, 特殊資料コレクションの教育的役割から見て. 同志社図書館情報学. 2013, (23), p. 1-15.
https://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014206 [81], (参照 2018-09-14).
鎌田均. 米国の高等教育におけるアーカイブズの教育活動.アーカイブズ学研究. 2016, (24), p. 86-91.

(10)“Guidelines for Primary Source Literacy”. Society of American Archivists.
https://www2.archivists.org/standards/guidelines-for-primary-source-literacy/ [82], (accessed 2018-09-14).

(11)“Education Advisory Committee”. DPLA Pro.
https://pro.dp.la/education/education-advisory-committee/ [83], (accessed 2018-09-14).

(12)“Primary Source Sets”. Digital Public Library of America.
https://dp.la/primary-source-sets/ [84], (accessed 2018-09-14).

(13)“Educational Uses”. DPLA Pro.
https://pro.dp.la/projects/educational-uses/ [85], (accessed 2018-09-14).

(14)“Rise of Conservatism in the 1980s”. Primary Source Sets, Digital Public Library of America.
https://dp.la/primary-source-sets/rise-of-conservatism-in-the-1980s/ [86], (accessed 2018-09-14).

(15)“The Education Guide to DPLA”. Digital Public Library of America.
https://dp.la/guides/the-education-guide-to-dpla/ [87], (accessed 2018-09-14).
下記もあわせて参照。
Gibson, Samantha. Teaching and Learning with DPLA. DPLA News, 2018-09-05.
https://dp.la/news/teaching-and-learning-with-dpla/ [88], (accessed 2018-09-14).

(16)Europeanaの概要や政策的背景を述べた例として、下記を参照。
菅野育子. “米国・欧州の政策と実践から見たMLA連携”. 図書館・博物館・文書館の連携. 日本図書館情報学会研究委員会編. 勉誠出版, 2010, p. 25-42.

(17)“Education”. Europeana Pro.
https://pro.europeana.eu/what-we-do/education [89], (accessed 2018-09-14).
下記もあわせて参照。
McNeilly, Nicole. “Help shape inspiring education: join us as we launch Europeana4Education!.” Europeana Pro, 2017-03-22.
https://pro.europeana.eu/post/help-shape-inspiring-education-join-us-as-we-launch-europeana4education [90], (accessed 2018-09-14).
Crespo, Isabel. “Europeana Education: bringing Europe’s cultural and scientific heritage to teachers, students and lifelong learners”. School Education Gateway, 2018-01-10.
https://www.schooleducationgateway.eu/en/pub/latest/news/europeana-education.htm [91], (accessed 2018-09-14).

(18)EUROPEANA4EDUCATION: A guide to using Europeana for education. Europeana Pro, 2017-03-13, 17p.
https://pro.europeana.eu/files/Europeana_Professional/Use_your_data/Europeanaforeducation/Resources/a-guide-to-using-europeana-for-education-march-2017.pdf [92], (accessed 2018-09-14).

(19)Crespo, Isabel. “Learning scenarios with Europeana content”. Europeana Pro. 2018-08-29.
https://pro.europeana.eu/post/french-learning-scenarios [93], (accessed 2018-09-14).

(20)Historiana.
https://historiana.eu [94], (accessed 2018-09-14).

(21)Stegers, Steven; Snelson, Helen. Teacher Training Guide: How to use online tools to promote historical thinking?. European Association of History Educators, n.d., 46p.
https://euroclio.eu/wp-content/uploads/2018/09/TeacherTraining Package-Europeana DSI3.docx [95], (accessed 2018-09-14).

(22)一次資料や証拠の重要性については、記録管理の国際標準ISO 15489-1「情報及びドキュメンテーション―記録管理―第1部:概念及び原理」(2001年制定、2016年改訂)が優れた記録管理の利点として掲げる「透明性及び責任説明の向上」「確かな情報に基づく意思決定」などとも結びつけて認識する必要がある、というのが筆者の考えである。なお、ISO 15489-1(改定前の物を含め)の意義については、例として下記を参照。
小谷允志. 文書と記録のはざまで:最良の文書・記録管理を求めて. 日外アソシエーツ, 2013, 334p.
中島康比古. 記録管理の国際標準ISO15489-1の改定について. アーカイブズ. 2016, (61).
http://www.archives.go.jp/publication/archives/no061/5131 [96],(参照 2018-09-14).

[受理:2018-10-29]

 


米国. デジタルアーカイブコンテンツの児童・生徒向け教育への活用をめぐって:米国・欧州の動向を中心に. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1943, p. 16-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1943 [97]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11203359 [98]

Koga Takashi
A Review on Educational Use of Digital Archives Contents for Students: Putting Emphasis on Current Activities in the US and EU

  • 参照(8456)
カレントアウェアネス [25]
動向レビュー [65]
デジタルアーカイブ [99]
子ども [67]
ヤングアダルト [68]
米国 [100]
欧州 [101]

No.337 (CA1932-CA1938) 2018.09.20

  • 参照(15358)

No.337の 表紙 [102]と 奥付 [103](PDF)

CA1932 - オーテピア高知図書館:県と市の合築による一体型図書館 / 小泉公乃

  • 参照(8961)

PDFファイル [104]

カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1932

 

 

オーテピア高知図書館:県と市の合築による一体型図書館

筑波大学図書館情報メディア系:小泉公乃(こいずみ まさのり)

 

はじめに

 2018年7月24日、高知県高知市において新図書館等複合施設「オーテピア」(1)が開館した。オーテピアは、(1)オーテピア高知図書館(表1)、(2)オーテピア高知声と点字の図書館、(3)高知みらい科学館の3つの施設からなる複合施設である。その中核的施設であるオーテピア高知図書館は、高知県立図書館と高知市民図書館による合築(がっちく)の図書館であり、県と市の図書館を1つの建物内で共同経営するという日本ではこれまでにない取り組みである。筆者は、このオーテピア高知図書館を対象として、建築における初期段階の2016年2月から現在にわたって観察調査とインタビュー調査を組み合わせたエスノグラフィーを行ってきた。それ以前については、資料調査を基礎にインタビュー調査を行った。表2は,合築前の高知県立図書館と市民図書館の基本情報である。

 

表1 オーテピア高知図書館の概要(2)

施設名 オーテピア高知図書館
開館日 2018年7月24日
延床面積 17,780.72㎡
収蔵能力 約205万冊(うち開架約34万冊)
(2018年7月)     

 

表2 合築前の高知県立図書館と高知市民図書館の状況(3)

施設名 高知県立図書館 高知市民図書館(本館)
建築年度 1973年 1967年
新館は1991年建築
延床面積 3,896.17㎡ 3,740.80㎡ 
(旧本館)
蔵書冊数 約85万5,800冊 約51万9,800冊 
(分館・分室を含め約108万冊)
閲覧席数 203席 148席
(2017年時点)     

 

1. 開館までの道のり

 このオーテピア高知図書館のプロジェクトが本格的に動き始めたのは、新図書館基本構想検討委員会が設置された2010年度であるが、それぞれが単独で将来の図書館整備や経営のあり方について検討していた時期を含めれば、おおよそ1995年にまで遡る長期的なプロジェクトとなる(表3)(図)。

 

表3 オーテピア高知図書館が開館するまでの主な出来事

年月 出来事
1995年3月 「新高知県立図書館整備構想」を発表(移転予定先:シキボウ跡地)
1999年4月 「新しい時代の市民図書館 : 図書館の長期構想」(高知市民図書館)
2000年6月 高知市新図書館構想検討委員会を設置
2002年5月 「高知市新図書館構想検討委員会報告書
2004年12月
高知進化型図書館を考える会から図書館と商業施設の併設を検討することの提言
(移転予定先:はりまや橋交差点とでん西武[高知西武]跡地)
2005年9月 「駅前複合施設構想」(移転予定先:JR高知駅南側の県所有地)
2007年1月 県知事と市長の会談で知事が図書館施設の複合化を提案し、県市の実務者レベルによる検討を開始することを市長が了承
2008年1月 高知市長が高知県知事に追手前小学校跡地を整備先とした合築を提案
(現在の新図書館所在地)
2010年10月 新図書館基本構想検討委員会を設置
(構想ができるまでに検討委員会を8回開催)
2011年3月(県)/4月(市) 「新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)基本構想」
2011年7月 「新図書館等複合施設整備基本計画」
2013年11月 東日本大震災の影響をうけ建築主体工事の入札が不調
2014年5月 建築主体工事の入札・落札
2014年7月 新図書館等複合施設(オーテピア)の建築工事の開始
2015年3月 免震装置の偽装問題
2015年6月 新図書館情報システムの暫定稼働の開始
2017年1月 「《平成29年度~平成33年度》オーテピア高知図書館サービス計画~これからの高知を生きる人たちに力と喜びをもたらす図書館~」
2018年2月 組織体制の確立
2018年7月 7月24日に開館
※内部資料(2016年2月)と新図書館整備課のウェブサイト(4)を基に筆者が作成

 

図 新図書館の候補地

※Google社の地図を基に筆者が場所を追記

 

 このように新館建設計画が長期化した背景には、県の財政難や候補地の他施設との競合など、図書館単独では解決が困難な多くの障壁があった。したがって、その原因を高知県と市の図書館関係者の見識不足と安易に判断するのは誤りである。合築に対する評価はわかれるとしても、「新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)基本構想」(2011年)(5)や「≪平成29年度~平成33年度≫オーテピア高知図書館サービス計画~これからの高知を生きる人たちに力と喜びをもたらす図書館~」(2017年)(6)をみれば、多少の不十分さはあってもよく検討されてきていることがわかる。さらに新館建設の議論が巻き起こっては滞る現象は国際的にもみられることに鑑みれば(7)、それだけで公共図書館の新館建設はその地域のあらゆる人々にとって大きな影響を与え、図書館の理念だけでは具現化しないことが理解できよう。しかも県と市による合築となればなおさらである。

 

2. 開館までの障壁

 オーテピア高知図書館のプロジェクトにおいては、どのような障壁があったのか。主には、(1)都道府県立図書館と市区町村立図書館の役割・専門性と組織の在り方、(2)立地の選定、(3)想定外の入札不調と免震ゴム偽装問題、(4)県と市の合意形成プロセスと図書館文化の相違にあると考えられる。

 第一の都道府県立図書館と市区町村立図書館の役割・専門性については、最も議論になった点であろう。これまで図書館界においても、都道府県立図書館と市区町村立図書館の機能と役割分担や今後の在り方について議論がされてきている(CA1871 [105]参照)。今回、合築されることによる、それぞれの機能と役割の機能不全や組織の混乱が生じると地域住民や地方議員から指摘されてきている(8)(9)。これに対する解決策を模索するために、職員は一体型図書館を構築後も直営経営を保ち、組織を完全に統合することなく各機能と役割を明確に再定義し、図書館員の研修を増やすことで解決を試みている。

 第二の立地については、表3からもわかるように、二転三転してきている。立地の選定では、その立地が持つ背景はもちろんであるが、理想的な図書館の機能や役割(知識や情報の観点)と地域の賑わい(経済の観点)のいずれを優先すべきかという論点が基礎になっていた。例えば、追手前小学校敷地に新図書館を設置すれば、他候補地に比べると敷地が狭く駐車場等の問題は生じやすいが、中心地の賑わいは期待できる等である。つまり、地域経済の行き詰まりがみられる中で、それが図書館の理念と照らしたときに副次的要素だとしても新図書館建築は同時に地域経済への貢献も強く期待されることになるわけである。

 第三の想定外の入札不調と免震ゴム偽装問題は、東日本大震災による工事費の高騰によって入札が不調となってしまったことと(10)、性能基準を満たさない免震装置を製造・販売していた企業の製品の使用を予定していたことが入札後に判明したことである(11)。偽装問題を受け開館時期を1年程度遅らせることになったが、この期間に職員研修を数多く実施したりすることでさらなるサービスの充実を図った。

 第四には、意思決定者が県と市の2つであることから、その合意形成に多くの時間を費やしてきたことがあげられる。これは単純に2つの組織における意思決定プロセスの相違にも起因しているが、県立図書館と市民図書館という2つの組織が積み重ねてきた文化とルールの擦り合わせの作業とも深く関係している。例えば、県知事と市長によって合築が決められた後、各図書館の現場は混沌とし、組織間のコミュニケーションも円滑ではなかった。さらにそれぞれ背負ってきた歴史と理念から相互に譲ることのできない場面も多く生じてきている。しかしながら、ある職員のメッセージの中に「対立から連携へ」というものがあった(12)。つまり、最初はそれぞれの組織間で互いのサービス提供方法や規則について理解をすることが難しかったが、県と市の定例会議や担当者間の打合せで議論を重ねる中でそれぞれがどのような理由でそのような主張をするのかを理解していったわけである。また、このときの状況について、高知県立図書館長の渡辺憲弘氏は「それぞれのやり方が正しいと思っているわけだから、簡単にどちらかに合わせればいいとはならない。よりよいものがあって初めて両者とも納得するようになる」と表現している(13)。ここから筆者が感じ取ったのは、今回の合築は単純な県と市の既存サービスの寄せ集めの作業ではなく、異なる2つの組織が合わさったことによって新しいものを生み出そうとする力がそこに生じていたということである。そしてこの協調と創造の基盤には、異なった組織に属している以前に図書館員という専門職としての意識をもち、住民が第一であるという共通認識があったと考えられる。

 

まとめ

 オーテピア高知図書館の真価は開館後に問われることになる。図書館の理念、首長と自治体の方針、地域の人々の思いなどが交錯するなかで同館は具現化されていった。理想をいえば、確かに県と市がそれぞれ単独で図書館を建設した方が図書館の専門領域は明確になり、合計の延床面積はより大きくなっていた可能性も否定できない。しかし調査の過程で明らかになったのは、現状の高知県と高知市の財政状況と利害関係者の調整を考慮すると、合築でなければ高知県高知市に大規模な新図書館を建設するのは難しかったということである。同館は、日本で初めての県立図書館と市立図書館の合築であるだけに、開館後も様々な課題を乗り越えていくことになるだろう。しかし、筆者は高知県立図書館長の「よりよいもの」というメッセージに期待したい。

 

(1)オーテピア.
https://otepia.kochi.jp/ [106], (参照 2018-08-08).

(2)“施設の概要”. オーテピア.
https://otepia.kochi.jp/about.html#about05 [107], (参照 2018-07-25).
“オーテピア高知図書館について”. オーテピア.
https://otepia.kochi.jp/library/outline.html [108], (参照 2018-07-25).

(3)高知県立図書館. “【平成28年蔵書点数】”. 平成29年度図書館要覧. 2017, p. 39.
http://www.pref.kochi.lg.jp/~lib/youran-toukei/youran_29.pdf [109], (参照 2018-07-25).
高知市立市民図書館. “5 平成28年度蔵書統計”. 平成29年度図書館要覧. 2017, p. 13.
http://www.city.kochi.kochi.jp/uploaded/life/91675_pdf1.pdf [110], (参照 2018-07-25).

(4)“新図書館整備課”. 高知県.
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/312201/ [111], (参照 2018-07-26).

(5)高知県教育委員会. 新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)基本構想. 2011, 34p.
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/312201/files/2011041400306/2011041400306_www_pref_kochi_lg_jp_uploaded_attachment_49112.doc [112], (参照 2018-08-08).
高知市教育委員会. 新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)基本構想. 2011, 24p.
https://otepia.kochi.jp/library/tmp/新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)基本構想.pdf [113], (参照 2018-08-08).

(6)高知県・高知市. 《平成29年度~平成33年度》オーテピア高知図書館サービス計画~これからの高知を生きる人たちに力と喜びをもたらす図書館~. 2017, 52p.
https://otepia.kochi.jp/library/tmp/オーテピア高知図書館サービス計画.pdf [114], (参照 2018-06-09).

(7)ノルウェーのオスロ公共図書館では、30年以上にわたって新館建設が議論されたうえで建設が開始された。ストックホルム公共図書館では増築計画が2009年に中止された。

(8)高知の図書館を考える県民の会. 追手前小学校敷地に構想されている高知県・高知市一体型図書館はここが問題です.
http://blog.ap.teacup.com/kochinotoshokan/html/ittaigatamondaichirashi.pdf [115], (参照 2018-06-10).

(9)“拙速な合築ありき禍根残す 共産・江口議員が討論 新風・和田議員「反対のための反対理解できぬ」 高知市議会”. 高知民報. 2010-10-10.
http://jcpkochi.jp/topic/2010/101010eguti.htm [116], (参照 2018-07-26).

(10)県立図書館:合築問題 新図書館、ようやく落札 入札不調、開館1年遅れに. 毎日新聞. 2014-05-24, 朝刊[高知], p. 20.

(11)“「偽りの代償」 東洋ゴム免震偽装事件・中 「禍根残す新図書館への使用」”. 高知民報. 2015-04-05.
http://jcpkochi.jp/topic/2015/150405toyogomu.html [117], (参照 2018-06-10).

(12)2017年10月19日、オーテピア高知図書館関係者に筆者が行ったインタビューによる。

(13)2018年6月29日、高知県立図書館館長渡辺憲弘氏に筆者が行ったインタビューによる。

 

[受理:2018-08-15]

 


小泉公乃. オーテピア高知図書館:県と市の合築による一体型図書館. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1932, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1932 [118]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11161995 [119]

Koizumi Masanori
Otepia Kochi Library: a Joint Prefectural and City Library

カレントアウェアネス [25]
図書館経営 [66]
日本 [30]
公共図書館 [31]
公立図書館 [32]

CA1933 - 主権者教育と高校図書館 / 成田康子

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PDFファイル [120]

カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1933

 

 

主権者教育と高校図書館

北海道札幌南高等学校:成田康子(なりた やすこ)

 

はじめに

 2015年6月17日、公職選挙法が71年ぶりに改正され、選挙年齢が18歳以上に引き下げられた。そして、第24回参議院議員通常選挙の公示日(2016年6月22日)以降の選挙から適用された。従来と異なり、高校在学中に有権者となる生徒がいる現状から、国(総務省、文部科学省(文科省)、を中心に)は主権者教育のあり方を検討した。文科省では、主権者教育の目的として「単に政治の仕組みについて必要な知識を習得させるにとどまらず、主権者として社会の中で自立し、他者と連携・協働しながら、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力を身に付けさせる」ものとし(1)、教育活動への具体的な取組を促している。それに伴い、2008年9月に子どもの読書サポーターズ会議の報告書において提言された高校の図書館の機能(E850 [121]参照)(2)を活用する期待も高まってきている。

 一方、国際的な潮流としての国際連合総会で採択された「児童の権利に関する条約」(3) 第28条と日本国憲法第26条(4)における「教育権」の関係や、「ユネスコ学習権宣言」(5)での「学習権」(6)について再考する機会ともいえる。1996年の中央教育審議会の第1次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」で示された、自ら学び自ら考えるなどの「生きる力」を育成する理念(7)のもとに展開されてきた教育政策が、今回の法改正により「高校生の政治活動」(8)という課題(9)(10)を内包しているからである。

 

1. 教育政策と学校図書館

 まず、公職選挙法の改正を踏まえた、国の主権者教育に関する政策を見ておきたい。

 総務省と文科省は2015年秋に、高校生向け副教材『私たちが拓く日本の未来』を作成し、全国の高校生に配布した。この教材では学習活動を通じて考えたいこととして、「国家・社会の形成者として求められる力」を4点あげている。また、学習方法として「いわゆるアクティブ・ラーニング(AL)型の授業が世界中で注目」されているとある(11)。

 2016年12月の総務省意識調査の結果によると、「選挙や政治に関する授業を受け」ると投票率がやや上がる、「模擬選挙を体験」が効果的との回答が最も多い等の報告がある(12)。同省の有識者会議「とりまとめの公表」(2017年3月)では「発達段階に応じた取組の方向性」の高校生段階として、公民科目以外での教育、政治事象を題材としたディベート、実際の選挙を題材とした模擬選挙、新聞記事やニュースの活用、特別支援学校の工夫を凝らした取組等が求められているとの課題が報告されている(13)。

 文科省の「これからの学校図書館の整備充実について(報告)の公表について」(2016年10月)によると、課題のひとつとして「主権者教育の推進など新たなニーズに応えられる図書館資料の整備」がある。近年行われた学校図書館法の改正(1997年、2014年)、子どもの読書推進に関する法律 (2001年)や文字・活字文化振興法(2005年)の制定でも「学校図書館ガイドラインの作成」や「学校司書のモデルカリキュラムの作成」という具体的な方策をあげ、学校図書館を資料面で支援する場所として位置づけている。報告本文の「はじめに」では、地方財政措置等を行ってきた経過を説明し、学校図書館の役割の重要性と利用の必要性を強調している(14)。

 また「学校図書館の現状に関する調査」(2016年10月)では、学校図書館における人的整備・物的整備、読書活動の状況等を示している(15)。調査結果からは、学校図書館の整備・充実に向けての態勢づくりが急務であることがわかる。

 また、2017年4月24日付けの「教育新聞」では、「主権者教育の充実を図る 文科省の学校図書館施策【学校図書館特集】」「新聞複数配備の財政措置、学校司書の配置を拡充へ」の見出しで、学校司書配置が5か年計画で新たに位置づけられたことや、高校に初めて新聞配備に係る措置が行われた等の報道がある(16)。

 

2. 高校図書館での取組例

 このような国の施策を受けて、高校図書館での取組が広がり進んできた。いくつか事例を見ておきたい。

 高校図書館への新聞の複数紙配置により、これまで以上に新聞記事の切抜きでの活用やNIE(Newspaper in Education)での活用が見られる(17)。学校図書館では、以前から資料を公立図書館から借り入れることは行われていたが、主権者教育への対応でさらに連携が進んだ事例もある(18)。他に、笠岡市(岡山県)内の高校図書館に市議会の広報誌が寄贈され(19)、佐賀県内の高校図書館では、投票日を知らせる「三角柱ポップ」が置かれた(20)例がある。

 神奈川県立湘南台高等学校(藤沢市)では、主権者意識を育む授業が定着し、総合的な学習の時間を中心に図書館資料を活用して時事問題を調べている(21)。同校は県教育委員会の「シチズンシップ教育(22)活動開発校」指定を契機に主権者教育に力を入れている。また、島根県立矢上高等学校(邑南町)のウェブサイトには「図書委員が「主権者教育についてのワークショップ」を企画実施しました」(23)とのタイトルのブログ記事が掲載されており、「未来の邑南町長選挙」と題した図書委員企画で、町役場職員も参加して投票を実施した後、候補者を選ぶ時に重視した点、各候補の政策のメリット・デメリットについて、グループで意見交換を行ったことが紹介されている。

 東京都立国際高等学校(目黒区)では、「学校図書館において、どのような主権者教育が可能なのか」を模索し、公民科教師と司書が協働で授業を行っている(24)。「制度説明、リテラシー、話し合い(ディスカッション)、合意形成、政策作り、請願、模擬選挙、模擬議会」の8つに主権者教育を分類し、実践している。

 筆者の勤務する北海道札幌南高等学校(札幌市)では、図書局(25)主催「ライブ・イン・ライブラリー」(26)で、2年生女子による「日本とドイツの若い人の政治参加と政治教育」が催され、生徒40人余の参加者を前にドイツの政治教育の実際を統計やグラフを示しながら話した。ライブ後には、質問や活発な意見交換が行われた(27)。

 

3. 高校図書館としての姿勢

 最後に、筆者の実践のなかで考えている主権者教育と高校図書館の関係について述べて終わりとしたい。

 札幌南高等学校の図書局活動は、教育課程のなかの「特別活動」のひとつであり、日常的に生徒の主体性を育む教育活動である(28)(29)。2014年から始まった上述の「ライブ・イン・ライブラリー」では、生徒が身近な疑問や興味、関心をもとに発表する。他の生徒による新たな知識や価値の提起により、発表者のみならず参加者も自分の思い込みや先入観に気づき、なぜなのかと問いなおすきっかけを得る。ライブでは必ずしも一つの結論を出すことを目標とせず、「まとめ」をする必要もシナリオもない。多様性を自然と認め合い、そこで今語られているというライブ感を体験する。同窓生や地元の大学からの協力も得て、社会とかかわることで視野の広がりも期待される(30)。

 図書局の広報紙『四面書架』(31)は、生徒自身の主体的な問題意識が文章となって表現される。編集段階での話し合いによる共感と批評は、想像力をたすけにして読者との交流へつながる。学校祭での展示は、テーマ決め、役割分担、中間発表を経て互いに協力し、試行錯誤しながら取り組む。自分で判断し行動しなければならない場面もあり、受身ではなく積極的に関わる企画が、互いを尊重する雰囲気を自ずと形作っていく(32)。

 図書局の活動を中心として、図書館が日常的に思考の場となり高校生同士で学ぶ創造的な空間となる。授業で習得した知識をもとにそれらを広げ深め、個別具体的な課題に対応する。ものごとの多面性・多様性、対立・矛盾等について考えるための本や資料を共有し、互いに学びあう場として、「学習権」を図書館は保障する。自ら考える人を育てつつ問題意識を発現させ思考にいざなう。その葛藤の過程から、主権者であるという自覚が育まれていくのだろう。

 学習指導要領改訂により、2022年度から高等学校では新教科「公共」が導入される(33)。

 実際のところ、「公共」の授業での主権者教育のみでは生徒が今後向き合う社会での政治参加には不十分だろう。図書館に収集されている情報資料を、広く文化、芸術、歴史、経済、政治、自然、科学、技術という、いうならば日本十進分類法(NDC)の分類記号0から9までの世界全体を個々の政治課題と結びつけながら読み、生徒たち自身が自由に思考し論理的な考えをもとに行動につなげていくこと。思考を保ち、不安定ななかからも希望を見出していくことが重要となってくる。そこでは、評価される対象としてではなく、効率よくという呪縛からも解き放たれる時間のなかで学習することが求められる。自分がそして他者も人間としての尊厳をもつ存在だと気づくことによって、主権者意識が芽生え、育っていく。図書館で出会う生徒一人ひとりとの会話をとおして筆者が日々感じ教えられるのはそういうことである。

 図書館のもつ自由の精神が、知性を育む場として機能する。教育課程の展開に寄与する高校図書館の姿を、これらの活動に見出せるだろう。

 

(1)“「主権者教育の推進に関する検討チーム」最終まとめ~主権者として求められる力を育むために~”. 文部科学省. 2016-03-31.
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/1369157.htm [122], (参照 2018-07-13).

(2)“児童生徒の「読書センター」および「学習・情報センター」としての機能”. これからの学校図書館の活用の在り方等について(報告). 子どもの読書サポーターズ会議. 文部科学省, 2009-03, p. 3.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/meeting/__icsFiles/afieldfile/2009/05/08/1236373_1.pdf [123], (参照 2018-08-03).

(3)“「児童の権利に関する条約」(全文)”. 外務省.
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html [124], (参照 2018-07-13).
中学生が自らのこととして翻訳を試みた以下の文献を上記外務省の公式訳と比較すると、子どもの権利としての教育・学習権が一層明確になる。
小口尚子, 福岡鮎美. 子どもによる子どものための「子どもの権利条約」. 小学館, 1995, 183p.

(4)“日本国憲法(条文抜粋)”. 教育基本法資料室へようこそ!. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/a002.htm [125], (参照 2018-08-13).

(5)“ユネスコ学習権宣言”. UNESCO Bangkok Office.
http://www.unescobkk.org/fileadmin/user_upload/appeal/Literacy_and_Conrtinuing_Education/Meetings_Conferences/RegionalResearchWorkshop/Documents/UNESCRIGHT_TO_LEARN.pdf [126], (参照 2018-08-03).

(6)「学習権」とは、藤田によれば「学習への権利のこと」であり、「他者に一方的に教えられるものではなく、学習者自身が教えられたこと、その他さまざまな問題に疑問をもって、質問し、また、みずから各種の現象を分析するという、学習者の主体性を認めさせる権利」とされる。
藤田秀雄.“ユネスコの学習宣言”. ユネスコ学習権宣言と基本的人権.藤田秀雄編著. 教育史料出版会, 2001, p. 20.

(7)“「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」 <中央教育審議会第一次答申の骨子>”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/toushin/attach/1309634.htm [127], (参照 2018-07-13).

(8)“高等学校等における政治的教養と教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)”. 文部科学省. 2015-10-29.
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1363082.htm [128], (参照 2018-07-13).

(9)1960年代末の国際的な学生運動は高校生の政治活動にまで及び、その結果文部省(当時)の俗に言われる「69年通達」によって高校生の政治活動は禁止されていた。
“高等学校における政治的教養と政治的活動について(昭和44年10月31日文部省初等中等教育局長通知)”. 文部科学省. 1969-10-31.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/118/shiryo/attach/1363604.htm [129], (参照 2018-07-13).
この時期の雰囲気は、以下の文献などに描かれている。
盛田隆二. いつの日も泉は湧いている. 日本経済新聞出版社, 2013, 317p.
四方田犬彦. ハイスクール1968. 新潮社, 2004, 255p.
小林哲夫. 高校紛争1969-1970. 中央公論新社, 2012, 299p., (中公新書, 2149).

(10)今回の法改正による高校生の政治活動の一部容認によって、新しい動きが始まっているが、現場での対応は分かれている。
さあ 政治を語ろう 18歳選挙権 高校生、模擬投票や討論 デモ参加「普通のことに」. 朝日新聞. 2015-11-10, 朝刊, p. 39.
政治活動 「届け出」校則に 愛媛県立高 全59校. 毎日新聞, 2016-03-16.
https://mainichi.jp/articles/20160316/k00/00e/040/229000c [130], (参照 2018-07-13).
高校生の政治活動 事前届け出、都道府県で対応分かれる. 毎日新聞. 2016-05-17.
https://mainichi.jp/articles/20160517/k00/00m/040/108000c [131], (参照 2018-07-13).

(11)私たちが拓く日本の未来―有権者として求められる力を身に付けるために. 総務省, 文部科学省. 104p.
http://www.soumu.go.jp/main_content/000492205.pdf [132], (参照 2018-07-13).
「国家・社会の形成者として求められる力」として、「論理的思考力(とりわけ根拠をもって主張し他者を説得する力)」「現実社会の諸問題について多面的・多角的に考察し、公正に判断する力」「現実社会の諸課題を見出し、協働的に追及し解決(合意形成・意思決定)する力」「公共的な事柄に自ら参画しようとする意欲や態度」の4点を挙げている(p. 30)。また、「アクティブラーニング(AL)型の授業」として「正解が一つに定まらない問いに取り組む学び」「学習したことを活用して解決策を考える学び」「他者との対話や議論により、考えを深めていく学び」の3つの学習方法を示している(p. 31)。

(12)“主権者教育等に関する調査及び18歳選挙権に関する意識調査の結果”. 総務省. 2016-12-27.
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei15_02000153.html [133], (参照 2018-07-13).

(13)“「主権者教育の推進に関する有識者会議」とりまとめの公表”. 総務省. 2017-03-28.
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei15_02000163.html [134], (参照 2018-07-13).

(14)“これからの学校図書館の整備充実について(報告)の公表について”. 文部科学省. 2016-10-20.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/115/houkoku/1378458.htm [135], (参照 2018-07-13).
“学校図書館法(昭和28年法律第185号)抄”. 子どもの読書活動推進ホームページ. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/011.htm [136], (参照 2018-07-13).
“子どもの読書推進に関する法律”. 子どもの読書活動推進ホームページ. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/001.htm [137], (参照 2018-07-13).
“文字・活字文化振興法 (平成十七年七月二十九日法律第九十一号)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/080617/005.pdf [138], (参照 2018-07-13).
“平成24年度予算:新5か年計画始動、学校司書配置・新聞配備に予算”. 全国学校図書館協議会.
http://www.j-sla.or.jp/slanews/post-17.html [139], (参照 2018-07-13).

(15)“平成28年度「学校図書館の現状に関する調査」の結果について”. 文部科学省. 2016-10-13.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1378073.htm [140], (参照 2018-07-13).
“平成26年度「学校図書館の現状に関する調査」の結果について”. 文部科学省. 2014-06-02.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1358454.htm [141], (参照 2018-07-13).

(16)主権者教育の充実を図る 文科省の学校図書館施策【学校図書館特集】:新聞複数配備に財政措置 学校司書の配置を拡充へ. 教育新聞. 2017-04-24.
https://www.kyobun.co.jp/feature1/pf20170424_02/ [142], (参照 2018-07-13).

(17)主権者教育に新聞活用し充実. 高知新聞. 2018-03-03, 朝刊, p.18.

(18)[教育ルネサンス]楽しい図書館(4)社会の制度学ぶ拠点(連載). 読売新聞. 2010-02-06, 朝刊, p.17.
群馬県の藤岡市立東中学校の事例。図書室を拠点とした調べ学習が、「市民性を磨く教育」をバックアップしている事を紹介している。学校図書室の資料で不十分な場合、市立図書館の資料を借り出し、市役所や社会保険事務所からパンフレットを入手し、分からないところは関係機関に出向いて直接質問したとのことである。

(19)笠岡市議会:行政や政治に関心を 全4高校に広報誌配布. 毎日新聞. 2016-6-16, 朝刊[岡山], p. 24.

(20)参院選:今夏の18、19歳投票率 佐賀選挙区で45.00%. 毎日新聞. 2016-09-10, 朝刊[佐賀], p. 25.

(21)18歳選挙権 未来を拓く:第3章 主権者の意識④神奈川県. 静岡新聞. 2016-05-04, 朝刊,  p. 1.

(22)英・ブレア政権のシティズンシップに関する諮問委員会委員長バーナード(Crick Bernard)によると、シティズンシップ教育とは市民性、すなわち市民として必要な素養を育てるものとされている。
クリック・バーナード. シティズンシップ教育論:政治哲学と市民. 法政大学出版局. 2011, 317p., (サピエンティア, 20).

(23)“図書委員が「主権者教育についてのワークショップ」を企画実施しました”. 島根県立矢上高等学校. 2016-04-24.
http://www.yakami.ed.jp/788.html [143], (参照 2018-07-13).

(24)同校では「課題を多面的・多角的に捉え、自らの意見を形成し、根拠をもって自らの考えを主張・説得し、また合意形成を図る力を育む」ことが主権者教育のあるべき姿としている。
宮崎三喜男, 宅間由美子. 特集, 主権者教育と学校図書館:都立国際高校の図書館と「主権者教育」. 学図研ニュース. 2018, (387), p. 5-6.

(25)図書局とは、生徒会外局のひとつである。希望する生徒によって構成されていて図書館の広報、展示、図書館行事等が主な活動である。構成人数は例年20人弱で、他校図書局・委員会との交流もある。北海道は道の高等学校文化連盟のなかに1979年図書専門部が設立され、生徒の主体的な図書館活動を支援している。年1回の全道大会と道内11支部での大会が活発に行われている。
北海道高等学校文化連盟図書専門部.
http://www.sapporominami.hokkaido-c.ed.jp/library/newpage.html [144], (参照 2018-07-13).

(26)「ライブ・イン・ライブラリー」とは図書館で行われている生徒によるトークライブのことである。
成田康子. 図書館レポート 「ライブ・イン・ライブラリー」―考える、話す、伝え合う。また考える. 人文会ニュース. 2016, (125), p. 19-31.
http://jinbunkai.com/wp-content/uploads/2016/12/125_web.pdf [145], (参照 2018-07-13).

(27)当日の様子は以下を参照のこと。
成田康子. ブック・ストリート 学校図書館 18歳選挙権、生徒の関心. 出版ニュース. 2015, (2387), p. 18.
成田康子. 高校図書館から―『わが闘争』、そして. みすず. 2016, (650), p. 6-14.
また、政治教育において教員の中立性が問題とされるが、林大介によれば、ともすると「中立性」ということは、どちらの考えも扱わないとなるが、それでは高校生自身が考える機会を奪ってしまうことになろう。教員の意見を押し付けることなく、生徒に先入観なく考えられる機会を設けることが重要、という。
林大介. 「18歳選挙権」で社会はどう変わるか. 集英社, 2016, 206p., (集英社新書, 0838).
高校 主権者教育を充実. 読売新聞. 2018-01-31, 朝刊, p. 1.

(28)成田康子. みんなでつくろう学校図書館. 岩波書店, 2011, 214p., (岩波ジュニア新書,  703).

(29)成田康子. 高校図書館 生徒がつくる、司書がはぐくむ. みすず書房, 2013, 252p.

(30)成田康子. 高校図書館デイズ 生徒と司書の本をめぐる語らい. 筑摩書房, 2017, 213p., (ちくまプリマー新書, 280).
札南高「図書館ライブ」50回 興味ある話題 生徒が発表、意見交換. 北海道新聞. 2018-05-23, 朝刊, p. 15.
発表者のなかの二人が筆者に伝えた言葉で「大人ではなく、高校生に聞いてもらいたい」「大人にわかってもらおうと言うより、高校生にわかってもらいたいという気持ち」が印象的であった。

(31)図書局員作成の図書館広報紙。1か月から2か月に一回の発行で現在61号になる。図書館の存在を全校に知らせ、みんなに読んでもらえるものをつくりたい、という局員の願いから2010年8月に創刊した。図書館行事の報告、新刊紹介、コラムなどで情報発信をする。なかでも、「書架の隙間から」の連載は、新聞書評を読んでの本紹介で、新聞・本を「批判的」に読むことを意識している。

(32)2018年度の学校祭は「書架人、かたる」(“あなたにぴったりの一冊が見つかる図書館”から“知らなかった自分を見つける図書館”へ)と題して、図書局員らが自分の興味・関心をもとにテーマを設定し探究。アドバイザーに関連教科の教師や卒業生を得、パネルやライブ、冊子で発表する。

(33)「主体的・対話的で深い学び」の実現に向け、総則において「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り」「生徒の自主的、自発的な学習活動や読書活動を充実すること」(p. 18)として、新教科「公共」が必修とされる。
高等学校学習指導要領. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/07/11/1384661_6_1_2.pdf [146], (参照 2018-08-03).
 

[受理:2018-08-16]
 

成田康子. 主権者教育と高校図書館. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1933, p. 5-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1933 [147]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11161996 [148]

Narita Yasuko
Citizenship Education and School Libraries in Japan

カレントアウェアネス [25]
ヤングアダルト [68]
情報リテラシー [149]
日本 [30]
学校図書館 [69]

CA1934 - 新学習指導要領と学校図書館の活用 / 森田盛行

  • 参照(11933)

PDFファイル [150]

カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1934

 

 

新学習指導要領と学校図書館の活用

全国学校図書館協議会:森田盛行(もりた もりゆき)

 

1. 新学習指導要領の概要

 2018年3月に高等学校の学習指導要領が改訂され、これにより2018年から2022年にかけて幼稚園から高等学校及び特別支援学校の新学習指導要領(以下「新指導要領」と言う。)が施行されることになった。

 現代は、ICTの進化をはじめ、社会的変化が人間の予測を超えて進展する時代がすぐそこまで来ている。特に人口知能(AI)の発達により人間の職業ばかりか、人間そのものの存在の在り方までがおびやかされるのではという懸念が広がりつつある中で、これからの教育について大きな関心が向けられている。

 このような状況を背景に、2016年の中央教育審議会(中教審)の答申では、「よりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有し」、社会との連携・協働による「社会に開かれた教育課程」の実現を目指すとした(1)。そのために、枠組みを改善し、後述するカリキュラム・マネジメントを確立するとしている(2)。

 新指導要領では現行の学習指導要領において重視された「基礎的な知識・技能」「思考力・判断力・表現力等の能力」「主体的に学習に取り組む態度」の育成、言語活動、体験活動を引き継ぎ、学習の基盤となる資質・能力を一層確実に育成することを目標にした。

 

1.1. 何ができるようになるか(目指す資質・能力)

 新指導要領では教育課程全体で育成するこの資質・能力を以下のように3つの柱に整理し、各教科の目標・内容はこれにそって記述している(3)。

  • (1)「知識及び技能」の習得
     個別の知識だけではなく、それらが相互に関連付けられ、社会で生きて働く生きた知識となるもの。
  • (2)「思考力・判断力・表現力等」の育成
     将来の予測困難な社会でも未来を拓いていくために必要な能力。
  • (3)「学びに向かう力、人間性等」の涵養
     主体的に学習に取り組む態度、自己の感情・行動を統制する能力など。

 

1.2. どのように学ぶか(学習・指導の改善・充実)

 これまでの学習指導要領の記述は、何を学ぶかという学習内容が主であったが、新指導要領では「どのように学ぶか」と学ぶ過程に力点が置かれている。そこで、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)の視点が設定された(4)。これには、新たな指導法かと、現在でも多忙な学校現場にさらに負担が増えるのではないかという懸念があった。しかし、特定の型のある指導法ではなく、これまでの学校現場で蓄積されてきた指導をさらに確実にするために「知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程」を重視する「主体的・対話的で深い学び」の視点で行う学習であるとしている(5)。

 これらの取り組みの実現のためには、児童生徒や学校・地域の実態を把握し、教育内容、時間配分、人的物的体制の確保等、改善点を把握し、教育活動の質の向上を図るカリキュラム・マネジメントが必要であるとした(6)。

 

1.3. 何を学ぶか(学校間の接続を踏まえた教育課程の編成)

 今回の改訂では、学習内容の削減は行わず、質の改善を図るものとした。

 小学校・中学校では、外国語教育は3・4学年はこれまでと同じ外国語活動だが、5・6学年は教科化し、聞く・読む・話す・書くという言語活動によりコミュニケーション能力を育成することとした。さらに、教育内容の改善として、言語能力の確実な育成、理数教育の充実、伝統や文化に関する教育の充実、体験活動の充実、外国語教育の充実、情報活用能力(プログラミング教育を含む)、現代的諸課題への対応が盛り込まれた。

 高等学校では教科・科目構成が大幅に見直され、理数が新設された。国語科は、必修の現代の国語、論理国語などの6科目に、地理歴史科は、必修の地理総合、歴史総合などの5科目となり、公民科には新たに公共が設けられた。その他の重要事項としては、初等中等教育の一貫した学びの充実、主権者教育、消費者教育、情報教育などがある(7)。

 

2. 新学習指導要領と学校図書館

 新指導要領では、各教科に学校図書館の活用に関する記述、また学校図書館の用語はないが学校図書館の機能を活用することが想定される記述が多くなった。

 総則には全校種とも「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに,児童の自主的,自発的な学習活動や読書活動を充実すること」とし、さらに「図書館,博物館,美術館等の活用を図り,情報の収集や鑑賞等の学習活動を充実する」と記述している(8)。全教科の学習指導においては、主体的・対話的で深い学びを実現するために学校図書館の活用が不可欠であることを示している。

 小学校の国語科では、内容の指導に当たっては学校図書館を計画的に利用し、その際には、本などを選ぶことができるように指導するとしている(9)。特別活動の〔学級活動〕では、「自主的に学習する場としての学校図書館等を活用したりしながら,学習の見通しを立て,振り返る。」と学校図書館を自主的に活用するとしている(10)。

 中学校では、国語科で「他教科等における読書の指導や学校図書館における指導との関連を考えて行うこと」と、読書指導は国語科だけではなく、他教科でも必要であることを明確にしている(11)。美術では、「学校図書館等における鑑賞用図書,映像資料等の活用を図る」としている(12)。

 高等学校の国語科の全ての科目の内容の〔知識及び技能〕の言語文化に関する事項として読書の意義・効用の理解を深めるとし(13)、特別活動の〔ホームルーム活動〕の内容では、キャリア形成と自己実現において、自主的に学習する場としての学校図書館等を活用するとしている(14)。

 小・中学校、特別支援学校小学部・中学部の総合的な学習の時間は、内容の取扱いの配慮事項に学校図書館の活用を記述している(15)。高等学校では総合的な探究の時間と、小・中学校のように学習ではなく「探究」とし、学校図書館の活用を記述している(16)。高等学校の学習で重視されている探究学習には、学校図書館の活用が前提となっていることを示している。

 

3. これからの司書教諭・学校司書の役割

 このように新指導要領に基づいて学習指導を行うためには、各教員が学校図書館の機能や自校の学校図書館について理解し、さらに学校図書館を活用する学習指導法に通じていなければならない。

 学校図書館は組織的に経営・運営されるものであり、校長は学校図書館の「館長」としてリーダーシップを発揮することが期待されている。2016年に公表された「学校図書館ガイドライン」(E1896 [151]参照)(17)に添った経営・運営、環境整備等は、館長の果たす役割が重要となる。

 司書教諭は学校図書館での任務において中核的な役割を担い、学校司書と分担して、主体的・対話的で深い学びの視点で行われる日常の授業の他に、校内研修、教材研究、研究授業、資料の提供等にこれまで以上に深く関わることが期待されている。特に、新指導要領で重視されている教科横断的な学習には学校図書館の機能を活用しなければ十分な効果があげられないために専門的な知識・技能を有する司書教諭の役割が一層重要となる。

 学校司書は、2014年の学校図書館法改正により法的に位置づけられ、学校図書館を活用した授業を司書教諭や教員と共に進めることとなった(E1597 [152]参照)。学校司書の配置も進み、学校図書館の活用には司書教諭同様欠かせない存在となっている。

 このように、新指導要領の目標を達成するためには、学校図書館の活用が鍵となり、教員がいかに学校図書館を使いこなすかにかかっていると言えよう。

 

(1)中央教育審議会. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf [153], (参照 2018-07-27).

(2)中央教育審議会. “(2)教育課程を軸に学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラム・マネジメント」の実現”. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 23-25.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf [153], (参照 2018-07-27).

(3)文部科学省. “第1章 総説”. 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説総則編. 東洋館出版社, 2018, p. 3.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_1_2.pdf [154], (参照 2018-07-25).
中央教育審議会. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 28-30.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf [153], (参照 2018-07-25).

(4)中央教育審議会. “(3)「主体的・対話的で深い学び」の実現(「アクティブ・ラーニング」の視点)”. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 26.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf [153], (参照 2018-07-27).

(5)文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 22.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf [155], (参照 2018-07-25).
中央教育審議会. “第7章 どのように学ぶか-各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実-”. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申). 2016-12-21, p. 47-53.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf [153], (参照 2018-07-27).

(6)文部科学省. “第1章 総説”. 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説総則編. 東洋館出版社, 2018, p. 5.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_1_2.pdf [154], (参照 2018-07-25).

(7)文部科学省. “新しい学習指導要領の考え方-中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ-”. p. 41-42.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf [156], (参照 2018-07-24).

(8)文部科学省. “第1章 総則”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 23.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf [155], (参照 2018-07-25).

(9)文部科学省. “第2章 各教科 第1節 国語”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 40.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf [155], (参照 2018-07-25).

(10)文部科学省. “第6章 特別活動”. 小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 184.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf [155], (参照 2018-07-25).

(11)文部科学省. “第2章 各教科 第1節 国語”. 中学校学習指導要領(平成29年告示). 東山書房, 2018, p. 38.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_5_4.pdf [157], (参照 2018-07-25).

(12)文部科学省. “第2章 各教科 第6節 美術”. 中学校学習指導要領(平成29年告示). 東山書房, 2018, p. 114.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_5_4.pdf [157], (参照 2018-07-25).

(13)文部科学省. “高等学校学習指導要領”.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/24/1384661_6_1.pdf [158], (参照 2018-07-09).

(14)文部科学省.“高等学校学習指導要領”.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/24/1384661_6_1.pdf [158], (参照 2018-07-09).

(15)文部科学省. “第5章 総合的な学習の時間”.小学校学習指導要領(平成29年告示). 東洋館出版社, 2018, p. 181-182.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_4_3_2.pdf [155], (参照 2018-07-27).
文部科学省. “第5章 総合的な学習の時間”.中学校学習指導要領(平成29年告示). 東山書房, 2018, p. 161.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1384661_5_4.pdf [157], (参照 2018-07-27).
特別支援学校に関しては、小・中学校の「総合的な学習の時間」に準ずるとしている。
文部科学省. “第5章 総合的な学習の時間”.特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(平成29年告示). 海文堂出版, 2018, p. 197.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/23/1399950_2_1.pdf [159], (参照 2018-07-27).

(16)文部科学省. “高等学校学習指導要領”.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/24/1384661_6_1.pdf [158], (参照 2018-07-09).

(17)“別添1「学校図書館ガイドライン」”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380599.htm [160], (参照 2018-07-25).
“学校図書館の整備充実について(通知)”. 文部科学省. 2016-11-29.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380597.htm [161], (参照 2018-07-25).
 

