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九州大学附属図書館:渡邊由紀子(わたなべゆきこ)
さまざまな情報がデジタル化されてインターネット上に氾濫するようになり、以前にも増して情報の提供者と利用者双方に著作権に関する知識が求められるようになってきた。本稿では、そのようなデジタル時代において、大学図書館が学生の著作権リテラシー(copyright literacy)育成にどのように貢献できるのかを、米国の大学図書館による著作権教育に焦点を当てながら考えてみたい。
2010年代後半から、図書館と著作権教育に関するオープンアクセス査読誌(1)の創刊、図書館による著作権教育に関する単行本(2)(3)(4)の相次ぐ刊行など、北米の図書館界では著作権サービスへの関心が高まっている。この動向は、次の国際的な潮流とも連動している。
国際図書館連盟(IFLA)は、2017年の年次大会(ポーランド・ヴロツワフ)中に開催された著作権教育に関するワークショップ(5)での議論を受けて、翌2018年に「著作権教育及び著作権リテラシーに関する声明」(6)を発表した。この声明は、図書館は利用者の情報へのアクセスを保証し学習を可能にするために、法律によって提供されるすべての可能性を利用すべきであること、また、図書館員が可能な限り最も効果的な方法で、その機能と義務を果たし、同僚や利用者を支援するには、著作権リテラシーを習得する必要があることを示した。「著作権リテラシー」とは、著作権で保護された資料の利用方法について、広い見識に基づいた決定を下すことができる十分な著作権の知識であり、「著作権教育」は、その著作権リテラシーを涵養し更新するプロセスと定義される。そして、図書館に対し、すべての図書館員が著作権法の基礎的知識を持つことを保証するとともに専門のコピーライトライブラリアン(copyright librarian)を任命することを検討するよう提言した。
大学図書館において著作権教育への関心が高まる背景には、学術論文や他の知的財産に係る著作権に関する問題が増加し複雑化する一方で、大学の教員や学生の著作権知識が不十分なことに対する懸念がある。その状況に対し、いくつかの大学図書館では、著作権に関するより具体的な情報を提供するために、コピーライトライブラリアンという新しい専門的な役職やコピーライトオフィス(copyright office)と呼ばれる新たな部署を設置するようになった(7)。
2006年8月から2013年4月までの期間に米国図書館協会(ALA)のJobLISTに掲載された求人広告2,799件のデータを分析したカウォーヤ(Dick Kawooya)ら(8)によると、役職名や本文に「著作権」と記載した求人が264件あり、著作権について言及している役職は2006年の9%から2011年の13%へと着実に増加していた。この結果から、コピーライトライブラリアンあるいは著作権に関する能力は、大学図書館の現在および将来のニーズに対する必須条件であると述べている。
フェルナンデス=モリーナ(Juan-Carlos Fernández-Molina)ら(9)は、世界大学学術ランキングの上位100大学からコピーライトまたは学術コミュニケーションオフィス(以下「コピーライトオフィス」)を持つ大学図書館24館(うち19館は米国)を選び、各図書館のウェブサイトに掲載された提供サービスと担当者のプロフィールを調査した。その結果、大学図書館にコピーライトオフィスが設置されてから数年しか経っていないにもかかわらず、すでに成熟期を迎えていること、それらのオフィスが提供するサービスは、学術コミュニケーションに関連するすべてのものを包含する方向に進化し、その対象者を教員や研究者から、学生、執行部、ティーチング・アシスタントを含む大学コミュニティ全体へと拡大していることを明らかにした。また、北米や豪州で大成功を収めているコピーライトオフィスが、利用者のニーズが類似する他の地域ではほとんど設置されていないため、世界中で同様の部署が必須になると指摘した。
著作権サービスの領域と焦点を特定するために、シュミット(LeEtta Schmidt)(10)は、カーネギー高等教育機関分類で最上級のR1(最高度の研究活動)と評価された115大学の図書館ウェブサイトを調査した。その調査と先行研究の結果に基づき、米国の研究大学図書館において、著作権に関する情報サービスが図書館の標準的な活動の一部となっていることは明白だと述べている。また、この調査から次のことが判明した。著作権サービスを担当する図書館員は、多くの場合、学術コミュニケーション担当者またはコピーライトライブラリアンのいずれかであり、職務の大部分は著作権教育に向けられている。その著作権教育は所属機関のすべての人々を対象とし、教職員と学生に共通して関心のあるトピックに取り組んでいる。これらのトピックは、著作権と再利用の基礎、授業での著作権で保護されたコンテンツの利用に関する情報、著者向けの著作権問題に関する情報の3領域に分類できる。
本節では、前述のコピーライトオフィスを持つ24大学およびR1大学の両方に含まれるイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)の図書館を例に、米国の大学図書館による著作権サービスと初年次教育に留まらない著作権教育について紹介する。
UIUCの図書館ウェブサイト上で、著作権サービスは研究支援の「学術コミュニケーションと出版」の中に位置付けられている(11)。「著作権」の見出しの下に掲載されている項目は、著作権の概要、著作権サービス(コピーライトライブラリアンの紹介、サービス範囲、免責事項)、著作権に関する情報源とガイド、著作権講習会と講義、ポッドキャストの5項目である。このうち著作権講習会と講義で扱う主題は、著作権の基本原則、著者のための著作権と出版、教室での著作権、フェアユースの権利、著作権と視覚芸術、著作権と工芸、著作権と建築、著作権とデータ、著作権とソーシャルメディア・利用規約と多岐にわたる。コピーライトライブラリアンは、これらの主題と関連トピックに関するさまざまな長さのゲスト講義やワークショップを提供している。
2015年に米国大学・研究図書館協会(ACRL)が策定した「高等教育のための情報リテラシーの枠組み」(CA1870 [4]参照)(12)は、その6コンセプトの一つ「情報は価値を有する」において、情報が多様な価値を持つことを前提に、情報の作成者および利用者に対し、学術コミュニティに参加する際の権利と責任を理解することを求めている。UIUC図書館のコピーライトライブラリアンであるベンソン(Sara Benson)は、このコンセプトに基づき、学生を含む研究者向けに、学術出版の実際の場面で著者としての自身の著作権について学ぶ講習会をデザインしている(13)。
また、同館は学生向けに「学士課程学生による研究(undergraduate research)論文誌」を題材とした著作権教育も提供している。米国の研究大学では、近年の学士課程教育改革の流れの中で、「学士課程学生による研究」の促進が大学全体の重要事項に位置付けられ、大学図書館はそれらの研究に対する支援を重視するようになった(14)。「学士課程学生による研究論文誌(undergraduate research journal)」は、学生の研究を促進する手段の一つであり、大学図書館は、この研究論文誌に対して、機関リポジトリ等の出版手段の提供、著作権やオープンアクセス等の雑誌運営に必要な情報の提供、論文誌創刊への関与、編集委員会への参加などによる支援を行っている(15)。そうした支援の展開には、ACRLが2013年に発表したレポート「学術コミュニケーションと情報リテラシーの交点」(16)で、図書館員の新たな役割として、学士課程学生による研究論文誌に関わる人々を対象にした著作権を含む情報リテラシー教育の重要性が強調されたことも影響している。
研究論文誌の論文を執筆する場合、学生は知識の消費者であり生産者でもあるため、著作物を作成し再利用する際の著作権の管理と、出版物の著者としての権利の管理の両方に責任を持つことになる。そこで、UIUC図書館は、学士課程学生の研究論文誌に初めて論文を掲載する準備をしている学生のために、「学士課程学生の研究論文誌での論文発表について知っておくべきことすべて」と題した、著作権と著者の権利に関する90分間のワークショップを新たに考案した(17)。そのプログラムを見ると、学生は論文の生産・管理・提供の流れに沿って、論文で著作物を使用する際にフェアユースを適用する方法、論文掲載時の著者同意書の読み方、自身の論文が将来の研究に与える影響の順に、事例研究、議論、理解度チェックを繰り返しながら、知的財産と著作権について学ぶ構成となっている。
先述の調査結果や実践例から考えると、日本の大学図書館による著作権サービスには発展の余地があると言えるだろう。たとえば、日本と中国の大学図書館57館のウェブサイトに掲載された著作権に関する情報を比較分析したワン(Ying Wang)ら(18)は、日本では中国よりも著作権に言及することが多く、著作権情報の提供に積極的であるものの、著作権情報の可視性や図書館が行っている著作権活動の点で不十分であると指摘した。その上で、日本の図書館に対し、図書館ウェブサイト上の著作権情報をより可視化し、著作権教育を日常的な活動にして、コピーライトライブラリアンのポストや著作権担当部署を設けるべきであると提言している。
他方、多くの国で図書館員は著作権に関する知識が不足していると感じており、著作権教育者の役割を担うことに自信を持てずにいるとの報告がある(19)。日本の大学図書館においても、大学の構成員、特に学生を対象とした著作権教育に貢献するためには、まず図書館員自身の著作権リテラシー向上が重要となる。世界的な潮流の中で、豊富な先行事例を参考に、学術コミュニケーション支援と情報リテラシー教育の交点に著作権教育を位置付けて、著作権サービスの担当者と担当部署を明確化しながら、著作権教育により深く関与することが大学図書館に期待されている。
(1) Journal of Copyright in Education and Librarianship. University of Kansas Libraries, 2016-.
https://www.jcel-pub.org/index [5], (accessed 2020-10-01).
(2) Frederiksen, Linda. The Copyright Librarian: A Practical Handbook. Chandos Publishing, 2016, 134p. (Chandos information professional series).
(3) Benson, Sara R. ed. Copyright Conversations: Rights Literacy in a Digital World. ACRL, 2019, 401p.
(4) Smith, Kevin L.; Ellis, Erin L. ed. Coaching Copyright. ALA Editions, 2020, 188p.
(5) “Models for Copyright Education in Information Literacy Programs”. University of Wisconsin-Milwaukee.
https://uwm.edu/informationstudies/research/partnerships/models-for-copyright-education/ [6], (accessed 2020-10-01).
なお,下シレジア大学で開催された同ワークショップの発表をもとにした論文の特集号が2019年に刊行された。
Journal of Copyright in Education and Librarianship. IFLA World Library and Information Congress “Models for Copyright Education in Information Literacy Programs” Special Issue. 2019, 3(2).
https://www.jcel-pub.org/jcel/issue/view/1425 [7], (accessed 2020-10-01).
(6) IFLA Copyright and other Legal Matters Advisory Committee. “IFLA Statement on Copyright Education and Copyright Literacy (2018)”. IFLA.
https://www.ifla.org/publications/node/67342 [8], (accessed 2020-10-01).
(7) Fernández-Molina, Juan-Carlos; Martinez-Ávila, Daniel; Silva, Eduardo Graziosi. University copyright/scholarly communication offices: Analysis of their services and staff profile. The Journal of Academic Librarianship. 2020, 46(2), 102133.
https://doi.org/10.1016/j.acalib.2020.102133 [9], (accessed 2020-10-01).
(8) Kawooya, Dick; Veverka, Amber; Lipinski, Tomas. The copyright librarian: A study of advertising trends for the period 2006-2013. The Journal of Academic Librarianship. 2015, 41(3), p. 341-349.
https://doi.org/10.1016/j.acalib.2015.02.011 [10], (accessed 2020-10-01).
(9) Fernández-Molina. op. cit.
(10) Schmidt, LeEtta. Copyright educational services and information in academic libraries. Public Services Quarterly. 2019, 15(4), p. 283-299.
(11) University of Illinois at Urbana-Champaign, University Library. “Scholarly Communication and Publishing, Copyright Services”. University of Illinois at Urbana-Champaign.
https://www.library.illinois.edu/scp/copyright-overview/ [11], (accessed 2020-10-01).
(12) ACRL. “Framework for Information Literacy for Higher Education”.
http://www.ala.org/acrl/standards/ilframework [12], (accessed 2020-10-01).
(13) Benson, Sara R. “Copyright for scholars: Informing our academic publishing practices”. Framing Information Literacy: Teaching Grounded in Theory, Pedagogy, and Practice, vol. 2. Information Has Value. Oberlies, Mary K.; Mattson, Janna. ed. ACRL, 2018, p. 159-170. (ACRL publications in librarianship, no. 73).
(14) 新見槙子. 大学図書館が実施する「学士課程学生による研究」に対する支援の実態と特徴 : 北米の研究大学図書館を対象とする質問紙調査とインタビュー調査から. Library and Information Science. 2017, (78), p. 111-135.
http://lis.mslis.jp/article/LIS078111 [13], (参照 2020-10-01).
(15) 新見槙子. 学士課程学生の研究論文誌に対する大学図書館の支援 : 北米の事例から. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 2019, p. 9-12.
http://mslis.jp/am2019yoko/03_niimi.pdf [14], (参照 2020-10-01).
(16) ACRL. Intersections of Scholarly Communication and Information Literacy: Creating Strategic Collaborations for a Changing Academic Environment. ACRL, 2013, 26p.
https://acrl.ala.org/intersections [15], (accessed 2020-10-01).
(17) Hensley, Merinda Kaye. “Undergraduate research journals as pedagogy”. Coaching Copyright. Smith, Kevin L.; Ellis, Erin L. ed. ALA Editions, 2020, p. 105-120.
(18) Wang, Y.; Yang, X. Libraries’ positions on copyright: A comparative analysis between Japan and China. Journal of Librarianship and Information Science. 2015, 47(3), p. 216-225.
(19) Secker, Jane; Morrison, Chris; Nilsson, Inga-Lill. Copyright literacy and the role of librarians as educators and advocates. Journal of Copyright in Education and Librarianship. 2019, 3(2), p. 1-19.
https://doi.org/10.17161/jcel.v3i2.6927 [16], (accessed 2020-10-01).
[受理:2020-11-13]
渡邊由紀子. 著作権リテラシーを育成する大学図書館. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1986, p. 2-4.
https://current.ndl.go.jp/ca1986 [17]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11596732 [18]
Watanabe Yukiko
Academic Libraries Promoting Copyright Literacy
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九州大学附属図書館:内山英昭(うちやまひであき)
九州大学附属図書館は、情報系と教育工学系のチームと共に、ラーニングアナリティクス(LA)の研究を行っている。本稿は、LA の概要と九州大学の取り組みを述べたものである。
初めに、LAについて、概要を紹介する。LAは、日本語で学習解析と訳される言葉である。LAの目的は、情報通信技術(ICT)を利用して学習に関する様々なデータを収集・解析することで、今までに明らかになっていなかった問題点を洗い出し、既存の教育・学習の方法論を発展させることである(1)。このように、ICTを利用して収集した大規模かつ定量的なデータをエビデンスとして用いる教育・学習改善は、ICTの発展に伴って可能となった新たなアプローチであり、近年研究が盛んに行われている。
LAの研究が盛んとなった背景として、パソコンや電子教科書、電子黒板等のICTの教育現場への導入が進み、教育に用いられるデジタルツールが増加していることが挙げられる。最近では、このような方略をデジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉で説明されることもある。教育現場のデジタル化を目指すという観点では、DXはICTの導入と同じ方向性であると言える。DXでは、さらに、デジタル化による付加価値を創造することも目的としており、LAによってDXを加速させることも期待できる。
LAを行うにあたり、ICTに基づく学習管理システムやデジタル教科書システムを活用することで、教育・学習過程における様々なデータが収集可能である。例えば、学生がどのページを何分間見たか、授業スライドのどこに付箋やマークを付けたか、といった学習プロセスや、教員がどのようなペースで説明したか、教員の見せているスライドと学生の見ているスライドに差があるか、といった教育プロセスを定量的なデータとして収集できる。これらのデータに対し、数理統計等のデータサイエンス技術を用いて解析することで、学習者の状況に合わせた学習支援や、教育現場における効果的な教授法の開発等、データに基づく科学的な観点での教育・学習改善が可能となっている。
大学教育の高度化に向けて、大学図書館がLAに取り組む場合に、収集可能な学習に関するデータは、どのようなものがあるだろうか。例えば、書籍の貸し出し履歴や図書館内の滞在時間、学習相談の回数等が挙げられる。オンラインサービスを提供している図書館では、電子書籍や電子ジャーナルの利用状況や、検索・閲覧履歴等も挙げられる。ICTがさらに発展すれば、利用者が図書館内に滞在中に利用した書籍や、ラーニングコモンズや自習室等の図書館内の滞在場所もデータとして収集可能であると考えている。一般に、このようなデータを用いることで、図書館の利用方法と学生の成績の関係を解析可能であるため、学生の学びの支援に向けた図書館の方策の策定に役立てることが可能である。しかし、これらのデータは、プライバシーに関するものであるため、慎重な取り扱いが求められる。そのため、現在では、図書館内で収集可能なデータの扱い方に関する議論が主に行われている。
海外では北米で盛んな取り組みが見られ(E2112 [28]参照)、米・ミシガン大学が中心となり、Library Learning Analytics Project(2)が立ち上がっている。このプロジェクトの目的は、大きく分けて2つある。1つ目は、図書館利用の学習に対する効果を明らかにすることである。例えば、EZproxy(OCLCのリモートアクセス用ソフトウェア)の利用状況とGPAの間に正の相関がある、といった報告がなされている(3)。2つ目は、図書館でLAを行うためのルールの策定やLA用ツールの構築である。前述したように、データの取り扱いに関する倫理的課題やプライバシー問題に関し、調査及び提言がなされつつある(4)。現状では、LAを実施するためのデータの収集・運用・管理に関するルール策定が不十分であると考えられている。例えば、データを匿名化する人とデータを解析する人を分けること等による匿名性担保の枠組みや、学内外のどの範囲までのデータと合わせて解析することを許可するかといったデータの利用範囲等に関し、明確な規定がされていない場合が多い。そのため、図書館でLAを実施するためには、図書館に関するデータの研究利用に関してリスクを洗い出し、適切なルールを策定することが重要である。
なお、LAが現在扱っている教育データの利活用に関しては、すでに国内でも様々な議論が行われている。例えば、文部科学省において、教育データの利活用に関する有識者会議(5)が開催されており、また、日本学術会議による提言(6)もある。さらに、「教育・学習データ利活用ポリシー」のひな型の策定の取り組みも行われている(7)。これらの対象とする範囲は、主に講義を対象とした教育や学習に関するデータであるが、図書館利用に関するデータとも共通する部分も多い。そのため、教育データの利活用のためのルール策定の背景や経緯を踏まえ、図書館に関するデータの利活用ポリシーの策定を進めることが望まれる。
ここからは、筆者の取り組む大学図書館とLAの関わり方を設計する研究プロジェクトを紹介する。国内外で取り組む図書館に関するLAの研究は、既存の図書館データを利用することが前提となっている。一方、筆者らは、新たな大学図書館のあり方の検討を通じ、大学図書館が取り扱うべき新たなデータとそのLAへの利活用方法の提案に取り組んでいる。
筆者は、2019年度に科学技術振興機構のAIP加速課題に採択された研究プロジェクト「学習者主体型教育を実現する学習解析基盤の構築」に参加している(8)。メンバーは、プロジェクトの代表者の島田敬士教授(システム情報科学研究院)と、共同研究者の山田政寛准教授(基幹教育院)であり、情報科学、教育工学、図書館情報学が一体となり、大学教育の高度化に向けたプロジェクトを遂行している。このプロジェクトでは、情報化社会において多様化する学びを支援するための技術を確立し、持続的かつ能動的な学びを実践できる人材を育成するためのLAの基盤構築を目的としている。学習解析デザイングループ(島田教授)、学習者デザイングループ(山田准教授)、学習環境デザイングループ(筆者)(9)の3つのグループでプロジェクトチームを構成し、それぞれのグループで、学習解析技術の開発、学習データサイエンティストの育成、新たな学習ハブとしての役割を果たす大学図書館の実現、をテーマとした研究活動を行っている。
九州大学では、大学教育におけるLAを推進するための環境が整備されている(10)。例えば、Bring Your Own Device(BYOD)を推進するとともに、無線LANも整備されている。これにより、必ず学生がインターネットに接続したPCを所有している、という前提で講義を行うことができる。利用者の事前の承諾の下、Learning management system(LMS)を用いて様々なログを収集し、学生の学び方や教員の教え方を定量的に解析している。このような活動は、ラーニングアナリティクスセンターが主体的に行っている(11)。
筆者は、島田教授らとLAに関する研究に取り組む中で、今後のLA研究の方向性や解決すべき課題を議論してきた。今のLAでは、個々の学習者の学習解析や学習支援に焦点をおき、個人の学習行動に関するデータに対する解析が主であった。例えば、島田教授は、リアルタイムに学習状況を解析し、個別かつインタラクティブな講義支援技術を確立している(12)。これらを踏まえ、今後のLA領域の方向性の一つは、個別の学習に加え、協学を対象とした教育改善にあると考えている。協学の教育手法として、Project-based learning(PBL)が挙げられる。これは、問題解決型学習とも呼ばれ、あるグループの中で学習者が能動的に学習への参加を行う協学である。PBLのように、フォーマルな形での授業内における教育方法の構築は盛んに行われている。今後は、授業外やインフォーマルな場における協学の枠組みも重要である(13)。特に、コロナ禍では、対面でのコミュニケーションが難しい場面も多く、オンラインによる協学の方法論が望まれており、喫緊の課題であるとも言える。
続いて、筆者の取り組むプロジェクトの構想とアイデアを説明する。本プロジェクトの軸となる構想は、「教育学習改善の持続性」と「学習者主体型教育」の2つである。前者では、学生の学習と教員による教育の方法論を改善するプロセスを持続的かつ自律的に循環させることを目指す。また、後者は、そのプロセスの主体を学生、すなわち学習者とすることを目指すものである。
学習者主体の教育学習改善のプロセスを循環させるための鍵となるアイデアは、各学習者の理解した学びの要点や弱点克服法、リフレクション(振り返り)を他者に共有してもらい、後学者の学習支援につながる学びを実現させる点である。すなわち、学習者自身が自らの経験や理解をコンテンツ化して発信することによる他者への教えを通じた学び、他者の学びを取り入れることによる学びの深化、さらにその学びによる成長経験を他者へ発信、のサイクルを循環させる枠組みをLMS上で構築する。コンテンツの事例として、例えば、授業中にノートを取る際に自らが理解しやすいようにまとめた文言や、リフレクション時に得た気づきを言語化したものである。教員は、このようなコンテンツから、学生がどのように学んでいるか、講義のポイントをどのようにとらえているかを把握することで、教育改善につなげることができる。今日までの教育改善は、授業後のアンケート等が主であった。それに対し、本プロジェクトでは、教員が学生の学びの過程を把握することによって、教育改善の中に学生の視点を取り入れることを目指している。
本プロジェクトでは、学習者の作成するコンテンツを「Learner-Generated Contents(LGC)」と命名している。LGCを通じた学びの循環の枠組みは、授業外学習におけるオンライン上での協学の一つとなりうると考えている。さらに、LGCは、学習ログのような表層的なシステムログからは直接的にセンシングできない学習過程のデータであるため、学習者がどのように学び、理解しているか、といったメタ認知的要素の解析もLAによって可能となると考えている。
続いて、筆者が大学図書館の立場からこの研究プロジェクトに参加する意義を説明する。大学図書館は、教育研究を支える学術情報基盤として、学術情報の体系的な収集、蓄積、提供を主たる機能として求められている。最近では、蔵書の提供のみならず、協学を推進するためのアクティブラーニングスペースの運営や文献利用教育等が、学習支援の観点から行われている。また、研究支援の観点では、オープンサイエンス推進に向けた学術論文やデータを公開するための学術情報リポジトリの運用やその利用方法の教育を行っている。
このような背景のもと、前述したようなLAによる大学教育の高度化が進む中、筆者らは、大学図書館の位置付けやLAとのかかわり方を検討してきた。その中で、LGCに対するLAを行うにあたり、LGCの収集、整理、発信は、大学図書館が担うべき機能であると着想した。これは、教育過程において学生によって作成された学びに関するコンテンツのインデックス化、すなわち、「ラーニングリポジトリ」を構築することに相当するためである。学生の学びに関する情報を整備することは、まさに、資料の整備という図書館の果たすべき重要な役割の一つである。今後の大学図書館では、研究成果に関するリポジトリの運用のみならず、学び等の教育成果に関するリポジトリを運用することが、協学を支援するための新たな学習ハブとしての大学図書館の機能として求められると考え、本研究プロジェクトに参加した。
九州大学附属図書館には、LGCのアイデアのもととなったオンラインサービスがある。それは、Cute.Guidesである(14)。Cute.Guidesとは、授業外学習を支援するための図書館TA(Cuter)が中心となって作成した学習や研究に役立つ情報をまとめたウェブコンテンツである。コンテンツの内容は、学習・研究スキル、専門トピック、語学・留学・履修・進路、資料紹介・読書案内、から構成されており、学習に関することのみならず、大学生活において役立つ情報をまとめたサイトとなっている。学生目線で作成されたコンテンツは、一般に他の学生にとっても理解しやすい情報の粒度で作成されている。また、教職員は、それらのコンテンツを教育改善に役立てることができる。このように、学生の作成した学びに関するコンテンツの共有を大学の授業においても展開することで、授業や学年の枠を超えた協学をオンライン上で活性化できると考えている。このような背景の下、大学の授業で分からないことがあれば、第一に図書館のラーニングリポジトリにて検索する、ということを実現することが、本研究プロジェクトの目標でもある。ラーニングリポジトリと蔵書を連携させることができれば、蔵書の利用も活性化させることができる。このように、ラーニングリポジトリの構築と運用を行うことで、大学教育に貢献できれば、今まで以上に図書館の重要性が増すと考えている。
筆者のグループで、実装を進めているLGCシステムについて説明する。本システムのステークホルダは、ある学習者、教員・TA(Teaching Assistant)、他の学習者であり、三者の関わり方を検討している。図1に、提案するシステムのワークフローを示す。初めに、学習者がLGCを投稿する。次に、LGCの内容に誤りがないか、問題がないかを教員やTAがチェックし、必要に応じて学習者に修正を依頼する。LGCの公開後は、他の学習者がそれらを閲覧可能となるとともに、気に入ったLGCに対して、「いいね!」ボタンを押すことができる。学習者が閲覧したい記事に容易にアクセス可能とするために、LGCのインデックスとして、授業ごとに記事を分類するとともに、キーワードによる検索やハッシュタグ等の機能も有している。このシステムを通じ、教員は、学生がどのように学習しているかを把握し、教育改善につなげられる。また、学習者は、互いに学びを取り入れられるとともに、記事に対する他の学習者による評価を確認することで、よりよい説明の方法論を自律的に体得できる。このように、教育に関係する全てのステークホルダが本システムに関わるための枠組みを設計し、学習者が主体的にコンテンツを共有して循環させるシステムを構築している。
本システムを運用する上で課題の1つは、学習者がこの循環に参加することによるインセンティブ設計である。学習者は投稿せずに閲覧するのみ、といったことは可能である。しかし、このLGCを通じた協学の循環を活性化するためには、より多くの学習者にLGCを共有してもらうことが重要となる。この問題を解決するための1つの方法は、例えば、TAになる要件として、LGCの作成経験を加えることが挙げられる。多くの人の学びに貢献したLGCを作成した人は、他の学習者の学びを支援するTAとして適切であると考えることができる。このようなルール作りは、各大学で運用するTA制度と関連するために、簡単には実現することは難しい。今後は、学習者がこの協学循環に参加するためのインセンティブ設計や、大学教育におけるLGCの活用方法の提案が重要な研究課題となる。
筆者のグループで取り組む研究テーマは、協学の場に対するLAである。その1つとして、図書館内に設置されているアクティブラーニングスペース内の利用状況の定量的な計測と解析を試みている。2020年10月現在、コロナ禍において、スペースの利用が禁止となったために、データ計測ができない状況ではあるが、2019年度に構築したシステムを簡単に紹介したい。
一般に、アクティブラーニングスペースの利用状況の調査には、アンケート調査が用いられることが多い。筆者らは、ICTを活用し、定量的かつ自動的にスペースの利用状況を収集するための枠組みを検討してきた。日本国内では、東京都の電気通信大学附属図書館内に設置されているUEC Ambient Intelligence Agora(AIA)が事例として挙げられる(15)。UEC AIAでは、温度、湿度、照度、二酸化炭素濃度、指向性マイク、CCDカメラを設置し、プライバシーに配慮した上で、データを計測している。このような定量的なデータからは、議論の活発さや混雑度合い、空間環境と利用状況の関係の解析が可能である。
より良い協学の環境作りに向け、本プロジェクトでもアクティブラーニングスペースにおける環境情報の計測および利用状況の調査に取り組んだ。特に、システムを設計するにあたり、市販のデバイスで構成することで、他の図書館にも導入しやすい枠組みを検討した。環境情報の計測には、図2のように、IoTデバイスであるNetatmo(16)を利用した計測ボックスを作成した。Netatmoを利用することで、インターネットを通じて自動的に計測データがクラウド上にアップロードされ、ブラウザからデータを確認することができる。また、利用状況の調査には、図3のように、アンケートシステムを設置している。このシステムは、Apple社のiPadにインストールしたKURERU(17)を利用している。
本稿では、協学を支援するための新たな学習ハブとしての大学図書館の実現に向け、筆者の取り組む研究プロジェクトの概要を紹介した。現在は、システムの基本的な機能の構築が終了し、実際に行われている授業においてLGCを収集している段階である。本研究プロジェクトは、開始したばかりの萌芽的な側面の強い研究である。今後は、LGCに対するLAの結果、さらにはそれによる教育改善に関して、研究成果の報告を行う予定である。
最後に、東北大学附属図書館の大隅典子館長の令和2年度初頭挨拶(18)を紹介したい。「今、考えるべき新たな附属図書館の姿」という題目で、大学図書館の機能や位置付けを改めて模索すべき時期にきた、ということを述べている。加えて、前例なきことに挑戦するときに必要なことは、想像力と少々の失敗を許容する包容力である、とも述べている。筆者の取り組む研究プロジェクトは、まさに、大学図書館が教育の高度化に向けて関わる一つの姿を模索するものである。このような挑戦を今後も積極的に推進することで、大学図書館の機能拡張を実現し、教育の高度化に貢献したい。
(1) 山田政寛. ラーニング・アナリティクス研究の現状と今後の方向性. 日本教育工学会論文誌. 2018, 41(3), p. 189-197.
“What is Learning Analytics?”. Society for Learning Analytics Research.
https://www.solaresearch.org/about/what-is-learning-analytics/ [29], (accessed 2020-11-12).
(2) Library Learning Analytics Project.
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(3) “Associations between EZproxy use and undergraduate student GPA, 2016-2019”. 2020 Library Assessment Conference.
https://www.libraryassessment.org/program/2020-schedule/ [31], (accessed 2020-11-12).
(4) Jones, Kyle M. L. et al. A Comprehensive Primer to Library Learning Analytics Practices, Initiatives, and Privacy Issues. College & Research Libraries, 81(3), 2020, p. 570-591.
https://doi.org/10.5860/crl.81.3.570 [32], (accessed 2020-11-12).
(5) “教育データの利活用に関する有識者会議”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/158/index.html [33], (参照 2020-11-12).
(6) “教育のデジタル化を踏まえた学習データの利活用に関する提言―エビデンスに基づく教育に向けて―”. 日本学術会議. 2020-09-30.
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t299-1.pdf [34], (参照 2020-11-12).
(7) 上田浩, 緒方広明, 山田恒夫. 「教育・学習データ利活用ポリシー」のひな型の策定について. 電子情報通信学会技術研究報告. 2020, 119(434), p. 1-7.
(8) “持続可能な学習者主体型教育を実現する学習分析基盤の構築”. AIP加速課題.
https://www.jst.go.jp/kisoken/aip/program/research/aip/index.html [35], (参照 2020-11-12).
(9) 筆者を除く学習環境デザイングループのメンバーは次のとおりである。
九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻の冨浦洋一教授、石田栄美准教授、渡邊由紀子准教授、京都大学附属図書館の西岡千文助教、千葉大学アカデミック・リンク・センターの國本千裕准教授。
(10) 緒方広明, 藤村直美. 大学教育におけるラーニングアナリティクスのための情報基盤システムの構築 .情報処理学会論文誌教育とコンピュータ. 2017, 3(2), p. 1-7.
http://id.nii.ac.jp/1001/00182181/ [36], (参照 2020-11-12).
(11) 九州大学基幹教育院ラーニングアナリティクスセンター.
http://lac.kyushu-u.ac.jp [37], (参照 2020-11-12).
(12) 島田敬士, 緒方広明, 木實新一.リアルタイム学習解析に基づく講義支援. 電子情報通信学会技術研究報告. 2018, 177(421), p. 5-8.
(13) 山内祐平, 山田政寛. インフォーマル学習. ミネルヴァ書房, 2016, 183p., (教育工学選書, 2-7).
(14) “Cute.Guides”. 九州大学附属図書館.
https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/ [38], (参照 2020-11-12).
(15) 上野友稔, 中田はるみ, 村田輝. 電気通信大学附属図書館「UEC Ambient Intelligence Agora」. 大学図書館研究. 2017, 107, p. 1709-1-1709-10.
https://doi.org/10.20722/jcul.1709 [39], (参照 2020-11-12).
(16) Netatmo.
https://www.netatmo.com/ [40], (参照 2020-11-12).
(17) KURERU.
https://kureru.jp/ [41], (参照 2020-11-12).
(18) 大隅典子. “附属図書館長 令和2年度初頭挨拶”. 東北大学附属図書館. 2020-04-01.
http://www.library.tohoku.ac.jp/about/director/20200401.html [42], (参照 2020-11-12).
[受理:2020-11-12]
内山英昭. 協学を支援するための新たな学習ハブとしての大学図書館の実現に向けた九州大学の取り組み. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1987, p. 4-8.
https://current.ndl.go.jp/ca1987 [43]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11596733 [44]
Uchiyama Hideaki
Next-Generation University Libraries as Learning Hub to Support Collaborative Learning: Kyushu University Library Initiatives
PDFファイル [51]
島根大学附属図書館:青柳和仁(あおやぎかずひと)
デジタル画像の相互運用のための国際規格International Image Interoperability Framework(IIIF;CA1989 [52]参照)(1)が国内外のデジタルアーカイブで近年普及してきている。IIIFでは、安定版としては4種類のAPIが機能別に規定されている(2)が、IIIF Image API とIIIF Presentation APIの2つの基本APIに対応していればIIIF対応のデジタルアーカイブとして運用することができる。島根大学附属図書館デジタルアーカイブ(以下「島大アーカイブ」)(3)では、2018年1月30日にこの2つの基本API(バージョンは2.1.1)に対応したシステムとしてリニューアルしており(4)(5)、国内のデジタルアーカイブでもこの2つの基本APIに対応したシステムが次々と公開されている(6)。
IIIF対応した後の島大アーカイブでは、2019年9月30日には画像の二次利用ライセンスを改定し(E2221 [53]参照)、島根大学のネットワークからのみ閲覧ができるコンテンツ(学内コンテンツ)を搭載した(7)。その後、2020年3月10日からIIIF Authentication API 1.0(8)に対応した認証コンテンツを搭載している(9)。
本稿では、国内外でもほとんど例がないと思われるIIIF Authentication API の導入事例を紹介する。
島大アーカイブでは、島根大学が所蔵する資料だけでなく、山陰地域の博物館、図書館等の機関や個人が所蔵する資料についても、デジタル化したコンテンツを公開している。
また、搭載しているコンテンツはアクセス制限の種類により以下のようなものがある。
内容的に一般に公開してよいコンテンツは公開コンテンツとして搭載しており、一般への公開がなじまないコンテンツについては、学内コンテンツや認証コンテンツとして搭載している。また、後述のとおり、IIIF Authentication APIは認証コンテンツにのみ導入している。
認証コンテンツの搭載が必要となった背景には、以下の2つがある。
1つ目は学外の機関や個人が所有している資料について、所有者の知らないところで資料を複写され、無断で商用その他の二次利用をされることを良しとしない意向や、画像がどのように利用されたかを知りたいという意向があり、そのような資料については公開範囲を学内に限定しても不十分であり、さらに厳しいアクセス制限が望まれたことである。学内コンテンツは、島根大学内のネットワークからであれば自由に閲覧や複写ができてしまうが、認証コンテンツであれば閲覧にあたって所定の手続きが必要であるため、複写が必要かどうか、誰がどのような目的で利用するかの確認が取れる。
2つ目は、まだ資料の調査が不十分であったり、研究途中である資料についても、早い段階でデジタルアーカイブに搭載したいという図書館としての思惑であった。従来の流れとしては、まず資料の調査・研究を行い、調査・研究が完了してからデジタルアーカイブへ搭載するためのデジタル画像を作成(デジタル化)し、デジタル化したものをコンテンツとして搭載してきた。資料の調査・研究には時間が必要であり、特に大型のコレクションともなると数年の時間がかかる。そこで、資料の調査・研究よりも前に(もしくは並行して)デジタル化を行い、早い段階でデジタルアーカイブに搭載できれば、デジタルアーカイブでの公開までの時間短縮が図れる。しかし、調査・研究前の資料は、それが一般への公開にふさわしい内容のものであるかは不明であり、調査・研究の当事者である研究者にとっても研究前の資料が公開されることについては多くの場合好ましくないものと思われている。この問題は、認証コンテンツとして搭載することで、調査・研究を行うチームだけが閲覧できる状態となるため、解決できる。調査・研究が完了した後は、資料の特性等に応じて速やかにアクセス制限を変更して公開できるというメリットがあるほか、研究者にとっても自宅から資料を見ることができ、研究チーム全員が同時に一つの資料を見ることが可能となるため、研究活動の効率化にもつながる(10)。
また、認証コンテンツをIIIF Authentication API対応で実装した理由としては、IIIFの枠組みで規定されている仕組みであること、対応しているビューワーであればシームレスに認証して閲覧に移れることがあった。国内での前例は確認できなかったが、島大アーカイブが先進事例となり、他館でもIIIF Authentication API対応の事例が増えることを期待して意欲的に実装を試みた。
システムとしては、3種類のサーバによって構成されており、公開コンテンツと学内コンテンツの場合の処理は図1のような流れとなっている。
リバースプロキシサーバは、ブラウザ(ユーザ)と実際に処理をするサーバとの中継を行っており、ユーザからの画像データ要求(リクエスト)や画像データのinfo.jsonファイルリクエストを画像配信サーバへ、IIIF Manifestファイルやその他のリクエストをユーザフロントエンドサーバへ割り振っている。そのため、IIIF の文脈で言えば、画像配信サーバはIIIF Image APIに対応し、ユーザフロントエンドサーバはIIIF Presentation APIに対応した構成となっている。
画像配信サーバはIIIF Image APIに対応したオープンソースソフトウェアのIIPImage Server(11)を使って構築している。一方のユーザフロントエンドサーバは、IIIF Manifestファイルの生成・出力や資料の検索機能等の役割を担っており、株式会社ENU Technologies(12)に構築を依頼したものである。
学内コンテンツの場合、リバースプロキシサーバでユーザのリクエストが有効かどうかの判定が行われ、無効なリクエストにはHTTP ステータスコード403(「アクセス拒否」を意味するコード)のエラーが返される。
認証コンテンツへのアクセスについては、システムを構成するサーバは前述のものと同一であるが、認証機能をIIIF Authentication APIに準拠した仕組みで実装するために、処理の流れが異なる。
IIIF Authentication APIでは、ユーザが未認証だった場合には、画像配信サーバ(IIIF Image API)が出力するinfo.jsonファイルについて、HTTPステータスコード401(「認証が必要」を意味するコード)を返しつつ、特定のJSON形式データを出力する必要があるが、IIPImage Serverでは、この処理を行うことができない。
そのため、ユーザが認証コンテンツへのリクエストを行った場合、図2のように全てのリクエストをユーザフロントエンドサーバへ割り振り、ユーザフロントエンドサーバがリクエストと認証状態に応じてさらに中継を行って画像配信サーバへ処理を割り振っている。つまり、ユーザフロントエンドサーバが2段目のリバースプロキシサーバとして動作している。
こうすることで、ユーザが未認証だった場合には、ユーザフロントエンドサーバ側でinfo.jsonファイルを生成し、これをHTTPステータスコード401と共にユーザに対してレスポンスすることで対応できるようにしている。そして、ユーザが認証済みの場合、ユーザフロントエンドサーバは、画像データやinfo.jsonのリクエストを画像配信サーバへ渡して中継を行い、ビューワーで画像が表示されるようになる。
IIIF Authentication APIでは、アクセスCookieの発行方法の違いにより以下4種類の認証パターンがある。
島大アーカイブでは、ユーザ毎にアクセスできる認証コンテンツが異なり、ユーザID管理が必要であることや、シームレスで明示的なログインの手続きができる認証パターンが求められたため、これらのうち“Login”のパターンを採用している。その他のIIIF Authentication APIについての技術的な詳細は公開されている仕様を参照していただきたい(13)。
島大アーカイブでは、検索結果の表示画面等でも認証コンテンツであることがはっきりとわかるように、サムネイル表示では図3のような画像が表示されるようになっている。
これら認証コンテンツをIIIF Authentication API対応のビューワーで開こうとすると、図4のようなログイン要求のポップアップが表示される。
ここで“Login”ボタンをクリックすると図5のようなログイン用のタブ(又はウィンドウ)が開かれ、ID とパスワードを入力してログインする画面が表示される。
ログイン完了後は、元のタブ(又はウィンドウ)に戻るようになっており、図6のように本来の認証コンテンツの画像が表示されるようになっている。
これら一連の動きはIIIF Authentication APIによって規定されており、同APIに対応したビューワーであれば、同様に表示することができるようになっている。
また、認証コンテンツであっても、書誌情報や二次利用ライセンス等のメタデータについてはログインの必要なく見ることができるようになっている。
デジタルアーカイブは、本来はコンテンツを一般に広く公開するためのシステムであることが期待されているため、アクセス制限のあるコンテンツの搭載は適さないという考えもある(14)。しかし、本稿で述べた背景のように、アクセス制限をしないと公開できない場合は、その資料の存在を示しながら、将来的に利活用される可能性が開かれるため、全く公開しないよりはアクセス制限がある状態でも公開することに意義があると思われる。
IIIF Authentication APIは、IIIFの目的である相互運用性を確保しつつアクセス制限機能を実現する仕組みであるため、アクセス制限をせざるを得ない場合には、当館の事例が参考となって、他機関でもIIIF Authentication APIが導入されるようになれば幸いである。
(1) International Image Interoperability Framework™.
https://iiif.io/ [54], (accessed 2020-10-07).
IIIFの全体像については以下に詳しい。
永崎研宣. 特集, デジタルアーカイブを支える技術:デジタル文化資料の国際化に向けて:IIIFとTEI. 情報の科学と技術. 2017, 67(2), p. 61-66.
https://doi.org/10.18919/jkg.67.2_61 [55], (参照 2020-10-07).
(2) “API Specifications - International Image Interoperability Framework™” IIIF.
https://iiif.io/api/ [56], (accessed 2020-10-07).
(3) 島根大学附属図書館デジタルアーカイブ.
https://da.lib.shimane-u.ac.jp/content/ [57], (参照 2020-10-07).
(4) “新しいデジタルアーカイブを公開しました”. 島根大学附属図書館. 2018-01-30.
https://www.lib.shimane-u.ac.jp/new/2018013000038/ [58], (参照 2020-10-07).
(5) 島根大学附属図書館デジタルアーカイブは2008年10月から運用している。
https://www.lib.shimane-u.ac.jp/menu/about/gaiyo/history/shimane_univ_library.html [59], (参照 2020-10-07).
(6) 国立大学図書館協会学術資料整備委員会デジタルアーカイブWG. 大学図書館におけるデジタルアーカイブの利活用に向けて. 国立大学図書館協会, 2019, p. 24.
https://www.janul.jp/sites/default/files/2019-07/sr_dawg_report_201906.pdf [60], (参照 2020-10-07).
(7) “デジタルアーカイブに学内限定コンテンツを搭載しました”. 島根大学附属図書館. 2019-12-10.
https://www.lib.shimane-u.ac.jp/new/2019100200089/ [61], (参照 2020-10-07).
(8) “IIIF Authentication API 1.0”. International Image Interoperability Framework™.
https://iiif.io/api/auth/1.0/ [62], (accessed 2020-10-07).
(9) “デジタルアーカイブに認証コンテンツを搭載しました”. 島根大学附属図書館. 2020-03-17.
https://www.lib.shimane-u.ac.jp/new/2020031000013/ [63], (参照 2020-10-07).
(10) 研究段階に応じた認証コンテンツ搭載機能については、以下にも記述がある。
北本朝展ほか. IIIF Curation Platform:利用者主導の画像共有を支援するオープンな次世代IIIF基盤. じんもんこん2018論文集. 2018, 2018. p. 334.
http://id.nii.ac.jp/1001/00192395/ [64], (参照 2020-10-09).
(11) “Server”. IIPImage.
https://iipimage.sourceforge.io/documentation/server/ [65], (accessed 2020-10-07).
(12) ENU Technologies.
http://www.enut.jp/ja [66], (参照 2020-10-07).
(13) “IIIF Authentication API 1.0”. International Image Interoperability Framework™.
https://iiif.io/api/auth/1.0/ [62], (accessed 2020-10-07).
(14) 例えば、以下の内閣府の報告書では、オープンなコンテンツを流通させるための基盤として、デジタルアーカイブを位置づけている。
デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性. 内閣府知的財産戦略本部. 2017, p. 3-5.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/houkokusho.pdf [67], (参照 2020-10-09).
[受理:2020-11-12]
青柳和仁. 島根大学附属図書館デジタルアーカイブのIIIF Authentication API導入. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1988, p. 9-12.
https://current.ndl.go.jp/ca1988 [68]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11596734 [69]
Aoyagi Kazuhito
Introduction of IIIF Authentication API at the Shimane University Library Digital Archive
PDFファイル [71]
一般財団法人人文情報学研究所:永崎研宣(ながさききよのり)
文化資料をデジタル化してウェブに公開し、知の公共化をより広く進めることで社会に貢献したい。いわゆる「デジタルアーカイブ」の構築・公開に関わる人なら国内外を問わず多かれ少なかれ共有している気持ちだろう。しかし、それに触れようとすると、サイトごとに様々に異なる使い方を覚え、アクセスするたびにウェブサイトを切り替え、どこにあるかわからない資料を探すべく色々なウェブサイトを検索して回る、といった状況があった。このことは、ユーザにとって不便であるというだけでなく、文化資料を活用してもらいたい公開機関の側にとっても、本来の目標達成の障害になってしまっているという捉え方がなされるようになっていた。一方で、個々の機関が別々に専用のウェブシステムを発注して開発作業や高額な費用を個別に負担するという状況を続けることに困難を感じる場面が増えてきた。
このような状況を解決するために、無料で自由に共用できる規格の開発を目指して米英仏等の有力な機関のエンジニア達が手を取り合い、研究助成金を獲得したことで始まったのが IIIF(International Image Interoperability Framework)という枠組みであった。IIIFが国際的に大きな広がりをみせるのは、IIIFコミュニティが助成金依存を脱却すべくIIIFコンソーシアムを設立した2015年頃からであった。欧米各地の国立図書館や有力な大学図書館・研究図書館を中心に、急速に広まっていったのである。日本国内でも2016年にはSAT大正蔵図像DB(1)がIIIFを全面採用し、東京大学人文情報学拠点が日本から初めてIIIFコンソーシアムの会員となり、その後は京都大学貴重資料デジタルアーカイブ(2)や国立国会図書館デジタルコレクション(3)、国文学研究資料館の新日本古典籍総合データベース(4)等の大規模ウェブサイトで採用されるなど、陸続と広がっていった。最近では、ジャパンサーチ(E2317 [72]参照)(5)、カルチュラル・ジャパン(6)などの大規模ポータルサイトや、KuroNetくずし字認識サービス(7)、「みんなで翻刻」(8)等のデジタルアーカイブのコンテンツをさらに利活用するサービスにおいてもIIIFが大いに活用されている。
IIIFの基本を一言で表現するなら、各地のウェブサイトで公開されているコンテンツの任意の部分を共通の仕方で取り出せるようにするための技術的なルールを定めたものである。技術的には既存のものを組み合わせただけであり、当初から新規性は皆無だったが、国境を越えた複数の有力機関が共通ルールを採用したという点はまさに画期的であった。これによって、一つの手法で取り出せる画像が飛躍的に増加することになり、それに準拠して画像を公開・閲覧できるシステムが開発されやすくなるだけでなく、それを取り出して様々に活用するソフトウェアやシステムを開発することにもスケールメリットが生じることとなった。有用なソフトウェアやシステムが広まるにつれてIIIFがもたらし得る潜在的な可能性の高さについての認識が広まり、採用する機関が増加していき、さらにそれが新たな有用なサービスを生み出していくという好循環に入ったのが2010年代後半であった(9)。既存技術の組み合わせであるが故の導入のしやすさも、それを後押しした。そのような流れを踏まえつつIIIFコンソーシアムが満を持してリリースしたのが、主要なAPIであるIIIF Image APIとIIIF Presentation APIのバージョン3.0である。
バージョン3.0の説明に入る前に、その前のバージョン2がどのようなものであり、何をもたらしていたのか、について触れておきたい。バージョン2がリリースされたのは2014年9月のことである(10)。当時はまだIIIFの開発コミュニティもそれほど大きくなかったこともあり、リリース直後には対応しているアプリケーションが少なく、利便性の高い対応アプリケーションが増え始めるまではやや時間を要した。筆者が試用を始めた2015年2月頃には、まだ対応ソフトウェアが十分に整備されておらず、導入もそれほど容易ではなかった。その後1年ほどかけて環境が改善され、2016年に入った頃には対応ソフトウェアのみならず英語による導入手順書なども整備され、比較的容易に導入できると言ってよいものとなっていた。
IIIFのAPIは、この種のサービスを構築するのに必要な機能を効率的に提供すべく、役割に応じた複数のAPIに分割され提供されている。現在、正式版としてはImage API、Presentation API、Authentication API(CA1988 [68]参照)、Search APIが公開され、さらにベータ版としてChange Discovery APIとContent State APIが用意されている。これらはいずれも、筆者がIIIFコミュニティに参加し始めた2016年5月頃にはすでにGoogleドキュメントに議事録をとりながらZoomで実施される会議やGitHubのリポジトリを主な検討の場としており、世界中から参加したメンバーによって議論されてきた。これらのAPIのなかでは、特に、画像の操作に関するルールを定めるImage APIと、画像をはじめとするウェブコンテンツ同士の関係や注釈などを記述するルールを定めるPresentation APIという二つのAPIが広く利用されている。今回の主題であるバージョン3.0へのアップデートがこの二つのAPIに関して行なわれたということもあり、ここではこの二つについて概観してみよう。
IIIF Image APIは、ウェブサイトに対して画像を取得するリクエストを送った際に、(1)画像に関するサイズやタイル化の有無などの情報を返戻することと、(2)画像のサイズや切り抜き領域、回転角度などをURIで指定して取得する手法を定めた取り決めである。大きな画像をウェブブラウザ上で表示する際、画像を小さなタイルに分割して表示領域のタイル画像だけをその都度サーバにリクエストするというルールもここに含まれている。これに準拠することにより、サーバ・クライアント(ウェブブラウザに表示されたIIIF対応ビューワ)間のやりとりの中で、大きな画像をタイルに分割する際にタイルのサイズを確認したり、ブラウザ上で必要なサイズの画像や、拡大表示したい箇所だけを指定して拡大した画像をリクエストしたりしている。ただし、このAPIでは準拠レベルを3段階に設定しており(11)、最高のレベル2では画像の切り抜きや回転にも対応することになっているが、レベル0では画像切り抜きもサイズ変更もなく、ただJPEG画像を提供できるだけでよいということになっている(12)。
実際の所、このIIIF Image APIを導入するにあたっては、これに対応している画像サーバソフトを導入した上で、その画像サーバソフトが要求するフォーマットの公開用画像を用意することになる。要求フォーマットは、JPEGやPNG、Pyramid TIFFやJPEG2000など、ソフトウェアによって様々だが、Pyramid TIFFの場合、画像をタイル上に分割したものをまとめたフォーマットになっているため、アクセスがあるたびにJEPG画像をタイルに分割するタイプの画像サーバソフトに比べるとサーバの負荷は小さくて済むことになる。
IIIF Presentation APIは、画像などのコンテンツ同士の関係の記述と、それらに対するアノテーションなどを紐付けるためのルールを定めている。これまでにも同種のものはいくつか存在していたものの、おそらくこれが画期的であったのは、メタデータの記述についてルールをほとんど用意しなかったという点だろう。「デジタルアーカイブ」を構築する際にはメタデータをどのようにしてきちんと付与するか、ということが課題になりがちだが、資料を扱う分野が異なるとそれぞれに色々なルールがあって合意形成がなかなか難しく、結果として仕事が前に進まなくなってしまうということがままある。一方、IIIF Presentation APIは、たとえば、1冊の写本に含まれるページ画像がどういう順番でならべられるべきか、そこにどういう文字・テキスト・画像が記載されているか、といったことを記述することを定めたものであり、「どういうメタデータ項目を記述するか」というような、内容に関わることには基本的に踏み込まず、自由に記述できるようになっている。それゆえに、固有のメタデータを有する様々な種類の文化機関が採用しやすく、また、メタデータをきちんと作成できない場合でもとりあえずデジタル画像として公開できるため、常に人手不足のコンテンツの専門家に依拠せずとも、より間口の広いデジタル撮影やウェブ公開のための専門企業に外注するだけで対応できることになり、これもIIIFの広い普及を促すこととなった。
IIIF Presentation APIに対応するには、当該資料に含まれる画像や注釈、メタデータ等を所定の書き方に沿ってJSON-LD形式で記述して、そのファイルをウェブサーバに置いておくだけでよく、技術的にはかなり簡便な部類に入る。これによって、外部からも「この資料のこのページの画像」や「このページに付与された注釈データ」といったものを指定して取り出すことができる。そのようにして取り出したデータはウェブページ上に様々なレイアウトで貼り付けて表示したり、一括検索したり、指定された画像を切り出してOCRをかけたりと、様々な利活用が可能となる。
これらのAPIを活用するアプリケーションには様々なものがある。代表的なのは、Mirador(13)、Universal Viewer(14)、TIFY(15)等といった、いわゆるIIIF対応ビューワである。それぞれ、簡単にIIIF対応画像をブラウジングできるようになっており、Universal Viewerでは動画・音声・3D画像の閲覧・視聴も可能となっている。また、ビューワも含めたIIIF対応コンテンツ活用プラットフォームの開発も盛んに行なわれており、代表的なものの一つに人文学オープンデータ共同利用センターのIIIF Curation Platform(E2301 [73]参照)(16)がある。これにより、世界各地のIIIF対応画像の任意の箇所を切り出して並べたりメタデータを付与したりと、横断的に様々な活用が可能となっている。同様に、Omeka(17)やBlacklight(18)などの統合的なコンテンツ管理システムでもIIIF対応コンテンツを取り込んで様々に操作して公開できるようにするプラグインが開発・提供されている。
そういった大がかりな活用システムが続々と開発される一方で、IIIF対応コンテンツをスマホケースに印刷してくれるウェブサイト(19)や、ジグソーパズル化してくれるウェブサイト、ゲームソフトウェア「あつまれ どうぶつの森」に取り込めるQRコードを作成してくれるウェブページ(20)など、目的特化型の様々なIIIF対応サービスも開発されるようになった。IIIF画像の世界は、専門家の外の世界にも様々な広がりをみせつつあったのである。
このようにIIIFが普及しコミュニティが発展していくなかで着々と策定が進められてきたのが、2020年6月3日にリリースされたIIIF Image APIとIIIF Presentation APIのバージョン3.0である。すでに広く普及していることから、非互換な変更はあまり行なわないという選択肢もあり得たが、IIIFコンソーシアムは、むしろこの機会に、次を着実に見据えた変更を行なった。個々の変更については、それぞれのAPI仕様を掲載しているウェブページにChange log(21)として掲載されているので、詳細はそちらを参照していただくとして、ここでは、とりあえず概観した上で、今後の方向性について検討してみよう。
両APIに共通する基本的な変更としては、データ形式がJSON-LD1.0からJSON-LD1.1へと移行した。そして、特によく用いられるプロパティである@idや@typeがそれぞれid、typeとなった。JSON-LDコミュニティの方向性に沿った変更だが、プログラミングの便という意味で有用性が高い。
IIIF Presentation APIの基本的なデータモデルに関しては、コミュニティベースで策定されたOpen Annotation model(E1613 [74]参照)に代えてW3C標準となったWeb Annotation Data Model(E1916 [75]参照)へと移行した。実際の所、両者の関係は、前者がW3Cで標準化された際に後者に名前が変わったというものであり、内容的には大きな違いはないと考えてよいだろう。全体として、ウェブの国際標準との結びつきをより深め、現代的なウェブ技術を適用しやすくしたということになる。
また、非互換の大きな変更もあった。ユーザ側からみて大きなものは、音声や動画を扱うためのルールが整備された点だろう。これにより、動画や字幕、静止画像など、様々なタイプのコンテンツを一つのタイムライン上で扱うことが共通のルールとして可能となっている。また、IIIF Presentation APIでは、コンテンツ中の一つのまとまり(たとえば写本の1ページ)をcanvasとみなし、そこに様々なコンテンツを載せていくというモデルを採るが、バージョン2ではcanvas同士がリンクされることまでは想定されていなかった。今回のバージョンアップにより、色々なコンテンツをcanvasに載せた上でそれを他のcanvasにリンクできるようになった。そして、canvasにコンテンツを載せる際、これまでは画像を直接載せるモデルになっていたが、バージョン3.0ではAnnotationPageという概念が新たに導入され、それにまとめられた上でcanvasに載せられることになった。これに伴い、外部アノテーションを付与する際に用いていたAnnotationListは廃止された(22)。メタデータ等の多言語対応に関しては、labelやsummary(これまではdescription)、metadata中のlabelやvalueといった、コンテンツに関わるテキストを記載する箇所に国際標準のBCP47(23)に準拠した言語指定が可能となった。これにより、複数言語のメタデータが用意されていてもIIIF Presentation APIのレベルで扱えるようになった。
一方、IIIF Image APIに関しては、非互換な変更として、返戻されるinfo.jsonファイルにおいてAPI準拠レベルを示すプロパティを明示することや、URIの記法が若干修正され、また、レベル1とレベル2における正方形での切り出し機能が新たに必須となった。
ただし、Image APIの場合、画像サーバソフトがバージョンアップに対応しないことにはユーザ側もデジタルアーカイブ提供者側も対応のしようがなく、今のところまだ多くの画像サーバソフトが対応したという状況ではない。とはいえ、サーバソフト側で対応が難しそうなものはそれほど多くないため、あまり時間をかけずに広まっていくだろう。
このような、特に目立つ変更以外にも、様々な変更が行なわれた。その多くは、提供者・開発者側からの扱いやすさを志向したことがうかがえるものであり、IIIFの開発者コミュニティ的性格が端的に表れていると言っていいだろう。
すでにバージョン3.0のAPIに対応しているとするウェブサイト(24)やソフトウェア(25)も一部に存在するが、全体としては十分に対応しているソフトウェアやシステムは多くなく、各地の開発コミュニティが活発に作業を続けている模様である。また、これまでもIIIFの課題とされていた、できることが多すぎるためにすべての機能に完全に対応できるビューワの開発が困難であるという点は、動画・音声を統合的に扱えるようになったことにより、さらに難易度が高まっている。ビューワとしては、2020年11月9日に正式リリースされたMirador 3(26)が、Presentation / Image APIのバージョン3.0に対応しつつ音声・動画も扱えるようなっただけでなく、プラグイン志向を強めることで様々な機能を各自が開発・付与できるように工夫している。ビューワ提供側が何もかも用意するというよりも、それを利用するコンテンツ提供機関がそれぞれに公開手法に工夫を凝らすという選択肢の提供を志向しているのである。
デジタルアーカイブ等の公開側における今後の対応としては、ビューワの状況を見据えつつ、代表的なビューワが対応した段階で準拠していくのが穏当なところだろう。ビューワだけでなく、バージョン2を前提とした様々な応用システムが世界中で稼働している状況であることから、バージョン2での公開をやめてしまうとそれらのシステムが動かなくなってしまうため、バージョン2に関しては、バージョン3.0対応後も引き続き公開していくことがデジタルアーカイブの持続可能性にとっては大切である。特にIIIF Presentation APIの場合、複数のバージョンを共存させつつ公開することにあまりコストがかからないため、そのことも見越した上での非互換な変更だったとも言えるだろう。上述のMirador 3が、バージョン2と3.0の両対応としていることも、そうした事情を反映していると言えるだろう。
なお、今回のアップデートにあたり、IIIF コンソーシアムでは、Cookbook of IIIF Recipesというサービスを開始した。ここを見ると、自分のコンテンツを公開するのに必要なIIIF Presentation APIの「レシピ」、すなわち、何かを作るために必要な要素とその組み合わせ方の情報を簡単に入手できるようになっている。バージョン3.0への対応を検討している人は、こちらを参照されるとよいだろう(27)。
(1) SAT大正蔵図像DB.
https://dzkimgs.l.u-tokyo.ac.jp/SATi/images.php [76], (参照 2020-10-23).