 

[受理:2018-08-10]

 


森田盛行. 新学習指導要領と学校図書館の活用. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1934, p. 9-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1934 [162]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11161997 [163]

Morita Moriyuki
New Course of Study and Use of School Libraries

カレントアウェアネス [25]
ヤングアダルト [68]
日本 [30]
学校図書館 [69]
文部科学省 [164]

CA1935 - プロダクション・アイジーの現場から見たアニメーション・アーカイブの現状と課題 / 山川道子

  • 参照(9684)

PDFファイル [165]

カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1935

 

 

プロダクション・アイジーの現場から見たアニメーション・アーカイブの現状と課題

株式会社プロダクション・アイジー:山川道子(やまかわ みちこ)

 

はじめに

 筆者が所属する株式会社プロダクション・アイジー(以下、I.G)は、「文化庁平成28年度メディア芸術アーカイブ推進支援事業」の補助を受け、「アニメーション・アーカイブの機能と実践 I.Gアーカイブにおけるアニメーション制作資料の保存と整理」(1)を作成し、2017年に発表した。これをきっかけにして、改めてアニメーション・アーカイブについて考えた中で、紹介できる現状と課題、そして今後について本稿では述べていきたい。

 

1. なぜアーカイブを行うことになったのか

 筆者は2001年にI.Gに制作進行として入社し、テレビアニメを制作する現場を1年経験した後、立ち上がったばかりの広報室に異動となった。2002年の会社設立15周年の際には、制作現場に残されていたデータから画像を探し、I.Gが関わった作品を調べ年表を作り、それを元にして15周年記念書籍を作成した。また、監督やアニメーターなどのスタッフを呼んでのイベントの際には、会場で上映する映像を作成するために、残されていた素材から映像の復元を行った。この作業を行ったことで、社内では筆者が過去資料(アーカイブズ)を取り扱うこととなり、その後11年間に及ぶひとりだけの広報室アーカイブ担当としての活動が始まった。その後の広報室の業務の中で、新作発表の際にも過去資料はスタッフの紹介等に使用されるなど、使用頻度が高いことを体感した。2005年以降のI.Gは株式上場するなど急成長の只中にあり、制作現場からの映像を作るための利用も急速に増えた。こうして「あるから使う」から「ないと困る」アーカイブズに変化していったのである。

 

 制作現場からは参考用に閲覧を希望され、商品開発側からは販売企画用の取り出しが増えるなど、年々資料の重要度が増している。筆者の広報室から制作部への異動や、常に2人以上のスタッフが配置されて資料整理にあたるようになったことで、2016年には制作部内においてI.Gアーカイブ(以下、I.G-A)グループと名乗ることとなった。アーカイブグループとしての歴史は浅いが、筆者が15周年記念書籍やイベント用に資料整理を始めた時から、途切れることなく社内でアーカイブ活動を行い現在に至っている。

 

2. アニメーションのアーカイブとは何をすることなのか

 筆者がリーダーを務めるI.G-Aグループには、社内で発生した「企業資料」が届けられる。

 

図 企業資料の体系

小風秀雅「近代の企業記録」(2)より作成

 

 その中でも、届く資料の多くは業務資料である。弊社の場合では作品を作るために発生した資料や実際に業務で使われたイラストや映像であり、それらはアニメーション業界では「中間成果物」と言われる。この中間成果物には契約書や経営に関わるものは含まれない。弊社では、契約書類は法務部が管理し、経営資料は総務部が管理をしているために、I.G-Aにはそれらの資料は届かないが、問い合わせを行えば回答をもらえる関係にある。その他の「外部化資料」(ポスター、チラシ、資料提供した記事)、「調査資料」(ロケハン写真等)なども集められる。

 保管した資料の取り出し依頼には大きく3つの目的がある。

  • 社内の新作制作に使用するため
  • 社外で発表される商品化や展示会に使用するため
  • 社内スタッフの育成に使用するため


 I.G-Aは弊社の中では社内外の人が利用するためのアーカイブという意味が強い。営利企業であるから、商品価値の高いものを優先して欲しいという会社の意向は無視できない。しかしながら、資料の重要度は時代によって変化し、また立場が違えば価値判断も変わってくる。そこで、制作の各工程、イベント、出版物、アニメ以外に携わる方々の意見を聞くなどして、アーカイブする内容の取捨選択を行い価値を上げるようにしている。

 

3. アニメーション・アーカイブの対象物

 主な中間成果物としては、作業工程順に以下のものが発生する。

企画書、脚本、絵コンテ、設定画、ロケハン写真、カット袋(レイアウト、原画など)、背景画、色彩設計、色指定・仕上げデータ、3Dデータ、撮影データ、完成納品映像・画・音響、広報用素材、商品、ポスター、チラシ等。

 物理媒体としては、紙、セル画、映画フィルム等があり、デジタルデータの場合は光学メディア、磁気ディスク、磁気テープ等の媒体に保存し保管する。このような多様な資料を扱っているため、保存にはそれぞれの媒体に沿った専門的な知識が必要となる。紙という媒体ひとつをとっても、図書館や文書館が積み重ねた知見を無視して、保存を語ってはいけないのであるが、現在はそこまで議論が深まらない現状なのが残念である。

 アニメーションで取り扱う資料は種類も数も多い。種類名、作品名、絵コンテの中に書かれている話数とカット番号などを利用すると、制作時の関係者とアーカイブの両方が共に使いやすい管理目録となる。作品ごとにどの種類の資料を保管しているかを記録した「基本目録」と、資料の種類ごとにまとめた「種類別目録」の2種類の作成が望ましい。

 

4. 保管資料の利用例

 2.で述べたように、利用を目的とした保存を行っているが、3.のような対象物をどのように利用しているのか紹介したい。

 

【社内での利用】

  • I.G-Aで過去の仕事内容を確認してから発注先を決めるための、過去の担当スタッフ調査と納品物の提供。
  • 続編のための、過去作品の色指定データや原画の提供。
  • 新人アニメーター育成用に原画や絵コンテの提供。

 

【社外での利用】

  • 毎年のように発売される中間成果物を利用した書籍や、全国で開催される原画展などのイベントへの提供。
  • グッズ作成への素材提供。
  • スタッフや作品のTV宣伝用の中間成果物や映像の提供。
  • 旧作を再版する際の映像提供。

 

 利用にあたっては多様な立場の関係者から問い合わせがある。企画者から具体的な資料の指定がある場合と、企画内容に適した資料を作家性・歴史背景・素材の状況などの複数の要因から選定すること(キュレーション)も任される場合がある。本来はアーカイブ側の仕事ではないともいえるが、現状のI.Gでは保管中の資料のことを一番理解しており広報の経験もあることから、社内では筆者が担当することが多い。しかし、アーカイブ作業を止めて行うこととなるため、今後アニメーション・アーキビストの育成時には、キュレーターの育成も同時に行う必要があると考えている。

 

5. MALUI連携の可能性

 I.G-Aグループはアーカイブと名乗ってはいるが、MALUI(Museum、Archive、Library、University、Industry)でいうIの要素が強い。筆者はアニメ業界のアーカイブズを活用したMALUI連携が可能だと考えている。アニメーション制作工程においての資料検索のための利用と、MALUによるアニメーション・アーカイブを利用した展示や商品化、研究目的での画像等の使用などがすぐに思いつくことである。現在のアニメーション・アーカイブが行われにくい理由のひとつに、自社にアーカイブズを利用して収益を得るルートがなければ、アーカイブズを残すことができないということがある。従来のアニメ作品の購買層だけでない、新たな利用者の発掘はアニメ業界にとってもプラスになるはずである。

 資料保存の観点からすると、様々なマテリアルの保存には専門知識が必要であり、内容を公開することで専門家と情報共有が行えることや、企業として専門家に保存に関する仕事を発注できる状態になることはありがたい。そうして、人の交流が資料の価値向上とさらなる延命につながると考えている。

 

6. 国内外の近年の動向

 2018年6月に策定された知的財産戦略本部の「知的財産推進計画2018」では、「マンガ、アニメ及びゲーム等のメディア芸術の情報拠点等の整備を進め、デジタルアーカイブジャパンとも連携したコンテンツ発信の場とする。」(3)とある。この情報拠点で取り扱われる資料の種類や方法、人材がアニメーション・アーカイブにベストな状態になるように、企業側も適切な情報提供を行っていかなくてはいけない。

 2018年7月から2019年2月まで、フランス・パリで日仏友好160周年を記念した日本文化・芸術の祭典である「ジャポニスム2018」が開催される。その企画のひとつとして、2015年に「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」展を開催した国立新美術館が主催者の一員となって、「MANGA⇔TOKYO」展を行う(4)。「知的財産推進計画2018」の履行に伴い、こうした海外での展示が増えると考えられる。まさに、M(Museum)との連携のひとつとして期待したい。

 最後に「ジャパンサーチ(仮称)」(5)についても触れておきたい。アニメ分野は、文化庁メディア芸術データベース(6)を通じた連携が開発される見通しである(7)。分野横断検索できるということは、人材も情報も分野を横断して混じり合う可能性が高まるということである。理解者と利用者が増える絶好の機会であり、完成が大変楽しみである。筆者個人としては、このような外部の活動にも協力していき、今後のアニメーション・アーカイブにより一層寄与していきたい。

 

(1)山川道子. “アニメーション・アーカイブの機能と実践”.
https://www.slideshare.net/MichikoYamakawa/ig-production-ig-archives-manual-2016 [166], (参照 2018-07-02).

(2)国文学研究資料館史料館編. アーカイブズの科学. 下巻. 柏書房, 2003, p. 80.

(3)知的財産戦略本部. “知的財産推進計画2018”.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku2018.pdf [167], (参照 2018-07-02).

(4)Japonismes2018. “「MANGA⇔TOKYO」展”.
https://japonismes.org/officialprograms/ [168]「キャラクターvs-都市:虚構x現実」展, (参照 2018-07-02).

(5)“「ジャパンサーチ(仮称)・フェーズゼロ~分野横断統合ポータル構築に向けて」(終了しました)”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/201805jps.html [169], (参照2018-08-16).

(6)文化庁. “文化庁メディア芸術データベース”.
https://mediaarts-db.bunka.go.jp/?display_view=pc&locale=ja [170], (参照 2018-07-02).

(7)永山裕二. “文化庁におけるデジタル・アーカイブの取組状況について”.
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/02_aca.pdf [171], (参照 2018-08-05).

 

[受理:2018-08-16]

 


山川道子. プロダクション・アイジーの現場から見たアニメーション・アーカイブの現状と課題. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1935, p. 12-15.
http://current.ndl.go.jp/ca1935 [172]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11161998 [173]

Yamakawa Michiko
Current and Future of Animation Archives As Seen from Production I.G

カレントアウェアネス [25]
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文化庁 [177]

CA1936 - 全国遺跡報告総覧における学術情報流通と活用の取り組み / 高田祐一

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カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1936

 

 

全国遺跡報告総覧における学術情報流通と活用の取り組み

奈良文化財研究所:高田祐一(たかた ゆういち)

 

1. はじめに

 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所(以下、奈文研)は、発掘調査報告書を中心に文化財報告書(以下、報告書)を全文電子化しインターネット上で検索・閲覧できるようにした「全国遺跡報告総覧」(1)(以下、遺跡総覧)を2015年6月から運営している(図1)。2017年度は年間約100万件のダウンロードがあり、活発に利用されている。島根大学附属図書館を中心とした国立大学、地方公共団体(以下、地公体)・博物館・学会等と共同推進している事業である。これまでの経緯やメリットは拙稿(E1700 [179]参照)を参照願いたい。
 

図1 全国遺跡報告総覧

 

 遺跡総覧は、主に遺跡の発掘調査報告書を登録している考古学・歴史学分野の主題リポジトリである。特定分野の情報基盤であるため、利用が研究者や文化財担当者などに偏る恐れがある。しかし埋蔵文化財(遺跡)は、国民共有の財産であることから、発掘成果を取りまとめた報告書においても、国民に広く公開され共有し活用されなければならない(2)。そのため遺跡総覧は、幅広く情報を流通させ、活発に利用してもらうことを強く志向したシステムである。本稿は、特定分野の専門情報を広く周知し、より活発な活用に結び付けるための実践例の報告である。

 

2. 最近の動向

 2016年度における日本の発掘調査報告書の発行点数は1,492点であった(3)。そのうち地公体による発行点数は1,334点で89%を占める。報告書の活用を進めることは文化財行政の一環であるが、報告書の電子データ公開による活用促進はこれまで位置付けが曖昧だった。2017年には、文化庁から報告書『埋蔵文化財保護行政におけるデジタル技術導入について2』(報告)が公表され、デジタルテータの報告書の行政的位置付けが明確化されるとともに、全国地公体に遺跡総覧への積極的な登録が呼びかけられた(4)。2017年度には、実務的な説明会を全国5会場で、文化庁の後援により奈文研が主催して開催した。このように行政的な枠組みが整理されたことによって遺跡総覧への参加機関(登録IDを持つ機関)は864機関となった(2018年5月18日現在。2017年3月時に比較して約750機関増)。遺跡総覧が持続的に発展していくための行政上の基盤が確立しつつある。

 

3. 情報を広く流通させるシステム連携

3.1. システム連携の目的

 前述の文化庁報告では、従来の印刷物の報告書とデジタル(PDF)の報告書は、役割分担し相互補完するものとしている。デジタル技術は検索性に優れていることから、遺跡総覧を「報告書のインデックス」として、幅広い活用に道を拓くものと位置付けている。

 さらに、各種の図書館系システムとの連携によって印刷物の報告書へ橋渡しする役割を果たすことができる。

 遺跡総覧を様々な情報基盤と連携させることによって、遺跡総覧を知らなかった人も気が付けば遺跡総覧の情報にアクセスしているという状況を創出するためにも、外部システム連携は重要と考える。文化財に関心を持つ層の裾野を広げることにもつながるだろう。次節では、特に遺跡総覧で既に実現している図書館系のシステムとの連携を紹介する(図2)。

 

3.2. 図書館系システムとのデータ連携

 遺跡総覧に登録されているメタデータには、国立国会図書館(NDL)のJP番号(全国書誌番号)とNACSIS-CATのNCIDを登録している。遺跡総覧の検索結果画面でこれらの書誌番号をクリックすることで、国立国会図書館サーチやCiNii Booksなどの図書館系システムに遷移して、当該報告書の印刷物の所蔵機関を調べることが可能である。報告書はシリーズや分冊の扱いなど、発行機関によって揺らぎがあり、NDLとNACSIS-CATでは、書名などの基本的な書誌情報が異なる場合がある。遺跡総覧では、前述のようにそれぞれの書誌番号を記載することで、書誌データの異同を確認できるようにしている。

 2016年3月には、CiNii Booksとデータ連携を開始した(5)。CiNii Books で印刷物の報告書を検索すると、検索結果から遺跡総覧のデジタル版報告書に直接リンクしている。CiNii Booksから、出版物1点1点について他の電子リソースへ直接リンクする方式は遺跡総覧が第一号となった。2017年2月には、WorldCatともデータ連携を開始した。WorldCatでは海外の人が使うことから、書名よみをローマ字化して連携している(6)。

 

3.3. ディスカバリーサービスとのデータ連携

 ProQuest社のSummon(2015年9月)(7)、WorldCat Discovery Services(2017年2月)(8)、 EBSCO Discovery Service(2017年4月)(9)、Primo(2018年10月予定)など、各種のディスカバリーサービスとの連携も開始した。ディスカバリーサービスと連携することで、遺跡総覧のコンテンツの発見可能性がさらに高まったと言えよう。各ディスカバリーサービスへはjunii2形式によりOAI-PMHでメタデータを提供している。

 

図2 全国遺跡報告総覧のデータ連携状況

 

3.4. 国内外の考古学情報基盤との連携

 日本の学術研究成果を海外にも発信するには、海外の専門家が使用する情報基盤とデータを連携させることが効果的であろう。ARIADNE(欧州考古学統合情報基盤)は、欧州中の考古学情報を統合し、相互連携によって情報にアクセスしやすくするシステムの構築、コミュニティの組成に取り組んでいる事業である。2019年から開始される次期計画のARIADNE Plusではコミュニティの拡大が重要課題と位置づけられており、25か国40機関が参画する見込みである。欧州以外の国(米国・日本・アルゼンチン)が初めて事業に参画する予定となっている。海外の情報基盤との連携を安定化させるため、2017年7月、遺跡総覧の報告書にDOIを付与した(10)。遺跡総覧のデータ(遺跡情報・報告書PDF)をARIADNEと連携させることで、さらなる情報流通の拡大が見込まれる。

 国内においては、日本旧石器学会のデータベース『日本列島の旧石器時代遺跡』(JPRA-DB)(11)において、報告書の出典情報に遺跡総覧を使用している。このように遺跡総覧は、専門的なデータベースにおいて、報告書情報を提供するプラットフォームとなっている(12)。

 

3.5. 外部システムとの連携効果検証

 遺跡総覧へのアクセス流入元に関するアクセス統計から外部システムとの連携の効果を検証する。2017年1月から12月にかけてのアクセス統計から流入元別に集計すると、ユーザ数が多い順にGoogle:36%、Yahoo:29%、直接(不明含む):19%、Bing:4%、CiNii:1%、Wikipedia:1%であった。Google、Yahoo、Bingはウェブ検索エンジンであり、大半の利用者がウェブ検索エンジンの検索結果からアクセスしていることがわかる。CiNii、Wikipediaからは、ページに設定された遺跡総覧へのリンクから流入している。Wikipediaの記事に関しては出典に遺跡総覧掲載の報告書が活用される場合があり、それらの情報参照で流入していると思われる。上記の流入元の残りの10%に流入割合1%未満の各ディスカバリーサービス、JAIRO、WorldCat、多数の地公体ウェブサイト等の約500のサイトがロングテール状に分布する。国立国会図書館サーチの検索結果からはJAIROを経由して遺跡総覧のコンテンツにリンクするため、JAIROは実質的には国立国会図書館サーチからの流入だろう。図書館系サービス(CiNii Books、WorldCat)からの流入は多いとはいえない状況である。報告書は書名のみでは内容がわからないため、ユーザにとっては要否を判断できない可能性がある。また約500のサイトの大半を占めるのは、地公体ウェブサイトからである。地公体ウェブサイトでは自機関発行の報告書をウェブサイトにて紹介し、遺跡総覧にリンクを貼っていることから流入が多くなっていると考えられる。

 流入元の約7割がウェブ検索エンジンである。アクセス数を増やすには、ウェブ検索エンジンへの対応が必須といえる。一方、様々なサイトからリンクをたどってアクセスするユーザもいる。遺跡総覧は、動的な検索が可能なデータベースであるが、コンテンツごとに固定URLを付与している。固定化したURLであることが、他サイトからのリンク設定を容易にしており、加えてDOIを付与することでアクセスを保証している。

 

4. 文化財関係用語の整理と展開

 遺跡総覧の主たるコンテンツは報告書のPDFデータである。しかしPDFの単純な掲載に止まらず、印刷物ではできないデジタルならではの機能開発を進めている。目指すところは、日々増大する膨大なデータから適切に情報アクセスできる環境の提供である。遺跡総覧は全文情報を保持していることから、全文テキストを最大限活用した機能の開発を行った。本章では文化財関係用語の整理と全文テキストを活用した機能を紹介する。

 

4.1. 英語自動検索

 日本には膨大な文化財の調査成果が蓄積されているものの海外のユーザが手軽にアクセスできる環境ではない。原因のひとつに言語の問題がある。日本の学術用語には類語が多数あり、それらを高度に習熟しなければ、網羅的な検索は困難である。そこで、文化財関係用語の日英対訳と類語を整理したデータベースを作成し、遺跡総覧に搭載している(図3)。この機能により、英語の考古学用語を検索ワードとして入力すると、日本語の考古学用語に自動変換したうえで、類語を含めて検索することが可能である(13)。

 

図3 英語自動検索

 

4.2. 頻出用語と特徴語の可視化

 キーワード検索では、ユーザは予め検索対象となる事物を言い表す用語を知っていなければ、検索することができない。そこで用語を知らなくても検索できる機能を開発し、実装した。登録されている全ての報告書の全文を対象にして、日本全体あるいは各都道府県での頻出用語と特徴語(その地域では頻出語であるが、他地域では希少語)を可視化し、クリックするだけでその語を使った検索ができるようにした(14)(図4)。遺跡総覧は7万411語の文化財関係用語の辞書を内蔵しており、辞書をもとに報告書全文テキスト内の語の出現数をカウントしたものである。
 

図4 特徴語の可視化(福岡県)

 

4.3. 類似報告書の提示

 全文検索では、すべてのテキストデータを対象とするため、周辺遺跡への言及など直接的に関係のない報告書がノイズとして検索結果に含まれてしまう。そこで、報告書ごとに本文頻出用語を上位40点抽出し、報告書詳細ページに表示した。報告書における頻出語は、本文の内容をある程度忠実に表す場合が多いと考えられる。表示された頻出語をクリックした場合、当該用語を頻出語とする報告書のみが絞り込まれて表示される。若干の漏れは発生しうると思われるが、ユーザが必要とする高精度な結果を期待できる。

 また、上位40の語の構成と類似する他の報告書を表示する機能がある(図5)。蓄積型の学問である考古学・歴史学は、網羅的な類例調査が不可欠であり、内容が類似する報告書の自動表示は、研究を手助けするツールとなりうる。この機能は、遺跡総覧のページ閲覧数を劇的に向上させた。この機能を公開する前の閲覧ページ数は2016年度は1,155万ページであったが、公開後の2017年度には7,277万ページとなった。

 

図5 類似報告書の表示機能

 

4.4. イベント情報の登録と公開

 遺跡総覧には文化財関係イベントを公開できる機能があり地公体などのイベントが登録されている。この文化財イベントの本文情報について、特徴語を抽出し、その語の構成と類似の報告書類を自動表示している(15)。文化財イベントに参加する前後に参考となりそうな報告書類を閲覧することにより、理解を深めてもらうことが目的である(図6)。報告書成果の新たな活用方法の一つとなっている。
 

図6 文化財資料とイベント情報の相乗効果

 

5. おわりに

 遺跡総覧事業は、島根大学附属図書館を中心とした大学と地方公共団体等が共同で進めている事業である。システム連携など情報流通のノウハウは図書館の得意とするところである。遺跡総覧が発展していくためには、今後も情報の取扱いに長けた図書館の役割は大である。事業の代表機関である奈文研は、発掘を実施し報告書を作成するデータ作成機関でありながら、他機関のデータを取りまとめて提供する機関でもある。また、筆者含め所員は、遺跡総覧を活用して研究するユーザの立場でもある。各機関の得意分野を活かしつつ関係機関の課題解決や目的達成に寄与できるシステムであることが存在意義として重要と考える。そのうえで、文化財分野における幅広い情報流通と活用の具体的施策を今後も考えていくことが必要であろう。

 

(1)全国遺跡報告総覧. 奈良文化財研究所.
https://sitereports.nabunken.go.jp/ [180], (参照 2018-07-13).

(2)“発掘調査報告書”. 発掘調査のてびき―整理・報告書編―. 文化庁文化財部記念物課編. 文化庁, 2010, p. 2.

(3)文化庁文化財部記念物課編. 埋蔵文化財関係統計資料.平成29年度. 文化庁, 2018, 33p.

(4)埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査委員会.『埋蔵文化財保護行政におけるデジタル技術の導入について2』(報告). 文化庁, 2017, 59p.

(5)NII学術コンテンツサポート. “CiNii Booksと全国遺跡報告総覧とのデータ連携開始のお知らせ”. 国立情報学研究所. 2016-03-23.
https://support.nii.ac.jp/ja/news/cinii/20160323 [181], (参照 2018-07-13).
なぶんけんブログ. “全国遺跡総覧とCiNii Booksのデータ連携開始”. 奈良文化財研究所. 2018-03-23.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2016/03/cinii-books.html [182], (参照 2018-07-13).

(6)なぶんけんブログ. “全国遺跡報告総覧とWorldCatのデータ連携開始”. 奈良文化財研究所. 2017-02-07.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2017/02/worldcat.html [183], (参照 2018-07-13).

(7)なぶんけんブログ. “全国遺跡報告総覧:ディスカバリーサービスSummonが全国遺跡報告総覧に対応”. 奈良文化財研究所. 2015-09-02.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2015/09/sumon.html [184], (参照 2018-07-13).

(8)“全国遺跡報告総覧 WorldCatと連携!”. OCLC News.2017, 38(4), p. 1.
https://www.kinokuniya.co.jp/03f/kinoline/1704_06.pdf [185],(参照2018-06-28).

(9)なぶんけんブログ. “全国遺跡報告総覧:ディスカバリーサービスのEDSが全国遺跡報告総覧に対応”. 2017-04-11.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2017/04/eds.html [186], (参照 2018-07-13).

(10)国武貞克, 小沼美結, 髙田祐一. 文化財情報の多国間連携による研究基盤の高次化. 奈良文化財研究所紀要. 2018, 2018, p. 18-19.

(11)データベース『日本列島の旧石器時代遺跡』. 日本旧石器学会.
http://palaeolithic.jp/data/index.htm [187], (参照 2018-07-13).

(12)野口淳. 新しい『日本列島の旧石器時代遺跡』データベース-オープンデータ・オープンサイエンス時代の考古学研究を目指して-. 日本旧石器学会ニュースレター. 2018, 38, p. 1-3.
http://palaeolithic.jp/nl/newsletter38.pdf [188], (参照 2018-07-13).

(13)なぶんけんブログ. “全国遺跡報告総覧:英語自動検索機能公開のお知らせ”. 奈良文化財研究所. 2016-08-24.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2016/08/post-87.html [189], (参照2018-06-28).

(14)なぶんけんブログ. “全国遺跡報告総覧:考古学ビッグデータの定量的可視化:日本の発掘調査成果を1枚の画像で表現すると?”. 奈良文化財研究所. 2017-04-27.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2017/04/hinshutu.html [190], (参照 2018-06-28).

(15)なぶんけんブログ. “全国遺跡報告総覧:文化財調査報告書と文化財イベント情報連携機能の強化”. 奈良文化財研究所. 2017-11-06.
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2017/11/renkei.html [191], (参照2018-06-28).
 

 

[受理:2018-08-06]

 


高田祐一. 全国遺跡報告総覧における学術情報流通と活用の取り組み. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1936, p. 15-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1936 [192]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11161999 [193]

Takata Yuichi
Approach to Distribution and Utilization of Academic Information by Comprehensive Database of Archaeological Site Reports in Japan

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CA1937 - 動向レビュー:国内の公共図書館における健康医療情報サービスの最近の動向 / 池谷のぞみ

PDFファイル [199]

カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1937

動向レビュー

 

国内の公共図書館における健康医療情報サービスの最近の動向

慶應義塾大学文学部:池谷のぞみ(いけや のぞみ)

 

1. はじめに

 2000年代の前半から、国内の公共図書館において健康医療情報を提供する取り組みに積極性が増すと共に、その動きに広がりが出てきている。厚生労働省が提示した地域包括ケアシステム構想では、市民が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制の構築がめざされている。地域包括ケアシステムの構成要素には、本人の希望と経済力にかなった「すまいとすまい方」と「生活支援・福祉サービス」の連携があり、必要に応じた「介護」、「医療」、「予防」という専門的なサービスの提供がある。そしてそのシステムの根底に位置づけられ、重要となるのが、本人・家族が在宅生活を選択し、実際にそうした生活を送ることの心構えを持つこととされる(1)。本人・家族が適切な選択をし、そのための心構えを持ち、実際に生活を送れるようになるために前提となるのが、適切な情報である。健康医療情報へのアクセスを市民に保障することはこれまで以上に重要になってきているといえる。

 1995年から2011年7月までの公共図書館における健康医療情報の提供については、石井による「患者・家族への情報サービス」に関する文献レビューのなかで取り上げられている(2)。また小田は主題別レファレンス・サービスの一例として健康医療情報の提供も取り上げている(CA1908 [200]参照)。さらに日置は公共図書館による諸施設に対するアウトリーチサービスに関する文献展望のなかで、病院に対するサービスを取り上げている(3)。本稿では2000年代以降の公共図書館におけるサービスの歩みを、館種をこえた協力による取り組みをたどりながら、最近の動向と課題の整理を試みる。なお、高齢者向けのサービスを広く健康医療の分野に含める場合もあるが、本稿では範囲としない。

 

2. 公共図書館における健康医療情報

 広範囲の主題の資料を扱う公共図書館にとって、健康医療の分野は常に資料収集の対象となってきたという意味では、特に新しいというわけではない。しかし従来公共図書館は、健康医療分野を他の分野とほぼ同様に扱ってきた。たとえば5年以上前に出版された図書を「古い」として特別の扱いをするところはまれである。他方、病院、老人ホーム、福祉施設などに対して資料を届けるサービスを来館困難な市民に対するサービスという形で行ってきた図書館はあった。しかしながら、このサービスの経験がただちに公共図書館が健康医療情報提供に積極的に取り組むことにはならなかった。その理由を柚木は以下のように分析している(4)。(1)レファレンス・サービスが充実しておらず、また医療や法律などの相談は基本的に受け付けないという意識があった、(2)入院患者や老人ホーム滞在者へのサービスは一般に障害者サービスに組み込まれることが多く、それがレファレンス・サービスから遠ざける結果となった、(3)多くの図書館が採用した病院などへの団体貸し出しという形態では直接利用者のニーズを把握する機会がほとんどなかった、というものである。

 こうした背景により、この分野の資料を「健康医療情報」としてまとめてコーナーを作ることを含め、「健康医療情報サービス」という看板を掲げるかどうかについては図書館側にもさまざまな懸念や障害があり、最終的な決定に至るのも単純ではないことがうかがえる(5)。

 

3. 人々の意識ならびに医療政策の変化

 しかし他方で、市民の健康全般に対する意識や医療との関わり方は大きく変わってきた(6)。市民が健康医療情報を求めて積極的に探索する状況が酒井らの最近の調査(7)でもわかってきている。それは次のような国の政策の変化によるところも大きいであろう。2000年には厚生労働省が「健康日本21」(8)のなかで国民が主体的に健康づくりに取り組めるようにするための環境整備を打ち出した。この政策のもとに進められる環境整備の中核は専門家による適切な情報提供と情報へのアクセスの保障である。「健康日本21」に言及してサービスの必要性やその際の地域関係機関との連携の必要性を述べた文献が健康医療情報の積極的提供が始まった時期に見られる(9)(10)。また、2006年にがん対策基本法が制定され,がん医療に関する情報の提供体制整備が法律で位置づけられるとともに,都道府県(以下「県」)に対してがん対策推進計画策定が義務づけられた。県で策定された計画の中には,公立図書館を通じたがん情報提供を明文化したところがある(11)。

 

4. 課題解決支援としての健康医療情報サービス

 このように、公共図書館の利用者である市民の健康や医療との関わり方、ならびに健康医療に関わる政策が大きく変わるなかで、図書館側も結果として積極的な姿勢で健康医療情報提供を行うところが近年増えてきたのだと思われる。さらに、公共図書館が「課題解決支援サービス」の枠組みでサービスを組み立てるようになり、この枠組みに位置づける形で健康医療情報提供を実施することに意義が見出されるようになったこともサービスを掲げる図書館の増加理由として挙げられる。文部科学省から諮問を受けてまとめられた報告書『地域の情報ハブとしての図書館:課題解決型の図書館を目指して』(12)においても、医療関連情報の提供が公共図書館の取り組むべき領域として位置づけられている。

 他方、健康医療情報サービスを課題解決支援サービスとすることに対して、病気を「解決」の対象と見なすことに対する違和感が指摘された(13)。しかし医師が病気の改善自体を課題とするのに対して、図書館員が対象とする「課題」は市民が情報を得ることによって納得して治療を選択し、療養に向き合えるようにすることである。つまり図書館員はそもそも病気自体を直接解決対象として設定し得ないのである。

 さらに、「課題解決支援サービス」とは図書館員がサービスを組み立てる上で、分野横断的に適用する抽象的な枠組みのことである。いわば図書館界の「術語」である。「健康医療情報サービス」といった名称が示すように、図書館員は「課題解決支援サービス」をサービスの名称として利用者に対して直接用いることはほぼないため、懸念されるような誤解が利用者の側でなされる余地も小さいと思われる。

 

5. JLA健康情報委員会の発足とサービスの始まり

 日本図書館協会(JLA)に健康情報委員会(14)が発足したのが2004年5月である。この委員会は当初から、公共図書館、医科大学図書館、医学研究所図書室などの司書と、図書館情報学研究者などから構成されていた(15)(16)(17)。この委員会がいわば核となり、翻訳図書『公共図書館員のための消費者健康情報提供ガイド』(18)(2007年)の出版や、後に述べる日本医学図書館協会(JMLA)とのワーキンググループの形成、サービス実態調査の実施などを実現してきた。

 健康情報委員会が発足した同年の6月には東京都立中央図書館、2006年に鳥取県立図書館(19)(20)、秋田県立図書館(21)、横浜市中央図書館(22)(23)(24)がそれぞれコーナーの開設を中核として、健康医療情報提供サービスを開始した。都立中央図書館では、それまでに健康医療に関わるレファレンス質問が増加していた。しかし資料は所蔵していても、市民がその資料を活かして健康医療情報を探すのには壁があることを認識するに至り、病気・病院・くすりに関する代表的な参考図書と基本図書約200冊を開架書架から抜き出し、一箇所に集めた「医療情報コーナー」を設置した(25)(26)(27)。さらに図書館の中だけでのサービスでは医療とのつながりを望めないとし、連携関係を築くことを目的に東京都の保健局(現福祉保健局)、病院経営本部などにサービス開始について説明し、まずはそうした部署のパンフレットを入り口で配布することにしたとされる。2005年には健康情報棚プロジェクトに基づいた「闘病記文庫」が都立中央図書館で開設された(28)。

 その後、三島市立図書館(静岡県)(29)(30)(31)(32)、川崎市立麻生図書館(33)(34)、静岡県立中央図書館(35)(36)、相模原市立図書館(37)が健康医療情報の提供を開始したことが文献で辿れる。多くの図書館がこのサービスを開始していることが次に述べる実態調査や、その他雑誌記事、全国図書館大会健康情報分科会や健康情報委員会が講師を派遣した研修などでなされた事例報告に見ることができる(38)。

 

6. 実態調査から見えるサービスの状況

 すでに2004年の段階で杉江は公共図書館における健康医療情報サービスの実態調査を行っている(39)。さらに健康分野のレファレンスブック所蔵状況調査も実施している(40)。その後、JLA健康情報委員会は全国の公共図書館に対し、健康医療情報提供サービスの実施状況について調査を2回行っている(41)(42)(43)(44)。2013年に実施された調査によると、全回答館928館中128館(13.8%)がサービスを実施中で、さらに15館が実施を決定し現在準備中との回答を得た。全体の15.4%が実施中もしくは準備中ということになる。健康医療情報サービスを提供しているか否かにかかわらず、健康医療分野の資料と情報の提供について尋ねたところ、パンフレット(25.6%)、闘病記(18.8%)、図書リスト・パスファインダー(12.7%)、診療ガイドライン(7.3%)を提供していることが明らかになった。さらに、健康医療情報に関する展示の実施は25.8%、コーナーの設置は23.4%、講演会、講座の実施は11.3%であった。

 このように、健康医療情報サービスを提供していると標榜していなくとも、健康医療分野の多様な資料を提供すると共に、展示や講演会、講座を開催していることがわかった。資料の収集、情報交換、講座等の開催については、自治体の他部署、病院、保健所などとの連携によって実現している様子もうかがえる。

 健康医療情報をサービスとして展開した効果として多くの図書館が挙げたのが、レファレンスや案内がしやすくなった(81.3%)、図書館のPRができた(53.1%)、であった。他方、課題として挙げられたのが、専門知識を持つ職員の確保・育成が難しい(64.8%)、選書が難しい(57.8%)、レファレンス対応が難しい(57.0%)であった。ここから見えてくるのは、これまで分散して配架されていた関連図書をまとめたコーナーを設置することによって、利用者にわかりやすく案内できるという効果を実感すると同時に、その選書や個々の質問の対応については少なからず苦慮している状況である。

全国公共図書館協議会でも健康医療情報サービスの実態調査を、課題解決支援サービスに含めて2014年に実施している(45)(46)。健康情報委員会が前年に実施した調査と単純に比較することはできないが、名称を付与してサービスを行っている館は全体で166館あり、健康情報委員会調査での128館から増加傾向にあるともいえる。

 

7. 館種を超えた協力によるサービスの実現

 公共図書館が健康医療情報を積極的に提供するにあたっては、当初から館種を超えた形での協力体制の必要性が議論された。また実際に具体的な取り組みがいくつもなされ、現在に至っている。公共図書館における健康医療情報の積極的な提供は、そうした取り組みによって広がってきたともいえる。以下では、館種を越えた協力による取り組みを見ていく。

 

7.1.手引書の作成と研修による知識とノウハウの共有

 館種を越えた協力による取り組みのなかでも、この分野でサービスを組み立てる際に必要な知識やノウハウの共有を包括的に行ってきたのがJMLAのもとで発足した健康情報サービス研修ワーキンググループである。JMLAは2010年に鳥取県立図書館(47)(48)から図書館職員研修を受託したのをきっかけに2010年6月、医学図書館や病院図書室、患者図書室、公共図書館の司書をメンバーとしてこのワーキンググループを発足させた(49)。2012年には、健康医療情報を提供するにあたって参考となる手引書『やってみよう図書館での医療・健康情報サービス』(50)を刊行し、現在第3版の刊行に至っている(51)。2012年にJMLAの医療・健康情報委員会が発足し、同時にワーキンググループも「医療・健康情報ワーキンググループ」と名称を変え公共図書館員向けの研修を開催している(52)。

 その他の手引書としては、全国患者図書サービス連絡会が編集した『患者さんへの図書サービスハンドブック』(53)(2001年)、患者図書マニュアル編集委員会が編集した『患者医療図書サービス』(54)(2004年)がある。いずれも、市民に向けて健康医療情報サービスを提供しようとするあらゆる館種の図書館員に向けて作成されたものである。

 静岡県では、2004年から県内の公共図書館、学校図書館などの図書館員を対象とした研修において、静岡県立こども病院図書室での患者に対する情報提供の経験を踏まえた知識やノウハウを共有する研修が設けられるようになった。県立こども病院の医療スタッフから実際の療養生活の様子も共有される。さらに、情報を選択する際の観点や選書リストも共有される。現在では「医学情報キホン勉強会」として、病院の地域貢献という形で定期的に開催されているが(55)(56)、県外からの参加者もあり、県内の図書館員との交流の場にもなっている(57)。

 

7.2. 提供資料の充実

 公共図書館で医療情報を積極的に提供しようという機運が高まった際に懸念されたのが、公共図書館で所蔵しているこの分野の資料が充分ではないのではないかという点であった。この点については、医学図書館や病院図書室、患者図書室との連携によって市民が利用できる資料の利用可能性を広げることに期待が寄せられ(58)(59)(60)、実際に連携が実現したところも少なくない。連携の形態にはいくつかある。その一つが公共図書館の利用者に対する医学図書館や病院図書室の公開という形である(CA1660 [201]参照)(61)(62)。公開まではいかなくとも、公共図書館を介した文献複写や資料の取り寄せが可能な場合もある。また、患者図書室のなかには、一般に公開しているところが少なからずある(63)。

 二つ目は病院内の患者図書室を公共図書館の分館とする、もしくはそれに近い機能を持たせた形での連携である。松本市立図書館(長野県)と信州大学医学部附属病院患者図書室「こまくさ図書室」(64)(65)、佐賀県立図書館と佐賀県医療センター好生館図書・情報コーナー(66)、さらに鳥取県立図書館ならびに倉吉市立図書館(鳥取県)、鳥取大学附属図書館と鳥取県立厚生病院図書室(67)(68)、鳥取市立図書館ならびに鳥取県立図書館と鳥取市立病院患者サロン「陽だまり」(69)の連携などが挙げられる。目録システムで公共図書館と患者図書室の蔵書を相互に見られるようにして資料の共有を図ることで、公共図書館の利用者が患者図書室の資料を、そして患者図書室の利用者が公共図書館の資料を借りられるようにするなどの工夫がなされているところもある。この形態は公共図書館が従来病院や高齢者施設に対してアウトリーチという形で行ってきたサービスを発展させたものと見ることもできる。こうした形態をとることは、公共図書館が資料を病院に対して一方的に貸し出すだけではなく、患者図書室と連携して資料を共有することにより、健康医療分野の資料についても市民に提供可能になるという利点がある。

 大阪府立中央図書館では、蔵書点検の一環で、法情報分野と医療情報分野の評価を外部で作成された資料リストに基づいた蔵書分析だけでなく、外部有識者による評価も行い、分野の特徴を反映させた蔵書の充実を図ろうとしている(E1923 [202]参照)(70)。

 

7.3. 選書リスト・パスファインダーの作成

 JLA健康情報研究委員会(当時)の2005年の呼びかけに応じた図書館員と研究者有志が、患者・市民への健康情報提供に取り組む公共図書館、医学図書館、病院図書室、患者図書室の13館の目録情報を基に選んだ健康医療分野の図書のリスト『公共図書館のための「健康情報の本」選定ノート』の作成を開始した(71)。このリストは、書誌情報だけでなく、各図書について、想定される主な利用者や解題も含まれたものになっている。

 愛知医科大学医学情報センターは、地域公開と公共図書館との連携事業を2007年に開始した。近隣の尾張旭市立図書館、瀬戸市立図書館、長久手町立中央図書館(当時)、日進市立図書館と共に、市民の健康支援をしていくことになった。具体的には、蔵書の共有、資料の分担収集、参考業務、その他さまざまな相互利用からなるコンセプトのもとに始まった。現在はめりーらいんという事業名で呼ばれている。中核の活動は、特定の病気に関する本を持ち寄って定期的に集まり、地域連携パスファインダー「メディカルパス」を作成することである(72)(73)。メディカルパスには、参加館の蔵書とデータベース、利用方法、さらには地域の相談窓口を掲載している。それぞれ異なる環境で利用者に接する医学図書館員と公共図書館員がパスファインダーの作成を通して互いから学びつつ、地域での連携によるサービスをさらに考えていく場となっていることがうかがえる。

 

8. 図書館以外の機関との協力によるサービスの実現

 以上で触れたのは、館種を越えた協力に関するものであった。公共図書館における健康医療情報提供を実現する際には、図書館以外の関係機関との協力が欠かせない。実際のところ、自治体の健康医療関係の担当課、医療機関のみならず、患者会や関係NPOなどとの協力関係のもとにサービスを組み立てている例がある(74)(75)(76)(77)(78)。さらに保健所との連携関係を築いているところも見られる。たとえば保健師が図書館で希望する来館者の健康状態の測定をし、健康の相談ができるようにしている図書館もある(79)(80)(81)(82)。こころの相談カフェを久留米市立図書館(福岡県)で毎月開設した例(E1939 [203]参照)、がん相談支援センターの相談員が相談窓口を埼玉県立久喜図書館に開設した例もある(83)。

 このように、市民の相談窓口となるところと連携していくことは、レファレンス質問を受けたときに橋渡し先を確保できるという点、そして図書館が必要に応じて適切な窓口を示せることを市民に対して見せられるようになるという点で意義がある。医療機関の窓口は、一般に敷居が高いとされるのに比べ、公共図書館は市民が行く機会が多く、健康医療情報を提供する場として有効であることが医療機関のスタッフにも認識されてきている。たとえば滋賀県では、2013年3月に策定された県のがん対策推進計画(2次)(84)において、県内の公共図書館との連携を図ることが記載されている(85)。このように、公共図書館と医療機関が協力関係にあることは双方にとって有益であるとされ、国立がんセンターと科学研究費助成事業により、両者が交流し連携のあり方を検討するワークショップがすでに九州、東海、東北の地域ブロックで開催されており(E1808 [204]参照)(86)、その成果も出てきている(87)。

 

9. 今後の展望

 図書館で提供する情報のみでは不十分な場合に、市民を適切な相談窓口へ橋渡しができるようなサービスを図書館が提供するために、再考する余地があると思われるのがレファレンス・サービスや資料提供の際の免責事項の表現である。健康医療分野における情報を求める利用者の相談さえも、最初から門前払いをしてしまいかねない表現に出会うことは少なくない。杉江(88)と柚木(89)は、公共図書館が需要を感じながらもこの分野のサービス開始に慎重な現状の背景として、公共図書館のレファレンス・サービスの指針である「参考事務規程」(90)の影響を指摘している。規程では「医療・健康」について、「解答を与えてはならないと共に資料の提供も慎重でなければならない」となっている。

 慎重さは必要である。しかし公共図書館は「情報の入り口」(91)であり、必要に応じてしかるべき相談窓口につなぐという位置づけを明確にしたとき、レファレンスの受け方については再考が求められる。必要に応じて専門の窓口に橋渡しができるようにするには、この分野に関する相談をすべて門前払いしてしまうわけにはいかないのである。たとえば、橋渡しができる余地を残すような工夫を留意事項(免責事項)に施すことが求められている(92)。すでにこの問題に気づき、表現に工夫をしている図書館もある(93)。

 健康医療分野の課題を抱えている市民をしかるべき相談窓口に橋渡しをすることも図書館の役割としてサービスをデザインすることは、実は地域における医療健康に関わる課題解決に対して、図書館は他の関係機関と今後どのように協力しながら貢献できるかを考えることの始まりでもある。患者やその家族を含む市民が自律的に生活の質を保ちながら暮らすことができるように、いかに図書館が他機関と協力していくのか(94)。協力関係の構築のなかで新たな役割が見えてくることになるかもしれない。地域包括ケアシステムを各地域で構築することが求められている現在、健康医療情報を一分野として提供する公共図書館はその姿勢をあらためて問われているといえる。

 

(1)“地域包括ケアシステム”. 厚生労働省.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/ [205], (参照2018-07-26).
『みんなの図書館』では特集が組まれ、新しい構想が2025年問題と共に解説されている。
渡辺千鶴. 特集 2025年問題を見据えた健康・医療情報サービス: 2025年問題の基礎知識と地域包括ケアシステム: 今、地域で何が求められているか. みんなの図書館. 2016, (470), p. 10-18.

(2)石井保志. “患者・家族への情報サービス”. 図書館サービスの可能性: 利用に障害のある人々へのサービス その動向と分析. 小林卓, 野口武悟編. 日外アソシエーツ, 2012, p. 107-144.

(3)日置将之. 400号記念特集 図書館・図書館学の発展 : 2010年代を中心に: 施設に対するアウトリーチサービス. 図書館界. 2018, 70(1), p. 220-226.

(4)柚木聖. 第21回医学情報サービス研究大会 公共図書館による健康情報提供サービスの試みについて. 薬学図書館. 2005, 50(1), p. 63-69.
https://doi.org/10.11291/jpla1956.50.63 [206], (参照 2018-07-18).

(5)大平久美子. 健康・医療情報サービスの構築をめざして. 看護と情報:日本看護図書館協会会誌. 2011, (18), p. 81-86.
https://doi.org/10.24459/jjnla.18.0_81 [207], (参照 2018-07-18).

(6)奈良岡功. “第1章 患者・住民への医学情報サービス”. 奈良岡功, 山室眞知子, 酒井由紀子編. 健康・医学情報を市民へ. 日本医学図書館協会, 2004, p. 11-38, (JMLA叢書, 3).

(7)酒井由紀子, 國本千裕, 倉田敬子. 日本における健康医学情報の探索行動: 2008年および2013年調査の結果. 日本図書館情報学会誌. 2015, 61(2), p. 82-95.

(8)“「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」”. 健康日本21.
http://www.kenkounippon21.gr.jp/kenkounippon21/about/intro/index_menu1.html [208], (参照2018-07-26).

(9)宮崎奈穂子. 特集:図書館における医療・健康情報の提供: 市町村健康政策に応じた公共図書館の健康情報サービス: 「健康日本21」における保健所との連携. 現代の図書館. 2005, 43(4), p. 216-223.

(10)市川美智子, 坪内政義. 地域公共図書館との連携による健康支援事業. 医学図書館. 2007, 54(3), p. 253-259.
https://doi.org/10.7142/igakutoshokan.54.253 [209], (参照 2018-07-17).

(11)松本直樹, 池谷のぞみ, 高山智子, 田村俊作. “がん対策における図書館サービスの位置づけ: 法令および計画の策定に関わる文書の分析から”. 日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集. 2016, p. 9-12.

(12)“取組課題候補III:医療関連情報提供”. 地域の情報ハブとしての図書館: 課題解決型の図書館を目指して. 図書館をハブとしたネットワークの在り方に関する研究会, 2005, p. 37-41.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/05091401/all.pdf [210], (参照 2018-07-17).

(13)石井保志. 健康・医療情報サービスを課題解決型サービスと位置づけることへの違和感. みんなの図書館. 2011, (413), p. 40-44.

(14)発足当時の名称は、健康情報研究委員会であった。
“健康情報委員会”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/tabid/266/Default.aspx [211], (参照2018-07-26).

(15)柚木. 前掲.

(16)柚木聖, 小林順子. 日本図書館協会健康情報研究委員会の活動. 医学図書館. 2006, 53(1), p. 85-87.
https://doi.org/10.7142/igakutoshokan.53.85 [212], (参照 2018-07-17).

(17)日本医学図書館協会健康情報サービス研修ワーキンググループ編著. やってみよう図書館での医療・健康情報サービス. 日本医学図書館協会, 2012, 163p.

(18)アンドレア・ケニヨン, バーバラ・カシーニ. 公共図書館による医学情報サービス研究グループ訳. 公共図書館員のための消費者健康情報提供ガイド. 日本図書館協会, 2007, 262p., (JLA図書館実践シリーズ, 6).

(19)野沢敦. 特集 医療・健康情報を市民へ: 鳥取県立図書館における医療・健康情報サービス提供のためのスキルアップ講座: 実施のねらいと参加者の評価. 図書館雑誌. 2011, 105(1), p. 28.

(20)野沢敦. イベント報告 平成23年度沖縄県図書館協会記念講演会 鳥取県立図書館における課題解決サービスのとりくみ: 医療・健康情報サービスを中心に. 沖縄県図書館協会誌. 2011, (15), p. 70-85.

(21)成田亮子. 秋田県立図書館における健康情報サービスについて. 看護と情報:日本看護図書館協会会誌. 2011, (18), p. 76-80.
https://doi.org/10.24459/jjnla.18.0_76 [213], (参照 2018-07-18).

(22)川原純子, 吉田倫子. 特集 日本病院ライブラリー協会2007年度第1回研修会:講演: 横浜市中央図書館の医療情報コーナー. ほすぴたるらいぶらりあん. 2007, 32(3), p. 166-170.

(23)吉田倫子. 特集:健康・医療情報と図書館: 公共図書館における健康・医療情報サービスで有用な情報源の特徴と留意事項. LISN. 2007, (134), p. 6-10.

(24)村松幸子. 特集:日本薬学会第133年会シンポジウム:健康・医療情報提供サービスについて: 横浜市中央図書館の事例. 薬学図書館. 2013, 58(3), p. 178-183.

(25)中山康子. 特集:患者図書サービス: 東京都立中央図書館における「医療情報サービス」. 医学図書館. 2004, 51(4), p. 342-344.
https://doi.org/10.7142/igakutoshokan.51.342 [214], (参照 2018-07-17).

(26)中山康子. 特集:医療情報と図書館: 健康・医療情報提供のレファレンスと役立つツール. LISN. 2006, (130), p. 5-8.

(27)中山康子. “公共図書館での健康情報サービスの発展をめざして”. 課題解決型サービスの創造と展開. 青弓社, 2008, p. 91-121, (図書館の最前線, 3).

(28)北澤京子, 石井保志. 特集:価値観の交差点: 患者・家族への情報提供を模索する: 多職種協働による健康・医療情報の社会提言. 情報の科学と技術. 2006, 56(9), p. 406-411.
https://doi.org/10.18919/jkg.56.9_406 [215] (参照 2018-07-18).

(29)渡辺基史. 三島市立図書館における健康・医療情報サービス. 病院患者図書館. 2009, 30(1/2), p. 8-11.

(30)渡辺基史. 2009年[日本病院患者図書館協会]病院患者図書館全国会議特集号: 三島市立図書館における健康医療情報サービスの実際. 病院患者図書館. 2010, 32(1/2), p. 7-9.

(31)渡邉基史. 特集 医療・健康情報を市民へ: 地方の公共図書館と医療・健康情報サービス: 三島市立図書館からの報告. 図書館雑誌. 2011, 105(1), p. 26-27.

(32)渡邉基史. “今、図書館にできること: より地域や住民に必要とされる図書館をめざして: (総合・経営部門、サービス部門(合同)研究集会): 中規模図書館の医療・健康情報サービス: 三島市立図書館からの報告”. 全国公共図書館研究集会報告書. 2011, p. 11-13.

(33)舟田彰. 特集 医療・健康情報を市民へ: 地域に根ざした公共図書館とNPOとの連携をとおして: 中小規模の図書館の医療・健康情報サービスを考える. 図書館雑誌. 2011, 105(1), p. 24-25.

(34)池原真. 2011年病院患者図書館全国会議特集号: みぢかな公共図書館で医療・健康情報を. 病院患者図書館. 2012, 34(1/2), p. 19-24.

(35)安田宏美. 2012年 地域連携シンポジウム: 静岡県立中央図書館の健康医療情報サービスについて. 薬学図書館. 2013, 58(2), p. 88-91.

(36)安田宏美. 2013年病院患者図書館全国会議特集号: 静岡県立中央図書館の健康医療情報サービス. 病院患者図書館. 2014, 36(1/2), p. 12-16.

(37)高橋宏美. 2012年病院患者図書館全国会議特集号: 相模原市立図書館の医療・健康情報サービス. 病院患者図書館. 2013, 35(1/2), p. 11-16.

(38)“健康情報委員会”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/committees/kenko/tabid/266/Default.aspx [216],(参照2018-07-10).

(39)杉江典子. 特集: 図書館における医療・健康情報の提供: わが国の公共図書館による健康情報提供に関する実態調査. 現代の図書館. 2005, 43(4), p. 183-192.

(40)杉江典子. 公共図書館における健康分野のレファレンスブック所蔵状況調査. 現代の図書館. 2007, 45(3), p. 165-175.

(41)JLA健康情報委員会. 健康情報サービスの実態および「がんに関する冊子」の利用アンケート調査結果報告. 図書館雑誌. 2010, 104(6), p. 386-389.

(42)JLA健康情報委員会. 特集 医療・健康情報を市民へ:健康情報サービスの実態および「がんに関する冊子」の利用アンケート調査結果報告(第2報). 図書館雑誌. 2011, 105(1), p. 20-23.

(43)JLA健康情報委員会. 「公共図書館における健康・医療情報サービスの実施状況の調査」報告. 図書館雑誌. 2014, 108 (4), p. 277-281.

(44)須賀千絵, 田村俊作, 池谷のぞみ, 三輪眞木子, 越塚美加. “日本の公共図書館における健康・医療情報サービスの実施状況: 質問紙による全国調査の結果をもとに”. 日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集. 2014, p. 29-32.

(45)“第3章 健康・医療情報”. 2014年度(平成26年度)公立図書館における課題解決支援サービスに関する実態調査報告書. 全国公共図書館協議会, 2015, p. 23-37.
https://www.library.metro.tokyo.jp/pdf/zenkouto/pdf/2014chap03.pdf [217], (参照 2018-07-17).

(46)2015年度(平成27年度)公立図書館における課題解決支援サービスに関する報告書. 全国公共図書館協議会, 2016, 68p.
https://www.library.metro.tokyo.jp/pdf/zenkouto/pdf/2015all.pdf [218], (参照 2018-07-17).

(47)牛澤典子, 市川美智子. JMLA活動報告「図書館における医療・健康情報サービス提供のためのスキルアップ講座」実施報告. 医学図書館. 2010, 57(2), p. 214-218.

(48)野沢敦. 特集 医療・健康情報を市民へ: 鳥取県立図書館における医療・健康情報サービス提供のためのスキルアップ講座:実施のねらいと参加者の評価. 図書館雑誌. 2011, 105(1), p. 28.

(49)“日本における図書館の医療・健康情報サービスの歴史”. 日本医学図書館協会医療健康情報ワーキンググループ編著. やってみよう図書館での医療・健康情報サービス. 第3版, 日本医学図書館協会, 2017, p.70-78.
さらに以下も参考にされたい。
牛澤典子, 市川美智子. JMLA受託事業 健康情報サービス研修ワーキンググループ紹介. 医学図書館. 2010, 57(4), p. 352-354.