(2) 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ.
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/ [77], (参照 2020-10-23).
(3) 国立国会図書館デジタルコレクション.
https://dl.ndl.go.jp/ [78], (参照 2020-10-23).
(4) 新日本古典籍総合データベース.
https://kotenseki.nijl.ac.jp/ [79], (参照 2020-10-23).
(5) JAPAN SEARCH.
https://jpsearch.go.jp/ [80], (参照 2020-10-23).
(6) Cultural Japan.
https://cultural.jp/ [81], (参照 2020-10-23).
(7) “KuroNetくずし字認識サービス”. 人文学オープンデータ共同利用センター.
http://codh.rois.ac.jp/kuronet/ [82], (参照 2020-10-23).
(8) みんなで翻刻.
https://honkoku.org/ [83], (参照 2020-10-23).
(9) これについては、
永崎研宣. 特集, デジタルアーカイブを支える技術:デジタル文化資料の国際化に向けて:IIIFとTEI. 情報の科学と技術, 2017, 67(2), p. 61-66.
https://doi.org/10.18919/jkg.67.2_61 [55], (参照 2020-10-23).
がその時点までの状況を伝えている。さらにその後の状況については、
永崎研宣. “可用性を高めるための国際的な決まり事:IIIFとTEI”. 日本の文化をデジタル世界に伝える. 京都大学人文科学研究所・共同研究班「人文学研究資料にとってのWebの可能性を再探する」編, 樹村房, 2019, p. 97-163.
を参照されたい。
(10) “IIIF Image and Presentation API Version 2.0 Published”. IIIF. 2014-09-11.
https://iiif.io/news/2014/09/11/version-2-published/ [84], (accessed 2020-10-23).
(11) “Image API Compliance, Version 3.0.0 3.1 Region”. IIIF.
https://iiif.io/api/image/3.0/compliance/#31-region [85], (accessed 2020-10-23).
(12) この場合には、本文中(1)の、画像についての情報の提供がImage APIに期待される役割ということになる。それでは切り抜き画像の表示もまったくできないのかと言えば、Presentation APIのアノテーション機能をCSSと組み合わせることによって一部を切り抜いたかのような表示をする機能をウェブブラウザ上で実装することは可能である。
(13) Mirador.
https://projectmirador.org/ [86], (accessed 2020-10-23).
(14) Universal Viewer.
https://universalviewer.io/ [87], (accessed 2020-10-23).
(15) TIFY.
https://github.com/tify-iiif-viewer/tify [88], (accessed 2020-10-23).
(16) “IIIF Curation Platform”. 人文学オープンデータ共同利用センター.
http://codh.rois.ac.jp/icp/ [89], (参照 2020-10-23).
(17) OmekaのIIIF拡張については筆者による以下のブログ記事を参照。
“公開されているIIIFコンテンツを収集・共同編集するツールがリリースされました”. digitalnagasakiのブログ. 2017-07-04.
https://digitalnagasaki.hatenablog.com/entry/2017/07/04/041007 [90], (参照 2020-10-23).
(18) BlacklightのIIIF拡張については、たとえば以下を参照。
Snydman Stuart .“New Tools for Providing Access to Digital Image Collections: Mirador and Spotlight”. CNI Fall 2015 Membership Meeting. Washington, DC, 2015-12-14/15, CNI, 2015.
https://www.cni.org/wp-content/uploads/2015/11/CNISpotlightMiradorv2-Snydman.pdf [91], (accessed 2020-10-23).
(19) cover.boutique.
https://cover.boutique/ [92], (accessed 2020-10-23).
(20) “Animal Crossing Art Generator”. Getty.
https://experiments.getty.edu/ac-art-generator [93], (accessed 2020-10-23).
(21) それぞれ、以下のURLを参照。
“Changes for IIIF Image API Version 3.0”. IIIF.
https://iiif.io/api/image/3.0/change-log/ [94], (accessed 2020-10-23).
“Changes for IIIF Presentation API Version 3.0”. IIIF.
https://iiif.io/api/presentation/3.0/change-log/ [95], (accessed 2020-10-23).
(22) バージョン2と3の違いについては以下のページ掲載の図を参照のこと。
“IIIF Presentation API 3.0”. IIIF.
https://iiif.io/api/presentation/3.0/ [96], (accessed 2020-10-23).
“IIIF Presentation API 2.1.1”. IIIF.
https://iiif.io/api/presentation/2.1/ [97], (accessed 2020-10-23).
(23) “Tags for Identifying Languages”. 2009-09.
https://tools.ietf.org/html/bcp47 [98], (accessed 2020-10-23).
(24) Digital Bodleian.
https://digital2.bodleian.ox.ac.uk/ [99], (accessed 2020-10-23).
(25) ViewerにおけるPresentation API version 3.0については、2020年11月正式リリースされたMirador version 3がサポートしたとしており、Universal Viewerは現在開発中となっている。
(26) “Mirador v3.0.0 is released”. Stanford Libraries. 2020-11-09.
https://library.stanford.edu/blogs/digital-library-blog/2020/11/mirador-v300-released [100], (accessed 2020-11-12).
(27) IIIFに関する日本語情報については、当面は下記リストを参照されたい。
“IIIFに関する日本語情報の私的なまとめ(2019/11/14版)”. digitalnagasakiのブログ.
https://digitalnagasaki.hatenablog.com/iiif [101], (参照 2020-10-23).
[受理:2020-11-18]
永崎研宣. IIIFの概要と主要APIバージョン3.0の公開. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1989, p. 13-16.
https://current.ndl.go.jp/ca1989 [52]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11596735 [102]
Kiyonori Nagasaki
An Overview of IIIF and Release of IIIF API Version 3.0
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PDFファイル [106]
国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター:船守美穂(ふなもりみほ)
助成を受けた研究成果について完全即時のオープンアクセス(full and immediate OA)を求める「プランS」が2018年9月に発表されて、早2年が経過した。本稿の執筆時点からあと数か月もすると2021年1月となり、プランSが発効する。
プランSは、2018年9月の発表段階においては「10の原則」でスタートしたが(1)、その後、これら原則を具体化する「実施ガイドライン」を2018年11月に発表した(2)。その後、パブリックコメントを経て、2019年5月末には、「10の原則」と「実施ガイドライン」の改訂版を発表し、このときに、当初2020年1月であったプランSの発効期日を、2021年1月に延期した(3)。プランSの打ち出し当初の衝撃と、改訂版発表の経過については、林(2019)(4)と拙稿(2019)(5)が詳しいので、それらを中心に参照されたい。
プランSは改訂版を発表した後も着実に、その実施に向けて、制度の具体化を図っている。本稿では、プランSが特にターゲットしていたハイブリッド誌を巡る「転換契約・転換モデル契約・転換雑誌」を通じた対応と「価格透明性フレームワーク」を紹介し、これらが学術機関と出版社との契約に与えている影響について示唆を述べたい。
なお、紙幅の都合から本稿では言及しないが、プランSをめぐるその他の同時期の重要な動向として、「権利保持戦略」の策定、「影響モニタリングのための枠組み」の発表、欧州研究評議会(ERC)の離脱などが挙げられる(6)。これらについては別途、国立情報学研究所(NII)の『NIIテクニカルレポート』に紹介する。
プランSは、20余りの欧州中心の研究助成機関のコンソーシアムcOAlition Sが推進するイニシアティブである。科学成果はオープンに共有されてはじめて、他者から検証され、新たな研究成果の積み重ねにつながるという理念のもと、参加機関が助成した研究成果について、完全即時のOAを求める。所謂「購読の壁」の向こうに置かれる論文はこの理念に反するし、況んや、購読料と論文掲載料(APC)の二重取りをするハイブリッド誌は、公共の理念に完全に反するというスタンスをとる。
研究者がプランSの理念に準拠する方法としては、表1に示す3つの方法が示されている。Aの方法(ゴールドOA)が当初、最も望ましい方法として提示されており、Bの方法は機関リポジトリ上の公開(グリーンOA)への配慮から選択肢として上がっていたものの、エンバーゴ期間なしの公開は実質的に出版社に受け入れられない条件、Cの方法であるハイブリッド誌へのOA出版は、明示的に禁じられていた。しかしCの方法については、出版社からの反発と(8)、論文掲載先を限定される研究者からの反発により(9)、3年間の経過措置として、転換契約(transformative agreements;CA1977 [107]参照)に応じる出版社のハイブリッド誌については、APCの補助を認めることが、改訂版の「プランS実施ガイドライン」に明記された。プランSの言う転換契約とは、OA2020イニシアティブに基づき、完全OA出版への移行に向けて、購読料とAPCを合わせたRead&Publish契約を結ぶことである。
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一方、このようにハイブリッド誌を強制的に完全OA誌に転換させることによって、購読料の代わりにAPCの価格が負担となるのでは元も子もないので、当初は「APCに上限を設ける」という表現があった。しかし、これについては出版社からの反発によりトーンダウンし、現在は、価格透明性を要求するにとどめている。
転換契約については、出版社のビジネスモデルを「購読ベースからAPCベースへ」と転換させる大がかりな内容のため、これに対応しきれないだろう学会系の小規模出版については、擬似的な「転換モデル契約(transformative model agreements)」を開発するとしている。また、一出版社内において多様な学術雑誌を擁し、出版社単位での転換が難しい場合の代替策として、雑誌単位でOA誌に転換する「転換雑誌(transformative journals)」を想定している。
プランSの3つの「転換**」は、購読誌をOA誌に転換させることを意図としている。特に購読料とAPCの二重取りの温床となっているハイブリッド誌がターゲットである。2018年9月に「10の原則」が発表された際、ハイブリッド誌は原則9にて、「ハイブリッドモデルの学術雑誌は、本原則に適合しない」と除外されていた。その後、2018年11月に「実施ガイドライン」が発表されると、少し譲歩がなされ、「転換契約下にあるハイブリッド雑誌については、移行措置として、投稿を認める」とある。ここではじめて「転換契約」という用語が出現している。
この2018年11月の時点では「実施ガイドライン」の第11項目に、転換契約の条件が、3段落ほどにわたり、かなり詳細に示されていた。具体的には、転換契約が移行措置に過ぎないこと、これら転換契約の透明性を確保するために、契約を締結した機関のウェブサイトと、OA市場に関するデータ収集を行うイニシアティブ「論文掲載料の効率化と標準(ESAC)」(10)に契約内容を掲載し、共有を促進することとした上で、表2に示す条件を明記している。なお、既存の購読誌と同一の内容をOAで刊行するミラー雑誌については、ハイブリッド誌と同様に、事実上、アクセスと出版の双方から収益を得る機能を果たすため、転換契約に含まれていない限り、認められないとしている。
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これが2019年5月の改訂版においては、「転換契約・転換モデル契約・転換雑誌」の3つに多様化し、転換契約に関わる記述は元の3分の1ぐらいに縮小している。記述内容としては、「プランSは、OA2020を支持し、出版社が世界各国で転換契約を結び、その契約内容を共有することを期待する。機関やコンソーシアムには、新しい転換契約を結ぶことを推奨する。プランSは2021年1月以降、ESACガイドラインに準じる契約についてのみ、〔APCの〕補助を行う」となり、表2に挙げたような具体的な条件提示がなくなっている。つまり、3年以内に完全OAにならなければいけないという縛りがなくなっているのである。
ESACの「転換契約ガイドライン」(12)(表3)を見ると、趣旨としては表2と同様なものの、期日設定やシナリオの明記などの記述が外されている。第4項目の、「転換契約の契約額は、これまでの購読料と同水準(costneutral)であるべきで、二重取りにあたるハイブリッド誌のAPC分が、契約額に上乗せされないことを期待する」としていることは評価できる。しかし、この文につないで、機関や国の置かれた条件の多様性にも言及しており、表現が軟化している。
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そもそもESACは、OA2020に関連してAPCや転換契約の理解を深めるために2014年に開始され、一時期、ドイツ研究振興協会(DFG)からの助成を得てINTACTというプロジェクトのもとにあった。しかし同プロジェクト終了の2018年10月以降は、独・マックスプランクデジタル図書館(MPDL)の元に置かれている図書館コミュニティによるイニシアティブで、それほどの強制力は有さないのである。
転換モデル契約は、特に学会系出版などの中小規模の出版社を念頭に、出版社の転換契約と完全即時OAへの移行モデルを検討すると、2019年5月末のプランS改訂版に約束されていた。その後、プランS参加機関のうちの英・ウェルカム財団と英国研究・イノベーション機構(UKRI)が、Information Power社に移行モデルの検討を委託し、2019年9月にはそのレポート“Society Publishers Accelerating Open Access and Plan S (SPA OPS) Final Project Report”が公開されている(14)。
同社は市場調査により、完全即時OAへの移行モデルとして、表4に示す7カテゴリー27モデルを見いだしている。また、調査に参加した出版社に、これらモデルの採用可能性をアンケート調査し、これら27モデルのうち、Subscribe to Openを含む「転換モデル」が、可能性として最も適していると結論している。Subscribe to Open とは、図書館がオープンなコンテンツに対して擬似的に購読料を負担する方法である。フリーライダーが生まれる危険性もあることから、購読契約をする図書館が一定数に満たない年は、過去のアーカイブも含め、全てのコンテンツが非OAとなるという仕組みも内包している。非OAとなる年は、当該出版社はプランSの対象外となり、研究者も論文投稿できなくなるため、プランS対象国の図書館は必死で当該出版社を買い支えることが期待されている。なお、Publish&Read契約、Read&Publish契約、SCOAP3などの転換モデルは大がかりで、中小規模の出版社には向かず、このような調査をする発端となった契約形態のため、中小規模の出版社には採用しがたいと思われる。
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同社は、学会系出版社や図書館コンソーシアム、大学出版の関係者へのインタビュー調査やワークショップも行い、学会系出版の特徴を次のように捉えている。学会系出版は概して小規模で、APCベースのビジネスモデルでは安定しないこと。特に人文・社会科学系の分野においては、研究者がAPC補助の財源を有しない場合が多いこと。このため、学会系出版が完全即時OAに移行する場合は、APC以外の財源を確保しなくてはいけないことなどである。Subscribe to Openは、図書館からの財源確保の方法であるが、それ以外の財源確保の方法は表4のモデルの随所に示されている。レポートには複数回にわたり、「完全即時OA=APCによる収入確保」と誤解している出版社が多いが、決してそのようなことはないと強調している。
さて、表4に挙げた方法は実際に、学会系出版などの中小規模の出版社に、役に立つのだろうか?中小規模の出版社は、年間の出版論文数が少ないので、APCのみの収入では心許ないのは明らかである。かと言って、他の財源の確保と言われても、これまでそのような努力をした経験もなければ、研究者が手弁当で運営しているような学会系出版において、そのような開拓をするような人的・時間的リソースにも欠けると想像される。Subscribe to Openを通じて、最も身近な図書館にアプローチすると言っても、図書館からすると、ニッチな分野の雑誌からアプローチがあった場合、これに出資をすべきか、判断に迷う面もあるだろう。
とは言っても、プランS対象国の研究者から多くの論文投稿を得る出版社にとっては、待ったなしでなんらかの対応をとる必要があるのだろう。しかし、それほどでない出版社については、レポートにもあるように、プランS対象国の研究者についてはゼロエンバーゴによるセルフアーカイブ(表1-B)を許すというのが、最も現実的な解決のように思われる。これは、HighWire社が2019年2月に、27の非営利出版社を調査して得た結果にも重なる(16)。
転換雑誌も、転換モデル契約同様、2019年5月末のプランS改訂版に初出の概念である。この段階で転換雑誌は、「OA比率が徐々に拡大し、二重取りがなされないよう、購読料がオフセットされ、一定期間内に完全OAに転換予定の雑誌」とされ、プランSはこの枠組みを開発するとしている。これを受け、プランSは2019年11月に「転換雑誌(案)」を公開し(17)、パブリックコメントを経て、2020年4月に最終版を発表している(18)。
表5に示す、案から最終版への変更点を見ると、転換雑誌の条件がだいぶ後退したことが見て取れる。特に一点目に挙げられた、完全OA誌への転換の条件が緩和し、転換期限が撤廃されているのは痛い。案段階では、OAコンテンツの年間伸長率8%以上、OAコンテンツが50%に達した時点で完全OA誌に転換しなくてはいけないという条件であったため、仮に期限がなかったとしても4年から5年で完全OA誌に転換することが期待できた。しかし確定版では、OAコンテンツの年間伸長率が絶対値ベースで5%以上、相対値ベースで15%以上OAコンテンツが75%に達した時点という条件であるため、たとえば現時点で完全に非OAの雑誌の場合、OAコンテンツが75%に達するまでに13年間かけることができる。それまでに多様な天変地異もあるだろうし、果たしてプランSはその時点まで存続するのであろうか?「2024年末には、転換雑誌への〔APC補助の〕助成を打ち切る」とあることだけが、雑誌が短期に完全OA誌に移行するインセンティブとなっている。
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転換雑誌が、シュプリンガー・ネイチャー社の出版部長であるInchcoombe氏にいいように操られているように見えるのも、気になる。もともと転換雑誌は、同氏の2019年5月頭段階の発案で(21)、これを受けて、5月末に発表された改訂版に「転換雑誌」が登場した。その後、転換雑誌の案が発表されても、同氏による公開質問状等、再三の押し返しがある。プランS側は、パブリックコメントを経て現内容に確定したと説明しているが(22)、同氏との相当の水面下の調整があったことは、ネイチャー誌とその姉妹誌がプランSに準拠するOA出版に移行予定との発表が、転換雑誌の確定版の発表と同日にあったことからも見て取れる(23)。このあたりの経緯は、筆者のブログ(24)に詳しいので、そちらを参照されたい。
プランSによると、転換雑誌は、「学会系出版など、転換契約を行う体力のない出版社や、OA出版をプランS対象国以外の国々にも提供したい場合を想定」している(25)。しかし、転換雑誌は前節の学会系出版のための転換モデル契約の例(表4)に名前すら出てこない。またシュプリンガー・ネイチャー社は明らかに、学会系出版でも、(プランS対象国にはOA出版を提供できるが)それ以外の国々には提供できないでいる出版社でもない。転換雑誌は学会系出版向きというよりは、むしろシュプリンガー・ネイチャー社のように、多様なビジネスモデルの学術雑誌を有する大手出版社が、転換契約を通じて一度にOA出版できない場合に活用する、抜け道的なルートのように感じられる。
価格透明性の要求は、APCに上限を設けるという当初の要求が軟化して、プランSの改訂版から出現した。「APCは、雑誌や分野により大きく異なり、一律の上限を設けることは適切ではない」という、出版社からの要求に押されたかたちである。一方、分野等による差異は認めるにしても、APCの額を一定の「適正(fair)」な範囲にとどめるには、その価格設定の根拠が示される必要があるという判断から、「価格透明性フレームワーク」が開発されることとなった。価格透明性フレームワークは、一論文あたりのAPC算定の根拠となる指標群を提供し、APC価格の妥当性を、雑誌間で比較可能とする(26)。
価格透明性フレームワークは、「転換モデル契約」と同様、Information Power社への委託により開発された。同社は、表6に示す10社と検討を行い、雑誌単位で示すべき項目を策定している(29)。項目は3つのセクションで構成され、1)雑誌の書誌情報(雑誌名、ISSN等)(20項目)、2)雑誌の特性(採択率、出版頻度、査読回数)(11項目)、3)8つのカテゴリーの費用内訳情報(8項目)の計39項目が要求される。出版社はこれら情報を雑誌単位で可能な限り提示することを求められるが、各項目について±5%の範囲で類似の雑誌がある場合は、それらを一つに括ることも許されている。
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一方、Fair Open Access Alliance(FOAA)が独自開発していた「出版サービス別費用内訳」もプランSに公認されている(30)。プランS関係者曰く、「すでに一部出版社が価格透明性を確保している枠組みがあるのであれば、それを敢えて否定したくなかった」とのことである。ただし、FOAA枠組みは雑誌単位ではなく出版社単位で報告する形式となっており、また、利益を明示的に記載するようになっているため、「大手商業出版社は、プランSが開発した枠組みの方がやりやすい可能性がある」とも指摘している(31)。
出版社は、いずれかの枠組みを選び、OA出版費用の内訳をプランSに提出しなくてはならない。提示がない場合、プランSに参加する研究助成機関は2022年7月1日以降、当該出版社に関わるいかなる支援も行わない。支援打ち切りの対象は研究者へのAPC補助だけでなく、APCを必要としないジャーナルやプラットフォームへの補助、転換契約や転換雑誌への補助も含む。
さて、これらは「価格透明性フレームワーク」であるから、出版社から提示された「APCの費用内訳」は当然公開されるのかと思いきや、実はそうではない。プランSに参加する研究助成機関と学術機関にのみアクセス可能で、出版社側は他の出版社の情報は見ることの出来ない仕組みを現在検討中とのことである。なんでも出版社側から、「出版社間で価格設定に関わる情報が共有されると、談合など、独占禁止法に反すると疑われる可能性がある」との指摘があったためのようである。cOAlition Sは、法務弁護士を通じてその点の確認を行い、その可能性は低いと考えているが、出版社の主張に配慮し、限定的な公開と決めたようである(32)。
プランSの「完全即時OA」の目標、その目標達成への大きな障壁となっていたハイブリッド誌をOA誌へと転換させるための方策としての「転換契約・転換モデル契約・転換雑誌」と「価格透明性フレームワーク」に向けた動きを紹介した。
さて、プランSはその目標を達成できるのであろうか?前章で紹介したように、出版社からの強い要請のもと、当初の提案がなし崩し的に弱まっていることを踏まえると、プランSを象徴していた「ハイブリッド誌を許さない」「転換契約を通じて、ハイブリッド誌を3年以内に完全OA誌にする」という目標は、潰えていると言えるように見える。仮にこの目標が、国立の研究助成機関が参加する「プランS対象国」において実現したとしても、プランSには欧州を中心とする一部の国しか参加していないことを考えると、APC補助が打ち切られる2024年末においても、プランS非対象国による非OAの論文は、相当の割合で存在することが予想される。2018年時点で世界の学術出版の約半数を占める(図1)プランS非対象国による非OAの論文には、直接アプローチできないからである。つまり、これら非OAの論文から購読料は、プランS対象国においても、引き続き発生する。また、プランS非対象国で購読ベースの契約をする場合は、購読料とAPCの二重取りは引き続きなされるように思われる。
出典:筆者がWeb of Science上の2018年出版論文を2020年8月3日に分析して作成
(注)図中の比率は各国・地域単位のOA比率
各国・地域の下の比率は、全論文に対する各国・地域等の出版割合
一方、ハイブリッド誌を完全OA誌に移行させるためであった「転換契約」は、その後、出版社のビジネス戦略にいいように利用されているようである。出版社は当初、購読料収入からAPC収入へと、ビジネスモデルの大転換を迫る転換契約に猛反発していたが、プランSの描く「論文の完全即時OA」の目標から逃れられないと悟ると、今度はいち早くそちらのモデルに転換することで、戦略的優位に立とうとしたようである。
特にビッグ3(エルゼビア社、シュプリンガー・ネイチャー社、ワイリー社)以降の中堅から中小規模の出版社が、そのような行動に出ている。図2は、ESACに登録された転換契約を出版社別に分析し、機関との契約件数順に並べ替えたものであるが、英国王立化学会、ケンブリッジ大学出版局などの中堅どころの出版社の多くが、機関と転換契約をしているのが分かる。契約対象機関は、CDLやMPDL、CERN、その他ドイツやスペイン、米国、中国などの機関である。またESACには登録されていないが、これら出版社がプランS非対象国にもRead&Publish契約を提案しだしていることは、日本国内の事例(E2259 [108]参照)からも分かる。
出典:筆者がESACに登録された転換契約を2020年7月13日に分析して作成
(注)機関との契約件数順に並べ替え
日本は現状では、プランSへの参加について、なんの意思表明もしていない。それは、プランSの構想が乱暴すぎたり、仮に実現しても、購読料がAPCになるだけで、大手商業出版社に学術情報流通が牛耳られる構造は変わらなかったり、というところがネックとなっていると想像される。
一方、国レベルの判断がないと、出版社との契約交渉が機関ごとの判断に委ねられ、総じて対出版社の交渉力が弱まることが懸念される。出版社の立場に立ってみれば、転換契約を進めていかないと研究者からの論文投稿が途絶え、死活問題となるため、多少不利な条件であっても、プランS対象国の機関とはRead&Publish契約を締結する。しかし、プランS非対象国については、出版社の側にもRead&Publish契約を締結する必然性は低いため、購読契約であっても、Read&Publish契約であっても、出版社にとって有利な条件提示をすることになるからである。
大学側からすれば、いずれの契約形態も結ばないという選択はないに等しいから(購読契約のみの提案で単純に値上げされれば、契約をしないという判断もあったかもしれないが)、Read&Publish契約という目先の変わった契約を提案されることによって、なし崩し的に、同出版社との契約を続行するということがあるように感じる。つまり大学側は、強気の判断あるいは交渉をする機会を逸し、結果として出版社にいいように操られる状況となる可能性がある。
プランSの描く、APC依存の完全即時OAは好ましいとは思えないので、国レベルでプランSに参加することは考えものであるが、一方で出版社主導の契約内容からは逃れる必要がある。中国は、SCI論文を規制することを通じて、自国の学術雑誌への論文投稿を誘導する大胆な研究評価改革を打ち上げている(33)。インドは、プランSへの参加しない意思を示し、購読モデルで大手商業出版社とのナショナルライセンスを追求予定である。このライセンスは、一般国民もアクセスできるものとし、自国の研究者による論文のOAはグリーンOAにより実現の方向である(34)。日本はこれまでグリーンOAの推進を標榜(35)し、全国の大学図書館に機関リポジトリを整備し、またAPC不要の学術情報流通基盤としてJ-STAGEも運営しているのであるから、これらを前面に押し出した、独自の学術情報流通政策を打ち出すと良いのではないか?
日本政府は、こうした独自の学術情報流通政策を打ち出すことにも及び腰に見える。しかし、このような策を講じない場合、公的資金が、購読料とAPCの二重取り状態で、欧米の大手商業出版社に流れ出していることを放置することとなる。そのような状況を、納税者にいずれ説明しなくてはいけない時期が来ることを念頭に、日本の研究助成機関や政府も、腹をくくって、独自の政策を打ち出す必要があるように思う。
日本の研究力とヴィジビリティを向上させ、自国の学術情報流通基盤を振興する、独自の研究振興政策が待たれている。
(1) “Plan S”. cOAlition S.
https://web.archive.org/web/20180904122211/https://www.scienceeurope.org/wp-content/uploads/2018/09/Plan_S.pdf [109], (accessed 2020-10-27).
船守美穂. “欧州11の研究助成機関、2020年以降の即座OA義務化を宣言 ― 権威ある学術雑誌の終焉となるか?”. mihoチャネル. 2018-09-06.
https://rcos.nii.ac.jp/miho/2018/09/20180906/ [110], (参照 2020-10-27).
(2) “Guidance on the Implementation of Plan S(Archived)”. cOAlition S.
https://www.coalition-s.org/wp-content/uploads/2020/09/271118_cOAlitionS_Guidance_annotated.pdf [111], (accessed 2020-10-27).
船守美穂. “即座OA義務化を求める欧州研究助成機関のプランS、具体的なガイドラインを発表”. mihoチャネル. 2018-12-02.
https://rcos.nii.ac.jp/miho/2018/12/20121202-2/ [112], (参照 2020-10-27).
(3) “Accelerating the transition to full and immediate Open Access to scientific publications”. cOAlition S.
https://www.coalition-s.org/wp-content/uploads/PlanS_Principles_and_Implementation_310519.pdf [113], (accessed 2020-10-27).
船守美穂. “プランS改訂版、発効期限を1年延長 & プレプリント登録を義務化する「プランU」の提案”. mihoチャネル. 2019-06-05.
https://rcos.nii.ac.jp/miho/2019/06/20190605/ [114], (参照 2020-10-27).
(4) 林豊.連載, オープンサイエンスのいま : Plan S:原則と運用. 情報の科学と技術. 2019, vol. 65, no. 2, p. 89-98.
https://doi.org/10.18919/jkg.69.2_89 [115], (参照 2020-10-27).
(5) 船守美穂.プランS改訂―日本への影響と対応. 情報の科学と技術. 2019, vol. 69, no. 8, p. 390-396.
https://doi.org/10.18919/jkg.69.8_390 [116], (参照 2020-10-27).
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(30) “FOAA Breakdown of Publication Services and Fees”. FOAA.
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[受理:2020-11-16]
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DOI:
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Funamori Miho
Development of Transformative Agreements after the Release of Plan S Revision
— The Impact on Contracts between the Publishers and Universities
PDFファイル [159]
名古屋大学宇宙地球環境研究所:能勢正仁(のせまさひと)
文教大学文学部:池内有為(いけうちうい)
「論文引用」とは、文章中で過去の研究成果を記述する際に、出典として、その過去の研究論文の著者や発表年、タイトル、ジャーナル名などを明示することであり、研究活動の一般的な慣習となっている。こうしたことは、研究論文が研究者の重要な業績として広く認識されていることや、研究論文自体が一般に公開されていること、著者やタイトルといった一意性のある情報が付与されているため引用が容易であること、などによるところが大きい。また、研究論文がどれくらいの回数引用されたかを示す被引用数は、研究論文の発表数に加えて、研究者の学術発展への貢献度を客観的に示す数値として用いられることもある。
一方、研究活動に伴い収集・生成される研究データについては、最終的に整形された図や表などとして研究論文中に示されるものの、実験や観測で得られた比較的生に近いデータやそれを処理・加工した中間的なデータは、一般的には公開されない。また、研究データの生成や整備、公開といった活動は、研究者の業績としてそれほど重要視はされてこなかった。そのため、研究活動で作成または利用したデータの出典を文章中に明示するという「データ引用」の概念自体が非常に希薄であり、そうした慣習は根付いてこなかった。
しかしながら最近になって、研究論文と同様に、研究データにも一意性・持続性・一貫性を持ったデジタルオブジェクト識別子(Digital Object Identifier:DOI)を付与していく動きが進んできた。また、「統合イノベーション戦略2019」でも指摘されるように研究データは「知の源泉」(1)であり、国際学会や政府当局において、その整備・利活用が重視されるとともに、科学的発見の根拠、また更に深い知を生むため次世代へ引継ぐべき研究資産、と再認識されるようになってきている。さらには、2012年に起草された「研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)」(2)や2017年のG7イタリア・トリノ科学大臣会合での合意(3)等では、研究データを研究論文とならぶ学術業績として認めるべきとする勧告も行われている。こうした背景のもとに、学術出版社はジャーナルにおける研究データ取り扱いのガイドラインやポリシーを相次いで策定するとともに、研究データ同盟(RDA;CA1875 [160]、E2228 [161]ほか参照)では、出版社・ステークホルダーの垣根を超えて、その標準化を図る議論も行われている。地球科学分野では、大学・研究機関・学協会・学術出版社などを会員とする地球科学情報組合(Earth Science Information Partners:ESIP)が、2019年に研究データ引用に関するガイドライン(4)を発表している。
以上のような近年の急激な動向は、研究活動における研究データの取り扱いに関して、研究者のこれまでの常識を大きく変化させる。特に、研究データの生成・整備・公開といった活動は、一部の研究者が担いながらもその評価は過小になされてきたが、図に示すように、データ引用が行われることによって、研究成果の新たな評価軸として認識されるようになると期待される。さらに、オープンサイエンス推進の一環として、研究データのオープン化を促進するにあたっては、研究データの提供者・管理者やデータセンターの役割が重要であるが、そのインセンティブを確保するためにも、研究データ引用の重要性が広く理解され、それが研究活動の新たな常識になっていく必要がある。
研究データ利活用協議会(Research Data Utilization Forum:RDUF;E1831 [162]参照)は、オープンサイエンスにおいて求められる研究データの整備や流通・保存といった利活用体制の実現に向け、分野を超えて研究データに関するコミュニティの議論・知識共有・コンセンサス形成などを行う場として、2016年6月に設立された研究会(6)である。その前身は、ジャパンリンクセンター(JaLC)により2014年10月から2015年10月まで実施された「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」を進める中で形成されたコミュニティであるため、参加会員は、分野横断的に実務レベルで研究データを扱う研究者、図書館員や行政機関職員といった異なる立場の関係者からなっている。RDUFでは、研究データの利活用を促進するための個別テーマについて小委員会を設置し、ガイドライン・ノウハウ集・事例集・基礎資料・提言のとりまとめを行うなど、そのテーマに関わりのあるステークホルダーが、ボトムアップ的な活動を行ってきた。
RDUF発足以来、研究データライセンス、研究データリポジトリ、研究データマネジメントをテーマとした小委員会が活動してきたが、2019年1月には、研究データ引用を取り扱う「リサーチデータサイテーション(Research Data Citation)小委員会」が設置(7)されることとなった。この小委員会の提案は、「研究データ利活用を推進するためには、データ公開者のインセンティブの確保が重要であり、そのためには、研究論文での研究データ引用が一般化し、引用・被引用関係が把握できるようになることが必要だが、研究データの引用は進んでいないのが現実である」という認識に基づいている。小委員会には、研究者、出版社、学会、図書館、情報流通業者等、職種の壁を越えて研究データ引用に関わるメンバー約20人(筆者ら2人を含む)が参加し、2020年6月までの1年半の間、各ジャーナルにおけるデータ取り扱い(投稿規定等)の現状や国内外における研究データの利活用に向けた取り組み事例を調査(E2234 [163]参照)し、データ引用を取り巻く状況を把握することや、その調査結果を元に、データ引用の普及に向けた課題の解決方策に関する議論を行ってきた。
リサーチデータサイテーション小委員会は、設置以来、6回の定期会合開催に加え、Japan Open Science Summit 2019(JOSS2019;E2155 [164]参照)におけるセッション「研究活動の新たな常識としてのデータ引用の実現に向けて」の開催(2019年5月27日)(8)や研究データ同盟第14回総会(E2228 [161]参照)でのジャーナルポリシー調査結果のポスター発表(2019年10月)(9)を行った。その他の主な成果物としては次のようなものが挙げられる。
データ引用を可能にするためには、研究データに一意的・持続的にたどり着くことができるDOIを付与する必要がある。しかしJOSS2019におけるセッションでの議論や研究データを扱う研究者との対話から、「DOIを付与するための手続きや相談先が分からない」「実際にDOIを付与する際に要する手間や費用を知りたい」という要望があることが明らかになってきた。研究者はその分野の研究やデータそのものについては詳しいが、上述のような研究データに関する近年の潮流に関しては疎いことが少なくない。そこで、DOIを付与する際の参考となるよう、研究者自身やその所属機関にとってのDOI付与のメリットを解説し、DOIの働きや仕組み・準備するもの・具体的な手続き・恒久性保証のための留意点などの情報を盛り込んだリーフレットを製作することにした(E2233 [165]参照)。リーフレットはA4サイズ・巻き3つ折りで、一目で伝わる形態にした。(副題は「5分で分かる研究データDOI付与」としている)リーフレットは、オープンサイエンスに関連する会議・会合などで配布することにしている。
データ引用の重要性を理解したステークホルダーがデータ引用を推進する際の参考資料として、国際組織FORCE11 (The Future of Research Communications and e-Scholarship)による「データ引用原則の共同宣言(Joint Declaration of Data Citation Principles:JDDCP)」(10)の日本語訳(11)を公開した(E2234 [163]参照)。FORCE11は、データ公開の適切な実施方法に関する「FAIR原則」も提案している(E2052 [166]参照)。
JDDCPは2014年に公開され、2020年6月現在、研究者など個人287人、学術出版社、学協会、データセンターなど122機関が賛同している。データ引用の目的、効用、実践上の注意などがコンパクトにまとめられており、データ引用の手引きとして有用である。詳しい内容は別稿(E2234 [163]参照)で紹介している。
研究者がデータ公開に至る要因の一つは、論文を投稿しようとする学術雑誌のポリシーであることが国内外の調査によって明らかにされてきた(12)(13)。それでは、各分野の学術雑誌はどの程度データ公開やデータ引用を要求しているだろうか。本小委員会は、2019年4月から5月にかけて、学術雑誌による(1)リポジトリにデータを登録するよう求めるポリシーと、(2)論文の補足資料としてデータを掲載するよう求めるポリシーの有無や要求レベル、および(3)データ引用の要求レベルや引用方法に言及したポリシーを調査した。調査対象は、2014年に実施された筆者(池内)らの調査(14)と同様の220誌(22分野のインパクトファクターが高い雑誌、各10誌)として、結果を比較した。
まず、「(1)リポジトリ」のポリシーを掲載している雑誌は、59.5%(2014年)から85.0%(2019年)まで増加していた。データ公開を必須として強く要求する雑誌は41.8%であった。2014年には経済学分野と工学分野の雑誌(各10誌)にはポリシーが掲載されていなかったが、本調査では全分野で少なくとも3誌以上がポリシーを掲載していた。「(2)補足資料」のポリシーはほとんど変化がなく、約9割(89.5%(2014年)と90.9%(2019年))に掲載されていた。「(3)データ引用」のポリシーは、55.0%の雑誌が掲載していた。なお、JDDCPに言及していた雑誌は全体の26.3%であった。前述のとおり、これらの調査結果についてはRDA第14回総会でポスター発表を行った。
まとめると、雑誌によるデータ公開の要求は多くの分野で増加している一方で、データ引用を求めている雑誌はそれほど多くはなかった。より多くの雑誌がデータ公開とあわせてデータ引用も要求するようになり、データを引用する論文が増えれば、データへのアクセスが容易になり、利活用が促進され、公開者への評価やインセンティブにも繋がるのではないだろうか。
リサーチデータサイテーション小委員会活動の総括報告は、2020年3月と6月に開催予定であったRDUF公開シンポジウムとJOSS2020において行う予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からこれらのシンポジウムが中止になった。そのため、同様のシンポジウム開催の機会に総括を行うことを検討している。これまでの小委員会の成果物や総括報告は、RDUFの成果物のウェブページ(15)に掲載していく。本小委員会の活動が、データ公開者への評価やインセンティブを確立する契機となり、やがてデータ引用が研究活動の常識となることを願っている。
(1) “統合イノベーション戦略2019”. 内閣府. 2019-06-21.
https://www8.cao.go.jp/cstp/togo2019_honbun.pdf [167], (参照 2020-06-30).
(2) “研究評価に関するサンフランシスコ宣言”. DORA.
https://sfdora.org/read/jp/ [168], (参照 2020-06-30).
DORAとは、インパクトファクターのような学術雑誌を基準とした指標の濫用に反対し、研究評価の改善を求める宣言である。2020年7月現在、世界各国の1,981機関、1万6,000人以上が署名している。
(3) “G7イタリア・トリノ科学大臣会合”. 内閣府.
https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/g7_2017/2017.html [169], (参照 2020-06-30).
(4) ESIP Data Preservation and Stewardship Committee. Data Citation Guidelines for Earth Science Data, Version 2. figshare. 2019-07-02.
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.8441816 [170], (accessed 2020-06-30).
(5) RDUF. “研究データにDOIを付与するには?:5分で分かる研究データDOI付与”. 2019-12-20.
https://doi.org/10.11502/rduf_rdc_doileaflet [171], (参照 2020-06-30).
(6) RDUF.
https://japanlinkcenter.org/rduf/ [172], (参照 2020-06-30).
(7) “RDUF小委員会テーマ提案書”. RDUF. 2018-11-30.
https://japanlinkcenter.org/rduf/doc/rduf_shoiinkai_4.pdf [173], (参照 2020-06-30).
(8) “G1 研究活動の新たな常識としてのデータ引用の実現に向けて”. JOSS2019.
https://joss.rcos.nii.ac.jp/2019/session/0527/?id=se_113 [174], (参照 2020-06-30).
(9) Ikeuchi, U.; Abe, M.; Hayashi, K.; Nomura, N.; Okayama, N.; Owashi, M.; Sumimoto, K.; Takahashi, N.; Toda, Y.; Nosé, M. Journal Research Data Policy Across Disciplines: Comparison Between 2014 and 2019. figshare. 2019-11-08.
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.10025330 [175], (accessed 2020-06-30).
(10) Martone, M. “Joint Declaration of Data Citation Principles - FINAL”. FORCE11. 2014.
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(11) Martone, M. “データ引用原則の共同宣言 - 最終版”. RDUF リサーチデータサイテーション小委員会訳. RDUF.
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(12) Wiley Market Research. Wiley Open Science Researcher Survey 2016 Infographic. figshare. 2017-04-26.
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(13) 池内有為. 日本における研究データ公開の状況と推進要因,阻害要因の分析. Library and Information Science. 2018, no. 79, p. 21-57.
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(14) 池内有為, 逸村裕. 学術雑誌によるデータ共有ポリシー:分野間比較と特徴分析. 日本図書館情報学会誌. 2016, vol. 62, no. 1, p. 20-37.
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(15) “成果物”. RDUF.
https://japanlinkcenter.org/rduf/deliverable/ [181], (参照 2020-06-30).
[受理:2020-07-21]
能勢正仁, 池内有為. データ引用を研究活動の新たな常識に:研究データ利活用協議会(RDUF)リサーチデータサイテーション小委員会の活動. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1980, p. 2-4.
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DOI:
https://doi.org/10.11501/11546850 [183]
Nosé Masahito
Ikeuchi Ui
Data Citation as the New Standard of Research Activity: Report of Research Data Citation Subcommittee, Research Data Utilization Forum (RDUF)
PDFファイル [187]
東京都立国際高等学校:高松美紀(たかまつみき)
初等中等教育におけるグローバル人材育成のモデルとして、国際バカロレア(International Baccalaureate:IB)が注目されている(1)。IBはスイス・ジュネーブに本部を置く、国際バカロレア機構(International Baccalaureate Organization:IBO)が提供する国際的な教育プログラムである。2020年6月現在、国際バカロレアの認定校(以下「IB校」)の数は世界158以上の国・地域において約5,000校、日本では83校であり、近年急激な拡大を見せている(2)。
日本における普及・拡大の背景には、IBが外国語運用能力の習得や海外の大学への進学に有利であるというだけでなく、21世紀型の汎用的学習スキルの育成として有効なプログラムであるという期待がある。文部科学省は、「国際バカロレアの趣旨のカリキュラムは、思考力・判断力・表現力等の育成をはじめ学習指導要領が目指す『生きる力』の育成」、「課題発見・解決能力や論理的思考力、コミュニケーション能力等重要能力・スキルの確実な修得に資する」(3)として、2013年から国内の学校教育法第1条に規定されている学校、いわゆる「一条校」への導入を推進している。
このIBにおいて、学校図書館は重要な役割をもつ。IBは、児童・生徒中心や探究的な学びを基盤にし、教科横断的な学びや概念化、学びの転移を重視するが、こうした学びの実現に学校図書館が不可欠なのである。日本でも2018年からの新学習指導要領(CA1934 [188]参照)において「探究」が強調され、学校図書館については「学校の情報化の中枢的機能を担っていく」ことが早くから明示されてきた(4)。しかし、その取り組みは十分に進展しておらず、21世紀型の学びに対応するためには、学校図書館の改善が喫緊の課題といえる。
そこで本稿では、IB校の学校図書館の特徴を検討し、日本の学校図書館への示唆を得ることを試みる。
IBでは4つのプログラム(表)を実施しているが、IB校の認可を受けるためには、IBO発行の『プログラムの基準と実践要綱』に示される、施設やカリキュラム、教職員や組織等の条件を満たす必要がある。学校図書館については、「図書館、マルチメディア、およびリソースが、プログラムの実施において中心的役割を果たすこと」と明記されているが(5)、施設面積や蔵書数、ライブラリアン(6)の資格等についての明確な規定は示していない。これは、各国での規定が異なることや、各学校の事情に応じるためと考えられる。
国内の国際バカロレア認定校等数 | 認定校 | 候補校 | ||
PYP | Primary Years Programme | 3〜12歳対象 | 43 | 17 |
MYP | Middle Years Programme | 11〜16歳対象 | 19 | 16 |
DP | Diploma Programme | 16〜19歳対象 | 51 | 13 |
*国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能 | ||||
CP | Career Programme | 16〜19歳対象 | 0 | 0 |
*キャリア教育・職業教育に関連 |
『DP:原則から実践へ』(7)には図書館に関する要件がより具体的に示されている。例えば、児童・生徒が図書館やメディア設備に容易にアクセスできること、設備やリソースが継続的に向上されること、学習言語の支援リソースがあること、グローバル課題と多様なものの見方についてのリソースがあること等である。児童・生徒の趣味的な読書がATL(Approaches to Teaching and Learning:学習の方法と指導の方法)や言語習得、異文化理解を促すことや、蔵書に在籍児童・生徒の母語のリソースを備えるべきことも示されている。ライブラリアンの役割については、カリキュラム開発や実施を協働的に行うことや「学問的誠実性」(8)の推進、リソースを提供する支援等が示されている。また、ライブラリアンのリサーチの専門性がATLの有効性を高めることにも言及されている。
さらに、IB校に認可される過程(候補校段階)でのIBOの訪問により、改善点に関する助言や補助資料等から具体的な情報を得ることができる。そして「認定訪問」や「定期確認訪問」で課題の改善が評価されるシステムにより、図書館運営の継続的な向上が図られる(9)。
ライブラリアンは教員と協働して学習活動を支えるが、特に全てのプログラムで実施されるプロジェクト学習での貢献は大きい。例えばMYPの手引きには、「生徒のリサーチスキルを補い、リソースを探して手に入れる手伝い」「参考文献の選択や参考文献目録の作成」(10)等が示されている。PYPやMYPでは、リサーチスキルの授業を担当することが多い。DPではコア科目として課題論文(Extended Essay:EE)が課されるが、ライブラリアンは個別の深いリサーチやレファレンス、「学問的誠実性」における引用や参考文献の書き方等スキル面での支援が可能である。EEコーディネーターを担当する場合も少なくない。
近年IBOも学習における図書館の重要性を強調する傾向にあり、2018年には“Ideal libraries: A guide for schools”が出版された。ここで図書館は、「人々と場、コレクションとサービスとが結びついたものであり、学習と指導を助け、発展させるもの」と定義づけられ、図書館やライブラリアンは「学びのコミュニティにおいて、共に働き、活性化させ、支援する」「相互に結びついたシステム」(11)であると示されている。つまり、IBにおいて学校図書館は、単なる施設ではなく、有機的に結びついた学びのシステムの一部であり、ライブラリアンは学校全体の学びを活性化し、コーディネートする役割を担う、と捉えることができる。
前章では、IBOの公式資料からIBにおける図書館の要件や理念を確認した。ここではそれを踏まえて、筆者が2017年から2019年に訪問した国内外のIB校(12)の実際や研修(IBの公式ワークショップ)で得た情報をもとに、具体的な特徴を紹介する。
施設の広さや設備は学校によって異なるが、一般的には書架や閲覧・学習、パソコンが使用できるスペースに加え、小グループの議論や個別指導が出来る学習室やコーナーがある。リラックスして読書や会話ができるソファーや床スペースを用意している学校も多い。また、プレゼンテーションや集会が可能な多目的スペースや、録音ができる個室をもつ学校もある。ただし、IBの図書館は施設が豪華であることよりも、適切なリソースやサービスによって活発な学習活動を促すことが重要である。そして、単に静かな自習教室であるよりは、探究的に学び、議論し、寛ぐ場である。無論静かに読書し学習する空間も保証される。館内には、生徒の興味や思考を視覚的に刺激する掲示がされ、PYPでは体験的に探究を促す教材も置かれる。
蔵書は、生徒の自発的な探究が可能になるよう充実させる。PYPやMYPではプロジェクト学習のテーマに応じた多様なリソースが必要である。また、IBの中心的理念である“international mindedness”(「国際的な視野」等と訳される)に応じるように、特に多文化理解やグローバルな課題に関するリソースを揃えることは重要である。絵本や小説等の選書においても、地域や文化に偏りがなく、多様な文化や価値観に触れさせることが意識されている。さらに、IBでは多言語教育が重要な要素であり、特に在校生徒の母語で書かれた本のコレクションは必須である。加えて、指導における差異化(differentiation)や特別なニーズへの対応も意識される。例えば、聴覚情報の方が文字情報より理解しやすい児童・生徒等に対しては、オーディオブックや電子リソースを充実させて利用を促している。
ライブラリアンについても、学校の規模や運営の仕方によって異なるが、訪問した学校の多くでは、学習をデザインし、リサーチスキルやインフォメーションリテラシーを指導する司書教諭に当たる職員と、リソースの管理やレファレンスを主に担当する職員がおり、図書館が提供する検索プラットフォームの管理等の技術専門の職員を置く図書館もある。ライブラリアンは、図書館とカリキュラムを融合し、教員と協働して学校全体の学びをその基盤から支援している。
IBでは、すべてのプログラムで情報通信技術(ICT)を日常的に活用する。授業のリソースも、紙媒体の他に、ウェブサイト、YouTube、クラスの“wiki”、ブログの情報等幅広く、オンラインのコミュニケーションツールも効果的に用いられる。
特に探究学習において、オンラインデータベースの利用は不可欠である。筆者が訪問した海外のインターナショナルスクールや私立校の多くは、視覚教材を含めた多様なオンラインデータベースやコンテンツを複数購入しており、ライブラリアンがLibGuides等で検索プラットフォームを作成し、教科担当教員と協働して単元ごとにビデオや視覚教材を含めた学習リソースをデザインし、児童や生徒が容易にアクセスし主体的に学習に取り組めるように提供していた。
特にDPでは、本格的な分析や論述が求められるため、Britannica、Questia、EBSCOhost、ProQuest等(13信頼できる情報や学術論文のデータベースにアクセスできるプラットフォームの利用が不可欠であり、その充実度は学習成果に直結する。データベースの活用は、文献の整理や正確な出典記載も可能にし、「学問的誠実性」への意識を促進する。ただし、こうしたデータベースは概して高額であり、一般の公立学校での普及には予算の問題もある。しかし例えば豪州では、公立図書館のオンラインサービスが進んでおり、各州立図書館では電子書籍やビデオ、学術論文を含むデジタルサービスが無料で市民に提供されている。それによって、公立学校の図書館もそのサービスを組み入れたプラットフォームを教員や生徒に提供することができ、生徒も個人でアクセスして学習に利用することが可能となっている。電子書籍の購入割合も高く、訪問した学校の中には、施設としては小規模に見えた図書館が、オンライン上で非常に充実したコンテンツを授業の単元ごとに用意し、個々の生徒に丁寧なサービスを提供していた例もあった。
こうしたオンラインサービスは、最新かつ多様なリソースの利用を可能にするだけでなく、学習の形態や図書館のあり方を変化させる。児童・生徒は教室や図書館を離れ、自宅を含めどこでも多様なリソースに瞬時にアクセス可能になり、学びは柔軟でダイナミックなものになる。図書館は物理的な場と同時に、オンラインネットワーク上に新たな学習の場を創造するのだ。それは、児童・生徒の学習意欲や成果に大きく影響するとともに、教員が生徒の既存知識やリアルタイムでの経験と新しい情報とを結びつけるような新たな探究学習をデザインする可能性をもたらすと考える。
現在日本では、探究の重視や授業改善等学びの変革が進んでいるが、この実現には学校図書館の変革が不可欠である。しかし現状では、情報リテラシーやリサーチスキルを指導できるライブラリアンの養成や専任配置が進んでおらず、一般の学校ではインターネット環境やオンラインデータベースの普及が遅れている。
無論、すべてのIB校の図書館が完璧なわけではなく、教科担当教員との協働のあり方等課題も報告されている(14)。しかし、IBが理想として示す学校図書館のあり方は、グローバル化や21世紀型の学びへの方策を具体的に示している。学校図書館は、主体的な学びを可能にする場を提供する核となり、ライブラリアンは多様な場とリソース、学習者や教員、教育活動に関わる全ての人の関わりをコーディネートし、学校全体の学びを活性化する役割を担うことが期待される。
グローバル教育や21世紀型教育のモデルとしてIBを導入するならば、その学校図書館や学びのあり方を同時に検討することが不可欠である。それには各学校だけでなく、行政レベルで取り組む必要があり、さらに生涯学習を支える公立図書館の在り方やネットワークをも視野に入れることで、より本質的で将来を見通した学びの変革を実現することが可能になると考える。
※本稿は以下の拙稿に加筆・修正したものである。
高松美紀. “一条校における国際バカロレア(IB)導入の課題”. 国際バカロレア教育と教員養成—未来をつくる教師教育—. 東京学芸大学国際バカロレア教育研究会編. 学文社, 2020, p. 74-84.
(1) グローバル人材育成とIBについては、
高松美紀. 国際バカロレアの検討による『グローバル人材育成』への示唆」. 国際理解教育. 2019, (25), p. 67-76.
を参照されたい。
(2) “認定校・候補校”. 文部科学省IB教育推進コンソーシアム.
https://ibconsortium.mext.go.jp/ib-japan/authorization/ [189], (参照 2020-06-28).
(3) 初等中等教育局教育課程課. “国際バカロレアの趣旨を踏まえた教育の推進”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoiku_kenkyu/index.htm [190], (参照 2020-06-28).
(4) “情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて (情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議 最終報告)”. 文部科学省. 1998-08.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/002/toushin/980801.htm [191], (参照 2020-07-16).
(5) プログラムの基準と実践要綱. 国際バカロレア機構. 2014, p. 4.
https://www.ibo.org/globalassets/publications/programme-standards-and-practices-jp.pdf [192], (参照 2020-07-16).
(6) IB校における「ライブラリアン」は「学校司書」や「司書教諭」等を指すが、国や学校により「司書」や「学校司書」、「司書教諭」の養成課程や役割が異なるため、ここでは「ライブラリアン」のまま表記する。
(7) DP:原則から実践へ. 国際バカロレア機構. 2020, p. 54.
https://ibo.org/globalassets/publications/ib-research/dp/dp-from-principles-into-practice-jp.pdf [193], (参照 2020-07-16).
(8) 「学問的誠実性」(academic integrity)とは、真正な学問成果として責任を持ち、認められるための倫理的な意思決定と行動の指針である。
Academic integrity. International organization. 2019.
https://www.ibo.org/contentassets/76d2b6d4731f44ff800d0d06d371a892/academic-integrity-policy-english.pdf [194],(accessed 2020-06-28).
(9) “認定プロセスとは”. 文部科学省IB教育推進コンソーシアム.
https://ibconsortium.mext.go.jp/authorization-process/ [195], (参照 2020-06-28).
(10) 中等教育プログラム プロジェクトガイド. 国際バカロレア機構. 2017, p. 14-15.
https://www.ibo.org/contentassets/93f68f8b322141c9b113fb3e3fe11659/myp/myp-project-guide-2018-jp.pdf [196], (参照 2020-07-16).
(11) Ideal libraries: A guide for schools. International Baccalaureate Organization. 2018, p. 20.
https://uaeschoollibrariansgroup.files.wordpress.com/2018/06/ideal-libraries-for-ib.pdf [197], (accessed 2020-07-16).
(12) 海外校は、International School of Amsterdam(オランダ)、The American School of The Hague(オランダ)、 Oakham School(英国)、 Marymount International School(英国)、 ACS Egham(英国)、 Carey Baptist Grammar School(豪州)、 Kambala School(豪州)、 Narrabundah College(豪州)、 Canberra Grammar School(豪州)、 Western Academy of Beijing(中国)を参考とした。
(13) これらはすべて英語のサービスである。
(14) Tilke, Anthony. The International Baccalaureate Diploma Program and the School Library: Inquiry-Based Education. ABC-CLIO, 2011, 139p.
[受理:2020-08-18]
高松美紀. グローバル時代の学校図書館 ―国際バカロレアからの示唆―. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1981, p. 5-7.
https://current.ndl.go.jp/ca1981 [198]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11546851 [199]
Takamatsu Miki
School Libraries in the Global Age ―Suggestions from the International Baccalaureate―
PDFファイル [209]
myrmecoleon(1)
「たくさんのマンガや関連資料を所蔵し、閲覧・展示する図書館・ミュージアムなどの施設」をマンガ図書館と呼ぶ(2)と、線引きによるが、現在国内には数十から百近くのマンガ図書館がある(3)。
図書館の所蔵資料の多くが図書であるのと同様に、マンガ図書館の所蔵資料の多くはマンガ(マンガが掲載された資料)である。マンガは主に各種の出版物(4)やデジタル媒体(5)に掲載されるほか、肉筆画としての鑑賞が前提のマンガもある(6)。図書館が図書以外の資料を収集するのと同様に、マンガ図書館もマンガ以外の資料を収集している。
マンガ図書館は一般の図書館と重なる点もあり、過去にも『カレントアウェアネス』で紹介されるなど関心が高いが、マンガ以外の所蔵資料に注目した紹介は少なかった。これらもマンガ理解の上で意義のある資料であることから、今回はこうした「マンガ図書館のマンガ以外の所蔵資料」を紹介する。
中村稔氏は文学館の収集すべき文学資料に「図書、雑誌、原稿、創作ノート、メモの類、日記、書簡、自筆の書画、愛蔵した書画、筆記具等の日常の身の廻り品等」(7)を挙げ、「図書、雑誌」では文学作品のほか研究書や評論、回想等にも触れている(8)。文学館はマンガ図書館と同じく日本の出版文化である文学を対象とする文化施設であり、また特定の作家の記念館が多い点でも共通する。これを参考にマンガ図書館の所蔵資料を整理すると「マンガ」「マンガの制作に関する資料」「漫画家に関する資料」「マンガ・漫画家の研究書や評論、回想等」が挙げられる。これにマンガで顕著な「マンガの二次的な作品やその関連資料」を加え、「マンガ」以外について実例を挙げつつ紹介していきたい。
マンガ制作の過程で作られる原画等の副次的な制作物は制作の実態がうかがえる重要な資料である。マンガの制作工程を作画の前後で整理すると、作画前の制作物として原作やネーム、下書き等、作画時の制作物として原画、作画後の制作物として出版社や印刷会社の業務資料が挙げられる。
マンガの絵の原稿が原画である。原画はマンガ制作の資料としてだけでなく、漫画家の肉筆画でもあることから美術的な鑑賞の対象ともなり、マンガの企画展等ではマンガに代わって原画がよく展示されている。こうした企画展の原画も多くは作者からの借用であり、原画を所蔵するマンガ図書館はまれである。
原画をマンガ図書館で取り扱う上での課題に量がある。マンガはページ1枚ごと原画があり、著名なマンガ作品なら1作品当たり数千枚から数万枚に及ぶのが普通で、同時に原画1点1点が代替のない肉筆画である。量に伴う保管方法や収蔵スペースはマンガ図書館が所蔵を担えない主な理由であり、作者や遺族が保管に困って廃棄するのも課題である。
例外的に原画を大規模に収蔵している施設として秋田県の横手市増田まんが美術館(9)がある。2019年のリニューアルでは原画70万点の収蔵能力がある原画収蔵庫を増設し、矢口高雄氏(10)の約4万5,000点をはじめ複数人の漫画家の原画あわせて40万点以上を収蔵している。増田まんが美術館は今後もこうした原画の収集を継続していく方針である。なおこれらの原画は矢口氏のみ横手市への寄贈、他の漫画家分は同館や横手市での一定の利用を認める条件で預かっている。他のマンガ図書館でも一時的な預かりとして原画を収蔵する例が多い(11)。こうした意味でマンガ図書館の原画は必ずしも「所蔵資料」と言えない点に注意が必要である。
近年はマンガ制作のデジタル化が進んで原画のかたちも大きく変わっており、保管の負担が軽減された一方で新たな課題が生まれている(12)。
また、作画の前後の制作物は原画以上にまれな資料である。
マンガの作画前の制作物としては「ネーム」(13)が代表的である。より簡易なプロットやアイディアのメモも制作物に含まれる。マンガの原作者はこの工程に関わる(14)。作品に残らない下書きや練習書き、アシスタントへの指示なども含められるだろう。マンガ制作のやり方によってはこうした資料も残る。
これらは制作のはじまりとして重要な資料である一方、作者にとってはただのメモ書きとの認識も多く、必ずしも保管しておらず、公開への抵抗も多いと思われる。マンガ図書館では原画と合わせてこれらを預かることもあるが、より取り扱う機会が少ない資料である。たとえば東京都千代田区の明治大学米沢嘉博記念図書館(CA1781 [210]参照)では三原順氏(15)の遺族より一時的に預かっている原画等を文化庁メディア芸術連携促進事業連携共同事業の一環として整理しており、この中にはネームが描かれたノートなどの資料(同整理では「原画相当資料」と呼んでいる)が含まれている(16)。
原画がマンガとして出版されるまでには出版社の編集や印刷会社等の作画後の工程がある。古くは原画に台詞等の写植を貼る工程が知られる。ここでも各工程への指示書きやチェックのための刷り出し、版や製版データなどの副次的な制作物は存在する。ただし基本的に出版社・印刷会社等の内部資料であり原則として表に出ない資料である。マンガ図書館等でも所蔵がまれだが、これらの工程も時代によって変化しており(17)、それが分かる制作物はマンガの理解において重要な資料である。
漫画家自身に関する資料もマンガ図書館で収集すべき資料である。作者の経験や内面は作品に影響し、それを推察できる資料は所蔵する意義がある。
日記や書簡は作者の生活や交友関係が分かり、マンガ制作への動機などがうかがえる資料である。漫画家はあまり表に出ない職業であり、写真なども重要な資料である。これらは非公開でプライベートな資料が含まれ、取り扱いは本人・関係者の了解などが求められる(18)。
漫画家は、絵画・絵本・小説・映像・造形など分野はさまざまだが、別の仕事あるいは趣味としてマンガ以外の作品を制作している場合があり、これも作品理解の上で参考となる。漫画家手書きのサイン等も一種の作品であり、マンガ図書館の多くでは来館した漫画家によるサインがよく展示されている。
画材や作画資料(作画時に参考とした書籍・写真等)はマンガ制作の様子を想像できる資料であり、展示・研究上で有益である。北沢楽天氏(19)が使用した机や画材を配置してアトリエを再現したさいたま市立漫画会館(20)など、マンガ図書館では画材や作画資料を並べて漫画家のマンガ制作の場を再現した展示がしばしばある。
愛蔵品、好きな本や映画も作者や作品への影響を考える上で重要な資料である。その他身の回りの品一般が漫画家を知るうえで有益な資料である。
文学館においては「文学館の収集、保存の対象は文学者に関連するすべてだといってよい」(21)との指摘がある。マンガ図書館も同様と言えるだろう。
マンガ掲載の有無に関わらず、マンガに関する著作は広く収集すべき資料である。たとえば漫画家の記念館であればその漫画家に関するあらゆる資料を完備することが望ましい(22)。
マンガ研究を目的とした学術雑誌には日本マンガ学会の学会誌『マンガ研究』(23)などがあるが少なく、マンガに関する研究は隣接分野の学会誌や紀要のほか、書籍のかたちで発表されることが多い。マンガは学術的に扱われた歴史が比較的浅いため専門書だけでなく、一般書で重要な著作が多い分野でもある。マンガ情報誌(24)や、商業出版物だけでなく同人誌なども含めて、マンガの研究・評論などを主題とする資料は広く収集すべきである。
漫画家自身の著作は上述の漫画家に関する資料の側面も含めて有益な資料である。活動の回顧録のほか、マンガ制作の入門書もよく出版されている。雑誌・新聞等のインタビューも重要である。マンガ原作者、編集者、書店員等マンガ関係者の著作も同様である。
その他マンガやマンガ作品・漫画家に関する著作は多々あり、雑誌、新聞、テレビ、インターネット等での言及も収集する必要があるが、マンガは非常に広く言及され、すべてを拾うのは困難である。各館の目的とリソースに応じ現実的な範囲を定めた収集が妥当と思われる。
マンガは二次的な作品として商業展開されやすい表現である。メディアミックス(25)という形態もある。特に著名な作品・漫画家ほど、こうした二次的な作品と切り離せない性格がある。
二次的な作品には小説や絵本などマンガと同様の出版物もあれば、アニメ・特撮などの映像作品、ラジオ・CDドラマなど音声作品、演劇・ミュージカルなどの舞台、ボードゲーム・ビデオゲームなどのゲームとさまざまである。
手塚治虫氏(26)はアニメの制作にも大きく関わった漫画家であり、兵庫県の宝塚市立手塚治虫記念館(27)ではアニメ作品や制作の資料も展示されている。石ノ森章太郎氏(28)は特撮ヒーロー作品の原作を多数手がけたことから宮城県石巻市の石ノ森萬画館(29)ではそうした特撮作品の造形の展示が目立つ。著名漫画家の記念館ではアニメ作品等も扱うのが一般的である。
こうした作品は玩具やキャラクターグッズ等が多いのも特徴である。これらも広い意味でマンガに関する資料であり、可能な範囲で収集されるべきである。
二次的な作品には商業的なものだけでなく、同人誌など含むファンアート(30)、ガレージキット(31)、コスプレ(32)など個人制作も多い点にも注意が必要である。
マンガ図書館はマンガを閲覧・展示する共通点はあるものの、その設置母体や目的はさまざまであり館種の違いがある。最後に上記資料についての館種による違いを紹介する。
明治大学米沢嘉博記念図書館や京都市の京都国際マンガミュージアム(CA1780 [211]参照)など大学が設置に関わるマンガ図書館は、マンガ研究を目的とするため研究書などを比較的よく収集している。上記いずれの資料も重要だが、施設の収蔵スペースは有限のため選択が必要となる。広島市まんが図書館(CA1782 [212]参照)のようにマンガを強みとする公共図書館も似た傾向がある。
漫画家の記念館では制作に関する資料、漫画家に関する資料はマンガと並んで重点が置かれる傾向が強い。あまり知られていない漫画家の記念館もあるが、一般にメディア展開などをされた著名な漫画家の記念館が多いことから、二次的な作品やその関連資料も収集されている。
逆に岐阜県飛騨市の飛騨まんが王国 マンガサミットハウス(33)や東京都立川市の立川まんがぱーく(34)のようなマンガの読書を目的とした施設ではマンガの所蔵に注力している。上述したマンガ以外の資料としては漫画家のサイン等などが若干見られる。
マンガ図書館は館の目的により上記のようなマンガ以外の資料も収集・所蔵するが、その内容は一様ではない。各館が独自の考えで自館にとって妥当な範囲で収集しており、今回はその一部を整理したものである。上記にあてはまらない資料もあるだろう(35)。
はじめに記した通り、図書館も図書以外の資料を収集する。図書・雑誌・新聞や視聴覚資料、電子媒体などにとどまらず、著作の原稿や個人文書など、各図書館がその設置目的から個人や主題に関するさまざまな資料を収集している。特に専門図書館では顕著であり、上記のマンガ図書館の中にも明治大学米沢嘉博記念図書館や広島市まんが図書館のように大学や自治体の専門図書館が含まれている。こうした点で見れば上記のマンガ図書館の資料の例も、専門図書館の所蔵資料として決して特殊ではない。
マンガ図書館はまだ歴史の浅い施設であり、マンガ制作自体の変化も早く、ここで紹介したように収集すべき資料の対象もまだ模索の途上と言える。一方、図書館においても、社会・産業の変化や技術の進歩を受けて、これまで収集しなかった資料を収集する機会もあると思われる。たとえば機関リポジトリなどの新しいサービスを受け容れてきた大学図書館では顕著であり、近年では学術論文の制作に関する資料ともいえる研究データの収集の動きが注目されている。こうした新たな資料収集の選択肢が生まれたとき、マンガ図書館と同様に図書館も館種などで状況は変わるが、各館がその目的やリソースをふまえて選択することになるだろう。
本稿では図書館と同様に模索するマンガ図書館の資料収集の試みの一部を紹介した。マンガは多くの図書館にとって非常に離れた主題であり、その取り組みはあまり似たところが無いかもしれないが、もしも本稿が何かの参考となれば幸いである。
(1) 筆者のプロフィールは以下を参照。
“@myrmecoleon”. Twitter.
https://twitter.com/myrmecoleon [213], (参照 2020-06-30).
Myrmecoleon in Paradoxical Library. はてな新館.
http://myrmecoleon.hatenablog.com/ [214], (参照 2020-06-30).
なお筆者は同人誌として下記を発行しており、本稿は同書の今後の改訂で掲載予定の内容の一部をまとめたものである。
myrmecoleon. マンガ図書館の教科書(仮)の(仮). 2019年改訂版, Paradoxical Library, 2019, 104p.
(2) 前掲. p. 45.
(3) myrmecoleon. “日本全国のマンガ・アニメ・ゲーム・特撮の図書館・ミュージアム”. 2019年度日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(主催・共催型)「MANGA 都市 TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮 2020」展 中間報告書 . 国立新美術館 , 2020, p. 49-59.
https://www.nact.jp/exhibition_special/2020/manga-toshi-tokyo/pdf/manga-toshi-tokyo_report.pdf [215], (参照 2020-06-30).
アニメ・ゲーム・特撮分野を含むマンガ図書館102館のリストを掲載している。
(4) 書籍や雑誌に限らず、新聞、同人誌、赤本・貸本、その他ポスターやチラシ、ダイレクトメールや商品のパッケージなどさまざまな出版物にマンガが掲載されている。
(5) 近年ではマンガはゲームソフトやCD-ROM、ウェブサイト・アプリ・電子書籍・SNS上などのデジタル媒体での発表も多くなった。図書館と同様にこうしたデジタル媒体のマンガをどう収集するかは課題となっている。
(6) 肉筆画のマンガは1コママンガではしばしば見られ、マンガ図書館でも広島市まんが図書館の「おもしろその年まんが大賞」など、賞を設けて1コママンガを一般から募集し、受賞作を館内に展示している館がある。
“まんが大賞”. 広島市まんが図書館.
https://www.library.city.hiroshima.jp/manga/grand/index.html [216], (参照 2020-06-30).
他に同人誌の肉筆回覧誌などがある。
(7) 中村稔. 文学館を考える 文学館学序説のためのエスキス. 青土社, 2011, p. 46-47.
(8) 前掲. p. 63-65.
(9) 横手市増田まんが美術館。1995年に増田町(現・横手市)が設置したマンガの美術館。国内外170人以上の漫画家の原画を保管し、一部が展示されている。
横手市増田まんが美術館 .
https://manga-museum.com/ [217], (参照 2020-06-30).
なお筆者は2020年1月から2月に別件の依頼により横手市増田まんが美術館および後述の広島市まんが図書館、飛騨まんが王国 マンガサミットハウス、立川まんがぱーくの4館を視察した。本稿はその経験をふまえて執筆されている。
(10) 矢口高雄(1939年−)。漫画家。代表作に「釣りキチ三平」ほか。増田まんが美術館名誉館長。増田町出身であり、増田まんが美術館開館時に原画展示の重視を提案した。
(11) 1万点以上の原画を収蔵している館としては他に京都国際マンガミュージアムや北九州市漫画ミュージアム(CA1779 [218]参照)が挙げられる。藤子・F・不二雄ミュージアムでは原画が川崎市に寄贈され、藤子プロに管理されている。これらの館の運営および原画の管理については下記文献に詳しい。
森ビル. 平成26年度メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業 原画資料の収蔵と活用に向けた調査 実施報告書. 森ビル, 2015, 131p.
https://mediag.bunka.go.jp/projects/project/genga_h26.pdf [219], (参照 2020-06-30).
京都精華大学 . 平成28年度メディア芸術連携促進事業 連携共同事業 関連施設の連携によるマンガ原画管理のための方法の確立と人材の育成 実施報告書 . 京都精華大学 , 2017, 83p.
https://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2017/05/report-genga.pdf [220], (参照 2020-06-30).
京都精華大学. 平成29年度メディア芸術連携促進事業 連携共同事業 マンガ原画アーカイブのタイプ別モデル開発実施報告書 . 京都精華大学, 2018, 253p.
https://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2018/05/9e97085b57bd6510163b8b3eeefcf9eb.pdf [221], (参照 2020-06-30).
またこうした所有者から所有権の移動を伴わずに資料を一時的に預かることを「寄託」と呼ぶ場合もあるが、本稿で紹介した横手市増田まんが美術館での取材時にこの語の使用が避けられていた点を尊重してここでは使用しない。法的な寄託と必ずしも一致しない点から誤解を避ける意図があり、同様のことが
中村. 前掲. p. 74-75.
でも触れられている。原画の収蔵は内容としては図書館・美術館における寄託と重なる点もあり、マンガ図書館によっては寄託の語を使用する場合もあるが、各例で所有者との契約の内容は異なり、また一般に詳細は公開されていない。マンガ図書館における用法について十分に整理されておらず、また筆者は原画収蔵の当事者でもないことから、本稿ではこれら全体を「預かり」と表記した。
(12) マンガ制作のデジタル化の手法も漫画家により異なり、おもに紙で行い仕上げなどにデジタルを使用する漫画家、デジタルとアナログを行き来する漫画家、フルデジタルで制作する漫画家など多様である。紙の原画が残る場合もある。制作中に使用するソフトウェアや保存フォーマットも多様である。デジタルデータのため収蔵量の問題は少ないものの、何を保管するか、どう保管するかなどは今後の課題である。また展示・閲覧の方法は、適したデータの出力を複製原画として展示する、ディスプレイ上で表示する、ソフトウェアの機能で作画過程を映像で再現するなどの例があり、随時模索されている。
(13) マンガを制作する際の台詞やコマ割り、構図、キャラクターの配置といった作画の計画をおおまかに描いたものを業界用語でネームという。映像作品における絵コンテの役割を果たすマンガの設計図である。
(14) 同じ原作でも、文章のみで書く場合、コマ割りを含むネームまで作る場合、あるいはコミカライズの原作となるアニメ・小説・ゲーム等の場合と多々ある。同じ原作者でも組む漫画家や作品でスタイルを変えることもあり一様でない。
(15) 三原順(1952年-1995年)。漫画家。代表作に「はみだしっ子」ほか。明治大学 米沢嘉博記念図書館では没後20年を記念した「三原順 復活祭」を開催した。
“「〜没後20年展〜 三原順 復活祭」”. 明治大学米沢嘉博記念図書館.
https://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/exh-miharajun.html [222], (参照 2020-06-30).
(16) 京都精華大学. 平成29年度メディア芸術連携促進事業 連携共同事業 マンガ原画アーカイブのタイプ別モデル開発実施報告書. 京都精華大学, 2018, p. 218-219.
https://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2018/05/9e97085b57bd6510163b8b3eeefcf9eb.pdf [221], (参照 2020-06-30).
(17) 前掲した下記報告書のマンガ出版社へのインタビューにおいてもマンガの編集・出版工程の変化に触れられている。
京都精華大学. 平成28年度メディア芸術連携促進事業 連携共同事業 関連施設の連携によるマンガ原画管理のための方法の確立と人材の育成 実施報告書. 京都精華大学, 2017, p. 23-25.
https://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/uploads/2017/05/report-genga.pdf [220], (参照 2020-06-30).
(18) 一方近年ではブログやSNSでの公開も多い。
(19) 北沢楽天(1876年-1955年)。漫画家。新聞『時事新報』の漫画欄をはじめ、明治から昭和にかけて新聞・雑誌で1コママンガ等を描いた日本のマンガの第一人者。日本初の職業漫画家ともいわれる。
(20) さいたま市立漫画会館。北沢楽天の記念館。1966年、氏の邸宅跡地に大宮市(現・さいたま市)が設置。漫画家の記念館のはしり。
“さいたま市立漫画会館”. さいたま市.
https://www.city.saitama.jp/004/005/002/003/001/ [223], (参照 2020-06-30).
(21) 中村. 前掲. p. 63.
(22) 文学館についても同様の言及がある。
中村. 前掲. p. 63-64.
(23) “『マンガ研究』”. 日本マンガ学会.
https://www.jsscc.net/category/publish/manga_studies [224], (参照 2020-06-30).
(24) 専門のマンガ情報誌としては『ぱふ』(雑草社)などが刊行されていたが休刊。
ぱふ. 雑草社, [1979]-2011.
近い媒体としては書籍一般の情報誌の『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)が刊行されている。
ダ・ヴィンチ. KADOKAWA, 1994−.
(25) 同一の作品を複数のメディア(マンガ、アニメ、小説、映画等)で同期して展開することをメディアミックスと呼ぶ。原作と二次的な作品として明確に関係づけられる例もあるが、並行して制作され関係が曖昧な場合も多い。
(26) 手塚治虫(1928年-1989年)。戦後を代表する漫画家。代表作に「ジャングル大帝」など多数。また虫プロダクションを設立し、日本初のテレビアニメ「鉄腕アトム」を制作した。
(27) 宝塚市手塚治虫記念館。1994年宝塚市が設置。地元出身の手塚治虫の記念館。展示企画を手塚プロダクションが担当し原画なども展示されている。
宝塚市手塚治虫記念館.
http://www.city.takarazuka.hyogo.jp/tezuka/ [225], (参照 2020-06-30).
(28) 石ノ森章太郎(1938年-1998年)。漫画家。代表作に「サイボーグ009」など多数。「仮面ライダー」など多数の特撮作品の原作も手掛けた。
(29) 石ノ森萬画館。2001年石巻市が設置。石ノ森章太郎の記念館。建築自体も氏のデザイン。氏の手がけた特撮作品の展示が目立つ。
石ノ森萬画館.
https://www.mangattan.jp/manga/ [226], (参照 2020-06-30).
(30) マンガやアニメのファンが好きなキャラクターなどのイラストやマンガを描くことは、権利上の問題が皆無ではなく作品により違いもあるが、一般に許容され、行われている。同人誌での頒布や投稿サイトやSNSでの掲載が多い。マンガ図書館でもあまり収集しないが、明治大学米沢嘉博記念図書館は米沢嘉博氏が同人誌即売会の代表だったことからファンアートの同人誌についても所蔵・収集を行っている。
(31) 個人や小規模なグループが少数生産する組み立て式の模型をガレージキットという。マンガやアニメのキャラクターを模したガレージキットもよく作られている。筆者が明治大学米沢嘉博記念図書館で実施した「初音ミク実体化への情熱 展」では(マンガのキャラクターではないが)筆者らが組み立て・塗装した初音ミクのガレージキットを商用フィギュアや個人制作の造形作品とともに展示した。
“ 次元の壁をこえて 初音ミク実体化への情熱 展”. 明治大学米沢嘉博記念図書館.
https://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/exh-miku.html [227], (参照 2020-06-30).
(32) 模した衣装を着てマンガ等のキャラクターに扮することはコスプレと呼ばれ広く行われている。マンガ図書館でもコスプレに関する資料収集は少ない。京都国際マンガミュージアム等でコスプレイベントに館内を開放する例がある。
“COSJOY”. 京都国際マンガミュージアム.
https://www.kyotomm.jp/event/cosjoy-27/ [228], (参照 2020-06-30).
(33) 飛騨まんが王国 マンガサミットハウス。1994年宮川村(現・飛騨市)が設置のマンガ読書施設。館内でマンガ約4万2,000冊が読める。温泉旅館と一体化しており宿泊もできる。
飛騨まんが王国 マンガサミットハウス.
http://www.miyagawa.org/summit_house/ [229], (参照 2020-06-30).
(34) 立川まんがぱーく。2013年に立川市が設置したマンガ読書施設。館内でマンガ約4万冊が読める。最近の人気作品を参考に随時更新される所蔵資料と工夫された読書スペースが特徴。
立川まんがぱーく.
https://mangapark.jp/ [230], (参照 2020-06-30).
(35) たとえば立川まんがぱーくでは来館者に好きなマンガのポップ(書店のポップのように、マンガを推薦する文章やイラストなどを小さい紙に手書きしたもの)を制作・持参してもらいそれを所蔵・掲示している。また横手市増田まんが美術館では館内で毎週末来館者向けのマンガ作りのワークショップを開催しており、そのさいの作品の一部が館内に展示されている。同様の試みが各館にあると思われる。
[受理:2020-08-17]
myrmecoleon. マンガ図書館におけるマンガ以外の所蔵資料. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1982, p. 8-11.
https://current.ndl.go.jp/ca1982 [231]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11546852 [232]
myrmecoleon
Materials Other Than Manga in Manga Libraries
PDFファイル [240]
国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター:常川真央(つねかわまお)
2011年以降、オープンサイエンスや研究公正の観点から、世界中の研究助成機関が研究者に対して研究データの管理・公開に向けた計画書であるデータマネジメントプラン(DMP)の提出を求めている(1)。さらに、2016年よりMachine-actionable DMPs(maDMPs)というコンセプトが登場し、DMPを研究データの管理・公開を担うシステムで活用するという取り組みが進められている。リポジトリや研究データ管理システムの運用を担うライブラリアンにとって、DMPは研究データの円滑な管理・公開を行う重要な情報源となり得る。そこで本稿では、maDMPsの概要を説明すると共に、その意義や動向について紹介する。
研究データが適切に公開されるためには、研究データの生成から公開に至るまでの「データライフサイクル」を適切に把握することが重要である。例えばライブラリアンが機関リポジトリに研究データを集約しようとするならば、自機関の中で公開すべきデータがあるかどうかを把握する必要がある。そして、研究データを登録・公開する場合、そのデータを公開してもよいか、あるいは個人情報などのセンシティブな情報が入っていないかを確認する必要がある。このように、一口に研究データを公開するといっても様々なタスクが発生し、その解決にはデータライフサイクル全体を見なければならない。
そこで、DMPがデータライフサイクルを支える存在として注目されている。DMPとは、「研究中ならびに研究終了後の両方でいかに研究データが取り扱われるかを概説した公的なドキュメント」である(2)。DMPには、研究の過程で生み出されるデータのうち、何を公開して何を秘匿するか、データにセンシティブな情報が含まれるか否か、もし含まれるなら、どのような対策をとるのか、公開に向けてどのような取り組みを行うのかといった事項を一般的には明記する。このような情報は、研究助成機関のマネジメントや学術組織のコンプライアンスのためだけでなく、ライブラリアンが円滑に研究データを公開する上で発生する様々なタスクを解決するための情報源となり得る。
DMPは、米国では2003年に米国国立衛生研究所(NIH)が研究データ共有の計画として求めたのを契機として広まり、2011年に全米科学技術財団(NSF)が提出を義務化するようになり浸透した(3)。欧州では2017年に、オープンサイエンスを志向した科学技術政策であるHorizon2020において、研究助成を受けた研究プロジェクトの一部はFAIR原則に沿ったデータ公開の取り組みに関するDMPの提出が義務付けられるようになった(4)。
現在では国際的に、研究者が助成申請する際にDMPを要求されることが浸透しつつある。国内においても、科学技術振興機構(JST)をはじめとして主要な研究助成機関が採択プロジェクトの一部に対してDMPの提出を義務付けている(5)。さらに、2020年度からは日本学術振興会(JSPS)が科学研究費助成事業の一部においてDMPの提出を応募の要件とする予定である(6)。
DMPを研究者が記述し、学術組織がこれを支援することは研究推進の観点からもコンプライアンス対応としても重要である。そこでDMPtool(7)やDMPonline(8)、両サービスのコードベースを統合したオープンソースソフトウェア開発プロジェクトのDMProadmap(9)など、DMP作成を支援するツール開発の取り組みが進められてきた。
しかし、データライフサイクルの様々なワークフローにおいてDMPを情報源として活用するという方向性での取り組みは、豪州などで実用化の例は見られるものの国際的な標準規格や技術が確立されておらず、検討が進められている。その一つとして現在、研究データ同盟(RDA;CA1875 [160]参照)を中心として活発に議論され、実現に向けて取り組みが行われているコンセプトにmaDMPsがある。
maDMPsとは、研究データ管理を支援する機械またはソフトウェアが計画に沿って適切にプログラムおよび動作するように記述されたDMPである。2016年9月に開催されたRDA第8回年次大会のActive Data Management Plans IGのセッションにて、ウィーン工科大学(オーストリア)のミクサ(Tomasz Miksa)氏らによって提唱された。その後、翌年にホワイトペーパーが発行され、そのコンセプトが明文化された(10)。
maDMPsにおける“machine-actionable”とは、機械可読性(Machine-readable)と類似した概念ではあるが、求められる要件はより広く、高度である。社会科学、行動科学、経済科学のデータを記述するための国際規格の作成に取り組むデータドキュメンテーション・イニシアティブ(DDI)のウェブサイトによれば、machine-actionableは、「機械またはコンピューターがその構造に従ってプログラミングされることができるように一貫性のある方法で構造化された情報」と定義されている(11)。つまり、機械が情報を読み取れるだけでなく、その意味と構造を解釈して自動的に動作することを求めている。maDMPsは単なるメタデータフォーマットの範疇を超えたコンセプトである。
それでは、maDMPsを実現するには具体的にどのようなシステムの開発や導入が必要なのであろうか。ミクサ氏らが2019年に出版した「maDMPsのための10原則」によれば、maDMPsを実現する上で重要な原則として次の10項目を挙げている(12)。
このように、maDMPsであるということは、研究データを管理・公開する環境そのものを規定することなのである。
ミクサ氏らは、maDMPsを実現するには、以上の10原則を必ずしも満たす必要はないとしている。しかし、それぞれの原則同士は密接に関係している。研究データを管理する際には、多様な研究ツールやシステムが複雑に絡み合っていることが多い。そのような環境下でmachine-actionableであるには、DMPの構造に従って動作するだけでなく、他のシステムと協調して、研究者が定めたデータポリシーやプランと実態との間に矛盾が起きないように動作することが求められる。協調するシステム間が密に結合している状況では、一部のシステムやツールが更新または入れ替えられる度に環境の大幅な見直しが必要となり、DMPとの整合性を保つための多大なメンテナンスコストが発生する。そのため、DMPに基づく研究データ管理環境を作り出すには、相互運用性(Interoperability)の確保が重要である。一般的には、相互運用性の向上には、システム間で共通に利用されるAPIが策定されることが重要である。maDMPsは、単なるメタデータの問題に留まらず、相互運用性を実現するような永続的識別子やAPIなどをいかに取り決め、広く共用されるようにするかという問題まで及ぶコンセプトなのである。
maDMPsの実現は、データライフサイクルを支える様々な関係者のタスクをシステムによって解決することを可能にする。それでは、ライブラリアンなどリポジトリの運用を担当する立場からは、どのようなアウトカムが期待できるであろうか。maDMPsのホワイトペーパーでは、リポジトリに関係するアウトカムとして、「リポジトリの推薦機能」や「研究データのアーカイブまたは保全のプロセスの開始」を例示している(13)。
リポジトリの推薦機能とは、DMPを研究者が作成する過程で、研究データの公開先として適したリポジトリをDMP作成支援システムが自動的に推薦するような機能である。研究データの公開先の決定にあたっては、研究者の専門分野や、データの種類、または研究助成機関からの要求を考慮する必要がある。これまでは、研究者に対する啓発活動やコンサルティング、または研究者コミュニティの慣習に依存しており、効果は限定的であった。また、研究データの特性に応じた適切な公開先を選択するには、リポジトリ担当者によるDMPの理解やヒアリングが必要になり、多大な負荷がかかる。maDMPsに対応したDMP作成支援システムは、作成の段階から研究データの特性を機械的に把握できるため、入力に応じた研究データの公開先のサジェストが可能になる。このように、要求に応じて研究者が利用可能なリポジトリをフィルタリングし、適切なリポジトリの利用へ容易に誘導することができる。これは、研究者とリポジトリ担当者双方にとっての負担軽減と公開データの増加につながるであろう。
こうして作成された DMP は、研究終了後にデータをいかに公開・保全するかのポリシーを確認する情報源となる。「研究データのアーカイブまたは保全のプロセスの開始」のユースケースでは、こうした情報が機械可読になっていることで、リポジトリが自動的にDMP の中から登録すべきデータの存在を読み取り、ライブラリアンに対してデータの保全・公開が必要であることを通知することができる。また、データにセンシティブな情報が含まれているかも、DMP を確認することで研究者に改めて質問する必要がなくなる。このように、maDMPs によって多大なコミュニケーションコストがかかるようなタスクが自動化されることで、各自は DMP の作成やデータ登録業務などに集中することができるようになる。その結果として、研究データの適切かつ網羅的な公開が促されるようになるだろう。
以上、maDMPsのコンセプトやアウトカムについて概説してきたが、ではこれを実現するために現在どのような取り組みが行われているだろうか。上述の通り、データストレージやリポジトリ、研究管理システムなど研究データ管理環境を構成する様々なシステムは、それ単体ではmaDMPsを実現することはできず、同じDMPを共有し、互いに関係する情報を交換して相互に動作できなければ実現しているとはいえない。
そのためには、maDMPsの10原則における第6原則「maDMPsのための共通データモデル」と、それに従ったAPIの策定にグローバルに取り組むことが必要である。そこでRDAのワーキンググループとしてDMP Common Standards WG(14)が発足し、maDMPsのための共通データモデルの策定に取り組んだ。同グループは、まずDMPのユースケースについて、様々な利害関係者の視点から分析した(15)。その成果として同グループは2019年12月に“RDA DMP Common Standard for Machine-actionable Data Management Plans”を勧告した(16)。策定 さ れ た DMP Common Standardのデータモデルの概略を下図に示す(17)。同規格では、研究データに関する様々な情報を束ねる実体としてDMPが定義されており、研究プロジェクトや研究助成事業を記述する部分、 機器調達や人材などのコストを記述する部分、研究データを記述する部分などに分かれている。
同データモデルは、JSON形式で記述され、JSON Schemaによるオントロジーも定義されている。つまり、実体の構造や関係性が明確に定義されており、machine-actionableなデータモデルとなっている。また、個々の実体の概念や属性は、DataCite(CA1849 [241]参照)や、データカタログの標準規格であるW3C-DATなど、グローバルな規格との互換性を有しており、他の研究データに関する様々なメタデータ規格と連携していけるように設計されている。
DMP Common Standardが策定された後、現在進行形でプロトタイプシステムの開発や、既存のDMP作成支援ツールの同規格への準拠などが進められている。例えば、ウィーン工科大学のオブラッサー(Simon Oblasser)氏らは、DMP Common Standardに準拠したDMP作成支援ツールとしてDMapを開発した(18)。RDAでも、maDMPsの普及を活発化させるために、maDMPsの実装に関するコンペティションである「maDMP ハッカソン」を開催しており、多くの人々が参加した(19)。さらに、DMP作成支援ツールのオープンソースソフトウェア開発プロジェクトであるDMProadmapでは、リード開発機関である米国のカリフォルニア電子図書館(CDL)を中心に、maDMPsに準拠したAPIなどの機能を実装中である。
他方で、これまでに述べた活動とは異なる文脈で、maDMPsを部分的に実現している事例が既に存在する。豪州の大学では、DMPを中心とした研究データ管理システムの開発・導入が進められており、特にクイーンズランド大学やシドニー工科大学などではDMPの内容に従って研究データ環境を整える仕組みを実現している(20)。こうした独自にmaDMPsの実装を行っている事例も、maDMPsの実運用の観点から注目に値する。
本稿では、maDMPsの定義、要件および関連技術の動向を、背景であるDMPの動向も踏まえて概説した。2020年7月執筆時点では、maDMPsは具体的な共通規格やプロトタイプの開発など、コンセプトの具体化にとどまっているが、今後は研究データ管理の現場と協調しながら、拡張とアップデートが重ねられていくだろう。ミクサ氏らは、ホワイトペーパーの中でmaDMPsはボトムアップ的アプローチが適切であると述べている(21)。DMPがデータライフサイクルの情報源として真に活用され、オープンサイエンスが推進されていくためには、ライブラリアンなど学術組織の現場で業務にあたる立場からいかにmachine-actionableのコンセプトを理解し、自機関のシステムに導入していくかが重要である。国内でもmachine-actionableというコンセプトをいかに実現していくかの議論が学術組織やライブラリアンなどによるコンソーシアムの中で活発化し、世界でも類を見ないような事例が生まれることを期待したい。
(1) DMP自体の動向については、以下が詳しい。
池内有為. データマネジメントプラン(DMP)— FAIR原則の実現に向けた新たな展開. 情報の科学と技術, 2018, vol.68, no.12, p. 613-615.
https://doi.org/10.18919/jkg.68.12_613 [242], (参照 2020-07-21).
(2) European Commission. Turning Fair Into reality: Final report and action plan from the European commission expert group on FAIR data. 2018, p. 76.
https://doi.org/10.2777/1524 [243], (accessed 2020-07-21).
(3) National Science Foundation. NSF Grant Proposal Guide, Chapter 11.C.2.j.
https://www.nsf.gov/pubs/policydocs/pappguide/nsf11001/gpg_index.jsp [244], (accessed 2020-07-21).
(4) European Commission. Guidelines on Fair Data Management in Horizon 2020. 2016, p. 6.
https://ec.europa.eu/research/participants/data/ref/h2020/grants_manual/hi/oa_pilot/h2020-hi-oa-data-mgt_en.pdf [245], (accessed 2020-07-21).
DMPの提出義務の対象となるのは、Open Research Data Pilot(ORD pilot)と呼ばれる研究助成枠である。また、同事業は中途で脱退することができる。脱退後のDMP提出は必ずしも必要ではないが、提出及び計画に記されたデータのオープン化などは依然として推奨される。
(5) 国立研究開発法人科学技術振興機構. 戦略的創造研究推進事業におけるデータマネジメント実施方針. 2016.
https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/manual/data_houshin.pdf [246], (参照 2020-07-13).
(6) 文部科学省. 令和2(2020)年度科学研究費助成事業科研費公募要領(学術変革領域研究(A・B)). 2020, p. 19.
https://www.mext.go.jp/content/20200106-mxt_gakjokik-000003634_01.pdf [247], (参照 2020-07-13).
(7) DMPTool.
https://dmptool.org/ [248], (accessed 2020-07-13).
(8) Digital Curation Center. “DMPonline”.
https://dmponline.dcc.ac.uk/ [249], (accessed 2020-07-13).
(9) The DMP Roadmap project. “DMP Roadmap”. GitHub.
https://github.com/DMPRoadmap/roadmap [250], (accessed 2020-07-13).
(10) Simms, Stephanie; Jones, Sarah; Mietchen, Daniel; Miksa, Tomasz. Machine-actionable data management plans (maDMPs). Research Ideas and Outcomes. 2017, vol.3, e13086.
https://doi.org/10.3897/rio.3.e13086 [251], (accessed 2020-07-21).
ただし、maDMPsという用語が登場する以前から、情報システムに親和的なDMPというコンセプト自体は “Active DMPs”という用語で欧米を中心に広く議論されていた。
(11) Data Documentation Initiative. “Machine-actionable”.
https://ddialliance.org/taxonomy/term/198 [252], (accessed 2020-07-13).
(12) Miksa, Tomasz; Simms, Stephanie; Mietchen, Daniel; Jones, Sarah. Ten principles for machine-actionable data management plans. PLoS computational biology. 2019, vol.15, no.3, e1006750.
https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1006750 [253], (accessed 2020-07-21).
(13) Simms, Stephanie; Jones, Sarah; Mietchen, Daniel; Miksa, Tomasz. op. cit., p. 9.
(14) “DMP Common Standards WG”. Research Data Alliance.
https://www.rd-alliance.org/groups/dmp-common-standards-wg [254], (accessed 2020-07-21).
(15) Miksa, Tomasz; Neish, Peter; Walk, Paul; Rauber, Andreas; Park, Office; Way, Lynstock. Defining requirements for machine-actionable Data Management Plans. OSF.
https://doi.org/10.17605/OSF.IO/CGP86 [255], (accessed 2020-08-04).
(16) RDA DMP Common Standards WG. “RDA DMP Common Standard for machine-actionable Data Management Plans”. GitHub.
https://github.com/RDA-DMP-Common/RDA-DMP-Common-Standard [256], (accessed 2020-07-21).
Miksa, Tomasz; Walk, Paul; Neish, Peter. RDA DMP Common Standard for Machine-actionable Data Management Plans. 2019-12-02.
https://doi.org/10.15497/rda00039 [257], (accessed 2020-07-21).
(17) 図の出典は以下のとおり。
RDA DMP Common Standards WG. “RDA DMP Common Standard for machine-actionable Data Management Plans”. GitHub.
https://github.com/RDA-DMP-Common/RDA-DMP-Common-Standard/blob/master/docs/diagrams/maDMP-diagram.png [258], (accessed 2020-07-21).
(18) Oblasser, Simon. “Machine-actionable DMP application (DMap)”. Zenodo, 2019-10-29.
https://doi.org/10.5281/zenodo.3522247 [259], (accessed 2020- 07-21).
(19) RDA hackathon on maDMPs 2020.
https://rda-dmp-common.github.io/hackathon-2020/ [260], (accessed 2020-07-13).
(20) 常川真央, 尾城孝一, 込山悠介, 藤原一毅, 山地一禎. データマネジメントプラン活用に関する研究データ基盤の要件定義を目的とした国際事例研究. 研究報告インターネットと運用技術(IOT). 2020, vol.2020-IOT-4, no.15, p. 1-6.
http://id.nii.ac.jp/1001/00203411/ [261], (参照 2020-07-21).
(21) Miksa, Tomasz; Simms, Stephanie; Mietchen, Daniel; Jones, Sarah. op. cit., p. 4.