(50)日本医学図書館協会健康情報サービス研修ワーキンググループ編著. やってみよう図書館での医療・健康情報サービス. 日本医学図書館協会, 2012, 163p.

(51)日本医学図書館協会医療健康情報ワーキンググループ編著. やってみよう図書館での医療・健康情報サービス. 第3版, 日本医学図書館協会, 2017, 191p.

(52)野中沙矢香, 市川美智子, 牛澤典子, 平紀子. JMLA活動報告 公共図書館を対象とした医療・健康情報サービス研修についての調査報告. 医学図書館. 2014, 61(2), p. 192-196.

(53)全国患者図書サービス連絡会編. 患者さんへの図書サービスハンドブック. 大活字, 2001, 317p., (情報バリアフリー叢書).

(54)患者図書マニュアル編集委員会編. 患者医療図書サービス: 医療情報を中心とした患者図書室. 病院図書室研究会, 2004, 86p., (デスクマニュアルシリーズ).

(55)塚田薫代. 特集 患者への図書サービス~地方の動き~: 静岡県立こども病院図書室と地域連携. 日赤図書館雑誌. 2005, 12(1), p. 35-37.

(56)塚田薫代. “もし医療の現場に図書館員がきたら: 「医学情報キホン勉強会」の報告”. 健康情報委員会. 2011-10-14.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/kenkou/全国図書館大会2011-第15分科会静岡県立こども病院.pdf [219], (参照2018-07-10).

(57)安田宏美. 2012年 地域連携シンポジウム: 静岡県立中央図書館の健康医療情報サービスについて. 薬学図書館. 2013, 58(2), p. 88-91.

(58)石井保志. 特集 カラダと病気の情報を探す: 医療情報の難民をつくる公共図書館と医学図書館の責任: 市民・患者が医療情報を入手する難しさ. みんなの図書館. 2003, (317), p. 38-43.

(59)山室眞知子. 特集:医療情報と図書館: 病院図書室における医学情報をめぐる図書館間の連携. LISN. 2006, (130), p. 1-4.

(60)上野創, 山室眞知子, 森本良和. 第9回図書館総合展フォーラム 健康・医療情報と図書館PART2: 医療情報サービスで図書館が変わる. LISN. 2008, (135), p. 1-24.

(61)山室眞知子. “第2章 患者と地域の人々への医学情報提供の実践: 京都南病院における図書館サービス”. 奈良岡功, 山室眞知子, 酒井由紀子編. 健康・医学情報を市民へ. 日本医学図書館協会, 2004, p. 39-65, (JMLA叢書, 3).

(62)中尾明子. 看護大学図書館の公共図書館連携への試み. 看護と情報:日本看護図書館協会会誌. 2006, (13), p. 67-69.
https://doi.org/10.24459/jjnla.13.0_67 [220], (参照 2018-07-18).

(63)桂まに子ほか. “患者支援機能から見た患者図書室の多様性”. 日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集. 2018, p. 43-46.

(64)石坂憲司. 信州大学附属図書館医学部図書館の地域医療支援活動について. 情報管理. 2009, 52(4), p. 207-215.
https://doi.org/10.1241/johokanri.52.207 [221], (参照 2018-07-18).

(65)伊藤真記, 白木洋子. 2009年病院患者図書館全国会議特集号 患者図書館シンポジウム: 信州大学医学部附属病院患者図書館「こまくさ図書室」: 問題点と課題. 病院患者図書館. 2010, 32(1/2), p. 18-20.

(66)小林久美. 小規模図書館奮戦記その207 佐賀県立図書館好生館分室 病院内に県立図書館分室を設置!:病室までお届けサービスも実施中. 図書館雑誌. 2014, 108(5), p. 346.

(67)河﨑和穂. 鳥取県立厚生病院図書室の取り組み. 医学図書館. 2009, 56(4), p. 318-322.

(68)小林隆志. “図書館は社会のセーフティネットになっているか?: 「課題解決」型の図書館の視点から”. ささえあう図書館: 「社会装置」としての新たなモデルと役割. 岡本真監修. 青柳英治編著. 勉誠出版, 2016, p. 81-96, (ライブラリーぶっくす).

(69)三田祐子. 医療・健康情報サービスを支える“連携”. 健康情報委員会. 2015-10-16.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/kenkou/事例発表3_20151016.pdf [222],(参照2018-07-10).

(70)大阪府立中央図書館資料情報課. “大阪府立中央図書館 蔵書評価(報告)”. 大阪府立図書館紀要. 2017, (45), p. 1-53.
https://www.library.pref.osaka.jp/uploaded/attachment/2548.pdf [223], (参照 20108-07-18).

(71)公共図書館のための「健康情報の本」選定ノート. 「市民への健康情報サービスのための基本図書およびWEB 情報源リスト」を作成する会, 2008, 49p.
現在は、ほぼ同じ内容がブクログで閲覧できる。
健康情報の本・選定ノートWeb.
http://booklog.jp/users/kenkojoho/ [224], (参照2018-07-10).

(72)市川, 坪内. 前掲.
市川美智子, 榊原佐知子, 近藤千春. 特集 医学・医療・健康にまつわる情報: 図書館連携による健康支援事業「めりーらいん」. 専門図書館. 2018, (290), p. 16-22.

(73)市川美智子. 愛知医科大学と公共図書館の連携による地域貢献:めりーらいん健康支援事業. 大学図書館研究. 2013, 99, p. 14-23.
https://doi.org/10.20722/jcul.193 [225], (参照 2018-07-18).

(74)舟田. 前掲.

(75)橋本祐子. 連携で広がるサービス: 滋賀県公共図書館がん情報提供事業の取り組みについて. 健康情報委員会.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/kenkou/基調報告2_20151016.pdf [226], (参照2018-07-10).

(76)松田公利. 和歌山県立図書館の「がん」関係における連携: 県がん対策「七位一体」の一助となる図書館を目指して. 健康情報委員会.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/kenkou/事例発表1_20151016.pdf [227], (参照2018-07-10).

(77)小西美穂. “埼玉県立久喜図書館における健康・医療情報サービスの取組: 健康医療情報支援の取組、県内市町村立図書館等への支援について”. 2015年度(平成27年度)公立図書館における課題解決支援サービスに関する報告書. 全国公共図書館協議会, 2016, p. 44-45.
https://www.library.metro.tokyo.jp/pdf/zenkouto/pdf/2015chap03.pdf [228], (参照 2018-07-18).

(78)佐竹かおる. 連携を通して見えてきた、公共図書館にしかできない健康・医療情報提供: 埼玉県立久喜図書館がん連携を中心に. 健康情報委員会.
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/kenkou/全国図書館大会掲載用ppt(埼玉県立).pdf [229], (参照2018-07-10).

(79)安田宏美. 2012年 地域連携シンポジウム: 静岡県立中央図書館の健康医療情報サービスについて. 薬学図書館. 2013, 58(2), p. 88-91.

(80)佐藤美加. 特集 2025年問題を見据えた健康・医療情報サービス: これからの医療健康情報サービスとは: 文化活動を通した「社会的健康の充足」を目指して. みんなの図書館. 2016, (470), p. 19-24.

(81)田村俊作, 池谷のぞみ, 須賀千絵, 三輪眞木子, 越塚美加. “都道府県立図書館による医療健康情報サービスの提供とその意義”. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 2013, p. 25-28.

(82)図書館海援隊参加館による取り組みが、健康医療に関する取り組みも含めて記載されている。
“図書館海援隊参加図書館一覧”. 文部科学省. 2013-12-11.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1290067.htm [230], (参照2018-07-10).

(83)“図書館で、よろずがん相談”. 埼玉県立図書館.
https://www.lib.pref.saitama.jp/stplib_doc/news/kouen/h29_gansoudan.html [231], (参照 2018-07-20).

(84)滋賀県. 滋賀県がん対策推進計画. 滋賀県健康福祉部健康長寿課, 2013, p. 61.
http://www.pref.shiga.lg.jp/e/kenko-t/gan/files/syuuseogogannkeikakuhonnbunn2.pdf [232], (参照2018-07-19).

(85)松本ほか. 前掲.

(86)松本直樹. 北から南から「九州・沖縄地区 図書館&がん相談支援センター連携ワークショップ」の報告. 図書館雑誌. 2017, 111(4), p. 250-251.

(87)杦平洋子. 特集 協働して行う学習支援: 公共図書館とがん相談支援センターとの連携について. 看護と情報:日本看護図書館協会会誌. 2018, (25), p. 28-32.

(88)杉江典子. 特集: 図書館における医療・健康情報の提供: わが国の公共図書館による健康情報提供に関する実態調査. 現代の図書館. 2005, 43(4), p. 183-192.

(89)柚木, 小林. 前掲.

(90)中山康子. “公共図書館での健康情報サービスの発展をめざして”. 課題解決型サービスの創造と展開. 青弓社, 2008, p. 91-121, (図書館の最前線, 3).

(91)木寺清一. “参考事務規程”. 参考業務 : Reference/Information Service 概説. 4訂版, 日本図書館協会, 1979, p. 153-154.

(92)最近、糸賀もレファレンス・サービスの回答禁止事項について図書館界に再考を促している。
糸賀雅児. 窓 レファレンス質問の禁止事項は見直しを. 図書館雑誌. 2018, 112(40), p. 216.

(93)例えば、次を参照されたい。
柚木. 前掲. 吉田. 前掲.

(94)地域包括ケアシステムの構築が求められている現在、地域における公共図書館のあり方を模索する上で、主体的な行動を生活者がとれるように支援することを核に据えた、公共図書館の地域活性化への関わりを論じた以下の論考は参考になる。
嶋田学. 特集:インフォプロと地域活性化: 地域活性化に寄与する公共図書館の役割. 情報の科学と技術. 2015, 65(5), p. 206-211.
https://doi.org/10.18919/jkg.65.5_206 [233], (参照 2018-07-18).

 

[受理:2018-08-13]

 

補記:
本稿脱稿後、『現代の図書館』2018年6月号に、都道府県・政令市図書館の医療健康情報サービスに関する論文が掲載された。
磯部ゆき江ほか. 都道府県・政令市図書館の医療健康情報サービス : 「公共図書館のがん情報サービスの課題 : 提供する資料・情報の視点から」調査報告. 現代の図書館. 2018, 56(2), p. 83-103.

 

池谷のぞみ. 国内の公共図書館における健康医療情報サービスの最近の動向. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1937, p. 20-26.
http://current.ndl.go.jp/ca1937 [234]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11162000 [235]

Ikeya Nozomi
Trends in Health Information Services in Japanese Public Libraries

  • 参照(11620)
カレントアウェアネス [25]
動向レビュー [65]
医療情報 [236]
アウトリーチ [237]
レファレンス [238]
日本 [30]
公共図書館 [31]
公立図書館 [32]
大学図書館 [239]
JLA(日本図書館協会) [57]

CA1938 - 研究文献レビュー:新しい図書館史研究 / 長尾宗典

PDFファイル [240]

カレントアウェアネス
No.337 2018年9月20日

 

CA1938

研究文献レビュー

 

新しい図書館史研究

城西国際大学国際人文学部:長尾宗典(ながお むねのり)

 

はじめに

 本稿では、本誌297号(2008年9月)に三浦太郎が発表した図書館史に関する研究文献レビュー(CA1673 [241]参照)の後を受け、2008年から2017年までの10年間に主として日本国内で発表され、日本の図書館を対象とした図書館史研究文献のレビューを行う。書評に関しては重要なものに限り、論文発表後に一書にまとめられた研究の場合は単行本を取り上げる。なお、三浦は2012年に、2002年から2011年までの文献整理を行っているので(1)、重複する文献紹介は極力省略することとする。

 図書館史の研究に関しては、この10年を振り返ってみるとき、日本図書館文化史研究会などの活発な活動の結果、論文や単行本の数は大幅に増大した。また、2008年の図書館法改正(E799 [242]参照)と司書課程科目の再編、「電子書籍元年」と呼ばれた2010年以降の電子メディアの普及、2011年の東日本大震災、2014年の学校図書館法改正(E1597 [152]参照)などをはじめとして、図書館を取り巻く大きな転換が、図書館史研究にも少なからぬ影響を与えていたといえる。本稿が「新しい図書館史」と題して文献レビューを行う理由も、この点に存する。

 三浦は、図書館史研究の傾向を、第一に、図書館史研究の方法論的な問い直し、第二に日本の戦後図書館史の歴史的な評価、第三に人物への注目という3点に整理した(CA1673 [241]参照)。筆者もこの整理に異論はないが、今日的な視点から見れば、これは2008年前後に特有の現象というよりも、むしろ、図書館史研究が学問的な体裁を整えていく上で必然的に選ばれるべき問題群だったように思われる。2008年以降の10年間に登場した図書館史研究の成果の多くも、この枠に沿って展開されたからである。そこで本稿では、上記の3点について整理した上で、新たな動向について触れることにしたい。

 

1. 図書館史研究の方法的問い直し

 岩猿敏生が2007年に『日本図書館史概説』(日外アソシエーツ)を刊行したことが一つの転機となって、図書館史研究の方法に関しては活発な議論が相次いだ。川崎良孝らは、米国を中心に図書館研究の学説史を整理した(2)。日本については、三浦太郎が、日本近代図書館黎明期の学説史整理を行っている(3)。また、寺田光孝が、図書館史研究をめぐる特別講演のなかで、「近代以降に限定することは問題」(4)とする見解を示しているように、前近代からのスケールの大きなアプローチを求める議論が増えたことは、この10年間の一つの特色といってよいかもしれない。

 こうした動向に呼応する形で現れた前近代日本の図書館史研究として以下のものがある。竹内悊は、中国、韓国、日本の図書の移動に触れ、古代から江戸時代までの大きな見取り図を示した(5)。小川徹は、東大寺などが所蔵する経典と、学僧の活動を明らかにし(6)、稲葉継陽は細川家伝来の永青文庫の史料について紹介している(7)。早坂信子は、仙台の青柳文庫について、自身の長年の研究成果をまとめた(8)。髙倉一紀は、これまでの蔵書家研究を踏まえ、五葉蔭文庫や豊宮崎文庫、射和文庫などについて論じた(9)。

 前近代日本の図書館史に関しては、このほか、単行本で長澤孝三の『幕府のふみくら』(10)や新藤透の『図書館と江戸時代の人びと』(11)などの成果が現れている。

 

2. 戦後日本図書館史の歴史的評価

 2点目の戦後図書館史の歴史的評価に関しては、今まど子、高山正也らによる『現代日本の図書館構想』(12)をはじめとして、引き続き数多くの研究成果が登場した。大串夏身による自伝的な図書館史回想(13)や、漢那憲治による沖縄の図書館史研究(14)が刊行された。2011年が『市民の図書館』刊行40周年、2016年が日野市立図書館(東京都)開館50周年ということで、それぞれ関連論考も現れた(15)(16)(17)(18)。図書館建築に関して注目が集まったことも一つの特徴といえるかもしれない(19)。日本に限らず世界に目を転じてみれば、美麗な図書館の写真を収めた写真集の刊行が増え(20)、歴史的な図書館についての理解が深化していった。

 さらに、戦後図書館史研究においては、2008年の図書館法改正と、それに関連する司書養成課程の科目変更に関連して、司書養成課程と結びついた議論の深化が目立った。柴田正美は、詳細な年表をもとにして図書館員養成体制の歴史を描きだし(21)、志保田務は、省令科目における図書館史関係事項の位置づけの変遷を論じた(22)。佐藤允昭による九州地方における図書館学教育と西日本図書館学会との関係の検討も、このような議論の系譜に位置づけられよう(23)。大学図書館の専門職員については利根川樹美子の研究が単行書としてまとめられた(24)。

 こうした流れのなかで特筆すべきは、根本彰が監修し、中村百合子、松本直樹、三浦太郎、吉田右子らによって編まれた浩瀚な『図書館情報学教育の戦後史:資料が語る専門職養成制度の展開』(25)の刊行であった。同書は戦後における図書館情報学を概観できるだけでなく、豊富な資料を掲載した図書館情報学教育の基本資料集ともなっている。

 

3. 人物への関心

 3点目の人物への関心についても、多くの成果が生み出されている。2007年の『図書館人物伝:図書館を育てた 20 人の功績と生涯』(日外アソシエーツ)の刊行は、その後の図書館史研究の水準を引き上げたが、松崎博子は同書中に登場する人名索引を作成し(26)、さらに同書の検索の利便性を高めた。

 小川徹、奥泉和久、小黒浩司の三者は、大著『人物でたどる日本の図書館の歴史』(27)で、佐野友三郎、浜畑栄造、田所糧助、森博などを論じた。佐野については、中山愛理による論考もある(28)。有山崧についても、生誕100年を記念する集会が開かれ、記録集が発行された(29)。

 また、京都図書館学研究会による『図書館情報学教育論叢』(30)は、岩猿敏生の卒寿を記念して編まれた論集であり、米国、欧州などの論考も含まれるが、人物研究では、渡辺信一の小野則秋論、松田泰代の姉崎正治論などが注目される。

 長坂和茂は日本図書館協会総裁を務めた徳川頼倫について論じた(31)。

 岡村敬二による『戦前期外地活動図書館職員人名辞書』(32)も労作である。また日本図書館文化史研究会が編んだ『図書館人物事典』(33)も、今後の図書館人物の研究に欠かせぬものであろう。

 

4. 新しい図書館史研究の潮流

 この10年間における図書館史研究においては、これまでと異なるいくつかの傾向が看取された。以下、新たな動向について、「公共図書館中心史観の相対化」「史料の発掘」「利用者の視点」という3つの観点から整理し直すことにしたい。

 

4.1. 公共図書館中心史観の相対化

 2010年以降、電子書籍をはじめとする電子メディアが急速に普及し、2011年の東日本大震災以降は、TwitterなどのSNSの書き込みも広く行われるようになった。近代の図書館が公共図書館を中心に発達してきたことは広く認められているところだが、電子メディアの登場は、これまでの公共図書館のあり方に大きな変容を迫るようになってきている。そのことと関連して、この10年間には公共図書館以外の図書館の発達を、図書館史上に位置づけていこうとする試みが様々な立場からなされていった。

 石山洋は、『源流から辿る近代図書館 : 日本図書館史話』(34)のなかで大学図書館の歴史についても扱い、近代図書館に複数の源流があることを示した。

 公共図書館以外で歴史的検討の対象となったのは、学校図書館であった。とくに中村百合子によって、占領期日本における米国の図書館モデルの受容が分析されたが(35)、今井福司は、中村の議論を引き継ぎつつ、20世紀前半の米国の学校図書館理論の形成という長期的な視点から問題の解明を試みている(36)。戦後学校図書館については、杉山悦子が沖縄を例に論考を発表している(37)(38)(39)。このほか津村光洋は全国高等諸学校の図書館協議会の活動実態を分析した(40)。

 大学図書館に関しては、岩猿敏生が東京帝国大学図書館長和田万吉について考察しているほか(41)、河村俊太郎の『東京帝国大学図書館:図書館システムと蔵書・部局・教員』(42)が刊行されたことは大きな意味をもつ。

 国立図書館に関する議論は学校図書館や大学図書館と比べるとやや低調だが、伊東達也による東京書籍館の無料制に関する考察があるほか(43)(44)、長尾宗典が田中稲城の「国立図書館」構想についての検討を試みている(45)。

 専門図書館や病院図書館などに関しては、柴田隆行、山下道輔らによる『ハンセン病図書館: 歴史遺産を後世に』(46)が刊行された。また『図書館人物伝』の補遺という位置づけであるが、阪田蓉子は障害者サービスに関わるものとして本間一夫の図書館人としての活動を取り上げている(47)。

 和知剛は、森有礼の図書館構想に触れながら、私立図書館の再評価について問題提起をしている(48)。

 

4.2. 史料発掘の進展

 図書館史研究の新たな潮流として、この10年の間に、図書館報や自伝等活字史料に頼った見方が見直され、業務文書など活字化されていない史料の利用が積極的に行われるようになった。これについて奥泉和久は、「図書館史研究は、公刊された資料だけに頼っていた時期から、一次資料の利用、もしくはこれまで明らかにされていない史料を探求する時期へと移ってきた」(49)と述べている。一次資料への関心の高まりは、東日本大震災を経て資料保全活動への意識が高まったこととも関係していよう(50)。

 公共図書館が行政サービスの一部であるにもかかわらず、従来の研究で、意外なほど使われてこなかったのが公文書である。そのなかで呑海沙織が、『公文類聚』などの史料を駆使して大正期の私立大学図書館に求められた要件を分析したのは、大きな意義を持つものだった(51)。安藤友張は、文部官僚の一次資料にあたる深川文書を用いて学校図書館法の成立過程を考察した(52)。

 図書館の業務文書にも注目が集まった。小黒浩司は、上田市立図書館(長野県)の日誌を用いながら1920年代以降の発禁図書接収の動態を明らかにしたが(53)、この研究は、その後長野県内で開かれる検閲関連の展示活動の先鞭をつけるものだったといえよう。吉田昭子による東京市立図書館に関する精力的な史料発掘と紹介(54)も、研究の水準を大きく引き上げている。

 千代田区立図書館(東京都)では、2011年の内務省委託本の調査報告(55)のほか、2015年には、同館の前身にあたる東京市立一橋図書館・駿河台図書館の業務資料である「一橋・駿河台図書館業務資料」を整理するなど、研究資料の整理と公開に大きな役割を果たした。以後、各地の図書館でも館蔵の資料の見直しが、年史編纂と並行して進められつつある。長尾宗典は図書館史の資料集という観点から主要な刊行物の特徴を整理している(CA1856 [243]参照)。近年の図書館単館史のなかで特に注目すべきは津島市立図書館(愛知県)の『津島市立図書館編年資料集成: 1895-2015』(56)である。同書の編纂を担当した園田俊介らは、自館に残存する関係資料の発掘の方法について論じている(57)。基本資料となる「単館史」の充実は、図書館史研究全体の発展にも貢献するはずである。

 オーラル・ヒストリーの手法の発達により、図書館関係者からの聞き取りの成果も次々とまとめられていった。占領期CIE図書館に関わった豊後レイコの証言や(58)、函館図書館(北海道)の岡田健蔵についての聞き取り(59)のほか、学校図書館関係者の聞き取りも、中村百合子らによって精力的に行われている(60)。

 前川和子は、米・ヴァンダービルド大学図書館が所蔵する文書をもとに、1951年の専門指導者養成講習会でレファレンス教育を担当したチェニー(Frances Neel Cheney)が、志智嘉九郎や三宅千代二に与えた影響を考察した(61)。吉田右子は、図書館短期大学の関連資料を元に同大学の歴史を考察している(62)。

 史料の発掘だけでなく、それを復刻して他の研究者も利用できるようにしていく作業は、地道な仕事ではあるが、貴重な作業である。鈴木宏宗による和田万吉の図書展閲記の翻刻(63)や、金沢文圃閣が精力的に進めている図書館史関連文献の復刻である「文圃文献類従」シリーズは、図書館史の研究基盤の整備に大きく貢献するものである。よねいかついちろうが、楠田五郎太研究の一環として新京図書館などの新たな資料を発掘していることも注目される(64)。

 その他、奥泉和久の『近代日本公共図書館年表:1867~2005』(65)は、明治維新以前から2005年までの日本の図書館史に関する重要な事項を収録しており、今後の研究の上で必携のレファレンス・ツールとなっている。

 

4.3. 利用者の視点からの研究

 このほか新しい研究動向として、図書館、図書館員側の視点から図書館の歴史を捉えるのでなく、図書館を使う利用者の視点から図書館史を捉え直す、視座の転換も指摘できる。

 例えば、伊東達也は、明治時代の雑誌『成功』にあらわれた図書館記事を分析し、当該期における図書館利用実態を解明した(66)(67)。図書館利用のマナーについての呑海沙織や綿抜豊昭による考察(68)も、利用者の視点から図書館を捉え直す試みといえよう。高梨章も同様に図書館史の見直しを進めている(69)(70)。中西裕による三田村鳶魚の図書館の利用実態に関する紹介もある(71)。文学研究者による図書館への注目もあり、大澤聡(72)や日比嘉高(73)によって、図書館に関する資料復刊も相次いだ。

 このような動向に影響を与えたと考えられるのが、近年の米国の図書館史研究、特にウィーガンド(Wayne A. Wiegand)による一連の研究である。彼の図書館史研究の立場については川崎良孝の整理が示唆に富むが(74)、研究が進みつつある日本の読書、読者研究の動向とも融合させた新たな図書館史研究はこれからの発展に関わっていよう(75)。宮本愛が、上述の一橋業務資料も活用しながら、女性利用者の視点から、1930年代の東京市立図書館を捉え直す労作(76)を発表したのは、新しい図書館史研究の方向性を示すものとして注目される。

 

5. その他の動向

 その他個別の研究についても注目すべき成果が現れている。戦前期については、新藤透の選書論(77)や、よねいかついちろうによる楠田五郎太研究(78)がある。嶋崎さや香は、滋賀県の事例をもとに従来図書館史で取り上げられることの少なかった教育会図書館を取り上げている(79)。

 植民地の図書館についての研究も進んだ。村上美代治の満鉄図書館史研究(80)や、小黒浩司による日中図書館史に関する研究書(81)の登場により、近代図書館史の理解は一層深まったといえよう。戦争と図書館の問題については、鞆谷純一『日本軍接収図書:中国占領地で接収した図書の行方』(82)が重要であるが、同書の議論に関しては、国際法からの検討の必要性を提起した小林昌樹による書評(83)がなされた。

 

おわりに

 数多くの成果が発表される一方で、この10年間に、石井敦、石山洋、岩猿敏生、高倉一紀、鞆谷純一ら各氏のように、これまで長く図書館史研究をけん引してきた方々が鬼籍に入られたことは、斯界にとって大きな損失であった。先達が築いた学問の伝統を、批判的に継承し、さらに大きく発展させていくことが、後進の者に残された使命であろう。

 以上、2008年から2017年までに発表された図書館史関連文献を紹介してきた。紙幅の都合と筆者の力量もあり、海外の図書館史・図書館事情については、取り上げるべくしてほとんど取り上げられなかったが、この10年間で図書館史関連文献が大幅に増加しているのは確実で、それはとりもなおさず、この10年が図書館の大きな転換期だったことの何よりの証左でもあろう。先行きの見えない複雑な状況に直面したとき、自らの営みを反省的に振り返り、問題の本質を理解するために、人の関心が歴史に向かうのは、ごく自然な反応といえるからである。

 この転換はまだ終息してはいない。2018年に入ってからも、図書館史研究の分野では引き続き意欲的な成果があらわれている。国立国会図書館(NDL)も今年で開館70周年を迎えるとのことで、記念誌の発行や展示会など様々な企画が予定されている。今後10年の間には、本稿で触れた動向はどのように展開していくのか、また、これまでとはまったく異なる新たな研究潮流が生まれてくるのか、引き続き注視していきたい。

 

(1)三浦太郎. 日本図書館史研究の特質 : 最近10年間の文献整理とその検討を通じて. 明治大学図書館情報学研究会紀要. 2012, (3), p. 34-42.
http://hdl.handle.net/10291/11539 [244], (参照 2018-07-26).

(2)川崎良孝, 吉田右子. 新たな図書館・図書館史研究 : 批判的図書館史研究を中心として. 京都図書館情報学研究会, 2011, 402p.

(3)三浦太郎. “図書館史における学説史研究試論 : 日本近代図書館黎明期の解釈をめぐって”. 現代の図書館・図書館思想の形成と展開. 川崎良孝, 吉田右子編. 京都図書館情報学研究会, 2017, p. 209-225.

(4)寺田光孝. 特別講演 普遍図書館に寄せて : 図書館史研究を考える. 図書館文化史研究. 2013, (30), p. 13.

(5)竹内悊. 特別講演 「21世紀の図書館協力」と「本の道」--IFLAソウル大会に因んで. 図書館文化史研究. 2009, (26), p. 1-26.

(6)小川徹. 特別講演 日本古代の図書館を考える--奈良時代寺院における経典保存利用をめぐって. 図書館文化史研究. 2008, (25), p. 1-13.

(7)稲葉継陽. 特別講演 永青文庫史料の世界とその可能性. 図書館文化史研究. 2015, (32), p. 1-18.

(8)早坂信子. 公共図書館の祖青柳文庫と青柳文蔵. 大崎八幡宮仙台・江戸学実行委員会, 2013, 70p., (国宝大崎八幡宮仙台・江戸学叢書, 50).

(9)髙倉一紀. 基調講演 近世日本における蒐書文化の展開 : 幕末公開文庫への道程. 図書館文化史研究. 2017, (34), p. 1-30.

(10)長澤孝三. 幕府のふみくら:内閣文庫のはなし. 吉川弘文館, 2012, 278p.

(11)新藤透. 図書館と江戸時代の人びと. 柏書房. 2017, 300p.

(12)今まど子, 髙山正也編著 ; 小出いずみ, 佐藤達生, 佃一可, 春山明哲, 三浦太郎, 村上篤太郎[執筆]. 現代日本の図書館構想:戦後改革とその展開. 勉誠出版, 2013, 350p.

(13)大串夏身. 図書館のこれまでとこれから:経験的図書館史と図書館サービス論. 青弓社, 2017, 238p.

(14)漢那憲治. 米軍占領下における沖縄の図書館事情:戦後沖縄の図書館復興を中心に. 京都図書館学研究会, 2014, 230p.

(15)山口源治郎. 『市民の図書館』と公共図書館の戦後体制. 図書館文化史研究. 2011, (28), p. 31-47.

(16)森下芳則. 『市民の図書館』と同時代を生きて. 図書館文化史研究. 2011, (28), p. 3-29.

(17)山口源治郎. 基調講演 日野市立図書館の歴史的意味と今後の課題. 図書館文化史研究. 2016, (33), p. 1-10.

(18)久保田正子, 森下芳則, 座間直壯, 田中ヒロ, 山口源治郎. パネルディスカッション. 図書館文化史研究. 2016, (33), p. 11-51.

(19)西川馨. 図書館建築発展史 : 戦後のめざましい発展をもたらしたものは何か. 丸善プラネット, 2010, 291p.

(20)例えば以下の文献がある。
ジェームズ・W・P・キャンベル著; ウィル・プライス写真; 桂英史日本語版監修; 野中邦子, 高橋早苗訳. 世界の図書館: 美しい知の遺産. 河出書房新社, 2014, 327p.

(21)柴田正美. 省令科目をふりかえる--戦後における司書・司書教諭養成体制を整理する. 図書館文化史研究. 2010, (27), p. 5-30.

(22)志保田務. 日本の司書養成省令科目における図書館史関係事項の取扱い--その変遷と現代的位置について. 図書館文化史研究. 2010, (27), p. 31-44.

(23)佐藤允昭. 特別講演 九州における図書館学教育の歴史 : 西日本図書館学会の創立と司書講習の果たした役割. 図書館文化史研究. 2015, (32), p. 19-36.

(24)利根川樹美子. 大学図書館専門職員の歴史 : 戦後日本で設置・教育を妨げた要因とは. 勁草書房, 2016, 351p.

(25)根本彰監修;中村百合子, 松本直樹, 三浦太郎, 吉田右子編著. 図書館情報学教育の戦後史:資料が語る専門職養成制度の展開. ミネルヴァ書房, 2015, 1039p.

(26)松崎博子. 『図書館人物伝:図書館を育てた20人の功績と生涯』(日本図書館文化史研究会編,日外アソシエーツ,2007年)人名索引. 図書館文化史研究. 2009, (26), p. 109-123.

(27)小川徹, 奥泉和久, 小黒浩司. 人物でたどる日本の図書館の歴史. 青弓社, 2016, 660p.

(28)中山愛理. 佐野友三郎とアメリカ図書館界とのかかわり--雑誌記事や書簡を手がかりとして. 茨城女子短期大学紀要. 2009, (36), p. 52-44.
http://www.taisei.ac.jp/jp/iwjc/bulletin/36.pdf [245], (参照 2018-07-26).

(29)有山崧生誕100周年記念集会実行委員会編. 有山崧の視点から、いま図書館を問う:有山崧生誕100周年記念集会記録. 有山崧生誕100周年記念集会実行委員会, 2012, 94p.

(30)京都図書館学研究会編. 図書館情報学教育論叢. 京都図書館学研究会, 2012, 267p.

(31)長坂和茂. 大正期日本図書館協会に対する総裁徳川頼倫の貢献. 図書館界. 2017, 68(5), p. 304-316.
http://hdl.handle.net/2433/218809 [246], (参照 2018-07-24).

(32)岡村敬二. 戦前期外地活動図書館職員人名辞書. 武久出版, 2017, 303p.

(33)日本図書館文化史研究会編. 図書館人物事典. 日外アソシエーツ, 紀伊國屋書店 (発売), 2017, 440p.

(34)石山洋. 源流から辿る近代図書館 : 日本図書館史話. 日外アソシエーツ, 2015, 264p.

(35)中村百合子. 占領下日本の学校図書館改革:アメリカの学校図書館の受容. 慶應義塾大学出版会, 2009, 394p.

(36)今井福司. 日本占領期の学校図書館:アメリカ学校図書館導入の歴史. 勉誠出版, 2016, 329p.

(37)杉山悦子. 1950年代前期の沖縄における学校図書館の形成過程:教員の読書活動とその要請. 図書館文化史研究. 2015, (32), p. 63-92.

(38)杉山悦子. 1950年代前期の沖縄における学校図書館改革の受容:指導主事永山政三郎の構想と第1回教育研究大会の見解を中心に. 日本図書館情報学会誌. 2015, 61(2), p. 96-111.
https://doi.org/10.20651/jslis.61.2_96 [247], (参照 2018-07-26).

(39)杉山悦子. 沖縄における学校図書館の展開過程 : 基準教育課程の編成を中心に:1954-1960. 日本図書館情報学会誌. 2017, 63(1), p. 1-19.
https://doi.org/10.20651/jslis.63.1_1 [248], (参照 2018-07-26).

(40)津村光洋. 全国高等諸学校図書館協議会の活動. 図書館文化史研究. 2016, (33), p. 75-91.

(41)岩猿敏生. 和田萬吉と東京帝国大学付属図書館の改革. 図書館学. 2011, (99), p. 1-6.

(42)河村俊太郎. 東京帝国大学図書館:図書館システムと蔵書・部局・教員. 東京大学出版会, 2016, 301p.

(43)伊東達也. 田中不二麿の図書館観の特徴とその起源 : “free public library”としての東京書籍館の由来をめぐって. 教育基礎学研究. 2013, (11), p. 1-13.
http://hdl.handle.net/2324/1905846 [249], (参照 2018-07-26).

(44)伊東達也. 学制施行期の書籍館政策について:“free public library”としての東京書籍館の成立をめぐって. 日本図書館情報学会誌. 2013, 59(4), p. 133-144.
https://doi.org/10.20651/jslis.59.4_133 [250], (参照 2018-07-26).

(45)長尾宗典. 明治日本の「国立図書館」構想:田中稲城を中心として. 図書館文化史研究. 2016, (33), p. 53-74.

(46)柴田隆行編;山下道輔 著. ハンセン病図書館:歴史遺産を後世に. 社会評論社, 2011, 183p.

(47)阪田蓉子. 特別講演 本間一夫と日本点字図書館. 図書館文化史研究. 2009, (26), p. 27-46.

(48)和知剛. 森有礼の「銀座煉瓦街図書館構想」再評価への試み. 紀要(郡山女子大学). 2010, (46), p. 23-30.

(49)奥泉和久. 図書館史研究をどう進めるか. 現代の図書館. 2010, 48(2), p. 106.

(50)日本図書館文化史研究会における歴史資料保存への関心を示すものとして以下の文献がある。
佐藤大介. 特別講演 災害を超え,よみがえる仙台の文字文化:歴史資料保全活動10年の軌跡. 図書館文化史研究. 2014, (31), p. 1-27.

(51)呑海沙織. 大正期の私立大学図書館:大学令下の大学設置認可要件としての図書館. 日本図書館情報学会誌. 2010, 56(1), p. 1-16.
https://doi.org/10.20651/jslis.56.1_1 [251], (参照 2018-07-26).

(52)安藤友張. 戦後初期(1952-1953)の日本における学校図書館法の成立過程:諸法案の特徴および比較考察を中心に. 日本図書館情報学会誌. 2013, 59(2), p. 79-95.

(53)小黒浩司. 戦前期図書館統制の研究:上田市図書館『日誌』を読む. 図書館界. 2009, 61(3), p. 174-184.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.61.3_174 [252], (参照 2018-07-26).

(54)吉田昭子. 東京市立日比谷図書館構想と設立経過:論議から開館まで. Library and information science. 2010, (64), p. 135-175.
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00003152-00000064-0135 [253], (参照2018-07-26).

(55)千代田区立千代田図書館編. 千代田図書館蔵「内務省委託本」関係資料集. 千代田区立千代田図書館, 2011, 131p.

(56)園田俊介編著. 津島市立図書館編年資料集成:1895-2015. 上,下. 津島市立図書館, 2015. 2冊.

(57)園田俊介, 前川和子, 山田美雪, 志保田務. 埋もれた自館関係史料の発掘と,館史公開,発刊への運び. 図書館界. 2017, 69(2), p. 151-158.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.69.2_151 [254], (参照 2018-07-26).

(58)豊後レイコ. 講演資料 豊後レイコ氏に聞く CIE図書館について. 図書館文化史研究. 2010, (27), p. 45-65.

(59)岡田弘子, 中山公子. 岡田弘子氏に聞く 岡田健蔵を語る. 図書館文化史研究. 2010, (27), p. 67-77.

(60)家城清美[述];『私の学校図書館半生記-司書として、司書教諭として-』編集委員会編. 私の学校図書館半生記:司書として、司書教諭として. 中村百合子, 2013. 171p.

(61)前川和子. 第二次世界大戦後図書館現職者教育におけるF.チェニーのレファレンス教育. 図書館文化史研究. 2013, (30), p. 55-75.

(62)吉田右子. 国立図書館短期大学史:図書館学・文献情報学・図書館情報学への展開過程. 図書館文化史研究. 2017, (34), p. 31-100.

(63)鈴木宏宗. 和田万吉『第七回 図書展閲記 明治卅九年四月』 . 図書館文化史研究. 2013, (30), p. 2-30.

(64)よねいかついちろう. 楠田五郎太「紙魚雑記」三篇:『新京図書館月報』から. 図書館文化史研究. 2015, (32), p. 147-163.

(65)奥泉和久編著. 近代日本公共図書館年表:1867~2005. 日本図書館協会, 2009, 467p.

(66)伊東達也. 新聞・雑誌記事にみる明治・大正期の受験生の図書館利用. 図書館学, 2008, (92), p. 10-22.

(67)伊東達也. 明治期の「苦学」の変化の図書館論への影響 : 雑誌『成功』を中心として. 図書館文化史研究. 2015, (32), p. 37-61.

(68)呑海沙織, 綿抜豊昭. 近代における図書館に関するマナーの受容:礼法教育からのアプローチ. 日本図書館情報学会誌. 2012, 58(2), p. 69-82.
https://doi.org/10.20651/jslis.58.2_69 [255], (参照 2018-06-27).

(69)高梨章. 図書館と大衆:そのリテラシー問題(昭和戦前・戦時期). 図書館界. 2010, 62(3). p. 206-220.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.62.3_206 [256], (参照 2018-07-26).

(70)高梨章. 図書館と映画上映活動:昭和戦前・戦時期. 図書館界. 2012, 64(1), p. 2-18.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.64.1_2 [257], (参照 2018-07-26).

(71)中西裕. 三田村鳶魚の図書館利用. 図書館文化史研究. 2014, (31), p. 103-119.

(72)大澤聡編著. 図書館と読書. ゆまに書房, 2013, 651p., (コレクション・モダン都市文化, 87).

(73)日比嘉高編著. 図書館情調 : Library & Librarian. 皓星社, 2017, 273p., (紙礫, 9).

(74)川崎良孝. ウェイン・A.ウィーガンドと文化調整論:図書館史研究の第4世代. 図書館界. 2016, 68(3), p. 200-214.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.68.3_200 [258], (参照 2018-07-26).

(75)読書研究の成果の一例として例えば以下のものがある。
和田敦彦. 読書の歴史を問う: 書物と読者の近代. 笠間書院, 2014, 286p.
今後、文学や歴史学などにおける読者研究の成果と図書館史研究の対話は一層はかられていくべきではないか。

(76)宮本愛. 戦前における公共図書館の女性利用者:1930年代東京市立図書館を中心に. 日本図書館情報学会誌. 2017, 63(4), p. 211-225.
https://doi.org/10.20651/jslis.63.4_211 [259], (参照 2018-07-26).

(77)新藤透. 明治期に於ける「選書論」の検討. 日本図書館情報学会誌. 2013, 59(1), p. 1-16.
https://doi.org/10.20651/jslis.59.1_1 [260], (参照 2018-07-26).

(78)よねいかついちろう. 帰ってきた楠田五郎太--試論・青年図書館員聯盟の図書館革新運動と戦後を繋ぐもの. 図書館文化史研究. 2011, 28, p. 75-102.

(79)嶋崎さや香. 教育会図書館の社会的意義:滋賀県八幡文庫(1904~1909)を例に. 図書館界. 2015, 67(1), p. 2-17.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.67.1_2 [261], (参照 2018-07-26).

(80)村上美代治. 満鉄図書館史. 村上美代治, 2010, 298p.

(81)小黒浩司. 図書館をめぐる日中の近代:友好と対立のはざまで. 青弓社, 2016, 280p.

(82)鞆谷純一. 日本軍接収図書 : 中国占領地で接収した図書の行方. 大阪公立大学共同出版会, 2011, 241p.

(83)小林昌樹. 書評 『日本軍接収図書』: 日本図書館史研究における学術の行方[鞆谷純一著]. 図書館文化史研究. 2012, (29), p. 127-136.

 

[受理:2018-08-10]

 


長尾宗典. 新しい図書館史研究. カレントアウェアネス. 2018, (337), CA1938, p. 27-31.
http://current.ndl.go.jp/ca1938 [262]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11162001 [263]

Nagao Munenori
New Trends of Research of Library History Targeting Japan

In this article, I reviewed the literature of library history that was published from 2008 to 2017. Traditionally, research on Japanese library history had three main points. Methodology, research on library history after the war, and biographies of librarians. In addition to this, in the past ten years, new trends have emerged with attention to libraries other than public libraries, using historical documents, and analysis from the viewpoint of library users. It is noteworthy what results future trends will produce.

  • 参照(11786)
カレントアウェアネス [25]
研究文献レビュー [264]
図書館史 [265]
日本 [30]

No.336 (CA1924-CA1931) 2018.06.20

  • 参照(15354)

No.336の 表紙 [266]と 奥付 [267](PDF)

CA1924 - 市民と〈設計〉した公共空間―太田市美術館・図書館における基本設計ワークショップ― / 氏原茂将

  • 参照(15926)

PDFファイル [268]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1924

 

 

市民と〈設計〉した公共空間
―太田市美術館・図書館における基本設計ワークショップ―

コンサルタント/プランナー:氏原茂将(うじはら しげゆき)

 

ことのはじまり

 「基本設計のポイントとなることを、ワークショップの参加者が決める」

 2017年4月、群馬県太田市に開館した太田市美術館・図書館(図1)を設計した建築家・平田晃久氏が求めていたワークショップの内容である(1)。ワークショップのファシリテーターを依頼されていた私は、漠とした魅力を感じながらも考え直すことを勧めた。建築の素養のない人が公共施設、しかも美術館や図書館のように複雑な機能を持つ施設の設計を決められるとは思わなかったからだ。ファシリテーターとして責任が取れないと思ったのだが、「参加者が決める」という魅力が勝り、引き受けることとなった。

当初は成功イメージもなく、見通しを立てられなかったワークショップだったが、結果的に設計プロセスに対して有効に機能することとなった。本稿では、ワークショップのプロセスを紹介しながら、有効に機能した理由を考察する。

 

図1 太田市美術館・図書館外観 (写真提供:阿野太一)

 

ワークショップのあらまし

 太田市美術館・図書館は当初、美術館と図書館を核とした文化交流を通じた駅前活性化・中心市街地活性化の拠点として計画された。そして、2014年3月に「(仮称)太田駅北口駅前文化交流施設設計プロポーザル」が実施され、複数の箱状のスペースにスロープが絡みつく空間構成と、美術館部分と図書館部分が混ざり合う機能構成を持つ平田氏の案が選ばれた(2)。プロポーザル案から基本設計の決定に至る2014年5月から9月までの5か月間で、計5回のワークショップが実施された。まさに建築としてかたちにするプロセスのなかで市民と考え、決めていこうというものだった(図2) (3)。
 

[269]

図2 ワークショップのスケジュール(提供:平田晃久建築設計事務所)

※画像をクリックすると新しいウインドウで開きます。


 ワークショップは、毎回テーマを決め、そのテーマに対して平田氏が提示する複数の案からひとつを選択するというかたちで進めた。ひとつの案を選択することがすなわちワークショップにおける決定だった。

 各回のテーマは、平田氏の提案の核となる「施設のゾーニング」、「箱の数」、「スロープの構成」という3つが据えられた。たとえば「施設のゾーニング」であれば、美術館と図書館の機能を分けるべきか、混ぜるべきかを選択したのだ。その回は、プロポーザル案よりもさらに美術館と図書館の機能が混在する案が選ばれ、結果、機能のみならず空間構成をも変えていくこととなった(4)。形式的な市民参加に陥らないよう、ワークショップにおける選択に際しては、平田氏や行政職員は関与せず、また事後的に覆さないという約束の下で進行しており、まさにプロポーザル案を参加者の一度きりの選択=決定に委ねるという姿勢で臨んでいたのだ。

 

「総意」を得るプロセス

 プロポーザル案とは異なる案が選択されたことから、建築家や行政としての所定の結論へとファシリテーターが誘導したわけではなく、ワークショップが異なる可能性に開かれていたと理解いただけるだろう。ただ、ワークショップにおいて最終的に案を選択したのは、ファシリテーターの私だった。参加者で多数決は採ったものの、最終的な選択はその結果を参考にして単独で行った。

 ワークショップでは議論を尽くしてもらったが、だからといって議論の結果、参加者全員でひとつの案を選択できるとは思えなかった。参加者の素養に対する懐疑ではなく、ひとつの案で「合意」するという行為に疑いがあったのだ。

 「合意」を得ようとした結果、置き去りにされる意見はないか。「合意」へと収斂するなかで声を潜める人が増えるのではないか。このような逡巡もあって選択する際のプロセスが描けず、ゾーニングについて決める2回目のワークショップに臨んでもなお曖昧なままだった。ただ、選択のときが近づくなか、参加者が美術館について、図書館について、駅前の公共空間について交わす意見を聞きながら、はっきりと「合意」は不可能だと思った。それよりも重要なのは「総意」であり、その「総意」を代表するかたちで選択がなされるべきだと思い至った。そして、それを代表する立場は、建築家でも行政職員でも参加者でもない、第四極となるファシリテーターが望ましいという結論を得たのである。

 最後に挙手による多数決を採り、美術館と図書館の機能を混ぜる案が多数となった。私もそれを選んだのだが、それは多くの参加者が選んだからではなく、それ以外の案を選んだ人の意見をも実現できる可能性があったからこそ選択したのである。

 

多様な意見を顕在化させる場

 平田氏は、このワークショップを「建築家の頭のなかに、それぞれの立場や視点から発言する夥しい言葉の群れがインプットされる、ということが起こった」 と振り返る(5)。

 3回目以降のワークショップでは、参加者の意見を集約せず、できるかぎり多くの意見が顕在化するようなファシリテーションを心がけた。そして選択にあたっては、顕在化した声をできるかぎり多く受け止めることのできそうな選択肢を探った。

 それは、案を選択するだけではなく、平田氏が提示する複数の案によって参加者が想像をふくらませ、語った意見を総合するという行為になっていたように思う。だからこそ、平田氏が言うように、選択された案とともに、その案を取り巻く言葉の群れがインプットされたのだろう。

 ただ、そもそもそのようなプロセスが可能となったのは、平田氏が提示する案がいずれも、それ以前のワークショップで語られた多様な意見を受け止める施設・空間だったからこそである。自分たちの意見が実体として立ち上がっていくプロセスは、参加者と建築家、そして行政の信頼関係の構築へとつながっていた。そして、その素地があったからこそ、ファシリテーターによる選択が「決定」となり得たのだろう。

 

未来の利用者との出会い

 それでは、ファシリテーターが媒介し、建築家にインプットされた意見とは、どのようなものだったのだろう。

 参加者の意見には、いずれも太田市美術館・図書館に対する期待が表れていた。個々のスペースへの期待、美術館や図書館のあり方に対する期待、駅前の活性化に向けた期待など、様々な期待が読み取れたが、それら意見は大きく、「するべきこと」として提案されるものと「したいこと」を語るものに分類することができた。前者は市民やまちのために太田市美術館・図書館がどのようにあるべきかを提案する意見であり、後者は自分のための意見である。公益を志す意見と私益を満たそうとする意見と言い換えてもよいだろう。公共施設のあり方や駅前の活性化について語る際には、私益を交えずに公益を志して意見を述べるべきだと考えられる節もあるが、今回のワークショップで「総意」を見出そうとするときにより参考となったのは、じつは「したいこと」を語る意見の方だった。

 「したいこと」は、美術館で観たい作品、図書館での過ごし方、そしてカフェなどの欲しい機能など、様々なことが語られたが、いずれも自分が望むことである。「したいこと」を語る参加者は、ワークショップで提示される図面や建築模型を通じて、完成した施設を訪れた自分を想像し、その様子を語った。願望の投影とも言える意見を退けなかったのは、それらが、まだ見ぬ太田市美術館・図書館での利用者の振る舞いを教えてくれるものだったからだ。つまり、「したいこと」を語る参加者は未来の施設利用者であり、「したいこと」はそこでの利用のあり方として捉えられたのだ。

 公共施設のプランニングをする際、利用者像を具体的にイメージすることは難しい。太田市美術館・図書館であれば主な利用者は太田市民になるわけだが、想像しようとしても、太田市の「あらゆる市民」にまではとても想像が及ばない。しかし、今回のワークショップは何人もの利用者に直接出会うこととなった。「したいこと」を語る参加者は生身の利用者となり、施設における利用者の体験を予見させてくれたのだ。

 「したいこと」として語られる行為が施設での体験であるならば、多様なままで然るべきだろう。美術館や図書館は多様な体験が同時多発的に発生する場であり、また太田市美術館・図書館はそのような体験を提供しようと計画されていたからである。

 だからワークショップにおいて「総意」を見出すことは、多様な体験を内包させることであり、多様な体験が成立する案を選択することが「総意」を代表することだったのである。

 

自分たちが「したいこと」へ

 ただ、「したいこと」を語る意見は厄介である。互いに相容れない体験もあり、実際に折り合わない意見があったのも事実である。

 そのようなときに、実現不可能な両論併記でもなく、どちらか一方を取り下げるように調整するという現実的な対応でもなく、対立を取り込んでいくことが「総意」を見出すことだったように思う。

 ワークショップを振り返り、ここではそれを「したいこと」の〈正の相互調整〉と呼んでみたい。

 人はだれでも自分の「したいこと」を求めるものだが、だれかと共にする公共空間においては、他人の「したいこと」を阻害してまでそれを求める人は多くないだろう。どちらかというと、自分の「したいこと」を互いに牽制し、だれも「したいこと」ができなくなってしまうのではないだろうか。日本の公共空間・公共施設でよくみられる現象だと思うが、それは〈負の相互調整〉である。一方、〈正の相互調整〉はお互いの「したいこと」を共有し、認め合い、最も十全に実現できるように調整するプロセスである。一定の制約はあれども、だれもが一定程度「したいこと」ができる状態をつくることである。

 ワークショップにおいて「したいこと」に着目した上で、あえて調整しないままに「総意」を見出そうとしたことは、振り返ればこの〈正の相互調整〉をワークショップ全体で行おうとしたことだと言える。

 ただ、このプロセスが実現できたのは、参加者の側で〈正の相互調整〉が発生していたからこそである。それぞれに自分の「したいこと」が語られ、互いにそれを知るなかで、参加者のあいだで自分たちの「したいこと」の総体が、平田氏が提示する案を媒介としてイメージされていったのではないだろうか。だからこそ、その「したいこと」の総体を「総意」と捉え、選択した結果、それを「決定」として共有することができたのだろう。

 

規範ではなく、共通の利益という基準

 公共施設のあり方を考えるときには、その施設のあるべき姿が参照されることが多い。図書館と美術館であれば、法的・社会的・文化的にあるべき姿が共有されているので、その姿に照らして個々の施設のあり方が検討される。「するべきこと」を提案する意見も、あるべき姿から発せられることが多い。

 ただ、今回のワークショップでは、あるべき姿に照らすこともなければ、「するべきこと」を提案する意見を戦わせることもなかった。それは、あるべき姿や「するべきこと」が規範となり、「してはいけないこと」を発生させることになりかねないと考えたからだ。規範という堅苦しい基準に照らすのではなく、個々人の「したいこと」を起点とすることで生身の利用者を顕現させ、さらに個々の「したいこと」に対する共通理解を育むことで自分たちが「したいこと」へと展開し、それを基準に照らした結果が、ワークショップにおける3回の選択=決定だったのである。それは未来の利用者の共通の利益のシミュレーションだったとも言えるだろう。

 

最後に―もうひとつの「したいこと」

 今回のワークショップにおいて「したいこと」を語る意見をより参照したのは、もうひとつ理由がある。

 太田市美術館・図書館は、文化的なサービスの場だけでなく、太田駅北口の活性化をもくろんだ施設であり、ワークショップは「みんなで北口をつくる」というキャッチコピーで参加者を募っていた。そして、そのような意図に導かれ、これからの太田市をつくろうというモチベーションを持つ参加者も少なくなかった。

 そうして参加した人たちの語る「したいこと」は、自分のためというよりも、まちのため、市民のために「したいこと」であり、単純な私益でも、また単純な公益でもなかった。主体的かつ能動的に市民やまちの共通の利益をつくろうとする意見が語られていたのだ。それらの意見が強度を持って響いたことは言うまでもないだろう。

 「したいこと」を起点としようとしたとき、ワークショップに参加できる人が限られるため、その場における共通の利益がまち全体で共有されるのかという疑問は拭いにくい。「するべきこと」に依拠する方が市民を代表しているように映るだろう。しかし、今回のワークショップで「したいこと」を語る声に委ねることができたのは、これからできる太田市美術館・図書館を通じて公益を生み出そうとする〈利用者〉と出会ったからこそである。

 その〈利用者〉の一部は現在、太田市美術館・図書館内のカフェの運営に携わっている。彼/彼女らの「したいこと」はすでに実現に向けて動き出しているのだ。

 施設の〈利用〉は、サービスを受けるだけでなく、施設において、そして施設を通じて新しい価値を生み出し、まちへと伝搬していくことへと拡張することになるのだろう。太田市美術館・図書館のワークショップで出会った〈利用者〉は、まさにそれを体現している。

 

(1)太田市美術館・図書館.
http://www.artmuseumlibraryota.jp/ [270], (参照 2018-05-01).