[受理:2020-08-20]
常川真央. Machine-actionable DMPs(maDMPs)の動向. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1983, p. 12-15.
https://current.ndl.go.jp/ca1983 [262]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11546853 [263]
Tsunekawa Mao
Machine-actionable DMPs(maDMPs): A Review
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立教大学学校・社会教育講座司書課程:中山美由紀(なかやまみゆき)
近年、学校給食と学校図書館のコラボレーション活動が各地で行われている。このような取組には、食材や地産地消、郷土料理・和食などの地域や文化、さらに保存食や栄養といったテーマでの連携の取組もあるが、本稿では、その一つである「おはなし給食」の動向を紹介したい。「おはなし給食」「図書給食」といった様々な名称のもと行われている取組(1)であり、絵本や物語・小説の中に出てくる料理やその物語の世界を表現した料理を給食の献立に登場させて、食育と読書活動の双方の充実を図る活動と定義できる。保育園などでの取組もあるが本稿では学校給食に限定して取り上げる。
1章において現状とその背景を探る。2章において、その内容や実施にあたっての注意点を筆者の経験も踏まえて紹介する。最後にまとめにおいて、今後の課題を述べる。
まず、図書館や栄養教諭・栄養士によって行われている本取組の現状を知るため、インターネット上の情報や雑誌記事の調査を行った。
国立国会図書館による図書館界の最新情報を紹介するブログ「カレントアウェアネス-R」では、すでに埼玉県春日部市の「図書館リストランテ」(2)(2019年)、奈良県生駒市の「図書給食」(3)(年2回夏冬実施、2017年~)と福岡県小郡市の「ものがたりレシピをいただきます」(4)(4月23日子ども読書の日実施、2011年~)が取り上げられているが、東京学芸大学学校図書館運営専門委員会の「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」には、それより以前の事例として、「お話し給食」(5)(東京学芸大学附属小金井小学校、11月読書週間、2007年~)が掲載されている。このような取組は、近年はマスコミにも取り上げられ、インターネット上で話題になっている。朝日小学生新聞には給食の日を特集して『「給食コラボ」でおいしく 本に出てくる料理を再現』(2019年1月22日)という見出しで、東京都杉並区立久我山小学校とさいたま市立泰平中学校の事例を紹介している。久我山小学校図書館ではインターネット上の情報を参考に給食コラボを提案したという(6)。
『食育フォーラム』という学校給食の栄養士・栄養教諭を対象とした雑誌には、2008年に毎月1回給食実践・「図書シリーズ」を行った東京都荒川区立ひぐらし小学校の実践(7)、および、2010年11月の1か月間を毎日、「読書週間給食」にしたという東京都千代田区立千代田小学校の実践(8)が掲載されている。また「食育ブックジャーニー」というコラムで2011年4月号から2013年4月号までの2年間、本のソムリエ団長が本の中に出てくる料理について紹介をしている。その他、2012年1月号に「食育授業づくりの窓Vol.05 食の絵本から生まれる授業」(9)、2012年7月号では光村図書出版の国語教科書に登場する食べ物や料理が出てくる題材のリスト(10)が掲載されていた。本稿執筆時点で、2019年4月号から小学校給食は「おはなし給食」(11)として東京学芸大学附属世田谷小学校の事例が、同5月号から中学校給食は「読書と給食」(12)として東京都新宿区立牛込第一中学校の事例がほぼ交互に連載中である。
2019年の第60回全国栄養教諭・学校栄養職員研究大会(岐阜)では、岐阜県美濃加茂市学校給食センターの給食献立を活用した効果的な連携として、年4回の「図書献立」の研究発表(13)があった。また、大会配布資料の中には岐阜県笠松町学校給食センターの「名作おはなし給食」の実践資料(14)があり、会場で実践のポスター展示も行われた。
全国の栄養士のためのコミュニティサイトである「給食ひろば」(15)の「給食トピックス」に紹介されているものは多数ある。仙台市では2013年から「全国学校給食週間」に合わせたフェアを毎年開催しているが2020年は「教科書や絵本に出てくるメニューを給食で再現する絵本給食はどんなものか興味がある」という市民の要望に応えて「絵本給食」を特集したこと、北日本新聞では「恋愛小説給食」を富山県氷見市立西部中学校で行ったことを報道したという記事が目を引いた。
一方、図書館業界の文献ではほとんど見ることがなく、『学校図書館』2008年6月号の投稿欄「ひととき」に筆者が投稿した東京学芸大学附属小金井小学校の「おはなし給食」の事例と、『みんなの図書館』2013年8月号の掲載記事で小郡市が2011年から毎年4月23日に実施している「ものがたりレシピをいただきます」における学校と市立図書館が連携してのおはなし会の実践が確認できた(16)のみで、直近の2018年の第41回全国学校図書館研究大会(富山・高岡大会)でも、食育に力を入れている地域にもかかわらず取り上げられることはなかった。各地区での実践としては唯一、福岡県八女市の「とびだせレシピ」の実践(17)を確認することができた。
筆者が長年学校図書館や公共図書館に勤める人たちに聞くも、広く認知されているとは言い難く、実施が確認された地域も全国に点在し、継続しているところも多くはない。それでも関心を寄せる人や地域を中心に少しずつ広がりを見せているものと思われる。
では、このような取組が始まった背景は何だろうか。実践例の実施意図や実施体制からその背景を考察したい。
食育基本法が成立・施行された2005年から栄養教諭の配置が始まっており、学校給食を通じた食育が各教科・領域における授業や教育活動と連携・協力して盛んに行われるようになっている。2005年以前からの事例も散見されるものの(18)、「おはなし給食」もその流れの一端ではないかと、先の『食育フォーラム』の特集や記事の傾向からもうかがえる。
食育基本法との関連を確かめるため、先に紹介した笠松町の計画(19)を見てみよう。「名作おはなし給食」について、「図書館にある本や国語の教科書に登場する物語の中に出てくる料理や食べ物を給食の献立に登場させ、図書館教育と食育の双方の教育効果をねらった活動」と解説する。その前文には、「笠松町内の小中学校では、子どもたちが読書を通して、心を耕し、本に親しむ心豊かな児童の育成を目指した図書館教育が行われて」おり、「学校における食育では、生涯にわたり望ましい食習慣を身に付け、よりよい食生活を実践し健康で豊かに生きる力を付けることを目指し、学校教育活動全体で連携を図り、進めていくことを大切にして行って」いると説明し、双方の教育効果をねらった活動として「おはなし給食」を位置づけ、献立全体を表現として「お話の世界に入り込める」工夫をするとあった。
一方、2011年から小郡市が行っている「ものがたりレシピをいただきます」では、「平成23年度読書の街づくり事業」の「子ども読書の日」記念行事として小郡市立図書館から提案され、「絵本に出てくるメニューを給食に1品取り入れる」献立で、子どもの読書の日である4月23日に市内全小中学校対象に提供されている(20)。同館としてはそれをきっかけに、題材となった絵本の読み聞かせを市長や教育長にも協力校で行ってもらい、本の展示、ポスターの掲示、関連本の紹介リーフレット配布などを行った。公共図書館・学校図書館が進めるこの事例は普段は本になじみのない子どもや子どもにかかわる大人にも関心を持ってもらおうとする、読者層の拡大のための契機としている。
同様に、生駒市の「図書給食」も2017年12月の第1回メニューから第5回まで1作品につきイメージできる料理1品が入った献立となっていて、教育委員会から報道向けにプレスリリースがされている。生駒市では2011年に全校配置となった学校司書と、学校司書の活動を支援する公共図書館、給食センターとのトリプルコラボレーションとして2017年に「図書給食」がスタートした。センターの作る献立の1品と子どもだけでは選べないよりよい1冊を図書館の専門職として学校司書が結び付けるようにしており、生駒市図書館でも同時展示を行うと親子の会話も弾み、よく借りられるという(21)。
学校図書館では1997年に12学級以上の学校での「司書教諭」配置の義務化と2014年「学校司書」の法制化があり(CA1902 [266]参照)、新たに学校司書配置をした地方公共団体ではその存在アピールと読書推進計画にのっとり活動している実践アピールが共にできるチャンスとなっている。
「おはなし給食」は2008年前後と2017年前後の2回のブームを筆者は実感するが、2005年の食育基本法と栄養教諭制度の開始、2010年の国民読書年、2014年学校司書法制化といった動きと無関係ではないと思われる。
学校給食における「おはなし給食」の実際の展開と留意点について、筆者の経験も含め紹介する。
最も多いのが、学校の読書週間に合わせてであり、次に全国学校給食週間(1月24日から30日)で、特別メニューとして数日連続で実施される。
読書週間は10月27日から11月9日の国民読書週間にあわせた秋がスタンダードだが、6月や12月、2月などの学校の定める読書週間が年に2、3回設定されその時期に合わせているところもある。4月23日子ども読書の日の単発実施(小郡市)や、毎月1回(荒川区、八女市)、読書週間を含む1か月間は毎日実施(千代田区、東京学芸大学附属世田谷小学校)という例もみられた。
食育と読書がテーマとなる「おはなし給食」は、自校給食の場合、栄養教諭・栄養士と司書教諭・学校司書のコラボレーションになる。センター給食の場合は学校図書館部会や学校司書部会と給食センター、そして公共図書館が加わる組織的なコラボレーションとなる。
食育推進側(栄養教諭・栄養士)からか読書推進側(司書教諭・学校司書)からかどちらかの提案でまずはスタートするが、双方の「おはなし給食」に対するイメージや実施の方法などは共有できるとよい。すでに1.2.で述べたように、食育推進側からの提案では献立の料理を通じて物語の世界をまるごと楽しめるような〈心のありよう〉を図る傾向があり、読書推進側の企画では本の中の食材や料理の再現を不読層の開拓ができる〈よい機会〉ととらえる傾向にある。
3か月前には食材や栄養、カロリーの計算や調理法などを考えて献立をつくる栄養教諭・栄養士は、スタート時点ですでにいくつかの切り口をもっていることが多い。学校図書館では食育推進側からレファレンスをうけると、国語の教科書で扱われている作品が入った本、みんなが知っている詩が入った本、最近読み聞かせした本、今子どもたちに人気の本、映画になった本などについて相談され、学校図書館側から資料提供すると、栄養教諭・栄養士によって多様な要素を組み合わせて献立がつくられていく。
両者が一緒に本棚から選書すると発見も多い。東京学芸大学附属小金井小学校の2015年「おはなし給食」で、当時同校に勤務していた筆者の経験したレファレンスは栄養教諭からの「一緒に探してほしい」という依頼だった。選んだ本を互いに確認しあっていったが、絵本『けんかのきもち』(柴田愛子/文、伊藤秀男/絵、ポプラ社、2001年)では視点の違いを受け取ることができた。同書の主題はもちろん「けんか」である。主人公の気持ちのたかぶりと収束の変化が見事な絵本だが、栄養教諭からすると、この絵本は「餃子の本」だと言われた。そもそもこの物語のスタートは子どもたちの餃子づくり画面から始まっている。けんかの後の気持ちをほぐそうとそれまでみんなで作っていた餃子を持ってこられても、食べようとしない主人公が、最後には食べることでけんかの気持ちを収めている。主人公の心情の変化を「餃子」が引きだしていくという、栄養教諭ならではの指摘だった。タイトルに料理名がなくとも「食」が重要な要素になっている「おはなし」はあるのだと知ることになった。自校給食だからできると言ってしまえばそれまでだが、多くの学校の実践を共有していくことで積み上げは可能である。上記実践はインターネット上(22)で公開している。
センター給食でも栄養教諭・栄養士が図書館を頼りとするのは選書である。長野県松川村は隣の池田町と一緒のセンター給食となっているが、各学校の希望を募ることもあり、11月末の読書旬間に行う「おはなし給食」を実施している。栄養教諭からの選書依頼(秋の野菜という指定がついたことも)が学校にあって、学校司書が応えている(23)。センター給食では、1 校にとどまらず、実施範囲が担当地域全体の学校であることが利点であり、その機会をどういかすかということと、継続して毎年行うことの2点を図ることで効果が期待される。
実施にあたっては、どのような物語か、それが献立にはどのように表現されているかの何らかのメッセージを児童・生徒に伝える。関連する情報と共に、その日の給食見本やランチルーム・学校図書館での本の展示・掲示、リーフレットの配布、ポスターの貼付、スピーチや放送、読み聞かせなどの活動は欠かせない。児童・生徒の給食委員や図書委員、放送委員の活動として、行われる場合もみられる。
鳥取県岩美町では、センター給食のため町内一斉に実施されるが、小学校各クラスに読み聞かせボランティアが入り、中学校では図書委員が関連本を紹介するにあたり、町立図書館が購入・相互貸借を通じて全面的に支援している(24)。
1.2.で取り上げた小郡市や生駒市の事例に見られるように、「おはなし給食」に公共図書館も加わるとより充実する。上述のように、センター給食の場合は給食センターと学校とさらに公共図書館も加わる組織的なコラボレーションとなる。公共図書館の支援は心強い。「おはなし給食」関連展示を公共図書館でも行うと、より多くの人の関心を呼び、地域での食育・読書啓発の機会となる。地方公共団体の子ども読書推進計画の一端を担う活動と位置付けることも可能である。
ここで、12年継続して「おはなし給食」の実践をしている、筆者も勤務していた小学校での例を挙げ、日常と実際の献立について述べる。
2007年に同校に着任した横山英吏子栄養教諭は、学校のさまざまな活動とコラボレーションをした献立をすぐに始め、学校図書館にある本と国語科の教科書のおはなしから考える「おはなし給食」も、11月の読書月間に実施した。以来毎年、〈その年のテーマ〉を決めて継続して行っている。
日常的には、食堂入口の献立見本の隣にはその日の献立のテーマに関連する本を毎日、学校図書館から2、3冊選んで展示している。横山氏は食材や産地、調理法や郷土料理、世界の料理、行事食、先生の思い出給食の関連本など、知識の本だけでなく創作絵本や物語まで、毎朝借りに来る学校図書館のヘビーユーザーである。子どもたちはその献立見本の横にある本をよく見ていて、普段から食で体験したことをすぐに本で深めたりひろげたりするようになっている。これらを「食育と図書のコラボレーション」だとすれば、毎日行っていることになる。
「おはなし給食」は、その延長と取れなくもないが、年に1回の読書週間に4、5日間連続して行われ、献立に関する知識ではなく「おはなし」の世界を想像力でまるごと楽しむという読書活動を意図しているので日常のそれらとは一線を画すものである。
2017年「おはなし給食」の献立例は表のとおりである。紙幅の関係で3つの献立しか取り上げていないが、和食と洋食、本のジャンルも、教科書にも採用されていた日本文学、キャラクターも知られている海外文学、楽しい絵本とさまざまに組み合わせてバランスを取っていることがわかる。また、それぞれの献立は1つのまとまった世界を表している。『くまのパディントン』の事例では、パディントンの物語の世界がおはなしに出てきた料理とお話の舞台である英国風の献立で統一されている。
日にち | 書名 | 献立 | 写真 |
11.17(金) | 安房直子『雪窓』(偕成社、2006年) | ||
「三角のプルプルっとしたやつください。」というたぬきの注文は、口に入れた時の触感を想像でき食べたくなる。ホカホカしていておいしそうな挿絵から、だいこん、焼き豆腐や卵など、どんな味でどんな食感かとワクワクする。心がポッと温かくなるお話と体がポカポカ温まるおでんを楽しんでほしい。 | ご飯 雪窓おでん まぐろと大豆の甘みそ和え ゆず大根 キウイーフルーツ 牛乳 |
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|
11.20(月) | マイケル・ボンド作、松岡享子訳、ペギー・フォートナム画『くまのパディントン』(福音館書店、1967年) | ||
本の中に登場した料理 (食パンとオレンジマーマレード、ベーコンエッグ、キャロットラペ、グレープフルーツ)とスープはイギリス料理(スコッチブロス)を組み合わせた。 外国のおはなし給食は、全員の児童が外国の食文化に触れることができ、英語科ともコラボレーションができる。 |
食パン オレンジマーマレード スコッチブロス (大麦と野菜のスープ) ベーコンエッグ キャロットラぺ グレープフルーツ 牛乳 |
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|
11.21(火) | 山崎克己『うどんドンドコ』(BL出版、2012年) | ||
もともと面白い話だが、共食の温かさがある。なかよしの手ながざるとぶたとかめがにこやかに食事をし、二百羽のしろうさぎが一緒に食事をしている挿絵や、うどんを食べる音から、仲間との食事の楽しさが描かれる。今夜は私も誰かと一緒にうどんを食べたい、何のうどんにするかを決めるのも楽しいだろう。 | うどんかいじんのてんぷらきつねうどん 筑前煮 ブロッコリーのごま和え 牛乳 |
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2013年の「おはなし給食」の時には「読み聞かせしてもらった本」がテーマだった(25)が、『サラダでげんき』(角野栄子/作、長新太/絵、福音館書店、2005年)では「りっちゃんサラダ」とともに病気回復時のおすすめメニューとして栄養もあって消化の良いけんちんうどんを主食としている。『こんとあき』(林明子作、福音館書店、1989年)では、こんが列車の停車途中で買いに行くお弁当のスタイルにして鳥取県の食材をつかい、二人が出かけた「さきゅうまち」に誘う内容となっている。横山氏の献立はさまざまな切り口があり表現も豊かで、子どもたちの感性に響く給食となっている。
現在「おはなし給食」の相談を受ける松岡みどり学校司書は単に料理が出てくる本ではなく、物語の中に食材なり料理が意味を持って登場している作品を意識して探すようにしているという(26)。
年に1回でも4、5日様々なバリエーションの「おはなし給食」を展開すると、子どもたちの気づきや発見も広がっていくようである。
「おはなし給食」も毎年続けていくと、子どもも楽しみにしていて、読書力や食を通じた感性が育っていく様子がうかがえる。先の東京学芸大学附属小金井小学校の事例だが、子どもは「おはなし給食」当日の展示もよくみて、友だち同士でも物語や献立の話をする。「レシピを教えてほしい」という要望があったり、献立表が配られた時点で公共図書館にも記載された本を借りにいって予習し家族で料理名から食材や調理法を予想したりする者まで現れた。事後の感想をわざわざ栄養教諭に届けに行く子も大勢いた。9年目の2016年には、児童図書委員会の企画として全校児童から献立を募っての「おはなし給食」となっている(27)。実践後の横山栄養教諭は、入賞した児童の言葉を引用しながら、次のように振り返っている。
『農場の少年―インガルス一家の物語5』を題材にして献立をたてた4年生児童の感想に、「本に食べものが出てくると、仲直りしたり、団らんの場面になったりして、話が動きます。今年はリクエスト献立で、自分のものが選ばれてとてもうれしかったです。実さいも、おいしくて、何度もおかわりをしました。」とありました。食事は、人と人を繋ぐ大切なものでもあるということを、本を通しても感じることができるのだと、描写を読み取る力、場面の変化に食事が関係していることに気がつく子どもの力に驚きました。また自分(児童)のたてた献立が給食に登場した喜びも伝わってきました(28)。
図書館側からは「食を通して物語の理解」ができるのだという手応えを感じる。「おはなし給食」が物語を料理に表現して献立を作成する主体的な活動を引き出すところまでできるのだということを教えてくれる実践であった。
子どもたちの参加事例は、長野県塩尻市立丘中学校にもあり、図書委員会と給食委員の共催で「冬の読書祭りコラボ給食」が2019年12月に行われた。『ドラえもん短歌』(枡野浩一/選、小学館、2011年)にでてくる、魚の骨やスルメ、大福が入る「ジャイアンシチュー」の再現に生徒たちと「給食の方」の間で、「いかに本家のジャイアンシチューに忠実で、かつ美味しくを目指」すか、熱いやり取りがあったことが記録されている(29)。
「おはなし給食」に関する、図書館側からの支援活動をまとめると、次のようになる。
一番苦労するのは、先の塩尻市立丘中学校にもあったように、選ばれたおはなし・物語の中の「食」が、安全のために食材や調理の制約の多い給食で実現可能かどうかである。しかし、互いの専門性を出し合って乗り越えたいコラボレーションの成果の見せどころでもある。選書と献立作成の段階のやりとりは丁寧に、食材1つを話題にするだけにとどまることなく、その作品の世界やストーリー、献立丸ごとを味わうものになるような工夫と努力が必要だろう。「おはなし給食」が子どもたちの心身の成長にもたらすものが何であるか、可能性をも考えて取り組む必要がある。
食育推進の手法の一つとして「絵本の活用」について研究した堤千代子らは、フィクション・ノンフィクション含めて「食育の視点による絵本の分類」を次のような9項目とした(30)。
絵本のみならず、学校図書館が食育を題材とした給食や授業とコラボレーションをする時、同様の視点で情報・資料を提供し、活動することができる。「学ぶ」、「知る」、「調べる」という営みでは〈知識の本〉ノンフィクションが活躍する。これに対して、「おはなし給食」は、9)の項目である「人との関わり」「心の関係」に至ることができる。絵本、物語、小説というフィクションの作品をとおして、想像力豊かに登場人物の行動や心情に思いをはせて給食を楽しむ、あるいはその献立をとおして物語の世界に誘なわれる感性豊かな営みとなる。
「おはなし給食」の子どもへの効果は以下のようにまとめられる。
これまで見てきたように、栄養教諭の配置、司書教諭・学校司書の配置、自校給食かセンター給食か、地域によって条件は様々ではあるが、如何にして実施できるかを各地で工夫を凝らしていることがわかった。また、栄養教諭・栄養士の世界では、コラボレーションすべき相手をよく研究してきていることもわかる。学校図書館や公共図書館の方でも見習うべき姿勢であろう。
「食」は日常の営みでありながら、健康と命を保つ重要な営みであり、だからこそ昔話をはじめ、絵本や物語、小説にもさりげなく、しかし実は重要なモチーフとして登場する。今年度の1学期は新型コロナウイルス感染防止策の講じられる中、給食も制限を余儀なくされ、校外で子どもたちが食する子ども食堂の閉鎖も相次ぐ一方、家庭では子どもとともにおやつ作りや料理作りが行われて、一時小麦粉やスパゲティなどが品薄になったという。食に対する関心が通常よりも高まっているのではないだろうか。学校では三密を防ぐ方法を講じての学校再開で、これまでと同じような活動ができる日はいつになるのか、新たな形が探れるのか、給食でも図書館でも悩ましい日々は続く。子どもの「食」に対する主体的な関わりをつくっていく営みを栄養士・栄養教諭とともに学校図書館も公共図書館も担えることを自覚し発信していく必要がある。
本稿の執筆にあたっては、多くの方々に情報提供・資料提供をしていただいた。この場を借りて御礼を申し上げたい。
(1) 学校給食と学校図書館のコラボレーション活動として名付けられた活動名を別表にまとめた。
(2) 国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係. “春日部市(埼玉県)、学校図書館・学校給食が連携して物語に出てくる料理を給食で再現する「図書館リストランテ」を市内中学校・義務教育学校で実施:関連展示も実施”. カレントアウェアネス-R. 2019-11-06.
https://current.ndl.go.jp/node/39431 [267], (参照 2020-07-08).
(3) 国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係. “生駒市(奈良県)、学校図書館と学校給食のコラボ『図書給食第4弾!』を実施”. カレントアウェアネス-R. 2019-07-04.
https://current.ndl.go.jp/node/38507 [268], (参照 2020-07-08).
(4) 国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係. “絵本のメニューいただきます、福岡県小郡市の「ものがたりレシピ給食”. カレントアウエアネス-R. 2012-04-24.
https://current.ndl.go.jp/node/20703 [269], (参照 2020-07-08).
(5) 横山英吏子. “給食の献立を考えるのに、絵本や物語の中の料理を取り入れたものにしたいので、参考になる本を紹介してほしい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2009-12-05. A0020.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?action=pages_view_main&block_id=26&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=25&multidata-base_id=1&block_id=26#_26 [270], (参照 2020-06-28).
なお、先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベースのサイト内検索に「給食」と入れると東京学芸大学の附属学校すべての給食事例がヒットする。
(6) 新聞記事当時の学校司書に始まりのきっかけをインタビューした(2020年7月6日)。
(7) 宮島則子. 読書と給食を連動させて本の好きな子どもに育む. 食育フォーラム. 2009, 9(10), p.10-19.
(8) 鈴木映子. 特集, 食育と言葉のあそび:1カ月続けた「読書週間」給食. 食育フォーラム. 2011. 11(1), p. 10-19.
(9) 藤本勇二. 食の絵本から生まれる授業. 食育フォーラム. 2012, 12(1), p. 66-71.
(10) [鈴木映子]. 特集, 国語で食育!:教科書の食べ物リスト.食育フォーラム. 2012, 12(7), p. 25-29.
(11) 金澤磨樹子,今里衣. おはなし給食 小学校. 食育フォーラム. 2019, 19(4), p. 8-9.
(12) 服部恵子,鈴木映子.鈴木裕二. 読書と給食 ティーンのためのおいしいブックガイド. 食育フォーラム. 2019, 19(5), p. 6-7.
(13) 藤井千穂. “食の楽しさを感じ、食を実践する児童生徒の育成~栄養教諭の専門性を生かし、学校とつながる食育をめざして~”. 第60回全国栄養教諭・学校栄養職員研究大会報告, 2019, p. 36-40.
(14) 笠松町立笠松小学校,下羽栗小学校,松枝小学校,笠松中学校. “名作おはなし給食~子どもたちの豊かな心を育む図書館教育と食育の連携~”. 岐阜県の食育実践資料集~岐阜から発信 学校給食でつながる ふるさと・人・未来~. 2019, p. 17-18.
(15) 全国の栄養士のためのコミュニティ 給食ひろば.
http://www.kyushoku.jp [271], (参照 2020-07-12).
(16) 田實亜依子. 特集, お話会のイマ事情:おはなしをお届けします① 4月23日子ども読書の日お話し会. みんなの図書館. 2013, (436), p. 19-23.
(17) 生活に広げる活動 とびだせレシピの取り組み. 福岡県学校図書館協議会研究報告:平成29・30年度研究委員会紀要 授業に生かし生活に広げる図書館づくり~学校司書との連携・協同を通して~. 2019, (2019.7), p.17-18.
(18) 1998年1月には富山県高岡市で国語教科書に掲載されていた『ごんぎつね』や『スイミー』などの献立を実施(前職が同市である東京学芸大学附属小金井小学校栄養教諭横山英吏子氏への聞き取り、2020年5月30日)、1988年から1991年にかけて富山県婦中町(現在は富山市婦中行政区)の給食週間に『童話の国の料理特集』が実施されていた(当時の婦中町学校給食研究会の清水由紀子氏他2名からの確認と聞き取り、2020年8月10日)。1980年小学校入学で児童としての経験者もいた(長野県南信地区司書への聞き取り、2020年7月5日)。
(19) 笠松町立笠松小学校,下羽栗小学校,松枝小学校,笠松中学校. 前掲.
(20) 田實. 前掲.
(21) 生駒市立図書館への聞き取り(2020年7月7日)。
(22) 横山英吏子. “読書月間のお話し給食を作るにあたり、子どもたちの人気の本で、料理の出てくるものを一緒に探してほしい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2016-04-04. A0254.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?key=mu7x46vgd-26&search=1#_26 [272], (参照 2020-07-15).
(23) 松川村図書館への聞き取り(2020年7月6日).
(24) 岩美町立図書館への聞き取り(2020年7月10日).
(25) 横山英吏子“秋の読書週間に合わせて「お話し給食」にするので、「読みきかせした本」を教えてほしい。それをもとに、献立を考えたい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2014-02-21. A0180.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?action=pages_view_main&block_id=26&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=198&-multidatabase_id=1&block_id=26#_26 [273],(参照 2020-07-15).
(26) 松岡みどり氏への聞き取り(2020年7月15日).
(27) 横山英吏子. “読書月間のお話し献立を児童の応募から作ろうと思うので、児童図書委員会と協力したい”. 先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース. 2017-02-17. A0277.
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?action=pages_view_main&block_id=26&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=297&-multidatabase_id=1&block_id=26#_26 [274], (参照 2020-06-29).
(28) 入賞児童は入学以来、毎年出る「お話し給食」の大ファインで、予想や感想メモを色鮮やかなイラストとともに描いて製本し、ためている。新聞社の学校給食の取材の際に取り上げられた
おいしく学ぶ. 読売新聞. 2018-10-07.朝刊[都民版], p. 23.
(29) “コラボ給食”.塩尻市立丘中学校. 2019-12-06.
https://www.shiojiri-ngn.ed.jp/oka-j/2019/12/06/12479 [275], (参照 2020-06-29).
(30) 堤千代子ほか. 絵本の中の食育. 中国学園紀要. 2005, 7, p. 177-188.
http://id.nii.ac.jp/1640/00000803/ [276], (参照 2020-07-03) .
[受理:2020-08-20]
中山美由紀. 「おはなし給食」の近年の動向. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1984, p. 16-22.
https://current.ndl.go.jp/ca1984 [277]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11546854 [278]
Nakayama Miyuki
Actually Eating the Food in a Story during School Lunch
PDFファイル [286]
白百合女子大学基礎教育センター:今井福司(いまいふくじ)
学校図書館に関する研究文献レビューは、『カレントアウェアネス』でも継続的に取り上げられている。本稿に先行するレビューとしては、中村(CA1546 [287]参照)、河西(CA1722 [288]参照)によるものがあり、中村が2000年から2004年、河西が2005年から2009年までの文献を対象としている。また岩崎はアプローチが異なるものの、学校図書館を主とした研究レビューを執筆し、2011年半ばまでの資料を参照している(CA1755 [289]参照)。
他誌に目を向けると、渡邊のレビュー(1)が2010年までを対象としている。また平久江は2017年時点での学校図書館の研究動向を検討しているが、2010年以降は論文のページ数や件数を触れるに留まっている(2)。そして『図書館界』400号記念特集のレビューにおいて、狩野が2009年から2017年までの学校図書館の文献レビューを行っているが、対象は実践報告が中心であり、研究文献へのレビューは十分ではない(3)。米谷のように2014年学校図書館法改正といった特定のテーマを設定して学校図書館の文献紹介を行うものはあるが(CA1902 [266]参照)、2010年以降学校図書館の内容を全体的に扱った研究文献レビューは管見の限り存在しない(4)。
このような状況を踏まえ、本レビューでは敢えてテーマを限定せず、2011年から2020年までを対象として、学校図書館に関する日本国内の研究動向をまとめる。
この10年間を対象に、2011年から2020年までを指定しCiNii Articlesで「学校図書館」、「司書教諭」、「学校司書」のキーワードでの検索を行ったうち、研究文献と思われる記事に絞ってピックアップした。その上で平久江による「図書館情報学関係の査読制度を持つ主要な学術雑誌13誌」(5)に掲載された研究論文を中心としつつ、その他査読誌および紀要論文や単行書のうち、学校図書館の研究を扱ったものを加えながら検討した。紹介できなかった文献が数多くあることを先にお詫びしておきたい。
以下、11の観点に分けて文献を紹介する。
2010年代の研究動向を踏まえる上では、2014年学校図書館法一部改正(E1597 [290]参照)について指摘しておく必要がある。これまで法令で盛り込まれてこなかった「学校司書」についての条項が新たに追加された。これを反映してか、学校図書館の専門職に関わる研究や論考が複数出てきている。
まず法律や政策といった制度について、塩見は学校図書館法改正までの学校図書館専門職員の政策議論をまとめている(6)。桑田は文部科学省の協力者会議の報告書ならびに議事録を紹介し、専門職のあり方を述べている(7)。鎌田は改正前に学校図書館専門職員に求められる資質能力を論じた4つの調査研究を取り上げ、解説を加えた(8)。木内は横浜市学校司書配置政策の形成過程とその構造を明らかにするために政策形成過程研究および「政策ネットワーク」という概念モデルを用いた研究を行っている(9)。
学校司書の組織内における位置づけや関わりについて取り上げた研究も複数ある。例えば、小竹は経営学の組織社会化戦術のモデルを用いて、小中学校の新任学校司書の職場適応への支援の現状と課題について聞き取り調査を行い(10)、吉澤と平久江は、小中学校の司書教諭と学校司書の学習支援に関する職務に対する教員の要望の現状と課題を明らかにした(11)。
また庭井は学校司書や司書教諭と教員が指導上の役割分担をどのように形成するのかについて半構造化インタビューによって影響を与える要因と形成プロセスのモデルを生成し(12)、西巻は特色ある学校づくりで学校図書館を利活用している学校の校長と学校図書館担当者に質問紙とインタビュー調査を行い、学校図書館担当者が教育課程展開に関わっていることを確認した(13)。江竜は英語多読の文脈ではあるが、英語多読の実践の歴史をまとめた上で、教員と司書教諭の連携の必要性を論じている(14)。
そして松本は司書教諭が発令されている小学校で、司書教諭の学校図書館職務にあたる時間の確保の有無、学校司書の配置の有無によって、学校図書館サービスと利活用への効果に影響があるかを検討し(15)、教員と学校図書館担当者の協働不足の要因を明らかにするためにセンゲ(Peter Senge)の「学習する組織論」を適用しながら、協働を生み出すために必要な能力とその育成法について考察した(16)。
地方公共団体での雇用や労働条件、学校図書館予算の扱いについては学校図書館を巡る長年の問題となっており、研究誌でも関連研究が行われている。例えば、土井らの静岡県内の2018年度における学校司書の配置状況の調査(17)、本間による学校図書館法改正以後の東京都における司書教諭と学校司書の状況の紹介(18)、竹市らの愛知県内の小学校、中学校、特別支援学校の学校司書の雇用体系や勤務形態の調査(19)、福永と山本の愛知・岐阜・三重県における公立図書館および学校図書館の職員の採用に関する教育委員会への質問紙調査(20)がある。また杉浦による各地方公共団体の学校司書の配置状況の違いの背景として、各地方公共団体・学校の裁量が拡大したことによって格差が生まれたと指摘する研究もある(21)。米澤と千田は公立学校図書館の予算を巡る制度や調査を紹介しつつ、都立高等学校の資料費・人件費に関わる制度について整理している(22)。また杉浦の学校司書配置における民間委託の受託業者へのインタビュー調査を実施した研究は民間委託の状況を受託側からも明らかにしている点で類似のない研究である(23)。
学校図書館法の改正に伴って、学校司書の養成プログラムである「学校司書のモデルカリキュラム」が開始された(E1896 [291]参照)。これについて、仲村らは「学校司書のモデルカリキュラム」の妥当性を探るために、これまで教育されてこなかった内容が同カリキュラムで扱われているかを、過去に研究発表や実践報告を行った学校司書に対するインタビュー調査によって明らかにしている(24)。川原と岡田は「学校司書のモデルカリキュラム」の実施状況について調査を行っている(25)。
野口は司書教諭や学校司書が効果的な支援を行うための方策を考察するために、担当教科や経験年数によって、高校教員の読書指導の意識や指導の実施に差があることを明らかにした(26)。そして、読書指導に影響を与える要因を個人的な経験と読書指導をとりまく環境の両面から検討している(27)。また、江竜は学校図書館専門職員に求められる専門性を学習指導の観点から整理している(28)。
平久江は地域の連携協力という異なる観点からではあるが、学校図書館および学校図書館担当者の役割と課題について検討している(29)。他にも、松田はランクス(R. David Lankes)によるコミュニティメンバーを集めることを重要視する“Anti-Field of Dreams Model”を自身が関わる学校図書館実践に適用し、コミュニティ形成における学校図書館専門職の役割を論じ(30)、杉浦は島根県の松江市立小中学校図書館における『はだしのゲン』の閲覧制限問題(E1472 [292]参照)と関連諸団体の対応を取り上げながら、学校図書館専門職としての対応を提案している(31)。
制度の検討としては、まず海外の事情を取り扱った研究がある。例えば、深谷らはスウェーデンの読書推進や読書教育、学校図書館をめぐる実態を訪問調査や文献調査で明らかにしている(32)。また須永はフランスの学校図書館について継続的な報告を行っており、フランスの学校図書館の制度や概要(33)、映画に見られるフランスの学校図書館(34)、中等教育学校の学校図書館の専任教員の養成と採用の制度を説明している(35)。
次に日本の各地方公共団体の制度や現状についても調査が行われている。渡辺は教育委員会による、公立小中学校図書館の整備の推進要因の把握を目的として、各地方公共団体の教育委員会の政策や、学校図書館支援センターの現状と課題を明らかにした(36)。鈴木らは日本学校図書館学会静岡県支部調査研究委員会名義で、静岡県の教育委員会における学校図書館支援指導の状況(37)や文部科学省の「学校図書館の現状に関する調査」による静岡県の学校図書館の現状分析(38)を行っている。
地方公共団体の対応について取り扱ったものとして、他にも野口らは学校図書館運営マニュアルの作成状況について都道府県教育委員会等に質問紙調査を行い、内容分析を行うことで全体的な特徴や対象者による内容の違いを明らかにしている(39)。
そして、文部科学省や各種団体の発表した基準を扱ったものとしては、岩崎の「IFLA/ユネスコ学校図書館ガイドライン」改訂版(E1724 [293]参照)の解説(40)、米谷と北の「教育の情報化に関する手引」と「教育の情報化ビジョン」に対する学校図書館との関わりからの分析(41)、柳の米国の学校図書館専門職員の質を保証する米国図書館協会(ALA)ならびに米国学校図書館員協会(AASL)の2003年・2010年基準の検討(42)、大城と坂下によるAASLによる2018年基準(E2006 [294]参照)の検討(43)、米谷と北による全国学校図書館協議会(SLA)の「学校図書館評価基準」に対する情報環境等の変化に反映した更新の提案(44)などが挙げられる(45)。
それ以外にも、本田は2011年の学習指導要領で明確となった「言語活動の充実」に向けて、学校図書館が果たすべき役割を論じ(46)、野口は特別支援学校における学校図書館の現状について、制度と実践の双方から検討を行っている(47)。
情報リテラシーならびに学校図書館で身につけるべきスキルを扱った研究も数多い。
まず河西は学校図書館における情報リテラシー教育の課題と展望を示す目的で、米国における情報リテラシー概念の発展と日本での受容について歴史的な経緯を解説している(48)。
塩谷は学校図書館の学習環境の改善は、児童の「情報活用スキル」の習得度の向上に効果があることを検証している。特に、情報活用スキルを繰り返して自覚的に使用する機会が必要であることを確認した上で、探究的な学習に必要な情報スキルについて、各教科で学ばせにくいものは司書教諭が指導に関わることで修得に効果があることを明らかにした研究である(49)。
立田は学校図書館の利用を通じて新たな読解力を評価するためのルーブリックの例を解説している(50)。ルーブリックについては、大作が日本の探究学習で利用可能な一般的ルーブリックを開発するために、米国のルーブリックの現状と課題の検討結果に基づいて原案を作成し、ルーブリック評価の活用を通じて、探究学習における学修支援のあり方について考察も行っている(51)。
他にも学校図書館で身につけるべきスキルとしては、矢野と中谷による小学生と短大生の詩の解釈を調べ、論理的思考力が身についているかの調査(52)、原口らによる科学的な「読み」を実現するための要素には物理的近さ、心理的近さ、タイミング、コミュニケーションの4要素があることを明らかにする研究(53)が挙げられる。
こうしたスキルの習得をどのように指導していくのかについて、指導法の研究も行われている。例えば、新居は学校図書館において書架が作り出す仮想境界面が、教師による個別支援である「足場がけ」(scafolding)にどのような影響を及ぼしているのかを検証しており(54)、村上は、教科の指導と評価に学校図書館メディア活用能力育成の内容を関連させる実践を通じて、学校図書館メディア活用能力の育成と教科指導との両立が可能であることを確認した(55)。
原田と林による松江市における学校図書館を対象とした学び方の指導体系表の作成や、各学校での活用や教育関係者の評価についての報告(56)、小田の「読書へのアニマシオン」によって登場人物や内容についてどの程度の理解が促されたかの調査(57)も指導法の研究や効果を扱っていると言える。
また指導の在り方については、庭井は各国の利用者教育の状況を踏まえた上で、中学生を対象とした学校図書館スキルの評価シートを試作し、その効果について明らかにしている(58)。
研究誌に絞っても学校図書館実践を主として取り上げる論文や報告は複数存在する。数が多いためここでは代表的なもののみ取り上げる。例えば、土井らの音についての豊かな学びを意図して、学校図書館を活用するプログラムの策定と実践を通じての検討(59)、伊吹のフェイクニュースを教材とした現代文における実践(60)、森高の読書感想画の授業実践(61)などがある。
そして、江竜の英語多読用図書の提供や司書教諭による英語多読授業支援の効果の検証(62)、ユンの韓国における読書教育のための学校図書館・公共図書館の協力型プログラム「読書メンタリングプログラム」の開発や運営協力体制の検討(63)、小幡による読書支援を通じた中学生へのカウンセリングの応用可能性の検討(64)、国立国会図書館国際子ども図書館による学校図書館の授業支援サービスの実践研究やインタビュー調査(65)なども挙げられる。
蔵書構築や、組織化についての研究も複数行われている。例えば、大川は学校で所有する史料を学校図書館のデジタルアーカイブとして公開した経緯や、公開した史料の解説を行っている(66)。また、小山は教育課程の展開に対応する学校図書館コレクション構築における課題を整理し(67)、学校図書館資料を選書するための指標の提案(68)や、先進的な取り組みを行っている事例についての考察(69)を行っている。そして、斎藤は学校図書館における担当者の選書意識の構造や現状と課題を明らかにするために、半構造化インタビューによる調査を行った(70)。資料選定委員会の開催や、選書基準の明確化が必要であることも指摘している(71)。
組織化の観点からは、小山による書道の分類に関する分類項目の追加提案(72)、全国SLAによる『小学校件名標目表第2版』について、瀬田による新設件名の難度の指摘と維持管理について検討(73)、村上による小学校件名標目表と基本件名標目表(BSH)を相互に利用するための統合的な手法の検討が挙げられる(74)。
本節の関連研究としては、選書に用いられるブックリストについて、掲載される児童書の傾向を扱った橋詰の研究も挙げられるだろう(75)。また論文ではないが、国立国会図書館国際子ども図書館による、学校図書館におけるコレクション形成の議論や、事例調査、蔵書データの分析、インタビュー調査など幅広い調査も重要な研究として挙げておきたい(76)。
学校図書館に関わる専門職の養成や研修については、大学での教育活動ともつながることもあり、多くの研究が見られる。
平久江は学校図書館担当者の養成と研修の現状と課題について2回の研究会を開き、その記録をまとめている(77)。中村はeラーニングによる国際連携の可能性(78)、日本の学校図書館関係教職員が海外事例を学ぶニーズの調査(79)、海外関係者を招いたシンポジウムの開催(80)に取り組んでいる。また杉浦は日本図書館情報学会によるLIPER報告書(CA1621 [295]参照)で提言された「情報専門職(学校)」を踏まえつつ、養成の現状や現職者の再教育について論じた(81)。
また司書課程科目の授業実践を題材とした研究としては、松戸による「読書と豊かな人間性」においてアクティブラーニングを用いた授業の実施と同科目に対するイメージを調査した事例(82)、庄と岡本による司書課程授業の実習を高等学校図書館で行い、実習プログラムを学生自身に設定させる授業の実施(83)、前田と徳田による教員養成大学における司書教諭養成科目での新聞活用教育の効果を論じた事例(84)、五十嵐のアクティブラーニングによる実践とその効果の検証(85)、岡田による司書教諭養成科目において学校図書館のイメージを絵で描く授業評価(86)が挙げられる。
また現職への研修を扱ったものとして、富永の4年目教員を対象とした学校図書館を活用した授業スキル獲得のための教員研修とその成果の報告(87)、木幡と伊藤による学校図書館専門職の自己研鑽方法としてインストラクショナルデザインに基づいたeラーニング教材の開発が挙げられる(88)。
長尾の図書館史に関する文献レビュー(CA1938 [296]参照)でも紹介があるように、学校図書館史を扱った研究もこの期間継続して発表されている。長尾が紹介した文献以外にも、占領期の学校図書館政策に影響を与えた阪本一郎に対する研究(89)、占領期の教育指導者講習が行われた時期に発行されていた『IFEL図書館学』の分析(90)や愛知県教育委員会指導主事の嶺光雄に対する研究(91)、1950年代から1980年代までを対象とした学校図書館手引き書での高等学校図書館の授業実践の分析(92)、昭和から平成にかけての鹿児島県の学校図書館大会研究発表の分析(93)、1967年の高校標準法改正による高等学校の学校図書館事務職員の定数化の検討(94)などがある。
また学校図書館史としては周辺となるが、鈴木貴史は「青少年読書感想文コンクール」における課題図書導入までの歴史を辿り、優良図書への誘導が形成されるまでの過程を批判的に検討しており、業界の取り組みを再検討しようとする動きもみられる(95)。
“the library as place”(CA1580 [297]参照)を学校図書館へ適用した研究も複数行われている。例えば、久野は「場としての図書館」理論を学校図書館研究に導入し(96)、研究の枠組みを援用して「文化センター」としての学校図書館を提唱した(97)。
また新居は昼休み時間を過ごす中学生にとって学校図書館が果たす機能について、質問紙調査ならびに参与観察を行い(98)、学校図書館が「第三の場所」としてどのように機能するのかマイクロ・エスノグラフィーの手法を用いて検討している(99)。
直接理論を適用した研究ではないが、橋本による図書室登校を行う高等学校生徒の参与観察の報告(100)や、生活動線の観点を導入した学校図書館の来館のしやすさや利用の実態の分析(101)もこれらの一環として位置づけられると思われる。
小川は学校図書館研究における理論について提言を行っており、教育実践学に学校図書館を位置づけ(102)、白數とともに、学習観の変遷を整理し、構成主義的な教授学習論の検討を通じて図書館資料を活用した「科学的探究」の教授学習モデルを構築した(103)。また、学校図書館を「集合的活動システム」として位置づけた上での学校図書館活動を把握するための包括的モデルの開発(104)を行っている。枝元は探究型学習における構成主義的教育観や、情報リテラシーを巡る議論の整理を綿密に行い、教育実践でどのように適応されるかを紹介している(105)。根本は自身の学校図書館史の研究成果や海外の状況を踏まえつつ、現在の教育改革において学校図書館がどう振る舞うべきかについて、教育学の文脈で捉え直して論じている(106)。決して数は多くないが、今後の研究を深化させるために不可欠なアプローチである。
以上、11の観点に分けて研究を整理してきたが、これらに該当しない研究を以下で紹介する。まず教材としての新聞の扱いについて、稲井は2008年版学習指導要領における学校図書館と新聞に関わる内容を整理し、学校図書館において新聞を活用する事の意義や教材・学習材としての位置づけを確認し(107)、村山と三上はNIE(Newspaper in Education)の全国大会と、全国SLAの研究大会における実践発表を分析し、学校図書館における新聞活用教育の実施を確認した(108)。
次に電子書籍やデジタル教科書について、米谷と北はデジタル教科書の普及のために「学校図書館の情報化」が促進されることが重要であると主張し(109)、井上は米国の学校図書館におけるコンピュータの整備状況ならびに電子書籍の普及状況を解説し課題を論じている(110)。
また、須永が国際学校図書館協会(IASL)の歴史と概要を紹介しているが(111)、同協会の2016年大会は東京で開催された(CA1886 [298]参照)。研究誌ではその様子は報告されていないが、全国SLAの機関誌『学校図書館』に個々の発表概要が掲載されていることを紹介しておきたい(112)。
また学校図書館がもたらす効果を検証したものとして、濵田と秋田による平成28年度文部科学省委託調査「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」のデータを使った研究があり、小中高校生の読書に対して影響を与える要因を検討し、読書に関する諸行動と読書の関連において学校図書館が果たす機能を明らかにしている(113)。
計量情報学のアプローチとしては、浅石が中学校・高等学校の教科書における知識の潜在的規模を推定するために、計量情報学の知見をテキストに適用した研究を行い(114)、学校図書館における計量書誌学データの存在とその活用について提言を行っている(115)。
学校教育法施行規則に基づけば、幼稚園にも図書室の設置が必要とされており、これは広義の学校図書館とも取れる。矢野は幼稚園における絵本の環境構成および保育者の役割を探るために面接調査や(116)、幼稚園の図書室のあり方を学校図書館の観点から検討するために、幼児の読書傾向などの調査を行っている(117)。
それ以外にも、重要な研究として、鈴木による静岡県で実施された静岡県学校図書館報コンクールを対象とした関係資料の調査と分析(118)、米谷による学校図書館の呼称と機能の認識についての考察(119)、金による学校図書館における自由研究の制度的な成立経緯と実践事例の検討(120)、大平による学校図書館の授業での活用を可能とする施策の検討(121)、福永による名古屋市の小学校における読み聞かせボランティアについて実態把握のためのアンケート調査が挙げられる(122)。
以上の傾向を踏まえると、この10年間は学校図書館に関する研究は継続的に発表されており、期間が既存のレビューに比べて倍の長さになったことを踏まえても、研究文献の減少は見られず、学校図書館の研究は継続的に行われていると判断する。また学校図書館という観点だけではまとめきれないと思われるほどに、各文献が扱う内容やアプローチは多岐にわたっている。
本研究文献レビューの本旨からは外れるが、文献のオープンアクセス(OA)について述べておきたい。今回対象とした文献の中には冊子体のみで刊行され、オンラインでの本文閲覧が一切できない雑誌があった。もちろん購読料による発行組織の維持のためにやむを得ない側面があるとは思われるが、一定期間の経過後にはOAでの公開を行い、他分野の研究者も閲覧しうるようなアクセス可能性を高める工夫が必要であると考える。
アクセス可能性という観点から見れば、大学の機関リポジトリで公開される紀要論文については、オンラインで全文が閲覧できる。今回は必要に応じて取り上げるだけに留まったが、査読の有無の問題はあるものの、この期間紀要論文で発表された学校図書館の文献は300を超えている。これに学会発表の会議録も加わる(123)ため、研究動向の正確な把握のためには、これらを丁寧に検討する必要もまたあるだろう。
本研究文献レビューを、私が研究者として独り立ちできるように叱咤激励してくださり、有形無形の支援を送り続けて下さった故平久江祐司先生に捧げる。
(1) 渡邊重夫. 学校図書館研究の近年の動向と今後の展望. 学校図書館. 2011, (723), p. 16-19, 41.
(2) 平久江祐司. “第1章 学校図書館に関する国内の研究動向”. 学校図書館への研究アプローチ. 勉誠出版, 2017, p. 13-28.
(3) 狩野ゆき.《Ⅱ.館種別状況》学校図書館. 図書館界. 2018, 70(1), p. 71-85.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.70.1_71 [299], (参照 2020-07-20).
(4) もちろん、個々の博士論文において先行研究検討が行われる中で、学校図書館のレビューが全体的に行われる可能性があるが、あくまでもそれは博士論文の研究内容に合致したレビューであり、学校図書館の内容を全て網羅する内容とはならないと推測される。
(5) 平久江祐司. “第1章 学校図書館に関する国内の研究動向”. 学校図書館への研究アプローチ. 勉誠出版, 2017, p. 19.
(6) 塩見昇. 学校図書館専門職員制度化の課題. 図書館界. 2015, 66(6), p. 382-390.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.66.6_382 [300], (参照 2020-07-20).
(7) 桑田てるみ. 新しい学校図書館像の構築と専門職養成に関する一考察, 学校図書館法改正を受けて再考する. 現代の図書館. 2015, 53(3), p. 113-119.
(8) 鎌田和宏. 学校図書館法の改正とこれからの学校図書館専門職の役割をめぐって. 現代の図書館. 2015, 53(1), p. 3-11.
(9) 木内公一郎. 横浜市学校司書配置政策の形成過程. 図書館界. 2017, 69(4), p. 216-234.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.69.4_216 [301], (参照 2020-07-20).
(10) 小竹諒. 新任学校司書の職場適応に対する支援: 組織社会化戦術の観点から. 日本図書館情報学会誌. 2019, 65(3), p. 101-119.
(11) 吉澤小百合, 平久江祐司. 小中学校司書教諭・学校司書の学習支援に関する職務への教員の要望: 質問紙調査の分析から. 日本図書館情報学会誌. 2017, 63(3), p. 141-158.
https://doi.org/10.20651/jslis.63.3_141 [302], (参照 2020-07-20).
(12) 庭井史絵. 学校図書館員と教員による指導上の役割分担形成プロセス: 学校図書館を利用した授業における協働の分析. 日本図書館情報学会誌. 2017, 63(2), p. 90-108.
https://doi.org/10.20651/jslis.63.2_90 [303], (参照 2020-07-20).
(13) 西巻悦子. 学校図書館担当者による教育課程支援: 特色ある学校づくりへの貢献. 学校図書館学研究. 2017, 19, p. 31-46.
(14) 江竜珠緒. 日本の中等教育における英語多読の広がりと実践: 英語科教諭と司書教諭の連携に向けて. 日本図書館情報学会誌. 2018, 64(3), p. 99-114
https://doi.org/10.20651/jslis.64.3_99 [304], (参照 2020-07-20).
(15) 松本美智子. 司書教諭の活動時間の確保と学校司書の配置が学校図書館利活用に与える効果. Library and information science. 2017, (77), p. 1-26.
http://lis.mslis.jp/pdf/LIS077001.pdf [305], (参照 2020-07-20).
(16) 松本美智子. 教員と学校図書館担当者の協働に求められる組織構成員の能力の育成: センゲの「学習する組織論」の視点から. Library and information science. 2019, (82), p. 23-45.
(17) 土井幸弘, 鈴木守, 海老原一彦, 浅井稔子, 井口繁和, 鈴木嘉弘. 静岡県市町教育委員会2018年度学校司書配置状況等の分析: 学校司書の配置で,学校図書館機能が動き出している事実が明らかに. 学校図書館学研究. 2019, 21, p. 45-61.
(18) 本間ますみ. 司書教諭の職務内容を明らかにし,その養成課程を考える. 現代の図書館. 2015, 53(1), p. 12-18.
(19) 竹市由美子, 福永智子, 山本昭和. 愛知県内の小・中学校における学校司書の実態: 小学校、中学校、特別支援学校へのアンケート調査から. 中部図書館情報学会誌. 2018, 58, p. 1-20.
(20) 福永智子, 山本昭和. 愛知・岐阜・三重県下の自治体における司書採用の実態: 公立図書館および学校図書館の職員について. 中部図書館情報学会誌. 2013, 53, p. 35-59.
https://8fcdfa39-a-62cb3a1a-s-sites.googlegroups.com/site/chuubutoshokanjouhougakkai/53fukunagayamamoto.pdf [306], (参照 2020-07-20).
(21) 杉浦良二. 学校図書館の格差 : 公立学校図書館の条件整備における国の責任. 学校図書館学研究. 2016, 18, p. 38-44.
(22) 米澤久美子, 千田つばさ. 公立学校図書館と都立高等学校図書館の財政事情. 現代の図書館. 2019, 57(4), p. 199-210.
(23) 杉浦良二. 学校図書館の民間委託に関する一考察: 三重県内公立小中学校における株式会社リブネットの事例から. 学校図書館学研究. 2015, 17, p. 23-31.
(24) 仲村拓真, 小田光宏, 庭井史絵, 堀川照代, 間部豊. 学校司書モデルカリキュラムによる養成技能の妥当性に関する研究: 学校司書が必要と認識する知識・技術の扱いに着目して. 図書館学. 2018, (112), p. 18-29.
(25) 川原亜希世, 岡田大輔. 特集, 2019年度研究グループ報告: 学校司書のモデルカリキュラム実施の実態について. 図書館界. 2020, 72(2), p.75-81.
(26) 野口久美子. 教員の読書指導への意識や実態を踏まえた学校図書館の支援のあり方: 高等学校を対象とした調査をもとに. 日本図書館情報学会. 2013, 59(2), p. 61-78.
https://doi.org/10.20651/jslis.59.2_61 [307], (参照 2020-07-20).
(27) 野口久美子. 高等学校教員の読書指導に影響を与える要因: 教員の個人的な経験と読書指導をとりまく環境に着目して. Library and information science. 2015, (74), p. 1-29.
http://lis.mslis.jp/pdf/LIS074001.pdf [308], (参照 2020-07-20).
(28) 江竜珠緒. 学習を支援する学校図書館職員に求められる専門性とその養成. 現代の図書館. 2015, 53(1), p. 19-24.
(29) 平久江祐司. 言語活動の充実を支援する学校図書館, 地域連携型の学校図書館へ. 現代の図書館. 2014, 52(1), p. 47-52.
(30) 松田ユリ子. 学校図書館におけるコミュニティ形成プロセス. 現代の図書館. 2017, 55(3), p. 130-137.
(31) 杉浦良二. 松江市立小中学校図書館における『はだしのゲン』閲覧制限: 地方教育行政と学校図書館専門職の問題. 中部図書館情報学会誌. 2014, 54, p. 55-62.
https://8fcdfa39-a-62cb3a1a-s-sites.googlegroups.com/site/chuubutoshokanjouhougakkai/54sugiura.pdf [309], (参照 2020-07-20).
(32) 深谷優子; 林寛平, 秋田喜代美. スウェーデンの読書活動推進政策の展開: 学校図書館へのアクセスと機能を中心にして. 読書科学. 2014, 56(1), p. 14-25.
https://doi.org/10.19011/sor.56.1_14 [310], (参照 2020-07-20).
(33) 須永和之. フランスの学校図書館. 日仏図書館情報研究. 2013, (38), p. 23-38.
(34) 須永和之. 映画から見るフランスの学校図書館. 日仏図書館情報研究. 2016, (41), p. 29-36.
(35) 須永和之. フランスのドキュマンタリスト教員の養成と採用. 現代の図書館. 2015, 53(1), p. 25-31.
(36) 渡辺暢惠. 市教育委員会における小・中学校図書館の整備推進の要因 : 4市の事例から. 日本図書館情報学会誌. 2013, 59(3), p. 101-118.
(37) 鈴木嘉弘, 海老原一彦, 土井幸弘. 教育委員会の学校図書館支援指導について. 学校図書館学研究. 2015, 17, p. 55-67.
(38) 鈴木嘉弘, 海老原一彦, 土井幸弘, 鈴木守, 浅井稔子, 萩田純子, 堀内典子, 井口繁和. 文科省「平成28年度学校図書館の現状に関する調査」における静岡県の現状分析と今後の課題. 学校図書館学研究. 2018, 20, p. 65-79.
(39) 野口久美子, 大作光子, 横山寿美代, 野口武悟. 学校図書館運営マニュアルの内容分析: 教育委員会等を対象とした調査から. 教育メディア研究. 2014, 13(1), p. 1-13.
https://doi.org/10.11304/jims.13.1 [311], (参照 2020-07-20).
(40) 岩崎れい. 「IFLA/ユネスコ学校図書館ガイドライン」改訂版の内容とその論点. 現代の図書館. 2015, 53(2), p. 90-95.
(41) 米谷優子, 北克一. 『教育の情報化に関する手引』2010年版及び『教育の情報化ビジョン』の学校図書館とのかかわりからの分析: 「教育の情報化」の方向性に関する考察. 図書館界. 2012, 64(1), p. 20-35.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.64.1_20 [312], (参照 2020-07-20).
(42) 柳勝文. アメリカにおける学校図書館員養成課程の質保証. 現代の図書館. 2015, 53(3), p. 120-126.
(43) 大城善盛, 坂下直子. 特集, 2019年度研究グループ報告: 学習者,学校図書館員,学校図書館のための全米学校図書館基準, フレームワークを中心とした分析. 図書館界. 2020, 72(2), p.89-95.
(44) 米谷優子, 北克一. 「学校図書館評価基準」改定の必要性とその試案: 情報化の進展等に対応して. 学校図書館学研究. 2013, 15, p. 25-51.
(45) また本研究文献レビューの学術雑誌13誌には含まれないが、大阪市立大学大学院創造都市研究科都市情報学専攻が発行する電子紀要『情報学』では、制度や基準を検討した文献が数多く収録されている。例えば、
川瀬綾子, 西尾純子, 森美由紀, 北克一. 学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議による「これからの学校図書館の整備充実について(報告)(素案)」に対する考察. 情報学. 2016, 13(2), p. 9-21.
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/il/meta_pub/G0000438repository_111S0000001-1302-2 [313], (参照 2020-07-20).
西尾純子, 川瀬綾子, 森美由紀, 北克一. 全国学校図書館協議会「学校司書の資格について」の検討: 学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議への提出文献. 情報学. 2016, 13(2), p. 57-66.
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/il/meta_pub/G0000438repository_111S0000001-1302-6 [314], (参照 2020-07-20).
など今回の研究文献が取り上げていない基準や報告も取り上げられているが、紙幅の都合上、割愛した。
(46) 本田浩子. 新学習指導要領の学校図書館機能活用における教科のための実践評価に関する考察: 英語科の視点より. 学校図書館学研究. 2011, 13, p. 5-17.
(47) 野口武悟. 特別支援学校における学校図書館の現状と展望. 現代の図書館. 2015, 53(3), p. 127-135.
(48) 河西由美子. 情報リテラシー概念の日本的受容: 学校図書館と情報教育の見地から. 情報の科学と技術. 2017, 67(10), p. 514-520.
https://doi.org/10.18919/jkg.67.10_514 [315], (参照 2020-07-20).
(49) 塩谷京子, 情報リテラシー育成のための学校図書館における学習環境デザインに関する研究. 関西大学, 2016, 博士論文. http://doi.org/10.32286/00000204 [316], (参照 2020-07-20).
(50) 立田慶裕. 読解力の発達を図る学校図書館利用のルーブリック. 情報の科学と技術. 2018, 68(8), p. 400-405.
https://doi.org/10.18919/jkg.68.8_400 [317], (参照 2020-07-20).
(51) 大作光子, 探求学習における情報活用スキルに焦点をあてたルーブリックの開発. 筑波大学, 2019, 博士論文.
http://doi.org/10.15068/00159235 [318], (参照 2020-07-20).
(52) 矢野光恵,中谷綾. 論理的思考力と感性をはぐくむ読書の在り方に関する一考察: 教育方法の視点を拓くための試案. 学校図書館学研究. 2016, 18, p. 13-27.
(53) 原口るみ, 大貫麻美, 土井美香子. 科学的な「読み」を実現する支援の要素に関する理論の構築と実践研究: 小学校における「空気」の出前授業と図書の時間連携の理科読事例の分析. 学校図書館学研究. 2017, 19, p. 5-19.
(54) 新居池津子. 書架の創出する場所が探究的な学習活動に取り組む中学生へ及ぼす影響: 学校図書館における教師支援としての足場がけに着目して. 読書科学. 2020, 61(3), p. 113-127.
https://doi.org/10.19011/sor.61.3-4_113 [319], (参照 2020-07-20).
(55) 村上幸二. 融合方式による学校図書館メディア活用能力育成の実践的考察: 小学校国語科における指導と評価との関連を中心に. 図書館界. 2018, 69(5), p. 288-299.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.69.5_288 [320], (参照 2020-07-20).
(56) 原田由紀子, 林良子. 松江市における「学び方指導体系表: 子どもたちの情報リテラシーを育てる」の活用について. 学校図書館学研究. 2017, 19, p. 100-112.
(57) 小田孝子. 「読書へのアニマシオン」の効果とその取組について. 図書館学. 2013, (103), p. 1-11.
(58) 庭井史絵. 学校図書館利用指導の再構築: 教科教員との協働型モデルに関する研究. 青山学院大学, 2019, 博士論文.
https://www.agulin.aoyama.ac.jp/repo/repository/1000/20309/ [321], (参照 2020-07-20).
(59) 土井美香子, 大貫麻美, 原口るみ, 瀧上豊. 理科読の実践研究: 「音」をテーマとした小学校における教科横断授業の事例. 学校図書館学研究. 2017, 19, p. 73-79.
(60) 伊吹侑希子. フェイクニュースを素材にした情報活用能力を育む指導法の考察. 学校図書館学研究. 2019, 21, p. 17-30.
(61) 森高光広. 教育現場で「読書感想画」制作を実践する課題についての考察. 学校図書館学研究. 2019, 21, p. 61-79.
(62) 江竜珠緒 . 学校図書館における英語多読用図書の提供と支援の効果 : アクション・リサーチによる分析を基に. 図書館情報メディア研究 . 2019, 17(1), p. 1-17.
http://doi.org/10.15068/00157867 [322], (参照 2020-07-20).
(63) ユンユラ. 韓国における学校図書館と公共図書館の協力型プログラムの開発: 読書メンタリングプログラムを中心に. Library and information science. 2016, (75), p. 137-160.
http://lis.mslis.jp/pdf/LIS075137.pdf [323], (参照 2020-07-20).
(64) 小幡章子 . 学校図書館における物語を介した心理的支援の試み: 教室に居場所を見つけられなかった中学1年生男子F君の事例 . 学校図書館学研究 . 2012, 14, p. 53-62.
(65) 国立国会図書館国際子ども図書館編. 図書館による授業支援サービスの可能性 : 小中学校社会科での3つの実践研究. 国立国会図書館国際子ども図書館, 2012, 80p., (国際子ども図書館調査研究シリーズ, 2).
https://doi.org/10.11501/3531104 [324], (参照 2020-07-20).
(66) 大川功. 学校図書館におけるデジタルアーカイブの構築: 「語り継ぎ」から「語り上げ」へ. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4(1), p. 7-15.
https://doi.org/10.24506/jsda.4.1_7 [325], (参照 2020-07-20).
(67) 小山守惠. 教育課程の展開に寄与する学校図書館における選書の課題. 学校図書館学研究. 2015, 17, p. 43-53.
(68) 小山守惠. 教育課程の展開に寄与する学校図書館資料選定の在り方. 学校図書館学研究. 2016, 18, p. 28-37.
(69) 小山守惠. 教育課程の展開に寄与する蔵書構成へと移行するための資料選定の実務上の課題と解決策に関する考察. 学校図書館学研究. 2018, 20, p. 37-53.
(70) 斎藤純. 学校図書館の選書業務における担当者の意識の構造と課題: 公立中学校の学校図書館担当者へのインタビュー調査をもとに. Library and information science. 2019, (82), p. 1-22.
(71) 斎藤純. 中学校の学校図書館における選書の現状と課題: 選書実務における阻害要因の観点から. 学校図書館学研究. 2016, 18, p. 4-12.
(72) 小山守惠. 学校図書館における資料組織化: 728 書.書道の試案. 学校図書館学研究. 2012, 14, p. 41-51.
(73) 瀬田祐輔. 『小学校件名標目表 : 第2版』の維持管理に関する一考察: 件名新設作業を中心に. 中部図書館情報学会誌. 2011, 51, p. 1-11.
(74) 村上幸二. NDCと参照のリンクを用いた小学校件名標目表と基本件名標目表(BSH)の統合的検索手法の検討. 日本図書館情報学会誌. 2016, 62(3), p. 181-199.
https://doi.org/10.20651/jslis.62.3_181 [326], (参照 2020-07-20).
(75) 橋詰秋子. 小学生用ブックリストの実態調査: 定量的観点による分析. 日本図書館情報学会誌. 2019, 65(1), p. 18-30.
https://doi.org/10.20651/jslis.65.1_18 [327], (参照 2020-07-20).
(76) 国立国会図書館国際子ども図書館編. 学校図書館におけるコレクション形成: 国際子ども図書館の中高生向け「調べものの部屋」開設に向けて. 国立国会図書館国際子ども図書館, 2014, 104p., (国際子ども図書館調査研究シリーズ, 3).
https://doi.org/10.11501/8484023 [328], (参照 2020-07-20).
(77) 平久江祐司編著. 学校図書館担当者の養成と研修の現状と課題に関する研究. 筑波大学メディア・教育研究会, 2015, 281p.
(78) 中村百合子. SFR研究「学校図書館専門職養成のためのeラーニングを活用した大学間国際連携の可能性」概要報告. St. Paul's librarian. 2016, 31, p. 129-138.
http://id.nii.ac.jp/1062/00015012/ [329], (参照 2020-07-20).
(79) 中村百合子, 森田英嗣. 日本での学校図書館関係教職員の英語による専門学習ニーズ: ISLF2018の事後調査を通して. St. Paul's librarian. 2018, 33, p. 197-211.
http://id.nii.ac.jp/1062/00017989/ [330], (参照 2020-07-20).
(80) 中村百合子. 巻頭言. St. Paul's librarian. 2019, 34. (ページ付けなし).
http://id.nii.ac.jp/1062/00019257/ [331], (参照 2020-07-20).
(81) 杉浦良二. 司書教諭免許制度に関する考察. 学校図書館学研究. 2012, 14, p. 23-39.
(82) 松戸宏予. アクティブラーニングを用いた授業デザインの検討: 「読書と豊かな人間性」における実践を通して. 学校図書館学研究. 2011, 13, p. 19-29.
(83) 庄ゆかり, 岡本恵里香. アクティブラーニング型学校図書室実習: 学生の実践力とその評価. 図書館学. 2017, (111), p. 1-8.
(84) 前田稔,徳田悦子. 学校図書館司書教諭の授業を核とする教員養成大学における新聞活用教育: モデルカリキュラムの開発・実施と評価. 学校図書館学研究. 2012, 14, p. 63-76.
(85) 五十嵐誓. 学校図書館を活用したアクティブ・ラーニングのあり方に関する検討: 教員養成大学における「学習指導と学校図書館」の実践を通して. 学校図書館学研究. 2017, 19, p. 89-99.
(86) 岡田大輔. 「学生が絵を描く授業評価アンケート」の司書教諭課程の科目ごとの分析. 図書館学. 2016, (108), p. 24-30.
(87) 富永香羊子. 学校図書館の活用における指導観および期待感尺度の開発: 市川市における若年層教諭に対する学校図書館活用研修から考える. 学校図書館学研究. 2017, 19, p. 47-61.
(88) 木幡智子, 伊藤真理. インストラクショナルデザインに基づく学校図書館専門家養成のための学習教材作成. 中部図書館情報学会誌. 2015, 55, p. 1-14.
https://8fcdfa39-a-62cb3a1a-s-sites.googlegroups.com/site/chuubutoshokanjouhougakkai/55itou.pdf [332], (参照 2020-07-20).
(89) 杉山悦子. 戦中・戦後の「読書指導」: 阪本一郎の場合. 日本図書館情報学会. 2019, 65(1), p. 1-17.
https://doi.org/10.20651/jslis.65.1_1 [333], (参照 2020-07-20).
(90) 杉浦良二. 『IFEL図書館学』における学校図書館学研究. 学校図書館学研究. 2013, 15, p. 53-64.
(91) 杉浦良二. 学校図書館政策における指導主事の役割: 愛知県教育委員会・嶺光雄の事例から. 学校図書館学研究. 2014, 16, p. 23-30.
(92) 西巻悦子. 高等学校図書館と授業実践における課題: 1950年代から1980年代. 学校図書館学研究. 2014, 16, p. 31-41.
(93) 岩下雅子. 昭和20年代から平成30年までの鹿児島県の学校図書館変遷史: 鹿児島県学校図書館大会事例発表を通して. 図書館学. 2019, (114), p. 39-47.
(94) 鞆谷純一. 1967年の高校標準法改正による学校図書館事務職員の定数化について. 図書館界. 2014, 66(3), p. 224-233.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.66.3_224 [334], (参照 2020-07-20).
(95) 鈴木貴史. 読書感想文における「自立した読者の育成」に向けた課題. 学校図書館学研究. 2019, 21, p. 4-16.
(96) 久野和子. 「第三の場」としての学校図書館. 図書館界. 2011, 63(4), p. 296-313.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.63.4_296 [335], (参照 2020-07-20).
(97) 久野和子. 「文化センター」としての学校図書館: 「学習センター」「情報センター」「読書センター」に続く新しい学校図書館機能の提案. 学校図書館学研究. 2018, 20, p. 23-36.
(98) 新居池津子. 昼休み時間を過ごす中学生から捉える学校図書館の機能: 書架によって創出される場所における居方に着目して. 日本図書館情報学会. 2020, 66(1), p. 1-18.
(99) 新居池津子. 学校図書館は授業において「第三の場所」としてどのように機能するのか: 中学生に対する教師のインフォーマルなかかわりに着目して. 読書科学. 2018, 60(3), p. 173-186.
https://doi.org/10.19011/sor.60.3_173 [336], (参照 2020-07-20).
(100) 橋本あかり. 図書室登校をしている生徒たちに関する実態調査: つつじヶ丘女学園高校(仮称)での参与観察から. 図書館学. 2019, (115), p. 1-10.
(101) 橋本あかり. 学校図書館利活用増進手法の模索: 生徒の生活動線と学校図書館の位置の空間的関係に着目して. 図書館学. 2019, (114), p. 31-38.
(102) 小川哲男. 教育実践学としての学校図書館学の構築. 学校図書館学研究. 2012, 14, p. 5-21.
(103) 小川哲男, 白數哲久. 図書館資料を活用した子どもの科学概念の構築を図る理科授業のデザインに関する実証的研究: 学校図書館学の教授学習論の構築を目指して. 学校図書館学研究. 2015, 17, p. 7-21.
(104) 小川哲男. 「質の高い知識体系」を構成する学校図書館の利活用に関する研究の包括的モデルの開発. 学校図書館学研究. 2018, 20, p. 5-21.
(105) 枝元益祐. 教科教育で展開される探究型学習に関する研究: 学校図書館活動と教科教育を繋ぐ関連性の再構築を目指して. 学校図書館学研究. 2013, 15, p. 73-95.
(106) 根本彰. 教育改革のための学校図書館. 東京大学出版会, 2019, 327p.
(107) 稲井達也. 学校図書館における教材・学習材としての新聞活用の意義と方法. 学校図書館学研究. 2014, 16, p. 5-12.
(108) 村山正子, 三上久代. NIEと学校図書館の連携にむけての一考察: 全国大会実践発表の調査より. 日本NIE学会誌. 2016, (11), p. 23-31.
(109) 米谷優子, 北克一. デジタル教科書と学校図書館: 教育の情報化をめぐって. 学校図書館学研究. 2014, 16, p. 43-59.
(110) 井上靖代. 米国の学校図書館と電子書籍, Common Core State Standardsが与える影響の可能性. 現代の図書館. 2013, 51(4), p. 217-222.
(111) 須永和之. 特集, 世界の図書館大会と国際交流: 国際学校図書館協会IASL大会. 現代の図書館. 2014, 52(2), p. 91-97.
(112) 2016IASL東京大会大会発表要旨. 学校図書館. 2017, (795), p. 20-22, 25-29, 31-35.
(113) 濵田秀行, 秋田喜代美. 小中高校生の読書に対する学校や家庭,友人間における行動の影響:学校図書館の魅力に注目して. 読書科学. 2020, 61(3), p. 143-153.
https://doi.org/10.19011/sor.61.3-4_143 [337], (参照 2020-07-20).
(114) 浅石卓真. 教科書の中の知識: テキストの計量情報学的分析. 樹村房, 2020, 191p.
(115) 浅石卓真. 学校図書館における計量書誌学的データとその活用可能性. 情報の科学と技術. 2014, 64(12), p. 514-519.
(116) 矢野光恵. 子どもが選択した絵本を情報源とする幼児理解と保育者の教育活動との関連性: 保育室における絵本の環境構成の意義に注目して. 学校図書館学研究. 2017, 19, p. 17-30.
(117) 矢野光恵. 子どもが選択した絵本からみる読書傾向と保育者の教育活動との関連性: A幼稚園年長児の一年間の貸出調査から. 学校図書館学研究. 2015, 17, p. 33-42.
(118) 鈴木守. 学校図書館報のコンクールの考察: 静岡県学校図書館報コンクールの事例から. 学校図書館学研究. 2014, 16, p. 13-22.
(119) 米谷優子. 学校図書館はどのように称されているか: 学校図書館の呼称と機能の認識. 図書館界. 2019, 71(1), p. 16-35.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.71.1_16 [338], (参照 2020-07-20).
(120) 金昭英. 学校図書館における自由研究の現状分析: 千葉県袖ケ浦市の「読書教育」を例にして. 東京大学, 2015, 博士論文.
http://doi.org/10.15083/00072951 [339], (参照 2020-07-20).
(121) 大平睦美. 学校図書館におけるメディアに関する研究. 大阪大学, 2012, 博士論文.
(122) 福永智子. 名古屋市の小学校における読み聞かせボランティア: ボランティアの実態と意識の調査. 中部図書館情報学会誌. 2016, 56, p. 19-44.
https://8fcdfa39-a-62cb3a1a-s-sites.googlegroups.com/site/chuubutoshokanjouhougakkai/56fukunaga.pdf [340], (参照 2020-07-20).
(123) 図書館情報学以外の学会でも学校図書館に関する発表が行われる場合がある。例えば、
寺島大樹, 木尾卓矢, 中井孝幸. 5053 地域内における学校図書館と公共図書館の相互利用に関する研究 その1 学校と公共図書館の距離からみた定期的な読書活動. 建築計画. 2019, p. 105-106.
などが挙げられる。
[受理:2020-08-20]
今井福司. 2010年代の学校図書館に関する日本国内の研究動向:研究の多様化と学校図書館を取り巻く状況の変化を踏まえて. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1985, p. 23-30.
https://current.ndl.go.jp/ca1985 [341]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11546856 [342]
Imai Fukuji
Research Trends on School Libraries in Japan in the 2010s: A Review of the Diversification of Research and Changes in the Circumstances of School Libraries
This research literature review focuses on trends in research on school libraries in Japan from 2011 to 2020. Thirteen major peer-reviewed journals were included in the review, along with reviews of articles and monographs as needed.
The review was divided into 11 perspectives, including school library professions, budget and employment conditions, professionalism, institutional and standards review, and information literacy.
The results of the review confirmed that research on school libraries has been ongoing for the past decade. The review also confirmed that the content of and approaches to research have been diversified. Issues of accessibility, including open access, and the need to consider bulletin papers published by universities were also suggested.
PDFファイル [352]
専修大学文学部:野口武悟(のぐちたけのり)
2019年6月21日、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(以下「読書バリアフリー法」)(1)が衆議院本会議で可決、成立し、1週間後の6月28日に公布、施行された。本稿では、この読書バリアフリー法の制定背景、内容、課題について論じる。
読書バリアフリー法制定の直接的な契機となったのは、盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(以下「マラケシュ条約」;E2041 [353]参照)の締結とそれに伴う著作権法の一部改正であった(ともに2018年)。また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」)の制定(2013年)と障害者の権利に関する条約の締結(2014年)、当事者団体の働きかけなども大きな背景となった。
2013年6月に世界知的所有権機関(WIPO)において採択されたマラケシュ条約は、条約締結国間において印刷物の判読に障害のある者が利用しやすい様式の複製物をAuthorized Entity(AE:権限を与えられた機関)を介して交換できるようにするものである。条約締結に関する国会承認の手続きが2018年4月に完了し、同年10月に日本政府は加入書をWIPO事務局長に寄託した(2019年1月1日発効)。
マラケシュ条約締結にあわせて、2018年5月には著作権法の一部改正が行われ、第37条第3項も改正された(2019年1月1日施行)(2)。同規定の対象者を「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」から「視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者」(以下「視覚障害者等」)に改め、対象者への公衆送信を可能とした(改正前は自動公衆送信に限定)。また、同規定にもとづく複製等の主体にボランティアグループ等も含むことになった(3)。
著作権法の一部改正にあたっては、「視覚障害者等の読書の機会の充実を図るためには、本法と併せて、当該視覚障害者等のためのインターネット上も含めた図書館サービス等の提供体制の強化、アクセシブルな電子書籍の販売等の促進その他の環境整備も重要であることに鑑み、その推進の在り方について検討を加え、法制上の措置その他の必要な措置を講ずること」(4)との附帯決議が衆参両院の委員会でなされた。時を同じくして、国会議員による超党派の「障害児者の情報コミュニケーション推進に関する議員連盟」が設立(2018年4月)され、議員立法で読書バリアフリー法制定に取り組むこととなった。
そもそも、障害者の権利に関する条約締結に向けた国内法整備の一環として制定された障害者差別解消法(2016年4月1日施行)では、行政機関等に障害者への合理的な配慮を義務づけ、合理的な配慮の的確な提供のための基礎的環境整備(事前的改善措置)に努めることとされた(E1800 [354]参照)。当然ながら、公立図書館等にも適用される。ところが、2018年度に国立国会図書館が実施した『公共図書館における障害者サービスに関する調査研究』(以下「調査研究」)では「視覚障害者などに対する障害者サービスの実績が「確かに」あるといえる図書館は2割にも満たない」現状や、障害者差別解消法施行を受けても新たなサービス等を「検討していない」図書館が3割を超える状況などが示された(5)。
こうした読書環境に対する改善を求めて、視覚障害者等の当事者団体は、「国民読書年」と「電子書籍元年」だった2010年前後から読書バリアフリー法制定を求め続けてきた(6)。当事者団体による約10年にわたる地道で粘り強い働きかけも、読書バリアフリー法制定の大きな後押しとなったことは間違いない。
障害者やバリアフリーに関する法律はこれまでも制定されてきたが、「読書バリアフリー」に特化した法律の制定は初めてとなる。また、視覚障害者等が利用しやすい書籍や電子書籍を「借りる」だけでなく「買う」ところまでをカバーする法律となっていることも注目される。これは、当事者団体が前述の働きかけのなかで求めてきた「借りる権利」と「買う自由」の確立にも呼応している。
18条から成る読書バリアフリー法は、第1条で目的が明示されている。すなわち、「視覚障害者等の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進し、もって障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与すること」である。また、第3条には次の3つの基本理念が示されている。要約すると、(1)視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の普及を図るとともに、電子書籍等以外の視覚障害者等が利用しやすい書籍も引き続き提供されること、(2)視覚障害者等が利用しやすい書籍及び電子書籍等の量的拡充と質の向上が図られること、(3)視覚障害者等の障害の種類及び程度に応じた配慮がなされること、の3つである。
読書バリアフリー法の要点は次の3点に整理できる。
1つめは、国と地方公共団体の責務を明らかにし、国に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下「基本計画」)策定を義務づけ、地方公共団体に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画」(以下「計画」)策定を努力義務としていることである(第4条から第8条)。第6条では「政府は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない」とし、財政措置を明示している点は施策の実効性を高めるために重要である。
2つめは、基本計画等に盛り込むことになる9つの基本的施策をあらかじめ示していることである(第9条から第17条)。「借りる」だけでなく「買う」ところまでの施策が盛り込まれている。なかでも、「借りる」については、全ての館種に関わって「視覚障害者等が利用しやすい書籍等の充実、視覚障害者等が利用しやすい書籍等の円滑な利用のための支援の充実その他の視覚障害者等によるこれらの図書館の利用に係る体制の整備が行われるよう、必要な施策を講ずるものとする」(第9条第1項)などの施策が示されている。
3つめは、施策の効果的な推進を図るための協議の場を国に設置するとしたことである(第18条)。協議の場を構成する関係者は、「借りる」から「買う」までに関わる「文部科学省、厚生労働省、経済産業省、総務省その他の関係行政機関の職員、国立国会図書館、公立図書館等、点字図書館、第十条第一号のネットワークを運営する者、特定書籍又は特定電子書籍等の製作を行う者、出版者、視覚障害者等その他の関係者」とした。この協議の場として、2019年10月に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会」が設置された。設置以降、基本計画の策定に向けた協議が進められ、2020年3月現在、基本計画案の内容がほぼ固まりつつある(7)。今後、パブリックコメントを経て、同年5月から6月ごろに策定の予定である。
なお、読書バリアフリー法の逐条解説は、拙稿(8)を参照してほしい。
読書バリアフリー法の制定により、今後、視覚障害者等の読書環境整備が一層推進されることになろう。しかし、いくつかの課題もある。
課題の1つめは、「読書バリアフリー」が必要な人々は視覚障害者等以外にも存するが、読書バリアフリー法ではカバーできていないことである。例えば、外国にルーツのある人々や帰国者のうち日本語の読書に困難のある人々などである。図書館界における障害者サービスは、従来から「図書館利用に障害のある人々へのサービス」として、これらの人々も対象と捉えてきた。今後も、視覚障害者等はもちろん、それ以外の読書に困難のある人々の「読書バリアフリー」にも留意して、読書環境整備を進めていくことが大切であろう。
課題の2つめは、地方公共団体、とりわけ都道府県の計画策定が努力義務にとどまることである。先述の国立国会図書館による調査研究では、障害者サービスの現状に都道府県間で大きな開きがあることも明らかとなっている。努力義務ではあるが、各都道府県には、当該都道府県内の市町村のモデルとなるべく、率先して計画を策定し、施策を実施してほしい。
課題の3つめは、出版者の協力である。読書バリアフリー法は民間の出版者に対して何かを強制したり、義務づけているわけではない。しかし、読書バリアフリー法に示された目的や基本理念の実現には、出版者による視覚障害者等が利用しやすい書籍や電子書籍の一層の出版拡大と販売促進が欠かせない。ぜひ多くの出版者が「読書バリアフリー」の必要性を理解し、可能なことから取り組みを進めてほしいと期待している。
(1) “視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(令和元年法律第四十九号)”. e-Gov.
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=501AC1000000049 [355], (参照 2020-04-01).
(2) “著作権法の一部を改正する法律”. 衆議院.
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/19620180525030.htm [356], (参照 2020-04-01).
(3) 野口武悟.“障害者サービスをめぐるこの一年”. 図書館年鑑2019. 日本図書館協会図書館年鑑編集委員会編. 日本図書館協会,2019,p. 110-112.
(4) 衆議院文部科学委員会. “著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議”. 衆議院.
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/monka2FF88AD49B164BB04925826E0029907C.htm [357], (参照 2020-04-01).
なお、参議院の文教科学委員会でも同様の決議がされている。
参議院文教科学委員会. “著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議”. 参議院. 2018-05-17.
https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/196/f068_051701.pdf [358], (参照 2020-04-01).
(5) 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 公共図書館における障害者サービスに関する調査研究. 国立国会図書館, 2018, 118p., (図書館調査研究リポート, No.17).
https://current.ndl.go.jp/files/report/no17/lis_rr_17.pdf [359], (参照 2020-04-01).
(6) 宇野和博. 障害者・高齢者のための「読書バリアフリー」を目指して:2010年国民読書年と電子書籍元年に文字・活字文化の共有を. 出版ニュース. 2010, (2207),p. 12-15.
(7) 協議の経過については、文部科学省のウェブサイト上で公開されている。
総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課障害者学習支援推進室. “視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/043/index.htm [360], (参照 2020-04-01).
(8) 野口武悟. 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」の内容と今後の展開. 図書館雑誌. 2020, 114(4), p. 184-186.
[受理:2020-04-27]
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://current.ndl.go.jp/ca1974 [361]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11509684 [362]
Noguchi Takenori
Background, Contents, and Issues of the Reading Barrier-Free Law
PDFファイル [367]
東京大学大学院情報学環:福島幸宏(ふくしまゆきひろ)
2018年12月に発覚した厚生労働省所管の毎月勤労統計調査の不正問題は(1)、問題が経済・雇用政策の根幹にかかわるだけに、大きな波紋があった。非常に多くの検証や報道がなされたなか(2)、明治初年以来の伝統を誇る日本統計協会では、月刊誌『統計』において、2019年中に5回も「統計の信頼性向上をめざして」という特別企画を組んでいる。結局この問題を発端にした政府統計の不備は、「政府の一斉点検によると、56ある基幹統計のうち約4割で問題が見つかっている」(3)とされている。日本の基幹統計が全く信頼性を失ったことのインパクトは非常に大きい。
この事件は、一見直接的な当事者でない図書館にも深い関係を持つ。従来、図書館は収蔵している個別の図書館資料の記述が検証を要することを前提に資料提供を行ってきた。しかし、2000年代前半以降、図書館機能の再構成が検討されるなかで重視されてきたビジネス支援などの課題解決支援サービスや(4)、その後に広く議論され実践されてきているオープンデータ、オープンガバメントを巡る動向のなかでは(5)、前述の資料提供の前提は意識しつつも、踏み込んで資料を提示・データ化していく以上、より信頼できる資料を中心に行うことは無意識の前提となっていたのである。
今回、特に信頼度の高い情報源とされていた政府統計について、上記の状況が明らかになった。レファレンスをも含めたこの間の図書館の取組は、砂上に楼閣を営々と築いていたと言われても反論できるだろうか。
そして、これまで「確か」と思われていた情報の信頼性が揺らいだ時代において、図書館の役割をどのように考えればよいのだろうか(6)。
もっとも、近代の各種統計の数値はより慎重に扱われるべき、という議論が統計学の分野からも提起されている。以下、佐藤正広の一連の研究から指摘する(7)。まず、統計院書記が、1884(明治17)年に西日本の各地の、特に農作物統計を調査した記事から、当時の統計調査の実態として、地域の事情に詳しい人に頼った概算、平年作の状況の聴取に基づく推計、前年と今年との比較からの推計、などの手法があることを指摘している。これらは、佐藤も指摘するように、中央政府もまだまだ脆弱で、地域においては近世以来の構造を受け継がざるを得ない明治前半期の、特に農業統計に関わる部分においては、仕方がない部分もあるかもしれない。
しかし、近代化の要のはずの海運の状況を直接把握するために作成される港湾統計が、1920(大正9)年の段階になっても正確にカウントしたものではない実態が、当時の国勢院が各府県に対して行った調査から浮上する。最終的に『大日本帝国港湾統計』にまとめられる各種の基礎数値が、不確実な根拠に基づいているというのである。例えば北海道では、「最近5年間出入船舶輸出入貨物噸数価額」の調査に際し、突然かつ5年間にさかのぼる調査のため、小樽港などを参考に全道の数値を机上で推計したと報告している。また、農商務統計の生産統計のほとんどが「揣摩臆測」「筆なめ」「達観調査」であるとされている。この要因には、通常扱う事務以外の範囲での数値提出の要請、調査項目の定義の不正確さ、調査方法の不明確さ、中央官庁による安易な照会の多発によるモラルの低下、などが指摘されている(8)。
しかし、佐藤は、推計であっても「同時代で同じ道府県にいる人から見て,不自然と思われない程度の確からしさ」を持つものであり、「非標本誤差」に十分注意しながらもこれらの統計を使うべきと主張する。そして、この課題の解消には訓練された人員と仕組みとが必要で、それらは1920(大正9年)年の初の国勢調査から段階的に整備され、戦後改革によってある程度達成されたとの見通しを述べている。言い換えれば、国家が国民生活を直接把握することが必須となった総力戦段階に立ち至って、より正確な統計が整備されようとした、と言えるのであろう。
しかし、意図的な操作のモメントとその結果は当然払拭されない。アジア太平洋戦争の敗戦時に、占領軍に提出する戦略物資に関する統計を日本側で操作しようとしていたことがわかっている。敗戦直後の1945(昭和20)年8月25日、近畿地方総監府から管下の各府県知事宛に「諸統計調査ニ関スル件」が通達された。これは、占領軍からの行政資料提出の要求に備えて、関係各機関の「諸統計ヲ統一整備」するために出された指示であったが、実は異なる形式のものが2通発出されている。より詳しいものには、〇統計の表に「概数」と「誤差修正」の2つの欄を設け、「概数」欄には真実数をあげ、「誤差修正」欄には占領軍に提示すべき数字を記入すること、〇関係機関から占領軍に提示する数字は、「誤差修正」欄の数字になるので、提示用統計表を至急作成し、その他の統計は焼却および隠匿すること、〇この通知は焼却すること、などが指示されていた。実際にこの指示に基づいて京都府から報告された数字を検討すると、医師数は、「真実数」は京都府内全体で2,141人であるのに対して「誤差修正」欄は1,065人となっている。他の数値もほぼ同様の傾向があり、ほとんどの項目でほぼ半減になっているのである。もっとも1947(昭和22)年に厚生省公衆保健局が発行した『衛生年報 昭和16〜20年』には、昭和20年度末の京都府の医師数として2,663人が計上されている。その間はどのように公式な数字を操作していたか判然としないが、内部に資料が遺されていたことによって、最終的にはほぼ正確に把握されたものと考えられる(9)。
結局、近代の統計は不全なものとして受け止め、利用していく必要があるのである。
もっとも、この統計の不全は、図書館界においてもその背景の構造も含め、前述と同様の問題を今も惹起している。日本図書館協会が毎年度取りまとめている『日本の図書館 統計と名簿』は特に公立図書館を議論するうえで基本となる資料だが、数字のブレがあることはよく知られている。文部科学省の委託調査の報告書でも「自治体によって登録者の範囲、登録の有効期限など統計の取り方がまちまちなので、自治体ごとの比較は困難である」(10)と表現されたりしている(11)。明治の吏員たちが統計調査の負担を軽減するためにとった様々な便法は、統計を含めた各種の調査に対応している現在の図書館現場に共通するのではないだろうか。そして、この統計の不揃いの問題は、解決策が見出しにくいために、課題と認識されながら、比較的等閑視されてきたのではないか。しかし、新たなサービスへの注目や運営効率化の議論のなかで、努力義務として図書館評価が2008年に改正された図書館法第7条に示されたように、こと図書館においても、統計をどのように作成していくかが、重要な課題となってきている(12)。
これらの課題は別途解消されてくるとして、この図書館自体の状況も含め、統計がそのようなものであると観念するとした際、当面どのように対峙していけばよいのだろうか。
「デジタルアーカイブ」という言葉を創ったとされる月尾嘉男は、おそらく今後永遠に続く爆発的な情報量の増加という事態のなかで、トランプ政権以降の米国における“alternative fact”や“deepfake”などを例に挙げながら、「急速に技術が進歩する情報社会でデジタルアーカイブがどのような問題に直面しているかを知ることが重要」と指摘する(13)。これに対し、この月尾の講演をレポートした鷹野凌は、私見と断りながら、「仮にフェイク情報だとわかっていても、可能な限りアーカイブしたほうがいいと思う」「あらかじめ「これはフェイクだ」というメタデータを付与しておけばいい。あとからフェイクと判明した場合も同様、消去するのではなく、「これは間違っている」「理由はこの情報を参照すればわかる」といったメタデータを付与する」「というのは、そのとき「間違っている」と判断したことが、間違っている場合もあるのだ」「そういう意味では、フェイクのアーカイブにも価値はあるのだ」と述べる(14)。この対話は非常に示唆的である。
前述の敗戦時の統計操作の挿話と京都府の「真実数」をなぜ我々は認識し得ているのか。これは、京都府行政文書「近畿地方総監府諸統計調査ニ関スル件併ニ人口調査表各種」(昭20-68)というファイルが京都府に保管され、そこに本来は「焼却」と指示されていた通知とそれに対応した処理過程が綴られていたためである。つまり、その時点の日本政府としては公式には「間違っている」と言わざるを得ない処理と数字が、資料が遺されていたために跡付けることが可能となったのである。
結局、その時点時点の「正確さ」には留意しつつも、後生も含めた多様な眼の検証に耐えるために、オルタナティブの数字を遺す、処理の過程を遺す、データを捨てずに保存しておく、という機能を社会のどこかが担わなければならないのであろう。
国レベルではまだ議論の余地があるが、多くの地方公共団体や大学では、集められる限りのデータを集め、捨てずに保存しておく機能は図書館が担わざるを得ない。冊子体にまとまったものを紙や電子で収集するという従来の発想を改め、収集範囲を広げて関係資料をごっそりと収集する、その蓄積のためにデジタル技術を正面から導入するということがまずは考えられるだろう(15)。そして、一方では、地下茎のようにひそかに関係各所や個々人に渡りをつけて、資料と情報を蓄積することが重要かもしれない。国立国会図書館の憲政資料室や米国の大統領図書館を持ち出すまでもなく、意思決定の過程は必ずしも公的文書に残るとは限らないからである(16)。
2020年の年初から始まった新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況下においても、公式に発表される数字がどのように作成されているか、その背景を知悉するリテラシーを市民は常に求められている(17)。この状況は、100年前のスペイン・インフルエンザの際と、実は大きくは変わらない(18)。
図書館の特性が、その資料と機能のロングテールにあるとすれば、これらの状況が事後に十分検証できるように、各種の情報を積極的に収集するよう、制度と心性が更新されなければならない。また、事後の検証を社会のどこかで担保することによって、今まさに各種の課題に直面している現場の負担を減らしていくことにもつながると考える(19)。そして、冒頭に述べた図書館固有の文脈に戻しても、より深い課題解決支援サービスやオープンデータの提供につながることが期待される。その際の営為は、つとに主張されている「図書館の態度を問う‘図書館の社会的責任’の理念は、価値中立ではありえず、進歩的価値観(progressive priorities)の採用を迫る」(20)ということを念頭に行われるべきであろう。
(1) 厚生労働省. 毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03207.html [368], (参照 2020-05-24).
(2) 朝日新聞社の「論座」では「統計不正問題が意味するもの」として、10本の特集記事を掲載している。他の報道機関でも同様に重視された。
https://webronza.asahi.com/feature/articles/2019021300008.html [369], (参照 2020-05-24).
(3) 前掲.
(4) 全国公共図書館協議会編. 2015年度(平成27年度) 公立図書館における課題解決支援サービスに関する報告書. 全国公共図書館協議会, 2016, 68p.
https://www.library.metro.tokyo.jp/pdf/zenkouto/pdf/2015all.pdf [370], (参照 2020-05-24).
(5) 例えば、『情報の科学と技術』では、2015年12月号で「特集:オープンデータ」を組んでいる。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jkg/65/12/_contents/-char/ja [371], (参照 2020-05-24).
また2018年3月には慶應義塾大学において「公開ワークショップ 図書館はオープンガバメントに貢献できるか?—行政情報提供と行政支援—」が開催されている。
“公開ワークショップ(実施報告) 図書館はオープンガバメントに貢献できるか?—行政情報提供と行政支援—”. 慶應義塾大学.
http://user.keio.ac.jp/~lis_m/houkoku.html [372], (参照 2020-05-24).
(6) 勢い、本稿では、2019年12月段階での国際図書館連盟(IFLA)による「不確実性や複雑さを増す時代であるからこそ,図書館や情報専門家たる図書館人が提供する情報が重要になってくる」という提起に響きあう内容となっている(E2246 [373]参照)。
IFLA Headquarters. IFLA TREND REPORT 2019 UPDATE.
https://trends.ifla.org/files/trends/assets/documents/ifla_trend_report_2019.pdf [374], (accessed 2020-05-24).
(7) 佐藤正広. 明治前期における統計調査の調査環境と地方行政. 総務省統計研修所, 2013, 39p., (ディスカッションペーパー, 1).
https://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/msatou01.pdf [375], (参照 2020-05-24).
佐藤正広編. 近代日本統計史. 晃洋書房, 2020, 291p.
など 。
なおこれらの研究については高島正憲氏(関西学院大学経済学部専任講師)の教示を得た。
(8) 佐藤正広. “両大戦間期における公的統計の信頼性 —統計編成業務の諸問題とデータの精度について—”. 近代日本統計史. 佐藤正広編. 晃洋書房, 2020, p. 267-285.
なお、これらは、近代の行政文書を、府県・行政村・大字の各レベルで扱っている実感とある意味符合するところである。例えば、
平野明夫. “千葉県庁に伝来した文書の謎”. 日本の歴史を解きほぐす. 文学通信, 地方史研究協議会編.2020, p. 129-144.
では、明治新政府の度重なる方針転換に振り回される地方機関の様子が描写されている。
(9) 福島幸宏. 占領軍のだまし方. 京都府立総合資料館メールマガジン. 2008, (42).
https://www.pref.kyoto.jp/kaidai/maga-g.html [376], (参照 2020-05-24).
(10) “日本の図書館”.諸外国の公共図書館に関する調査報告書. シー・ディー・アイ, 2005., (平成16年度文部科学省委託事業 図書館の情報拠点化に関する調査研究). p. 273.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06082211.htm [377], (参照 2020-05-24).
(11) このことは現場の図書館員にも以前から認識されている。例えば、
田井郁久雄. 開館時間の延長は効果があったか:一地区図書館の事例研究. 図書館界. 2001, 53(2), p. 56-75.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.53.2_56 [378], (参照 2020-05-24).
には、入館カウンターの数字をどのように取り扱うかの記述がある。
(12) 例えば、
原田隆史. 図書館の評価. 図書館界. 2019, 71(2), p. 79.
https://doi.org/10.20628/toshokankai.71.2_79 [379], (参照 2020-05-24).
また、『情報の科学と技術』では、2019年3月に「特集:図書館利用者をデータで把握する」を組んでいる。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jkg/69/3/_contents/-char/ja [380], (参照 2020-05-24).
(13) 月尾嘉男. デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON)2018年度デジタルアーカイブ産業賞受賞講演「デジタルアーカイブの危機」. デジタルアーカイブ学会誌. 2019, 3(4), p. 405-408.
https://doi.org/10.24506/jsda.3.4_405 [381], (参照 2020-05-24).
(14) 鷹野凌. “情報の洪水と捏造の時代におけるデジタルアーカイブの意義”. HON.jp News Blog. 2019-08-31.
https://hon.jp/news/1.0/0/26097 [382], (参照 2020-05-24).
(15) この点、以下のシンポジウムで論じた議論とも連動する。
第67回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム記録:「デジタルアーカイブと図書館」. 日本図書館情報学会誌. 2020, 66(1), p. 41-52.
(16) そして公的記録が、公的には手続きに沿って的確に破棄されているとされているためでもある。この背景については、
久保亨, 瀬畑源. 国家と秘密:隠される公文書. 集英社, 2014, 206p., (集英社新書, 0759).
新藤宗幸. 官僚制と公文書:改竄、捏造、忖度の背景. 筑摩書房, 2019, 250p., (ちくま新書, 1407).
などを参照のこと。そのうえで、ユネスコ(UNESCO)と電子情報保存連合(DPC)が組織内でデジタル保存の重要性を説明するために作成したガイドラインが今後ますます重要となろう(E2200 [383]参照)。
“Executive Guide on Digital Preservation”. DPC.
https://www.dpconline.org/our-work/dpeg-home [384], (accessed 2020-05-24).
(17) 厚生労働省自身が「国内事例については、令和2年5月8日公表分から、データソースを従来の厚生労働省が把握した個票を積み上げたものから、各自治体がウェブサイトで公表している数等を積み上げたものに変更した」とするなど、各種の公的統計に含まれる数字をそのまま直ちには比較することはすでに困難となっている。
“新型コロナウイルス感染症について 国内の発生状況”. 厚生労働省.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#kokunaihassei [385], (参照 2020-05-24).
(18) 速水融. 日本を襲ったスペイン・インフルエンザ: 人類とウイルスの第一次世界戦争. 藤原書店, 2006, 474p.
の特に第6章「統計の語るインフルエンザの猖獗」を参照。
また、
池田一夫, 藤谷和正, 灘岡陽子, 神谷信行, 広門雅子, 柳川義勢. 日本におけるスペインかぜの精密分析. 東京都健康安全研究センター年報, 2005, (56), p. 369-374.
http://www.tokyo-eiken.go.jp/sage/sage2005/ [386], (参照 2020-05-24).
でも分析が行われている。
(19) われわれは、国レベルの決裁文書自体が「改ざん」されるという、およそ想定外の事態に直面している。これに対応するために作成過程のデータを遺す仕組みの整備等、情報に関わる研究者や専門職総体での議論が必要であろう。
財務省. 決裁文書の改ざん等に関する調査報告書について. 2018-06-04.
https://www.mof.go.jp/public_relations/statement/other/20180604chousahoukoku.html [387], (参照 2020-05-24).
(20) 山本順一. “図書館の社会的責任と知的自由の保障”. 図書館概論. ミネルヴァ書房, 2015, p. 166., (講座・図書館情報学, 2).
[受理:2020-05-25]
補記:本稿脱稿後、
佐藤正広. 「統計不信問題」を考える−歴史的視点からの試論. 東京外国語大学国際日本学研究, 2020, プレ創刊号, p. 2-21.
http://repository.tufs.ac.jp/handle/10108/94463 [388], (参照 2020-06-08).
に接した。あわせて参照されたい。
福島幸宏. オルタナティブな情報を保存する:統計不正問題からこれからの図書館を考える. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1975, p. 4-6.
https://current.ndl.go.jp/ca1975 [389]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11509685 [390]
Fukusima Yukihiro
Saving Alternative Information: Thinking about the Future of Libraries from the Problem of Incorrect Statistics
本著作(CA1975 [389])はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 パブリック・ライセンスの下に提供されています。ライセンスの内容を知りたい方は https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.ja [103] でご確認ください。
PDFファイル [392]
科学技術振興機構:中島律子(なかじまりつこ)
学術情報流通において、情報を同定する役割を持つ永続的識別子(Persistent Identifier:PID)は今や必要不可欠であり、利用者にとってもなじみ深いものになっている。その代表は、論文等出版物に登録されるデジタルオブジェクト識別子(Digital Object Identifier:DOI)(1)であり、さらにDOIは、研究データ等論文以外の研究成果物にも用いられるようになっている。また、研究者個人を識別するPIDとして、世界的には ORCID(CA1740 [393]、CA1880 [394]参照)(2)が普及している。そして、学術情報を有機的に連携させるための「ミッシングピース」として必要性が訴えられているのが組織に対して付与されるPIDであり、その中でも、Research Organization Registry(ROR)(3)が注目を集めている。RORは、オープンで持続可能な組織PIDとして、2019年1月にMVR(Minimum Viable Registry)の提供を開始した。2020年4月現在、約9万8,000件のユニークなROR IDとこれに対応するメタデータが登録され、その活用が進んでいる。
RORの立ち上げに当たっては、2016年から2018年までの間に、ORCID、DataCite(CA1849 [241]参照)、Crossref(CA1836 [395]参照)等の主要なPID登録機関を中心に、オープンかつコミュニティ主導であることを意識した取り組みによる議論が行われた。2017年1月にはORCID内に組織識別子ワーキンググループ(OrgID WG)が立ち上がり、レジストリの実装計画が検討された(4)。WGは、オープンで永続的な組織IDレジストリを構築するには、コミュニティのガバナンスと、コミュニティによるデータ品質への深い関与が必要であり、要件として、運営者によってキュレーションされたデータ、権限を有する者用のデータ更新管理機能、登録する組織のレベルがユースケースに対して適切であること、人および機械にとって可読であること等を挙げた(5)。運営体制については、ホスト機関による非営利モデルを採用し、少なくとも初期の立ち上げ期間には、組織IDを登録するための新機関を設立することはしないと結論した(6)。組織IDレジストリを実現するためのビジネスモデルはホスト機関とデータソースに大きく依存するとし、2017年秋に、これに関心を持つホスト機関、データソース/プロバイダー、および一般的な研究コミュニティに対して意見招請(Request For Information:RFI)を発出した(7)。これを踏まえた議論の結果、カリフォルニア電子図書館(California Digital Library:CDL)、Crossref、DataCite、およびDigital Science社が、スタートアップ期間の管理者として、2018年にRORを開始した(8)。RORの歴史については、関連資料のリンクと共に、同レジストリのウェブサイトにまとめられている(9)。データは、Digital Science 社が運営する学術研究に関連する組織のデータベースGRID(10)をソースとし、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC0で提供している。運営は、上記4機関が中心となって、運営グループおよび3つのプロジェクトチーム(技術的実装、アウトリーチとコミュニケーション、製品開発と管理)により推進されており、2019年11月に拡大された運営グループには筆者も参加している。コミュニティベースの取り組みが強く意識され、コミュニティアドバイザー、RORを支援・採用することを誓約した署名者、資金提供者であるサポーターらにより支えられている(11)。
2019年1月にMVRの提供を開始した後、同年8月には主に研究データにDOIを登録する機関DataCite(12)のメタデータスキーマがRORに対応し、9月にはリポジトリDryad(13)が連携、さらに、グラント申請システムやジャーナル等との連携も行われ、活用が進んでいる(14)。Crossrefメタデータの対応も近いうちに予定されている(15)。
組織に対して付与されるIDは、他にもROR開始以前から存在する。RORの検討過程において、既存の組織IDに関する調査が2016年に行われた(16)。以下、この調査報告書で挙げられている組織IDを中心に、概要を紹介する。なお、記載した数値は全て2020年4月時点のものである。
Funder Registry(17)は、ファンディング機関が資金提供した研究から生産された出版物を追跡できるようにすることを目指し、当初FundRef(E1450 [396]参照)という名前で開発された。Elsevier社が内部用に作成したデータにCrossrefがDOIを割り当て、CC0の下でサービスを開始した。2万2,000機関以上の登録があるが、対象はファンディング機関のみである。Crossrefにより論文等出版物のDOIを登録する際、当該研究に資金を提供した機関をメタデータに記述することが可能であるが、そのIDとしてFunder Registryに登録されている機関のDOIを登録することができる。Funder RegistryのDOIは、約480万件の出版物データと結びついている。APIも提供されており、出版社等により利用されている投稿審査システムの中には、これを利用することにより、著者が投稿する際にこのレジストリの機関DOIを登録することが簡単にできる仕組みを備えているものがある(18)。
国際標準識別子(International Standard Name Identifier:ISNI;E1773 [397]参照)(19)は、ISNI国際機関(International Agency:ISNI-IA)が管理するレジストリで、研究者、発明者、作家等、創造的な作品の作成者(個人及び組織)を対象としており、ISO認証を受けている。1,100万件の登録のうち、組織は約93万件である。データは、OCLCがホストする国立および研究図書館からのデータの集約であるバーチャル国際典拠ファイル(VIAF)を始め、54のソースから提供されている。
Ringgold社(20)によって提供されているRinggold IDは、同社による学術および研究分野における主要な組織のデータベースIdentify databaseで検索できる。すべての国における学界、企業、病院、政府機関などのセクターの50万以上の組織を登録している。RinggoldはISNI登録機関でもあり、またORCIDの組織IDの提供者でもある。
Publisher Solutions International(PSI)(21)は、図書館、出版社、会員学会等が学術コンテンツを安全に利用できるよう、不正アクセス排除の目的でIPアドレスを検証するために、組織IDデータベースを構築した。
Digital Science社は、上述のデータベースGRIDを提供している。Digital Science社の他のサービスに利用するために運用されているが、CC0で公開されており、約9万8,000件の登録がある。なお現在、RORはGRIDデータを同期しており、またそのほか、Crossref Funder Registry、ISNI(Ringgoldのサブセットを含む)、WikidataのIDと相互運用性がある。
以上のように組織IDがすでに様々に存在し、相応の役割を果たしているにもかかわらずRORが検討された理由は、大学・研究機関や図書館等において研究成果を捕捉するために、研究成果とその著者の所属機関をつなげるリンクとして働くIDが必要とされたことである。またさらに、オープンな学術情報インフラとして提供され、活用されることが求められていた。報告書において、上記に挙げた既存IDのサービスは、「オープンに利用可能か」「メタデータ記述が標準的であるか」「持続的に運営可能か」「運用プロセスが透明であるか」「研究成果のリンクに必要な機能を備えているか」等の観点から検証され、全てを満たすものは存在しないと結論された。
一方日本では、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が、大学・公的機関名辞書を整備している(22)。NISTEPは、政府予算で実施されている研究開発の実態やパフォーマンスの把握・分析・評価を行う際に必要な基礎データの整備を行っており、上記辞書はその中核的役割を担っている。2011年から整備を開始し、1年に1回の頻度で更新されている。大学及び公的研究機関を中心に、研究活動を行っている日本の約2万機関(約1万6,000の機関とその主な下部組織)の情報が掲載されている。
RORは今後、レジストリを拡大し、データの操作・実装のための優れたツールの開発、ウェブサイトのユーザーフレンドリー化、ROR IDの幅広い採用と実装のサポート等を目指しており、システム構築を進め、GRIDと独立してデータキュレーションを行う構想を持っている(23)。2022年には付加価値の高いオプショナルの有料サービスを立ち上げ、オープンかつ無料のデータ提供を保ちつつコストを回収するモデルの確立を目指す(24)。このため、2019年10月にファンドレイジングを開始し、すでに10万ドルを調達した。得た資金により技術主任を雇用し、さらなる機能改善を行う計画である(25)。
今後、RORはDOIやORCIDのように、標準的に使われるPIDとなるだろうか。上で見てきたように、主要なリポジトリやジャーナル、データベースサービス等に導入されている状況を考慮すると、見通しは明るいように思われる。すでにデファクト化しているという意見を聞くこともある。実行機関であるCrossrefやDataCiteが自身のサービスを展開する上で困難を乗り越えてきた経験を生かし、またコミュニティ標準となっている自らの既存サービスでRORの利用を開始するという戦略展開から見ると、少なくとも、これらサービスが支配的に使われている国際的な商業出版社を中心とした学術情報プラットフォームにおいては導入が進むと考えられるだろう。データが充実するかどうか、持続的に運営できるかどうかは、資金提供者や有料サービス化した際の利用者がどれほど現れるかによるが、それには技術的な困難さ(対象物である「組織」は他のPIDに比べて統合・分割が頻繁に起きる、階層構造が複雑、表記揺れが多い、等)をどのように乗り越えられるか、また初期段階で多様なサービスにどれほど導入されるかが関わってくるだろう。
日本においては、論文に登録するDOIの普及は進んでいるが、研究データ等その他の研究成果へのDOI登録や、ORCIDの普及率は、他国と比べると高いとはいえない(26)。ORCIDの普及率には、日本では公的研究資金に応募する際に使われる政府の府省共通研究開発管理システム(e-Rad)で使用される研究者番号が既に普及していることが関係していると考えているが、組織IDの今後の展開についても、日本独自の既存IDとの関係が鍵となるかもしれない。
(1) Digital Object Identifier System.
https://www.doi.org/ [398], (accessed 2020-04-16).