(2)プロポーザルの詳細は次のページを参照されたい。
“(仮称)太田駅北口駅前文化交流施設設計プロポーザル実施に関する手続開始について”. 太田市.
https://www.city.ota.gunma.jp/005gyosei/0060-019bijutsu-junbi/2014-0110-0821-3.html [271], (参照 2018-04-16).

(3)プロポーザル以降のプロセスは次のページを参照されたい。
“太田市美術館・図書館整備”. 太田市.
https://www.city.ota.gunma.jp/005gyosei/0060-019bijutsu-junbi/siryou.html [272], (参照 2018-05-13).

(4)プロポーザル案は3つのフロアのうち、3階部分で2つの機能が混ざるように構成されていた。それに対してワークショップで選ばれたのは、すべてのフロアで美術館と図書館の機能が混じり合う複雑な機能構成だった。その結果、プロポーザル案ではスロープ1つだったが、基本設計では2つのスロープが巡らされることになった。

(5)平田晃久.“巨樹のほうへ─〈からまりしろ〉とは建築をつくることである”. 10+1.
http://10plus1.jp/monthly/2017/02/issue-02.php [273], (参照2018-04-16).
 

[受理:2018-05-22]

 


氏原茂将. 市民と〈設計〉した公共空間―太田市美術館・図書館における基本設計ワークショップ―. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1924, p. 2-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1924 [274]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115313 [275]

Ujihara Shigeyuki
Citizen Partnership in Planning the Public Space ART MUSEUM & LIBRARY, OTA

カレントアウェアネス [25]
図書館建築 [56]
地域 [29]
企画 [27]
日本 [30]
公共図書館 [31]
公立図書館 [32]
美術館 [276]

CA1925 - 大阪市立図書館デジタルアーカイブのオープンデータの利活用促進に向けた取り組み / 澤谷晃子

  • 参照(8802)

PDFファイル [277]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1925

 

 

大阪市立図書館デジタルアーカイブの
オープンデータの利活用促進に向けた取り組み

大阪市立中央図書館:澤谷晃子(さわや あきこ)

 

1. はじめに

 大阪市立図書館は、2017年3月2日に当館デジタルアーカイブ画像の一部をオープンデータとして提供を開始した(1)。公共図書館では初の試みであり、新聞・雑誌等に取り上げられるなど多くの反響があった(2)。その後も、資料展示、インターネット上でのバーチャル展示「Webギャラリー」(3)での紹介、オープンデータ画像検索・加工講座の開催など、継続した取り組みを行っている。そうしたなか、2017年秋には、20年間継続してきた地域資料のデジタル化とその公開、また、今後のビジョンを示したことを評価され、Library of the Year(LoY)2017優秀賞を受賞した(4)。本稿では、LoY2017優秀賞受賞までの道のりと、以降のオープンデータ利活用促進に向けた取り組みを中心に紹介する。当館デジタルアーカイブの概要やオープンデータ化への取り組みについては、『図書館雑誌』2017年6月号および『専門図書館』2017年11月号に掲載されているので、あわせて参照していただきたい(5)(6)。
 

2. 電子図書館機能の活用促進に向けた取り組み

 大阪市立図書館は、中央図書館を中枢とした情報・物流のネットワークを構築し、「いつでも、どこでも、だれもが課題解決に必要な情報にアクセス可能な“知識創造型図書館”」(7)を基本目標に掲げている。400万冊を超える蔵書と電子書籍、商用データベース、音楽配信サービス等の電子図書館機能を活用し、スケールメリットを生かしながら、市内全域に効果的かつ効率的なサービスを提供している。当館デジタルアーカイブも電子図書館機能の1つとして、市民向けの活用講座(8)の開催や、図書館や読書に親しんでもらうための期間限定イベント「としょかんポイント」(9)での関連クイズの実施等を通じて、かねてから利活用に向けて取り組んでいる。

 オープンデータ関連の展示・催し・広報については、図書館の目標はもちろんのこと、大阪市や国などの方針・動向等を見据えて戦略的に行っている。2017年2月23日、市長会見を皮切りに3月2日のオープンデータ提供開始の関連イベントとして図書展示「オープンデータ活用術」の告知を行った(10)。また、世界中の国や都市などの公共機関のオープンデータ政策をサポートし、公共データ利用を促進するために3月5日に世界で同時開催されたインターナショナル・オープンデータ・デイ大阪2017では当館オープンデータ画像を活用して、オープンデータに関心の高い参加者へのPRを行った(11)。

 

図1 2017年2月23日大阪市長会見資料フリップ

 

3. LoY2017に向けて

 LoY2017の2次選考会までに、以下の2点を実施した。

 

3.1. オープンデータ利活用事例の紹介ページの公開

 2017年7月、当館オープンデータを活用した事例の蓄積を目的として、利用者からの情報収集のためのフォームを当館ウェブサイトに設置した。当館側で発見した事例の公開許可を依頼したところ、他の活用事例発見につながった例もあった(12)。

 

図2 デジタルアーカイブオープンデータ利活用事例紹介ページ

 

3.2. 「「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方」および「同アクションプラン」の公開

 図書館の情報化施策を大阪市の情報化施策(13)に位置付けるため、2017年6月に「「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方」を策定、今後当館が取り組む内容を「同アクションプラン」により具体的なロードマップとして示した(14)。

 2017年11月に第19回図書館総合展で実施されたLoY2017大賞の最終選考会では惜しくも大賞は逃したものの、選考委員からは、「大阪市ICT戦略」の方向性にあわせて実施したこと、戦略的にスピード感をもってやり遂げた実行力、20年以上にわたる継続性、「しつこく」続ける組織力などを評価していただいた。

 

4. LoY2017優秀賞受賞後の取り組み

4.1. OML48 チームHIKIFUDA(ひきふだ)選抜総選挙

 2017年11月からは、「OML(15)48チームHIKIFUDA(ひきふだ)選抜総選挙」を実施した。兵庫県の生野銀山の「GINZAN BOYZ」(16)にヒントを得て、引札(17)に描かれている人物等にニックネームとキャッチコピーをつけ、当館ウェブサイトからの投票を受け付けるとともに、図書館内にポスターを掲出し誰でもシールを貼って投票できるようにした。また、オープンデータ関連の講座の際に投票フォームにリンクするQRコードを紹介するなど、投票促進活動を行った。新聞・ラジオの取材もあり(18)、合計1,139票の投票があった。得票数が1位となり「センター」に選ばれた画像は、既に当館のエントランス付近で顔出しパネルとして展示しているほか、2018年のオープンデータ利活用促進のキャラクターとしてさらに活用していく予定である(19)。

 

図3 OML48 チームHIKIFUDA選抜総選挙 広報ポスター

 

4.2. 総務省の地域情報化アドバイザー制度の活用

 2016年度に引き続き、地方のICT化への助言を行う総務省の地域情報化アドバイザー(20)としてアカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真氏を招いた。ビジネスでのオープンデータの利活用の可能性等について助言を得たほか、本市職員向け研修で講義を行ってもらい、オープンデータはオープンガバメントを実現するための手段の一つであるということを再認識できた。また、2018年2月17日には、講演会「大阪市の図書館のオープンデータって何ですか?」(21)で、岡本氏にオープンデータの基本について、合同会社AMANE代表社員の堀井洋氏に先行事例についてそれぞれ紹介してもらい、今後の当館オープンデータの利活用の可能性について考える機会を得た。

 

4.3. 書誌情報データセットの提供開始

 デジタルアーカイブオープンデータコンテンツの書誌項目をデータセットで提供した(22)。これにより、画像表示画面の固定URLを生成することができる。

デジタルアーカイブオープンデータ以外にも、当館職員おすすめの児童図書リスト「こどものほんだな」に選んだ最新3年分の図書の書誌情報と紹介文、対象年齢等をオープンデータとして公開した(23)。

 上記2種類のオープンデータは、2018年3月3日に開催されたインターナショナル・オープンデータ・デイ大阪2018での活用を見込んでの公開であった。今回は、アイデアソンを中心とした内容だったが、今後の活用の可能性を検討する良い機会になった。

 

4.4. ウィキペディアタウン・ウィキペディアエディタソンの開催

 「「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方」では、市民協働の促進を目的に、ウィキペディアタウン(CA1847 [8]参照)の実施等の支援を明記した。

 LoY2017で優秀賞を受賞し、最終選考会で関わりを持ったことから、岡山県の瀬戸内市民図書館もみわ広場(E1986 [278]参照)とウィキペディアタウンの受賞館サミットとして、ウィキペディアタウン・ウィキペディアエディタソンを2018年3月に当館で実施することになった。実施に際しては、多くのウィキペディアン(Wikipediaの編集者)に助言・支援を得た。当日は多くの市民の参加があり、図書館資料はもちろん、当館デジタルアーカイブの中からたくさんのオープンデータを活用してもらい、当館オープンデータの有用性を示すことができたと考えている(24)。

 

5. オープンデータ化とその反響

 当館デジタルアーカイブのオープンデータ化は、二次利用申請の事務の軽減及びコンテンツの一層の利活用推進を図ることを目的として開始した。2018年4月現在、約7,000点、画像にして約13万点を加工も商用利用も許容するクリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスにおけるCC BY 4.0で提供している。

 オープンデータ提供開始以降、画像データ活用についての問い合わせは増加しているものの、二次利用許諾事務処理件数は、2016年度は118件、2017年度は49件と半数以下に減少しており、大幅な事務の軽減に繋がっている。また、2017年度の当館デジタルアーカイブシステムへのアクセス件数は2016年度(4万3,495件)の約1.8倍になり、増加は顕著である(ただし、画像のダウンロード数は不明)(25)。

 画像データの活用事例も広がりを見せつつある。主な事例としては、ラッピングバスや本市のイベントでの海外からの来賓への記念品、テレビ番組、イベントの広報チラシ、食品パッケージなどで利用されている。最近では、Linked Open Data チャレンジJapan 2017のデータセット部門にて最優秀賞を受賞した「小倉百人一首LOD」にも当館の画像が活用されている(26)。また、2018年4月からは読売新聞の地方面(大阪)で、週に一回、当館オープンデータを紹介する連載が始まった(27)。

 

6. オープンデータの更なる利活用に向けて

 オープンデータの利活用促進には、2点を考慮する必要がある。まずは、オープンデータそのものを知ってもらう機会を作るということ。オープンデータを提供するだけに留まらず、様々な活用事例や活用方法を紹介することで、「自分には関係ない情報」と思っていたものが、身近に感じられる情報となり、また、加工や編集を自由に行うことで新たな大阪の情報や資源として発信することが可能である。当館が提供しているオープンデータは、近世・近代の写真や絵などわかりやすいものが多く歴史に触れる第一歩となりえるため、市民が大阪に愛着を持ち、まちづくりや情報発信に積極的に関わるシビックプライドの醸成につながればと考える。

 もう1点は、講座や展示の企画はもちろんだが、オープンデータ化を実施する際にも、どのような場で、いつ情報をオープンにすればよいかなど、明解な目標や目的をもって戦略的に行うことである。アピールする場や対象、タイミング、方法を考慮しながら計画することで、届けたい対象により効果的に情報を伝達できる。

 今後も、オープンデータ利活用推進については、次の一手を考えながら取り組み、多くの人に知っていただけるよう、「しつこく」継続していきたい。

 

(1)“大阪市立図書館が所蔵する昔の写真・絵はがき等デジタルアーカイブの画像をオープンデータ化します”. 大阪市立図書館. 2017-02-23.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jojeh77qp-510#_510 [279], (参照 2018-04-03).

(2)以下の通り、新聞等で取り上げられた。
ノスタルジック大阪、無料提供 著作権切れ写真など6000点 市立図書館. 朝日新聞. 2017-02-24, 夕刊[大阪], p. 2.
岡崎大輔. 写真、絵はがき無料でどうぞ 大阪市立図書館6000点ダウンロード. 毎日新聞. 2017-03-02, 夕刊[大阪], p. 10.
大阪ゆかりの画像、好きに使ってや 市立図書館、6000点無料提供. 産経新聞. 2017-03-08, 夕刊[大阪], p. 1.
市立図書館 絵・写真データ7000点 大阪のため 自由に使って. 読売新聞. 2017-04-04, 朝刊[大阪], p. 31.

(3)“Webギャラリー インターネット上のバーチャルなテーマ展示です”. 大阪市立図書館デジタルアーカイブ.
http://image.oml.city.osaka.lg.jp/archive/gallery.do [280], (参照 2018-04-17).

(4)LoY2017については以下を参照のこと。
“Library of the Year 2017”. IRI 知的資源イニシアティブ.
http://www.iri-net.org/loy/loy2017.html [281], (参照 2018-04-17).

(5)外丸須美乃. 特集, 図書館のデジタルアーカイブ活用促進:大阪市立図書館デジタルアーカイブのオープンデータ化の取り組み. 図書館雑誌. 2017, 111(6), p. 380-381.

(6)外丸須美乃. 特集, 情報流通の今後を考える:大阪市立図書館デジタルアーカイブについて オープンデータ化への取り組み. 専門図書館. 2017, 286, p. 30-35.

(7)“平成29年度大阪市立図書館の目標について”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?action=common_download_main&upload_id=16433 [282], (参照 2018-04-17).

(8)講座「電子図書館de文楽再発見」は、「文楽」を題材に、電子書籍、商用データベース、デジタルアーカイブ、ナクソス・ミュージック・ライブラリーなど、大阪市立図書館で提供している電子図書館サービスの利用方法について紹介するものである。
“第20回大阪市図書館フェスティバル電子図書館 de 文楽再発見”. 大阪市立図書館. 2017-11-04.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jo3f8m4c3-510#_510 [283], (参照 2018-04-03).

(9)としょかんポイントとは、来館や、貸出に応じてポイントをためることで、よりいっそう図書館や読書に親しんでもらうためにおこなう期間限定のイベント。
“としょかんポイント”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1586 [284], (参照 2018-04-03).

(10)“[終了]【中央】2階ミニ展示「オープンデータ活用術」3月3日”. 大阪市立図書館. 2017-02-23.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jobao1i6a-510#_510 [285], (参照 2018-04-03).

(11)2017年度の前半の取り組みは、以下でも紹介している。
澤谷晃子. 特集, 地方公共団体における地域IoT実装・ICT利活用の取り組み:地域資料のデジタルアーカイブ化と利活用に向けた取り組み―オープンデータ化と今後のビジョンへの位置づけ―. KICC. 2018, 15, p. 7-11.
http://www.telecon.or.jp/uploads/1522626487_1.pdf [286], (参照 2018-04-03).

(12)“デジタルアーカイブ オープンデータ利活用事例の紹介”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1636 [287], (参照 2018-04-03).

(13)“情報化”. 大阪市.
http://www.city.osaka.lg.jp/shisei/category/3054-1-2-32-0-0-0-0-0-0.html [288], (参照 2018-04-17).

(14)“「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1639 [289], (参照 2018-04-03).

(15)Osaka Municipal Library(大阪市立図書館の英語表記)の略。

(16)“超スーパー地下アイドル「GINZAN BOYZ」公式サイト”. 株式会社シルバー生野.
http://www.ikuno-ginzan.co.jp/ginzan-boyz/ [290], (参照 2018-04-03).

(17)引札は、商店が開店や売り出しの宣伝のために配ったもので、現在のチラシ広告にあたる。明治から大正初期にかけて数多く作られ、縁起物や当時の世相風俗を描いたもの、暦や時刻表がついているもの等、様々な種類がある。

(18)引き札 あなたの一押しは 大阪市立図書館が「総選挙」. 読売新聞. 2018-01-30, 朝刊[大阪], p. 26.

(19)投票結果は以下のページに掲載。
“デジタルアーカイブ オープンデータ利活用事例の紹介”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1636 [287], (参照 2018-04-03).

(20)“地域情報化アドバイザー派遣制度(ICT人材派遣制度)”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/manager.html [291], (参照 2018-04-17).

(21)“[終了]【中央】「大阪市の図書館のオープンデータって何ですか?」”. 大阪市立図書館. 2018-01-16.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jo2c9j77n-6714 [292], (参照 2018-04-17).

(22)“デジタルアーカイブ オープンデータセット”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1645 [293], (参照 2018-04-03).

(23)“こどものほんだな”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=411 [294], (参照 2018-04-03).

(24)開催に至る経過や運営、当日の様子は以下のページで報告している。
澤谷晃子. Library of the Year 2017優秀賞サミット『見る!やってみる!ウィキペディアタウン』を開催して. ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2018, 686.
http://www.arg.ne.jp/node/9282 [295], (参照 2018-04-03).

(25)“大阪市立図書館の統計”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=447 [296], (参照 2018-04-03).

(26)“小倉百人一首のオープンデータ画像リスト”. 一般社団法人リンクデータ.
http://linkdata.org/work/rdf1s6836i [297], (参照 2018-04-03).

(27)「大阪 面影さがし」というシリーズ名で連載されている。
[大阪 面影さがし](1)玉江橋景 四天王寺まで見えた. 読売新聞. 2018-04-07, 朝刊[大阪], p. 27.
[大阪 面影さがし](2)さくらの宮景. 読売新聞. 2018-04-15, 朝刊[大阪], p. 27.
“面影さがし”. 読売新聞.
http://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/feature/CO033271/ [298], (参照 2018-04-17).

 

[受理:2018-05-02]

 


澤谷晃子. 大阪市立図書館デジタルアーカイブのオープンデータの利活用促進に向けた取り組み. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1925, p. 5-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1925 [299]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115314 [300]

Sawaya Akiko
Initiatives for Promotion of Open Data Utilization: The Osaka Municipal Library Digital Archives

カレントアウェアネス [25]
オープンアクセス [301]
オープンデータ [302]
デジタルアーカイブ [99]
日本 [30]
公共図書館 [31]
公立図書館 [32]

CA1926 - 資料を守り、救い、そして残すために―東京都立図書館・資料保存の取組― / 眞野節雄

  • 参照(9792)

PDFファイル [303]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1926

 

 

資料を守り、救い、そして残すために―東京都立図書館・資料保存の取組―

東京都立中央図書館:眞野節雄(しんの せつお)

 

2011年3月11日…陸前高田

 陸前高田市立図書館(岩手県)は東日本大震災の津波により職員7人全員が犠牲となり、蔵書約8万冊全てが被災して、そのほとんどが流出した。

 それから1年後、車庫跡等に山積みされている被災資料のなかから、貴重だと推定される郷土資料500点がボランティアによって発掘、救出された。2013年8月、陸前高田市立図書館から、他のどこにもなく再入手もできない資料51点だけでも現物を修復・再生してほしいという要望があり、東京都立中央図書館が引き受けることになった(1)。本格修理を行うための技術を有する公的機関はごく限られており、依頼を受けて東京都立中央図書館が協力することになったのである。

 

図1 陸前高田市立図書館の被災資料(日本図書館協会提供)

 

 資料が当館に到着したのは、震災から2年半後の2013年9月で、そしてこれらを修復後に返還できたのは、実に被災から4年後の2015年3月であった。

 さらに、これとは別に2014年に追加で83点の郷土資料を受け入れた。震災直後に東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業(文化財レスキュー事業)(2)によって、流出を免れた貴重書庫内資料の内、県指定文化財「吉田家文書」等は救出されていた(3)。しかし実は救出されなかった残りの資料をそのままでは忍びないと、立ち会った地元の古文書研究会の会長が自宅にに持ち帰り保管していたものを受け入れたのである。この資料についても修復を終え、2017年3月に無事返還することができた。

 修復は概ね「点検・仕分け」「撮影」「解体」「ドライクリーニング」「消毒」「洗浄」「乾燥・平滑化」「補修」「再製本」「保存箱収納」の手順で行った(4)。今はなき高田松原にあった記念碑を撮影した写真241点のアルバムは「撮影」段階で1点毎にデジタル化して、後に現物のプリントが損傷した場合にそのデジタルデータから再プリントしたり、まだ利用できるネガから再プリントしたりして再生を試みた(5)。

 

「東京都立図書館資料防災マニュアル」

 資料保存の最大の敵は、東日本大震災による被災だけでなく、戦争などの人災も含めた「災害」であるかもしれない。営々と保存してきた資料を一瞬にして失う。しかも人命や施設が危うくなる大災害だけでなく、日常的に発生しかねない小さな災害でも資料は被災する。そのため、資料の災害対策に関する「教科書」や文献は数多くある(6)。しかし、いざ自館が災害にあったらどうするか、そのための具体的、実効的なマニュアルは日本では皆無といってよい。東京都立図書館でも資料防災マニュアル作成は以前からの課題であったが、雛型がないことなどから先延ばしになっていた。しかし東日本大震災を受けて、もう先延ばしにはできないと考えた。

 一般的には、「資料防災」は「予防」「準備」「緊急対応」「復旧」から構成される。東京都立図書館では、ともすれば完璧なものを作成しようとするからできなくなる「資料防災マニュアル」を、とりあえずできるところから、すなわち、そのうちの「準備」「緊急対応」に焦点をあてて作成した。

 2013年度に完成したこのマニュアルには次のような特徴がある。

  • (1) 災害別に考えるのではなく、資料が受ける被害別に考えることにした。そうすると、燃える、水濡れ、落下破損、破損したガラス類を被る、という被災に単純化できた。
  • (2) 被災種類のうち、水濡れが最優先であることを明記した。水濡れは資料が受ける被害のなかで最も頻繁で厄介である。津波や洪水のような大災害ばかりでなく、ゲリラ豪雨、火災の消火活動、配水管等の設備の地震などによる故障や破損、老朽化した施設の雨漏り等々、いつでも日常的に起こりうる。また、他の被災は、とりあえず放置しておいて、あとで適宜対応することも可能であるのに対して、水に濡れると最悪の場合48時間でカビが発生するので緊急を要するからである。
  • (3) 水濡れでも、塗工紙とよばれる紙への対応に着目した。塗工紙はコート紙、アート紙など表面がコーティングされた紙であり、明治期から使用され、図書館が所蔵する近現代資料には多くある。その紙が濡れると紙同士が貼り付き、剥がれないのである。これを解決しないかぎり図書館における資料救済はありえないと考えた。これは筆者も苦い経験をしたし、陸前高田をはじめ多くの被災資料を見ての実感でもある。しかし、従来、修復対象となることの多い資料は、和紙でできた古典籍であると考えられてきたため、その解決法がどこにもなかった。そこで実験を繰り返し、その解決法を見出した(7)。

 

図2 貼り付いて板状になった資料

 

 塗工紙はその塗工層に接着剤(でんぷん糊など)を使用しており、そのため濡れると貼り付くと考えられていた。しかし、実験で、なぜか濡れたままだと貼り付かず、乾くときに貼り付くということがわかった。驚きの発見であった。

 カビの発生を抑えるため、できるだけ早く乾燥させると、どのマニュアルにも記されているが、乾くときに塗工紙は貼り付くので、むやみに乾燥させないで濡らしたままカビの発生を抑えつつ「時間稼ぎ」をして処置していくという対処法を発見した(8)。

 

図3 「被災・水濡れ資料の救済マニュアル」

 

日本の図書館に「資料保存」はあるのか

 陸前高田市立図書館の被災資料のうち指定文化財と古文書だけが「レスキュー」されたという事実に、当時筆者は愕然とした。図書館には「文化財」以外に、守り、救わなくてはならない資料は存在しないのであろうかと疑問に思った。図書館資料の価値は千差万別であるが、公立図書館であれば、どんな地方公共団体でも郷土資料という図書館が守り抜かなくてはならない資料があり、さまざまな図書館にその地域にとっての貴重なコレクションがあることも多いにもかかわらずである。

 しかしその後、図書館員は博物館等の学芸員に比べて資料を守り、救うという意識が希薄であることを、筆者はさまざまな場面で思い知らされた。しかし、それも当たり前かもしれない。長らく日本の図書館では貸出が重視され、保存はあまり重視しない傾向にあったと筆者は考える。利用すれば保存がないがしろになり、保存のためには利用させないのが良いとされてきた。そして利用を優先させ、保存はないがしろにされた。図書館情報学の専攻カリキュラムのなかに資料保存の科目はあまり見られない。図書館の使命が「資料の利用を保証する」ことであれば、その「利用」は今現在だけでなく数百年後の利用であるかもしれない。また、そうやって保存され引き継がれてきた資料を今現在利用していることもある。そうであれば利用を保証するためには資料保存は不可欠である。もちろん真摯に取り組んでいる機関もあるが、全体的には、資料保存活動に関する体制や環境は極めて厳しく不十分な状況といわざるをえない。

 その状況の打開に微力ながら貢献するため、公立図書館で唯一の資料保存専門部署である東京都立図書館資料保全室は、さまざまな取組を行ってきた。修理はもちろん、脱酸性化処置、カビ対策、災害対策などは全国各地で報告する機会も多い。さらに、資料保存に関して学ぶ機会もなければ知識を得る情報にも乏しい多くの図書館員のためにウェブサイト「資料保存のページ」(9)等で情報発信を積極的に行っている。これが資料保存や修理に関する実務的で生きた「教科書」になるようにという思いを込めて、取組やノウハウ・スキルの全てを公開している。幸い徐々に認知されて、全国各地の図書館で頼りにされ、数多くの見学や問合せを受けるようになった。資料を守り、残していくことへの関心が、日本の図書館に少しでも広まることを願っている。

 

2017年7月20日…陸前高田

 まだ嵩上げ工事の続く旧市街地の一角に、復興の第一歩として最初に建設されたショッピングセンターの中に、陸前高田市立図書館の新館がオープンした(E1956 [304]参照)。

 その新しいモダンな空間の中に東京都立中央図書館が修復して津波の被害から再生した郷土資料の展示コーナーが設けられていた。これらが新しい図書館で陸前高田の人々の歴史・記憶を伝え、さらに震災を語り継ぎ、復興のシンボルのひとつとして、人々に勇気を与えられるかもしれないことに深い感銘を受けた。

 

図4 修復された郷土資料の展示コーナー

 

図5 修復前後の被災資料

 

 津波によって壊滅したと思われていた資料がこうして生き延びたのはまさに奇跡である。その奇跡を起こしたのは、他でもない図書館員の「思い」「志」だったと思う。

 津波から1年間放置されてグチャグチャになった、誰の目にももはや再生はできないとみえた資料の山を見て、郷土資料だけでも何とか救いたいと思った図書館員。発掘・救出作業を泣きながら行った図書館員。震災後の図書館をどうしたいか?と問われ、「郷土資料をもう一度集めます。陸前高田の歴史を残し、伝えていきたい」ときっぱり言った陸前高田市立図書館の図書館員(10)。

 そして、手書きの貸出票に見覚えのある筆跡を見つけた陸前高田市立図書館の図書館員はこうつぶやいた。「郷土の歴史だけでなく、亡くなった人たちの気持ちも形見として引き継ぐのが私たちの使命」(11)。そうなのだ。形見は、資料だけではなく、資料をコツコツ収集し、残し、伝えようとしてきた図書館員の歴史でもあった。

 1945年、当館では当時の日比谷図書館で、空襲による焼失から守るために、資料の大規模な「疎開」が行われた。また、予算措置を講じて貴重資料を購入し、調達したトラックで、荷車で、リュックで担いで、東京中が空襲のさなかに疎開させたのだ。いま修理のためにそれらの資料を開くと、資料に、そして先人たちの思いに身の引き締まる思いがする。

 資料は自然に残るわけではない。残そうと思わなければ残らない。引き継がれてきて、これからも引き継いでいかねばならない、図書館の、図書館員の歴史となる資料を。

 

(URL参照は全て2018-03-01)

(1)鎌田勉. “I- 2 被災各県教育委員会報告 2・ 岩手県における文化財レスキューの取組み”. 東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会平成23年度活動報告書. 東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会事務局, 2012, p. 51-55.
http://www.tobunken.go.jp/japanese/rescue/report/report_h23/pdf/h23_1-2-2.pdf [305].

(2)“東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業(文化財レスキュー事業)について”. 文化庁. 2011-03-31.
http://www.bunka.go.jp/earthquake/rescue/pdf/bunkazai_rescue_jigyo_ver04.pdf [306].

(3)眞野節雄. よみがえれ陸前高田の郷土資料―東京都立中央図書館の修復作業―. ネットワーク資料保存. 2015, 111, p. 1-4.
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/uploads/network111.pdf [307].

(4)修復の詳しい手順については以下を参照。
“特別ミニ展示 大津波からよみがえった郷土の宝 -陸前高田市立図書館 郷土資料の修復展 -”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/uploads/takara.pdf [308].

(5)詳細については、当館の資料保存のウェブサイト「陸前高田市立図書館 被災資料の修復」や記録動画「大津波からよみがえった郷土の宝―陸前高田市立図書館郷土資料の修復」をご覧いただきたい。
“陸前高田市立図書館 被災資料の修復”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/about_us/collection_conservation/conservation/disaster/rikuzentakada/index.html [309].
“大津波からよみがえった郷土の宝―陸前高田市立図書館郷土資料の修復”. YouTube. 2017-09-06.
https://www.youtube.com/watch?v=ZPRxDGGcXu8 [310].

(6)ジョン・マッキンウェル, マリー=テレーズ・バーラモフ監修. “IFLA災害への準備と計画:簡略マニュアル”.国立国会図書館訳. 2010.
http://warp.da.ndl.go.jp/collections/NDL_WA_po_print/info:ndljp/pid/10126293/www.ndl.go.jp/jp/aboutus/preservation/pdf/NDL_WA_po_ifla_briefmanual.pdf [311].
ブキャナン, サリー. 図書館、文書館における災害対策.日本図書館協会, 1998, 113p, (シリーズ本を残す, 7).
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会資料保存委員会編. 資料保存と防災対策. 全史料協資料保存委員会, 2006, 108p.
『みんなで考える図書館の地震対策』編集チーム編. みんなで考える図書館の地震対策. 日本図書館協会, 2012, 127p.
資料保存委員会. 「資料保存展示パネル」災害編のご紹介. ネットワーク資料保存. 2011, 99, p. 9-13.

(7)真野節雄, 佐々木紫乃. “水濡れした塗工紙にどう対処するか~塗工紙の固着に関する考察と現場での具体的な対応~”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/uploads/posuta.pdf [312].

(8)この新しい手法のマニュアルは、当館の資料保存のウェブサイト「災害対策」に詳しい。
“災害対策”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/about_us/collection_conservation/conservation/disaster/ [313].
マニュアル本体のほか、「時間稼ぎ」を含めた手順を示す「トリアージ・フロー図」、準備しておく資材リスト「被災資料救済セット」、乾燥マニュアル「自然空気乾燥法」なども掲載している。また、動画「被災・水濡れ資料の救済マニュアル」を作成してウェブ上でも公開している。
“被災・水濡れ資料の救済マニュアル”. YouTube. 2017-05-21.
https://www.youtube.com/watch?v=svCK-yQDyOs [314].

(9)“資料保存のページ”. 東京都立図書館.
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/about_us/collection_conservation/conservation/ [315].

(10)伊佐恭子. 特集, 図書館へ行こう: [陸前高田]「ほっとくつろげる場所にしたい」. Asahi Shimbun Globe. 2013-08-18, 117, G-5.
http://globe.asahi.com/feature/article/2013081600006.html?page=2 [316].

(11)眞野節雄. よみがえれ陸前高田の郷土資料―東京都立中央図書館の修復作業―. ネットワーク資料保存. 2015, 111, p. 1-4.
https://www.library.metro.tokyo.jp/guide/uploads/network111.pdf [307].

 

[受理:2018-05-02]

 


眞野節雄. 資料を守り、救い、そして残すために. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1926, p. 9-12.
http://current.ndl.go.jp/ca1926 [317]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115315 [318]

Shinno Setsuo
To Conserve, Restore and Preserve Materials―Preservation at the Tokyo Metropolitan Library

カレントアウェアネス [25]
災害 [319]
資料保存 [320]
日本 [30]
公共図書館 [31]
国立図書館 [47]

CA1927 - 中国における公共図書館法の制定 / 山本彩佳

  • 参照(6887)

PDFファイル [321]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1927

 

 

中国における公共図書館法の制定

関西館アジア情報課:山本彩佳(やまもと あやか)

 

1. はじめに

 2017年11月4日、中華人民共和国公共図書館法(1)(以下「公共図書館法」)が制定され、2018年1月1日より施行された。中国政府は現在、国民の精神的・文化的な生活を豊かにすること等を目的として、図書館、博物館といった公共文化施設の整備など、公共文化サービスの拡充を進めている。また、法によって国を治める「依法治国」(2)の政策方針に基づき、各種法律の整備を進めている。しかし、現在有効な263の法律のうち、文化関連法の割合はわずか2.66%であり(2017年12月27日現在)、文化関連立法の遅れが指摘されている(3)。そのような状況下で、2016年12月、公共文化サービスの整備に関する基本法である公共文化サービス保障法が制定された(4)。公共図書館法は、それに続く公共文化サービス関連の法律であり、中国で初めての図書館に関する専門法である。本稿ではまず、中国における公共図書館の発展状況と公共図書館法制定の経緯について述べ、次に、公共図書館法の主な内容を紹介する。

 

2. 中国における公共図書館の発展状況

 1978年の改革開放政策の開始以来、中国では公共図書館の整備が積極的に進められている。公共図書館の施設数は、1978年の1,218館から、2016年には3,153館にまで増加した(5)。中国の公共図書館の施設数、職員数及び蔵書数の推移は、次の表のとおりである。

 

表 中国の公共図書館の施設数、職員数、蔵書数

年 施設数 職員数 蔵書数(万冊)
1980 1,732 ‐ 19,904
1985 2,344 29,350 25,573
1990 2,527 40,247 29,064
1995 2,615 45,323 32,850
2000 2,675 51,342 40,953
2005 2,762 50,423 48,056
2010 2,884 53,564 61,726
2015 3,139 56,422 83,844

出典:中国图书馆学会, 国家图书馆. “按年份全国公共图书馆主要业务活动情况”. 中国图书馆年鉴2016. 國家圖書館出版社, 2017, p. 420. を基に筆者作成。

 

 このように、中国の公共図書館の規模は拡大を続けているが、一方で、地域間格差の存在が問題となっている。12%の県級(6)行政区において公共図書館が設置されておらず、特に農村地区や中西部地区は空白地帯となっている(7)。

 

3. 公共図書館法制定の経緯

 中国における公共図書館法制定の動きは、1990年の文化部による「公共図書館条例」の起草まで遡ることができる。その後、政府機構の改革等が原因でしばらく中断したが、2001年から2004年にかけて「図書館法」の制定が試みられるなど、図書館関連立法の取組は続いていた(CA1670 [322]参照)(8)。そして、2008年11月、文化部が北京で会議を招集し、今回制定された公共図書館法の立法作業が始まった。文化部は2011年に公共図書館法起草のための専門家チームを組織し、立法のための研究を中国国家図書館(NLC)の研究院に委託した。2012年1月に審議稿が、2015年12月に意見募集稿が公表され、2017年4月、草案が第12期全国人民代表大会(全人代)常務委員会(9)に提出された。法案の審議は同年6月及び11月の2度にわたって行われ、同年11月4日、全人代常務委員会第30回会議において、公共図書館法が可決、成立となった(10)。

 

4. 公共図書館法の主な内容

 公共図書館法は、第1章:総則(第1条~第12条)、第2章:設置(第13条~第22条)、第3章:運営(第23条~第32条)、第4 章:サービス(第33条~第48条)、第5 章:法的責任(第49条~第54条)、第6章:附則(第55条)の全6章55か条からなる。以下に主な内容を紹介する。

 

4.1. 公共図書館の定義及びサービス内容

 当該法が指す「公共図書館」について、第2条で「本法がいうところの公共図書館とは、公衆に無料で開放され、文献情報を収集、整理、保存するとともに、検索、貸出・閲覧及び関連するサービスを提供し、社会教育活動を実施する公共文化施設を指す(第1項)。前項が規定する文献情報は、図書及び定期刊行物、視聴覚資料、マイクロ資料、電子リソース等を含む(第2項)」と定義している。

 また、公共図書館が公衆に無償で提供するサービスの範囲を定めており、第33条で「(1) 文献情報の検索、貸出・閲覧、 (2) 閲覧室、自習室等の公共スペース、施設、場所の開放、 (3) 公益的講座、読書の普及促進、研修、展示、(4) 国が規定するその他の無償サービス」を提供しなければならないと規定している。さらに、開館日に関する規定も設け、第38条第2項で「公共図書館は公休日に開館しなければならず、国の法定祝日に開館時間を設けなければならない」と定めている。無償サービスの全面的な提供と休日の利用に関する問題の解決により、公衆の図書館に対する満足度を高めることができるとされている(11)。

 

4.2. 公共図書館整備に対する政府責任の強化

 第4条で「県級以上の人民政府は、公共図書館事業を当該級の国民経済及び社会発展計画に盛り込み、公共図書館の建設を都市計画及び土地利用総合計画に盛り込んで、政府が設置した公共図書館に対する資金投入を増やし、必要経費を当該級の政府予算に計上して、適時かつ十分に支給しなければならない」と定めている。図書館の設置、発展計画の作成、経費の保障等、公共図書館の整備に対する政府の責任を全面的に規定することで、公共図書館事業の安定と継続的発展に関わる核心的な問題の解決を図るねらいがあるとされている(12)。

 

4.3. デジタル時代への対応

 情報通信技術等の発展を受けて、第8条で「国は、公共図書館の建設、管理及びサービスにおいて科学技術が効果を発揮することを奨励、支援し、現代の情報技術及び通信技術の利用を推進して、公共図書館のサービス機能を向上させる」と定めている。特に、デジタル化の進展への対応については、第40条第1項で、国が取り組むべき事項について、「国は、基準が統一され、相互に接続された公共図書館の電子サービスネットワークを構築し、電子閲覧に係る製品の開発及び電子リソース保存技術の研究を支援して、公共図書館がデジタル化、ネットワーク化技術を利用して公衆に簡便なサービスを提供することを推進する」と規定している。また、同条第2項では、公共図書館が取り組むべき事項について、「政府が設置した公共図書館は、電子リソースの構築及び対応する施設・設備の配備を強化し、オンラインとオフラインが相互に結合した文献情報共有プラットフォームを構築して、公衆に良質なサービスを提供しなければならない」と規定している。

 

4.4. 中国国家図書館(NLC)の役割

 公共図書館法は、NLCが果たすべき役割について、第22条で「国は国家図書館を設置し、(国家図書館は)主に国の文献情報の戦略的保存、国の書誌及び総合目録の作成、国の立法及び政策決定に資するサービス、全国の古典籍保護の企画調整、図書館の発展に関する研究及び国際交流の実施、他の図書館への業務指導及び技術支援の提供等の機能を受け持つ。国家図書館は同時に、本法が規定する公共図書館の機能を有する」と規定している。NLCが公共図書館の機能を兼ねることを明確にするとともに、NLCと一般の公共図書館の区別を明確にして、NLCに2つの性質を持たせていることに、中国の特色が現れているとされている(13)。

 

4.5. 納本制度の整備

 第26条で「出版者は、国の関係規定に基づき、国家図書館及び所在地の省級公共図書館に正式な出版物を納入しなければならない」と規定している。また、第51条では、「出版者が国の関係規定に基づき正式な出版物を納入していない場合は、出版行政主管部門が、出版管理に関係する法律及び行政法規の規定により処罰を与える」と規定している。中国の既存法規では、出版管理条例(14)の第22条で「出版者は、国の関係規定に基づき、国家図書館、中国版本図書館及び国務院の出版行政主管部門に無償で見本を送付しなければならない」と定められている(CA1786 [323]参照)。出版管理条例の上位法である公共図書館法では、出版物の納入先に所在地の省級公共図書館が加わり、納入対象も「見本」ではなく「正式な出版物」となった。しかし、「正式な出版物」の定義が明確ではなく、また、英国、ドイツ、フランス、日本等の納本制度と比べると、納本の類型、方法、手続、基準、受入義務等に関する詳細な規定がないといった問題点が指摘されている(15)。

 

4.6. 児童及び情報弱者等への対応

 第34条で、児童、高齢者、障害者といった特定の利用者層への対応について規定している。まず、同条第1項で、児童・青少年への対応について、「政府が設置した公共図書館は、児童・青少年の閲覧スペースを設置し、児童・青少年の特性に応じて相応の専門性を有する人員を配置して、児童・青少年向けの読書指導及び社会教育活動を実施するとともに、学校が関連する課外活動を実施することを支援しなければならない。条件の整った地区においては、単独で児童青少年図書館を設置することができる」と定めている。次に、同条第2項では、高齢者、障害者といった情報弱者とされる人々への対応について、「政府が設置した公共図書館は、高齢者、障害者等の集団の特性を考慮し、積極的に環境を創出して、その需要に合った文献情報、バリアフリー施設・設備及びサービス等を提供しなければならない」と定めている。情報弱者に対する専門的なサービスの提供について明確な規定を設けていることは、中国以外の図書館法では大変珍しく、「以人為本(人間本位)」(16)の立法理念を体現した、中国の特色ある内容であるとされている(17)。

 

5. おわりに

 公共図書館法の施行により、公共図書館ネットワークの整備による地域間格差の解消や、国家的な読書推進の取組である「全民閲読」(18)活動の進展が期待されている(19)。しかし、公共図書館法は、中国の公共図書館に関わる重要な問題のすべてについて明確な規定を設けているわけではなく、今後、国務院、文化部及び地方政府が、関連する条例、規則、実施細則等を制定して法体系を構築していく必要があるとされている(20)。今後の関連法規制定の動き、そして中国の公共図書館発展に向けた新たな取組に注目していきたい。

 

(1)“中华人民共和国公共图书馆法”. 中国人大网.
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/2017-11/04/content_2031427.htm [324], (参照 2018-04-02).
同法に関しては、以下も参照のこと。
岡村志嘉子. 中国 公共図書館法の制定. 外国の立法. 2018, No.274-1, p. 24-25.
https://doi.org/10.11501/11019012 [325], (参照 2018-04-02).

(2)2014年10月23日、中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議(4中全会)で「依法治国の全面的推進における若干の重大問題に関する決定」が採択された。
“中共中央关于全面推进依法治国若干重大问题的决定”. 人民网.
http://politics.people.com.cn/n/2014/1028/c1001-25925989.html [326], (参照 2018-04-02).

(3)朱宁宁. “推动公共图书馆法落地 助力全民阅读书香社会”. 法制网. 2018-1-23.
http://www.legaldaily.com.cn/index/content/2018-01/23/content_7454822.htm?node=20908 [327], (参照 2018-04-13).

(4)2017年3月1日施行。詳しくは以下を参照。
岡村志嘉子. 中国の公共文化サービス保障法. 外国の立法. 2017, No.272, p. 157-171.
https://doi.org/10.11501/10362195 [328], (参照 2018-04-02).

(5)中华人民共和国国家统计局. “23-21 主要文化机构情况”. 中国统计年鉴2017.
http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/2017/indexch.htm [329], (参照 2018-04-13).

(6)中国の地方行政区画は、省級、地区級、県級、郷級の4階層から成り、級ごとに地方政府が存在する。

(7)胡娟. 中国文化立法的一座丰碑——柯平教授谈《中华人民共和国公共图书馆法》. 图书馆工作与研究. 2018, 2018(1), p. 5-11.

(8)汪东波. 公共图书馆概论. 國家圖書館出版社, 2012, p. 43-44.

(9)中国の最高国家権力機関及び立法機関である全人代の常設機関。全人代の閉会中に立法権を行使する。

(10)申晓娟. 历史性突破:《中华人民共和国公共图书馆法》研究专栏序. 图书馆建设. 2018, 2018(1), p. 5-6.

(11)胡. 前掲.

(12)吴刚. 我国图书馆法制化建设的突破与未来路径——《中华人民共和国公共图书馆法》颁布之际的思考. 图书馆建设. 2018, 2018(1), p. 30-36.

(13)胡. 前掲.

(14)“出版管理条例(2016年修正本)”. 国家广播电视总局.
http://www.gapp.gov.cn/sapprft/govpublic/6681/356061.shtml [330], (参照 2018-04-02).

(15)汪东波, 张若冰.《公共图书馆法》与国家图书馆. 國家圖書館学刊. 2017, 114, p. 50-55.

(16)胡錦濤中国共産党中央委員会総書記(当時)が唱えた、全面的で調和のとれた持続可能な発展を目指す指導理念である「科学的発展観」の中心となる考え。

(17)吴. 前掲.

(18)2006年4月に中国共産党中央宣伝部、新聞出版総署(現国家新聞出版広電総局)等11の団体によって開始され、2016年3月には「国民経済及び社会発展第13次5か年計画綱要」の中で国家8大文化重点事業の1つとされた。
“全民阅读十年大事记 (2006-2016)”. 光明网. 2016-12-28.
http://epaper.gmw.cn/gmrb/html/2016-12/28/nw.D110000gmrb_20161228_4-08.htm [331], (参照 2018-04-13).

(19)胡. 前掲.

(20)吴. 前掲.

[受理:2018-04-20]

 


山本彩佳. 中国における公共図書館法の制定. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1927, p. 12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1927 [332]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115316 [333]

Yamamoto Ayaka
Enactment of the Public Library Law in China

カレントアウェアネス [25]
図書館政策 [334]
図書館事情 [335]
中国 [336]
公共図書館 [31]
公立図書館 [32]
中国国家図書館 [337]

CA1928 - 学校と公立図書館の連携による学校図書館の活性化 / 山崎博樹

  • 参照(12955)

PDFファイル [338]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1928

 

 

学校と公立図書館の連携による学校図書館の活性化

図書館サービス向上委員会:山崎博樹(やまざき ひろき)

 

1. はじめに

 近年、関係者の努力によって学校図書館の役割と必要性が認められつつあり、それは2014年の学校図書館法改正での学校司書明文化(E1597 [152]参照)に繋がってきた。しかし、学校図書館の資料や人的基盤は厳しいものがあり、教育関係者を含む一般社会の理解も未だ不十分なものと言える(CA1902 [339]参照)。その状況の中で公立図書館が学校図書館と連携し、図書館の利用者を共に育てていこうとする取り組みが全国で見られるようになってきた。筆者は図書館サービス向上委員会(1)において、2016年度より、学校図書館と公立図書館の連携を中心とした様々な情報を全国に発信する「元気な学校図書館プロジェクト」(2)を推進している。このプロジェクトでは、全国様々な地方公共団体の公立図書館と学校図書館との連携状況を訪問取材し、ウェブサイト「りぶしる」(3)により全国に発信している。この小論ではこの取材から得た公立図書館と学校図書館との連携状況から、その課題と成果について紹介したい。

 

2. 地方公共団体規模別の事例から

 元気な学校図書館プロジェクトで紹介されている事例から地方公共団体の規模別に4例を取り上げる。

 

2.1. 鳥取県

 鳥取県では、2004年に策定された「鳥取県子どもの読書活動推進ビジョン」(4)から、現在の第3次計画(2014年から2018年まで)に至るまで、読書機会の提供や読書環境の整備、支える人材の育成を図り、読書推進の基盤の確立に努めている。

 加えて、児童生徒の主体的な学ぶ力を育成するため、2015年度に鳥取県立図書館内に「学校図書館支援センター」(5)を開設し、「とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン」(6)を策定した。ビジョンでは、就学前から高等学校まで一貫した学校図書館活用教育の普及と、目指すべき児童生徒の情報活用能力が体系的に示されている。また、「学校図書館活用ハンドブック」(7)を作成し、司書と司書教諭による学校図書館運営の基本的な業務内容、学校図書館を活用した授業実践事例を紹介し、具体的な学校図書館活用の理解を広めている。

 「学校図書館支援センター」には、県立図書館の司書に加え高等学校課、小中学校課の指導主事も構成員として加わり、チームとして学校支援に関わっている。各種研修会の開催や講師派遣、高等学校や特別支援学校への学校訪問相談を行っている。また、資料予約後2日以内に届く県内の資料搬送システムにより、直接、または市町村立図書館を経由し学校へ資料提供を行っている。

 

2.2. 新潟市

 新潟市では1950年代前半から学校図書館に図書館職員を配置し始め、2017年度には全ての市立小中学校での学校司書配置を実現した(8)。現在は中央図書館、豊栄図書館、白根図書館、西川図書館の4か所に学校図書館支援センターを配置することで市立図書館と全ての市立学校との連携をカバーしている(9)。この学校図書館支援センターには、それぞれ運営協議会が設置され、校長、教員、学校司書、指導主事等で構成されている。事業計画は支援センター毎に独立して企画され、それぞれの地域にあった研修や活動を行っている。各センターによる学校訪問は通年で行っており、2016年度は延べ309回の訪問があった。市立図書館から様々な学校貸出セットを、市が送料を負担し宅配便により配送している。学校司書向けの研修には新任者対象と全学校司書対象の2コースがある。新任学校司書研修は、2016年度は6回実施、延べ60人の参加があった。全ての学校司書を対象とする学校司書実務研修は、2016年度は5回実施、延べ324人が参加した(10)。

 支援センターのウェブサイトには学校図書館の活動が詳しく掲載され、4つの支援センター毎に活動方針や活動報告、各種の利用案内などが網羅されている(11)。ブックリストやパスファインダー等のお役立ち情報や学校図書館での工夫事例の紹介など、実践的な情報も多い。また、定期的に『支援センター通信』(12)が発行されている。

 

2.3. 塩尻市(長野県)

 長野県の塩尻市では2010年に市立図書館本館(えんぱーく)が新たにオープンする以前から、学校司書を全ての市立小中学校15校に配置していた。学校図書館の機能をさらに向上させるため、2013年度に学校司書の人事・予算を教育総務課から市立図書館に移管し(13)、職員の交流や情報共有などで学校司書や図書館職員のスキル向上に努めている。現在は、「塩尻市立図書館サービス計画」(14)及び「第2次塩尻市子ども読書活動推進計画」(15)に沿って学校連携を進めている。

 具体的には、小中学校教職員向けの図書館利用案内を作成して全教職員に配布し、授業にあわせた「調べ学習」に利用できる本の団体貸出(上限100冊、5週間)の依頼を受け付けている。学校司書が窓口となり、市立図書館の司書が市立図書館の蔵書から選本し貸し出している(16)。また、教職員にレファレンスサービスの利用を促し、児童生徒の市立図書館の見学や職場体験を積極的に受け入れている。

 年度当初に図書館長をはじめ担当職員が全校を訪問して、学校長や担当の先生と懇談し、学校連携の充実に向けた意見交換をしている。さらに年間を通して学校担当の市立図書館司書と読書推進アドバイザーが継続的に学校を訪問し、学校図書館資料の充実に向けて除架・除籍及び選書の相談に乗るとともに、おはなし会やブックトークを行うほか読書活動推進に向けたアドバイスなどを行っている。学校向けサービスの利用が徐々に増え、教職員の評価につながっている。

 2013年からは、学校図書館委員会の事務局を市立図書館に移管し、学校長、教頭の代表、学校司書、市の教育総務課、教育センター、市立図書館職員を委員とする学校図書館委員会の体制を整備し、年6回程度開催している。他に司書部会も並行して同じく年6回程度開催している。

 学校図書館委員会で学校図書館の運営課題の検討や協議、視察や講演会などの企画・実施を行い、司書部会では実務的課題の検討や協議を行っているため、コミュニケーションが図られ、職員のスキルアップや情報共有にも役立っている。また、市立図書館の重点事業である「信州しおじり本の寺子屋」(17)では、学校図書館職員向けの講座も開催し、塩尻市以外からの参加もあり、関係者の広い交流が図られている。

 

2.4. 智頭町(鳥取県)

 鳥取県の智頭町立智頭小学校では司書教諭の資格を持つ職員が2016年の取材時には6人おり、学校図書館の蔵書が充実している(18)。町教育委員会や県立図書館とのパイプは太く、資料の提供や専門的な相談がしやすい環境となっている。専任の学校司書が、学校図書館に必要な資料がない時には、すぐに町立図書館と相談し、町立図書館が県立図書館に依頼して翌日には本が届けられる状況にある。学校から見ると、「町立」や「県立」を意識することはなく、対等の立場で運用されており、それは学校長の「県立図書館も智頭小学校の学校図書館の一部と思っています。」(19)という言葉からも推察される。図書館の時間を活用して毎学期に1回、町立図書館司書と学校司書が連携したおはなし会やブックトークが行われており、本と繋がる機会のひとつとなっている。一方、智頭小学校は調べ学習に重点的に取り組んでいるため、多様な資料が求められており、2015年度には全児童に対して年間7,000冊を超える資料が町立図書館を通じて提供されている(20)。

 

 以上、4つの地方公共団体の事例を見ると共通して、公立図書館による強力な資料提供の体制が前提としてある。また広域、小規模地方公共団体を問わず、行政、教育委員会、学校、図書館が十分に連携し、役割分担がなされている。さらに組織的な関係と個々の努力を前提とした人的なコミュニケーションが学校図書館と公立図書館との間で頻繁に行われていることも特筆すべき点である。

 

3. 連携の効果と課題

 取材の中で、学校図書館と公立図書館の連携にはいくつかの課題が見えてきた。

 一つ目は学校司書や連携する公立図書館の担当者の待遇である。大きな連携効果をあげている地域でも学校司書等の継続雇用及び待遇は不十分なことがある。待遇が不十分であれば、活動の継続性には結び付かず、経験が蓄積されていかない。一方で担当者を正規職員とすることによって、より効果を高めている事例も見られた。

 二つ目は連携に関する情報があまり顕在化していないことである。また、連携の状況は形にしにくく、学校は児童、生徒の個人情報を重視する組織であることの関係もあり、有効な知識や事例を全国的に十分に公開し共有することは困難を伴う。文部科学省の子どもの読書活動優秀実践校等の顕彰事業(21)に加え、地方公共団体自ら行うだけでなく、様々な関係団体と協力しながら、情報の発信に努めていくことが必要である。それは、学校、図書館、地方公共団体、住民の相互理解にも繋がっていくことになるだろう。

 学校図書館と公立図書館の連携による効果を事例から把握することは難しい面もあるが、総じて子どもの読書量の増加、それによる学力の向上、関係者の理解の向上が見られる。智頭町では小学校の卒業生たちが、町立図書館の新築を応援していると聞いた。学校図書館の活性化には課題が多くあり、その成果が顕在化するには時間がかかる面もあるが、教育という枠組みの中で大きな効果を上げていくことは十分に可能であると考える。

 

(1)“図書館サービス向上委員会について”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/activities.html [340], (参照 2018-04-24).