(2) ORCID.
https://orcid.org [399], (accessed 2020-04-16).
(3) ROR.
https://ror.org/ [400], (accessed 2020-04-16).
(4) “Organization Identifier Working Group”. ORCID.
https://orcid.org/content/organization-identifier-working-group [401], (accessed 2020-04-16).
(5) Pentz, Edward; Cruse, Patricia; Laurel, Haak; Warner, Simeon. ORG ID WG Governance Principles and Recommendations. Figshare. 2017.
https://doi.org/10.23640/07243.5402002.v1 [402], (accessed 2020-05-13).
(6) Laurel, Haak et al. ORG ID WG Product Principles and Recommendations. Figshare. 2017.
https://doi.org/10.23640/07243.5402047.v1 [403], (accessed 2020-04-16).
(7) Laurel, Haak et al. Organization Identifier Project: Request for Information.Figshare. 2017.
https://doi.org/10.23640/07243.5458162.v1 [404], (accessed 2020-04-16).
(8) California Digital Library et al. “The ROR of the crowd: get involved!”. ROR. 2018-12-02.
https://ror.org/blog/2018-12-02-the-ror-of-the-crowd/ [405],(accessed 2020-04-16).
(9) “About”. ROR.
https://ror.org/about/ [406], (accessed 2020-04-16).
(10) GRID-Global Research Identifier Database.
https://grid.ac/ [407], (accessed 2020-04-16).
(11) “supporters”. ROR.
https://ror.org/supporters/ [408], (accessed 2020-04-16).
(12) DataCite.
https://datacite.org/ [409], (accessed 2020-04-16).
(13) Dryad.
https://datadryad.org/ [410], (accessed 2020-04-16).
(14) Gould, Maria. “ROR-ing Together in Portugal: A Community Celebration”. ROR. 2020-02-10.
https://ror.org/blog/2020-02-10-ror-ing-in-portugal/ [411], (accessed 2020-04-16).
(15) Feeney, Patricia. “You’ve had your say, now what? Next steps for schema changes”. Crossref. 2020-04-02.
https://www.crossref.org/blog/youve-had-your-say-now-what-next-steps-for-schema-changes/ [412], (accessed 2020-04-16).
(16) Bilder, Geoffrey; Brown, Josh; Demeranville, Tom. Organisation identifiers: current provider survey. ORCID. 2016.
https://orcid.org/sites/default/files/ckfinder/userfiles/files/20161031%20OrgIDProviderSurvey.pdf [413], (accessed 2020-04-16).
(17) “Funder Registry”. Crossref.
https://www.crossref.org/services/funder-registry/ [414], (accessed 2020-04-16).
(18) 一例としてはScholarOne Manuscriptsが挙げられる。
“ScholarOne Partner Program”. Clarivate.
https://clarivate.com/webofsciencegroup/solutions/scholarone-partner-program/ [415], (accessed 2020-05-13).
(19) ISNI.
http://isni.org/ [416], (accessed 2020-04-16).
(20) Ringgold Inc.
http://www.ringgold.com/ [417], (accessed 2020-04-16).
(21) PSI.
http://www.publishersolutionsint.com/ [418], (accessed 2020-04-16).
(22) 科学技術・学術政策研究所. 大学・公的機関名辞書ver2019.1. 文部科学省科学技術・学術政策研究所ライブラリ. 2019.
http://doi.org/10.15108/data_rsorg001_2019_1 [419], (参照 2020-04-16).
(23) Gould, Maria. “A Reflection on ROR's First Year”. ROR. 2019-12-17.
https://ror.org/blog/2019-12-17-year-in-review/ [420], (accessed 2020-04-16).
(24) “supporters”. ROR.
https://ror.org/supporters/ [408], (accessed 2020-04-16).
(25) Gould, Maria. “ROR-ing Together in Portugal: A Community Celebration”. ROR. 2020-02-10.
https://ror.org/blog/2020-02-10-ror-ing-in-portugal/ [411], (accessed 2020-04-16).
(26) Cheng, Estelle et al. “ORCID in the Asia-Pacific Region: Involve, Engage, Consolidate”. ORCID. 2019-05-17.
https://orcid.org/blog/2019/05/31/orcid-asia-pacific-region-involve-engage-consolidate [421], (accessed 2020-05-13).
[受理:2020-05-27]
中島律子. 組織IDの動向−RORを中心に. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1976, p. 7-9.
https://current.ndl.go.jp/ca1976 [422]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11509686 [423]
Nakajima Ritsuko
Overview of Organization Identifiers - with a Focus on ROR
PDFファイル [424]
国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター:尾城孝一(おじろこういち)
最近、大学図書館あるいは大学図書館コンソーシアムによる、学術雑誌に係る出版社への支払いを購読料からオープンアクセス(OA)出版料に移行させることを意図した転換契約(Transformative Agreements)が注目を集めている。既に、欧州の図書館コンソーシアムをはじめとして、多くの転換契約の事例が報告されている。日本の大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)も、2020年以降の契約に関して、英国のケンブリッジ大学出版局(CUP)から転換契約の提案を受け、協議の結果その提案に合意した。
本稿では、はじめに、転換契約の背景として電子ジャーナルの価格問題やOAの進展状況を取り上げる。続いて、転換を後押しする取り組みとして、Open Access 2020(OA2020)イニシアティブと欧州の研究助成機関を中心としたコンソーシアムcOAlition Sが策定したPlan Sについて述べる。さらに、転換契約に関連するさまざまな用語を解説し、最近の主な契約事例を紹介する。最後に、課題や批判を踏まえて、転換契約の今後について展望する。
電子ジャーナルの普及に伴い、世界の図書館や図書館コンソーシアムはビッグディール(CA1586 [425]参照)と呼ばれる包括的な購読契約を出版社との間で締結し、アクセス可能な学術雑誌の種類数を飛躍的に増加させてきた。しかしながら、電子ジャーナルの価格上昇は留まるところを知らず、図書館は経費の確保に腐心している。こうした中、ビッグディールから離脱する図書館の数も増加している(1)。学術雑誌はなぜ値上がりを続けるのか。さまざまな要因が考えられるが、購読契約というシステムが、競争の働かない不健全な市場を形成しているが故に、学術雑誌の価格上昇に歯止めがかからないという指摘がある(2)(3)。学術雑誌の価格問題に対処するためには、購読という契約方式を見直すことが求められている。
一方、2002年にブダペスト・オープンアクセス・イニシアティブ(Budapest Open Access Initiative:BOAI)によるブダペスト宣言(4)が公表されて以来、学術論文のOA化をめざしたさまざまな取り組みが世界中で進められ、一定の成果を上げてきた。しかしながら、2019年の時点で、世界で出版された学術論文のOA率は約31%に留まっている(5)。
また、学術雑誌の多くは、著者が論文処理費用(APC)を払った論文はOAで出版されるが、他の論文は購読者のみが利用できるというハイブリッドモデルを導入している。このモデルの普及に伴い、出版社によるAPCと購読料の二重取り(ダブルディッピング)についての不安が図書館コミュニティを中心に広まっており、二重取りを明確な形で回避することが喫緊の課題となっている(6)。
こうした背景の下、2015年4月にドイツのマックスプランクデジタルライブラリ(Max Planck Digital Library: MPDL)は、“Disrupting the subscription journals’ business model for the necessary large-scale transformation to open access”という白書(7)を発表した。この白書の中で、図書館が出版社に支払っている学術雑誌の購読料をOA出版料に転換すれば、全ての論文を即座にOAで出版することができるという試算が示された。購読契約からOA出版契約への転換に必要な資金は既に市場に存在しており、今以上の経済的な負担なく、転換は十分に可能である、というのがこの白書の主張である。
この主張に基づき、2015年12月に開催された国際会議Berlin 12(The 12th conference in the Berlin Open Access series)において、新たなOAイニシアティブであるOA2020(8)の発足が決定された。
JUSTICEも、OA2020の取り組みに賛同し、2016年8月に学術雑誌の大規模OA化実現への関心表明(Expression of interest in the large-scale implementation of open access to scholarly journals)に署名した。その後、日本における論文公表実態調査などを経て、2019年3月に『購読モデルからOA出版モデルへの転換をめざして~JUSTICEのOA2020ロードマップ~』(9)を策定した。これはOA2020の戦略に沿って、JUSTICEが従来の購読契約からOA出版契約への移行を見据え、出版社との間で転換契約の交渉を開始することを宣言し、その道筋を描いた行程表である。
研究助成機関もOA出版への転換を後押しする取り組みを始めている。2018年9月に欧州の11の研究助成機関によるcOAlition S(10)が誕生し、完全にして即時のOAを求めるPlan Sの10の原則が発表された。その後2018年11月に公表された実施ガイドライン(11)の中で転換契約が取り上げられており、それによれば、購読型の学術雑誌は2021年末までに転換契約を結ぶこととされている。さらに、転換契約の詳細を公開すること、契約期間は最長3年とし、契約終了後に完全OA誌(掲載論文の全てがOAの学術雑誌)に移行するというシナリオが含まれていること、という条件が課せられている。
転換契約とは、学術雑誌の契約に基づいて図書館あるいはコンソーシアムから出版社に対して行われる支払いを、購読料からOA出版料にシフトさせることを意図した契約の総称である(12)。
実際の転換契約にはさまざまなバリエーションが存在するが、そこには共通するいくつかの原則が認められる。例えば、転換契約の下では、著作権は出版社に譲渡されるのではなく、著者が保持することを原則とする。出版論文のライセンスとしては、一般にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC BYが推奨されている。また、これまでの購読契約では、守秘義務条項により、図書館やコンソーシアムが契約内容を開示することは原則的にできなかったが、転換契約では逆に契約条項を公にすることを原則とする。実際には、契約書の全文が公開されることもあれば、骨子のみが提供される場合もある。さらに、転換契約は、購読のための支払いから出版のための支払いへの移行をめざすという点で過渡的な契約である。最終的には、購読のための支払いをなくすことが目標とされている。
転換契約には、大別するとRead and Publish(RAP)とPublish and Read(PAR)という2つのモデルがある。RAPは、読むための料金とOA出版するための料金をひとつの契約としてまとめて出版社に支払うモデルである。PARは、出版社に対してOA出版のための料金のみを支払い、追加料金無しに、OAではない論文も読むことができるという契約である。RAPよりも一歩完全なOA出版契約に近づいたモデルと言えよう。しかしながら、実際には、両者は明確に区別できないこともある。
オフセット契約は、購読のための料金とOA出版のための料金を相殺することを目指した契約である(13)。OA出版料の増加に応じて購読料が削減される場合もあれば、購読料に応じてOA出版料が割り引かれる場合もある。出版社による購読料とOA出版料の二重取りを回避することを強く意識した契約である。
Pure Publish契約とは、図書館やコンソーシアムと出版社との間で合意された支払いにより、機関の著者が個別に料金を負担することなく完全OA誌に出版できるようになる契約を指す(14)。Pure Publish契約は単独に締結される場合もあれば、転換契約の中の構成要素のひとつとして組み込まれる場合もある。
cOAlition Sは、2019年5月にPlan Sの実施ガイドライン改訂版(15)を公表した。その中で、購読型の学術雑誌から完全OA誌への転換については、転換契約に加えて、転換モデル契約(Transformative Model Agreements)と転換雑誌(Transformative Journals)が支援の対象とされている。ここで言う転換モデル契約とは、転換契約に移ることが困難な中小規模の出版社や学会系の出版社が、二重取りを発生させない形で、OA出版に転換することを促すためのモデルとなる契約のことである。一方、転換雑誌は、出版社単位ではなく雑誌単位で、OA出版論文の比率を徐々に拡大し、二重取りを発生させないようにOA出版料を購読料の相殺に用い、2024年12月までに完全かつ即時のOAへの転換を確約する学術雑誌を指している。なお、2020年4月8日に公開された転換雑誌の改訂基準(16)で、転換の期限は撤廃された。
転換契約については、OA市場に関するデータ収集を行うイニシアティブであるESAC(Efficiency and Standards for Article Charges)が事例集(レジストリ)(17)を整備しており、そこには2020年5月20日現在、101の契約事例が掲載されている。地域毎に集計すると、欧州が93、北米が5、大洋州が2、中東が1という内訳になっている。この事例集には、契約出版社、契約大学・コンソーシアム等の名称と国名、年間出版論文数、契約の開始日と終了日などの情報が記載されている。また、いくつかの事例では契約書そのものへのリンクが設定されており、契約条項の公開という原則が可能な限り守られていることがうかがえる。
ここでは、2019年後半以降の主な契約事例の概要を紹介する。
出版社は、国や政府のOA政策、研究助成機関のOA方針、購読料収入、出版論文数に基づくAPC収入予測などを基にして、図書館やコンソーシアムに対して転換契約の提案を行うか否かを判断していると推測される。出版社から転換契約の提案を引き出すことができるかどうかは、図書館やコンソーシアムが、大学等の経営層や研究助成機関との緊密な連携を通じて、OA出版への転換に向けた強い意志を出版社に示すことができるかどうかにかかっている。
転換契約について出版社との交渉を進めるためには、機関に所属する研究者による論文公表数やOA率、さらにはAPCの支払い額などの基礎的データを正確に把握し、それを分析する必要がある。しかしながら、とりわけAPCの支払い額を正確に把握するのは容易ではない。日本では、ここ数年の間、JUSTICEが論文公表実態調査(24)を行い、会員機関のAPC推定支払い額を算出しているが、それはあくまで公表論文数にAPCの定価を乗じたものである。また、京都大学は独自に大学の財務会計システムからデータを抽出し、集計を行っているが、集計結果にはAPC以外の論文投稿料も含まれているとのことである(25)。
APCの正確な支払いを把握するには、学内研究者によるAPC支払いを図書館等の組織が一元的に管理するなどの方策が不可欠となる。
仮に転換契約を締結できたとしても、図書館やコンソーシアムはそのための費用を負担し続けることができるのか。ドイツのOA2020-DEのレポート(26)は、研究助成機関がOA出版料の負担を継続すれば、現在の購読料を、助成金を得ていない研究成果のOA化料金に振り替えることで、予想されるAPC支払いを維持できると報告している。一方、研究助成機関がOA出版への助成を撤回した場合は、機関と機関に所属する著者の予算への影響は、今後のAPCの価格設定によって大きく変わってくることも指摘している。日本では、今のところ、OA出版への明示的な助成を行っている研究助成機関はひとつもない。そのため、多数の学術論文を算出する研究特化型の学術機関がOA出版モデルに移行するには、追加の予算確保が必要になると思われる。
また、世界各国や各地域が足並みを揃えて転換契約を進めなければ、購読(アクセス)に係る費用が大幅に減ることは期待できない。前述したように、転換契約の事例を地域ごとに集計してみると、現状ではそのほとんどが欧州の図書館やコンソーシアムの事例であり、米国の実績はまだわずかである。また、米国と並んで世界最大の論文産出国のひとつである中国の事例は、今のところ皆無である。
転換契約が順調に増加し、今後公表される論文の全てがOA化されたとしても、過去に公表された論文を読むためには費用が伴う。JUSTICEがOA2020ロードマップの補足的な取り組みのひとつに挙げているように、学術雑誌のバックファイルへのアクセスについては、例えば国レベルでのライセンス契約を進めるなどの方策が別途必要となる。
転換契約については、上述した課題に加えて、転換契約そのものに対していくつかの批判が寄せられている。例えば、人文学分野からは、APCモデルによるOAよりもグリーンOAや非APCモデルのゴールドOAの方が適しているとの声が上がっている(27)。また、潤沢な研究資金を持たない研究者から見ると、これまでの「購読の壁」が「出版の壁」に置き換わるだけであり、論文出版の局面において新たな格差が生じるとの懸念も表明されている(28)。
転換契約は、APCによるOA出版を推進する取り組みとみなされることがある。しかしながら、転換契約の推進役であるOA2020の真の目的はあくまで「既存の購読モデルの撤廃とOAを可能にする新しいモデルの確立」であり、決してすべての図書館が購読料をAPCに振り替えることを推奨しているわけではない(29)。また、JUSTICEのOA2020ロードマップも「APCがなじまない学術情報のOA化を進めるため、図書館共同出資モデル等の非APC型の取り組みに対しても支援策を検討する」と表明しており、Plan Sも、実施ガイドライン改訂版において、APCモデル以外にも多様な持続可能なモデルをサポートすることを明言している。
一方、当初から完全OA誌のみを刊行する出版社5社(Copernicus Publications、JMIR Publications、MDPI、Ubiquity press、Frontiers)は、現在の転換契約はOA出版への転換をもたらさず、かつ、完全OA出版社を交渉の場から締め出している、という共同声明(30)を発表している。
確かに、現在の転換契約に関する取り組みは、大規模な出版社との交渉が優先されていることは事実である。こうした批判に対して、米国のカリフォルニア大学のように、大手商業出版社との大規模な転換契約を模索すると同時に、完全OA出版社との間でPure Publish契約を積極的に進めている機関もある(31)。
転換契約は、全く新しい形の契約であり、その有効性や持続可能性についても今のところ未知数と言わざるを得ない。今後、さまざまな利害関係者からの意見や批判も踏まえつつ、より成熟したモデルへと成長させていく努力が必要となろう。また、転換契約を一部の国や地域、あるいは一部の学問分野に留まらず、より広く普及させていくためには、APCモデルへの転換や大手商業出版社との大規模な契約だけでなく、国や組織の政策や方針、購読規模や出版論文数といった個別の事情を踏まえ、最適な形でOAを実現する手段や方法を選択して、購読からOAへの転換を図っていくことが求められるだろう。
いずれにしても、転換契約をめぐる動向を引き続き注視していきたい。
(1) “Big Deal Cancellation Tracking”. SPARC.
https://sparcopen.org/our-work/big-deal-cancellation-tracking/ [426], (accessed 2020-04-03).
(2) Shieber, Stuart M. Equity for Open-Access Journal Publishing. PLoS Biology. 2009, 7(8), e1000165.
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.1000165 [427], (accessed 2020-04-03).
(3) Shieber, Stuart. “Why open access is better for scholarly societies”. The Occasional Pamphlet on scholarly communication. 2013-01-29.
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3.1.の説明は本文献に基づき整理したものである。
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(14) Hinchlife, Lisa Janicke. “The “Pure Publish” Agreement”. Scholarly Kitchen. 2020-02-20.
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(15) “Accelerating the transition to full and immediate Open Access to scientific publications”. cOAlition S.
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(16) “cOAlition S publishes updated criteria for Transformative Journals”. cOAlition S. 2020-04-08.
https://www.coalition-s.org/coalition-s-publishes-updated-criteria-for-transformative-journals/ [132], (accessed 2020-04-29).
(17) “Transformative Agreements. Agreement Registry”. ESAC.
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(18) “New transformative agreement with Elsevier enables unlimited open access to Swedish research”. National Library of Sweden. 2019-11-22.
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“New transformative agreement with Elsevier enables unlimited open access to Swedish research”. Elsevier. 2019-11-22.
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(22) “オープンアクセス論文に関わる費用の免除につきまして(CUP)”. 早稲田大学図書館.
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https://www.nii.ac.jp/content/justice/news/2020/20200228.html [449], (参照 2020-04-03).
(25) 京都大学附属図書館学術支援課. “京都大学におけるオープンアクセス費(APC)・論文投稿料支払状況2016-2018 (速報版)”. 京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI), 2019-12-24.
http://hdl.handle.net/2433/245219 [450], (参照 2020-04-03).
(26) Schönfelder, Nina. Transformationsrechnung: Mittelbedarf für Open Access an ausgewählten deutschen Universitäten und Forschungseinrichtungen. OA2020-DE, 2019.
https://pub.uni-bielefeld.de/record/2937971 [451], (accessed 2020-04-03).
(27) “Towards a Plan(HS)S: DARIAH’s position on PlanS”. DARIAH-EU. 2018-10-25.
https://www.dariah.eu/2018/10/25/towards-a-planhss-dariahs-position-on-plans/ [452], (accessed 2020-04-03).
(28) Raju, Reggie. From green to gold to diamond: open access’s return to social justice. Paper presented at: IFLA WLIC 2018 ‐ Kuala Lumpur, Malaysia ‐ Transform Libraries, Transform Societies. in Session 92 ‐ Science & Technology Libraries with Serials and Other Continuing Resources. In: IFLA WLIC 2018, 24-30 August 2018, Kuala Lumpur, Malaysia.
http://library.ifla.org/2220/1/092-raju-en.pdf [453], (accessed 2020-04-03).
(29) 小陳左和子, 矢野恵子. ジャーナル購読からオープンアクセス出版への転換に向けて−欧米の大学および大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)における取り組み−. 大学図書館研究. 2018, 109, p. 2015-1-15.
https://doi.org/10.20722/jcul.2015 [454], (参照 2020-04-03).
(30) “Current Transformative Agreements Are Not Transformative Position Paper – For Full, Immediate and Transparent Open Access”. Frontiers Blog. 2020-03.
https://frontiersinblog.files.wordpress.com/2020/03/position-statement-transformative-agreements.pdf [455], (accessed 2020-04-03).
(31) “PLOS and the University of California announce open access publishing agreement”. Office of Scholarly Communication, University of California. 2020-02-19.
https://osc.universityofcalifornia.edu/2020/02/plos-uc/ [456], (accessed 2020-04-03).
[受理:2020-05-20]
尾城孝一. 学術雑誌の転換契約をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1977, p. 10-15.
https://current.ndl.go.jp/ca1977 [107]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11509687 [457]
Ojiro Koichi
Trends over Transformative Agreements of Scholarly Journals
PDFファイル [465]
獨協大学経済学部:井上靖代(いのうえやすよ)
米国の公共図書館等における電子書籍貸出をめぐる議論とその背景について述べる。筆者が別稿(E2226 [466] 参照)で紹介しているが、米国を中心とする英語圏図書館界での電子書籍貸出をめぐり、図書館と出版社との間で軋轢が生まれている。ここでは、その背景となる議論点をもう少し詳しく報告していきたい。議論点となるのは、電子書籍販売/貸出に対する出版社側の商取引としての思惑と、無料で提供することで誰でも利用できる情報環境を充実させたい公共図書館の使命とのせめぎあいである。特に米国には、公共貸与権制度(CA1579 [467] 、CA1754 [468] 参照)が導入されておらず、著作権者や出版エージェント、出版社にとっていかに収益を上げるかは大きな課題となっているかと思われる。その法的議論点として、電子書籍社会における米国著作権法の図書館での利活用を念頭においた整備が不十分であることが指摘できる。
電子書籍が登場してから人々の要求に応えるべく、主として北米の公共図書館は出版社側とライセンス契約を結び、提供してきた。電子書籍をはじめとして、電子化された雑誌・新聞・オーディオブック・映像作品などを人々は読むようになっているが、依然として紙媒体書籍での読書が電子書籍での読書を上回っている(1)。しかし、無料で図書館Web上から借りることができるとの利用者への広報が功を奏して、公共図書館での電子資料貸出は増加している(2)。ただ、ワトソン(Watson)の調査によると、その読者の電子書籍入手動向は変化しているという(3)。Statista社の2017年調査データを元にした分析では、電子書籍の入手先は購入(42%)や図書館からの借出(25%)以外に、友人からの入手(33%)、個人作品をアップしたサイトや違法サイトからのダウンロードが多い(31%)。その主な理由は無料であること以外に、ダウンロードが簡単であることや電子書籍として市販されていないことなどがあげられている。
電子書籍販売は、出版点数が右上がりに伸びてきたものの、売り上げはここ数年低迷(4)しており、出版社側は利益を守るべく、図書館側に厳しい利用条件を強く求めてきた。多くは2年間の利用という制限であり、期限が来れば再度購入し直すという条件である。利用価格も一般販売額に比べ、高額を要求してきた。それでも図書館側は利用者のニーズに対応するため、条件を受け入れてきた。が、ここにいたってマクミラン社は2019年11月から利用価格を定額(ただし、一般向け販売価格より高額)にし、サービス対象人数にかかわらず1図書館システムにつき1点を8週間利用可とする条件を提示してきた。8週間経過するとさらにもう1点利用購入できるとしている(5)。図書館に電子書籍等を直接利用提供しないアマゾン(6)に比べれば、利用提供するだけましかもしれないが、それでも図書館側にとっては大きな負担となるし、1点のみでは利用者を待たせることとなる。ただ、マクミラン社はこの方針を2020年3月17日付で2019年10月以前のモデルにもどすと決定した、と米国の出版情報誌Publishers Weeklyが報じた(7)。新型コロナウイルス感染症の流行がその背景にあるのかどうか、正確な理由は不明であるともしている。米国図書館協会(ALA)は歓迎しつつも、他の出版社も含めて誰でも読めるようにするために図書館界と出版界との協働関係を築くための最初の一歩としている(8)。つまり、継続して電子書籍提供のための交渉を続ける意思を示しているといえよう。
ここで伊藤(9)や筆者(E2226 [466]参照)らが指摘している図書館と電子書籍出版界との議論点を整理しておく。
マクミラン社など電子書籍出版社の図書館への条件提示に対してALAが行っている活動を広報するためのウェブサイト#eBooksForAll(10)によると、Big5と呼ばれる大手出版社(その傘下には多くの関連出版社がある)の2019年10月時点での電子書籍提供(リース)モデルは表1のようなものである(11)。
出版社 | 図書館との電子書籍ライセンス契約条件 |
アシェット社 | 2年間のライセンス契約 |
ハーパーコリンズ社 | 従量制ライセンス契約(26回の貸出ごとに新規契約) |
マクミラン社 | 新刊書1部につき1ライセンス。貸出期間8週間後に追加従量制ライセンス新規契約(2年間) |
ペンギン・ランダムハウス社 | 2年間のライセンス契約 |
サイモン・シュースター社 | 2年間のライセンス契約 |
情報源;ALA.“eBook licensing terms for Big Five Publishers”. #eBooksForAll.
https://ebooksforall.org/index.php/faq/index.html [469], (accessed 2020-04-19)./
つまり、学校や企業でPCを5年間でリース契約することがあるが、同じように出版社から電子書籍をリースするわけである。表1にみられるように、2年間のライセンス契約が期限を過ぎるとアクセスできず、再度リース契約を結ぶとしている出版社が多い。最初もそうであるが、再契約の際の契約金額が議論点のひとつである。
2020年冬のALA大会で公共図書館部会(Public Library Association)副会長のクラーク(Larra Clark)が行った発表によれば、公共図書館資料費の27%は電子書籍を含む電子資料費となっているという(12)。したがって電子書籍にかける費用について注視せざるを得ないのである。公に内容を確認できる事例はごくわずかだが、例えば、ダグラス郡図書館の報告書(13)は、ニューヨークタイムズ紙やUSA Today紙でのベストセラー資料の価格を調査したものである。ベストセラーとなる人気の高いタイトルについては、複本を入手し、提供することが多い米国の公共図書館にとって価格は大きな課題である。出版社側では大量に紙媒体書籍の複本を購入する図書館に対しては、一般消費者向けに比べやや安値に設定しているようである。ところが電子書籍価格になるとそうはなっていない。前述の報告書から一部を表2で例として抜粋してみる。
タイトル* | 図書(印刷媒体) | 電子書籍 | ||||||
図書館価格 | 一般販売価格 | 図書館価格 | 一般販売価格 | |||||
ベイカー&テイラー(注) | イングラム(注) | アマゾン | バーンズ&ノーブル(注) | オーバードライブ | 3M(注) | アマゾン | バーンズ&ノーブル | |
『さあ、見張りを立てよ』(2015) | $15.45 (¥1,854) |
$15.39 (¥1,847) |
$16.07 (¥1,928) |
$16.71 (¥2,005) |
$24.99 (¥2,999) |
$24.99 (¥2,999) |
$13.99 (¥1,679) |
$13.99 (¥1,679) |
『アラバマ物語』(1960) | $14.35 (¥1,722) |
$14.29 (¥1,715) |
$19.25 (¥2,310) |
$19.63 (¥2,356) |
$12.99 (¥1,559) |
$12.99 (¥1,559) |
$9.99 (¥1,199) |
$10.99 (¥1,319) |
『本泥棒』(2007) | $11.03 (¥1,324) |
$10.99 (¥1,319) |
$11.31 (¥1,357) |
$11.91 (¥1,429) |
$38.97 (¥4,676) |
$38.97 (¥4,676) |
$6.11 (¥733) |
$8.99 (¥1,079) |
『ペーパータウン』(2010) | $10.48 (¥1,258) |
$9.89 (¥1,187) |
$10.72 (¥1,286) |
$11.16 (¥1,339) |
$12.99 (¥1,559) |
$12.99 (¥1,559) |
$3.99 (¥479) |
$6.99 (¥839) |
『グレイ』(2011) | $9.57 (¥1,148) |
$9.41 (¥1,129) |
$9.89 (¥1,187) |
$9.98 (¥1,198) |
$47.85 (¥5,742) |
$47.85 (¥5,742) |
$7.99 (¥959) |
$9.99 (¥1,199) |
* 『さあ、見張りを立てよ』(Go set a Watchman, 2015)はハーパー・リー著『アラバマ物語』(To kill a mockingbird, 1960)の20年後を舞台とした物語作品。この新作に関連して『アラバマ物語』も注目されたと思われる。『本泥棒』(The book thief, 2007)・『ペーパータウン』(Paper towns, 2010)・『グレイ』(Grey: fifty shades of Grey, 2011)は2015年に公開された映画の原作。
注:ベイカー&テイラー社(取次会社。主に公共図書館が取引先)、イングラム社(取次会社)、バーンズ&ノーブル社(大手書店チェーン)、3M社(化学・電気素材企業。事業の一環として図書館向け電子書籍サービスを提供)
電子書籍の図書館向け価格と一般消費者向け価格の差がはたして妥当なのか、どうか。また、異なる事業者なのに、図書館向け価格が同一なのは何らかの意図が働いているのではないか。といったビジネス面での疑問とともに、あらゆる人々に読む自由を保障するために環境を整備したいという図書館側の思いとの間で、この価格やライセンス使用にかかる条件が妥当なのかという点に疑問が残る。
図書館向けに電子書籍貸出システムを提供しているオーバードライブ社のプラットフォームは米国・カナダの95%の公共図書館や多数の学校図書館で導入され4万3,000館以上と契約している(14)。他にもEBSCO社や3M社などとの契約により、多様なプラットフォームを公共・学校図書館は採用している。提供する電子書籍のタイトルが異なるため、出来るだけ多様な資料の提供を行うなら、複数のプラットフォームと契約する必要があり、図書館側と利用者側双方にとって煩雑になっていく。
また、プラットフォームの事業者などに図書館利用者の個人情報を収集されてしまう危惧がある。ALAでは図書館でのプライバシー保護のためのチェックリスト(15)を準備しているが、危惧は大きいようである。Kindleをもつ利用者にオーバードライブ社のプラットフォーム経由で図書館が電子書籍を貸出するごとに、アマゾンがその利用情報を収集していた(16)ことが発覚した事例があり、そのため、チェックリストを準備し、図書館員に注意喚起をしているのである。この件に関しては、カリフォルニア州の州法第602条として、秘密裏に読書の内容やインターネット上での電子書籍購入などの個人の利用履歴を収集することの禁止等を定めた「読者のプライバシー法(Reader Privacy Act)」が制定される契機となった(17)。さらに、ALAはベンダーに対してもガイドラインを制定し、図書館から利用者の個人情報を無断収集・利用しないように要望している(18)。
米国デジタル公共図書館(DPLA;CA1857 [470] 参照)のようにオープンシステムで電子資料を提供しようとする試みも広がりつつある。理由としては図書館での電子書籍利用の煩雑性を少しでも回避するためには、クリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスでの公開の了解を得て提供したほうが、費用と技術面、さらにサービス度といった点で問題が軽減するからである。ただ、これは著作権者や出版社には大きな利益をもたらさないことから、利用者や図書館、著作権者らが利益を得られるようになるため模索が続いている。
大きな課題は著作権法である。米国著作権法(19)第108条には図書館における利用の例外規定が明記されているが、第101条の著作物の定義(20)には電子書籍について明記されていない。第108条では保存や研究のため、図書館がほかの図書館に対して電子媒体で提供することは示している(21)ものの、一般大衆のための電子資料貸出利用については示していない。改訂すべく調査研究され報告書が提出された(22)ものの、未だ実現にはいたっていない。したがって、著作権者(と、その代理人である出版社)からライセンスの許諾をうけて、図書館は電子書籍の貸出が可能となるわけである。電子書籍貸出のプラットフォーム提供事業者は、出版社とその利用価格を協議して、図書館に提供している。その価格設定について、上記の表1に示したように、著作権者(の代理人)の示すライセンス(利用に係る補償金)を図書館と交渉するものの、基本的には出版社側のビジネスとしての思惑から、一方的に決まるのはおかしいのではないか。また、表2に示すように事業者が異なるのに同一価格に設定しているのは、独占禁止法違反行為ではないか。このような考えの下、ALAは下院に審議を求めるべく要望書を提出したのである(23)。
出版社による電子書籍の販売額が減少している理由の一つには、個人での電子書籍公開(販売も含む)もさることながら、「海賊版サイト」の増加があげられる。例えば、Internet Archiveが2020年4月現在、新型コロナウイルスの状況に鑑みてNational Emergency Library(24)として、所有している電子書籍を2週間1部ずつ複数の利用者に貸出しているのは、フェア・ユースの範囲内であるとの見解もあるが(25)、著作権者である作家達は海賊行為であると批判している(26)。Internet Archiveは公共図書館とは異なり、電子書籍利用のライセンス補償金を支払っていない。米国著作権法(27)第107条にはフェア・ユースについての規定はあるが、民間個人や団体が自ら所有する電子書籍の貸出を行うことが果たして妥当なのかどうか議論となっている。ALAは著作権者の権利を尊重するためフェア・ユースの姿勢を明確にし(28)、交渉を行っているが、その姿勢をないがしろにするような出版社のライセンス条件の変更を問題視しているのである。
遅々としてすすまない米国著作権法改訂作業とは別に、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、オンライン授業に切り替わる学校が続出する中で、安易なデジタル資料作成・提供を危惧して、大学図書館等で勤務する著作権担当図書館員のグループが、著作権遵守とフェア・ユースについての声明を出している(29)。現在、大学図書館等が契約して利用できる電子書籍アーカイブであるHathiTrust(30)や、Google Booksをめぐる全米作家ギルドとGoogleの裁判事例(31)にみられるように、電子化することと提供することには大きな隔たりがある。そこで著作権者とその代理人である出版社と、利用提供側である図書館との間に軋轢が生じる。
さらに、その利用面では、図書館間での電子書籍や電子資料の相互貸借(ILL)は可能なのか、図書館で買い取り入手した電子書籍を「中古品」として再販売可能なのかどうか、など議論点は多い。
本稿執筆時点(2020年4月)では、新型コロナウイルス感染症蔓延に関連して、米国では多くの出版社等が電子書籍をオープンにする動きがある。ただ、終息したあと、電子書籍利用について図書館界と著作権者や出版社などが再び以前の状況にもどるのか、あるいは社会的貢献の影響を鑑みて、新しい状況を生み出すのかはまだよくわからない。ただ、オンライン上のオーディオブックを中心とした販売市場が拡大する一方、電子書籍売り上げが低下していくなかで、いわゆる「海賊版サイト」や違法ダウンロードを取り締まる担当部局が設立され強権を行使することが考えにくい「自由の国」米国では、電子書籍利用や価格などの明確な交渉窓口である図書館界に対する風当たりが強くなることは想像に難くないといえよう。
(1) Perrin, Andrew. “One-in-five Americans now listen to audiobooks”. Pew Research Center. 2019-09-25.
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2019/09/25/one-in-five-americans-now-listen-to-audiobooks/ [471], (accessed 2020-04-19).
(2) 73 public library systems enable readers to borrow 1 million ebooks. Impact Financial News. 2020-01-15.
(3) Watson, Amy. “E-books - Statistics & Facts”. Statista. 2018-12-18.
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(7) Albanese, Andrew. “Macmillan Abandons Library E-book Embargo”. Publishers Weekly. 2020-03-17.
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この論文では2014年時点までの米国における電子書籍貸出モデルについての議論を紹介している。
(10) #eBooksForAll.
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(12) Carton. op. cit.
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著作権で保護された資料については、対応する冊子体資料を所蔵する図書館からはアクセスできるが、その他の図書館からはアクセスできない。
(31) HathiTrust、及びGoogle Booksと全米作家ギルドとの裁判の経緯は以下を参照。
時実象一. 大学図書館書籍アーカイブHathiTrust. 情報管理. 2014, 57(8), p. 548-561.
https://doi.org/10.1241/johokanri.57.548 [501], (参照 2020-04-19).
松田政行編. Google Books裁判資料の分析とその評価 : ナショナルアーカイブはどう創られるか. 商事法務, 2016, 292p.
[受理:2020-05-26]
補記:本稿脱稿後、米国出版協会(AAP)の会員企業複数社により、p.18で取り上げたInternet Archiveに対する著作権侵害訴訟が提起された。
“Publishers File Suit Against Internet Archive for Systematic Mass Scanning and Distribution of Literary Works.” AAP. 2020-06-01.
https://publishers.org/news/publishers-file-suit-against-internet-archive-for-systematic-mass-scanning-and-distribution-of-literary-works/ [502], (accessed 2020-06-07).
井上靖代. 米国での電子書籍貸出をめぐる議論. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1978, p. 16-20.
https://current.ndl.go.jp/ca1978 [503]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11509688 [504]
Inoue Yasuyo
“Library War” over E-Book Lending at Libraries in the US
PDFファイル [511]
ボーンマス大学知的財産権政策・管理センター:ベンジャミン・ワイト
獨協大学経済学部:井上靖代(いのうえやすよ)(翻訳)
The Original (Written in English) [512]
図書館における電子書籍事情は、欧州においては難題であり続けている。若者にとって電子書籍は常に自然な書籍環境であり続けてきたが、比較的新しい現象であることは覚えておく価値がある。電子書籍は、1994年にインターネットが公に採用されてから数年以内に、科学分野の出版社と研究図書館の間で利用可能になり始めた。例えば、ElsevierのScience Directは1997年に発売された(1)。しかしながら、消費者を対象とした電子書籍はそれから10年ほどを要し、欧州において公共図書館で利用できるようになるにはさらに時間がかかった。
図書館は1990年代に所蔵資料を電子化し始めたのだが(多くは手稿であり本ではない)、90年代後半あるいは2000年代初頭になってようやく電子書籍リーダーは消費者対象として販売が始まった。筆者は、この頃にドイツのフランクフルトのブックフェアで展示されていた電子書籍リーダーを疑問に思いながら眺め、紙の本ではないこんなものを誰が読むのだろうと考えたことを覚えている。その頃、電子書籍リーダーで読める資料は限られていたことも、人気を欠く要因になっていた。そのせいか、このベンダーはその後数年の間にブックフェアに参加しなくなっていた。2007年になって、Amazonが米国で、その2年後に欧州(2)や世界の他の地域で、Kindleを発売し、公共図書館で電子書籍を貸出して本格的に楽しめる可能性が立ち現われてきた。
現在、公共図書館の電子書籍利用に関して、欧州全体では、かなり複雑な様相を見せている。図書館界の関与が見られたデンマークのような国々では、出版社からライセンスを得られる電子書籍の品揃えに比較的満足しているように見えるが、ハンガリーやルーマニアなど、利用者への提供タイトルが極めて限られているとされる国々もある。ここでは欧州で複数の国々での状況を調べ、いくつかの鍵となるテーマや課題に着目していく。
全体としてみると、現在は比較的充実した電子書籍提供を行っているこの国においてさえ、はじめから順調に事が運んだわけではない。2012年にスウェーデン図書館協会(Swedish Library Association:SLA)は、電子書籍貸出についてスウェーデン出版社協会(Swedish Publishers Association)の関与不足に不満を表しており、政府に対して「新しい司書にあいさつを」というキャンペーン(3)を開始した。このキャンペーンは、7月初めにゴットランド島・ヴィスビューでのスウェーデンにおける例年の政治期間中に始まった。そこでは、あらゆる政党が集まり、演説・討論が行われる。その年、政治家やジャーナリストを含む1万7,000人が参加した(4)。
このキャンペーンで配布された冊子の表紙には、スーツを着た厳めしげで嫌な感じのビジネスマンが読者を見ている様子が描かれている。このメッセージは明らかである。図書館はもはや如何なる本も自由に購入し貸出できず、出版ビジネス界がライセンスを認めた電子書籍の販路の1つに過ぎなくなったことを示している。さらに、人気のあるタイトルを図書館が利用者に貸出できるようになるまでには何か月も待つ必要があることを強調している。その頃でさえ、事前通知なしに提供されなくなるタイトルがあったのである(5)。
問題はかなり深刻だった。当時、スウェーデンで図書館が貸出可能な電子書籍数は約5,000タイトルであり、公共図書館で100万タイトルほど利用可能であった米国のような国々と比べずっと数が少なかったのである。さらに、スウェーデンの図書館は1回の貸出につき20スウェーデン・クローナ(日本円で約225円)を出版社に補償金として支払っており、その高額なコストは図書館が貸出可能数を制限せざるをえないようにしていた。
したがって、SLAは定額購読価格モデルを目指しており、貸出回数が少なくなれば、出版からの経過時期により書籍の価格を下げるようにと主張していたのである。また、人気のあるタイトルのみならず、図書館があらゆる書籍のプロモーションを行う役割を主張して、スウェーデンの出版社の電子書籍すべてに定額購読価格の適用を求めたのである。消費者向け電子書籍と図書館向け電子書籍の販売価格の隔たりという問題を提起し、そのような価格設定があらゆるタイプの出版物を広める公共図書館システムの役割といかに相容れないかを示すことで、SLAは図書館や図書館員の核となる機能や原則、価値といったものを守ろうとしたのである。このキャンペーンがスウェーデン語と英語で行われたことは、スウェーデンの図書館界がこの課題を世界共通のものと認識していたことを示している。
このキャンペーンにより、出版から一定期間を経た書籍の価格が低下するという改善がみられたが、2016年時点での1回あたりの貸出に対応する補償金の価格は依然として高く、5スウェーデン・クローナ(約56.25円)から20スウェーデン・クローナ(約225円)となっていた(6)。この意味では、消費者が入手できるすべてのタイトルが図書館でも入手可能かどうかに関係なく、依然として高額な補償金の価格が新刊電子書籍を入手しようとする図書館の妨げとなっている。図書館は貸出ごとのコストを考慮して電子書籍貸出を制限し続けることになる。図書館利用者からみれば、利用できるタイトルの範囲が限定的であるため電子書籍貸出の魅力は薄れ、複数のアプリをダウンロードする必要があるといったような技術的な課題も重なって、図書館は十分に電子書籍利用に貢献できず、全体としてスウェーデンにおける電子書籍利用の成長が妨げられることになった(7)。
欧州全体で提供に関する同様の問題が見られるものの、オランダで数年にわたり焦点となっているのは、利用可能性や価格の問題ではなく、著作権法に関連した課題である。最終的には、これについて2016年にEU司法裁判所(CJEU)により司法判断がくだった電子書籍貸出の課題である。
この訴訟の背景には、オランダ教育・文化・科学省(Dutch Ministry of Education, Culture and Science)の委託によりアムステルダム大学によって実施された研究が関連している。この研究で、オランダの図書館が権利者の承認を求めずにEU著作権法のもとで電子書籍貸出を行うのは合法ではないと結論づけたのである。問題となった法律は貸出指令(Rental and Lending Directive(92/100/EEC))とその後の修正条項であり(8)、この指令では、欧州のEU加盟国において適切と判断された場合、公共貸与権(公貸権;PLR)として著者に支払われる適切な補償金の見返りに、公共図書館が人々に本を貸出することが認められている。
このアムステルダム大学の法的所見に基づいて、オランダ政府は出版社からの電子書籍ライセンスに完全に基づいた電子図書館貸出プラットフォーム構築のための法律を作成しようとした。これに対抗して、オランダ図書館協会(Verenging van Openbare Bibliotheken:VOB)はオランダ国内の裁判所、最終的にはCJEUにおいて、新しい法律の法的前提に対して異議申し立てを行うことにした。その要点を挙げれば、VOBは既存の指令にそって市場で入手可能ないかなる電子書籍をも図書館が貸出することはすでに合法であり、この法律の改正は必要ないと主張したのである。
このVOBとStichting Leenrechtとが争った訴訟の2016年の最終評決(9)では、VOBに軍配があがり、貸出指令は技術の発展を考慮しながら解釈されるべきであり、アナログの書籍のみの解釈に限定されるものではないとした。別の言い方では、この指令は図書館が法律のもとで電子書籍貸出を行うために、新しく修正する必要はないとなる。
したがってこの司法判断は、消費者向け・図書館向けのいずれのライセンスであるかにかかわらず、潜在的にはアナログの書籍からデジタル化されるものも含めて、市場に出回っている電子書籍を図書館が合法的に入手した上で人々に貸し出すことへの許可を与えているように思われる。この判決自体は、図書館がどのように書籍を入手するかについては言及していないが、紙の書籍の状況に倣って、「1部1ユーザー」の原則で図書館のサーバーからダウンロードされ、合法的に入手されることを求めているのである。しかし、図書館による書籍の入手手段に言及していないために、重要な課題や疑問点はこの法律のもとでは不明なままである。
図書館にとって、この判決の結果残されている疑問点は以下のとおりである。
疑問点を残した判決にもかかわらず、図書館と利用者にとってこれは画期的な決定であった。この判決は、公共図書館が積極的に活用すれば、“controlled digital lending”と呼ばれる技術的保護手段を用いてインターネット・アーカイブ(10)が米国で行っているようにデジタル化により作成した電子書籍を「1部1ユーザー」の原則で貸出することや、出版社との交渉の場で法律の効力を最大限に利用することにより、独自のサービスを開始する新しい機会をもたらしうるものであった。
しかし、実際には実現していないようである。筆者はこの判決の庇護下で、欧州内で“controlled digital lending”モデルによるサービスの開始を仄聞していない。図書館が一定期間の利用禁止を黙認し、Hachette社(後述)のような大手出版社がいくつかの国で図書館向けの電子書籍販売を拒否し、図書館で貸出可能な電子書籍と消費者向けに販売されている電子書籍には差があるという状況を考えると、欧州における図書館専門職はこの画期的な判決結果をその利益の最大化のためにほとんど何もしていないようである。
例えば、オランダでは図書館からの貸出は、依然として出版社のライセンスに依存している。2018年にはオランダ政府からの資金増加もあり、図書館から入手可能な電子書籍数は増加しているのに対し、利用可能になるまで6か月から12か月ものタイムラグが残存している(11)。この判決は、オランダの出版社にとって図書館とよりいっそう緊密に協力するように圧力を加える効果はあったかもしれないが、図書館向け電子書籍数が増加した要因のほとんどは、出版社が自らのビジネスモデルへの自信を深めるにつれ、公共図書館で利用できるタイトルを増やしてきたことに帰することが出来る。本稿で扱う他の国々すべてで明らかにこの同様の動きが見られる。
英国はこの貸出指令(Rental and Lending Directive)に沿って、公共図書館から電子書籍貸出を通じて公貸権の補償金を著者が受け取れるようにした、欧州で最初ではないとしても非常に早期に法制化した国のひとつである。2010年にデジタル経済法(Digital Economy Act)の一環として法改正され、EU法を国内法化した二次法となり(7年後の2017年に可決)、著者は電子書籍とオーディオブックの貸出ごとに補償金を受け取れることになった。
公共政策の観点からは、これはいくつかの理由で実に興味深いものである。まず最初に、当時著者への二重支払いがあまり議論されなかったことである。著者がフランクフルト・ブックフェアで聞いたところでは、出版社によれば、十分に人気のある著者は電子書籍化する権利を出版社と再交渉して、紙媒体の書籍の場合よりさらに高いロイヤルティーを得る機会を有しているというのである。
もちろん平均的な著者は一般的にハードカバーの書籍販売価格の10%以下ぐらいしか受け取れない(12)が、電子書籍化した場合、著者は出版社と平等に販売価格の半々にするよう再交渉することを奨励されている(13)(14)。したがって、英国の著者はデジタル・文化・メディア・スポーツ省(Department for Digital, Culture, Media and Sport:DCMS)から公貸権の補償金を受け取るのみならず、電子書籍に関して出版社の商業活動から平均すれば高めの支払いも受け取っているようである。これが意図的な文化政策であるかどうかは、この件について公に議論されていないために不明である。
第2に、上で述べたように、著者に公貸権補償金支払いを実施する二次法は2017年に可決されたのだが、それは前に述べたCJEUの判決の翌年であったことである。このことは図書館が“controlled digital lending”モデルに基づき電子書籍貸出を行うことを合法化したにも関わらず、この二次法(15)は図書館での貸出対象を「(電子)書籍の購入あるいはライセンスの条件に準拠している」ものに限定するとした点で重要である。すべての電子書籍に利用規約が付随することを考えると、この文言は画期的なCJEUの判決を拒否するに等しく、英国の図書館に出版社が許可する電子書籍のみを貸出可とさせるものである。
DCMSと著作者協会であるSociety of Authors(元専門弁護士であるCEOが代表者)とともに、英国図書館(British Library)やライブラリー・コネクテッド(Library Connected(正式には図書館館長協会(Society of Chief Librarians)))、英国図書館情報専門家協会(CILIP)といった図書館組織も法制化への議論に関わった。CJEUの判決にもかかわらず、これらの図書館組織は出版社による図書館での電子書籍貸出の制限に合意したため、いまや英国著作権法に定められ、近い将来に覆すことはかなり困難である。この状況は図書館の伝統的な権利と自由とを大きく損なうことになる。人々に貸出するためにどんな本でも購入することができる状態から、いまや出版社がライセンスを図書館に与えると決めた電子書籍のみを貸出する法律に制限されている状態に変化したのである。
読者にとってこの変化がどの程度のものであるかは、図書館が制限なしに購入・貸出できるタイトルと、出版社が図書館向けの価格・条件により利用可能とするタイトルとの開きの大きさによるであろう。
英国と他国の公共図書館における電子書籍貸出に関してオーストラリア・モナシュ大学の研究者らが行った最近の重要な調査研究(16)では、電子書籍の入手やアクセスの可能性について簡単な全体像を示している。この調査では、特に関心が高い546タイトルをサンプルとし、英国やカナダ、ニュージーランド、オーストラリア、米国といった異なる英語圏の公共図書館における利用可能性を調査した。英国はどの国よりも低い入手状況であり、公共図書館で入手可能なのはサンプルのタイトルのうち59%にすぎなかった。この調査研究論文の著者たちによれば、「英国の図書館での入手性の低さは現在の極端な財政緊迫、つまり2012年以来、英国の公共図書館の25%程度は閉鎖あるいはボランティアに運営を委託されていることによるのかもしれない」「国際的なデータを集約するアグリゲーターによれば、英国の出版社は他のどの地域の出版社よりリスクを回避する傾向にあり、電子書籍貸出への不熱心さにさらに説明がつく」となる。同様に、モナシュ大学の研究者らによる2回目の調査研究(17)では、10万タイトル近くの電子書籍という多数のサンプルが利用されたが、こちらでも英国は調査した他の国に比べ最も低い77.5%の入手可能率であった。
1回目のモナシュ大学の調査研究(18)では、英語圏の5大出版社のうち、4社のみが複数の図書館貸出プラットフォームで電子書籍を広く提供していることがわかっている。サンプルとした546タイトルのうち、97%は少なくともひとつの図書館貸出プラットフォームから入手可能であった。しかし、Hachette社は公共図書館による電子貸出で入手可能なタイトルに関して他の4大出版社に比べ対照的であった。50タイトルのHachette社の電子書籍のうち、わずか4タイトル(8%)のみが図書館貸出プラットフォームで貸出可能であり、著者らの調査したすべての図書館貸出プラットフォームで共通して入手可能なタイトルはなかったのである。
英国は4大英語圏市場で電子書籍の入手可能なタイトルがもっとも少ないだけでなく、1回あたりの貸出にかかるコストが最も高いことも判明した(19)。結論として、この調査研究では英国での状況は「全体として英国はライセンス条件に最も魅力がなく、最も高価であり、最も低い入手可能性を示している」とまとめている。したがって、これらの調査結果は、英国がCJEUの判決を活用せず、図書館による包括的な電子貸出モデルの発展に役立つ著作権法改正を推し進めなかったことの影響に焦点を当てたものになっている。この理由は推測するにすぎないのだが、グローバルな図書館コミュニティが法的・政策的な専門知識を持つことの重要性を強調しているといえる。これらの専門知識に関しては、この分野で出版産業が行っている投資と比べると欧州の図書館コミュニティ内では深刻な欠如がみられ、自らに不利益をもたらしている。
英国とは対照的に、フランスではCJEUの判決が政策レベルで広く議論された。当時のフランス文化大臣ニッセン(Françoise Nyssen)が電子貸出のためにフランスの著作権法に例外規定を導入することを拒否したこと(20)に対し、フランス図書館員協会(l’Association des Bibliothécaires de France:ABF)は一貫して公共図書館から電子書籍を利用できるようにするための入手手段とその適切なモデルが不足していると声をあげてきた。
2019年6月に(21)フランスの文化大臣も出席していたABF年次大会席上で、会長のバーナード(Alice Bernard)は「われわれはすべての出版社の作品を読者から奪い続けるつもりか?」と当てつけるように問いかけて、図書館での電子書籍貸出周辺の進展欠如を嘆いたのである。これはその年の1月に、複数のフランスの図書館団体が署名したフランス出版社協会会長宛て公開書簡(22)が背景となっている。この書簡では、フランス電子図書館貸出プラットフォーム(Prêt Numérique en Bibliothèque:PNB)での電子図書館貸出システムの重要性を認めつつ、公的機関が運営する図書館で電子書籍提供が制限されていると批判している。また、中小規模の図書館にとってはその価格があわず、出版社が提供するメタデータの質の悪さが図書検索を妨げているとの事実を指摘していた。
2017年のインタビュー(23)において前ABF会長も、CJEUの判決にそって著作権法を改正し図書館の電子書籍貸出を可能にすることについての文化大臣の拒否に反発を示した。ライセンス・モデルが中小および大規模図書館に応じて提案されていたとしても(実際はそうではなかったが)、消費者に販売されていた電子書籍の52%しか公共図書館で貸出できていなかったという事実は、現状が根本的にフランスの図書館に合っていないことを意味していた。電子書籍貸出が可能なタイトル数の増大は、主な出版社の書籍が欠落していることで停滞していると報告されていた(24)。
電子書籍提供への実務的な解決策を望むフランスの図書館は、電子書籍リーダーを購入し、そのなかに電子書籍をダウンロードし、人々にそのリーダーを貸出したのである。
公貸権による支払いにより著者に安定的な収入を保障するという重要性も、なぜ電子貸出を奨励するべきかという重要な理由のひとつとしてABFによって強調された。これは重要な政策課題である。特に有名な著者は多様な収入を得ているが、ベストセラー作家ではなくそれほど有名でもない作家は、一般的に公貸権による補償金から現実的な収入を得ており、そういった支払いに概ね価値を認めているように見える(25)。
デンマークは本稿執筆時点では、公共図書館を通じての電子書籍提供では最良の事例の一つであるものの、ここまでの道のりは平坦ではなかった。デンマークの図書館が利用する電子書籍貸出プラットフォーム(eReolen)は2011年に、文化王室庁(Agency for Culture and Palaces)とデンマークの複数の公共図書館との共同出資により設立された。クリックするたびに支払うpay-per-clickモデルを採用し、複数の利用者が同時に同じタイトルにアクセス可能にするということで急速に広がっていった。2012年の夏までに4,200タイトルが4万1,000の利用者(デンマーク人口の0.75%)に8万8,000回貸出された(26)。
しかし、この人気がかえってあだとなり、eReolenが売り上げに悪影響を及ぼしたと述べて、2012年後半にデンマークの7つの大手出版社がこのプラットフォームから撤退した。これによりプラットフォームで利用可能なタイトルの60%が一晩で減少した(27)。さらに悪いことに、セキュリティ上の問題が発覚したために、2013年にeReolenは再構成され、プラットフォーム専用のアプリでのみ使えるようになり、図書館利用者から極度に否定的な反応を呼び起こしたのである。
デンマークの7大出版社によるeReolenからの撤退につづき、出版社はEBIBと呼ばれる「1部1ユーザー」モデルによる図書館利用者向けの独自のプラットフォームを設立した。これは以前のすぐにアクセスできるモデルに慣れていた利用者を苛立たせた。このプラットフォームで利用できるタイトルは不十分で、2014年にはEBIBを利用していた中小規模の図書館群はこのサービスの契約中止を決定した(28)。出版社のプラットフォームであるEBIBの事実上の崩壊を受けて、図書館は大規模出版社と交渉を再開し、妥協できる解決策に達した。それは2015年の1月までに最大規模の出版社らのタイトルを、再びeReolenで利用可能にするというものだった。
eReolenへ大手出版社に戻ってきてもらうために、図書館は最初の6か月間、出版社が望むなら、「1部1ユーザー」モデルの下、プラットフォームで電子書籍を利用可能にすることを認めた。6か月が経過すると、「1部複数ユーザー」モデルに変更するが、必須ではない。このサービス利用の再開により劇的に利用が増加し、再び大手出版社のいくつかが2015年後半にプラットフォームから撤退することになった。しかし、今回は国内第二の出版社が残ったことから、2012年に比べ人々への提供タイトルの減少幅は小さかった(29)。
このボイコットは2017年、CJEUの判決結果をもってデンマークの文化大臣が電子書籍貸出に関して法律で出版社に強く対応するまで継続した。その後、大手出版社はeReolenと再交渉し、いくつかの中小出版社を除きデンマークの出版社はこのeReolenに提供するようになったのである。
現在では、このプラットフォームは書籍、コレクション、出版社に応じた3つの貸出モデルを運営しており、すべてのコレクションにアクセス可能な「無制限」モデル、「1部1ユーザー」モデル、それから「1部複数ユーザー」モデルである。以前は「1部1ユーザー」から「1部複数ユーザー」へと6か月経過後に移行するモデルであったが、現在は1出版社が提供するタイトルのうち「1部1ユーザー」のタイトルは40%以下に留めるというモデルに置き換えられた。デンマークで利用できる電子書籍のおおよそ60%がこのプラットフォームから利用可とされており、残りの40%は出版社から提供されなかったものと図書館がライセンスを要求しなかったものの組み合わせとなっている。2017年に25万6,000人の利用者数が2018年には53万5,000人の利用者数になり、それはデンマーク人口の10%にあたる(30)。
eReolenの発展にみる紆余曲折は、図書館の貸出に対する出版産業側の曖昧な態度とともに、電子書籍を消費者に販売する最良の方法について出版産業側に確信がないことを、一面において物語っている。2017年、CJEUの判決後にデンマーク政府が介入し、出版社に決断を強いたことは重要なことである。この事例のみならず、時によっては異なる状況で、欧州の出版社は政府による著作権改正という脅威にさらされてアクセスと著作権の問題に積極的に対応しているように見受けられる。デンマークの事例では、他にも政府の重要な役割を見ることができる。最初にeReolenを設立した際の、公共図書館と文化王室庁の連携である。
電子書籍は1990年代後半に研究図書館(大学図書館、国立図書館など)で利用可能になり始めたのだが、議論の焦点の多くは欧州においては公共図書館がいかに電子書籍にアクセスできるかというところにあった。しかし、電子書籍「問題」のもう一つの重要な側面は図書館相互貸借にあった。
大学図書館や国立図書館は、自館内で見つからない際に利用者のために他の図書館から紙の書籍を借りて提供するが、たいていの場合電子書籍では可能ではない。技術的保護措置により、購入または法定納本により入手した電子書籍を別の図書館に貸し出すことが出来なくなっている。電子書籍をある図書館から別の図書館へと貸出できない場合、研究者には2つの選択肢しかない。所蔵している図書館まで出向いていくか、行っている研究の一部に関わりのあるそのタイトルを参照資料としてふれないか、である。明らかにどちらの選択も望ましくない。この件に関しては、図書館からの強い介入―図書館コミュニティが政策課題に対して見せる普段の弱い反応を踏まえるとなさそうなことであるが―または政府の介入なしでは、研究目的での電子書籍へのアクセスは紙の書籍に比べかなり制限された状況がつづくとみていいだろう。
書籍がアナログであったかつては必要とされなかったにもかかわらず、インターネットの時代に電子書籍へのアクセスを求めて、その図書館へ出向いていく必要が生じてしまう。このことは、インターネットの出現が生み出した多くのアクセス関連の矛盾点の一つに過ぎない。
電子書籍に関連して図書館が直面している上記のような数多くの課題を考えると、図書館が電子書籍貸出のプロセス全体を管理運用するのが一つの解決策かと思われる。上記で概観したように、米国におけるインターネット・アーカイブは、フェア・ユースという米国の著作権の原則を主張し、図書館との協力により紙の図書を電子化し、図書館が所蔵するアナログの図書冊数にあわせた数の貸出制限を行う技術的保護措置を設けて電子書籍の貸出を行っている。このシステムでは、独自の電子プラットフォームを運用して資料を貸出し、「返却」して、独自の技術で管理している。この技術は決してユニークというわけではない。英国図書館(British Library)も、2003年以来、技術的保護措置を使い、期限付きで論文記事を特定の利用者に電子的に提供している(31)。
こういった電子書籍貸出システムの利点は、1か所で安全に制御でき、理解しやすく、問題があればたやすく検証可能であることである。また、図書館が選んだあらゆる図書を購入し、電子的に貸出可能となる。これはすべての欧州の国々でできなかったことである。
VOB対Stichting Leenrechtの判決について欧州の図書館界内での批判のひとつは、電子書籍貸出の制限をアナログの書籍の例と同じく、「1部1ユーザー」にしたことである。この電子書籍貸出技術は、複数ユーザーへの書籍貸出モデルを可能とするが、業務の基礎となる法律の観点からは、実用的でたやすく理解できる解決策に思われる。欧州の著作権法に導入された場合、基本的な基準を形作るものとなり、適切な追加ライセンスや公貸権による補償金を踏まえて改善がなされる可能性がある。
電子書籍は、公共図書館を通じて貸出してほしい人々にとっても、大学図書館や国立図書館から館内でアクセスできない電子書籍にアクセスしたい研究者にとっても、多くの深く考えさせるようなアクセスの課題をもたらしてきた。欧州の図書館では、広範囲のタイトルを入手しようと苦労していて、期間限定貸出禁止措置が珍しくない。価格設定や著者が受け取る補償金の割合についての懸念も広く図書館界で表明されている。図書館の貸出を規則化する著作権法からライセンスへの移行は難題であり続けており、人々にとって購入可能な電子書籍数と、図書館で貸出可能な数との間には非常に大きな差があるといえる。CJEUによる画期的な判決があるにもかかわらず、判決は欧州の公共図書館の運営者たちから無視され続けてきたように見える。つまり、図書館はいまや出版社の選択、すなわち、何を、いつ、どうやって図書館向けの電子書籍として提供することを認めるかに依存している。紙の書籍貸出に関しては図書館の権利と自由はまだ継続しているが、いまや電子書籍貸出は異なる例となっており、図書館の使命とは異なる出版社のビジネスとしての決定にほとんど完全に支配されているのである。スウェーデン図書館協会が2012年に出した声明のように「新しい司書にあいさつを」。
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(2) “Amazon's Kindle to launch in UK”. BBC News. 2009-10-07.
http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/8294310.stm [515], (accessed 2020-03-07).
(3) Swedish Library Association. “Say hello to your new librarian”. Yumpu.
https://www.yumpu.com/en/document/read/10267688/say-hello-to-your-new-librarian [516], (accessed 2020-03-07).
(4) Castell, Christina de; Whitney, Paul. Trade eBooks in Libraries: The Changing Landscape. De Gruyter, 2017, p. 67, (IFLA publications, 172).
(5) Bergstrom, Annika et al. Books on Screens: Players in the Swedish e-book market. Nordicom, 2017, p. 142.
https://www.nordicom.gu.se/sv/system/tdf/publikationer-hela-pdf/books_on_screens._players_in_the_swedish_e-book_market.pdf?file=1&type=node&id=38864&force=0 [517], (accessed 2020-03-07).
(6) Ibid.
(7) スウェーデンの公共図書館における電子書籍(オーディオブックを含む)の年間貸出回数の推移は、2015年:150万4,646回、2016年:187万9,363回、2017年:179万5,501回、2018年:229万6,562回となっている。
(8) Commission of the European Communities. “Directive 2006/115/EC of the European Parliament and of the Council of 12 December 2006 on rental right and lending right and on certain rights related to copyright in the field of intellectual property (codified version)”. EUR-Lex. 2006-12-27.
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/115/oj [518], (accessed 2020-03-07).
(9) “C-174/15 - Vereniging Openbare Bibliotheken”. CURIA.
http://curia.europa.eu/juris/liste.jsf?num=C-174/15 [519], (accessed 2020-03-07).
(訳者注:Stichting Leenrechtはオランダの著作権使用料徴収団体)
(10) “Borrowing From The Lending Library - A Basic Guide”. Internet Archive.
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(11) “Deal on eLending in the Netherlands: Interview with the Dutch Public Library Association”. IFLA. 2018-10-31.
https://www.ifla.org/node/91647 [521], (accessed 2020-03-07).
(12) “FAQs for educational writers”. The Society of Authors.
https://www.societyofauthors.org/Groups/Educational-Writers/FAQs-for-educational-writers-(1), [522] (accessed 2020-03-07).
(13) Flood, Alison. “Ebook deals 'not remotely fair' on authors”. The Guardian. 2010-07-12.
https://www.theguardian.com/books/2010/jul/12/ebooks-publishing-deals-fair [523], (accessed 2020-03-07).
(14) “Half of Net Proceeds Is the Fair Royalty Rate for E-Books”. The Authors Guild. 2015-07-09.
https://www.authorsguild.org/industry-advocacy/half-of-net-proceeds-is-the-fair-royalty-rate-for-e-books/ [524], (accessed 2020-03-07).
(15) “Digital Economy Act 2017 Part 4 Section 31”. Legislation.gov.uk.
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(16) Giblin, R. et al. Available, but not accessible? Investigating publishers' e-lending licensing practices. Information Research. 2019, 24(3), paper 837.
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(17) Giblin, R. et al. What can 100,000 books tell us about the international public library e-lending landscape?. Information Research. 2019, 24(3), paper 838.
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(18) Giblin, R. et al. Available, but not accessible? Investigating publishers' e-lending licensing practices. Information Research. 2019, 24(3), paper 837.
http://InformationR.net/ir/24-3/paper837.html [526], (accessed 2020-03-07).
(19) Giblin, R. et al. What can 100,000 books tell us about the international public library e-lending landscape?. Information Research. 2019, 24(3), paper 838.
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(20) Gary, Nicolas. “Légaliser le prêt d'ebooks, sauver des auteurs”. ActuaLitté. 2017-10-27.
https://www.actualitte.com/article/monde-edition/legaliser-le-pret-d-ebooks-sauver-des-auteurs/85491 [528], (accessed 2020-03-07).
(21) Heurtematte, Véronique. “Franck Riester face aux préoccupations des bibliothécaires”. Livres Hebdo. 2019-06-06.
https://www.livreshebdo.fr/article/franck-riester-face-aux-preoccupations-des-bibliothecaires [529], (accessed 2020-03-07).
(22) “Comment améliorer l'offre de prêt numérique dans les bibliothèques ?”. ActuaLitté. 2019-01-30.
https://www.actualitte.com/article/tribunes/comment-ameliorer-l-offre-de-pret-numerique-dans-les-bibliotheques/93093 [530], (accessed 2020-03-07).
(23) Gary, Nicolas. “Légaliser le prêt d'ebooks, sauver des auteurs”. ActuaLittè. 2017-10-27.
https://www.actualitte.com/article/monde-edition/legaliser-le-pret-d-ebooks-sauver-des-auteurs/85491 [528], (accessed 2020-03-07).
(24) Ibid.
(25) Cowdrey, Katherine. “Tony Ross tops 'most borrowed illustrators' list”. The Bookseller. 2017-07-14.
https://www.thebookseller.com/news/tony-ross-tops-plrs-inaugural-most-borrowed-illustrators-list-587301 [531], (accessed 2020-03-07).
(26) Christoffersen, Mikkel. “Denmark”. Trade eBooks in Libraries: The Changing Landscape. Castell, Christina de; Whitney, Paul. De Gruyter, 2017, p. 114, (IFLA publications, 172).
(27) Ibid.
(28) Christofersen. op. cit, p. 116.
オーフス公共図書館とコペンハーゲン公共図書館はEBIBを利用していなかった。
(29) Christofersen. op. cit, p. 118.
2015年の出版社撤退による提供タイトルの減少幅は26%である。
(30) Christoffersen, Mikkel. “eReolen ? the Danish, national e-lending platform”. SlideShare. 2018-01-18.
https://www.slideshare.net/saintmichels/ereolen-the-danish-national-elending-platform-nordic-library-meeting-in-copenhagen [532], (accessed 2020-03-07).
(31) “Secure Electronic Delivery”. Wikipedia.
https://en.wikipedia.org/wiki/Secure_Electronic_Delivery [533], (accessed 2020-03-07).
“Secure Electronic Delivery (SED)”. British Library.
https://www.bl.uk/sed [534], (accessed 2020-03-07).
[受理:2020-05-26]
ワイト, ベンジャミン. 欧州の図書館と電子書籍-従来の公共図書館よ、安らかに眠れ?. 井上靖代訳. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1979, p. 21-27.
https://current.ndl.go.jp/ca1979 [535]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11509689 [536]
Benjamin White
Translation: Inoue Yasuyo
European Libraries and eBooks - RIP the Public Library as We Know It?
本著作(CA1979 [535])はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 パブリック・ライセンスの下に提供されています。ライセンスの内容を知りたい方は https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.ja [103] でご確認ください。
PDFファイル [547]
国際日本文化研究センター図書館:江上敏哲(えがみとしのり)
元・京都シネマ:谷口正樹(たにぐちまさき)
関西大学文学部:門林岳史(かどばやしたけし)
ワイズマン(Frederick Wiseman)監督による2017年公開のドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(以下「本作」)が、2019年5月から日本でも公開された。舞台となった米・ニューヨーク公共図書館(NYPL)は、蔵書数5,500万点、利用人数は年間1,700万人を超える、世界でも最大級の「知の殿堂」である(1)。ニューヨーク市の中心街・マンハッタンの5番街に面した本館は観光スポットとしても有名で、全体では4つの研究図書館(本館含む)と88の分館から成る。人類の遺産である稀覯書の保存・展示から、住民の生活に密着した地域サービスまで、その活動は幅広い。組織としては独立法人であり、運営資金は主にニューヨーク市からの出資と民間の寄付によるという(2)。公立ではないが公共・パブリックな施設であり、ニューヨークの多様な人種・民族・社会的立場の人々を受け入れる民主的な存在でもある。
ドキュメンタリーの巨匠と称されるワイズマン監督は、この映画でNYPLを様々な角度から捉えている。一見して「図書館らしくない活動」が次々に紹介され、またバックヤードや職員によるディスカッションなどの舞台裏が赤裸々に描き出される。パフォーミングアートやアフリカ系文化の紹介など特色ある図書館の活動や、種々のイベントでスピーカーが語る話題も印象的だ。ナレーションや解説、ストーリーらしきものが一切無く、先入観抜きで現場の映像に向き合えるのもまた魅力のひとつだろう。3時間を超すひとつのアーカイブかのようなこの映画を、図書館関係者に限らず多くの人が「目撃」し、図書館とは何か、その公共性と民主主義の柱としての意義を、あらためて広く伝えることに成功している。
本稿ではバックグラウンドが異なる3人の執筆者が分担執筆し、この映画で何を考えたか、どう感じとったかを、それぞれの観点から述べる。第1、2章は国際日本文化研究センター図書館司書の江上が、第3章は元・京都シネマ副支配人の谷口が、第4章はメディア論を専門とする関西大学文学部准教授の門林が執筆を担当した。
新聞記事の報道等(3)にもあったように、この「図書館映画」が非図書館関係者の人々に幅広く届けられ、好意的に受け入れられたことを、まずは喜びたい。図書館が無料で本を貸してくれる場所だということも大事ではあるが、それだけにとどまらない多種多様な活動と、その背後にある重要なミッションとが、映画を通して多くの人々に理解されたのであればこれ以上の幸いはない。
この映画で描かれた図書館のあり方を考えるうえで、映画本編、本作のパンフレット類、ジャーナリスト・菅谷明子氏がNYPLの活動を紹介した著書『未来をつくる図書館 : ニューヨークからの報告』(4)の他に、目を通しておくべき重要な日本語のコンテンツとして以下の5つを挙げたい。特に④と⑤は、映画本編では語られなかった、あるいは深められなかった重要なことを補ってくれる。
ナレーションや解説無しに現場やバックヤードを映し続ける手法について、菅谷氏は③のパネルディスカッションで「観客を「透明人間」として立ち会わせる」と表現している。非図書館関係者であれば見聞きしたことのないサービスや内輪の議論に「え、これが図書館?」と驚いたり感心したりで済むだろう。だが、図書館関係者、特に現役で働く司書にとっては内心穏やかではないかもしれない。自分がふだんどのような考えと心構えで職務にあたっているのかが、この映画への反応に現れてくる、という意味で「試される」ことになるからだ。他館のバックヤードに透明人間として立ち会うというのは、現役の司書にしてみれば異動・転職か在外研修で送り込まれた状態に近い。規模も活動内容の多様さも桁違いの現場と、同業者たちの議論を目の当たりにして、同じ司書としてはただ驚くのみという反応はまず無いだろう。未知の活動や多様さに戸惑うのか、興奮と希望を抱くのか、彼我の差に臍をかむのか、現実離れとして訝しく思うのか。
かく言う筆者自身は、この映画に描かれた図書館を「ごく自然なあるべき姿」として捉えた。図書館活動も、スピーチも、課題に対する議論と取り組みも、さほど目を見張るようなところはなく、おおむね図書館がそのミッションを果たすためにやるべきことをやっている姿であった。
たとえば、図書館が動画の素材となる際、(筆者も大好きな)本そのものや書庫の様子などが主役になるのが定番だが、この映画ではほとんど登場しない。そのことを人によっては不自然だと思うかもしれない。デューラー(Albrecht Dürer)の版画「サイ」について語る司書の様子などは図書館のイメージとして典型的だが、むしろこの映画内では少数派にすら見える。それよりも印象的なのは、対人活動の多彩さ、利用者の多様さであった。ネット等での感想の多くに、オランダの建築家による「図書館は人のためにある」というスピーチが登場するのも、その現れだろう。パブリックな場に人が寄り集まっている様子は、日本の公民館のようでもあり、あるいは広場や市場、本編でもたびたび映し出される公園にも似ていると言えるかもしれない。
では、公民館でも広場や市場でも公園でもなく図書館が、しかも本や書庫が登場しない映像の中で、市民に提供しているものとは果たして何だろうか。私は、それは “find” であろう、とこの映画から読み取った。レファレンスや読書で知識情報を「みつける」だけでなく、「わかる」「気付きを得る」様子も多く描かれている。そう考えれば、多くのスピーチや就活講座、ダンス教室も不思議ではない。そして、それによって見つけられる/得られるものこそが、作中でショーンバーグ黒人文化研究センター(NYPL の研究図書館のひとつ)館長が言う「必要な面倒ごと」なのだろう。不都合なことに目をつむるのではなく、世界の面倒ごとに真摯に向き合うこと。そのリソースと場所を提供するのが、図書館の役目である。真理がわれらを自由にする、とはそういうことではないか。
さらに言えば、それは単に誰かから与えられるものでも降ってくるものでもなく、市民たちからも働きかけてともに築いていくべきものである。ルーツ探しのレファレンスがユーザとのディスカッションのようになっていたことと、館長が図書館運営を公民協働として力説していたこととは、おそらく無関係ではない。
この映画に登場する図書館を筆者が「自然なあるべき姿」だと思うのは、これもパネルディスカッションの菅谷氏の言葉を借りれば「揺るぎない図書館のミッションがあり、それを軸にしつつも、時代やニーズの変化に応じてしなやかにサービスを変え」ているからだろう。そう考えれば、NYPL の活動規模と多様さは決して図書館の典型例ではないにもしろ、規模の大小やリアルな実践の有無はさほど問題ではないのではないか。図書館として果たすべきミッションがブレることなく明確であれば、結果として提供するものが紙かデジタルかはたまたダンスか、それは個々の図書館の事情と条件で様々に変わり得る。その距離は遠いかもしれないが、延長線上にある。この図書館の多彩でありながらどこかうなずけるものばかりである種々の活動は、そこが大都市ニューヨークだからできるのでも大規模館 NYPL だからできるのでもなく、ミッションがブレていないからできるのだ、ということを我々に教えてくれている。
(江上)
「最も偉大なドキュメンタリー作家」、「現代社会の観察者」と称されるワイズマン監督は、90歳となる現在に至るまで毎年1本のペースで新作を発表し続けている、まさに生ける伝説である。熱心なファンも多く、時おり開かれる特集上映やレトロスペクティブ(回顧上映)でこつこつと過去作を拾い集め、これまで監督した42作品をすべて網羅する強者もいる。さまざまな社会組織の構造を観察手法でとらえたその作風には一種の中毒性があるのかもしれない。近年の作品のほとんどが3時間を超える長尺であるにもかかわらず観客を飽くことなく惹き寄せているのがその何よりの証左であろう。
私たち劇場関係者としては本作の公開を大きな期待をもって迎えた。先駆けて公開した東京の岩波ホールでの盛況も伝え聞いていたのだが、想定を上回る数の人々の熱気に圧倒される。各種団体チケットの販売枚数や、劇場スタッフに届いた興奮気味の声、感想アンケートなどから従来のファン層に加え、多くの図書館関係者や教育関係者が劇場に足を運んでいただけたことが推測できた。後述するように、この映画は規模の大小を問わず、日々の努力を通じてそれぞれの現場で全力を尽くす人々の胸を打ち、さらに言えば奮い立たせたのだ。
映画の冒頭にこんなシーンがある。「ユニコーンは架空の動物か?」という電話の問い合わせに中世の文献を参照して丁寧に答えるスタッフ。映画パンフレットによれば「人力Google」と呼ばれるNYPLの名物サービスだという。ミニシアターで勤務していると同じような経験をする。時には別の映画館で上映される映画について詳しく説明して上映時間を案内することもあるほどだ。シネコンと呼ばれる現在主流の映画館の多くが電話対応には自動音声を採用しているため、結果的にうまく情報を検索できなかった利用者は機械ではなく生身の話し相手を求める。私たちはそのような方々が、次の機会に劇場に足を運んでもらえるよう上映館を問わず、可能な限り丁寧に案内するようにしている。同様の問い合わせは平均すると日に十数件、微小な数とする見方もあるだろうが既存のシステムからこぼれ落ちる対象から目をそらさないという姿勢は映画で描かれているNYPLの基本スタンスに通ずると感じた。
もうひとつ印象深いシーンが、映画の中盤で図書館建築に実績のある建築家が「図書館とは本の置き場ではない、図書館とは人だ」と語る場面である。実際映画の中でも図書館そのもの、つまり書架や受付カウンター、資料室だけを写した映像は驚くほど少なく、代わりにカメラは利用者や職員、図書館にかかわる多種多様な人々の営みを追っていく。漫然と散りばめられたように見える雑多なピースが次第に組み合わされ、NYPLという総体が色鮮やかに立ち上がる構成は圧巻と言える。この驚くほど精緻な編集の妙味がワイズマンをしてほかの凡百のドキュメンタリー作家には簡単に到達できない域へと導いている。スクリーンに登場する人々は階級、人種、民族というそれぞれ違う立場、異なるカテゴリーから別々の主張を繰り広げていて、米国の民主主義のしなやかさを見た思いである。
最後に蛇足は承知で付け加えたい。切り取られた多様な断片の中で唯一、映画の中に何度も繰り返し挿入される場面がある。それはNYPLを運営していく幹部たちの会議の模様である。資金繰りや地域行政、IT化への課題、よくここにカメラが入れたなあと感心するほど赤裸々な意見交換が記録されている。電子書籍か紙の本か、ベストセラーか推薦図書か。限りある予算の中でサービスのバランスをとることは非常に難しく、その点、映画館の番組編成と似通った悩みであり身につまされる思いで見た。ともあれ舞台裏で奮闘する職員たちの存在は、多くの人々を励まし、普遍的な共感を得たはずだ。それはこの作品が批評家の評価だけでなく興行的にも成功したひとつの要因と言えるのではないだろうか。
(谷口)
「私にとって、図書館とは本のことではありません。……図書館とは人のことなのです」
図書館という被写体の複雑で多層的な面を描くこの映画をあえて一言で表現するならば、この言葉をおいて他にないだろう。本作のなかほど、関係者向けの説明会と思われるシーンにおいて、壇上に立つ女性建築家が発する言葉である。ナレーションとキャプションを一切排し、説明的なカット割りも最小限まで節約するダイレクト・シネマの手法で撮られているため、映画内でこの人物について知りうることは少ないが、少し調べてみると、この女性はオランダの建築家ホウベン(Francine Houben)であり、建築事務所mecanooを率いてこれまでに図書館を含む公共建築の設計を手がけてきた経歴を持つことが分かる。
この映画が撮影される2015年頃に先立って、NYPLは、歴史的な建造物である本館と、隣接する分館であるミッドマンハッタン図書館の大がかりな改築計画を進めてきた。本館に収蔵されている閉架の貴重資料や学術書を別の場所に移すことで、市民に開かれた広大な閲覧室を作り出し、現代的な機能を備えた図書館へとアップデートするとともに、老朽化が進んだミッドマンハッタン図書館の貸出図書館としての機能を本館に移設するというものである(当初の計画ではミッドマンハッタン図書館は売却予定)。しかし、英国の著名な建築家フォースター(Norman Foster)が設計を担当したこの計画は多くの批判の声にあい、紆余曲折を経て2014年に白紙撤回されてしまう。それを受けて2015年に代替の設計者として選出されたのがホウベン率いるmecanooであり、映画では、新たに選出された建築家を披露する会合のシーンが挿入されていると推測できるのである(その後mecanooは、ミッドマンハッタン図書館の改築から取りかかり、2017年に工事が始まっている)。
その席上、ホウベンが述べる「図書館とは人のことです」という言葉は、確かに図書館という公共施設が担うべき役割の本質をつくとともに、この映画が描く図書館の姿を要約してもいる。実際、3 時間を超えるこの映画の大部分は、図書館で働く人々や図書館を訪れる人々、とりわけ、図書館内で行われる様々なアクティヴィティを記録した映像で占められている。そのなかには『利己的な遺伝子』で知られる進化生物学者ドーキンス(Richard Dawkins)や英国のミュージシャン、コステロ(Elvis Costello)のような著名人による講演の模様もあるが、それ以外にも、ブロンクス地区にある分館内のスペースで勉強する地域の子どもたちとそれをサポートするスタッフたち、チャイナタウンの分館でパソコンの使い方を英語と中国語の両方で手取り足取り教えてもらう中国系住民、身体障害者に向けた住宅補助を受給する権利についてのレクチャーなど、実に多様であり、あらゆる市民に知識にアクセスする権利を与えるという図書館の使命は、図書館に人が息づいていてこそ果たされるのだと実感させられるだろう。
ここで先に触れたNYPL本館の大改築計画に立ち戻ってみよう。この計画の背景には、年々減少する図書館の予算とともに、情報化社会の波に押されて低下し続ける蔵書の利用率があったとされている。すなわち、超一等地にある本館を、稀にしか閲覧されない大量の専門的な書籍や資料から解放し、デジタル時代にふさわしい現代的で市民に開かれた空間とするとともに、分館売却によって図書館の機能を整理して運営コストを軽減させよう、という狙いがあったのである。その是非はともかく、情報技術の浸透とともに知識のあり方が抜本的に変貌しつつある時代に見合った提案であったことは否定できないだろう。実際、映画内でも、家庭にインターネットのアクセスがない市民にWi-Fi機器を無償で貸し出すプログラムの説明会や、貸出ニーズが増え続ける電子書籍タイトルのライセンス契約戦略について重役たちが議論する会議のように、図書館が提供するべき知識へのアクセス権のあり方が変貌しつつあるさまが描かれている。「図書館とは本のことではない」とは、図書館についての普遍的な箴言であるばかりでなく、デジタル化の流れのなかで揺れ動く図書館の姿を言い当てた言葉でもあるのだ。本映画のタイトル“ex libris”は、「~の蔵書より」という意味のラテン語であり、西洋諸語において「蔵書票」のことを指す。だが、この言葉を「書物から離れて」と解することも可能であろう。では、図書館は、綴じられた紙の束という物理的な書物の体制を離れて、どこへ向かうべきなのだろうか。人に向かうべきなのだ。映画を見終えた観客は、静かな感銘とともにそのことを確信するにちがいない。
(門林)
(1) “About The New York Public Library”. New York Public Library.
https://www.nypl.org/help/about-nypl [549], (accessed 2020-02-07).
(2) “Annual Reports”. New York Public Library.
https://www.nypl.org/help/about-nypl/annual-report [550], (accessed 2020-02-07).
(3) 余録 : 毎朝、当日券を求めて長い列ができる…. 毎日新聞. 2019-06-16, 朝刊[東京].
https://mainichi.jp/articles/20190616/ddm/001/070/116000c [551], (参照 2020-02-07).
(4) 菅谷明子. 未来をつくる図書館 : ニューヨークからの報告. 岩波書店, 2003, 230p., (岩波新書, 837).
(5) 鈴木一誌. 多からなる一 : フレデリック・ワイズマン監督『エクス・リブリス : ニューヨーク公共図書館』. 現代思想. 2018, 46(18), p. 69-77.
(6) “『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』 公開記念パネルディスカッション : ニューヨーク公共図書館と<図書館の未来>”. ムヴィオラ.
http://moviola.jp/nypl/event.html [552], (参照 2020-02-07).
(7) ミモザフィルムズ. “『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』 公開記念パネルディスカッション ニューヨーク公共図書館と<図書館の未来>第二部”. YouTube. 2019-05-06.
https://www.youtube.com/watch?v=GIciohenaq4 [553], (参照 2020-02-07).
(8) “スゴ本と読書猿が映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を語り尽くす”. はてなニュース. 2019-07-13.
https://hatenanews.com/articles/2019/07/13/180000 [554], ( 参照 2020-02-07).
(9) 豊田恭子. もうひとつの『ニューヨーク公共図書館』 : 映画の背景にあるものを読み解く. LRG = ライブラリー・リソース・ガイド. 2019, 28, p. 99-109.
[受理:2020-02-19]
江上敏哲, 谷口正樹, 門林岳史. 映画評『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1968, p. 2-5.
https://current.ndl.go.jp/ca1968 [555]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11471486 [556]
Egami Toshinori
Taniguchi Masaki
Kadobayashi Takeshi
Film review: Ex Libris: The New York Public Library
PDFファイル [561]
早稲田大学図書館総務課:本間知佐子(ほんまちさこ)
慶應義塾大学メディアセンター本部:入江 伸(いりえしん)
2019年9月、早稲田大学と慶應義塾大学のコンソーシアムによる図書館システム共同運用が始まった(1)。このシステム共同運用の実現のため、2017年5月に「早稲田大学図書館と慶應義塾大学メディアセンターのシステム共同利用による連携強化に関する覚書(協定書)」(以下「覚書」)を締結(2)し、それ以来、早慶図書館システム共同運用検討会議(以下「早慶検討会議」)を組織し、具体的な検討を進めてきた。本稿では、システム共同運用が求められることになった背景・共同運用に向けた両館の取り組み、共同運用するシステムの環境構築に関する検討状況・今後の課題と展望について述べる。
日本の大学図書館(以下「図書館」)では、2000年ごろから電子ジャーナルの導入がはじまり、現在では、早慶ともに電子資料費が資料費全体の60%以上を占めるようになっている。しかし、電子資料を管理する職員数は、極めて少人数であり、紙資料の管理に多くの人手と経費が費やされている。
紙資料の管理は、資料の受入・目録作成・閲覧へと流れ、図書館の中で完結する(図書館間協力のShared Catalogはあるが)。その一方、電子資料の管理は、図書館の外で作られるグローバルなデータ(リンクリゾルバ、ディスカバリー;CA1772 [562]、E2125 [563]参照)を活用しながら、契約・支払などの各大学固有の情報を追加することで、図書館のサービスにつなげていく。そのため、電子資料に関する業務は、外部データの精度が業務効率に影響することになり、データの精度を上げるためには、出版社・プロバイダーやシステムベンダーとの連携が必須となるため、図書館内で閉じていては業務が進まない。
このように、今の図書館は紙資料と電子資料の2つのワークフローの運用を求められている。紙資料のワークフローを整備し、保存のコストを含め運営を効率化しつつ、電子資料の利用環境を整備し、紙資料と電子資料を統合した新しいサービスを作り上げていくことが急務となっている。
今後、紙資料は、利用のための電子化を進め、電子資料のサービスへ統合させながら、大学毎の蔵書という価値観から離れ、複数大学で紙資料の共同管理を行うShared Print(CA1819 [564]参照)の方向へ向かうと考えられる。世界的には、その方向に対応するため大学コンソーシアムを組織し、システム共同運用(CA1896 [565]参照)へと進んでいる。早慶ともにこの流れに合流するため、その基盤として大学コンソーシアムでの図書館システムの共同運用が必要であると思っていた。
早慶図書館間での協力の歴史は古く、早稲田大学図書館(以下「早稲田」)と慶應義塾大学メディアセンター(以下「慶應」)は、今から30年以上前の1986年4月1日に「早稲田大学および慶應義塾大学の図書館相互利用に関する協定書」を締結し、お互いの学内利用に近い条件を定めて早慶間での相互利用を開始している。1990年代には共同研修や人事的な交流等も行うようになった。
2000年以降、早慶とも図書館員の削減が進んだ一方で、図書館員のスキル維持についての考えが異なってきた。早稲田では図書館職員も一般の事務職員と同様な異動ローテーションとする傾向が強くなり、慶應では、比較的図書館内の異動の割合が高いまま進んだ。それによって抱えている課題を、システム共同運用による連携を進める中で補完していく必要がでてくるだろう。
早稲田は、1980年代からの紀伊國屋書店との共同プロジェクトでOCLCのWorldCatへの目録登録を進めてきた。この結果、世界の図書館からWorldCatを経由して早稲田にILLの依頼が寄せられるようになった。慶應は、1998年のシステムリプレースを契機に目録レコードのデータ形式をCATPからMARC21へ変換し、米国の研究図書館グループ(RLG)のメンバー館となり、和書の目録データのRLGの書誌ユーティリティResearch Libraries Information Network(RLIN;CA1219 [566]参照)への登録を行うようになった。2007年には、Google Library Projectへ参加し、著作権切れの12万冊の和書とメタデータを提供し、Google Booksや慶應の検索システムから全文を閲覧することができるようにしている。その経験から、慶應ではISBNが制定される前に発行された資料の識別には、国際的にOCLC番号か米国議会図書館管理番号(LCCN)がURIの基礎となることを思い知らされ、メタデータの相互運用性を確保するために、OCLC番号の必要性を強く感じていた。
早慶ともにシステム共同運用の先にShared Printを考えていたため、システム共同運用が最終目標とは思っていなかった。共同運用を積み上げる中で、相互理解・業務の再構築を進め、Shared Printの流れに向かっていくことが重要であると感じていた。また、Shared Printの効果を出すために、図書館の置かれている環境(紙資料と電子資料、利用者、資料費)が似通っていたほうがいいと思っていた。そのため、共同運用の相手としてお互いに早慶しかないという意識が強かった。
前章で述べた背景を受け、2015年3月、早稲田の深澤館長と慶應の田村所長で共同運用についての意見交換があり、前向きに検討を進めることが確認され、定期的に勉強会を行うことになった。1年半ほどの勉強会の後、2016年7月に早稲田の深澤館長と慶應の赤木所長との懇談が行われ、システム共同運用の具体的な検討に入ることになった。
共同運用に向けて検討する課題は多く、個別に分担割合を決めることが困難だったため、平等(1対1)を原則とし、具体的な議論を進めることにした。また、新しくワークフローを考え直すということも確認し、業者選定にあたっては、早慶で要求仕様をまとめ、複数業者へ提案を依頼し決定することにした。
早慶での半年以上の検討の結果、2017年5月12日に覚書を締結した(3)。覚書には、以下のように書かれている。
目的
覚書を受けて、2017年5月25日、第1回の早慶検討会議が開催された。まずは、提案依頼書(Request For Proposal:RFP)を作成することになり、ほぼ3か月かけて英語版(正式版)と日本語版を作成した。このRFPの冒頭には、共同運用の目的・メリットとして以下の点が記載された。
2017年8月にRFPを国内外の8社へ送付し、回答締め切りを9月とした。国内4社・海外2社は辞退し、海外2社から提案があった。その後、早慶で提案書の採点を行い、2社のプレゼンを受けた。2017年11月、最終的にEx Libris社の提案が採用され、クラウド型の図書館システム(CA1861 [567]参照)としてAlma、ディスカバリーインタフェースの統合検索システムとしてPrimo VEで進めていくことになった。
Ex Libris社のAlmaを選定した主な理由は、以下の通りである。
特に、早慶で共同運用を行っていくため、大学毎の独自運用も行いながら、連携可能な業務からコンソーシアム運用へ移行できる柔軟性があること、紙資料のワークフローを簡素化・効率化し、電子資料の業務を最適化していくため紙資料と電子資料を同じように扱えることの評価が大きい。
また、この時期に、Innovative社の図書館システムINNOPACユーザであった香港の大学コンソーシアムがEx Libris社のAlmaを選定する(4)など、国際的に大学図書館コンソーシアムのシステムとしてAlma導入が続いていたことも追い風となった。Primo VEについては、新しいシステムのため不安はあったが、これからの中核システムであるというEx Libris社の提案に期待することにした。
2018年2月、Alma/Primo VEの正式契約を行った(5)。
選定後ただちに早慶検討会議で、それぞれのシステムの具体的な検討を開始した。業務ごとに、目録(受入・雑誌を含む)、閲覧(Almaではfulfillmentと呼ばれている)、電子資料、ディスカバリー、システム(総務を含む)のチームをつくり、全体の集約のためにリーダー会議を開催することにした(6)。同時に早慶それぞれの会議体も持ち、個別にシステムの調整も行った。早慶リーダー会議は、現在も継続して開催され、問題の大きな日本語検索などのローカライズや運用で問題となってきたことを継続して検討している。
今回のシステム共同運用にとって最大の課題は、目録であった。基本方針として、早慶の目録を統合すること、統合後は早慶共同目録とし、WorldCat への登録を継続することが決定された。
目録部門の統合にあたっては、慶應で基本的な立案を行い、双方で検討を進めた。書誌統合における目録形式の課題は、これまで日本語の書誌で維持してきた、分かち書き、カナの取り扱い、書誌単位、ローカルタグ、ローマ字表記などがあり、以下のような方針に基づいた処理が決定された。
上記の方針に合わせて、統合の前に慶應ではローマ字を早稲田に合わせて変換した。この統合処理によって、全体の30%の書誌が統合された。運用開始後は、通常の目録業務の中で統合が進められていき、相互貸借が日常化されることで、紙資料の共有が進み、システム共同運用のさらに先の目標であるShared Printの基盤となっていくだろう。
目録の委託業者の選定についても、連携の原則に則って行った。書誌データの WorldCat への登録を前提としていたため、委託業者のスキルに対する不安はあったが、委託業者に対してそのスキルを必須としなかった。これは、選定業者を狭めたくなかったということと、職員でノウハウを蓄積していくという覚悟によるものであった。この結果、早慶目録ユニットは慶應に置かれ、株式会社キャリアパワーを委託業者として運用を進めている。
早慶それぞれで受入した資料は、慶應内に設置した早慶目録ユニットへ送付され、そこで共同目録を作成、点検後に各図書館(早稲田は中央館)へ送付される。この資料の物流のために早慶便は毎日運行されている。目録作業中に、統合されていないそれぞれの書誌データがヒットした場合は、データを統合し、全ての図書はWorldCatへ登録する。書誌の作成やWorldCat登録のための支援システムは、Alma のインターフェースから利用できるように個別に開発した。
雑誌の受入については各大学で行うが、書誌に関わる変更があれば、目録ユニットで修正する。早慶とも国立情報学研究所(NII)のNACSIS-CATへの登録は続ける予定である。
Almaではコンソーシアム用のネットワークゾーンに早慶の目録だけではなく、発注書誌や電子資料の書誌も共有している。大学毎のゾーンも同様に存在するため、複雑な構造になる。慶應では、紙と電子のデータの整合性を維持していくため、これまで分かれていた紙資料と電子資料の管理部門の統合など、組織改革も行っている。
これからは、早慶間での図書の予約・貸出や分担収集等についても検討を進めていく。その中で、Shared Printも具体的なターゲットにしていく。
システム共同運用の開始後は、早慶資料をWorldCatへ登録していくが、その登録コストを個別大学が長期に負担していくことは難しい。今後、日本語の資料を国際的に流通させ、データ相互運用を実現していくため、国立国会図書館(NDL)と国内の他の図書館が連携し、登録のための仕組みを作っていくことが重要だろう。
電子資料ではディスカバリーから契約済みのタイトルの全文へうまくリンクできない場合があり、この解決のために、出版社・図書館・システムベンダーと連携して、リゾルバ(Knowledge base:KB;CA1784 [568]参照)やディスカバリー用のメタデータ流通のための協力体制も必要である。
早慶の図書館システム共同運用の議論の中で、多くの問題はあったが、具体的な議論を深めることで、連携という目的が揺らぐことはなかった。それは、両者が危機感と目的を共有しながら相互理解を進めてきた成果であったと思っている。
まだまだ問題は多いが、国際的な図書館プラットフォームへ移行したことにより、これから強制的にシステムのアップグレードが行われ、図書館業務もそれに合わせて再構築を続けていくことになる。
これからが本当のはじまりである。
(1) “早・慶図書館システム共同運用開始”. 早稲田大学. 2019-09-03.
https://www.waseda.jp/top/news/66247 [569], (参照 2019-10-28).
“早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター日本初となる図書館システム共同運用を開始”. 慶應義塾. 2019-09-03.
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2019/9/3/28-62756/ [570], (参照 2019-10-28).
(2) “早稲田大学・慶應義塾大学 日本初・図書館システムの大学間共同運用に向けた覚書締結”. 早稲田大学. 2017-05-16.
https://www.waseda.jp/top/news/51024 [571], (参照 2019-10-28).
“早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター日本初・図書館システムの大学間共同運用に向けた覚書締結”. 慶應義塾. 2017-05-16.
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2017/5/16/28-20689/index.html [572], (参照 2019-10-28).
(3) 前掲.
(4) “Hong Kong Joint University Librarians Advisory Committee JULAC Selects Alma and Primo for Shared Library Services Platform”. Ex Libris. 2016-06-07.
https://www.exlibrisgroup.com/press-release/hong-kong-joint-university-librarians-advisory-committee-julac-selects-alma-and-primo-for-shared-library-services-platform/ [573], (accessed 2019-10-28).
(5) “早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター共同運用図書館システムにEx Libris社のAlma・Primo VEの採用を決定”. 早稲田大学. 2018-03-08.
https://www.waseda.jp/top/news/topic/57500 [574], (参照 2019-10-28).
“早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター共同運用図書館システムにEx Libris社のAlma・Primo VEの採用を決定”. 慶應義塾. 2018-03-08.
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2018/3/8/28-42737/ [575], (参照 2019-10-28).
(6) 鈴木努. 「早慶図書館業務共同化プロジェクト」の目標と現状、展望について. ふみくら. 2018, 94, p. 2.
http://hdl.handle.net/2065/00057721 [576], (参照 2019-10-28).
[受理:2020-02-13]
本間知佐子, 入江伸. 早稲田大学・慶應義塾大学コンソーシアムによる図書館システム共同運用に向けた取り組みについて. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1969, p. 6-9.
https://current.ndl.go.jp/ca1969 [577]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11471487 [578]
Homma Chisako
Irie Shin
Challenges of the Keio-Waseda Consortium for the Establishment of a Joint Library System
PDFファイル [588]
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター(下記以外を執筆):兎内勇津流(とないゆづる)
北海道大学文学研究院(第4章1を執筆):石原真衣(いしはらまい)
北海道博物館アイヌ民族文化研究センター(第4章2を執筆):亀丸由紀子(かめまるゆきこ)
IFLA先住民分科会(Indigenous Matters Section)は、多文化サービス分科会から2017年に独立した新しい分科会である(1)。兎内は、日本図書館協会の推薦によりその委員に選出され、1期目(2017年から2021年まで)を務めている。これは、図書館における多文化サービスの推進を図る「図書館と多様な文化・言語的背景をもつ人々をむすぶ会(むすびめの会)」(2)関係者が、IFLAに先住民分科会を成立させるために日本から委員を出して協力したいと動いた結果と理解している。新任委員の感想であるが、先住民をめぐる状況は国によって大きく異なり、その社会的・政治的・経済的・文化的位置づけ、民族の組織の在り方と政府の対応には、非常に大きな差があると言えるであろう。しかし同時に、共通点に注目することも重要である。図書館は先住民に対してどのように活動していけばよいのか、その文化の保存・伝承やコミュニティの発展に対して、どのような役割もしくは可能性があるのか。文化・教育機関の一翼を担う図書館の専門職集団としてこのことを考え、実践し、活動を広めていこうというのが、この分科会の方向性と理解している。
現在のところ、この活動が大々的に展開しているというわけではない。2019年は、2017年に選出した10人の委員に、さらに10人を追加で選出することになっていたが、かなり欠員が生じたようである。現在、この分科会を主導しているのは、ニュージーランドとカナダの委員である。
図書館の先住民プログラムというと、もしかすると公共図書館の仕事というイメージかも知れないが、ニュージーランドとカナダの両国とも、国立図書館、大学図書館、公共図書館がネットワークを結んでこれに対応している(3)。図書館は、資料の組織化、記録保存、デジタル化などを得意とする文化機関であるが、個々の図書館では(特に小さな村の図書館では)その人材や資金などのリソースは限定されたものとならざるを得ない。しかし、館種を超えた業界としての取組により連携してプログラムを行うことで、資料の散逸を防ぎコンテンツを共有し、利用しやすい体制をつくることが可能となるだろう。
ニュージーランドとカナダはこのような実践を進めつつあり、成果を出しつつあると思われる。その活動が先住民のコミュニティとの関係を構築しながら行われており、プログラムを進める図書館員の中にも先住民が加わっていることが、ひとつのポイントである。
2018年の第84回IFLA年次大会クアラルンプール大会(E2078 [589]参照)で、次年度の大会にどのようなセッションを設けるか議論した時、兎内から次のような提案をした。日本の図書館で、先住民であるアイヌ民族を対象とした図書館施策というのはこれまで行われてこなかったように思われる(郷土資料、あるいは研究資料としてアイヌに関わる資料が収集されることはあったにせよ)。こういう日本の状況について、アイヌ民族と、日本の教育行政担当者にセッションに登壇してもらい、それぞれの図書館とアイヌの関係への見方を発表してもらうのはどうかということである。この意見はたちまち採択され、セッション企画委員を拝命することになった。では誰にどのようにして行ってもらえばよいか。
人選についての紆余曲折は割愛せざるを得ないが、必ずしも提案どおりではないにせよ、日本におけるアイヌ民族の状況、および図書館・博物館との関係についてそれぞれの立場からスピーチしてもらうことが可能であろう、文化人類学を専攻しアイヌ出自をもつ人々の研究を行っている研究者1人(石原)とアイヌ民族の物質文化を専門とする博物館の学芸員1人(亀丸)の報告者を決定することができた。報告を準備する過程では、3人(兎内・石原・亀丸)で討議を重ねて報告を準備し、むすびめの会の協力を得て無事IFLA大会に臨むことができたのである。
2019年の第85回IFLA年次大会アテネ大会(E2205 [590]参照)の先住民分科会セッション「Gulahallan, Gishiki, tikanga: 対話をつくりだし、関係をすすめ、先住民の言語、知識、文化、つまりは先住民の表現・活性化・活力を促進する」(4)は、大会が終盤に近づいた8月29日朝8時半から始まった(写真)。報告は石原・亀丸と後述のカナダからの報告の3件である。本章は1節は石原が、2節は亀丸が、その他の箇所は兎内が執筆を担当した。
先ず、石原が「先住民の出自を一部持つ子孫のひとりの視点でみた図書館利用の考察」と題して報告した。石原は、先住民の出自を持ちながら沈黙する「サイレント・アイヌ」の歴史と現状について述べた。アイヌ民族を取り巻く状況は、日本型先住民状況とも呼びうる、地政学的に特殊な事例である。その一つの証左が、「サイレント・アイヌ」である。いまだに居留地や「先住民の村」などを有する海外諸国と比しても、北海道では、入植者があらゆる場所にすみずみまで移り住み、瞬く間に先住民族の一人ひとりを取り巻いたことに注目されたい。その帰結の一つとして、多くのアイヌ民族は、日本人化を徹底的に推進され、「アイヌであること」を継承できず、和人との混血を繰り返してきた。一方で、血が薄くなったとしても血を引くことで他者化されてしまい、今でも、結婚差別などに苦しむ人びともいる。先住民の出自を持つ人びとの多くが、アイヌにも、和人(多数派日本人)にもなれずに、社会空間を浮遊する。日本における先住民族が経験したことを、私はこれまで、「沈黙」と「透明人間」という言葉を使いながら、文化人類学的研究を行ってきた(5)。先住民分科会での発表では、そのような立場から図書館の可能性について提言した。
カナダに関する報告では、先住民女性が数千人規模で行方不明になっていることが述べられた。多文化主義や権利文化で知られるカナダで、このような事態が起こっていることに驚愕する。対岸の火ではない。日本における排外主義も深刻である。多文化共生がますます求められる日本において、多様性と、排外主義について同時に思考を深めることは特に重要である(6)。IFLA に参加して、図書館が持つ大きな可能性について、学ぶことができた。資料(様々な知)と、人と、場がある図書館は、これからますます変化を速めるであろう世界において、重要な教育の役割を担うだろう。さまざまな分断をつなぎ、新たな対話の回路を拡げてもらうことを、これからの図書館に期待したい。
続いて亀丸が「図書館と博物館のより良い関係性への提案」と題して、図書館と同様に文化施設である博物館で働く学芸員の視点から、日本の先住民族問題に関して両組織が協力してできることについて、現状や課題、展望を報告した。発表では、①日本の先住民族アイヌ民族について、②現在の日本が抱える問題とその原因、③日本の文化施設と先住民族アイヌ(博物館の現状 / 図書館の現状)、④博物館と図書館が協力してできること、以上4点についてそれぞれの具体例を交えながら日本の先住民問題に関する報告を行った。現在の日本では、アイヌ民族やアイヌ文化に関する基礎的な知識が広く十分に共有されているとはいえず、依然として誤解や先入観を持って捉えられてしまうことが多いという現状と課題がある。
博物館に勤務していると「どこに行けばアイヌの人に会えますか?」といった質問をしばしば受けるが、これは、アイヌ民族が未だどこかで伝統的な暮らしをしている、というようなイメージによるものであり、そうした誤解や先入観のほとんどが“マジョリティ(大多数)から見たアイヌ”という視点に基づいている。現在のアイヌの人々は上記のような伝統的な暮らしを営んでおらず、そのことはよく考えれば当たり前のことかもしれないが、このように、多くの人が無意識的に先住民やマイノリティといった人々に対して行ってしまっている当たり前のようで当たり前でないことを一緒に考えてゆくことがそうした課題解決の一歩だと考えている。
報告のまとめとして、日本の先住民分野における図書館と博物館の協力はあまり盛んではなく、今すぐに取り組めることとして、図書館と博物館の強固な関係づくり、司書や学芸員などそこで働くスタッフ互いの知識や経験、スキルを活かした研修会や勉強会の開催など、図書館と博物館が頻繁に互いの情報を共有できる場づくりの必要性を挙げた。2020年4月には北海道白老町に国立アイヌ民族博物館が開館する予定であり(7)、今後、博物館がそうした協力関係を生み出す場ともなってゆくことを期待したい。
最後に、カナダ国立図書館・文書館(LAC)のシャルボノー(Normand Charbonneau)、カナダ・マニトバ大学のカリソン(Camille Callison)の両氏が「カナダの図書館・アーカイブズにおける先住民言語 : 先住民コミュニティとともに変化のための対話をつくる」と題して報告し、LACが、先住民諮問グループ Indigenous Advisory Circle(8)のもと、先住民の写真や伝承などを先住民コミュニティと協力して収集・保存し社会に還元する“Indigenous Documentary Heritage Initiatives”を全カナダ的に進めていることを紹介した。
早朝の開始にもかかわらず、セッションには日本人も含めて50人以上が来場し、筆者らの報告に多くの質問、コメントが寄せられた。その反応はたいへん温かいもので、「日本における先住民族アイヌの存在を初めて知った」という声や、自国の実践例を紹介して「アーカイブ分野における図書館・博物館協力の参考にしてはどうか」といった意見・コメントが提示され、世界の図書館界で初めてアイヌを取り上げた報告をした意義を実感することができた。
今回、2019年IFLA年次大会のセッションの組織に加わり、日本の状況を発信することができたが、別にこれで何かが前進したということではない。単に国際会議で報告しただけで終わらせず、次は日本で今後の展開を図る必要がある。
2019年4月に、アイヌ民族をはじめて先住民族と明記した「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(通称:アイヌ民族支援法)」が成立した(9)。道内では、アイヌ民族の工芸等が空港や主要駅等人目に触れる場所に大きく展示されるようになったが、一方で、アイヌ施策関係の予算が減少している状況もあり、アイヌ民族の振興や社会的向上よりも、観光産業と結びついて表面的な関心を惹くことに終わることが懸念される。
そこで、最初に手をつけたいのは、図書館とアイヌ民族の関係について図書館員が実践を語り、認識や課題を共有する場をつくることである。次に、アイヌ民族関係の資料にはどういうものがあり、それぞれの図書館でアイヌ民族についての資料を収集するとしたら何がいいのか、書誌もしくはツールの整備に取り組むことが望まれよう。
北海道博物館より頒布されている「ポン カンピソㇱ(アイヌ語で「小冊子」)」というものがある。アイヌ文化に関する専門的な内容を親しみやすいかたちで紹介した冊子でこれまでに9冊刊行されている。アイヌ文化学習のための参考文献や、アイヌ文化を紹介する施設の情報も掲載されており、学びをさらに深める道しるべともなってくれる。尚、これはウェブサイト上でもダウンロードできるようになっている(10)。こうした仕事を基礎にして、今後は、各地の博物館や図書館に散在するアイヌ民族・先住民に関わる資料を、データベースやデジタル技術の力を使って協同で組織化していくことはできないものかと考えている。
アイヌ民族と日本の経験は、伝統的な生活が急速に失われた点、ある面特異とは言え、先住民が帰るべき村と文化・伝統を喪失して匿名的な存在として都市で暮らすようになるというのは、世界で広く生じている現象と見ることができるだろう。ならば、それに対する対応もある種の普遍性を帯びることになるかも知れない。
以上のことをふまえて、次にこのセッションに登壇する時には、日本の状況についてだけでなく、日本の図書館による実践について語ることができるように、関係者と相談しながらさらに取組を進めていきたいと考えている。
(1) “Indigenous Matters Section”. IFLA.
https://www.ifla.org/indigenous-matters [591], (accessed 2020-02-19).