(2)「元気な学校図書館プロジェクト」の活動は以下のページにて紹介されている。
“取り組み事例”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/casestudy.html [341], (参照 2018-04-24).
“元気な学校図書館プロジェクト主意書”. 株式会社富士通システムズアプリケーション&サポート.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/pdf/school-force_idea.pdf [342], (参照 2018-04-24).

(3)りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/ [343], (参照 2018-04-24).

(4)“鳥取県子どもの読書活動推進ビジョン”. 鳥取県.
http://www.pref.tottori.lg.jp/53168.htm [344], (参照 2018-04-24).

(5)“学校図書館支援センター”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/support-center/ [345], (参照 2018-04-24).

(6)“とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン”. 鳥取県教育委員会. 2016-03.
https://www.library.pref.tottori.jp/support-center/【HP全編】とっとり学校図書館活用推進ビジョン.pdf [346], (参照 2018-04-24).

(7)“学校図書館活用ハンドブック”. 鳥取県教育委員会. 2016-03.
http://www.library.pref.tottori.jp/info/HP図書館ハンドブック全編.pdf [347], (参照 2018-04-24).

(8)“新潟県 新潟市立中央図書館(ほんぽーと)―学校図書館支援センター―”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/15_103_niigatashichuolib.html [348], (参照 2018-04-24).

(9)“平成28年度学校図書館支援センター事業報告”. 新潟市学校図書館支援センター. 2017-04.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_top/gakushi_report28.pdf [349], (参照 2018-04-24).

(10)“平成28年度学校図書館支援センター事業報告”. 新潟市学校図書館支援センター. 2017-04.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_top/gakushi_report28.pdf [349], (参照 2018-04-24).

(11)“こんにちは 新潟市学校図書館支援センターです!”. 新潟市の図書館.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_top/gakushi_top.html [350], (参照 2018-04-24).

(12)“新潟市学校図書館支援センター通信 合同版No.12”. 2018-03.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_chuo/tsushin/letter-goudou12.pdf [351], (参照 2018-04-24).

(13)“塩尻市立図書館サービス計画”. 塩尻市立図書館. 2014-03.
https://www.library-shiojiri.jp/fs/3/8/8/0/_/shiojiri_service_plan_2014-2017.pdf [352], (参照 2018-04-24).

(14)“塩尻市立図書館サービス計画”. 塩尻市立図書館. 2014-03.
https://www.library-shiojiri.jp/fs/3/8/8/0/_/shiojiri_service_plan_2014-2017.pdf [352], (参照 2018-04-24).

(15)“読書大好き塩尻っ子プランII 第2次塩尻市子ども読書活動推進計画”. 塩尻市立図書館. 2015-03.
https://www.library-shiojiri.jp/fs/3/9/9/3/_/kodomo_2.pdf [353], (参照 2018-04-24).

(16)“長野県 塩尻市立図書館 ―学校連携―”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/20_215_shiojirilib.html [354], (参照 2018-04-24).

(17)“信州しおじり本の寺子屋”. 塩尻市立図書館.
https://www.library-shiojiri.jp/terakoya.html [355], (参照 2018-04-24).

(18)“鳥取県智頭町立智頭小学校”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/post_28.html [356], (参照 2018-04-24).

(19)以下のページの「学校長インタビュー」を参照。
“鳥取県智頭町立智頭小学校”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/post_28.html [356], (参照 2018-04-24).

(20)以下のページの「統計データ」を参照。
“鳥取県智頭町立智頭小学校”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/post_28.html [356], (参照 2018-04-24).

(21)“全国の取り組み事例 事例発表”.子ども読書の情報館.
http://www.kodomodokusyo.go.jp/jirei/index.html [357], (参照 2018-04-24).

 

[受理:2018-05-21]
 


山崎博樹. 学校と公立図書館の連携による学校図書館の活性化. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1928, p. 15-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1928 [358]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115317 [359]

Yamazaki Hiroki
Revitalization of School Libraries through Collaboration between Schools and Public Libraries

カレントアウェアネス [25]
図書館協力 [360]
子ども [67]
ヤングアダルト [68]
日本 [30]
公共図書館 [31]
公立図書館 [32]
学校図書館 [69]

CA1929 - 慶應義塾大学「からだ館」10年間の歩み―図書館を拠点にした健康コミュニティへの総合的アプローチ― / 秋山美紀

  • 参照(6995)

PDFファイル [361]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1929

 

 

慶應義塾大学「からだ館」10年間の歩み
―図書館を拠点にした健康コミュニティへの総合的アプローチ―

慶應義塾大学環境情報学部:秋山美紀(あきやま みき)

 

 山形県鶴岡市の鶴岡タウンキャンパスには、慶應義塾大学、東北公益文科大学、鶴岡市の三者が共同運営する図書館「致道ライブラリー」がある。運営する3組織が1:1:1の割合で知的資産を共有、共同管理・運営する図書館であり、生命科学を中心とした自然科学系の資料、公益学に関係する人文・社会科学系の資料など約3万5,000冊を所蔵し、3人の司書が日々の業務を担っている。この図書館の一角を拠点にして、住民の健康を情報面からサポートしているのが、慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究プロジェクト「からだ館」(1)である。本稿では、「からだ館」の10年間の歩みから見えてきた、住民の健康づくりの拠点としての図書館の可能性を示す。

 

1. 「からだ館」の沿革とミッション

 からだ館は、住民のヘルスリテラシーの向上、健康行動の定着、そしてコミュニティづくりまでを視野にいれた地域貢献的な要素の強い研究プロジェクトである。住民が健康を増進するには、正しい意思決定に導く情報や知識が必要となる。その一方で「知識を行動に移し継続する」ためには、本人にとって適切な情報を適切なタイミングで入手できること、さらに動機付け理論や健康行動科学に裏付けされた学習の場やコミュニティ形成も重要である。地域住民の健康状態を向上させるために、病気や予防に関する情報提供とコミュニケーションはどうあるべきかを探るため、慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究プロジェクトとして2006年に開始し、2007年にオープンしたのが、今日の「からだ館」のはじまりである。

 活動拠点に選んだ致道ライブラリーは、鶴岡市中心部の比較的アクセスのよい場所にあるものの、それまでは大学院生や研究者向けの学術書が蔵書の中心であった。この図書館内の小さな一角に一般住民向けの健康・医療情報を集めるにあたり、筆者らは国内外の患者図書館などにおいて先行する取り組みを視察し、蔵書構成や運営方法の検討を行った(2)。並行して、鶴岡市が所在する庄内地方の住民ニーズを調査したところ、住民は、治療法、予防法、検査データの見方、経済的支援、闘病の体験談まで多岐にわたる情報を求めていることがわかった。また医療や健康に関する主な情報源は、医療従事者、家族や知人、次いで新聞やテレビなどマスメディアであった(3)。また地域の医療従事者のヒアリングでは、患者や家族の心のケア、大切な家族を失った人の立ち直りを支えるグリーフケア、患者と医療従事者のコミュニケーションの円滑化を支援するための情報提供を求める声が多く聞かれた(4)。

 これら一連の調査から、単に図書館に資料を揃えるだけでなく、地域の医療従事者や住民を巻き込んだ形で双方向に情報を伝える方法を考える必要があることが認識された。開設前に議論を重ね、活動のミッションを「地域住民の健康状態と生活の質(Quality of Life:QOL)を向上すること」とし、行政や医師会などからも協力を得ながら運営していくことにした。

 

2. 住民にとっての3つの機能

 開設以来、試行錯誤しながら活動する中で、筆者らが提供すべき機能の柱が固まっていった。からだ館が住民に対して提供してきた主な機能は3つ、「調べる・探す・相談する」「楽しく学ぶ」「出会う・分かち合う」である。

 

機能1:調べる・探す・相談する

 住民が学びたい時にいつでも利用でき、必要な時に相談できる場が地域にあることが重要との認識のもと、一般開放されている致道ライブラリーの一角に設置した「からだ館」情報ステーションでは、常駐するプロジェクトスタッフ達が利用者の情報探しのサポートを行っている(5)(6)。スタッフは慶應義塾大学先端生命科学研究所が、からだ館プロジェクトの運営要員として雇用しており、現在はフルタイム1人、パートタイム3人でシフトを組んでいる。歴代のスタッフには看護資格を持つ者もいたが、今日働いている者はいずれも採用後に、患者の話の傾聴、適切な図書や資料へのナビゲーション、地域の医療資源への接続、後述する患者サロン運営のノウハウなどを学んできた。これとは別に、がんと闘病中の者もピアサポートのスタッフとして採用している。

 約1,500冊の蔵書は、開設当初はがんに関する資料が中心だったが、徐々に対象領域を拡大し、現在は高血圧、心の健康、認知症、関節痛、障害を抱えながら生活するコツ、在宅介護に関するものまで多彩である。選書は、筆者が兼務する慶應義塾大学医学部および大学病院の教員やスタッフ、各地の病院図書館などからも情報を得ながら、利用者の購入依頼にも応えるようにしている。最新の診療ガイドラインや解説書といった科学的根拠を提供する図書のみならず、患者の体験や思いを綴った闘病記も力を入れて収集してきた。希少難病など当該地域で得にくい情報も届けられるよう、全国の患者会の会報などを取り揃えている点も特徴である。

 図書は、わかりやすい解説書と並んで、患者の手記や闘病記、体験談の貸出が多い。自らが病気と向き合うためには、科学的なエビデンスと同じぐらい、実際の体験者がどう生き抜いたのかを知ることも役に立つということが示されている。そうした闘病記と並んで、食生活に関する図書や雑誌の貸出件数も多い。利用者のニーズを聞きながら、生活習慣病予防の食事、がん治療後の食事といった日々の暮らしに役立つ図書を取り揃えている(7)。

 

機能2:楽しく学ぶ

 高齢化が進む当該地域の住民は、健康寿命を延ばすことはもとより、たとえ病気になっても自分らしく生き続けられることを願っている。そうしたニーズに応えるために、地域の医療機関や山形県庄内保健所、市の健康課などとも協力しながら、特色ある勉強会や出張講座等を積極的に行ってきた。「知識を実践に移す」ためには、講義型よりも、参加型の学びのスタイルが有用であることも、活動を通じて実感している。情報の提供側となる専門家には、「啓発」「教育」といった指導的な目線ではなく、自発的な「学び」を支援するという姿勢が重要である。

 単なる知識習得で終わらせない学びの場づくりを模索する中で、2014年度からは「半学半教」をモットーにした「からだ館健康大学」をスタートした。「教える者と学ぶ者を分け隔てることなく、相互に教えあい学びあう」という意の「半学半教」は、慶應義塾の草創期からの精神である(8)。学んだ者が次には主体となりそれを社会に還元する、そんな知の循環をつくっていくことを目指している(9)。要は、「いかに「自分ごと」にしていくか」の仕掛けづくりであり、「楽しい」ことも不可欠だと考えている。勉強会では、からだ館スタッフや、勉強会の運営にサポーターとして参加する住民らが自作自演する庄内弁の寸劇、実験やグループワークなども交え、参加者が楽しく学びあえる工夫をしている。アクティブラーニングや、健康に関する行動変容のステージ(無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期)に合わせたアプローチを心掛けている。

 

図1 からだ館健康大学での体験型の学びの様子

 

機能3:出会う・分かち合う

 深刻な病気と向き合う人が経験を共有できる場をつくることは、からだ館の開設当初からの重要な役割である。既に100回を超えた月例のがん患者サロン「にこにこ倶楽部」は、図書館と同じ建物内の一室にがんと向き合って生活している住民が20人前後集まり、和気あいあいとお茶を飲みながらおしゃべりをする場である。

 闘病中の体験を分かち合うことで支え合うピアサポートは、専門家によるサポートと相互補完的に当事者の回復や成長を助けることが知られている(10)。普段あまり口にできないような悩みも、当事者同士だと話しやすく、共感を持って聞いてもらえるという安心感がある。さらに人の話を聞くことによって自分の気づきも促され、各自の回復や成長へとつながっていくという点が、ピアサポートの特長である。最初は悲痛な気持ちでやってきた人も、他の参加者が「お芝居を見に行った」「旅行に行った」「コーラスで歌った」と近況を報告しているのを聞くと、自分もできることをやってみようと前向きになれたと言う。さらに、こうしてこころの元気を回復した人たちは、今度は「誰かの役に立ちたい」と考えるようになることも、活動を継続して見えてきた。

 

3. 自発的な活動・自己実現・エンパワーメントへ

 からだ館の勉強会や患者サロンで出会った仲間同士が、新しい活動を自主的に始めるようになっている。たとえば、がんを経験した者(サバイバー)の有志は、毎月の患者サロンに彩りを添えるための折り紙ボランティアを組織し、季節の花や果物を折り紙でつくったランチョンマットを作ってくれている。毎月1、2回、「ボケ防止よ」などと言って紙を折りながら、時には悩みなどをボソッとこぼし、その言葉を誰かが拾いさりげなく返答するといった、自然なピアサポートの場にもなっている。また、自分の得意なことで人の役に立ちたいと、編み物講座を開いてくれるサバイバーもいる。

 患者経験を人のために役立てたいと申し出てくれる人の輪も広がっている。学生や地域住民を前に、自らの闘病経験を語ってくれるがんサバイバーの言葉は、胸を打つことが多い。語り手たちにとっては、自分の経験を人に語ることで自分自身の生き方や考え方を振り返って整理することができるという。

 さらに健康大学の参加者も、食と農、死生観などを語り合う場を有志で立ち上げて活動をしている。地域文化を育む担い手として自分たちに何ができるかを考え、児童館に出向いて食育講座を開催する人たちも出てきた。

 

図2 自身の闘病経験を医療系学生に語るがん体験者

 

 こうした自発的な活動が次々と生まれている理由のひとつに、鶴岡タウンキャンパス内の図書館を拠点にしていることが挙げられる。集まりたい時に集まれる場所があり、そこで得たい情報も得られるという物理的な環境(ハード面)と、にこにこ倶楽部や健康大学などの企画、からだ館スタッフの支援といったソフト面との相乗効果によって、地域住民の主体的な活動が生まれ、育まれているのではないかと考えている。

 

おわりに

 健康社会の実現は、すなわち人づくり、地域づくりそのものである。それは行政だけ、医療機関だけ、大学だけでできるものではなく、情報を提供すれば実現するというものではない。住民がいかに「主体」となり、他の人とつながり、課題解決へ向けて具体的な行動を起こせるかにかかっている。自主的に学ぶ場である図書館はそうした「住民力」を醸成する場としての可能性を秘めていると考えている。「からだ館」は、地域を健康にするためのコミュニケーションをデザインするという視点で、これからも図書館を拠点に活動を発展させていきたいと考えている。

 

(1)からだ館.
http://karadakan.jp/ [362], (参照 2018-04-18).

(2)剣持真弓, 秋山美紀. 致道ライブラリーのいま―鶴岡でのユニークな取り組み―. Media Net. 2009, 16, p. 45-47.
http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/pdf/01600450.pdf [363], (参照 2018-04-18).

(3)秋山美紀. 地域協働型のがん情報提供の試み:からだ館がん情報ステーション. 医学図書館. 2010, 57(2), p. 193-198.

(4)前掲.

(5)秋山美紀. コミュニティヘルスのある社会へ-「つながり」が生み出す「いのち」の輪. 岩波書店, 2013, 232p.

(6)秋山美紀. 地域協働型のがん情報提供の試み:からだ館がん情報ステーション. 医学図書館. 2010, 57(2), p. 193-198.

(7)前掲.

(8)“理念”. 慶應義塾大学.
https://www.keio.ac.jp/ja/about/philosophy/ [364], (参照 2018-04-18).

(9)秋山美紀. コミュニティヘルスのある社会へ-「つながり」が生み出す「いのち」の輪. 岩波書店, 2013, 232p.

(10)前掲.

 

[受理:2018-05-11]

 


秋山美紀. 慶應義塾大学「からだ館」10年間の歩み―図書館を拠点にした健康コミュニティへの総合的アプローチ―. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1929, p. 17-20.
http://current.ndl.go.jp/ca1929 [365]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115318 [366]

Akiyama Miki
Ten Years of Keio University’s “Karada-kan”: A Comprehensive Approach for Community Health Promotion Utilizing a Library

カレントアウェアネス [25]
医療情報 [236]
アウトリーチ [237]
日本 [30]
大学図書館 [239]

CA1930 - スタンフォード大学東アジア図書館の日本に関する試験的ウェブアーカイブ・プロジェクトの2年間の歩み / リーガン・マーフィ・カオ,五十嵐由実(翻訳)

  • 参照(8262)

PDFファイル [367]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1930

 

 

スタンフォード大学東アジア図書館の
日本に関する試験的ウェブアーカイブ・プロジェクトの2年間の歩み

スタンフォード大学東アジア図書館:リーガン・マーフィ・カオ
スタンフォード大学東アジア図書館:五十嵐由実(いがらし ゆみ)(翻訳)

The Original (Written in English) [368]

ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたる例なし。世中にある、人と栖と、またかくのごとし(1)。

 

While the river’s current is ceaseless, the passing water constantly changes. The bubbles that form on its surface, form and burst, never lasting long. People and their dwellings are the same(2).

 

 鴨長明(1155?-1216)は、随筆『方丈記』の冒頭で、世の移りゆくもののはかなさを川の流れや水の泡に例え、世の無常を語った。歴史学者は、時の流れの刻みに基づいて、過去の出来事を叙述しようと努めるが、図書館司書は、現時点において様々な価値を多角的に垣間見ることができる主要な情報と資料を保存しようと努める。ところが、更新や削除が頻繁に行われるウェブサイトの登場で、常に変化する状況下での収集や保存のプロセスの流れが急激に速くなり、一瞬における多種多様な発言と視点を保存する必要性がよりいっそう高まってきた。

 

 このような問題意識の下で、米・スタンフォード大学東アジア図書館の日本に関するウェブアーカイブ・プロジェクトが開始した。当時、筆者は、貴重な発言を記録し、歴史に埋もれがちな発言の一部が確実に保存されるために多様なテーマを集めたウェブアーカイブのプロジェクトが必要だと考えた。ウェブサイトの選定においては、国立国会図書館や他機関で既に実施されているウェブアーカイブの収集を補完すること(重複しないように)を目指した(3)。ここで、筆者がこの試験的プロジェクトを立ち上げてから2年間で学んだいくつかの点と現在に至るまでの経過について説明する。

 

 現代の日本社会の研究の現状を踏まえ、多様なニュースメディアで繰り返し取り上げられている話題を考慮し、ウェブアーカイブチーム(4)は、雇用、エネルギー、ロボット開発など現在の社会で重要な話題を選定し、テーマ毎に関連する多数の収集候補のウェブサイトリストを作成した。そして、全国各地に存在する小規模な機関から国際的な機関に至るまでのうち、活発に更新されているサイトに絞り込んだ。その後、ウェブサイト管理者に協力を依頼する通知レターを送付し、また、希望があればアーカイブの対象から外すオプションがあることも追記した。当チームは、しばらくの間、アーカイブに関する多数の問い合わせに応え、さらに理解を深めてもらうために当大学のウェブサイトに具体例を示した説明文を掲載した(5)。作業手順としては、米国に拠点を置く非営利団体Internet Archive(IA)が提供しているArchive-Itというウェブアーカイビングサービスにサブカテゴリー毎に選出したウェブサイトを登録し、次に収集頻度(毎月、四半期毎、または1回のみ)を決め、テストを行った。その後、アーカイブのデータサイズやキャプチャーイメージの品質の調整を行った。このようにして、アーカイブ・コレクションを構築する過程は、2年間にわたって続けられ、その間、新しいテーマの案が浮上する度にウェブサイトを随時追加していった。広範囲にわたる様々な情報・発言が網羅されるように、テーマ毎に少なくとも10のウェブサイトを収集するように努めた。テーマ別のグループとサブカテゴリーは次のとおりである(括弧内はウェブサイトの数)(6)。 
 

  • 政治・経済 (54):政党、金融機関、政治家、TPP、安全保障
  • 雇用・労働 (46):労働組合、協同組合、若者の非正規雇用状況、在宅ワーク
  • 社会関連 (156):超高齢社会、沖縄問題、女性支援、夫婦別姓、食品廃棄、赤ちゃんポスト、引きこもり、国際支援、LGBTQ、社会に影響力のある人物、地方創生、町並み保存、2020年東京オリンピック、ブログランキング(政治)
  • 子育て・出産(29):待機児童、認可保育園、卵子凍結
  • 学問・人文(41):高等教育機関、大学(法学部、経済学部、社会学部)、宗教
  • 環境・自然(75):資源・自然エネルギー、反原発、地球温暖化、原子力関連機関
  • 科学技術(41):ロボット、先端素材、研究機関
  • インターネット・コンピューター(30):ネットハラスメント、サイバーセキュリティー
  •  

 また、現行のウェブサイトとの混同を避けるため、アーカイブされたウェブサイトを一般公開するまでに最低6か月間の保留期間を設けた。次のステップでは、各サイトのメタデータを作成し、それらのデータがデジタルリポジトリに取り込まれ、その後、当大学の検索ポータルサイト SearchWorks(7) において、どこからでも閲覧が可能になる。予定では、2018 年晩秋に世界中から閲覧可能な、日本のウェブアーカイブ・プロジェクトに焦点を当てたオンライン展示会を計画している。

 

 筆者は、このプロジェクトを通して大変多くのことを学んだ。特に、今は亡き小林麻央氏のブログをアーカイブしたと公表した(8) 時には、世間から大きな反響を得、とても心が動かされた。また、ウェブサイト管理者からお礼のメールを数々受け取り、中にはより一層活動に精進するという内容もあり、大変恐縮した。このようなことは、今まで筆者が取り組んできたどのプロジェクトにも見られない反応だった。

 

 当時、図書館司書として、できる限り後世に正確な描写を伝える歴史的な瞬間の資料や情報を残そうと努めていた。しかしながら、プロジェクトが進行するにつれて、ウェブサイト管理者が当プロジェクトの意図とは違う方向に解釈していることに気づき始めた。当プロジェクトは、特定のウェブサイトにターゲットを絞って収集する「選択的収集」を行っているため、あらかじめウェブサイト管理者に通知レターを送付する必要がある。現在の日本の社会の中で浮かび上がる様々な情報、発言を網羅することを目指していたにもかかわらず、通知レターを受け取ったウェブサイト関係者の一部は、当大学が彼らの活動、発言を公認しているかのような反応を示した。

 

 そのため、当プロジェクトは、特定の団体・機関の活動を支持するものではないことを明確にする趣旨を通知文に付け加えた。さらに、この問題を感じ取ったことで、当チームは、プロジェクトのあり方を改めて問うようになった。米国に拠点を置く大学図書館としての社会的な立場を考慮すると、インターネット上で活発に語られる熱心な発言を公認するような姿勢を控えなくてはならない。このような場合、ウェブサイト管理者に通知するのではなく、IA が提供している Wayback Machine(9)というサービスを使用する方法を選んだ。これらのウェブサイトは、Wayback Machineに保存され、SearchWorksには表示されない。しかしながら、当アーカイブは熱心な議論の一部を間接的に収集して、後世の研究者が主要課題の情報を参照できるようにした。

 

 ウェブアーカイブ“Snapshot of Japan, 2016-2018”は、ウェブアーカイブのための「スナップショット」モデルとなり得る試行プロジェクトであった(10)。当チームは、今までアーカイブされていなかった多くの重要なテーマのウェブサイトを収集・保存することを成し遂げ、多種多様な情報・発言の存在を実証することに成功した。これらは、様々な面での努力なくしては、歴史の描写から外れることになったであろう。

 

 筆者は、このプロジェクトについて考える時、いつも鴨長明の言葉が心に浮かぶ。彼は、人々やその住処もまた川の流れや水の泡のようなものであると例えた。同じように、時代の流れに合わせて、日々更新・削除が頻繁に行われるウェブサイトは、川の表面に現れては消える水の泡に例えられる。そして、今までの緩やかな川の流れが ウェブサイトの登場によって、よりいっそう速い流れとなった。もし、彼が現在の無常観を心に描くなら、このはかない流れの速さに大変驚いたことであろう。情報の湧き出るのが速く、また変化が激しい時代の流れが続くのであれば、図書館司書の役割はいっそう重要になってくる。私たち司書としての使命、それは時の流れの中に埋もれがちな様々な情報や資料を収集、保存、そして提供することである。

 

 歴史を語る、それは一つの視点からではなく、時の流れの中で記された多彩な情報や資料にもとづいて。

 

謝辞

 当プロジェクトに同意して下さったウェブサイト関係者の皆様、そして当プロジェクトのために資金を提供して下さった当大学の The Freeman Spogli Institute for International Studies(FSI)と図書館に深く感謝を申し上げる。

 

(1)鴨長明, 吉田兼好著, 西尾實校注. 方丈記. 徒然草. 岩波書店, 1957, p. 23, (日本古典文學大系, 30).

(2)筆者による『方丈記』冒頭の英語訳。

(3)プロジェクトの開始当初は、当館と関係がある研究分野の教授らに収集対象テーマの相談を求めた。彼らのアドバイスにより初期のアーカイブ・コレクションが構築されたが、多くのテーマが既に国立国会図書館によってアーカイブされていた。したがって、プロジェクトが進行するにつれて、当プロジェクトの在り方を改めて問うようになった。結果、ある歴史的瞬間を多種多様に描写でき、またなるべく他機関と重複しないテーマに焦点を当てるようにした。また、6か月の保留期間内では、他機関がアーカイブしているかどうか確認することが常に可能なわけではなかった。

(4)当プロジェクトは、スタンフォード大学図書館の関連職員の方々による協力を得ながら、筆者ら二人のチームで取り掛かった。

(5)“Snapshot of Japan 2016-2018”. Stanford Libraries.
https://library.stanford.edu/eal/japanese-collections/japanese-collection-news/snapshot-japan-2016-2018 [369], (accessed 2018-04-01).

(6)ウェブサイトの数は2018年5月現在である。

(7) Stanford Digital Repositoryでのアーカイブされたウェブサイトの表示例は次のとおりである。
http://purl.stanford.edu/hm701kx7587 [370], (accessed 2018-04-01).
http://purl.stanford.edu/cv228rc9730 [371], (accessed 2018-04-01).

(8)“Preserving the ephemeral: reflections on archiving Japanese websites”. Stanford Libraries. 2017-08-01.
https://library.stanford.edu/blogs/stanford-libraries-blog/2017/08/preserving-ephemeral-reflections-archiving-japanese-websites [372], (accessed 2018-04-01).

(9)IAによって開発された Wayback Machine は、どのユーザーも「ページ保存(Save Page Now)」ボックスからウェブサイトの登録ができる。
http://archive.org/web/ [373], (accessed 2018-04-01).
当プロジェクトに適さないけれども歴史的に重要だと認識されたウェブサイトに関して、時折この機能を利用した。

(10)専門家によって実施されているウェブアーカイブ・プロジェクトの一般的な形態は、単一のテーマ、イベント、あるいはコンテンツタイプ(ブログやニュースメディアなど)を選定することである。
一方、「スナップショット」モデルは、当チームが現在の日本社会の多様な分野において、歴史的に重要なテーマを選定し、後世の研究者らが垣間見れるように収集・保存することが目的である。
Brügger, Niels. Web 25: Histories from the First 25 Years of the World Wide Web. New York, Peter Lang, 2017, 258p.
Brügger, Niels. Web History. New York, Peter Lang, 2010, 362p.
Lepore, Jill. The Cobweb: Can the Internet be archived?. The New Yorker. 2015, 2015-01-26.
https://www.newyorker.com/magazine/2015/01/26/cobweb [374], (accessed 2018-04-01).
Murphy Kao, Regan. “Preserving the ephemeral: Reflections on archiving Japanese websites”. Stanford Libraries Blog. 2017-08-01.
https://library.stanford.edu/blogs/stanford-libraries-blog/2017/08/preserving-ephemeral-reflections-archiving-japanese-websites [372], (accessed 2018-04-01).
Niu, Jinfang. An Overview of Web Archiving. D-Lib Magazine. 2012, 18(3-4).
https://doi.org/10.1045/march2012-niu1 [375], (accessed 2018-04-01).
Webster, Peter. “Users, technologies, organisations: Towards a cultural history of world web archiving”. Web 25: Histories from the First 25 Years of the World Wide Web. Niels Brügger ed. New York, Peter Lang, 2017, p. 179-199.

 

[受理:2018-05-22]

 


リーガン. スタンフォード大学東アジア図書館の日本に関する試験的ウェブアーカイブ・プロジェクトの2年間の歩み. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1930, p. 20-22.
http://current.ndl.go.jp/ca1930 [376]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115319 [377]

Regan Murphy Kao
Translation: Igarashi Yumi
A Snapshot Model for Web Archiving: Stanford East Asia Library’s Japanese Web Archive

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CA1931 - 動向レビュー:ビデオゲームの目録作成とメタデータモデルを巡る研究動向 / 福田一史

PDFファイル [380]

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1931

動向レビュー

 

ビデオゲームの目録作成とメタデータモデルを巡る研究動向

立命館大学衣笠総合研究機構:福田一史(ふくだ かずふみ)

 

1. 背景

 今や、ビデオゲームは世界中で幅広く受容される文化資源となった。さらには、ビデオゲームをテーマとするカンファレンスが多数開催され、専門的にビデオゲーム開発を教える教育機関も各地に設置されるなど、多くの教育・研究実践が展開されている(1)。

 そのような背景も踏まえ、図書館が知的資源としてビデオゲームを所蔵するということも一般的な事になりつつある。米国図書館協会(ALA)のGame and Gaming Round Table(GameRT)らが展開する、図書館でゲームをする活動を推進するイニシアチブである“International Games Day”は2011年にスタートし、2016年には“International Games Week(IGW)”に変更され、成長しつつあるムーブメントとして注目されている(CA1888 [381]参照)。IGWの2017年度の最終報告によると、世界各地で1,620館の図書館が参加したという(2)。

 また、OCLCが運営する世界最大の図書館ネットワークの総合目録であるWorldCat(3)でフォーマットを「ゲーム」と指定して検索すると、2018年3月時点で8万5,810件のビデオゲーム資料の登録が確認できる(4)。これらの資料を言語ごとに見ると、英語が5万5,943件と圧倒的に多く、フランス語が7,462件、未確定が5,006件、日本語が2,879件と続く。

 筆者らが行った調査でも明らかになったところであるが、国内では国立国会図書館(NDL)以外の図書館や博物館によるゲームの所蔵事例は数少なく、それらの所蔵数は総じて数百件程度と小規模である(5)(6)。国内に限って言えば、図書館によるビデオゲームの所蔵は不十分な状況といえる。

 国内の状況はともあれ、ビデオゲームの所蔵館や所蔵資料数が増えたことで、ビデオゲーム資料に適切にもしくは効率的にアクセスするための方法論について議論の必要性が生じているといえるだろう。そのため、目録作成やメタデータモデルの設計に関する研究には国際的に注目が集まるようになった。一方で国内では、ビデオゲームの目録作成実践も、その方法論に関する議論も不十分な状況にあると考えられる。

 本稿では、このような背景を踏まえ、ゲーム目録作成の先行研究について、その動向を論じる(2章)。さらにこれら研究動向を踏まえ、筆者らが設計を進める目録作成のためのメタデータモデルについて概要を紹介し、主要な論点について議論する(3章)。その上で、最後に研究展望を論じる(4章)。

 

2. 先行研究

 2010年代に入り、ビデオゲームの目録作成およびメタデータの観点から複数の研究が発表されるようになった。全ての研究について触れることは紙幅の都合から難しいため、主要な3つの拠点による研究を紹介する。筆者らが進める研究活動については、3章において触れる。

 

2.1. 米・イリノイ州:Preserving Virtual Worlds Project

 初期の研究のうち、特に注目すべきものとして、“Preserving Virtual Worlds Project(PVWP)”(CA1719 [382]参照)と、その関連諸研究があげられる。同プロジェクトは米国議会図書館(LC)の全米デジタル情報基盤整備・保存プログラム(NDIIPP;CA1502 [383]参照)の支援を受けて進められたものであり、事例研究を通じて仮想世界(Virtual Worlds)を包括的に保存するためのスキームを検討することを目的としている。ここでは、仮想世界は「複数のユーザにインタラクティブな体験、または一貫した遊びを提供できる安定したデジタル環境」と定義されており、ビデオゲーム一般を対象に含むものだとされている。PVWPの最終報告書(E1107 [384]参照)については、筆者らがその論点を整理した研究がある。それもあわせて参照されたい(7)。

 PVWPに関連する目録作成の研究は、プロジェクトリーダーである米・イリノイ大学のマクドノー(Jerome McDonough)准教授が中心となり展開されている。彼らはPVWPの最終報告書において、伝統的な書誌記述は、コンピュータゲーム及びインタラクティブ・フィクション(テキストによるゲーム)に適さないと論じている(8)。例えば、LCのPCゲームの書誌レコードを例に挙げ、主にゲーム研究者が必要とするであろう、バージョンやエディションなど版の違いにおける情報が不足している点を指摘している。さらに、FRBRモデル(CA1480 [385]参照)のゲーム資料についての記述可能性を検証している(9)(10)。ここでは、FRBRモデルは、版の違いを記録するために、完全でないながらも合理的であると評価されている。あわせて以下の2つの問題点が強調された。第1が、ゲームにはシリーズなど多数の派生的著作が存在すること、さらにそれらはシリーズ間のクロスオーバーなどにより、もつれた関係性を有することである。そのためFRBRモデルについて、「著作」の実体をグループ化する“Superworks”の機能の必要性が論じられている。第2が、ゲームは文学や法律・経済学・目録など複数の分析的観点を有するため、多様なユーザにとって利用しやすい目録記述を行うためには多様な専門性が求められることである。

 

2.2. 米・カリフォルニア州:GAMECIP

 米・スタンフォード大学図書館も、ゲームを対象とする目録研究拠点の一つとして挙げられる。彼らは、1990年代後半に同大学卒業生のカブリーンティ(Stephen M. Cabrinety)氏の遺品である大規模なゲームコレクションの寄贈を受け入れた(11)。このことを契機に、ゲーム保存研究さらには目録研究が展開されるようになった。そのうち、ゲームのメタデータを対象とする活動が、博物館・図書館サービス機構(IMLS)により資金提供を受け2010年代中盤に展開された“Game Metadata and Citation Project(GAMECIP)”プロジェクトである(12)。

 本拠点の研究成果のうち、まず挙げられるものとしてGroat(13)の研究がある。彼女は米国内の図書館の目録作成でゲームがどのように記述されてきたかについて、MARCの各フィールドの記録から、目録作成の黎明期における混乱した状況と、その標準化が進む経緯を論じている。

 さらに、より実践的な研究としてプラットフォームとメディア形式の統制語彙を設計したKaltmanほか(14)がある。MontfortとBogost(15)は、プラットフォームとは「抽象」もしくは、単にその特定の実装における特定の「標準」か「仕様」であると定義している。デジタル技術を基盤とするビデオゲームにおいて、プラットフォームはプレイするため(もしくは内容を確認するため)の技術的「標準」もしくは「仕様」であり、ゲーム研究においても重要な分析概念の一つだとされている(16)。一方、メディア形式とは「なんらかのゲームデータの集まりを物理的メディアにカプセル化したもの」(17)であり、一般的にプラットフォームに従属するものである。彼等は設計した統制語彙をウェブサイト(18)とメタデータ・統制語彙等のレジストリであるOpen Metadata Registryで公開している。一般ユーザにとっても、「ファミリーコンピュータのゲーム」、「プレイステーション4のゲーム」、「Android端末向けのゲーム」といったように、プラットフォームでゲームを認識・区別するということはかなり幅広く行われることだと想定される。そのため、ゲーム目録においても不可欠な機能の一つになると考えられる。プラットフォームを、ファミリーコンピュータなどの「ハードウェアプラットフォーム」とWindowsやiOSなどの「ソフトウェアプラットフォーム」に大別する点も有効性の高いアプローチだと思われる。ただし、現時点では、この統制語彙で対応可能な範囲が狭い点、すなわち網羅性が低いことが課題として挙げられるだろう。

 さらに、彼らが中心となり進めるプロジェクトの成果として「ビデオゲーム目録作成のベストプラクティス」がある(19)。これは目録標準であるRDA(Resource Description and Access;CA1766 [386]参照)によるゲームの目録作成のための実践ガイドというべきものである。RDAのいわゆるコアエレメントを中心に項目立てし、目録作成の標準を提案する文書である。MARC 21による書誌作成を企図したものであるため、とりわけ図書館における目録作成を検討する上で、標準化に資する提案であると評価できる。

 

2.3. 米・ワシントン州:GAMER Group

 近年、最も精力的に研究活動を展開している拠点の1つが、シアトルにある米・ワシントン大学iスクールのリー(Jin Ha Lee)准教授を中心とするGAME Research GROUP(GAMER Group)である。同グループの活動のうち目録作成・メタデータに関わるものとして3つのプロジェクトが存在する。

 第1のプロジェクトが、ビデオゲームとインタラクティブメディアのためのメタデータスキーマの構築である。Leeほか(20)は、米・シアトルインタラクティブメディアミュージアムとの共同研究でメタデータスキーマの構築を進めた。ここでは、プレイヤー、プレイヤーの親、収集家、研究者、ゲーム開発者、図書館員という6つのペルソナの立場から、メタデータの候補リストの要素を1つずつ評価するというアプローチにより、16件のコアとなるメタデータ要素(CORE16)が選出された。さらにLeeほか(21)では、ユーザデータ調査とファセット分析を通じて、CORE16を含む推奨される46の要素が提案されている。

 第2がビデオゲームとインタラクティブフィクションのための概念データモデルの設計である。Jettほか(22)は、FRBRモデルは、特有の記述属性・記録するレベルの分散・ビデオゲーム間の関連の3点を記録する上で不適当であると批判的に捉えた上で、ビデオゲームのための専用のデータモデルを設計し、提案している。Game、Edition、Local Release、Distribution Packageという4つの実体のヒエラルキーを軸とするモデルであり、さらに最上位の実体であるGameをグループ化するための実体としてSeriesとFranchiseならびにUniverseが定義されている。また、責任主体を記録するためのAgentの他に、CollectionやAdditional Contentというコンピレーションや複数のバージョンを解きほぐし記録するための実体が定義されている。Leeほか(23)は、これらの実体間の関連の記録に着目しリスティングを行うほか、それらを標準的モデルにマッピングしている。

 第3が、ビデオゲームの視覚的スタイルなどの統制語彙の開発である。作品の雰囲気(24)や、マンガ・アニメ風やピクセルアートなどの視覚的スタイル(25)、ゲームプレイならびに物語のジャンル(26)(27)などに関する研究がある。

 これらの成果は、彼らのウェブサイトにおいて、メタデータスキーマならびに統制語彙として仕様が文書化され、公開されている(28)。

 

3. 目録作成のためのメタデータモデルの設計

 このように多様な研究が存在するが、いずれの研究においても、メタデータモデルに関して考える上で標準モデル、とりわけ書誌データを記録するためのモデルであるFRBRモデルは、議論の軸になっているといって良いだろう。例えばマクドノーらはFRBRモデルの合理性を評価しているし、リーらはそれを批判的に捉えており専用モデルの開発を志向している。メタデータモデルを考える上で、「標準モデル対専用モデル」という論点は1つの立脚点になる。

 このような中、筆者らは、立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)の目録作成実践を通じて、研究活動を展開している(29)。目録作成の対象となるものは、RCGSが所蔵するビデオゲームと、専門誌や研究関連書籍などの関連資料である。これらについては、簡易なリスト化の後、下記で紹介するメタデータモデルによる目録作業を進めており、立命館大学ゲーム研究センター所蔵品オンライン目録(RCGS-OPAC)でその一部を公開している(30)。またRCGSは、文化庁の運営するメディア芸術データベース(開発版)のゲーム分野の構築と運用を担当しており、これらの書誌データ作成を進めている(31)。開発版では、前述の通り国内のビデオゲームの所蔵が少なく、それに伴い書誌データの生産量・流通量も限られることから、製品カタログやゲーム専門誌などの二次資料を用いて、国内で流通するビデオゲームについてできる限り網羅的な書誌データ作成を進めた(32)。2020年に公開が予定される正式版は、文化資源をより適切に記述することができ標準化に資するメタデータモデルを設計すること、LOD技術(CA1746 [387]参照)を採用しメタデータの再利用や他のデータベースとの接続を進めること、作成された書誌データをユーザにとって利用しやすい形でシステムに実装すること、などに焦点化し開発が進められている。

 筆者らのビデオゲームのメタデータモデルに関する直近の研究として福田・三原(33)がある。ここで設計されたモデルは、2017年に国際図書館連盟(IFLA)により発表されたFRBRとFRADならびにFRSADを統合したモデルであるIFLA Library Reference Model(IFLA LRM;CA1923 [388]参照)(34)に基づくものである。IFLA LRMはRivaほか(35)の冒頭で述べられるとおり、高次の概念参照モデルとして設計されたものであり、多様な書誌データをカバーすることを企図している。そのため、ここではIFLA LRMの適用モデルを設計するという手法でモデリングを行った。ここでは、著作・表現形・体現形・個別資料といった4つの実体の定義やレコード区分の基準ならびに、できる限り汎用的にビデオゲームの目録作成に用いることができるように、書誌的関連の語彙を作成した。また、各実体の属性は、国際目録標準であるRDAと日本目録規則(NCR)2018年度版(36)を参考に設計を進めた。

 Jettらが批判する通り(37)、FRBRモデルではとりわけ表現形や著作といった抽象的実体の記述レベルの分散が問題となり得る。例えば、ビデオゲームのリメイクは表現形で区別するのか、もしくは著作で区別するのか、といった具体的な論点について、FRBRにおける実体の定義だけでは明確でないため、各機関の目録に不統一が生じる場合などが考えられる。そのため、本モデルは、各実体の区分の基準のみならず、書誌的関連を明示している。そうすることで、目録もしくはデータセット全体における基準が明確化し、分散の問題を解消できるのではないかと考えられる。

 前述の標準モデル対専用モデルという対立軸でいえば、本モデルは標準モデルに近いアプローチである。専用モデルに比べると、記述ポテンシャルで劣る可能性も考えられるが、同アプローチには、以下で挙げられるような3つの利点があると考えられる。

 第1の利点が、標準モデルへのマッピングが容易であるため、書誌データの再利用性が高いことである。第2の利点は、標準モデルのために開発されたマニュアルや統制語彙など、様々なユーティリティを活用できるということである。第3の利点は、他の形式の資源との関連記述のポテンシャルが高いことである。メディア芸術データベースで扱われるマンガ・アニメ・ゲーム・メディアアートといった文化資源は、それぞれ深く、場合によってはもつれた関連性を有している。例えば「マンガの翻案であるゲーム」、もしくは「ゲームの一部であるアニメ」といった場合などが考えられる。これらについて、FRBRモデルなどを統一的に用いることで、とりわけ抽象的実体の間の関連を記録することが比較的容易となる。また、ビデオゲームに限ったとしても、その文化の記述という観点からすれば関連性の高い資源は多様に存在する。例えば、「パックマン」というゲームがあるが、それについて詳しくない人間がゲームをプレイしただけで、その文化的影響力を把握することができるだろうか。そのような観点からすれば、専門誌、攻略本、サウンドトラック、研究文献、販促物、ライセンス商品、企画書や仕様書のようなゲーム開発における中間生成物など、多様な関連資料を一様に記録可能であり、さらにそれらの間の関連を記述するポテンシャルがある方法論を採用することは、ビデオゲームの目録作成において有効なアプローチであると言えるだろう。

 

4. 今後の展望

 ビデオゲームという資源は、情報通信技術の進展に強く影響を受け、そのあり方を様々に変化させている。10年前の時点では、携帯電話というプラットフォームでビデオゲームがここまで普及するとは、まだ想定されていなかっただろう。また同時に、ビデオゲームのオンラインリソース化も幅広く普及した。このような形式的変化により、その内容も様変わりしつつある。

 ビデオゲームが持つこのような性質によるところでもあるといえるが、各研究拠点におけるメタデータモデルもしくはスキーマの設計は、まだ途上にある。それぞれがより良い設計を行うために、研究活動を展開させているという状況である。

 2017年9月には独・ライプツィヒ大学で(38)、2018年2月には米・スタンフォード大学で(39)、目録作成に関連する研究者が集まるワークショップが開催された。2018年の世界図書館情報会議(WLIC)・国際図書館連盟(IFLA)年次大会では、IFLAの視聴覚・マルチメディア分科会によるビデオゲームをテーマとするオープンセッションが開催予定であるなど、各地のビデオゲームの目録作成というテーマに限ったとしても、研究交流の機会は増加傾向にある。このように研究交流が活発化することにより、相互により良いフィードバックが生じることが期待される。

 また、研究者に限らず所蔵館の実務家など多様な関係者を交えて、目録やメタデータモデルに関する実践的な議論が行われること、さらにはそこでの議論がメタデータの設計に反映されることも重要度の高い論点としてあげられる。なぜならば、現時点における研究上の問題点として、実践的なフィードバックが不十分な点が指摘できるからである。データモデルの提案に留まらず、目録作成と、作成された目録・書誌データとその仕様に関する文書の公開などといった形で、様々なステークホルダーの関与の機会を設けることで、より具体的な課題・問題点が明らかになる。より良いモデルを検討する上で、そのような実践に基づくフィードバックは必要不可欠である。このようなデータや文書の公開は、書誌データの相互運用や、データを利活用した研究など、新たな研究的地平を切り開くことだろう。

 

(1)ゲーム研究の世界的な研究動向については、筆者らがまとめた以下の冊子がある。
松永伸司編, 細井浩一監修. ゲーム研究の手引き. 文化庁, 2017, 24p.
http://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2017/05/guide_to_game_studies_v2_public.pdf [389], (参照 2018-04-20).

(2)ALA GameRT. “International Games Week 2017 Final Report”.
http://games.ala.org/international-games-week-2017-final-report/ [390], (accessed 2018-03-26).

(3)“WorldCat.org”. OCLC.
https://www.worldcat.org [391], (accessed 2018-03-26).

(4)WorldCatではフォーマットを「ゲーム」と指定しても、検索できないビデオゲーム資料が数多く確認されている。WorldCatは多数の所蔵館の書誌レコードを統合化した総合目録であるため、各館の記法にばらつきがある。とりわけビデオゲームの書誌レコードの標準は確立しているとは言い難い現況にある。そのため、ビデオゲームの正確な登録件数は明らかでなく、ここであげた件数以上のゲーム資料が登録されていることには留意されたい。

(5)立命館大学ゲーム研究センター. “平成27年度メディア芸術連携促進事業 連携共同事業 ゲームアーカイブ所蔵館連携に関わる調査事業 実施報告書”. 2015-02.
http://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2017/04/9_rep_ritsumei.pdf [392], (参照 2018-03-26).

(6)齋藤朋子. 国立国会図書館におけるゲームソフトの収集と保存-ナショナルな協力体制確立の必要性-. デジタルゲーム学研究. 2012, 6(1), p. 37-41.

(7)鎌田隼輔ほか. オンラインゲームのアーカイブ構築に関する基礎的研究-PRESERVING VIRTUAL WORLDS FINAL REPORTをめぐる論点整理-. アート・リサーチ. 2015, 15, p. 73-85.

(8)PVWPの最終報告書については、以下を参照されたい。
McDonough, J. P. et al. Preserving Virtual Worlds Final Report. 2010, 195p.
http://hdl.handle.net/2142/17097 [393], (accessed 2018-04-10).

(9)McDonough, J. P. et al. Twisty Little Passages Almost All Alike: Applying the FRBR Model to a Classic Computer Game. Digital Humanities Quarterly. 2010, 4(2).
http://www.digitalhumanities.org/dhq/vol/4/2/000089/000089.html [394], (accessed 2018-03-26).

(10)McDonough, J. P. “Knee-Deep in the Data: Practical Problems in Applying the OAIS Reference Model to the Preservation of Computer Games”. Proceedings of the 45th Hawaii International Conference On System Sciences (HICSS). Wailea, USA, 2012-01-04/07. CPS, 2012, p. 1625-1634.

(11) Potchatek, S.; Mandeville-Gamble, S. “Guide to the Stephen M. Cabrinety Collection in the History of Microcomputing, ca. 1975-1995”. 2001.
https://oac.cdlib.org/findaid/ark:/13030/kt529018f2/ [395], (accessed 2018-04-20).

(12)同プロジェクトは米・カルフォルニア大学サンタクルーズ校図書館と同校コンピュータサイエンス専攻ならびに米・スタンフォード大学図書館の共同事業として進められた。

(13)de Groat, G. A History of Video Game Cataloging in U.S. Libraries. Cataloging & Classification Quarterly. 2015, 53, p. 135-156.

(14)Kaltman, E. et al. Implementing Controlled Vocabularies for Computer Game Platforms and Media Formats in SKOS. Journal of Library Metadata. 2016, 16(1), p. 1-22.

(15)Montfort, N.; Bogost, I. Racing the beam: The Atari video computer system. MIT Press, 2009, 192p.

(16)例えば、ゲーム・スタディーズ(ゲーム学)の最も重要なテキストの一つとされる以下の文献においても“Platform”の章がある。
Wolf, M. J. P.; Perron, B. The Routledge companion to video game studies, Routledge, 2016, 544p.

(17)Kaltman, E. et al. op. cit. p. 6.

(18)GAMECIP. “GAMECIP Controlled Vocabularies”.
https://gamecip.soe.ucsc.edu/node/85 [396], (accessed 2018-03-27).

(19)Online Audiovisual Catalogers et al. Best Practices for Cataloging Video Games -Using RDA and MARC21. 2015-06, 89p.
http://olacinc.org/sites/capc_files/GameBestPractices.pdf [397], (accessed 2018-03-26).

(20)Lee, J. H. et al. Developing a video game metadata schema for the Seattle Interactive Media Museum. International Journal of Digital Library. 2013, 13(2), p. 105-117.

(21)Lee, J. H.; Clarke, R. I.; Perti, A. Empirical evaluation of metadata for video games and interactive media. Journal of the Association for Information Science and Technology. 2015, 66(12), p. 2609-2625.

(22)Jett, J. et al. A conceptual model for video games and interactive media. Journal of the Association for Information Science and Technology. 2016, 67(3), p. 505-517.

(23)Lee, J. H. et al. “Relationships among video games: Existing standards and new definitions”. Proceedings of the ASIST Annual Meeting. Seattle, USA, 2014-10-31/11-04, Richard B. Hill, 2014.
http://www.asis.org/asist2014/proceedings/submissions/papers/78paper.pdf [398], (accessed 2018-04-20).

(24)Rossi, S.; Lee, J. H.; Clarke, R. I. “Mood Metadata for Video Games and Interactive Media”. Proceedings of the IEEE/ACM Joint Conference on Digital Libraries (JCDL 2014). London, UK, 2014-09-08/12, IEEE Press, 2014.

(25)Donovan, A.; Cho, H.; Magnifico, C.; Lee, J. H. “Pretty as a pixel: Issues and challenges in developing a controlled vocabulary for video game visual styles”. Proceedings of the 13th ACM/IEEE-CS Joint Conference on Digital Libraries. Indianapolis, USA, 2013-07-22/26, ACM, 2013, p. 413-414.

(26)Lee, J. H.; Karlova, N.; Clarke, R. I.; Thornton, K.; Perti, A. “Facet analysis of video game genres”. Proceedings of the iConference 2014. Berlin, DE, 2014-03-04/07, iSchools, 2014, p. 125-139.
https://doi.org/10.9776/14057 [399], (accessed 2018-04-20).

(27)Clarke, R. I.; Lee, J. H.; Clark, N. Why Video Game Genres Fail: A Classificatory Analysis. School of Information Studies: Faculty Scholarship, 2015, 167p.
https://doi.org/10.1177/1555412015591900 [400], (accessed 2018-04-20).

(28)GAMER Group. “Official Releases – GAMER Group”.
https://gamer.ischool.uw.edu/official_release/ [401], (accessed 2018-04-10).

(29)RCGSの目録作成ならびにゲーム保存に関連する先行研究として、下記などがある。
Akinori. N. et al. “Endeavors of Digital Game Preservation in Japan – A Case of Ritsumeikan Game Archive Project”. Proceedings of iPRES2017, Kyoto, Japan, 2017-09-25/29, 2017.
https://ipres2017.jp/wp-content/uploads/Keynote-nakamura-edited-by-Nakayama.pdf [402], (accessed 2018-03-26).
福田一史, 井上明人, 細井浩一. “Research on Ontology of Package for Game Software”. Proceedings of Replaying Japan 2017, Rochester, USA, 2017-08-21/23, 2017, p. 29-30.
http://replaying.jp/wp-content/uploads/2016/11/P180187-Replaying-Japan-Conference-Pgm-REV-081517.pdf [403], (accessed 2018-04-20).
福田一史, 井上明人, 細井浩一. “ゲームDBのためのデータモデルに関する検討:LODの適用を主たる課題として”. 日本デジタルゲーム学会2016年度年次大会予稿集. 東海, 日本, 2017-03-11/12, 2017, p. 22-25.
http://digrajapan.org/conf2016/digraj_conf2016_proc.pdf [404], (参照 2018-04-20).

(30)2018年4月時点で、1万件からなる所蔵品のうち、半数弱の所蔵品について詳細な書誌データの作成が行われた。簡易リストに留まる書誌データと合わせて公開されている。詳しくは以下のウェブサイトを参照されたい。
“立命館大学ゲーム研究センター所蔵品オンライン目録(RCGS-OPAC)”. 立命館大学ゲーム研究センター.
http://www.dh-jac.net/db/rcgs/search.php [405], (参照 2018-04-10).

(31)“メディア芸術データベース(開発版)”. 文化庁.
https://mediaarts-db.bunka.go.jp/gm/ [406], (参照 2018-04-10).

(32)書誌データ作成に活用できる二次資料が質・量ともに豊富な、家庭用ゲームとアーケードゲームがその主たる対象となっている。PCゲームやモバイルゲームについては、現時点で作成されたものは全体のごく一部である。

(33)福田一史, 三原鉄也. “ビデオゲーム目録作成のためのメタデータモデルの設計-書誌的関連に着目して-”. 日本デジタルゲーム学会第8回年次大会予稿集. 福岡, 日本, 2018-03-02/03, 2018. p. 88–91.
http://digrajapan.org/conf8th/pdf/proceedings.pdf [407], (参照 2018-04-20).

(34)Riva, P.; Le Boeuf, P.; Žumer, M. IFLA Library Reference Model. IFLA, 2017, 101p.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/ifla-lrm-august-2017.pdf [408], (accessed 2018-04-10).

(35)Ibid. p. 9.

(36)日本図書館協会目録委員会. “日本目録規則2018年版予備版”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/committees/mokuroku/tabid/committees/mokuroku/tabid/718/Default.aspx [409], (参照 2018-04-20).

(37)Jett, J. et al. op cit.

(38)2017年9月12日から13日にかけて、独・ライプツィヒ大学図書館において、下記のワークショップが開催された。
“Data-based approaches to local and global video game cultures – opportunities, challenges, future directions Workshop”. diggr.link.
https://diggr.link/events/diggr-workshop-september-2017/ [410], (accessed 2018-04-20).

(39)2018年2月22日から23日にかけて、米・スタンフォード大学セシルH・グリーン図書館において、ワークショップ“Video Game Preservation Workshop: Setting the Stage for Multi-Partner Projects”が開催された。

 

[受理:2018-05-02]

 


福田一史. ビデオゲームの目録作成とメタデータモデルを巡る研究動向. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1931, p. 23-27.
http://current.ndl.go.jp/ca1931 [411]

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115320 [412]

Fukuda Kazufumi
Research Trends for Cataloging and Metadata Models for Video Games

  • 参照(8223)
カレントアウェアネス [25]
動向レビュー [65]
ゲーム [413]
目録 [414]
メタデータ [415]
日本 [30]
米国 [100]
大学図書館 [239]
国立図書館 [47]
国立国会図書館 [49]
ALA(米国図書館協会) [416]
IFLA(国際図書館連盟) [417]

No.335 (CA1915-CA1923) 2018.03.20

  • 参照(16453)

No.335の 表紙 [418]と 奥付 [419](PDF)

小特集 図書館と資金調達(CA1915-CA1917)

  • 参照(6467)

 

 

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

 

小特集 図書館と資金調達

 

 日本でも最近、地元からの寄付や、ネーミングライツの導入、クラウドファンディングなど、外部資金を調達する様々な取組みが見られます。今号では、図書館における資金調達の事例を小特集で紹介します。

 

 

 


小特集, 図書館と資金調達. カレントアウェアネス. 2018, (335), p. 2-12.

カレントアウェアネス [25]

CA1915 - 公共図書館への継続的な寄付の事例―寄付は地域の図書館を元気にする― / 嶋崎さや香

  • 参照(8953)

PDFファイル [420]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1915

 

公共図書館への継続的な寄付の事例
―寄付は地域の図書館を元気にする―

 

大阪樟蔭女子大学:嶋崎さや香(しまざきさやか)


 2016年度、日本国内の公共図書館全体の資料費予算は279億2,309万円であった。これを10年前と比較すると、8.4%の減少となる。この間に、公共図書館(以下、図書館とする)の数は198館増加していることから、各館の資料費はこの数値以上に削減されている(1)(2)。

 こうした予算削減が進む中で、図書館では様々な資金調達が試みられている。例えば2008年にスタートした、いわゆる「ふるさと納税」では、寄付金の使用目的の選択肢に図書館支援を含める地方公共団体もでてきた(3)。他にも事業への賛同者から資金を集めるクラウドファンディング等も登場している(CA1917 [421]参照)(4)。いずれも新しい制度を活用した資金調達方法である。

 しかし、このような図書館側からの新しい資金調達の方法が試みられる一方で、利用者側から図書館に寄付金という形で支援が寄せられた例も数多く存在する。以下では、地域の住民や企業が継続的に図書館とその活動を支援している例について紹介していく。
 

1. 地域住民による支援活動

 まずは、地域住民からの寄付を紹介していく。
 

(1) 尾鷲市立図書館

 尾鷲市立図書館(三重県)には、市民からの寄付で購入された資料からなる「寿文庫」がある。この文庫、その集め方が一風変わっている。寄付に参加できるのは厄年と、喜寿や米寿などの「祝い年」を迎えた市民だけなのだ。

 尾鷲では厄年にたくさんのお金を使うことが、厄払いにつながるとされ、神社や寺での「まき銭」や、料亭での派手な宴会などが盛んに行われるという。こうした風習からヒントを得て始まったのが、「寿文庫」の活動である(E1975 [422]参照)(5)。

 1966年に「寿文庫」運営委員会が発足して以来2017年までの52年間で、参加者は約6,090人、2,262万円以上が集められ、1万2,000冊を超える書籍が購入された。キャッチフレーズは「厄落し、長寿のお祝いは寿文庫へ」(6)。地域に根付いた風習に、図書館の応援という新たな選択肢を付け加えたユニークな取り組みが行われている。

 

(2) 横浜市港北図書館

 横浜市港北図書館(神奈川県)では、「港北図書館友の会」の協力を得て蔵書の充実をはかっている。ただし、集めるのはお金ではなく「古本」。市民から寄せられた古本で市を開き、その売り上げを寄贈書の購入に充てるのだ。

 2012年の活動開始から、2万4,961冊の古本が収集された。資料として活用できる本は図書館に寄贈され、その他を古本市で市民に販売している。これまでに売上金は20万円を超えている(7)。

 友の会の活動は、蔵書を充実させるという支援にとどまらない。「読書サロン」や「ビブリオバトル」などの活動を通じて、図書館と地域の人びとを緩やかに結びつけることにも成功している(8)。こうした連帯が図書館への愛着や共感を生み出す可能性にも注目したい。

 

(3) 二宮町図書館

 二宮町(神奈川県)では、2009年に「図書館基金条例」を施行し「図書館基金」を設置、運営している。募金は役場窓口だけでなく、二宮町図書館におかれた募金箱からも可能だ(9)。2016年までに書籍約500冊、DVD35点が購入された。

同館が発行する『図書館だより』69号(2017年5月15日)には、図書館に置かれた募金箱にお金を入れる利用者の姿を目にするたびに「ご期待に添える図書館でありたい」という思いを強くする、との図書館からの言葉が添えられている(10)。ちなみに2017年6月には募金額が1,000万円を突破した(11)。

 

2. 地域企業による支援活動

 続いて、地域企業からの寄付について紹介する。
 

(1) 伊賀市上野図書館

 地域への支援を表明する寄付として、例えば会社の創業年数にちなんだ金額を、地域の図書館に贈り続けている企業がある。伊賀市(三重県)の自動車整備販売会社、株式会社小川モータースだ。「想像を膨らませることができる本の世界を、子どもたちにたくさん親しんでほしい」という同社会長の希望により、2015年から伊賀市上野図書館に寄付を続けている(12)。同館には「小川モータース四礼文庫」が設置されている。

 

(2) 太宰府市民図書館・みやき町立図書館

 福岡市(福岡県)に本社を持つ日之出水道機器株式会社は、1994年より太宰府市民図書館(福岡県)に寄付を行っている。その総額は2017年7月時点で890万円、いずれも図書購入費に充てられた(13)。

 さらに同社は工場や研究所を置く、みやき町(佐賀県)にも寄付を行っており、購入された書籍は6,000冊を超える(14)。蔵書数7万冊規模のみやき町立図書館にとって、大きな資金源となっている(15)。地域社会に必要な教育の場を充実させるために、企業が深く関わっている事例と言える。いずれの図書館にも「ヒノデ文庫」が設けられている。

 

(3) 宇佐市民図書館

 宇佐市(大分県)に本社がある三和酒類株式会社は、1985年以来「図書費」の名目で100万円の寄付を続けている(16)。また1998年には図書館建設費1,000万円を寄付するなど、その総額は4,200万円にのぼる。同市は寄付金をもとに「基金」をつくり、地域に関わりのある作家、画家の資料を収集すると同時に、郷土文化に関する資料の出版にも力を入れている。収集、出版された資料は「三和文庫」として図書館に保管され、その一部は閲覧や貸出が可能である(17)。

 実はこの三和文庫、宇佐市民以外もその恩恵にあずかることが出来る。同館のデジタルライブラリーには、宇佐市に本籍のあった作家・横光利一の写真や直筆原稿、名刺などが公開されている(18)。

 

(4) 各地の信用金庫

 最後に、地域の活性化を社会的使命として掲げる信用金庫による事例をいくつか紹介したい。大田原信用金庫(栃木県)は2007年から2015年までに、「児童図書文庫(だいしん文庫)」の資料や書架の購入費として、総額650万円を那須塩原市(栃木県)の図書館に寄付してきた(19)。また妙高市(新潟県)に本店をおく新井信用金庫は、1978年に「将来を担う青少年のためになる事業を行いたい」と、妙高市の図書館及び市立の小・中学校の図書購入を支援する「青少年図書充実基金」を設立した(20)。寄付総額は2,000万円、2011年までに1万7,000冊を超える図書が購入されている。同じく新発田信用金庫(新潟県)は、聖籠町立図書館(新潟県)に対して、2015年から10年間、寄付を行うことを約束した(21)。

 

最後に

 ここまで地域の住民や企業から、公共図書館に対して継続的に行われている寄付活動をいくつか紹介してきた。地域の風習を取り込みながら寄付を集める方法、イベントを企画し資金を集める方法、企業が「地域文化発展」のため拠出する場合など、その主体や方法、目的は様々である。

 このような、図書館が地域の住民や企業から、活動支援を受けるあり方は、近年に限ったことではない。例えば近江八幡市立図書館(滋賀県)の例を見てみよう。同館の始まりは1904年開設の八幡文庫であるが、文庫開設に当たって地域の篤志家から寄付や寄贈を募っていたことがわかっている(22)。また県立長野図書館の母体となった信濃図書館(1907年)も、開館にあたって、寄付や寄贈を募っている(23)。

 もちろん企業人による支援の例もある。例えば1904年に開館した大阪図書館(現在の大阪府立中之島図書館)の建築・資料購入費は、住友財閥の住友友純氏による寄付で賄われた。住友氏による支援は開館後も継続している。例えば1922年には図書館増築のための寄付を、また計8回、合計2万6,902冊におよぶ資料の寄贈も行っている(24)。

 明治後期から大正期は、各地に図書館が作られた時期である。このとき地域発展のために図書館が必要だと声をあげ、率先して寄付や寄贈を行った人々がいた。こうした人々の声や支援により誕生した図書館の中には、蔵書や建物などが現在へと引き継がれたものもある。

 公共図書館を存続、発展させるためには、地域住民や企業からの息の長い支援が不可欠である。またこうした支援が、コミュニティを文化的に充実させ、暮らしをいっそう豊かにするものと考えられる。

 

(1)日本図書館協会図書館調査事業委員会編. 日本の図書館 統計と名簿2016. 日本図書館協会, 2017, p. 24-25.

(2)日本図書館協会図書館調査事業委員会編. 日本の図書館 統計と名簿2006. 日本図書館協会, 2007, p. 22-23.

(3)“「ふるさと応援寄附」を活用して行う県の取り組み”. 和歌山県.
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/furusato/kifumenu.html [423], (参照 2018-01-10).

(4)例えば『LRG』3号(2013年春)や『現代の図書館』51巻3号(2013年9月)、『図書館雑誌』108巻7号(2014年7月)などでも、クラウドファンディングを含めた様々な資金調達の特集が組まれている。

(5)厄払い銭まく代わり本に寄付. 朝日新聞. 2015-01-12, 朝刊[名古屋], p. 26.

(6)“寿文庫50周年記念事業 寿文庫ポスターコンクール”. 尾鷲市.
https://www.city.owase.lg.jp/cmsfiles/contents/0000011/11326/konnku-ru-youkou.pdf [424], (参照 2017-12-20).

(7)“古本市(蔵書支援)”. 港北図書館友の会.
https://sites.google.com/site/kouhokutosyokan/oshirase/morebooks [425], (参照 2017-12-20).

(8)“活動報告”. 港北図書館友の会.
https://sites.google.com/site/kouhokutosyokan/--tomonokai-go-an-nai [426], (参照 2017-12-20).

(9)“図書館基金”. 二宮町図書館.
https://www.ninomiya-public-library.jp/index?2&pid=53 [427], (参照 2017-12-20).

(10)特集, ありがとうございます!図書館基金. にのみやまちとしょかん 図書館だより. 2017, (69), p. 1.
http://www.ninomiya-public-library.jp/images/upload/no69.pdf [428], (参照 2017-12-20).

(11)@ninomiya_lib. Twitter. 2017-06-13.
https://twitter.com/ninomiya_lib/status/874547137559674881 [429], (参照 2018-01-10).

(12)児童書買って 伊賀市に6万6千円寄付 小川モータース. 朝日新聞. 2015-11-11, 朝刊[伊賀], p. 27.
児童書購入費を寄付. 朝日新聞. 2017-10-16, 朝刊[伊賀], p. 29.

(13)寄附金をいただきました. 太宰府市民図書館 としょかんだより. 2017, 平成29年7月号, p. 1.
https://www.library.dazaifu.fukuoka.jp/download/tayori/201707/tayori-11.pdf [430], (参照 2017-12-20).

(14)“みやき町に500万円寄付 日之出水道機器”. 佐賀新聞. 2017-06-08.
http://www.saga-s.co.jp/articles/-/100653 [431], (参照 2017-12-20).

(15)日本図書館協会図書館調査事業委員会編. 日本の図書館 統計と名簿. 2016, 日本図書館協会, 2017, p. 58-59.

(16)三和酒類:文化事業支援、今年も100万円 宇佐市に寄付.毎日新聞. 2017-07.25, 朝刊[大分], p. 26.

(17)今年も図書費寄付 宇佐の三和酒類. 朝日新聞. 2007-05-29, 朝刊[大分], p. 31.
“三和文庫 出版物ご案内”. 宇佐市.
http://www.city.usa.oita.jp/soshiki/43/607.html [432], (参照 2018-01-10).

(18)“デジタルライブラリー”. 宇佐市民図書館.
http://www.usa-public-library.jp/cgi-bin/digital/index.cgi [433], (参照 2017-12-20).

(19)“大田原信用金庫寄附贈呈式(受領式)について”. 那須塩原市.
https://www.city.nasushiobara.lg.jp/02/documents/290119_7.pdf [434], (参照 2017-12-20).

(20)“新井信用金庫(新潟県) 青少年図書充実基金への支援”. 一般社団法人全国信用金庫協会.
http://www.shinkin.org/kouken/prize/15times/02.html [435], (参照 2017-12-20).
“新井しんきんの沿革”. 新井信用金庫.
http://www.shinkin.co.jp/arai/about/enkaku.html [436], (参照 2018-01-10).

(21)新発田信用金庫様から寄付をいただきました。. 社会教育だより. 2017, (399), p. 12.
http://www.town.seiro.niigata.jp/s_tayori/2017/syakyou201708.pdf [437], (参照 2018-01-10).

(22)嶋崎さや香. 教育会図書館の社会的意義 : 滋賀県八幡文庫(1904~1909)を例に. 図書館界. 2015, 67(1), p. 2-17.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.67.1_2 [261], (参照 2018-01-10).

(23)嶋崎さや香. 図書館設立過程と地域社会:信濃図書館を例として. 京都大学大学院教育学研究科紀要. 2016, (62), p. 115-127.
http://hdl.handle.net/2433/209929 [438], (参照 2018-01-10).

(24)『中之島百年―大阪府立図書館のあゆみ』編集委員会編.中之島百年―大阪府立図書館のあゆみ. 大阪府立中之島図書館百周年記念事業実行委員会, 2004, 385, 90p.
“大阪府立中之島図書館 前編”. 住友グループ広報委員会.
http://www.sumitomo.gr.jp/history/related/masterpiece/nakanoshima-lib_01/ [439], (参照 2018-01-10).
“大阪府立中之島図書館 後編”. 住友グループ広報委員会.
http://www.sumitomo.gr.jp/history/related/masterpiece/nakanoshima-lib_02/ [440], (参照 2018-01-10).
 

[受理:2018-02-02]

 


嶋崎さや香. 公共図書館への継続的な寄付の事例―寄付は地域の図書館を元気にする―. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1915, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1915 [441]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062619 [442]

Shimazaki Sayaka
Case of Continuous Donation to Public Libraries

カレントアウェアネス [25]
資金調達 [443]
地域 [29]
日本 [30]
公立図書館 [32]
公共図書館 [31]

CA1916 - 県立長野図書館の改革事業とネーミングライツ制度の導入 / 北原美和

  • 参照(9030)

PDFファイル [444]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1916

 

 

県立長野図書館の改革事業とネーミングライツ制度の導入

 

県立長野図書館:北原美和(きたはらみわ)

 

 近年、公共図書館へのネーミングライツ制度の導入が見られるようになってきた(1)。

 本稿では、県立長野図書館がこのたび、空間整備を目的に、ネーミングライツ制度を活用して共知・共創の場としての知識情報ラボ「UCDL(ウチデル):Uchida Community Design Labo」を設置した経緯を、当館が現在取り組んでいるこれからの図書館に向けた改革について触れながら解説する。

 

県立長野図書館のこれまで

 当館は、1907年(明治40年)に信濃教育会によって設立された信濃図書館が前身で、1929年(昭和4年)に開館した。1979年(昭和54年)、現在の長野市若里に新館を建設し、現在に至る。郷土資料を中心とした資料収集と調査サービスを事業の核としながらも、図書の巡回読書を主活動とした1950年(昭和25年)創設の「PTA母親文庫」に代表される全県的な読書推進活動に重きを置いた時期が新館建設後も続いた。

 平成に入り職員・組織体制を含むサービス体制刷新や貸出図書範囲の拡大など直接サービスへの移行も試みられたが、県立図書館としての存在感には欠けると言わざるを得ない状況に甘んじてきた(2)。なぜなら、長野県は平成の大合併を経ても多くの市町村が存在し、県域も広く、複雑な地勢のため各地域の独自性もあり、各地の公立図書館・公民館の活動に加え、広域ブロックの図書館連携が進んでいる。このため、県の北端に位置する立地条件や予算の大幅な削減と相まって、市町村立図書館に対する支援業務については焦点が定まらなかったのである。

 そのような中、県の行財政改革の中で県立長野図書館についてもあり方が検討され、2013年度(平成25年度)に教育委員会として、企画力強化のための外部人材登用や資料のデジタル化等の方向性が示された。そして、2015年度(平成27年度)よりその方向性にふさわしい館長として、前伊那市立図書館長の平賀研也氏を最長5年の任期で外部登用することとなった。

 

共知・共創の場としての図書館空間へ

 現在、当館では、平賀館長のもと、「これからの県立長野図書館の目指すもの」「これからの公共図書館とはどうあるべきか」等を県民、県内の市町村立図書館、当館職員との対話やワークショップを通じて考え、試行する改革に取り組んでいる(3)。

そして、既定の予算と人を活用しつつ、県立図書館としての事業や役割の思い切った見直しを考え、従来の読書推進を担う市民の図書館から知識基盤社会に不可欠な情報基盤としての図書館、地域に根ざし未来を作り出すための学びの核となる図書館に向けて、2015年度(平成27年度)より、「情報」「人」「場」の改革に取り組み始めた(4)。また、これは単に県立図書館の改革にとどまらず、市町村立図書館のこれからの選択肢を示す一つのモデルとなることや県立図書館の市町村立図書館支援の再構築を企図しており、県内の中核的な市町村立図書館とも協働しつつ、県域全体への学びの基盤の構築を目指すものでもある。

 今回のネーミングライツ制度活用による空間整備は、この改革の目指す「交流と創造により新たな多様なコミュニティを創成する起点」としての図書館機能、「地域の人びとの共知・共創を促進するサードプレイス」としての図書館空間を部分的に具現化する試みである。

 当館には1階に児童図書室、2階に一般図書室、3階に学習室・会議室があり、各階で来館者の利用の目的も利用の方法も異なる。つまり当館は、利用者層が階層ごとに異なり、利用者が図書館の収蔵された本を借りる・読む・勉強する極めてオーソドックスな図書館ということができる。

 これに対して、2015年度(平成27年度)からの図書館改革に取り組む過程で、図書館の所蔵資料に限らず、デジタル情報も含めたより広範な情報を提供することや、情報の探索にとどまらず、情報と情報、情報と人、人と人をつなげて、新たな知的生産活動を創成し、その情報資産を蓄積する場として図書館を転換することについて議論がなされた。読者のための図書館から、表現者のための図書館への変革や、ラーニング・コモンズの空間が整備された地域社会をつなぐ場所としての図書館の変革ということができるかもしれない。

 こうした共知・共創の場の考え方は、これまでの読書の館としての公共図書館に慣れ親しんだ利用者にとっても、また図書館職員にとってもイメージすることが難しい。そうした考え方を見える化し、体験できるようにしなければ、そのような場の有意性を県民が実感することはできない。そこで当館では、2016年度(平成28年度)に2階閲覧室をゾーニングし直し、一様に静謐な空間を4つのゾーンからなる空間とした。個人が静かに読書や調査のできる個室ゾーン(サイレント・コクーン)、書架の間を探索しキャレルデスクを使い、職員や利用者同士が静かに会話しながら過ごせるゾーン(ジェントル・ノイズ)、パソコンやタブレット端末を使いながら商用データベースやウェブ情報に触れられるゾーン(メディア・スクランブル)、そしてワークショップや講座も開催できる人と人がコミュニケーションできるゾーン(ナレッジ・ラボ)の4つである(図1)。
 

図 1 2階閲覧室の空間構成

 

ネーミングライツ制度導入に至った経過

 しかし、4つの目的を持つ空間にゾーニングしただけで、共知・共創の取り組みが実現できる訳ではなく、こうした機能にふさわしい什器、デバイス、アプリケーション、活動プログラムの企画や活性化を進める人材が必要である。しかし、限られた予算の中でこれらを整えることは困難であった。そのような状況下、2017年度(平成29年度)予算の獲得に向けて内閣府の地域創生拠点整備交付金を活用して、より本格的な空間整備が可能かを模索した(5)。そして、同交付金活用事業相談会での助言や、長野県全体の予算獲得に向けた考え方などを踏まえて、収益が見込めるかどうか、複数の政策分野と連携できるものかどうか、「しごと」につながる場の構築かどうか、の3点から総合的に判断することになった。結果として実現には至らなかったが、その検討過程で、公共施設の空間整備やサービス支援のコンセプトの蓄積やノウハウを持つ株式会社内田洋行よりラーニング・コモンズ用の什器・備品、情報機器類を紹介してもらうとともに、当館からは空間整備に関するビジョンを説明する機会があった。

 その後、2017年(平成29年)5月から6月末までの期間で県によるネーミングライツの募集があった。その募集を県のウェブサイトで知った同社より当館に提供できる什器・備品や情報機器類が示され、県が導入しているネーミングライツ制度のうち「提案募集型」の申請をすることの可否について打診があった。

 

長野県のネーミングライツ制度

 ここで簡単に当県のネーミングライツ制度について説明しておきたい。当県では総務部財産活用課が年2回、県が所有している施設などに愛称をつけることができる権利(命名権)を募集している。

 種類には、対象施設を特定した「施設特定型」と、施設への貢献のあり方を提案する「提案募集型」の2通りがある。募集期間は2か月程度で、応募を希望する企業は、県の募集要項に則り、必要書類を準備し応募する。

 「提案募集型」は「施設特定型」に該当しない施設で、県の庁舎や県立学校を除く不特定多数の住民が利用する県有施設を対象としている。長野県では修繕を対価とした県立野球場への命名事例や歩道橋への命名事例などがある。

 長野県では、この「提案募集型」の導入の拡大を図るためにも、どのような施設にどのような対価が考えられるのかなど、申請を希望する企業には個別に相談を促している。

 「提案募集型」は、命名権料としては金銭ばかりでなく、施設で利用可能な製品やサービス(役務)の提供なども想定している(6)。

 

ネーミングライツ制度導入に際して留意した点

 当館としては、図書館全体に対する命名権ではなく、これからの図書館のあり方を模索するゾーンのナレッジ・ラボに対する命名権であればこれを活用したいと考えた。そこで、2017年(平成29年)7月、県の規定に沿って館内に選考委員会を設置し、図書館事業に関する有識者2名、企業の財政状況を見極めるための専門家1名、県立図書館の主管課1名を選考委員に任命して、同年8月に選考委員会を開催した。申請者である同社によるプレゼンテーションと質疑応答を実施のうえ、以下の選考基準に則って選考を行った。

  • (1)図書館が実施したいことと、企業側が図書館に提供したいと考えていることに大きな相違がないか。
  • (2)図書館にとっても企業にとってもメリットがあるかどうか。
  • (3)役務の提案を受け入れることにより、今後の図書館の事業や図書館員の活動が発展するかどうか。
  • (4)什器・備品や情報機器類の提供はもちろん役務の提供の内容に具体性があるかどうか。サポート体制がしっかりしているかどうか。

 また、当館としては、この基準策定に先立ち、図書館の自由や中立性に影響を与えないかどうかについて検討したことは言うまでもない。まず、図書館全体に対する命名ではなく、これからの図書館が果たすべき役割を担う新たな空間を整備するものであり、図書館の資料収集の中立性や自由を阻害するものではないと考えられた。さらには、あくまでも活動主体は図書館であり、その空間の機能や活動のプログラムなどに対して、図書館にはない知見や経験を獲得する好機であること、そして、そこで得た情報や経験は、当館に限らず県内の公共図書館においても、共知・共創の場づくりのモデルとなり得ると思われた。以上から、ネーミングライツ導入は、図書館職員にとっても、また利用者にとっても有益であると判断した。

 選考委員会による審査の結果、ネーミングライツ・パートナーとして適当との評価を受け、ナレッジ・ラボ部分の愛称の命名権と引き換えに2017年(平成29年)10月1日から2020年(平成32年)9月30日までの3年間にわたる什器・備品、情報機器類、プログラム開催支援等の提供を受けることになり、知識情報ラボ「UCDL(ウチデル)」が誕生することとなった。

 

導入後の状況と今後

 こうして、2017年(平成29年)10月1日、自由自在に動かすことができる机や椅子、デジタルにアナログの手触りを融合させた情報展示や発信が可能な可動式情報ツールなど、提供された什器・備品と情報機器類を活用した日常的なコラーニングスペースとして、知識情報ラボ「UCDL(ウチデル)」の活動が始まった(7)。

図 2 UCDL(ウチデル)の様子

 

 同年10月20日と21日にはオープニングイベントを開催した(8)。その後も、いくつかのイベントやワークショップを開催した(9)。参加者や利用者からは、「堅苦しい」「窮屈」「資料の利用」「静かに!」というイメージだった図書館が、「開かれた空間」「話しながら活動できる場」であるというのは新鮮であり、様々な活動の拠点として図書館を利用するという選択ができることへの驚きや共感をいただいている。ネーミングライツによって提供された什器・備品は活動に合わせた柔軟なレイアウト変更に対応でき、情報機器類は手元の操作によって情報を切り替えながら、話し合いの場での情報共有が一瞬で視覚的にできる。今後も、本など紙の資料を閲覧したり借りたりする場といった図書館の既成概念にとらわれることなく「共知・共創の場」として、情報の収集から発信、そして蓄積へとつながっていく場となることを目指していく。ネーミングホルダーからのサポート期間は3年。サポート終了の場合は期間終了6か月前に申し出がある。その時までに、活動の幅がさらに広がっているよう、県の行政機関はもとより市町村立図書館や学校図書館、学校の教職員などへの情報提供や企画提案など広報にも努め、地域の「共知・共創の場」のモデル空間として取り組んでいきたい。

図 3 UCDL(ウチデル)でのイベントの様子


(1)ネーミングライツを導入した館として例えば以下の事例がある。
・泉佐野市立図書館(大阪府)
市の施設への「ネーミングライツ(命名権)パートナー企業が決定. 広報いずみさの. 2014, 平成26 年4 月号, p. 2.
http://www.city.izumisano.lg.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/35/20140402.pdf [445], (参照 2018-01-10).
・秋田市立図書館(秋田県)
“市立図書館のネーミングライツ・パートナーが(株)北都 銀行に決定!”. 秋田市. 2015-03-20.
http://www.city.akita.akita.jp/koho/data/html/1837/1837_03_01.htm [446], (参照 2018-01-10).
・八千代市立図書館(千葉県)
“中央図書館・市民ギャラリーの愛称が決定”. 八千代市. 2016-12-01.
http://www.city.yachiyo.chiba.jp/100100/page100046.html [447], (参照 2018-01-10).
・和泉市立図書館(大阪府)
“和泉市2 例目!和泉市立図書館のネーミングライツパートナーと愛称が決定!”. 和泉市.
http://www.city.osaka-izumi.lg.jp/kakukano/syougaibu/dokusyosinkou/osirase/1486967215950.html [448], (参照2018-01-10).
・広島市こども図書館(広島県)
“広島市こども文化科学館及び広島市こども図書館の命名権取得者と呼称の決定等について”. 広島市.
http://www.ssl.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1502069484695/index.html [449], (参照 2018-01-10).

(2)“沿革”. 県立長野図書館.
http://www.library.pref.nagano.jp/information/history [450], (参照 2018-01-10).

(3)“図書館フォーラム”. 県立長野図書館.
http://www.library.pref.nagano.jp/category/futurelibnagano [451], (参照 2018-01-10).

(4)“図書館フォーラム”. 県立長野図書館.
http://www.library.pref.nagano.jp/category/futurelibnagano [451], (参照 2018-01-10).

(5)“地方創生関係交付金”. まち・ひと・しごと創生本部.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/kouhukin/index.html [452], (参照 2018-01-10).

(6)“長野県ネーミングライツ・パートナーの募集について”. 長野県. 2017-10-02.
http://www.pref.nagano.lg.jp/zaikatsu/kensei/koyu/naminglights/partner.html [453], (参照 2018-01-10).

(7)“県立長野図書館×(株)内田洋行「知識情報ラボUCDL(ウチデル)」が始動します!”. 県立長野図書館. 2017-09-26.
http://www.library.pref.nagano.jp/osirase_170922 [454], (参照 2018-01-10).

(8)“【10/20,21】知識情報ラボ「UCDL(ウチデル)」オープニングイベント”. 県立長野図書館. 2017-10-12.
http://www.library.pref.nagano.jp/osirase_171011 [455], (参照 2018-01-10).

(9)“【12/07】「乗りたくなる地域鉄道 !高校生PR 動画コンテスト」の審査会・表彰式を開催します”. 長野県教育委員会×しなの鉄道株式会社. 2017-12-07.
https://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/kyoiku/happyo/h29/documents/shinatetsupr.pdf [456], (参照 2018-01-10).
“【1/28】 新年気持ちを新たに!創業を考えている皆様へ 『出張』創業相談会in県立図書館を開催します”. 県立長野図書館. 2017-12-12.
http://www.library.pref.nagano.jp/wp-content/uploads/2018/01/sogyo180128.pdf [457], (参照 2018-01-10).


[受理:2018-02-14]
 

北原美和. 県立長野図書館の改革事業とネーミングライツ制度の導入. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1916, p. 4-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1916 [458]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062620 [459]

Kitahara Miwa
Introduction of Prefectural Nagano Library Reform Project and Naming Rights System

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CA1917 - クラウドファンディングによる図書館の資金調達 / 赤山みほ

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PDFファイル [461]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1917

 


クラウドファンディングによる図書館の資金調達


八洲学園大学:赤山みほ(あかやまみほ)

 

1. はじめに

 図書館における資金調達の方法に、クラウドファンディングによるものがある。クラウドファンディングとは、福田(1)によると「インターネット上にアイディアを公開し、そのプロジェクトに賛同する不特定多数の人々から資金を集め、支援者には出資した金額に応じて」見返りを渡すものである。

 本稿では、福田の定義によるクラウドファンディングについて扱う。はじめに、図書館の資金調達について概観する。次に、クラウドファンディングの概要をまとめた上で図書館のクラウドファンディング事例について分析し、図書館の資金調達における意義について考察する。おわりに、日本の公立図書館におけるクラウドファンディングでの資金調達の在り方について論じる。

 

2. 図書館の資金調達について

 米国における資金調達は、「1970年代から始まった公共図書館における財政難の時代を経て、1980年代以降、追加財源の獲得を目指す資金調達活動に注目が集まるようになった」(2)と福田は述べている。大学図書館に関しては、「公共図書館に先駆けて、卒業生や特殊コレクションの寄贈者などを対象とする資金調達が行われて」(3)おり、資金調達の手段として寄付が重要な位置を占めているといえるであろう。日本では、戦後は1970年代以降、公立図書館へ図書の寄付は行われてきたものの、図書館が主体となった資金調達の事例が見られるようになったのは2000年代以降である。

 『寄付白書2017』(4)によると、2016年の個人寄付総額は7,756億円で寄付者数は4,571万人である。個人寄付総額は名目GDPに対して米国は1.44%、英国は0.54%、韓国は0.50%であるが、日本は0.14%と他国と比較すると多くない。しかし、2011年の東日本大震災以降は、個人寄付総額と寄付者数は増加傾向にあり、これからも継続して増加が期待できるといえるであろう。

 日本の図書館における資金調達に関する先行研究としては、福田と岡本・嶋田が詳しい。

 福田(5)によると、資金調達として11の手法があるとされている。すなわち、(1)雑誌スポンサー制度の導入、(2)廃棄資料の有償配布、(3)蔵書寄贈箱の設置、(4)資料の出版と販売、(5)イベントの収益による寄付、(6)マスコミを介した寄付活動、(7)図書館グッズの作成、(8)命名権(CA1916参照)、(9)著名人による寄付、(10)Amazon社の「ほしいものリスト」を用いた寄贈本集め、(11)メモリアルブック制度(6)、である。そのほか、図書館が主体ではなく地方公共団体が実施する手法として、PFIやふるさと納税、ミニ公募債がある。また、SNSによって実施される資金調達として、ネット募金やクリック募金、つぶやき寄付があり、それらの進化形としてクラウドファンディングを位置づけている。

 岡本・嶋田(7)によると、資金調達として9つの手法があるとされている。すなわち、(1)ふるさと納税の利用、(2)寄付の募集、(3)本の寄贈の募集、(4)広告の募集、(5)雑誌スポンサー制度、(6)除籍資料の販売、(7)図書館作成グッズの販売、(8)オンライン書店との連携(8)、(9)交付・助成金の利用、である(9)。そのほか、クラウドファンディングについて解説している。

 これらの先行研究をみてみると、継続して資金調達のできる手法と、一時的に資金調達できる手法の二つにわけることができる。図書館の運営資金を継続して調達する必要がある場合と、開館やイベントのために一時的に資金を調達する必要がある場合とで使い分けることができるといえるであろう。

 鎌倉(10)は、資金調達にあたってドナーピラミッドの概念の観点から実際の取り組みについて解説している。すなわち、「ドナーピラミッドの頂点にくるのは、高額の寄付者や継続的な支援者である。ドナーピラミッドは下の階層にいる人たちをどのように上の階層に上げるのかを考える戦略をつくる」としている。実際の取り組みとして、(1)支援者を増やすためのアプローチ、(2)支援者をより上位にあげるためのアプローチ、(3)それぞれの階層にいる支援者へのアプローチの三つの取り組みが実施されている。

 つまり、ドナーピラミッドの一番下にいる支援者は小口や一時的な資金調達の位置におり、支援先の団体によるさまざまな取り組みによって大口や継続した資金調達の位置へ上がる可能性がある。また、(1)として、支援先の団体を信頼し共感してもらうために、情報を日々発信することでメールマガジン登録者数やFacebookのいいね数の増加を目指すとしている。クラウドファンディングの活動をまず知ってもらうためには、ウェブサイトやSNSをはじめとした、インターネットを含むあらゆる情報媒体での発信が重要といえるであろう。

 

3. クラウドファンディングについて

 先行研究で挙げられた資金調達の手法と比較して、クラウドファンディングは継続した資金調達というよりも、一時的な資金調達である。いずれの資金調達の手法であっても、一つの手法を実施したからと言って他の手法を全くとらなくとも充分な資金が得られるということはない。安定した図書館運営のためには、継続した資金調達と一時的な資金調達の両方の実施が肝要である。そのためには、それぞれの手法のメリットとデメリットを把握したうえで、資金調達の目的に沿ったものを選ぶ必要がある。

 クラウドファンディングのメリットとデメリットを支援者側と実施した側の二つの側面から以下の通り整理してみる。

 支援者側からみたクラウドファンディングのメリットとして、支援目的が明確であることや、支援金額が設定されていることで金額に迷う必要がないこと、支払い手続きがオンライン上で可能で簡単であることが挙げられる。デメリットとしては、クラウドファンディングのウェブサイトに掲載されている情報以外に団体に関する情報がない場合、団体が信用できるか判断するのが困難な場合があることなどが挙げられる。

 実施した側からみたクラウドファンディングのメリットとしては、支援者を可視化できること、クラウドファンディングを実施することそのものが広報になること、が挙げられる。デメリットとしては、目標金額に達しなければ予定していた事業が実施できず寄付金を受け取れない仕組みであることや、日常業務に加えてクラウドファンディングにかかわる業務の負担増、などが挙げられる(11)。また、既存の図書館で成⽴しなければ、⽀持が得られない事業であると⾒なされたり、独⾃に資⾦調達できると認識されたりして、予算削減されるおそれがある。

 深尾(12)は、クラウドファンディングの成立例は、「社会的な認知が進んでいる課題や具体的な社会的弱者を前面に出した取り組みなど、わかりやすいテーマ設定や取り組みが支援されがち」であり、「資金調達ができたからと言って事業が成功するわけではない」と指摘している。図書館のクラウドファンディングは、開館や蔵書構築のためなど、取り組みへの共感が得やすく、テーマ設定がわかりやすいものが多い。ものづくりのためのクラウドファンディングと比較すると、図書館のクラウドファンディングは成立すれば事業は成立し実施される可能性が高い。例えば、ものづくりやベンチャー企業への支援を主としたKickstarter(13)では、支援を受けた事業のおよそ9%が失敗している(14)。したがって、図書館のクラウドファンディングは、成功しやすいということがいえるであろう。

 

4. 図書館のクラウドファンディング事例分析

4.1. 調査手法

 図書館でのクラウドファンディングの事例を調査するため、CiNii ArticlesとNDL-OPAC(現国立国会図書館オンライン)の雑誌記事索引を使用し、キーワード「クラウドファンディング 図書館」で検索を行った。結果として、CiNii Articlesでは12件、NDL-OPACの雑誌記事索引では6件の記事が得られた。次に、クラウドファンディングのなかでも雑誌記事として掲載されていないものを調査するため、新聞・雑誌データベースの日経テレコン21と聞蔵IIビジュアルを使用し、収録全期間を選択して検索を行った。キーワードは上記と同様である。結果として、日経テレコン21では22件、聞蔵IIビジュアルでは46件の記事が得られた。

 記事の内容を分析した結果、公立図書館3件、私立図書館(専門図書館を含む)12件、大学図書館2件、学校図書館1件の計18件の事例が得られた(いずれの結果も2017年12月22日現在)。これらの事例でクラウドファンディングを実施したウェブサイトは、(1)CAMPFIRE(15)、(2)Readyfor(16)、(3)FAAVO(17)、(4)LOCAL GOOD YOKOHAMA(18)であった。

 表は、18件について、図書館名、館種、クラウドファンディングの成立時期、目的、金額、クラウドファンディングを実施したウェブサイトの項目別でクラウドファンディングの成立時期の早い順にまとめたものである。

 

表 クラウドファンディングが成立した図書館

  図書館名 館種 成立時期 目的 金額 ウェブサイト
1 陸前高田市コミュニティー図書室(岩手県) 私立 2012年4月 蔵書 824.5万円 (2)
2 松竹大谷図書館(東京都) 私立 2012年10月 運営資金 357.9万円 (2)
3 海士町中央図書館(島根県) 公立 2014年1月 蔵書 124.5万円 (2)
4 情報ステーション(千葉県) 私立 2014年2月 運営資金 164万円 (2)
5 森の図書室(東京都) 私立 2014年5月 開館 953万円 (1)
6 三条市立図書館栄分館(新潟県) 公立 2014年11月 蔵書 59.7万円 (2)
7 県立田奈高校図書館(神奈川県) 学校 2015年1月 イベント 100万円 (4)
8 高田みんなの学校(島根県) 私立 2015年7月 開館 192.7万円 (2)
9 男木島図書館(香川県) 私立 2015年7月 開館 233.5万円 (2)
10 かまくら駅前蔵書室(神奈川県) 私立 2015年7月 開館 84.8万円 (2)
11 夢の図書館(東京都) 私立 2015年12月 開館 302.6万円 (2)
12 巡ノ文庫(岡山県) 私立 2015年12月 開館 57.5万円 (3)
13 暁(佐賀県) 私立 2016年6月 蔵書 186.2万円 (1)
14 さんごさん(長崎県) 私立 2016年7月 改修 235万円 (3)
15 東京藝術大学附属図書館(東京都) 大学 2017年2月 蔵書 719万円 (2)
16 筑波大学附属図書館(茨城県) 大学 2017年3月 蔵書 512.4万円 (2)
17 大宅壮一文庫(東京都) 私立 2017年10月 運営資金 854.5万円 (2)
18 長崎市立図書館(長崎県) 公立 2017年11月 イベント 76万円 (3)

※筆者作成
 

4.2. 調査結果

 まず、館種別にみてみると私立図書館が最も多く、また資金調達の目的は開館および蔵書の充実が最も多い。次に多い館種は公立図書館であり、海士町中央図書館(島根県)、三条市立図書館栄分館(新潟県)、長崎市立図書館(長崎県)がある。次に多い館種は大学図書館であり、東京藝術大学附属図書館(東京都)と筑波大学附属図書館(茨城県)である。以下、館種別についての分析を行う。

 

4.3. 私立図書館の事例

 陸前高田コミュニティー図書室(岩手県)は、図書館のクラウドファンディングの先駆けといえる。同図書室は、東日本大震災で公立図書館が被災したため、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会が陸前高田市の高台にあるキャンプ場の仮設住宅地で2012年4月7日に開館した。クラウドファンディングは、図書室へ蔵書を購入するため、開館とほぼ同時期に実施された(19)。

 私立図書館のほとんどが5,000冊ほどの小規模な図書館であり、図書館の設置者は個人やNPO法人などが散見される。開館予定の地域のうち、山間離島では公立図書館が設置されていないか、もしくは充分でないためにクラウドファンディングが実施されていることが多い。松竹大谷図書館(東京都)と情報ステーション(千葉県)、大宅壮一文庫(東京都)は設置母体の経営難による運営資金の調達のために実施されている。

 松竹大谷図書館と大宅壮一文庫は専門図書館として長年の運営実績があり、なかでも松竹大谷図書館は2012年以降、毎年クラウドファンディングを実施している。しかも、支援者は半数近くが支援のリピーターであるという(20)。クラウドファンディングは、一時的な資金調達であるが、松竹大谷図書館のように定期的に実施することで継続した資金調達の方法としても活用することができる。

 

4.4. 公立図書館の事例

 次に多い館種は公立図書館の3件である。海士町中央図書館では既にある図書館の蔵書を充実させるために実施された(21)。三条市立図書館栄分館では、日本一の仕掛け絵本図書館になるために蔵書を充実させることを目的に実施された(22)。この2件の公⽴図書館の例は蔵書の充実のためにクラウドファンディングを実施したが、長崎市立図書館では開館10周年記念事業のために実施された(23)。目的がイベントの実施の場合には、一時的な資金調達のために行われる。しかし、目的が蔵書の充実である場合には、継続した資金調達が必要な状況であると考えられる。クラウドファンディングの成立によって注目を集めることで、その後の寄付や図書の寄贈などにつながるかもしれない。

 公立図書館でのクラウドファンディングの実施者は公立図書館の職員ではない場合が多い。例えば、海士町中央図書館の「あま図書館応援プロジェクト」は職員の提案によって有志が実施し、有志や島民の選書による本の寄贈で貢献している。三条市立図書館栄分館の「めざせ!しかけ絵本日本一プロジェクト実行委員会」は市によって委員が公募され市民が任命されている(24)。長崎市立図書館の「長崎市立図書館10周年記念応援プロジェクト」事務局は職員と市民の有志によって運営されている(25)。いずれも当該図書館の許可を得てクラウドファンディングが実施されているが、なぜ図書館が主体となって実施しないのであろうか。

 岡本・嶋田が指摘している通り、公立図書館の場合、資金調達の他の手法を含めクラウドファンディングでの収入は会計法上の雑収入になる。雑収入になる場合には臨時の収入扱いになり、得た金額の予算が増える可能性は低い。学校図書館も公立学校の場合には同様の問題が起こる。したがって、有志団体による実施によって資金調達し、本を寄贈する手法が多く取られているのではないだろうか。クラウドファンディングを含め、今後も公立図書館が資金調達の手法を検討していく場合には、地方公共団体の体制づくりも必須となるといえよう。

 

4.5. 大学図書館の事例

 大学図書館は2件であり、東京藝術大学附属図書館と筑波大学附属図書館である。目的は、どちらも蔵書の充実のためであり、実施しているのは大学図書館である。こうした取り組みは、近畿大学(26)や徳島大学(27)でも実施されている。大学図書館では、クラウドファンディングの支援金は大学への寄付金という扱いで運用できる。東京藝術大学附属図書館の場合には、大量に寄贈されたSPレコードの保存箱購入のために実施され(28)、筑波大学附属図書館では図書資料や雑誌資料購入のために実施された(29)。これらのクラウドファンディングを分析してみると、東京藝術大学附属図書館の場合には一時的な資金調達の必要によってクラウドファンディングが実施されたが、筑波大学附属図書館の場合には、継続した資金調達の必要によって実施されていることがわかる。ただし、筑波大学附属図書館の場合は、クラウドファンディングのポータルサイトと筑波大学が提携している(30)。資金調達の手法のひとつとして、大学が継続してクラウドファンディングを実施していく体制づくりが整えられているといえるであろう。

 

4.6. 成立しなかった事例

 その他、クラウドファンディングが成立しなかった事例について調査するため、クラウドファンディングのポータルサイト4サイトで検索を行った。キーワードは「図書館」を使用して募集が終了したものに限定し、サイト内検索を行った。サイト内検索機能がないウェブサイトではGoogleのドメイン指定検索によって検索を行った。結果として、(1)CAMPFIRE 83件、(2)Readyfor 158件、(3)FAAVO 7件、(4)LOCAL GOOD YOKOHAMA 0件が成立していないことが明らかになった。

 4.3.で指摘したように、図書館の整備が充分でない地域であれば、クラウドファンディングは成立している。また、4.4.で指摘したように、図書館の許可を得てクラウドファンディングを実施している場合には成立する可能性が高い。しかし、成立しなかった事例をみてみると、書店やブックカフェとして開店するために図書館という名称を使用した事例が多く見られた。

 図書館によるクラウドファンディングは成立する可能性が高いが、名称に「図書館」という語を使用するだけでは成立しない場合がある。

 

5. クラウドファンディングの意義

 福田によると図書館の資金調達は「まず地域住民や利用者からの支援を幅広く獲得すること」(31)からはじまり、このための活動を図書館アドヴォカシーであるとしている。図書館アドヴォカシーは、いわゆる図書館友の会や日常的な広報活動によって図書館のファンを増やすことである。つまり、資金調達とアドヴォカシーは密接な関係にあるということである。

 松竹大谷図書館ではクラウドファンディングの支援者は全国にいることにふれ、すぐに利用できる地域にいないのに支援してくれたのは「図書館が「あること」に意義を感じて運営の資金を支援」(32)してくれたのではないかとしている。つまり、全国に図書館の支援者がいるということである。松竹大谷図書館のクラウドファンディングは、新聞記事にも多く取り上げられ、また大宅壮一文庫も同様である。松竹大谷図書館では、継続してクラウドファンディングを実施していくことで資料の提供依頼が増え、収入増加につながったという(33)。

 クラウドファンディングによる資金調達は、広報活動と同時に実施されるものであり、松竹大谷図書館の例をみると、クラウドファンディングそのものが図書館アドヴォカシーのための活動といえるであろう。

 

6. おわりに

 本稿では、クラウドファンディングによる図書館の資金調達について事例を主としてまとめた。成立例をみてみると、私立図書館では図書館の設置が充分でない地域で成立しており、公立図書館では有志団体による本の寄贈のケースが多く成立していることが明らかになった。クラウドファンディングは、一時的な資金調達の手法であり、また図書館に資金調達が必要であることを示し、図書館の支援者を可視化することができる手法である。

 クラウドファンディングについてのメリットとデメリットは他の資金調達にもあてはまる。特に、実施した側の職員が資金調達に関わる業務の負担増については、これまであまり注目されてこなかった。また、クラウドファンディングの成立の可否にかかわらず、予算削減のおそれがある。

 安定した図書館運営のためには、地方公共団体や運営団体からの予算が充分に配分されることが望ましい。しかし、税収減などによって予算が充分に配分できない場合には、資金調達のための体制を整備し、クラウドファンディングだけでなく、継続した資金調達と一時的な資金調達の両方を利活用することが重要である。
 

(1)福田都代. 特集, 図書館マネジメントのキーワード: 日本の図書館における資金調達 : 現状と展望. 現代の図書館. 2013, 51(3), p. 126-136.