(2) むすびめの会.
https://sites.google.com/site/musubimenokainew/ [592], (参照 2020-02-19).
(3) “Indigenous documentary heritage initiatives”. Library and Archives Canada.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/discover/aboriginal-heritage/initiatives/Pages/default.aspx [593], (accessed 2020-02-19).
“About”. Rōpū Whakahau.
https://trw.org.nz/about-us/ [594], (accessed 2020-02-19).
(4) “Session 252 - Gulahallan, Gishiki, tikanga: Creating Dialogues, Fostering Relationships, Promoting the Expression, Activation and Vitality of Indigenous Languages, Knowledge and Cultures - Indigenous Matters”. Congress Programme. p. 253-254.
http://react-profile.org/ebook/IFLA2019/CongressProgramme/252/ [595], (accessed 2020-02-19).
“Gulahallan”はサミ語で「対話」、“Gishiki”は日本語の「儀式」、“tikanga”はマオリ語で「進め方」を意味する。
(5) 石原真衣.〈沈黙〉の自伝的民族誌(オートエスノグラフィー) サイレント・アイヌの痛みと救済の物語.北海道大学出版会,2020,(近刊).
(6) 石原真衣. “われわれの憎悪とは?「一四〇字の世界」によるカタストロフィと沈黙のパンデミック”. 対抗言論 1号. 杉田俊介, 櫻井信栄編. 法政大学出版局, 2019, p. 185-195.
(7) ウポポイ 民族共生象徴空間.
https://ainu-upopoy.jp/ [596], (参照 2020-02-19).
(8) “Indigenous Advisory Circle”. Library and Archives Canada.
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/about-us/Pages/Indigenous-Advisory-Circle.aspx [597], (accessed 2020-02-19).
(9) アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(平成三十一年法律第十六号). e-Gov.
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=431AC0000000016 [598], (参照 2020-02-19).
(10) “アイヌ文化紹介小冊子『ポン カンピソㇱ』”. 北海道博物館.
http://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/study/ainu-culture/ [599], (参照 2020-02-19).
[受理:2020-02-20]
兎内勇津流, 石原真衣, 亀丸由紀子. 日本の図書館と先住民族:IFLA2019年アテネ大会先住民分科会でアイヌ民族を取り上げるセッションを組織して. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1970, p. 10-12.
https://current.ndl.go.jp/ca1970 [600]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11471488 [601]
Tonai Yuzuru
Ishihara Mai
Kamemaru Yukiko
Japanese Participation in Organization of the Indigenous Matters Session Dealing with Ainu Issues at the IFLA Annual Conference 2019
PDFファイル [612]
京都府立京都学・歴彩館:平井俊行(ひらいとしゆき)
2019年9月1日から7日までの1週間、国立京都国際会館をメイン会場として、日本で初めて国際博物館会議(International Council of Museums:ICOM)の大会「第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019(以下「ICOM京都大会2019」)」が「文化をつなぐミュージアム-伝統を未来へ-」をテーマに開催された(1)。著者が所属する京都府立京都学・歴彩館(以下「当館」)はサテライト会場の一つとなりソーシャル・イベントの企画にも当たった。今回はICOM京都大会2019の参加者であり、企画の一部にも関わった立場から、概要と感想をまとめた。
ICOMは、博物館の専門家により1946年に創設された(2)。UNESCOと公的な協力関係を結ぶ国際的な非政府機関(NGO)である。ICOMはICOM京都大会2019の開催時点で、138の国および地域から博物館の専門家4万4,500人以上が会員として参加し、世界の博物館の進歩・発展のために尽力することを目的として活動している。具体的にはICOM職業倫理規程を定め、研修等を通して博物館および文化財の専門家のスキル向上や人材育成を図るとともに、武力紛争や自然災害で被災した博物館を支援する仕組み作りなどを行っている。ICOMは専門分野別に組織された30の国際委員会と118の国別国内委員会から構成され、毎年個々の国際委員会の会合が行われているが、3年に1回一堂に会したICOM大会を開催し、国際委員会相互の情報交換の場としている。アジアでの開催は2004年の韓国・ソウル、2010年の中国・上海に次いで3度目となる。
ICOM京都大会2019の主な内容は次の表のとおりである(3)。
開催日 | 主な内容 |
9月1日 | ICOM各委員長等のみが出席する諮問協議会会議、国内委員会・国際委員会の委員長会議など |
9月2日 | 参加者全員による開会式 |
9月2日 から4日 |
基調講演、プレナリー・セッション(全体会合)、各国際委員会のセッション、ワークショップ、パネルディスカッションなどによる多彩な議論の展開 |
9月3日・ 4日の夜 |
参加者が京都市内の各所で日本文化を体験するソーシャル・イベント |
9月5日 | メイン会場外で行われる各国際委員会のオフサイトミーティング |
9月6日 | 美術館・博物館等の観光名所を巡るエクスカーション |
9月7日 | ICOM総会、閉会式 |
主要議題となったプレナリー・セッションでは2日「博物館による持続可能な未来の共創」、3日「ICOM博物館定義の再考」、4日「被災時の博物館」「世界のアジア美術とミュージアム」をテーマとして議論が行われた。
大会全体を通して、世界全体が気候変動や貧困、紛争、自然災害、人権抑圧などを背景として国際的に政治・経済・社会が変容している中、平和で持続可能なよりよい未来を構築するために、博物館は社会に対してどのように貢献できるのかを考えさせるものであった。その中では博物館同士の連携や国内外の多様な人々や他の文化・教育・研究施設等とネットワークを構築し、その存在価値を示し、過去から未来へと社会的役割を果たして行くことが重要であるとの議論が行われた。
著者自身は、業務と関連するいくつかのセッションに参加したが、個々のセッションでは大小様々な博物館がそれぞれの地域で他の施設・機関と地道な連携を図り、地域の文化施設として核となり機能するようになったとの実例が数多く紹介されていた。
ここでは、主要議題となったプレナリー・セッションの内、著者が参加した3つのテーマの会合について概要を述べる。
国連総会で2015年9月に採択された持続可能な開発目標(SDGs;CA1964 [613]参照)に示された17の目標と169の達成基準に、博物館関係者としてどのように取り組んで行くのかをテーマとしたワーキンググループでの議論を大会規模で展開したものである。多くのSDGsの目標と博物館は関係する可能性があるが、中でも17番目の「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」とはまさに直結したものである。博物館は、過去の遺産に対する証人であり、未来の世代のために人類の宝を守る砦となっている。さらに博物館には研究体制やネットワークがあり、教育普及活動を実践している。これらの点で“Cultural Hub”の機能を果たす機関であり、その機能をさらに充実したものとするため、今後多くのコミュニティと連携し、自分達の可能性を信じて邁進していこうとの議論が交わされた。
このセッションでは、社会の変化により博物館の担うべき役割が変わることから、大きな議題として取り扱われ、2019年7月に発表された新案について検討を行った(5)。背景には日本のように博物館法を独自に策定している国は少なく、ICOM規約で定める“Museum”の定義が国際的な基準となることが挙げられ、本大会の開催前から注目を集めていた(6)。
現在のICOM規約では、博物館の定義を第3条第1項において以下のように定めている。
ICOM 京都大会2019では、機能面だけでなく、文化遺産機関としての社会的役割にも十分な言及がなされた以下のような新案の検討が行われた。
その中でこれまでの先進国が考える理論から、植民地を経験した国や先住民をも含む文化の多様性を尊重する二元的な見方が必要である点が指摘され、先進国以外の国々の意見も尊重する定義である必要性が求められた。その他非常に政治的な提言を含む定義であり、定義ではなく理念ではないかといった意見や民主化を切望する国では現体制の下では実践することは困難との意見等もあった。博物館の果たすべき社会的役割の議論そのものの重要性は認識されたものの、まだ多くの課題があることから、ICOM 総会では博物館の定義を現時点で決定せず、引き続き討議を続けることとなった(9)。
このセッションでは、博物館の防災に関する事例発表等が行われ、地球環境の変化によりこれまで想像できなかったような大きな災害に見舞われていることから、災害時のコミュニティとの連携の必要性や事前に地域の防災計画の中に博物館を組み込んでおくことの重要性などが発表された。さらに「博物館災害対策国際委員会」と名付ける新たな国際委員会を設置して、継続的に協議をしていくことが決定した。その中で近年の災害対策から多くの知見を得ている日本が中心となって委員会を運営していくことも決まり、日本でのノウハウが世界の大規模な災害で活かされる機会が増える可能性がある点は、今後注目していきたい。
9月4日18時から当館所蔵の国宝「東寺百合文書(E1561 [614]、E1998 [615]参照)」を保管する地下収蔵庫の特別公開や「コミュニティとミュージアム」をテーマとしたICOM京都大会2019若手参加者によるプレゼンテーション「ペチャクチャナイト」が開催された。その他独自の取り組みとして、ICOM京都大会2019に合わせた当館所蔵資料の企画展示、近畿地方の博物館等を中心とした各館を紹介する展示や関連グッズの販売など多彩なイベントを催し、国内外の多くの参加者が来館した。
ICOM京都大会2019の企画ではないが、関連する催しとして9月5日に日本博物館協会が主催、当館が共催する「第67回全国博物館大会」が当館大ホールで開催された(11)。大会テーマはICOM京都大会2019とテーマを合わせた「文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―」である。フォーラムの中では、京都府内や京都市内で展開する博物館連携の様子や国立国会図書館の電子情報部職員による国の分野横断統合ポータル「ジャパンサーチ」(E2176 [616]参照)の構築に向けての取り組み状況が報告されるなど、博物館・美術館、図書館、文書館、企業、大学、研究機関など多くの分野の連携が模索されていることが報告された。
ICOM京都大会2019には、120の国と地域から過去最高の4,590人の参加があった。この1週間を総括すると、科学技術の進歩による世界のグローバル化と人知を超える自然の猛威からいかにして人類の遺産を守り、未来へ伝え、活かしていくことができるのかを真剣に議論する機会となった。
特に、博物館定義の見直しに関連して文化施設の社会的な役割の変化に関する議論が活発に行われた。その他の議論も含め日本の博物館関係者にとって、国際的な動向を把握する機会を得たことは大きな成果であった。さらに今回ICOM日本委員会が提案した「アジア地域のICOMコミュニティへの融合」と「“Museums as Cultural Hub”の理念の徹底」の2つが大会決議として採択された。前者については、欧州中心のICOMにおいてアジア地域の発言力を高める契機となったこと、後者については、4.1、4.2節等で言及した博物館の果たすべき社会的役割を議論する上で中心軸となる理念の重要性を提示したことで、今後日本がリーダーシップを発揮することの表明ともなった。
これから先の時代、デジタルアーカイブの共有化が進み、世界中の資料を瞬時に検索できるようになっていくことだろう。そのとき博物館、そして図書館を含めた文化施設は、社会全体にどのような価値を発信することになるのだろうか。さらに議論を深めたい。
(1) ICOM Kyoto 2019
https://icom-kyoto-2019.org/jp/ [617], (参照 2019-12-25).
“ICOM Kyoto 2019プログラムブック”. ICOM Kyoto 2019.
https://icom-kyoto-2019.org/jp/data/images/ICOM_Kyoto_2019_PB_jp.pdf [618], (参照 2019-12-25).
(2) ICOM.
https://icom.museum/en/ [619], (accessed 2019-12-25).
(3) “プログラム日程表”. ICOM Kyoto 2019.
https://icom-kyoto-2019.org/jp/schedule.html [620], (参照 2019-12-25).
(4) 原稿執筆時点で、ICOM京都大会2019の公式の大会実施報告書は公開されていないが、『美術手帖』のウェブサイト上で、いくつかのプログラムについては参加レポートが公開されている。
“ミュージアムは持続可能な社会にどう貢献すべきなのか? ICOMでセッション開催”. 美術手帖. 2019-09-03.
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/20474 [621], (参照 2019-12-25).
なお、大会の成果と課題については、ICOM京都大会2019運営委員長による、2019年11月8日に開催された文化庁の文化審議会第1期博物館部会(第1回)の配布資料において簡単な報告がなされている。
栗原祐司. “第25回国際博物館会議(ICOM)京都大会の成果と課題”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan01/01/pdf/r1422761_05.pdf [622], (参照 2019-12-25).
(5) “ICOM announces the alternative museum definition that will be subject to a vote”. ICOM. 2019-07-25.
https://icom.museum/en/news/icom-announces-the-alternative-museum-definition-that-will-be-subject-to-a-vote/ [623], (accessed 2019-12-25).
(6) “日本初開催。ICOM(国際博物館会議)京都大会で「Museum」の定義が変わる?”. 美術手帖. 2019-08-30.
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/20458 [624], (参照 2019-12-25).
(7) 日本語訳はICOM日本委員会が公開する「ICOM規約(2017年6月改訂版)」による。
“ICOM規約(2017年6月改訂版)”. ICOM日本委員会.
https://www.j-muse.or.jp/icom/ja/pdf/ICOM_regulations.pdf [625], (参照 2019-12-25).
(8) 日本語訳は「第67回全国博物館大会決議」の仮訳による。
“第67回全国博物館大会決議”. 日本博物館協会.
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/2019taikaiketugi.pdf [626], (参照 2019-12-25).
(9) “The Extraordinary General Conference postpones the vote on a new museum deinition”. ICOM. 2019-09-07.
https://icom.museum/en/news/the-extraordinary-general-conference-pospones-the-vote-on-a-new-museum-definition/ [627], (accessed 2019-12-25).
“ミュージアムは「文化のハブ」になれるのか? ICOMが問い直す「博物館」の定義”. 美術手帖. 2019-09-03.
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/20480 [628], (参照 2019-12-25).
“ICOM(国際博物館会議)京都大会が閉幕。「Museum」の新たな定義のゆくえは”. 美術手帖. 2019-09-07.
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/20510 [629], (参照 2019-12-25).
(10) “ミュージアムを災害からどう守るべきか? ICOMでセッション「被災時の博物館」開催”. 美術手帖. 2019-09-04.
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/20493 [630], (参照 2019-12-25).
(11) 第67回全国博物館大会については、日本博物館協会のウェブサイトに開催要項・大会決議等が掲載されている。
“第67回全国博物館大会開催要項”. 日本博物館協会.
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/2019taikaikaisaiyoko.pdf [631], (参照 2019-12-25).
“第67回全国博物館大会決議”. 日本博物館協会.
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/2019taikaiketugi.pdf [626], (参照 2019-12-25).
[受理:2020-02-12]
平井俊行. 第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1971, p. 13-15.
https://current.ndl.go.jp/ca1971 [632]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11471489 [633]
Hirai Toshiyuki
ICOM Kyoto 2019: 25th ICOM General Conference
PDFファイル [634]
骨董通り法律事務所:松澤邦典(まつざわくにのり)
2019年5月17日、欧州連合(EU)において「デジタル単一市場における著作権指令」という新たな著作権指令が公布された。EUの法体系では、指令(directive)が発効すると、EU加盟国は指令が定める期限までにこれに即して国内法を整備しなければならない。新著作権指令は2019年6月6日に発効し、EU加盟国は2021年6月7日までに必要な立法等の措置をとることになっている(1)。
新著作権指令は、Googleをはじめとする米国発の巨大プラットフォームが世界を席巻するなか、EU域内の「デジタル単一市場」を促進するための施策として策定されたものである(E2110 [635]参照)(2)。その主眼は、著作権者の利益との調整を図りながらデジタルコンテンツの適切な流通を実現し、巨大プラットフォームへの対抗軸を打ち出すことにある。そのなかで、公衆に開かれた図書館や博物館などの文化遺産機関(cultural heritage institution)には、文化的所産の収集・保存とそのオンラインでの提供により、デジタルコンテンツの供給源としての役割を果たすことが期待されている。デジタル時代において図書館に期待される社会的・経済的役割の観点から、今後欧州社会がいかに新著作権指令を受容していくのかが注目される。その意味で、新著作権指令はデジタル時代の「図書館」像の構想とも言えよう。
新著作権指令は前文と全5編32条で構成されるが、本稿では、図書館等の文化遺産機関と特に関係の深い①絶版等の理由で一般に入手できなくなったアウト・オブ・コマース(out-of-commerce)の所蔵資料の公開促進、②所蔵資料のデジタル複製の促進、③テキスト・データ・マイニングにおける所蔵資料の利用促進の3点について、新著作権指令の構想を概観する。
文化・知識の集積地として研究・教育・学習の中心となる図書館において、その所蔵資料を利用者に提供することは、まさに図書館の存在意義そのものであろう。一方で、インターネットの登場により、人々は当然のごとくオンラインでの知識や情報へのアクセスを求める時代となった。コンテンツをデジタル化して公開する「電子図書館」が登場して久しいが、所蔵資料をオンライン公開するためには著作権者の許諾が原則として必要であり、著作権の壁が立ちはだかる。
著作権の壁を乗り越える方策として、新著作権指令は、絶版等の理由で一般に入手できなくなったアウト・オブ・コマースの所蔵資料については、文化遺産機関が非営利目的でオンライン公開を可能とする制度の導入を求めている。アウト・オブ・コマースの著作物であれば、既に著作権者にとっても利益を生まなくなっており、著作権者の許諾なくデジタル化して公開しても、著作権者に大きな不利益は生じないという発想がその背景にあると考えられる(3)。
新著作権指令の構想は、次のようなものである(4)。第1に、拡大集中許諾制度(日本にはない制度であるが、日本でいうJASRACのような特定分野の代表的な著作権集中管理団体が締結したライセンス契約の効果を、その団体に著作物の管理委託をしていない著作権者にも拡張して及ぼすことを認める制度である)(E2075 [636]参照)によってライセンスを得やすくする制度の導入が求められている(指令8条1項)。
第2に、このような集中管理団体が存在しない場合でも、非営利目的での公開が妨げられないように著作権を制限する規定を設けることとされている(指令8条2項)。これは、特定分野において著作権者を適切に代表する集中管理団体が存在しない場合の補完的な制度に位置付けられている(指令8条3項)。
許諾なしでの公開を法律によって実現する以上、著作物を公開されたくない著作権者の権利との調整が必要となる。新著作権指令は、公開6か月前までに欧州連合知的財産庁(EUIPO)が運営するポータルサイトにおいて公開対象の作品を掲載し(指令10条1項)、著作権者がその著作物を公開対象から除外できることとしている(指令8条4項)。これにより、著作権者のオプトアウト(opt-out)権を保障している。
新制度の課題の一つとして、作品がアウト・オブ・コマースとなっているかの判断が文化遺産機関にとって必ずしも容易ではないことが指摘されている(5)。
この点、新著作権指令では、EU加盟国は、アウト・オブ・コマースの基準を定める場合には、各分野の権利者、集中管理団体及び文化遺産機関と協議するものとされている(指令11条)。すなわち、制度を機能させるための具体的な基準を作成するに際しては、文化遺産機関にも意見を述べる機会が保障されている。
欧州研究図書館協会(LIBER)は、集中管理団体などとの協議を想定して、アウト・オブ・コマース作品のデジタル化とオンライン公開を行う場合の確認事項を著作物の種類ごとに整理したチェックリストを公表する(6)など、EU図書館界における新著作権指令の受容と国内法の整備に向けた準備が進みつつある(7)。
新著作権指令では、著作権の保護期間が満了してパブリックドメインとなった美術作品(visual art)について、その複製物が創作性の点で「オリジナル」のものといえない限り、その複製物に対して著作権その他の権利の保護は及ばないことが明記された(指令14条)。もっとも、文化遺産機関が所蔵資料を複製したポストカードなどを売って対価を得ることが禁止されるわけではない(指令前文53)。
この規定の趣旨は、文化遺産機関がパブリックドメインとなった所蔵資料の複製物について著作権を主張したり使用料を請求することにより、パブリックドメインの価値が損なわれるのを防止することにあると考えられる(8)。法的には「保護期間が満了した著作物には、著作権は及ばない」という当然のことを確認した規定ともいえるが、非オリジナルの複製物にも著作隣接権の保護が与えられるスペインやドイツにおいては法改正が必要となるとの指摘がなされている(9)。
所蔵資料を保存し次世代に継承することも、図書館に期待される社会的役割である。新著作権指令は、文化遺産機関による所蔵資料の保存目的でのデジタル複製については、著作権を制限する規定を導入するよう求めている(指令6条)。これは、日本の著作権法31条1項2号にほぼ相当する規定である。
新著作権指令は、前文において、文化遺産機関が、その責任において、EU域内の第三者に複製を委託することができると規定している(指令前文28)。これにより、文化遺産機関は、デジタル複製の技術・機器やノウハウを持ったEU域内の他の文化遺産機関や専門業者に対して、資料保存目的での複製を委託できることが確認されている。
テキスト・データ・マイニングとは、デジタル形式のテキストやデータから有意な情報を取り出すための自動分析技術のことである(指令2条2項)。新著作権指令では、研究組織および文化遺産機関が学術研究目的でテキスト・データ・マイニングを行うことができるよう、著作権を制限する規定を導入することが求められている(指令3条1項)。当初案では研究組織のみが対象であったが、最終案では文化遺産機関も対象に加えられた(10)。
また、新著作権指令では、学術研究以外の目的でのテキスト・データ・マイニングも許容しているが(指令4条1項)、権利者のオプトアウト権を保障することが条件とされている(同3項)。文化遺産機関は、権利者が適切な方法でオプトアウトした場合でも、学術研究目的でのテキスト・データ・マイニングは行うことができる。
新著作権指令は、報道出版物(press publication)のオンライン利用に関する「リンク税(link tax)(11)」(指令15条)とオンラインでコンテンツ共有サービスを提供するプロバイダ(online content-sharing service provider)を対象とした「フィルタリング条項(upload filters)」(指令17条)の導入をめぐって大きな議論があった(12)。紙幅の都合上、詳細は割愛するが、いずれもプラットフォーム規制と関係が深い規定である。図書館界への影響という点では、物議を醸した上記2つの制度よりも、本稿で紹介した制度の導入の方がインパクトは大きいと考えられる。
本稿で紹介したように、新著作権指令は、文化遺産機関がその所蔵資料をデジタル化してオンライン公開することを可能にする手厚い制度メニューを用意している。これは、新著作権指令が目指す「デジタル単一市場」において、図書館をデジタルコンテンツの供給源の一つに位置付けるものと理解することができる。
(1) Commission of the European Communities. “Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on copyright and related rights in the Digital Single Market and amending Directives 96/9/EC and 2001/29/EC (Text with EEA relevance.)”. EUR-Lex. 2019-05-17.
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/790/oj [637], (accessed 2020-01-14).
条文部分は、以下で日本語訳されている。
井奈波朋子. デジタル単一市場における著作権指令(翻訳). コピライト. 2019, 59(700), p. 79-89.
(2) 濱野恵. EUデジタル単一市場における著作権指令. 外国の立法. 2019, (281-2), p. 10-13.
https://doi.org/10.11501/11382322 [638], (参照 2020-01-14).
(3) アウト・オブ・コマースの著作物のオンライン公開は「誰も損をしない」と指摘する立法提言として、以下を参照。
生貝直人.“著作権保護期間「最終20年条項」+α 神様から著作権法を一ヵ所だけ変える力を貰ったら(1)”. 論座. 2019-01-17.
https://webronza.asahi.com/business/articles/2019011500001.html?page=5 [639], (参照 2020-01-14).
(4) 松澤邦典. “「EU新著作権指令の拡大集中許諾制度 ~デジタル・アーカイブの法的基盤の構想~」”. 骨董通り法律事務所. 2020-01-17.
https://www.kottolaw.com/column/20200117.html [640], (参照 2020-01-17).
(5) Keller, Paul. “Explainer: What will the new EU copyright rules change for Europe's Cultural Heritage Institutions”. Europeana pro. 2019-06-09.
https://pro.europeana.eu/post/explainer-what-will-the-new-eu-copyright-rules-change-for-europe-s-cultural-heritage-institutions [641], (accessed 2020-01-14).
(6) “Digital Single Market Directive ? Articles 8-11: Checklist for Determining When The Exception for Mass Digitisation of Out-of-Commerce Works Can Be Used”. LIBER. 2019-11-21.
https://libereurope.eu/blog/2019/11/21/dsm-ooc-checklist/ [642], (accessed 2020-01-14).
(7) “DSM Directive transposition guidelines for libraries and library associations”. EBLIDA. 2019-11-25.
http://www.eblida.org/news/dsm-directive-transposition-guidelines-for-libraries-and-library-associations.html [643], (accessed 2020-01-14).
(8) Wallace, Andrea; Matas, Ariadna.“Keeping digitised works in the public domain: how the copyright directive makes it a reality”. Europeana pro. 2020-01-21.
https://pro.europeana.eu/post/keeping-digitised-works-in-the-public-domain-how-the-copyright-directive-makes-it-a-reality [644], (accessed 2020-01-29).
(9) Keller, Paul. “Explainer: What will the new EU copyright rules change for Europe's Cultural Heritage Institutions”. Europeana pro. 2019-06-09.
https://pro.europeana.eu/post/explainer-what-will-the-new-eu-copyright-rules-change-for-europe-s-cultural-heritage-institutions [641], (accessed 2020-01-14).
(10) 作花文雄. 「Digital Single Market」に向けてのEU著作権制度の現代化〔後編〕―EU域内の著作権制度の共通化によるコンテンツ流通の拡大と文化多様性の発展. コピライト. 2019, 59(703), p. 40.
(11) 中川隆太郎. “「『リンク税』の功罪 ―EU著作権新指令とハイパーリンクをめぐる誤解」”. 骨董通り法律事務所. 2018-06-26.
https://www.kottolaw.com/column/180626.html [645], (参照 2020-01-29).
(12) 生貝直人, 曽我部真裕, 中川隆太郎. HOT issue(No.22) 鼎談 EU新著作権指令の意義. ジュリスト. 2019, (1533), p. ⅱ-ⅴ, p. 52-63.
Ref:
Keller, Paul. “Explainer: What will the new EU copyright rules change for Europe's Cultural Heritage Institutions”. Europeana pro. 2019-06-09.
https://pro.europeana.eu/post/explainer-what-will-the-new-eu-copyright-rules-change-for-europe-s-cultural-heritage-institutions [641], (accessed 2020-01-14).
濱野恵. EUデジタル単一市場における著作権指令. 外国の立法. 2019, (281-2), p. 10-13.
https://doi.org/10.11501/11382322 [638], (参照 2020-01-14).
作花文雄. 「Digital Single Market」に向けてのEU著作権制度の現代化〔後編〕―EU域内の著作権制度の共通化によるコンテンツ流通の拡大と文化多様性の発展. コピライト. 2019, 59(703), p. 37-61.
井奈波朋子. デジタル単一市場における著作権指令(翻訳). コピライト. 2019, 59(700), p. 79-89.
生貝直人, 曽我部真裕, 中川隆太郎. HOT issue(No.22) 鼎談 EU新著作権指令の意義. ジュリスト. 2019, (1533), p. ⅱ-ⅴ, p. 52-63.
今村哲也.“拡大集中許諾制度導入論の是非”. しなやかな著作権制度に向けて ―コンテンツと著作権法の役割―. 中山信弘, 金子敏哉編. 信山社, 2017, p. 309-335.
[受理:2020-02-12]
松澤邦典. EU新著作権指令にみるデジタル時代の「図書館」像 ―デジタルコンテンツの供給源としての図書館. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1972, p. 16-18.
https://current.ndl.go.jp/ca1972 [646]
DOI:
https://doi.org/10.11501/11471490 [647]
Matsuzawa Kuninori
Libraries in the Digital Age Seen in the EU’s New Copyright Directive: Libraries as a Supply Source of Digital Contents
PDFファイル [648]
五常総合法律事務所:数藤雅彦(すどうまさひこ)
図書館や博物館、美術館などの文化施設(以下「図書館等」)において、所蔵作品をインターネット上で公開する際には、著作権の有無や利用条件等の、いわゆる権利表記を表示することがある。
ライセンスのための表記としては、クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons。以下「CC」)が国際的に広く用いられているほか、最近では、権利の状態を示す表記として、Rights Statements(以下「RS」)も使われ始めている。
RSは、EUのEuropeana(E2183 [649]、CA1863 [650]参照)や米国デジタル公共図書館(DPLA;E2188 [651]、CA1857 [470]参照)のようなデジタルアーカイブにおいて、2016年から準備されており、近年では、日本の一部の図書館等においてもRSの表記が見られる。
CCの解説はすでに数多く存在する(1)ものの、RSの解説は必ずしも多くないため、本稿ではRSを中心に解説した上で、日本のデジタルアーカイブにおいてどのような権利表記が適切かを検討する。
RSを検討する前提として、まずは日本でも知られているCCについて概説する。CCは、権利者が作品を公開する際に、第三者が作品を利用できる条件を表示してライセンスするためのツールである(以下、ライセンスの趣旨では「CCライセンス」と記載し、組織名の趣旨では「クリエイティブ・コモンズ」と記載する)。すなわち、CCにおいては通常、作品のクリエイター等の権利者が作品を公開するような場面が想定されている。
CCライセンスには、機械可読のためのメタデータが組み込まれており、検索エンジンを用いてCCライセンスの条件を指定したコンテンツを検索することができる。
利用条件を示すマークとしては、【表1】の4種類がある(2)。
マーク | 名称 | 利用条件 |
![]() |
表示 (BY) |
作品のクレジットを表示すること |
![]() |
非営利 (NC) |
営利目的での利用をしないこと |
![]() |
改変禁止 (ND) |
元の作品を改変しないこと |
![]() |
継承 (SA) |
元の作品と同じ組み合わせのCCライセンスで公開すること |
このうち、表示(BY)は全てのライセンスの必須条件となっているため、残りの3つの条件の組み合わせにより、【表2】の6種類のライセンスが予定されている(3)。例えば、CC BY(表示)のライセンスを付した場合、作品のクレジットを表示することが利用条件となる。
マーク | CCライセンスの種類 |
![]() |
CC BY(表示) |
![]() |
CC BY-SA(表示-継承) |
![]() |
CC BY-ND(表示-改変禁止) |
![]() |
CC BY-NC(表示-非営利) |
![]() |
CC BY-NC-SA(表示-非営利-継承) |
![]() |
CC BY-NC-ND(表示-非営利-改変禁止) |
なお、自ら有する著作権法上の権利を放棄する場合にはCC0(ゼロ)マークが準備されており、作品に著作権による制限がないことを示すためのパブリックドメインマーク(Public Domain Mark。以下「PDM」)も存在する(【表3】)(4)。これらは権利の放棄または権利状態の表示であり、厳密にはライセンス(許諾の意思表示)ではない。
マーク | 名称 | 内容 |
![]() |
CC0 | 自ら有する著作権法上の全ての権利を法令上認められる最大限の範囲で放棄する意思表示 |
![]() |
Public Domain Mark (PDM) |
著作権による制限がないことの表示 |
CCは、一般のクリエイターに限らず、図書館等でも広く用いられている。例えば2017年に、米国のメトロポリタン美術館が37万5,000点強の画像をCC0で公開したことは大きな話題になった(5)。また近時では、2020年1月に、フランス・パリ市内の14のミュージアムを管理する公共団体Paris Muséesが、各館の所蔵品画像10万点以上をCC0で公開している(6)。
日本でも、例えば大阪市立図書館デジタルアーカイブは、2019年10月以降、オープンデータコンテンツ(画像、メタデータ)の二次利用の条件をCC0で表示している(7)。
もっとも、CCライセンスは、権利者自身が作品の利用方法についてライセンスすることを主に想定したマークである。
そのため、権利者以外の人や組織がCCライセンスを用いる場合には、無権利者による行為として効力を生じない場合も考えられる。
例えば、図書館等が有する所蔵資料のうち、資料それ自体の著作権が存続しており図書館等が利用許諾の権限を有している場合や、著作権の消滅した立体作品(彫刻等)を撮影した写真自体に著作権が生じており図書館等が利用許諾の権限を有している場合(8)に は 、図書館等がCCライセンスを用いることは論理的に可能である。しかし、著作権の消滅した平面作品(絵画、書面等)を正面から忠実に撮影した結果として写真の著作権が生じない場合(9)には、図書館等は資料にも写真にも著作権を有しないため、CCライセンスを使うことは論理的には適切でないと考えられる(10)。
クリエイティブ・コモンズが2019年11月に公表したブログ記事においても、著作物がパブリックドメインである場合、その複製物に著作権ライセンスは適用されるべきではなく、著作物に著作権が存在する場合にのみ機能することを意図したCCライセンスが仮に適用されていたとしても、無効になるとの見解を示している(11)。
RSは、CCとは異なる趣旨で作られたマークである。
CCライセンスは、上記の通り、権利者が作品の利用条件を示してライセンスする場面を主に想定したものであるが、RSは、主に権利の状態を表示するためのものである。
RSは、EuropeanaとDPLA、クリエイティブ・コモンズの三者が中心となって2016年に創設され(12)、公式ウェブサイト(13)で使用ルールが公開されている。RSもCCと同様に、機械可読に対応している。
RSに関するコンソーシアムのメンバーとしては、本稿執筆時点(2020年1月)では、Europeana 、DPLA、に加えて、インド国立デジタル図書館、カナダ国立図書館・文書館(LAC)のNational Heritage Digitization Strategy、オーストラリア国立図書館の情報探索システム“Trove”が名を連ねている(14)。
権利表示のマークとしては、以下の12種類が用意されている(15)。
まず、著作権が存在する場合に関して、【表4】の5種類のマークがある(以下、マーク画像は本稿執筆時点のものである)。
マーク画像 | 名称 | 概要 |
![]() |
IN COPYRIGHT (著作権あり) |
著作権が存在しており、公開した者自身が著作権者であるか、著作権者から利用許諾を得ているか、または何らかの権利制限規定のもとで利用する場合に用いる。 |
![]() |
IN COPYRIGHT - EU ORPHAN WORK (著作権あり - EU孤児著作物) |
著作権は存在するものの、EU孤児著作物指令(Directive 2012/28/EU)に基づいて孤児著作物とされた場合に用いる。 |
![]() |
IN COPYRIGHT - EDUCATIONAL USE PERMITTED (著作権あり - 教育目的の利用可) |
著作権は存在するものの、著作権者により、教育目的の利用が認められた場合に用いる。 |
![]() |
IN COPYRIGHT - NON-COMMERCIAL USE PERMITTED (著作権あり - 非営利目的の利用可) |
著作権は存在するものの、著作権者により、非営利目的の利用が認められた場合に用いる。 |
![]() |
IN COPYRIGHT - RIGHTS-HOLDER(S) UNLOCATABLE OR UNIDENTIFIABLE (著作権あり - 著作権者不明) |
著作権は存在するものの、一定の合理的な調査を経ても、著作権者が判明しないか、または連絡先がわからない場合に用いる。 |
次に、著作権は存在しないものの、他の理由で自由な利用ができない場合に用いるマークとして、【表5】の4種類がある。これらのマークは、PDMやCC0の利用が不可能な場合にのみ用いるべきとされる。
マーク画像 | 名称 | 概要 |
![]() |
NO COPYRIGHT - CONTRACTUAL RESTRICTIONS (著作権なし - 契約による制限あり) |
すでに著作権は消滅しているものの、第三者の利用については契約で何らかの制限(例えばプライバシー問題、文化的保護、デジタル化契約または寄贈契約等による制限(16))が課されている場合に用いる。このマークを用いる場合には、契約による制限の具体的な内容を示す必要がある。 |
![]() |
NO COPYRIGHT - NON-COMMERCIAL USE ONLY (著作権なし - 非営利目的の利用のみ可) |
すでに著作権は消滅しているものの、公的機関と民間企業の協定(partnership)により、非営利目的の利用に制限してデジタル化した場合に用いる。 |
![]() |
NO COPYRIGHT - OTHER KNOWN LEGAL RESTRICTIONS (著作権なし - 他の法的制限あり) |
すでに著作権は消滅しているものの、他の法的制限により自由な利用ができない場合に用いる。このマークを用いる場合は、法的制限の具体的な内容を示す必要がある。 |
![]() |
NO COPYRIGHT - UNITED STATES (著作権なし - 米国の法律上) |
米国の法律で、パブリック・ドメインになった場合に用いる。 |
その他のマークとして、【表6】の3種類がある。いずれも、著作権の状態が明確にわからない場合に用いる。
マーク画像 | 名称 | 概要 |
COPYRIGHT NOT EVALUATED (著作権未評価) |
著作権の状態が不明で、表示者が著作権の状態を決定するための調査を尽くしていない場合に用いる。 | |
COPYRIGHT UNDETERMINED (著作権未決定) |
著作権の状態が不明で、かつ著作権の状態を決定するための調査を尽くしたが、判明しなかった場合に用いる。 | |
NO KNOWN COPYRIGHT (知る限り著作権なし) |
表示者において、著作権その他の権利がないと信じるだけの合理的な理由があるものの、著作権がないとの決定まではできない場合に用いる。 |
近時においては、日本でもRSが活用され始めている。例えば、千葉大学は、2018年9月に千葉大学学術リソースコレクション(c-arc;E2082 [652]参照)を公開した際に、一部のコンテンツに、RSの「No Copyright - Contractual Restrictions(著作権なし - 契約による制限あり)」の表記を用いた。契約による制限の具体的な内容としては、千葉大学附属図書館が提供するデジタルコンテンツであることの明示と、コンテンツを改変して利用する場合には原資料から改変していることの明示の2つの条件を満たせば、特別な手続を経ずに利用できると記載されている(17)。
また、佛教大学附属図書館も、2019年8月にデジタルコレクションのリニューアルを発表した際に(E2214 [653]参照)、RSの「No Copyright - Contractual Restrictions(著作権なし - 契約による制限あり)」の表記を用いた。そして、当該マークを付した作品の二次利用の条件としては、「当館が提供する画像データであることを明示すること。また、可能な範囲で当サイトもしくは該当作品のURLを、掲載またはリンクを貼ること。」「画像データを改変した場合は、その旨を明示すること。」と記載されている(18)。
もっとも、これら2館の記載内容は、契約により図書館等に課された制限というよりも、4.3.で後述する「お願い」の記載事項と親和性があるように思われる。
以上のCCとRSの特質をふまえると、図書館等のデジタルアーカイブにおいてはどのような権利表記が望ましいか。
検討の視点としては、少なくとも、①権利の実態を正しく反映すること、②機械可読であること、③一般人にわかりやすい表記であること、の3点が必要と考える。
これらの視点を満たす方向性として、まず②の機械可読については、CCもRSも対応している。③のわかりやすさについては、CCは日本でも広く普及している反面、RSは未だ十分に普及しておらず、かつ日本との関係が薄いマークもある(例えば、著作権あり - EU孤児著作物のマーク等)。そのため、①の権利実態の反映に関しても、例えば自らが利用許諾の権限を有するものについては広く普及しているCCを用い、そうでないものには補完的にPDMやRSを用いるなど、権利の実態に合わせて適切に併用することが考えられる。
なお、CCもRSも、主に著作権を対象としたものであり、肖像権(19)、パブリシティ権、プライバシー権等の権利については別途検討する必要がある。
内閣府知的財産戦略本部のデジタルアーカイブジャパン実務者検討委員会は、2019年4月付けで、「デジタルアーカイブにおける望ましい二次利用条件表示の在り方について(2019年版)」を公表した(20)。
同資料においては、デジタルコンテンツの二次利用条件を表示するライセンスまたはマークとして、以下の3種類の利用が望ましいと述べる(21)。
そして、同資料は、CC0の利用場面として、「特に3次元作品を撮影した写真等の場合、写真撮影者(データ作成者)の創作的表現の有無について活用者が厳密に判断することは困難であるため、2次元作品の忠実な複製など、データ作成者の創作的表現が存在しないことが相当程度確実である場合等を除いて、CC0によりデータ作成者自身の権利を明確に放棄することが、二次利用促進の観点からは望ましい」と述べる(22)。
また、RSの位置づけについては、「Rights Statements自体はライセンスとしての性質を有するわけではなく、正式な二次利用条件はアーカイブ機関の側が独自に準備し、利用者に分かり易い形で提示する必要がある。」と述べる(23)。
この指摘をふまえると、RSを用いる際に、利用者に対して二次利用条件をどのように提示するかが問題となる。例えば、「教育目的の利用」がどの範囲になるか(著作権法第35条の権利制限規定以外にどのような場面での利用を認めるか)、「他の法的制限」の具体的内容(例えば肖像権、プライバシー権等に基づく一定の範囲での公開制限等)、「契約による制限」の具体的内容(例えば著作者名の表示の求め等)といった点につき、各アーカイブ機関において検討が必要になる。
なお、日本独自の表示としての「著作権未決定 - 裁定制度利用著作物」のマークについては、必要性は理解できるものの、機械可読に対応した公的なマークは本稿執筆時点では準備されておらず、さらに検討が必要と思われる。
なお、図書館等においては、パブリックドメインの所蔵資料についても、作品や作者への配慮や敬意を示してほしいとの動機や、図書館等によるデジタル化と公開への貢献を社会的に広く認知してほしいとの動機、あるいはデータの信頼性を担保したいとの動機などから、出典や所蔵館等の表記を求めたいとの意向が見られる(24)。また、館によっては、資料公開のための予算を確保したいとの動機から、アクセス数等の利用実績を高めるべく、出典へのリンクを求めたいとの意向も耳にするところである。
これらの意見は傾聴に値するものの、内容は必ずしも法的根拠に基づくものではないため、事実上の「お願い」として記載することが望ましい(25)。例えば、ジャパンサーチ試験版(E2176 [616]参照)のサイトポリシーでは、「CC0・PDM等で提供されているデータであっても、二次利用に際しては、次の事項へのご配慮をお願いいたします。これらのお願いは法的な契約ではありませんが、できる限りご留意の上でご利用くださるよう、ご協力をお願いします。」と記載されており、法的な拘束力の生じない事実上のお願いであることが強調されている(26)。
本稿では、動向レビューとして、RSについて現時点での概説を試みた。RSは、日本では未だ議論が十分に熟しておらず、日本の著作権法との整合性など、さらなる検討が必要である。本稿は取り急ぎの整理にすぎないが、今後の検討の一助となれば幸いである。
利用者から見てわかりやすく、図書館等において使いやすい権利表記によって、デジタルアーカイブの公開や二次利用がさらに活発になることを期待したい。
(1) クリエイティブ・コモンズ・ジャパン関係者による解説として、例えば
野口祐子. デジタル時代の著作権. 筑摩書房, 2010, 286p., (ちくま新書, 867).
のp. 223以下、及び、
渡辺智暁, 小林心. 特集, パブリックドメインとオープンソース:クリエイティブ・コモンズ:オープンソース,パブリックドメインとの関係からの考察. パテント, 2019, Vol. 72 No. 9, p. 34-47.
https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3373 [654], (参照 2020-02-12).
を参照。
(2) “クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは”. クリエイティブ・コモンズ・ジャパン.
https://creativecommons.jp/licenses/ [655], (参照 2020-02-12).
(3) 前掲.
(4) “CC0”. Creative Commons.
https://creativecommons.org/share-your-work/public-domain/cc0 [656], (accessed 2020-02-12).
“Public Domain Mark”. Creative Commons.
https://creativecommons.org/share-your-work/public-domain/pdm/ [657], (accessed 2020-02-12).
(5) “Making The Met's Collection More Accessible”. Metropolitan Museum of Art. 2017-02-07.
https://www.metmuseum.org/blogs/now-at-the-met/2017/open-access [658], (accessed 2020-02-12).
“Introducing Open Access at The Met”. Metropolitan Museum of Art. 2017-02-07.
https://www.metmuseum.org/blogs/digital-underground/2017/open-access-at-the-met [659], (accessed 2020-02-12).
(6) “OPEN CONTENT : PLUS DE 100 000 ŒUVRES DES COLLECTIONS DES MUSÉES DE LA VILLE DE PARIS EN LIBRE ACCÈS DÈS AUJOURD’HUI”. Paris Musees. 2020-01-08.
http://www.parismusees.paris.fr/sites/default/files/medias/fichiers/2020-01/CP Paris Musées Open Content FR.pdf [660], (accessed 2020-02-12).
(7) “デジタルアーカイブ オープンデータコンテンツの利用条件を変更しました”. 大阪市立図書館. 2019-10-17.
https://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=johe30zjt-510 [661], (参照 2020-02-12).
(8) 裁判例は、立体物を撮影した写真については、著作物性を認める傾向にある。立体物である商品の紹介写真の著作物性を肯定した裁判例として、
大阪地判平成7年3月28日平成4年(ワ)第1958号〔カーテン関連商品写真事件〕
知財高判平成18年3月29日平成17年(ネ)第10094号〔スメルゲット写真事件〕
東京地判平成27年1月29日平成24年(ワ)第21067号〔IKEA商品写真事件〕
東京地判令和元年9月18日平成30年(ワ)第14843号〔音楽雑貨写真事件〕
等を参照。
(9) 平面的な作品を単純に正面から撮影した写真については、通常は新たな創作性がなく、著作物性が認められにくい。版画を正面から撮影した写真の著作物性を否定した裁判例として、
東京地判平成10年11月30日昭和63年(ワ)第1372号〔版画写真事件〕を参照。
(10) 渡辺, 小林. 前掲, p. 44.も参照。
(11) Claudio Ruiz ; Scann. “Reproductions of Public Domain Works Should Remain in the Public Domain”. Creative Commons, 2019-11-20.
https://creativecommons.org/2019/11/20/reproductions-of-public-domain-works/ [662], (accessed 2020-02-12).
(12) “Announcing the launch of RightsStatements.org”. DPLA. 2016-04-14.
http://dp.la/info/2016/04/14/announcing-the-launch-of-rightsstatements-org/ [663], (accessed 2020-02-12).
“Rightsstatements.org launches at DPLAfest 2016 in Washington DC”. europeana pro. 2016-04-14.
http://pro.europeana.eu/blogpost/rightsstatements-org-launches-at-dpla-fest-in-washington-dc [664], (accessed 2020-02-12).
(13) RightsStatements.org.
https://rightsstatements.org/en/ [665], (accessed 2020-02-12).
(14) “About RightsStatements.org”. RightsStatements.org.
https://rightsstatements.org/en/about.html [666], (accessed 2020-02-12).
(15) “Rights Statements”. RightsStatements.org.
https://rightsstatements.org/page/1.0/?language=en [667], (accessed 2020-02-12).
(16) “No Copyright - Contractual Restrictions”. RightsStatements.org.
https://rightsstatements.org/page/NoC-CR/1.0/?language=en [668], (accessed 2020-02-12).
(17) 千葉大学学術リソースコレクション(c-arc).
https://iiif.ll.chiba-u.jp/main/ [669], (参照 2020-02-12).
(18) “貴重書の閲覧、コンテンツの二次利用について”. 佛教大学図書館デジタルコレクション.
https://bird.bukkyo-u.ac.jp/collections/aboutuse/#rights [670], (参照 2020-02-12).
(19) デジタルアーカイブにおける写真の肖像権につき、
数藤雅彦. 肖像権処理ガイドライン(案)の概要. デジタルアーカイブ学会誌, 2020, Vol.4, No.1, p. 44
も参照。
(20) デジタルアーカイブジャパン実務者検討委員会. デジタルアーカイブにおける望ましい二次利用条件表示の在り方について(2019年版). 内閣府知的財産戦略本部.
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/2018/nijiriyou2019.pdf [671], (参照 2020-02-12).
(21) 前掲. p. 4.
(22) 前掲. p. 4.
(23) 前掲. p. 4.
(24) 前掲. p. 2.も参照。
(25) 渡辺, 小林. 前掲, p. 44. 、及び、
下田正弘, 永﨑研宣編. デジタル学術空間の作り方: 仏教学から提起する次世代人文学のモデル. 文学通信, 2019, p. 115.
も参照。なお「お願い」の活用に関しては、2020年1月17日に開催されたシンポジウム「デジタル知識基盤におけるパブリックドメイン資料の利用条件をめぐって」の「開催趣旨」も参照。
http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/kibana/sympo2019/#about [672], (参照 2020-02-12).
(26) “サイトポリシー”. ジャパンサーチ(試験版).
https://jpsearch.go.jp/policy [673], (参照 2020-02-12).
[受理:2020-02-18]
数藤雅彦. Rights Statementsと日本における権利表記の動向. カレントアウェアネス. 2020, (343), CA1973, p. 19-23.
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[18] https://doi.org/10.11501/11596732
[19] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/1
[20] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/116
[21] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/68
[22] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/536
[23] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/64
[24] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/29
[25] https://current.ndl.go.jp/taxonomy/term/31
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