(2)福田都代. 特集, 図書館の経営経済分析と資金調達: 図書館財政と資金調達の最新動向. 情報の科学と技術. 2008, 58(10), p. 486-491.
https://doi.org/10.18919/jkg.58.10_486 [462], (参照2018-02-14).

(3)前掲.

(4)日本ファンドレイジング協会編. 寄付白書2017. 日本ファンドレイジング協会, 2017, 161p.

(5)福田都代. 特集 図書館マネジメントのキーワード: 日本の図書館における資金調達 : 現状と展望. 現代の図書館. 2013, 51(3), p. 126-136.

(6)「メモリアルブック」制度は、人生の節目や記念日、企業・団体の記念事業等の記念として、本を寄贈してもらう制度を指す。

(7)岡本真, 嶋田綾子. 特集, 図書館とファンドレイジング: 図書館のファンドレイジング事情と傾向. 図書館雑誌. 2014, 108(7), p. 466-468.

(8)ここでの連携とは、図書館がOPACの検索結果のページにオンライン書店へのリンクを付し、オンライン書店のアフィリエイトで収入を得ることを指す。

(9)各手法の事例については以下を参照のこと。
嶋田綾子, 岡本真. 特集, 図書館における資金調達(ファンドレイジング). LRG. 2013, (3), p. 64-154.

(10)鎌倉幸子. 特集, 図書館における資金調達(ファンドレイジング): ファンドレイジング、実践の現場から-図書館×広報×資金調達. LRG. 2013, (4), p. 20-33.

(11)大和田康代, 石津朋之. 特集, 図書館の話題アラカルト: クラウドファンディングによる資料費獲得への取り組み: 図書館員はクラウドファンディングの夢を見るか?. 図書館雑誌. 2017, 111(8), p. 502-503.

(12)深尾昌峰. 特集, クラウドファンディングによる地域活性化: クラウドファンディングが拓く地域づくりの新しい形. 地域開発. 2015, 2015(6・7), p. 2-5.

(13)Kickstarter.
https://www.kickstarter.com/ [463], (参照 2018-02-09).

(14)“Kickstarter リワードレポート ペンシルヴァニア大学による分析”. Kickstarter.
https://www.kickstarter.com/fulfillment [464], (参照 2018-02-03).
Mollick, Ethan R. Delivery Rates on Kickstarter. SSRN. 2015-12-04. 2699251.
https://ssrn.com/abstract=2699251 [465], (accessed 2018-02-09).

(15)CAMPFIRE.
https://camp-fire.jp/ [466], (参照 2018-02-09).

(16)Readyfor.
https://readyfor.jp/ [467], (参照 2018-02-09).

(17)FAAVO.
https://faavo.jp/ [468], (参照 2018-02-09).

(18) LOCAL GOOD YOKOHAMA.
http://yokohama.localgood.jp/ [469], (参照 2018-02-09).

(19)“陸前高田市の空っぽの図書室を本でいっぱいにしようプロジェクト”. Readyfor.
https://readyfor.jp/projects/an_empty_library [470], (参照 2018-02-09).
“いわてを走る移動図書館プロジェクト 図書室の運営”. 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会.
http://sva.or.jp/tohoku/iwate/library.html [471], (参照 2018-02-14).

(20)武藤祥子. 特集, トピックスでつづる専門図書館: 松竹大谷図書館のクラウドファンディング: 運営資金の調達と今後の課題. 図書館雑誌. 2016, 110(5), p. 278-279.

(21)磯谷奈緒子. 特集, 図書館とファンドレイジング: 島根県海士町中央図書館へのクラウドファンディングによる図書購入支援. 図書館雑誌. 2014, 108(7), p. 476-477.

(22)柳沢亮. 仕掛け絵本:子ども利用増に 蔵書1665冊、読書活動を支援 三条市立図書館栄分館. 毎日新聞. 2017-01-17, 朝刊[新潟], p. 25.

(23)“長崎市立図書館開館10周年をみんなで一緒に盛り上げたい!!!”. FAAVO.
https://faavo.jp/nagasaki/project/2304 [472], (参照 2018-02-09).

(24)“めざせ!しかけ絵本日本一プロジェクト”. 三条市. 2016-04-01.
http://www.city.sanjo.niigata.jp/shougaigakushu/page00363.html [473], (参照2018-02-03).

(25)“長崎市立図書館開館10周年をみんなで一緒に盛り上げたい!!!”. FAAVO.
https://faavo.jp/nagasaki/project/2304 [472], (参照 2018-02-09).

(26)“CAMPFIRE×近畿大学”. CAMPFIRE.
https://camp-fire.jp/channels/kindai [474], (参照 2017-12-22).

(27)OTSUCLE[おつくる].
https://otsucle.jp/ [475], (参照 2017-12-22).

(28)“巨匠の響きよ永遠に!藝大に遺されたレコード2万枚の危機を救う”. Readyfor.
https://readyfor.jp/projects/geidailibrarysp [476], (参照 2018-02-03).

(29)“資料費減少で危機。大学図書館に本を購入し若者に十分な学ぶ場を”. Readyfor.
https://readyfor.jp/projects/tsukubauniv-lib [477], (参照 2018-02-03).

(30)大和田, 石津. 前掲.

(31)福田都代. 特集, 図書館の経営経済分析と資金調達: 図書館財政と資金調達の最新動向. 情報の科学と技術. 2008, 58(10), p. 487.
https://doi.org/10.18919/jkg.58.10_486 [462], (参照2018-02-14).

(32)研修委員会. 第15回図書館総合展フォーラム「専門図書館のファンドレイジング: 日米の資金調達の事例報告と今後の課題」. 専門図書館. 2014, (264), p. 70-85.

(33)武藤. 前掲.
 

[受理:2018-02-14]

 


赤山みほ. クラウドファンディングによる図書館の資金調達. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1917, p. 8-12.
http://current.ndl.go.jp/ca1917 [421]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062621 [478]

Akayama Miho
Crowdfunding for Libraries

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CA1918 - 「地方創生レファレンス大賞」3年間の歩み / 糸賀雅児

  • 参照(8282)

PDFファイル [479]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1918



「地方創生レファレンス大賞」3年間の歩み


慶應義塾大学名誉教授:糸賀雅児(いとがまさる)


 「地方創生レファレンス大賞」とは、図書館のレファレンスサービスの認知度を高め、その普及を図るねらいから、文部科学省生涯学習政策局(以下、文科省生涯局と略)が発案し、図書館関係の組織や団体、有識者らに呼びかけて、3年前に創設した表彰制度である。

 

地方創生レファレンス大賞誕生の背景

 創設当時(2014年秋から15年春にかけて)の行政府は国を挙げて「地方創生」に取り組もうとしており、「『東京一極集中』の是正」「若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現」「地域の特性に即した地域課題の解決」(1)などを基本的視点にすえた各種の政策パッケージが動き出そうとしていた。なかでも「地域の特性に即した地域課題の解決」は、図書館界としても、2012年に改正された「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(文部科学省告示第172号)に新たに盛り込まれた事項であり、この種のサービスの提供に関心が高まっていた時期でもあった。

 その一方で、図書館におけるレファレンスサービスは、長年、図書館関係者の間で司書の専門性が発揮される業務と認識され、各地の職員研修のテーマとしても毎年のように実施されているものの、一般社会では、それが図書館で提供されていることすらあまり知られていないのが実情であった。そこで、図書館界にとっては、地域の課題解決に結びつく資料やサービスの提供を通じて図書館が「地方創生」に貢献できる可能性を示すと同時に、広く社会にレファレンスサービスの意義や司書の専門性を訴える良い機会になるとも考えられた。

 文科省生涯局の発案に対し、さっそく2015年1月から、賛同する関係者が断続的に集まって準備を進めた。この年秋の第17回図書館総合展でフォーラムの一つとして公開審査形式で開催するという方向性について早くから合意が得られていた。ところが、レファレンスサービスを審査・表彰するという試みがこれまで無かったこともあり、対象館種や公募方法、審査基準、そして「地方創生」との関係性、等々をめぐって議論を重ねた。

 そもそもレファレンスサービスの実践で優劣を競うこと自体が図書館サービスになじむものなのか、といった意見も出された。さらには、呼びかけた文科省生涯局での担当者の異動もあって、結局、実行組織を立ち上げ、自主応募を原則とする開催要項が決まって募集が開始されたのは、2015年の8月下旬であった。

 

地方創生レファレンス大賞の概要と実行組織

 第1回地方創生レファレンス大賞募集要項(2015年9月告知)では、先に述べたような趣旨の他に、図書館を活用した「調べる学び」は子ども達だけでなく、“生涯にわたり広く国民に必要であることや、図書館が人々による主体的・自律的な課題解決を支援する機関であることを理解していただき、「調査文化」を我が国に根づかせるきっかけ”となるよう実施することが謳われている。

 そのこともあって、応募資格は、組織としての公立図書館に限定されることなく、学校図書館や大学図書館、さらには専門図書館など館種を問わないものとし、これらの図書館を利用する個人や団体(NPO法人、行政職員を含む)など、幅広い国民層が参加しやすく、また関心をもてるよう配慮した。

 また、主催団体は、とにもかくにも、この種の表彰制度を始めてみないと続けられるかどうかわからない、ということもあって「地方創生レファレンス大賞準備委員会」とした(その後、翌2016年にこの準備委員会は、「同実行委員会」に名称を改めている)。そして、この準備委員会には、後援団体として文科省生涯局社会教育課、協賛団体として公益財団法人図書館振興財団、協力組織として図書館総合展運営委員会および同事務局が加わり、他に株式会社図書館総合研究所と株式会社図書館流通センターからも委員が参加することになった。その結果、当初は総勢10人で準備委員会が構成され、その委員長には、事の成り行き上、糸賀が就くこととなった。

 審査については、この準備委員会とは別に、レファレンス業務に精通した研究者や有識者、そして文科省生涯局社会教育課長ともう一つの後援団体である公益社団法人日本図書館協会から役員が入ったうえで、昭和女子大学名誉教授の大串夏身氏を委員長とする審査委員会を設けることとした。応募事例について審査するのは、この審査委員会である。

 この表彰制度は、当初から優れたレファレンス事例を選定し、広く世間に報知することをねらいとしていた。そのため、準備委員会での検討段階から、最優秀と認められる事例には「文部科学大臣賞」を授与する方向で調整を進め、同省内での交付申請手続きを経て、この名称を冠した賞の授与が正式に認められた。他に、優れた実践例に対し、これを奨励する意味合いから、協賛団体の名称を付した賞や審査委員会による特別賞なども授与することとした。

 

過去3回の応募状況と受賞者

 公募による第1回は、募集期間が約1か月ときわめて短かったにもかかわらず、全国から34件の応募があった。館種を越えて公平な審査を行う観点から、応募の書式は統一したものを予め定めておいたが、やはり公立図書館からの応募が26件(利用者との合同応募2件を含む)と多かった。次いで利用者単独(個人および団体)が7件見られ、残りの1件は学校図書館職員からのものであった。また、その内容も、ご当地検定の問題作成のための問い合わせや地元の農作物の特性に関わる調査依頼など、いずれも地方創生に結びつきそうな多様なレファレンス事例が寄せられた。こうした事例を発掘できたことはこの制度の趣旨にかなったものであったし、とりわけ利用者からの応募が少なからずあったことは、この種の表彰制度を設けることの意義を裏づける結果ともなった。

 提出書類にもとづく一次審査により、この年は34件→9件→3件と絞り込んだ。そして、最終審査に残った3件については、図書館総合展フォーラムで審査員と一般聴衆を前にそれぞれ10分間のプレゼンテーションを行い、その後の質疑応答を含めた公開審査で各賞の受賞者を決定した。この公開フォーラムによる審査方式は、第1回から2017年の第3回まで変わっていない。

 その結果、栄えある文部科学大臣賞に選ばれたのは、開催順に次の3件である(2)。

  • 第1回(2015年)
    中心市街地活性化に繋がる図書館活用~マチナカの人・歴史・再発見!~
    受賞者:鳥取市中心市街地活性化協議会タウンマネージャー成清仁士氏
    レファレンスサービスを受けた図書館:鳥取県立図書館
  • 第2回(2016年)
    中山間地域の産業を応援!~岡山県小田郡矢掛町干柿の里の活性化~
    受賞者:岡山県立図書館
  • 第3回(2017年)
    沖縄県系移民一世ルーツ調査(E1981 [480]参照)
    受賞者:沖縄県立図書館

 

 いずれも図書館ならではの地域資料が活用され、レファレンス質問を寄せた利用者個人の課題解決のみならず、地域全体の活性化につながるレファレンス事例が選定されたように思われる。図書館界では利用者を含めた自主応募にもとづく表彰制度が目新しかったこともあって、受賞した館の地元では、メディア報道も盛んになされたことは喜ばしい(3)。

 ただし、これまでの受賞館が、県立図書館を中心とした比較的規模の大きい図書館であって、しかもビジネス支援サービスの一環としてのレファレンス相談が目立った点は、今後への課題と受け止めている。レファレンスサービスの提供は、必ずしも大規模館に限られるわけではないし、そこで扱われる主題やテーマもそして地方創生への広がりも、もっと多様であってよい。当初、規模の大きい図書館による高水準のレファレンス事例が相次いで受賞したこともあって、中小規模の図書館関係者は、その後尻込みしてしまったように見受けられる。

 そのため、第2回(2016年)の応募件数は8件、第3回(2017年)は17件と多くはなかった。これには、それまで蓄積していた好事例を、第1回の公募であらかた出し切ってしまったといった事情があったのかも知れない。それでも、公共図書館だけでなく、ひき続き図書館利用者はじめ、学校図書館、さらには大学附属の研究機関や書店などからも応募があったことは、徐々にこの賞の認知が広まっていることを示しているのではないだろうか。

 

課題と今後の方向性

 これまで3年にわたる公募と書類選考、公開審査の経験を踏まえて、今後、より多くの図書館関係者に関心をもっていただけるよう見直しを進めている。例えば、最終の公開審査のプレゼンテーションを行う3件だけでなく、他の優秀事例も数を限ることなく、最終審査の席上で表彰する予定である。

 また、もともと審査基準は、図書館の規模に関係なく、柔軟な対応ができるようになっているので、今後は中小規模の図書館による地域の暮らしに根ざしたレファレンス事例を積極的に評価していきたい。応募件数の伸び如何では、例えば、館種や蔵書数、職員数などによる部門別審査とするような方向性も、将来考えられる。

 そして、募集要項に謳っているように、図書館を通じた「調べる習慣」「調べる文化」の広範な普及に貢献できるよう、実行委員会として今後も継続してこの事業に取り組んでいきたいと考えている。

 

(1)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局. “まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」. 首相官邸. p. 3.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/panf_vision-sogo.pdf [481], (参照 2018-02-08).

(2)他の受賞者については、次のサイトを参照。
・第1回(2015年)
“地方創生レファレンス大賞 最終審査・授賞発表”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/forum/2015/1832 [482], (参照 2018-02-08).
“「図書館総合展運営委員会フォーラム 地方創生レファレンス大賞」で「公益財団法人図書館振興財団賞」を受賞しました。”. 株式会社ワイズ・リーディング.
http://www.ysreading.co.jp/news/?p=377 [483], (参照 2018-02-09).
公益財団法人図書館振興財団. Facebook. 2015-11-14.
https://www.facebook.com/1510966872491073/posts/1633634326890993 [484], (参照 2018-02-09).
“第17回図書館総合展における地方創生レファレンス大賞「文部科学大臣賞」の受賞について”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/ct/other000004000/siryoteikyo-chihousousei-refa.pdf [485], (参照 2018-02-09).
・第2回(2016年)
“地方創生レファレンス大賞 最終審査・授賞発表”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/forum/2016/4760 [486], (参照 2018-02-08).
“「港北昔ばなし紙芝居」が、地方創生レファレンス大賞で審査員会特別賞を受賞しました!”. 横浜市立図書館.
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/chiiki/kohoku/#161109kamishibai [487], (参照 2018-02-09).
・第3回(2017年)
“【発表】平成29年度地方創生レファレンス大賞”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/news/6695 [488], (参照 2018-02-08).
“「平成29年度地方創生レファレンス大賞」文部科学大臣賞に選ばれました!”. 沖縄県立図書館.
http://www.library.pref.okinawa.jp/detail.jsp?id=40300&type=TopicsTopPage&funcid=2 [489], (参照 2018-02-09).
@OkinawaPrefLib. Twitter. 2017-11-08.
https://twitter.com/OkinawaPrefLib/status/928086020628684800 [490], (参照 2018-02-09).
https://twitter.com/OkinawaPrefLib/status/928094167414091778 [491], (参照 2018-02-09).
https://twitter.com/OkinawaPrefLib/status/928120752791887873 [492], (参照 2018-02-09).

(3)主な報道には、以下のようなものがあった。
・2016年岡山県立図書館
“県立図書館が文科大臣賞 地域活性化に協力 /岡山”. 毎日新聞. 2016-12-15.
http://mainichi.jp/articles/20161215/ddl/k33/040/532000c [493], (参照 2018-02-08).
・2016年横浜市港北図書館
“港北の昔話を紙芝居へ 港北図書館のプロジェクトが「地方創生レファレンス大賞」最終審査に残る”. 港北経済新聞. 2016-11-01.
https://kohoku.keizai.biz/headline/1869/ [494], (参照 2018-02-08).
・2017年沖縄県立図書館
“受賞報道_沖縄01”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/sites/default/files/20171109「琉球新報」(沖縄).pdf [495], (参照 2018-02-08).
・2017年塩尻市立図書館
“受賞報道_塩尻02”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/sites/default/files/20171114「中日新聞長野県版」(塩尻).pdf [496], (参照 2018-02-08).

 

[受理:2018-02-14]


補記:
本稿脱稿後、『図書館雑誌』2018年2月号に、第3回地方創生レファレンス大賞及びその受賞館の取り組みに関する記事が掲載された。記事によると、文部科学大臣賞の受賞館である沖縄県立図書館の取り組みは同誌3月号で紹介される予定である。
 
文部科学省. 霞が関だより 第172回. 図書館雑誌. 2018, 112(2), p. 101-106.
 


糸賀雅児. 「地方創生レファレンス大賞」3年間の歩み. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1918, p. 12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1918 [497]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062622 [498]

Itoga Masaru
Brief History of the Reference Service Award for Regional Revitalization
カレントアウェアネス [25]
地域 [29]
レファレンスサービス [499]
ビジネス支援 [500]
日本 [30]
文部科学省 [164]
図書館振興財団 [501]

CA1919 - ミャンマーにおける図書館文化財の保護活動 / 井手亜里

  • 参照(6852)

PDFファイル [502]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1919

 


ミャンマーにおける図書館文化財の保護活動

 

京都大学大学院工学研究科:井手亜里(いであり)

 

はじめに

 2015年度から2017年度にかけて、京都大学大学院工学研究科井手研究室により、文化庁の委託事業「ミャンマー連邦共和国の文化遺産のデジタル保存に関する拠点交流事業」が実施された。本事業は京都大学が開発した文化財イメージング技術(1)(2)を活用し、ミャンマーの文化遺産の保存、活用のための共同研究と人材育成を目的としている。

 本稿では、特にミャンマー国内の国立図書館および大学図書館との研究交流に焦点を当て、その活動内容を紹介する。本事業は3か年に渡って実施されたが、内在する多くの問題点に気付き、我々にできることは何かを考え続けたプロジェクトであった。

 

1. プロジェクトの背景

 事業期間中特に痛感したのは、ミャンマーにおける図書館と博物館の整備の遅れである(E1536 [503]参照)。その機能は単に遺物収集と展示に終始しており、適切な保存機能と研究設備はほとんど備わっていない。文化財に関する専門的な知識と技術を有する人材は極めて限られており、その限られた人材さえも、2011年の民政移管後のミャンマー国内での文化財関連施設の建設ラッシュに伴う、人的資源の分散が懸念される状態にあった。社会基盤整備の途上にあるミャンマーにとって、文化遺産の保護と継承、教育への貢献は博物館に加えて図書館が果たすべき重要な役割である。

 日本や中国と同様、ミャンマーでは、いわゆる古文書は博物館と図書館にも保存されている。ミャンマー古来の情報伝達手段は、石碑、ヤシの葉などの植物に書かれた文書であるパームリーフマニュスクリプト(貝葉文書)、ミャンマー伝統紙、および金属に彫られた文字(金石文)や絵図である。古代資料の中でも、パームリーフは紙媒体の資料よりさらに歴史が古いと言われており、現在膨大な量のパームリーフの古文書が図書館や寺院などで所蔵されている。信仰心が篤く勤勉な国民性から、貴重な古文書の数々は古来より人々の生活と信仰に密着し、大切に扱われ、長い歴史を経て現在に至る。

 ミャンマー国内の図書館に所属する研究者たちは、そのような自国の貴重な古文書の重要性と管理体制の脆弱さを認識しながらも、保護対策が何らとられていないことに強い危機感を抱いていた。我々はパームリーフを含む貴重な文化財を保護することの重要性を、文化庁やミャンマーの文化省や教育省、ヤンゴン大学をはじめとする関係機関に訴え続け、最先端のデジタル技術を用いた科学記録(3)(4)(5)の技術移転と人材育成をミャンマー国内で広く実施したのである。

 

2. プロジェクトの実施内容

2.1. 国立図書館(ネピドー)でのデジタル化支援事業

 首都ネピドーに置かれた国立図書館と京都大学は、共同プロジェクトを通じ文化財デジタル化の技術移転と人材育成を2015年4月から行ってきた。国立図書館が、古文書のデジタル化に積極的な背景には以下の理由がある。

 第一に、研究者が最も切望していることは、一般の人々の情報へのアクセスを容易にし、その機会を増やすことである。古文書に記されている情報には、先人の残した歴史の記録だけではなく、医学をはじめ、宗教、天文学、文学、工学等のあらゆる領域の知見が凝縮されている。その特別なコレクションにアクセスしたいという要望は根強いが、現状ではアクセスの機会を作ることは容易ではなく、まだ存在が確認されていない古文書が国内に散在している状況である。古文書の収集保存とデジタル化は喫緊の課題である。もう一つの大きな理由は、取り扱いに細心の注意が必要な、壊れやすい原資料の複製物を作成したいという点である。

 プロジェクト2年目の2016年には国立図書館内に「ミャンマー古文書保護センター」が設立された。これは本事業がきっかけとなり国立図書館が主体となって、ミャンマー文化大臣の強い支援を得て、京都大学プロジェクトチームの技術指導の下で実現した(6)。現在、国立図書館は古文書の収集、保存、デジタル化に向け積極的に動き始めている。

 

図1 ミャンマー国内各地の寺院からのパームリーフが集められ、
図書館内の古文書保護センターで整理されている様子(国立図書館提供)。

 

2.2. 若手研究者の日本への招聘

 プロジェクト3年目の2017年7月には、国立図書館の若手研究者3人を日本に招聘し、古文書保存のための先進デジタル技術の習得と日本の図書館視察を目的とした研修プログラム、「電子図書館と古文書保存のための先進デジタル技術」(The advanced Digital Technology for Libraries (e-Library) and protection of very old documents)(7)を実施した。

 ネピドーには2016年に京都大学との共同研究拠点を国立図書館に隣接する国立博物館内に開設しており、文化財の高解像度高速記録のための専用スキャナを設置している。同プログラムでは、その先進機器を扱う技術と知識の習得、撮影したデジタル画像の評価と色彩科学に関する知識と実践的手法の習得、自国において自らリーダーとなり、教育活動を行う専門的ノウハウの取得を具体的達成目標とした。また京都大学附属図書館、京都府立図書館、国立国会図書館(NDL)をはじめ、その他の大学図書館や図書館関連企業などを視察した。研究者たちはそれらの実情に触れ、来るべき図書館電子化時代に向け、日本の近代的図書館の最新知識・技術を自国に持ち帰った。

 

図2 日本での研修プログラムの様子

 

 さらに、上記研修プログラムを修了した研究者たちが、2017年9月自国において国立図書館職員を対象とした、文化財のデジタル保存のためのワークショップ(8)を開講した。同プログラムにおける人材育成活動は博物館と図書館の双方を対象としたが、ミャンマー国内では図書館の横のつながりが大変強く、教育の場としての役割が大きかったため、結果的にパームリーフ保護保存事業に関しては、図書館を中心に行うこととなった。

 人材不足が深刻なミャンマーの文化財の現場において、このようなミャンマー人によるミャンマー人のための人材育成が草の根的な広がりを見せはじめていることは、本プログラムにおける大きな成果の一つとして特筆すべきことである。

 

図3 ミャンマーでのワークショップの様子

 

 ミャンマーの図書館は、古文書の場の提供を目指している。そして、文化財の情報源にアクセスする権利を全国民に保障し、教育活動に広く活用してもらうことを、国立図書館として強く望んでいる。ミャンマーの研究者が文化財のデジタルアーカイブ化と人材育成に取り組む姿に、筆者は強い感銘を受けた。

 

3. 文化財専用スキャナを用いた共同実験

 京都大学大学院工学研究科とヤンゴン大学中央図書館の共同研究による研究成果を紹介しよう。ミャンマー国内は電力の供給が不安定で停電も多く、場所によっては電力供給そのものが無い。仏塔や寺院の中には障壁画や天井画、石仏、石碑など、貴重な文化財が屋外で暗闇の中に保存されている。

 2017年9月、電源の無い場所を想定した、高精細デジタル撮影と、三次元計測の共同実験を、同館所蔵の石碑を対象に実施した。スキャナはレンズカメラの重力を利用して落下させ、電力供給無しに、撮影距離と撮影間隔を一定に保持したまま連続撮影する機構のものを使った。これはミャンマーだけでなく、世界中の電力供給がない洞窟の中や足場の悪い屋外といった過酷な撮影現場を想定して、当研究室が開発した文化財専用スキャナである。今回の撮影対象は図書館所蔵の石碑であり、図書館サイドからの強い要望もあり高精細な2D平面画像の作成と3D立体の再現を行った。その結果、石碑に刻まれた文字は陰影をもってくっきりと浮かび上がった。ミャンマーでは、今後も本技術の活用が研究者の間で大きく期待されている。

 

図4 ヤンゴン大学中央図書館の石碑の高精細デジタル撮影の様子

 

おわりに

 開発途上にあるミャンマーに対して、文化財保護のためにできる支援は多様な形があるだろうが、先端イメージング技術を応用する我々独自のアプローチが、文化財の適切な保存と未来への継承につながることを強く望んでやまない。

 

(1)井手亜里. 小特集 文化財と映像技術: 4.文化財計測用高解像度スキャナ~その後の展開~. 映像情報メディア学会誌. 2010, 64(6), p. 778-782.

(2)井手亜里. 特集 デジタルアーカイブ: 2.高精細デジタル化のための最新技術 2-4. 文化財専用高精細大容量画像の入力・分析・表示・総合システム構築. 映像情報メディア学会誌. 2007, 61(11), p. 1562-1566.

(3)「科学記録」は、映像情報を記録しデジタルデータとして残す際に用いられる用語である。科学記録は再現性を重視する点で、単なる「映像記録」と区別される。分光反射情報を記録することで再現性を高め、経年変化の影響を最小限にすることを目指す。分光反射情報については、以下を参照。
Toque, Jay Arre; Sakatoku, Yuji; Ide-Ektessabi, Ari. “Pigment identification by analytical imaging using multispectral images”. Proceedings 2009 IEEE International Conference on Image Processing (ICIP ’09), Cairo, Egypt, 2009-11-07/12. 2009. p. 2861-2864.
https://doi.org/10.1109/ICIP.2009.5414508 [504], (accessed 2018-02-15).

(4)Ide-Ektessabi, Ari; Toque, Jay Arre; Murayama, Yusuke. “Development of Digital image scanners and spectroscopic analysis of Asian paintings”. Science for Conservation of Cultural Heritage. Ed. Kamba, N.; Menu, M., Editions Herman, 2012, p. 75-87.

(5)Toque, Jay Arre; Sakatoku, Yuji; Ide-Ektessabi, Ari. “Analytical imaging of cultural heritage paintings using digitally archived images”. Computer vision and image analysis of art : 18-19 January 2010 : San Jose, California, United States. : technical conference computer vision and image analysis of art : IS&T/SPIE electronic imaging symposium : Jan 2010, San Jose, CA. 2010, 75310N1-7530N10, (Proceedings of SPIE, Vol. 7531).

(6)「ミャンマー古文書保護センター」に関して、国立図書館と京都大学プロジェクトチームとの連携は2017年度も継続しており、同センターの設立を記念したメモリアルカンファレンスを2018年2月にヤンゴンの国立図書館で実施した。

(7)同プログラムは京都大学の招聘プログラムとして実施された。実施報告書は井手亜里『平成29年度文化遺産国際協力拠点交流事業「ミャンマー連邦共和国の文化遺産のデジタル保存展示に関する拠点交流事業」成果報告書』として2018年中に公開予定である。

(8)詳細は、井手亜里『平成29年度文化遺産国際協力拠点交流事業「ミャンマー連邦共和国の文化遺産のデジタル保存展示に関する拠点交流事業」成果報告書』を参照。

 
[受理:2018-02-15]

 


井手亜里. ミャンマーにおける図書館文化財の保護活動. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1919, p. 15-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1919 [505]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062623 [506]

Ari Ide-Ektessabi
Scientific Approach to the Preservation of Old Manuscripts in Myanmar Libraries

カレントアウェアネス [25]
デジタル化 [507]
研修 [508]
貴重書 [509]
資料保存 [320]
ミャンマー [510]
国立図書館 [47]
大学図書館 [239]
博物館 [511]

CA1920 - 熊本大学附属図書館「熊本地震ライブラリ」の取り組みについて / 柿原友紀,廣田 桂,米村達朗

  • 参照(7962)

PDFファイル [512]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1920


 

熊本大学附属図書館「熊本地震ライブラリ」の取り組みについて


熊本大学附属図書館:柿原友紀(かきはらゆき)
熊本大学附属図書館:廣田 桂(ひろたけい)
熊本大学附属図書館:米村達朗(よねむらたつろう)

 

 「平成28年熊本地震」の発生以降、熊本県内では複数の図書館で震災関連資料の収集が行われている(E1886 [513]参照)。熊本大学附属図書館では、「熊本地震ライブラリ」として熊本地震に関する資料の収集・保存・公開を進めている。本稿では、地震発生から約1年8か月が経過するまでの当館の取り組みについて報告する。

 

1. 震災記録ワーキンググループの発足

 2016年4月14日以降に発生した一連の熊本地震により、当館では施設や蔵書に被害を受けた(1)。発災当初から館内の復旧を進めると共に、阪神・淡路大震災や東日本大震災等における各図書館の震災資料の収集と公開について調査を行った。2016年6月21日に震災記録ワーキンググループ(以下「震災記録WG」という。)を発足させた。震災記録WGは震災資料の収集・保存・公開に関する方針を策定し、通常業務とするまでの一時的な体制として、2016年度は図書館職員6人、2017年度は8人で活動を行っている。

 震災記録WGによる検討の結果、方針を「平成28年熊本地震に関連した各種資料を収集、保存し、公開することで、資料をご提供いただいた方と、将来それを必要とする方々との橋渡しをすること」とした。前震発生から3か月後の2016年7月14日に当館ウェブサイトで震災資料の提供を広く呼びかけた(2)。2016年10月14日には「熊本地震ライブラリ」として収集した資料の館内展示を行うと共に熊本地震関連リンク集として「熊本地震ライブラリweb版」(以下「web版」という。)を公開した(3)。館内展示点数の推移は表1、web版のリンク機関数の推移は表2のとおりである。

 

表1 館内展示数の推移

  開設時
2016/10/14
開設6か月後
2017/4/14
開設1年後
2017/10/14
図書・雑誌 11 45 299
広報誌等(パンフレット類) 54 154 205
視聴覚資料 0 1 2
新聞 0 0 16
計 65 200 522
出典:熊本地震ライブラリweb版より

 

表2 web版リンク機関数推移

  開設時
2016/10/14
開設6か月後
2017/4/14
開設1年後
2017/10/14
大学等教育研究の機関 37 73 74
国・県・市町村の機関等 13 35 72
企業・公益社団法人・NPO法人等 0 12 14
計 50 120 160
出典:熊本地震ライブラリweb版より

 

2. 震災資料の収集

 収集開始当初は、学内での周知活動や地元新聞に記事(4)が掲載されることにより、いくつかの論文や発表資料、近隣市町村の広報誌、個人の手記等の寄贈を受けた。熊本県内では複数の公共図書館で震災資料の収集を表明する動きが見られ、熊本県においても熊本地震に関するデジタルアーカイブ事業に着手することが発表された(5) (6)。大学図書館である当館では大学等の教育研究機関による学術的な資料を中心に収集し、並行して前述の広報誌や避難生活について書かれた実用書等の生活に関連した資料、チラシ、パンフレット類も収集することとした。

 発災直後は図書や論文等の冊子体資料の発行が少なかったが、ウェブ上では各機関による熊本地震に対する支援活動報告が多く見られた。そこで、全国の大学や地方公共団体のウェブサイトを中心とした情報収集を行い、熊本地震関連リンク集を作成することを計画した。熊本地震に関する記載があれば、各機関に対して当館でのリンク集作成とウェブページ保存の可否を照会した。また、館内展示用の資料として、冊子体資料があれば寄贈を依頼し、ない場合は当館によるウェブページの印刷と館内での提供の可否について照会した。このリンク集を上述のweb版として公開した。

 web版の作成と並行して、当館で契約している新聞記事データベース、他館のOPAC、書店のウェブサイト、地元書店の店頭等を調査し、震災資料の発行情報を得て積極的に震災資料の収集を行った。雑誌等の市販の定期刊行物については、熊本地震が特集されている号を中心に購入したが、既に品切れとなり入手できていないものもある。新聞は、従来から購入していたものを、当館で定める通常の保存期間を超えて、震災資料として保存することとした。

 2016年8月に熊本県内の地方公共団体および公共図書館に郵送による資料提供依頼を行い、広報誌等の寄贈を受けた。2016年10月から11月にかけて、本学学生へ向けて学内メールシステムおよびTwitterを活用して震災資料収集について周知を行った。また、同時期に開催された本学の学園祭では熊本地震に関連した企画が多く見られたため、各ブースへ足を運び震災資料の提供を依頼した。それらの活動の結果、本学学生が撮影した写真のデータや、震災体験記のマンガのデータ等の寄贈を受けた。

 資料の寄贈依頼は震災記録WGのメンバーで分担して行い、重複して依頼することがないよう発行元ごとの一覧表を作成し、管理している。震災資料収集の趣旨に理解を示し、快く寄贈してもらうことが多く、感謝している。図書館職員が公共施設等に出向いた際にも、配布されているチラシやパンフレット等を震災資料として収集するようにしている。

 2017年7月10日の「図書館総合展2017フォーラムin熊本」(E1940 [514]参照)での講演によると、発災から1年を経過した時点が、二次資料が発行されるピークであるという(7)。そのため、現在も引き続き資料の収集に力を入れている。

 

3. 震災資料の整理と公開

 先に述べたとおり、2016年10月14日に当館の中央館2階に「熊本地震ライブラリ」館内展示コーナーを設置した(8)。震災資料の収集について周知するため利用者の動線上に配置し、資料の収集状況にあわせて展示内容を随時更新している。上述の学生が撮影した写真のデータは印刷し、震災体験記のマンガはパネルにして展示している。資料の増加に伴い、2017年4月14日には中央館1階に移設し、展示パネルを増設した(9)。

 冊子体の図書や雑誌は日本十進分類法(NDC)による分類を行い、図書館システムに書誌情報を作成し、所蔵情報を登録して熊本大学附属図書館のOPACで検索できるようにしている(10)。雑誌のタイトルや特集名だけでは震災資料と分からないようなものは、該当記事のタイトルを書誌データに採録している。いつでも図書館内で閲覧できるように、また末永く保存・公開するために、登録した資料は貸出を行っていない。

 パンフレット類は図書館システムへの登録を行わずリストを作成し、発行元ごとにパンフレットボックスに入れて配架している。チラシ等の1枚ものの資料は分類・整理方法の確定後に公開していく予定である。資料の形態を問わず、実際の利用につなげていくために、書誌データの作成や資料提供の方法を検討する必要がある。

 

4. 熊本地震ライブラリの効果

 熊本大学では、震災後に「熊本復興支援プロジェクト」(11)が設置され、本学に所属する多くの研究者が地域復興に取り組んでいる。本学の研究者が関係する熊本地震関連のシンポジウムや講演会が学内外で多数開催されると共に、著作や論文として多くの研究成果が発表されている。当館では、従来から本学に所属する研究者の研究成果を収集し、熊本大学学術リポジトリ(以下「リポジトリ」という。)上で広く公開している。震災資料収集の過程で発行が確認された本学研究者による著作については、重点的にリポジトリへの登録を行っている。「熊本地震ライブラリ」の構築を進めることが、本学の研究成果を発信することにもつながっている。

 

5. 今後に向けて

 今後も震災資料の収集を長く継続していくために、業務マニュアル等の整備を進め、できるだけ早期に通常業務として位置づける予定である。また、当館単独の収集のみならず、熊本大学内、熊本県内の各機関、震災資料の収集を実施している県外の機関と情報交換を行い、今後の収集と利活用について検討したい(12)。「熊本地震ライブラリ」の認知度を高め、教育や研究に活用してもらい、その成果物を再び震災資料として収集し、必要とする人へ提供できるような循環を作っていきたい。

 

(1)澤田敬. 「平成28年熊本地震」業務記録. 熊本大学附属図書館, 2017, 87p.
http://hdl.handle.net/2298/36463 [515], (参照 2017-12-21).

(2)“「平成28年熊本地震」に関する資料のご提供について(お願い)”. 熊本大学附属図書館. 2016-07-14.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/2075 [516], (参照 2017-12-21).

(3)熊本地震ライブラリweb版.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/local/kjl/index.html [517], (参照 2017-12-21).

(4)地震関連資料 寄贈を 熊本大図書館 呼び掛け. 熊本日日新聞. 2016-07-16, 朝刊, p. 27.

(5)熊本地震の記録 デジタル保存 公開へ 県、本年度から新事業 防災教育に活用. 熊本日日新聞. 2016-09-09, 朝刊, p. 4.

(6) 2017年4月19日に「熊本地震デジタルアーカイブ」が公開された。
“「熊本地震デジタルアーカイブ」サイトを公開します。”. 熊本県. 2017-04-19.
http://www.pref.kumamoto.jp/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=3&id=19487&sub_id=1&flid=104096 [518], (参照 2018-02-01).
熊本地震デジタルアーカイブ.
http://www.kumamoto-archive.jp/ [519], (参照2018-01-25).

(7)堀田弥生. “「災害の記録を防災の糧に」~災害アーカイブの在り方~”. 図書館総合展運営委員会. 2017. p. 2.
http://dil.bosai.go.jp/link/archive/pdf/20170710_libfair_hotta.pdf [520], (参照 2017-12-21).

(8)“「熊本地震ライブラリ」を公開しました”. 熊本大学附属図書館.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/2168 [521], (参照2017-12-21).

(9)“「熊本地震ライブラリ」館内展示を移設しました”. 熊本大学附属図書館.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/news/2288 [522], (参照2017-12-21).

(10)「熊本大学」の項目では、「熊本地震ライブラリ」コーナーに設置している資料を一括検索できるリンクと、熊本大学学術リポジトリに登録されている熊本地震に関連する資料を一括検索できるリンクを紹介している。
“熊本大学”. 熊本地震ライブラリ.
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/local/kjl/1/109006.html [523], (参照 2017-12-21).

(11)“熊本復興支援プロジェクト始動~平成28年(2016年)熊本地震からの復興のために熊大ができること~”. 熊本大学.
http://www.kumamoto-u.ac.jp/syakairenkei/sangakukan/fukkosienproject/fukkoproject [524], (参照 2017-12-21).

(12)当館は2017年4月14日に、国立研究開発法人防災科学技術研究所総合防災情報センター自然災害情報室が運営する「災害資料アーカイブを構築する機関のためのメーリングリスト」に参加した。
“災害資料アーカイブ機関の連携”. 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 自然災害情報室.
http://dil.bosai.go.jp/link/archive/index.html [525], (参照2017-12-21).

 

[受理:2018-02-05]

 


柿原友紀, 廣田 桂, 米村達朗. 熊本大学附属図書館「熊本地震ライブラリ」の取り組みについて. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1920, p. 17-19.
http://current.ndl.go.jp/ca1920 [526]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062624 [527]

Kakihara Yuki, Hirota Kei, Yonemura Tatsurou
Activities on the Kumamoto Earthquake Materials Collection of Kumamoto University Library

カレントアウェアネス [25]
災害 [319]
ウェブサイト [528]
震災 [529]
地域資料 [530]
日本 [30]
大学図書館 [239]

CA1921 - 「欧州オープンサイエンスクラウド」をめぐる動向 / 尾城孝一

  • 参照(7019)

PDFファイル [531]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日


CA1921

 


「欧州オープンサイエンスクラウド」をめぐる動向

 

国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター:尾城孝一(おじろこういち)

 

1. はじめに

 2013年6月にG8の科学大臣会合が開催され、そこで研究データのオープン化を確約する共同声明(1)に各国が調印したことを皮切りとして、国や地域共同体のレベルでの研究データ基盤の構築が加速している。

 例えば、米国では複数の大学図書館、データセンター、プロジェクト、出版者などがコンソーシアムを形成し、分野を横断してデータを発見し、再利用し、出版するための基盤である“National Data Service”の構築を開始している(2)。英国ではJiscが“Research data shared service”というプロジェクトを進めている(3)。また、オーストラリアも“National Collaborative Research Infrastructure Strategy (NCRIS)”(4)という国家的な研究インフラ整備戦略に基づき、Australian National Data Service(ANDS)(5)が研究データの管理、発見、多様な利活用を通じて、研究データを国の戦略的な資源とするためのサービスを展開している。さらに、ドイツ(6)やフィンランド(7)でも研究データの管理と公開のための基盤整備が進んでいる。

 日本でも、2017年4月に国立情報学研究所(NII)に新設されたオープンサイエンス基盤研究センター(8)を中心として、オープンサイエンス推進のための研究データ基盤構築が始まっている。この基盤は、研究データの「管理」、「公開」、「検索」を支える3つのプラットフォームから構成される。これらを有機的に繋げることで,オープンサイエンス時代の研究ワークフローを支える研究環境の提供を目指している(E1925 [532]参照)。

 こうした潮流の中で、欧州でも欧州委員会(EC)によって2015年から「欧州オープンサイエンスクラウド(European Open Science Cloud:EOSC)」(9)の構築が進められている。ECは、2015年5月に、デジタル技術に基づいて経済の向上を実現するデジタル単一市場戦略(Digital Single Market Strategy:DSM)を発表した。DSMでは、5億を超える人々が活動する市場に対して、情報通信基盤の整備、雇用創出、公的サービスの変化などを通じて年間4,150億ユーロ規模の経済効果を見込んでいる(10)。EOSCもこのDSM構想の中に位置づけられており、その整備のために欧州の研究・イノベーションのフレームワークであるHorizon 2020から20億ユーロ、さらに他の公的資金と民間の資金から47億ユーロが投資される(11)。

 2016年10月11日、EOSCに関する高度専門家グループ(High Level Expert Group)は、EOSC実現のためのロードマップを設計することを目的とした報告書“Realising the European Open Science Cloud”(12)を公表した(13)。

 本稿では、本報告書に基づきEOSCがめざす姿の輪郭を描く。さらに、報告書公表以降のEOSCをめぐるさまざまな動向についても触れる。

 

2. 報告書の概要

2.1. EOSCの目的と定義

 EOSCは、デジタル単一市場における、より効果的なオープンサイエンスおよびオープンイノベーションへの移行を加速し、支援することを目的とする。サービスおよびシステムへの信頼度の高いアクセスや、分野、社会、地理的境界を越えて共有される研究データの再利用を可能とするための基盤である。

 本報告書では、EOSCは欧州諸国の既存の基盤をベースとして、研究データの共有や再利用を実現するための統合環境と定義されている。既存の基盤には、ハイパフォーマンス・コンピューティングの基盤であるEUDAT(14)、広帯域ネットワークを提供するGÉANT (15)、研究図書館コミュニティのLIBER(16)、リポジトリ連携の取組みであるOpenAIRE(17)、クラウドサービスやデータセンターの連合体のEGI(18)等が含まれる(19)。また、EOSCは第一義的には欧州のインフラであるが、他国のインフラとも相互に連携し、世界各地からアクセスできる基盤であるとされている。こうした基盤を実現するためには、技術のみならず、専門知識、さまざまな資源、標準、ベストプラクティスなどが必要である。

 

2.2. 現状認識と課題

 本報告書の中で示された現状認識と課題は以下のとおりである。

 EOSCを機能させるための技術的な課題は、データのサイズの問題ではなく、さまざまな研究分野のデータの多様性とその分析手法の複雑さに由来するものである。また、論文を偏重する時代遅れの評価や資金配分の仕組みが、データの効果的な公開や再利用を阻害している。

 人材に関する課題としては、まずEU内に限らず世界的にデータを扱う専門家が不足していることを挙げることができる。また、電子的な基盤(e-infrastructure)の提供者と研究者の間を取り持つ仲介者が不足していることにより、両者の間に深い溝が生まれている。

 EOSCを構築するために必要とされる基盤や構成要素のほとんどは既に存在している。しかしながら、それらの要素がEU加盟国や研究コミュニティに分散し、断片化していることが問題であり、加盟国や研究分野を横断する調整のための仕組みが欠けていることも大きな課題のひとつとなっている。

 

2.3. 勧告

 本報告書では、高度専門家グループからの勧告が、政策、ガバナンス、実装の3点から述べられている。以下の通り、勧告の内容を項目ごとにまとめる。

 

2.3.1. 政策に関する勧告

 EOSCが不可欠な基盤であることは自明のことであり、その必要性に関する議論はもはや不要である。EOSCを構築するための基盤や専門知識は既に存在しているが、問題はそれらの構成要素が断片化され、要素間の連携が欠如していることである。この問題に留意しつつ、EU加盟国の緊密な連携の下に、EOSCの実現をめざして積極的な取り組みを直ちに開始するべきである。また、EOSCを通じて、オープンなプロトコルに基づき、FAIR原則(20)に則ったデータの再利用やそのためのサービスの地球規模のネットワーク(Internet of FAIR Data and Services:IFDS)(21)を創出することを目指す。このEOSCが果たす役割をEUによる貢献として位置付けることが重要であるとしている。

 

2.3.2 ガバナンスに関する勧告

 EOSCのガバナンスにはできるだけ簡素な仕組みを導入し、効率的な国際協調を促すべきである。また、EOSCは全ての関係者に対して開かれたシステムであるが、サービス提供者に対しては、参入するための必要最低限のガイドを示す。

 

2.3.3 実装に関する勧告

 EOSCがカバーする範囲を明確にするため、高度専門家グループの報告書を実装のための高度な指針へと転換する。それに基づき、EOSCの初期開発に対応するための明確な実行計画を策定し、そのための新たな資金計画を導入する。また、欧州における中核的なデータ専門家を育成するための協調的な取り組みに資金を提供する。

 

3. EOSCをめぐる最新動向

3.1. EOSCpilot

 2017年1月17日から18日にかけて、オランダのアムステルダムで、EOSCのパイロットプロジェクト(EOSCpilot)のキックオフ会合が開催された(22)。このプロジェクトは、EOSCの初期開発段階を支援するためのプロジェクトで、33の団体と15の第三者機関が参加するコンソーシアム(23)によって進められている。同プロジェクトは、(1)全ての研究分野を横断してデータへのアクセスを容易にすること、(2)EOSCの利用規則を制定するためのガバナンスとビジネスモデルを確立すること、(3)研究データ、知識、サービスのための分野横断型のイノベーション環境を創出すること、(4)研究データの相互運用性を高めるためのグローバルスタンダードを策定すること、を使命としている。現在、地球環境科学、高エネルギー物理学、社会科学、生命科学、物理学などの分野に関連する10のデモシステム(24)がEOSCpilotのウェブサイト上で公開されている。

 

3.2. EOSC宣言

 2017年6月12日、EOSCサミット(25)がベルギーのブリュッセルで開催された。このサミットにおいて、EOSCの主要な関係者が研究データへのデジタルアクセスを実現するという計画に対して合意し、EOSC宣言(26)が採択された。EOSC宣言は、「データ文化とFAIRデータ」、「研究データサービスとアーキテクチャー」、「ガバナンスと資金配分」という3つの章から構成され、合わせて33項目の宣言が示されている。

 その後、2017年10月26日にECはこの宣言を正式に公表し、2020年までにEOSCを実現するために、すべての利害関係者に対して宣言に同意することを求めた(27)。これまでに、69の機関や団体の代表者が署名している(2017年11月24日現在)(28)。

 

3.3. 新たな高度専門家グループ

 2017年6月21日、ECはEOSCに関する新たな高度専門家グループを設置した(29)。このグループは、さまざまなプロジェクトやイニシアチブと連携しつつ、2018年末にEOSC実現のための方策について提言する最終報告書をまとめることになっている。

 

3.4. EOSC-hub

 EOSC-hub(30)はEGI、EUDAT、INDIGO-DataCloud(31)の調整の下、74の提携機関が参加するプロジェクトであり、2018年初めから本格的な活動を開始することになっている。

 EOSC-hubの使命は、国や分野を超えた研究データのシステムやサービスに対する境目のないオープンなアクセスを可能とすることにより、EOSCの実装に貢献することとされている。この使命を達成するために、EOSC-hubは、EGI、EUDAT、INDIGO-DataCloud、その他の主要な研究基盤が提供するサービス、ソフトウェア、データのカタログを配信する予定である。

 

4. おわりに

 EOSCは、全ての研究者が巨大なバーチャル・リポジトリにログインし、あらゆる公的な研究資金により生み出された集合データにアクセスできるようにしようという野心的な計画である。しかしながら、その計画があまりに壮大で、全体像を把握することが困難なことから、参加者たちはその実現に至る明確な道筋を見通せないでいるようだ(32)。高度専門家グループの報告書が公表されて以来、EOSCpilotやEOSC-hubに見るように、基盤間の連携を探る動きが始まっている。一方、EOSCのガバナンスについては、原則は示されているものの、その具体的な姿はいまだに見えていない。EOSCの利害関係者は、公的な組織・機関のみならず、学協会、民間ベンダー、商業出版社など多岐にわたっている。ガバナンスの具体化については議論が積み重ねられているが、関係者間の複雑な利害を調整し、ガバナンスやルールを確立することは容易ではないようだ(33)。

 果たしてEOSCは、協調した分散主義に基づき、分野、社会、地理的境界を越えて、研究データの共有や再利用を可能とするコモンズを構築するという理念を実現できるのか。あるいは、無秩序で散発的なシステム連携の乱立に終わるのか。早くも正念場を迎えているという印象を受ける。いずれにしても、この壮大な計画とその進展、それらをめぐる議論から今後も目が離せない。

 

(1) “G8 Science Ministers Statement London UK, 12 June 2013”. GOV.UK.
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/206801/G8_Science_Meeting_Statement_12_June_2013.pdf [533], (accessed 2018-02-13).

(2) National Data Service.
http://www.nationaldataservice.org/ [534], (accessed 2018-02-13).

(3) “Research data shared service”. Jisc.
https://www.jisc.ac.uk/rd/projects/research-data-shared-service [535], (accessed 2018-02-13).

(4) “National Collaborative Research Infrastructure Strategy (NCRIS)”. NCRIS.
https://www.education.gov.au/national-collaborative-research-infrastructure-strategy-ncris [536], (accessed 2018-02-13).

(5) “Australian National Data Service (ANDS)”. ANDS.
https://docs.education.gov.au/node/34013 [537], (accessed 2018-02-13).

(6) “The Council”. Rat für Informationsinfrastrukturen (RfII).
http://www.rfii.de/en/category/the-council/ [538], (accessed 2018-02-13).

(7) Open Science and Research.
https://openscience.fi/ [539], (accessed 2018-02-13).

(8) 国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター.
https://rcos.nii.ac.jp/ [540], (参照 2018-02-13).

(9) “European Open Science Cloud”. EC.
https://ec.europa.eu/research/openscience/index.cfm?pg=open-science-cloud [541], (accessed 2018-02-13).

(10) “Shaping the Digital Single Market”. EC.
https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/policies/shaping-digital-single-market [542], (accessed 2017-12-27).

(11) 村山泰啓, 林和弘. 欧州オープンサイエンスクラウドに見るオープンサイエンス及び研究データ基盤政策の展望. STI Horizon. 2016, 2(3), p. 49-54.
https://doi.org/10.15108/stih.00044 [543], (参照2018-02-13).

(12) “Realising the European Open Science Cloud: First report and recommendations of the Commission High Level Expert Group on the European Open Science Cloud”. EC. 2016.
https://ec.europa.eu/research/openscience/pdf/realising_the_european_open_science_cloud_2016.pdf [544], (accessed 2018-02-13).

(13) European Open Science Cloud. “High Level Expert Group”. EC.
https://ec.europa.eu/research/openscience/index.cfm?pg=open-science-cloud-hleg [545], (accessed 2018-02-13).

(14) EUDAT.
https://www.eudat.eu/ [546], (accessed 2018-02-13).

(15) GÉANT.
https://www.geant.org/ [547], (accessed 2018-02-13).

(16) LIBER.
http://libereurope.eu/ [548], (accessed 2018-02-13).

(17) OpenAIRE.
https://www.openaire.eu/ [549], (accessed 2018-02-13).

(18) EGI.
https://www.egi.eu/ [550], (accessed 2018-02-13).

(19) 村山, 林. 前掲.

(20) “FAIR Data Principles”. Force11.
https://www.force11.org/group/fairgroup/fairprinciples [551], (accessed 2018-02-13).

(21) “Internet of FAIR Data & Services(IFDS)”. GO FAIR.
https://www.go-fair.org/resources/internet-fair-data-services/ [552], (accessed 2018-02-13).

(22) “European Open Science Cloud Pilot Project Kicks Off”. LIBER. 2017-01-19.
http://libereurope.eu/blog/2017/01/19/european-open-science-cloud-kicks-off/ [553], (accessed 2018-02-13).

(23) EOSCpilot.
https://eoscpilot.eu/ [554], (accessed 2018-02-13).

(24) “Science Demonstrators”. EOSCpilot.
https://eoscpilot.eu/science-demonstrators [555], (accessed 2018-02-13).

(25) “European Open Science Cloud Summit”. EC.
http://ec.europa.eu/research/index.cfm?eventcode=44D86060-FBA1-1BD1-9355822B162BB0EE&pg=events [556], (accessed 2018-02-13).

(26) “EOSC Declaration”. EC. 2017-10-26.
https://ec.europa.eu/research/openscience/pdf/eosc_declaration.pdf [557], (accessed 2018-02-13).

(27) “EOSC Declaration”. EC. 2017-10-26.
https://ec.europa.eu/research/openscience/index.cfm?pg=open-science-cloud [541], (accessed 2018-02-13).

(28) “List of institutions endorsing the EOSC Declaration”. EC. 2017-11-14.
https://ec.europa.eu/research/openscience/pdf/list_of_institutions_endorsing_the_eosc_declaration.pdf [558], (accessed 2018-02-13).

(29) European Open Science Cloud. “High Level Expert Group”. EC.
https://ec.europa.eu/research/openscience/index.cfm?pg=open-science-cloud-hleg [545], (accessed 2018-02-13).

(30) “Introducing the EOSC-hub project”. EGI.
https://www.egi.eu/about/newsletters/introducing-the-eosc-hub-project/ [559], (accessed 2018-02-13).

(31) INDIGO-DataCloud.
https://www.indigo-datacloud.eu/ [560], (accessed 2018-02-13).

(32)The wisdom of clouds. Nature. 2017, 546, p. 451.
https://www.nature.com/polopoly_fs/1.22179!/menu/main/topColumns/topLeftColumn/pdf/546451a.pdf [561], (accessed 2018-02-13).

(33) “2nd EOSCpilot Governance Development Forum workshop: Drafting Governance Framework and Principles of Engagement for European Open Science Cloud”. EOSC Pilot.
https://eoscpilot.eu/events/2nd-egdf-eoscpilot-governance-development-forum [562], (accessed 2018-02-13).


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尾城孝一. 「欧州オープンサイエンスクラウド」をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1921, p. 20-22.
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Ojiro Koichi
Trends Relating to European Open Science Cloud (EOSC)
カレントアウェアネス [25]
オープンデータ [302]
オープンサイエンス [565]
研究データ [566]
欧州 [101]
EU(欧州連合) [567]

CA1922 - 動向レビュー:スカンジナビアにおける難民・庇護希望者に対する公共図書館サービス / 和気尚美

PDFファイル [568]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1922

動向レビュー

 

スカンジナビアにおける難民・庇護希望者に対する公共図書館サービス

 

三重大学地域人材教育開発機構:和気尚美(わけなおみ)

 

はじめに

 2015年頃から顕在化した欧州難民危機により、北欧(1)に滞在する難民の数は急激に増加している。北欧諸国に難民申請する者の数は2014年には10万3,915人であったが、2015年には23万9,555人になった(2)。2017年3月に欧州連合(EU)が発表した統計によると、2015年および2016年の2年間に難民申請があった件数は、北欧全体で27万7,560件であり、これはEU全体での難民申請件数の約11.3%にあたる(3)。

 難民が急増する中、欧州の図書館界で最も早く難民を歓迎する姿勢を示したのはデンマーク図書館協会(Danmarks Biblioteksforening)であった。2015年9月、同協会は、デンマークの図書館界が長年にわたり移民・難民に対する図書館サービスに取り組んできたことについて触れ、それゆえデンマークの公共図書館は新たなゲストを受け入れる準備が整っており、図書館員は難民が安心して図書館を利用できるよう最善を尽くしていくと声明を発表した(4)。これを受け同年9月、欧州図書館・情報・ドキュメンテーション協会連合(European Bureau of Library, Information and Documentation Associations:EBLIDA)は、図書館は、すべての人の社会的包摂を最優先に掲げ、民主主義や開かれた価値観を醸成する場であるべきだとし、加えて「欧州全体の図書館がデンマークの図書館と同様の道を歩むことを願う」とウェブサイトに記載した(5)。

 デンマーク図書館協会が提示した「難民歓迎」(Refugees Welcome)の姿勢は、欧州の図書館界に合言葉のように広まりつつある。スウェーデンやノルウェーの公共図書館界も「難民歓迎」の言葉を掲げている。スウェーデン図書館協会(Svensk biblioteksförening)は刊行する『図書館雑誌』(Biblioteksbladet)の中で(6) (7)、ノルウェー図書館協会(Norsk Bibliotekforening)は『図書と図書館』(Bok og Bibliotek)の中で(8)、難民に対する図書館サービスについてそれぞれ特集として取り上げている。

 本稿では、北欧の中でもスカンジナビアと呼ばれるデンマーク、スウェーデン、ノルウェーにおいて、公共図書館が難民に対し提供している図書館サービスについて実践例を紹介しながら報告したい。

 

1. 難民に対する図書館サービス

 「IFLA/UNESCO多文化図書館宣言」は、「文化的に多様な社会の中で多くの場合取り残される集団、すなわち、マイノリティ、保護を求める人、難民、短期滞在許可資格の住民、移住労働者、先住民コミュニティに対しては特別な配慮が必要である」(E791 [569]参照)(9)と明記しており、多文化コミュニティにおいて図書館サービスを提供する際、難民はとりわけ配慮の必要な対象の一つとして挙げられている。

 注意したいのは、「保護を求める人」(Asylum-Seekers)と「難民」(Refugees)の差異である。「難民」は、1951年に採択された「難民の地位に関する条約」において、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々と定義されている(10)。一方「保護を求める人」とは、庇護を求めているがいまだいずれの社会からも難民として認定を受けていない者を意味する(11)。広義には庇護希望者も難民に含まれるが、狭義には、難民は亡命先社会から難民認定を受けた者や、難民認定のための申請過程にある者を意味する。

 難民認定は、基本的に「到着」、「審査」、「審査結果通知」のプロセスで進んで行く。この過程における庇護希望者の当該社会における滞在方法や、審査に要する時間の長さは、スカンジナビアの中でも国によって異なる。例えばデンマークの場合、庇護希望者が庇護希望先社会に到着し、難民認定のための審査を受けている期間、庇護センター(Asylum Center)と呼ばれる一時収容センターに入所することになる(12)。受けられるサービス内容にはセンター間で差があり、センターによって図書館の有無は異なる。

 難民認定審査の結果が庇護希望者に通知され、定住許可へ向けたプロセスに進むと、庇護希望者は庇護センターを出て、制約が軽減された生活を送れるようになる(13)ため、一般利用者として公共図書館にアクセスすることが可能になる。また、庇護希望先社会に親族等が滞在している場合、審査期間中に親族等の元で生活することを許可されることがある。その場合には、特に制約なく公共図書館を利用できる。

 ここまで見てきたように、難民に対する図書館サービスと一口に言っても、庇護希望者と、難民認定者とでは公共図書館サービスへのアクセスのしやすさには差異がある。さらには、庇護希望者の中でも難民認定審査の段階によって公共図書館へのアクセスのしやすさは異なる。この点を踏まえ、本稿では庇護希望者と難民認定者に対する図書館サービスについてそれぞれ論じていく。

 

2. 庇護希望者に対する図書館サービス

 上記のように、いくつかの庇護センターはセンター内に図書館を保有しており、館種を分類すれば施設図書館に該当する(14)。庇護センターは赤十字社等の諸団体によって運営されており、センター内図書館は多くの場合、当該社会の公共図書館システムと切り離されている。しかしながら、事例数は限定的であるもののアウトリーチや団体貸出等の方法により、庇護センターに公共図書館サービスを届ける取り組みが行われている。ここでは公共図書館が関わる庇護希望者に対する図書館サービスの事例を示す。

 

2.1. デンマークの事例

 コンゲロネン図書館(Kongelunden Bibliotek)は、2016年にコンゲロネン庇護センター内に創設された。同館は赤十字社によって運営されているが、特徴的であるのは、デンマーク王立図書館(Det Kongelige Bibliote)内の統合図書館センター(BiblioteksCenter for Integration)と協力関係を持つ点にある(15)。統合図書館センターは20言語以上の多言語資料を扱うデンマークのナショナルセンターで、国内各地の公共図書館からの求めに応じて多言語資料を提供している(16)。統合図書館センターは破損・汚損等の理由により毎年多数の資料が除籍対象となっているが、コンゲロネン庇護センター内に特に話者の多いアラビア語・ペルシャ語・ウルドゥー語・クルド語等に該当する除籍資料約5,000点についてはコンゲロネン図書館に提供し、館内での利用に供している。また同館では多言語資料のみでなく、詩や物語の創作等のプログラムも提供している(17)。

 プロジェクト「新規利用者?「図書館」の発想転換」(Nye Brugere? En 180° Nytænking af 'Biblioteket')は、文化省の城・文化局(Kulturministeriet Slots- og Kulturstyrelsen)の2014年度の図書館助成に採択されたプロジェクトである(18)。プロジェクト対象の7館に含まれていたスナボー図書館(Sønderborg Bibliotek)は、同地区にある庇護センターに滞在する庇護希望者が、デンマークへの越境の過程で経験したことや出身社会で置かれていた状況について、広く住民全体に紹介する目的で、館内においてアート展を開催した。アート展を催すにあたり、同館は庇護希望者の積極的な参加を募り、同時に彼らに多様な図書館サービスの存在に気付いてもらうきっかけを提供した(19)。

 

2.2. スウェーデンの事例

 ストックホルム市立図書館(Stockholms stadsbibliotek)が運営する図書館に「子どもブックバス」(Barnens Bokbuss)という移動図書館がある(20)。巡回先約100か所の中には、庇護センターも含まれている。庇護センターの巡回時には、スウェーデン全土の公共図書館を対象に多言語資料を提供しているストックホルム市国際図書館(Stockholms stadsbibliotek, Internationella biblioteket)と連携を取り、お話し会等のプログラムを行っている(21)。庇護希望者の多くはシリア等の中東出身者であるため、プログラム実施時には、国際図書館に勤務するアラビア語話者の職員が通訳を担っている。またカルマル(Kalmar)では、移動図書館が隔週火曜日に庇護センターを訪れ、庇護希望者に対し公共図書館サービスを届けている(22)。

 一方ティエルプ(Tierp)は、庇護センター内に図書館を新設することを目指して複数の図書館が協力して児童書や絵本を収集し、開館に向けた準備を進めている(23)。また、グネスタ図書館(Gnesta Bibliotek)は図書館ボランティアが庇護センターに滞在する人々と語り会う機会を設けている(24)。

 

3. 難民認定者に対する図書館サービス

 次に難民認定審査が定住許可へ向けたプロセスに進んだ、あるいは既に難民認定を取得した人々に対する図書館サービスについて事例を提示しながら以下に論じていく。

 

3.1. デンマークの事例

 デンマークには、前述のように、多言語資料のナショナルセンターとして機能する統合図書館センターが存在するため、デンマーク国内のどの地域に居住していても、最寄りの公共図書館を介して統合図書館センターの多言語コレクションにアクセスすることができる。加えて、移民・難民の人口の多い地域では、各自治体の予算で独自に多言語資料を購入している。

 デンマークの公共図書館が難民認定者に対して提供しているのは多言語資料のみではない。多様な図書館プログラムも展開されている。既述した文化省の城・文化局の図書館助成を受けて実施されたプロジェクトに「シリア難民、デンマーク人市民と出会う」(Syriske Flygtninge Møder Danske Borgere)がある(25)。同プロジェクトは、既に難民認定を受けたシリア出身難民と、当該地域に居住するデンマーク人とが共同で、シリア難民に関する企画展を準備・運営するというもので、ライラ図書館(Lejre Bibliotek)、オーデンセ中央図書館(Odense Central Bibliotek)、ロスキレ図書館(Roskilde Bibliotek)で実施された。同プロジェクトを通じて、来場者を含めデンマーク人はシリア難民自身が伝えるシリア難民の置かれている状況を知り、他方シリア難民は準備・運営の過程でデンマークにおける公共図書館サービスについて徐々に理解していった(26)。プロジェクトに参加するシリア難民の中には、プロジェクトへの参加を契機に家族を連れて図書館を利用するようになった者もいる(27)。

 また行政への各種申請の電子化に伴い、近年重視されているのはIT支援である。近年デンマークでは、NemIDと呼ばれるインターネット上のID制度や、ネット・バンキング、行政への電子申請等が導入されているが、電子行政サービスに馴染みがなく、デンマーク語の学習途中にある難民には、基本的な操作さえ困難な場合がある。そこでフレズレクスベア図書館(Frederiksberg Bibliotek)は、毎週水曜日の午後に難民を対象に無料でカウンセリングの機会を提供している。Center for Integationという団体から派遣されるケースワーカーや市役所のデジタル化担当職員は、NemIDや、ネット・バンキング、行政への電子申請等の、ログイン方法や基本的な操作方法について難民から寄せられる相談に応じている(28)。

 

3.2. ノルウェーの事例

 上記のデンマークやスウェーデンと同様に、ノルウェーにも多言語図書館(Det Flerspråklige Bibliotek)と呼ばれるナショナルセンターが存在し、国内の多言語資料の集中的な収集・提供・保存を行っている(29)。多言語図書館は資料に関する業務のみでなく、国内全域の公共図書館を対象とした移民・難民に対する図書館サービスに関する全国会議も主催している。2016年4月には、「インテグレーション2.0:難民から市民へ」(Integrering 2.0:Fra Flyktning til Borger)が多言語図書館主催で開かれ、ノルウェーに滞在する難民が急増する中、図書館が担うべき役割とは何かについて議論された(30)。

 ノルウェーの多くの公共図書館において取り組まれているのは「言語カフェ」(språkkafé)である。言語カフェは、難民・移民等、ノルウェー語を学習中の人々がお茶を飲みながら設定されたテーマについて自由に会話するプログラムである(31)。

 また、ボードゲームを介して難民とその他市民との間のコミュニケーションを促すプログラムも実施されている(CA1888 [381]参照)。首都オスロ市のダイクマン図書館分館にあたるビューラ図書館(Bøler Bibliotek)は「難民とその他多くの人のためのチェス」(Sjakk for Flyktninger og Alle Andre)に取り組んでいる(32)。ノルウェー語や英語を話すことができない難民であっても、チェスが共通言語となり、他の市民とコミュニケーションを取ることができるというアイディアによるものである。一方、ヴォラー図書館(Våler Bibliotek)は異文化理解を目的に開発されたボードゲームを楽しむプログラムを提供している(33)。ヴォラー図書館は、プログラム初回の対象をアラビア語圏出身の難民とネイティブのノルウェー語話者に設定した(34)。異文化理解専用のゲームであるため、カードを使って参加者の文化や言語を引き出せるようになっている。

 

おわりに

 本稿では、スカンジナビアにおける庇護希望者および難民認定者に対する公共図書館サービスについて事例を示しながら紹介してきた。

 難民認定を未取得である庇護希望者をも対象に含め、移動図書館等のアウトリーチにより公共図書館サービスを届ける取り組みは、スカンジナビアの図書館界に見られる新たな展開である。

 それはつまり、難民認定の取得という行政により設けられた制度や規定の枠を超え、「ユネスコ公共図書館宣言」等の中で繰り返し示されている、すべての人に平等に図書館サービスを届けるという図書館界の一貫した理念の具現化と捉えることができる。

 庇護希望者は庇護センターに入所することで一時的に隔離された状態にあるため、自ら公共図書館にアクセスする機会が絶対的に奪われている。つまり従来の移民や難民に対する図書館サービスにも増して、さらに公共図書館のアウトリーチ等による積極的なアプローチが必要となる。庇護センター内の施設図書館の資源のみでは、資料やスタッフ等の点で限界があるため、資料の共有や移動図書館の巡回等、地域の公共図書館とのさらなる協力関係の強化が求められている。

 

(1)『日本大百科全書』(ニッポニカ)は、「ヨーロッパ北部に位置するデンマーク、ノルウェー、スウェーデンは一般にスカンジナビアとよばれる。しかし厳密な規定はなく、便宜上、狭義にはこの3国とし、広義には『北欧』と同義とみてフィンランド、アイスランドを含める場合もある」と定義している。これを踏まえて本稿では、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの3か国を「スカンジナビア」と呼び、上記3か国にフィンランドやアイスランドも含める際に「北欧」と呼ぶこととする。
村井誠人. “スカンジナビア”. 日本大百科全書. 小学館, 2001.
https://kotobank.jp/word/スカンジナビア-540926 [570], (参照 2017-10-01).

(2)“Asylum in the EU Member States: Record number of over 1.2 million first time asylum seekers registered in 2015”. Eurostat.
http://ec.europa.eu/eurostat/documents/2995521/7203832/3-04032016-AP-EN.pdf/790eba01-381c-4163-bcd2-a54959b99ed6 [571],(accessed 2017-10-01).

(3)“Asylum in the EU Member States: 1.2 million first time asylum seekers registered in 2016”. Eurostat.
http://ec.europa.eu/eurostat/documents/2995521/7921609/3-16032017-BP-EN.pdf/e5fa98bb-5d9d-4297-9168-d07c67d1c9e1 [572], (accessed 2017-10-01).

(4) “De danske folkebiblioteker byder flygtningene velkomne”. Danmarks Biblioteksforening.
https://web.archive.org/web/20151116233705/http://www.db.dk/artikel/de-danske-folkebiblioteker-byder-flygtningene-velkomne [573], (accessed 2017-10-01).

(5) “Public Libraries in Europe Welcome Refugees”. EBLIDA.
http://www.eblida.org/news/press-release-public-libraries-in-europe-welcome-refugees.html [574], (accessed 2017-10-01).

(6) Söderberg, Håkan. En fristad för dem som flytt. Biblioteksbladet. 2015, [100](9), p. 19-22.

(7)Cartagena, Soledad. En viktig länk till det nya landet. Biblioteksbladet. 2015, [100](9), p. 24-25.

(8)Åsheim, Hege. Bosetting av asylsøkere og flyktninger: hvordan påvirkes folkebibliotekene. Bok og Bibliotek. 2017(1), p. 28-31.

(9) “IFLA/UNESCO多文化図書館宣言:多文化図書館-対話による文化的に多様な社会への懸け橋”. IFLA.
https://www.ifla.org/files/assets/library-services-to-multicultural-populations/publications/multicultural_library_manifesto-ja.pdf [575], (参照 2017-10-01).
なお、本稿では「IFLA/UNESCO多文化図書館宣言」の日本語訳における「保護を求める人」を「庇護希望者」と同義として記述する。

(10) “難民の地位に関する1951年の条約”. UNHCR.
http://www.unhcr.org/jp/treaty_1951 [576], (参照 2017-10-01).

(11) “Asylum-Seekers”. UNHCR.
http://www.unhcr.org/asylum-seekers.html [577], (accessed 2017-10-01).

(12) “Asylum centres”. Danish Immigration Service and and the Danish Agency for International Recruitment and Integration.
https://www.nyidanmark.dk/en-us/coming_to_dk/asylum/accomodation_centres/accomodation_centres.htm [578], (accessed 2017-10-01).

(13) Ibid.

(14)日本図書館情報学会用語辞典編集委員会. “施設図書館”. 図書館情報学用語辞典. 第4版, 丸善, 2013, p. 92.

(15) “Bibliotek på asylcenter”. Københavns Kommune Beskæftigelses- og integrationsforvaltningen.
https://flygtninge.kk.dk/artikel/bibliotek-paa-asylcenter [579], (accessed 2017-10-01).

(16) “BiblioteksCenter for Integration”. Det Kongelige Bibliotek.
https://www.statsbiblioteket.dk/sbci/om/ombibliotekscenter-for-integration-ny [580], (accessed 2017-10-01).

(17) “A Library for asylum seekers”. The Danish Red Cross.
http://newtimes.dk/a-library-for-asylum-seekers/ [581], (accessed 2017-10-01).

(18) “Nye brugere? En 180° nytænking af 'biblioteket'”. Statsbiblioteket.
http://www.projektbank.dk/nye-brugere-en-180deg-nytaenking-af-biblioteket [582], (accessed 2017-10-01).

(19) Olsen, Helene. “Idékatalog”. Bibliotekernes Projektbank.
http://www.projektbank.dk/sites/default/files/documents/Bilag%25203%2520-%2520Idékatalog.pdf [583], (accessed 2017-10-01).

(20) “Barnens bokbuss”. Stockholms Stadsbibliotek.
https://biblioteket.stockholm.se/bibliotek/barnens-bokbuss [584], (accessed 2017-10-01).

(21) Söderberg. op. cit. p. 19-20.

(22) Ibid. p. 22.

(23) Ibid.

(24) Ibid.

(25) “Syriske flygtninge møder danske borgere”. Lejre Bibliotekerne.
http://www.projektbank.dk/syriske-flygtninge-moder-danske-borgere [585], (accessed 2017-10-01).

(26) “Samskabelse får flygtninge inddraget på biblioteker”. William Meyer.
http://vpt.dk/bibliotek/samskabelse-far-flygtninge-inddraget-pa-biblioteker [586], (accessed 2017-10-01).

(27)Ibid.

(28) “Flygtninge får digital hjælp på biblioteket”. Biblioteket Frederiksberg.
https://fkb.dk/nyheder/nyt-fra-biblioteket/flygtninge-faar-digital-hjaelp-paa-biblioteket [587], (accessed 2017-10-01).

(29) “DFBs virkeområde”. Det Flerspråklige Bibliotek.
https://dfb.nb.no/om-oss/dfbs-virkeomrade [588], (accessed 2017-10-01).

(30) “Velkommen til Flerkulturelt bibliotekmøte på Nasjonalbiblioteket 28. april kl. 10.00-15.30”. Det Flerspråklige Bibliotek.
https://dfb.nb.no/velkommen-til-flerkulturelt-bibliotekmote-pa-nasjonalbiblioteket-28-april-kl-1000-1530 [589], (accessed 2017-10-01).

(31) 例えば、ホルダランド(Hordaland)の言語カフェの事例は以下のページを参照のこと。
“Biblioteket åpner seg for flyktninger”. Senter for internasjonalisering av utdanning.
https://www.siu.no/For-media/Nyheter-fra-SIU/Biblioteket-aapner-seg-for-flyktninger [590], (accessed 2017-10-01).

(32) “Sjakk for flyktninger og alle andre”. Deichmanske Bibliotek - Bøler Bibliotek.
https://www.deichman.no/arrangement/sjakk-for-flyktninger-og-alle-andre-51 [591], (accessed 2017-10-01).

(33) “Lansering arabiskversjonen ved Lakki Patey på Våler bibliotek”. Norsk Folkehjelp.
https://www.folkehjelp.no/Vaart-arbeid/Flyktning-og-inkludering/Asylmottak/Haslemoen-transittmottak/Lansering-arabiskversjonen-ved-Lakki-Patey-paa-Vaaler-bibliotek [592], (accessed 2017-10-01).

(34) Ibid.
 

[受理:2018-02-14]

 


和気尚美. 希望者に対する公共図書館サービス. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1922, p. 23-26.
http://current.ndl.go.jp/ca1922 [593]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062626 [594]

Wake Naomi
Public Library Services for Refugees and Asylum-Seekers in the Scandinavian Countries

  • 参照(7095)
カレントアウェアネス [25]
動向レビュー [65]
アウトリーチ [237]
多文化・多言語サービス [595]
デンマーク [596]
スウェーデン [597]
ノルウェー [598]
公共図書館 [31]
公立図書館 [32]

CA1923 - 動向レビュー:IFLA Library Reference Modelの概要 / 和中幹雄

PDFファイル [599]

カレントアウェアネス
No.335 2018年3月20日

 

CA1923

動向レビュー

 

IFLA Library Reference Modelの概要

 

大阪学院大学:和中幹雄(わなかみきお)

 

 国際図書館連盟(IFLA)による3つの概念モデル、書誌データ全般を対象とするFRBR(CA1480 [385]参照)(1)、典拠データを対象とするFRAD(2)、主題典拠データを対象とするFRSAD(CA1713 [600]参照)(3)を統合した書誌情報に関わる新たな概念モデルIFLA Library Reference Model(IFLA LRM)(4)が、2017年8月にIFLAの専門委員会により承認され本文が公開された。

 以下、新しい概念モデル策定の経緯とそれが与える影響を概観するとともに、そのモデルの概要を紹介する。

 

1.新しい概念モデル策定の経緯

 本章ではまず、IFLA LRM策定までの経緯を述べる。

 

1.1.FRBR本文の改訂

 今回の統合概念モデルを作成したIFLA FRBR Review Group(5)は、2007年にFRBR本文の改訂を行っており、「3.2.2表現形(Expression)」を一部改訂(6)した。2011年には、集合的実体(Aggregates)の一般モデルに基づく「3.3 集合的実体と構成的実体(Aggregate and Component Entities)」の改訂に関する報告書(7)を提示した。この2点の改訂内容を反映したFRBRが今回の統合元のモデルとして使用されている。

 

1.2. FRBR Familyの形成

 2009年にFRAD、2010年にFRSADが公表されることにより、FRBR Familyと呼ばれる3つの概念モデルFRBR、FRAD、FRSADが成立し、図書館における書誌的な機能要件モデルが整うこととなった。

 しかし、この3つのモデルは、IFLAにより策定された、実体関連モデル(ERモデル)による機能要件という共通点があるものの、策定された時代と情報環境が異なり、その実体や関連の概念が微妙に異なるため、3つのモデルに基づいて書誌的システムを構築する場合にはさまざまな困難が伴うことが指摘されてきた。この問題を解消することが、3つのモデルの統合を図った目的である(8)。

 

1.3. IFLA名前空間へのエレメントセットの登録

 IFLA FRBR Review Groupは、FRSADが策定される2010年前後から2015年にかけて、Linked Data(CA1746 [387]参照)作成など、セマンティック・ウェブ(CA1534 [601]参照)での使用を前提としたデータの扱いやすさを実現するために、3つの概念モデルそれぞれで定義されている実体、属性および関連をメタデータスキーマや統制言語等のレジストリであるOpen Metadata Registry(OMR)のエレメントセットの中で、実体を「クラス」として、属性および関連を「プロパティ」として登録する作業を行った(9)。

 OMR内の名前空間への登録の過程において、テキスト形式で定義されているFRBRの定義の曖昧さや3つのモデルの異同が明確になったことが統合化の方向性を規定することとなった(10)。

 

1.4. 統合モデルの作成・公開

 統合モデル案の作成は、2013年に設置されたConsolidation Editorial Groupによって行われた(11)。

 まず、2016年2月28日、FRBR-Library Reference Model(FRBR-LRM)(12)が統合案として公表され、5月1日までワールドワイドレビューに付された(13)。そしてレビュー結果が反映された2017年3月版が、IFLA Library Reference Model(LRM)というタイトルに変更した上で、4月にIFLAの専門委員会に提出され、その旨の発表が5月22日に行われた。最終的には、2017年8月18日にIFLAの専門委員会で正式に承認され、8月版として公開に至った。

 IFLA LRMの文書には、付属資料としてTransition Mappings(14)が用意されている。これは、FRBR、FRAD、FRSADとIFLA LRM間の対応テーブルである。このテーブルにより旧システムから新システムへの移行が容易となるが、作成は今回限りであり、今後の改訂は行わないとしている(15)。

 

1.5. 他のモデルとの調整

 統合化のもう一つの契機は、他のコミュニティとの調整であった。第一に図書館コミュニティの概念モデルであるFRBRと国際博物館会議(ICOM)の国際ドキュメンテーション委員会(CIDOC)の概念参照モデルCRM(CA1434 [602]参照)を調和させるために、FRBRoo(オブジェクト指向版のFRBR)が作成され、2009年5月にそのversion 1.0が公表された。さらにFRADとFRSADをも取り込んだ改訂版FRBRoo version2.2のワールドワイドレビュー(2015年3月から4月)を経て、2015年11月にFRBRoo version2.4が公表されている(16)。

 第二は、ISSN Networkが進めていた逐次刊行物に特化した概念モデルPRESSoo(17)(FRBRooの拡張版)との調整である。Transition Mappingsでは、特定資料の属性として、PRESSooでのモデル化に委ねた逐次刊行物関連の属性も見られる。

 第三は、国際標準書誌記述(ISBD)との調整である。2017年4月に、ISBDのエレメントセットとIFLA LRMのエレメントセットとの対応テーブルのドラフトが公開されている(18)。

 今後は、OMRへのIFLA LRMエレメントセットの登録とともに、これら三者の最終調整が直近の課題となっている。

 

2. 新しい概念モデルの概要

2.1. 全体の特徴と構成

 本モデルは、is-A関係のようなオブジェクト指向分析設計と密接に関連した概念も一部導入した実体関連モデルである「拡張実体関連モデル」(EERモデリング)の枠組みのなかで開発されたハイレベルの概念参照モデルである。抽象的な概念に基づくモデルであり、既存の3つのモデルを抽象化・一般化の方向で統合したものである。

 モデリングの対象は広義の書誌データであり、書誌レコード利用者の主要な関心対象である実体の摘出から始まる実体関連分析の技法を用いるFRBRのモデリングのプロセス(19)を踏襲している。

 しかしながら、FRBRとの大きな相違は、モデリングにおける実体、属性、関連に対して厳密に定義する手法を採用している点にある。FRBRの定義は、たとえば、スコープノートと定義と例示が混然としたテキストによる自由形式に拠っているのに対して、IFLA LRMは、システム設計における概念設計書としてそのまま使用できる仕様書形式を採用している点に大きな相違がある。

 モデル本文自体は、「1章 序説(Introduction)」「2章 方法(Methodology)」「3章 利用者と利用者タスク(Users and User Tasks)」「4章 モデル定義(Model Definition)」「5章 モデル概観(Model Overview)」「6章 利用者タスクと実体・属性・関連との対応(Alignment of User Tasks with the Entities、 Attributes and Relationships)」「7章 モデリング用語集(Glossary of Modelling Terminology)」「8章 参照した概念モデル(Conceptual Models Consulted)」の8章からなっている。なお、この本文とともに、前述したように別途Transition Mappingsがあるが、この移行のための対応テーブルは、全体の理解のためにも有益な文書である。

 内容の核となるのは、全体の半分以上を占めている実体、属性、関連を定義する第4章であり、すべて表形式で定義が行われている。

 「4.1 実体」の節では、各実体に対して、実体を特定するID番号、実体名(Name)、定義(Definition)、実体間の階層や素の関係を示す制約条件(Constraints)、各実体の適用範囲を示すスコープノート(Scope Notes)、例示(Examples)という6つのデータ項目が表形式で示されている。

 「4.2 属性」の節では、各属性に対して、属性を特定するID番号、対応する実体(Entity)、属性名(Attribute)、定義(Definition)、各属性の適用範囲を示すスコープノート(Scope Notes)、例示(Examples)という6つのデータ項目が表形式で示されている。

 「4.3 関連」の節では、関連を特定するID番号、定義域(Domain)、関連名(Relationship)、逆関連名(Inverse name)、値域(Range)、関連の値に対する種類の数を示すカーディナリティ(Cardinality)、定義(Definition)、関連の適用範囲を示すスコープノート(Scope Notes)、例示(Examples)という9つのデータ項目がすべて表形式で示されている。

 

2.2. 利用者タスク(User Task)

 FRBRが定義する4つの利用者タスク、「発見」(Find)、「識別」(Identify)、「選択」(Select)、「入手」(Obtain)に加えて、新たな利用者タスクとして「探索」(Explore)が追加された。

 また、エンドユーザとそのニーズに焦点を当てることとし、FRADにおける図書館内部プロセスに必要な管理メタデータは対象外とされた。その結果、FRADの「根拠の提供」(Justify)は、図書館員固有のタスクのため廃止された。また、FRADの「関連の明確化」(Contextualize)およびFRSADの「主題探索」(Explore)は、新たに定義されるタスク「探索」に組み⼊れられた。

 それぞれの利用者タスクは再定義され、旧3モデルの定義に比して抽象度を増している。

 

2.3. 統合後のエレメントとそのパターン

 OMRにおけるFRBRer(20)、FRAD、FRSADのそれぞれの名前空間に登録されている「クラス」(Class)および「プロパティ」(Property)は、11 個の実体(ID番号LRM-E1~LRM-E11)、37 個の属性(ID番号LRM-E1-A1~LRM-E11-A37)、36個の関連(ID番号LRM-R1~LRM-R36)に、それぞれ番号付けして参照を容易にしている。

 

表1 OMR名前空間におけるエレメント数(21)

OMR名前空間 クラス数 プロパティ数 総エレメント数
FRBRer 10 206 216
FRAD 12 138 150
FRSAD 2 17 19
IFLA LRM 11 37+36 84
FRBRoo 46 142 188

 

 FRBRooの場合には、FRBR、 FRAD、 FRSADとCIDOC-CRMへの拡張により、188のエレメントとなったのに比べ、IFLA LRMでは総エレメント数が84に大きく減少していることからも分かるように、抽象化や一般化の方向で統合された。

 以下、実体、属性、関連について、主だった変更を紹介する。

 

2.4. 実体

 次の表のとおり、階層化された11個の実体が定義されている。

 

表2 IFLA LRMが定義する実体(22)

表4.1 実体の階層
トップレベル 第二レベル 第三レベル
LRM-E1
Res
   
  LRM-E2
著作(Work)
 
  LRM-E3
表現形(Expression)
 
  LRM-E4
体現形(Manifestation)
 
  LRM-E5
個別資料(Item)
 
  LRM-E6
Agent
 
    LRM-E7
個人(Person)
    LRM-E8
Collective Agent
  LRM-E9
Nomen
 
  LRM-E10
場所(Place)
 
  LRM-E11
Time-span
 

注)邦訳を示していない英語のみの用語は、FRBRやFRADにはなく、今回新たに定義された実体である。NomenはFRSADに登場するが、後述するように再定義されている。

 

 このような実体の階層化を行うことにより、上位レベルの実体において定義された属性および関連は、下位レベルの実体において同種の属性および関連の定義を繰り返すという冗長さを避けることが可能となった。

 11個の実体のなかで唯一のトップレベルの実体として定義されている“Res”とは、英語のthingに相当するラテン語である。“Res”は、このモデルの対象領域である書誌的世界におけるすべての実体を意味し、物理的事物および概念的客体両者が含まれる。FRSADにおける実体“Thema”を主題と関連させずに再定義したものである。

 FRBRの第1グループの4つの実体「著作」「表現形」「体現形」「個別資料」は、モデルの核として保持されている。FRBRのように第1グループとしての指定をなくすとともに、それぞれの定義の整理が行われた。例えば、「表現形」は「知的・芸術的内容を伝達する個別の記号の組み合わせ」と簡潔に再定義されている。

 FRBRの第2グループおよびFRADの「家族」(Family)を内包し、「意図的な行為が可能で、権利が与えられ、行為に責任を負うことができる主体」と定義される実体“Agent”が新設された。実体“Agent”の下位レベルの実体として、「個人」(Person)と“Collective Agent”が規定されている。つまり、責任を果たすことができる行為主体として個人と集団が“Agent”と捉えられている。

 “Agent”の下位レベルとなる“個人”は、FRBRの曖昧な定義を明確にさせたFRADの定義「人物またはグループによって確立あるいは採用されている人物、人格、アイデンティティ」を変更し、「個々の人間」(An individual human being)という定義に変更された。その結果、現実の人間に限定され、共有筆名や伝説上の人物などの架空の実体が除かれることになった。

 新規の実体“Collective Agent”は、「特定の名称をもち、一つの単位として活動する人々の集会または組織」と定義されている。FRBRやFRADでの「団体」と「家族」は廃止されたが、必要な場合には、“Collective Agent”のサブクラスとして使用することが可能である。

 “Nomen”は、FRAD の「名称」(Name)とFRSADの“Nomen”を統合し、「実体と実体を指し示す名称との関連」と再定義された。このように、「著作」や「体現形」といった情報資源(Resource)や「個人」などの“Agent”とともに、それらの名称自体を独立した実体として定義することにより、著作のタイトルや個人名を「著作」や「個人」と“Nomen”との関連として捉えることが可能となった。これは、主語、述語、目的語の3つの要素によってウェブ上の情報資源を記録する方法であるRDFトリプルとの整合性を高めることになることを示しているように思われる。

 FRBRの第3グループの実体である4つの実体(「概念」「物」「出来事」「場所」)はすべて廃止された。ただし、「場所」は後述するように新規の実体として再利用されている。

 FRAD の実体では、「識別子」と「統制形アクセスポイント」は廃止され、“Nomen”のひとつとして再定義されている。「規則」と「機関」は、エンドユーザではなく図書館担当者にとって有用な実体であるため本モデルの対象外として廃止された。

 主題典拠データモデルであるFRSADにおける2つの実体“Thema”と“Nomen”は、主題とは関連させずにそれぞれ再定義された。

 “Thema”は、前述したように唯一のトップレベルの実体である“Res”に名称を変更し、主題とは関連させずに再定義された。“Nomen”はFRAD における「名称」(Name)と統合して再定義されたのは前述したとおりである。

 FRBRにおける第3グループの実体のひとつ「場所」は、主題に限定しない実体として再利用され、「空間の一定の範囲」と定義された。これは文化的概念であり、その境界は変わり得る。他のいずれの実体とも関連づけることができる(出版地、出生地など)。

 「始まりと終わりと期間をもつ時間の範囲」と定義される実体“Time-span”が新たに設けられた。「場所」と同様に生没年、出版年等の他のいずれの実体とも関連づけることができる。

 

2.5. 属性

 属性は実体を記述するデータとして位置づけられている。網羅的に収録しているわけではなく、最も重要な属性のみが挙げられている。11個の実体に対して挙げられている属性は、全部で37個である。特徴的な新規の属性のみを紹介する。

 各実体に共通する属性として、(1)実体のインスタンスが属しているタイプを示す「カテゴリー」(Category)と、(2)構造化されていないテキスト情報を示す「注記」(Note)が用意されている。

 実践的な観点から見て、「著作」の属性として重要な属性が新たに導入された。それは、“Representative expression attribute”である。これは著作を実現する代表的な表現形を示す属性で、例示として、テキストの場合には言語、音楽作品の場合には演奏手段などが示されている。この属性は、FRBR-LRMでは、「表現形」の属性“Representativity”とされていたが、ワールドワイドレビューの後に変更された。

 体現形からの転記情報でFRBR における多くの属性を統合した“Manifestation statement”という一般化された属性が加えられた。体現形のタイトルも責任表示も版表示も、いわゆる転記される記述データはすべてこの属性に含まれる。

 “Collective Agent”には固有の属性はない。すべて、上位レベルの実体“Agent”で定義される。

 

2.6. 関連

 関連は2つの実体をリンクさせるものである。関連にはis-A関係と相互関連の2種類がある。

(1)is-A関係

 クラスとサブクラスの関連である。以下、実体“Agent”とそのサブクラス「個人」との関連の例を挙げる。

 「個人はAgent である。」というis-A関係があり、「Agent は著作を創作した。」という関連が定義されている場合に、「個人は著作を創作した。」という関連が暗黙のうちに認められる。

(2) 相互関連

 実体間の相互関連には、1対多や多対多、多対1といったカーディナリティを規定している。このモデルでは、属性より関連が強調されている。旧モデルでの属性が関連に置き換えられたケースが数多くある(Linked Dataでは属性は関連として実装される)。

 LRM-R1からLRM-R36まで36種類の関連が定義されているが、関連の多くは相互関連なので、逆関連も含めると、69種類の関連となる。

 

例)

LRM-R2 著作と表現形との関連(1対多)

関連:WORK is realized through EXPRESSION

逆関連:EXPRESSION realizes WORK

 

3. おわりに

 FRBRおよびFRADは、2010年策定の目録規則RDA(CA1837 [603]参照)とともに現在策定中の日本目録規則2018年版(仮称)(新NCR)の基礎となっている概念モデルである。2013年からすでに運用されているRDAは、2018年6月にIFLA LRMに対応した改訂が予定されている。現在策定中の新NCRにどのような影響を与えるか、これは今後の新たな課題となるであろう。

 

(1)FRBRに関する文書は以下の通り。
IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. “Functional Requirements for Bibliographic Records: final report”. 1998. As amended and corrected through 2009-02.
http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr/frbr_2008.pdf [604], (accessed 2017-12-12).
日本語訳は以下の通り。
和中幹雄, 古川肇, 永田治樹訳. 書誌レコードの機能要件. 日本図書館協会, 2004, 121p.
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/mokuroku/frbr_japanese.pdf [605], (参照2017-12-17).
“「3.2.2表現形」修正テキスト日本語訳”. 日本図書館協会. 2007.
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/mokuroku/amend1998-1marked_ja.pdf [606], (参照2017-12-17).

(2)FRADに関する文書は以下の通り。
IFLA Working Group on Functional Requirements and Numbering of Authority Records (FRANAR). “Functional Requirements for Authority Data: a conceptual model”. 2009. As amended and corrected through 2013-07.
http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frad/frad_2013.pdf [607], (accessed 2017-12-25).
国立国会図書館収集書誌部. 典拠データの機能要件: 概念モデル. 2012. 国立国会図書館.
https://doi.org/10.11501/9454265 [608], (参照2017-12-17).

(3)FRSADに関する文書は以下の通り。
IFLA Working Group on Functional Requirements for Subject Authority Records. “Functional Requirements for Subject Authority Data: a conceptual model”. 2010.
http://nkos.slis.kent.edu/FRSAR/report090623.pdf [609], (accessed 2017-12-17).
山本昭, 水野資子訳. 主題典拠データの機能要件 概念モデル(仮訳). TP&Dフォーラムシリーズ: 整理技術・情報管理等研究論集. 2014, (23), p. 64-96.

(4)IFLA-LRMに関する文書は以下の通り。
Riva, Pat; Le Bœuf, Patrick; Žumer, Maja. “IFLA Library Reference Model: a conceptual model for bibliographic information”. 2017-08. As amended and corrected through 2017-12.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/ifla-lrm-august-2017_rev201712.pdf [610], (accessed 2017-12-17).

(5)IFLA FRBR Review Groupは、2002年にIFLA目録分科会(IFLA Cataloguing Section)により設置されたWorking Group on FRBRが2003年に改組されて設けられた個人研究者を中心とした組織である。2005年から現在までの活動において、延べ25人が参加している(連絡委員も含む)。
“FRBR Review Group”. IFLA.
https://www.ifla.org/frbr-rg [611], (accessed 2018-01-24).

(6)IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. op. cit.

(7)“Final Report of the Working Group on Aggregates”. 2011-09-12.
http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbrrg/AggregatesFinalReport.pdf [612], (accessed 2017-12-17).

(8)IFLA LRMの文書の以下の箇所を参照した。
Riva, Pat; Le Bœuf, Patrick; Žumer, Maja. “IFLA Library Reference Model: a conceptual model for bibliographic information”. 2017-08. As amended and corrected through 2017-12. p. 5.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/ifla-lrm-august-2017_rev201712.pdf [610], (accessed 2017-12-17).

(9)Open Metadata Registry.
http://metadataregistry.org/ [613], (accessed 2017-12-17).
次の文献は、登録作業を開始する宣言文である。
Dunsire, Gordon. “Declaring FRBR entities and relationships in RDF”. 2008-07-25.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbrrg/namespace-report.pdf [614], (accessed 2017-12-17).

(10)Riva, Pat; Žumer, Maja. The IFLA Library Reference Model, a step toward the Semantic Web. Paper presented at: IFLA WLIC 2017 – Wrocław, Poland – Libraries. Solidarity. Society. in Session 78 - Standards Committee. In: IFLA WLIC 2017, 15-25 August 2017, Wrocław, Poland.
http://library.ifla.org/1763/1/078-riva-en.pdf [615], (accessed 2018-02-07).

(11)Pat Riva(議長:カナダ)、Patrick Le Boeuf(フランス)、Maja Žumer(スロベニア)の3人で構成されている。

(12)FRBR-LRMに関する文書は以下の通り。
Riva, Pat; Le Bœuf, Patrick; Žumer, Maja. “FRBR-Library Reference Model: Draft for world-wide review”. Not yet endorsed by the IFLA Professional Committee or Governing Board. 2016-02-21.
http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/frbr-lrm_20160225.pdf [616], (accessed 2017-12-17).
このバージョンの段階でのモデル紹介は次の文献を参照。
和中幹雄. FRBR-LRM(FRBR,FRAD,FRSADの統合案)の概要メモ. 資料組織化研究-e. 2016, (69), p. 27-41.
http://techser.info/wp-content/uploads/2016/10/69-20161027-3-PB.pdf [617], (参照2017-12-17).

(13)The FRBR Review Group. “World-wide review of the FRBR-Library Reference Model, a consolidation of the FRBR, FRAD and FRSAD conceptual models”. 2016-02-28.
http://www.ifla.org/node/10280 [618], (accessed 2017-12-17).

(14)Riva, Pat; Le Bœuf, Patrick; Žumer, Maja. “Transition mappings: user tasks, entities, attributes, and relationships in FRBR, FRAD, and FRSAD mapped to their equivalents in the FRBR-Library Reference Model”. 2017-08.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/transitionmappings201708.pdf [619], (accessed 2018-02-13).

(15)IFLA LRMの文書の以下の箇所を参照した。
Riva, Pat; Le Bœuf, Patrick; Žumer, Maja. “IFLA Library Reference Model: a conceptual model for bibliographic information”. 2017-08. As amended and corrected through 2017-12. p. 13.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/ifla-lrm-august-2017_rev201712.pdf [610], (accessed 2017-12-17).

(16)Working Group on FRBR/CRM Dialogue. “Definition of FRBRoo: a conceptual model for bibliographic information in object-oriented formalism”. Version 2.4. 2015-11.
http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/FRBRoo/frbroo_v_2.4.pdf [620], (accessed 2017-12-17).

(17)Le Boeuf, Patrick. ed. “PRESSoo: extension of CIDOC CRM and FRBRoo for the modelling of bibliographic information pertaining to continuing resources”. Version 1.3. 2016-08.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/PRESSoo/pressoo_v1-3.pdf [621], (accessed 2017-12-17).

(18)The Task Group for the Analysis of the Alignment and Impact of IFLA LRM to ISBD, for the IFLA ISBD Review Group. “Alignment of the ISBD element set with the IFLA LRM element set. Final draft, May 2017, Approved by the ISBD Review Group, Approved by the FRBR Review Group”. 2017-05.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/isbd/OtherDocumentation/isbd-lrm_alignment_v.1.3.1a.pdf [622], (accessed 2017-12-17).

(19)和中. 前掲. p.11.

(20)OMRでは、オブジェクト指向版のFRBRooと区別するために、ERモデルのFRBRの名前空間をFRBRerと呼んでいる。

(21)Riva, Pat; Žumer, Maja. op. cit. p. 5.
上記の表に、今後想定できるIFLA LRMのエレメント数を筆者が追加したものである。

(22)IFLA LRMの文書の以下の箇所を参照した。
Riva, Pat; Le Bœuf, Patrick; Žumer, Maja. “IFLA Library Reference Model: a conceptual model for bibliographic information”. 2017-08. As amended and corrected through 2017-12. p. 19.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/ifla-lrm-august-2017_rev201712.pdf [610], (accessed 2017-12-17).
 

[受理:2018-02-13]

 


和中幹雄. IFLA Library Reference Modelの概要. カレントアウェアネス. 2018, (335), CA1923, p. 27-31.
http://current.ndl.go.jp/ca1923 [388]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11062627 [623]

Wanaka Mikio
Overview of IFLA Library Reference Model

  • 参照(10006)
カレントアウェアネス [25]
動向レビュー [65]
書誌情報 [624]
Linked Data [625]
目録 [414]
書誌 [626]
典拠 [627]
IFLA(国際図書館連盟) [417]

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Source URL: https://current.ndl.go.jp/node/35663

リンク
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[2] http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11203360_po_ca338colophon.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
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[5] http://current.ndl.go.jp/e1785
[6] http://current.ndl.go.jp/ca1873
[7] http://current.ndl.go.jp/ca1911
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